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裁判例


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主文
一原告P1、原告P2、原告P3、原告P4、原告P5、原告P6、原告P7、原告P
8、原告P9、原告P10、原告P11、原告(亡P12訴訟承継人)P13、原告(亡P
12訴訟承継人)P14、原告(亡P12訴訟承継人)P15、原告(亡P12訴訟承継人)
P16、原告P17、原告P18、原告P19、原告P20、原告P21、原告P22、原告P
23及び原告P24の各訴えをいずれも却下する。
二被告が中労委平成元年(不再)第六六号事件(初審東京地労委昭和六二年
(不)第四五号事件)について平成四年八月五日付けで発した命令主文のうち、Ⅲ
項、Ⅳ項、Ⅴ項、Ⅵ項及びⅧ項を取り消す。
三原告芝信用金庫従業員組合のその余の請求を棄却する。
四訴訟費用は、原告芝信用金庫従業員組合を除く原告らと被告との間において
は、被告に生じた費用の一〇分の一を原告芝信用金庫従業員組合を除く原告らの負
担とし、その余は各自の負担とし、原告芝信用金庫従業員組合と被告との間におい
ては、原告芝信用金庫従業員組合に生じた費用の五分の四を被告の負担とし、その
余は各自の負担とし、補助参加によって生じた訴訟費用は、原告芝信用金庫従業員
組合を除く原告らと補助参加人との間においては、補助参加人に生じた費用の一〇
分の一を原告芝信用金庫従業員組合を除く原告らの負担とし、その余は各自の負担
とし、原告芝信用金庫従業員組合と補助参加人との間においては、原告芝信用金庫
従業員組合に生じた費用の五分の四を補助参加人の負担とし、その余は各自の負担
とする。
事実及び理由
第一請求
被告が中労委平成元年(不再)第六六号事件(初審東京地労委昭和六二年(不)
第四五号事件)について平成四年八月五日付けで発した命令主文のうち、Ⅱ項、Ⅲ
項、Ⅳ項、Ⅴ項、Ⅵ項及びⅧ項を取り消す。
第二事案の概要
原告芝信用金庫従業員組合(以下「原告組合」という。)は、かつては補助参加
人における唯一の労働組合であったが、昭和四三年に結成された芝信用金庫労働組
合(以下「芝労組」という。)が多数派組合の地位を占めるようになると、原告組
合は少数派組合となり、原告組合と補助参加人との間で数多くの労使紛争が発生し
た。原告組合と補助参加人とは、東京都地方労働委員会(以下「都労委」とい
う。)の勧告を受け、昭和五五年一〇月一五日和解協定(以下「本件和解協定」と
いう。)を締結するに至った。
原告組合は、補助参加人が、本件和解協定後も原告組合を嫌悪し、①補助参加人
の施設の利用について組合間差別をしたこと、②永年勤続表彰について組合間差別
をしたこと、③職員慰安旅行、歓送迎会、新年会及び忘年会への参加に関し組合間
差別をしたこと、④原告組合のした、傷病扶助制度に関する協定及び人間ドック制
度に関する協定の締結申入れに対し、合理的理由もなくこれを拒否したこと、⑤原
告P1(以下「原告P1」という。)、原告P2(以下「原告P2」という。)、原告
P3(以下「原告P3」という。)、原告P4(以下「原告P4という。)、原告P
5(以下「原告P5」という。)、原告P6(以下「原告P6」という。)、原告P
7(以下「原告P7」という。)、原告P8(以下「原告P8」という。)、原告P
9(以下「原告P9」という。)、原告P10(以下「原告P10」という。)、原告P
11(以下「原告P11」という。)、亡P12(以下「亡P12」という。)、原告P
17(以下「原告P17」という。)、原告P18(以下「原告P18」という。)、原告
P19(以下「原告P19」という。)及び原告P20(以下「原告P20」という。ま
た、右一六名を併せて以下「原告P1外一五名」という。)を店舗長代理に昇進させ
なかったこと、⑥原告P21(以下「原告P21」という。)、原告P22以下「原告P
22」という。)、原告P23(以下「原告P23」という。)及び原告P24以下「原告
P24」という。また、右四名を併せて以下「原告P21外三名」という。)を副参事
に昇格させず、その結果店舗長代理に昇進させなかったことが、いずれも不当労働
行為に当たると主張して、都労委に対し、不当労働行為の救済申立てをし、都労委
は、基本的に、原告組合の右申立てをいずれも認める救済命令(以下「本件初審命
令」という。)を発した。
これを不服とした補助参加人は被告に対し再審査の申立てをした。被告は、前記
①、②及び④につき不当労働行為に当たるとした本件初審命令の判断は相当である
とし、③については、原告組合の組合員だけを除外して職員慰安旅行を実施するこ
とは不当労働行為に当たるが、歓送迎会、新年会及び忘年会については補助参加人
の行事と断定できないとして、補助参加人において原告組合の組合員に参加を呼び
掛けないことが不当労働行為に当たると認めることはできないとし、⑤について
は、昇進は労働組合法二七条二項にいう「継続する行為」に当たらないとして原告
P1外一五名を昇進したものとして取り扱うべき時期を救済申立てから一年前以降と
し、また、原告P1外一五名に付与すべき職位を同原告らが求める店舗長代理に限ら
ず、店舗長代理待遇の推進役でもよいとし、⑥については、原告P21、原告P22、
原告P23及び原告P24を副参事に昇格させないのは副参事昇格試験に合格しないた
めで、不当労働行為に当たらないとし、したがって、店舗長代理に昇進させなかっ
たことも不当労働行為とは認められないとする命令を発した(以下「本件命令」と
いう。)。
本件は、原告らが、本件命令の取消しを求めて提起した行政訴訟である(原告ら
が取消しを求める本件命令の前記各主文のうち、被告が本件初審命令を取り消して
救済申立てを棄却した部分等については、二を参照)。
なお、補助参加人は、本件命令中救済命令に相当する部分に対する取消訴訟を提
起していない。
一争いのない事実等(証拠により認定した事実については、各項の末尾その他の
箇所に証拠を挙示した。なお、争いのない事実であっても、参照の便宜のために証
拠を挙示したものもある。)
1当事者等
(一)補助参加人は、信用金庫法に基づき設立された信用金庫であり、肩書地に
本店を、都内及び川崎市内に二六店舗を有する。平成元年一二月一日の時点におけ
る職員数は八七九名であり、そのうち、店舗の職員数は七二一名で本部の職員数は
一五八名であった。
(二)原告組合は、昭和二八年七月、補助参加人の職員が結成した労働組合であ
り、平成元年一二月一日の時点における組合員数は三二名であった。
(三)原告P1外一五名及び原告P21外三名は、いずれも補助参加人の職員であ
り、原告組合の組合員である(後記のとおり補助参加人を退職し、又は死亡した者
がいる。)。
原告P21は昭和三七年、原告P22及び原告P23は昭和三九年、原告P24は昭和四
〇年、いずれも高卒の学歴で補助参加人に雇用された。
原告P6は、昭和六二年七月四日、定年で補助参加人を退職した。原告P18は、同
年七月二〇日、補助参加人を辞職申出により退職した。
原告P2は平成四年一〇月二一日、原告P3は平成六年四月五日、原告P1は平成五
年五月九日、原告P4は平成六年四月二〇日、原告P5は平成七年三月二三日、原告
P7は平成八年七月六日及び原告P8は平成九年七月三日いずれも定年で補助参加人
を退職した。亡P12は平成五年一一月一一日死亡した。
(弁論の全趣旨)
(四)補助参加人においては、昭和四三年九月に芝労組が結成され、以後、原告
組合と芝労組が併存することとなり、芝労組が多数派組合の地位を占めることとな
った。芝労組の平成元年一二月一日の時点における組合員数は七二六名であった。
なお、平成元年一二月一日の時点における非組合員数は一〇五名であった。
2本件以前の補助参加人における労使関係
(一)補助参加人は、昭和四九年一二月二六日付けで原告P6、原告P18、原告P
22及び原告P24を、昭和五〇年二月一四日付けで原告P19を、同年一〇月一七日付
けで原告組合の組合員一名を、昭和五一年五月一四日付けで原告P9を、同年八月一
六日付けで原告P4、原告P10及び原告P21並びに原告組合の組合員二名を、昭和五
二年二月一八日付けで原告P1、原告P8、亡P12及び原告P23並びに原告組合の組
合員一名を、いずれも懲戒解雇した。
(二)原告組合は、都労委に対し、補助参加人が、社内報の「しば」や「労務ニ
ュース」で原告組合を非難する記事を掲載し、原告組合の掲示板を移動し、原告組
合の補助参加人施設の利用を拒否し、さらに、補助参加人職員の慰安旅行に原告組
合員を参加させなかったことが不当労働行為であるとして、救済を申し立て(都労
委昭和四六年(不)第一〇一号事件)、都労委は、昭和五一年二月三日、補助参加
人の右各行為がいずれも不当労働行為であると判断し、救済命令を発した。
また、当時、原告組合と補助参加人との間には、原告組合の前記組合員一七名の
解雇事件等が、不当労働行為救済命令申立事件として都労委に一一件、雇用関係存
在確認等請求事件として裁判所に九件係属していた。
(三)補助参加人と原告組合とは、都労委の和解勧告により、昭和五三年三月か
ら、全面解決のための和解交渉を行い、昭和五五年一〇月一五日、本件和解協定を
締結した。
この結果、前記解雇事件の被解雇者一七名に対する各懲戒解雇がいずれも発令日
に遡って撤回され、過去の昇格・昇進差別等に関しても和解が成立して、補助参加
人から、原告組合に対し、解決金四億三〇〇〇万円(ただし、賃金仮払いの既払分
を含む。)が支払われ、労使双方は労働委員会及び裁判所に係属するすべての事件
を取り下げた。
(四)本件和解協定において作成された和解協定書(乙第一七号証、第一六五号
証。以下「本件和解協定書」という。)及びこれに付随する調書確認(乙第一六六
号証)には以下の条項がある。
(1)本件和解協定書

第一条(正常な労使関係への努力)金庫(補助参加人を指す。以下同じ。)は、本
件紛争の原因となった行為が発生したことに対し、遺憾の意を表明し、今後、不当
労働行為と疑われるような行為を行わない。
労使双方は、正常な労使関係の確立のために誠実に努力する。
第五条(特別研修)金庫は、職場復帰者に対し、就労日以後に、七日間の特別研修
を実施する。
第一二条(調整給)本和解による賃金是正の方法としての「調整給」の算出のため
に、A、B、Cの各テーブル(別表1)を設ける。
2各対象者が、現在支給されている本人給金額(解雇されていた者については、
これに準ずる金額)と、適用される各テーブルの該当する金額との差額を調整給と
して、以下各条に従い支給する。なお、この調整給は、臨時給与、残業手当、退職
金算定基礎本給の各計算基礎に算入する。
3後記是正方法により昇格した場合、昇格直前の本人給と調整給との合計額を現
行給与体系上の直近の号俸に移行させる。また、期限内に昇格しなかった場合は、
直近の号俸に移行させ、調整給を消滅させる。
第一三条(男子の取扱い)給与年齢三三才以上の者に対し、本和解成立日をもっ
て、現在支給されている本人給金額(解雇されていた者については、これに準ずる
金額)とAテーブルの給与年令に該当する金額との差額を調整給として支給する
(但し、P2、P1、P3を除く)。
2給与年令三三才以上で、同三七才以下の者に対し、本和解成立後三年以内に、
金庫所定の昇格試験受験のうえ、段階的に主事資格を付与する。
3給与年令三八才以上の者に対し、本和解成立後二年以内に、金庫所定の昇格試
験受験のうえ、段階的に主事資格を付与する。
4前三項によって、主事資格を取得した者に対しては、その取得した段階からC
テーブルと本人給金額との差額を調整給として支給する。
5前三項による主事資格取得者のうち、本和解成立後五年以内に、金庫所定の人
事制度により適格と認定された者に副参事資格を付与する。
6現在主事資格を有するP2、P1、P3の三名については、本和解成立日をもっ
て、Cテーブルの給与年令に該当する金額と本人給金額(解雇されていた者につい
ては、これに準ずる金額)との差額を調整給として支給し、本和解成立後三年以内
に、金庫所定の昇格試験受験のうえ、段階的に副参事資格を付与する。
第二七条(職員慰安旅行)金庫は、今後の職員慰安旅行については、組合員(原告
組合の組合員を指す。以下同じ。)を他の職員と区別することなく参加させる。
職場での歓送迎会、忘年会、新年会などについても右に準ずる。
第三三条(研修)研修は、業務上の必要性に基き、「研修規程」により行う。
2本和解協定に基き必要となる研修については、組合員が適正に能力を発揮して
職務を遂行できるように、金庫は特別なローテーションを組んで行なう。
第四〇条(請求権の放棄)金庫、組合並びに関係当事者は、本件紛争に関し、本和
解協定で定めたもの以外について、一切の請求権が消滅したことを確認し、今後争
わない。
(2)調書確認
7第一三条第二項、三項、五項および六項関係
年限については、運用上、実質的に一年間短縮できるように配慮する。
8第一三条二項、三項および六項関係
(2)昇格試験について、金庫は公平、公正に行う。
15第二六条、二七条関係
実施に当って、一年程経過してもなお同一に行うことが著しく困難な場合は労使
協議する。
3本件和解協定後の補助参加人の対応等
(一)補助参加人人事部は、本件和解協定が成立したことに伴い、昭和五五年一
