弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役1年2か月に処する。
この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
押収してある刺身包丁1丁(平成16年押第1号の1)を没収する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 土地の境界線を巡って争っていた隣人のA方家族を脅迫しようと企て,平成
15年11月9日午後11時15分ころ,神戸市a区b町c丁目d番e号の同人方
玄関先において,応対した同人(当時34歳)に同玄関引き戸を開けさせた上,所
携のガソリンを同玄関内に散布する気勢を示し,同人がこれを認めて同引き戸を閉
めるや,同玄関引き戸設置の郵便受け投入口から所携の刃体の長さ約20センチメ
ートルの刺身包丁(平成16年押第1号の1)の刃先を差し込み,さらに,同投入
口から所携のガソリン若干量を注ぎ込み,同人に対し,「開けんかい。」「殺した
る。火をつけて燃やしたる。」などと怒号し,同人及びその家族の生命,身体にい
かなる危害をも加えかねない気勢を示して脅迫し,もって凶器を示して脅迫し,
第2 業務その他正当な理由による場合ではないのに,第1記載の日時場所におい
て,同記載の刺身包丁1丁を携帯し 
たものである。
(証拠の標目)
  ―括弧内の検に続く数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号―
省略
(補足説明)
 本件公訴事実では,被告人が判示A(以下「被害者」という。)方玄関(以下単
に「玄関」という。)先で,同人に玄関引き戸(以下単に「引き戸」という。)を
開けさせた上,所携のガソリン約0.5リットルを玄関内に散布し,また,同人が
引き戸を閉めた後引き戸郵便投入口(以下単に「投入口」という。)から流し込ん
だガソリンも約0.5リットルであったとされているところ,被告人は,投入口か
らガソリンを流し込んだことは認めるものの,被害者が引き戸を開けたことやその
際被告人が玄関内にガソリンを散布した記憶はないとし,弁護人も,事実を争わな
いとしながら,被害者が引き戸を開けたことや被告人が玄関内にガソリンを散布し
た証拠はないとする。
 この点,弁護人は,玄関内からガソリンが検出されていないことをもって,被害
者が引き戸を開けたことや被告人が玄関内にガソリンを散布したと認められないこ
との根拠とする。しかし,被告人が投入口から玄関内にガソリンを注ぎ入れたこと
は被害者が供述するのみならず被告人自身が認めていることであり,これを疑うべ
き証拠もないので,玄関内からガソリンが検出されていないことのみからこの両名
の供述の信用性が損なわれるとまではいえないこととなる。
 そこで,被害者らの供述につきさらに検討すると,まず,被害者は,被告人が玄
関外で玄関を開けるよう怒鳴っていたので玄関を開けた旨,すると包丁を持った被
告人が玄関内にガソリンをまき(散布し),これが玄関内にあった運動靴やサンダ
ルにかかった旨,一方被害者は危険を感じ直ちに引き戸を閉めた旨などを明言して
いる。ところで,被害者は,当初は被告人が包丁やガソリンを持っているとは認識
していなかったと認められるところ,とすれば,隣人である被告人が玄関を開ける
よう怒鳴ればその目的を尋ねたりこれに文句を言うなどするため引き戸を開けるの
が通常であると認められる。次に,被害者の供述は特に変遷しておらず,後述のよ
うに,被告人がまいたガソリンが運動靴やサンダルにかかったという点については
疑問があるが,他に
は不自然な点はなく,また,確かに被害者一家は被告人一家と境界につき対立して
いたが,これも,被害者がこの点についてのみ,またこのような内容の虚偽を述べ
るほどの理由にはならない。そして,被告人の息子Bも,被告人が玄関付近で「出
て来んかい」とわめいた後,『玄関に灯油かガソリンをまきはじめた』と供述して
いるところ,この『まきはじめた』と表現される被告人の動作が投入口からガソリ
ンを流し込むという特色のある動作をさすとは考えられないから,Bのこの供述は
被害者の供述と相互に符合することとなる。なお,Bは被害者が引き戸を開けてい
ない旨の供述をしているが,Bは被告人の行動を直近で見ていたわけではない上,
被告人の後方から見ていたにすぎないから,被害者がごくわずかの時間引き戸を開
けてこれを直ちに閉
めたことに気づかないとしても何ら不自然ではない。一方,被告人の供述は,当時
興奮していて被害者が引き戸を開けたかよく覚えていないというもので,被害者が
引き戸を開けたというのであればそのとおりと思うともいうのであって,そもそも
被害者の供述の信用性を弾劾するほどのものでない。そうすると,被害者が引き戸
を開けたこと,その直後被告人が玄関に向かってガソリンを散布するような行動を
したことは被害者とBの供述等から事実として認定できる。
 しかし,被告人が玄関内外に散布等したガソリンの量については,公訴事実どお
り認定できない。まず,この量については,被告人が『ガソリンが入っていた4リ
ットル缶にはもともと約4リットルのガソリンが入っていたところ,自分が約3リ
ットル使っていたため,犯行時1リットルくらいのガソリンが残っており,犯行後
これがほとんど残っていなかったので,本件犯行で1リットルくらい使ったことに
なる。最初玄関内にまいたのがその半分くらい,その後引き戸の郵便投入口から注
いだのが半分くらいとなる』旨述べていることと,現にこの4リットル缶が発見さ
れている程度のほか,証拠がない。ところが,鑑定書によれば,前記4リットル缶
