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平成30年7月11日判決言渡
平成29年(行ケ)第10195号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成30年6月20日
判決
原告旭産業株式会社
同訴訟代理人弁護士小林幸夫
弓削田博
木村剛大
河部康弘
藤沼光太
神田秀斗
同訴訟代理人弁理士保立浩一
被告有限会社フォーラム
同訴訟代理人弁護士小林元治
福井大介
木田秋津
佐藤良
長竹信幸
井手大展
中谷健二
髙橋洋徳
同訴訟代理人弁理士大坪勤
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2016-800132号事件について平成29年9月26日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,明確
性要件違反の有無及び進歩性の有無である。
1特許庁における手続の経緯
被告は,名称を「管体の屈曲部保護カバー」とする発明につき,平成18年10
月6日に特許出願し(特願2006-275665号),平成23年7月22日設定
登録(特許第4787121号)を受けた(請求項の数3。甲17。以下「本件特
許」といい,本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書」という。)。
原告は,平成28年12月2日,本件特許の請求項1~3に係る発明について特
許無効審判請求をした(無効2016-800132号)。
被告は,平成29年3月3日付けで訂正請求をした(甲19。以下「本件訂正」
という。)。
特許庁は,平成29年9月26日,本件訂正を認めた上,「本件審判の請求は成り
立たない。」との審決をし,その謄本は,同年10月5日,原告に送達された。
2本件訂正後の本件特許の請求項1~3に係る発明の要旨
本件訂正後の本件特許の請求項1~3に係る発明(以下,請求項1~3記載の発
明を請求項の番号に従い「本件発明1」などといい,これらを併せて「本件発明」
という。)の要旨は,以下のとおりである。
【請求項1】(本件発明1)
「管体の屈曲部の外径周面を覆う外径カバー体と,管体の屈曲部の内径周面を覆
う内径カバー体とを一体に連接して構成した,弾性素材からなる管体の屈曲部保護
カバーにおいて,
前記内径カバー体の内径部分を管体周面と交差する方向に分離離隔して,第1
の内径カバー体と,第2の内径カバー体とを形成し,それぞれの対向する端部を係
合接続自在に構成すると共に,
前記第1,第2の内径カバー体のうち一方の内径カバー体は,
その端部を内方へ折曲して形成した一次折曲部と,この一次折曲部からの延長
部分を中途で外方へ折返して,同一次折曲部と対面させて形成した二次折曲部と,こ
の二次折曲部と前記一次折曲部との間に形成された略V字状溝部と,前記二次折曲
部からの延長部分を内方へ折曲して形成した係合受歯とを備え,
他方の内径カバー体は,その端部において,前記係合受歯と係合自在に形成さ
れた係合歯を備え,
一次折曲部の側端縁を,内径カバー体の側端縁と略テーパー状に対向させて幅
方向において内方へ位置させると共に,二次折曲部の側端縁を,一次折曲部の側端
縁と略テーパー状に対向させて幅方向においてさらに内方に位置させることで,前
記第1の内径カバー体と前記第2の内径カバー体とを係合接続したときに形成され
る係合接続部分の厚みを,その中央部から側端縁部に向かって漸次的に薄くなるよ
うに構成することにより,その側端縁部を前記管体の内径面に密着させた状態で管
体を内装するべく構成したことを特徴とする管体の屈曲部保護カバー。」
【請求項2】(本件発明2)
「前記一方の内径カバー体に形成された前記略V字状溝部中に前記他方の内径カ
バー体の端部を嵌入した際に,前記係合受歯と前記係合歯とが係合して,前記第
1,第2の内径カバー体の対向する端部が接続されて両内径カバー体が一体となる
べく構成したことを特徴とする請求項1に記載の管体の屈曲部保護カバー。」
【請求項3】(本件発明3)
「前記内径カバー体は,前記係合受歯及び前記係合歯の少なくとも一方を,対向
する端部から互いに離隔する方向へ連続して複数段に備えたことを特徴とする請求
項1又は請求項2に記載の管体の屈曲部保護カバー。」
3審決の理由の要点
以下,審決の理由中,本件の争点に関連する部分の要点について摘示する。
(1)無効理由1(明確性要件違反について)
原告は,本件明細書は,「側端縁」という用語と「側端縁部」という用語の違いに
ついて説明していないから,本件特許の請求項1中の「一次折曲部の側端縁を,内
径カバー体の側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向において内方へ位置させる
と共に,二次折曲部の側端縁を,一次折曲部の側端縁と略テーパー状に対向させて
幅方向においてさらに内方に位置させることで,前記第1の内径カバー体と前記第
2の内径カバー体とを係合接続したときに形成される係合接続部分の厚みを,その
中央部から側端縁部に向かって漸次的に薄くなるように構成した」という事項(以
下「事項C」という。)が,明確に理解できない旨主張する。
本件発明1の「一次折曲部の側端縁を,内径カバー体の側端縁と略テーパー状に
対向させて幅方向において内方へ位置させると共に,二次折曲部の側端縁を,一次
折曲部の側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向においてさらに内方に位置させ
る」との構成によると,「側端縁」として,「一次折曲部の側端縁」,「内径カバー体
の側端縁」及び「二次折曲部の側端縁」の三つの側端縁を明確に特定することがで
きるから,「側端縁」とは,上記「一次折曲部」,「内径カバー体」及び「二次折曲部」
の各側端縁を意味することが明らかである。また,「前記第1の内径カバー体と前記
第2の内径カバー体とを係合接続したときに形成される係合接続部分の厚みを,そ
の中央部から側端縁部に向かって漸次的に薄くなるように構成する」との構成にお
いて,「その中央部から側端縁部」が,「係合接続部分」の「中央部から側端縁部」
であることは文言上明らかであるから,「側端縁部」とは,「前記第1の内径カバー
体と前記第2の内径カバー体とを係合接続したときに形成される係合接続部分」に
おける側端縁部を意味することが明らかであり,さらに,上記「係合接続部分」の
厚みが,「その中央部から側端縁部に向かって漸次的に薄くなるように構成する」こ
とは,「一次折曲部の側端縁を,内径カバー体の側端縁と略テーパー状に対向させて
幅方向において内方へ位置させると共に,二次折曲部の側端縁を,一次折曲部の側
端縁と略テーパー状に対向させて幅方向においてさらに内方に位置させること」に
起因した構成であることも技術的に明らかである。
よって,本件発明が明確性要件に違反するとはいえない。
(2)無効理由3(進歩性欠如について)
ア登録実用新案第3079994号公報(甲1)に記載された発明(以下
「甲1発明」という。)を主引用発明とした場合
甲1発明
「配管された管20の直角又は任意角度に屈曲している屈曲部分に装着される屈
曲管カバー30において,
中央部が幅広な短冊状部材を半円形に折り曲げた状態で複数枚を連結してエルボ
胴部31が形成され,
前記エルボ胴部31の前後面に正面形状が銀杏葉状の締付け板32が固着され,
前記エルボ胴部31の正面視で該エルボ胴部31の両端内側部から締付け板32
に至る部分にシール材33が接着され,
配管された管の屈曲部分に装着された屈曲管カバー30は,シール材33が直管
カバーと屈曲管カバーの接続部の隙間を閉塞する,
屈曲管カバー30。」
本件発明1と甲1発明との対比
【一致点】
「管体の屈曲部の外径周面を覆う外径カバー体と,管体の屈曲部の内径周面を覆
う内径カバー体とを一体に連接して構成した,管体の屈曲部保護カバーにおいて,前
記内径カバー体の内径部分を管体周面と交差する方向に分離離隔して,第1の内径
カバー体,第2の内径カバー体とを形成した,管体の屈曲部保護カバー。」
【相違点】
(相違点1)
「管体の屈曲部保護カバー」の素材について,本件発明1は,「弾性素材からなる」
ものであるのに対し,甲1発明は,そのように特定されていない点。
(相違点2)
「第1,第2の内径カバー体」について,本件発明1は,「それぞれの対向する端
部を係合接続自在に構成すると共に」,「前記第1,第2の内径カバー体のうち一方
の内径カバー体は,その端部を内方へ折曲して形成した一次折曲部と,この一次折
曲部からの延長部分を中途で外方へ折返して,同一次折曲部と対面させて形成した
二次折曲部と,この二次折曲部と前記一次折曲部との間に形成された略V字状溝部
と,前記二次折曲部からの延長部分を内方へ折曲して形成した係合受歯とを備え,他
方の内径カバー体は,その端部において,前記係合受歯と係合自在に形成された係
合歯を備え,一次折曲部の側端縁を,内径カバー体の側端縁と略テーパー状に対向
させて幅方向において内方へ位置させると共に,二次折曲部の側端縁を,一次折曲
部の側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向においてさらに内方に位置させるこ
とで,前記第1の内径カバー体と前記第2の内径カバー体とを係合接続したときに
形成される係合接続部分の厚みを,その中央部から側端縁部に向かって漸次的に薄
くなるように構成することにより,その側端縁部を前記管体の内径面に密着させた
状態で管体を内装するべく構成した」ものであるのに対し,甲1発明は,そのよう
に特定されていない点。
相違点の判断
a相違点1について
管体の屈曲部保護カバーを「弾性素材」で構成することは,かかる技術分野の周
知技術といえる。
そして,甲1発明は,「屈曲管カバー」の素材について特に特定されるものではな
いが,屈曲管カバーとして機能する素材が適宜選択され得ることは技術的に明らか
であるから,上記周知技術をも参考とすると,甲1発明の屈曲管カバーを弾性素材
で構成することは,当業者にとって格別困難なことではない。
b相違点2について
(a)甲1には,締付け板(本件発明1の内径カバー体に相当する部
材)の形状について,「正面形状が銀杏葉状」と記載されているものの,締付け板の
形状が,その先端に至るまで漸次幅狭形状であるかどうかを特定することができ
ず,甲1発明の「屈曲管カバー」に,甲1の図2に示される「直管カバー」と同様
な「雌型及び雄型係合部」を形成しても,本件発明1のように二次折曲部の側端縁
が,一次折曲部の側端縁と略テーパー状に対向させた構造になるとまで断ずること
はできない。
また,甲1には,管の屈曲部分に対する屈曲カバーの取付け態様も何ら示されて
いないことから,相違点2に係る本件発明1の「前記第1の内径カバー体と前記第
