弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 被告【A】は、原告に対し、金二四万六〇〇〇円及びこれに対する昭和六三年
七月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告【A】及び同【B】は、連帯して原告に対し、金三三万六〇〇〇円及びこ
れに対する昭和六三年七月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払
え。
三 被告【A】、同【B】及び同エース株式会社は、連帯して原告に対し、金六八
万二〇〇〇円及びこれに対する昭和六三年七月二〇日から支払ずみまで年五分の割
合による金員を支払え。
四 訴訟費用は被告らの負担とする。
五 この判決は仮に執行することができる。
       事実及び理由
第一 請求の趣旨
主文同旨
第二 事案の概要
一 当事者
1 原告
 原告は、日本音楽著作権協会、通称JASRAC(Japanese Soci
ety for Rights of Authors, Composers 
and Publishers)といい、著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律
(昭和一四年法律第六七号、以下「仲介業務法」という。)に基づく内務大臣(昭
和四三年法律第九九号による改正後は文化庁長官)の仲介業務実施の許可を受けた
我が国唯一の音楽著作権仲介団体であり、内外国の音楽の著作物(著作権法一〇条
一項二号。著作権法については、以下原則として法律名を省略する。)につき各著
作権者から著作権ないしその支分権たる演奏権(二二条)、録音権(二一条、二条
一項一三号、一五号)及び上映権(二六条二項、二条一項一九号)等の移転(国内
の著作物については、会員たる著作権者との間に締結された著作権信託契約約款に
基づく信託、外国の著作物については、我が国の締結した万国著作権条約に加盟す
る諸外国の音楽著作権管理団体との間に締結された相互管理契約に基づく信託)を
受けてそれらの信託著作権を管理し、国内のラジオ・テレビ等の放送事業者をはじ
め、レコード、映画、出版、興行、社交場、有線放送等の分野における音楽使用者
に対して使用許諾を与え、右使用許諾の対価として、仲介業務法三条一項に基づく
文化庁長官の認可を得た「著作物使用料規程」に定める一定の使用料を全国の音楽
使用者から徴収して、これを内外の著作権者に分配することを主たる目的とする社
団法人である。別紙「カラオケ楽曲リスト」及び同追補に記載の各音楽著作物は、
いずれも原告が信託著作権を管理する音楽著作物(以下「管理著作権」「管理著作
物」という。)であり、これらはカラオケの伴奏で歌唱された使用実績を有する主
要な曲目に該当し、今日、カラオケ装置を設置している一般の社交飲食店におい
て、日常的に反復継続して利用されている楽曲である。そして、原告は、カラオケ
伴奏による歌唱について年間の包括的使用許諾契約を結ぶ場合の使用料額を特に定
め、昭和六二年四月一日からその一斉徴収を開始している。(甲一~四、二〇、二
四、二五、弁論の全趣旨)
2 被告ら
(一) 被告【A】(【旧姓○○】、以下「被告【A】」という。)は、昭和五八
年九月一九日頃、大阪市<以下略>(当時の住居表示は南区<以下略>)所在の日
宝スターライトビル七階において、【D】との共同経営にかかるスナック「魅留
来」(客席面積一七坪、客席総数四九席、以下「本件店舗」という。)を開店し、
これを経営していたところ、昭和六一年四月頃【D】との共同経営を解消してその
経営を現在の夫である被告【B】(平成二年二月五日被告【A】と婚姻届出、以下
「被告【B】」という。)との共同経営に移し営業を継続していたが、昭和六三年
七月一六日本件店舗を閉店し、その頃、同市<以下略>所在エーデルプラッツェビ
ル五階にスナック「パセリ」を開店した。(甲一八、一九、三九、四〇、九〇、九
四の1・2、九五、被告【B】本人、弁論の全趣旨)
(二) 被告エース株式会社(以下「被告会社」という。)は、音響機器のリース
又は販売等を業とする株式会社であり、スナック、バー、クラブ等を対象に業務用
カラオケ装置をリース又は販売している。(争いがない)
二 被告らの行為
1 被告会社は、昭和六一年五月一一日、被告【A】及び同【B】との間に、被告
会社所有の業務用レーザーディスクカラオケ装置(パイオニア株式会社製レーザー
ビジョンプレイヤーLDーV15ヨコ型システム〔甲一六、一一三参照、以下「本
件装置」という。〕)一台について、リース契約(以下「本件リース契約」とい
う。)を締結し(但し、契約書上の借主名義人は被告【A】)、同月一七日、本件
装置を本件店舗内に搬入し、営業用に稼働できる状態にして設置して同被告らに引
渡した。右引渡時において、本件装置は、レーザーディスクプレイヤーV15とア
ンプ各一台の他に、① これを稼動させるための、収録音楽著作物の大部分が原告
の管理著作物であるレーザーディスクソフト(株式会社第一興商〔以下「第一興
商」という。〕製デジタルレーザーカラオケディスク三八枚)、② 本件装置を設
置した店の顧客がリクエストする曲目を選択できるように演奏に供せられる音楽著
作物の全てのタイトルを一覧表形式で配列し編集印刷した「早見表」(甲四二)と
リクエストカード(甲九七)、③ レーザーディスクソフトを再生し音楽の伴奏と
同時に画面に映像と歌詞を映すモニターテレビ、④ 歌唱用のマイク、⑤ スピー
カー等が付属し、それらを一括してレーザーディスクカラオケ装置一式が構成され
ており、本件装置にコイン(一〇〇円硬貨二枚)を挿入し簡単な操作をすることに
よって、カラオケの伴奏音楽と映像及び歌詞を同時に再生する機械装置が作動し、
設置場所におけるカラオケの即時利用が可能となる装置である。右リース契約で
は、借主は被告会社に対し、一か月基本使用料として二万円を支払うほか、一か月
の売上金(一回二〇〇円の合計分)を借主と被告会社で折半して取得する旨約定さ
れており、その売上金収納庫の鍵は被告会社が所持していた。そして、被告会社の
従業員が月二回本件店舗を訪れ所持の鍵で売上金収納庫の施錠を外し売上金を分配
していた。また、原告が被告らを債務者として本訴を本案とする仮処分命令の申立
をした後の状況は、後記第四の一12に認定のとおりである。(甲一六、二九、四
二、九七、一一三、丙二、三、被告【B】本人、弁論の全趣旨)
2 被告【A】及び同【B】は、本件店舗における全営業期間(但し、被告【B】
は昭和六一年四月頃以降)を通じて、原告の使用許諾を得ないで、日曜祭日を除い
た毎営業日(月平均二五日)の午後七時頃から翌日午前〇時三〇分頃までの営業時
間中、従業員(ホステス)により客に飲食を提供するかたわら、本件店舗内に、①
 開店当時から昭和六一年五月一六日(本件装置の引渡日の前日)までの間は、株
式会社大音からリースを受けオーディオカラオケ装置(テープデッキ、マイクロホ
ン、アンプ、スピーカー等の機器を組み合わせ、伴奏音楽を収録したカラオケテー
プを再生すると同時に、これに合わせてマイクロホンを使って歌唱できるように構
成された装置)を、② 同月一七日(本件装置の引渡日)から昭和六三年七月一六
日(本件店舗の閉店日)までの間は、被告会社からリースを受けてレーザーディス
クカラオケ装置(本件装置)をそれぞれ設置し、右リース契約の運営規則(丙二、
三〔リース契約書〕のリース契約物件欄下部の※印欄参照)及びカラオケ装置本来
の用法(右各契約書2条参照)に従い、この間これらの装置を稼働させるための、
原告の管理著作物である伴奏音楽を収録した多数のカラオケテープ若しくはカラオ
ケレーザーディスクを常備し、客にマイクと原告の管理楽曲を含む楽曲の曲目の索
引リストを渡して歌唱を勧め、常備してある右カラオケテープ若しくはカラオケレ
ーザーディスクの中から好みの楽曲の曲目を客に選択させたうえ、従業員に右オー
ディオカラオケ装置若しくはレーザーディスクカラオケ装置(本件装置)を操作さ
せて、伴奏音楽を収録したカラオケテープを再生し、或いはレーザーディスクによ
り録画した映画を上映するとともに、歌詞(文字表示)を画面に表示したうえ、伴
奏音楽の演奏を再生し、客にそれらの伴奏音楽の旋律に合わせて他の客の面前で当
該楽曲を歌唱させ、また、しばしばホステス等にも客と共に或いは単独で歌唱さ
せ、これをその場に来集した不特定多数の客に聞かせ、もって、いわゆるカラオケ
スナックとしての店の雰囲気作りをし、かかる雰囲気を好む客の来集を図って営業
上の利益を増大させていた。(甲一八~二三、二九、証人【E】・同【F】、被告
【B】本人尋問、弁論の全趣旨)
三 原告の著作物使用料規程
 原告は、仲介業務法三条一項に基づき、管理著作物の使用料について、昭和一五
年二月二九日主務大臣の認可を受けて著作物使用料規程を定めて以来、これに従っ
て管理著作物の利用者から使用料を徴収しているが、その内容は、次のとおりであ
る。
1 旧規程による著作物使用料(甲七、八、九三の1、証人【E】)
 昭和四六年四月一日以降施行の著作物使用料規程(甲七、「旧規程」という。)
によると、生演奏のうち、軽音楽一曲一回の演奏会形式による使用料は、定員、平
均入場料及び使用時間によって類型区分された料金表によって規定されており、定
員五〇〇名未満(第一類)の場合、その料率は別表(一)記載のとおりであり、こ
れをカフェー、クラブ、スナック等の社交場における演奏に適用する場合は、軽音
楽一曲一回の演奏会形式による演奏についての使用料の一〇〇分の五〇の範囲内で
使用状況等を参酌して具体的な使用料を決定することとされている。そして、原告
による社交場における演奏の場合の使用状況等の参酌方法は次のとおりである。す
なわち、① 定員については五〇〇名未満を一〇〇名単位で段階的に区分し、客席
数に応じて使用料を逓減し(著作物使用料規程取扱細則〔社交場〕六条)、② 平
均入場料については、入場料金を明示しない場合、一セット料金(飲食税、サービ
ス料を含む。)又は同相当額に三〇%を乗じた金額に、テーブルチャージ、席料な
どがある場合は、更にその額を加算した額を平均入場料として使用料を算定し(同
四条)、③ カラオケ伴奏による歌唱については、特別使用許諾契約(同七条)の
場合と同率の五割の減額措置を講じた上、適法に録音された音楽著作物の演奏の再
生についての経過措置(著作権法附則一四条、旧著作権法三〇条一項八号、著作権
法施行令附則三条参照)の趣旨を参酌してその二割を減じ、素人の客が歌唱するこ
とにより職業歌手ほどの効果があがらないことを理由に更にその二割を減じて使用
料を算出する取扱いで統一している。
2 新規程による著作物使用料(甲二四、二五、九三の1、証人【E】)
 原告は、昭和六一年六月二日、社交場(バー、キャバレー、スナックなど)等に
おける演奏使用料を全面改正することを主たる目的とし、その一環としてカラオケ
伴奏による歌唱についても演奏権が及ぶことを明示し、その歌唱使用料について、
固有の規定を設けるための著作物使用料規程改正の認可申請をし、著作権審議会の
答申を経て、一部修正のうえ同年八月一三日文化庁長官の認可を得た。そして、右
改正規程(以下「新規程」という。)は昭和六二年四月一日から施行されるに至っ
た。
(一) 本則
 新規程によると、社交場における生演奏一曲一回使用時間五分までの使用料は、
座席数(面積)及び標準単位料金の区分により別表(二)のとおり定められてい
る。なお、カラオケ伴奏による歌唱の場合でも、次の(二)の特則の適用がないと
きは本則が適用されるが(甲二四の備考⑰〔一〇頁〕及び「本則」別表15〔二八
頁〕)、旧規程の場合と同様の参酌による減額措置(但し、ビデオカラオケについ
ては減額は合計六割の限度)を講じて使用料を算出する取扱いで統一している。
(二) カラオケ伴奏による歌唱につき年間使用許諾契約を結ぶ場合の特則
 新規程は、第2章著作物の使用料率に関する事項、第2節演奏等、4社交場にお
ける演奏等中の(社交場における演奏等の備考)と題する規定中において、(カラ
オケ伴奏による歌唱)と題して次のように定めている。すなわち、
 各業種(業種8及び業種11から業種14までを除く。)において、カラオケ伴
奏による歌唱(歌手などの出演者が出演報酬をうけて行う歌唱は除く。以下同
じ。)が行われる場合で、かつ、年間の包括的使用許諾契約を結ぶ場合の使用料
は、当分の間、次のとおりとする。
(1) オーディオカラオケによる歌唱(静止画を同時に再生する装置による場合
を含む。)
区分 客席面積又は宴会場面積 月額使用料
1 五坪(一六・五m2)を超え一〇坪(三三・〇m2)まで 三〇〇〇円
2 一〇坪(三三・〇m2)を超え一五坪(四九・五m2)まで 五〇〇〇円
3 一五坪(四九・五m2)を超え二〇坪(六六・〇m2)まで 六〇〇〇円
4 二〇坪(六六・〇m2)を超え三〇坪(九九・〇m2)まで 八〇〇〇円
5 三〇坪(九九・〇m2)を超え五〇坪(一六五・〇m2)まで 一万円
(2) ビデオカラオケによる歌唱
区分 客席面積又は宴会場面積 月額使用料
1 五坪(一六・五m2)を超え一〇坪(三三・〇m2)まで 四五〇〇円
2 一〇坪(三三・〇m2)を超え一五坪(四九・五m2)まで 七五〇〇円
3 一五坪(四九・五m2)を超え二〇坪(六六・〇m2)まで 九〇〇〇円
4 二〇坪(六六・〇m2)を超え三〇坪(九九・〇m2)まで 一万二〇〇〇円
5 三〇坪(九九・〇m2)を超え五〇坪(一六五・〇m2)まで 一万五〇〇〇

(注) 一 特定客を対象とする宴会などが行われる宴会場はその面積が一〇坪
(三三平方メートル)未満、その他は、客席面積が五坪(一六・五平方メートル)
未満である場合、当分の間、その使用料の支払を免除する。
二 五〇坪を超える場合及びカラオケ専業店の場合については生演奏の使用料を適
用する。
 包括使用許諾契約を結んでいない場合は、一曲一回の使用料により算出する。
四 請求の概要
① 歌唱が演奏に該当することは著作権法の明示するところであり(二条一項一六
号)、客の歌唱はカラオケ装置を設置している店により誘引されており、店は客の
歌唱を通じて店の利益を図っているのであるから、音楽の利用主体は店であると解
するべきであって、本件において、オーディオカラオケ装置又はレーザーディスク
カラオケ装置(本件装置)を使用したカラオケ伴奏による、従業員の歌唱は勿論、
客の歌唱行為についても、その主体は本件店舗の経営者ないし共同経営者である被
告【A】及び同【B】にあるから、右歌唱行為は営利を目的として音楽著作物を公
衆に直接聞かせるために演奏する行為に該当し(二二条)、原告の許諾を得ない右
歌唱行為(一日の使用曲数四〇曲)は、原告の管理著作権の内容である演奏権の侵
害となること、② また、レーザーディスクカラオケは、レーザーディスクの中に
原告の管理著作物を収録したものであり、映像の連続を伴うレーザーディスクの再
生は映画の著作物の上映に該当し、楽曲のイメージに合った連続映像とともに画面
に映し出される歌詞(文字表示)及びレーザーディスクの再生に伴って再生される
伴奏音楽(二六条二項、二条一項一九号)の双方が上映に該当すること、したがっ
て、原告の許諾を受けない、被告【A】及び同【B】の本件店舗における本件装置
によるレーザーディスクの再生行為は、原告の管理著作権の一支分権である上映権
の侵害となること、③ 被告会社は、右著作権(演奏権・上映権)侵害の原因行為
を組成する業務用レーザーディスクカラオケ装置を提供するリース契約締結業務を
日常的に反復継続する者として、右各著作権侵害の結果の発生を認識・認容しなが
ら故意に本件装置を被告【A】及び同【B】に対しリースしこれを継続したもので
あり、仮にそうでないとしても、被告【A】及び同【B】による右①、②の各著作
権侵害行為の結果を当然に予見し得たのであるから、右結果発生を回避すべき注意
義務があるのにこれを怠り、漫然と同被告らとの間に本件リース契約を締結し、こ
れを継続した点において過失があり、被告会社は被告【A】及び同【B】の右①、
②の著作権侵害行為に加担したこと(民法七一九条)を理由に、各被告に対し、以
下の金員の支払を請求。
1 被告【A】に対し、昭和六〇年七月九日(不法行為の時効完成日の翌日。本訴
の提起日は昭和六三年七月八日)から昭和六一年五月一六日(オーディオカラオケ
使用の最終日)までの間の、オーディオカラオケを使用しての無断歌唱(一日の使
用曲数四〇曲)について、前記三1の旧規程の著作物使用料率(別表(一))に基
づき、前記三1記載の諸要素を参酌して、別表(三)記載の計算表の算定方法によ
り算定した、著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する金員(著作権
法一一四条二項、以下「使用料相当損害金」という。)二四万六〇〇〇円の支払
2 被告【A】及び同【B】に対し、昭和六一年五月一七日(本件装置の引渡日)
から昭和六二年三月三一日(新規程の施行日の前日)までの間の、レーザーディス
クカラオケを使用しての無断上映及び歌唱(一日の使用曲数四〇曲)について、1
と同様に旧規程の著作物使用料率(別表(一))に基づき、前記三1記載の諸要素
を参酌して、別表(四)記載の計算表の算定方法により算定した使用料相当損害金
三三万六〇〇〇円の連帯支払
3 被告【A】、同【B】及び被告会社に対し、昭和六二年四月一日(新規程の施
行日)から昭和六三年七月一六日(本件店舗の閉店日)までの間のレーザーディス
クカラオケを使用しての無断上映及び歌唱(一日の使用曲数四〇曲)について、前
記三2(一)の新規程の生演奏による著作物使用料(別表(二))に基づき、前記
三1記載の諸要素を参酌して、別表(五)記載の計算表の算定方法により算定した
使用料相当損害金六八万二〇〇〇円の連帯支払
五 主な争点
1 被告【A】及び同【B】の損害賠償責任の有無。すなわち、カラオケ伴奏によ
る客の歌唱につきカラオケ装置設置のスナック店経営者が著作権侵害の不法行為責
任を負うか。
2 被告会社の損害賠償責任の有無。すなわち、前項が肯定される場合、右カラオ
ケ装置のリース業者が著作権侵害の不法行為責任を負うか。
3 被告らが損害賠償責任を負担する場合、被告らが賠償すべき使用料相当損害金
額。
第三 争点に関する当事者の主張
一 争点1(被告【A】及び同【B】の損害賠償責任の有無)
【原告の主張】
1 被告【A】及び同【B】の責任原因
 スナック等の経営者が、カラオケ装置と音楽著作物たる楽曲の録音されたカラオ
ケソフトとを備え置き、客に歌唱を勧め、客の選択した曲目のカラオケソフトの再
生による伴奏により他の客の面前で歌唱させるなどし、もって店の雰囲気作りを
し、客の来集を図って利益をあげることを意図しているときは、右経営者は、当該
音楽著作物の著作権者の許諾を得ない限り、客による歌唱につき、その歌唱の主体
として演奏権侵害による不法行為責任を免れない(最高裁第三小法廷昭和六三年三
月一五日判決民集四二巻三号一九九頁)。したがって、被告【A】及び同【B】の
前記第二の二2①の昭和六〇年七月九日から昭和六一年五月一六日までの間のオー
ディオカラオケ装置の無許諾での利用行為は原告の演奏権の侵害となる。
 また、著作権法二条一項一九号は、「上映」について「著作物を映写幕その他の
物に映写することをいい、これに伴って映画の著作物において固定されている音を
再生することを含むものとする。」と定義しており、同法二六条二項は、「著作者
は、映画の著作物において複製されているその著作物を公に上映し、又は当該映画
の著作物の複製物により頒布する権利を専有する。」と規定している。したがっ
て、レーザーディスクカラオケ装置については、原告の許諾を得ないで、録画した
映画の上映とともに管理著作物の歌詞を画面に表示し、同時に収録された管理著作
物の伴奏音楽を再生することは、原告の管理著作権の一支分権である上映権の侵害
となるとともに、この伴奏音楽の旋律に合わせた客の歌唱は、オーディオカラオケ
装置の場合と同様に原告の管理著作権の一支分権である演奏権の侵害となる。した
がって、被告【A】及び同【B】の前記第二の二2②の昭和六一年五月一七日から
昭和六三年七月一六日までの間のレーザーディスクカラオケ装置(本件装置)を使
用しての無許諾での上映及び歌唱行為は原告の上映権及び演奏権の侵害となる。
2 被告【A】及び同【B】の主張について
(一) カラオケ伴奏による客の歌唱は著作権法上の演奏とはいえないとの主張に
ついて
 被告【A】及び同【B】は、カラオケ伴奏による客の歌唱を営業主であるカラオ
ケスナック店の経営者の歌唱と同視することはできず、それは、公衆に直接聞かせ
るものではなく、営利の目的も有していないから、著作権法上の演奏とはいえず、
著作権法二二条、六三条に基づく著作者又は著作権者の権利を侵害するものではな
い旨主張するが、右主張は失当である。
 すなわち、カラオケ伴奏による客の歌唱という音楽著作物の利用形態が出現する
以前には、クラブやスナック等における飲食客は、通常単なる音楽演奏の受け手
(聴衆)にすぎず、店の経営者は、その送り手として音楽演奏を客に提供し、客は
専らこれを受けて楽しむエンドユーザーとしての立場にあった。その場合、当然の
ことながら、著作権法の規律(演奏権)は音楽著作物の利用主体である店の経営者
を対象として及び、客はその埒外にあったのである。しかし、昭和五〇年代以降、
社交飲食店業界において、店の経営者は、営業政策上、営業に必要な音楽提供の方
法として、店に生演奏の演奏者を常置する以外に、又はそれに代えてカラオケ装置
とカラオケテープ、ビデオディスク、レーザーディスク等のカラオケソフトを備
え、それらを再生したカラオケの伴奏音楽の旋律に合わせて、店に来集した飲食客
に歌唱させ、その音楽効果を自己の店の雰囲気作りに利用して営業する方式を取り
入れ、これが業界で広く一般化し普及するに至ったのである。その結果、従来音楽
演奏の受け手(聴衆)にすぎなかった客は、現在では、① 店に飲食代金を支払っ
て、カラオケ伴奏で各自楽しむというエンドユーザーの立場と、② 店の経営方針
の下で、カラオケ伴奏により音楽著作物を歌唱するという積極的な実演行為者(カ
ラオケ歌手)の立場の二面性を有するに至っている。著作権法がカラオケスナック
店における客の歌唱までをその対象とはしていないとする、被告【A】及び同
【B】の主張は、客の①の立場のみを一方的に強調し、②の立場を全く無視してお
り、現実のカラオケスナック店の経営実態と乖離した主張というべきである。これ
を本件店舗に即して見れば、昭和五八年九月の本件店舗の開店以来、他のカラオケ
スナック店と同様に、むしろ客の②の立場を積極的に利用し、客に勧めて店内で原
告の管理著作物を歌唱させ、店の雰囲気作りをするとともに、営業上の利益の増大
を図ってきたのであるから、本件店舗におけるカラオケ伴奏による客の歌唱の主体
性が同被告ら自身にあることは明らかである。同被告らの主張は、要するに観賞に
耐えるプロの演奏家の演奏にのみ著作権が及び、素人のそれには及ばないという主
張に帰着するものであるが、判例は、素人の客の歌唱も著作権法上の著作物の実演
であり、これに対してその利用主体である店の経営者に演奏権が及ぶことを認めて
いるし(前掲最高裁判決参照)、著作権法は、著作隣接権による保護の対象となる
べき実演(二条一項三号)の定義について実演を行う者が素人(アマチュア)か玄
人(プロフェッショナル)かを区別していない(【G】著作権法逐条講義新版22
頁~23頁)のであるから、同被告らの主張は理由がない。
 また、被告【A】及び同【B】は、カラオケ伴奏による客の歌唱については店の
経営者が音楽著作物の利用主体となるとする前掲最高裁判決の法理に敢えて異論を
唱え、店の経営者が歌唱の主体であるとするのは、余りにも擬制的に過ぎ、社会常
識に合致しない旨主張する。しかしながら、右主張は、右判決の趣旨を誤解するも
のであり理由がない。すなわち、店の経営者は、客の歌唱を利用し、音楽提供の方
法として来集した客に対し、自ら歌唱したのと同様の効果を期待し、自己の管理下
で客が歌唱することを許容しているのであるから、カラオケスナック店で客が歌唱
するのは店のホステス等の従業員が歌うのと同じく営利目的をもった、店自身が演
奏権を行使しているのと同視できる行為であり、この点について、右最高裁判決
も、「客による歌唱も著作権法上の規律の観点からは、経営者による歌唱と同視し
うる」旨説示しており、右説示は、著作権法二二条(演奏権)の規定の法意に照ら
し、極めて正当な解釈というべきである。
(二) レーザーディスクカラオケソフトの映像の部分及び音の部分の著作権はカ
ラオケソフトの制作者に帰属するとの主張について
 被告【A】及び同【B】は、レーザーディスクカラオケソフトの映像の部分及び
音の部分の著作権は、カラオケソフトの制作者、すなわち本件装置で使用されたそ
れについていえば、第一興商に帰属しているとし、付随的に音楽の再生も画面の再
生と一体のものとして、その上映権は同社に帰属し、音の再生は映画の再生に付従
するものであるから、音の再生のみを取り出して上映ということはできず、これを
オーディオカラオケと区別する理由はない旨主張する。しかしながら、原告は、レ
ーザーディスクカラオケの再生の中で音の再生だけを取り出して上映として主張し
ているわけではない。
本件装置で使用されたレーザーカラオケディスク(甲七九)は、カラオケソフトの
性質上音楽が主導で、それに画面を伴ったものであり、カラオケ歌唱の伴奏を唯一
の目的とし製作されているのであって、実際の使用に際しても、画面(映像・歌
詞)と音(伴奏音楽)とを同時に、かつ、それらを有機的に連繋して感知せしめ得
るように、それらを結合して一体不可分のものとして再生されるのであり、音の部
分だけを分離して再生使用するものではない。また、レーザーカラオケディスクと
劇場映画において、伴奏音楽と映像がそれぞれ占める位置付けの差異について付言
すると、劇場映画における伴奏音楽は、既に製作された映画の各場面に合わせて作
曲されるのが一般的であり、そのため伴奏音楽の作曲に当たって、作曲家は、映画
制作者や監督等の制作意図を聞き入れなければならないし、各場面毎に演奏時間の
制約も受けることになる。したがって、劇場映画における伴奏音楽は、映像が主導
的に進行する一方で、音楽はあくまでも従属的、付随的な位置付けをされるに止ま
る。これに対して、レーザーディスクカラオケにおける映像と伴奏音楽との関係
は、劇場映画におけるそれとは全く正反対の関係にある。すなわち、レーザーディ
スクカラオケは、あくまでも歌唱を目的として製作されているから、その再生にお
いては、伴奏音楽と歌詞の画面表示が最も重要かつ主導的な位置を占め、映像は当
該楽曲の歌詞、旋律、題名等から映像製作者がその内容をイメージして選択決定す
るものであり、楽曲の演奏時間の制約を受けるだけでなく、音楽監督等の意向を聞
き入れて製作されることになる。したがって、この場合、映像は楽曲に従属し、付
随的な役割を担うに止まるのである。被告【A】及び同【B】の主張は、このよう
なレーザーディスクカラオケの伴奏用音楽としての本質的意味を無視し、映画の映
像の部分こそがその主体であるとの誤った前提のもとに、音の部分(楽曲)をその
従属部分として捉らえており、しかも、原告の許諾の下に映画の中に複製されて組
み入れられた伴奏音楽に対しては、原告が著作権を保有しているとしても、映画の
著作権の中の一部として付随的に保有しているだけであり、それはオーディオカラ
オケに対する演奏権の内容と同じく、伴奏音楽の演奏の再生は、著作権法附則一四
条の適用を受ける、という全く独自の理論構成に基づく主張であって、現行の著作
権法の解釈としては到底これを容認することはできない。したがって、本件装置で
使用されたレーザーディスク(甲二九、四二等)の再生について、第一興商に著作
権が帰属するのは、著作権法二六条一項の映画の著作物の著作者の上映権のみであ
る。同社がレーザーディスクの製作において原告の許諾を受けて、その映画の著作
物に収録複製した原告の管理著作物である歌詞及び伴奏音楽(楽曲)については、
その著作権は原告に帰属しており、原告は、その管理する音楽著作権の一内容とし
て、著作権法二六条二項に基づく右音楽の上映権を有しているのである。本件店舗
に設置されたカラオケ装置による伴奏音楽の再生については、映画の著作物の上映
に伴う音楽の再生すなわち公の上映に当たるので、その場合、オーディオカラオケ
装置による伴奏音楽の再生の場合と異なり、同法附則一四条の適用は除外される。
したがって、被告【A】及び同【B】が第一興商製作のレーザーディスクを被告会
社からリース契約により提供を受け、これを本件店舗における営業に使用し再生す
る行為は、原告の有する前記上映権を侵害することは明らかである。
(三) 著作物使用料の二重取りの主張について
 被告【A】及び同【B】は、カラオケソフトメーカーが原告の許諾を受けて製作
したカラオケソフトの再生について、原告がカラオケスナック店からさらに著作物
使用料を徴収することは二重取りであり、許されるべきではない旨主張する。しか
しながら、カラオケソフトメーカーに対して原告が与える許諾は複製権の内容であ
るビデオグラム録音権の行使によるものであり、そこで徴収した使用料はあくまで
も複製許諾に対する使用料であり、原告が本訴で被告【A】及び同【B】に対し上
映権及び演奏権の侵害による不法行為を理由に損害賠償請求しているのとは別個の
権利行使であるから、使用料の二重取りとはいえず、同被告らのこの点に関する主
張は理由がない。
【被告【A】及び同【B】の主張】
 被告【A】及び同【B】に原告主張の著作権侵害行為はなく、同被告らはカラオ
ケ伴奏による客の歌唱につき不法行為責任を負わない。その詳細は次のとおりであ
る。
1 客の歌唱な著作権法上の演奏とはいえない。
 客の歌唱が著作権法上の演奏と認められるためには、① 歌唱が存在すること、
② 当該歌唱が公衆に直接聞かせるものであること、③ 当該歌唱が営利の目的を
有していることの三つの要件を全部満たす必要がある。しかし、カラオケスナック
における客の歌唱は、これらの要件をいずれも満たしてはいない。
 すなわち、まず、①の要件について考えるに、原告は、カラオケスナック店にお
ける客の歌唱が著作権法二条一項三号の実演に該当し、客は同項四号の実演家に該
当する旨主張するのであるが、同号にいう「実演家」とは、そこに例示されている
「俳優、舞踊家、演奏家、歌手」等と同視し得る者を意味するものと解すべきであ
り、カラオケボックス店で歌う酔客を実演家として捉らえ、その歌唱をもって著作
権法上の実演というのは、余りにも非常識な法解釈というべきである。著作権法
は、歌唱を音楽著作物の演奏の一態様として予定しているということはいえるとし
ても、カラオケスナック店における客の歌唱までをその規律の対象とし、或いは原
告の許諾を得ない客の歌唱を演奏権の侵害とする趣旨で立法されているものとは解
されない。かような見地からすれば、カラオケスナック店は、単に店舗内にカラオ
ケ装置を設置し、客に対して歌おうと思えば歌える場所を提供しているにすぎず、
歌う歌わないは客の全くの自由であるから、客の歌唱を営業主であるカラオケスナ
ック店の経営者による歌唱と同視するのは擬制的にすぎて、社会常識に合致しな
い。
 次に、②の要件について考えるに、カラオケスナックの店内で客が歌唱している
場合、その目的は、自己満足、ストレス解消、ただ好きだから等々と多様なものが
あり、また、歌の内容自体、当該客の属するグループの者は聴いているが、その場
に居合せた他の客はこれを全く無視して聴いていないか、せいぜい歌が終われば、
お愛相程度に拍手をする、或いは当該客の属するグループの者ですら全然聴いてい
ないというのが、そのような場所に来集する酔客の実態であり、かようなカラオケ
スナック店における実態に鑑みれば、そこでの客の歌唱は、公衆に直接聞かせるこ
とを目的とする演奏行為とは到底言い難いものである。また、仮に原告の主張する
ようにカラオケスナック店における客の歌唱が著作権法二二条の演奏に該当すると
いうのであれば、同条は、そこでいう「公衆」の立場からみれば、音楽の観賞につ
いて規定したものと解されるから、カラオケスナック店の客は、夜な夜な他の酔客
の演奏する音楽を観賞するために店に足を運ぶということになり、そのような解釈
が無理なこじつけ以外の何物でもないことは多言を要しないであろう。
 更に、③の要件について考えるに、カラオケスナック店が営業によって利益をあ
げ得ているのは、客にその場で飲食をしてもらい、同時にそこで接客サービスを提
供し、その対価として客から代金を受領しているからであって、そこにカラオケ装
置が設置されているからではない。実際の経営面でも、店の立場からすると、毎月
支払うベきカラオケ装置のリース料金やカラオケソフトの購入代金等の支出から損
