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裁判例


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○主文
控訴人らの被控訴人らに対する本件各控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
○事実
一控訴人ら訴訟代理人は「1原判決を取消す。2被控訴人横浜市長が昭和五三年六月、

日付でした控訴人らに対する「横浜市<地名略>地内の前田橋より南門通りを経て中華街
東門に至る道路の境界線から水平距離で二・〇メートル後退した位置において地盤面から
三・〇メートルまでの部分に壁面線を指定する」との壁面線指定処分を取消す。3被控。

人横浜市建築審査会が昭和五四年五月一五日付でした控訴人らの昭和五三年一二月二三日
。、。」付審査請求に対する裁決を取消す4訴訟費用は第一二審とも被控訴人らの負担とする
との判決を求め、被控訴人ら訴訟代理人は、主文一項同旨の判決を求めた。
二当事者双方の主張及び証拠は、次のとおり訂正、付加するほかは原判決事実摘示と同
一であるから、これを引用する。
1原判決二四枚目表三行目「行訴法」を「行審決」と改める。
2控訴人らの主張
(一)本件壁面線指定に関する横浜市長の意図と姿勢について
(1)既定方針としての本件指定処分
横浜市の都心プロムナード事業計画は昭和四八年頃から横浜市企画調整局において企画立
案され、昭和四九年からその事業が開始された。その内容は、京浜東北線桜木町、関内、
石川町の各駅から山下公園に至るルートを整備し、快適な歩行者空間を作ろうとするもの
であつた。横浜市は昭和五一年六月頃石川町ルートについて元町−南門通−山下公園のコ
、。、ースを選定しその道路の整備を行うことを決定した右コースの道路整備の方法として
当時の南門通りの道路事情、商店街及び建物等の市街環境と他の二つのルートについて既
に壁面線指定による方式を採用していることなどを考慮して、こゝでも同じ方式で街並み
の整備をすることに決定しな。
当初市側としては水平距離三メートル、高さ五メートルの壁面線後退を希望していたが、
。)、、その後の地元関係者一控訴人ら住民を除くとの折衝の結果昭和五二年二月頃に至り
二メートルと三メートルの範囲で壁面線を後退させることを内部的に決定したものの、そ
れが告示されていないにも拘らず、決定後になされた南門通り住民の建築確認申請につい
て右壁面線指定を順守するよう行政指導をし、それを前提とした建築確認をしてきた。
街並を整備する手法として建築基準法では壁面線指定の方式(同法四六条、四七条)のほ
かに当該地域の土地所有者等の合意による建築協定の方式(同法六九条ないし七七条)が
容認されているにも拘らず、横浜市としては両者の方式が存在すること及びその両者の利
害得失などを地域住民に説明することなく、当初から壁面線指定の方式を選択し、地域住
民に対しいずれを選択するかその検討の余地を与えることなく、既定の方針として壁面線
指定による街並の整備について指導、説明してきた。しかも、市側としては、右方式によ
る壁面後退の実施について多少の困難があつてもそれを実現したい強い意向を示していた
ばかりでなく、前記石川町南門通りルートの事業計画が決定する以前から、プロムナード
計画と関係なく南門通り住民が横浜市長宛に要望していた南門通り道路の舗装化の実現を
盾にとつて、壁面線後退案を地元関係者に押しつけた形跡が窺える。
以上の事実経過からすると、横浜市長はプロムナード事業の一環としてなした石川町ルー
トの南門通り道路整備事業については、当初から壁面線指定の方式を採用し、既に実施し
ている他のルートとの関係からも、これに対して地元住民からの反対意見があつたとして
も、せいぜい壁面線の後退範囲を修正する程度に止め、何としても壁面線指定を既定の方
針として貫徹する意図があつたことが明白である。
してみると、横浜市長が主催した壁面指定にかゝる公聴会は反対住民の意見を率直に聴い
てその当否を決定するというものではなく、単に建築基準法四六条所定の手続を履践した
ことを証するための形式的な会合に過ぎなかつたとみざるをえない。
(2)横浜市が中華街プロムナード促進協議会を設立させ、利用した意図について
横浜市長は、南門通りの道路整備事業の方法として壁面線指定方式を採用、実施するに当
り、壁面線指定についてより多くの利用関係人の同意を得ておくため、地元対策の担当を
命じてA中区長を通じ昭和五一年九月一三日頃から南門通り商店街の有力者に対して組織
作りを指導するなどして働きかけ、その結果区長の意を体したB、C、D、E、F、Gら
が中心となり、地元住民らに対し南門通りの舗装工事を含む環境美化整備を内容とする中
華街プロムナード事業計画の実現のための促進協議会の設立に同意し参加するよう勧奨
し、
約五八名からその旨の同意書を取りつけ、もつて昭和五一年一〇月二六日Bを会長とする
中華街プロムナード促進協議会(以下「協議会」という)を設立するに至つた。。
協議会は当初から横浜市長の計画したプロムナード事業に賛意を表し、しかも鉄筋コンク
リート造りなど堅固な建物を保有していることから、壁面線指定によつて当面何ら権利の
制約を受けない役員(控訴人Hを除く)らを中心に運営され、独自又は横浜市あるいは。