〇月一五日付けで「和解に伴う談話」と題する朝礼用の文書(乙第二二七号証)を
発行し、各店舗ではこれにより職員に対し、本件和解協定の意味を説明した。その
内容は次のとおりである(原則として原文のまま引用した。)。
「この度、東京都労働委員会において、当金庫と当金庫従業員組合との間で全面
的和解が成立した。金庫が解雇した一七名の者、または懲戒処分については、主張
すべき点は多数あったが、金庫内部で労使紛争が生じ継続していることは、金庫の
対外的信用、および業務推進への影響が大きいことを考慮し、大局的見地から和解
に踏み切ったものである。解雇者は復職してくるが、復職者は和解協定書のなかで
「金庫職員として、就業規則等諸規則をはじめ職場規律を遵守し、誠実に業務に精
励する」旨誓約しており、金庫としても大いに働いてもらう気持ちである。ただ金
庫として心配するのは、従来のいきさつから職員間の感情的摩擦が生じることであ
る。また、従組員(原告組合の組合員を指す。以下同じ。)には今後一定期間内に
賃金、身分の改訂をすることになる。この改定は、あるいはその者の実力からみて
不相応のものと映るかもしれない。しかし、これらの点については、三~五年の時
限的経過措置であって、人事諸制度そのものを変更することではないので、平穏な
気持で対処してほしい。また、金庫はこの和解において、職場秩序の維持には特に
気を配ったのであり、もし職場秩序を乱す者がある場合には、就業規則等金庫の諸
規程に従い、厳正公平に対処する所存である。」
(乙第二二七号証)
(二)一方、芝労組は、「金庫と旧労(原告組合を指す。以下同じ。)との和解
の経過をみなおそう!」と題する昭和五九年一一月一日付け「芝労組ニュース」
(乙第一九号証)に次のような記事を掲載した。すなわち、補助参加人の和解推進
担当責任者であったP25常務は、芝労組に対し、次のように説明したという前書き
で、「1旧労は政治闘争の場として、芝信(補助参加人を指す。以下同じ。)の
労使関係をとらえており、片寄った政治思想の導入の場としている。この旧労の姿
勢と方針は今後とも金庫としては絶対に受け入れない。しかし、一般社会は旧労の
闘争を労使関係としてとらえており、金庫に対し話し合を進めるよう指導してきて
おり、金融諸環境の激化、対境関係を考慮し経営の責任において和解に踏み切っ
た。2今後の労使関係のあり方については芝労組とこれまで以上の信頼関係を築
き十分対話を深めていく。3今後の旧労問題については、経営の責任において経
営階層との意思統一をより強化し、管理体制を充実強化して対応していく。これま
でのラインとしての管理の不十分さを反省し、まず体制を完備し、方針を徹底して
いく。」というものであった。これに関して原告組合は、団体交渉の場で補助参加
人の真意をただしたが、P26人事部長はP25常務の発言については否定も肯定もせ
ず沈黙しており、また、補助参加人は、前記「芝労組ニュース」中にP25常務の発
言内容が記載されていたことについて、芝労組に対し、抗議、あるいは、訂正を求
める等の措置を執らなかった。
(三)芝労組は、「旧労の本質を見抜き企業破壊行為を徹底して排除しよう!」
と題する昭和五七年一二月九日付け「芝労組ニュース」(乙第二〇号証)におい
て、「①旧労は総評の中でも特に極左的な統一労組懇(共産党系)に属しています
が、(中略)旧労がいかに共産党との結びつきが強いかをあらためて我々の前に明
らかにした。②(略)③旧労は善良な芝労組組合員をつねにねらっている。スキが
あればそのスキをついて企業破壊集団の仲間に誘い込み、人生をズタズタにひきさ
く。(中略)私たち芝労組組合員は芝労組基本綱領にもとづき「企業破壊」と「国
家破壊」とをくりかえす旧労はもちろん、私たちの生活の基盤である芝信を破壊し
ようとするあらゆる勢力と決然と対決してゆき、破壊行為をくりかえす旧労とは絶
対に①口をきかない。②あいさつをしないを厳守しよう。」と、また、「企業破壊
集団=旧労と徹底して一線を画す運動を強力に推進しよう!」と題する昭和六〇年
八月六日付け同ニュース(乙第一九一号証)では、「旧労は『何にでもカコつけ
て』私たち芝労組組合員と話し合えるような機会をつくることにネライを定めてい
ます。・・・この対策として、原則は絶体に話さないことです。」とか、「女性が
更衣室の中で旧労と合った時には特に注意が必要です。『おはよう』『お先に』
『あついですね』etc。旧労はネラッて声をかけてきます。すべて無視すること
です。」とか、「一部支部においては、役付者自らが甘い対応をとっているという
苦言が芝労組に寄せられました。今後このような場合は実行部として対応を明確に
していきます。」とか、「旧労に対しては、挨拶などは絶対にしない。」などと芝
労組の組合員に呼び掛けた。
補助参加人は、昭和四九年四月二二日付け「業績伸展に役立つ「あいさつ運動」
の実施について」(乙第九九号証)をもって、営業推進部長、人事部長名で各店舗
長、部門長あてに「あいさつ運動」の実施、定着について周知徹底するよう通達し
ており、それによると、職員間では、おはようございます、さようなら、お先に失
礼しますのように必要と思われる挨拶を行うよう具体例を指摘し、その定着の方法
として、上司、先輩が率先して手本を示すこととされているが、補助参加人は、芝
労組が原告組合の組合員と挨拶しないように呼び掛けているにもかかわらず、是正
を徹底させていない。
(乙第二〇号証、第九九号証、第一九一号証)
(四)原告組合は、補助参加人に対し、昭和五八年五月一〇日付け通告書(件名
「差別是正等についての要求」、乙第一〇六号証)をもって、労使関係正常化のた
めに、役席者はもとより全職員に対し、原告組合員とも挨拶をかわすよう指導する
ことを要求したが、これに対して補助参加人は、原告組合に対し、同月一九日付け
通告書(件名「「差別是正等についての要求」及び「要求書」に対する回答につい
て」、乙第一〇七号証)をもって、「業務上必要なマナーについては、従来から研
修等において指導しており、今後も継続して指導してゆくものである。挨拶につい
ては当事者間の問題もあり、強制するわけにはゆかないが、業務上支障を来さない
よう指導してゆくものである。」と回答した。
しかし、その後も、芝労組の組合員のみならず、店舗長(後記の新人事制度導入
前の職位は店舗長が正しいが、支店長という名称も使用されていた。新人事制度導
入後は職位の名称としての店舗長はなくなった。)、次長も原告組合員に挨拶をし
ない店舗が存在した。
(乙第一〇六号証、第一〇七号証、第二五〇号証(昭和六三年三月一〇日付け都労
委第一回審問調書別紙速記録の通し丁数一八丁から一九丁まで))、第二五三号証
(昭和六三年三月一八日付け都労委第二回審問調書別紙速記録の通し丁数一九丁裏
から二二丁まで)、第二五四号証(昭和六三年三月一八日付け都労委第二回審問調
書別紙速記録の通し丁数三四丁から三五丁まで))
(五)補助参加人は、昭和六〇年一〇月二二日、関係団体、取引先等の来賓を招
いて補助参加人創立六〇周年記念式典を開催した際、芝労組にはあらかじめこの行
事についての協力要請と出席要請をしてその出席を得たが、原告組合には協力要請
も出席要請もせず、原告組合の組合員は誰も出席しなかった。芝労組が出席した経
緯は、これより先の同年六月に行われた補助参加人と芝労組との労使協議会におい
て、補助参加人から芝労組に同行事についての協力要請と出席要請を行ったことに
よるものである。
(乙第九七号証、第二五四号証(昭和六三年三月一八日付け都労委第二回審問調書
別紙速記録の通し丁数三〇丁から三三丁まで))
(六)補助参加人の社内報「しば」の昭和六二年新年号(乙第九三号証)には、
各支店単位で新年の挨拶が掲載されており、その中で、新橋支店、西小山支店、不
動前支店、川崎大師支店等は年賀状に擬して描かれたイラストに各支店に所属する
職員が各人の印鑑を押してその所属を表示しているが、それらから原告組合の組合
員のみが除外されていた。本件和解協定前である昭和四八年、四九年の「しば」新
年号(乙第九一号証、第九二号証)でも同体裁のイラストが掲載されていたが、原
告組合の組合員の似顔絵や氏名は表示されていなかった。
また、社内報「しば」の昭和六二年新年号(乙第九三号証)の「ニュースアラカ
ルト」欄では、昭和六一年度第2四半期預金融資増強運動で大森支店が優勝したと
の記事があり、所属職員の写真が掲載されているが、その中には原告組合の組合員
(二名在籍)は含まれていなかった。
(乙第九三号証、第二五四号証(昭和六三年三月一八日付け都労委第二回審問調書
別紙速記録(P26証人)通し丁数三二丁))
4本件和解協定に基づく原告組合の組合員の昇格
補助参加人は、本件和解協定一三条六項に基づき、原告P1については昭和五六年
一〇月一日、原告P2については昭和五七年四月一日、原告P3については同年一〇
月一四日にそれぞれ副参事に昇格させた。
また、補助参加人は、昭和六〇年一二月二〇日、原告組合が都労委に申し立てた
本件和解協定の履行を求めるあっせん(以下「アフターケア」という。)により、
原告P4、原告P5、原告P6、原告P7、原告P8、原告P9、原告P10、原告P11、
亡P12、原告P17、原告P18、原告P19及び原告P20外一名の男性の原告組合の組
合員合計一四名を昭和五九年一〇月一五日付けで認定副参事に昇格させた。
5歓送迎会等における原告組合の組合員の取扱い
原告組合の組合員は、歓送迎会等係単位や有志主催で行われる行事について、
一、二の例外を除いて、参加を呼び掛けられたことはない。
原告組合は、昭和六一年六月一六日、団体交渉において、「まず店舗内で行われ
ている補助参加人主宰の行事に差別することなく参加させるなどして、環境整備を
する努力をするように。」と要求したが、これに対し、補助参加人は、「酒の席は
不測の事態が起こりかねないので、そのような措置は執れない。」と回答した。
6補助参加人の新人事制度導入前の人事制度
(一)補助参加人においては、人事制度として、昭和四三年四月から職能資格制
度を導入し、職員の資格の等級付けを行って、資格ごとに賃金体系を設けている
(昭和五六年からは下位資格者の最高号俸は上位資格者の初号俸を超えないことと
なった。)。
補助参加人は、昭和五三年一〇月に昇格試験制度を導入し、以後この試験の結果
に基づいて資格を付与する制度に改めたが、それ以前は上司の行う人事考課に基づ
いて資格を付与する制度であった。
補助参加人は、昇格試験合格者に対し、原則として四月一日付けで辞令を交付
し、昇格の意思表示をしている。職位への昇進の意思表示も原則として四月一日付
けで行っている。
補助参加人の設定している資格は、参与、副参与、参事、副参事、主事、書記一
級、書記二級、書記三級の八等級に分かれており、それぞれに職能資格等級基準が
設けられていた。
平成元年一二月一日の時点において、店舗における人員構成は、店舗長が二七
名、次長が三一名、店舗長代理が八五名、係長が一二一名、推進役の副参事が一
名、推進役の副参事ないし認定副参事が七名、主事が七六名、係員等が三七三名で
あった。
(乙第一七三号証、丙第三八号証、弁論の全趣旨)
(二)資格と職位との対応関係並びに資格給と職位に対する加給額は以下のとお
りである。
職位資格
参与副参与参事副参事主事
部長○○
室長○○
副部長○○
副室長○○
店舗長○○
課長○○○
相談室長○○○
次長○○
小型店舗長○
特別出張所長○
店舗長代理○○
機械化店舗
(出張所)長○
係長○○
普通職員資格給表
等級ランク金額
参与四万円
副参与三万八〇〇〇円
参事三万四〇〇〇円
副参事一万二〇〇〇円
主事七〇〇〇円
書記一級六〇〇〇円
書記二級2五〇〇〇円
同大卒初年度〇円
書記三級4五〇〇〇円
同3四〇〇〇円
同2三〇〇〇円
同短大初年度〇円
同高卒初年度〇円
責任加給表
参事副参事主事
当号俸579
小型店舗長機械化店舗
店舗職位次長(出張所)長係長
手特別出張所長店舗長代理
店舗代理店店長係長
金額四万九〇〇〇円一万六〇〇〇円七〇〇〇円
階号俸5
本部職位課長
ご相談室長
職金額四万九〇〇〇円
号俸
9四万九〇〇〇円
10四万五六〇〇円
当11三万八八〇〇円
12三万三〇〇〇円
手13一万六〇〇〇円
14一万四四〇〇円
役15一万一二〇〇円
16八〇〇〇円
進17七〇〇〇円
推18六三〇〇円
19四九〇〇円
20三五〇〇円
(三)昭和五六年四月一日、書記一級の資格を有し、給与年齢三三歳になった者
について、主事への自動昇格を認める制度(以下「給与年齢三三歳主事自動昇格制
度」という。)が導入された。原告P21外三名は、給与年齢三三歳主事自動昇格制
度により、昭和五六年四月一日、主事に昇格した。
主事から副参事への昇格基準は、①主事を満三年以上経験し、昇格試験に合格し
たもの、②主事を満二年以上経験し、最終二回の人事考課の決定評語が一回目A以
上、二回目Sのもので、昇格試験に合格したものである。
推進役の職位は、これに対応する資格は参事から主事までの全域に及んでいた。
また、昭和五四年から認定副参事制度が導入されたが、これは、副参事昇格試験に
合格したものが、当初、認定副参事としての辞令を受けることを指し、独立した資
格ではなく、賃金体系も昇格試験制度も副参事と全く同一であって、認定副参事か
ら副参事になるためには、補助参加人が任命するだけで足りた。
7補助参加人の新人事制度