得計算をすると、カラオケ装置を設置することによって得る利益は現実には殆ど存
在せず、昭和五五年、五六年頃のカラオケ全盛期に比較し、最近ではその集客能力
は相当に落ち込んでおり、むしろ、カラオケ装置が店の中で場所塞ぎとなり、設置
のメリットも少ないため、これを撤廃する店舗が増加しているのが実状である。カ
ラオケが人間の歌いたいという文化的本能ともいうべき欲求を充足するのに適切な
場を提供し、我が国のカラオケ文化が今日の隆盛を誇るまでに急激に発展した背景
には、カラオケ装置やカラオケソフトの製造メーカーのみならず、それらソフト・
ハードのリース業者等幾多の分野のカラオケ業界人の日々の努力があったことは万
人の認めるところであろう。これに対し、原告は、自らはこうしたカラオケ文化の
発展に何ら寄与してはいないにもかかわらず、労せずして、一方ではカラオケソフ
トメーカーとの間の録音・頒布許諾契約の締結により多大の著作権使用料収益をあ
げながら、他方ではさらにエンドユーザーであるカラオケスナック店、ひいてはそ
の顧客からもカラオケ伴奏による歌唱から著作物使用料を徴収して利益を再度あげ
んと目論んでいるのであって、もしそのような目論見が許されるならば、それは余
りにも原告の利益にのみ偏した不公平な結果を招来することになろう。音楽著作物
は、作詞家及び作曲家の生み出した個人財産であると同時に、それは一旦この世に
生まれ落ちた後は人類全体の共同財産であって、巷間で広く親しまれ愛唱されてこ
そ、それらを生み出した作詞家及び作曲家の存在価値も世人から高く評価されるこ
とを忘れてはならない。
2 レーザーディスクカラオケソフトの映像の部分及び音の部分の著作権はカラオ
ケソフトの制作者に帰属する。
 旧著作権法(明治三二年法律第三九号)の時代には、その三〇条一項八号及び二
項が、適法な録音物(レコード)を用いて著作物を興業し又は放送することは、そ
の出所を明示することを条件として自由にできる(偽作ト看做サス)としていたと
ころ、昭和四五年の著作権法の改正により、適法録音物の再生にも演奏権が及ぶこ
とになったわけであるが(二条七項)、著作権法附則一四条(昭和六一年法律第六
四号による改正前のもの)は、適法に録音された音楽の著作物の演奏の再生につい
ては、放送又は有線放送に該当するもの及び営利を目的として音楽の著作物を使用
する事業で政令で定めるものにおいて行われるものを除き、当分の間、右旧法三〇
条一項八号及び二項並びに同項にかかる三九条の規定はなおその効力を有すると規
定して、旧法下の制度を維持することとしている(【G】・三訂著作権法逐条講義
五四六頁、五四七頁)。そして、著作権法施行令附則三条は、旧法の規定が適用さ
れない営利を目的として音楽の著作物を使用する事業で政令で定めるものとして、
①喫茶店その他客に飲食させる営業で、客に音楽を観賞させることを営業の内容と
する旨を広告し、又は客に音楽を観賞させるための特別の設備を設けているもの
(いわゆる音楽喫茶、名曲喫茶等)、②キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホール
その他フロアにおいて客にダンスをさせる営業、③音楽を伴って行われる演劇、演
芸、舞踊その他の芸能を観客に見せる事業の三種を定めている。このうち、オーデ
ィオカラオケソフトの再生は、右のいずれにも該当せず、営業目的であっても適法
に自由使用できるのである(著作権法附則一四条、旧法三〇条一項八号)。また、
レーザーディスクカラオケソフトの映像の部分及び音の部分の著作権は、カラオケ
ソフトの制作者、すなわち本件装置で使用されたカラオケソフト(レーザーディス
ク)でいえば、第一興商に帰属している。原告は、歌詞と音楽のメロディーの再生
を著作権法上の上映として捉らえているのであるが、それは社会常識に反する。す
なわち、著作権法二条一九号及び二六条の映画の著作物の上映とは、いわゆる映画
館で上映するような映画もしくは映画をビデオテープに録画したものをその対象と
しており、かつ、その映画につき著作権を有する者の権利を定め、付随的に音楽の
再生も画面と一体として上映権として把握すべきことを定めているのである。した
がって、仮にレーザーディスクの再生が同法の上映に当たるとしても、著作権法二
六条の規律対象は、あくまでも映画の著作物であって、音の再生は単に当該映画の
著作物の再生に付従するものであり、そのうち、音の再生だけを取り出して上映と
いうのは、こじつけも甚だしい。更に、レーザーディスクの音の部分を再生した、
その音は、スピーカーを通じて人間の耳に感知させるものであって、その点では、
オーディオカラオケテープと全く同じ伝達方式を採用しており、これを区別して禁
止の対象とすることは著作権法附則一四条(旧著作権法三〇条一項八号)の適用を
否定することに通じるから、レーザーディスクカラオケの音楽の部分は、仮にそれ
が映画の著作物に該当するとしても、その著作権はカラオケソフトの制作者すなわ
ち本件装置で使用されたカラオケソフト(レーザーディスク)でいえば、第一興商
に帰属している。更に、原告は、画面への歌詞の表示を上映に当たる旨主張する
が、それは、本件の場合、第一興商が原告の許諾の下に映画の一部として制作した
ものであるから、歌詞及び音も含め、映画全体としてその著作権はカラオケソフト
の制作者である同社に帰属していると考えるべきである。
3 カラオケソフトメーカーが原告の許諾を受けて製作したカラオケソフトの再生
について、原告がカラオケスナック店からさらに著作物使用料を徴収することは二
重取りであり許されない。
 第一興商は、本件装置で使用されたカラオケソフト(レーザーディスク)の製作
に当たり、原告から録画許諾及び頒布許諾を受けたうえ、自社で演奏者を調達し、
オリジナルの楽曲に加えて編曲し、素人が歌える音階に作り直してテープやレーザ
ーディスクを製作しているのである。したがって、原告がカラオケスナック店から
使用料を徴収することは、いわば使用料の二重取りに当たり、許されるべきではな
い。
二 争点2(被告会社の損害賠償責任の有無)
【原告の主張】
1 被告会社の責任原因
(一) 被告会社の著作権侵害行為
 被告会社は、被告【A】及び同【B】との間に本件リース契約を締結して、本件
装置を同被告らに引渡し、同被告らをして本件店舗内において本件リース契約上の
運営規則ないし用法遵守義務に従って本件装置を稼動させ、また、随時本件装置を
保守、点検、修理し、或いは本件装置に使用する新曲や新譜の入ったカラオケソフ
ト(レーザーディスク)を追加して同被告らに順次供給するとともに、本件リース
契約における売上金配分条項(丙二の「売上金配分」欄参照)に従って、同被告ら
と売上金を折半して取得し、更には、本件に関して原告から大阪地方裁判所に仮処
分の申立がされ(同裁判所昭和六三年(ヨ)第一一六七号演奏禁止等仮処分申立事
件)、その審尋中、被告【A】及び同【B】に原告との和解の意思がないことを確
認するや、昭和六三年五月一一日付で、被告【B】との間に本件装置についてリー
ス契約書(丙三)を取り交わして再度契約を締結したが、右契約書によれば、① 
売上折半方式が月極め定額方式になり、② リース料金が一万円減額されて月額六
万円になり、③ モニターテレビが増設されて三台から四台になるというように、
いずれも同被告らに有利な契約内容に変更されている。しかして、スナック等にお
いて、原告の許諾を得ずに、カラオケ装置を設置して営業時間中にこれを利用して
管理著作物の収納されたカラオケソフトを再生し、その伴奏音楽に合わせてホステ
ス等の従業員や客による歌唱が行われた場合、その著作権(演奏権・上映権)侵害
行為の主体は、必ずしも事実行為としてカラオケ装置を操作して当該音楽著作物を
利用するカラオケスナック店の経営者だけに限られるものではなく、自らはカラオ
ケ装置を直接操作しなくとも、被告会社のように、リース先のカラオケスナック店
にカラオケ装置を設置し、当該店舗との間に締結したリース契約の契約条項(運営
規則・用法遵守義務・売上金配分条項)を通じて店の経営者の行為に対する支配力
を及ぼし、これを自己の利益を得る目的で用いる者も著作権侵害行為の主体たり得
るものというべきである。したがって、以上の観点からすれば、本件店舗における
ホステス等の従業員や客のカラオケ伴奏による歌唱は、これを実質的にみれば、本
件店舗の経営者である被告【A】及び同【B】のみならず、本件装置のリース業者
である被告会社の主体的な関与・管理のもとに公衆の面前で行われ、かつ、客の来
集を図り営利の目的をもって行われたのであるから、法的評価においては、被告ら
の行為を一括して、たとえホステス等の従業員や客の「歌唱」であっても、それは
被告らの「歌唱」と同視することができ、その意味で、被告らの「歌唱」は、「演
奏権・上映権」の侵害を構成するものというべきである。
(二) 被告会社の故意・過失
 著作権侵害行為は、著作権法一一九条により三年以上の懲役又は一〇〇万円以下
の罰金という、重い刑事罰を課される違法性の高い行為であり、民事上も同法一一
二条一項に基づき著作権者による停止・予防請求の対象となり、侵害行為を組成し
た物の撤去義務も法律上明示されている行為である(同条二項)。そして、スナッ
ク等におけるカラオケ伴奏によるホステス等の従業員や客の歌唱がこの著作権(演
奏権)侵害行為に該当することは、昭和五九年七月五日の福岡高裁判決によって明
らかにされており、
そのことは当時既にカラオケリース業者一般にも十分知悉されていたものである
(甲三七の1~5、甲五七の1・2)。したがって、被告会社は、原告の著作権
(演奏権・上映権)侵害という重大な結果をもたらす原因行為を組成する機器とな
る虞の極めて強い、業務用カラオケ装置をユーザーに提供することを内容とする、
リース業務を日常的に反復継続する者として、その知識及び経験に基づいて、本件
装置を被告【A】及び同【B】に提供すれば、それが原告の許諾を得ないまま利用
され、著作権侵害の結果が発生する蓋然性が極めて高いことを当然認識していたも
のというべく、それにもかかわらず、被告会社は、右著作権侵害の結果の発生を認
容しつつ、前記したとおり、被告【A】及び同【B】の本件著作権侵害行為に加担
したのであるから、被告会社には、右加担行為につき故意があったことは明らかで
ある。仮に、そうでないとしても、被告会社は、自らの業務上の知識及び経験に基
づき、原告の使用許諾がない場合、本件装置の利用に伴い、当然に右著作権侵害の
結果が発生することを容易に予見し得るのであるから、右結果の発生を回避するた
めに、① 本件リース契約書の契約条項中に、本件装置のユーザーである被告
【A】及び同【B】は、本件装置の使用に際して、原告との間に著作物使用許諾契
約を締結すべき義務のあることを明記し、② かつ、実際にも右契約締結手続をと
るよう同被告らを指導監督すべき注意義務があることは明らかである。ところが、
被告会社は、これらの注意義務をいずれも怠り、何らの適切な著作権侵害防止措置
も講じないまま前記加担行為に及んだのであるから、その点において被告会社に過
失のあることは明らかであり、被告会社は、被告【A】及び同【B】の著作権侵害
行為の加担者として、民法七一九条に基づく共同不法行為責任を免れない。
2 被告会社の主張に対する反論
 被告会社は、自らの損害賠償責任の有無を論ずる前提として、原告のカラオケ管
理の観点からする区分と称して、原告の演奏権管理業務の対象店舗を、A類型(大
規模店舗型)、B類型(客席面積五坪超の小規模店舗型)及びC類型(客席面積五
坪以下の零細店舗型)の三類型に分類したうえで綿綿とその主張を繰り広げてい
る。右主張の狙いは、結局、新規程の施行日である昭和六二年四月一日以前に原告
がその管理著作権を行使して管理著作物の使用料を徴収したのは、全てキャバレー
などの右A類型に属する大規模店舗型の店舗における生演奏をその対象としてお
り、昭和五九年七月五日の福岡高裁判決も、一審では当該店舗における生演奏に関
して著作権侵害の有無が審理・判決されていたのが、控訴審に至り、原告の附帯控
訴によって、新たにカラオケ伴奏による客の歌唱に関する著作権侵害の有無が争点
として急浮上し、その結果、その点についての判断が示されたにすぎないから、同
判決のその点についての判断はいわゆる傍論にすぎず、同判決はあくまでもA類型
に属する店舗に準ずる店舗における生演奏に関する事例判決であって、同判決の射
程距離はそれ以外の店舗の経営者の責任の有無が問題となっている本件には及ばな
い、ということを言わんとする点にあるものと推察される。しかし、被告会社の右
主張は、要するに、原告の著作権管理の対象となる店舗における音楽著作物の利用
形態を、それらがいずれも著作権法二二条の「公の演奏」に該当し、両者を区別す
べき理由のないことについて全く異論をみない、「楽器等による生演奏」と「カラ
オケ伴奏による客の歌唱」とを、同条の規定から全く離れた独自の観点から、執拗
なまでに自己に都合よく区別し分類せんとする観念的操作の域を出ず、主張自体失
当というべきであるとともに、被告会社がその立論の前提として縷々主張する具体
的事実も、いずれもこれまでの原告の著作権管理の沿革等に関する客観的な事実経
過とは明らかに齟齬し、これを歪曲するものである。そこで、以下、被告会社主張
の前提事実と責任原因に関する法律論について順次反駁することとする(なお、こ
の項において、A類型、B類型、C類型の各用語は、被告会社主張の意味において
用いる。)。
(前提事実に対する反論)
(一) 原告による著作権管理の実績について
 被告会社は、原告が新規程の施行日である昭和六二年四月一日以前にその管理著
作権を行使して管理著作物の使用料を徴収したのは、全てキャバレーなどのA類型
に属する大規模店舗型の店舗における生演奏をその対象としていた旨主張するが、
それは事実ではない。その詳細は次のとおりである。
(1) 原告による生演奏の沿革
 原告の社交飲食店における管理著作物の生演奏に対する権利行使は、戦後間もな
い昭和二〇年代から始り、それ以来、原告は、旧著作権法一条二項の規定に基づ
き、社交飲食店業界の各店舗を対象にして音楽著作物の生演奏による使用に対して
許諾を与え、演奏権の管理を実施していた。原告がこのような社交飲食店における
生演奏の管理の実施に際して使用料額の算定根拠とした、著作物使用料規程は、昭
和二三年八月二〇日及び昭和二七年二月二二日にそれぞれ当時の所管行政庁であっ
た文部大臣の変更認可を受けたものであったが、右各使用料規程では現行のそれに
おけるような業種別の使用料率方式は採用されておらず、演奏権行使の対象となる
社交場における生演奏の使用料も、演奏会やコンサート等の場合と同じく同規定の
「演奏」に関する規定により、一曲一回の使用料を算定することとされていた。そ
のことは、乙第一六号証(原告の五〇年史)一四四頁一九五九年(昭和三四年)一
二月一二日の項に掲載されている中部観光事件に関する名古屋地裁の決定において
認められた損害賠償金額一日七万円の算定根拠に関する同裁判所の認定説示の内容
を見ても明らかである。その後、原告は、昭和三五年五月三一日に変更認可を受け
た著作物使用料規程(甲一〇七)において、従来の「演奏」に関する規定とは別
に、同規程第二章著作物の使用料率に関する事項第二節実演4の項(同号証四頁)
に、新たに「社交場」に関する独立規定を確認的に設け、社交飲食店業界における
生演奏全般にわたる管理の充実強化を図った。その際、原告は、同時に新たに著作
物使用料規程取扱細則(社交場)(甲八)を制定し、前記「社交場」に関する規定
の運用上必要な各社交場に共通の細目事項を定め、これにより著作物使用料の算定
に当たって社交場営業者に対して公平な取扱を期することとし(甲八の一頁一条
〔目的〕参照)、客席数五〇〇席の大型店舗から同一〇〇席未満の小規模店舗に至
るまでの多様の店舗類型にも適応し得る使用料の店舗規模別の算定方式を採用する
などの措置を講じた。したがって、以上から明らかなように、原告の社交場におけ
る生演奏の管理は、被告会社の主張する時期よりもはるか以前の時期、すなわち、
A類型のナイトクラブやキャバレーなどの場合は昭和二〇年代初期から、B類型及
びC類型の小規模店舗以下の場合は昭和三〇年代から、それぞれ既に実施されてき
たのであり、これらの管理対象店舗における生演奏について、原告による使用許諾
及び使用料徴収の管理業務が実施されてきたのである。
(2) 原告によるレコード演奏の管理の沿革
 昭和四六年一月一日に現行の著作権法が施行され、旧著作権法下で自由利用(無
償使用)の許されていた適法録音物の演奏の再生すなわちレコード演奏について
も、同法附則一四条に基づく同法施行令附則三条一号ないし三号に定める各事業に
対しては、原告の演奏権の保護が及ぶこととなった。そこで、原告は、右法律改正
に対応して、昭和四六年四月一日に変更の認可を受けた著作物使用料規程(旧規
程、甲七)の第二章著作物の使用料率に関する事項第二節演奏の4の項(四頁)の
「社交場における演奏」に関する規定中に、レコード演奏使用料の規定として備考
⑤、⑥及び⑦を新設し(甲七の五頁~六頁)、前記施行令附則三条一号ないし三号
所定の各事業に適用するレコード演奏の使用料の各料率を定め、生演奏使用料より
も一定の割合で減じた低率の使用料を徴収することとした。
 ところで、この施行令附則三条一号ないし三号所定の各事業のうち、一号の事業
「喫茶店その他客に飲食させる営業で、客に音楽を観賞させる旨を広告し、又は客
に音楽を観賞させるための特別の設備を設けているもの」とは、一般に音楽喫茶、
ジャズ喫茶等と称される社交場の店舗を指すのであって、これら音楽喫茶、ジャズ
喫茶等での音楽著作物の利用形態は、これを具体的に説明すると、音楽(殊にジャ
ズ等の軽音楽)の愛好家が、照明を落とした小さな店内の片隅で煙草を薫らせなが
ら、時に眼を閉じ、腕組みをしたり音楽雑誌に目をやったりしつつ、一杯のコーヒ
ーを啜りながら、店内に流れるレコード音楽(時にピアノやギター等の生演奏が行
なわれる店も少なくない。)に長時間じっと聴き入る、といった態様の利用形態で
あり、これら音楽喫茶、ジャズ喫茶等が音楽を演奏する社交場の事業の中でも比較
的収容規模の小さな営業形態であることは世間一般に周知の事実となっている。し
かし、原告は、このような小規模店舗又は零細店舗類型の音楽喫茶、ジャズ喫茶等
における音楽利用についても、生演奏の場合は旧著作権法施行下の昭和三〇年代か
ら、またレコード演奏の場合は現行著作権法の施行された昭和四六年から、原告の
演奏権を行使してその管理を行なってきたのである。これら音楽喫茶、ジャズ喫茶
等は、被告会社の分類に従えば、いずれも小規模店舗型のB類型又は零細店舗型の
C類型に属する店舗である。
 なお、被告会社は、A類型の大規模店舗が第一次オイルショック以後経営困難と
なったことを機に社交飲食店の小規模化が進み、この現象とカラオケの普及が歩を
一にしているかのように主張するのであるが、キャバレー等の大規模店舗が衰退し
てクラブ、ラウンジ、スナック、音楽喫茶等の小規模店舗へと移行していく過程の
中で、そうした現象と並行して進行し普及していったのは単にカラオケのみではな
い。すなわち、小規模店舗においては、キャバレー等の大規模店舗と同様、ピアノ
やギター等の演奏者による楽器演奏や、それらを伴奏とするプロの歌手の歌唱等の
小規模な演奏形態が業界全体に広く浸透しており、原告の演奏管理も、当時は、当
然ながらそれらの小規模店舗を対象にして行なわれていたのである。その具体例を
示すなら、現在のようにカラオケを使用するようになる以前に、生演奏(ピアノソ
ロ)形式で営業していた「クラブジョイ」(カラオケの使用後は五坪以下の免除
店、甲一〇八)の例を挙げることができる。すなわち、同店は、既に昭和四六年一
一月一二日当時から原告との間に音楽著作物の使用許諾契約を締結していたのであ
る(甲一〇九)。
(3) 原告によるカラオケ伴奏による歌唱の管理の沿革
 被告会社は、原告がカラオケ伴奏による客の歌唱に関して著作権侵害訴訟を提起
したのは、A類型の大規模店舗についてのみであり、B類型の小規模店舗に対する
著作権侵害訴訟は未だかって一件も存在しない旨主張する。しかし、右主張は明ら
かに事実に反する。すなわち、原告は、昭和五四年八月、大阪市内の「キャバレ
ー・ユニバース」との間に相手方が楽団演奏のほかにカラオケ歌唱について使用料
の支払義務を認める旨の和解条項を含む裁判上の和解を成立させている(甲三
四)。カラオケは、当初小規模店舗から出発して次第に普及していったのである
が、すでにこの昭和五四年頃には「キャバレー・ユニバース」のような大規模店舗
においても利用されるようになっていたのである。そこで、原告は、この「キャバ
レー・ユニバース」との裁判上の和解を機に、カラオケ伴奏による客の歌唱を行っ
ている他の小規模店舗についても、「カラオケ装置を利用して歌唱する場合の著作
権管理業務の実施基準(社交場)」(甲三二の2)を定め、これに基づいて著作権
使用料の徴収を開始した。そして、旅館におけるカラオケ伴奏による歌唱について
は、当分の間、宴会場の設備として一五〇平方メートル以上の広さを有するものの
みを管理対象としたが(甲三四の六項)、クラブ、スナック等の小規模社交場飲食
店におけるカラオケ伴奏による客の歌唱については、特に例外規定を設けず、客席
面積五坪以下の小規模店舗もその管理対象とした(甲三四の六項「なお社交場の実
施基準は、……」以下参照)。その結果、これまでにカラオケ伴奏による客の歌唱
についてカラオケスナック店の経営者の演奏権侵害の責任の有無が問題とされた裁
判例に現れた事案においては、例えば、福岡高裁昭和五九年七月五日判決の対象店
舗である「ミニクラブ水晶」「クラブキャッツアイ」「スナックギャル」(判例時
報一一二二号一五三頁、甲一一)、昭和五九年一二月七日東京地裁において成立し
た裁判上の和解の対象店舗である「ブーメラン」(甲四六、四七)、広島地裁福山
支部昭和六一年八月二七日判決の対象店舗である「くらぶ明日香」(判例時報一二
二一号一二〇頁、甲一四)、昭和六三年一月一八日同支部において成立した裁判上
の和解の対象店舗である「ざくろ」「むらさき乃」(甲一五)等はいずれも被告会
社の分類に従えばB類型又はC類型の店舗である。このように、原告がカラオケ伴
奏による客の歌唱について著作権侵害訴訟を提起した対象店舗は、前記「キャバレ
ー・ユニバース」の場合が大規模店舗であるのを唯一の例外として、他は全て小規
模店舗又は零細店舗であり、被告会社のこの点に関する主張は、故意に事実を歪曲
するものというべきである。
 なお、被告会社は、裁判上の権利行使が原告の著作権管理には該当しないかのよ
うに主張するが、原告は、内外の多数の作詞者、作曲者の音楽著作権を集中管理
し、権利者に代って著作権を行使する管理団体であるから、原告にとって、信託財
産として著作権の移転を受けた管理著作物について、著作権法上の支分権が及ぶ、
音楽の新たな使用媒体を含む、あらゆる態様における利用行為について、管理の必
要から裁判上の権利行使をするのも、当然原告の著作権管理行為にほかならないの
であって(甲二〔著作権信託契約約款〕一〇条参照)、被告会社の右主張は理由が
ない。
(二) カラオケ著作権の使用料に対するカラオケリース業者の認識について
 被告会社は、第一興商の回答書(乙二七の2、三一の2、三二の2)に依拠し
て、昭和六二年四月一日の新規程施行日以前の段階では、カラオケ著作権使用料は
無料であるとするのがカラオケリース業者一般の認識であった旨主張する。しか
し、右回答書のこの点に関する記載は、第一興商がそのディーラーである被告会社
を擁護するあまり、事実を正確に記載したものとは到底言い難い。その詳細は次の
とおりである。
(1) 昭和五九年七月五日の福岡高裁判決当時のカラオケリース業者のカラオケ
著作権の使用料に対する認識
 スナック等におけるカラオケ伴奏による客の歌唱の主体が店の経営者にあるとし
て、その著作権侵害による不法行為責任を肯定した昭和五九年七月五日の福岡高裁
判決の司法判断がカラオケリース業界を含め関係業界にもたらした波及効果は極め
て大きなものがあったのであり、現に、カラオケリース業界の最大手企業である第
一興商の代表取締役【H】(以下「【H】」という。)は、同判決後、雑誌「月刊
カラオケファン」(甲五七の2)のインタビューに対し、「判決そのものについて
は、十分予想されていたことで、それほど不満はない。自社としては、協会に何か
お手伝いできる事があればむしろ積極的に協力しても良いと考えている。」と答え
ている。また、【H】のこの発言に続いて、「商品の所有権はリース業者にあり、
利益の大部分は業者が享受しており、音楽の商業利用者は店よりもむしろリース業
者にある、店がカラオケを通じ営業効果を上げているというのであれば、業者もカ
ラオケを通じて営業効果を出している」との記事が掲載されている。雑誌「月刊カ
ラオケファン」は、昭和五七年九月に創刊された、当時数少ないカラオケ情報専門
誌であり、多数の優良企業の広告等が掲載され、カラオケリース業界でも信頼の高
い雑誌として受け止められているものと推察される。そして、同誌の取材申入れに
対して、第一興商側で、実務上の担当者ではなくて【H】自身がこの取材に応じて
いることは注目に値する。すなわち、業界最大手の同社の社長が雑誌の取材に応じ
るということは、常識的に考えると、事前に取材内容を十二分に確認把握し、その
内容を社内でも担当者も含めて慎重に検討したうえで取材に臨んだとみるのが自然
であろう。したがって、前掲の各記事は、以上のような第一興商の社内で慎重に検
討された結果に基づく、業界を代者する者の意見表明であり、それによれば、福岡
高裁判決の出された昭和五九年七月五日当時、既にカラオケリース業界の内部にお
いても、リース業者が、リース先店舗におけるカラオケ使用について、自らを音楽
著作物の共同使用者として位置づけ、著作権侵害の問題についても共同責任の一翼
を担うことを明確に認識していたことが窺えるのである。この点について、【H】
は、乙第三二号証の2の回答書の中で、自らの右発言の趣旨について、カラオケリ
ース業者による著作権の使用料の「回収代行」を言わんとしたものである旨弁明し
ているが、仮に第一興商が福岡高裁判決当時カラオケ使用料が無料であるとの認識
を有していたのであれば、【H】のいう「回収代行」などという発想の生まれるは
ずはなく、右の弁明は、むしろ、当時第一興商が既にカラオケ使用料は無料でない
との認識を有していたことを露呈しているものといえよう。
(2) 福岡高裁判決後のカラオケリース業者の対応
 福岡高裁判決後、原告と第一興商のディーラーのカラオケリース業者である有限
会社トキワエンタープライゼスとの間には、同社に原告主張の著作権侵害に基づく
共同不法行為責任があることを全面的に認める内容での裁判上の和解が成立し、し
かも、同社は、将来の著作権侵害を予防するために著作権使用料許諾契約の締結手
続についてリース先の店舗を指導監督する義務があることを認めた(甲一五の和解
条項第一項、第七項参照)。そして、この和解条項第七項のリース契約書の著作権
使用手続の説明指導条項は、右和解成立後第一興商本社がそのリース業務に使用す
る標準リース契約書に採用された(甲七二)。すなわち、右和解条項第七項には、
「債務者有限会社トキワエンタープライゼスは、今後飲食店等との間にカラオケ装
置についてリース契約を締結したときは、リース契約条項として債権者(原告、裁
判所注記)との間に著作権使用許諾契約を締結する義務ある旨明記し、且つ、その
手続をとるよう指導監督する。」と記載されており、また、右標準リース契約書二
一条(特約)①には、「乙(借主、裁判所注記)は、この本物件を営業目的の為使
用する場合、社団法人日本音楽著作権協会との間で著作物使用許諾契約を結ぶよう
留意することとします。」と記載されている。更に、この説明指導条項は、その後
同旨の記載が全国各地の第一興商の子会社、関連会社、
ディーラーの使用するリース契約書(甲一〇二の1~47)はもとよりのこと、そ
れ以外の大手リース業者であるミニジュークジャパン、タイカン、クラリオン等の
リース契約書にも遍く採用され現在に至っているのである(甲一〇〇の1の四
項)。これは、カラオケリース業界において、後記の原告と全国環境衛生同業組合
中央会(以下「環衛中央会」という。なお、各業種別又は都道府県別の環境衛生同
業組合をも含めて「環衛組合」ということがある。)との間の協力関係の有無にか
かわらず、右説明指導条項の挿入が、同業界固有の問題として受け止められ、リー
ス先店舗における著作権侵害の予防対策上必要不可欠なものとして認識されていた
ことを示しているものといえる。ところが、第一興商の前掲回答書(乙二七の2別
紙回答4(1)~(3))には、甲第七二号証の同社の標準リース契約書は平成元
年一月から一年間に限定して使用した旨の記載がある。しかし、右記載には、次の
ような点で疑義がある。すなわち、① 甲第七二号証は昭和六三年当時既に現実に
使用されていた契約書であるから、右回答書の記載はそれ自体不正確である。② 
有限会社トキワエンタープライゼスが昭和六三年一月一八日の和解成立直後に作成
した契約書(契約日昭和六三年七月一三日)の契約条項(甲七三の追加条項第一五
条(特約))にも同趣旨の記載がある。③ 第一興商が説明指導条項の使用を中止
した理由が不明である。④ 第一興商の本社のみが平成二年二月以降右標準リース
契約書を使用していないものとすれば、同社が指導してきた子会社や関連会社が従
来と同様に説明指導条項の入ったリース契約書を使用している(前掲甲一〇二の1
~47)のは、業界最大手のリース業者の措置としてはおよそ信じ難い変則的事態
である。
(3) 旧規程の改正過程における原告と関係使用者団体との協議
 原告は、全国的規模でのカラオケ一斉管理の開始に伴う昭和六二年四月一日施行
予定の著作物使用料規程(旧規程)の改正に際し、関係使用者団体と一年以上にわ
たる十分な協議を重ねて、それらの団体及び加盟事業者の意見を改正内容に反映さ
せるとともに、原告の改正案についても右団体及び傘下の事業者に周知徹底させた
うえで、関係業者との合意に至り(甲六三添付の「著作物使用料規程一部変更理由
書」10頁~11頁「(10)関係使用者団体との協議」の項参照)、新規程につ
いて文化庁長官の認可を得ているのであるが、右協議団体の中には、主なカラオケ
ソフトメーカーが加盟する日本レコード協会や日本ビデオ協会も含まれており、カ
ラオケソフトメーカーでありカラオケリース業者も兼ねる第一興商も後者の団体に
加盟しているのである(甲一一〇)。したがって、以上のことからすれば、著作物
使用料規程(旧規程)の改正過程において、原告はカラオケリース業者の意見も改
正内容に十分反映させ、申請の改正案についても日本ビデオ協会の加盟事業者であ
る第一興商は勿論、それ以外の同社の関連会社、子会社等、被告会社を含む多数の
ディーラー等にも情報を伝達していたのである。
(4) 新規程認可前後の原告と第一興商の協議の経過
 第一興商の回答書(乙二七の2別紙回答3(1)(2))において、同社は、
「当社が社団法人日本音楽著作権協会から著作物使用料の徴収の実施に関する指
導、警告を受けたことは一切なく、また、現在に至るまで特段の指導を受けたこと
もない。ただ、昭和六三年六月から夏にかけて、社団法人日本音楽著作権協会のい
くつかの支部から当該管轄地区の当社の支店に対して、『カラオケ歌唱の著作権管
理について』と題する書簡が送付されてきたことはあった。それは、カラオケ歌唱
の著作権管理の開始の報告と抽象的に著作物使用料の徴収に協力を求める旨の記載
がなされたものであった。」「……当社は、リース業者が共同責任を負うとの警告
を受けたことは一切ない。リース業者の共同責任が論議され始めたのは、有限会社
トキワエンタープライゼズと社団法人日本音楽著作権協会との間の裁判においてで
ある。当社としては、それ以前には、そのような見解が存することは聞いたことは
ない。なお、上記の社団法人日本音楽著作権協会の支部からの書簡の中において
も、リース業者が共同責任を負うことになるとの警告の記載は全くなかった。」と
して、原告からの指導警告等のあったことを全面的に否定しているが、これは全く
事実に反する。すなわち、原告は、福岡高裁判決が出されてから以降、カラオケ著
作権の使用料の徴収について、カラオケスナック店と共にリース業者も使用料の支
払義務者であるとの認識のもとに、業界最大手の第一興商と同社が乙第三二号証の
2の回答書三(1)でいうところの「回収代行」に関する協議を重ね、新規程認可
前後の昭和六一年六月一〇日、同年七月九日、同年八月三一日の合計三回にわた
り、第一興商の本社を訪問し、原告【I】常務、【J】業務局次長等の役職員が
【H】社長らと面談するなどして、新規程の趣旨及びその概要を説明し、今後のリ
ース業務におけるリース先店舗に対する著作権使用許諾契約手続に関する説明指導
