弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人は控訴人に対し金
六四万〇九八七円二〇銭およびこれに対する昭和三六年二月二五日以降完済に至る
まで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一・二審とも全部被控訴人の
負担とする。」との判決ならびに仮執行宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判
決を求めた。
 (控訴代理人の陳述)
 第一、 請求原因
 一、 被控訴人のリベリアンに対する損害賠償債務の発生
 (一) 訴外Aは一九五九年(昭和三四年)一〇月八日被控訴人に対し、
 (イ)ジプサムタイルデコフ隙箱九一三箱
 (ロ)シンデリツトタイル隙箱一〇九箱
 (ハ)ジプサムプラスター八〇袋
 (ニ)ほか二点
 につき、イタリーaよりリベリヤ・bまで海上運送をすることを委託し、被控訴
人は同日これをその運航にかかる汽船B丸に積み込み、荷送人Aの請求によつて、
右積荷を「外部から認められる良好な状態」で船積みした旨記載した指図式船荷証
券を発行した。この船荷証券は、Aから訴外リベリアン・コンストラクション・コ
ーポレーション(以下リベリアンという)に裏書交付され、積荷の後記引渡当時同
社が所持していた。
 (二) 汽船B丸は同年一一月一九日b港に到達し、右積荷は同日と翌二〇日の
両日にわたつて同港埠頭において荷揚げされたが、その時すでにジプサムタイル九
一三箱の内その一五%が破損しプラスター一〇袋は全部滅失していた。右ジプサム
タイルは波型の繊維板で包み、藁を詰め、新しい板の隙箱に包装されたものであつ
たが、ロイズ検査員による同年一一月二〇日、一二月一〇日および一九六〇年一月
二五日の三回にわたる検査の結果、ジプサムタイルの右一五%は破損し使用にたえ
ないものとなつていることが判明した。
 そこでリベリアンは一九五九年二月二〇日右損傷について被控訴人に通知した。
この通知は書面でされ、そこには右損傷のあつた積荷の種類を表示し、その数およ
び記号を記載し、かつ右運送品が損傷した事実を明かにしているから、国際海上物
品運送法(以下法という)第一二条一項の定める「損傷の概況」の通知として欠け
るところがない。
 (三) 荷送人Aと被控訴人との間において、本件船荷証券、運送契約に基く法
律関係については日本法を適用すべく合意されているので、これらの法律関係につ
いては法その他の日本法が適用されることになる。
 被控訴人は前記のように本件船荷証券に前記運送品を「外部から認められる良好
な状態」で船積みした旨記載したのであるから、いわゆる無故障船荷証券(甲第一
号証)を発行したことになる。この記載は、法七条一項三号の規定に応えたもの
で、船荷証券の必要的記載事項であり、これによつて、被控訴人は、運送品の外装
が運送品を目的地に安全に運送するに十分な状態にあつたことを承認したことにな
るのみならず、運送品自体が良好な故障のない状態で船積みされたことを承認した
ことになるのである。したがつて、被控訴人は、右証券の記載が事実と異り、船積
前に右運送品に損傷が生じていたことおよび右記載につき注意が尽されたこと、を
ともに立証しなければ右損傷による損害賠償責任を免れることができないわけであ
る。
 二、 控訴人の保険代位権
 (一) 控訴人は、スイス法によつて設立された法人で保険業を営む会社である
ところ、一九五九年一〇月八日リベリアンとの間に、前記運送品について保険金額
および保険価額を、タイル隙箱合計一〇二二箱につき一万七、〇〇〇ドル、プラス
ター八〇袋につき一五〇ドル、外二点につき四五〇ドル、以上総計一万七、六〇〇
ドルと定め破損、滅失の危険を含め、船積みの時から到達地において荷受人又は証
券所持人に引渡されるまでの間およびそれより三〇日を超えない間に運送品に生ず
る損害を填補する目的で、リベリァンを被保険者とする海上保険契約を結んだ。
 (二) 控訴人は、右保険契約に基いて、リベリアンの請求により一九六〇年三