補助参加人は、平成二年四月一日に新人事制度を導入した。その概要は、従前の
人事制度では、資格によって賃金テーブルが大きく異なり、資格ごとに賃金格差を
持った階段型の体系となっており、同一資格内では賃金がほぼ横ばいで昇給格差が
わずかであった点を改めたこと、従前の人事制度では、各資格に広く存在した「推
進役」という職位を除いては、店舗の例でいうと、店舗長、次長、店舗長代理、係
長という限られた職位しか存在せず、資格者の数との関係で従来のライン職位での
処遇が限界にきていたが、ライン職位を増やすこともできなかった状況に対応でき
るように改めたこと等である。
(一)資格
次のとおり資格の名称変更がされた。例えば、従来の資格である「主事」、「副
参事」は、新制度ではそれぞれ「係長職」、「課長職」に名称が変更された。
(1)旧資格等級
新資格等級部長職
職務等級Ⅶ
(2)旧資格等級参与副参与
新資格等級副部長職
職務等級Ⅵ
(3)旧資格等級参事
新資格等級次長職
職務等級Ⅴ
(4)旧資格等級副参事
新資格等級課長職
職務等級Ⅳ
(5)旧資格等級主事
新資格等級係長職
職務等級Ⅲ
(6)旧資格等級書記一級、書記二級
新資格等級上級職員
職務等級Ⅱ
(7)旧資格等級書記三級
新資格等級初級職員
職務等級Ⅰ
(二)昇格
昇格は、補助参加人が定める「昇格基準」に達した者につき、昇格審査を行った
上で決定されることに改められた。昇格審査が従来の昇格試験制度を引き継ぐもの
である。
(三)職位
(1)職位の付与は、補助参加人が職員の人格、識見、統率力を含む能力等を総
合的に判断して行う。具体的な職位付与に当たっては、次のように、当該職員の有
する資格並びにその直近上位資格、直近下位資格の三つの資格に対応する職位群の
中から付与する。

(職務等級)(資格等級)
Ⅶ◎部長職副部長職
Ⅵ部長職◎副部長職次長職
Ⅴ副部長職◎次長職課長職
Ⅳ次長職◎課長職係長職
Ⅲ課長職◎係長職上級職員
Ⅱ係長職◎上級職員初級級員
Ⅰ上級職員◎初級職員
(注)◎は基本対応職務等級を示す。
(2)職位群は別紙「職群分類等級表」のとおりである。
店舗の営業課に配属された「課長職」の職員には、当該職員の有する資格、その
直近上位資格、直近下位資格に対応する「主席営業担当」、「営業課長」、「上席
営業担当」、「上級営業担当」の中から付与することになる。
(3)平成四年四月一日付けで係長の職位が廃止された。係長の職務が課長の職
務と重複する部分が比較的多いこと、組織のスリム化を図ること、同一資格同一賃
金を実現すること等の必要性に基づく措置である。
(丙第三八号証、第八五号証から第八八号証まで、証人P27)
8人事考課制度
(一)補助参加人が昭和五五年九月一二日に制定した人事考課規程(乙第一七四
号証)には、以下の規定がある。

(目的)
第一条人事考課は、職員の職務遂行能力、執務態度、仕事の実績を客観的、組識
的かつ定期的に観察記録し、配置・異動・昇進・昇格・賃金など、人事管理の公正
な運営を促進し、かつ職員の能力向上と公正処遇を図ることを目的とする。
(評定者の責務)
第二条評定者は、人事考課の目的を十分理解し、主観的判断を排除し、公正かつ
客観的に評定しなければならない。
(評定の原則)
第三条評定者は、次の原則に従って、厳正に評定を行なわなければならない。
(1)評定期間以外の評定実績にとらわれないこと。
(2)日常の観察及び指導で得た事実を集積して、適確公平に観察すること。
(3)勤務に直接関係のない事項は評定の対象としないこと。
(4)各評定項目について、独立の要素として、分析して評定すること。
(第四条、第五条は省略)
(資格別区分及び評定要素)
第六条資格別区分に対応する評定要素は(別表一~四)のとおりとする。
(評定ランク)
第七条評価は、S、A、B、C、Dの五段階とする。
(評定者と被評定者の関係)
第八条資格別による評定者と被評定者の関係は、(別表五)のとおりとする。
(第九条ないし第一三条は省略)
(評定期間、評定時期)
第一四条評定は、下記評定期間を対象とし、毎年五月・一一月・二月の各時期に
実施する。
(1)評定期間
ア定期昇給当年度四月一日より当年度三月三一日まで
イ夏期臨時給与
当年度一二月一日より当年度五月三一日まで
ウ年末臨時給与
当年度六月一日より当年度一一月三〇日まで
エ期末臨時給与
当年度四月一日より当年度三月三一日まで
(第一五条は省略)
(臨給の本部調整)
第一六条臨給における評価分布基準は、Sー五%・Aー二五%・Bー四五%・C
ー二二%・Dー三%の範囲内において人事部において調整する。
(第一七条、第一八条、付則は省略)
(別表一)
資格別区分及び評定要素(能力考課用)(管理者)
要素対象資格主事・副参事参事
評価項目(係長・代理)(次長)
業務管理能力
(仕事の側面)
目標設定計画能力〇〇
組織化能力〇〇
問題解決力〇〇
日常業務管理能力
業務遂行能力〇〇
判断力〇〇
企画力〇〇
折衝力〇〇
人事管理能力
(人の側面)
伝達能力〇〇
部下育成能力〇〇
統率力〇〇
執務態度
責任感〇〇
積極性〇〇
協調性〇〇
規律性〇〇
原価意識〇〇
経営参画意識〇
基本的能力
業務知識・技能〇
専門的知識〇
識見〇
(別表二)
資格別区分及び評定要素(臨給考課用)(管理者)
要素対象資格主事・副参事参事
評価項目(係長・代理)(次長)
業務管理能力
(仕事の側面)
目標設定計画能力〇〇
組織化能力〇〇
問題解決力〇〇
日常業務管理能力
業務遂行能力〇〇
判断力〇〇
企画力〇〇
折衝力〇〇
人事管理能力
(人の側面)
伝達能力〇〇
部下育成能力〇〇
統率力〇〇
執務態度
責任感〇〇
積極性〇〇
協調性〇〇
規律性〇〇
原価意識〇〇
経営参画意識〇
基本的能力
業務知識・技能
専門的知識
識見
(別表三)
資格別区分及び評定要素(臨給考課用)(管理者)
要素対象資格主事資格職
評価項目
仕事の実績
仕事の質〇
仕事の量〇
目標達成度〇
人事管理能力
(人の側面)
伝達能力〇
部下育成能力〇
統率力〇
執務態度
責任感〇
積極性〇
協調性〇
規律性〇
原価意識〇
(別表四は省略)
(別表五)
所属被評定者第一次評定第二次評定最終評定
店舗
一般職係長代理店舗長
主事資格職係長代理店舗長
管理職(役付資格職)係長代理店舗長
係長代理次長店舗長
代理次長店舗長人事部長
次長店舗長人事部長理事長
本部
一般職直属所属長部長
主事資格職直属所属長部長
管理職(役付資格職)直属所属長部長
部門長(参事以上の役付資格職を含む)
部長人事部長理事長
(注)能力評定を実施するにあたり、ライン管理職と役付資格職と資格が逆転して
いる場合は、上位資格職位が評定を行う。(但し、同列の場合は、実績・執務態
度・能力等すべての評定を行う。)
(二)右のとおり、人事考課は、定期昇給の実施並びに夏期、年末及び期末の各
臨時給与の支給のために行われる。
定期昇給の考課(能力考課)においては、参事、副参事・主事及び書記一級・書
記二級・書記三級用の三種類の、また、臨時給与の考課(臨給考課)においては、
参事、副参事・主事(役職についている者)、主事(一般職)及び書記一級・書記
二級・書記三級用の四種類の考課スケールを設けている。
考課項目は大別すると、能力考課(各資格ごとに定められた能力水準と比較し、
現時点の基本的能力の水準を評価する。)、執務態度考課(仕事を遂行する過程で
現れた意欲、態度面の努力等を評価する。)及び実績考課(目標や仕事の質的・量
的基準を尺度としその客観的達成度を評価する。)の三種類があり、評定要素は、
業務管理能力、人事管理能力、執務態度及び基本的能力の四要素を対象にしてい
る。管理者(一般職の主事は含まれない。)の臨給考課においては、基本的能力は
考課の対象とされておらず、一般職の主事の場合は、能力考課においては管理者と
同様であるが、臨給考課においては評価要素は仕事の実績、人事管理能力及び執務
態度の三要素が対象となっている。
(三)後記のとおり、人事考課の過去三年分の評定結果は、昇格試験の評価項目
の一つとされており、昇格試験の評価項目全体を一〇〇パーセントとすると、人事
考課の占める比重は五〇パーセントである(昭和五八年度から面接と推薦を中止し
たため、従来三〇パーセントであった人事考課の占める比重を右のとおり変更し
た。)。
なお、職員は、後記昇格試験の学科試験前に人事考課結果を知らされていた。
9昇格試験制度
(一)補助参加人は、昭和五三年から昇格試験制度を導入した。
(二)補助参加人の昭和五三年一〇月二四日付け昇格試験運用規程には、以下の
規定がある。

(目的)
第一条この制度は、職員の自発的な能力開発と最大限の能力発揮による上位等級
への挑戦に際し、その資格・等級における職務遂行能力並びにその可能性を評定す
るものとし、もって人材開発の成果を大にし、組織の活力を図ることを目的とす
る。
(対象)
第二条この制度は書記二級から参事までの職員を対象とする。
(受験資格)
第三条各級満二年を経験したもので自己申告がなされた者。
2書記一級から参事在級のもので、満一年を経験し、人事考課の決定評語が一回
目A以上のもので、自己申告がなされた者。
(評価項目)
第四条昇格試験の評価項目は、つぎのとおりとする。
①人事考課(当該年度を含む最終三ヵ年の能力考課と業績考課)
②推薦
③学科試験
ア業務知識
イ専門知識(外部認定試験合格者(全信協、経済法令、キンザイ)はその科目を
免除)
④論文
⑤面接
2資格に対応する昇格試験の評価項目は、つぎのとおりとする。
①書記一級の昇格試験の評価項目は、人事考課、推薦、学科試験の三項目とす
る。
②主事から参事までの昇格試験の評価項目は、全項目とする。
③副参与の昇格試験の評価項目は、学科試験を除く全項目とする。
第五条評価項目のウエイトはつぎのとおりとする。
①人事考課のウェイトは全体の三〇%とする。
ア人事考課には、能力考課と業績考課を含み、人事考課係数をもって算出する。
②推薦のウェイトは全体の一〇%とする。
ア推薦のないものについては、本部職能部門長の意見を徴して評価を決定する。
③学科試験、論文、面接のウェイトは全体の六〇%とする。
ア各等級の学科試験、論文、面接の評定点はつぎのとおりとする。
受験等級書記一級主事・副参事参事副参与
項目
学科試験
業務知識七〇四〇二〇
専門知識三〇二〇四〇
論文二〇二〇六〇
面接二〇二〇四〇
(受験手続)
第六条事務局より送付された受験資格者一覧表にもとづき、所属長は該当者に受
験の意思を確認し、受験希望者のみ「昇格試験自己申告表」により自己申告を行わ
せるものとする。
2所属長は昇格試験希望者より提出された「昇格試験自己申告表」の推薦欄に推
薦するもののみ記入し、昇格試験自己申告表及び適性調査表を添え、人材本部長宛
送付するものとする。
3昇格試験自己申告表における推薦の有無、その理由については申告者に明示す
る。
4昇格試験希望者のガイダンスは事務局において実施するものとする。
(試験の実施)
第七条原則として五月より翌年二月までの間に実施する。
2各科目の試験期日は、原則として実施日の一か月前までに公示する。
(結果の発表)
第八条合格者については、原則として四月一日の辞令交付をもってこれに代え
る。
2不合格者については、所属長を通じ各人に通知を行うこととする。
(第九条ないし第一二条及び付則は省略)
〈注〉抜擢人事について
抜擢人事については、給与体系運営基準1~⑧特別昇格にもとづき運用すること
とする。
(三)昭和五七年度までは、右の規定どおり、所属長による推薦(昇格試験運用
規程四条②)及び面接(同規程四条⑤)の制度があったが、昭和五八年度からは中
止された。
その結果、試験の評価項目は、①人事考課(能力考課・業績考課)、②学科試験
(業務知識・専門知識)、③論文の三項目となり、それぞれの比重は、全体を一〇
〇パーセントとすると、規定上、①は五〇パーセント(うち、能力考課が四〇パー
セント、業績考課が一〇パーセント)、②は三〇パーセント(うち、業務知識が二
〇パーセント、専門知識が一〇パーセント)、③は二〇パーセントとなった。
争いのない事実に、乙第二五八号証を併せて考えると、補助参加人の人事考課及
び昇格試験制度については以下のとおり認めることができ、これに反する証拠はな
い。
人事考課の評定は、S、A、B、C、Dと決定され、これを決定評語というが、
それぞれ六点、五点、四点、三点、二点と点数化される。そして、能力考課の場合
は、過去三年間の決定評語の点数の合計点(最高点は六点×三で一八点、最低点は
二点×三で六点。)を一八で除して一〇〇を乗じて一〇〇点満点に換算し、能力考
課のウエイトである〇・四を乗じて評定点とし、能力考課の場合は、一年三回過去
三年間で合計九回になるが、昇格試験実施年度の期末臨給は時期的にまだ実施され
ていないので、八回の決定評語の点数の合計点(最高点は六点×八で四八点、最低
点は二点×八で二四点。)を四八で除して一〇〇を乗じて一〇〇点満点に換算し、
臨給考課のウエイトである〇・一を乗じて評定点としてそれぞれ昇格試験の点数と
する。
次に、学科試験のうちの業務知識は、内部事務編、融資編、得意先係編の三分野
があるが、店舗在勤者については、担当業務分野が四〇点、その他の二分野が三〇
点とされ、本店在勤者については、選択した分野が六〇点、その他の二分野が二〇
点とされている。これは、店舗在勤者の傾斜配点については、日常担当している分
野の比率を高くして受験者の負担を軽くするためのものであり、本部在勤者の傾斜