等についての協力を要請した。しかし、結局、原告は、第一興商との協議を打ち切
り、環衛組合と協力関係を結ぶに至った。その理由は次のとおりである。すなわ
ち、第一に、第一興商のいう「回収代行」とは、リース業者としての自らの立場
を、使用料支払義務者として位置づけるのではなく、原告の徴収権限を代行してリ
ース先のカラオケスナック店から使用料を徴収しようとするものであり、その一方
で右店舗の使用料を代払いする立場を兼ね合せるもので、民法上禁止されている双
方代理に該当するからである。そもそも、第一興商がカラオケ装置の共同利用者と
しての固有の使用料支払義務を認めないのに、同社に「回収代行」をさせること
は、原告が使用料徴収権限を同社に委任したことになり、仲介業務法に反すること
になるからである。第二に、交渉開始以来、第一興商は、使用料について、カラオ
ケ装置一台毎の一律同額の料金を主張していたが、原告は、著作物使用料規程の内
容に沿った、店の規模毎に料金格差を設ける面積比例料金を主張しており、新たに
認可を受ける予定の包括使用料に関する新規程の趣旨に反しこれを認め難かったか
らである。第三に、第一興商の「回収代行」の考え方では、リース契約上の売上金
の配分比率等に絡んで使用料額が一定しなくなることが懸念され、同時に同社に対
して使用料額の変更裁量を許すことになり、その結果、新規程の料金体系が維持で
きなくなって、公平適正を旨とする著作物使用料規程の趣旨にも反することにな
り、ひいては認可権を有する文化庁の意向にもそぐわないことになるからである。
第四に、原告が業界最大手の第一興商に対してのみ「回収代行」を認めれば、カラ
オケリース業界の寡占化を原告自身が促進したことになり、後発企業を市場から排
除することにもなるからである。結局、第一興商側が、あくまでもリース業者には
カラオケ装置の共同使用責任及び著作物使用料支払義務は認められないとして、第
三者的立場を固執したため、この交渉は決裂するに至ったのである。
(5) まとめ
 以上によれば、遅くとも新規程の施行日である昭和六二年四月一日の時点におい
て、カラオケリース業者一般がカラオケ使用料が有料であるとの認識を有していた
ことは明らかである。
(三) 原告と環衛組合との協力関係について
(1) 原告が環衛組合と協力関係を結んだことは政治的決着ではない。
 被告会社は、丙第一〇号証(全国飲食業環境衛生同業組合連合会問題研究委員会
作成の平年二年二月付「音楽著作物にかかるカラオケ使用料及び契約更新について
 答申書」と題する書面)の二九頁の「Ⅱ カラオケ管理業務の実施状況 1 カ
ラオケ管理業務開始の準備(「カラオケ業務の日程について」) (2) 環衛加
盟外の利用者(アウトサイダー)に対する管理業務の方法」の項に「⑤ カラオケ
装置の使用禁止の仮処分等の法的措置の実施」が挙げられていること及び丙第一二
号証(原告編「日本音楽著作権史」下巻の座談会記事)における元文化庁担当官
(【G】)の「……そういう点では、関係した人にも恵まれたんじゃないですか。
私もこんなにスーッといくとは思わなかったんです。相当、紆余曲折があるだろう
と思いました。逆にいえば、そういうような状況であったがゆえに、あまり法律問
題とか理屈の問題が出なくて、そこがすっとんじゃったんです。要するに政治家が
間に入ってやると、理論的に、該当するのかどうかとか、議論の話じゃなくなって
きちゃうから。……」という発言があることなどを捉らえて、昭和五九年七月五日
の福岡高裁判決後、カラオケ管理に関して、原告が環衛組合と協力関係に入ったの
は、同判決の内容とは全く別の観点からする政治的判断によるものであって、環衛
中央会は、当時、原告からカラオケ管理の申入れには法律上の疑義があるとして、
その政治的解決の仲介を環衛議員連盟に依頼し、原告も右議員連盟に仲介を依頼し
て政治的決着を図った旨主張する。
 しかし、右主張は、福岡高裁判決の司法判断が関係業界にもたらした波及効果
(甲五七の1~3、月間カラオケファンの掲載記事参照)を殊更過小評価しようと
するものであり、明らかに事実に反する。しかも、丙第一〇号証は、元々全国飲食
業環境衛生同業組合連合会(全飲連)が、平成二年二月に原告との業務協定の更新
に際して部内資料として作成配付した資料であり、大阪地方裁判所第八刑事部に係
属中の被告【B】を被告人とする平成二年わ第一八三一号著作権法違反被告事件に
おいて、弁護人の請求により刑事訴訟法に基づく公務署照会手続により提出された
文書であるが、そのうち被告会社引用部分の記載内容は甚だしく事実と相違し、原
告は、同文書の作成者である全国飲食業環境衛生同業組合連合会(全飲連)に対し
記載の訂正を求め、全飲連も記載に誤りのあったことを認めている(甲一〇一の6
九枚目裏参照)。また、福岡高裁判決が出される以前の昭和五九年二月の時点で、
原告と環衛組合との交渉に環衛組合議員連盟所属の政治家が関与したのは事実であ
るが、その後、カラオケ伴奏による客の歌唱が著作権侵害となることを肯定した右
高裁判決が出されるに及び、その政治家も判決内容の妥当性及び重要性に注目し、
同年八月両者の交渉に再び立ち会い、右判決の指し示す方向へ協議を進めることに
賛同したのである(【K】証人調書、甲一〇一の5の二九丁裏~三三丁裏)。そも
そも、世にいう政治的決着とは第三者である権力を有する者(=政治家)が介入す
ることで、交渉当事者を本来あるべき解決の筋道を無視した別の方向へ導き、物事
の決まりをつけることをいうのが普通であろう。その意味からすると、原告と環衛
組合は、原告の主張を全面的に認めた福岡高裁判決の趣旨に則った正当な方向での
協力関係を築き上げたのであり、その過程で、政治家の介入は、両者の協力関係を
むしろ促進し、著作権者の正当な権利の実現にも貢献したのであるから、これをも
って俗にいう政治的決着と同視するのは、原告と環衛組合との協議の本質について
の誤解に由来する粗雑な事実認識というしかない。なお、丙第一二号証にある元文
化庁担当官の発言は、右の原告と環衛組合との協議が福岡高裁判決の司法判断の内
容にのみ即して行われ、当時文化庁内部で進んでいた政令改正論を問題としなかっ
た点を捉らえて、「そこがすっとんじゃった」との個人的感想を俗な表現を交えて
述べたものにすぎず、被告会社の主張の根拠とはなり得ない。すなわち、福岡高裁
判決の司法判断が旧規程の改正論議に影響を及ぼし、文化庁内部に一時存在してい
たいわゆる政令改正論が同判決によって覆され、その見解が改められたことは、原
告と環衛組合の協議がととのった上で、原告が福岡高裁判決の趣旨に合致した著作
物使用料規程の改正の認可を申請したのに対し、同判決の事件が未だ上告中であっ
たにもかかわらず、昭和六一年八月一三日文化庁長官がこれを認可したことに照ら
しても明らかである。被告会社は、文化庁の新しい見解の内容が外部に対して明ら
かにされた「時の法令」(甲一一一の1)の発行時期を殊更取り上げて云々してい
るが、そのことにさしたる意味はない。当時の著作権審議会の会長であった【L】
氏も、「時の法令」(甲一一一の2)に掲載された判例紹介記事「スナックなどで
のカラオケ歌唱は客の行うものも著作権の対象になる」の中で、文化庁が原告の著
作物使用料規程の改正申請について著作権審議会の議を経て認可したのも、この福
岡高裁判決が出たことが最大の理由になっている旨述べており、これは右司法判断
の波及効果がいかに大きかったかを端的に示している。
(2) 原告と環衛組合との間の協力関係の有無はリース業者の責任の有無とは無
関係である。
 被告会社は、原告がカラオケ管理の実施に際して環衛組合と協力関係を結んだこ
とを捉らえて、原告がリース業者を殊更排除し、蚊帳の外に置いたかのように主張
するが、これは事実を意図的に歪曲するものである。すなわち、カラオケリース業
界には、原告が環衛組合と業務協定を結んだ昭和六一年当時から現在に至るまで環
衛組合に匹敵する全国規模の業者団体は存在しないというのであるから(乙二七の
2別紙回答2(1)参照)、原告は、リース業者と協力関係を結びたくとも結べる
はずもないのである。したがって、原告が全国の社交飲食店のカラオケ管理につい
て事業者団体に協力を要請する場合、全国規模で組織され、かつ、社会的にも認知
された団体(環衛組合)を相手にするのは当然至極の選択というべきである。
 被告会社は、原告が環衛組合と締結したカラオケ管理業務の協力に関する業務協
定は、カラオケリース業者を排除するものであり、これは原告がカラオケリース業
者に対して注意義務を要求せず、共同不法行為責任を追及しないことを認めたもの
であり、そこには権利者(被害者)の承諾が認められる旨主張する。しかし、原告
と環衛組合との業務協定による協力関係の有無とカラオケリース業者の共同不法行
為責任の有無とは次元の全く異なる別個の問題であり、右協力関係の存在は、カラ
オケリース業者に固有の、店との共同不法行為責任の有無には何らの影響を及ぼす
ものではない。ましてや、「被害者の承諾」理論をもってする被告会社の反論は本
末転倒というほかはない。むしろ、原告と環衛組合との協力関係は、被告会社をは
じめとするカラオケリース業者に対し、相当の経済的利益をもたらし、被告会社も
その利益享受に与っているのである。すなわち、原告と環衛組合との協力関係の具
体的内容は、環衛組合がカラオケを使用する同組合加盟店の著作権使用許諾手続に
ついて説明指導して使用許諾契約を成立させることであり、これは、本来カラオケ
リース業者がリース先店舗と共に原告に対して履行すべき義務内容を環衛組合とそ
の加盟店舗が代わって行っていることになり、原告と環衛組合との協力関係が促進
されることにより、かえって被告会社をはじめとするカラオケリース業者の共同責
任が事実上不問に付されることになり、しかも、カラオケリース業者は、原告に対
する使用料支払義務の負担を免れることによって利得を得るという経済的恩恵に浴
しているわけである。また、環衛組合に加盟していないカラオケ使用店に対する原
告の管理業務も右業務協定の内容に含まれているので、環衛組合加盟店舗の場合と
全く同様にリース業者はリース先店舗の契約成立によって恩恵を受け、正に労せず
して長年にわたり利益享受に与っているのである。
 以上のとおり、原告と環衛組合との協力関係は、カラオケリース業者の法的地位
には何らの影響を及ぼすものではない。すなわち、リース先店舗におけるカラオケ
使用について、原告からの徴収権限の委任がなければ、共同不法行為の成立に必要
な作為義務は認められず、不法行為は成立しないという被告会社の考え方自体が根
本的に誤っているというベきである。これを逆に言えば、今日まで原告からリース
業者に対し使用料の徴収権限が委任された事例は皆無なのであるから、本件におい
てリース業者固有の共同不法行為責任が顕在化してくるのは当然の事理である。し
たがって、被告会社はいうに及ばすカラオケリース業界全体として、リース業者が
著作権法上の規制を受けるカラオケ装置の利用主体として、自らその利用対価の支
払義務を負う者であることを真摯に受け止めることが強く迫られているのである。
(4) その余の被告会社の主張に対する反論
 被告会社は、原告が本訴を提起した真の狙いは、新規程の変更認可を得る条件と
して文化庁との間に合意した使用料徴収目標を達成できない焦りから、カラオケリ
ース業者の共同不法行為責任を追求し、これを挺にカラオケ管理率を向上させよう
とする点にあるなど、本訴の背景事情についても縷々主張するが、いずれも主観的
な思い込みに基づく主張にすぎず、取り上げるに足りない。
(責任原因に関する法律論に対する反論)
(一) 被告会社の作為義務の内容に関する主張について
 被告会社は、原告の本訴における「被告会社の不作為による不法行為の成立の前
提となる作為義務」に関する主張内容は特定が不十分であるから、原告のこの点に
関する主張は、主張自体失当である旨主張する。しかしながら、本件訴状の請求の
原因四項には、被告会社が故意又は過失により原告の著作権(演奏権・上映権)を
侵害した旨明記されており、右記載は、いわゆる主要事実の記載としていささかも
欠けるところはなく、原告は、その後も右主張を補充し、度々法律上の見解を説明
してきたのであるから、被告会社の主張は理由がない。また、被告会社は、原告が
本訴口頭弁論の終結間近になって被告会社の過失内容に関する主張を突如変更した
とし、それが民訴法一三九条一項の時機に後れた攻撃防御方法の提出となる旨主張
するが、右主張は、原告主張の一部のみを故意に抜き出して自らに都合よく主張す
るものであり、被告会社の独断というしかない。すなわち、被告会社の指摘にかか
る原告の平成元年六月二八日付準備書面(二)には、これを正確に引用すれば、被
告会社の過失内容に関して、「少なくともその業務用カラオケ装置に関して著作権
を侵害することのないよう、該リース契約条項中に、被告ら店の経営者が原告との
間に著作権使用許諾契約を締結する義務のあることを明記し、およびその手続をと
るよう指導監督するなどの注意義務がある」と記載されており、右記載が被告会社
の注意義務を単に例示したものにすぎず、そこに記載された注意義務に限定する趣
旨でないことは、「少なくとも…など」という修飾句からも明らかである。
(二) 本訴請求の一部減縮に関する主張について
 被告会社は、原告が被告会社に対する本訴請求の一部(昭和六二年四月一日以前
の損害賠償請求部分)を減縮したことは、従来原告が主張していた昭和六一年五月
一七日の本件リース契約締結行為及び同日から昭和六二年三月三一日までの間の本
件リース契約の継続行為について、いずれも不法行為が成立しないことを自認する
ものに他ならない旨主張する。しかし、右請求の減縮と原告主張の不法行為の成否
との間には何らの関係がない。すなわち、前記したとおり、被告会社には、リース
業者として、原告との間の著作権使用許諾契約手続について説明指導するなど、契
約店舗の経営者の著作権侵害行為の予防措置を講ずべき注意義務があるところ、被
告会社代表者【M】は、昭和六一年一〇月二〇日、原告の担当者と面談し、同旨の
説明を受けたにもかかわらず、その後も何ら適切な措置を講じなかったのであるか
ら、本来少なくともその時点以降は被告会社に故意に基づく不法行為責任が成立す
る。しかし、被告会社としては、当時本件店舗を含めて多数のリース先店舗を抱え
ており、通常であればその対応のため、従業員の指導教育に加え、契約対象店舗の
客席面積の把握及び当該店舗と原告との間の使用許諾契約の締結の有無の確認等に
相当の準備期間を要するものと予測される。そこで、原告は、それらの事情と他の
リース業者との取扱の公平性をも考慮して、本訴における被告会社に対する損害賠
償請求の算定期間の始期を昭和六二年四月一日としたにすぎない(同業他社の対応
については、日光堂の例〔第二四回【F】証人調書五丁表~六丁裏〕及びミニジュ
ーク大阪の例〔甲一〇〇の1の12頁〕参照)。したがって、被告会社のこの点に
関する主張も失当である。
(三) 本件リース契約の締結に関する不法行為不成立の主張について
 被告会社は、昭和六一年五月一七日の本件リース契約締結当時、被告【A】及び
同【B】は本件店舗の営業に本件装置を使用することによって原告の著作権を侵害
することを予見できなかったから、本件装置の提供者である被告会社にも著作権侵
害の認識はなく、被告会社には故意は勿論過失もなかった旨主張し、その根拠とし
て、本件リース契約の締結当時出されていたカラオケ伴奏による歌唱に関する判決
は、いずれも大規模店舗に関するものであって、本件店舗のような小規模店舗に関
する裁判例は一つもなく、現実にも小規模店舗のカラオケ使用料の支払が不要とさ
れていたことを挙げている。しかし、右主張は、前提の事実認識自体が誤ってい
る。すなわち、昭和五九年七月五日の福岡高裁判決では、本件店舗よりも小規模の
「ミニクラブ水晶」及び「スナックギャル」という零細店舗のカラオケ使用料の支
払義務の存否が問題とされたのであり、結論としてそれらの店舗の経営者について
著作権侵害による不法行為責任の成立が肯定されたのであって、その判旨が本件店
舗にもそのまま類推できることは何人の目にも明らかなことである。右判決は、カ
ラオケ歌唱に関する我が国初の判決として新聞やテレビ等の全国ニュースでも大々
的に報道され、当時国民一般の強い関心を集めたものであり、リース業界でも、第
一興商をはじめとして同社のディーラーである被告会社もこれに当然注目したであ
ろうことは疑いを容れない。したがって、被告会社としては、本件リース契約の締
結に際し、被告【A】及び同【B】が本件装置を原告の許諾を得ないで使用し、そ
の著作権を侵害する蓋然性の高いことを十分認識し得たことは明らかであり、仮に
これを認識していなかったというのであれば、被告会社にはその点について過失が
ある。
(四) 本件リース契約の継続行為に関する不法行為不成立の主張について
 被告会社は、本件リース契約の継続行為は、適法に成立した契約の履行行為であ
り、契約により拘束を受ける者の義務として本件装置の提供を継続するのは適法行
為であり、仮にそれが不法行為を構成するというのであれば、不作為による不法行
為の成立の前提となる作為義務として、結果発生防止義務(被告【A】及び同
【B】による本件装置の利用を排除すべき義務)の存在を必要とするが、被告会社
にはそのような利用排除義務はない旨主張する。しかし、本件リース契約の締結行
為は、前記したとおり、原告の著作権を侵害する不法行為を構成するから、被告会
社の主張は、その前提の主張において既に誤っており、作為義務の点についても、
被告会社がその主張の論拠とする、原告と有限会社トキワエンタープライゼスとの
間の仮処分申立事件において成立した裁判上の和解の内容(甲一五)に対する事実
認識も誤っている。すなわち、右和解条項第一項で、有限会社トキワエンタープラ
イゼスは、リース契約先店舗「ざくろ」に設置したカラオケ装置の提供者として、
同店における和解成立前の無許諾のカラオケ使用に対し著作権侵害を排除する義務
を怠り、「ざくろ」の経営者との共同による著作権侵害によって原告に与えた損害
について、同店の経営者有限会社ジュネスと有限会社トキワエンタープライゼスが
共同債務者(連帯債務者)として原告に対し五万四〇〇〇円の支払義務を認めてい
る。したがって、この点を看過し、原告が、右和解において有限会社トキワエンタ
ープライゼスから右利用排除義務を認める和解内容を取り付けることができなかっ
たことを前提とする被告会社の主張はミスリーディングそのものというべきであ
る。
(五) 因果関係中断の主張について
 被告会社は、被告【A】及び同【B】は、当初から一貫して原告との間に使用許
諾契約を締結するつもりはなく、同被告らのその点に関する意思が極めて強固であ
る以上、たとえ被告会社以外のリース業者がリース契約を締結したとしても、同被
告らが原告との間に著作物使用許諾契約を締結しなかったであろうことは確実であ
るから、本件において被告会社の行為と原告の被った損害との間には因果関係がな
い旨主張する。しかし、被告会社は、前記したとおり、本件に関する仮処分申立事
件の審理中の昭和六三年五月一一日付で被告【A】及び同【B】との間に新たにリ
ース契約を締結し(丙三)、本件リース契約(丙二)により既に提供していたモニ
ターテレビ三台を四台に増設するとともに、リース料を一万円減額して月決め定額
方式に変更する(第一七回【N】本人調書一八丁~一九丁)などして、右のように
被告会社自身確信犯と主張する被告【A】及び同【B】の黒幕的存在として、同被
告らを物質的にも資金的にも援助し、その著作権侵害行為に深く加担し、それを公
然と助長したのであるから、もはや被告会社が因果関係の中断を理由に不法行為責
任の成立を免れる余地はない。
【被告会社の主張】
 被告会社には、本件に関する一切の不法行為責任は存在しない。以下では、ま
ず、① 被告会社の不法行為責任の有無を論じる前提事実として、原告のカラオケ
管理の対象となる店舗を類型区分し、その各店舗類型ごとに原告のこれまでのカラ
オケ管理の取り組み方の推移について振り返り、② 更に、原告の本件訴訟提起の
真の狙い等本件訴訟の背景についても触れた後、③ それらを踏まえて、被告会社
に不法行為責任の存在しないことを改めて論証することとする。
(前提事実)
1 原告のカラオケ管理の対象となる店舗の類型化
(一) 従来の裁判所における対象店舗の類型化の観点の欠落
 原告がカラオケ管理の実施に際して如何なる範囲をその対象店舗として選択する
かは、カラオケの普及程度や原告によるカラオケ管理の実現性の見込等の要因だけ
でなく、各社交飲食店の経営規模やその負担能力とも密接に関連する問題である。
そのため、原告も、後に詳述するように、過去において、右の観点から各社交飲食
店における音楽著作物の使用実態を見極め、これを適宜分類区分したうえで、各々
の店舗類型の経営形態に応じて、その取り扱いに差異を設けてきたのである。した
がって、カラオケスナック店における著作権の侵害の有無を判断するに当たって
は、そうした対象店舗の類型化の観点を看過することは許されない。従来のカラオ
ケ伴奏による客の歌唱をめぐる著作権侵害訴訟の裁判例では、事案の解決上必ずし
も絶対的に必要ではなかったことも手伝って、そうした対象店舗の類型化の観点を
欠落して判断されてきた。しかし、本件は、小規模店舗型に属する店の経営者の著
作権侵害による損害賠償責任の有無が正面から問われる初めてのケースであり、し
かも、そこで問題とされる侵害行為のなされた期間が原告による新規程に基づく新
たな方式によるカラオケ管理の開始時期の前後に跨がるという特殊な事案であるか
ら、この観点からする考察を避けて通るわけにはいかない。
(二) カラオケ管理の対象店舗の類型区分
(1) 類型区分
 原告によるカラオケ管理となる対象店舗は、次の三つの類型に区分することがで
きる。
A 大規模店舗型(旧生演奏店舗型)類型
 原告によってカラオケ管理の開始された昭和六二年四月一日よりはるか以前か
ら、ピアノやギターなどの楽器演奏、或いはプロの歌手による歌唱等の生演奏が行
われ、これについて原告が著作物使用料規程により著作物使用料を徴収していた、
キャバレーやクラブ等の客席数の多い大規模店舗類型である(なお、この類型に
は、旅館やホテルなどの大規模宴会場を含む。)。
B 客席面積五坪超の小規模店舗型類型
 昭和六二年四月一日の原告によるカラオケ管理の開始に当たり、初めて著作物使
用料の徴収が開始された、スナックやパブなどのA類型の店舗と比較して客席面積
や営業規模等において小規模な飲食店舗類型である。
C 客席面積五坪以下の零細店舗型類型
 現在も原告によって著作物使用料の徴収が実施されていない零細店舗類型であ
る。
(2) 各店舗類型の特徴点
(イ) A類型
 A類型の大規模店舗型(旧生演奏店舗型)類型の店舗は、昭和三〇年代から四〇
年代まで全盛であった、ナイトクラブやキャバレーなどの店舗面積が広く多人数の
客を収容可能で、生バンドによる演奏とそれを伴奏としたプロの歌手による歌唱を
行う店である。原告は、カラオケ管理が開始された昭和六二年四月一日以前には、
その当時実施されていた旧規程に基づき、この生演奏について著作物使用料を徴収
していたのであり、これが同規程の「社交場における演奏」の範疇に入る唯一の管
理対象であった。第一次オイルショック後、これらナイトクラブやキャバレー等の
大規模店舗は経営の維持が困難となって次第に衰退し、夜の社交場がスナックやパ
プなどの小規模店舗へと次第に移行していった。原告は、本来ナイトクラブやキャ
バレー等の典型的な大規模店舗には含まれない大規模旅館の宴会場についても、①
 ステージ又はそれに応じた一定の区画が設けられていること、② 店の従業員が
歌唱し、或いは歌唱の司会・進行等に関与すること、③ 宴会場の設備として一五
〇平方メートル以上の広さをもつこと、の三つの基準(以下「三基準」という。)
を満たすものについては、昭和六二年四月一日のカラオケ管理の開始前から、既に
カラオケ管理を実施していた旨主張するが、この三基準を満たす店舗の実体は大規
模店舗のそれと等しく、それは正しくA類型に属する。
(ロ) B類型
 B類型の客席面積五坪超の小規模店舗型類型の店舗は、昭和六二年四月一日の原
告によるカラオケ管理の開始によって、初めて著作物使用料の徴収対象とされるよ
うになった店舗類型であり、それ以前にこの類型の店舗について原告によって実際
に著作物使用料が徴収された例は一件もなく、原告の内部においてもその徴収体制
は全く整っていなかった。
2 カラオケの普及と急店舗類型毎の原告によるカラオケ管理に関する取り組みの
推移
 以上のようにA類型の店舗とB類型の店舗とでは社交場営業として隆盛を極めた
時期が異なり、またその経営規模も異なるうえ、生演奏を行っているか否かの点に
おいて、音楽著作物の使用実態にも大きな違いがあった。そして、昭和六二年四月
一日のカラオケ管理の開始まで、原告がカラオケ伴奏による客の歌唱について著作
権侵害を問題視したのは、A類型に属する店舗についてのみであった。以下では、
この点について、時系列的に更に敷衍して説明する。
(一) カラオケの普及
(1) カラオケの普及の急速性
 カラオケは、昭和四七年に初めて生まれたものといわれ、その後昭和五〇年代に
入って急速な発展を遂げ、オーディオ業界が不振で喘ぐ中でも堅実な伸びを続け、
カラオケ専門の業者も多数輩出し、現在では一大娯楽産業を形成している。カラオ
ケは、日本が生んだ新しいタイプの娯楽であり、老若男女を問わず広く愛好され、
夜のスナックやパブ等の社交場は勿論のこと、家庭や各種パーティーの席などでも
参加者共通の娯楽として盛んに楽しまれ、国民生活の中に深く浸透するに至ってい
る。
(2) 原告の管理対象の狭さ
 原告は、仲介業務法に基づく許可を受けた我が国唯一の音楽著作権の仲介団体で
あり、文化庁長官から認可を受けた著作物使用料規程に基づき使用料を徴収すべき
法律上の義務があるため、右規程の変更及びその運用面での機動性には限界があ
り、右のように急速な発展を遂げたカラオケブームに的確に対応することができな
かった。その上、我が国においては、著作権法上適法録音物の再生は自由利用が許
されており(著作権法附則一四条、旧著作権法三〇条一項、著作権法施行令附則三
条)、カラオケの伴奏音楽は録音物の再生であり、著作権の侵害とはならないとす
る考え方が一般的であったことも原告によるカラオケ管理の障害となった。そのた
め、原告としては、旧来の大規模店舗の社交場からの生演奏の使用料の徴収にのみ
目を奪われている間に、いつの間にかカラオケ産業の巨大化という現実に直面した
というのがその実情といえるであろう。
(3) 原告の後追い的対応
 原告が何時の時点でこのような現実を目の当たりにして、カラオケ管理を企図す
るに至ったのかは想像の城を出ないが、原告がカラオケの将来性とその市場規模の
大きさに着目し、これを自らの財源の柱とする方策を模索し始めたことは想像に難
くない。しかし、現実には原告の思惑に反して、巷には既にカラオケが広く普及
し、その使用者の間に原告の許諾なくして自由に歌唱できるとの風潮が蔓延し、一
種の放任状態にあった。したがって、原告がカラオケ管理を開始しようにも、その
実現は容易ではなく、殊に対象がスナックやパブという全国に何十万軒と存在する
改廃の激しい個々の店舗であったから、実際に各店舗から著作物使用料を徴収する
には気の遠くなるような作業の必要が予想され、実現が困難視される中で、原告は
具体的方策をあれこれ模索していたのである。
 このような背景事情の下で、原告が、実際におそるおそる使用料徴収の試みに着
手したのは昭和五〇年代の後半に入ってからのことである。当時カラオケ市場は家
庭用の機器も普及して既に定着期を迎えていたから、原告の対応は後手に回ったも
のと評さざるを得ない。ところが、この時偶々、原告が生演奏の著作物使用料を支
払わなかった大規模店舗に対して提起していた著作権侵害訴訟において、当該店舗
が生演奏からオーディオカラオケに移行するという事態が発生した。原告として
は、このような状況の中で、請求棄却を免れるためには、たとえオーディオカラオ
ケに切り換えたとしても、生演奏と同様著作権侵害となるとの裁判所の判断を得る
必要に迫られたのである。そこで、原告によって、カラオケ伴奏による客の歌唱は
録音物の再生とは異なり、店舗が主体となった演奏であり、原告の演奏権の侵害と
なるとの論理が構築され、認容判決を得る動きが展開されることになったのであ
る。そして、当時未だ原告によるカラオケ管理は開始されておらず、原告自身も五
里霧中の状態にあり、カラオケ著作権について突っ込んだ法律的論議も深められて
いなかったにもかかわらず、カラオケ伴奏による客の歌唱イコール著作権侵害とい
う皮相な結論が次々と出されて一人歩きするようになる。殊に、この問題を扱った
福岡高裁の昭和五九年七月五日判決(クラブ・キャッツアイ事件判決)が出された
のが突破口となって、原告は政治的手法により全国環境衛生同業組合中央会(環衛
組合)を巻き込み、原告の著作物使用料徴収の実務やカラオケ管理の実態と遊離し
た抽象理論が闊歩するようになったのである。
 しかし、この時期は、未だ同判決によって示された一般的抽象的議論を実践し、
これを小規模店舗にまで及ぼしていく方法を原告が模索していた段階であり、当初
はカラオケリース料金の徴収の分野でノウハウを蓄積していたカラオケ機器のリー
ス業者に対し使用料の徴収業務の代行を依頼することも原告によって検討されてお
り、全国的なカラオケ管理を開始するには程遠い状況にあった。
(二) 原告によるカラオケ管理の開始
(1) カラオケ管理の黎明期・模索期
(イ) 原告は、昭和五四年八月に大阪の社交場で楽団演奏と共にカラオケ伴奏を
行っていた店について裁判上の和解が成立し、これを契機として、従前楽器演奏者
や歌手等の出演実績があって、カラオケの使用に移行した社交場を対象としてカラ
オケに関する著作物使用料の徴収を開始した旨主張する(甲三四)。しかし、この
事案は、楽団の演奏が行われていた大規模店舗に関する事案であり、しかも楽団演
奏と共にカラオケ演奏を行っていたという特殊な事案であるから、原告主張の先例
としての価値は乏しい。
(ロ) 原告は、昭和五五年七月二九日、福岡地方裁判所小倉支部に対し、後にカ
ラオケ伴奏による客の歌唱に関する著作権侵害事件として知られるようになる「ク
ラブ・キャッツアイ事件」の訴訟を提起している。原告は、当時、原告と著作物使
用許諾契約を締結せず、生演奏の著作物使用料を支払わない店舗に対し次々と訴訟
を提起して支払を求めるという手法をとっていたのであり、クラブ・キャッツアイ
も元々は生演奏をしていた店舗であるから、これも特段異例な訴訟ではなかった。
(ハ) 原告は、昭和五五年頃、一五〇平方メートル以上の宴会場を有する熊本県
内の旅館について、カラオケ使用に関して著作物使用料の徴収を試みたことがあっ
た(甲三二、三四)。しかし、旅館経営者側は支払を拒絶し、文化庁著作権課は、
旅館経営者側の代理人からの支払の必要性の有無についての弁護士法に基づく照会
に対し、支払の必要性ありとするためには著作権法施行令の改正が必要である旨の
見解を示し、原告も、前記三基準を満たす大規模店舗類型に属する店舗について徴
収が可能であるとの見解のもとに暫定的に徴収を実施しようと試みたにすぎない。
(ニ) 原告は、昭和五六年と五七年に、カラオケ管理に関するチラシ(甲五、
七)を作成し、カラオケについて著作物使用料徴収の希望を表明したことがある
が、各方面のコンセンサスを得られず、原告の一人相撲の様相を呈していた。すな
わち、昭和五八年当時の原告の担当者の見解としても、「旅館、社交場でこれが採
用された当初は、比較的小規模と見られたゆえに当協会(原告・裁判所注記)で
は、現実の対象としなかった時期がある」ことを素直に認め、「従前楽器演奏者、
歌手等の出演実績があってカラオケに移行したキャバレー、クラブ、スナック等の
社交場を当面の使用料徴収の対象とした」旨明記しており(甲三四の5頁)、当時
原告が生演奏からカラオケの使用に移行したA類型の店舗のみをカラオケ管理の対
象としていたことを認めている。そして、原告が現実に印刷したこのチラシの枚数
が僅か一万枚程度にすぎず(甲五の欄外の記載参照)、しかも、それは大規模店舗
型の店舗のみを配付対象として想定したものであった。したがって、当時原告がチ
ラシの配布先として予定していた対象店舗が、既に店内で生演奏をしていて原告が
使用料の徴収実績を有していた大規模店舗のみであったことは明らかである。した
がって、これはカラオケ固有の著作物使用料の徴収を意図したものとはいえず、そ
れによって現実に徴収の実績もあげられなかったであろうことが容易に推察され
る。
(ホ) 原告は、昭和五六年七月二九日に広島地裁福山支部に対し、後にカラオケ
伴奏による客の歌唱に関する著作権侵害訴訟として知られることになる「くらぶ明