2の内径カバー体とを係合接続したときに形成される係合接続部分の厚みを,その
中央部から側端縁部に向かって漸次的に薄くなるように構成することにより,その
側端縁部を前記管体の内径面に密着させた状態で管体を内装するべく構成した」と
いうこともできない。
したがって,甲1発明に甲1の図2等に記載された技術事項を適用したとして
も,上記相違点2に係る本件発明1の構成に至るものではなく,当業者が容易にな
し得たものとはいえない。
(b)甲4~8には,本件発明1の二つの内径カバー体に相当する部材
として,根元部分に比較して,先端にいくに従って,「その部分的な形状」が漸次幅
狭となるものが図面で記載されているにとどまり,「その先端に至るまでの形状」が
漸次幅狭となるものが記載されるものではない。
したがって,本件発明1の「第1の内径カバー体」及び「第2の内径カバー体」
に相当する部材の形状として,根元部分に比較して,先端にいくに従って,「その部
分的な形状」が漸次幅狭となるものが上記甲4~8に記載されるように周知技術で
あるとしても,この周知技術は,「その先端に至るまでの形状」が漸次幅狭となるも
のではないから,甲1発明に上記周知技術を適用しても,上記相違点2に係る本件
発明1の構成に至るものではない。
(c)そして,本件明細書の記載によると,本件発明1は,「管体に装着
する際に係合接続させる係合部が管体の屈曲部内径に干渉することを防止して,装
着性を向上させた管体の屈曲部保護カバーを提供する」という課題を解決するため
に(段落【0011】),少なくとも,相違点2に係る本件発明1の構成を採用し(段
落【0012】),このような構成によって「両内径カバー体の係合接続部分におい
て,それぞれ端部に向かって可及的に漸次幅狭となるように形成した両内径カバー
体を,両端部近傍が重合するように互いを係合させることで,係合接続部分におけ
る突出部分を可及的に小さくすると共に係合接続部分の側縁部における厚みを可及
的に薄くして,管体へ装着した際に,内径カバー体が管体の屈曲部内径面に干渉す
ることを防止して,管体への装着性を向上させて管体の屈曲部を効果的に保護する
ことができる。」(段落【0016】)及び「一次折曲部から二次折曲部,二次折曲部
から係合受歯へ向かう板幅を,漸次的に幅狭として一方の内径カバー体における側
端縁部の厚みを可及的に薄くすることができ,管体への装着時に,両内径カバー体
の接続部分が管体の屈曲部内径と干渉することを防止して,管体への装着性を向上
させることができる。」(段落【0017】)という効果を奏するものであるところ,甲
1,4~8には,そのような課題,解決手段及び効果について何ら記載も示唆もな
い。
(d)したがって,甲1発明に甲1の図2等に記載された技術事項を適
用したとしても,あるいは,甲1発明に甲1,4~8に記載された技術事項(周知
技術)を適用したとしても,上記相違点2に係る本件発明1の構成に至るものでは
ない。また,本件発明1の効果も甲1発明及び甲1,4~8に記載された技術事項
(周知技術)から当業者が予測しうる範囲のものということもできない。以上のと
おりであるから,本件発明1は,当業者が容易に発明をすることができたものとは
いえない。
本件発明2の容易想到性
本件発明2は,本件発明1の発明特定事項を全て含み,さらに減縮したもので
あるから,本件発明1と同様に,当業者が容易に発明をすることができたものとは
いえない。
イ実願平2-107659号のマイクロフィルム(甲2)に記載された発
明(以下「甲2発明」という。)を主引用発明とした場合
甲2発明
「配管の屈曲部を被覆する配管カバー用エルボ16において,
外側湾曲部18及び繋ぎ側部分24,26を有し,
前記外側湾曲部18は,配管カバー用エルボ16の周方向へ半円状に曲げられ
て,配管カバー用エルボ16の延び方向へ相互に結合されている複数枚の板金20
から成り,
前記繋ぎ側部分24,26は,配管カバー用エルボ16の周方向における外側湾
曲部18の端部に一端側を固定される板金から成り,
前記繋ぎ側部分24は,端部において3回折り返されて嵌入溝28が形成され,繋
ぎ側部分24の端縁30は,嵌入溝28の奥の方へ折り返され,
前記繋ぎ側部分26の端部には,繋ぎ側部分26の長手方向に複数個のポケット
状凸部32が形成され,
前記繋ぎ側部分26の端部を繋ぎ側部分24の嵌入溝28内へ嵌入する,
配管カバー用エルボ16。」
本件発明1と甲2発明との対比
【一致点】
「管体の屈曲部の外径周面を覆う外径カバー体と,管体の屈曲部の内径周面を覆
う内径カバー体とを一体に連接して構成した,弾性素材からなる管体の屈曲部保護
カバーにおいて,前記内径カバー体の内径部分を管体周面と交差する方向に分離離
隔して,第1の内径カバー体と,第2の内径カバー体とを形成し,それぞれの対向
する端部を係合接続自在に構成すると共に,前記第1,第2の内径カバー体のうち
一方の内径カバー体は,その端部を内方へ折曲して形成した一次折曲部と,この一
次折曲部からの延長部分を中途で外方へ折返して,同一次折曲部と対面させて形成
した二次折曲部と,この二次折曲部と前記一次折曲部との間に形成された略V字状
溝部と,前記二次折曲部からの延長部分を内方へ折曲して形成した係合受歯とを備
え,他方の内径カバー体は,その端部において,前記係合受歯と係合自在に形成さ
れた係合歯を備えた,管体の屈曲部保護カバー。」
【相違点】
本件発明1は,「一次折曲部の側端縁を,内径カバー体の側端縁と略テーパー状に
対向させて幅方向において内方へ位置させると共に,二次折曲部の側端縁を,一次
折曲部の側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向においてさらに内方に位置させ
ることで,前記第1の内径カバー体と前記第2の内径カバー体とを係合接続したと
きに形成される係合接続部分の厚みを,その中央部から側端縁部に向かって漸次的
に薄くなるように構成することにより,その側端縁部を前記管体の内径面に密着さ
せた状態で管体を内装するべく構成した」ものであるのに対し,甲2発明は,その
ように特定されていない点。
相違点の判断
上記相違点に係る本件発明1の構成は,本件発明1と甲1発明との相違点2に係
る構成と実質的に同様であり,このような構成が甲4~8に記載された技術事項(周
知技術)を含めて検討しても容易想到でないことは既に述べたとおりである。
本件発明2,3の容易想到性について
本件発明2,3は,本件発明1の発明特定事項を全て含み,さらに減縮したもの
であるから,本件発明1と同様に,当業者が容易に発明をすることができたものと
はいえない。
ウ実願昭59-82532号のマイクロフィルム(甲3)に記載された発
明(以下「甲3発明」という。)を主引用発明とした場合
甲3発明
「エルボの外側を断熱材で囲みこの断熱材の外側を覆う薄い金属板よりなり主体
部10から細長く延びる1対の結合片部11,12を結合させるエルボジャケット
カバーであって,
一方側の前記結合片部11にはこの結合片部11の先端部をわずかの所定長さだ
け外方へ折曲げて折曲げない部分に近接するようにして端縁部を係合縁部21とし
た第1の折曲片部17と,この第1の折曲片部17に続いてこの第1の折曲片部1
7と共にこれより長い所定長さだけ外方へ折曲げて折曲げない部分に近接するよう
にした第2の折曲片部18と,この第2の折曲片部18に続いてこれより長い所定
長さだけ前記第1及び第2の折曲片部17,18と共に内方へ折曲げて折曲げない
部分に近接するようにして第1及び第2の折曲片部17,18との間に挿入部22
を形成する第3の折曲片部19とを有しており,
他方側の前記結合片部12の先端付近には一部に切断して内方へ突出した突起部
23が形成してあり,
この突起部23を形成した結合片部12の先端部を前記挿入部22へ挿入して突
起部23を係合縁部21へ係合させるようにした,
エルボジャケットカバー。」
本件発明1と甲3発明との対比
【一致点】
「管体の屈曲部の外径周面を覆う外径カバー体と,管体の屈曲部の内径周面を覆
う内径カバー体とを一体に連接して構成した,弾性素材からなる管体の屈曲部保護
カバーにおいて,前記内径カバー体の内径部分を管体周面と交差する方向に分離離
隔して,第1の内径カバー体と,第2の内径カバー体とを形成し,それぞれの対向
する端部を係合接続自在に構成すると共に,前記第1,第2の内径カバー体のうち
一方の内径カバー体は,その端部を内方へ折曲して形成した一次折曲部と,この一
次折曲部からの延長部分を中途で外方へ折返して,同一次折曲部と対面させて形成
した二次折曲部と,この二次折曲部と前記一次折曲部との間に形成された略V字状
溝部と,前記二次折曲部からの延長部分を内方へ折曲して形成した係合受歯とを備
え,他方の内径カバー体は,その端部において,前記係合受歯と係合自在に形成さ
れた係合歯を備えた,管体の屈曲部保護カバー。」
【相違点】
本件発明1は,「一次折曲部の側端縁を,内径カバー体の側端縁と略テーパー状に
対向させて幅方向において内方へ位置させると共に,二次折曲部の側端縁を,一次
折曲部の側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向においてさらに内方に位置させ
ることで,前記第1の内径カバー体と前記第2の内径カバー体とを係合接続したと
きに形成される係合接続部分の厚みを,その中央部から側端縁部に向かって漸次的
に薄くなるように構成することにより,その側端縁部を前記管体の内径面に密着さ
せた状態で管体を内装するべく構成した」ものであるのに対し,甲3発明は,その
ように特定されていない点。
相違点の判断
上記相違点に係る本件発明1の構成は,本件発明1と甲1発明との相違点2に係
る構成と実質的に同様であり,このような構成が甲4~8に記載された技術事項(周
知技術)を含めて検討しても容易想到でないことは既に述べたとおりである。
本件発明2の容易想到性について
本件発明2は,本件発明1の発明特定事項を全て含み,さらに減縮したものであ
るから,本件発明1と同様に,当業者が容易に発明をすることができたものとはい
えない。
第3原告主張の審決取消事由
1取消事由1(明確性要件についての判断の誤り)
本件特許の請求項1には「側端縁」と「側端縁部」という用語があるが,その用
語の意味の違いは一義的に明らかでない。本件明細書において,「○○部」という表
現は,二次元的な広がりのある部位を指す用語として使用されているから,「側端縁
部」も二次元的な広がりを持つ部位を指す用語として使用されているものと理解で
き,このような理解は,本件明細書の段落【0017】の「側端縁部の厚みを可及
的に薄くすることができ」との記載とも整合する。しかし,そのような二次元的な
広がりを持つ「側端縁部」がどこであるかについて,本件明細書に記載がなく,事
項Cを明確に理解することができない。
仮に,「側端縁部」が,二次元的な広がりを持つ部位を指すものではなく,「側端
