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平成24年12月19日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成24年(行ケ)第10267号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成24年12月5日
判決
原告株式会社Gotham
同訴訟代理人弁護士髙橋淳
同訴訟復代理人弁理士池田恭子
被告コミテアンテルプロフェッ
ショネルデヴァンドゥ
シャンパーニュ
同訴訟代理人弁護士田中克郎
中村勝彦
同弁理士佐藤俊司
池田万美
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2011-890100号事件について平成24年5月28日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,原告の後記1の本件商標に係る商標登録を無効にすることを求
める被告の後記2の本件審判請求について,特許庁が同請求を認めた別紙審決書
(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記3のとおり)には,後記4のとおりの
取消事由があると主張して,原告が本件審決の取消しを求める事案である。
1本件商標
原告は,「シャンパンタワー」の文字を横書きしてなり,第43類「飲食物の提
供,加熱器の貸与,調理台の貸与,流し台の貸与,カーテンの貸与,家具の貸与,
壁掛けの貸与,敷物の貸与,テーブル・テーブル用リネンの貸与,ガラス食器の貸
与,タオルの貸与」を指定役務とする本件商標(登録第5362124号。平成2
2年5月7日商標登録出願,同年9月15日登録査定,同年10月22日設定登
録)の商標権者である(甲1,114)。
2特許庁における手続の経緯
被告は,平成23年11月14日,原告の本件商標登録について,商標法4条1
項7号に違反することを理由に,無効審判を請求した。
特許庁は,これを無効2011-890100号事件として審理し,平成24年
5月28日,本件商標登録は,無効にすべきものである旨の審決(以下「本件審
決」という。)をし,その審決書謄本は,同年6月21日,原告に送達された(弁
論の全趣旨)。
3本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,本件商標の登録は,商標法4条1項7号に違反してされたも
のであるから,同法46条1項の規定により,無効にすべきものである,というも
のである。
4取消事由
商標法4条1項7号に係る解釈の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
1商標法4条1項7号の射程範囲について
(1)商標法4条1項7号は,本来,商標を構成する「文字,図形,記号若しく
は立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合」(標章)それ自体
が公の秩序又は善良な風俗に反するような場合に,そのような商標について,登録
商標による権利を付与しないことを目的として設けられた規定である(商標の構成
に着目した公序良俗違反)。
同号は,上記のような場合ばかりではなく,商標登録を受けるべきでない者から
された登録出願についても,商標保護を目的とする商標法の精神にもとり,商品流
通社会の秩序を害し,公の秩序又は善良な風俗に反することになるからそのような
者から出願された商標について,登録による権利を付与しないことを目的として適
用される例がなくはない(主体に着目した公序良俗違反)。
確かに,例えば,外国等で周知著名となった商標等について特定の者が商標登録
したような場合に,その出願経緯等の事情いかんによっては,社会通念に照らして
著しく妥当性を欠き,国家・社会の利益,すなわち公益を害すると評価し得る場合
が全く存在しないとはいえない。しかし,商標法は,出願人からされた商標登録出
願について,当該商標について特定の権利利益を有する者との関係ごとに,類型を
分けて,商標登録を受けることができない要件を,商標法4条1項各号で個別的具
体的に定めているから,このことに照らすならば,当該出願が商標登録を受けるべ
きでない者からされたか否かについては,特段の事情がない限り,当該各号の該当