区との共同による説明会、懇談会はもとより、総会の開催に際しても全会員に対する通知
の徹底を怠り、一部会員の参加だけで会の意思を決定し、それをあたかも会員ないし地域
住民全体の意思として横浜市に伝達するなどしており、特に地域の地権者にとつて極めて
、、、利害関係の大きい壁面線指定については会員に対し十分な指導説明をしないばかりか
横浜市が実施しようとしている壁面線指定は、後日住民の合意により取消しが可能である
、、、から道路の整備美化をまず実現させるためには壁面線後退に同意した方が良いなどと
建築協定方式による壁面後退であると誤信させるような指導説明をしたりして、何とか地
域住民をして壁面線指定に同意させるよう画策していた。
このように、横浜市長は、本件指定を実施するに当り、形式的に地域住民らの同意を得て
おく必要から、意図的に一部住民をして協議会を設立、組織させ、併わせて地域住民らへ
の通知、連絡、指導、説明などの手間を省略する便宜のため、右協議会を利用していた。
(3)横浜市が行つた南門通りの舗装工事の意図とその条件としての同意協力について
横浜市は昭和五二年初めから同年一一月までの間に南門通りについて下水道、水道及びガ
ス管等を地下に埋設し、歩道に絵タイルを張り付けるなどの舗装工事を行つたが、これは
表向き南門通りの地域住民の要望に応え、同商店街の発展向上に資するものとされている
ものの、横浜市長としては、右工事の施工の条件として、地域住民らに本件壁面線指定に
ついて同意、協力することを要求した疑いが濃厚である。
南門通りに関係する山下町自治会等の地元関係団体の代表が、南門通りの道路事情が悪化
している現状に鑑み、横浜市の都心プロムナード事業計画とは別個に、昭和五〇年一二月
四日付で横浜市長に宛てて、道路の舗装化を含む歩行専用道路整備等の陳情書を提出して
いたが(乙第一一号証の一、)
一方これを受けた横浜市長としては昭和五一年六月頃右プロムナード事業計画の一環とし
て、石川町ルート(元町−南門通り−山下公園コース)の道路整備のため壁面線指定の方
式を採用することを決定し、右事業を円滑に実施するためにはできる限り地元住民らの賛
同を得ておく必要があることから、右事業と前記地元からの陳情とを結び付けて実行する
ことを考慮し、同年九月中旬頃から地元民との都心プロムナード事業にかゝる懇談会等に
おいて、南門通りの舗装工事を実施する前提として、プロムナード事業計画に基づく壁面
線指定による街並の整備の必要性を説明、指定しつつ、その会合に出席した住民に対し南
門通りの舗装化を希望するならば壁面線指定の方式について賛同協力するよう求め、暗に
舗装工事実施の前提としてその賛同協力することが条件であることをほのめかしてきた。
右事実は、懇談会等における横浜市、中区側と出席した住民側との質疑、応答ないし意見
交換の内容等により明らかである。
(4)横浜市の南門通りに対するモデル商店街指定と壁面線後退との関係及び右指定の
意図
モデル商店街の指定は、横浜市が地域商店街の開発のために指導、助成する目的で昭和四
八年九月一六日に制定、施行した地域商店街づくり指導事業実施要綱(乙第一四号証)に
基づくものであるが、同要綱は、その制定の時期、趣旨、目的からして都心プロムナード
事業計画とは別個のものであり、その計画の実施方法の一つとしてなされる壁面線後退と
は密接不可分な関係にない。しかるに、横浜市は本件壁面線によつて不利益を被る利害関
係人らの反対意見を避けるためにはモデル商店街指定制度を活用するほか方法はないと判
断し、本件壁面線後退案を内部的に策定した昭和五二年二月以降中華街プロムナード促進
協議会に働きかけ、その結果同年七月一五日付をもつて同協会をしてモデル商店街指定申
込みをさせ、同年九月一六日にその指定をしたものである。そして、横浜市は右指定後か
ら前記地域商店街づくり指導事業実施要綱に基づく指導と助成を行うと同時に、本件プロ
ムナード計画を受けて南門通りを商店街として開発するには壁面後退が必要かつ前提条件
である旨指導、説明を繰り返し、地元住民(控訴人らを除く)らに説得を続けてきた。。
以上の事実経過をみると、モデル商店街の指定は、
本件壁面線指定による街づくりについて地域住民の同意を取り付け右事業を推進する意図
から、横浜市が地元対策の一環としてしたものである。
(5)本件指定が行政処分でないとする横浜市長らの認識
本件壁面線の指定は行政処分であるが、被控訴人らは誤つてこれを行政処分に当らないと
認識理解していた。本件において被控訴人らがこのような誤つた理解をもつて壁面線指定
の手続を処理してきたことは、極めて重大である。けだし、横浜市長は、壁面線指定に際
し、事前に利害関係人全体に対しその趣旨、必要性、利用得失などについて説明し、利害
関係人が自らの判断によつて壁面線指定の当否を判断しうるに足りる適切かつ十分な情報
を提供すべきであるのに、その役割の多くを民間の任意加入団体にすぎない協議会に委ね
るなど、その指導説明について必要かつ適切な措置を怠つたこと、公聴会の開催及び指定
処分の伝達についても不十分な公告方法を選択し、利害関係人全体に対する必要かつ適切
な周知徹底の方法をとらなかつたこと、更に指定処分の告示に際しては右処分に対する不
服申立の方法についての教示をしなかつたことなどは、いずれも横浜市長が本件指定を行
政処分でないと誤解していたことに起因するものである。
してみると、被控訴人らの前述のような認識、理解は本件紛争の主因をなすものというべ
きである。しかるに、原判決がこの点について何らの判断を示すことなく、単に本件壁面
線指定に至る形式的な手続の法的適合性のみをとらえ、控訴人らの請求を却下し、また棄
却したことは、本件紛争の本質を見誤つただけでなく、審理不尽の違法があるといわざる
をえない。
(二)本件指定に対する行政不服審査請求期間の起算日について
原判決は、本件指定に対する審査請求期間は本件公告の日である昭和五三年六月五日の翌
日から起算して六〇日以内であるところ、本件審査請求は右期間経過後である同年一二月
二三日に申立てられたものであるから行審法一四条一項本文に違背し不適法である旨判示
しているが、その前提として本件公告が建築基準法四六条三項所定の公告の方式に適合し
ているとし、審査請求期間の起算日を本件公告の日の翌日と解している点において不当で
ある。
(1)本件公告の不適法及び不適切性について
原判決は、建築基準法四六条三項の公告の方法について法律に何らの定めがないこと、従
つて、
横浜市長が横浜市公告式条例に基づいて制定された横浜市報発行規則一条により、本件指
定を昭和五三年六月五日付の横浜市報に登載することによつて公告したことなどから、同
項所定の公告の方式に欠けるところがないと判示しているけれども、失当である。
本来、行政行為に関する公告は、その対象となる利害関係人が広範囲又は不特定多数にわ
たるとき、これらの者に対して権利行使又は異議の申出の機会を与えるため一定の事項を
広く一般に知らせる通知行為の一形式であり、その目的はあくまで一定の事項を利害関係
人にあまねく知らせることにあるから、その目的を達することができないような周知能力
の低度な公告の方式は、たとえその形式が備わつていたとしても、実質的な意味における
公告には該当しないものというべきである。
横浜市長が本件指定の公告の方式として採用した横浜市報は、発行部数が一五五〇部で、
横浜市の人口、世帯数に比較して僅少であること、しかも、有料購読制であり、市民全体
にあまねく配布されるものではなく、ごく少数の特定人の目にしか触れない公告媒体であ
ることを考えるとその周知性は極めて低く、公告本来の目的を達する方式としては不適格
なものというべきである。
本件壁面線の指定は、対象区域内の土地、建物の利用権利者等利害関係人の権利を将来に
おいて具体的現実的に制約するもので、その法的性質は行政処分に相当するものである。
このように、利害関係人に重大な影響を及ぼす処分を公告する場合には、その事柄の性質
上利害関係人に対し周知可能な公告の方式ないし周知性の高い媒体を利用することが当然
要請されるところである。しかるに、横浜市長において横浜市報が極めて周知性の低いも
、、、のであることを知悉しながらこれをして本件指定の公告をしたことは公告制度の趣旨
目的に違背する不適切な措置であると同時に、右処分に対する利害関係人の権利救済の途
をとざすものであつて、不適法といわざるをえない。
従つて、本件の場合、横浜市報によつて公告された本件指定は、その公告によつて効力が
生じたものと解することができないから、公告がなされた昭和五三年六月五日をもつて不
服審査請求期間の起算日の基準とすることは不当である。
(2)利害関係人に対する本件指定の個別的通知の必要性と義務
仮りに公告の方式に欠けるところがなかつたとしても、
その方法としての媒体が極めて周知性が低く公告の目的を果すことが期待しえない状況に
あり、しかも公告の内容たる事項が利害関係人にとつて重大な利害関係を有するものであ
ること、さらに加えて利害関係人の大部分を個別的に確知しうる状態にある場合には、公
告のほかに利害関係人に対して個別的に通知をする必要があり、またそうすべき義務があ
ると解すべきである。けだし、不十分な公告の効力を補完するためには利害関係人に個別
的な通知をすることは法律上何ら妨げのないところであるし、またそうすることが公告制
度の趣旨、目的に合致するだけでなく、公告の内容たる行政処分について利害関係人に対
し権利救済の途を担保することになるからである。
ところで、本件の場合横浜市長が壁面線指定処分の公告の方式として利用した横浜市報は
周知性の著しく低いものであり、それにひきかえ公告の内容たる指定処分は控訴人らを含
む利害関係人にとつて権利の制限をもたらす重要な事項であり、さらにまた、その対象と
される土地は長さ約三二〇メートル、幅員丸ないし一〇メートルの南門通り道路の両側二
メートルの範囲内のものであり、横浜市独自又は脇議会を通じての調査等により利害関係
人が九一名(そのうち土地所有権者が五〇名、建物所有者が二一名、借家人が二〇名)で
あり、かつ、その住所、氏名も確認していたのであるから、本件公告と同時にそれらの利
害関係人に対して個別的に通知をすることは客観的に可能であり、壁面線指定の内容と利
害関係人に与える影響の重大性からすれば、むしろ個別的通知をなすべき義務があるとみ
るべきである。しかしながら、横浜市長は指定処分の重大性を認識せず、安易かつ簡便な
公告方式をとつただけで、利害関係人に対する個別的通知をなすことを怠つたのである。
(3)公告のほかに通知をした場合の効果について
一つの行政処分について公告と通知の方法が併用された場合に、処分の効力の発生時期
と右処分に対する不服申立方法である審査請求期間の起算日との関係が問題とされよう。
まず、本件指定処分の効力については、その性質上その指定処分にかかる公告がなされた
ときからその効力が発生するものと解さざるをえない。
しかしながら、不服申立の方法たる審査請求の期間の起算日を右公告の翌日とし利害関係
、、人全員につき画一的にその期間を進行させなければならない実質的な理由はなくむしろ
利害関係人の権利救済の途を確保する意味から、その処分に対する審査請求の期間の起算
日は、公告があつた日の翌日ではなく、通知のあつた口の翌日であると解するのが相当で
ある。この場合客観的に通知不能な者に対しでは公告の日の翌日をもつてその起算日とせ
ざるをえないであろう。
本件の場合、指定処分の効力はその公告がなされた昭和五三年六月五日に発生したものと
しても、利害関係人に対する個別的通知が未だなされていないのであるから、利害関係人
らの審査請求については、その期間の起算日の基準となる通知到達日は存在しないことに
なり、従つて、控訴人らのした本件指定処分に対する不服申立ないし審査請求は、法定の
期間内になされた適法かつ有効なものというべきである。
(三)原判決の認定事実の当否について
(1)壁面線後退による商店街づくりへの協力の有無
原判決は南門通り商店街の関係者が横浜市長の指導する商店街づくりに共鳴し、地元組織
としての協議会を設立し、約七七名の関係権利者の入会を得てその実現に協力することに
した旨認定しているが、右認定は不当である。
原判決のいう商店街の関係者というのは抽象的で具体的に誰を指しているのか明確でな
い。
右街づくり案に賛同していたのは、地元住民のうち協議会の役員を中心とする半数に充た
ない一部のものに過ぎない。約七七名程の関係権利者が協議会に入会していたとしても、
それは本件壁面線指定方式による街づくりを理解していたからではなく、入会の勧誘を受
けた際、近隣のよしみと、道路の舗装化を促進するための団体であると認識したことによ
り、加入申込みをしたものである。同意書名下の入会申込書(乙第一一号証の三ないし六
一)も右のような認識のもとに作成されたものであるから、これをもつて本件指定による
街づくりに賛成をしていたと認定するのは無理である。
(2)同意書提出の意味について
原判決は、地元関係者のうち五七名が協議会に同意書を提出したこと、そのうちに原審で
の原告ら一一名が含まれていることを認定し、この事実を重視しているのであるが、しか
し右書面は前述のとおり右関係者らが本件プロムナード事業とは関係なく、かねてから希
望していた南門通り道路の舗装化を含む道路整備を促進するための協議会への入会申述書
と認識、理解して提出したもので、
自らの権利を制約するような壁面線後退による道路整備にまで賛同するために提出したも
のではない。
(3)壁面線後退による街づくりの決定の時期
原判決は、横浜市が南門通りについて本件指定の方式による歩道拡幅等の街づくりを決定
したのは昭和五二年九月頃と認定しているが、失当である。
前記(一)において主張したとおり、モデル商店街の指定が昭和五二年九月頃なされたと
しても、横浜市において本件指定案を内部的に決定したのはそれより先の昭和五二年二月
頃であり、しかもその頃から既に右壁面線後退による街づくりを前提とする舗装工事が開
始されていることが明白である。また、モヂル商店街の指定は、前述のとおり、壁面線指
定を実現するための方便であつて、当初から総合的に策定されてきたものではない。
してみると、原判決はモデル商店街の指定と壁面後退による道路舗装工事による街並の整