縁」と同様に特定の部材の縁の意味であると解すると,本件明細書の段落【001
7】の「一方の内径カバー体における側端縁部の厚みを可及的に薄くすることがで
き」は,一方の内径カバー体に使用された板材の厚さを薄くするという意味とな
り,「前記一次折曲部から前記二次折曲部を経て前記係合受歯先端に至る前記一方
の内径カバー体の端部は,漸次幅狭となるように構成した」こととは無関係になっ
て,一方の内径カバー体に使用された板材の厚さを薄くすることが,なぜ,「管体へ
の装着時に,両内径カバー体の接続部分が管体の屈曲部内径と干渉することを防止
して,管体への装着性を向上させることができる。」との本件発明の作用効果につな
がるのか理解できなくなり,そのような作用効果を奏する構成の外延も明確に理解
できないこととなるから,本件発明1は不明確なものとなる。
以上のとおり,「側端縁」及び「側端縁部」という二つの用語は,本件明細書を参
酌しても理解不能であり,本件発明1は明確性要件に違反している。
2取消事由2(進歩性判断の誤り)
(1)本件発明1の①「前記第1の内径カバー体と前記第2の内径カバー体とを
係合接続したときに形成される係合接続部分の厚みを,その中央部から側端縁部に
向かって漸次的に薄くなるように構成する」という構成は,②「一次折曲部の側端
縁を,内径カバー体の側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向において内方へ位
置させると共に,二次折曲部の側端縁を,一次折曲部の側端縁と略テーパー状に対
向させて幅方向においてさらに内方に位置させる」という構成により必然的に生じ
るものである。そうすると,本件発明1の進歩性判断に際しては上記②の構成が,容
易想到な構成である否かを検討すれば足りる。
なお,被告は,上記②の構成を採用しても,本件発明1の「その側端縁部を前記
管体の内径面に密着させた状態で管体を内装するべく構成した」という構成が必然
的に達成されないと主張しているが,密着するかどうかは,管体の内径面の大きさ
にもよるものであって,「側端縁部」の構成によって決まるものではない不確定なも
のであり,進歩性判断に際しては捨象されるべきである。
(2)ア審決は,本件特許の請求項1には何ら記載のない「その先端に至るまで
漸次幅狭形状である」ことが甲1の図4及び甲4~8に開示されているか否かを問
題とし,それが開示されていないことをもって本件発明の進歩性は否定されないと
している。しかし,本件特許の請求項1は,内径カバー体の側端縁に対する一次折
曲部の側端縁の関係及び一次折曲部の側端縁に対する二次折曲部の側端縁の関係は
規定するものの,二次折曲部の側端縁に対する係合受歯の側端縁の関係は何ら規定
しておらず,本件発明1は,係合受歯の部分について漸次幅狭でない構成も含んで
いるところ,審決は,本件特許の請求項1には記載されていない事項を追加して本
件発明1を限定的に解釈した上で本件発明1の進歩性を判断しており,違法である。
イそして,甲1の段落【0013】に記載されているとおり,甲1の図4
の締付け板32は,扇形の「銀杏葉状」である。扇形は,円の2本の半径により先
細りした形状となっていることから,銀杏葉状である締付け板32は,先端に向か
って漸次幅狭形状となっている。甲1の図4を見る限り,締め付け板32の形状
は,先端に至るまで漸次幅狭形状である。仮に,先端に至るまで漸次幅狭形状でな
いとしても,先端の係合受歯の部分において幅が一定であるか漸次幅広の形状であ
る。それ以外の形状は,甲1の図4からは看取することができない。このような漸
次幅狭形状の締付け板32の先端を折り返して係合接続部分を形成する場合,おの
ずから「一次折曲部の側端縁を,内径カバー体の側端縁と略テーパー状に対向させ
て幅方向において内方へ位置させると共に,二次折曲部の側端縁を,一次折曲部の
側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向においてさらに内方に位置させる」こと
となって,「係合接続部分の厚みを,その中央部から側端縁部に向かって漸次的に薄
くなる」構成となることは明らかである。
また,本件発明1と甲1発明との相違点2のうち,先端を折り返して係合接続部
分を形成する方法については,甲1の図2及び段落【0007】に「雌型係合部2
は,軸方向に平行する側端部を三つ折りに折り曲げたものであり,又,雄型係合部
3は,前記雌型係合部2と係合させるものであって,抜け止め突子4を設けたもの
である。」と記載されていることからすると,甲1の図2に開示されている。
さらに,甲1の図4の屈曲カバーと甲1の図2の直管カバーとは,保護カバーと
いう同一の技術分野に属するもので,かつ同一の実用新案公報に掲載されていたか
ら,組み合わせる動機付けがある上,取扱いを異にする合理的理由はなく阻害要因
もない。また,甲2,3の記載からすると,本件特許の出願当時,屈曲管を含めた
保護カバーについて,雄雌構造を採用する技術は周知であったともいえる。
したがって,甲1の図4に甲1の図2を適用することにより本件発明1は容易に
想到できる。
ウ仮に,甲1の図4からは「漸次幅狭形状」が読み取れないとしても,甲
4~8には,本件発明の内径カバー体に相当する部材が「漸次幅狭形状」となって
いる保護カバーが開示されている。特に,甲6,7の巻付部材7の形状は,先端に
至るまで「漸次幅狭形状」である。甲1と甲4~8は,いずれも技術分野が同一で
あって,それぞれを組み合わせることは容易であったから,甲1の図4と図2を組
み合わせることで認定できる「雄雌構造が採用された屈曲管保護カバー」という発
明に甲4~8を組み合わせることによっても本件発明1は容易に想到できる。
エ本件発明2の「前記一方の内径カバー体に形成された前記略V字状溝部
中に前記他方の内径カバー体の端部を嵌入した際に,前記係合受歯と前記係合歯と
が係合して,前記第1,第2の内径カバー体の対向する端部が接続されて両内径カ
バー体が一体となるべく構成した」は,甲1の図2や甲2の第3図に開示されてい
るから,本件発明2も容易に想到できるものである。
オ本件発明3の「前記内径カバー体は,前記係合受歯及び前記係合歯の少
なくとも一方を,対向する端部から互いに離隔する方向へ連続して複数段に備えた」
も,甲2の第3図に開示されており,「配管カバー用エルボの径を適宜調整すること
ができる。」としてその動機付けも示されている(8頁10行~11行)。したがっ
て,本件発明3も容易に想到できるものである。
カ被告は,「管体に装着する際に係合接続させる係合部が管体の屈曲部内
径に干渉することを防止して,装着性を向上させた管体の屈曲部カバーを提供する」
という課題の設定がユニークであると主張するが,エルボカバーの係合部を管体に
対して密着させることは,甲4にも摘示されているように周知の課題である。ま
た,上記課題の「干渉する」が何を意味するか判然とせず,「課題設定の独自性」に
ついての被告の主張は,合理的に理解することが困難である。
(3)被告は,組合せについての阻害要因の存在を主張し,その前提として,「甲
2,3発明のように一方の内径カバー体の端部を3回折って雌係合部とする屈曲管
保護カバーおいて,折曲箇所の前後の幅が略同一であるのが,本件特許の出願日前
における技術常識であった。」と主張するが,甲23の図1からすると,そのような
技術常識が存在しないことは明らかである。
また,被告の阻害要因についての主張(後記第4の2の(2)のオ)は,被告の主張
する「一定の幅」が不明確なものである上,阻害要因の存在を示す証拠は提出され
ていない。
(4)以上のとおり,本件発明は,容易に想到できるものといえる。
(5)審決は,無効理由2(新規性欠如。本件では新規性欠如は争点となってい
ないため,審決の要旨は摘示していない。)に対する判断の中で,甲1について,保
護カバーを「直管カバー」として構成する場合には「雌型及び雄型係合部」の部材
にシール材を貼り付けるものとされている一方で,保護カバーを「屈曲管カバー」
として構成する場合には,エルボ胴部の両端内側部から締付け板に至る部分にシー
ル材を貼着するものとされていることをもって,甲1の「屈曲管カバー」には,「雌
型及び雄型係合部」は形成されていないと解するのが自然であるとしている。しか
し,甲1の「屈曲管カバー」に甲2,3に周知技術として示されているように「雌
型及び雄型係合部」を設けないと締付け板32の先端部分を係合させて締め付けを
行うことができない。審決の認定は,周知技術を無視したもので違法である。
第4被告の主張
1取消事由1(明確性要件についての判断の誤り)に対して
本件特許の請求項1にいう「一次折曲部の側端縁」,「内径カバー体の側端縁」及
び「二次折曲部の側端縁」とは,文字通り,一次折曲部,内径カバー体及び二次折
曲部の側端の縁である。本件特許の請求項1の記載から明らかなとおり,内径カバ
ー体は,一次折曲部と折り曲げた箇所で接しており,一次折曲部は,内径カバー体
及び二次折曲部とそれぞれ折り曲げた箇所で接しており,二次折曲部は,一次折曲
部及び係合受歯とそれぞれ折り曲げた箇所で接しているが,「内径カバー体の側端
縁」,「一次折曲部の側端縁」及び「二次折曲部の側端縁」とは,それぞれ折り曲げ
た箇所以外の縁であって,「内径カバー体」,「一次折曲部」及び「二次折曲部」とい
う個々の部位の側端の縁であると出願当時における当業者の技術常識を基礎とすれ
ば明確に理解できる。
また,本件特許の請求項1の「前記第1の内径カバー体と前記第2の内径カバー
体とを係合接続したときに形成される係合接続部分の厚みを,その中央部から側端
縁部に向かって漸次的に薄くなるように構成することにより,その側端縁部を前記
管体の内径面に密着させた状態で管体を内装するべく構成した」という表現から明
らかなとおり,「側端縁部」という用語は,「その」すなわち「係合接続部分」の「側
端縁部」として使われていて,「側端縁部」が,係合接続部分を構成するそれぞれの
部位についてではなく,係合接続部分という部分の側端縁を意味していることは明
らかである。
さらに,本件明細書の段落【0040】には,「このように係合部3にて両内径カ
バー体2a,2bを互いに結合させた状態としたとき,係合部3は,その厚み方向
において側端縁部が最も薄く,この側端縁部から離隔する方向へ漸次的に厚みを増
す構成としている。」という記載があり,段落【0041】には,「係合部3の側端
縁部から係合部3の中央部に向かい,略45度の角度をなして厚みを増す構成であ
る」との記載があり,これらを説明する図として,【図6】が存在する。これらの各
記載及び図より,「側端縁部」が,係合接続部分を構成するそれぞれの部位について
ではなく,係合接続部分という部分の側端縁を意味していること(それぞれの部位
の側端縁を意味する「側端縁」とは別であること)は明らかであり,本件特許の出