月一八日同訴外人に保険金一七九九ドル二七セントを支払つて損害を填補した。こ
の算定の根拠は次のとおりである。
 1 ジプサムタイルの損害
 (1) ジプサムタイルのa本船積込値段        合計 六、一〇〇、
四六八リラ
 (2) 本件積荷のタイル全体の本船積込値段            七、〇
六七、一二〇リラ
 (3) 損傷を受けたジプサムタイルデコラの価格のタイル全体の価格に対する
割合
                                    八
六・三パーセント
 (4) タイル全体の保険価格                      
一七、〇〇〇ドル
 この八六・三パーセントは一四、六七一ドル
 (5) 損傷ジプサムタイルデコラの損害額
 この一五パーセント                       二、二〇
〇ドル六五セント
 2 ジプサムプラスターの損害
 ジプサムプラスター八〇袋の保険価格                   
   一五〇ドル
 損害プラスター一〇袋の損害                      一
八ドル七五セント
 3 損害検査費用                            
    二〇ドル
 以上合計二、二三九ドル四〇セントのところ、控訴人が右損害に対し支払つた金
額一、七九九ドル二七セントの範囲において被控訴人に対し損害金の支払を求める
ものである(甲第七号証、同第一〇号証)。
 (三) しかして、本件保険契約の準拠法については、リベリアンと控訴人との
間にスイス法に従うべきことが合意されていたところ、同国保険契約に関する連邦
法律第七二条によれば、保険者が損害を填補したときは、その限度で請求権者の有
する損害賠償請求権を当然取得する旨が定められている(甲第一二号証)ので、控
訴人は、右保険金の支払によつてリベリアンが被控訴人に対して有する前記損害賠
償請求権を法律上当然に取得したものである。
 三、 右の次第で、控訴人は、被控訴人に対し本件船荷証券上ないし運送契約上
の義務不履行による損害賠償請求として損害金米貨一、七九九ドル二七セントから
前記二の2の損害一八ドル七五セント(原審確定)を控除した一七八〇ドル五二セ
ントを一ドルにつき三六〇円の割合で換算した六四〇、九八七円二〇銭およびこれ
に対する本件訴状送達の翌日である昭和三六年二月二五日以降支払ずみまで商事法
定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
 第二、 被控訴人の主張に対する反論
 一、 法七条一項三号の「外部から認められる運送品の状態」について。
 (1) 解釈 ここにいう状態とは、運送人が外部から観察して判断した運送品
自体の状態をいう。包装され又は容器入の運送品については、包装又は容器および
運送品自体の外部から認められる状態をいう。中身を度外視した運送品はありえな
いから、被控訴人の主張するように、単に包装又は容器の外部の状態のみを意味す
るものではない。
 また原判決の見解のように「相当の注意をもつて外部から運送品を観察すること
によつて感知される運送品の状態(異常な音響、臭気等もこれに含まれる)を指称
し、相当の注意を尽しても感知できない包装、容器の内部的状態までも意味するも
のではない」と解すべきでもない。すなわち、「1」このように相当の注意を尽し
ても知りえない内部の状態を除外するものと解すると、運送品の良好なる状態は外
部から感知できないのが常であるから、この意味の状態は、包装品の中身について
は異常な状態のみを指すことになる。法三条一項三号の「状態」は良好な状態も異
常な状態も含むと解するのが当然であるから、原判決の解釈が誤りであることは明
かである。
 この記載は法七条一項一・二号の事項に関するそれと異り、運送人はその主観を
自由に記載することができるのである(法八条)から、包装品について中身の状態
が判明しない場合には、故障付の証券を発行するか、しからざれば、包装を開披し
て中身の状態を観察すべきである。「2」またこの点の記載について「相当な注意