、、。備とを一体化して認定する余り両者の決定の日時を混同したものであつて誤つている
(4)南門通りにつき壁面線指定による街づくりをすることの適性について
原判決は、南門通りの沿道には相当の空地があるから、壁面線の後退による街づくりを進
める上でも好都合であつたと認定しているが、これは樹をみて森をみない不当な判断であ
る。
たしかに、南門通りは、すでに壁面線後退の手法を取り入れた元町の場合に比較すれば相
当数の空地があるかも知れないが、その反面利害関係人のうち約四割のものが堅固な建物
を所有している状況にあり、それらの者が任意にその建物を改築したりあるいは撤去した
りして壁面を後退させ南門通りの街並全体を整えるには少くとも二、三十年かかることは
横浜市においても認識しているところであり、南門通りが壁面後退による街づくりを進め
る上で好都合な場所であるとは到底考えられない。
原判決は、右のような事情を全く考慮せず、単に空地の存在のみに目を奪われて全体的な
考察を怠つたもので、不当である。
(5)地元関係者が壁面線の後退の趣旨等について理解、賛同していたか否か
原判決は、横浜市が壁面線の後退の趣旨更にはその具体的内容及びプロムナード事業の内
容等について諸種の会合を通じて説明、指導したことにより、地元関係者の大部分はそれ
、。を良く理解してこれに賛同するに至つたものであると認定しているがこれも失当である
横浜市が各種会合を通じて前記の事項について説明、指導をしたとしても、それらの会合
に出席参加した地元の関係者は一回の会合につき二十数名を超えることのない人数であ
り、
その参加者の顔ぶれは毎回異なつており、控訴人らを含む地元関係者全員がそれらの会合
に出席して説明を受けたという証拠はない。
しかも、横浜市としては壁面線指定の方式による道路整備を既定の方針とし、その実現の
ために強い姿勢で対処していたことから、壁面線後退及びその指定の方式等についての説
明、指導に際しては専らその利点のみを強調し、その方式の欠点ないし不利益になる面に
ついては積極的に説明せず、もう一つの手法として存在する建築協定の方式との関係にお
いて両者を対比させ、その利害得失を明らかにし、地元関係者にそのいずれが望ましいか
選択させるような説明もしていないことが窺われる。公聴会開催の直前に設けられた地元
との説明会兼懇談会(昭和五三年二月二四日開催)においてさえ、その参加者の中から、
「壁
面線指定と新、改、増築との関係が十分のみこめないので、簡単なパンフレツト等で説明
して欲しい」などという発言がされていることは、このことを裏付けるものである。。
しかるに、その後横浜市が更に地元との説明会、懇談会を開催するなどの対応をした形跡
はなく、前記説明会の一か月後の同月二八日に協議会の理事長名義で横浜市長職務代理者
宛の壁面線指定同意書(乙第一二号証の一)が提出され、その直後に右書面の提出を待つ
ていたようなタイミングで公聴会の開催が決定されているのである。
以上の経過をみると、横浜市は、地元関係者の中に本件指定による街づくり案に賛成しな
いものが多く存在するにも拘らず、これを無視して壁面線指定手続を見切り発車した疑い
が濃厚であり、控訴人らは勿論のこと、地元関係者の大部分が壁面線後退による街づくり
事業に賛同していたとは到底認め難く、原判決はこの点についても事実を誤認している。
(6)本件指定前における一部地元関係者の壁面後退について
原判決は本件指定前に控訴人Iを含む三名が横浜市の行政指導により壁面を後退させた建
物を新築した事実を認定し、それを地元関係者の同意の徴表であるとみているが、しかし
右三名はそれぞれ個別的な事情から建築の必要に迫られ、やむなくその行政指導に応じて
壁面を後退させたもので、
行政指導に納得して壁面を後退させたものではない。本件指定が法的効力を生ずる以前、
しかも公聴会での聴聞手続が行われる以前に行政指導の名の下に壁面線の指定を強要する
こと自体違法の疑いがあり、問題である。従つて、右一部地元関係者の壁面後退をもつて
同意の事実を推認することは不当である。
(7)公聴会における発言について
原判決は、公聴会において、本件壁面線指定の趣旨が関係権利者に周知されていることな
どから建築基準法所定の手続を経る必要はない旨の意見が出た事実を特に挙示している。
右意見を述べたのは協議会の副理事長兼経営建設委員長のCであるが、同人は協議会の発
起人であつて当初から横浜市の事業計画に賛意を表している立場にあることを考慮する
と、
原判決が右のような発言を捉え地元関係者の同意あるいは本件指定の周知を認定する資料
としたのは、証拠の評価を誤つたものといわざるをえない。
(8)本件指定を公告した横浜市報の配布の事実について
原判決は、横浜市が昭和五三年六月五日頃本件指定を公告した横浜市報五〇部ほどを協議
、、会の理事長に手交し同理事長がそのころこれを関係権利者に配布した旨認定しているが
右認定は事実に反する。仮りに横浜市が横浜市報五〇部を同理事長に手交したとしても、
同理事長が関係権利者にこれを配布したことを証明するに足りる証拠はない。
(9)本件指定に関する報告の事実の有無について
原判決は、昭和五三年六月一五日の協議会の総会で本件指定がなされた旨の報告がなされ
た旨認定しているが、これも失当である。
(四)行審決一四条一項ただし書の「やむをえない理由」の解釈等について
(1)原判決は、行審法一四条一項ただし書の「やむをえない理由」について、審査請
求人が同項所定の期間内に審査請求ができなかつたことにつき審査請求人の責に帰せられ
ない客観的理由をいうと解し、原審が認定した事実経過に照らして控訴人らについてその
理由を認めることができない旨判示しているが、これも失当である。
原判決がいうところの客観的理由の存否は、事案の個別的具体的な状況に即して判断すべ
きであり、また、行政庁と審査請求人との実質的な公平を図る見地からも検討しなければ
ならない。処分庁側に不手際があつたために審査請求人側においで法定の期間内に審査請
求ができなかつた場合に、
それでも「やむをえない理由」に当らないと解することは、審査請求人測に一方的に不利
益を押しつけることとなり、公平を失するだけでなく、行政庁の不手際のために処分対象
者が不服申立の途を閉ざされることになるのは極めて不合理でもある(大阪地方裁判所昭
和四九年七月三〇判決・行裁集二五巻七号一〇二三頁一。
(2)本件の場合、控訴人らを含む審査請求人の本件審査請求が仮りに所定の審査請求
、。、期間を徒過したものとしてもその原因は専ら処分庁である横浜市長にあつたすなわち
横浜市においてプロムナード事業を企画、立案してから本件指定処分をなすに至るまでの
間、本件壁面線の指定処分に関する地域住民に対する説明、指導は常に消極的であつただ
けでなく、公聴会の開催及び本件指定処分の公告についても不適法かつ不適切な方法をと
つており、更に、本件指定処分の公告に際しても、右指定が行政処分に該当し教示を必要
とするものであるにも拘らず、その処分に対する不服申立方法について教示しなかつたた
めに、控訴人らの審査請求人は指定処分のあつたことも、また、それに対して何日までに
不服申立をすればよいのかも全く知ることができなかつた。従つて、控訴人らが本件指定
処分に対して所定期間内に不服申立ができなかつたのは、専ら処分庁側の利害関係人に対
する対応策の杜撰さ、不手際によるものであるから、これを審査請求人らの責に帰するこ
とは著しく公平を欠くものである。むしろ、かかる状況下においては、控訴人ら審査請求
人側に不服申立期間の徒過について「やむをえない理由」ないし「これに準ずる理由」が
あつたものと判断するのが正当である。
しかるに、原判決は、審査請求人側に期間徒過の帰責事由を求めるに急な余り、処分庁た
る横浜市長側の姿勢、態度及び対策などの事情を無視して事実を誤認し、もつて「やむを
えない理由」の存在についての判断を誤つたもので、不当である。
(五)本件審査請求と行審法五八条一項の不服申立
(1)原判決は、本件指定が行審法五七条一項の「処分を書面でする場合」に当らない
から横浜市長に教示義務の懈怠はなく、従つて、本件審査請求は同法一七条一項によつて
なされたもので、同法五八条による不服申立には当らない旨判示しているが、これも失当
である。
本件指定が行政処分として成立し、その効力が発生するのは、
外部的意思表示としての公告がなされたときと解すべきであり、しかも、その公告は官報
又は準官報的な公共団体発行の広報紙あるいは新聞紙等への掲載といつた方式によつてな
されるのを通例としていること、また、本件指定は利害関係人の財産権に対して重大な制
約を課する行為であり、それ故に公聴会の開催が義務づけられている重要な処分であるこ
と、そして、重要な行政処分について口頭の方式でなされる例が殆どないこと、更に、行
審法五七条第一項は広く行政処分について当該行政庁に教示の義務を課したものと解され
ていることなどを総合して考えると、本件指定は処分を書面でする場合に該当すると解す
るのが正当である。
(2)してみると、本件指定の公告に際し、横浜市長はその内容の告示と併せて行審法
五七条一項所定の事項につき教示をすべき義務を負担していたところ、これを怠つたので
あるから、控訴人らの本件審査請求は同法五八条一項の不服申立に該当するものと解する
のが正当である。よつて、原判決はこの点について法令の解釈を誤つている。
(六)行審法五八条一項所定の不服申立の審査請求期間について
(1)原判決は、行審法五八条一項所定の不服申立の審査請求期間については別段の定
、。めがないから同法一四条の審査請求期間が適用されると解しているがこれも失当である
(2)仮りに原判決の解釈のとおり行審法五八条一項所定の不服申立についても同法一
四条所定の審査請求期間が適用されるとしても、その期間の起算日は、処分のあつたこと
を知つた日の翌日ではなく、現実に不服申立の方法を知つた日の翌日であると解すべきで
ある。
(七)原判決は、本件審査請求が行審法一七条第一項所走の審査請求に該当することを
前提として、控訴人らは本件公告がなされた昭和五三年六月五日に本件指定があつたこと
を知つたものとみなされるから同法一四条一項が適用され同条三項に該当しない旨判示し
ているが、しかし、本件指定の公告の方式は不適法であるから、控訴人らが右日時に本件
指定のあつたことを知つたとみなすことはできない。
()、、八原判決は審査会が本件審査請求を不適法として却下した裁決を正当であるとし
横浜市長に対する本件抗告訴訟は審査会の実質審査を経由してないから不適法である旨判
示しているが、しかし、審査会の本件裁決は前記理由により正当なものと解することがで
きないから、
それが正当であることを前提とする右判示は誤つている。
3被控訴人横浜市長の主張
控訴人らは、本件壁面線の指定について公告のほかに利害関係人への個別の通知を要し、
右指定に対する利害関係人の審査請求の期間の起算日は利害関係人各自につきそれぞれ通
知のあつた日の翌日である旨主張するが、右主張は否認する。
壁面線の指定について、建築基準法には、土地区画整理法による換地処分の如く、公告の
ほかに利害関係人への個別の通知を要する旨の明文の規定が存しない。
壁面綿の指定は、街区における建築物の位置を整えその環境の向上を図ることを目的とし
てなされるある一定地域における建築物の位置に関する一般的基準の定立であつて、右指
定当時の具体的な特定の個人に向けられれた処分ではないから、建築基準法は右指定を公
告によつてなすこととし、利害関係人が右指定のあつたことを個別具体的に知つたか否か
にかかわりなく、公告が適法になされたときは右指定を知つたものとして一律に効力を生
ずるものとしたと解すべきである。
従つて、本件壁面線の指走については、公告のほかに利害関係人への個別の通知を要しな
いから、右指定に対する審査請求の期間の起算日を利害関係人への通知のあつた日の翌日
とする控訴人らの主張は、前提を欠き失当である。
4被控訴人横浜市建築審査会の主張
(一)(1)控訴人の主張(一)の(1)についで
控訴人ら住民が被控訴人横浜市長の交渉相手の地元関係者から除かれていたとの主張及び
建築協定について説明しなかつたとの主張は否認する。横浜市がプロムナード事業計画の
実現に向い努力する姿勢であつたことは認め、控訴人らの推測にわたる主張は争う。
(2)同(一)の(2)について
中華街プロムナード促進協議会の設立経過のうち、B、C、D、E、F、Gらが区長の意
を体して行動したとの主張及び右協議会が会員に対する通知の徹底化を怠り一部会員の参
加だけで会の意思を決定したことは争う。その他協議会の実態に関する主張は全て争う。
(3)同(一)の(3)について
南門通りに関係する自治会等が南門通りの道路舗装と歩車道整備の陳情をしていたこと、
横浜市にプロムナード事業計画があつたことは認める。本件は、これが合体して実行され
たものである。
(4)同(一)の(4)について
横浜市が本件プロムナード計画の実現及び整備にあたりモデル商店街制度を活用しようと
したことは認める。控訴人らを指導、説明の対象から除いたとの主張は否認する。
(5)同(一)の(5)について
横浜市が壁面線指定についての情報提供にあたつてその役割の多くを協議会に委ねたとの
主張は否認する。多数回の説明会において横浜市は直接これを説明している。
公聴会の開催及び指定処分の伝達についての公示方法が適切でないとの主張は争う。
説明、指導が一部のものを対象としていたとの主張は否認する。
(二)(1)同(二)の(1)は争う。
(2)同(二)の(2)は争う。
本件指定は利害関係人に個別的に通知することを要するものではない。
(3)同(二)の(3)は争う。
(三)同(三)ないし(七)は争う。
判例は、処分庁が教示をしなかつたため審査請求期間を徒過したとしても、行審法一四条
一項にいう「やむをえない理由があるとき」にあたるとはいえないとしている(東京地裁
昭和四五年五月二七日判決・行裁集二一巻五号八三六頁。)
○理由
一原判決事実摘示被控訴人市長及び同審査会に対する控訴人らの各請求原因1、2項の
事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二建築基準法四六条一項は「特定行政庁は、街区内における建築物の位置を整えその、

