弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人に関する部分を破棄する。
     本件を水戸地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 被告人本人及び弁護人江幡清の各控訴趣意は別紙記載のとおりである。
 まず弁護人の論旨の一について検討するのに、原判決は、被告人が(1)昭和二
十七年七月二十日頃自宅においてAから覚せい剤であるネオアゴチン二㏄入約八十
本を譲り受け、(2)その頃同所で同人から同じくネオアゴチン約七十本を譲り受
けた事実を認定判示したほか、さらに(4)四月二十三日頃自宅でネオアゴチン二
㏄入八十本を所持した事実をも認定判示し、以上(1)(2)及び(4)の各所為
をいずれも独立した罪として他の(3)の罪と併せ刑法第四十五条前段の併合罪と
して処断しているのであるが、原判決が証拠として挙示した被告人の検察官に対す
る昭和二十七年七月三十一日附第二回供述調書によれば、右の(4)のネオアゴチ
ン八十本というのは(1)及び(2)において被告人が譲り受けた合計約百五十本
のうちの一部であることが明らかである。論旨は、他より譲り受けることによつて
所持するに至つた場合には譲受行為のみが処罰さるべきでこれに引き続く所持は処
罰の<要旨>対象にならないと主張する。しかしながら、覚せい剤取締法がその第十
四条において一定の場合のほか覚せい剤の所持を禁止し、その違反を第四十
一条第一項第二号によつて処罰することとしているのは、特にその譲受に基くもの
を除外する法意であるとは解し難い。むしろその縁由のいかんを問うことなく、正
当ならざる所持をそのものとして罰するというのが右の規定の趣旨とするところだ
と考うべきである。従つて、本件においても、所持の点が処罰の対象から除外され
るとする見解は採用し難い。ただ、この場合、譲受行為とこれに引き続く所持とが
それぞれ別個の犯罪を構成するかどうかは一つの問題であつて、この両者はいわ
ば、一個の意思の発動に基く一連の行為であるにすぎず、譲り受けた者がこれをそ
のまま所持するのは自然の状態だともいえるのであるし、譲受を禁止しこれを処罰
する同法第十七条第三項第四十一条第一項第四号と所持を禁止しこれを処罰する同
法第十四条第一項第四十一条第一項第二号とは畢竟同一の法益を対象としたものと
解すべきであるから、もし覚せい剤を譲り受けた者がこれをそのままの態様におい
て所持していたにすぎない場合においては、その譲受と所持とは、あたかもかの昭
和二十二年政令第百六十五号第一条第一項に違反して連合国占領軍の財産を収受し
た上これを所持する場合が包括一罪と解せられる(最高裁判所昭和二五年(れ)第
一一二六号同二六年二月二〇日第三小法廷判決及び同、昭和二四年(れ)第一七二
八号同二五年七月一三日第一小法廷判決参照)のと同様、包括して一罪を構成する
にすぎないと解するのを相当とする。もつとも、覚せい剤を譲り受けて引き続きこ
れを所持する場合においても、その中途においてその所持の態様に変化を来し、社
会通念上新たな所持が開始されたと認められる場合においては、それ以後の所持と
それ以前の所持とは別罪を構成し、併合罪の関係を生ずるであろう。その間の法律
関係はさきに最高裁判所大法廷が昭和二十三年(れ)第九五六号事件についての昭
和二四年五月十八日の判決で詳細に論じているとおりである。してみれば、本件に
おいて(4)のネオアゴチン八十本の所持が(1)及び(2)の譲受と罪数上いか
なる関係に立つかは、その譲受から当該所持に至るまでの具体的事実関係を明らか
にしなければ決定することができない筋合である。しかるに、原判決の引用する証
拠によると、右(4)の八十本が(1)(2)を合した百五十本の一部であるとい
うことが認められるだけで、そのいずれの一部であるかも明らかでないし、(1)
(2)の譲受当時の所持と(4)の所持とが同一性を有するかどうかも全然明らか
でない。記録に徴しても原審においてこの点につき審理の尽された形跡はないので
ある。しからば原裁判所の訴訟手続にはこの点に関し未だ判決をするに熟しないの
に判決をした審理不尽の違法があるといわねばならず、この違法が判決に影響する
ことは明らかであるから、論旨は結局理由があるというべく、原判決は破棄を免れ
ない。
 次に、職権で調査するのに、原判決はなお(3)として、被告人が七月二十三日
頃自宅でBに覚せい剤であるネオアゴチン二㏄入三十本を代金三百円で売り渡した
いという事実を認定判示し、その証拠として被告人の検察官に対する供述調書と同
人の任意提出書と押収にかかるネオアゴチン六十四本及び空アンブル十六本とを挙
示している。しかしながら、右の押収品は被告人がBに売り渡したという物ではな
いのであつて、なんら右売り渡しの事実の証拠となるべき性質のものではないか
ら、右の事実につき被告人の自白の補強証拠とはなりえないものである。従つて原
判決にはこの点につき被告人の自白を唯一の証拠として事実を認定した違法がある
というべく、この違法が判決に影響を及ぼすことは明白であるから、この点におい
ても破棄を免れない。
 以上の次第であるから、その他の論旨に対する判断を省略して刑事訴訟法第三百
九十七条第三百七十九条により原判決を破棄し、同法第四百条本文に従い本件を原
裁判所である水戸地方裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 大塚今比古 判事 山田要冶 判事 中野次雄)

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