日香事件」の訴訟を提起している(甲一四)。しかし、この事件の対象店舗である
「くらぶ明日香」も、原告がそれまで著作権侵害訴訟の対象としてきた店舗と同様
に生演奏をしている店舗であった。
(ヘ) 昭和五六年九月二五日発行の電波新聞紙上でカラオケ産業の特集記事が組
まれているが(乙一四、一五)、そこで問題とされているのは専らカラオケ騒音の
問題であり、カラオケ著作権のことは全く取り上げられていないことに留意される
べきである。原告は、この頃から、社交飲食店からのリース料の回収についてノウ
ハウを蓄積しているとみられる業界最大手のカラオケリース業者である第一興商と
カラオケの著作物使用料の徴収方法などについて交渉を重ねており(乙二七の2の
四頁)、既にこの時点で将来のカラオケ管理の実施を目論み、その下準備を開始し
ていたことが窺える。
(ト) 昭和五七年八月三一日、福岡地裁小倉支部において、クラブキャッツアイ
事件の第一審判決が下された。そして、右判決について被告側から控訴された際、
偶々当該店舗が生演奏からカラオケ演奏に移行していたため、原告側が附帯控訴を
して、カラオケ伴奏による客の歌唱についても著作権侵害が成立する旨の主張を展
開するに至った。これが我が国においてカラオケ伴奏による客の歌唱について著作
権侵害の法的主張がなされた嚆矢とみられる。
(チ) 昭和五八年一月ないし七月頃に至っても、原告と熊本県内の旅館との間で
は、カラオケの利用主体に関する論争が継続しており(甲三三、三四)、したがっ
て、この時点でも社交飲食店業界において未だ原告のカラオケ著作権が一般的に認
知されていなかったことが窺われる。
(リ) クラリオン株式会社は、昭和五八年三月、「昭和五七年度・カラオケ白
書」と題して初めてカラオケに関する白書を刊行した(甲三五)。しかし、その中
でも、カラオケ著作権については一切触れられてはいない。また、大阪府は、同年
四月深夜カラオケ禁止条例を施行している(甲三三)。したがって、これらのこと
からも明らかなように、当時カラオケに関する中心的課題は未だその騒音問題にと
どまっていたのである。
(ヌ) 原告は、昭和五八年六月二四日付で全国社交業環境衛生同業組合連合会
(以下「社交環衛」という。)に対しカラオケ管理を実施したい旨の申入れをした
として、その申入書(甲三二の1・2)を証拠として提出している。しかし、右申
入書が真実社交環衛宛てに交付されたものか否かは疑問であるとともに、仮に交付
されたとしても、それは原告側の一方的希望を表明しているにすぎず、当時、環衛
中央会としては、カラオケ管理に反対の立場をとっており、顧問弁護士を通じて表
明した見解でもカラオケ伴奏による客の歌唱は著作権侵害にはならないとの立場で
一貫しており(丙一〇の二二頁)、その下部組織である社交環衛も同様の見解であ
ったとみられるから、社交環衛がこの原告の申入れをそのまま受け入れたものとは
俄かに考え難い。なお、右申入書でも大規模店舗についてしかカラオケ管理の対象
とはされていない。
(2) クラブ・キャッツアイ事件控訴審判決以降の展開
(イ) 福岡高裁は、昭和五九年七月五日、クラブ・キャッツアイ事件に関する控
訴審判決を下した(甲一一)。しかし、同判決は、社交飲食店業界において、大規
模店舗(旧生演奏)型類型の店舗に特有の問題を扱った判決として受け止められ、
さしたる反響を呼ばなかった。しかも、同判決は上告され、その時点では最終的な
司法判断は未だ存在しなかった。
(ロ) しかし、右判決を機に環衛中央会が原告側に歩み寄りを示したため、一般
の国民や社交飲食店の経営者及びリース業者等の知らない水面下で、原告と環衛中
央会との間でカラオケ著作権の問題が急速に浮上し、新たな展開を見せ始めてい
た。すなわち、環衛中央会は、この段階で原告によるカラオケ管理を基本的に認め
たうえで、原告と業務協定を結ぶのが得策であるとの政治的判断から、原告がカラ
オケ伴奏による客の歌唱につき著作物使用料を徴収することに賛成の方向に方針を
転換したのである(丙一〇の二二頁)。
(ハ) その結果、原告と環衛中央会は、昭和六〇年一二月一七日、環衛組合加盟
店に対する優遇措置を設けることを条件に、原告によるカラオケ著作物の使用料徴
収を認める旨の一般的合意をしている(乙一六の一五四頁)。
(3) 本件リース契約の締結
 以上の状況のもとで、被告会社は、昭和六一年五月一一日、被告【B】との間に
本件リース契約を締結した。しかし、当時、前記したとおり、水面下では原告と環
衛中央会との間の交渉が進んでいたとはいえ、一般の国民や各店舗経営者及びリー
ス業者等にはそうした情報は一切伝えられず、それらの人々は蚊帳の外に置かれて
いたのである。
(4) 本件リース契約締結後の原告の動き
 本件リース契約締結後の原告の動きを時系列的に説明すると、次のとおりであ
る。
(イ) 原告は、昭和六一年春頃から、文化庁に対し、カラオケ管理の実施に関し
て打診していたが、なかなか了承が得られないままで推移していた(乙二七の2の
別紙回答三頁)。すなわち、当時、文化庁としては、原告によるカラオケ管理の実
施に関して慎重姿勢をとっていたのであり、そのため、原告は、この状況を打開す
るために、新規程の認可後一年以内に一一万件、その後さらに二年以内に一一万件
の使用許諾契約を取り付ける旨記載した念書を文化庁に差し入れ、ようやく変更認
可に漕ぎ着けたという経緯がある(同回答三頁)。
(ロ) 原告は、昭和六一年六月二日、文化庁に対し、カラオケ管理の実施を盛り
込んだ著作物使用料規程(新規程)の変更認可を申請し(甲六三)、同年七月一
日、その一部変更要領が官報に掲載され(甲六四)、文化庁長官は、同年八月一三
日変更認可をした(甲二四)。
(ハ) 広島地裁福山支部は、同年八月二七日、前記くらぶ明日香事件について、
著作権侵害を肯定する一審判決を下した(甲一四)。しかし、同判決も、社交飲食
店業界では大規模店舗(旧生演奏)型類型の店舗の問題を扱った判決として受け止
められ、格別の反響は呼ばなかった。
(ニ) 原告が全国の飲食店へカラオケ管理に関するダイレクトメールを発送した
のは、同年一〇月一八日になってからのことである(甲二六の1)。また、原告主
張の被告会社の前社長【M】と原告の担当者との会談時期は同月二〇日とされてい
る(甲三八)。しかし、その一方で、同年一二月頃、大阪で日本商事株式会社社長
【O】の主催により日本映像音響産業協会という名称のリース業者の会合がもたれ
たが、その席にオブザーバーとして参加した原告の職員は、原告は、社交飲食店の
指導監督及び回収業務については、環衛組合に対して一任しているので、リース業
者は口出しをしないでほしい旨の説明をしている(乙二八)。
(ホ) 昭和六二年一月頃、都内の一部のリース業者が原告の使用許諾契約の代行
業務をする旨のチラシを配布し(乙二〇)、福山地区においても類似の動きがあっ
たが、このような一部リース業者の動きは、環衛組合としては、その業務を横取り
されることになるため、徹底的にこれを排除する必要があり、それは原告の意向を
反映したものでもあった。
(ヘ) 環衛組合内部でも、昭和六二年に入ってからも、原告のカラオケ管理に対
する協力体制を確立することで一枚岩となっていたのではなく、社交環衛組合をは
じめとして、環衛組合の下部組織や環衛組合傘下の関係諸団体では未だ原告のカラ
オケ管理に対して根強い反対論のあったことが各種業界新聞記事の報道等によって
も窺われる(乙七、一七)。
(ト) 原告は、昭和六二年四月一日に至ってようやく新規程に基づいてカラオケ
に関する著作物使用料の徴収を開始したが(甲二四、二五)、その点に関して、日
刊新聞紙上での広告等による一般的啓蒙・広報活動は一切なされず、原告によるカ
ラオケ管理の実施は、社交飲食店業界及びカラオケリース業界の内部でも十分に周
知徹底されてはいなかった。
(チ) 原告は、昭和六二年一一月九日と同月二四日の二回にわたって、被告
【B】に対し、「音楽著作物の使用許諾契約締結について」或いは「音楽著作物の
使用許諾契約締結に関する催告」と題する各書簡を送付しているが(甲二七、二
八)、被告会社としては、そうした事実は一切知らされておらず、また知る由もな
かった。被告会社が被告【B】及び同【A】が原告と音楽著作物の包括使用許諾契
約を締結していないとの事実を初めて知ったのは、本件訴訟の保全処分の仮処分命
令申請書の送達を受け、被告会社の代表者【N】が初めて被告【B】と会った時点
においてである。
(リ) 原告は、昭和六二年一二月末頃、第一興商と接触を持っており、その際、
原告の担当者が、変更認可の条件とされた契約件数を達成できずに困っているた
め、見せしめ的にリース業者数社を裁判の相手方とする予定である旨発言している
(乙二七の2)。
(ヌ) 昭和六三年三月一五日になって、クラブ・キャッツアイ事件の上告審判決
があった(甲一二)。
(5) 本件に関する仮処分申請後の展開
 原告が本件に関し仮処分申請をしたのは昭和六三年三月二九日のことであるが、
その後も現在に至るまで、原告のカラオケ管理の実績は不十分であるとともに、右
仮処分申請当時においても、既に制度の不公平性及び原告による管理業務の杜撰さ
などが批判を浴びていたのである(乙一)。
(三) まとめ
 以上によれば、原告によるカラオケ管理に関して、これまで次のように各店舗類
型毎に違った取扱がなされてきたことが明白である。すなわち、
(1) 大規模店舗(旧生演奏店舗)類型
(イ) 原告は、昭和五八年一一月頃の時点においてすら、「従前楽器演奏者、歌
手等の出演実績があって、カラオケに移行したキャバレー、クラブ、スナック等の
社交場を当面の使用料徴収の対象とした」旨明言しており(甲三四)、当時、原告
が大規模店舗のみをカラオケ管理の対象として想定していたことは明白である。
(ロ) 著作物使用料規程の想定している店舗規模
 原告の主張によれば、旧規程(甲七)では、カラオケ伴奏による客の歌唱は、同
規程の「社交場における演奏」の規定に該当するというのであるが、そこに列挙さ
れている店舗形態は、「キャバレー、カフェ、ナイトクラブ、ダンスホール、喫茶
店、ホテル」(甲七の四頁)であり、同規程が大規模店舗(旧生演奏店舗)型の店
舗のみをその対象店舗として予定していたことは明らかである。また、そこでの使
用料金額も、大規模店舗(旧生演奏店舗)型類型を予定しているため、小規模店舗
には対応が不可能なほど極めて高額であり、肝心の大規模店舗においてすら、原告
の内規によりカラオケ伴奏による客の歌唱については著作物使用料の調整(特別使
用許諾契約に準じてテープ再生部分の控除及び素人による歌唱であることを考慮し
た控除として二分の一を減ずるなどの措置、甲一一)をせざるを得ない状況にあっ
たのである。
(ハ) 旧規程の実施当時、福岡高裁昭和五九年七月五日判決・判例時報一一二二
号一五三頁(クラブ・キャッツアイ事件控訴審判決、甲一一)、広島地裁福山支部
昭和六一年八月二七日判決・判例時報一二二一号一二〇頁(くらぶ明日香事件第一
審判決、甲一四)の二件の判決において、カラオケ伴奏による客の歌唱が著作権侵
害となるか否かが問題となり、いずれの判決もそれを肯定している。しかし、これ
らの判決は、原告がカラオケ発展の現実に直面して、生演奏に関する大規模店舗と
の間の訴訟において、偶々対象期間中にカラオケを導入した店舗があったため、事
のついでにカラオケ伴奏による客の歌唱に基づく著作権侵害の主張に切り換えて主
張をした事案に関するものであり、これら訴訟の提起をもって原告によるカラオケ
管理ということはできない。
(ニ) 原告は、大規模店舗に対するカラオケ伴奏による客の歌唱に関する著作物
使用料徴収の例として、熊本県内の大規模旅館の宴会場等について前記三基準を満
たすものについて著作物使用料の徴収を試みた例があったこと(甲三三の六二頁)
及び大規模店舗に対しカラオケ管理の開始を希望する旨を記載した書簡及びチラシ
の類を作成配布したことを挙げている。しかし、これらの原告の要望に対して相手
方がどの程度応えたのか、また、実際にどの程度の徴収実績をあげ得たのかといっ
た点については全く資料がなく、原告によって系統だった正式な使用料徴収体制は
実現されてないといわざるを得ない。
(2) 小規模店舗類型(客席面積五坪超)
 原告が昭和六二年四月一日のカラオケ管理の開始前に使用料を徴収した例は一件
もなく、それ以前の時点においてカラオケ著作権の問題に関する最終的な司法判断
はなされておらず、業界内部においても、生演奏でなければカラオケの使用料は無
料であるとの認識が一般的であった。したがって、福岡高裁昭和五九年七月五日判
決・判例時報一一二二号一五三頁(クラブ・キャッツアイ事件の控訴審判決、甲一
一)及び広島地裁福山支部昭和六一年八月二七日判決・判例時報一二二一号一二〇
頁(くらぶ明日香事件第一審判決、甲一四)
の、たった二件の判決があったことをもって、小規模店舗についても、その営業主
体に著作物使用料支払義務が発生しているとの認識があったと推定することは許さ
れない。また、仮に小規模店舗の営業主体が原告に対し著作物使用料を支払おうと
しても、原告側ではその受領窓口すら存在しなかったのであるから、それは現実に
は不可能なことである。
(3) 零細店舗類型(客席面積五坪以下)
 原告は、客席面積五坪以下の店舗については、環衛組合からの強い要請により、
その経営基盤が脆弱であるとの理由をつけて、著作物使用料の徴収を見合わせてい
る。なお、原告は、環衛組合所属の店舗については実際には客席面積が五坪超であ
っても、そのことを知りつつ著作物使用料を徴収しないまま放任している。
(本件訴訟の背景事情)
1 原告が本件訴訟を提起した真の狙い
 原告は、カラオケ管理の開始後も著作物使用許諾契約の締結率がいっこうに上が
らず、新規程の認可に際して文化庁との間で合意した目標数値を達成できない焦り
から、カラオケリース業者に著作権侵害による損害賠償責任がある旨の判決を得
て、それを挺にして契約締結率を上げるべく本件訴訟を提起したのである。
2 環衛中央会の思惑
 原告は、著作物使用料の徴収能力がないため、社交飲食店を組合員とする下部組
織を抱える環衛中央会との間で政治的解決を図り、組合加盟率の増加に対応する組
合費収入の増加の点で原告とも利害関係を共通にする環衛中央会に対し、著作物使
用料の徴収代行の権限を与え、業務委託料ないし協力謝礼金名目の収入を得させる
ことを動機付けにして利益誘導をし、環衛組合加盟店には著作物使用料の極端なデ
ィスカウントをし、かつ、客席面積五坪以下の店舗の除外規定を利用して脱法の道
を残し、非組合員のみを著作権侵害による民事裁判や刑事告訴の対象とすることに
より、間接的に環衛組合への加入を促すという措置に出た。以上のとおり、原告の
著作物使用料規程の運用は誠に恣意的であり、現行の制度には今なお根強い反対が
あって、使用料の徴収率がなかなか上がらないというのが実態である。これには、
合理的根拠のない客席面積五坪以下の店舗の著作物使用料免除措置の不公平さ、経
営実態を踏まえず一方的に決定された使用料金額の不適切さ等の新規程に内在する
諸要因にも原因があることは否めない。
3 原告の二律背反的立場
 原告は、環衛中央会との間でカラオケ著作物使用料の徴収代行業務に関する基本
協定書を締結し、環衛組合に対し諸々の利益を供与して徴収代行業務を独占的に委
ねた。その際、環衛組合が最大のライバルとみなしていたのがカラオケリース業者
であり、環衛組合は、原告や各社交飲食店がカラオケリース業者と直接接触するこ
とに最も警戒感を示し、基本協定書の中でもカラオケリース業者との接触を禁じて
いる。また、原告は、交渉窓口を環衛組合のみとすることをしばしば確認し(乙
四)、例えば原告と東京都社交環衛組合との間の業務協定書に付属する「カラオケ
管理業務の運用についての合意事項」においても、「カラオケ著作権の管理に関
し、契約締結業務の指導、代行等は環衛組合のみに委託し、カラオケリース業者、
その他の団体等に契約代行は委任しない」旨明記されているところである(乙
六)。さらに、カラオケ管理の開始直前の昭和六二年二月頃に都内の一部業者の間
に出回ったチラシ(乙二〇)の中でも、「環衛非加盟者対策並びに交渉窓口につい
て」の項目の下に、「カラオケ著作権の管理に関し、契約締結業務の指導、代行等
は環衛組合のみに委託し、カラオケリース業者、その他の団体等に契約代行は委任
しない」旨再度確認されている。
 原告は、当初カラオケ管理の方法を模索していた時期には、リース料回収につい
てノウハウを蓄積しているカラオケリース業者を利用しようと画策していたが(乙
二七の2)、自民党有力議員の協力を得て前記したような政治的決着をみるや、手
のひらを返したようにカラオケリース業者に対して著作物使用料徴収業務の代行委
任は一切しないという方向に方針転換し、社交飲食店に対する指導監督業務も環衛
組合の専権事項とされ、環衛組合との間の業務協定書の付属合意書上もリース業者
との接触を禁じるという事態になったのであり(乙三、四、六、一七、一八、二
〇)、その結果、新規程の改正過程において、カラオケリース業者に対しては、カ
ラオケ管理に関する正式な説明や協力要請も一切なされなかった。そのため、カラ
オケリース業者は、完全に蚊帳の外に置かれ、原告のカラオケ管理の開始に関し
て、情報を得ることも、実態に即した使用料徴収を実現するために自らの意見を新
規程の内容に反映させることも全く出来なかったのである。したがって、現実には
原告が組織的にカラオケリース業者に対して著作物使用料徴収業務に関する協力を
求めることは不可能な状況にあった。
 ところが、実際に原告によるカラオケ管理が始ると、原告は、文化庁との間に合
意した前記成約率に関する数値目標すら達成できないという緊急事態に直面するに
至った。そこで、原告は、再度カラオケスナック店からの料金徴収業務に精通して
いるカラオケリース業者に働きかけるのが右成約率を上げる最も有効な方法と考え
るに至った。しかし、それは、本件訴訟が正にそうであるように、訴訟によるリー
ス業者の著作権侵害行為の共同不法行為責任の追及という形をとって現れたのであ
る。以上の経緯からすれば、カラオケリース業者に対する原告からの事前の協力要
請や警告がなされる余地は全くなかったものというべきである。
(被告会社の不法行為責任の不存在)
1 本件事案の特殊性
 本件事案は、① そこで問題とされている被告らの行為が、昭和六二年四月一日
の原告によるカラオケ管理開始時期の前後に跨がっている点、② 従来から使用料
が無料扱いとされていた小規模店舗におけるカラオケ伴奏による客の歌唱に関する
事案である点、③ 原告と直接契約関係の生じる予定のない第三者である被告会社
の責任が追及されている点において、従来の裁判例の事案とは異なり、特殊性のあ
る事案であるから、これらの点に十分配慮して被告会社の損害賠償責任の成否が判
断されねばならない。
2 我が国における音楽著作権に関する規制の特色
(一) 唯一の音楽著作権管理団体としての原告の存在
 原告は、我が国の音楽著作権の殆どについて、著作権者から信託を受けてこれを
管理する唯一の音楽著作権管理団体である。したがって、音楽の利用者は、仮にそ
の意思があったとしても、現実には原告という窓口を通さなければ、すなわち原告
から請求を受けなければ、音楽著作物の使用料を支払うことは不可能である。その
意味からすると、原告がカラオケに関し具体的にどのような管理体制と徴収体制の
下で著作権管理制度を運用するかが、著作権侵害の成否を画する上でも決定的に重
要な意味を持つのであり、現実社会の法の実践としては、たとえカラオケ伴奏によ
る客の歌唱が原告の著作権の侵害になるとする判決を裁判所がしたとしても、突如
社会一般においてそのことが遍く認識されるに至るというものではなく、その判決
内容を踏まえて、原告によって実際に音楽の利用者から著作物使用料の徴収が開始
されて初めて、音楽著作権は実質的かつ具体的にその機能を果たすようになるので
ある。殊に、被告会社のようなカラオケリース業者の場合、著作権者や著作権者か
ら信託を受けた原告と契約関係に入る余地は全くないのであるから、その著作権侵
害による損害賠償責任の有無を判断するに際しては、以上の点が十分考慮されねば
ならない。
(二) 著作物使用料規程の機能
 著作権法上、何が著作権の客体となるかは極めて不明確であり、多様な解釈の余
地があり、著作権の権利内容は、裁判所の判断によってようやく明らかになる部分
が大きいという特色がある(林良平編「注解判例民法3債権法2契約(2)・事務
管理・不当利得・不法行為」一〇六四頁)。そのため、音楽著作権については、そ
の権利内容を確定するうえで著作権法及びその付属法令と共に、原告が文化庁長官
の認可を受けて制定する著作物使用料規程が重要な意義を有する。すなわち、著作
物使用料規程それ自体の法的性質は単なる約款にすぎないのであるが(大阪高裁昭
和四五年四月三〇日判決・無体集二巻一号二五二頁、判例時報六〇六号四〇頁)、
著作物の利用者との関係では、それによって音楽著作権の権利の内容を具体化し、
原告が、著作権者からの信託により著作物使用料の支払が必要となったことを音楽
利用者である国民に対し知らしめるという機能を果たしているのである(なお、仲
介業務法三条二項では、認可申請の要領については官報に公告するものとされてい
る。)。これを換言するならば、著作物使用料規程において予定されていない著作
物使用料については、原告からこれを徴収されることはないとの認識を国民一般に
与えているものといえる。また、仲介業務団体としての原告の権限という観点から
みれば、それは、著作権者から信託され委託された範囲、すなわち、原告の徴収権
限を示す著作物使用料規程に規定された範囲に限られるため、著作物使用料規程
は、原告が管理する音楽著作物について、実質上その外延を画しているものという
ことができるのである。
(三) 我が国における録音物の再生に関する特例の存在
 我が国においては、もともと著作権法附則一四条(録音物に関する経過措置)に
より、なおその効力の存続が認められた旧著作権法三〇条一項八号において、著作
権法施行令附則三条(録音物による演奏についての経過規定を適用しない事業)で
除外されたものを除き、「音ヲ機械的ニ複製スルノ用ニ供スル機器ニ著作物ノ適法
ニ写調セラレタルモノヲ興行又ハ放送ノ用ニ供スルコト」が適法とされているた
め、録音物の再生は著作権侵害とはならないものとされている。そのため、カラオ
ケ伴奏による客の歌唱は著作権侵害を構成しないとの認識が国民一般に定着してい
た(なお、右歌唱は著作権法施行令附則三条所定の各除外事例のいずれにも該当し
ないと解されていた。甲三三の六一頁)。このことは、熊本県における旅館経営者
と原告との間にこの点を巡る論争のあった際に、文化庁著作権課が、旅館経営者側
の代理人弁護士の弁護士法に基づく照会に対して、カラオケ歌唱のすべての場合に
原告が権利行使をするためには、著作権法施行令附則三条の改正が必要である旨回
答していたこと(甲三三)や、環衛中央会の顧問弁護士からの弁護士法に基づく照
会に対しても同旨の回答をしていること(丙一〇の一〇頁)に如実に現れているも
のといえる。このように、カラオケ伴奏による客の歌唱について著作物使用料を支
払う必要があるか否かの問題については、著作権法には何らの定めがなく、かえっ
て、録音物の再生は自由である旨の法令が存在していたため、適法録音物の再生で
あるカラオケ伴奏による客の歌唱について著作物使用料を支払わねばならないとす
る認識は国民一般に存在せず、むしろ、それは無料であり、その点が生演奏とカラ
オケ伴奏による客の歌唱の相違点として認識されていたものといえる。そうした事
情から、原告も従来はカラオケ伴奏による客の歌唱について何らの規制もしていな
かったのである。
(四) 昭和六二年四月一日からの原告によるカラオケ管理の開始
 昭和六二年四月一日以前の時点において、実際に原告に対し著作物使用料を支払
う小規模社交飲食店は皆無であり、カラオケリース業者の中にも、原告との間に著
作物使用許諾契約を締結する義務のある旨をユーザーとの間のカラオケリース契約
書に記載したり、現実に右契約を締結するようユーザーを指導監督したりする者は
一切いなかったのである。
3 被告会社の不法行為責任の不存在(一)(不法行為の不成立)
(一) 本件リース契約の締結行為による被告会社の不法行為責任の不存在
 原告は、本訴において昭和六二年四月一日以前の被告会社の不法行為責任につい
ては、これを問題にしてはいないが、まず、
ここで本件リース契約の締結行為自体が全くの適法行為であることを改めて確認し
ておきたい。すなわち、原告は、本件リース契約の締結当時、本件店舗のような小
規模店舗についてはカラオケ管理を全く実施しておらず、そのことは社交飲食店業
界のみならずカラオケリース業界においても常識となっていたのである。したがっ
て、被告会社としても、本件リース契約の締結行為によって原告の著作権を侵害す
るとの認識は一切なかったし、本件リース契約の締結当時において、現実に原告に
よって小規模店舗におけるカラオケ伴奏による客の歌唱について著作物使用料の徴
収はなされていなかったのみならず、原告内部においても、かような小規模店舗と
の関係では、著作物使用許諾契約の締結体制及び使用料徴収体制も全く整備されて
いなかったのであるから、カラオケリース業者に対し、原告との間に著作物使用許
諾契約を締結する義務のあることをカラオケリース契約書に記載したり、右契約を
締結するようユーザーを指導監督したりする注意義務を課すことは事実上不可能な
状態にあった。したがって、仮に本件装置を利用したカラオケ伴奏による客の歌唱
が原告の管理著作権を侵害するものとしても、被告会社には、そのことについて故
意責任は勿論、過失責任も発生する余地がない。したがって、本件リース契約の締
結行為は全くの適法行為であり、原告も、被告会社に対する本訴請求の一部(昭和
六二年四月一日以前の損害賠償請求部分)を減縮し、従来原告が主張していた昭和
六一年五月一七日時点における本件リース契約の締結行為及び同日から昭和六二年
三月三一日までの間の本件リース契約の継続行為について不法行為が成立しないこ
とを自認している。
(二) 本件リース契約の継続による不法行為責任の不存在
(1) 適法に締結された契約の履行行為は適法である。
 本件リース契約は、昭和六一年五月一一日既に適法に締結済みであり、その効果
として契約当事者間には契約上の権利義務が生じており、それらの権利義務を履行
することも、もとより適法行為といわざるを得ない。これを換言すれば、被告会社
としては、
本件リース契約上の拘束を受けており、本件リース契約上の義務として、被告
【A】及び同【B】に対し、本件装置のリースを継続せざるを得ないのであり、い
たずらにユーザーである同被告らの契約上の権利を制限したり、新たに契約上の義
務を加重することは許されない。したがって、被告会社は、同被告らに対し、その
同意のない限り、本件リース契約の契約条項を変更したり、これを追加したりし
て、新たな行為を要求することはできない。また、被告会社としては、一方的に本
件リース契約を解除したり、本件カラオケ装置を引き揚げたりすることもできな
い。
(2) 被告会社の本件リース契約の継続の適法性
 被告会社の本件リース契約の継続は、原告によってカラオケ管理が開始された昭
和六二年四月一日の前後を通じて間断なく続いている一連の行為であり、その一部
分を切り離して損害賠償責任の有無を論議することは不可能であって、被告会社の
昭和六二年四月一日以降の本件リース契約継続行為も適法であり、原告によるカラ
オケ管理の開始前にリース契約が締結された場合、リース業者としては適法に締結
されたリース契約上の拘束から自由に離脱することは許されず、もはや如何ともし
難いのである。
(3) 不作為による不法行為の不存在
 不作為による不法行為が成立するためには、その前提として作為義務が存在する
ことが必要であるが、この作為義務については、講学上「必ずしも法令上の義務に
限らないが、個人の自由を基礎とする今日では、あまり広げて考えることはできな
い」(加藤一郎「不法行為〔増補版〕」一三三頁)、「作為義務は、法令または特
殊の関係がなければ、一般的には存在しないから、不作為による不法行為が成立す
る場合は多くはない。」(加藤一郎編「注釈民法(19)・債権(10)不法行
為」三六頁)、「私的自治の原則から考えて、あまりに安易に作為義務を認めるこ
とは望ましくない」(前田達明「民法Ⅳ(不法行為)」一〇八頁)などと説明され
ており、作為義務を認めるべきか否かの判断には、かなり実質的な考慮が必要であ
り、作為義務を認めるためには、作為をなすべき社会的期待が、その違反を作為に
よる法益侵害と同価値であると判断するに足りる程度の一定の強さを持つものであ
ることが要求される。このことは判例も認めており、「権利侵害の結果を発生させ
た作為に差し向けられた同一の違法評価が当該不作為について成立しなければなら
ない。このためには、① 不法行為者と名指しされた者が結果の発生を防止するこ
とを法律上義務づけられていたことを要求するが、当該義務(作為義務)は、法令
の規定又は契約によって定められたもののみならず、私法秩序の一部をなすものと
して法による強制を要請される慣習もしくは条理に基づく義務をも含むと解すべき
である。② 更に不作為が違法であるためには、右のような義務を負うものが結果
の発生を防止しうる事態のもとにおいて、その防止のためには適当な行為をしない
ことを要すると解するのが相当である。」(拓大リンチ死亡事件に関する東京地裁
昭和四八年八月二九日判決・判例時報七一七号二九頁)としている。したがって、
不作為による不法行為における作為義務は、結果発生防止義務であり、しかも、そ
れはかなり強度かつ具体的な結果発生防止義務であるべきであって、その程度に至
らない作為義務は、不作為による不法行為における作為義務とはなり得ない。
(4) 本件における作為義務の内容
(イ) 原告による作為義務主張の欠如
 原告は、本訴において被告会社の作為義務について一切主張していないから、被
告会社に不作為による不法行為が成立するとの主張は主張自体失当である。すなわ
ち、被告会社は、本訴の冒頭から一貫して原告に対し、訴状請求原因の四項にいう
被告会社の故意・過失の具体的内容を明らかにするよう執拗に釈明を求めたが、こ
れに対して、原告が明らかにした過失の前提となる注意義務の内容は、結局、「該
リース契約条項の中に、被告ら店の経営者が原告との間に著作権使用許諾契約を締
結する義務のあることを明記し、及びその手続をとるよう指導監督するなどの注意
義務」(平成元年六月二八日付原告準備書面(二)の二(三)項)というにとどま
っていた。ところが、原告は、本訴口頭弁論終結の間近になって、平成五年二月四
日の第二六回口頭弁論期日に陳述の準備書面(三)において、「以後昭和六三年七
月一六日まで「魅留来」の店が営業をしていた期間中、右機械装置の保守、点検を
してリース契約物件としてその提供を続け、その間原告の管理著作物を映画の録画
と同時に収録した多数のビデオディスク(レーザーディスク)をも継続的に供給
し、これを店側が客に歌唱させる際の伴奏の用に供し、もって原告の管理著作物を
公に演奏及び上演させた行為により、被告【C】、同【B】の前記演奏権及び上映
権侵害行為に加担した。」(第二(請求の原因第二項6について))、或いは「…
…被告【C】、同【B】の前記著作権侵害の行為に直接供されたビデオカラオケの
提供者として、当然に右装置が店内で利用されることによって侵害の発生すること
を予見していながら、又は過去によりこれを知らないで侵害防止のため何らの手段
も講じなかった」(第二(請求の原因第四項について)四1項)と、新たな内容の
被告会社の過失行為を主張するに至った。しかし、右主張は、時機に後れた攻撃防
御方法であるから、民訴法一三九条により却下されるべきである。また、原告は、
「過失」それ自体が主要事実である旨主張するが、近時の有力な見解によれば、
「過失」を構成する具体的事実が主要事実とされているから、右主張も失当であ
る。
(ロ) 本件で考えられる作為義務の内容
 前記したとおり、被告会社による本件リース契約の継続は適法であるが、仮にこ
れが不法行為として違法になるというのであれば、本件リース契約の締結における
作為義務とは別に、右継続行為自体について新たな作為義務が発生する場合でなけ
ればならず、その作為義務の内容も、それが具体的な結果発生防止義務である以
上、違法状態すなわち著作物使用料が支払われないまま本件カラオケ装置が利用さ
れている状態が発生することを防止する義務、すなわち被告【A】及び同【B】に
よる本件カラオケ装置の利用を積極的に排除する義務ということになり、これを具
体的に言えば、① 本件リース契約自体を解消する(本件リース契約の解除又は本
件カラオケ装置の引き揚げ)という作為をなす義務か、② 同被告らに原告との間