配点については、日常の担当業務の中で業務知識に接する機会が少ないことを考慮
したものである。
学科試験のうちの専門知識は、金融法務・税務・財務分析の三分野があるが、右
三分野の比率は同一である。
論文試験は、総合的な知識や判断力等を審査する目的で導入されたものである。
論文試験の採点は、補助参加人から任命された役職員二名がそれぞれ受験者全員分
を採点するが、第一次採点者と第二次採点者の評点に著しく差が出た場合には協議
をするなどして調整し公平を期することとされていた。
10副参事への昇格
(一)原告P21は昭和三七年に、原告P22及び原告P23は昭和三九年に、原告P
24は昭和四〇年にそれぞれ補助参加人に雇用されたが、前記のとおり、解雇され、
昭和五五年一〇月一五日の本件和解協定により復職した。
昭和五六年四月一日、補助参加人は、三三歳主事自動昇格制を導入し、同月一日
付けで六三名を主事に昇格させ、この中には原告P21外三名も含まれていた。
その後、原告組合は、補助参加人に対し、昭和五七年四月一九日及び昭和五八年
五月一〇日、差別是正要求書等を提出し、原告組合の組合員に資格に相当する職位
を与えること、副参事に昇格させることを求めた。また、機会あるごとに同様の要
求をしたが、解決をみなかった。このため、原告組合は、昭和六〇年二月、都労委
に対し、和解協定違反、不履行の是正を求めていわゆるアフターケアの申出をし
た。
その結果、自主交渉が行われ、補助参加人と原告組合は原告P4外一三名を副参事
に昇格させることに合意し、補助参加人は、前記のとおり、昭和六〇年一二月二〇
日、同原告らを昭和五九年一〇月一五日付けで認定副参事とする辞令を交付した。
(二)補助参加人と原告組合は、本件和解協定において、職場復帰者に七日間の
特別研修を行うこと及び組合員が適正に能力を発揮して職務を遂行できるよう、特
別な職務ローテーションを組んで行うこと等について合意した。
さらに、本件和解協定後の昭和五五年一〇月二一日、補助参加人と原告組合は、
前記和解条項に関し、特別研修は原告組合の組合員の在籍者も復帰者と同一のカリ
キュラムで行うこと、原告組合の組合員は効果測定(当時の効果測定は初級コース
と上級コースがあり、原告組合の組合員らは上級コースの対象者となっていた。上
級コースの科目は、金融法務、財務分析、得意先、融資、事務の各科目で昇格試験
科目に対応したものであった。なお、原告組合はそれまで効果測定を受けることを
拒否していた。)を特別研修終了後一月実施分から受けること等を確認した。
そして、補助参加人は、昭和五五年一二月に特別研修を二日間、得意先係員はさ
らに一日行った。また、原告組合の組合員は、昭和五六年一月から効果測定を受け
た。職務ローテーションについては、補助参加人は職員の店舗内配置がうまくいか
ないとして行わなかった。
補助参加人における集合研修には、希望者を募って行う自己啓発講座と補助参加
人の業務上の必要から対象者を指名して行う研修がある。そして、昭和六〇年度の
各研修への原告組合の組合員の参加状況は以下のとおりである。
(1)補助参加人は、当時担保督促係員であった原告P21は新任ではないとし
て、担保督促研修会への出席の指名をしなかったが、原告P21は雇用以来初めて担
保督促係員となったものであった。また、補助参加人は、同研修会は、書記一級以
下の若い者を対象にしたものであり、原告P24は書記一級以下に該当しないとして
出席の指名をしなかった。
(2)渉外能力開発講座は、得意先係員のうち、主事、推進役以下の者、各店一
名を対象として行われたが、原告組合の組合員は出席の指名をされなかった。
(3)その他の講座として、税務講座、外国為替実務講座等があり、各店二名か
ら三名を対象として行われたが、原告組合の組合員は出席の指名をされなかった。
(三)原告P21外三名の副参事昇格試験受験の実績及び試験の得点は以下のとお
りであり、いずれも不合格であった(年度はいずれも昭和を省略している。以下の
表でも同様である。)。
(1)受験実績
五八年度五九年度六〇年度六一年度六二年度
P21×〇×〇〇
P22〇〇×〇〇
P23〇〇×〇〇
P24〇〇〇〇〇
(2)得点
人事考課学科試験論文合計
五八年度能力業績専門業務
平均4・5110・7410・9
P2216・75・24・211・09・046・1
P2316・74・03・47・211・042・3
人事考課学科試験論文合計
五九年度能力業績専門業務
平均4・1711・710・42
P2113・34・20・67・59・034・6
P2422・26・54・613・310・657・2
なお、合格者の最低点は昭和五八年度が七一・三点であり、昭和五九年度が七
三・五点であった。
(四)給与年齢三八歳の時点における雇用年度別資格分布状況は以下のとおりで
ある。なお、昭和五七年度は原告P21の、昭和五九年度は原告P22、昭和六〇年度
は原告P24の該当する年度であるが、いずれも同人らを除いた数である。
年度雇用年度資格副参事以
主事以下副参事参事以上計上の比率
五四大卒三八年三八四一五併せて
高卒三四年二一〇三七二・二%
五五大卒三九年三一九一三併せて
高卒三五年二二〇四七〇・六%
五六大卒四〇年二一一〇一三併せて
高卒三六年一一一三八一・三%
五七大卒四一年一一三〇一四併せて
高卒三七年二二〇四八三・三%
五八大卒四二年二一〇〇一二併せて
高卒三八年二三〇五七六・五%
五九大卒四三年〇四二六併せて
高卒三九年〇二〇二一〇〇%
六〇大卒四四年三九〇一二併せて
高卒四〇年二一〇三六六・七%
六一大卒四五年五八〇一三併せて
高卒四一年三〇〇三五〇%
六二大卒四六年六一〇〇一六併せて
高卒四二年〇一〇一六四・七%
(五)人事考課(定期昇給考課。昇格試験の際の人事考課中、能力考課に当た
る。)は、S、A、B、C、Dの五段階で行われるが、原告組合の組合員男性の人
事考課の本件和解協定後の年度別分布は以下のとおりであって、S及びAの考課を
受けた者はいない(数字の単位は人であり、括弧内の比率は原告組合の組合員男性
の中で占める割合である。)。
年度評定ランク
BCD
五六一(四・五%)一〇(四五・四%)一一(五〇%)
五七一(四・五%)五(二二・七%)一六(七二・七%)
五八三(一三・六)一〇(四五・四%)九(四〇・九%)
五九五(二二・七%)九(四〇・九%)八(三六・三%)
六〇五(二二・七%)一二(五四・五%)五(二二・七%)
六一五(二二・七%)一四(六三・六%)三(一三・六%)
六二六(二七・二%)一四(六三・六%)二(九・〇%)
また、原告組合の組合員全員の人事考課(定期昇給考課)を補助参加人の職員全
員の中でみると分布状況は以下のとおりである。
年度ランク全体芝労組の組合員及原告組合の組合員
び非組合員
五九
S〇〇〇
A三〇〇三〇〇〇
(二九・四四%)(三〇・五二%)
B五六五五五七八
(五五・四五%)(五六・六六%)(二二・二二%)
C一二九一一二一七
(一二・六六%)(一一・三九%)(四七・二二%)
D二五一四一一
(二・四五%)(一・四二%)(三〇・五六%)
六〇
S三三〇
(〇・三三%)(〇・三四%)
A三二六三二六〇
(三五・九四%)(三七・三九%)
B四八〇四七二八
(五二・九二%)(五四・一三%)(二二・八六%)
C八九六七二二
(九・八一%)(七・六八%)(六二・八六%)
D九四五
(〇・九九%)(〇・四六%)(一四・二九%)
六一
S五五〇
(〇・五四%)(〇・五六%)
A三三四三三四〇
(三五・八四%)(三七・二四%)
B四六九四五九一〇
(五〇・三二%)(五一・一七%)(二八・五七%)
C一一七九四二三
(一二・五五%)(一〇・四八%)(六五・七一%)
D七五二
(〇・七五%)(〇・五六%)(五・七一%)
(六)原告P21外三名の復職後の年度別臨給考課(昇格試験の際の人事考課中、
業績考課に当たる。)結果は以下のとおりである。
年度五五年度五六年度五七年度五八年度
氏名
P21
夏DDC
冬B不明DC
期末DDDD
P22
夏DBB
冬B不明BB
期末DCBB
P23
夏DDC
冬B不明DC
期末DDCC
P24
夏不明BB
冬B不明BB
期末D不明BB
年度五九年度六〇年度六一年度六二年度
氏名
P21
夏CCBB
冬CCBB
期末CBBC
P22
夏BBBB
冬BBBB
期末BCBC
P23
夏CCCC
冬CCCC
期末CCCC
P24
夏BBBB
冬BBBB
期末BBBB
(七)原告P21外三名の各年度における人事考課評定者及びその労組役員歴は以
下のとおりである。なお、補助参加人と芝労組との労働協約によれば、支店長代理
(店舗長代理)は組合員とされていた。

(1)原告P21
年度役職氏名労組役員歴等
五八年度
支店長P28代議員二年
次長P29代議員六年
支店長代理P30実行委員九年、副実行委員長一年
代議員二年、代議員会副議長一年
係長P31支部長一年、代議員三年
五九年度
支店長P28前出
次長P29前出
支店長代理P32実行委員二年、副実行委員長七年
支部長一年
六〇年度
支店長P33支部長一年
次長P29前出
支店長代理P30前出
係長P34支部長三年、代議員一年
実行委員二年
六一年度
支店長P35支部長二年、代議員二年
次長P36代議員四年
支店長代理P37支部長二年、代議員三年
係長P38支部長一年、代議員一年
六二年度
支店長P35前出
次長P39支部長一年、代議員五年
支店長代理P37前出
係長P38前出
(2)原告P22
五八年度
支店長P40なし
次長P41支部長一年、副実行委員長二年
支店長代理P42実行委員五年、副実行委員長二年
係長P43支部長五年、代議員一年
五九年度
支店長P40前出
次長P41前出
支店長代理
係長P43前出
六〇年度
支店長P40前出
次長P41前出
支店長代理P44支部長一年、代議員一年
係長P43前出
六一年度
支店長P40前出
次長P45代議員一年
支店長代理P44前出
係長P43前出
六二年度
支店長P46実行委員二年、代議員会議長一年
評議員会会長一年
次長P47支部長一年、代議員六年
支店長代理P48支部長一年、代議員三年
係長P49実行委員九年
(3)原告P23
五八年度
支店長P50なし
次長P51支部長二年
支店長代理P52支部長四年、代議員二年、実行委
員四年、副実行委員長一年
係長P53なし
P54なし
五九年度
支店長P55なし
次長P51前出
支店長代理P52前出
係長P56代議員二年
六〇年度
支店長P55前出
次長P39前出
P57支部長四年、実行委員二年
支店長代理P56前出
P53前出
六一年度
支店長P58代議員四年
次長P47前出
支店長代理P59代議員四年、実行委員三年
係長P60支部長二年、実行委員六年
副実行委員長二年
六二年度
支店長P61支部長二年
次長P62支部長四年、実行委員一年
支店長代理P63支部長二年
係長P64支部長二年、代議員六年
実行委員三年
(4)原告P24
五八年度
支店長P65実行委員二年、支部長三年
代議員会議長一年
次長P39前出
支店長代理P66支部長一年、代議員七年
係長P67支部長二年、代議員四年
五九年度
支店長P65前出
次長P39前出
支店長代理P68代議員二年、実行委員五年
副実行委員長二年、評議員七年
係長P67前出
六〇年度
支店長P65前出
次長P69代議員二年
支店長代理P70支部長一年、代議員一年
係長P67前出
六一年度
支店長P55前出
次長P57前出
P71前出
支店長代理P53前出
係長P72支部長一年
六二年度
支店長P55前出
次長P57前出
支店長代理P73支部長一年、代議員三年
係長P72前出
P74支部長一年、実行委員六年
(八)昭和六二年一月三一日現在の給与年齢別主事・副参事の人数は、以下のと
おりである。
主事副参事
年齢人数原告組合の組合員氏名人数原告組合の組合員氏名
五三〇四P2
五二〇九P1
五一〇七P3、P5、P4
五〇〇三
四九〇八P7
四八〇五P8
四七〇五P9、P10
四六〇八P11
四五〇八P17、P12、P18
四四〇一〇P20、P19、P75
四三〇九
四二二P21一一
四一三八
四〇三P22、P23九
三九八P24九
原告組合の組合員一名
三八一〇一二
三七九八
三六二五一〇
三五二六七
三四三六二
三三四七〇
三二五〇〇
三一一六〇
三〇一二〇
二九一〇
11店舗長代理の職務等
(一)店舗長代理の職務等
店舗長代理の職務権限のうちの基本的任務は以下のとおり定められている。な
お、店舗では、次長以上の職位については出勤簿はなく、残業手当も支払われてい
ないが、店舗長代理以下の職位については出勤簿によるチェックを受け、残業手当
も支払われ、組合員資格も認められている。
(1)事務(ロビーを含む。)担当支店長代理(店舗長代理)
①事務・ロビー担当代理は、事務係長、ロビー係長を指揮・監督し、各種業務活
動に伴う事務処理・ロビー営業活動を統括することにより、店舗長を補佐する。
②事務処理の迅速かつ正確な処理及びロビー営業活動を通じて、会員・取引先の
増加と預金の増強を積極的に推進し、あわせて顧客サービスと事務能率の向上につ
とめ、業績の伸展に寄与する。
(2)融資担当支店長代理(店舗長代理)
①融資担当代理は、融資係長を指揮・監督し、融資業務を統括することにより、
店舗長を補佐する。
②融資業務を通じて、会員・取引先の増加と預金・貸出金の増強を積極的に推進
し、あわせて貸出金の効率的運用と健全化につとめる。