願当時における当業者の技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者
に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
そして,本件明細書を通読して得られる上記の理解を前提とすると,本件明細書
の段落【0017】の記載も,雌係合部が設けられた側の内径カバー体(内径カバ
ー体2a)において,中央部は,内径カバー体,一次折曲部,二次折曲部,係合受
歯(三次折曲部)が重なり合っているが,係合時に,「係合接続部分」の「側端縁部」
となる部分は,内径カバー体の上に,一次折曲部等が重ならない状態(内径カバー
体1枚の厚さ)であることを表現していると理解できる。
2取消事由2(進歩性判断の誤り)に対して
(1)原告は,審決が本件発明1と甲1発明との相違点2のうち,「①一次折曲部
の側端縁を,内径カバー体の側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向において内
方へ位置させると共に,二次折曲部の側端縁を,一次折曲部の側端縁と略テーパー
状に対向させて幅方向においてさらに内方に位置させることで,②前記第1の内径
カバー体と前記第2の内径カバー体とを係合接続したときに形成される係合接続部
分の厚みを,その中央部から側端縁部に向かって漸次的に薄くなるように構成する
ことにより,③その側端縁部を前記管体の内径面に密着させた状態で管体を内装す
るべく構成した」との構成について,下線部②の構成は,下線部①の構造により必
然的に生じる構造であるから,進歩性の判断に際しては,下線部①の構成の容易想
到性のみ検討すれば足りると主張する。
しかし,請求項のうち,作用等に該当する部分を捨象して判断を行うということ
は特許審査・審判実務において行われておらず,下線部②,③を捨象して,下線部
①についてのみ容易想到性を検討すればよいという原告の主張は,このような実務
を無視するものである。
また,下線部②,③は,「管体に装着する際に係合接続させる係合部が管体の屈曲
部内径に干渉することを防止して,装着性を向上させた管体の屈曲部保護カバーを
提供する」(本件明細書の段落【0011】)という課題を解決するとともに,「管体
への装着時に,内径カバー体の接続部分が管体の屈曲部内径に干渉することを防止
して,管体への装着性を向上する」(本件明細書の段落【0017】)という本件発
明の効果を奏するための発明特定事項である。特に下線部③に係る発明特定事項
は,従来技術には存在しないものであり,下線部③は相違点2において重要度の高
い発明特定事項である。
そして,原告の主張するように下線部①の構成であれば,必ず,下線部②,③が
達成できるわけではない。すなわち,内径カバーの端部を三つに折り返し,その際,一
次折曲部の側端縁を,内径カバー体の側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向に
おいて内方へ位置させるとともに,二次折曲部の側端縁を,一次折曲部の側端縁と
略テーパー状に対向させて幅方向においてさらに内方に位置させたとしても,二次
折曲部の側端縁(特に係合受歯との折曲箇所)と内径カバー体の側端縁の位置関係
(どの程度,内径カバー体の側端縁の内方に位置しているか),折返し方による中央
部の厚みの程度によっては,係合接続部分の側端縁部が管体の内径面に密着しない
などして,下線部②,③が必然的に達成されなくなる。
したがって,下線部②,③を捨象し,下線部①の容易想到性についてのみ判断す
ればよいという原告の主張は誤っている。
(2)ア審決は,原告が,審判請求書において,甲4~8に開示された本件発明
における内径カバー体に相当する部材の形状に関して,「先端にいくに従って,漸次
幅狭となる形状が示されている」と主張したことを受けて,「先端」という言葉を使
用しているにすぎない。そして,原告が,審決請求書において,甲4~8のそれぞ
れに関して「先端にいくに従って,漸次幅狭となる形状が示されている」と表現し
たときの意図と同様に,審決は,「その先端に至るまで漸次幅狭形状」であるかどう
かを,締め付け板に雌型及び雄型係合部を形成したときに,二次折曲部の側端縁
が,一次折曲部の側端縁と略テーパー状に対向させた構造になるか否かを判断する
基準として用いているにすぎず,このことは審決書の記載からも明らかである。審
決は,「その先端に至るまで漸次幅狭形状」であるか否かについて言及する際に,本
件特許の請求項において言及のない二次折曲部の更に先にある係合受歯(三次折曲
部。本件明細書の段落【0030】参照)の幅に関してまで問題にしていない。し
たがって,審決に誤りはない。
イ甲1の図4で示された屈曲管カバーについて,締付け板32を折り返し
て雌型及び雄型係合部を形成した場合に,締付け板32のどの位置に一次折曲部,二
次折曲部及び係合受歯が形成されるか特定できない。
また,原告の主張するように「銀杏葉状」という言葉から,締付け板32全体を
扇形と捉えた場合,締付板32の下方(エルボ胴部31から離れた方)は,先端が
尖った形状になるが,このような形状では,締付け板32同士を接続した際に,十
分な接続部分の剛性が得られないため,甲1において,このような形状を採用して
いるとは考えられない。甲1における「銀杏葉状」という表現は,締付け板32の
上方(エルボ胴部31に近い方)の形状を言っているにすぎず,下方においても扇
形の形状になっている(先端に向かって漸次幅狭形状となっている)ことまで表現
したものではないことは明らかである。
したがって,仮に本件発明1の「略テーパー」に関して,原告の主張するように
全長において「略テーパー」であることを求めず,甲1の図4の締付け板32を折
り返して係合接続部分を形成したとしても,一次折曲部の側端縁が内径カバー体の
側端縁と略テーパー状に対向し,かつ二次折曲部の側端縁が一次折曲部の側端縁と
略テーパー状に対向させた構造になると断ずることはできず,「前記第1の内径カ
バー体と前記第2の内径カバー体とを係合接続したときに形成される係合接続部分
の厚みを,その中央部から側端縁部に向かって漸次的に薄くなるように構成するこ
とにより,その側端縁部を前記管体の内径面に密着させた状態で管体を内装するべ
く構成した」ということもできない。
ウ甲1〜3には,本件発明1における「管体に装着する際に係合接続させ
る係合部が管体の屈曲部内径に干渉することを防止して,装着性を向上させた管体
の屈曲部保護カバーを提供する」というユニークな課題(本件明細書の段落【00
11】)や,「一次折曲部の側端縁を,内径カバー体の側端縁と略テーパー状に対向
させて幅方向において内方へ位置させると共に,二次折曲部の側端縁を,一次折曲
部の側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向においてさらに内方に位置させる
ことで,前記第1の内径カバー体と前記第2の内径カバー体とを係合接続したとき
に形成される係合接続部分の厚みを,その中央部から側端縁部に向かって漸次的に
薄くなるように構成することにより,その側端縁部を前記管体の内径面に密着させ
た状態で管体を内装するべく構成した」という構成を採用することにより(同段落
【0012】),「両内径カバー体の係合接続部分において,それぞれ端部に向かって
可及的に漸次幅狭となるように形成した両内径カバー体を,両端部近傍が重合する
ように互いを係合させることで,係合接続部分における突出部分を可及的に小さく
すると共に係合接続部分の側縁部における厚みを可及的に薄くして,管体に装着し
た際に,内径カバー体が管体の屈曲部内径面に干渉することを防止して,管体への
装着性を向上させて管体の屈曲部を効果的に保護することができる」(同段落【00
16】)及び「一次折曲部から二次折曲部,二次折曲部から係合受歯へ向かう板幅
を,漸次的に幅狭として一方の内径カバー体における側端縁部の厚みを可及的に薄
くすることができ,管体への装着時に,両内径カバー体の接続部分が管体の屈曲部
内径と干渉することを防止して,管体への装着性を向上させることができる」(同段
落【0017】)といった課題に対する解決手段及び効果について,何ら記載も示唆
もない。したがって,甲1~3発明から,本件発明1は容易に想到し得るとする原
告の主張は,前提を欠く。
エ甲4~7に「銀杏葉状」という言葉があったとしても,甲4~7におけ
る本件発明1の「内径カバー体」に相当する部材の先端を折り返して,雌係合部を
作成した場合に,一次折曲部の側端縁が内径カバー体の側端縁と略テーパー状に対
向し,かつ二次折曲部の側端縁が一次折曲部の側端縁と略テーパー状に対向させた
構造になるとはいえないことは,甲1の締付け板32に関して述べたのと同様であ
る。
また,甲8において,「内径カバー体」に相当する「アゴ板3」に関する形状につ
いての記載はなく,「アゴ板3」の先端を折り返して,雌係合部を作成した場合に,一
次折曲部の側端縁が内径カバー体の側端縁と略テーパー状に対向し,かつ二次折曲
部の側端縁が一次折曲部の側端縁と略テーパー状に対向させた構造になるとはいえ
ない。
さらに,甲6,7の図面は,特許図面であり,設計図面ほど正確に描かれた図面
ではなく,巻付部材に関し,先端に向けてどのような形状となっているか明記され
ていないから,これらの図のみから,先端に至るまで「漸次幅狭形状」であるとい
うことはできないし,甲6,7には,甲1~3について述べたのと同様に,本件発
明1の課題,課題に対する解決手段及び効果について何ら記載も示唆もない。
オ甲1~3発明に甲4~8を組み合わせることについては,以下に述べる
とおり,阻害要因がある。
甲2,3が示す技術のように,一方の内径カバー体の端部を3回折って略V字状
溝部及び係合受歯を形成し,雌係合部とする屈曲部保護カバーにおいては,折曲箇
所の前後の幅が略同一であるのが,本件特許の出願日前における技術常識であった。
これは,①係合接続部分の剛性を高めるという観点において,内径カバー体の先
端側が一定の幅以上を有することが好ましいこと,②内径カバー体の三つの折曲部
の幅が略同一であれば,折曲げ前後の幅を揃えるように折り曲げることで精度良く
折り曲げることができるが,一次折曲部の側端縁が内径カバー体の側端縁と略テー
パー状に対向し,かつ二次折曲部の側端縁が一次折曲部の側端縁と略テーパー状に
対向する構造にした場合,略同一幅である場合に比べて折曲げに係る精度の低下を
招く可能性があったことを理由とする。
したがって,甲1の図2,甲2又は甲3の雌係合部につき,一次折曲部の側端縁
が内径カバー体の側端縁と略テーパー状に対向し,かつ二次折曲部の側端縁が一次
折曲部の側端縁と略テーパー状に対向した構造を採用することについては,本件特
許の出願時においては,上記理由①,②の阻害要因があり,容易想到性は否定され
る。