性の有無によって判断されるべきである(知財高裁平成19年(行ケ)第1039
1号同20年6月26日判決。以下「コンマー判決」という。)。
(2)すなわち,商標法は,シャンパンを含むぶどう酒に関しては,同法4条1
項17号において,商標登録を受けることができない商標を規定しているから,本
件商標に無効理由があるか否かは,専ら,本件商標が同号に該当するか否かにより
決すべきである。
(3)本件審決は,本件商標が商標法4条1項17号に該当しないとしても,同
項7号に該当しないとはいえないと述べている。しかし,本件審決は,コンマー判
決のような判断枠組みを採用していない点において,同項7号の解釈を誤っており,
この違法は結論に影響するものである。
2コンマー判決の判断枠組みについて
(1)コンマー判決の判断枠組みを採用した場合,「特段の事情」の有無が問題
となるが,本件審決の認定する事実からは,「特段の事情」があるとはいえない。
本件審決は,フリーライド及びダイリューションのおそれ並びにフランス国民の
感情を害するおそれをもって「特段の事情」があると考えているのかもしれないが,
これらの点は,証拠に基づかない憶測であり,経験則に反する誤った事実認定であ
り,この違法は結論に影響するものである。
(2)本件審決は,前記判決の判断枠組みを採用した場合に問題となる「特段の
事情の有無」について審理を尽くしておらず,審理不尽の違法がある。
〔被告の主張〕
1商標法4条1項7号の射程範囲について
(1)商標法4条1項7号の判断基準
ア同項7号の適用範囲については,①その構成自体が非道徳的,卑わい,差別
的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合,②当
該商標の構成自体がそのようなものでなくとも,指定商品又は指定役務について使
用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反する場合,③他の
法律によって,当該商標の使用等が禁止されている場合,④特定の国若しくはその
国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反する場合,⑤当該商標の登録出願の経緯に
社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反す
るものとして到底容認し得ないような場合等が含まれる。そして,特に上記④につ
いては,当該商標の文字・図形等の構成,指定商品又は役務の内容,当該商標の対
象とされたものがその国において有する意義や重要性,我が国とその国の関係,当
該商標の登録を認めた場合にその国に及ぶ影響,当該商標登録を認めることについ
ての我が国の公益,国際的に認められた一般原則や商慣習等を考慮して判断すべき
である(知財高裁平成17年(行ケ)第10349号同18年9月20日判決)。
イ本件商標の構成中に含まれる「シャンパン」の表示は,原産地統制名称又は
原産地表示として,フランスの政令により厳格に統制され,INAO(原産地名称
国立研究所)により原産地統制名称のぶどう酒が満たすべき生産地域,ぶどうの品
種,生産高,最低天然アルコール純度,栽培方法,醸造方法等の条件が定められ,
長年フランスやシャンパーニュ地方のぶどう生産者及びぶどう製造業者,INAO
及び被告等によりフランスの国内外において保護され,その結果,現在においては,
「シャンパン」の表示は,シャンパン地方の土地やその地のぶどう生産者及びぶど
う酒製造業者と密接に結びついて一つの文化を形成しており,ひいてはフランス及
びフランス国民の文化的所産というべきものになっている,極めて公益性の強い表
示であり,日本においても広く親しまれ,大きな顧客吸引力をもつと同時に,我が
国とフランスの友好関係に重要な役割を担ってきた名称である。
これらの事実に鑑みれば,本件商標に含まれる「シャンパン」の語は,フランス
及びシャンパーニュ地方の文化的所産として積極的に保護されてきた世界的に著名
な原産地統制名称として万人の共有財産と認定されるべきでものあり,その場合,
私益を追求する意図をもってされた,原産地統制名称と何の関わりのない者による
当該著名な原産地名称を含む本件商標の商標登録は,「シャンパン」の原産地統制
名称又は原産地表示に関わる取引の秩序の公正を害し,長年「シャンパン」の表示