をもつて」という観念を容れる余地はない。この記載は運送人の主観によつてする
もので、客観的事実を記載するのではなく、運送人の主観が客観的事実と異つてい
た場合にはじめて、法九条によつて、相当の注意を尽したかどうかが問題になるに
すぎない。「3」相当な注意を尽して「良好」と記載した場合、法九条に「事実と
異る」というのは、相当の注意を尽せば判明した異常があつた、ということになる
から、相当の注意を尽したことを立証することは不可能である。これらの点からし
ても原判決の見解が誤りであることは明かである。
 (2) 立証責任 以上のように、法九条にいう証券の記載のうち法七条一項三
号の「運送品の状態」というのは、単に運送品自体の状態のみならず、包装品につ
いてはその中身の状態を指称するものと解すべきであるから、この点につき「良
好」と記載したいわゆる無故障船荷証券が発行された場合、法九条にいう「事実」
は受取(または船積)の時運送品自体(中身)に故障があつた事実を指すことにな
る。したがつてかかる記載ある船荷証券所持人において引渡(または荷揚)時に運
送品の中身に損傷があつたことを立証したときは、運送人は、このように無故障船
荷証券発行の責任として、受取(船積)の時に既に運送品に損傷があつたことを立
証することを要するほか、事実と異る無故障の記載につき注意が尽されたことを立
証しなければ、損害賠償責任を免れえないわけである。原判決のように解釈し、無
故障船荷証券が発行された場合でも、船積当時運送品の中身に損傷がなかつたこと
を証券所持人の側において立証すべきものとすると、国際間の取引の安全は著しく
害されることになる。
 なお、このことは法四条の規定からも明白である。すなわち、同条一項は、運送
人は運送品の受取、船積、積付、運送、保管、荷揚および引渡について注意を怠つ
たことにより生じた運送品の滅失、損傷、延着について損害賠償の責を負ら旨の定
めをしているところ、右の無過失を立証するためには損傷の原因を明かにしなけれ
ばならないから、右規定は損傷の原因については運送人の側においてこれを立証す
べきことを前提としているのである。
 (3) しかるところ、本件において、ジプサムタイルが荷揚時に損傷していた
ことが甲第三号証および甲第五号証によつて立証されているから、右損傷による賠
償責任を免れようとする被控訴人は、右運送品の損傷が船積前に既に存在していた
ものであることおよび証券上の前記記載について注意が尽されたことを立証すべき
である。
 二、 被控訴人主張の「索具より索具まで」の特約について。
 この特約が被控訴人のいう趣旨のものであるならば、法三条一項の規定に反し、
法一五条一項により無効である。のみならず、本件においては荷揚の時既に損傷が
あつたことが甲第三号証および甲第五号証によつて立証されているから、荷揚後の
責任について論ずる必要がない。
 三、 引渡について。
 被控訴人は、モンロビア港において、ポート・マネージメント・カンパニーがり
ベリアンの代理人としてB丸から本件積荷の引渡をうけ、その際「良好な状態」で
受取つた旨表明した、と主張するが、リベリアンは同会社に運送品の受取について
代理権を与えたことはないし、右の表明をする権限を与えたこともない。同会社は
被控訴人から回港における荷扱の依頼をうけ、被控訴人の代理人としてリベリアン
に対する貨物の引渡を上たのである。すなわち、本件貨物の引渡はいわゆる船側渡
ではなく、倉庫渡の方法により、リベリアンがモンロビア港の同会社の倉庫から引
渡をうけたのである。船荷証券又は荷渡指図書と引換えでなければ引渡がされるわ
けがない。したがつて、ポート・マネージメント・カンパニーが右のような表明を
しても、リベリアンの表明とは云えないのである。
 四、 損傷の通知について自白の援用。
 被控訴人は原審において控訴人が訴状によつて「リベリアンは被控訴人に対し一
九五九年一一月二〇日本件積荷のタイルに損傷のあることを通告した、」と主張し
たのに対し、「リベリアンより通知ありたることの大筋は認める」と記載した昭和
三六年四月八日付答弁書を陳述し、右通知の事実を認めたので、控訴人はこの自白