に著作物使用許諾契約を締結させる義務のいずれかであるといわざるを得ない。し
かし、被告会社には右のいずれの義務もない。すなわち、被告会社にこれらの義務
を負わせる法令上の規定はなく、そのような契約上の義務もないし、それが発生す
るように法によって強制されるような慣習若しくは条理も一切ない。まず、①の義
務であるが、被告会社には本件リース契約上の拘束が存在するため、契約の相手方
である被告【A】及び同【B】の同意のない限り、本件リース契約を解除したり、
本件カラオケ装置を引き揚げることは不可能であり、被告会社に対してそのような
過度の作為を求めるべき慣習若しくは条理が認められないことは明らかである。ま
た、②の義務についても、それは既に適法に締結された本件リース契約上の義務を
更に加重するものであり、契約関係において相手方にその同意もないのに一方的に
これを強制できる筋合のものではないし、そもそも、原告が自己の管理支配下にな
い第三者の被告会社に対し、そうした過度の作為を求め得べき慣習又は条理が認め
られないことも明らかである。また、昭和六二年四月一日に至るまで原告によるカ
ラオケ管理は実施されていなかったのであり、原告との間に著作物使用許諾契約を
締結する店舗は全国に一軒も存在しなかった。昭和六二年四月一日の原告によるカ
ラオケ管理の開始時点においても、全国のカラオケリース業者は、無数のリース契
約を締結していたのであるが、その後、右カラオケ管理の開始を理由に当該リース
契約を解消したり、或いはユーザーに対して原告との間に著作物使用許諾契約を締
結するように働きかけた業者は寡聞にして聞かない。そのような働きかけをする地
位と権限を有するのは、前記新規程の改正経緯から考えても、原告から社交飲食店
に対し排他的、独占的に指導監督する地位と権限を与えられている環衛組合のみで
ある。原告は、環衛組合との間で締結した業務協定により、カラオケリース業者が
著作物使用許諾契約の締結に関与するのを排除しているのであり、そのような立場
にあるカラオケリース業者に対し、本来原告自身及び環衛組合がすべき社交飲食店
に対する指導監督を要求することは筋違いというべきである。したがって、ここに
至って突如としてカラオケリース業者に対し、社交飲食店に対する指導監督の作為
義務を要求することは、原告がカラオケ管理の開始時期の前後を通じてリース業者
に対してとってきた姿勢とも明らかに矛盾し、カラオケリース業者に対する過度の
要求であり、原告及び環衛組合の不十分なカラオケ管理の普及活動の結果に起因す
る責任をカラオケリース業者に転嫁するものにほかならない。
 原告は、有限会社トキワエンタープライゼスに対する仮処分申立事件において右
利用排除義務を主張したが、同社との和解条項中にこれを盛り込むことができず、
それまでに至らないごく軽微な義務の存在についてのみ合意したにすぎない。
(ハ) 結果回避可能性の不存在
 昭和六二年四月一日に至るまで原告によるカラオケ管理が開始されていなかった
状況のもとで、被告【A】及び同【B】が原告との間に著作物使用許諾契約を締結
し、原告に対し著作物使用料を支払うという事態は考えられないことであるから、
被告会社が著作権侵害の結果発生を防止し得ないことは明らかであり、作為義務発
生の前提となる結果回避可能性が存在しないものというべきである。また、昭和六
二年四月一日の原告によるカラオケ管理の開始後も、著作物使用許諾契約を締結す
るか否かは契約当事者である原告と同被告らのみが決定し得る事柄であり、被告会
社は契約当事者である同被告らの意思を左右できる立場にはない。また、前記①、
②の義務は既に適法に締結された本件リース契約上の義務を更に加重するものであ
り、本件リース契約の相手方である被告会社は、これを求められる立場にはない。
しかも、カラオケリース業界では、中小の無数の業者が乱立する極端な過当競争状
態にあり、力関係においてカラオケリース業者の方が社交飲食店に対して著しく劣
っており、カラオケリース業者が社交飲食店を説得して原告との間に著作物使用許
諾契約を締結させられるような状況にはない。さらに、被告【A】及び同【B】
は、いわば確信犯であって、原告の度重なる使用許諾契約締結の督促にも一貫して
応じなかったのであるから、被告会社がこれを説得したところで応ずるはずもな
い。したがって、昭和六二年四月一日の原告によるカラオケ管理開始後において
も、被告会社が原告主張の著作権侵害の結果発生を防止することができないことは
明らかであり、作為義務発生の前提となる結果回避可能性が存在しないというべき
である。
 以上によれば、本件において被告会社が著作権侵害の結果発生防止を法律上義務
づけられていないことは明らかであり、如何なる観点からしても、被告会社の不作
為について、権利侵害の結果を発生させた作為に差し向けられるのと同程度の違法
評価が成立するものとは到底考えられず、被告会社には作為義務が認められず、不
法行為は成立しない。
(5) 原告主張の注意義務(作為義務)について
 原告は、被告会社の注意義務として、該リース契約条項の中に社交飲食店の経営
者が原告との間に著作物使用許諾契約を締結する義務のあることを明記し、かつそ
の手続をとるよう指導監督する注意義務を主張するのであるが、被告会社がリース
契約条項の中に被告【A】及び同【B】ら社交飲食店の経営者が原告との間に著作
物使用許諾契約を締結する義務のあることを明記しようと、或いはその手続をとる
よう指導監督しようと、当時、右契約の締結に対する他の社交飲食店の抵抗も強
く、しかも、契約を締結するか否かは最終的には各店舗の経営者の意思にかかるも
のである以上、原告主張の注意義務は、各社交飲食店に対する著作権思想の啓蒙活
動の点で意義があるのは別として、具体的な結果発生の防止に直結する義務とはい
えない。そのことは、①本件に先立つ大阪地方裁判所昭和六三年(ヨ)第一一六七
号仮処分命令申請事件において、原告は、本訴と同様被告会社の不法行為責任を主
張していたが、その疎明が不可能であることが明白となり、昭和六三年七月八日右
申請を取り下げたこと、② 原告の告訴にかかる被告訴人を被告会社とする著作権
法違反被疑事件でも、被告会社は逸早く検察官によって不起訴処分とされているこ
と(乙二六)からも明らかである。
4 被告会社の不法行為責任の不存在(二)(因果関係の不存在)
 被告【A】及び同【B】は、いわば確信犯であって、原告の度重なる契約締結の
督促にも一貫して応じなかったのであるから、被告会社がこれを説得したところで
これに応ずるはずもなく、原告と同被告らとの間に著作物使用許諾契約が締結され
ていないことには、同被告らの自由意思による行為が介在しており、本件はいわゆ
る因果関係の中断が認められるべき場合である。また、同被告らの意思が強固であ
る以上、被告会社以外のカラオケリース業者がリース契約を締結したとしても、同
被告らが原告との間に著作物使用許諾契約を締結しなかったであろうことは確実で
ある。したがって、本件において被告会社の行為と原告の損害との間には因果関係
がない。
(原告の主張は正義に反する)
1 原告は、大上段からの抽象的な次元での注意義務論を主張しているが、もしそ
の議論が認められるとするならば、わが国の今日のカラオケを隆盛に導いた最大の
功労者であるカラオケ・リース業者がすべて一貫して共同不法行為を行ってきたと
いう到底是認されない結論を帰結してしまうこととなる。一方で、原告は何もせず
ただ寝て待っていただけで今日の原告の収入の極めて大きな割合を占めるカラオケ
演奏料収入を得ることができるようになったにもかかわらず、他方で、このカラオ
ケを文化としてわが国に定着させたカラオケ・リース業者がすべて違法行為をして
きたということになってしまうのである。
 これは、どう考えても明らかに正義に反する。
 すなわち、本件の問題は現実の原告によるカラオケに関する著作物使用料徴収の
実態、カラオケ・リース業界の実態、殊にカラオケ・リース業者が実際に置かれた
立場等を精査してこれらを踏まえて、カラオケ・リース業者の注意義務、不法行為
責任を論じなければならないのである。そして、その結果としては、当時、原告が
カラオケを管理(著作物使用料の全国的徴収態勢の整備、その実施)しておらず、
誰一人として原告に著作物使用料を支払っていなかったという背景の下で、かつ、
カラオケ著作権問題から原告により徹底的に排除され、しかも、対顧客との関係で
できることの限られた立場に置かれていたカラオケ・リース業者に、店舗と同等の
不法行為責任を負わせるような過大な注意義務を認めること自体に誤りがあるので
ある。
2 分かりやすい例との比較血―素朴な法感情からの不当性―
 本件における原告の主張の不当性を認識するためには、例えば、次のような例を
思い浮べることが便宜である。生演奏の場合において、楽器業者が店舗経営者に対
しピアノをリースした場合、その生演奏店が原告と著作物使用許諾契約を締結しな
かったとしたら、ピアノをリースした楽器業者は共同不法行為をしたことになると
いうのであろうか。また、楽器業者が店舗経営者に対し、ピアノを販売した場合、
その生演奏店が原告と著作物使用許諾契約を締結しなかったとしたら、ピアノを販
売した楽器業者は共同不法行為をしたことになるというのであろうか。
 このような場合に、楽器業者に店舗経営者と同等の共同不法行為責任を認めるこ
とには、誰しも躊躇を感ずるであろう。しかも、生演奏の場合は、実際に、原告が
著作物使用料を徴収し、演奏権を管理していたという経緯もあるのである。
 今度は、ピアノをカラオケに置き換えた場合、例えば、ある者がスナック店舗に
対しカラオケ装置を販売した場合、その店舗がたまたま原告と著作物使用許諾契約
を締結しなかった場合、カラオケ装置を販売した者は、共同不法行為をしたという
ことになるというのであろうか。では、リースの場合はどうであろうか。販売の場
合と明確に区別して論ずることができるというのであろうか(定額リースの場合な
ど、ほとんど売買の割賦払いと変らない。)。殊に昭和六二年四月一日以前の時期
においては、カラオケ装置の場合は、原告はスナックから著作物使用料を徴収して
いた実績は皆無であり、ピアノの例よりさらに販売者、リース業者の責任は微弱で
あるはずである。
 これらの例においても、通常、カラオケ装置の販売者、リース業者は、たまたま
販売先又はリース先がどのような態度、考えを持った者であるかも認識することが
できず、これらの者に、客先と全く同等の不法行為責任を取らせることはあまりに
も酷であろう。しかも、昭和六二年四月一日以前は、カラオケについて原告が著作
物使用料を一切徴収しておらず、誰一人としてカラオケに関する著作物使用料を支
払っていた者がいなかったという点がさらに加味されるのである。
 このように、まず素朴な法感情としても、装置の販売者やリース業者が店舗と全
く同じ不法行為責任を負わせられるという結論は何人も納得できないであろう。
三 争点3(被告らが賠償すべき使用料相当損害金額)
【原告の主張】
1 被告らが賠償すべき使用料相当損害金額
① 昭和六二年一一月一七日午後八時から翌一八日午前一時頃までの間、原告の大
阪支部長から依頼を受けた調査会社株式会社損害保険リサーチの社員四名が、② 
昭和六三年一月一四日午後七時四〇分から翌一五日午前一時頃までの間、同支部長
の命を受けた原告の職員二名と同調査会社の社員二名が、それぞれ原告の調査員で
あることを秘して、客として本件店舗へ赴き、本件店舗における演奏曲目を調査し
たところ、右各調査期日における原告の管理著作物の使用状況は、別紙調査結果一
覧表一及び二に記載のとおりであり、各調査期日における管理著作物の使用曲数
は、① 昭和六二年一一月一七日の調査期日が合計三九曲、② 昭和六三年一月一
四日の調査期日が合計五〇曲であった。以上の調査結果によれば、本件店舗におけ
る一日の平均使用曲数については四〇曲と推定される(推定方法については甲九三
の1の五項)。そうすると、被告らが原告に対し賠償すべき使用料相当損害金額は
次のとおりである。
(一) 被告【A】が原告に対し賠償すべき、昭和六〇年七月九日(時効完成日の
翌日)から昭和六一年五月一六日(本件装置の引渡日の前日)までの間の、本件店
舗におけるオーディオカラオケ装置を使用しての無断歌唱による使用料相当損害金
二四万六〇〇〇円
 昭和四六年四月一日に変更認可された旧規程によると、前記(第二の三1)のと
おり、軽音楽一曲一回の演奏会形式による使用料は、当該店舗の定員、平均入場料
及び使用時間によって類型区分された料金表によって規定されており、定員五〇〇
名未満の場合(第一類)、その料率は別表(一)記載のとおりであり、これをカフ
ェー、クラブ、スナック等の社交場における演奏に適用する場合は、軽音楽一曲一
回の演奏会形式による演奏の使用料の一〇〇分の五〇の範囲内で使用状況等を参酌
して具体的な使用料額を決定することとされている。そして、原告は、社交場にお
ける演奏の場合の使用状況等の参酌方法として、① 定員については、五〇〇名未
満を一〇〇名単位で段階的に区分し、客席数に応じて使用料を逓減ないし逓増し
(著作物使用料規程取扱細則〔社交場〕六条)、② 平均入場料については、入場
料金を明示しない場合、一セット料金(飲食税、サービス料を含む。)又は同相当
額に三〇%を乗じた金額に、テーブルチャージ、席料などがある場合は、更にその
額を加算した額を平均入場料として使用料を算定し(同四条)、③ カラオケ伴奏
による客の歌唱については、(イ) 特別使用許諾契約(同七条)の場合と同率の
五割の減額措置を講じた上、(ロ) オーディオカラオケの伴奏による歌唱の場合
は、適法録音物の再生による演奏についての経過措置(著作権法附則一四条、旧著
作権法三〇条一項八号、著作権法施行令附則三条参照)を参酌してその二割を減じ
(ビデオカラオケの場合は経過措置の適用がないのでこの減額率の適用はな
い。)、(ハ) 素人の客が歌唱することにより職業歌手ほどの効果があがらない
ことを理由に更にその二割を減じて、使用料を算出している。本件についてこれを
みると、対象期間(一〇・二五か月)中の本件店舗の定員は五〇〇名未満、客席数
は一〇〇名未満、平均入場料は二〇〇〇円以上二五〇〇円未満の各区分に該当し、
管理著作物の一日平均の使用曲数は四〇曲、一か月平均の営業日数は二五日であ
る。そこで、以上の算定基準の基礎数値を前提に、旧規程の演奏(カラオケ伴奏に
よる歌唱を除く)による別表(一)記載の著作物使用料率に基づき、前記の諸要素
を参酌して計算すると、別表(三)記載の計算表のとおり、この間の被告【A】が
原告に対し支払うべき使用料相当損害金は二四万六〇〇〇円となる。
(二) 被告【A】及び同【B】が連帯して原告に対し支払うべき、昭和六一年五
月一七日(本件装置の引渡日)から昭和六二年三月三一日(新規程の施行日の前
日)までの間の、レーザーディスクカラオケ装置(本件装置)を使用しての無断上
映及び歌唱による使用料相当損害金三三万六〇〇〇円
(一)と同様に旧規程の演奏による別表(一)記載の著作物使用料率に基づき、前
記諸要素を参酌して計算すると、別表(四)記載の計算表のとおり、右対象期間
(一〇・五か月)中の、被告【A】及び同【B】が連帯して原告に対し支払うべき
使用料相当損害金は三三万六〇〇〇円となる。
(三) 被告【A】、同【B】及び被告会社が連帯して原告に対し支払うべき、昭
和六二年四月一日(新規程の施行日)から昭和六三年七月一六日(本件店舗の閉店
日)までのレーザーディスクカラオケ装置(本件装置)を使用しての無断上映及び
歌唱による使用料相当損害金六八万二〇〇〇円
 新規程によると、前記(第二の三3)のとおり、社交場における演奏の一曲一回
使用時間五分までの使用料は、座席数(面積)及び標準単位料金の区分により別表
(二)のとおりと定められている。本件についてこれをみると、右対象期間(一
五・五か月)中の使用料の算定基準となる本件店舗の座席数は四〇席まで、標準単
位料金は一万円までの区分に該当し、管理著作物の一日平均の使用曲数は四〇曲、
一か月平均の営業日数は二五日である。そこで、以上の基礎数値を前提に、新規程
の演奏による別表(二)記載の著作物使用料率に基づき、前記諸要素を参酌して計
算すると、別表(五)記載の計算表のとおり、この間の被告【A】、同【B】及び
被告会社が原告に対し連帯して支払うべき使用料相当損害金は六八万二〇〇〇円と
なる。
2 被告【A】及び同【B】の主張について
(一) 著作物使用料規程の効力に関する主張に対する反論
 被告【A】及び同【B】は、原告の著作物使用料規程(新規程)が公序良俗に反
し無効であるから、本件においてこれを損害額の算定基準としてはならない旨主張
するが、右主張は失当である。
その詳細は次のとおりである。
(1) 昭和四〇年代後半に開発されたカラオケは、その後、軽音楽歌唱用の機器
として、余暇に音楽を楽しむ機会の多い現代人の生活の中に広く受け入れられ、家
庭環境や職場環境の中で急速に普及しただけでなく、各種の飲食店舗や遊興・娯楽
施設、或いは旅館等の営業用設備などとしても幅広く活用されるようになり、老若
男女を問わずカラオケ愛好家が増加するにつれて、各種社交飲食店でも不可欠の営
業手段となった。その一方で、カラオケは、我が国における音楽著作物の普及を促
進し、今日では一つの大衆文化現象として既に国民の間に完全に定着し、国民の文
化生活の中で娯楽の供給源として非常に重要な地位を占めるに至っている。
 そして、原告は、当初からこのようなカラオケスナック店におけるカラオケ伴奏
による客の歌唱を原告の演奏権が及ぶ音楽著作物の新しい利用形態であると判断
し、右歌唱が、カラオケテープやビデオディスク・レーザーディスク等に録音され
た音楽の部分の再生と生の歌唱とが一体化している点にその特徴があり、このう
ち、歌唱部分は生演奏であるから、原告の著作物使用料規程(旧規程)の「社交場
における演奏」の使用料率を適用して部分的に管理してきた。すなわち、原告は、
昭和五五年から昭和五八年までの間に発行された原告の業務案内用リーフレット
(甲五、六、一〇五の1・2)に「カラオケやカラオケビデオの伴奏による歌唱の
場合も正規に許諾を受けて音楽をご使用ください」と明記し、これを主として社交
飲食店業者、旅館業者を中心とする使用者一般に対して配付し広報活動を行い、カ
ラオケ使用店へその旨周知徹底を図った。また、昭和五八年六月、これらの業種の
同業者団体に対し、「カラオケ管理業務の実施基準」と題する書面を配付し、傘下
加盟店への啓蒙指導等の協力を要請した。
(2) しかし、旅館経営者(熊本県等の一部の業者を除く。)との契約締結交渉
は比較的順調に進んだのであるが、社交飲食店の経営者との交渉の場合、演奏者を
常置する生演奏の場合に比べて、カラオケ使用の際の使用許諾契約締結の必要性に
対する経営者側の理解を得るのが困難な状況が続いたため、カラオケが使用許諾契
約未締結のまま大量に無断使用されることが多くなるのに伴い、著作権者の権利が
事実上無視される事態を招来することになった。そこで、原告は、内外の音楽著作
権を集中的に管理し、その合法的利用の促進を図る自らの責務の観点から、そのよ
うな違法行為をそのまま座視することはできず、昭和五八年に入ってからカラオケ
を無断使用している社交飲食店の経営者を相手に演奏権侵害の成否について裁判所
の判断を求め、その結果、昭和五九年七月五日、福岡高裁において、スナック等に
おけるカラオケ伴奏による客の歌唱について、店の経営者に演奏権侵害による損害
賠償責任を認める初めての司法判断を得た。
 同判決後、社交飲食店等のカラオケ使用者団体の著作権に対する認識も次第に深
まり、原告は、カラオケ管理を全国的な規模にまで拡大するため、管理対象店舗が
極めて多数であることに鑑み、契約手続の簡便化や包括的著作物使用料規程の新設
等の合理的かつ大量の契約処理方式を盛り込んだ新たな方策を検討するとともに、
支部の増設や情報処理のためのコンピュータの導入など内部の管理体制の強化も図
った。
 しかし、原告の許諾を受けないカラオケの使用が管理著作権の侵害行為であるこ
とがいかに明白であろうとも、そのことだけで社交飲食店の経営者が自主的に原告
との間において使用許諾契約の締結手続に応じることにはならない。これは、ひと
り日本だけの特殊事情ではなく、音楽をはじめとして文化一般を手厚く保護し、長
い歴史の中で著作権思想も十分に培われてきた西欧諸国においても事情は大同小異
であり、音楽使用者に案内文書を送付するといった程度では、使用許諾契約の締結
は殆ど期待できず、著作権管理団体だけでの個別交渉には限界があるため、警察の
協力を得るなど各種方策を講じて、新規契約の締結と管理率の維持向上に苦慮して
いるというのが実情であって(甲一〇六の1の7頁~8頁)、音楽著作権の管理、
殊に社交場におけるそれは、洋の東西を問わず遍く困難が伴うものである。
 翻って国内に眼を向ければ、著作権思想は文化の進歩に伴って徐々に国民の間に
侵透しつつはあるものの、社交飲食店の経営者の著作権に対する理解や認識はなお
西欧のそれに及ぶべくもなく、また警察等の行政機構の援助ないし協力は必ずしも
期待できず、原告のカラオケ管理は、その当時ぶ厚い障壁に囲まれたままの状態で
あった。そこで、原告は、日々新たな音楽著作物が創作される一方で、その著作権
侵害の違法状態が頻発している異常事態を早期に解消し、音楽著作物の使用者に対
し適正な音楽使用方式を普及させ、正常な音楽著作物の利用状態を形成するため、
社交飲食店業界で最大手の使用者団体である環衛組合と協力関係を結ぶに至ったの
である。これは前述したような当時の日本の著作権事情の下では誠に適切な判断で
あったというべきである。
 こうした背景事情のもとで、昭和五八年から三年間に及ぶ環衛組合との協議を経
て、昭和六一年八月一三日、カラオケ伴奏による客の歌唱の著作物使用料につい
て、旧規程の曲別使用料の規定のほかに包括使用料の規定を新設し、両者を併置し
た内容の改正著作物使用料規程(新規程)について文化庁長官の認可を受け、昭和
六二年四月一日からこれを実施した。
(3) 新規程(甲二四)では、カラオケ伴奏による客の歌唱は本来生演奏である
から、その使用料は、改正前と同様一曲一回の曲別使用料の制度を維持踏襲する
(備考⑰〔一〇頁〕及び「本則」別表15〔二八頁〕)が、前記の包括使用料とし
て年間の包括使用許諾契約を締結する場合の月額使用料(備考⑯〔8頁~10
頁〕)を定め、両者を併置しているのである。また、この曲別使用料と包括使用料
の適用区分については、著作物使用料規程取扱細則(社交場)(甲二五)の四条一
項において、任意に原告と使用許諾契約を締結する営業者に対して包括使用料の制
度を適用することを原則とする旨定めている。このような包括使用料は、カラオケ
使用者との間の包括使用許諾契約関係を早期に確立するための特例として定められ
たものであり、したがって、新規程においても、これは「本則」ではなく「備考
欄」で、しかも当分の間の暫定的な使用料制度として規定されているのであって、
この点が旧規程を一部変更した最大の理由でもある。そして、新規程は、著作権審
議会の審議を経て、文化庁長官の慎重な手続によって認可されたのであるから、も
とより適法かつ有効である。過去において、大阪高裁昭和四五年四月三〇日判決
は、原告の著作物使用料規程の内容の合理性について、規程認可の申請に対し、文
化庁長官において、その内容を官報に公告し利害関係人等に意見具申の機会を与え
た後、著作権制度審議会に諮問するという慎重な手続を経て認可されており、特に
不当とするような事情がない限り、公正かつ妥当な内容を有するものと推定すべき
である旨判示しているが、これは今回の改正についても同様に言うことができる。
(4) 被告【A】及び同【B】は、原告の新規程における包括使用許諾契約方式
の採用自体が旧規程の演奏使用料をカラオケに適用することの不当性を認めたもの
であり、原告は新規程の実施前にはカラオケ伴奏による客の歌唱については使用料
を徴収せずに無料扱いにしていた旨主張するが、右主張は失当である。原告は、前
述したとおり、カラオケ伴奏による歌唱を演奏として管理する立場を従来から一貫
して採っており、旧規程の施行当時から基本となる曲別使用料率が存在したのであ
るから、それらのことを無視し、旧規程時代にカラオケの使用が無料扱いであった
とする被告【A】及び同【B】の事実認識は明らかに誤っている。また、同被告ら
は、包括使用許諾契約方式を採用したことによって、曲別使用料と包括使用料との
間に大差が生じ、均衡を失している旨主張するが、右主張は、前述した包括使用料
の料金システムの採用理由を正解しないことに由来する主張であって理由がない。
 本件において、原告が著作権侵害による使用料相当損害金額を、新規程の包括使
用許諾契約方式の導入後の分に関しても、曲別使用料率により算定しているのは、
曲別使用料率による損害金額の算定方式は、旧規程の施行当時から社交飲食店業界
で定着しており、しかも、被告【A】及び同【B】は、原告による新規程に基づく
包括使用許諾契約の締結要請を一貫して拒み続けていたため、本件では包括使用許
諾契約方式の適用条件を欠いているからである。
 なお、旧規程のもとにおいて、カラオケ伴奏による客の歌唱に関する演奏権侵害
の事案について、曲別使用料による損害額算定の相当性が、福岡高裁昭和五九年七
月五日判決(判例時報一一二二号一五三頁・甲一一)及び最高裁昭和六三年三月一
五日判決(甲一二)等の判例によって認められており、これらの判例は、本件にお
ける損害額算定についても先例の意義があることはいうまでもない。
(5) 被告【A】及び同【B】は、新規程が私的独占の禁止及び公正取引の確保
に関する法律(以下「独禁法」という。)一九条の不公正な取引方法の禁止の規定
に違反し、ひいては公序良俗に違反し無効である旨主張する。しかし、同被告ら
は、同条適用の要件となる具体的な違反事実を主張せず、また、同被告らは、現実
には原告との間に新規程に基づく包括使用許諾契約を締結してはいないのであるか
ら、抽象的に新規程の無効のみを主張することは許されず、右主張は主張自体失当
というべきである。
(6) 被告【A】及び同【B】は、原告が新規程において客席面積五坪以下の店
舗に対してのみカラオケ使用料の支払義務を免除したのは不公平であり、新規程
は、公序良俗に違反し無効である旨主張する。しかしながら、店舗の規模の大小に
かかわらず、カラオケ伴奏による歌唱は著作権法上の公の演奏に、ビデオカラオケ
の使用は上映に当たるから、客席面積五坪未満の店舗に対しても等しく著作権が及
んでいるということはできるが、原告は、旧規程の改正に当たりカラオケ使用者団
体の要望を受けて、当分の間右の小規模店舗に関し使用料免除措置を講じたもので
あり、これは著作物使用料規程の改正によって小規模店舗の経営に急激な悪影響を
与えないように配慮し、かつ、今日国民的支持を得るまでに成長したカラオケ文化
の隆盛をその根底において支える一方で、使用料を飲食代金に転嫁されて最終的に
負担する消費者(利用客)の不利益を最小限にとどめ、ひいてはカラオケ関連産業
の持続的発展を企図した文化保護政策的配慮に基づく措置である。
 なお、原告は、客席面積五坪以下の店舗の経営者に対してもこれを放任している
わけではなく、免除店の届出を義務づけ、右届出をした経営者に免除通知書と免除
店であることを示す届出証(ステッカー)を交付しているが、これは原告が経営上
の収支を度外視して著作権思想の普及と啓蒙に日々邁進していることの証左でもあ
る。
 原告の右免除措置は、音楽著作物に関する著作者と利用者の双方の利益を比較衡
量したうえで、カラオケ文化の発展に寄与すべく講じられた措置であり、「……こ
れらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もっ
て文化の発展に寄与することを目的とする。」という著作権法一条所定の目的にも
副うものであって、当分の間の措置としてみる限り極めて妥当なものである。な
お、この措置は右にも述べたとおり、あくまでも当分の間の暫定的措置であり、将
来とも固定化されるべきものではなく、使用料徴収の対象店舗における原告自身の
契約管理業務の達成状況、社交飲食店舗の小規模化現象のもとにおける音楽利用状
況の変化等の諸要因に応じて、将来的には漸次その内容が変更され、更に公平かつ
妥当な規定に従って運営されるべきものであることを付言しておく。したがって、
右免除措置によって原告のカラオケ管理が公平性を欠き、新規程が公序良俗に違反
し無効であるとの被告【A】及び同【B】の主張は、著作権法の文化法的側面を無
視した主張といわざるを得ない。
(二) 著作物使用料規程自体に内在する実施の困難性についての主張に対する反

 被告【A】及び同【B】は、原告が環衛組合員と非組合員との間で差別的取扱を
している旨主張するが、右主張は理由がない。その詳細は次のとおりである。
 原告は、昭和二三年四月、キャバレー、ダンスホール等で使用される音楽著作物
の生演奏を管理すべく、環衛組合傘下の東京都社交業組合の前身である東京社交事
業協会加盟の社交場と使用許諾契約を締結して以来、生演奏及びレコード演奏の分
野において、主に社交環衛組合との間に協力関係を築いてきた。
しかし、これはあくまでも各地域単位での限定的な協力関係であり、その具体的な
管理内容も地域によりまちまちであった。そのため、原告は、新規程の認可を受け
て社交場営業以外にもカラオケ管理の範囲を拡大するに当たり、カラオケを使用し
ている店舗は、従来のクラブ、キャバレー等の大型店や本件店舗のようなカラオケ
スナック等に限られず、その範囲は旅館、喫茶店、寿司屋、中華料理店、ソバ屋、
料理店等の広範な業種に及んでおり、これらのあらゆる業種のユーザーの意見を反
映させる必要があると考えた。ところで、環衛組合は、環境衛生関係営業の運営の
適正化に関する法律(昭和三二年法律第一六四号)に基づいて設立された環境衛生
同業組合であり、従来から存在した各地の同種組合を全国規模で組織化し、現在で
は、生演奏やレコード演奏はもとより、カラオケ伴奏による客の歌唱の方法で原告
の管理著作物を利用する殆どの業種の事業者を糾合し、都道府県単位で組織する全
国最大規模の利用者団体であり、その組合員数は全国で合計二六万五〇〇〇名とい
われ、これに匹敵する音楽著作物の利用者団体は我が国には他に存在しない。原告
は、昭和五八年六月以来、環衛中央会及び環境衛生同業組合関係八業種組合(社交
業、飲食業、旅館、喫茶業、料理業、麺類業、中華料理、すし商の八組合)と約三
年間にわたり、カラオケの包括使用料規定の新設を主内容とする旧規程の「社交場
における演奏等」の内容改訂に関する協議を重ねた。これは過去のクラブ、キャバ
レー等の生演奏の管理を中心とした時代に、前記したように主に社交環衛組合と各
地域単位での協力関係を積み重ねていったのとは全く異なり、環衛組合をカラオケ
を使用する殆どの業界の事業者を全国的に組織する団体として捉らえ、その意見を
新規程に反映させることを意図した協議であり、原告としては、被告【A】及び同
【B】が主張するように単に「過去に付き合いがあったから」といった理由だけ
で、環衛組合を音楽著作物のユーザーの代表として選択したのではない。環衛組合
は、業界の健全化とその社会的地位の向上を目指して日々努力しており、既に三〇
年以上の実績をもつ団体であるとともに、警察・保健所・税務署等の行政機関とも
密接な協力関係にあり、暴力団の排除、未成年者の非行防止、納税協力等にも取り
組み、法的にも社会的にも認知された団体であり、そのことは周知の事実となって
いる。
 音楽著作物の利用者の音楽著作権に対する理解と認識は年々高まってきてはいる
ものの、社交場営業の分野においては、未だ原告の管理著作物の無許諾使用が跡を
絶たないというのが実情であり、昭和六二年四月一日の新規程施行当時、カラオケ
使用者が自主的に原告との間の使用許諾契約の締結に応じることは、現実問題とし
て必ずしも期待できる状況にはなかった。そのような状況の中で、環衛組合は業界
での自らの指導的立場を認識し、傘下の組合員に対し、① 原告の管理著作物の使
用許諾契約手続について説明して契約を締結するよう指導するとともに、使用許諾
契約締結のための事務取りまとめを行うこと、② 使用許諾契約に基づく使用料等
の支払義務の履行について指導し、債務不履行のある場合は、その履行を督促する
こと、③ 使用許諾契約により組合員が使用した著作物の内容の明細の報告等につ
いて指導することを約束した。これに対し、原告は、環衛組合の組合員に対し、年
間の包括使用許諾契約を結ぶ場合の使用料を、① カラオケ伴奏による客の歌唱の
場合は、それに適用される規定使用料の一〇〇分の七〇の金額とする、② 生演
奏、レコード演奏及びビデオグラムの上映の場合は、それに適用される規定使用料
の一〇〇分の八〇の金額とすることを、また、環衛組合傘下の都道府県組合に対