の信用性の維持に尽力し続けているフランスやシャンパーニュ地方のぶどう生産者
及びぶどう酒製造業者,INAO及び被告等の努力を無にするというものであると
ともに,フランス国民が培ってきた文化的所産を毀損し,さらには「シャンパン」
表示に化体された信用・評判を希釈化させ,被告を含むフランス国民の感情ないし
自尊心を傷つけるものであって,国際信義という観点からも許容することができず,
我が国の公序良俗に反するものとして,登録が許されないものである。
(2)原告の主張について
ア原告が引用するコンマー判決は,「主体に着目した公序良俗違反」の場合に
おいては,本来なら当事者間における契約や交渉等によって解決・調整が図られる
べき事項であって,一般国民に影響を与える公益とは関係のない事項や私人間の紛
争については,商標法4条1項7号を適用すべきでないことを判示したものにすぎ
ない。すなわち,上記判決も,商標自体が公序良俗に反するものでなくても,公益
的な観点(国際信義に反する観点)からその登録を認めることが商標法の予定する
秩序に反するような場合の同項7号該当性を否定したものではない。
本件商標の場合は,単なる原告と被告間の私人間の紛争あるいは私的な利害の調
整を目的とするといった類のものではなく,フランスと日本の両国の公益を損なう
おそれが高い,極めて国際性の高い特殊な案件であり,明らかに事案が異なる。し
たがって,原告の主張は,そもそも事案の前提において誤っている。
イ原告は,専ら本件商標が商標法4条1項17号に該当するか否かにより決す
べきであると主張する。
しかしながら,同号は,本件商標の指定役務と全く関係がないから,本件商標に
つき,その不登録事由として同号該当性がそもそも問題とならないことは,同号の
制度趣旨からみても当然である。
ウ原告は,本件審決は,コンマー判決の判断枠組みを採用していない点におい
て,商標法4条1項7号の解釈を誤っていると主張する。
しかしながら,本件商標のような原産地統制名称又は原産地表示として著名な
「シャンパン」表示を含む商標については,私人間の紛争の枠を超えており,同項
8号・10号・15号・19号の該当性の有無で処理できる問題ではない。
2コンマー判決の判断枠組みについて
(1)仮に,コンマー判決の枠組みを採用したとしても,本件商標は,商標法4
条1項7号の該当性の有無につき判断すべき「特段の事情」のある例外的な場合に
該当する。
(2)本件商標は,原産地統制名称又は原産地表示である「シャンパン」表示は,
フランスの法令で統制され,フランスやINAO及び被告により厳格に規定付けら
れ保護されているものであり,所定の条件を備えたシャンパーニュ地方産の発泡性
ぶどう酒にのみ使用を許される名称である。ゆえに,原産地統制名称又は原産地表
示とは何ら関係のない特定の個人・法人により「シャンパン」を含む商標が商標登
録され,その特定の者に独占権が付与されることは,フランスやINAO及び被告,
そしてシャンパーニュ地方のぶどう生産者やぶどう酒製造業者にとって全く予定し
ていないことであり,受け入れ難い。
このような原産地統制名称又は原産地表示の特殊性に鑑みれば,本件は,コンマ
ー判決でいう「特段の事情」がない場合には該当せず,原告と被告の本件商標の帰
属をめぐる私的な問題として解決できる事案ではない。原産地統制名称又は原産地
表示として著名な「シャンパン」の表示とは何の関係もない特定個人が独占的に利
用することに対する公序良俗への適合性が問題となっているのであるから,その意
味で,同項7号の該当性の有無につき判断すべき「特段の事情」のある例外的な場
合に該当する。そして,本件商標は,著名な原産地統制名称又は原産地表示である
「シャンパン」の名声を僭用し,「シャンパン」に化体している高い名声・信用・
評判から不正な利益を得るために使用する目的でなされたものであるから,「シャ
ンパン」という表示へのフリーライド(ただ乗り)及び同表示のダイリューション
(希釈化)を生じさせるおそれがあり,同項7号の該当性につき検討すべき「特段
の事情」を有する例外的な場合として扱われるべき事案である。
第4当裁判所の判断
1認定事実
後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)当事者
原告は,各種式典・パーティーの企画立案,酒類の販売,生花,インテリア用品,