を援用する。
 五、 法四条二項九号の免責の主張について。
 本件のタイルに「壊れ易い」と表示されていたことは認めるが、それが本条項に
よる免責事由に当ることは争う。本件の損傷は運送品の固有の性質により自然に生
じたものではない。運送人は運送品につきその性質に応じた注意をすべきである。
 六、 証券第一四条の免責約款について。
 かかる特約は法一五条一項により運送人と証券所持人との間では無効であるか
ら、被控訴人はリベリアンに対して右特約を主張しえない。
 (被控訴代理人の陳述)
 一、 請求原因一の(一)の事実はすべて認める。
 同(二)の事実中B丸が一九五九年一一月一九日b港に到達し、同日および翌二
〇日に本件運送品が同港埠頭で荷卸しされたこと、その後ロイズ検査員によつて右
運送品につき検査が行われたこと、および被控訴人がリベリアンから損害通知書を
受け取つたこと(ただしその発信の日の点はのぞく)は認めるが、その余は否認す
る。右損害通知書には損傷の概況に関する記載がなく、その他リベリアンが本件運
送品を受取つた日から三日以内に損傷に関し何等の通知がなかつたから、本件のジ
プサムタイルは法第一二条第二項により損傷がなく引渡されたものと推定される。
 同(三)の事実中、本件運送契約に基く法律関係について日本法が適用されるこ
と、被控訴人が本件運送品につき「外観上良好な状態」で船積みされた旨記載した
いわゆる無故障船荷証券を発行したことは認めるが、右記載の趣旨は争う。
 二、 請求原因二の(一)の事実は認めるが、同(二)の事実は知らない。
 三、 原判決の被告の主張の三のとおり法四条二項九号証券一四条に関する主張
をする(原判決の一四枚目裏四行目から一五枚目裏五行目までをここに引用す
る)。
 四、 法七条一項三号「外部から認められる運送品の状態」について。
 この記載は、包装品については、運送品の外観的状態をいい、それが「良好」で
あるというのは包装が運送に耐えろる状態であることを示すにすぎず、中身の状態
までも示すものではない。この点に関し、控訴人が批難する原判決の解釈は正当で
ある。運送人は、包装を開披してまで中身の状態を調べる必要がない。殊に、本件
ジプサムタイルは、控訴人主張のとおり波型繊維板で包まれ、藁をつめ、その上か
ら隙箱で包装されていたから、外部から中身の状態を窺い知ることができなかつた
のである。
 本件においては、ジプサムタイルが以上の意味の良好な状態で証券所持人に引渡
されたことが、甲第四号証および甲第五号証(二項(b))によつて明かであるか
ら、最早法九条は問題とする余地がない。したがつて、一般原則にもどり、船積時
に本件運送品の中身に損傷がなかつたことを控訴人が立証しない限り、被控訴人に
損害賠償の義務はない。
 五、 本件船荷証券約款第四条には、本件運送契約による運送人の債務は「索具
より索具まで」と定められている。すなわち、運送人たる被控訴人は船積前又は荷
揚後の事実によつて生じた損害について責任を負わない旨の特約がされている。こ
の特約は法第一五条三項四項により有効である。リベリアンと控訴人との間の保険
契約による保険期間は「倉庫から倉庫まで」(甲第六号証)とされているが、これ
はリベリアンと被控訴人との間の法律関係を規制するものではなく、控訴人はリベ
リアンを代位して本件の請求をしているのであるから、右約款四条の特約に従わな
ければならない。
 六、 本件積荷のb港における証券所持人(リベリアン)への引渡は次のように
してなされた。
 証券所持人は運送人たる被控訴人の代理店に船荷証券を提示し、被控訴人の代理
店は証券所持人にポート・マネージメント・カンパニーに宛てた荷渡指図書を交付
した。ポート・マネージメント・カンパニーが船から積荷の引渡をうけ、これを右
カンパニーの倉庫に収蔵した。証券所持人は右の荷渡指図書と引換えにポート・マ
ネージメント・カンパニーから貨物の引渡をうけた。
 この引渡の方法はb港の港湾規則の定めるところに従つたもので、ポート・マネ
ージメント・カンパニーは証券所持人の代理人として、証券所持人の費用と責任に
