弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役2年6月に処する。
未決勾留日数中30日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,大分市内所在の株式会社A銀行に総務部長として勤務し,動産,不動
産,寮その他施設の取得,管理,処分に係る諸契約の締結等の事務を担当していた
もの,分離前相被告人Bは,電気通信工事請負業等を営む有限会社Cの代表取締役
であるが,
第1前記A銀行が発注する「A銀行D寮法面保護工事」に関し,元請業者を株式
会社E建設,下請業者を有限会社F建設とし,同銀行が支払う工事代金のうち
前記E建設には700万円(消費税別)のみを取得させてその残金全額を前記
F建設に支払わせ,同社等から被告人らに1800万円を返戻させることとし,
その金額を上乗せして水増しした代金額である5760万円(消費税別)で前
記E建設に前記工事を受注させ,その工事代金を同銀行に支払わせて,工事代
金名下に金員を詐取しようと企て,前記F建設取締役Gと共謀の上,あらかじ
め前記E建設取締役であったHに対し,前記E建設において前記水増しに係る
金額で前記工事の見積書を作成して前記A銀行に提出するとともに,同工事を
受注した場合には前記F建設に一括下請けさせ,その工事代金は前記のとおり
700万円を控除した全額を同社に支払うよう依頼してその承諾を得た上,平
成14年5月27日ころ,前記Gをして,前記工事の代金額を前記水増しに係
る5760万円とした前記E建設作成名義の見積書を同銀行あてに提出させ,
情を知らない同銀行総務部副部長であったIらを介し,同銀行経営会議を経て,
同年6月14日ころ,同銀行代表取締役であったJらに対し,前記工事を工事
代金5760万円(消費税別)で前記E建設に発注する旨の稟議書等を提出し,
同人らをして前記工事代金は適正なものであると誤信させ,同年7月1日ころ,
前記E建設との間で,本体工事価格5760万円及び消費税288万円の合計
6048万円を請負代金額とする工事請負契約を締結させ,よって,同銀行事
務部係員をして,いずれも工事代金支払名下に,同銀行本店開設の前記E建設
名義の普通預金口座に,同月29日,現金3000万円を,同年9月12日,
現金3048万円をそれぞれ振込入金させ,もって,人を欺いて財物を交付さ
せ,
第2前記A銀行が発注する「A銀行本店仮設事務所設置工事」に関し,元請業者
を前記E建設,下請業者を前記C,更にその下請業者を有限会社Kとし,同銀
行が支払う工事代金のうち前記E建設には600万円(消費税別)のみを取得
させてその残金全額を前記Cに支払わせ,更に同社から支払を受けた前記Kか
ら被告人らに500万円を返戻させることとし,その金額を上乗せして水増し
した代金額である4600万円(消費税別)で前記E建設に前記工事を受注さ
せ,その工事代金を同銀行に支払わせて,工事代金名下に金員を詐取しようと
企て,前記K代表取締役であったLと共謀の上,あらかじめ前記Gに対し,前
記E建設において前記水増しに係る金額で前記工事の見積書を作成して前記A
銀行に提出するとともに,同工事を受注した場合には前記Cに一括下請けさせ,
その工事代金は前記のとおり600万円を控除した全額を同社に支払うよう依
頼してその承諾を得た上,平成14年11月7日ころ,前記Gをして,前記工
事の代金額を前記水増しに係る4600万円とした前記E建設作成名義の見積
書を同銀行あてに提出させ,情を知らない前記Iらを介し,同月12日ころ,
前記Jらに対し,前記工事を工事代金4600万円(消費税別)で前記E建設
に発注する旨の稟議書等を提出し,同人らをして前記工事代金は適正なもので
あると誤信させ,同月20日ころ,前記E建設との間で,本体工事価格460
0万円及び消費税230万円の合計4830万円を請負代金額とする工事請負
契約を締結させ,よって,同銀行事務部係員をして,いずれも工事代金支払名
下に,同銀行本店開設の前記E建設名義の普通預金口座に,同年12月2日,