食料品,清涼飲料水及び日用品雑貨の卸・小売販売並びに輸出入等を業とする株式
会社である。
被告は,フランスの「シャンパーニュ地方ぶどう酒生産同業委員会」であり,フ
ランスのシャンパーニュ地方における酒類製造業者の利益の保護を目的の一つとし
て法律により設立されたフランス法人であり,対外的には「CHAMPAGNE」
の名称の排他的性質を司法的に保護する等の活動をしている(甲65,67,弁論
の全趣旨)。
(2)本件商標
本件商標は,「シャンパンタワー」を横書きした商標であり,指定役務は,第4
3類「飲食物の提供,加熱器の貸与,調理台の貸与,流し台の貸与,カーテンの貸
与,家具の貸与,壁掛けの貸与,敷物の貸与,テーブル・テーブル用リネンの貸与,
ガラス食器の貸与,タオルの貸与」である(甲1)。
(3)「シャンパン」について
ア「シャンパン」は,「CHAMPAGNE」を表す邦語であり,「CHAM
PAGNE」(シャンパーニュ)はフランス北東部の地名である。「CHAMPA
GNE」(シャンパン)は,フランスの原産地統制呼称法による原産地統制名称で
あって,フランスのシャンパーニュ地方で収穫されたぶどうで作られた発泡性ぶど
う酒にのみ使用を許される名称であるところ,シャンパーニュ地方で生産されたシ
ャルドネ,ピノ・ノワール及びピノ・ムニエの3種のぶどうのみが原料として認め
られ,その年度の最高の生産高等に制限があるなど,さまざまな品質規制がされて
いる。
すなわち,フランスにおいては,1908年(明治41年)に,「シャンパーニ
ュ」という名称が法律上指定され,その後,発泡性ぶどう酒(スパークリングワイ
ン)の表記法が定められた。そして,1935年(昭和10年)に,優れた産地の
ぶどう酒を保護・管理することを目的として,「原産地統制呼称法」(Appellation
d’OrigineContrôlée)が制定され,政府機関であるINAO(InstitutNationaldes
Appellationsd’Origine。原産地名称国立研究所)により運用されている。同法によ
れば,原産地統制名称ぶどう酒(A.O.C.)は,原産地,品質,最低アルコール含有
度,最大収穫量,醸造法等の様々な基準に合うように製造されなければならず,そ
の基準に合格して初めて原産地統制名称を使用することができる。しかし,鑑定試
飲会の際に不適当であるとみなされたものは,名称を使用する権利を失うことにな
っており,厳格な品質維持が要求されている。原産地統制名称は,産地の名称を法
律に基づいて管理し,生産者を保護することを第一の目標とし,また名称の使用に
対する厳しい規制は,消費者に対して品質を保証するものとなっている。
このように,「シャンパン」は,シャンパーニュ地方で,シャンパン法(シャン
パーニュ方式)により製造するなどの基準に合致した発泡性ぶどう酒にのみ許され
た原産地統制名称である(甲4~6,8,42,52~56,65)。
イ「シャンパン」は,辞書や辞典類にも「発泡性ぶどう酒の一種,フランス北
東部シャンパーニュ地方産の美酒」などと紹介されている(甲2~5,7,9,1
5~32)。
「シャンパン」の表示を付した商品は,我が国においても高品質で稀少価値を有
する商品として広く販売されており,発泡性ぶどう酒の代名詞として使用されるほ
ど世界で有名なぶどう酒の1つであり,雑誌や書籍,新聞等にもしばしば紹介され
ている(甲6,8,10~14,33~49)。
それらの文献等でも,「シャンパン」と称することができるのは,シャンパーニ
ュ地方においてシャンパン法(シャンパーニュ方式)により製造された発泡性ぶど
う酒だけであるとされている。
(4)「シャンパン」に係る商標登録出願について
ア指定商品を第14類(貴金属等)とする「CHAMPAGNE/シャンパ
ン」なる商標について,被告の請求により,商標法4条1項7号違反を理由に商標
登録の無効審決がされた(甲80)。
イ指定商品を第14類(貴金属等)とする「CHAMPAGNESAPPH
IRE/シャンパンサファイア」,「CHAMPAGNETOPAZ/シャンパ
ントパーズ」,「CHAMPAGNESTONE/シャンパンストーン」,「C
HAMPAGNEGEM/シャンパンジェム」,「CHAMPAGNEJEW
ELRY/シャンパンジュエリー」及び「CHAMPAGNECUBIC/シャ
ンパンキュービック」なる商標や,指定商品を第14類(金,金製のイヤリング