カ本件発明2,3は,本件発明1に従属する請求項に係る発明であるか
ら,本件発明1が,甲1~3発明から容易に想到し得るものではない以上,本件発
明2,3も,同様に甲1~3発明等から容易に想到し得るものではない。
(3)原告は,甲1の「屈曲部カバー」に「雌型及び雄型係合部」が無いならば,締
付け板32を締め付けることができず,審決の認定は周知技術を無視したものであ
り,違法である旨主張する。
しかし,平成20年に本件特許が公開され,被告において,初めて,雄雌構造係
合部付屈曲部保護カバーを製品化するまでは,雄雌構造係合部付屈曲部保護カバー
は普及しておらず,甲1発明の出願がされた当時(平成13年3月2日)は,係合
部が設けられていない従来品の屈曲管カバーが一般的であった。従来品について
は,屈曲管カバーの両方の結合片部の端部に折曲部を形成し,この各折曲部を互い
に結合させる方法により,接合が行われていた(甲13)。原告の上記主張は,甲1
発明が出願された当時の慣用技術である従来品及び従来方法を無視した主張であ
り失当である。
このような従来品及び従来方法の存在を考えると,甲1発明の屈曲管カバー
は,図4で描かれているとおり,雄雌構造の係合部を有さない従来品であると理解
するのが自然である。
3時期に後れた攻撃防御方法
平成30年6月7日付け原告第4準備書面に基づく原告の主張は,原告の故意又
は重大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法であり,却下されるべき
である。
第5当裁判所の判断
1認定事実
(1)本件発明の内容について
ア本件発明は第2の2記載のとおりであるところ,本件明細書(甲17)
には,以下の記載がある。
【技術分野】
【0001】本発明は,管体及び管体表面を被覆する断熱材を保護するための保
護カバーに関し,特に,管体の屈曲部分を保護する管体の屈曲部保護カバーに関す
るものである。
【背景技術】
【0002】従来,高温あるいは低温の気体や流体を供給するための管体は,内
部の気体・流体と外気との間で熱交換が行われることを防ぐために,管体の表面に
断熱材を被覆されて配設される。このような断熱材は比較的耐久性が低いために,こ
の断熱材を保護するため,また断熱材の断熱効果を効果的に発揮するために,この
断熱材の上から,断熱材を含む管体全体を覆うように鉄板又はステンレス鋼材等で
形成した保護カバーを取付けることが一般的である。
【0003】このような保護カバーは,直管部分と屈曲部分とにそれぞれ適合す
る専用の保護カバーが使用されている。特に屈曲部分において使用する保護カバー
については,配管の屈曲部の外径周面を覆う外径カバー体と,管体の屈曲部の内径
周面を両側から覆う内径カバー体とを弾性素材により一体に連接して構成し,この
内径カバー体に,管体に装着するべく拡開可能に対向する端部を設けると共にこの
端部を互いに係合自在な構成としている(例えば,特許文献1参照)。
【0004】図8は,上記従来の管体の屈曲部保護カバー100の実施形態を示
す断面説明図であって,図8に示すように,この従来の管体の屈曲部保護カバー1
00は,断熱材60を含む管体50の屈曲部の外径を覆うように形成した外径カバ
ー体51と,管体50の屈曲部の内径に沿う形状に形成した内径カバー体52とを
一体に連接して構成している。この内径カバー体52は,管体50の内径に対応す
る部分において,管体50周面と交差する方向に分離離隔して,管体50の屈曲部
の両側面にそれぞれ対応する二つの内径カバー体52,52に形成され,この二つ
の内径カバー体52,52のそれぞれの対向する端部を互いに係合接続自在に構成
している。
【0005】そして,これら2つの内径カバー体52,52を互いに係合させる
係合機構としては,一方を他方の内部に差し込んで係止させる機構,所謂,雄雌構
造を採用して構成されている。
【特許文献1】公開実用昭60-194696号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】しかしながら,ここで,この雄雌構造を採用してなる係合部53に
おいて,雌係合部は,雄係合部を差し込むための対向構造に形成されるため,この
雌係合部において厚みが生じることは避けられず,内径カバー体52の内面から管
体へ近接する方向へ突設する突出部55を形成することとなっていた。しかも,こ
の突出部55は,図8に示すように,内径カバー体52の板幅と略同一幅で突出し
ていたため,装着時に保護カバー100から管体50が延出される開口部56の内
径に影響を及ぼし,この屈曲部保護カバー100を管体50へ装着する際に,この
突出部55が,管体50の内径面,図8においては管体50を被覆する断熱材60
の内径面に干渉して,装着を妨げてしまうという問題が生じていた。
【0007】また,この突出部55が管体50の内径面と干渉してしまうこと
で,内径カバー体52は内側から外側に向かって押圧されて,左右の内径カバー体
52,52とがなす対向角度を微小に変化させてしまう。そのため,雄係合部を,雌
係合部内へ挿入して係合させる際に適当な挿入角度を維持させることができず,両
内径カバー体52,52を係合させる作業が煩雑となってしまう問題もあった。
【0008】さらに,突出部55が管体50及び断熱材60の屈曲部内径と干渉
することで,管体50及び断熱材60の屈曲部内径面と,これに装着した屈曲部保
護カバー100の係合部53との間に段部58を形成してしまい,体裁が悪いとい
う問題もあった。
【0009】さらに,このような従来の管体50の屈曲部保護カバー100にお
ける雌係合部は,内径カバー体52を構成する板金を,3つの折曲部にて折曲して
三つ折りの対向構造を形成した後,内径カバー体52の形状へ型枠にて型抜くよう
にしていたため,係合部の側端部に切断面が露出しており,取扱いに気を使わなけ
れば怪我をしてしまうおそれがあった。
【0010】なお,この問題を解決するために両内径カバー体の係合部を内径カ
バー体の外面側に位置させた場合,管体への装着性は向上させることができるもの
の,仕上がり体裁が悪い上,係合部の角部がカバー表面に露出されるため販売又は
組立作業時などの取扱いの際に注意深く対処しなければ怪我をしてしまうという問
題が生じてしまい,やはり解決策が望まれていた。
【0011】本発明は,斯かる事情に鑑みてなされたものであって,管体に装着
する際に係合接続させる係合部が管体の屈曲部内径に干渉することを防止して,装
着性を向上させた管体の屈曲部保護カバーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】上記課題を解決するため,請求項1に記載の本発明では,管体の屈
曲部の外径周面を覆う外径カバー体と,管体の屈曲部の内径周面を覆う内径カバー
体とを一体に連接して構成した,弾性素材からなる管体の屈曲部保護カバーにおい
て,前記内径カバー体の内径部分を管体周面と交差する方向に分離離隔して,第1
の内径カバー体と,第2の内径カバー体とを形成し,それぞれの対向する端部を係
合接続自在に構成すると共に,前記第1,第2の内径カバー体のうち一方の内径カ
バー体は,その端部を内方へ折曲して形成した一次折曲部と,この一次折曲部から
の延長部分を中途で外方へ折返して,同一次折曲部と対面させて形成した二次折曲
部と,この二次折曲部と前記一次折曲部との間に形成された略V字状溝部と,前記
二次折曲部からの延長部分を内方へ折曲して形成した係合受歯とを備え,他方の内
径カバー体は,その端部において,前記係合受歯と係合自在に形成された係合歯を
備え,一次折曲部の側端縁を,内径カバー体の側端縁と略テーパー状に対向させて
内方へ位置させると共に,二次折曲部の側端縁を,一次折曲部の側端縁と略テーパ
ー状に対向させてさらに内方に位置させることで,前記第1の内径カバー体と前記
第2の内径カバー体とを係合接続したときに形成される係合接続部分の厚みを,そ
の中央部から側端縁部に向かって漸次的に薄くなるように構成することにより,そ
の側端縁部を前記管体の内径面に密着させた状態で管体を内装するべく構成した。
【0013】また,請求項2に記載の本発明は,請求項1に記載の管体の屈曲部
保護カバーにおいて,前記一方の内径カバー体に形成された前記略V字状溝部中に
前記他方の内径カバー体の端部を嵌入した際に,前記係合受歯と前記係合歯とが係
合して,前記第1,第2の内径カバー体の対向する端部が接続されて両内径カバー
体が一体となるべく構成したことを特徴とした。
【0015】また,請求項3に記載の本発明は,請求項1または請求項2に記載
の管体の屈曲部保護カバーにおいて,前記内径カバー体は,前記係合受歯及び前記
係合歯の少なくとも一方を,対向する端部から互いに離隔する方向へ連続して複数
段に備えたことを特徴とした。
【発明の効果】
【0016】請求項1に係る本発明では,管体の屈曲部の外径周面を覆う外径カ
バー体と,管体の屈曲部の内径周面を覆う内径カバー体とを一体に連接して構成し
た,弾性素材からなる管体の屈曲部保護カバーにおいて,前記内径カバー体の内径
部分を管体周面と交差する方向に分離離隔して,第1の内径カバー体と,第2の内
径カバー体とを形成し,それぞれの対向する端部を係合接続自在に構成すると共
に,前記第1,第2の内径カバー体のうち一方の内径カバー体は,その端部を内方
へ折曲して形成した一次折曲部と,この一次折曲部からの延長部分を中途で外方へ
折返して,同一次折曲部と対面させて形成した二次折曲部と,この二次折曲部と前
記一次折曲部との間に形成された略V字状溝部と,前記二次折曲部からの延長部分
を内方へ折曲して形成した係合受歯とを備え,他方の内径カバー体は,その端部に
おいて,前記係合受歯と係合自在に形成された係合歯を備え,一次折曲部の側端縁
を,内径カバー体の側端縁と略テーパー状に対向させて内方へ位置させると共に,二
次折曲部の側端縁を,一次折曲部の側端縁と略テーパー状に対向させてさらに内方
に位置させることで,前記第1の内径カバー体と前記第2の内径カバー体とを係合
接続したときに形成される係合接続部分の厚みを,その中央部から側端縁部に向か
って漸次的に薄くなるように構成することにより,その側端縁部を前記管体の内径
面に密着させた状態で管体を内装するべく構成したことを特徴とする管体の屈曲部
保護カバーとしたため,両内径カバー体の係合接続部分において,それぞれ端部に
向かって可及的に漸次幅狭となるように形成した両内径カバー体を,両端部近傍が
重合するように互いを係合させることで,係合接続部分における突出部分を可及的
に小さくすると共に係合接続部分の側縁部における厚みを可及的に薄くして,管体
へ装着した際に,内径カバー体が管体の屈曲部内径面に干渉することを防止して,管
体への装着性を向上させて管体の屈曲部を効果的に保護することができる。
【0017】また,請求項1に係る本発明では,前記一次折曲部から前記二次折