(3)得意先担当支店長代理(店舗長代理)
①得意先担当代理は、得意先係長、営業管理係を指揮・監督し、外部営業活動を
統括し、店舗の営業を推進することにより、店舗長を補佐する。
②会員・取引先の増加を通じて、預金・貸出金等の増強を積極的に推進する。
(二)係長の職務
係長の職務権限のうち、人事管理に関する定めをみると、係員の職場内教育訓練
実施計画の立案、実施や係員の人事考課と業績評価等を行うとされている。
12別件女性差別訴訟
補助参加人の女性の職員一三名(退職者を含む。)は、女性であることを理由と
して同期同給与年齢の男性職員と比較して昇格及び昇進において差別されたと主張
して、課長職の資格と課長の職位にあることの確認、差額賃金の支払及び不法行為
による損害賠償を請求して東京地方裁判所に提訴した(昭和六二年(ワ)第八二八
五号差額賃金請求事件、以下「別件女性差別訴訟」という。)。東京地方裁判所
は、平成八年一一月二七日、別件女性差別訴訟の原告らの請求を一部認容する判決
を言い渡した。この判決に対し、補助参加人及び別件女性差別訴訟の原告ら双方が
東京高等裁判所に控訴し、現に係属中である(平成八年(ネ)第五五四三号、同年
(ネ)第五七五八号)。
(甲第四二号証、第六三号証から第六五号証まで、丙第七三号証、第七四号証)
13本件初審命令
原告組合は、都労委に対し、昭和六二年六月一八日、補助参加人を被申立人とし
て不当労働行為の救済申立てをした(昭和六二年(不)第四五号事件)が、これに
対し、都労委が平成元年五月二三日付けで発した命令(本件初審命令)の主文は以
下のとおりである。

1被申立人芝信用金庫は、申立人芝信用金庫従業員組合から金庫施設の利用申入
れを受けた場合、申立外芝信用金庫労働組合と差別する取扱いをしてはならない。
2被申立人は、申立人組合の永年勤続表彰は他の職員と区別することなく、すべ
て同一条件で行わなくてはならない。
3被申立人は、職員慰安旅行、歓送迎会、新年会および忘年会に申立人組合員が
参加できるよう積極的に職場環境整備に努めなければならない。
4被申立人は、申立人組合からの傷病扶助制度および人間ドック制度に関する協
定締結申入れに対して、「平和条項」締結を条件にこれを拒否してはならない。
5被申立人は、申立人組合員P2を昭和五七年四月一日付で、同P3を昭和五七年
一〇月一四日付で、同P1を昭和五六年一〇月一日付でそれぞれ店舗長代理の職位を
付与したものとして取扱わなければならない。
6被申立人は、申立人組合員P4、同P5、同P6、同P7、同P8、同P9、同P
10、同P11、同P12、同P17、同P18、同P19、同P20および同P75を昭和五九年
一〇月一五日付でそれぞれ係長もしくは推進役の職位を付与したものとして取扱
い、さらに、昭和六一年四月一日付でそれぞれ店舗長代理の職位を付与したものと
して取扱わなければならない。
但し、P6に対する取扱いは昭和六二年七月四日までとし、P18に対する取扱いは
同年七月二〇日までとする。
7被申立人は、申立人組合員P22および同P23を昭和五八年度昇格試験に合格し
たものとして、昭和五九年四月一日付で副参事に昇格させ、同日付で係長もしくは
推進役の職位を付与したものとして取扱い、さらに昭和六二年四月一日付で店舗長
代理の職位を付与したものとして取扱わなければならない。
8被申立人は、申立人組合員P21およびP24を昭和五九年度昇格試験に合格した
ものとして、昭和六〇年四月一日付で副参事に昇格させ、同日付で係長もしくは推
進役の職位を付与したものとして取扱い、さらに昭和六三年四月一日付で店舗長代
理の職位を付与したものとして取扱わなければならない。
9被申立人は、第五項、第六項、第七項および第八項によって生ずる増額支給額
を各支払日の翌日から支払済まで、年五分の割合による金員を付加して支払わなけ
ればならない。
10被申立人は、本命令書受領の日から一週間以内に、下記の文書を五五センチ
メートル×八〇センチメートル(新聞紙二頁大)の白紙の明瞭に墨書して、金庫本
店食堂の見易い場所に一〇日間掲示するとともに同文を本命令書受領後直近発行の
社内報「しば」の第一面に掲載しなければならない。

年月日
芝信用金庫従業員組合
執行委員長P3殿
芝信用金庫
理事長P76
当金庫が、貴組合から申入れのあった施設利用を拒否したことおよび傷病扶助制
度、人間ドック制度についての協定締結申入れを「平和条項」締結を条件に拒否し
たことおよび永年勤続表彰を他の職員と別個に行ったことおよび職員慰安旅行、歓
送迎会、新年会、忘年会等に貴組合員が参加できるよう講じなかったことならびに
男子組合員の昇格、昇進を行わなかったことは不当労働行為であると東京都地方労
働委員会において認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
(注、年月日は掲示の日と掲載の日を記載すること。)
11被申立人は、前記第五項ないし第一〇項を履行したときは、すみやかに当委
員会に文書をもって報告しなければならない。
14本件命令
補助参加人は、被告に対し、平成元年六月二八日、本件初審命令を不服として、
原告組合を再審査被申立人として再審査の申立てをした(平成元年(不再)第六六
号事件)が、被告が平成四年八月五日付けで発した命令(本件命令)の主文は以下
のとおりである。

Ⅰ初審命令主文第二項を次のように変更する。
2再審査申立人は、再審査被申立人組合員の永年勤続表彰を他の職員と区別する
ことなく、すべて同一条件で行うことができるよう早急に職場環境整備に努めなけ
ればならない。
Ⅱ初審命令主文第三項を次のように変更し、同項に係るその余の再審査被申立人
の救済申立てを棄却する。
3再審査申立人は、職員慰安旅行に再審査被申立人組合員が参加できるように積
極的に職場環境整備に努めなければならない。
Ⅲ初審命令主文第五項及び第六項を次のとおりに変更し、これらの項に係るその
余の再審査被申立人の救済申立てを棄却する。
5再審査申立人は、再審査被申立人の組合員P2、同P3及び同P1を昭和六一年六
月一八日付けで店舗長代理又は店舗長代理待遇の推進役に昇進したものとして取り
扱わなければならない。
6再審査申立人は、再審査被申立人の組合員P4、同P5、同P6、同P7、同P8、
同P9、同P10、同P11、同P12、同P17、同P18、同P19及び同P20を昭和六一年
六月一八日付けで係長又は係長待遇の推進役に昇進したものとし、さらに、同年一
〇月一五日付けで店舗長代理又は店舗長代理待遇の推進役に昇進したものとして取
り扱わなければならない。
但し、P6については昭和六二年七月四日までとし、P18については同年七月二〇
日までとする。
Ⅳ初審命令主文第七項を次のように変更し、第八項を削り、これらの項に係るそ
の余の再審査被申立人の救済申立てを棄却する。
7再審査申立人は、再審査被申立人の組合員P22、同P23、同P21及び同P24を
昭和六一年六月一八日付けで係長又は係長待遇の推進役に昇進したものとして取り
扱わなければならない。
Ⅴ初審命令主文第九項中、「、第七項および第八項」を「及び第七項」に改め、
同項を第八項とする。
Ⅵ初審命令主文第一〇項中、「被申立人」を「再審査申立人」に、「P3」を「P
8」に、「東京都地方労働委員会」を「中央労働委員会」に改め、「、歓送迎会、新
年会、忘年会等」及び「昇格、」を削り、同項を第九項とし、同項に係るその余の
再審査被申立人の救済申立てを棄却する。
Ⅶ初審命令主文第一一項中、「第一〇項」を「第九項」に改め、同項を第一〇項
とする。
Ⅷ再審査被申立人の昭和六一年六月一七日以前の昇進に係る救済申立てを却下す
る。
ⅨP75に係る初審命令を取り消し、同人に係る再審査被申立人の救済申立てを却
下する。
Ⅹその余の本件再審査申立てを棄却する。
二原告らが取消しを求める本件命令の主文のうち、被告が本件初審命令を取り消
して救済申立てを棄却した部分等
1本件命令の主文第Ⅱ項
(一)本件初審命令主文第3項
被申立人は、職員慰安旅行、歓送迎会、新年会及び忘年会に申立人組合員が参加
できるように積極的に職場環境整備に努めなければならない。
(二)本件命令
再審査申立人は、職員慰安旅行に申立人組合員が参加できるように積極的に職場
環境整備に努めなければならない。
(三)被告が救済申立てを棄却した部分
補助参加人において、原告組合の組合員が参加できるように積極的に職場環境整
備に努めるべき対象のうち、「歓送迎会、新年会及び忘年会」に関する部分
2本件命令の主文第Ⅲ項及び第Ⅷ項
(一)本件初審命令主文第5項及び第6項
5被申立人は、申立人組合員P2を昭和五七年四月一日付けで、同P3を昭和五七
年一〇月一四日付けで、同P1を昭和五六年一〇月一日付けでそれぞれ店舗長代理の
職位を付与したものとして取り扱わなければならない。
6被申立人は、申立人組合員P4、同P5、同P6、同P7、同P8、同P9、同P
10、同P11、同P12、同P17、同P18、同P19、同P20および同P75を昭和五九年
一〇月一五日付でそれぞれ係長もしくは推進役の職位を付与したものとして取扱
い、さらに、昭和六一年四月一日付でそれぞれ店舗長代理の職位を付与したものと
して取扱わなければならない。
但し、P6に対する取扱いは昭和六二年七月四日までとし、P18に対する取扱いは
同年七月二〇日までとする。
(二)本件命令
(第Ⅲ項)
5再審査申立人は、再審査被申立人の組合員P2、同P3及び同P1を昭和六一年六
月一八日付けで店舗長代理又は店舗長代理待遇の推進役に昇進したものとして取り
扱わなければならない。
6再審査申立人は、再審査被申立人の組合員P4、同P5、同P6、同P7、同P8、
同P9、同P10、同P11、同P12、同P17、同P18、同P19及び同P20を昭和六一年
六月一八日付けで係長又は係長待遇の推進役に昇進したものとし、さらに、同年一
〇月一五日付けで店舗長代理又は店舗長代理待遇の推進役に昇進したものとして取
り扱わなければならない。
但し、P6については昭和六二年七月四日までとし、P18については同年七月二〇
日までとする。
(第Ⅷ項)
再審査申立人の昭和六一年六月一七日以前の昇進に係る救済申立てを却下する。
(三)被告が救済申立てを却下し、又は棄却した部分
(救済申立てを却下した部分)
昭和六一年六月一七日以前の昇進に係る部分
(救済申立てを棄却した部分)
5項につき
付与したものとして取り扱わなければならない職位を店舗長代理に限っていた部
分(「店舗長代理又は店舗長代理待遇の推進役に昇進したものとして取り扱わなけ
ればならない」とした。)
6項につき
昇進の時期につき、昭和六一年一〇月一四日以前の(店舗長代理又は店舗長代理
待遇の推進役への)昇進に係る部分。ただし、昭和六一年六月一八日付けで係長又
は係長待遇の推進役に昇進したものとして取り扱わなければならないとした。
3本件命令の主文第Ⅳ項
(一)本件初審命令主文第7項及び第8項
7被申立人は、申立人組合員P22及び同P23を昭和五八年度昇格試験に合格した
ものとして、昭和五九年四月一日付けで副参事に昇格させ、同日付けで係長若しく
は推進役の職位を付与したものとして取り扱い、さらに昭和六二年四月一日付けで
店舗長代理の職位を付与したものとして取り扱わなければならない。
8被申立人は、申立人組合員P21及びP24を昭和五九年度昇格試験に合格したも
のとして、昭和六〇年四月一日付で副参事に昇格させ、同日付で係長若しくは推進
役の職位を付与したものとして取り扱い、さらに昭和六三年四月一日付で店舗長代
理の職位を付与したものとして取り扱わなければならない。
(二)本件命令
7再審査申立人は、再審査被申立人の組合員P22、同P23、同P21及び同P24を
昭和六一年六月一八日付けで係長又は係長待遇の推進役に昇進したものとして取り
扱わなければならない。
(三)被告が救済申立てを却下し、又は棄却した部分
(救済申立てを却下した部分)
昭和六一年六月一七日以前の昇進に係る部分
(救済申立てを棄却した部分)
7項及び8項につき
副参事に昇格させ、店舗長代理の職位を付与したものとして取り扱わなければな
らないとした部分
4本件命令の主文第Ⅴ項から第Ⅶ項まで
これらは、賃金の差額の支払及びポスト・ノーティス並びに労働委員会に対する
履行の報告に関するものであるが、本件命令は、右のとおり昇格、昇進に関する本
件初審命令の判断を改めたので、その限度で原告らの救済申立てを棄却することと
なったものである。
三争点
1原告適格について
原告P1外一五名及び原告P21外三名は、本件取消訴訟において原告適格を有する
か。
2歓送迎会、新年会及び忘年会について
歓送迎会、新年会及び忘年会の開催は補助参加人の行為といえるか。
3昇進、昇格に関する不当労働行為救済申立てと労働組合法二七条二項の定める
期間(除斥期間)の遵守について
補助参加人がした、職位に昇進させないという決定、昇格させないという決定
は、これが組合差別的な行為に当たるとして、労働組合法二七条二項にいう「継続
する行為」に当たるか。
4原告P1外一五名に付与されるべき職位と救済方法の明確化について
本件命令は、原告P1外一五名に対し、店舗長代理又は店舗長代理待遇の推進役と
いう職位を付与すべきものとしているが、「店舗長代理待遇の推進役」は何を意味
するか。この表現は明確なものといえるか。また、それが「本部の推進役」も「店