おいて、被控訴人の船舶から本件の積荷を受取つたのである。被控訴人は同カンパ
ニーにb港における本件積荷の荷扱を依頼したことはない。そして同カンパニーは
本件積荷を「外観上良好な状態」で受取つたことを承認しているのである(甲第四
号証)。
 (証拠)
 控訴代理人は、甲第一ないし第一三号証、甲第一四号証の一・二、甲第一五ない
し第一九号証を提出し、原審証人C、原審ならびに当審証人(原審第二回、当審第
一回)D、当審証人Eの各証言を援用し、乙第一号証中上部二行の部分の成立は不
知、その余の部分の成立を認める、乙第二・三・四号証、乙第一四号証、乙第一
七・一八・一九号証、乙第二一号証、乙第二三号証、乙第二四号証の一・二、乙第
二五・二六・二七号証の各成分を認める、乙第二号証中の五頁上から二行目より五
行目にかけての二文章および乙第三号証中の五三頁六行目から入行目までの記載を
援用する、その余の乙号証の成立はいずれも不知と述べ、被控訴代理人は、乙第一
ないし第七号証、乙第九ないし第一五号証、乙第一六号証の一・二、乙第一七・一
八・一九号証、乙第二〇号証の一・二、乙第二一・二二・二三号証、乙第二四号証
の一・二、乙第二五・二六・二七号証を提出し、乙第一号証の上部の二行は被控訴
人の代理店が記入したものである、と述べ、原審証人F、原審ならびに当審証人
(原審第一回、当審第二回)Dの各証言を援用し、甲第一号証、甲第三号証、甲第
一一・一二・一三号証、甲第一五ないし第一九号証の各成立を認める、その余の甲
号各証の成立は不知、と答えた。
         理    由
 一、 請求原因第一項(一)の事実および汽船B丸が一九五九年(昭和三四年)
一一月一九日b港に到達し、本件運送品が同日と翌二〇日に、同港埠頭で荷揚げさ
れたことは当事者間に争がない。
 二、 原審証人Cの証言によつて真正に成立したと認められる甲第五・六・七号
証、上部二行のほかは成立に争のない乙第一号証の右争のない部分および同証人の
証言によると、リベリアンはロイズ検査員に右運送品の検査を依頼し、同検査員が
同年一一月二〇日、同年一二月一〇日および一九六〇年一月二五日の三回にわたつ
て検査を行つた結果、右運送品のうちのジプサムタイル九一三箱の一五%がこわれ
て使用に耐えないものになつており、プラスター一〇袋が全部滅失していることが
判明した事実が認められる。
 三、 被控訴人がAに交付した本件船荷証券上に、本件運送品に関する紛争につ
いては、日本法が適用される旨の条項があることは、当事者間に争がない。
 <要旨第二>四、 前記ジプサムタイルの損傷が運送人たる被控訴人の債務履行中
に生じたことの立証責任について。
 1. 成立に争のない甲第一号証によると、本件船荷証券の約款第四条に、運送
人の責任について「索具より索具まで」という趣旨の定めがされている事実が認め
られる。この条項は、運送人たる被控訴人は、法第三条に定められた運送人の債務
たる運送品の受取、船積、積付、運送、保管、荷揚および引渡の各債務のうち、船
積終了後、荷揚開始前までについて責任を負い、船積終了前、荷揚開始後について
は責任を負わない約旨のものと解され、法第一五条三項・四項によれば、この条項
は法第三条の規定に反するに拘らず有効とされ、また、右特約は船荷証券に記載さ
れているのであるから、被控訴人はこれをもつて船荷証券所指人のリベリアンに対
抗することができるわけである。
 2. 運送人の、運送契約上の債務不履行を原因とする損害賠償責任に関する一
般原則によれば、運送品の損傷が運送人の債務履行中に生じたことの立証責任は、
債権者の側にある、と解すべきであるから、この一般原則からすれば、本件ジプサ
ムタイルの前記損傷が船積終了後、荷揚開始前に生じたこと、換言すれば、損傷が
船積終了前、荷揚開始後に生じたものではないこと、を控訴人において立証すべき
こととなる。なおこの点について法第四条の規定は関係がない。すなわち、同条は
運送人がその債務を履行する際の注意義務に関する立証責任を定めたもので、損害
が右債務履行中に生じたことの立証責任の問題と直接の関係はない。