曲部を経て前記係合受歯先端に至る前記一方の内径カバー体の端部は,漸次幅狭と
なるように構成したことを特徴としたため,一次折曲部から二次折曲部,二次折曲
部から係合受歯へ向かう板幅を,漸次的に幅狭として一方の内径カバー体における
側端縁部の厚みを可及的に薄くすることができ,管体への装着時に,両内径カバー
体の接続部分が管体の屈曲部内径と干渉することを防止して,管体への装着性を向
上させることができる。
【0018】請求項2に係る本発明では,請求項1に記載の管体の屈曲部保護カ
バーにおいて,前記一方の内径カバー体に形成された前記略V字状溝部中に前記他
方の内径カバー体の端部を嵌入した際に,前記係合受歯と前記係合歯とが係合し
て,前記第1,第2の内径カバー体の対向する端部が接続されて両内径カバー体が
一体となるべく構成したことを特徴としたため,内径カバー体から一次折曲部,一
次折曲部から二次折曲部,二次折曲部から係合受歯へ向かう板幅を,漸次的に幅狭
として,係合部における側端縁部の厚みを可及的に薄くすることができ,管体への
装着時に,両内径カバー体の接続部分が管体の屈曲部内径と干渉することを防止し
て,管体への装着性を向上させることができる。
【0019】請求項3に係る本発明では,請求項1又は請求項2に記載の管体の
屈曲部保護カバーにおいて,前記内径カバー体は,前記係合受歯及び前記係合歯の
少なくとも一方を,対向する端部から互いに離隔する方向へ連続して複数段に備え
たことを特徴としたため,2つの内径カバー体を,内装する管体の径に応じた適当
な係合位置にて互いに係合させることができて,管体の屈曲部において確実に装着
して管体の屈曲部を効果的に保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】図6は,本実施形態に係る管体の屈曲部保護カバー10の内径カバー
体2における係合部3を拡大して示した説明図であって,図6(a)は正面図,図6
(b)は側面図を示している。
【0028】図6(a)(b)に示すように,係合部3は,一方の端部を他方の
端部内に差し込んで係合する構成である,所謂雄雌構造に形成しており,第1の内
径カバー体2aの端部に設けられた雌係合部3aと,第2の内径カバー体2bの端
部に設けられた雄係合部3bとから構成している。
【0029】雌係合部3aは,その内部に雄係合部3bを差込可能な対面構造に
構成しており,この対面構造は,第1の内径カバー体2aの端部に三つの折曲部を
形成して構成すると共に,この対面構造を第1の内径カバー体2aの内面側に設け
た構成としている。
【0030】この雌係合部3aは,第1の内径カバー体2aの端部を内方へ折曲
して形成した一次折曲部7と,この一次折曲部7からの延長部分を中途で外方へ折
返して,同一次折曲部7と対面させて形成した二次折曲部8と,この二次折曲部8
からの延長部分を内方へ折曲して形成した三次折曲部である係合受歯9とを備えて
おり,二次折曲部8と一次折曲部7との対面部には,後述する雄係合部3bが挿入
される略V字状溝部11を形成している。
【0031】また雌係合部3aは,これら3つの折曲部7~9において,一次折
曲部7から二次折曲部8を経て三次折曲部9に向かうに従い,その幅を漸次幅狭と
なるように形成している。すなわち,図6(a)に示すように,雌係合部3aの幅方
向において,一次折曲部7の側端縁を,内径カバー体2aの側端縁と略テーパー状
に対向させて内方へ位置させると共に,二次折曲部8の側端縁を,一次折曲部7の
側端縁と略テーパー状に対向させてさらに内方に位置させるように構成して,内径
カバー体2aの雌係合部3aに形成される厚みを,雌係合部3aの中央部から側端
縁に向かって漸次的に薄くなるように構成している。
【0032】すなわち,図6に示すように,雌係合部3aにおいて,一次折曲部
7の板幅L1と,二次折曲部8の板幅L2と,三次折曲部である係合受歯9の板幅
L3を,L1>L2>L3となるように形成して,係合部3において板幅L3の部
分を最も厚くなるように構成すると共にその厚みが両側縁に向かい漸次薄くなるよ
うに構成している。
【0033】この雌係合部3aの略V字状溝部11内に挿入して係合される雄係
合部3bは,図6(a)(b)に示すように,第2の内径カバー体2bの端部近傍に,雌
係合部3aの係合受歯9に係合される複数個の係合歯19を備えて形成している。
この係合歯19は,第2の内径カバー体2bの外面側から内面側に向かって突出す
る凸状体であって,第2の内径カバー体2bの端部近傍に,3列3段に整列させて
設けている。
【0034】この係合歯19は,第2の内径カバー体2bの端部近傍に,その幅
方向へ切り込みを形成した切込み部18を3列3段に設け,この切込み部18の側
縁部を,外面側から内面側へ押し出すことにより突出させて,凸形状となしたもの
である。
【0048】図5に示すように,本屈曲部保護カバー10を,管体5の屈曲部に,係
合部3a,3bを互いに係合させて取付けた際,屈曲部保護カバー10の開口部1
6から管体5の直管部分が延出される。このとき,開口部16から延出する管体5
の直管部分は,内径カバー体2の係合部3に対して略45度の角度をなして内装さ
れる。
【0049】また,管体5の屈曲部内径面は,開口部16の周縁部と密着すると共
に,屈曲部保護カバー10内方において係合部3の突出部15の方向へ近接するよ
うにカーブした状態で内装される。
【0050】ここで,係合部3は,その側縁部を可及的に薄くすると共に,突出部
15を可及的に小さくして形成している。具体的には,係合部3は,その側端縁か
ら内側方向へ略45度の角度をなして漸次的に厚みを形成する構成としている。従
って,管体5を内装する際に,係合部3が管体5の内径面に干渉することが無く,管
体5の内径面を係合部3の側端縁部に密着させた状態で内装することができる。
【図5】
【図6】
【図8】
イ以上より,本件発明は,次のとおりのものであると認められる。
本件発明は,管体及び管体表面を被覆する断熱材を保護するための保護カバーの
うち,管体の屈曲部分を保護する管体の屈曲部保護カバーに関するものである(【0
001】)。
従来,管体の屈曲部保護カバーは,管体の内径に対応する部分において,管体周
面と交差する方向に分離離隔して,管体の屈曲部の両側面にそれぞれ対応する二つ
の内径カバー体を形成し,いわゆる雄雌構造を採用し,この二つの内径カバー体の
それぞれの対向する端部の一方を他方の内部に差し込んで係止させる機構を設けて
いた(【0004】,【0005】)。しかし,雌係合部において厚みが生じることは避
けられず,内径カバー体の内面から管体へ近接する方向へ突設する突出部が形成さ
れ,同突出部が,管体を被覆する断熱材の内径面に干渉して装着を妨げる,同突出
部が,左右の内径カバー体がなす対向角度を微小に変化させて両内径カバー体を係
合させる作業を煩雑なものにする,同突出部が,管体及び断熱材の屈曲部内径と干
渉し,屈曲部内径面とこれに装着した屈曲部保護カバーの係合部との間に段部を形
成させて体裁を悪くするという問題が生じていた(【0006】~【0008】)。ま
た,従来の屈曲部保護カバーにおける雌係合部は,係合部の側端部に切断面が露出
しており,取扱いに気を使わなければ怪我をしてしまうおそれがあるという問題が
あった上,両内径カバー体の係合部を内径カバー体の外面側に位置させた場合,管
体への装着性は向上させることができるものの,仕上がり体裁が悪い上,係合部の
角部がカバー表面に露出されるため取扱いの際に注意深く対処しなければ怪我をし
てしまうという問題が生じてしまい,やはり解決策が望まれていた(【0009】,【0
010】)。
本件発明は,このような従来の技術に存在する問題点に着目してされたものであ
り,その目的とするところは,管体に装着する際に係合接続させる係合部が管体の
屈曲部内径に干渉することを防止して,装着性を向上させた管体の屈曲部保護カバ
ーを提供することである(【0011】)。
上記目的を達成するために,本件発明は,管体の屈曲部の外径周面を覆う外径カ
バー体と,管体の屈曲部の内径周面を覆う内径カバー体とを一体に連接して構成し
た,弾性素材からなる管体の屈曲部保護カバーにおいて,上記内径カバー体の内径
部分を管体周面と交差する方向に分離離隔して,第1の内径カバー体と,第2の内
径カバー体とを形成し,それぞれの対向する端部を係合接続自在に構成するととも
に,上記第1,第2の内径カバー体のうち一方の内径カバー体は,その端部を内方
へ折り曲げて形成した一次折曲部と,この一次折曲部からの延長部分を中途で外方
へ折り返して,同一次折曲部と対面させて形成した二次折曲部と,この二次折曲部
と上記一次折曲部との間に形成された略V字状溝部と,上記二次折曲部からの延長
部分を内方へ折り曲げて形成した係合受歯とを備え,他方の内径カバー体は,その
端部において,上記係合受歯と係合自在に形成された係合歯を備え,一次折曲部の
側端縁を,内径カバー体の側端縁と略テーパー状に対向させて内方へ位置させると
ともに,二次折曲部の側端縁を,一次折曲部の側端縁と略テーパー状に対向させて
さらに内方に位置させることで,上記第1の内径カバー体と上記第2の内径カバー
体とを係合接続したときに形成される係合接続部分の厚みを,その中央部から側端
縁部に向かって漸次的に薄くなるように構成することにより,その側端縁部を上記
管体の内径面に密着させた状態で管体を内装するべく構成した(【0012】)。
そうすることで,本件発明では,管体への装着時に,両内径カバー体の係合接続
部分が管体の屈曲部内径と干渉することを防止して,管体への装着性を向上させる
ことができる(【0016】,【0017】)。
(2)甲1発明及び甲1の記載事項について
甲1には,「管の表面を被覆した保温材を保護する保護カバー」に関し,以下の記
載があり,以下のア,エ及び図4から,甲1には審決が認定した前記第2の3(2)ア
の甲1発明が記載されているものと認められる。
ア「【0001】【考案の属する技術分野】本考案は,冷媒あるいは温水を
供給する管の表面を被覆した保温材を保護するための保護カバーに関している。」
イ「【考案の実施の形態】図1は直管カバーの接続部を,図2は直管カバ
ー接続部の横断面を,図3は直管カバー接続部の縦断面を,図4は屈曲管カバーを
示している。
【0007】図1において,1は直管カバーであって,円筒形状に形成されてい
て軸方向の側端部に雌型係合部2及び雄型係合部3を設け,保温材の表面に装着す
るまでは各係合部2,3が開放されている。雌型係合部2は,軸方向に平行する側
端部を三つ折りに折り曲げたものであり,又,雄型係合部3は,前記雌型係合部2
と係合させるものであって,抜け止め突子4を設けたものである。」
ウ「【0010】次に直管カバーの接続工程並びに接続された状態を説明す
る。まず直管カバー1(1a)を配管された管20に被覆した保温材21の外側に