境の向上を図るために必要があると認める場合においては、建築審査会の同意を得て、壁
面線を指定することができる」旨規定しており、右規定からすれば、特定行政庁は、特。

の街区を単位とし、その個別的、具体的な建築物の状況を考慮してこれを整えその環境の
向上を図るために壁面線の指定をするのであり、右指定があつた場合には、同法四七条に
より、線内に存する土地の所有者、その利用権者、建物の所有者、その賃借人等の利害関
係人は、将来建築物を新築あるいは増改築するに際し、壁面線を越えて建築物の壁若しく
はこれに代わる柱又は高さ二メートルをこえる門若しくはへいを建築することが許されな
いことになるのであるから、右指定は、利害関係人の法的地位に直接具体的な変動を及ぼ
す個別的な処分の性質を有するものといわざるをえず、抗告訴訟の対象となる行政処分に
あたるものと解するのが相当である。
よつて、本件指定は、抗告訴訟の対象となる行政処分に該当するものというべきである。
三被控訴人市長が本件指定をした旨を昭和五三年六月五日発行の横浜市報に登載して公
告したことは当事者間に争いがない。
そして、成立に争いのない乙第二、三号証によれば、横浜市公告式条例(昭和二五年八月
三〇日条例第三五号)一条は「地方自治法第一六条の規定に基く公告式は、この条例の定
めるところによる」旨、同二条二項は「条例の公布は、横浜市報に登載してこれを行う」
旨、同四条は「前二条の規定は、規則にこれを準用する」旨、同六条は「第二条及び第三
条の規定は、市会の会議規則、傍聴人取締規則その他市の機関の定める規間で公表を要す
るものにこれを準用する」旨規定しており、横浜市報発行規則(昭和二五年二月一五日規
則第二号)一条は「横浜市報(以下市報という)は、本市行政に関する諸般のことを。

、、。()()()らせるためこれを発行し次に掲げる事項を登載する1条例2規則3
()()()()」、「、告示4公告5達6通達7その他の事項旨同二条は市報は
毎月五日、一五日及び二五日に発行する。ただし、時宜により休刊することがある」旨、
同六条一項は「市報は、市長が必要と認める者に配布するほか、希望者に購読料を徴して
これを配付することができる」旨、同九条は「市報は、市役所及び市所属の公署において
適当な場所に備えつけて市民の閲覧に供する」旨規定していることが認められ、右事実に
よれば、横浜市報に登載することが公告の方法として周知性に乏しく不適当であるとはい
えず、被控訴人市長が本件指定をした旨を昭和五三年六月五日発行の横浜市報に登載して
公告したのは、建築基準法四六条三項所定の公告として適法であるというべきである。横
浜市報に登載して本件指定の公告をしたのは周知性に乏しく違法である旨の控訴人らの主
張は、採用することができない。
ところで、同法四六条、四七条によれば、特定行政庁のする壁面線の指定は、その性質上
利害関係人全員につき画一的に効力を生じさせることが不可欠であるが、通常広範囲の土
地をその対象とするため、利害関係人は多数にのぼり、その利害の態様もさまざまである
上、権利の移動が頻繁に行われることが予想され、特定行政庁においてある時点における
利害関係人全員の住所、氏名を網羅的に確知することは到底不可能であることから、公告
によつてその効力を生ずることとしたものと解される。そして、
行審決一四条一項本文は「審査請求は、処分があつたことを知つた日の翌日から起算して
、。」、、六〇日以内にしなければならないと規定にているが公告が適法になされた場合は
公告という制度の性質上、利害関係人が現実に右公告を知つたかどうかにかかわりなく、
右公告の日
の翌日を起算日として不服申立期間が進行するものと解するのが相当である。
控訴人らは、確知された利害関係人には公告のほか個別の通知を必要とし、右通知の翌日
から不服申立期間が進行するものと解すべきである旨主張するが、建築基準法には公告の
ほか知れたる利害関係人に個別に通知すべき旨の規定はなく、右主張は採用することがで
きない。
よつて、本件指定に対する行政不服審査請求期間は、行審法一四条一項本文により、本件
指定の公告を登載した横浜市報が発行された日であることについて当事者間に争いのない
昭和五三年六月五日の翌日から起算して六〇日以内であるところ、控訴人らの本件審査請
求は、右期間を経過した後である同年一二月二三日に申立てられたことは当事者間に争い
がないから、不適法であるというべきである。
成立に争いのない乙第四、五号証、第七号証、原審証人A、同J、同Kの各証言を総合す
れば、本件指定についての公聴会は、昭和五三年四月二四日午後二時より横浜市<地名略
>、山下町自治会館二階において地元出席者二二名が参加して開催されたこと、右公聴会
の指定の計画、日時、場所は、昭和五三年四月一五日発行の横浜市報に登載して公告され
たこと、右公聴会において横浜市建築局指導部長Lが議長となり、同局建築指導課企画係
長Jが本件壁面線指定について説明し、次いで、質疑応答があり、参考口述人三名(M元
町SS会理事長、N石川町一丁目商店街理事、O山下町自治会副会長)の口述、利害関係
人たる指名口述人五名(P、B、E、C、Q)の口述の順序で進行し、最後に議長から出
席利害関係人に発言を求めたが、発言はなく、議長の挨拶で会が終了したこと、Qは木造
建物の所有者であつたことが認められ、右会聴会の手続が違法であつたことを認めるに足
りる証拠はない。右公聴会の手続が違法であつた旨の控訴人らの主張は、採用することが
できない。
なお、当裁判所は、
控訴人らは遅くとも昭和五三年六月一五日頃までには本件指定があつたことを現実に知つ
たものと推認する。その理由は、右の点に関する原判決の理由(原判決二六枚目表九行目
から同三一枚目裏八行目までただし同三〇枚目裏八行目本件指定を決定したを本。、「」「
件壁面線指定案が審議され原案どおり指定された」と改め、同三一枚目表一行目「総会」
を「促進協議会の総会」と改める)と同一であるから、その記載を引用する。。
四本件指定は、行審法五七条一項にいう不服申立をすることができる処分を書面でする
場合に該当するものと解すべきであるから、被控訴人市長は、本件指定をしこれを公告す
る際、本件指定につき不服申立をすることができる旨並びに不服申立をすべき行政庁及び
不服申立をすることができる期間を教示しこれを公告すべきであつたところ、被控訴人市
長が右教示をし公告したことは、これを認めるに足りる証拠がない。
しかしながら、行政庁が不服申立をすることができる処分を書面でする場合に行審法五七
条一項の教示を怠つたとしても、当該処分が無効になるとは到底解されず、また、右教示
を怠つた場合に審査請求期間の進行が妨げられるものと解すべき根拠はなく、右のような
場合の期間の徒過は専ら不服申立人の法の不知に起因するものというほかはない。
そして、行審法一四条一項ただし書にいう「やむをえない理由」とは、本人又はその代理
人において通常用いることが期待される注意をつくしてもなお避けることのできない事由
をいうものと解すべきところ、教示の懈怠は右事由に当らず、そのほか、控訴人らに右事
由があつた事実は、これを認めるに足りる証拠がない。
五行審法五八条一項は、処分庁が同法五七条の規定による教示をしなかつたときに当該
処分について不服がある者に対して当該処分庁に不服申立書を提出することを認めた救済
規定であるが、この場合の不服申立期間については別段の規定がないから、原則どおり同
法一四条の適用があるものと解すべきである。行審法五八条一項による不服申立について
は現実に不服申立の方法を知つた日の翌日をもつて不服申立期間の起算日とすべき旨の控
訴人らの主張は、採用することができない。
六控訴人らは、本件審査請求は行審法一四条三項所定の審査請求期間内に提起されてい
るから適法である旨主張するが、前記のとおり、
本件指定に対する審査請求は同条一項により本件指定があつた旨の公告が登載された横浜
市報の発行日の翌日から起算して六〇日以内にしなければならないものと解すべきである
から、右控訴人らの主張は採用することができない。
七建築基準法の規定による特定行政庁の処分に対する抗告訴訟は、当該処分についての
審査請求に対する建築審杏会の裁決を経た後でなければ、提起することができないところ
(同法九六条、当該処分に対する審査請求が不適法として却下され、その却下裁決が正)