し、③ 環衛組合の組合員が支払う月額使用料総額の一〇〇分の三の金額を協力謝
礼金として支払う、但し、新たに管理を行うカラオケ伴奏による客の歌唱に関して
は、昭和六二年四月一日から三か年間に限り、その率を一〇〇分の五とする措置を
講じることとした。原告と環衛組合は、以上の内容で合意に達し、昭和六一年九月
から同年一二月にかけて原告の本部と環衛組合全国連合会との間で、「基本協定
書」に調印した後、昭和六一年一〇月から昭和六二年三月にかけて、原告と環衛組
合の各都道府県組合との間で「業務協定書」が順次調印された。原告が環衛組合の
組合員に対して行う月額使用料の割引は、環衛組合の組合員である数多くの利用者
との間の使用許諾契約の締結が早期に実現されるからであり、環衛組合の各都道府
県組合に対し支払われる協力謝礼金は、環衛組合が傘下組合員の契約履行を指導・
監督するだけでなく、広く業界における音楽著作権についての理解と認識が深まる
ように努めるなど、原告の業務に対する継続的な協力活動をするのに要する費用に
相当するものである。また、協定の内容は使用許諾契約締結の事務取りまとめを約
束するものであり、環衛組合に対し、使用許諾契約の締結権限を与えるものではな
いし、対象店舗の客席面積が五坪超か否かを確定する権限を与えたものでもない。
原告としては、各店舗から提出された契約申込書の内容に事実と相違する点があれ
ば、許諾を与えないことは言うまでもなく、また、後日虚偽申請の事実が明るみに
出れば、使用開始時期に遡って修正を求めている。したがって、環衛組合員と非組
合員の差別的取扱であるとして、新規程に基づく使用料徴収業務の運用を論難する
被告【A】及び同【B】の主張は、それに名を藉りて新規程の実施に異論を唱える
ものにすぎず、原告の同被告らに対する権利行使を不当視する理由とはなり得な
い。
(三) 使用料規程の運用上の不公平性の主張に対する反論
 被告【A】及び同【B】は、原告が全国一斉のカラオケ管理を実施するに当た
り、離島、沖縄及び北海道の特定地域の店舗に対して著作物使用料の割引をしてい
る点を取り上げ、それが割引を受けられない地域の店舗に対する差別的取扱である
旨主張するとともに、原告が環衛組合に対し、組合員の店舗の音楽の使用状況を確
認、把握する権限及び原告と組合員との間の使用許諾契約を締結する権限を授与し
ている旨主張する。しかし、右主張はいずれも失当である。すなわち、原告は、全
国一斉のカラオケ管理を実施するに当たり、カラオケを使用し、かつ、使用料徴収
の対象となるすべての店舗との間に使用許諾契約を締結して同等の水準で使用料を
徴収するとの立場であったが、使用者団体と協議した結果、① 離島については本
土と隔絶した地域にあって、日常生活に社会的経済的不利益がもたらされているこ
と、② 沖縄については、先の太平洋戦争において国内唯一の戦場となったうえ、
戦後半世紀以上もの間アメリカの占領下に置かれ、昭和四七年の本土復帰後二〇年
以上が経過する今日においてもなお不利な立場にあること、③ 北海道(但し市部
を除く郡部のみ)地区においては、石炭、林業、農業、漁業、鉄鋼業等をはじめと
する基幹産業が低迷し広域的かつ長期的な不況状態が続き、さらに年間の半分以上
が降雪期にあることから、他の地域と比較して地域社会が正常に機能し難いことな
ど、それぞれの地域の実際上の理由に配慮することにした。つまり、原告は、本州
の地域と比較して地理的、気候的、歴史的要因その他の特殊事情を抱える、右の各
地域の使用者に対して、いわば社会政策的観点から使用料の割引を行っているので
ある。右の特殊事情を抱える各地域の使用者に対して然るべき配慮を加えること
が、むしろ社会正義にかなうものであって、原告がこれらの地域に特段の理由がな
いのに無条件で使用料の割引を行い、不公平な取扱をしている旨の被告【A】及び
同【B】の主張は理由がない。
 同被告らは、原告が環衛組合の加盟店に対し無条件で使用料の割引をしている旨
主張するが、前述したとおり、原告は環衛組合の加盟店に対し諸々の条件を付した
うえで使用料の割引をしているのであるから、同被告らの主張は、事実を表面的に
捉らえたものにすぎず、事態の本質に対する認識を欠いている。また、原告は、環
衛組合に対してはあくまでも原告の管理著作物の使用許諾契約申込書の取りまとめ
の事務を委託しているにとどまり、これは原告の著作権仲介業務を法的に規制する
仲介業務法に何ら抵触するものではない。原告の各支部では、都道府県の環衛組合
から提出された使用許諾契約の申込書の音楽使用状況等の記載内容を確認審査し、
記載内容に疑義がない場合に限り、許諾条件を明確に定めた許諾書と共に契約店で
あることを示す許諾証(ステッカー)を申込人に対し交付することにより初めて原
告との間に使用許諾契約が成立するのである(甲二四〔著作物使用料規程(抜粋)
社交場における演奏等ビデオグラムの上映〕の一頁、著作物の利用に関する契約約
款一条)。万一申込書の記載内容に疑義があれば、原告は、申込人に対し連絡をと
って確認し、場合によっては申込人の店舗に出向いて調査確認している。これは、
申込人が環衛組合に加盟しているか否かを問わず、原告の各支部において日常的に
行っている基本的業務である。したがって、原告は、同被告ら主張のように環衛組
合に対し使用許諾契約の締結権限や店舗の調査決定権限を授与しているわけではな
く、環衛組合から提出された申込書類に異議を述べられないなどということはあり
得ない。
 同被告らは、原告が環衛組合に加盟していない、いわゆるアウトサイダー店に対
してのみ、訴訟や告訴等の法的措置を講じている旨主張する。しかしながら、現在
全国のカラオケ使用店舗の数は約三八万店にも達し、そのうち客席面積が五坪を超
える使用許諾契約の対象店舗だけでもその数は一二万六〇〇〇店あり、更にその中
で環衛組合加盟店の割合は約四〇%を占め、そのおよそ九〇%が原告と使用許諾契
約を締結しており、逆に言えば、原告の管理著作物の無断使用を継続している店の
殆どは環衛組合に加盟していないアウトサイダー店である。したがって、原告が著
作権侵害に対し法的措置を講じなければならない対象店舗の殆どは、必然的にそれ
らのアウトサイダー店に偏らざるを得ず、その点を無視した同被告らの主張は失当
である。
 同被告らは、カラオケの包括使用料と有線放送等の使用料との間に格差がある旨
主張する。しかしながら、仲介業務法三条は、著作権仲介業務を行う者に著作物使
用料規程を定めて文化庁長官の認可を受けることを義務づけており、また、同法施
行規則四条は、著作物使用料規程においては著作物の使用料率を著作物の種類及び
その利用方法の異なる毎にこれを定めて表にして作成すべき旨規定している。原告
の著作物使用料規程は、右各法令や規則の該当条文に基づき適正な手続を経て作成
されたものである。同被告らは、有線放送の使用料率とカラオケ伴奏による歌唱の
使用料率が均衡を失し、それぞれの著作物の使用者間に不公平をもたらしているか
のように主張するが、前記したように原告の著作物使用料規程が関係法令や規則に
基づき著作物の利用態様を勘案し、使用者団体等の意見も聴取して作成されたこと
に照らし、同被告らの主張は理由がない。また、同被告らは、有線放送がカラオケ
伴奏による客の歌唱に比べ、より大量に原告の管理著作物を使用していることから
すれば、カラオケ伴奏による客の歌唱の使用料が高額にすぎる旨主張する。しかし
ながら、有線放送は、旧法下で自由利用が許されていた適法録音物の再生を二次的
に利用して行われる音楽著作物の利用形態であり、これに対する原告の権利行使は
昭和四六年施行の現行著作権法二三条一項において有線放送権が初めて支分権とし
て創設されて以降実施されている。これに対し、社交場における生演奏に対する権
利行使は旧著作権法一条二項に根拠を有するのであり、戦後間もない昭和二三年頃
から原告により演奏権の管理が開始されて今日に至っている。以上のとおり、有線
放送のみならず、ラジオ、テレビ等の放送使用料と社交場における演奏等の使用料
とでは、法律上の権利保護の沿革、原告のこれまでの管理の実績等の諸点で明らか
に異なり、著作権法上の支分権として分野の異なる利用態様の使用料を単純に比較
することはできない。
 同被告らは、昭和六二年四月一日の新規程の施行前は、カラオケの使用は無料で
許されており、それは仮に他人の権利を侵害することがあっても、違法ではないと
認識されていたから、原告の同被告らに対する右規程施行前に遡及する損害賠償請
求は他店と比べて不公平かつ不合理で許されない旨主張する。しかしながら、新規
程の施行前においてカラオケの使用が無料で許されていたとの同被告らの事実認識
自体が誤っており、また、包括使用料の規定を新設した新規程の施行により初めて
原告のカラオケ使用料の徴収権が認められ、それ以前のカラオケ使用が違法でない
とするのは、他人の著作物の無許諾利用を禁止している著作権法の存在を無視した
同被告ら独自の見解にすぎず、理由がない。スナック等におけるカラオケ伴奏によ
る客の歌唱が著作権法上原告の演奏権の侵害に該当することは、既に昭和五九年七
月五日の福岡高裁判決によって明らかにされていたのであるから、仮に自店のカラ
オケ使用について著作権侵害の認識がなかったとしても、同被告らを含むカラオケ
スナック店の経営者は過失による不法行為責任を免れない。原告は、昭和六一年一
〇月頃、本件店舗におけるカラオケの使用について、同被告らに対し本件装置を使
用するには原告との間に使用許諾契約を締結する必要があること及びその場合の使
用料について説明するとともに、使用許諾契約の締結を求める「飲食店経営者の皆
さまへ」と題する案内状等を郵送し、その後も数回にわたって督促したが、同被告
らは契約締結に応ぜず(甲七七の弁四号証、甲二六の1~3、二七、二八)、著作
権侵害行為を継続した。その間、昭和六二年八月及び一一月の二回にわたり原告の
大阪支部職員が被告【B】と面接し、同被告らに対し、原告と使用許諾契約を締結
しないまま本件装置を用いて客や従業員に歌唱させる行為が原告の著作権の侵害行
為に該当することを重ねて説明し、同時に使用許諾契約の締結方を再々督促した
が、同被告らは、カラオケで使用するレーザーディスクについてはソフトメーカー
が製造時に原告から許可を得ており、原告がカラオケスナック店から使用料を再度
徴収するのは二重取りになるなどと主張して原告職員の説得を全く聞き入れず、契
約の締結を拒否し、さらに著作権侵害行為を継続した。したがって、同被告らは、
その時点以降昭和六三年七月一六日までの間の著作権侵害行為について故意による
不法行為責任を免れない。
 本件店舗の全営業期間にわたる著作権侵害の事実は、昭和五八年九月の開店直後
から昭和六一年五月一六日までの間は株式会社大音と被告【A】との間に、昭和六
一年五月一七日から昭和六三年七月一六日までの間に被告会社と被告【A】及び同
【B】との間に、それぞれ業務用カラオケ装置のリース関係が存続していたこと
(甲九四の1、九五)、そして、現実に右各社から当該カラオケ装置と同時にこれ
に使用するカラオケソフトが継続的に提供され、それらが本件店舗に備え付けられ
ていた事実から容易に推定することができる。右各装置を利用したカラオケ伴奏に
よる客及びホステス等の従業員の歌唱は、同被告らの経営するカラオケスナック店
の営業の性格上必要不可欠な要素であり、同被告らの本件著作権侵害行為は同形反
復継続型の侵害行為である。したがって、原告の調査員による二回の実態調査の調
査報告書(甲二一、二二)を基本として、それらの結果を過去に遡及し、本件店舗
における一日平均使用曲数を四〇曲と推定することには十分に合理的な理由があ
り、何ら不当なものとはいえない。また、原告の調査依頼に基づいて社団法人輿論
科学協会(甲一〇三の2)が同種のカラオケ使用店を対象として調査した結果を分
析した「カラオケ店における一時間当たり平均歌唱回数についての分析」と題する
報告書(甲一〇三の1)によれば、調査対象店舗の一営業日四時間当たりの平均歌
唱回数は、昭和六三年一月から同年六月までの間において、四八回ないし四九回と
推定されている。そして、この数値は平均的カラオケ使用店の通常のカラオケ歌唱
の状況を測る合理的基準といえるものであり、しかも、原告の実態調査の結果であ
る昭和六三年一月一四日の本件店舗における使用曲数五〇曲とほぼ合致し、右報告
書は原告の調査結果の数値に客観性を付与するものといえる。そこで、原告は、こ
れらの一般的資料の内容をも併せ勘案して、本件店舗の一日平均使用曲数を四〇曲
相当と見積もったもので、それにより同被告らの本件著作権侵害行為の全体像を把
握することには十分な合理性があり、この点に関する同被告らの主張は理由がな
い。
 同被告らは、本件店舗におけるカラオケ使用の実態調査に際し、原告の調査員が
自らも歌唱し、作為的に本件装置を使用させたとして、原告の調査資料の取得方法
を論難する。しかしながら、一般に、本件店舗のようなカラオケスナック店の経営
者は、カラオケ装置を設置して、カラオケテープやレーザーディスク等のカラオケ
ソフトを常備し、カラオケ装置を操作し、客に歌唱を勧めて好みの楽曲の曲目を選
曲させ、右カラオケソフトの再生による演奏又は上映を伴奏として客に歌唱させる
方法により、カラオケスナック店としての店の雰囲気を盛り上げ、そのような雰囲
気を好む客の来集を図ることを営業方針としている。そして、このような同被告ら
による著作権侵害行為の具体的状況を知り得るのは、同被告ら自身を別にすれば、
店の従業員と利用客のみであるから、原告としては、調査員に客を装って当該調査
対象店舗に潜伏させ、飲食代を支払い営業時間中職務として在店させ、そこで使用
曲目及び曲数等を調査させる以外には当該店舗の音楽著作物の使用状況を明らかに
する有効かつ適切な方法は全くない。したがって、原告が行う実態調査は、隠密裡
に無断使用曲数を捕捉調査するためには必要不可欠な手段であり、最小限度必要な
範囲で調査員がホステス等の従業員らの勧誘に応じて歌う場合もあるのであって、
当該調査員が右曲数等の調査の手段として行う歌唱は、当該店舗における通常の一
日の営業時間中に歌唱させる楽曲の平均使用曲数の認定にさほど影響を与えるもの
ではなく、単に日常的に反復継続される侵害行為の曲数を再現するものでしかな
い。仮に、そこで調査員が従業員らの勧誘を全く拒否したり、逆に他の客の歌唱の
申し入れを全て妨げるほどに、殊更通常の当該店舗の客のカラオケ利用のリズムな
いしペースを狂わせるような調子で歌唱したとすれば、それは直ちに店側に不自然
な行動として感づかれ、原告の意図する同被告らの日常的な無断使用曲数の捕捉調
査を不能にしていまうことになろう。したがって、原告の調査は、作為的にカラオ
ケを利用させる意図を持つものではなく、調査員の歌唱分も使用曲目数から除外し
て計算すべきものではない。そして、調査員の歌唱は、他の一般客の歌唱と同様に
著作権法三八条による自由利用の範囲内の行為であり、同被告らは営業上店の雰囲
気作りのために調査員にも歌唱させて、原告の管理著作物を利用しているのである
から、同被告らに著作権侵害の責任が生ずることはいうまでもない。以上のとお
り、原告の右実態調査は、管理著作物の無断使用による損害額を推計するための適
法な資料収集方法であるから、そこで得た数値を基礎に有効な推計モデルとなる平
均使用曲数を認定すべきである。
 同被告らは、原告の被告【A】に対する昭和六〇年七月九日から昭和六一年五月
一六日までの間のオーディオカラオケの伴奏による客の歌唱の演奏権侵害行為につ
いて、【F】証人の伝聞証言だけでその損害額を認定するのは証拠が不十分であり
不合理である旨主張する。しかし、本件訴訟において、被告【A】の本人尋問の実
施に終始反対したのは同被告ら自身であり、その結果、原告はやむなく右本人尋問
に代えて同証人の尋問を求め、更に追加の証拠資料も提出したのであるから、これ
らの証拠資料により右損害額を認定することは可能であり、同被告らの主張は理由
がない。
 なお、同被告らは、本件店舗を閉店した年月日が昭和六三年七月八日である旨主
張するが、正しくは同月一六日である。
(四) 仮定的損害論の主張に対する反論
(1) 被告【A】及び同【B】は、昭和四六年四月一日に変更認可を受けた原告
の著作物使用料規程(旧規程、甲七)は、当該対象店舗の定員及び平均入場料を使
用料算定の要素としているが、本件店舗の入場料につき一万円を基準とする根拠や
客である素人の歌唱をプロの歌手のそれと比較して二割減ずる根拠はいずれも不明
であり、同規程とは別に定められた著作物使用料規程取扱細則(社交場)(甲八)
は原告の内部規程にすぎず、本件における損害額の算定に際し、これらの規程及び
細則に拘束される理由はない旨主張する。しかし、原告の著作物使用料規程は、仲
介業務法に基づき、文化庁長官の認可を受けて規定されたものであり、右規程に定
める一曲一回の使用料をもって原告が著作権を行使するにつき通常受けるべき金銭
の額に相当する損害賠償額(著作権法一一四条二項)として算定することが正当で
あることは、従来の判例によっても認められている。すなわち、① 生演奏の使用
料につき、名古屋高裁昭和三五年四月二七日決定、大阪高裁昭和四四年三月一四日
決定、大阪高裁昭和四五年四月三〇日決定、福岡高裁昭和五七年一月二七日判決、
広島地裁福山支部昭和六一年八月二七日判決、東京地裁昭和六二年一〇月二六日判
決等の裁判例が、② カラオケ歌唱の使用料につき、福岡高裁昭和五九年七月五日
判決、高松地裁平成三年一月二九日判決、福井地裁平成四年五月一日判決等の裁判
例があり、それらの裁判例はいずれも著作物使用料規程の「社交場における演奏」
の一曲一回の使用料の規定を適用し、かつ、昭和三五年以来その算出方法の取扱要
領を定めた著作物使用料規程取扱細則(社交場)(甲八)と共にその合理性を認め
たうえで、これらの著作物使用料規程及び取扱細則に従って算出した使用料相当損
害金額の算定を相当として認めている。そして、本件における原告の損害額算定に
関する主張もこれらの算定方法と何ら異なるものではない。すなわち、本件店舗の
場合、旧著作物使用料規程(甲七)を適用すると、同規程の「社交場における演
奏」の使用料率と著作物使用料規程取扱細則(社交場)(甲八)に従い、定員は客
席数一〇〇席未満、平均入場料二〇〇〇円以上二五〇〇円未満の場合の各区分に該
当するので、一曲一回五分未満の演奏使用料は八〇円となる。また、改正著作物使
用料規程(新規程、甲二四)を適用すると、新規程の「社交場における演奏等」の
うち業種別に設定された「別表15の1」の料金表の座席数は四〇席まで、標準単
位料金は五〇〇〇円を超え一〇〇〇〇円までの場合に該当し、一曲一回五分までの
演奏使用料は一一〇円となる。旧規程における平均入場料を新規程において標準単
位料金に変更した理由は、社交場における営業をその多様性に対応して営業目的別
に一四種に分けて料金表を作成し、これを従来の平均入場料を座標軸としていた
「演奏会形式による演奏」の使用料率表から切り離して独立させ、「社交場におけ
る演奏等」の使用料として定めたことによるものである。平均入場料と標準単位料
金(甲二四の六頁参照)は、元来使用料を決定し算出する収入比例原則に従い営業
収入を把握するために観念される同趣旨の概念である。さらに、カラオケ使用料の
算定は、素人の客の歌唱に演奏権が及ぶ事情を考慮して、これに適用する旧規程及
び新規程のそれぞれの生演奏使用料の額に一定の割合による減額をした上、その使
用料を算定するものである。二割の減額率の根拠は、客の歌唱は、曲目の選択、ム
ードを盛り上げるタイミング、歌唱力の巧拙等の点で、店側の営業に寄与する貢献
度がプロの歌手よりも劣ることが主な理由であり、前記福岡高裁判決以来この二割
減額控除が判例として定着しており、最近でも、高松地裁平成三年一月二九日判決
(甲六九)や福井地裁平成四年五月一日判決(甲八六)等も同じ減額率で使用料相
当損害金を算定している。
(2) 同被告らは、原告の原則的な使用料徴収権限の根拠は、各店舗との間にお
いて締結される包括使用許諾契約以外には存在し得ないから(甲二五〔昭和六二年
四月一日施行「著作物使用料規程取扱細則(社交場)」〕四条一項)、本件におい
て著作権者が通常受けるべき金銭の額に相当する額(使用料相当損害金)は包括使
用許諾契約を締結した場合に当該店舗の経営者が支払うべき使用料額と同額となる
べきであり、これを旧規程の一曲一回の使用料を基礎に算出した原告の請求は不当
である旨主張する。しかし、新規程は、社交場における演奏について、包括使用許
諾契約を結ばない場合は、一曲一回の使用料による旨規定しており、「別表15の
1」の料金表でその使用料を定めている(甲二四の二八頁)。なお、新設の包括使
用料(月額)と一曲一回の曲別使用料との適用区分において包括使用料を原則とす
る旨前記取扱細則(甲二五)四条一項に定めているが、それはあくまでも任意に年
間の包括使用許諾契約を締結する営業者に対してのみ適用されるべき規定であっ
て、本件において原告がこの包括使用料額を基準に損害額を算定しないのは、本件
では、同被告らは右契約の締結を一貫して拒否しており、右包括使用料の規定を適
用するための前提条件を欠いているからである。
(3) 同被告らは、本件において昭和六二年一一月一七日及び昭和六三年一月一
四日の二回にわたる実態調査の結果の際の使用曲数のみをもって昭和六〇年七月ま
で遡及して本件店舗における使用曲数を推定するのは経験則に反する旨主張する。
しかし、前記したとおり、一日四〇曲の平均使用曲数の認定には十分合理性があ
り、同被告らの主張は理由がない。
(4) 同被告らは、原告が昭和六二年四月一日以前の時点においてはカラオケス
ナック店におけるカラオケ管理は実施しておらず、その使用料は当時全国一律に無
料とされていた、同日から使用料を徴収する旨の案内文書が同被告らに送付されて
いるが、そのことは、反面で、右期日以前の分についてはカラオケ使用料を徴収し
ない旨の原告の意思表示があったものといえる旨主張する。しかし、本来、カラオ
ケスナック店も、同日以前からカラオケ伴奏による演奏(歌唱)を行なうために
は、原告の許諾を得なければならなかったのであり、現に原告は昭和五五年以来そ
の趣旨を関係業界に知らしめるべく広報活動をしているのであって、音楽著作権の
分野のように新たな媒体や機器を用いた利用が急速に普及する事業分野の場合、当
然のことながら、原告がそれらに対し全面的な管理を達成するまでには相当な時間
的なずれ(タイムラグ)が生じることになる。しかし、そのこととは無関係に無許
諾のカラオケ伴奏による演奏(歌唱)は本来的に違法であり、昭和六二年四月一日
の原告によるカラオケ一斉管理の開始以前においても著作権法上それが自由利用
(無償使用)として許されていたわけではないから、無料の取扱が認められていた
とする同被告らの主張は根拠を全く欠いている。原告が同被告らに送付した使用料
徴収に関する各案内文書(甲七七の弁四号証、甲二六、二七)は、単に同被告らに
対しカラオケの合法的利用を促す使用許諾契約締結のための申込の誘引にすぎず、
過去の使用料又は損害金の放棄ないし免除を通告する趣旨を包含する文書ではな
い。
(5) 同被告らは、原告の著作物使用料規程上カラオケ使用料の根拠となる徴収
規定が存在するとしても、原告は、昭和六二年四月一日以前の段階では、これを現
実に執行ないし実行して使用料を徴収することはなかったのであるから、原告の使
用料徴収権は失効している旨主張する。しかし、原告は、現に前記福岡高裁判決の
事案においてもカラオケ伴奏による客の歌唱に関して店の経営者に対し損害賠償請
求権を行使しており、原告の有する不法行為による損害賠償請求権は時効による以
外には消滅することはない。
(6) 同被告らは、原告が本訴請求のうち被告会社に対する昭和六二年三月三一
日以前の使用料相当損害金の請求部分に関する訴えを取り下げたことを捉らえ、同
被告らに対する当該請求部分の訴えも取り下げられるべきであり、仮に取り下げら
れないとすれば、それを棄却すべき旨主張する。しかし、訴えの一部取下げは、請
求原因事実の存否自体とは無関係な事柄であることはいうまでもないから、同被告
らの主張は理由がない。
(7) 同被告らは、昭和六二年四月一日以後、本件店舗と同種のカラオケスナッ
ク店で包括使用許諾契約以外の使用許諾契約を締結した実例は存在しない旨主張す
る。しかし、原告は、これまでにもカラオケの無許諾使用者に対し、過去の使用分
については一曲一回の使用料に基づいて算出した金額の支払を求めており、契約締
結以降の使用については包括使用許諾契約によって処理している(甲二五の四条二
項参照)。
(8) 同被告らは、本件において仮に同被告らに損害賠償責任があるとしても、
著作権侵害行為と相当因果関係のある損害は、算定期間の始期を調査期日とし、算
定基準については包括使用許諾契約の場合に適用される使用料を基準として算定す
べき旨主張する。しかしながら、前記したとおり、同被告らは、昭和五八年九月の
本件店舗の開店当時から継続的に同形反復型の著作権侵害行為を繰り返していたの
であるから、原告の損害賠償請求権は、それが時効により消滅していない限り、侵
害事実の調査発見日以前から株式会社大音及び被告会社がカラオケ機器等を本件店
舗に提供していた事実等から合理的に推定し得る継続的侵害行為及び期間に対して
損害賠償請求権を行使できることは言うまでもない。同被告らは、原告から新規程
の包括使用料に基づく年間包括使用許諾契約締結の申し入れを受けたにもかかわら
ず、徹頭徹尾これを拒否し、故意に著作権侵害行為を継続していたのであるから、
原告が同被告らに対し、一日四〇曲の平均使用曲数と一曲一回の使用料を基本とし
て算定した損害額を基礎に、損害賠償請求権を行使するについて、これを妨げる事
由は何ら存しないものというべきである。
(9) 同被告らは、原告が全国的規模でカラオケの使用店から著作物使用料を徴
収していない状況のもとでは、原告には損害が発生し得ず、或いは原告には得べか
りし利益が存在しない旨主張するが、右主張は失当である。すなわち、原告の管理
する音楽著作物が無許諾で使用されれば、そのことだけで当然に著作権侵害行為に
当たり、右侵害行為により原告に損害が発生することは多言を要せず、原告の右損
害の有無及びその数額は、過去において原告がそれに対し権利行使をしたか否か及
びその範囲・実績等の事情によって影響を受けるものではない。
【被告【A】及び同【B】の主張】
 仮に被告【A】及び同【B】に原告主張の著作権(演奏権・上映権)侵害行為が
あり、同被告らが不法行為に基づく損害賠償責任を負担するとしても、原告の著作
物使用料規程は公序良俗に違反し無効であるから、本件において損害額の算定基準
とはなり得ない、その詳細は次のとおりである。
(一) 原告による音楽著作物に関する包括的使用許諾契約方式の採用
(1) 原告による右方式採用の意図
 原告は、昭和五〇年代後半のカラオケスナック店の普及状況を目の当たりにし
て、それまで原則としてカラオケスナック店からは使用料を徴収せずに無料扱いに
していたのを改め、新たに使用料を徴収せんとして種々の方法論を模索する中で、
所管行政庁である文化庁の意向も受けて、従来の個別使用許諾契約方式による使用
料徴収方式に限界のあることを悟り、徴収の容易性と便宜性とを狙って、昭和六一
年八月一三日に文化庁長官の認可を得て、昭和六二年四月一日から包括的使用許諾
契約方式を原則的に採用した。この包括的使用許諾契約方式は、従前の生演奏中心
の時代の一曲一回を基本とする使用料算定方式ではなく、各店舗の客席面積を基準
として一律に使用料を算定する方式であり、そもそも音楽著作物の基本概念から逸
脱しているのみならず、巷に多数散在するカラオケスナック店からの使用料徴収の
便宜のみを主眼とし、原告自身の収入拡大と利益追及に偏った不公平な契約方式で
ある。
(2) 従前の演奏会契約方式との不均衡
 原告は、従前から著作物使用料規程(甲七の四頁4「社交場における演奏」)に
演奏会方式による使用料計算式を定めており、これによりカラオケスナック店から
使用料を徴収することが可能であった旨主張する。しかしながら、この著作物使用
料規程が認可された昭和四六年四月一日当時、未だカラオケスナックという営業種
目自体が世の中には存在せず、また、カラオケも飲食店で使用されてはいなかった
のである。したがって、原告主張の旧規程はカラオケ又はスナック店を対象とした
ものではなく、一曲一回を基本に入場料を徴収して行う上演や演奏会形態を主たる
対象とし、これに加えてキャバレー、ナイトクラブ、ダンスホールなどにおいて楽
器を使用する演奏又はプロの歌手による歌唱演奏(生演奏)を想定した規程であっ
たのであり、カラオケスナック店はその射程距離に入ってはいなかったのである。
因みに、本件店舗(客席面積約一九坪)を例に使用料額を計算すると、昭和四六年
四月一日から昭和六二年三月三一日までの間は、従前の演奏会方式により計算する
と一か月三万二〇〇〇円となり、昭和六二年四月一日以降は、包括的使用許諾契約
方式の場合一か月七八〇〇円、従前の演奏会方式の場合一か月四万四〇〇〇円とな
り、その差は歴然としている。何故にこのような大差を生じる方式による使用料の
徴収が許されるのであろうか。このことは、はからずも、音楽著作権の価格には原
告の恣意的基準によるそれはあっても、客観的なそれは存在し得ないことを露呈し
たものといえる。このような非合理な料金設定(新規程)が文化庁長官によって認
可された理由は同被告らには理解できない。
(3) 著作権の価格は原告の自由裁量で決定される。
 原告は、著作物使用料規程は、使用料の最高額を定めたもので、その範囲内で具
体的に何割引にするかは原告の専権に属する旨主張する。しかし、それでは著作物
使用料規程は契約約款としての公平性を有しないことになり、そのような契約約款
は音楽著作物の利用者に対し契約締結の強制力を有しないものというべきである。
また、そのような恣意的運用を可とする著作物使用料規程に強制力を認めること
は、原告が我が国における唯一の音楽著作物の著作権に関する仲介団体であり、か
つ使用許諾権者であること、さらに原告があくまでも私的団体であることを併せ考
えると、不公平な結果を招来することが明らかである。更に、原告が音楽著作物の
ユーザーの利益代表として選定した環衛組合は、全国のカラオケスナック店に限っ
てみると、その組織率は僅か一〇~一五%程度にすぎず、ユーザーの利益を正当に
代表し、その意思を正確に反映する使用者団体とはいえず、したがって、その意見
を参考にして認可された原告の著作物使用料規程(新規程)は、ユーザーの合理的
意思を推定して作成された契約約款とはいえず、合理的根拠を欠いている。なお、
著作物使用料規程取扱細則(甲八、二五)は、原告の単なる内部規定であり、文化
庁長官の認可を受けたものではない。
(4) 新規程が認可された理由
 新規程は、認可申請日からごく短期間のうちに認可されたものであり(認可申請
日昭和六一年六月二日、審議会開催日同年八月四日、答申日同月七日、認可日同月
一三日)、文化庁の審査手続そのものにも疑問点が多い。したがって、そのような
杜撰な方法で制定された新規程に著作権侵害による損害賠償請求訴訟における損害
額の算定基準としての一般的基準性を認めることはできない。
(二) 客席面積五坪以下のカラオケスナック店のカラオケ使用料を無料としたこ
との不公平性
 新規程は、客席面積五坪以下のカラオケスナック店のカラオケ使用料支払義務を
免除し無料扱いとしているが、その趣旨は不明であるとともに、公平性を欠いてい
る。すなわち、カラオケ歌唱に要する時間は通常約五分程度であり、カラオケスナ
ック店における営業収益全体に占めるカラオケの寄与度は、客席面積が広くても狭
くても大同小異であり、また、客席面積が一〇坪以上の広い店の場合、従業員の女
性(ホステス)を多数雇用する必要があり、その結果、営業面ではカラオケに頼る
よりも、従業員の接客サービスが店の営業収入の基本となるから、それにつれて人
件費も高くつくことになる。これに対し、客席面積五坪以下の店の場合、女性従業
員の数も少なくて済み人件費も安いため、いきおいカラオケに頼る営業に傾きやす
く、営業利益全体に占めるカラオケの寄与度は相対的に高いものとなる。また、こ
の客席面積五坪による線引きについては、環衛組合の強硬な申し入れに対し、原告
が、文化庁の認可を得る必要上、カラオケスナック店の営業実態を正確に調査する
こともなく安易に受け入れたという経緯があり、そこに何らの合理的根拠も見い出
し難い。更に、カラオケスナック店は、客席面積が一〇坪未満の店が圧倒的に多い
のであるが、それらの店における経費を差し引いた純利益は一〇坪の店も五坪の店
も似たりよったりであって、客席面積五坪以下の店のカラオケ使用料を無料とする
ことを許せば、業界全体に、「一方で使用料を支払わない人がいるのだから、自分
も支払わなくてよい。」という風潮を生むのは必定であり、かかる観点からすれ