当接し,雌型係合部2に雄型係合部3をテープ11を剥がしたシール材10ととも
に差し込み係合して当該保温材21の外側に装着する。図2に示すように,直管カ
バー1は軸方向に平行して形成された接続部にシール材10が貼着されているの
で,当該シール材10によって雌型及び雄型係合部2,3の縦方向の隙間が閉塞さ
れる。」
エ「【0013】図4に示す屈曲管カバーは,一般にエルボカバーと称され
ており配管された管の屈曲部分に装着するものである。屈曲管カバー30は,中央
部が幅広な短冊状部材を半円形に折り曲げた状態で複数枚を連結してエルボ胴部3
1を形成し,該エルボ胴部31の前後面に正面形状が銀杏葉状の締付け板32を固
着したものであって,エルボ胴部31の正面視で該エルボ胴部31の両端内側部か
ら締付け板32に至る部分にシール材33を接着したものである。シール材33は
直管カバー1に設けたものと同質のものであって,軟質のブチルゴム又はこれと同
質資材によるものである。なお,34はシール材33に貼布したテープを示してい
る。
【0014】屈曲管カバー30の装着状態は図示しないが,配管された管20の
直管部分には先に説明した直管カバー1を装着し,直角又は任意角度に屈曲してい
る屈曲部分に屈曲管カバー30を装着する。配管された管の屈曲部分に装着された
屈曲管カバー30は,シール材33が直管カバーと屈曲管カバーの接続部の隙間を
閉塞する。」
(3)甲2発明について
甲2には,「配管カバー用エルボ」に関し,以下の記載があり,それによると,甲
2には審決が認定した第2の3(2)イの甲2発明が記載されているものと認めら
れる。
ア「〔産業上の利用分野〕この考案は,給湯管等の配管の屈曲部を被覆する
エルボに係り,繋ぎ作業を改善できる配管カバー用エルボに関するものである。」
(明細書1頁18行~2頁1行)
イ「第1図は繋ぎ合わせ前の配管カバー用エルボ16の斜視図である。外
側湾曲部18は,配管カバー用エルボ16の周方向へ半円状に曲げられて,配管カ
バー用エルボ16の延び方向へ相互に結合されている複数枚の板金20から成
り,板金20は,一方の隣接側において突条膨出部22を有し,突条膨出部22は
リブとして機能する。繋ぎ側部分24,26は,配管カバー用エルボ16の周方向
における外側湾曲部18の端部に一端側を固定される板金から成り,それら板金は
繋ぎ合わせ前の状態ではほぼ真っ直に延びている。
第2図は繋ぎ側部分24,26の端部の詳細図である。繋ぎ側部分24は,端部
において3回折り返されて,嵌入溝28を形成する。繋ぎ側部分24の端縁30
は,嵌入溝28の奥の方へ折り返されている。繋ぎ側部分24の折り返しは,所定
の弾力性を保持しているので,嵌入溝28は弾力的に拡開自在である。繋ぎ側部分
26は,パンチ工具等により予めポケット状凸部32を端部に加工されるもので,繋
ぎ側部分26の長手方向,すなわち配管カバー用エルボ16の周方向へ複数個,形
成される。ポケット状凸部32は,繋ぎ側部分26の先端方向へ徐々に傾斜し,繋
ぎ側部分26の基端方向へ段部を形成している。
第3図は繋ぎ側部分24,26を相互に繋ぎ合わせた状態を示している。(中略)
最初に第1図の状態の配管カバー用エルボ16を配管10の屈曲部に外角側から被
せる。次に,繋ぎ側部分24,26を湾曲させつつ,接近させ,繋ぎ側部分26の
端部を繋ぎ側部分24の嵌入溝28内へ嵌入する。(中略)繋ぎ側部分26が嵌入溝
28から抜け出ようとする変位に対しては,ポケット状凸部32の段部が端縁30
に当接し,抜けが阻止される。」(明細書5頁12行~7頁8行)
(4)甲3発明について
甲3には,「エルボジヤケツトカバー」に関し,以下の記載があり,それによる
と,甲3には審決が認定した第2の3(2)ウの甲3発明が記載されているものと認
められる。
ア「2実用新案登録請求の範囲
エルボの外側を断熱材で囲みこの断熱材の外側を覆う薄い金属板よりなり主体部
から細長く延びる1対の結合片部を結合させるエルボジヤケツトカバーであつ
て,一方側の前記結合片部にはこの結合片部の先端部をわずかの所定長さだけ外方
へ折曲げて折曲げない部分に近接するようにして端縁部を係合縁部とした第1の折
曲片部と,この第1の折曲片部に続いてこの第1の折曲片部と共にこれより長い所
定長さだけ外方へ折曲げて折曲げない部分に近接するようにした第2の折曲片部
と,この第2の折曲片部に続いてこれより長い所定長さだけ前記第1及び第2の折
曲片部と共に内方へ折曲げて折曲げない部分に近接するようにして第1及び第2の
折曲片部との間に挿入部を形成する第3の折曲片部とを有しており,他方側の前記
結合片部の先端付近には一部に切断して内方へ突出した突起部が形成してあり,こ
の突起部を形成した結合片部の先端部を前記挿入部へ挿入して突起部を係合縁部へ
係合させるようにしたエルボジヤケツトカバー。」(明細書1頁4行~2頁4行)
イ「この考案はエルボの部分を断熱材で囲みその外周を覆つて保護する薄
い金属板よりなるエルボジヤケツトカバーに関するものである。」(明細書2頁7~
9行)
ウ「図面の簡単な説明第1図はこの考案の一実施例を一部断面として示
す側面図,第2図はその背面部図,第3図は結合状態を一部断面として示す要部の
側面図(中略)である。
10はエルボジヤケツトカバーの主体部,11,12は結合片部,17は第1の
折曲片部,18は第2の折曲片部,19は第3の折曲片部,21は係合縁部,22
は挿入部,23は突起部。」(明細書7頁6行~8頁3行)
(5)実公昭46-21562公報(甲4)の記載事項について
甲4には,「保温を要する鉄管等の屈曲部分の保温材保護金具」に関し,以下の
記載がある。
ア「第3図は金具の斜視図」(1欄15行~16行)
イ「本考案は鉄管等で保温を要するもの,殊にその屈曲部の保温材を保護
するための保護金具に関するものである。」(1欄19行~21行)
ウ「1は保温を要する鉄管で略90°に屈曲した個所をもち,鉄管全体に
保温材2が巻付けられている。3,3は鉄管の直線部分の保護金具で保温材2の外
側に巻付けて固定してある。4は屈曲部分の保護金具で,中央部が端部に比し若干
幅広く形成された短冊状の部材5,6,7,8,9を夫々側面U字状に彎曲させて
組合わせさらに銀杏葉状に形成した巻付部材10,10を前記部材5……9の端部
上下に結合して組立てるものである。」(1欄32行~2欄2行)
エ「而してこれを予め保温材2を巻いた鉄管1の屈曲部に嵌め込み,屈曲
している管の内側に巻付部材10,10を引き出し保温材2と保護金具4の間に隙
間が生じないように密着させて巻付部材10,み合わせて結合部2
0を形成して固着するのである。」(2欄28行~33行)
(6)実公昭48-19180号公報(甲5)の記載事項について
甲5には,「保温を要する鉄管等の屈曲部分の保温材保護金具」に関し,以下の記
載がある。
ア「第3図は本考案金具の斜視図」(1欄15行~16行)
イ「本考案は主として屋外に放置される鉄管等で保温を要するもの,殊に
その屈曲部の保温材を風雨から守るための保護金具の改良に関するものである。」
(1欄19行~22行)
ウ「11は保温すべき鉄管等で略90°に屈曲した部分があり,これに保
温材12が巻きつけられている。13,13は直線部分の保護金具で保温材12に
巻装固定してある。14は屈曲部分の保護金具で断面U字状で長手方向の開放部を
円心側にして平面扇形に形成した屈曲部材15の円心側端側に銀杏葉状の締付部材
16,16を溶着してある17は結合部である。而して屈曲部の保温材12上に保
護金具14を嵌め込み,屈曲せる円心側に締付部材16,16を出し保温材12と
金具の間に隙間が生じないように密着させて締付部材16,み合わ
せ結合部17を形成て固定する。」(2欄13行~25行)
みを,その中央部から側端縁部に向かって漸次的に薄くなるように構成することに
より,その側端縁部を前記管体の内径面に密着させた状態で管体を内装するべく構
成した」という記載からすると,第1の内径カバー体と第2の内径カバー体とを係
合接続したときに形成される係合接続部分の中央部に対する側端の縁,すなわ
ち,係合接続部分の幅方向における「縁」の意味であると解される。
以上のとおり,本件特許の請求項1には「側端縁」及び「側端縁部」という二つ
の用語が併存しているものの,その二つの用語の意味ひいては事項Cの内容は上記
のように当業者において容易に理解できるものといえ,本件発明が明確性要件に違
反するとはいえない。
(2)ア原告は,本件明細書において,「側端縁部」は,二次元的な広がりを持つ
部位を指す用語として使用されているものと理解できるが,それを前提とすると,事
項Cは不明確である旨主張する。
しかし,本件特許において,「一次折曲部」や「二次折曲部」が二次元的な広がり
を持つ部位を指しているからといって,それのみで「側端縁部」も同様に二次元的
な広がりを持つ部位を指すと解されるとはいえない。本件明細書の段落【0017】
には「請求項1に係る本発明では,前記一次折曲部から前記二次折曲部を経て前記
係合受歯先端に至る前記一方の内径カバー体の端部は,漸次幅狭となるように構成
したことを特徴としたため,一次折曲部から二次折曲部,二次折曲部から係合受歯
へ向かう板幅を,漸次的に幅狭として一方の内径カバー体における側端縁部の厚み
を可及的に薄くすることができ,管体への装着時に,両内径カバー体の接続部分が
管体の屈曲部内径と干渉することを防止して,管体への装着性を向上させることが
できる。」と記載されていて,この記載から「側端縁部」が一定の厚みを有するとま
ではいえるが,それは必ずしも「側端縁部」が,「一次折曲部」や「二次折曲部」と
同様な意味で二次元的な広がりを持つ部位であることを意味するものではない。そ
して,他に「側端縁部」が二次元的な広がりを持つ部位を指していることをうかが
わせるような記載は本件明細書中には見当たらない。
したがって,「側端縁部」が二次元的な広がりを持つ部位を指すことを前提として
本件発明が不明確であるとする原告の主張は採用することができない。
イ原告は,「側端縁部」が「側端縁」と同様に特定の部材の縁の意味である
と解すると,本件明細書の段落【0017】の「一方の内径カバー体における側端
縁部の厚みを可及的に薄くすることができ」が一方の内径カバー体に使用された部
材の厚さを薄くするという意味となり,なぜ,「管体への装着時に,両内径カバー体
の接続部分が管体の屈曲部内径と干渉することを防止して,管体への装着性を向上
させることができる。」との本件発明の作用効果につながるのか理解できなくなる
から本件発明は不明確であると主張する。
しかし,前記のとおり,「側端縁部」とは,第1の内径カバー体と第2の内径カバ
ー体とを係合接続したときに形成される係合接続部分の幅方向における「縁」と解
されるのであり,その「縁」の厚みが薄くなることは,「管体への装着時に,両内径
カバー体の接続部分が管体の屈曲部内径と干渉することを防止して,管体への装着