である場合には、当該処分に対する抗告訴訟は建築審査会による実質的塞査を経ていない
から、不適法であると解すべきである(最高裁判所昭和三〇年一月二八日第二小法廷判決

民集九巻一号六〇頁参照。)
そして、前述したところによれば、被控訴人審査会が控訴人らの本件審査請求を不適法と
して却下したのは正当であるから、本件指定の取消しを求める控訴人らの被控訴人市長に
対する訴えは不適法であるというべく、その余の点について判断するまでもなく、却下を
免れない。
八以上の次第で、控訴人らの被控訴人市長に対する訴えを却下し、控訴人らの被控訴人
審査会に対する請求を棄却した原判決は結局相当であり、控訴人らの本件各控訴は理由が
ないからいずれもこれを棄却し、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法
九五条、八九条、九三条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官川添萬夫新海順次佐藤榮一)
原審判決の主文、事実及び理由
一原告らの被告横浜市長に対する訴えをいずれも却下する。
二原告らの被告横浜市建築審査会に対する請求をいずれも棄却する。
三訴訟費用は、原告らの負担とする。
○事実
第一当事者の求めた裁判
一請求の趣旨
1被告横浜市長が昭和五三年六月五日付けでした原告らに対する左記の壁面線指定処分
を取り消す。

横浜市中区<地名略>地内の前田橋より南門通りを経て中華街東門に至る道路の境界線か
ら水平距離で二・〇メートル後退した位置において地盤面から三・〇メートルまでの部分
に壁面線を指定する。
2被告横浜市建築審査会が昭和五四年五月一五日付けでした原告らの昭和五三年一二月
二三日付審査請求に対する裁決を取り消す。
3訴訟費用は、被告らの負担とする。
二請求の趣旨に対する答弁
(被告横浜市長の本案前の答弁)
1主文一項と同旨
2訴訟費用は、
原告らと被告横浜市長との間においては、全部原告らの負担とする。
(被告らの本案の答弁)
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2主文三項と同旨
第二当事者の主張
一請求の原因
(被告横浜市長(以下「被告市長」という)関係)。
、、(「」1被告市長は昭和五三年六月五日請求の趣旨1項記載の壁面線以下本件壁面線
という)の指定(以下「本件指定」という)をした。。。
2原告らは、本件指定の対象である道路に接する土地の所有権者、借地権者等の土地利
用権者である。
3しかるに本件指定は、建築基準法四六条一項、憲法一四条、二九条一項及び三項に反
した違法なものである(被告横浜市建築審査会(以下「被告審査会」という)関係)。。
1原告らは、昭和五三年一二月二三日、被告市長に対し、本件指定の取消しを求める審
査請求(以下「本件審査請求という)を申し立てた。。
、、、2本件審査請求はその後被告市長から被告審査会に送付されたとこら被告審査会は
昭和五四年五月一五日、本件審査請求を却下する旨の裁決(以下「本件裁決」という)。

した。
3しかるに本件裁決には、行政不服審査法(以下「行審法」という)二条一項所定の。
「処
分」及び同法一四条所定の審査請求期間の解釈並びに事実認定を誤つた違法がある。
よつて、原告らは、本件指定及び本件裁決の取消しを求める。
二被告市長の本案前の主張
1行訴法三条二項所定の「処分」は、これにより直ちに私人に対して特定かつ具体的な
権利の侵害ないし制約を生ぜしめるものでなければならないが、本件指定は、特定の個人
に対してなされる具体的な処分ではなく、本件指定によつてその指定区域内の者に対し直
ちに具体的な法的地位の変動を及ぼすものではない。
すなわち、建築基準法四六条一項所定の壁面線が指定されると、指定区域内(指定された
線内)に存する土地、建物の所有者等の権利者は、建築物の壁若しくはこれに代わる柱又
は高さ二メートルをこえる門若しくはへいを壁面線を越えて建築してはならなくなる(同
法四七条)が、右指定があつたからといつて、直ちに既存建築物を取り壊す必要はなく、
将来新築、増改築等をする段階において右制限を受けるにすぎない。したがつて、本件指
定は、指定区域内の土地建物の所有者等の法的地位に直ちに具体的な変動を及ぼすもので
はないから、抗告訴訟の対象となる処分に当たらない。
よつて、被告市長に対する本件訴えは、不適法である。
2本件指定に対する抗告訴訟についでは、建築基準法九六条に基づき、いわゆる審査請
求前置主義が採られている。したがつて、本件指定に対する抗告訴訟は、同指定について
の審査請求に対する被告審査会の裁決を経た後でなければ提起できないところ、本件審査
請求は不適法として却下されているから、被告市長に対する本件訴えは、審査請求前置の
要件を充足していないことになり、不適法である。
3本件訴えの出訴期間は、本件審査請求が不適法として却下されたのであるから、本件
指定がされた日から一年以内となる(行訴法一四条三項。)
しかるに、本件訴えは、本件指定がされた日から一年を経過した後である昭和五四年六月
一三日に提起されているから、不適法である。
4(一)原告R、同S、同T、同U、同V及び同Wは、借家人である。借家の増改築等
は、原則として禁止されており、その賃貸人の承諾がなければできない状態にあるから、
右原告らは、本件指定により直接何らの影響を受けないことになるので、本件訴えの利益
を有しない。
(二)原告X及び同Yは、土地賃貸人である。土地賃貸人は、将来土地賃貸借契約か消
滅しない限り、その土地は借地人の独占的利用下にあり、その土地上に建物等を建築する
ことはできないのであるから、右原告らは、本件指定により直接何らの影響を受けないこ
とになるので、本件訴えの利益を有しない。
三請求の原因に対する認否
(被告市長)
請求の原因1、2項の各事実は認め、同3項は争う。
(被告審査会)
請求の原因1、2項の各事実は認め、同3項は争う。
四被告市長の主張
1本件指定の経緯
(一)本件指定のなされた南門通りは、いわゆる中華街において、東西南北の門に囲ま
れた一角の東門(山下公園側)と南門(元町側)との間にある延長約三二〇メートル、副
員九ないし一〇メートルの道路である。本件指定前の南門通りは、ガードレールにより歩
車道が区分され、歩道部分に電柱、自動販売機が立ち並び、文字通り裏通りと呼ぶにふさ
わしいところであつた。そのため中華街発展会、山下町自治会、元町小学校長等の地元の
各関係団体の代表は、昭和五〇年一二月四日、被告市長あてに南門通りの歩行者の安全確
保対策を求める旨の陳情書を提出した。
(二)他方横浜市では、
都心プロムナード事業のうち石川町駅から山下公園に至るルートの設定及びそれに伴う南
門通りの整備の一貫として壁面線の後退を検討していた。そして南門通り関係者は、横浜
市の右意向に応じ、昭和五一年一〇月二六日、右事業を促進する地元組織として中華街プ
ロムナード促進協議会(以下「促進協議会」という)を設立した。なお、右協議会の設。

趣旨に賛成し、壁面線後退に同意して同協議会の会員になつた者は、昭和五二年一一月二
、(、。)日までに南門通りに居住又は営業する者の総数五九名ただし同協議会の調査による
のうち五八名に達した。
、、、こうした地元の要望と組織の盛り上りを背景にして南門通りにおいて歩道の新設整備
街路樹の植裁、歩行者標識、絵タイル及び地図板の設置等のプロムナード事業が実施され
た。
(三)更に横浜市は、昭和五三年二月二四日「山下町南門通りの街づくり」の説明会、

開催し、本件指定の意義及び手続について説明を行つた。他方促進協議会は、本件指定に
ついて関係権利者の同意を集めていたが、同意者は関係権利者九一名中七七名に達し、同
年三月二八日、同意者の代表として同協議会理事長名で、本件指定の同意書が横浜市に提
出された。
(四)そして被告市長は、昭和五三年四月一五日付横浜市報によつて本件指定のための
公開聴聞会(以下「本件公聴会」という)を昭和五三年四月二四日に開催することを公。

し、次いで同月二四日、本件公聴会が開催され、地元から二二名の出席があつた。
(五)その後昭和五三年五月一五日、被告審査会が本件指定に同意し、被告市長は、同
年六月五日、横浜市公告第一八九号(以下「本件公告」という)をもつて、本件指定を。