 <要旨第一>3. ところで、控訴人は、被控訴人が本件船荷証券に本件運送品が
「外部から認められる良好な状態」で船積みされた旨記載したのは、船
積みの際に運送品の外装が良好な状態であつたことを承認したことになるのみなら
ず、運送品自体、つまりその中身も良好な状態であつたことを承認したことになる
旨主張するが、法第三条第一項三号にいう「外部から認められる運送品の状態」と
は、包装された運送品については、包装(荷造り)が運送品を目的地まで安全に運
送するのに耐えうる程度の状態にあるかどうか、をいうものと解すべきで、それ以
上に外部から認識することのできない運送品の中身の状態までもいうものではな
く、もとより運送人は包装を開披してまで中身の状態をたしかめてみる、というよ
うな義務を負うものではない、と解すべきである(もつとも包装品の場合でも、船
積の際などに、異様な音や臭気がするとか、包装にしみが出ているとか、などの特
別の徴候があつて、中身の状態が或る程度察知される場合がないとも限らないが、
控訴人は本件の運送品(ジプサムタィル)について、荷揚の際に、包装を開披しな
くとも、中身の損傷を察知しうる異常な状態があつたことを主張しているわけでは
ないから、本件については、かかる特別の場合について問題とする必要はない)。
そして、本件のジプサムタイルが、波形ボール板で包装され、更に藁に包まれ、新
しい板で造つた隙箱に入れられていたことは当事者間に争がない。したがつて外部
からタイルの中身の状態を認識することは不可能であつたと認められるから、本件
の船荷証券に、外部から認められる運送品の状態について「良好」と記載されてい
るのは、右のジプサムタイルの包装が、a港からb港まで安全に運送するのに十分
な状態にあることを承認したに止まり、それ以上に中身のタイル自体が良好な状態
にあつたことまで承認した趣旨のものではない、と解すべきである。そして、前記
のロイズ検査員の検査報告書(甲第五号証)には、右ジプサムタイルが、検査の行
われた倉庫その他の場所に持込まれた際における荷造の外部の状態について「外観
異常なし」と記載されており、成立に争のない乙第一四号証によると、b港におい
てリベリアンの計算と危険において本件運送品を受取り、保管したb港湾管理株式
会社が被控訴人にあてて発行の倉庫受取証には、本件運送品がプラスター一〇袋の
ほかは「外見上良好な状態で受取られた」と記載されている事実が認められるか
ら、本件ジプサムタイル九一三箱の荷揚時における外部から認められる状態は、船
積時におけると同様に「良好」な状態にあつたと認むべきである。したがつて、被
控訴人は船荷証券上の右の記載に関し何らの責任を負うべきいわれがないわけであ
る。
 4. よつて、控訴人は、前記一般原則にしたがつて、本件ジプサムタイルの損
傷、滅失が船積後、荷揚前に生じたことを立証すべきところ、控訴人は、ジプサム
タイルの前記損傷は、荷揚時において既に生じており、リベリアンが一九五九年一
一月二〇日に被控訴人にこれを通知した、そして被控訴人は原審においてこの通知
の事実を自白した、と主張するので、(い)まず、被控訴人がそのような自白をし
たかどうかについて調査するに、控訴人主張の右自白は、被控訴人が、控訴人の訴
状第二項(4)「荷受人リベリアンは被告に対し一九五九年一一月二〇日本件積荷
のタイルに損傷あることを通告した」との主張に対し、昭和三六年四月八日提出の
答弁書(原審第二回口頭弁論において陳述)によつて「同訴外人より通知ありたる
ことの大筋は認める」との答弁をしたことを指称するもので、右事実は記録により
明かであるが、控訴人の右主張の中には、損傷の「概況」に関する主張がなく、通
知の要件の主張として十分とはいえないから、仮りに右主張を認めたとしても、法
一二条所定の効果を伴う事実の自白とはいえないし、被控訴人の右答弁書には、右
の記載に引きつづいて「但、通知内容につき、原告の詳細なる主張を求める」と記
載し、控訴人より通知の要件事実につき補充の主張がなされることを期待し、それ
がされるまで確定的な答弁を留保したと見ることができるから、控訴人が指摘する
