弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 弁護人武井正雄及び同寺坂銀之輔の上告趣意第一点について。
 しかし原判決には、D、B、E及びCが、米子税務署勤務大蔵事務官又は同税務
署雇であること、従つて収税官吏又はその補助者であること、並に同人等は、同税
務署が米子警察署と連絡の上かねてから内偵中の密造酒検挙のため、判示日時、判
示場所に出向いて、捜索押収に従事したものであることが判示されている。さすれ
ば既にそれだけで、同人等が公務員として職務を執行したものであることは明かで
あつて、原判決が、所論の諸点を特に判示することなくして、これを公務の執行と
認めたとしても、所論のように審理不尽又は理由不備の違法ありと言うことはでき
ない。論旨は理由がない。
 同第二点について。
 被告人等が飲酒酩酊のために心神喪失又は心神耗弱の状態に陥つていたものとす
るならば、それは刑の減免の理由となる。しかし原判決は、被告人等がそのような
精神状態にあつたものとは認めなかつたものである。そうして、そのような認定が
審理不尽の結果とも考えられず、経験則に反するとも思われない。そうだとするな
らば、本件が、酒の上の出来事であつたとしても、単にそれだけで、犯罪の成立を
阻却する原因ともならないし、又刑を減免する理由ともならない。従つて原審は、
法定の範囲内に於て自由に刑を量定し得た筈であつて、酒の上の出来事であるとい
う点につき斟酌した旨を特に判示しなかつたからとて、所論のような違法あるもの
ということはできない。論旨は理由がない。
 同第三点について。
 論旨では、被告人Fが「さがせるものならさがしてみろ、無かつた場合はただで
はすませんぞ」という言葉を使用したという事実の証拠はない、と主張しているけ
れども、この事実は、原判決が証拠として採用している第一審第一回公判調書中F
の供述記載によつて推断できる。右の公判調書によれば、検事は公判請求書に基き
公訴事実を陳述したのであるが、公判請求書には公訴事実の一部として、被告人F
が第一審相被告人Gと共に「捜せるものなら捜してみろ、無かつた場合は只ではす
まさんぞ」と交々怒号した旨の記載がある。公判に於て判事は、検事の陳述と同趣
旨の被告事件を告け、被告人の意見弁解の有無を問うたのに対し、Fは下駄を振り
上げた点について弁解した外「事実は大体相違ありませぬ」と答えているのである。
原判決は、この供述記載及びその他の証拠を綜合して所論の事実を認定したのであ
るから、これを以て証拠なくして事実を認定したものとする論旨は採用できない。
論旨は又、被告人Fが部落民と共に反抗の気勢を示した事実も下駄を振上げ税務署
員両人に危害を加えるかのような態度に出た事実もないと主張しているけれども、
これ等の事実は何れも原判決挙示の証拠によつて証明できるのであつて、論旨は、
結局原審の自由心証に委ねられている証拠の取捨選択を非難するに過ぎないから、
適法な上告理由とならないものである。
 これを要するに論旨第三点はすべて採用することができない。
 同第四点について。
 しかし原判決が挙示の証拠に基いて認定したところによれば、被告人Aは、同人
の居宅を訪れ屋内を捜索中の米子税務署勤務大蔵事務官B同税務署雇Cに対し、捜
索に来た税務官吏であることは推察しながら、右Cの腕をつかんで同家の土間に引
つぱり下したり、B事務官が木桶に封印するのを邪魔しょうとしたりして、暴力を
加えその円満な職務の執行を妨げたというのである。右のCは所論のように単独だ
つたのではなく、大蔵事務官Bと共にその補助者として捜索押収に従事したのであ
るから、それはやはり公務の執行であつて、職務権限を逸脱した不適法の行為とい
うことはできない。又これを妨げた被告人Aの右のような所為を権利に基く正当な
行為ということもできない。なお論旨は、前記木桶の内容は、密造酒でなくて白味
噌であつたから、その封印を拒絶しても公務執行の妨害とはならないと主張してい
るけれども、仮りに白味噌であつたとしても、これを証拠物件として封印すること
は、B事務官の職務行為としてなされたのであるから、それを妨害することはやは
り公務執行妨害罪を構成するものである。これを要するに原判決には、所論のよう
な違法はなく、論旨は理由がない。
 同第五点について。
 論旨は、原判決第一の(三)の(1)に摘示された被告人Hの所為は、公務執行
着手前のことで公務執行の妨害とはならないというのであるけれども、原判決には、
この所為が「前記日時頃(一)の場所で」行われた旨を判示している。「前記日時
頃」というのは、判示第一の(1)の事実の時即ちI事務官等がJ方に於て被告人
F外部落民二十数名のために公務の執行を妨害せられていた午前十一時三十分頃の
ことである。従つて判示第一の(三)の(1)のHの所為も亦、同事務官等の公務
執行中か、又は少くとも将に公務の執行に着手せんとしていた時刻であつたことが
わかる。よつてHの所為を公務執行の妨害でないという論旨は、採用することがで
きない。
 論旨は又、原判決第一の(三)の(2)に摘示された事実につき、原判決を非難
している。しかし右の事実は、原判決が挙示の証拠に基いて認定したところであつ
て、そのような認定が経験則に反するということはない。更らにこの事実が暴力行
為等処罰に関する法律の所謂暴力に該当するものとしたことも、正当であつて、何
等の謬りもない。よつて論旨は理由がない。
 同第六点について。
 しかし原審公判調書をみても、原審が証人に対して所論のように誘導訊問を試み
たという形跡は認められない。論旨は、その他種々の理由を挙げて、被告人等に体
刑を言渡されたのは、刑の量定甚しく不当なりと思料すべき顕著な事由があると主
張しているが、刑の量定は、原審が諸般の事情を考量して自由に定め得るところで
あるから、これを以て適法な上告理由とすることはできない。論旨は採用すること
ができない。
 同第七点について。
 論旨は、原審が被告人F及びAを有罪としたことについて、審理不尽、理由不備、
擬律錯誤の違法があることを主張しているけれども、それ等は何れも、、原判決の
事実認定又は証拠の取捨が誤つているということを前提とする主張に過ぎないから、
採用することができない。
 論旨は又、被告人Hについて量刑が不公平且つ過重であると非難しているけれど
も、量刑の不当は適法な上告理由とならないこと、主に述べた通りである。
 以上の理由により旧刑訴第四四六条に従い主文の通り判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
 検察官 安平政吉関与
  昭和二五年一月二四日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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