告した。
2本件指定の適法性
、、、被告市長は建築基準法四六条一項に基づき本件指定を行いしかも右1項記載のとおり
同条一、二項に基づいた公開聴聞を行い、同条三項に基づいて本件指定を公告したのであ
るから、本件指定は適法である。
五被告審査会の主張
1本件指定の行政処分性について
被告市長の本案前の主張1項と同旨。
2審査請求期間について
(一)行審法一四条一項所定の「処分があつたことを知つた日」とは、処分が社会通念
上関係者の知り得べき状態に置かれた日を意味し、処分が法令に基づいて告示等の方法で
公示されたときは、公示の日に知つたものと解されるべきである。
(二)そして横浜市においては、横浜市報発行規則に基づき、横浜市報に条例、規則、
告示、公告等が登載される(同規則一条)ところ、本件指定は昭和五三年六月五日付け横
浜市報に掲載されて公告されたのであるから、本件公告は適法である。
(三)よつて、本件指定の審査請求期間は、本件公告の日である昭和五三年六月五Bの
翌日から起算して行審決一四条一項所定の六〇日以内であるところ、本件審査請求は本件
公告から六〇日を経過した後である昭和五三年一二月二三日に申に立てられたのであるか
ら、不適法である。
六被告市長の本案前の主張に対する原告らの認否及び反論
1認否
被告市長の本案前の主張1項は争う。同2、3項のうち、本件審査請求が不適法として却
下されたことは認ゐ、その余は争う。同4(一(二)項のうち、原告R、同S、同T、)、
同U、同V及び同Wが借家人であること並びに原告X及び間Yが土地賃貸人であることは
認め、その余は争う。
2被告市長の本案前の主張1項に対する反論
本件指定は、特定行政庁たる被告市長が、その優越的立場において建築基準法に基づく法
の執行を目的とした公権力の行使として行つたものであり、その性質、効果に照らして、
行審決二条一項、行訴法三条二項所定の「処分」に該当する。その理由は、次のとおりで
ある。
(一)本件指定は、原告ら利害関係人の申請に基づくものではなく、特定行政庁の発意
により、その公益的判断に従つて一方的に行われたものである。
(二)本件指定は、その指定区域内の土地利用者(所有権者、借地権者等)及び建物所
有者等特定多数人を対象としている。
(三)本件指定区域内の土地、建物の所有者等は、本件指定に基づき建築基準法四七条
所定の制約を受け、右制約に抵触する建築物の計画は同法六条一項所定の確認を受けるこ
)、)、とができず同法同条四項右確認を受けずに工事を強行した場合にはその関係者らは
一〇万円以下の罰金に処せられる(同法九九条一項五号、二項。)
(四)抗告訴訟ないし行政不服審査手続に基づく権利の救済は、可及的に早い段階でな
されるべきものであるから、本件指定に基づく土地利用権等の制約により、財産権及び生
存権が侵害される危険の蓋然性が高い場合においては、それが現実に具体化する前に、
抗告訴訟ないし行政不服審査手続に基づいて排除又は予防される必要がある。
しかるに、本件指定に基づく土地利用権等の制約は、行政指導に基づき本件指定同様の制
約を原告らが課されることによつて現実化しつつあり、既に本件指定に基づく原告らの財
産権及び生存権が侵害される危険の蓋然性が存する。
(五)なお、土地、建物の利用権者は、建物の新築、増改築に関する建築確認申請が本
件指定違反として拒否された段階においては、建築の必要性に迫られでいるために本件指
定の効力を争うことは事実上困難であることを考えると、本件指走による制限はこの段階
、、で具体的に確定しでしまう危険がありしたがつて本件訴えが不適法として却下されると
本件指定による利益侵害について、その司法的救済の途を閉ざし、原告ら地域住民の「裁
判を受ける権利(憲法三二条)を否定する結果となりかねない。」
3同2項に対する反論
建築基準法九六条所定の裁決は、当該審査請求の認容、棄却裁決のみならず、却下の裁決
も含む概念であり(行審法四〇条参照、また、本件訴えにおいては、本件審査請求が適)

であること、つまり、本件裁決の誤りを理由として、その取消しを求めているのであるか
ら、裁決庁たる被告審査会が本件審査請求を却下する旨裁決したとしても、本件訴えが裁
決を経由しなかつたことにはならない。
更に、不適法を理由とする本件裁決は確定しておらず、しかも、本件裁決の当否が現に争
われているのだから、却下の裁決の適法、有効を前提とする被告の主張は、失当である。
4同3項に対する反論
(一)本件訴えにおいては、本件裁決の当否自体が審理されているのであるから、本件
審査請求が不適法であると断定することはできず、かかる場合は、適法な審査請求があつ
たものとみなして、本件裁決を基準として出訴期間を算定すべきである。
(二)更に、被告市長は本件指定に際し行審決五七条一項所定の教示の義務があるにも
かかわらずこれを怠り、そのために原告らは適法な審査請求期間を徒過してしまつたので
あるから、被告市長が自らの違法を看過して右期間徒過の責を原告らのみに負わせること
は著しく信義則に反する。
よつて、原告らには、行訴法一四条三項所定の正当な理由があり、被告市長に対する本件
訴えは適法である。
5同4(一(二)項に対する反論)、
借家人といえども、
家屋所有者の承諾を得て自己の負担において増改築をする可能性があり、また賃借建物が
改築された際、本件指定の制約に基づき賃借面積が狭少になり、更には使用し得なくなる
可能性がある。一方、土地賃貸人としても、借地期間の満了等によつて借地権が消滅し、
自己所有地を利用できる可能性がある。したがつて、本件指定に基づき被むる不利益は、
借家人、土地賃貸人においても、建物所有者、借地権者等とさしたる差異はない。
七被告市長の主張に対する原告らの認否
1被告市長の主張1項の各事実のうち、本件指定について、原告らを含む地域住民の大
部分が事前に同意していたことは否認する。仮に右事実が存するとしても、それは、本件
指定が、南門通りに舗道を設置してもらうための便法であり、かつ、原告らが、後日地域
住民の総意に基づいて廃止することができる建築協定にすぎないものと誤解したことに基
づくものである。よつて、右同意は、原告らの真意に出たものではないから、錯誤により
無効である。本件公聴会に地元から二二名の出席者があつたこと及び本件公告をもつて本
件指定が公告されたことは認めるが、その余の事実は不知。
2同2項は争う。
八被告審査会の主張に対する原告らの認否
被告審査会の主張1、2項は争う。
九被告市長の主張に対する原告らの反論
1本件公聴会の違法性
(一)被告市長は、本件公聴会の開催につき昭和五三年四月一五日付横浜市報でその開
催を公告したのみで、利害関係人に対して通知をしなかつた。そのため原告らを含む利害
関係人約七〇名の大部分は、本件公聴会の開催日時、場所等について確知しえなかつた。
そこで、本件公聴会に出席したのは、横浜市の担当職員が一二名、利害関係人が二二名に
すぎなかつたのであり、しかも右の利害関係人のうち一七名は、被告市長との密接な交渉
の下に本件指定を推進するために結成された促進協議会の役員達であつた。
(二)ところで、当時利害関係人のうち、本件指定に賛成したものは全体の約四割で、
主に本件指定の実質的制約を受けにくいマンシヨン等堅固建物の保有者であり、その余の
六割は、近い将来に改築等を必要とするため本件指定の制約を受けやすい木造建物等非堅
固建物の所有者、利用者等であつた。
(三)しかるに被告市長は、利害関係人が本件指定につき十分な理解をしていない状態
であるにもかかわらず、
本件公聴会を一方的に強行し、しかも当日発言した三名の参考口述人及び五名の指定口述
、。人を横浜市建築局の意向で個別的に選択して依頼し利害関係人から広く募集しなかつた
そして、指定口述人として賛成意見を開陳した四人のうち、B、E、Cの三名は本件指定
により当面何ら不利益を被むらない堅固な建物の保有者であり、Pは全く利害関係のない
中華料理店陽華楼の従業員で促進協議会の事務局長であつた。更にもう一名の指定口述人
たるQは、当初から反対意見を有していたのであるが、被告市長側から事前に強硬意見を
述べないよう指導、工作をされた。
このような作為的人選及び事前工作の結果、本件公聴会は、終始賛成意見が反対意見を圧
倒する雰囲気で強行され、反対意見を有する出席者の陳述の機会は事実上制約され、単に
形式的なものに終つた。
したがつて、本件公聴会は、建築基準法四六条一項の趣旨に反し、利害関係人間の公平を
失するものであつて違法である。そうであれば本件指定の手続もまた、全体として違法で
あるといわなければならない。
2本件指定の違法性
(一)本件指定に係る道路に隣接する土地の所有者、利用権者は、将来建物を新、改築
する際に、本件指定に基づく壁面線の後退によつて建物の建築面積が従前より大幅に狭隘
となり(少ないもので一〇パーセント、多いものでおよそ五六パーセント減少する)そ。

土地、建物の利用に実質的な制約を受ける。このような制約の結果、原告らの営業が著し
く困難になることは明白である。
なお、本件指定によつても建築物の全床面積は減少しないが、本件指定による一階の床面
積の減少のためそこで店舗営業ができなくなつたものは、建物を高層化して二階建以上に
して営業を行わざるを得ないところ、一階と二階とでは客の出入りが全く異なり、したが
つて営業収益の面で大きな隔差が生じ、それが半永久的に継続することになれば莫大な損
失を生ずる。更に、建物を高層化するにも、原告らは莫大な建築資金を負担しなければな
らないから、事実上それは不可能である。
このように、原告らは本件指定に基づく建物面積の縮少によつて、営業の継続が困難にな
る等莫大な経済的損失を被むるにもかかわらず、本件指定には何らの補償もされないので
あるから、本件指定は憲法二九条一、三項に反し、違法である。
(二)本件指定区域内の土地、建物の所有者等は、
本件指定に基づき現存建物が強制的に撤去されることはなく、将来の新、改築の際にその
制約を受けるにすぎない。したがつて、利害関係人のうち約四割を占める堅固建物の所有
者等は、その建物の寿命から少くとも五、六十年間は新、改築の必要がないため、その間
現存建物において営業活動を継続し得ることになり、本件指定に基づく経済的不利益が極
めて少ない。
他方、非堅固建物の所有者等である原告ら利害関係人は、現存建物の状況にかんがみ、近
い将来新、改築の必要に迫られ、その場合には前記のとおり著しい経済的打撃を被る。
したがつて、本件指定は、その利害関係人の過半数に対して著しい制約を課する一方、そ
の余の利害関係人に対してはその程度が極めて軽いという偏ぱな結果を招来するものであ
るから、憲法一四条の保障する平等原則に違反し、違法であるといわなければならない。
一〇被告審査会の主張に対する原告らの反論
1本件指定の行政処分性について
前記六2項と同じ。
2審査請求期間について
(一)本件公告の違法性
(1)そもそも公告とは、ある事項を文書によつて広く一般公衆に知らしめ、これに対
して権利行使又は異議申立ての機会を与えるための情報提供の手段、方法である。したが
つて、公告は周知性のある媒体によつてなされることが肝要であり、特にある事項がその
利害関係人の権利の制約、義務の設定等不利益を被らせる内容のものである場合には、利
害関係人の権利保護のためにも、高度の周知性を有する媒体によつて知らせる必要がある
といわなければならず、単に一般的形式的に知り得る状態にあれば足りるというものでは
ない。
(2)ところで本件公告が掲載された横浜市報は、被告市長が必要と認める者のほかは
希望者に有料で配布されるもの(横浜市報発行規則六条)で、その発行部数は、わずか一
五五〇部にすぎない。
(3)他方昭和五三年の横浜市の人口は二六八万五八三七人であるから、右市報は市民
一七三二・八人に一部の割合で、また一世帯当たりの人員を三・四五人とすると(昭和五
〇年の全国平均値である)五〇二世帯に一部の割合で配布されているにすぎず、その周。