被控訴人の前記答弁をもつて通知の要件の一部な自白したものと解することもきな
い(ろ)そこで、次に、ジプサムタイルの前記損傷が荷揚時に既に生じていたかど
うか、および右損傷について適法な通知がされたかどうか、の点について証拠上の
判断をする。成立に争のない甲第三号証によると、b港における被控訴人の代理店
のパターソン・ゾツチヨニイズ・エンド・カンパニー・リミツテツドが、リベリァ
ンに対し、同人に宛てた一九六〇年二月二日付書面で、リベリアンからの本件ジプ
サムタイルに関する同年同月一〇日付損害通知書(乙第一号証)を受取つたことを
確認するとともに「陸揚のときに損害があつた旨当方に記録されている」と報告し
た事実が認められる。しかし、損害の程度、態様などは示めされていないのみでな
く、原審証人D(第二回)の証言により、被控訴人のb港における右代理店の記入
にかかるものと認められる乙第一号証の最上部の二行の記載部分、同証人の証言に
より真正に成立したと認められる乙第一〇ないし第一三号証、ならびに同証人の証
言(第一・二回)によると、被控訴人が昭和三六年七月頃b港の右代理店に対して
前記甲第三号証の記載内容の真否について照会したのに対し、右代理店は、当方に
荷揚時において損傷の記録はなく、リベリアンに対して前記のような報告をしたの
は了解に苦しむ、という回答をした事実が認められるので、前記甲第三号証のみに
よつて荷揚時に損害が生じていたことを認めるのは早計である。また前記のロイズ
検査員の損害報告書(甲第五号証)には、本件ジプサムタイルの「完全な損傷は約
二割であるが、その約五分は保険期間終了後、すなわち荷受人の倉庫における取扱
によつて起つたものと推定する」と記載されており、これによれば同検査員は、残
余の約一割五分の損傷は倉庫に入れられる以前に生じていたと認定したものと解さ
れるが、この認定には納得するに足る客観的な根拠が示めされていないのみでな
く、同検査報告書には右損害の原因は不明という記載(八項(b))もあるので、
同検査員の右の認定をそのまま信用するには躊躇せざるをえない。更に右損害検査
報告書には、本件ジプサムタイルが破損していることについて、荷受人が一九五九
年一一月二〇日に運送人に通知したと記載(九項(d))されているが、その通知
の内容は示めされておらず、他方前掲乙第一号証(上部二行のほかは成立に争がな
い)によると、リベリアンが被控訴人の前記代理店に対し、一九六〇年二月一〇日
付書面で、「本件ジプサムタイルが損傷、滅失している(損傷の数量および概況に
ついての記載はない)こと、これについて被控訴人が運送人として責任があるこ
と、右ジプサムタイルがロイズ検査員によつて検査される(検査の日について記載
なし)ので、右代理店の立会を求めること、」を通知した事実が認められ、前掲の
乙第一三号証によると、本件ジプサムタイルの損害について、リベリアンから右代
理店に対し通知がされたのは右の通知がはじめてのもので、それ以前には何等の通
知がなかつたことが認められるので、ロイズ検査員の前記報告書中の損傷通知の日
の記載にも、にわかに信を措き難いのである。以上によれば、本件ジプサムタイル
の損傷、滅失について、それが荷揚時に既に生じていたこと、およびリベリアンか
ら被控訴人に対し受取の際もしくは受取の日から三日以内にその通知がなされたこ
とについて、これを認めるに足る確たる証拠がないといわざるをえず、リベリアン
から被控訴人に対し右ジプサムタイルの損傷の「概況」について通知がなされたこ
とについては、主張も立証もないのである。
 他に右ジプサムタイルの損傷滅失が船積後、荷揚前に生じたことを立証すべき資
料はない。
 五、 よつて、控訴人の、右ジプサムタイルに関する本訴請求は、その余の争点
について判断するまでもなく、失当として棄却すべきであるから本件控訴を棄却
し、控訴費用の負担について民訴法九五条、八九条の規定により主文のとおり判決
する。
 (裁判長裁判官 小川善吉 裁判官 松永信和 裁判官 川口富男)

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