現金1600万円を,同月26日,現金1600万円を,平成15年1月31
日,現金1630万円をそれぞれ振込入金させ,もって,人を欺いて財物を交
付させ,
第3前記A銀行が発注する同銀行M支店及びN支店の各屋上防水改修工事に関し,
元請業者をO工務店,下請業者を有限会社P塗装及び有限会社Q商事とし,同
銀行から前記O工務店,更に同工務店から前記P塗装及びQ商事に支払われる
各工事代金の一部を前記両社から被告人らに返戻させることとし,返戻させる
金額を上乗せして水増しした代金額を同銀行に支払わせて,工事代金名下に金
員を詐取しようと企て,前記P塗装の代表取締役であったR及び前記Q商事の
代表取締役であったSと共謀の上,前記分離前相被告人Bにおいて,あらかじ
め,前記O工務店を経営するTに対し,同銀行が発注する工事の名目上の請負
業者としてO工務店の名称を借用したい旨及び同銀行が支払う工事代金の受領
のために同銀行大在支店のO工務店T名義の普通預金口座を使用したい旨依頼
してその承諾を得た上,
1前記M支店屋上防水改修工事に関し,平成14年7月31日ころ,同工事の
摘要欄等に真実は実施する意思のない屋上アルミ笠木及びその取付工事分を含
めて記載し,同工事の見積金額を,前記P塗装及びQ商事から被告人らに返戻
させる270万円等を上乗せして水増しした530万円(消費税別)とした前
記O工務店作成名義の前記A銀行M支店あて見積書を,同年10月16日ころ,
前記見積金額に消費税を加えた556万5000円を請求金額とする同工務店
作成名義の同支店あて請求書をそれぞれ同銀行に提出し,同年11月15日こ
ろ,前記Jに対し,前記請求に係る工事代金を支払う旨の稟議書を提出し,同
人をして同銀行に提出された前記見積書のとおり工事が実施されたものであり,
かつ,前記工事代金は適正なものであると誤信させ,よって,同月20日,同
支店係員をして,前記工事代金支払名下に,前記普通預金口座に,現金556
万5000円を振込入金させ,もって,人を欺いて財物を交付させ,
2前記N支店屋上防水改修工事に関し,平成14年7月31日ころ,同工事の
摘要欄等に真実は実施する意思のない屋上アルミ笠木及びその取替工事分を含
めて記載し,同工事の見積金額を,前記P塗装及びQ商事から被告人らに返戻
させる300万円等を上乗せして水増しした640万円(消費税別)とした前
記O工務店作成名義の前記A銀行N支店あて見積書を,同年12月2日ころ,
前記見積金額に消費税を加えた672万円を請求金額とする同工務店作成名義
の同支店あて請求書をそれぞれ同銀行に提出し,同月24日ころ,前記Jに対
し,前記請求に係る工事代金を支払う旨の稟議書を提出し,同人をして同銀行
に提出された前記見積書のとおり工事が実施されたものであり,かつ,前記工
事代金は適正なものであると誤信させ,よって,同月26日,同支店係員をし
て,前記工事代金支払名下に,前記普通預金口座に,現金672万円を振込入
金させ,もって,人を欺いて財物を交付させた。
(証拠の標目)省略
(法令の適用)省略
(量刑の理由)
本件は,地方銀行(以下「被害銀行」という。)の総務部長として,工事契約の
締結等の事務を担当していた被告人が,業者らと共謀の上,被害銀行が発注する工
事代金にバックリベート分を上乗せして水増し請求させ,被害銀行の代表取締役ら
をして,適正な工事代金額であると誤信させ,被害銀行に水増しに係る工事代金を
支払わせたという詐欺の事案4件である。
被告人は,犯行の動機については,自宅の新築資金を捻出するためであったこと
を認めているものの,そのような犯行を決意するに至った経緯については,自宅の
新築を共犯者Bに相談したところ,同人の見積もりどおりに被害銀行が工事を発注
してくれれば,水増しした金額を建築資金に回すことができる旨示唆されたため,
本件犯行を決意したなどとも弁解している。しかしながら,Bは,遅くとも平成8
年ころから,被告人とともに,数十回にわたり,被害銀行の発注する工事からバッ
クリベート金を取得しており,本件犯行もそうした一連の不正行為の延長として被