性を向上させることができる。」との本件発明の作用効果を奏することになるか
ら,原告の主張を採用することはできない。
3取消事由2(進歩性判断の誤り)
(1)甲1発明を主引用発明とする進歩性の欠如について
ア本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると,前記第2の3(2)アの一致点及び相違点
が認められ,審決の一致点及び相違点の認定に誤りはない。
本件発明1は,「①一次折曲部の側端縁を,内径カバー体の側端縁と略テーパー状
に対向させて幅方向において内方へ位置させると共に,二次折曲部の側端縁を,一
次折曲部の側端縁と略テーパー状に対向させて幅方向においてさらに内方に位置さ
せることで,②前記第1の内径カバー体と前記第2の内径カバー体とを係合接続し
たときに形成される係合接続部分の厚みを,その中央部から側端縁部に向かって漸
次的に薄くなるように構成することにより,③その側端縁部を前記管体の内径面に
密着させた状態で管体を内装するべく構成した」という事項(以下「事項D」とい
う。)によって特定された発明であって,かつ事項Dは本件発明1と甲1発明との相
違点2(なお,後述するように,事項Dは,本件発明1と甲2,3発明との相違点
でもある。)に含まれるものである。
この点について,原告は,下線部②の構成は,下線部①の構成を採用することで
必然的に達成される上,下線部③の構成は,管体の内径面の大きさによっては達成
されないこともある不確定な構成であるから,進歩性判断に当たっては,下線部①
の構成が容易想到であるかを検討すれば足り,下線部②,③の構成は捨象されるべ
きであると主張する。
しかし,以下に示すように,下線部③の構成については,下線部①の構成とは別
にこれを進歩性判断の中で検討する必要があるものである。
すなわち,下線部①の構成を採用したとしても,一次折曲部の側端縁と内径カバ
ー体の側端縁との間で対向する部分の略テーパー状とされる度合い(幅方向に狭ま
っていく度合い)が十分なものでなければ,内径カバー体の側端縁に対向する一次
折曲部の側端縁が十分に内方に位置せず,そのために,係合接続部分の側端縁部の
極めて近くまで,内径カバー体と一次折曲部による重なり合いが生じることとなる。
また,二次折曲部の側端縁と一次折曲部の側端縁との間で対向する部分の略テーパ
ー状とされる度合いが十分なものでなければ,一次折曲部の側端縁に対向する二次
折曲部の側端縁が十分に内方に位置せず,そのために,一次折曲部の側端縁の極め
て近くまで一次折曲部と二次折曲部による重なり合いが生じることとなる。このよ
うな場合には,係合接続部分の中央部から離れた部分が管体へ近接する方向に突出
し,管体の内径面の大きさに関係なく,側端縁部が管体の内径面に密着しなくなっ
て,下線部③の構成が達成されなくなることが想定できる。したがって,本件発明
1は,下線部①の構成を採用して,一次折曲部の側端縁と内径カバー体の側端縁と
の対向する部分及び二次折曲部の側端縁と一次折曲部の側端縁との対向する部分
が,略テーパー状とされていれば,その略テーパー状とされる度合いがいかなるも
のであっても許容されるというものではなく,少なくとも下線部③の構成が達成さ
れる程度の度合いで内径カバー体と一次折曲部の各側端縁,一次折曲部と二次折曲
部の側端縁がそれぞれ略テーパー状となること,換言すれば,内径カバー体のうち
二次折曲部の先端となる部分までが,そのような略テーパー状となる程度において
漸次幅狭形状であることをも要求しているものであって,それを達成しないものを
排除していると解される。
よって,下線部①の構成についてのみ進歩性を判断すべきであるとの原告の上記
主張を採用することはできない。
イ相違点2の容易想到性について
原告は,甲1の図4に甲1の図2を組み合わせるか,又は甲1の図4
と図2を組み合わせた発明に甲4~8のいずれかを組み合わせることで本件発明1
の構成に至り,組み合わせる動機付けもあるなどと主張する。
甲1発明について,甲1の図4を見ても,本件発明の内径カバー体
に相当する甲1発明の締付け板32が二次折曲部の先端となると部分にいくに従っ
て漸次幅狭となっているのかについては明らかではなく,締付け板32の一方の先
端部を折り返して雌係合部を形成したとしても,そもそも下線部①の構成が得られ
るとは認められない。
また,原告が主張するように締付け板32が「漸次幅狭形状」で下線部①の略テ
ーパー状が形成されることが甲1から認められるとしても,下線部③の構成を達成
できる程度に略テーパー状が形成される程に締付け板32が二次折曲部の先端とな
る部分まで幅狭となっているかどうかは甲1からは全く不明であり,甲1の図4に
甲1の図2を組み合わせても下線部③の構成が得られるとは認められない。
b甲4~8についても,少なくとも甲4,5,8においては,それぞ
れの図面や記載を見ても,本件発明の内径カバー体に各々相当する部材が,「漸次幅
狭形状」となっているとまでは認められないのであり,同部材の先端部を折り返し
て雌係合部を形成したとしても,そもそも下線部①の構成が得られるとは認められ
ない。
また,仮に原告が主張するように甲4~8の各々について上記内径カバー体に相
当する部材が,「漸次幅狭形状」となっていることが認められるとしても,上記甲1
の場合と同様,下線部③の構成を達成できる程度の略テーパー状が形成されるよう
に同部材が二次折曲部の先端となる部分まで漸次幅狭となっていることまでは甲4
~8から何ら読み取れないから,甲1の図4と図2を組み合わせた発明に甲4~8
を組み合わせても下線部③の構成が得られるものではない。
c以上のとおりであるから,その余の点について判断するまでもな
く,本件発明1は甲1発明から容易想到なものとはいえない。
エ本件発明2,3の容易想到性について
本件発明2,3は,請求項1を引用するものであり,本件発明1の全ての発明特
定事項を含むものであるから,本件発明1について甲1発明から容易想到といえな
い以上,本件発明2,3についても,本件発明1と同様に容易想到とはいえない。
(2)甲2発明を主引用発明とする進歩性欠如について
ア本件発明1と甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると,前記第2の3(2)イ
(なお,相違点は事項Dと同一である。)が認められ,審決の一致点及び相違点の認
定に誤りはない。
イ相違点の容易想到性について
甲2発明において,本件発明の内径カバー体に相当する部材が「漸次幅狭形状」
でないことは,甲2の記載から明らかであるから,下線部①の構成が得られない。
また,上記(1)で検討したのと同様に,仮に甲4~8において本件発明の内径カバー
体に相当する部材が各々「漸次幅狭形状」となっていることが認められるとして
も,下線部③の構成を達成できる程度の略テーパー状が形成されるように同部材が
二次折曲部の先端となる部分まで漸次幅狭となっていることまでは読み取れないの
であるから,甲2発明に甲4~8を組み合わせたとしても,相違点に係る下線部③
の構成が得られるものではない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件発明1は甲2発明か
ら容易想到であるとはいえない。
ウ本件発明2,3の容易想到性について
本件発明2,3は,請求項1を引用するものであり,本件発明1の全ての発明特
定事項を含むものであるから,本件発明1について甲2発明から容易想到といえな
い以上,本件発明2,3についても,本件発明1と同様に容易想到とはいえない。
(3)甲3発明を主引用発明とする進歩性欠如について
ア本件発明1と甲3発明との対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると,前記第2の3(2)
(なお,相違点は事項Dと同一である。)が認められ,審決の一致点及び相違点の認
定に誤りはない。
イ相違点の容易想到性について
甲3発明において,本件発明の内径カバー体に相当する部材が「漸次幅狭形状」
でないことは,甲3の記載から明らかであるから,下線部①の構成が得られない。
また,上記(1)で検討したのと同様に,仮に甲4~8において本件発明の内径カバー
体に相当する部材が各々「漸次幅狭形状」となっていることが認められるとして
も,下線部③の構成を達成できる程度の略テーパー状が形成されるように同部材が
二次折曲部の先端となる部分まで漸次幅狭となっていることまでは読み取れないか
ら,甲3発明に甲4~8を組み合わせたとしても,相違点に係る下線部③の構成が
得られるものではない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件発明1は甲3発明か
ら容易想到であるとはいえない。
ウ本件発明2,3の容易想到性について
本件発明2,3は,請求項1を引用するものであり,本件発明1の全ての発明特
定事項を含むものであるから,本件発明1について甲3発明から容易想到といえな
い以上,本件発明2,3についても,本件発明1と同様に容易想到とはいえない。
(4)なお,原告は,審決が「その先端に至るまで漸次幅狭形状である」という
本件発明の特許請求の範囲に何ら記載のない事項を追加して本件発明を限定的に解
釈し,進歩性判断を行っており違法である旨も主張する。
しかし,その説示内容に照らすと,審決は,甲1,4~8において本件発明の内
径カバー体に相当する部材について,その先端部を折り返して雌係合部を形成した
としても,本件発明1と甲1~3発明との各相違点に係る事項Dに係る構成が得ら
れないことを表すために上記表現を用いたものと認められ,「その先端に至るまで
漸次幅狭形状」についても,折り曲げた際に係合受歯になる部分まで漸次幅狭であ
ることが必要であるとする趣旨ではなく,一次折曲部の側端縁と略テーパー状に対
向することを要する二次折曲部の先端までの範囲は漸次幅狭であることを要するこ
とを明らかにする趣旨の記載であると理解することができる。
したがって,審決が本件発明の特許請求の範囲に何ら記載のない事項を追加して
本件発明を限定的に解釈して進歩性判断をしたとはいえない。
(5)また,被告は,平成30年6月7日付け原告第4準備書面に基づく原告の
主張が,時期に後れた攻撃防御方法であると主張するが,原告の上記主張が訴訟の
完結を遅延させるものとはいえないから,時機に後れた攻撃防御方法には当たらな
いというべきである。
第6結論
よって,原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして,主文のとお
り判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
森義之
裁判官
佐野信
裁判官
熊谷大輔

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