ば、原告の著作物使用料規程は公序良俗に違反し、民法九〇条により無効である。
(三) 新規程に内在する実施困難性
(1) 全国のカラオケスナック店の実数把握の困難性
 客席面積一〇坪前後のカラオケスナック店は改廃が非常に激しく、大阪府下だけ
でも一か月に三〇〇ないし四〇〇店の改廃があるといわれ、この三年間だけで全店
舗数の約六割が改廃しているというのが実状である。このように改廃の激しいカラ
オケスナック店を対象に著作物使用料規程による使用料の徴収を実施しているにも
かかわらず、原告からは、自らが把握している全国のカラオケスナック店の店舗軒
数、そのうち客席面積五坪以下の店舗軒数、環衛組合加盟店舗の割合、使用許諾契
約の成約件数等の具体的数字が全く公表されてはいない。このことは、原告が実際
にそれらの数字を把握していないか、それとも極めて恣意的に著作物使用料規程を
運用しているかの、いずれかであると解釈されても致し方がないであろう。
(2) 環衛組合員と非組合員の差別的取り扱い
 環衛組合が組織する料理店や飲食店はクラブ、キャバレー等、従前から店舗内で
生演奏をし、かつ、ホステスを配した大規模店舗が多く、小さなカラオケスナック
店などは大半が同組合には加盟しておらず、民主商工会に所属している組合も多
い。本件店舗のようなカラオケスナック店で環衛組合に所属している店は少なく、
大阪府下でみれば、同組合の組織率は一割にも満たないのが実状である。また、原
告は、環衛組合員以外の非組合員の店に対しては著作物使用料規程をそのまま適用
しているが、環衛組合の組合員の店に対しては一律に使用料を三〇%割引し、か
つ、保証金の支払義務も免除している。更に、原告は、環衛組合に対し、契約出来
高の五%を手数料として支払うだけでなく、使用許諾契約の締結権限も与え、当該
店舗の客席面積が五坪超か否かを確定する権限も排他的に授与している。そして、
これらのことは、環衛組合加盟店の客席面積把握の正確性に疑念を生じさせ、ひい
ては各店舗間に使用料負担についての不公平感を生む原因となっている。また、原
告と環衛組合との間の基本協定及び業務協定は、新規程の施行日前である昭和六一
年一一月頃までの間に締結されており、そのような状況のもとで、原告が昭和六二
年四月一日の新規程施行日以降、包括的使用許諾契約の締結をカラオケスナック店
の経営者らに勧誘したとしても、同人らが原告の勧誘に素直に従うはずもなく、ま
してや、それまでカラオケスナック店における使用料は事実上無料扱いにされてい
たのであるから、原告が、カラオケスナック店の経営者らに対し、ある日突然これ
を有料であると説明し、或いは包括的使用許諾契約の締結方を要請したとしても、
右経営者らは、原告がその一方で環衛組合員に対してのみ偏頗な取り扱いをしてい
ることを知っているのであるから、契約締結に応じない者が大半となるのは当然の
ことであり、仮に応じた者がいるとしても、半信半疑ながら原告の権力的強制に不
本意ながら従っているというにすぎない。
(3) 客席面積五坪での線引の問題点
 客席面積五坪超の店の経営者は、全員がこの線引の合理性に疑問を抱いていると
思われるが、原告は、かような疑問について十分説得的な解答を持ち合せてはいな
い。
(四) 著作物使用料規程の運用上の不公平性
(1) 差別化した不公平な使用料徴収
 原告は、使用料をいずれも無条件で、離島及び北海道については一〇%割引し、
沖縄県については二〇%割引するとともに、環衛組合加盟のカラオケスナック店に
対しては三〇%の割引をしている。
(2) 原告は、環衛組合に対し、使用料徴収に関し、客席面積五坪以下の店の届
出権と客席面積五坪超の店の使用許諾契約の締結権限を与え、かつ、当該店舗の客
席面積が五坪超か否かの判断(使用料が有料か無料かの判断)についても調査決定
の権限を与え、原告はその決定に対し異議を述べられない仕組になっており、さら
には、環衛組合と原告との間の業務協定によると、原告は、環衛組合以外の団体に
使用許諾契約の締結権限を委任できないことになっている。そして、これらのこと
は、原告が適切なパートナーを取り違えたため、結局は成約率が伸びず、著作物使
用料規程が不公平に運用される大きな原因ともなっている。
(3) 原告による偏頗な法的手段の行使
 原告は、昭和六二年四月一日のカラオケ管理開始以降、環衛組合加盟のカラオケ
スナック店に対しては訴訟、仮処分、告訴等の法的手段は行使せず、非組合員(全
国のカラオケスナック店の約九〇%を占めている。)に対してのみ右法的手段を訴
えている。これは、原告と環衛組合加盟との間の業務協定に基づく同組合からの突
き上げによるものであり、原告は、マスコミを利用した一般的効果を狙い、見せし
めとして、これらの法的手段によって使用許諾契約の締結促進を図っているのであ
る。これは、原告の公益社団法人としての性格上許されない偏頗な権利行使態様と
いうべきである。
(4) 有線放送の使用料との比較
 カラオケスナック店の包括的使用許諾契約方式による著作物使用料と有線放送の
それとを比較すると、一曲当たりの価格には大差がある。すなわち、有線放送会社
の年間の著作物使用料は純利益の約一%程度に当たるが、有線放送はマルチチャン
ネルで二四時間数十本の放送をしているのであるから、その総放送曲数たるやカラ
オケスナック店の比ではない。したがって、一曲当たりの価格に引き直してみて
も、カラオケスナック店の支払っている使用料の方が、有線放送の支払っている使
用料の何十倍もの価格になるはずである。しかし、カラオケは単なる歌唱のための
伴奏であり、レーザーカラオケについては原告に上映権があるとはいっても、原告
は映画本体(バックの風景、人物等)については著作権を有せず、歌詞には独立し
た著作権を認めるべきものではなく、また、メロディーは演奏の再生にすぎないの
であるから、そこにおいて上映権として保護されるべき法的利益は誠に僅少なもの
であり、例えばカラオケスナック店の妥当な年間使用料を金額的に表示すれば、そ
れはせいぜい一二〇〇円ないし一五〇〇円程度のものであって、更にカラオケでは
客の歌唱が主体である以上、原告がその主張にかかる高額の使用料を徴収する合理
的な基盤は存在しないものというべきである。
(五) 本件の具体的事情
(1) 原告との交渉経過
 被告【B】は、昭和六二年八月下旬頃、開店間際の忙しい時間帯に本件店舗を来
訪した原告の職員に対し、ディスク盤に貼ってあるレーベルの原告のマークを示し
て、「このディスクは原告が使用を許可したものであって、同被告から使用料を再
度徴収することは二重払いにならないか。客席面積が五坪以下の店の使用料を無料
にした理由について納得がいかないので、説明してほしい。納得できたら支払
う。」などと言って説明を求めたが、原告の職員は、最初から意図的に同被告を怒
らせる態度を示すのみで十分な説明をしなかった。さらに、その後、同年一一月に
原告の職員が再び本件店舗を来訪した際も、夕方六時頃の忙しい時間帯であり、十
分な説明もしないで、原告の職員は、「裁判する。」との捨て台詞を残したまま立
ち去っている。
(2) 原告の調査資料の不当性
 原告は、本件店舗の調査を① 昭和六二年一一月一七日、② 昭和六三年一月一
二日、③ 同月一四日、④ 同年六月二九日の四回実施したと主張している。そし
て、①の使用曲数は三九曲、③の使用曲数は五〇曲であったとして、それらを根拠
に本件店舗における一日の平均使用曲数を四〇曲と推定し、これを全侵害期間にわ
たる損害計算の基礎としている。しかし、右のいずれの調査日においても原告の調
査員が全使用曲数のうち一〇曲以上を歌っており、特に③の調査期日には一六曲も
歌っているのであるから、これは余りにも粗雑な推定方法というべきであり、本件
店舗ではカラオケが一曲も歌われない日があったという現実を無視している。しか
も、④の調査期日の分はすべて原告の調査員が歌った分である。したがって、被告
【A】及び同【B】としてはこのような原告の無謀な損害計算には憤りすら覚える
のである。原告は、客の多い日だけをことさら狙って本件店舗を調査し、しかも実
際には他の期日にも調査をしておきながら、そのうちから自らに最も都合のよい調
査結果の出た日の調査結果のみを本訴で提出援用しているものと推測される。更
に、原告の調査員は、調査当日も作為的に本件店舗の従業員に本件装置を使用させ
るように持ちかけており、如何に調査のためとはいえ、本来音楽著作物を管理すべ
き立場の原告の職員が自らも率先して歌い、その場の雰囲気を盛り上げた行為は、
単に使用料相当損害金の賠償請求権の放棄に当たるのみならず、刑事上の囮操作に
も匹敵する不法な行為である。のみならず、二回の調査結果だけで過去に遡及して
全期間の損害額を算定するというのはいかにも不公平であるとの感を拭えない。
(3) 原告主張の推定の不当性
 カラオケスナック店の客足は毎日一様ではなく、天候、曜日、給料日の前後か否
か、休日の多少などの諸要因によってもそれはまちまちであり、景気にも大きく左
右されることは言うまでもない。したがって、本件店舗の過去の来客数や売上に関
する資料もなしに、原告の調査結果のみをそのまま遡及させて損害額を推定するの
は誠に不合理である。また、原告は、昭和六〇年七月九日から昭和六一年五月一六
日までの間、本件店舗が被告【A】と【D】の共同経営であったことを前提として
損害賠償請求をしているのであるが、当時の本件店舗の営業実態については何も知
らず、然るべき調査すらしていない。しかし、昭和五九年、六〇年当時はカラオケ
も動画(VHDレーザー等)が主流で、オーディオカラオケは既に下火の傾向にあ
り、歌唱する客も少なく、集客効果も乏しかったので、被告【A】と【D】は店を
閉め、借金の肩代わりを被告【B】に依頼したというのが実状である。
(4) 他店の取扱との不公平性
 被告【A】及び同【B】の入居していた日宝スターライトビルの契約状況につい
てみると、入居店数合計三五店のうち、原告が届出を受け、或いは使用許諾契約を
締結している店の総数は一二店であり、更にそのうち使用料を実際に支払っている
のは僅か三店にすぎず、大半は契約を締結していないか、客席面積が実際には五坪
超であっても、原告に対しては五坪以下の届出をして使用料を支払ってはいない。
同ビルは、現在では転廃業する店が多く、被告【B】も既に本件店舗を閉店し、昭
和六三年七月八日に本件装置を被告会社に返還している。
(六) 被告【A】及び同【B】に損害賠償責任があると仮定した場合の損害論
(1) 原告の著作物使用料規程は契約約款であり(大阪高裁昭和四五年四月三〇
日判決)、同規程の取扱細則は単なる原告の内部規程にすぎない。同規程(昭和四
六年四月一日変更認可の旧規程)は、元々生演奏や演奏会形式を予定した規程であ
ったため、原告は、別途取扱細則を定め原告内部の意思統一を図ったのであるが、
その中でスナックには入場料なるものは存在しないにもかかわらず、ボトルキープ
代及びテーブルチャージ代などから入場料を算定し、演奏会場ではない飲食店の入
場料を定めており、そのこと自体に無理があるというべきであるから、本件店舗の
入場料を原告主張のように一万円と算定する合理的理由はない。また、素人の客の
歌唱をプロの歌手の歌唱と比較して二割減としているが、その根拠は全く不明であ
り、原告の独断というしかない。したがって、本件において被告【A】及び同
【B】の賠償すべき使用料相当損害金額の算定に際して、これら著作物使用料規程
及び同取扱細則の内容に拘束されるべきではなく、独自の損害判断がされるべきで
ある。
(2) 相当因果関係のある損害
 著作権法は、損害額の認定について特別規定を設けている。加害者の利益を損害
額と推定する規定(同法一一四条一項)、著作者が通常受けるべき金銭の額に相当
する額を自己の受けた損害の額として請求できるとする規定(同条二項)及び同項
を超える損害の賠償に関する規定(同条三項)がこれであり、原告もそれらの規定
に基づいて、本件における著作物使用料相当額を自己の受けた損害額として請求し
ているものと考えられる。しかしながら、本件では、仮に原告の著作物使用料規程
の内容を参酌する立場に立つとしても、本件に当てはまる原告の原則的な使用料徴
収規定は、新規程の包括使用許諾契約方式による場合のそれしか存在しないのであ
るから、これを基準に使用料相当損害金を算定すべきである。
 また、不法行為においても民法四一六条は類推適用されるが、本件では以下の特
別事情があることが十分考慮されねばならない。
(イ) 原告は、本件店舗の調査結果のうち、昭和六二年一一月一七日及び昭和六
三年一月一四日の二回の調査結果による曲数をもって、昭和六〇年七月まで遡及さ
せて損害額を推定しているが、そのような損害額算定の手法は経験則に反する。
(ロ) 被告【B】が本件店舗の経営者になったのは昭和六一年四月であり、レー
ザーディスクカラオケ装置(本件装置)を設置したのは同年五月一七日である。
(ハ) 原告は、昭和六二年四月一日以前にはカラオケスナック店におけるカラオ
ケ管理を実施しておらず、全国一律に無料であった。原告からは、同年以降の使用
料徴収に関する文書が本件店舗宛て及び被告【B】宛てに送付されている。これは
同日以前の使用料は徴収しない旨の原告の意思表示にほかならない。
(ニ) 昭和六二年四月一日以前に、本件店舗と同様のカラオケスナック店におい
て、原告との間に使用許諾契約を締結した店は存在せず、原告の著作物使用料規程
上カラオケスナック店の使用料徴収について定めた規程は存在しなかった。仮に同
日前に右規程上カラオケスナック店の使用料徴収について定めた規定が存在してい
たとしても、原告はこれを現実に実施せず、
だからこそ同日包括的使用許諾契約方式に依拠した新規程について文化庁長官の認
可を受けて、その時点以降カラオケ管理及びカラオケ使用料の徴収を開始したので
ある。したがって、同日以前の原告の使用料徴収権は失効したものというべきであ
る。
(ホ) 原告は、被告会社に対する請求のうち、昭和六二年四月一日以前の損害賠
償請求部分の訴えを取下げた。これは、原告が同日以前には被告会社の不法行為が
成立し得ないことを自認したものにほかならない。したがって、本来被告【A】及
び同【B】に対する右部分の訴えも取下げられるべきであり、原告がこれを取下げ
ないときはその部分については請求が棄却されるべきである。
(ヘ) 本件店舗と同種のスナック店において、昭和六二年四月一日以後原告との
間に包括的使用許諾契約方式以外の許諾契約を締結した店は一軒も存在しない。
(ト) よって、仮に被告【A】及び同【B】に損害賠償責任があるとしても、同
被告らの行為と相当因果関係のある損害は、単に原告の著作物使用料規程によって
定めるべきではなく、右に述べた諸事情を考慮し具体的に考察すべきであり、少な
くとも期間については調査日以後、額については包括的使用許諾契約方式による使
用料相当額をもって原告の被った損害として算定すべきである。
第四 争点に対する判断
一 争点1(被告【A】及び同【B】の損害賠償責任の有無)
(判断)
 前記第二の一2及び同二に認定のとおり、本件店舗において、① 昭和五八年九
月一九日の開店から昭和六一年五月一六日までの間は被告【A】(【D】と共同経
営)が株式会社大音からリースを受けたオーディオカラオケ装置を、② 同月一七
日から昭和六三年七月一六日までの間は被告【A】及び同【B】が被告会社からリ
ースを受けたレーザーディスクカラオケ装置である本件装置をそれぞれ設置し、原
告が著作権者から著作権ないしはその支分権たる演奏権等の信託的譲渡を受けて管
理する管理著作物が録音されたカラオケソフトである、多数のカラオケテープ又は
カラオケレーザーディスクを備え置き、原告の許諾を得ないで、日曜祭日を除いた
毎営業日(月平均二五日)の午後七時頃から翌日午前〇時三〇分頃までの営業時間
中、ホステス等従業員において客に飲食を提供するかたわら、右オーディオカラオ
ケ装置又はレーザーディスクカラオケ装置(本件装置)を操作し、客に曲目の索引
リストとマイクを渡して歌唱を勧め、客の選択した曲目のカラオケソフトの再生に
よる演奏(レーザーディスクカラオケ装置〔本件装置〕については、伴奏音楽と同
時に、録画した映画の上映とともに画面に歌詞の文字表示が映し出される。)を伴
奏として他の客の面前で歌唱させ、また、しばしばホステス等従業員にも客ととも
にあるいは単独で歌唱させ、もって店の雰囲気作りをし、客の来集を図って利益を
あげていた。
 そこで、以上の事実関係のもとにおいて、まず、被告【A】の昭和六〇年七月九
日から昭和六一年五月一六日までの間の、映像の連続再生を伴わない、いわゆるオ
ーディオカラオケ装置の無許諾での利用行為に関する損害賠償責任の有無について
考えるに、ホステス等が歌唱する場合はもちろん、客が歌唱する場合を含めて、演
奏(歌唱)という形態による当該音楽著作物の利用主体は経営者である被告【A】
であり、かつ、その演奏(歌唱)は営利を目的として公にされたものであるという
べきである。客やホステス等の歌唱が公衆たる他の客に直接聞かせることを目的と
するものであること(著作権法二二条参照)は明らかであり、客のみが歌唱する場
合でも、客は、同被告と無関係に歌唱しているわけではなく、同被告の従業員によ
る歌唱の勧誘、同被告の備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲、同被告の設
置したカラオケ装置の従業員による操作を通じて、同被告の管理のもとに歌唱して
いるものと解され、他方、同被告は、客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り
入れ、これを利用していわゆるカラオケスナックとしての雰囲気を醸成し、かかる
雰囲気を好む客の来集を図って営業上の利益を増大させることを意図していたとい
うべきであって、前記のような客による歌唱も、著作権法上の規律の観点からは同
被告による歌唱と同視しうるものであるからである。したがって、同被告が、原告
の許諾を得ないで、ホステス等従業員や客にカラオケ伴奏により原告の管理にかか
る音楽著作物たる楽曲を歌唱させることは、当該音楽著作物についての著作権の一
支分権たる演奏権を侵害するものというべきであり、当該演奏の主体として原告の
演奏権を侵害するものというべきである。カラオケテープの製作に当たり、著作権
者に対して使用料が支払われているとしても、それは、音楽著作物の複製(録音)
の許諾のための使用料であり、それゆえ、カラオケテープの再生自体は、適法に録
音された音楽著作物の演奏の再生として自由になしうるからといって(著作権法附
則一四条、著作権法施行令附則三条参照)、右カラオケテープの再生とは別の音楽
の利用形態であるカラオケ伴奏による客等の歌唱についてまで、本来歌唱に対して
付随的役割を有するにすぎないカラオケ伴奏とともにするという理由のみによっ
て、著作権者の許諾なく自由になしうるものと解することはできない(昭和六三年
三月一五日最高裁第三小法廷判決民集四二巻三号一九九頁参照)。
 次に、前記事実関係のもとにおいて、被告【A】及び同【B】の昭和六一年五月
一七日から昭和六三年七月一六日までの間の映像の連続再生を伴うレーザーディス
クカラオケ装置(本件装置)の無許諾での利用行為に関する損害賠償責任の有無に
ついて考えるに、同装置で使用されるレーザーディスクはその中に原告の管理する
音楽著作物(管理著作物)の歌詞の文字表示及び伴奏音楽とともに連続した映像を
収録したものであり、映画の効果に類似する視聴覚的効果を生じさせる方法で表現
され、かつ、物に固定されている著作物であるから、著作権法上は、映画の著作物
に該当する(二条三項)。そして、本件装置により右レーザーディスクを再生する
とき、モニターテレビ画面には収録された連続した映像と音楽著作物の歌詞の文字
表示が映し出され、スピーカーからは収録された管理著作物の伴奏音楽が流れ出る
のであるから、これが映画の著作物の上映に該当することは明らかである。したが
って、モニターテレビに管理著作物の歌詞の文字表示が映し出されることはその管
理著作物の上映に該当するし、スピーカーから流れ出る管理著作物の伴奏音楽も、
著作権法二条一項一九号が、「上映」について「著作物を映写幕その他の物に映写
することをいい、これに伴って映画の著作物において固定されている音を再生する
ことを含むものとする。」と定義し、同法二六条二項が、「著作者は、映画の著作
物において複製されているその著作物を公に上映し、又は当該映画の著作物の複製
物により頒布する権利を専有する。」と規定しているから、映画の著作物の上映に
該当するため、附則一四条にいう「適法に録音された音楽の著作物の演奏の再生」
に該当せず、同条の特例措置は適用されないことになる。また、著作権法三八条一
項は非営利かつ無料の著作物の上映、演奏などを原則自由としているが、スナック
などの社交場等における利用は、営利目的のものと認められるから、これらの規定
の適用もない。したがって、同被告らが本件店舗において本件装置により管理著作
物を収録したレーザーディスクを再生しこれに合わせてホステス等従業員や客に歌
唱させるときは、それは、管理著作物の上映(歌詞の文字表示と伴奏音楽部分)と
演奏(歌唱部分)に当たり、これらの行為をすることは、原告の管理著作権の上映
権及び演奏権の侵害となるといわざるを得ない。また、前掲最高裁判決の理由説示
と同一の理由で、右レーザーディスクの製作に当たり原告に対し使用料が支払われ
ているとしても、それは原告の管理著作物をレーザーディスクに収録することの許
諾のための使用料であり、レーザーディスクに収録された管理著作物を営利を目的
として公に再生することの許諾までを含むものではないと認められるから、営利を
目的として公にされる上映についてまで、著作権者の許諾なく自由になしうるもの
と解することはできない。同被告らが、原告の許諾を得ないで、本件店舗におい
て、ホステス等従業員や客にレーザーディスク装置(本件装置)を使用して管理著
作物を収録したレーザーディスクカラオケを再生し、そのカラオケ伴奏により管理
著作物たる楽曲を歌唱させることは、原告の管理著作物についての著作権の一支分
権たる演奏権を侵害すると同時に、その一支分権たる上映権をも侵害するものとい
うべきであり、同被告らは当該演奏及び上映の主体として右演奏権及び上映権侵害
に対する損害賠償責任を負担するものというべきである。
 福岡高等裁判所民事第二部が同裁判所昭和五七年(ネ)第五九五号、同五八年
(ネ)第三二九号音楽著作権侵害差止等請求控訴事件について、昭和五九年七月五
日、スナック店内において原告の許諾を得ずに原告の管理著作物を収録したオーデ
ィオカラオケの伴奏で客が管理著作物の楽曲を歌唱する行為が原告の管理著作権の
演奏権の侵害を構成し、その演奏の主体は右の経営者であり原告に対し損害賠償責
任があると判示し、スナック店の経営者に対し損害賠償金の支払を命じる判決を言
渡し、右判決は後記二5認定のとおり当時各新聞マスコミ等により大々的に報道さ
れたから、同被告らはスナック経営という職業環境に照らして、原告の許諾を得る
ことなくオーディオカラオケ装置又はレーザーディスク装置(本件装置)による管
理著作物のカラオケ伴奏により客に歌唱させる行為が、原告の管理著作権に対する
侵害にあたることを知っていたか、仮に知っていなかったとしても、知らなかった
ことについて過失があったと認めざるを得ない(なお、同被告らは、遅くとも昭和
六一年一〇月頃以降原告から音楽著作権侵害に関する警告を口頭及び書面により受
けていたが、全くこれを無視し侵害行為を継続していた〔甲二六の1~3、二七、
二八、証人【E】〕)。
 したがって、被告【A】は昭和六〇年七月九日以降の、被告【B】は昭和六一年
五月一七日以降の前記各著作権侵害行為について、不法行為による損害賠償責任に
基づき、右各著作権侵害行為により原告が被った損害を賠償すべき義務がある。
二 争点2(被告会社の損害賠償責任の有無)
(事実関係)
 原告のカラオケ管理の沿革及びそれに対する被告会社を含むカラオケリース業者
の対応並びに両者の交渉経過は、ほぼ次のとおりと認められる。
1 従来、キャバレー、スナック、バー、クラブ等の社交場において、それらの店
の経営者と契約をした楽団やピアニスト等のプロの演奏家が著作権者の許諾を得な
いで音楽著作物の生演奏をした場合、当該音楽著作物の著作権者の専有する演奏権
の侵害となることについては、右経営者らの間でもいわば当然の常識とされてお
り、その場合、当該店舗の経営者を演奏の主体と認めることについても格別異論は
みられなかった。また、それらの店では、店と契約をしたプロの歌手やホステス等
の従業員が楽団やピアニスト等の生演奏を伴奏にして歌唱することもあったが、一
般に、それらは生演奏と一体のものとして評価され、独自に演奏権を侵害するもの
として問題視されることはなかったし、時にそうした生演奏を伴奏に店の客が歌唱
することがあっても、生演奏により既に演奏権侵害が成立している以上、それが独
立して演奏権侵害になるかどうかという問題も特に改めて意識して取り上げられる
ことはなかった。(弁論の全趣旨)
2 ところが、昭和四七年頃、近畿地方(神戸市内と言われる。)のスナックで、
プロの歌手用の伴奏用テープ(歌唱部分が「カラの伴奏のオーケストラのみ」を省
略した言葉として、歌謡界では既に「カラオケ」という言葉が用いられていた。)
を使って客に歌唱させる店が出現したのを皮切りに、同種の営業形態を採用する店
が全国的に増加し、昭和五一年には業務用のカラオケ装置も売り出され、周知のよ
うに、従来の楽団やピアニスト等による生演奏の代りに、こうしたカラオケ装置を
設置して、カラオケ伴奏により客に歌唱させる店が急増し、カラオケ装置は社交飲
食店業界を中心に急速に普及した。また、装置の種類も、当初は、テープ方式が主
であったが、最近では、コンパクト・ディスクや映像の連続再生も同時に行うビデ
オ・ディスク方式が急速に普及している。昭和五八年三月にカラオケ装置の製造販
売業者クラリオン株式会社が発行した「昭和五七年度カラオケ白書」(甲三五)に
よれば、同年度において、業務用カラオケ装置の普及率は八〇%以上に達し、その
設置方法はリースが中心であるとされている。そして、このようなカラオケの広範
な普及に伴い、次第にカラオケと演奏権侵害の問題がクローズアップされるように
なってきた。(甲三五、弁論の全趣旨)
3 原告は、昭和五四年八月、大阪市内の「キャバレー・ユニバース」の経営者を
被告として提起していた音楽著作権侵害訴訟において、右経営者との間に、相手方
が楽団演奏の他にカラオケ伴奏による歌唱についても使用料の支払義務があること
を認める内容の和解条項を含む裁判上の和解を成立させたのを機に、カラオケ伴奏
による歌唱についても使用料の徴収体制を整備するため、昭和五五年以降、原告の
業務案内用リーフレット(甲五、六、一〇五の1・2)に、新たに「カラオケやカ
ラオケビデオの伴奏による歌唱の場合も正規に許諾を受けて楽音をご使用くださ
い」という記載を付加し、また、主として社交飲食店業者及び旅館業者を中心とし
てこれを配付して、音楽使用者一般に対するカラオケ伴奏による歌唱についても著
作権思想の普及とその成熟を目指した広報活動に努めた。しかし、① 昭和四五年
の著作権法の改正により、適法録音物の再生にも演奏権が及ぶことになったものの
(二条七項)、政策的配慮により、当分の間の暫定措置として、著作権法附則一四
条(昭和六一年法律第六四号による改正前のもの)は、適法に録音された音楽の著
作物の演奏の再生については、放送又は有線放送に該当するもの及び営利を目的と
して音楽の著作物を使用する事業で政令で定めるものにおいて行われるものを除
き、旧著作権法三〇条一項八号及び二項並びに同項にかかる旧三九条の規定はなお
その効力を有すると規定して、旧法下の制度を維持することとされたこと、② 当
時の原告の著作物使用料規程(旧規程)は生演奏を想定して作られた規定であり、
カラオケ伴奏による歌唱(法律上は演奏に該当)についての固有の規定もなく、ま
た、使用料の計算方法が複雑で利用者にとって理解しにくいものとなっていたこと
なども手伝って、生演奏の場合に比べ、関係業者の間に、カラオケ伴奏による歌唱
の場合の著作権使用料の支払義務の存在、或いはその場合における原告との使用許
諾契約締結の必要性等について、必ずしも十分な理解や納得が得られず、実務的に
原告内部でも未だ統一的なカラオケの管理体制が整備されたとはいえない状況にあ
った。また、その時点では、一部で特に客のカラオケ伴奏による歌唱行為について
店に使用料の支払責任があるかどうかなどの法的問題が提起されてはいたが、法学
界におけるこの問題を巡る議論も不活発で、これを論じた論文等の文献も皆無に近
い状態であり、原告とその所管行政庁である文化庁との間においても、カラオケ伴
奏による客等の歌唱について、演奏の主体を誰と認めるかの点に関する見解も対立
したままの状態であった。(甲五、六、三三、三四、一〇五の1・2、証人
【E】、弁論の全趣旨)
4 以上のような状況のもとで、原告は、昭和五八年五月、福岡高裁判決の対象と
なった、いわゆる「ミニクラブ水晶、クラブキャッツアイ事件」について附帯控訴
して請求を拡張し、管理著作物が収録されたカラオケ伴奏による客やホステスの歌
唱が管理著作権の侵害を構成することを理由に、その差止と侵害による損害金の支
払請求を追加し、翌六月には、カラオケ伴奏による客の歌唱を行っている社交飲食
店についても、「カラオケ装置を利用して歌唱する場合の著作権管理業務の実施基
準(社交場)」(甲三二の2)を定め、これを社交飲食業者及び旅館業者等の各種
音楽著作物の使用者団体に配付し、加盟店舗への指導等に当たるように協力を要請
するとともに、バー、キャバレー、スナックなどの社交場における演奏使用料を全
面改正することを主たる目的とし、その一環としてカラオケ伴奏による歌唱につい
ても演奏権が及ぶことを明示し、その歌唱使用料について固有の規定を設けるため
の著作物使用料規程の改正作業に着手し、その頃から業界団体との協議に入った。
右業界団体の中には、主なカラオケソフトメーカーが加盟する社団法人日本レコー
ド協会や社団法人日本ビデオ協会も含まれており、カラオケソフトメーカーであ
り、カラオケリース業者も兼ねる第一興商も社団法人日本ビデオ協会に加盟してい
る。(甲三二の2、六三、一一〇、丙一〇、証人【E】、弁論の全趣旨)
5 スナック等の店においてカラオケ伴奏で客に歌唱させるとき、店の経営者が歌
唱の主体であり、営利を目的として公に行なっていると認められるとして、店の経
営者に著作権(演奏権)侵害による不法行為責任を肯定した、いわゆる「ミニクラ
ブ水晶、クラブキャッツアイ事件」に関する昭和五九年七月五日の福岡高裁の控訴
審判決(判例時報一一二二号一五三頁、判例タイムズ五二八号三〇八頁、同事件の
上告審判決が前掲最高裁判決である。以下この項においては「福岡高裁判決」とい
う。)は、直ちに「カラオケにも著作権 協会勝訴『客の歌、営利目的』」「カラ
オケは生演奏と同じ “スナックは権料払え”」「カラオケの店 著作権料払え」
「カラオケも著作権料 福岡高裁が支払い命令」等の見出しで朝日、毎日、サンケ
イ等の各新聞紙上で全国的に報道され(甲三七の1~5)、当時、社会的にも広く
一般国民の耳目を集めたのみならず、その後、右司法判断が単に社交飲食店業界の
みならずカラオケリース業者を含め関係業界にもたらした波及効果は誠に大きなも
のがあったのであり、その一例を挙げると、同月一五日発行のカラオケ関係の専門
雑誌である「月刊カラオケファン」(カラオケスナック店の経営者やカラオケリー
ス業者も購読者層に入り、カラオケ装置の宣伝広告等も多数掲載されている。)七
月号(甲六七の1・2)には、「スナックでのカラオケ演奏歌唱行為は、著作権法
上違法ー日本音楽著作権協会(ジャスラック)では、このような見解から、今後カ
ラオケスナックにも法の網をかぶせようとしている。時期についてはまだ未定との
事であるが、将来的には、そのような時代を迎える可能性が強い。音楽著作権とは
如何なるものなのか集中取材を試みた。」とのタイトルを掲げた音楽著作権法の特
集記事が組まれており、その中で福岡高裁判決も紹介されている。また、同年八月
一五日発行の同誌八月号(甲五七の1~3)には、「追跡レポート・『カラオケ著
作権判決』のその後を関係者に聞く」という表題の記事が掲載されており、その中
で、カラオケリース業界の最大手企業第一興商の代表取締役【H】は、同誌記者の
インタビューに答え、「判決そのものについては、十分予想されていたことで、そ
れほど不満はない。自社としては、協会に何かお手伝いできる事があればむしろ積
極的に協力しても良いと考えている。……」と発言している(甲五七の2一〇頁三
段)。また、右記事中には、「〔判決への疑問〕」と題して、「……先に【H】氏
が指摘した様に、全国のカラオケ設置店の約半数はリース契約店である。リースの