等)とする「CHAMPAGNEGOLD/シャンパンゴールド」,指定商品を
第14類(銀,銀製のイヤリング等)とする「CHAMPAGNESILVER
/シャンパンシルバー」,指定商品を第14類(白金,白金製のイヤリング等)と
する「CHAMPAGNEPLATINA/シャンパンプラチナ」,指定商品を
第14類(ガーネット製のイヤリング等)とする「CHAMPAGNEGARN
ET/シャンパンガーネット」,指定商品を第14類(パラジウム等)とする「C
HAMPAGNEPALLADIUM/シャンパンパラジウム」,指定商品を第
16類(紙類等)とする「DOMAINECHAMPAGNE/ドメーヌ・シャ
ンパーニュ」,指定商品を第3類(せっけん類等)とする「シャンパンクリスタル
/CHAMPAGNECRYSTAL」,指定商品を第18類(かばん金具等)
とする「Champagnepop」,指定商品を第3類(化粧品等)とする
「Champagner」並びに指定商品を第22類(はき物等)とする「Pin
kChampagne/ピンクシャンペン」なる商標も,被告の異議申立てによ
り,商標法4条1項7号違反を理由に取り消されている(甲59,60,68~7
8,85~87,95)。
また,指定商品を第25類(被服等)とする「PinkChampagne/
ピンクシャンパン」なる商標について,被告の請求により,商標法4条1項7号違
反を理由に商標登録の無効審決がされた(甲79)。
ウさらに,指定商品を第25類(被服等)とする「シャンパンアイボリ」,指
定商品を第35類(インターネットによる商品の通信販売の取次ぎ)とする「シャ
ンパンフラワー」,指定商品を第30類(フランス国シャンパーニュ地方産の発泡
性ぶどう酒を使用した菓子・パン等)とする「シャンパンローズ」,指定商品を第
30類(ウーロン茶)とする「シャンパン烏龍」,指定商品を第5類(薬剤)とす
る「ゴールドシャンパンの香り」及び指定商品を第19類(合成建築専用材料等)
とする「シャンパングレイ」なる商標も,被告の異議申立てにより,商標法4条1
項7号違反を理由に取り消されている(甲82~84,88,98,99)。
エその他,「CHAMPAGNE」又は「シャンパン」を含む商標の登録出願
について,商標法4条1項7号違反を理由に拒絶理由通知や拒絶査定が行われてい
る(甲89~93,101~108(枝番を含む。))。
オなお,被告及びINAOは,諸外国においても,「CHAMPAGNE」の
不正使用等の防止又は差止めを求めて,提訴したり不服を申し立てたりして,その
保護を図ってきた(甲56,66,113)。
2本件商標の商標法4条1項7号該当性
(1)前記1認定のとおり,本件商標のうち「シャンパン」の部分は,①「CH
AMPAGNE」を表す邦語であるところ,②フランス北東部のシャンパーニュ地
方で作られる発泡性ぶどう酒を意味する語であって,生産地域,製法,生産量など
所定の条件を備えたぶどう酒についてだけ使用できるフランスの原産地統制名称で
あり,③「CHAMPAGNE」「シャンパン」は発泡性ぶどう酒を代表するほど
世界的に著名であり,我が国においても,数多くの辞書,事典,書籍,雑誌及び新
聞等において「シャンパン」についての説明がされている。
これらの事実を総合すると,我が国において,「シャンパン」の表示は,「フラ
ンスのシャンパーニュ地方で作られる発泡性ぶどう酒」を意味するものとして,一
般需要者の間に広く知られていることが認められる。
(2)本件商標は,「シャンパンタワー」なる商標であるところ,そのうち「シ
ャンパン」の語が,上記のとおり,「フランスのシャンパーニュ地方で作られる発
泡性ぶどう酒」を意味するものとして,周知著名であり,当該表示には多大な顧客
吸引力が備わっていることに照らすと,本件商標からは,「シャンパンタワー」の
みならず「シャンパン」という称呼及び観念も生ずるということができる。
(3)そして,フランスの法律に基づいて設立された被告は,INAOとともに,
「シャンパン」表示が有する上記のような周知著名性や信頼性を損なわないよう,
シャンパーニュ地方のぶどう生産者やぶどう酒製造業者を厳格に管理・統制し,厳
格な品質管理・品質統制を行ってきた。このような,被告を始めとするシャンパー
ニュ地方のぶどう生産者やぶどう酒製造業者らの努力により,「シャンパン」表示
の周知著名性が蓄積・維持され,それに伴って高い名声,信用,評判が形成されて
