弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人片岡政雄、同重松蕃の上告理由について。
 所論は、要するに、原判決が、その別紙一、二の請求金額内訳中、勤勉手当欄記
載の金額につき、これを被上告人が上告人らの昭和三四年二月分または三月分の給
与から減額した措置を是認し、右の減額にかかる金員に関する上告人らの支払請求
を棄却すべきものとした判断は、労働基準法二四条一項および民法五〇五条一項但
書の解釈を誤つたものである、というのである。
 原判決(付加、訂正のうえ引用する一審判決を含む。)の適法に確定したところ
によれば、本件係争給与の支給当時においては、上告人らが被上告人から受くべき
給料および暫定手当は毎月二一日にその月分を、また、勤勉手当は毎年六月一五日
および一二月一五日に所定の額を支給されることとなつていたところ、被上告人が
上告人らに対し昭和三三年一二月一五日に支給した勤勉手当には、上告人らが同年
九月五日から同月一五日までの間全一日または一定時間勤務しなかつたことにより
原判決別紙一、二の請求金額内訳中、勤勉手当欄記載の支給すべからざる金額をも
含んでいたので、被上告人は、その後、昭和三四年一月一五日から同月二〇日まで
の間に上告人らに対しそれぞれ過払金の返納を求め、かつ、この求めに応じないと
きには翌月分の給与から過払額を減額する旨通知したうえ、これを同年二月二一日
または三月二一日に支給さるべき同月分の給与から減額した、というのである。
 おもうに、右事実に徴すれば、被上告人の行つた所論給与減額は、被上告人が上
告人らに対して有する過払勤勉手当の不当利得返還請求権を自働債権とし、上告人
らの被上告人に対して有する昭和三四年二月分または三月分の給与請求権を受働債
権としてその対当額においてされた相殺であると解せられる。しかるところ、本件
につき適用さるべきものであつた労働基準法二四条一項では、賃金は、同項但書の
場合を除き、その全額を直接労働者に支払わなければならない旨定めており、その
法意は、労働者の賃金はその生活を支える重要な財源で日常必要とするものである
から、これを労働者に確実に受領させ、その生活に不安のないようにすることが労
働政策上から極めて必要であるとするにあると認められ、従つて、右規定は、一般
的には、労働者の賃金債権に対しては、使用者は使用者が労働者に対して有する債
権をもつて相殺することは許されないとの趣旨をも包含すると解せられる。
 しかし、賃金支払事務においては、一定期間の賃金がその期間の満了前に支払わ
れることとされている場合には、支払日後、期間満了前に減額事由が生じたときま
たは、減額事由が賃金の支払日に接着して生じたこと等によるやむをえない減額不
能または計算未了となることがあり、あるいは賃金計算における過誤、違算等によ
り、賃金の過払が生ずることのあることは避けがたいところであり、このような場
合、これを精算ないし調整するため、後に支払わるべき賃金から控除できるとする
ことは、右のような賃金支払事務における実情に徴し合理的理由があるといいうる
のみならず、労働者にとつても、このような控除をしても、賃金と関係のない他の
債権を自働債権とする相殺の場合とは趣を異にし、実質的にみれば、本来支払わる
べき賃金は、その全額の支払を受けた結果となるのである。このような事情と前記
二四条一項の法意とを併せ考えれば、適正な賃金の額を支払うための手段たる相殺
は、同項但書によつて除外される場合にあたらなくても、その行使の時期、方法、
金額等からみて労働者の経済生活の安定との関係上不当と認められないものであれ
ば、同項の禁止するところではないと解するのが相当である。この見地からすれば、
許さるべき相殺は、過払のあつた時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理
的に接着した時期においてされ、また、あらかじめ労働者にそのことが予告される
とか、その額が多額にわたらないとか、要は労働者の経済生活の安定をおびやかす
おそれのない場合でなければならないものと解せられる。そして、所論引用の最高
裁判所判決(昭和三四年(オ)第九五号、同三六年五月三一日大法廷判決、民集一
五巻五号一四八二頁)が判示する前記二四条一項の解釈は、当該事件に即し、労働
者の債務不履行または不法行為によつて生じた使用者の労働者に対する損害賠償債
権と労働者の使用者に対する賃金債権との相殺に関連してされたものであるから、
本件のような賃金過払の場合の相殺についての叙上の解釈は、右最高裁判所判決の
趣旨と牴触するものではない。また、このような相殺は、所論民法五〇五条一項但
書にいう債務の性質が相殺を許さないときにはあたらないと解すべきである。
 そこで、本件についてみるに、原審の適法に確定した事実関係に徴すれば、被上
告人のした所論相殺は、前記説示するところに適い、許さるべきものと認められ、
従つてこれと同旨の原判決の判断は正当として首肯することができる。
 以上の次第で、原判決には所論の違法はすべて認められず、所論は、ひつきよう、
叙上の説示と異る独自の見解を前提とするものであつて、理由がなく、採用するこ
とはできない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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