舗の推進役」も含む趣旨であるとすれば、「店舗の推進役」は原告P1外一五名に付
与すべき職位として適切か。
5原告P21外三名を副参事に昇格させないこと及び店舗長代理に昇進させないこ
とと不当労働行為の成否
補助参加人が、原告P21外三名を副参事に昇格させず、さらに、店舗長代理に昇
進させなかったことは、労働組合法七条一号の不利益な取扱いに当たり、又は労働
組合法七条三号の支配、介入に当たるか。
6退職等による職員の地位の喪失、新人事制度に基づく職位の付与と訴えの利益
について
原告P18が辞職申出により退職し、原告P6、原告P2、原告P3、原告P1、原告
P4、原告P5、原告P7及び原告P8がいずれも定年で退職し、原告P12が死亡した
こと、原告P1外一五名及び原告P21外三名が新人事制度に基づき職位を付与された
ことによって、本件取消訴訟の訴えの利益は右各原告との関係では消滅したといえ
るか。
第三当事者の主張
一原告らの主張
1原告P1外一五名及び原告P21外三名の原告適格について
労働委員会命令取消訴訟において、原告適格を有する者は、当該命令の取消しを
求めるにつき「法律上の利益(行政事件訴訟法九条)」を有するものでなければな
らないが、「法律上の利益」を有するか否かは、命令主文において不利益な取扱い
を受けたか否かを基準として決せられるものである。
ところで、原告P21外三名は、本件初審命令では昇格が認められたのに、本件命
令では認められず、また、原告P1外一五名は、本件命令において、本件初審命令に
比較し、昇進すべき職位及びその時期についていずれも不利益に変更された。
このように、原告P1外一五名及び原告P21外三名は、本件命令主文において、本
件初審命令に比較して、いずれも不利益な取扱いを受けているのであるから、本件
命令の取消しを求める法律上の利益を有するものであり、原告適格を有する。
2歓送迎会等について
歓送迎会の費用は、支店の褒賞金という支店の金員から支出されていること、歓
送迎会等は、支店長(店舗長)、次長も出席して開催されていること、補助参加人
の発刊物に歓送迎会等の記事が載せられていること、及び補助参加人は本件和解協
定において原告組合の組合員を歓送迎会等にも参加させることを合意していること
等から、歓送迎会等の開催は補助参加人の行為であり、補助参加人が、原告組合の
組合員の歓送迎会等への参加を拒むことは不当労働行為である。
3原告P1外一五名に対する昇進差別と除斥期間及び付与されるべき職位について
(一)除斥期間
昇格・昇進差別は、差別された格付け、職位を基に次の昇格・昇進が決定され、
昇格・昇進差別が拡大、累積する性質を有するから、最初の昇格・昇進差別に遡っ
て累積したすべての昇格・昇進差別を是正することを要し、累積したすべての昇
格・昇進差別が労働組合法二七条二項にいう「継続する行為」に当たるものと解す
べきである。
また、原告P1外一五名に対する昇進差別は、本件和解協定違反であり、原告らが
補助参加人に対し、機会あるごとにその是正を求めてきたのに、補助参加人は従前
の不当な査定制度を維持しながら一貫した不当労働行為意思をもって昇進差別を続
けてきたものであるから、原告P1外一五名に対する昇進差別は労働組合法二七条二
項にいう「継続する行為」に当たるものと解すべきである。
(二)原告P1外一五名に付与されるべき職位
被告は、本件命令において、原告P1外一五名に付与されるべき職位を店舗長代理
又は店舗長代理待遇の推進役とするが、店舗長代理待遇の推進役には、①店舗長代
理と同様に部下がおり、その責任加給も店舗長代理と同じ一万六〇〇〇円の店舗長
代理と同職位の推進役(本部の推進役)と、②店舗長代理と異なり部下はおらず、
その責任加給も店舗長代理より低い推進役(店舗の推進役)という待遇の異なる二
つの推進役がある。本件命令にいう店舗長代理待遇の推進役が、①だけでなく②も
含むという趣旨、あるいは、②に限定する趣旨であるとすれば、本件昇進差別の救
済として不十分であるし、また、①に限定する趣旨であったとすれば、本件命令の
表現では、②も含むと解される余地があり、明確性に欠けるから、いずれにして
も、本件命令は、この点につき、被告がその裁量権を逸脱したものとして取消しを
免れない。
4補助参加人が原告P21外三名を副参事に昇格させないこと及び店舗長代理に昇
進させないことと不当労働行為の成否について
補助参加人は、原告P21外三名を副参事に昇格させず、店舗長代理に昇進させな
い。これは、原告P21外三名が原告組合所属の組合員であることを理由とする昇格
差別及び昇進差別であり、労働組合法七条一号にいう不利益な取扱いに当たる。
本件には、補助参加人が原告P1外一五名及び原告P21外三名全員について不当労
働行為意思を有していること、原告P21外三名と同期・同給与年齢の芝労組の組合
員との間に、副参事昇格及び店舗長代理昇進について明確な不利益格差があること
という特質がある。これらの特質からすれば、原告P21外三名が原告組合所属の組
合員であることを理由とする昇格差別及び昇進差別を受けていると一般的にみるこ
とができる。そうである以上、原告P21外三名に対する昇格差別及び昇進差別を否
定するには、右の特質を排除する特別の合理的な理由が必要であるが、そのような
特別の合理的な理由は存在しない。
(一)副参事昇格試験の不公正
(1)係長昇進差別(副参事昇格試験合格の決定的条件としての係長昇進の欠
如)
補助参加人は、職位の上で係長に昇進していない限り副参事に絶対に昇格させな
い。係長昇進は、副参事昇格試験合格の決定的条件である。しかるに、補助参加人
は、不当労働行為により原告P21外三名を係長に昇進させないから、原告P21外三
名は副参事に昇格させられない。これは、補助参加人が不当労働行為により条件成
就を妨げているものである。
(2)人事考課差別(合格を困難にする低い査定)
副参事昇格試験では人事考課においていかなる評定を受けるかが合否を左右す
る。人事考課においてB以下の認定をされれば、それだけで合格できないことにな
る。原告P21外三名は、昭和五六年以降、補助参加人の不当労働行為によりB以下
に評定されていた。
ア補助参加人は、原告P21外三名に対し、その能力が十分に発揮しえないよう
に、同原告らに与える仕事、すなわち、係、担当地域及び業務目標について不当な
差別をし、場合によっては、原告組合の組合員だけにのみ仕事の実績が上がりにく
い地域を新たに設定してまで担当させていた。
イ補助参加人は、原告P21外三名の査定者に原告組合を嫌悪し敵対する芝労組の
幹部等を配置して、原告P21外三名の実績が上がっても査定を低くする仕組みにし
ており、原告P21外三名に対する査定が公正に行われたはずがない。
(3)学科試験及び論文試験の不公正(受験勉強意欲の減殺並びに知識及び経験
習得の機会剥奪)
補助参加人は、次に述べるとおり、不当労働行為により原告P21外三名がよい得
点を取ることができないようにしていたのであるから、原告P21外三名が副参事昇
格試験に不合格になったのは得点が低いためであるということは許されない。
ア係長昇進差別及び人事考課差別による受験勉強意欲の減殺
原告P21外三名は、学科試験及び論文試験受験前に、係長昇進差別及び人事考課
差別により、副参事昇格試験に不合格となることが分かっていた。そのため、受験
勉強の意欲が減殺された。このような試験で合格点を取ることを要求することは不
可能を強いるものである。
イ学科試験及び論文試験合格に必要な知識及び経験習得の機会の面での不公正
①係長に昇進すれば、「新任係長合宿研修」を受けることができ、更に、担当職
務により、「新任融資役付研修会」、「定期積金増強講座」、「新任事務役付研修
会」、「しんきん保証基金研修会」、「外国為替実務研修」等の研修を受けること
ができる(甲第六号証(原告P20作成「昭和五九年度係長研修一覧表」)、第一三
号証(「研修スケジュール」)、乙第一五七号証(「各種研修日程一覧」))。係
長は、これらの研修において、「管理者の条件」、「部下の育成、指導」、「融資
管理のポイント」、「融資申請上の問題点」、「債権管理」、「事務管理の基
本」、「事故事例とその対応」、「輸出為替の実務と取引進推策」、「輸入為替の
実務と取引推進策」、「しんきん保証付融資の拡充、審査・管理」、「代位弁済手
続」等について、金融機関の職員としての専門的知識、業務知識、ものの考え方等
を習得する機会が与えられている。(甲第六号証、第一三号証、乙第一五七号証)
また、係長に昇進すれば、部下を持ち、日常的により広い視野で業務を把握する
ことができる立場に立つから、平職員より多くの知識、ものの考え方を習得し、経
験を積むことができるようになる。
原告P21外三名は、補助参加人の不当労働行為により係長に昇進できず、平職員
に留め置かれていたために、前記各研修を受けたり、日常的業務を通じて知識を習
得し、経験を積む機会を全く奪われている。
例えば、昭和六〇年度の論文試験の問題は、「金融自由化が進む中であなたは管
理者としてどう対応しようと考えているか述べて下さい。」というものであり、係
長経験者に有利なものであることは明らかである。
②金融機関の職員であれば、一度は融資受付を経験するのが通常であるが、原告
P21外三名を含む原告組合の男性組合員は、昭和四三年の組合分裂以降、誰一人と
して融資受付に配属されていない。そのため、原告P21外三名は、融資受付業務を
通じて業務知識を習得することができず、融資受付に配属されれば当然受講できた
はずの「新任融資受付研修」(甲第一三号証、乙第一五七号証)等の研修を受講す
ることもできなかった。
これに対し、副参事昇格試験合格者は、そのほとんどが融資受付業務を経験した
上で受験している。
原告P21外三名を含む原告組合の組合員が担当している業務についても、「渉外
能力開発講座」、「担保督促研修会」等の研修も実施されているが、対象者は補助
参加人の指名する者である(甲第一三号証)。原告P21外三名は、対象者として指
名されず、これら研修を受けることができなかった。
③さらに、原告P21外三名は、職場で原告組合の組合員とは「挨拶もするな」、
「口もきくな」との孤立政策が採られているために、日常業務において生起する問
題、疑問等を上司、同僚に聞いてもまともに答えてもらえず、通達類も回されず、
規程集やマニュアルも容易に閲覧できない差別扱いを受けているので、いわゆるオ
ンザジョブ・トレーニング(OJT)により業務知識や金融マンとしての物の考え
方を習得していく機会を奪われている。
ウ補助参加人の論文試験は、採点者の恣意、主観によって評価が大きく異なるも
のであって、客観性を有しないだけでなく、採点者が受験者を特定できる仕組みと
なっており、人事考課について述べたと同様、その評価が公正に行われたはずがな
い。
(4)原告P21外三名は、右(1)から(3)までに述べた様々なハンディキャ
ップを負わされており、これらが密接不可分につながり、幾重にも重ね合わさる相
乗効果により、副参事昇格試験の合格水準に達することが不可能になっていた。本
件命令は、これらを別々のものとして切り離して判断したために、「原告P21外三
名が副参事昇格試験に合格しないのは、学科試験及び論文試験の得点が低いためで
あり、不当労働行為ということはできない」とする誤りを犯した。
補助参加人は、希望すれば資格・職位に関係なく受講できる「自己啓発講座」を
設けたり、事前にガイダンスを配布する等しており、解説書等もあるので、本人の
意欲があれば、努力次第で学科試験及び論文試験合格に必要な知識は習得できると
主張し、丙第三八号証にはこの主張に沿う記載があるが、前記のように、様々なハ
ンディキャップが幾重にも重ね合っているから、本人の意欲や努力で解消しうるも
のではない。現に、原告P21外三名は、自主的に集まって学習会を開く等のできる
限りの努力をしているにもかかわらず、副参事昇格試験に合格できないのである
(原告P24本人(平成七年九月二一日付け本人調書一二六項から一二九項まで)。
(二)年功を加味した副参事昇格
(1)年功を加味した運用の事実
本件命令は、係長昇進及び店舗長代理昇進について年功的な運用を認めながら、
副参事昇格だけは副参事昇格試験の成績によっていると判断し、年功を加味した運
用の事実を否定したが、この判断は事実に反する。
補助参加人において副参事昇格は年功を加味して行われており、原告P21外三名
だけがこの運用から排除された。年功を加味した副参事昇格とは、いわゆる自動昇
格制度を意味するものではなく、同期・同給与年齢の者が、一定の幅の勤続年数の
間にほぼ全員が昇格し、さらには何らかの理由で遅れていた者も例外者を除き最終
的には昇格するような人事運用を意味する。
なお、ここでいう同期・同給与年齢とは、第一に、原告P1外一五名及び原告P
21外三名と同じ年度の同時期に雇用された職員で、かつ、高校新卒の者、第二に、
右雇用から四年後の同時期に雇用された職員のうち、大学新卒の者をいう。第二の
類型を加えたのは、補助参加人においては、学歴による賃金格差は設けないものと
しており、大卒者については、大学四年間の経験を高卒者の雇用後の四年間と同じ
に考え、四年前に雇用された高卒者と同一の給与額としているためである。
(2)副参事昇格実態
ア昭和三三年度から昭和四二年度までに雇用された高卒者(昭和三七年度から昭