性は極めて低く公告の機能を果たしていない。
(4)しかも本件指定は、利害関係人の所有土地又はその利用権を制限するなど財産権
に対する重大な制約を課する行為であるから、それを公告するについては、
周知性の高い媒体によつてなされるべきものであるうえ、被告市長は、促進協議会等を通
じて利害関係人等の氏名を確知し得たはずであるから、本件指定を利害関係人に対し郵便
等により個別に通知することも容易であつた。
(5)したがつて本件公告は、その内容の重大性にもかかわらず、周知性の極めて低い
前記市報によつて行われたものであるから、建築基準法四六条三項所定の「公告」に相当
せず、不適法である。よつて原告らが、本件指定を昭和五三年六月五日には知り得たとい
うことはできない。
そうであれば、原告らが本件指定を知つたのは、早くとも昭和五三年一一月六日以降であ
るから、本件審査請求は、行審決一四条一項本文所定の審査請求期間を徒過していない。
(二)教示の不存在
(1)被告市長は、本件公告に際し、その利害関係人らに行審法五七条所定の教示をな
すべき義務があつたにもかかわらず、右義務に違背して何らの教示もしなかつた。そのた
めに原告らは、やむなく被告市長に対し、同法五八条一項に基づいて不服申立書を提出し
て本件審査請求を行つた。
かような教示がなされていない以上、法的知識に乏しい原告らは、仮に本件指定がなされ
たことを知つていたとしても、これに対し、いつまでに誰に対し、いかなる方法で不服申
立てをすべきであるかを知ることは極めて困難である。
(2)同法五八条一項の不服申立制度は、かように教示を欠いたときの救済措置として
設けられたものである。そして、右不服申立ての期間について、法律は特に規定していな
いし、また不服申立人らとしては、教示による具体的な不服申立期間、方法、手続を知ら
ないのであるから、この場合に同法一四条を適用することは、救済措置として設けられた
不服申立制度の意義を没却してしまうことになり、不当といわざるをえない。
よつて、同法五八条一項に基づく不服申立てについては、同法一四条所定の審査請求期間
の適用はなく、また法定の申立期間はないものと解されなければならないから、本件審査
請求は、審査請求期間を徒過していない。
(三)行審決一四条三項所定の期間の尊守
本件審査請求は、同法一四条三項所定の期間内になされたから、審査請求期間を徒過して
いない。
一一原告らの反論に対する被告市長の認否及び再反論
1(一)原告らの反論1(一)項の事実のうち、被告市長が本件公聴会につき横浜市報
で開催の公告をし、
個別的に通知しなかつたこと、本件公聴会に横浜市の担当職員が一二名及び利害関係人が
二二名出席したことは認め、その余の事実は否認する。
本件公聴会開催の公告は、横浜市報発行規則一条に基づき同市報に登載されて行われたの
であるから、適法である。更に被告市長は、本件公聴会開催の旨を伝えるパンフレツト八
〇部を促進協議会を通して地元関係者に配布し、本件公聴会当日には街頭放送で同会の場
所、時間、本件指定の計画等を放送する等本件公聴会の開催を地元関係者に周知させた。
(二)同1(二)項の事実は不知。
(三)同1(三)項の事実のうち、本件公聴会の指定口述人がB、E、C、P及びQの
五名であつたこと、Pが陽華楼の従業員であつて促進協議会の事務局長であつたことは認
め、その余の事実は否認する。
本件公聴会における指定口述人は、建築基準法に基づく横浜市公聴会規則二条に基づき、
促進協議会役員及びその他の利害関係人の中から無作為抽出によつて選定されたものであ
る。そして、同会においては、指定口述人以外の出席者にも意見を求める等して賛否にか
かわらず広く本件指定につき利害関係人の意見が求められた。
よつて、本件公聴会は適法であり、何らの違法もない。
2(一)同2(一)項のうち、壁面線の後退によつて建物の建築面積が大幅に狭隘とな
ることは否認し、その余は争う。
本件指定に基づく制限は、公共の福祉から認められる制限であつて、財産権の侵害とはな
らない(憲法二九条三項参照。また、本件指定によつても敷地の建ぺい率及び容積率は)

更されないため、建物の延面積は減縮されない。むしろ、本件指定に基づく壁面線後退部
分が道路としてみなされるため、建築基準法施行令一三五条に基づき、道路斜線制限に関
する壁面位置の制限が緩和される。その結果建築物の高さも三メートル緩和され、建築設
計における自由度を高める。
(二)同2(二)項は争う。本件指定に基づく制限は、関係権利者に一様に同内容で課
されるから、関係権利者間で右制限を具体的に受ける時期が異なるとしても、それは不平
等ということはできない。
一二原告らの反論に対する被告審査会の認否及び再反論
1原告らの反論一項は争う。
2(一(1)同2(一(1)項は認める。))
(2)同2(一(2)項は認める。)
(3)同2(一(3)項のうち、)
昭和五三年の横浜市の人口が二六八万五八三七人であることは不知。その余は争う。
(4)同2(一(4)項は争う。)
(5)同2(一(5)項は争う。)
(二)同2(二)項は争う。その理由は次のとおりである。
(1)本件指定は、処分を書面でする場合に当たらないから、被告市長に行審法五七条
一項所定の教示の義務はない。よつて原告らの本件審査請求も、同法五八条一項所定の不
服申立書の提出に当たらない。
(2)同法五八条には、教示を欠くときには審査庁に限らず、処分庁に対しても不服申
立てができる旨を定めるに止まり、同法一四条の定める審査請求期間を延期する趣旨の規
定はない。よつてこの場合でも、審査請求期間については、同法一四条が適用されるべき
である。
(三)同2(三)項は争う。本件審査請求については、専ら行訴法一四条一項のみが適
用され、同法同条三項が適用される余地はない。
第三証拠(省略)
○理由
一被告市長及び被告審査会に対する各請求の原因1、2項の各事実は、当事者間に争い
がない。
二まず、被告審査会は、本件審査請求が本件公告から六〇日を経過した後に申し立てら
れたものであるから不適法である旨主張するので検討する。
1建築基準法四六条三項所定の公告の方法については法律に何らの定めがないところ、
いずれも成立に争いのない乙第一ないし第三号証によれば、横浜市行政に関する諸般の事
項を一般の人に知らせる方法について、横浜市公告式条例に基づいて制定された横浜市報
発行規則一条は、条例、規則、告示、公告、達、通達、その他の事項につき、同市発行の
同市報に登載することによつて行う旨定めていること、本件指定に係る本件公告もまた、
昭和五三年六月五日発行の同市報に登載することによつて行われたことが認められるか
ら、
本件公告は建築基準法四六条三項所定の公告の方式に欠けるところはないものというべき
である。
ところで、建築基準法四六条三項により、特定行政庁のする壁面線の指定の効力が公告に
よつて生ずることは明らかであるところ、壁面線の指定を公告によることとした趣旨は、
右指定処分は、その性質上、利害関係を有する者全員について画一的に効力を生じさせる
ことが不可欠であつて、この場合には、通常、広範囲な土地を対象とするので利害関係を
有する者も多数であり、しかも利害関係も厚薄があり、したがつて、
特定行政庁において利害関係を有する者を個別的かつ網羅的に確知することは不可能であ
る(例えば、その中には所在の知れない者なども生じうる)ので、利害関係を有する者。

右指定のあつたことを個別、具体的に知つたか否かに関わりなく、公告が適法になされた
ときに指定を知つたものとして一律にその効力を生じたものとすることとしたものと解さ
れる。そうすると、行審法一四条一項本文の不服申立期間は、右公告の日の翌日からこれ
を起算すべきものと解するのが相当である(なお、最高裁判所昭和二六年(オ)第三二六
号同二七年一一月二八日第二小法廷判決・民集六巻一〇号一〇七三頁参照(。
してみると、本件指定に対する行政不服審査請求期間は、本件公告の日である昭和五三年
六月五日の翌日から起算して六〇日以内であるところ、本件審査請求は、右期間を経過し
た後である同年一二月二三日に申し立てられたことは当事者間に争いがないから、行審法
一四条一項本文に違背し、不適法であるといわなければならない。
2仮に、建築基準法四六条一項による壁面線の指定に対する不服申立期間については公
、、、告の内容を知つた日の翌日から起算するものとしても本件審査請求は以下の理由から
右申立期間を徒過しでいる。
いずれも成立に争いのない甲第一号証、乙第五号証、第七、第八号証、第一二号証の三、
第一四ないし第一六号証、第二五号証、昭和五二年二月ころ及び同五六年一一月ころ、南
門通りを撮影した写真であることについて当事者間に争いのない乙第三〇号証、いずれも
証人Jの証言により真正に成立したことが認められる乙第六号証、第一二号証の一、二、
第二一ないし第二四号証、いずれも同Aの証言により真正に成立したことが認められる乙
第九、第一〇号証、いずれもその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認め
られるから真正な公文書と推定すべき乙第一八、第一九号証、第三一、第三二号証、証人
Kの証言により真正に成立したことが認められる乙第一一号証の七、原告Hの供述により
いずれも真正に成立したことが認められる乙第一一号証の三、五六及び昭和五六年一〇月
三日南門通りを撮影した写真であることが認められる甲第三六号証、弁論の全趣旨により
いずれも真正に成立したことが認められる乙第一一号証の四ないし六、八ないし三二、三
四ないし五五、五七ないし六一、証人K(但し、
後記信用しない部分を除く、同A、同J、同Z、同P1の各証言並びに弁論の全趣旨。)