場合は、その商品の所有権者は、リース業者にあることは言うまでもなく、利益の
大部分は業者が享受しており、音楽の商業利用者は、店よりもむしろリース業者に
あると言わざるを得ない。店がカラオケを通じ、営業効果を上げているというので
あれば、業者もカラオケを通じて営業効果を出していると考えられるからである。
……」とする同誌記者のコメント記事(同一一頁二段)が掲載されている。また、
同誌昭和六一年五月号(甲六八の1・2)には、「カラオケ店必須知識 『カラオ
ケ著作権Q&A』」と題する記事が掲載されており、その中で原告がカラオケ著作
権一般について同誌編集部の質問に対し回答している。(甲三七の1~5、五七の
1~3、六七の1・2、六八の1・2、証人【E】、弁論の全趣旨)
6 福岡高裁判決については、理論構成の相違はともあれ、法学界でもスナック等
の店においてカラオケ伴奏で客に歌唱させるとき、店の経営者について著作権(演
奏権)侵害が成立するとする、その結論自体に対しては全く異論がみられず(阿部
浩二・ジュリスト八二一号七〇頁、半田正夫・別冊ジュリスト九一号〔著作権判例
百選〕二八頁、斉藤博・法学教室五一号八八頁、松尾和子・ジュリスト九二七号九
九頁等)、そして、それまで捗々しい進展をみせなかった原告と関係使用者団体と
の協議も、この福岡高裁判決を契機に急遽進捗し合意に至った(甲六三添付の「著
作物使用料規程一部変更理由書」10頁~11頁「(10)関係使用者団体との協
議」)。その結果、原告は、右合意を基礎に、昭和六一年六月二日、文化庁長官に
対し、カラオケ伴奏による歌唱の使用料に関する明文規定の制定等を主眼とする、
旧規程の一部変更の認可申請(甲六三)をし、その変更要領に関する仲介業務法三
条二項の規定による公告が同年七月一日発行の官報(甲六四)に掲載された。福岡
高裁判決は、著作権審議会の右旧規程の一部変更の認可申請の審議にも大きな影響
を与え(当時の著作権審議会の会長であった【L】氏も、「時の法令」昭和六三年
七月一五日号〔甲一一一の2〕に掲載された判例紹介記事「スナックなどでのカラ
オケ歌唱は客の行うものも著作権の対象になる」の中で、「一昨年、文化庁が音楽
著作権協会側からの前掲使用料規程の改正申請について、著作権審議会の議を経た
上で認可を与えることにしたのも、この福岡高裁判決が出たことが大きな理由にな
ったものとされている。」と述べている。)、同判決については未だ上告中であっ
たにもかかわらず、ごく短時日のうちに同年八月一三日新規程が文化庁長官によっ
て認可され、昭和六二年四月一日から施行されることになった。(甲六三~六五、
一一一の2、証人【E】、弁論の全趣旨)
7 原告は、新規程認可の前後に跨がる昭和六一年六月一〇日、同年七月九日、同
年八月三一日の合計三回にわたり、カラオケ使用料の徴収について、第一興商と協
議を重ね、原告【I】常務、【J】業務局次長等の役職員が、第一興商の本社を訪
問し、【H】社長らと面談するなどして、新規程の趣旨及びその概要を説明し、今
後のリース業務において、リース先店舗に対する著作権使用料許諾契約手続に関す
る説明指導等に協力されたい旨要請した。しかし、① リース業者の立場を使用料
支払義務者として位置づけるか否か、② 使用料について、カラオケ装置一台毎の
一律同額の料金とするか、それとも店の規模毎に料金格差を設ける面積比例料金と
するか、③ リース契約上の売上金の配分比率等に絡んで使用料額が一定しなくな
ることへの懸念、④ カラオケリース業界の寡占化を原告自身が促進する虞などの
点についての見解の対立に妥協点を見出せず、結局協議は決裂し、原告は、全国飲
食業環境衛生同業組合連合会及びその傘下にある各都道府県の環境衛生同業組合と
の間の基本協定書及び業務協定書に調印し協力関係を結ぶに至った。(証人
【E】、弁論の全趣旨)
8 原告は、新規程の施行が確定した、昭和六一年一〇月、全国の社交飲食店等約
二六万全店に対し、直接に、原告のカラオケ全面管理の実行開始を伝え、使用許諾
契約の締結を求める、「飲食店経営者の皆さまへ」と題する案内文書(甲二六の
1)を一斉に送付した。また、原告は、同年一一月から昭和六二年八月にかけて近
畿地方の各地(三五箇所、全国では約七〇〇箇所)で度々カラオケ管理説明会(甲
四九参照)を開催した。(甲二六の1、四九、証人【E】、弁論の全趣旨)
9 【F】ら原告の大阪支部の担当職員は、前記社交飲食店に対する案内文書の送
付に際し、昭和六一年一〇月頃、日頃からリース先のカラオケスナック店と接触
し、使用許諾契約についての相談を受ける機会も多い同支部の管轄区域内の大手カ
ラオケリース業者を訪問して、原告とカラオケスナック店との間の著作物使用許諾
契約の締結について協力を要請せよとの原告本部の命令に基づく上司の指示を受
け、その頃、カラオケスナック店に対する前記案内文書及びカラオケ管理説明会の
開催予定表等の書類を持参して十数社の大手カラオケリース業者を訪問し、原告の
カラオケ管理への協力を要請した。その結果、同支部管内のカラオケリース業者の
うち、株式会社ミニジューク大阪や株式会社日光堂など相当数の業者は、原告の職
員の説明を真摯に聞き協力も約束した。しかし、【F】は、右リース業者訪問の一
環として、昭和六一年一〇月二〇日、被告会社に赴き代表者【M】と面談し同旨の
説明をしたのであるが、【M】は原告側の要請を拒絶した。(甲九三の1~3、一
〇〇の1、一一九の1・2、証人【F】)
10 その後、昭和六三年一月一八日、広島地裁福山支部において、原告と第一興
商の得意先のカラオケリース業者である有限会社トキワエンタープライゼスとの間
における仮処分申請事件について、同社が原告の管理著作物の無断使用による損害
金の賠償義務を認める内容の裁判上の和解が成立したが(甲一五の一項)、右和解
条項中には、「債務者有限会社トキワエンタープライゼスは、今後飲食店等との間
にカラオケ装置についてリース契約を締結したときは、リース契約条項として債権
者との間に著作権使用許諾契約を締結する義務ある旨明記し、且つ、その手続きを
とるよう指導監督する。」との条項もあった(同七項)。そして、この和解条項七
項のリース契約書の著作権使用手続の説明指導条項は、右和解成立後第一興商本社
がそのリース業務に使用する標準リース契約書中の契約条項として採用された(甲
七二の二一条(特約))。すなわち、右標準リース契約書二一条(特約)①には、
「乙(借主、裁判所注記)は、この本物件を営業目的の為使用する場合、社団法人
日本音楽著作権協会との間で著作物使用許諾契約を結ぶよう留意することとしま
す。」と記載されている。更に、この説明指導条項は、その後同旨の記載が全国各
地の第一興商の子会社、関連会社、ディーラーの使用するリース契約書(甲一〇二
の1~47)はもとよりのこと、それ以外の大手リース業者であるミニジュークジ
ャパン、タイカン、クラリオン等のリース契約書にも採用され現在に至っている。
(甲一五、七二、一〇〇の1、一〇二の1~47、一二〇の1・2、証人【E】、
弁論の全趣旨)
11 昭和六三年三月一五日、福岡高裁の結論を全面的に支持する前掲最高裁第三
小法廷判決が言渡され、同判決は、朝日、読売、毎日、サンケイ、日経等の全国紙
(甲八〇の1~5)でも大々的に報道された。右最高裁判決についても、福岡高裁
判決の場合と同様に、理論構成の相違はともあれ、法学界でもスナック等の店にお
いてカラオケ伴奏で客に歌唱させるとき、店の経営者に著作権(演奏権)侵害が成
立するとする、その結論自体に対して異を唱える学説はない。
(甲八〇の1~5、弁論の全趣旨)
12 被告会社は、昭和六三年五月一一日付で、被告【B】との間に本件装置につ
いてリース契約書(丙三)を取り交わして再度契約を締結したが、右契約書によれ
ば、売上折半方式が月極め定額方式(月額六万円)になり、モニターテレビが増設
されて三台から四台になった。
 昭和六三年八月一五日発行の月刊カラオケファン同年九月号(甲八九)には、本
件訴訟に関して、「カラオケ著作権問題、業者も巻き込み裁判へ発展!『“共同責
任”撤回を求め徹底的に闘う!』」と題する、被告会社代表取締役【N】の対談記
事が掲載された。
 被告会社は、昭和六三年九月六日、リース先の大津市内のスナック店の経営者に
対し、「カラオケ著作権料心得」と題する文書(甲七一の1)及び旭川民主商工会
作成の「不況においうちかけるカラオケ著作料の契約押し付けは反対」と題するチ
ラシをファックス送信した。右「カラオケ著作権料心得」と題する文書には、「①
 事前連絡もなく店に来た時は、『急に来ても困る、営業中なので、帰ってほし
い』と断わりましょう。② 身分証明書、もしくは名刺で、名前を確認しておきま
しょう。③『契約しなさい」と言われたら、なぜ契約しなければならないのか良く
聞き、なっとくしない時は『音楽著作権協会の言っている事は、なっとくできない
ので考えておく』と言って帰ってもらいましょう。④『罰則もある、裁判になる』
等の言動は、おどかしであり、協会本部でも、『そういう言動は、していないは
ず。していたら報告して下さい。あらためさせます。』と言明しています。『そう
いう態度では、契約など、とてもできない』とハッキリ答えましょう。⑤ 『五坪
以下の店は、当分無料なので、届出してください』と言われた~届出は『有料にな
った時はお金を払います』という事を認めたことになります。⑥ 印かんは命、押
す時は、ひと晩考えてからにしましょう。」と記載されており、また、右チラシに
は、「最高裁判決の例は、もともと生演奏で争っていたものが、途中からこのお店
が一部カラオケにきりかえたため、カラオケ歌唱でも争うことになった特殊なも
の。著作権協会がこうした個別事例の判断を一般に広げるのは問題です。」などと
記載されていた。
(甲七一の1・2、一〇〇の1)
(判断)
 以上認定の諸事実を総合して考えれば、カラオケリース業界では、福岡高裁判決
が出るまでは、カラオケ伴奏による客の歌唱行為の主体を店の経営者と認めるにつ
いて、共通の認識が形成されていたとは必ずしも言い難い状況にあったと認められ
るけれども、同判決後は、同判決判示の趣旨に副って事態は進展し、右歌唱行為の
主体を店の経営者とし、原告の許諾を得ない場合、右経営者に著作権侵害による損
害賠償責任が生ずるとの認識が関係業者の間に急速に浸透し、遅くとも新規程の施
行日である昭和六二年四月一日の時点においては、スナック等におけるカラオケ伴
奏による客の歌唱についても著作物使用料を支払わねばならない義務が生じること
は、カラオケリース業者の間でも広く知れわたっていたものと認められる。
 また、本件リース契約の内容についてみると、被告会社は本件装置の所有権を留
保しているのは勿論、契約条項中には、「2 契約物件の設置定期点検、修理、サ
ービス業務は甲(被告会社)の負担にて行い、乙(借主)はこの物件を善良な管理
者の注意をもって保管し、本来の用法に従って使用する。」「3 使用中に故障及
び破損が生じた時は乙は直ちに甲に連絡する。」「4 本物件の鍵は甲が保管し、
甲乙立会のもとに一ケ月一回以上売上金集計を行い、左記売上金配分に基き精算す
る。」「8 乙は事由の如何を問わず、本契約物件の設置場所店内に、甲リース本
物件以外の同種物件を一切設置出来ないものとする。尚乙が本契約に違反又は、一
方的都合により解除する時は基本使用料月額の倍額(但し、定額払いのときは定額
金)に契約期間内の残月分を掛けた額を違約金として甲に支払うものとする。」
「13 甲は、乙の本物件使用による売上が不振と認めたときは、何時にても本契
約の解除をすることが出来る。」との各規定があり(丙二、三)、これらの規定の
内容に照して考えれば、本件契約は、いわゆる変型リースのうちパーセンテージ・
リース(賃借料の支払方法として、賃借人がその販売及びサービスの提供によって
得た総売上高〔あるいは総収入〕等に対し、あらかじめ約定された一定歩合のリー
ス料を支払う旨定めたリース)と称される部類に属するものであって、その実質
は、リース料の算定方法につき特約の付いた賃貸借契約ということができる。した
がって、被告会社は利用者である被告【A】及び同【B】による本件装置の稼働に
ついて賃貸引渡後も支配力を及ぼしており、本件装置に対する管理制御の実を留保
していたのであり、また、本件装置の使用頻度に応じて賃料(リース料)を徴収し
ていたのであるから、被告会社は、本件装置の稼働そのものにより利得していたと
いうことができる。
 そして、前記認定の新規程の認可に至る経緯、福岡高裁判決の業界内部における
反響、及び原告の大阪支部職員から被告会社に対する原告のカラオケ全面管理開始
に先立つ事前の協力要請などからみて、被告会社としては、同規程が施行され原告
のカラオケ全面管理が開始されたとしても、それだけではリース先の社交飲食店の
経営者が直ちに原告との間の使用許諾契約の締結手続にはたやすく応じないであろ
うこと、したがって、事態をただ漫然と放置すれば、早晩右経営者らと原告との間
にリース物件であるカラオケ装置の使用に伴って、原告の管理著作権の侵害に関し
て紛争を生じる蓋然性が極めて高いことを十分認識していたものと認めざるを得
ず、新規程の施行時期が具体的に明らかになった右新規程認可の段階及び原告がカ
ラオケ全面管理実行開始を表現した右ダイレクトメール送付の段階において、この
点についてより切迫した明確な認識をもったはずである。
 以上の諸事情を総合考慮すると、被告会社の業務用カラオケ装置のリース行為
は、それ自体を切り離して抽象的に見れば原告の管理著作権を侵害するものではな
いとしても、カラオケ装置により再生されるレーザーディスクに収録されている音
楽著作物の大部分は原告の管理著作物であり、原告の許諾を得ずに同装置を使用す
ることが即管理著作権の侵害となるというリース物件たる業務用カラオケ装置の現
実の稼働状況を含めて全体として考察すれば、管理著作権侵害発生の危険を創出
し、その危険を継続させ、またはその危険の支配・管理に従事する行為であると同
時に、それによって被告会社は対価としての利得を得ているのであるから、右行為
に伴い、当該危険の防止措置を講じる義務、危険の存在を指示警告する義務を生じ
させると解するのが条理に適う見方である、これをより具体的に言えば、著作権侵
害行為は、著作権法一一九条により三年以下の懲役又は一〇〇万円以下の罰金とい
う、重い刑事罰を課される違法性の高い行為であり、民事上も同法一一二条一項に
基づき著作権者による停止・予防請求の対象となり、侵害行為を組成した物の撤去
義務も法律上明示されている行為である(同条二項)から、多数の業務用カラオケ
装置をリースする立場にある被告会社としては、遅くとも新規程の施行時期(昭和
六二年四月一日)以降の新規契約の締結に際しては、契約書の契約条項に記載する
などの方法により、リース物件のカラオケ装置等を営業目的のために使用する場
合、原告との間に著作物使用許諾契約を結ぶよう留意すべき旨をリース先のカラオ
ケスナック店の経営者に対し周知徹底させて契約締結を促すのはもとよりのこと、
当時既にリース契約中の者についても、原告との使用許諾契約の締結の有無を調査
確認し、未だ許諾契約締結に至っていない場合は、右経営者に対し、速やかに、か
つ、円満に原告との間の契約締結交渉に応じるよう指示、指導すべき注意義務があ
り、もしその指示指導に右経営者が従わないときは、リース物件(カラオケ装置
等)を使用して現に犯罪行為(著作権侵害)をしているのであるから、条理上当然
にリース契約を解除することができると解されるので、直ちにリース契約を解除し
てリース物件(カラオケ装置等)を引き上げるべき注意義務があったといわねばな
らず、その時点では、被告会社はもはや自らの利益追及に汲々としたり、あるいは
自らの新規程の合理性等に関する一企業としての見解や疑念に固執することは許さ
れなかったものというべきである。
 しかるに、被告会社は、以上の注意義務を怠り、リース先の本件店舗の経営者で
ある被告【A】及び同【B】に対し、以上の指摘の如き措置を何ら講じなかったば
かりか、原告職員の事前の協力要請にも真摯に耳を傾けず、むしろ原告によるカラ
オケ管理の妨害行為の疑いすら招きかねない行為(前記認定事実12)に及んだも
のであり、その点でカラオケリース業者として用いるべき相当の注意を欠いたもの
であることは明らかである。これを要するに、被告会社は、被告【A】及び同
【B】が原告の管理著作権を侵害するのを幇助し、これに加功したものであり、そ
の幇助・加工について過失があるから、同被告らとともに共同不法行為者たる地位
に立つものといわざるを得ない(民法七一九条二項)。
(被告会社の主張について)
1 被告会社は、① 原告の本訴における「被告会社の不作為による不法行為の成
立の前提となる作為義務」に関する主張内容は特定が不十分であるから、原告のこ
の点に関する主張は主張自体失当である、また、② 原告は、本訴口頭弁論の終結
間近になって被告会社の過失内容に関する主張を突如変更したが、これは民訴法一
三九条一項の時機に後れた攻撃防御方法の提出となる旨主張する。
 しかしながら、原告は訴提起時の訴状において既に、「被告エース株式会社は、
被告【C】、同【B】との間に締結したリース契約の約定により、昭和六〇年四月
以来継続して、前記「魅留来」の店内に被告エースの所有にかかるカラオケ装置一
式を専属的に設置したうえ、これを稼働させ、同店の客に歌唱させることにより得
た売上金を店側と折半して取得し、これにより右カラオケ装置を運営し、営業上の
利益をあげている。従って、被告エースは、右店内にカラオケ装置を設置しその運
営に協力することにより、被告【B】、同【C】の前記5記載の著作権侵害行為に
加担し、店側と共に、著作権侵害の演奏(歌唱)、上映から生ずる利益を得ている
ので、被告エースは被告【C】、同【B】と共同して原告の著作権(演奏権、上映
権)を侵害しているものである。」と主張していたのであり、その後の訴訟の推移
に照らすとき、被告会社の右主張の如き違法があると認めることは到底できない。
なお、前記認定の過失による幇助行為の主張は、本件訴訟を本案とする仮処分申請
事件において原告(申請人)が提出した仮処分命令申請書(甲七〇の3)及び昭和
六三年五月一八日付準備書面(甲七〇の11)にも記載されているところである。
2 また、被告会社は、原告が被告会社に対する本訴請求の一部(昭和六二年四月
一日以前の損害賠償請求部分)を減縮したことは、従来原告が主張していた昭和六
一年五月一七日の本件リース契約締結行為及び同日から昭和六二年三月三一日まで
の間の本件リース契約の継続行為について、いずれも不法行為が成立しないことを
自認するものに他ならない旨主張する。しかし、請求の減縮(訴の一部取下)は被
告の同意がその効力発生に必要であるとしても、それ自体は裁判所に対する一方的
意思表示を内容とする訴訟行為であり、その理由如何は問わないのであって、私法
上の実体関係に直接影響を与えるものではないから、これを本件における不法行為
の成否と関連付けて論じる被告会社の主張は独自の見解であり、到底採用できな
い。
3 また、被告会社は、① 昭和六二年四月一日に至るまで原告によるカラオケ管
理が開始されていなかった状況のもとで、被告【A】及び同【B】が原告との間に
著作物使用許諾契約を締結し、原告に対し著作物使用料を支払うという事態は考え
られないことであるから、被告会社が同被告らによる著作権侵害の結果発生を防止
し得ないことは明らかであり、作為義務発生の前提となる結果回避可能性が存在し
ないものというべきである、また、昭和六二年四月一日の原告によるカラオケ管理
の開始後も、著作物使用許諾契約を締結するか否かは契約当事者である原告と同被
告らのみが決定し得る事柄であり、被告会社は契約当事者である同被告らの意思を
左右できる立場にはない、更に、既に適法に締結された本件リース契約上の義務を
更に加重するような事項は、本件リース契約の相手方である被告会社は、これを同
被告らに求め得る立場にはない、しかも、カラオケリース業界では、中小の無数の
業者が参入して乱立する極端な過当競争状態にあり、力関係においてカラオケリー
ス業者の方が社交飲食店に対して著しく劣っており、カラオケリース業者が社交飲
食店を説得して原告との間に著作物使用許諾契約を締結させられるような状況には
ないし、被告【A】及び同【B】は、いわば確信犯であって、原告の度重なる使用
許諾契約締結の督促にも一貫して応じなかったのであるから、被告会社がこれを説
得したところで応ずるはずもない、したがって、昭和六二年四月一日の原告による
カラオケ管理開始後においても、被告会社が原告主張の著作権侵害の結果発生を防
止することができないことは明らかであり、作為義務発生の前提となる結果回避可
能性が存在しないというべきである、② 被告【A】及び同【B】は、右のとおり
いわば確信犯であって、原告の度重なる契約締結の督促にも一貫して応じなかった
のであるから、被告会社がこれを説得したところでこれに応ずるはずもなく、原告
と同被告らとの間に著作物使用許諾契約が締結されていないことには、同被告らの
自由意思による行為が介在しており、本件はいわゆる因果関係の中断が認められる
べき場合である、また、同被告らの意思が強固である以上、被告会社以外のカラオ
ケリース業者がリース契約を締結したとしても、同被告らが原告との間に著作物使
用許諾契約を締結しなかったであろうことは確実である、したがって、本件におい
て被告会社の行為と原告の損害との間には因果関係がない旨主張する。
 しかしながら、被告会社が尽くすべき注意義務、作為義務は前判示のとおりであ
るから、これと見解を異にする被告会社の主張は採用できない。
4 また、被告会社はピアノをリースした場合を例に引いて原告の本訴主張を論難
するが、ピアノの場合は原告の管理著作物を必ず演奏するとは限らないのに対し、
本件装置の場合はレーザーディスクに収録されている音楽著作物の大部分が原告の
管理著作物であるから、同装置をカラオケ伴奏による客の歌唱に使用することが即
原告の管理著作物の上映及び演奏になるという関係にあるから、この点の差異を考
慮に容れない被告会社の主張は採用できない。
5 その余の被告会社の主張は、先に説示した当裁判所の判断と相容れない見地に
立つか、上来認定した事実に添わない事実に立脚するものであって、到底採用する
ことはできない。
三 争点3(被告らが賠償すべき損害金額)
 証拠(甲二一~二三、三九、四〇、四一の1~5、証人【E】)によれば、① 
昭和六二年一一月一七日午後八時から翌一八日午前一時頃までの間、原告の大阪支
部長から依頼を受けた調査会社株式会社損害保険リサーチの社員四名が、
② 昭和六三年一月一四日午後七時四〇分から翌一五日午前一時頃までの間、同支
部長の命を受けた原告の職員二名と同調査会社の社員二名が、それぞれ原告の調査
員であることを秘して、客として本件店舗へ赴き、本件店舗における演奏曲目を調
査したところ、右各調査期日における原告の管理著作物の使用状況は、別紙調査結
果一覧表一及び二に記載のとおりであり、各調査期日における管理著作物の使用曲
数は、① 昭和六二年一一月一七日の調査期日が合計三九曲、② 昭和六三年一月
一四日の調査期日が合計五〇曲であったことが認められ、他方、社団法人輿論科学
協会(甲一〇三の2)が同種のカラオケ使用店を対象として調査した結果を分析し
た「カラオケ店における一時間当たり平均歌唱回数についての分析」と題する調査
報告書(甲一〇三の1)によれば、調査対象店舗(全国各地の原告の契約店から二
〇〇店を無作為抽出)の一営業日午後八時から一二時までの四時間当たりの平均歌
唱回数は、昭和六三年一月から同年六月までの間において、四八回ないし四九回と
推定されていることが認められる。
 また、被告【A】は、前記第二の一2(一)に認定のとおり、昭和五八年九月一
九日頃、大阪市<以下略>(当時の住居表示は南区<以下略>)所在の日宝スター
ライトビル七階において、【D】との共同経営にかかる本件店舗を開店し、これを
経営していたところ、昭和六一年四月頃からその経営を現在の夫である被告【B】
との共同経営に移し営業を継続し、昭和六三年七月一六日本件店舗を閉店したもの
であるが、被告【B】本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、本件店舗にお
いて使用された音楽の種類、傾向及び演奏時間は、本件店舗の営業期間の全期間を
通じ、前記調査がされた昭和六二年一一月ないし昭和六三年一月頃と比べ、特段の
変動のないことが認められる。
 以上の事実を総合すれば、侵害行為のあった昭和六〇年七月九日から昭和六三年
七月一六日までの全期間を通じて、本件店舗では少くとも一日四〇曲の原告の管理
著作物たる楽曲が使用(演奏・上映)されていたものと推認することができる(甲
九三の1の五項)。
 この点について、被告【B】本人は、丙第四号証の1ないし5、第五号証の1な
いし5、第六号証の1ないし7、第七号証の1ないし4、第八号証の2ないし70
(いずれも本件店舗で使用された会計伝票の一部)に基づき、本件店舗における平
均使用曲数は四〇より少数である旨供述する。しかしながら、右供述は的確な裏付
を欠くし、甲第八三号証及び一〇〇号証の1・2に照らすと、右被告挙示の各証拠
を斟酌しても前記認定を変更することはできない。
 そして、前記侵害期間中の原告の著作物使用料規程及び事情参酌による減額措置
の取扱いについては前記第二の三1・2において認定したとおりであり、これと証
拠(甲九三の1、一〇〇の1、証人【F】)を併せ考えると、被告らが前記侵害行
為により原告に賠償すべき損害金額は原告の主張(の三1)のとおり、別表(三)
ないし(五)の記載のとおりと認めるのが相当である。即ち、本件店舗における原
告の管理著作物の使用料は、① 昭和六〇年七月九日から昭和六一年五月一六日ま
での間のオーディオカラオケ装置の使用分につき別表(三)記載のとおり、② 昭
和六一年五月一七日から昭和六二年三月三一日までの間のビデオカラオケ装置の使
用分につき別表(四)記載のとおり、③ 昭和六二年四月一日から昭和六三年七月
一六日までの間のビデオカラオケ装置の使用分につき別表(五)記載のとおりの各
金額となるところ、その算定は、仲介業務法三条に基づき文化庁長官により認可さ
れた原告の著作物使用料規程に基づくものであるから、右金額をもって管理著作物
の使用により原告が通常受けるべき金銭の額に相当する損害額(著作権法一一四条
二項)に当たるものと認めるのが相当である。
(被告【A】及び同【B】の主張について)
1 被告【A】及び同【B】は、原告の定める著作物使用料規程それ自体につい
て、その拘束力の根拠及び内容の合理性を一般的かつ抽象的に問題とし、同規程
は、公序良俗に違反し無効であるから、本件において損害額算定の基準とはなり得
ない旨主張するが、同被告ら主張の前記各諸点を考慮しても原告の著作物使用料規
程が公序良俗に反し無効と認めることはできない。
 なお、念のため同被告らの主張に鑑み付言するに、著作物使用料規程の拘束力の
根拠及び内容の合理性に関しては次の見解(大阪高裁昭和四五年四月三〇日判決・
無体集二巻一号二五二頁)があり、当裁判所も右見解をもって相当と考える。すな
わち、「原告の営む著作権仲介業は、著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律に基き
主務大臣(昭和四三年法律第九九号による改正後は文化庁長官、以下同じ)の許可
を受けなければ営むことができないものである(同法第二条)ばかりでなく、主務
大臣に対する業務報告書及び会計報告書の提出を義務づけられ、主務大臣は業務報
告、帳簿書類の提出及び業務執行方法の変更等を必要に応じて仲介業者に命ずるこ
とができ、事務所等の臨検検査権を有し、更に事情によっては前記許可の取消や業
務執行停止の措置すら採り得る(同法第六ないし第九条)のであって、仲介業者は
国の強力な監督下に置かれているのである。そして、同法第三条は、著作物使用料
について、仲介業者に著作物使用料規程を定めて主務大臣の認可を受けることを義
務づけ、主務大臣は、許可申請のあった規程の要領を公告して利害関係人等に意見
具申の機会を与えた後、著作権制度審議会の諮問を経た上でなければ右許可を与え
ることができないこととしているのであって、右規定の趣旨は、これにより著作物
使用料規程の内容が合理的且つ公正であることを保障するとともに、著作物の利用
を簡易且つ円滑化し、以て著作物利用者を保護することにあると考えられる。そう
だとすれば、かかる慎重な手続を経て許可された著作物使用料規程は、特に不当と
するような事情の認められない限り、公正且つ妥当な内容を有するものと推定すべ
きである。」。そして、本件全証拠によるも著作物使用料規程を特に不当とするよ
うな特段の事情は認められない。
2 また、被告【A】及び同【B】は、① 原告の調査員は、調査当日も作為的に
本件店舗の従業員に本件装置を使用させるように持ちかけており、如何に調査のた
めとはいえ、本来音楽著作物を管理すべき立場の原告の職員が自らも率先して歌
い、その場の雰囲気を盛り上げた行為は、単に使用料相当損害金の賠償請求権の放
棄に当たるのみならず、刑事上の囮操作にも匹敵する不法な行為であるとして、原
告の調査資料の取得方法の不法性を論難するとともに、② カラオケスナック店の
客足は毎日一様ではなく、天候、曜日、給料日の前後か否か、休日の多少などの諸
要因によってもそれはまちまちであり、景気にも大きく左右されることは言うまで
もなく、したがって、本件店舗の過去の来客数や売上に関する資料もなしに、原告
の調査結果のみをそのまま過去に遡及させて損害額を推定するのは誠に不合理であ
るとして、右調査資料に基づく推定の不合理性についても主張する。
 しかしながら、原告も主張するように、被告【A】及び同【B】による著作権侵
害行為の具体的状況を知り得るのは、同被告ら自身を別にすれば、店の従業員と利
用客のみであるから、原告としては、調査員に客を装って当該調査対象店舗に潜伏
させ、飲食代を支払い営業時間中職務として在店させ、そこで使用曲目及び曲数等
を調査させる以外には当該店舗の音楽著作物の使用状況を明らかにする有効かつ適
切な方法があるとは俄かに考え難く、本件全証拠によるも、原告の調査員において
調査内容を不当に歪める行為があったとは認められないから、右①の主張は採用で
きない。また、著作権法一一四条一項が推定規定であるのに対比して、同条二項は
法定規定であり、通常の使用料相当額が最低限の損害賠償額として保障されるので
あり、著作権者としてはこれを請求する限り、実際にどれだけ損害があるかは問題
とされずに、無条件で侵害者は支払義務を負うことになるのであり、前示のとお
り、原告の採用した使用曲数の推定結果は社団法人輿論科学協会の調査結果に照し
て合理性を有するものと認められるから、右②の主張も採用できない。なお、同被
告らの侵害曲目数の実数値を現実に把握している者は同被告らの外にはいないが、
同被告らがこれを明確に証明することができる証拠を示して明示しない以上推定す
るほかないのである(なお、同被告らは、原告が昭和六〇年一〇月下旬以降同被告
らに対し再三にわたり著作権侵害を明確に主張していたのであるから、本件店舗に
おける使用曲目数を明確に記録しておきこれを証拠として提出することができたに
もかかわらず、それを提出することなく原告の推定をあれこれ論難するのみであ
る。)。
3 また、被告【A】及び同【B】は、本件において著作物使用料規程を損害額の
算定基準とするとしても、同被告らの行為と相当因果関係のある損害額は、その主
張にかかる諸事情を考慮し具体的に考察すべきであり、少なくとも期間については
調査日以降、額については著作物使用料規程に定められた包括的使用許諾契約の場
合の使用料の額をもって原告の被った損害として算定すべきである旨主張する。
 しかしながら、包括的使用許諾契約の場合の使用料は、事前に原告の許諾を受け
た誠実な利用者のみに対する特別の優遇措置であり、同被告らのような無許諾の侵
害者に対して適用されないことは同規程に明定されているところであるし、損害額
算定期間の始期を原告による調査日とすべき合理的理由は、本件全証拠によるも全
く発見し難いから、同被告らの右主張も採用し難い。
4 その余の被告【A】及び同【B】の主張は、先に説示した当裁判所の判断と相
容れない見地に立つか、上来認定した事実に添わない事実に立脚するものであっ
て、到底採用することはできない。
第五 結語
 以上の次第で、原告の本訴請求はいずれも理由がある。
(裁判官 庵前重和 小澤一郎 阿多麻子)
別表(一)〈27295-001〉
別表(二)〈27295-002〉
別表(三)〈27295-003〉
別表(四)〈27295-004〉
別表(五)〈27295-005〉

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