和四六年度までに雇用された大卒者)で芝労組の組合員である者について副参事昇
格実態を見ると、次のとおりである(甲第六〇号証(原告P24作成「入識別・年功
(勤続年数)による副参事以上への昇格の割合」、第六二号証(右を折れ線グラフ
に表したもの))。
①同期・同給与年齢の者から最初に副参事に昇格した勤続年数は、一三年から一
四年に集中している。
②同期・同給与年齢の者の半数以上が副参事に昇格した時期は、勤続年数一六年
から一七年に集中している。
③勤続年数一九年でほぼ全員が副参事に昇格している。
④結局、昇格の時期は勤続年数一三年から一九年までの七年間に集中しており、
この時期にほぼ全員が昇格している。
⑤右の時期に昇格しなかった者もその後順次昇格し、最終的には全員が昇格して
いる。
イ副参事昇格試験導入前後の昇進・昇格実態
副参事昇格試験導入前後で昇進・昇格の実態にあまり変化はない。このことは、
補助参加人において副参事昇格試験制度の下でも依然として年功を加味した運用が
行われてきたことを示す。
例えば、副参事昇格試験導入前の事例としては、原告P11の同期・同給与年齢者
は雇用後二〇年までで九五パーセントが副参事に昇格しており、二四年目までには
一〇〇パーセントが昇格していた。これに対し、副参事昇格試験導入後の事例とし
ては、原告P24の同期・同給与年齢者は、雇用後二〇年までで六七パーセントが副
参事に昇格しており、二五年目には一〇〇パーセントが昇格した。
ウ副参事昇格試験導入の前後を問わず、また、雇用者のどの期を採っても、この
ようにほぼ同じ昇格実態であることは、年功を加味した昇格以外には説明すること
ができない。
エ補助参加人が提出した丙第五四号証は、中途採用者及び降職者を加えた副参事
昇格実態を示すが、中途採用者及び降職者を除けば、原告らが指摘した新卒者の副
参事昇格実態と一致する。
(3)係長昇進の実態
ア最短が勤続一〇年
イ最も集中しているのが勤続一一年から一三年
ウ一部の例外を除いて勤続一一年から一五年の五年間に昇進
エそれより遅れた者も最終的には全員が昇進
(4)係長昇進後の副参事昇格実態
ア副参事昇格について年功を加味した運用がされているか否かを判断する上で、
係長に昇進後の副参事昇格実態も重要である。なぜなら、主事資格は自動昇格制度
が導入され、その後、年功的に係長昇進が行われていて、しかも、係長昇進後、一
定の期間内に大半の者が副参事に昇格しているのであれば、主事から係長、係長か
ら副参事に至るまでの昇格・昇進は、全体として年功的に運用されているという補
助参加人の人事政策を裏付けることになるからである。
イ昭和三三年度から昭和四二年度までに雇用された高卒者(昭和三七年度から昭
和四六年度までに雇用された大卒者)で芝労組の組合員である者について係長昇進
から副参事昇格までの経過年数ごとの昇格実態を見ても(甲第六一号証(原告P
24作成「係長昇進から副参事昇格までの経過年数ごとの昇格割合」)、また、昭和
四八年から平成五年の間に係長に昇進して副参事昇格試験に合格した者の昇格実態
を見ても(甲第二号証の一から三まで(原告P24作成「副参事昇格試験合格までの
係長在職年数」)、次のような傾向が見られる。
①係長昇進後早い者で一年、半数以上の者が昇格した年数は三年から四年に集中
しており、大半は五年で副参事に昇格している。係長昇進後平均四年から五年で副
参事に昇格しているということができる。
②右の時期に昇格しなかった者も順次昇格し、最終的には全員が副参事に昇格し
ている。
ウ係長昇進後の副参事昇格までの年数が、いずれの期も大きな差がなく右のよう
に集中している事実は、年功を加味した運用でなければ説明し得ない。
(5)副参事昇格試験によらずに昇格させた例外措置
ア本件和解協定による原告組合の組合員三名の昇格及び労働委員会のアフターケ
アによる原告組合の組合員一四名の昇格
①補助参加人は、本件和解協定及びいわゆるアフターケアによって、副参事昇格
試験の受験なしでの原告組合の組合員の副参事昇格を認めた。
重要なのは、補助参加人が副参事昇格試験の合否に関係なく副参事に昇格させる
という本件和解協定を締結し、いわゆるアフターケアによって副参事昇格試験の受
験なしで副参事昇格を認めた理由である。
補助参加人は、芝労組の組合員については、年功を加味して係長に昇進させ、そ
の後四年から五年で副参事に昇格させるという年功を加味した運用を行っており、
原告組合の組合員に対する差別を是正するには、芝労組の組合員の昇進・昇格の実
態に符合させなければならなかったからである。
②本件和解協定当時、原告P2、原告P3及び原告P1と同期・同給与年齢の芝労組
の組合員はいずれも全員が副参事以上に昇格しており、原告P4から原告P20までの
一四名についても、その同期・同給与年齢の芝労組の組合員はほとんどが副参事以
上に昇格していた。
さらに、本件和解協定では、原告P4から原告P20までについて、副参事昇格にか
かわりなく、主事資格取得後副参事相当の給与(本件和解協定Cテーブルの給与)
を支給することとされた。Cテーブルは三八歳から適用とされており、当時、補助
参加人では、遅くとも三八歳になれば副参事にほとんど全員が昇格するという年功
を加味した運用がされていたことを証明している。
③本件和解協定当時の文書を見ても、補助参加人が、差別是正を考えていく基準
として年功によることを当然の前提として容認していたことが分かる。本件和解協
定締結までの補助参加人の各提案はすべて年齢を重要な基準としていた。
例えば、昭和五四年四月二七日の提案(丙第六〇号証(昭和五四年五月二九日付
け補助参加人理事長名義の「自主交渉における経過報告書(二))では、三三歳以
上の原告組合の組合員に対し、特別賃金テーブル(別表A)の賃金を支給すること
を提案している。このテーブルの一号俸は主事の賃金テーブル一号俸に相当する金
額であり、補助参加人が三三歳以上についてこのような賃金テーブルを用意したの
は、「現状において三三歳以上の労組所属職員はすべて主事となっているからであ
る。この事実を賃金改訂の基礎とした。」としていた。補助参加人の最終案(乙第
一四三号証(昭和五五年六月四日付け補助参加人理事長名義の「金庫側の和解最終
案))でも、三三歳以上の原告組合の組合員に対し、特別賃金テーブル(別表A)
の賃金を支給する提案を維持している。
補助参加人は、資格の付与は昇格試験合格を必要とする建前を採っていたこと、
芝労組との関係を考慮しなければならなかったことから、まず賃金を調整すること
とし、昇格については次のような提案をした。
昭和五四年六月二〇日には、「男子三三歳以上を五年以内に昇格試験を受験さ
せ、段階的に全員主事資格職まで是正する」ことを提案した(丙第六一号証(補助
参加人作成「自主交渉における経過報告書(3)」))。
同年七月二七日には、「(原告組合所属男子職員)のうち三八歳以下の者は金庫
所定の昇格試験を受験するものとし、その結果をも勘案し、三年以内(中略)に段
階的に全員主事資格を付与する。」、「(原告組合所属男子職員)のうち三九歳以
上の者は金庫所定の昇格試験を受験するものとし、その結果をも勘案し、二年以内
に段階的に(一年目二年目各五〇パーセントずつを基準とする)全員主事資格を付
与する。」、「(原告組合所属男子職員の中で既に主事資格を有する者)は金庫所
定の昇格試験を受験するものとし、その結果をも勘案して三年以内に段階的に全員
副参事資格を付与する。」、「(原告組合所属男子職員のうち三九歳以上の者で右
により主事資格を取得した者)はさらに昇格試験を受験するものとし、その結果を
勘案し、和解成立から五年以内に若干名に副参事資格を付与する。」ことを提案し
た(丙第六二号証(昭和五四年七月二七日付け補助参加人理事長名義の「賃金・資
格に関する金庫案」))。
昭和五五年六月四日には、「(原告組合所属男子職員)のうち三七歳以下の者は
金庫所定の昇格試験を受験するものとし、その結果をも勘案し、三年以内(中略)
に段階的に全員主事資格を付与する。」、「(原告組合所属男子職員)のうち三八
歳以上の者は金庫所定の昇格試験を受験するものとし、その結果をも勘案し、二年
以内に段階的に(一年目、二年目各五〇パーセントずつを基準とする。)全員に主
事資格を付与する。」、「(原告組合所属男子職員の中で既に主事資格を有する
者)に該当する者は金庫所定の昇格試験を受験するものとし、その結果をも勘案し
て三年以内に段階的に全員副参事資格を付与する。」、「(原告組合所属男子職員
のうち三八歳以上の者)に該当する者で主事資格を取得した者はさらに昇格試験を
受験するものとし、その結果をも勘案し、和解成立から五年以内に若干名に副参事
資格を付与する。」ことを提案した(乙第一四三号証(昭和五五年六月四日付け補
助参加人理事長名義の「金庫側の和解最終案」)。
「本和解成立後二年以内に金庫所定の昇格試験を受験のうえ、段階的に主事資格
を付与する」という補助参加人の提案について、原告組合は、「段階的に」を「年
齢順に」とすることを提案していたが、昭和五五年六月六日及び同年六月一七日に
行われたトップ交渉において、「協定文では金庫提案どおり「段階的に」とし、覚
書などに「段階的に行なうにあたっては、年齢を重視する」と記載する案を提案
し、補助参加人は、都労委の「知恵」を借り、解決に努力すると答えた(丙第六九
号証(昭和五五年七月二日付け原告組合外一名作成「トップ交渉の経過につい
て」))。
本件和解協定に当たっての議事録確認(乙第一六六号証)でも、和件和解協定に
おいて原告組合の組合員の副参事昇格について「段階的に行う」と定めた点につ
き、「段階的に」行うに当たっては年齢を考慮するとしている。
イ特別措置及び政治的配慮による昇格
補助参加人は、原告組合の組合員一四名を副参事に昇格させた時点で、芝労組の
組合員一名(P77)を副参事昇格試験に合格しないのに副参事に昇格させた。これ
は、年功を加味して昇格させたものである。
補助参加人は、昭和五七年度の昇格について、副参事昇格試験の成績によらない
で、「政治的配慮」により芝労組の組合員を昇格させた。これも年功を考慮して昇
格させたものであること以外考えられない。
ウ抜擢人事
補助参加人は、副参事以上であるが、昇格試験の結果に関係なく四名の者を昇格
させた。これは、昇格試験による合格が昇格の絶対的条件であることを否定するも
のである。
(6)補助参加人申請の証人の証言
別件女性差別訴訟において、補助参加人の人事部副部長P78は、証人として、新
人事制度導入以前も年功を加味した運用をしていたことを認める証言をした(甲第
五号証(平成六年二月九日付け証人調書)の二五三項、二五四項)。
(7)補助参加人の主張に対する反論
補助参加人は、同一年度の副参事昇格者の雇用年度が最短の者と最長の者とで二
〇年以上の開きがあることをもって年功を加味した運用を否定する根拠としてい
る。しかし、原告らの主張する年功を加味した運用とは、前記のとおり、昇格等に
幅を認めない「純粋年功序列制」、「自動昇格・昇進制度」のことではない。強度
に年功が加味され、全体として見て、ある一定の幅で年功(入社経験年数)に応じ
て昇進、昇格している人事政策であれば、年功を加味した運用に当たる。
また、一部の昇格が遅れた例外者を理由に年功を加味した運用を否定することは
できない。係長昇進が何らかの理由で遅れた者は、副参事昇格も遅れる結果となる
が、最終的には昇格している。
(三)原告P21外三名の能力と副参事昇格
(1)副参事に必要な能力
副参事に必要な能力は日常の業務の処理が十分できる程度のもので足りる。
副参事昇格後の店舗長代理への昇進は年功を加味して運用されている。本件命令
も、「店舗長代理又は店舗長代理待遇の進進役は、年功で昇進できる職位であるか
ら、この昇進に必要な能力については、日常の業務の処理が十分に出来る程度のも
ので足りると解される。」と指摘している。したがって、副参事に必要な能力は日
常の業務の処理が十分できる程度のもので足りるというべきである。
そのことは、副参事昇格の実質的意味が賃金面での処遇のためであることからし
ても明らかである。
(2)原告P21外三名の能力
本件命令は、原告P1外一五名の日常の業務遂行能力が通常程度に達しており、店
舗長代理又は店舗長代理待遇の推進役までの昇進の前提となる程度の業務遂行能力
に達していたと判断している。補助参加人は、原告P1外一五名に関する救済命令に
対する取消訴訟を提起していない。
原告P21外三名は、既に副参事に昇格している芝労組の組合員や原告P1外一五名
と同様、日常の業務の処理が十分にできる能力を有しており、店舗長代理の職務を
十分遂行することができる。
二被告の主張
1原告適格について
行政処分によって不利益を受けたとして、これに不服申立てをすることができる
者は、原則として、当該行政処分の名宛人に限られるところ、原告P1外一五名及び
原告P21外三名は、本件命令の名宛人ではないから、本件命令の取消訴訟において
原告適格を有しない。
したがって、原告P1外一五名及び原告P21外三名の本件訴えは不適法であり、却
下されるべきである。
2歓送迎会等について
歓送迎会等が、個人的な領域を超えて、職場としてどの程度計画的、組織的に行
われたのか具体的には明らかでないから、歓送迎会等の開催が補助参加人の行為と
断定することはできず、原告組合の組合員が歓送迎会等への参加を拒否されたこと