告人から指示を受けて行ったものであると述べているところ,Bの供述は,具体的
である上,従前から被害銀行の工事を受注した業者が特定の業者らに偏っていると
ころ,これらの業者らが,相当な額を水増し請求した上で,バックリベート金をB
に渡したと供述し,その際,見積りが高額にすぎると被告人から指摘されたことも
ないと述べていることなどにも沿っている。また,Bは,自らが業者らの取りまと
め役として重要な役割を果たしていたことや,これまでに総額で1000万円ほど
の分け前を取得していることなども認めており,殊更に被告人に責任を押しつけよ
うとしている様子もうかがわれない。したがって,Bの供述の信用性は高いという
べきである。これに対し,被告人の供述は,極めて曖昧である上,それまで何らの
不正行為も行っていなかったのに,突如,本件犯行のような大胆な犯行に及んだ経
緯の説明としてはいかにも不自然であって,信用できない。そうすると,被告人は,
長期間にわたって,被害銀行の金を不正に取得した上,自宅新築資金を捻出するた
めに,Bに働きかけて本件犯行に及んだものと認められ,犯行の動機及び犯行に至
る経緯に酌むべき点は全くなく,むしろ本件犯行は被告人らが常習的に行ってきた
不正行為の一環として敢行されたというべきである。しかも,被告人は,被害銀行
において,工事契約の締結等の事務を担当する総務部長という要職にあったにもか
かわらず,その地位を悪用し,多額のバックリベート金を捻出するために見積額や
工事内容を下請業者らに指示しており,水増しの割合も大きく,実際に行われた工
事も代金に全く見合わない杜撰なものであるなど,本件犯行の態様は極めて悪質で
ある。また,被害銀行が支払った工事代金は合計1億2000万円余りで,水増し
分も合計約3000万円に及んでおり,財産的被害も大きい。長期間にわたり被告
人らの不正を見逃してきた被害銀行のチェック態勢にも問題がないとはいえないが,
こうした不正を防ぐべき立場にある総務部長であり,取締役をも兼ねる被告人が,
本件のような犯行を行ったことによって被害銀行が失った信用も軽視できず,犯行
の結果は重大である。そして,被告人は,本件犯行を首謀し,実際にもその利得の
ほとんどを自宅新築資金に充てている上,そもそも本件犯行は被告人が被害銀行の
要職にあったからこそ成立した犯罪であるから,被告人の刑事責任はBに比しても
はるかに重いというべきである。にもかかわらず,被告人は,Bの示唆によって本
件犯行を決意したなどとも述べて,責任を同人に転嫁しようとしており,真しに反
省しているとは到底認めがたい。
以上によれば,被告人の刑事責任は相当に重い。
他方,被害銀行は,判示第3の1及び2のM,N各支店屋上防水改修工事の被害
については,そのうち740万円余りを被告人の同銀行への預金との相殺により回
収し,判示第1のD寮法面保護工事及び第2の本店仮設事務所設置工事の被害につ
いては,損害賠償請求訴訟を提起していたところ,被告人がこれを認諾したため,
請求債権額6666万円余りで被告人の他の銀行への預金債権を差し押さえている。
したがって,被害銀行が本件犯行によって被った損害は,水増し分にとどまらずに
相当程度回収される見込みがある。また,被告人は,捜査段階では否認していたも
のの,公判段階では公訴事実を認めており,日本司法支援センターへの100万円
のしょく罪寄付にも及んでいる。加えて,U株式会社の役員などの職も辞したこと,
前科前歴がないこと,健康状態が芳しくないこと,妻が当公判廷において更生の支
援を申し出ていることなどの被告人にとって酌むべき事情も認められる。
しかしながら,これらの被告人に有利な事情を最大限考慮しても,その刑事責任
の重さにかんがみれば,刑の執行を猶予すべきものとはにわかに考えがたく,被告
人に対しては,主文の実刑をもって臨むのが相当である。
(求刑懲役4年)
平成20年9月10日
大分地方裁判所刑事部
裁判長裁判官宮本孝文
裁判官中島崇
裁判官大黒淳子

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