総合すれば、次のとおりの事実が認められる。南門通りは、長さ約三二〇メートル、沿道
の地権者総数約八〇名の商店街であるが、昭和五〇年ころは、近くの中華街大通りの商店
街に比べて裏通りのように寂れた商店街であり、道路は、雨が降るとどろどろした状態に
なり、また、歩道と車道とがガードレールによつて区分され、歩道部分には電柱、自動販
、、、売機が立ち並び通学路としてはもちろん歩行者の安全確保上からも問題があつたこと
しかし、南門通りは横浜市内でも特に活況を呈している山下公園から元町に通ずる街路で
あつたから、横浜市と住民とが協力して街づくりのために努力しさえすれば、商店街とし
ても活況を呈するに至るであろうことは何人の目からも明らかであつたこと、横浜市は当
時「同布地域商店街づくり指導事業」実施要綱に基づいて商店街づくりを策定、指導して
いたので、同市としても、国鉄石川町駅から元町までの石川町商店街と元町から山下公園
に通じる中華街東門までの南門通り商店街について、壁面線の後退による商店街づくりを
指導することになり、被告市長は、南門通り商店街については、昭和五一年九月一三日及
び同月二二日の二回にわたり、関係者との懇談会及び打合会を開催したこと、南門通り商
店街の関係者は、これに共鳴し、同五一年一〇月二六日、同通りの街づくり事業を促進す
る地元組織として促進協議会を設立し、約七七名程の関係権利者が入会し、街づくりの実
現に協力することになつたこと、右街づくりは、南門通りの将来の発展に関わる大事業で
あるため、同三二年になされた元町商店街づくりを参考としたこと(国鉄石川町駅から元
町までの石川町商店街づくりも同様であつた、元町商店街づくりは、壁面線後退の手。)

を取り入れ、成功したものであること、そこで、地元関係者のうち少なくとも五七名が促
進協議会に対し壁面線後退についての同意書を提出し、その中には原告宮崎信彦ほか一一
名の原告が含まれていること、横浜市は、同五二年九月ころ、地元からの申入れに基づい
て南門通り商店街を前記実施要綱によるモデル商店街と指定したうえ、促進協議会とも協
議し、南門通りの街づくりについても、プロムナード事業の一環として、道路の境界線か
ら水平距離で二メートル、
地盤面から高さ三メートルにわたり壁面を後退させることによつて歩道を拡幅したうえ、
舗装工事等をして魅力のある街づくりをすることを決定したこと、南門通りの沿道には相
当の空地があり、これが駐車場敷地として利用されている状況にあつたから、右壁面線の
後退による街づくりを進める上においても好都合であつたこと、横浜市は、地元関係者と
の協議会、打合会その他の会合を通じて右壁面線の後退の趣旨及びプロムナード事業の内
容を説明すると共に、職員一名を地元に常駐して右説明に当らせ、更に同五二年六月ころ
には壁面線の後退を含むプロムナード事業の絵図面を現地の建物の窓ガラスに貼るなどし
て関係者の理解を深める努力をした結果、大部分の関係者は本件壁面線の指定を含むプロ
ムナード事業に賛同し、協力するようになつたこと、特に地元関係者は、壁面線の後退に
ついては、将来の新、改築の際に問題になるということ、同後退によつては容積率が減少
しないこと、敷地面積が少ない場合には共同建築などを考える必要のあることなどを理解
し、同商店街の発展とこれに伴なう個々人の将来における生活利益の向上に期待してこれ
に賛同するに至つたものであること、他方、横浜市は、同五二年初めころから、南門通り
の舗装工事等に着工し、下水道、水道及びガス管等をも地下に埋設し、また歩道には絵タ
イルを張り付けるなどしたが、同年一一月ころには右工事も完成したことに伴ない、同通
りの商店街としての雰囲気も一新し、将来、更に、右のとおりの壁面線の後退がなされ、
歩道が拡幅されるならば、同通りは横浜市内でも極めて魅力のある商店街の一つとして発
展する可能性がはつきりしてきたこと、そして、同五二年五月には、訴外P2が、同年九
月には、原告Iが、更に、同年一〇月には訴外P3が、横浜市建築主事の行政指導等に従
い、いずれも本件壁面線どおり一階の壁面を道路から二メートル後退させることを内容と
する建築確認をえて建物を新築したこと、ヒたがつて、同五三年二月二四日の南門通り街
づくりについての懇談会が終了した段階においては、関係者は前記壁面線後退に賛成して
いたこと、国鉄石川町駅から元町までの石川町商店街の壁面線後退の指定処分は同五二年
七月ころなされていること、そこで、被告市長は、同五三年四月二四日、右壁面線後退に
ついての公聴会を開催したこと、その際には、出席者の中から、
本件壁面線指定の趣旨が関係権利者に周知され、すでにその内容に従つた建物が新築され
ているのであるから、今更、建築基準法所定の手続を経る必要はないのではないかとの意
見さえも出たほどであること、同五三年五月一六日付読売新聞は、同月一五日の被告審査
会において本件指定を決定した旨報道したこと、横浜市は、同五三年六月五日ころ、促進
協議会理事長に対し、本件公告を登載した横浜市報五〇部程を手渡し、同理事長は、その
ころこれを関係権利者に配布したこと、同年六月一五日、地元において総会が開催され、
横浜市側から本件指定がなされた旨報告されたこと、本件指定後の同五四年一月には訴外
P4が、同年同月には同P5が、同五五年六月には同龍門商事株式会社が、同年一〇月に
は同P6が、同三木商事株式会社と共同して、同五六年六月には同P7が、いずれも本件
指定に従つた建築確認をえて建物を新築していること。
以上の事実が認められ、証人Kの証言及び原告Hの供述中右認定に反する部分は前記証拠
に照らしてたやすく信用することができない。
右認定事実によれば、原告らは、昭和五三年六月一五日ころには本件指定があつたことを
知つていたものと推認するのが相当である。
なお、甲第一二、第一四ないし第三一号証中の本件指定のあつたことなどを全く知らなか
つた旨の記載は、前記認定事実に加え、証人Kの証言はよれば、右各書面は周りの者の誘
いにのつて作成されたことが認められるから、にわかに信用することができず、その他に
右認定を覆すに足りる証拠はない。
そうすると、本件審査請求には不服申立期間を徒過した違法があり、不適法であるといわ
ざるをえない。
3なお、行訴法一四条一項ただし書所定の「やむをえない理由」とは、審査請求人が同
項本文所定の期間内に審査請求ができなかつたことにつき、審査請求人の責に帰せられな
い客観的理由と解さなければならないところ、前項で認定判示した事実に照らすと、原告
らに右やむをえない理由を到底認めることもできない。
4更に、原告らは、本件指定に教示がされなかつたので、行審法五八条一項に基づいて
本件指定に対する不服申立てをしたのであり、このような場合の不服申立てには、同法一
四条所定の審査請求期間が適用されない旨主張するので、判断する。
本件指定は、
同法五七条一項所定の処分を書面でする場合には当たらないから、本件指定に教示がされ
ていないとしても、被告市長に同条同項所定の教示義務の懈怠はない。したがつて、本件
審査請求は、同法一七条一項によつてなされた審査請求であつて、同法五八条一項による
不服申立てには当たらないといわざるを得ない。更に同法五八条一項は、処分庁が教示を
怠つた場合の被処分者に対する救済規定ではあるが、審査請求期間については別段の定め
がされていないから、同条同項所定の不服申立てについても同法一四条所定の審査請求期
間が適用されると解さなければならない。したがつて、原告らの前記主張は、到底採用す
ることができない。
5次いで、原告らは、本件審査請求は同法一四条三項所定の審査請求期間内に提起され
たから適法である旨主張するが、同条同項はいわば客観的な審査請求期間を定めたもので
あつて、被処分者の知・不知にかかわらず、処分のあつた日の翌日から起算して一年を経
過すれば審査請求をし得なくする規定であるところ、前記説示のとおり本件指定は本件公
告の日である昭和五三年六月五日に原告らに知られたものとみなされるから、本件審査請
求には専ら同法一四条一項が適用されるものであり、原告らの右主張は失当であるといわ
なければならない。以上によれば、本件指定が行政不服審査の対象となる処分に当たるか
否かを判断するまでもなく、本件審査請求を却下し
た本件裁決は相当であるから、原告らの被告審査会に対する請求は理由がない。
三被告市長の本案前の主張2項について検討する。
建築基準法の規定による特定行政庁の処分に対する抗告訴訟は、当該処分についての審査
請求に対する建築審査会の裁決を経た後でなければ、提起することができない(同法九六
条)ところ、当該処分に対する審査請求が不適法として却下され、かつ、その却下裁決が
正当である場合には、当該処分に対する抗告訴訟は、裁決前置の目的である建築審査会に
よる実質審査を経ていないのであるから、不適法であると解さなければならない(最高裁
判所昭和二八年(オ)第二五一号同三〇年一月二八日第二小法廷判決・民集九巻一号六〇
頁参照。)
してみると、本件指定の取消しを求める原告らの被告市長に対する訴えは、前項判示のと
おり本件審査請求を不適法として却下した本件裁決が正当であると解されるから、
本件指定が抗告訴訟の対象となる処分に当たるか否かを判断するまでもなく、不適法であ
るといわなければならない。
よつて、原告らの被告市長に対する訴えは、その余の点を判断するまでもなく却下を免れ
ない。
四結論
、、以上によれば原告らの被告市長に対する訴えは不適法であるからこれをいずれも却下し
原告らの被告審査会に対する請求は理由がないからこれをいずれも棄却することとし、訴
訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九三条一項本文を各適用して、主文のと
おり判決する。

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◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
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応募方法
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残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
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連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
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応募方法
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