には鑑定時約350ミリリットルのガソリンが入っていたというのであり,このこ
とからすれば,犯行
後少なくとも約350ミリリットルのガソリンが残っていたことになる。そうする
と,本件において1リットル程度のガソリンを2度に分けて使ったこととなるとい
う被告人の供述は採用できなくなり,さらには本件当時前記4リットル缶に1リッ
トルくらいのガソリンが残っていたという被告人の供述もそのまま受け入れるには
疑問が生じ,この点だけでも被告人が散布等したガソリンの量を特定する証拠はな
くなるというべきである。また,前記4リットル缶は本件犯行後Bが被告人から取
り上げ付近の溝に捨てたのを警察官が領置したものであるが,その際同缶に蓋がし
てあったかは不明であり,他にこの間同缶内のガソリンが漏れるなどした可能性が
ないことを示す証拠もない。さらに,被害者は,被告人が散布したガソリンが玄関
内にあった運動靴や
サンダルについたとしているが,この運動靴等からもガソリンは検出されておら
ず,一方,同時期に採取,押収された玄関外にあった油様の物からはガソリン成分
が検出されている(すなわち,揮発等の事情は考えにくい。)。そして,玄関内か
らガソリン成分が検出されていないことから直ちに玄関内にガソリンが散布等され
ていないとすることができないことは先に述べたとおりであるが,逆に,玄関内に
500ミリリットルとか1リットルものガソリンが散布等されていながらその成分
が検出されないということも通常は考え難い。
 これらのことからすると,被害者が引き戸を開けた際に被告人が玄関内にまこう
としたガソリンは結局玄関内には全くまたはわずかしか達しておらず,動転した被
害者においてこれが玄関内に散布され,前記運動靴等にかかったように感じた等と
いう可能性,また,被害者が引き戸を閉めた後被告人が投入口から玄関内に流し込
んだガソリンの量もさほどではなかった可能性が残存するというべきである。
 そこで,結局本件については判示の事実が認定できるにとどまると判断した。
(法令の適用)
 被告人の判示第1の所為は暴力行為等処罰に関する法律1条(刑法222条)
に,判示第2の所為は銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条にそれぞれ該当
するところ,各所定刑中判示各罪につきいずれも懲役刑を選択し,以上は刑法45
条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑
に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲で被告人を懲役1年
2か月に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3
年間その刑の執行を猶予し,押収してある刺身包丁1丁(平成16年押第1号の
1)は,判示第1の犯行の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,同法1
9条1項2号,2項本文を適用してこれを没収し,訴訟費用については,刑事訴訟
法181条1項本文によ
り全部これを被告人に負担させることとする。
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,隣家に対する不満を発散するため,その玄関先でガソリンを
まいたりその家人に包丁を示すなどして脅迫した事案である。被告人は,飲酒した
上妻と喧嘩をするなどしたことから自暴自棄的な興奮状態に陥り,かねてから土地
の境界線を巡って争いがあった隣家に対し日頃からうっ積させていた不満を発散す
るために本件犯行に及んだものであるが,後記の事情を考慮してもその動機はまこ
とに短絡的であり,夫婦げんかによる不満を隣人に向けた面は極めて自己中心的と
もいわねばならない。また,犯行態様についてみると,包丁を示した上にガソリン
を玄関付近にまくなどし,火をつけるような脅迫をするなどという,危険なもので
あり,犯情が悪い。被害者は,境界問題で現に対立する隣家の住民にかかる脅迫を
受けたものであり,
被害者らが感じた恐怖や,再度かかる危害を加えられるのではないかという不安感
も大きいと認められる。玄関引き戸のガラスが破損したことに関する修理費用が支
払われたほか慰謝の措置もとられていない。以上の事情を総合すると,被告人の刑
事責任は軽くなく,本件の経緯にかんがみると被告人が隣家や自己の家族とのトラ
ブル等から再び何らかの犯罪を犯すおそれも否定できない。
 もっとも,被告人が本件犯行に至るまでには,隣家との境界線争いがあり,この
こと自体は被告人側と被害者側の双方が適切な解決をとらずに争いを続けていた模
様であるものの,被害者ないしその家族も,この間被告人宅の出入りを妨害した
り,被告人の妻に対し脅迫的ともとれる言辞を申し向けるなどの行為を行っていた
ことが窺われ,本件犯行に至る経緯についてはしん酌すべき点がある。また,被告
人は,本件により2か月以上身柄を拘束され,この間前記興奮がさめた後は本件犯
行を素直に認め,反省していること,本件犯行までは前科も前歴もなく数年前まで
は職を持ち社会人としての生活を送っており,犯罪性向は低いこと,妻が今後の監
督を誓っていること等の被告人に有利な事情も認められる。
 そこで,このほか,前述のように被告人が散布等したガソリンの量が公訴事実に
いうほど多量ではなかった可能性があること等の事情も考慮し,今回は刑の執行を
猶予するのを相当と判断した。
  平成16年2月25日
神戸地方裁判所第1刑事部
裁判官  橋 本  一

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