いるものであり,「シャンパン」という表示は,シャンパーニュ地方のみならず,
フランス及びフランス国民の文化的所産というべきものになっている。
そして,前記1(4)に掲記の証拠によれば,「シャンパン」という表示は,我が
国においても,ぶどう酒という商品分野に限られることなく一般消費者に対しても
高い顧客吸引力が化体するに至っていることが認められる。
(4)以上のような,本件商標の文字の構成,指定役務の内容並びに本件商標の
うちの「シャンパン」の表示がフランスにおいて有する意義や重要性及び我が国に
おける周知著名性等を総合考慮すると,本件商標を飲食物の提供等,発泡性ぶどう
酒という飲食物に関連する本件指定役務に使用することは,フランスのシャンパー
ニュ地方における酒類製造業者の利益を代表する被告のみならず,法律により「C
HAMPAGNE」の名声,信用,評判を保護してきたフランス国民の国民感情を
害し,我が国とフランスの友好関係にも影響を及ぼしかねないものであり,国際信
義に反するものといわざるを得ない。
よって,本件商標は,商標法4条1項7号に該当するというべきである。
3原告の主張について
(1)原告は,商標の構成に着目した公序良俗違反ではなく主体に着目した公序
良俗違反の場合には,当該出願が商標登録を受けるべきでない者からされたか否か
について,専ら商標法4条1項17号の該当性の有無によって判断されるべきであ
り,特段の事情がない限り,同項7号該当性の判断をする判断枠組みは誤りである
などと主張する。
(2)なるほど,商標法4条1項7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するお
それがある商標」について商標登録を受けることができないことを規定し,これは
無効理由にも該当する(商標法46条1項1号)。同法4条1項7号は,本来,商
標を構成する「文字,図形,記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこ
れらと色彩との結合」(標章)それ自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しく
は他人に不快な印象を与えるような文字又は図形であるなど,公の秩序又は善良な
風俗に反するような場合に,そのような商標について,登録商標による権利を付与
しないことを目的として設けられた規定である。そして,同条は,出願人からされ
た商標登録出願について,当該商標について特定の権利利益を有する者との関係ご
とに,類型を分けて,商標登録を受けることができない要件を個別具体的に定めて
いることに照らすと,当該出願が商標登録を受けるべきでない者からされたか否か
については,特段の事情がない限り,他の条項(同項8号,10号,15号又は1
9号等)の該当性の有無と密接不可分とされる事情については,専ら当該条項の該
当性の有無によって判断されるべきであることは,原告が主張するとおりであって,
公益的な事項が問題になっていない私的な領域に関する場合にまで安易に同条1項
7号を適用するのは相当ではない。
しかしながら,そもそも,本件で問題になっているのは,本件指定役務に係る商
標であるから,ぶどう酒又は蒸留酒に係る同項17号が問題になることはない。そ
して,「シャンパン」表示が特定の私人に帰属するものでなく,フランスの原産地
統制名称であること,それゆえ,本件商標のような原産地統制名称又は原産地表示
として著名な「シャンパン」表示を含む商標に係る紛争は,私人間の私的領域にお
ける紛争にとどまるものではなく,被告によって代表されるフランスのシャンパー
ニュ地方における酒類製造業者を始めとするフランス国民やフランス政府との関係
での国際信義の問題であって,公益的な事項に関わる問題であることに鑑みれば,
本件について同項7号を適用することが,同号の「公の秩序又は善良の風俗を害す
るおそれ」を私的領域にまで拡大解釈したものということはできない。
(3)よって,原告の主張は,いずれも採用することができない。
4結論
以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官土肥章大
裁判官髙部眞規子
裁判官齋藤巌

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