が、補助参加人の不当労働行為であるとはいえない。
3原告P1外一五名の昇進の時期
昇進は、その決定行為がされた時点で完了し、継続する行為とは認められないか
ら、救済申立ての一年前である昭和六一年六月一七日以前に係る申立ては却下を免
れない。
ところで、昇進に関する不利益取扱いの申立てについては、申立日より前一年以
内の昇進時期において、使用者による不利益取扱いの事実が認められ、かつ、その
不利益取扱いがそれ以前に使用者によってなされた作為又は不作為によるものであ
ると認められる場合であって、現に存する差別ないし不利益取扱いについて救済を
求めていると認められるときには、その差別ないし不利益取扱いの是正を命じるこ
とは、労働組合法二七条二項に抵触するものではない。
原告組合の申立ては申立日より前一年以内において、現に存する差別ないし不利
益取扱いの是正を求める趣旨と解されるから、原告P1外一五名を昭和六一年六月一
八日に昇進したものと取り扱うことはできる。
4原告P21外三名を副参事に昇格させないこと及び店舗長代理に昇進させないこ
とと不当労働行為の成否について
(一)補助参加人においては、職能資格制度が採られており、職員の職務遂行能
力に応じて等級付けを行い、資格を付与している。それぞれの資格について職能資
格等級基準が設けられている。主事から副参事に昇格するには昇格試験に合格して
副参事の職能資格等級基準の定める要件を充足することが必要である。
受験回数が増えるに従って合格率が高くなるのは当然のことであるから、そのこ
とをもって直ちにいわゆる年功による昇格も認められていると考えるのは相当では
ない。また、人事上の枠組み、予算措置の観点から合格者数が変動することも当然
であるから、合格者数が変動することをもって、直ちに昇格試験制度が厳格には運
用されていないと解することも相当ではない。
原告組合は、本件和解協定において昇格試験制度を承認し、原告P21外三名もこ
の試験を受験しているから、人事考課(査定が公平に行われたか疑問がある)以外
の科目で原告P21外三名が合格水準に達していたことの証明が必要であり、その証
明がない限り昇格試験に合格したものとみなすことはできない。
(二)原告P21外三名は、受験した年度の昇格試験において、人事考課点を受験
者中の最高点と入れ換えても合格者の最低点に満たないから、原告P21外三名が合
格水準に達していたことの証明はない。原告P21外三名は学科試験及び論文試験の
得点が低かったために合格できなかったものである。
したがって、補助参加人が、原告P21外三名を副参事に昇格させず、その結果、
店舗長代理に昇進させなかったことには理由があり、これをもって不当労働行為に
当たるとはいえない。
三補助参加人の主張
1原告P1外一五名及び原告P21外三名は都労委における不当労働行為救済命令申
立て事件の申立人ではなく、かつ、被告に対する再審査申立人でもないので、本件
取消訴訟の原告適格を有しない。原告P1外一五名及び原告P21外三名の訴えは却下
されるべきである。
なお、補助参加人は、平成九年五月八日、原告P10を原告本人として尋問を行う
ことにつき異議を申し立てた。この異議は却下されたが、不当な判断である。原告
P1外一五名及び原告P21外三名の尋問は、本来証人の立場で、証言としてされるべ
きであり、原告本人尋問としてされた供述の証明力は大幅に減殺されなければなら
ない。
2補助参加人が主催する歓送迎会、新年会及び忘年会は存在しない。その限りで
本件命令が本件初審命令の事実誤認を是正したのは正当である。
3本件命令は除斥期間の規定に基づく判断を行ったまでであって、何ら違法な点
はない。
4本件命令が、原告組合が「昇格試験制度を承認している限り、少なくとも人事
考課以外の科目で合格水準に達していたであろうことを推認させる程度の疎明が必
要であって、その疎明のないかぎり昇格試験に合格したものとみなすことはできな
い」と判断しているのは、結論において正当である。
(一)原告らの主張4(一)(副参事昇格試験の不公正)について
(1)原告らの主張4(一)(1)(係長昇進差別(副参事昇格試験合格の決定
的条件としての係長昇進の欠如))について
原告らの主張4(一)(1)の事実は否認する。
補助参加人において、職位の上で係長に昇進していない限り副参事には昇格しな
いという人事管理が確立していたことはない。係長昇進が副参事昇格の条件である
ことが補助参加人内で公知の事実となったことはないし、証人P27もそのような事
実を明確に否定している。
原告P21外三名は、昭和六二年度から平成元年度の三年間は全員が副参事昇格試
験を受験した。右各年度の副参事昇格試験受験者の受験結果を表にまとめたのが丙
第八二号証から第八四号証まで(補助参加人人事部次長P79作成「昭和六二年度か
ら平成元年度までの副参事昇格試験受験者の年齢別獲得得点分布表」)である。緑
色の点が係長及び推進役以外のいわゆる無役の受験者を示すが、丙第八二号証から
第八四号証までによれば、無役の受験者とそうでない受験者とが層として分かれ、
無役の受験者が比較的低位にとどまっていることが明らかである。補助参加人は、
各年度の昇格者の枠組みを決め、副参事昇格試験の成績上位者からリストアップし
て合格者を決定しているのであって(証人P80(平成九年一〇月二日付け証人調書
五二項)、職位の上で係長に昇進していない限り副参事に昇格させないなどという
人事管理を行ったことはない。
丙第七五号証、第八二号証から第八四号証までによれば、原告P21外三名は、昭
和五八年度、昭和五九年度、昭和六二年度及び平成元年度に副参事昇格試験を受験
したが、得点が低く、当該年度の人事考課最高点に置き換えても合格点に達しない
こと、原告P21外三名は、昭和六二年度から平成元年度の副参事昇格試験におい
て、受験者全体の中で相対的に年齢が高く、成績は低い位置にあり、しかも、年度
が異なっても、受験者全体の中で占める位置は変わらず、原告P21外三名相互の位
置関係も変わらないことが明らかである。
右の事実は、副参事昇格試験が受験者の職務遂行能力を正確に判定しているもの
であること、原告P21外三名が成績低位のため不合格になったことを示すものであ
る。
(2)原告らの主張4(一)(2)(人事考課差別(合格を困難にする低い査
定))について
ア補助参加人の人事考課は公正である。別件女性差別訴訟の判決も、次のとおり
認定して、補助参加人の人事考課が公正であることを認めている。
「証拠によると評定者は、人事考課の目的を十分に理解し、主観的判断を排除し、
公正かつ客観的に評定をしなければならない責務を負っており(人事考課規程二
条)、人事部は、定例的に評定者訓練を行うほか、評定者において特に問題がある
と認めた場合に本人に通知し、個別的指導がなされ(人事考課規程一七条)、実際
このような評定者訓練を実施していたのであり、また、評定は、第一次から第三次
まで行われ、店舗長代理が第二次評定者で店舗長が最終評定者となって、主観的評
定のなされるのを排除し、公正かつ客観的に評定がなされるように運用されている
ことを認めることができるから、第一次評定者が係長であるということのみによっ
て評定全体が原告らの主張するように不公正・不公平であると即断することはでき
ないし、平成二年一一月一日以降は係長ではなく課長となったのであるから、この
面からも公正さは一応担保されることとなったといえる。
また、評定者にいかなる職員がなるかは人事政策上の事柄であって、評定制度
は、人事考課制度を採用している以上一つの合理的な制度であることは否定できな
いし、原告等とライバル的関係にあるとはいっても係長に就任している職員が第一
次評定者となることは原告等に対する直属の上司が係長である以上は十分に合理性
を有するし、やむを得ないところである。原告等の主張は、結局のところ評定制度
を否定することに帰し、採用できない。」
「核心は評定者に如何なる立場の職員がなっているかにあるのではなく、原告等に
対し如何なる評定がなされたかにある。原告等の主張は、結局のところ、組合間対
立が存する場合には少数組合所属組合員に対する多数組合員の役職者ないし役職経
験者が評定すること自体が不公正・不公平であるというに帰し、このことは職員の
圧倒的多数が労組員である被告(本件の補助参加人を指す。)にあっては評定制度
自体を否定することに帰すこととなるのであって採用できない。」
イ人事考課の査定項目は、実績のみに尽きるものではなく、能力項目、勤務態度
項目等多岐にわたり、かつ、評価期間ごとに査定が行われるから、原告らの過去の
ごく一部の実績を根拠に、補助参加人の人事考課が公正でないということはできな
い。
ウ補助参加人は、職員が実績の上がりにくい地域を担当した場合は、獲得目標額
を低く設定しており、人事考課において日常業務実績を考慮する上で担当地域によ
る不利益はない。昭和五六年四月の高輪支店における原告P21の目標値及び昭和六
〇年五月の新城支店における原告P23の目標値は、いずれも得意先係の他の係員の
平均目標値より低く設定されていた。
(二)原告らの主張4(二)(年功を加味した副参事昇格)について
(1)原告らの主張4(二)(1)の事実のうち、補助参加人において副参事昇
格が年功を加味して行われており、原告P21外三名だけがこの運用から排除された
ことは否認する。
本件命令が「受験回数が増えるに従って合格率の高くなるのは当然のことであっ
て、そのことをもって直ちにいわゆる年功による昇格も認められていると考えるの
は相当ではない。また、金庫の組織上の要請による人事上の枠組みの問題もあり、
地位の付与は予算を伴うものであって、合格者数は毎年変動を免れないと考えるの
は自然であり、このことをもって、直ちに昇格試験制度が厳格には運用されていな
いと解することも相当ではない。」とするとおりである。副参事昇格試験は厳正に
実施されてきた。
補助参加人は、支払能力その他の経営戦略上の検討を加えて、当該年度の副参事
の職務能力を有する者としての昇格者の枠組み人数を決定し、成績上位者からリス
トアップして昇格者を決定している。
実際、昭和五五年度の副参事昇格者は雇用年度が昭和二七年から昭和四六年まで
二〇年もの開きがあり、昭和五六年の場合は昭和二五年から昭和四六年まで二二年
もの差がある(丙第五五号証(P78作成「副参事への昇格発令年度別の昇格人数
(入識年度別)」、証人P80の証言(平成九年一〇月二日付け証人調書五三項から
五七項まで))。また、例えば、原告P24の同期・同給与年齢の芝労組の組合員の
場合、最初の昇格者は昭和五四年度に出現し、いまだ昇格しないものもあるが、平
成二年度に昇格した者との間でも一一年間経過している。同期の者が、例えば三年
程度の範囲内で逐次昇格しているのであれば、年功を加味した運用という問題が生
じようが、補助参加人の場合のように、同期の中で一〇年以上も昇格の時期がずれ
るということはおよそ年功的運用の名に値するものではない。
原告らが一〇〇パーセント近く昇格しているとして援用する同期の男性職員と
は、雇用当初からすると、何十年も勤めてきた一部の者だけである。その余の者
は、理由は種々あるものの、順次中途で退職している。現在在職者に限った統計処
理は、右の点を看過するものである。
年功的人事政策などとのそしりを受ける理由はない。
5(一)原告P18は昭和六二年七月二〇日補助参加人を辞職申出により退職し、
原告P6は昭和六二年七月四日、原告P2は平成四年一〇月二一日、原告P3は平成六
年四月五日、原告P1は平成五年五月九日、原告P4は平成六年四月二〇日、原告P
5は平成七年三月二三日、原告P7は平成八年七月六日及び原告P8は平成九年七月三
日いずれも定年で補助参加人を退職し、原告P12は平成五年一一月一一日死亡し
て、補助参加人の職員の地位を喪失した。
(二)また、補助参加人は、平成二年四月一日導入の新人事制度に基づき、原告
P1外一五名及び原告P21外三名に対し、次のとおり一定の職位を付与した。
(退職者)
原告P2上級事務担当
原告P3上級融資担当
原告P1上級融資担当
原告P4上級営業担当
原告P5上級事務担当
原告P7上級融資担当
原告P8上級融資担当(平成七年四月一日上級営業担当)
亡P12上級事務担当(平成三年四月一日上級融資担当)
(在職者)
原告P9上級融資担当
原告P10上級融資担当
原告P11上級営業担当(平成三年四月一日上級事務担当)
原告P17上級営業担当(平成五年四月一日上席営業担当、平成八年一〇月一日上
席融資担当)
原告P19上級営業担当(平成五年一〇月一日上級融資担当、平成九年四月一日上
級営業担当)
原告P20上級事務担当(平成三年四月一日上級融資担当、平成九年四月一日上級
営業担当)
原告P22上級事務担当(平成五年四月一日上級営業担当、平成九年四月一日上級
事務担当)
原告P23上級事務担当(平成五年一月一八日上級営業担当)
原告P21上級融資担当(平成三年一〇月一日上級事務担当)
原告P24上級融資担当
(三)以上のとおり、補助参加人の職員の地位を喪失したこと、補助参加人によ
って平成二年四月一日導入の新人事制度に基づき職位を付与されたことからすれ
ば、対象者につき本件命令の取消しを求める訴えの利益は存しない。
(四)補助参加人は、本件命令主文Ⅳに基づくポストノーティスを命令どおり履
行した。原告P21外三名の昇格は認められないから、「昇格」に関するポストノー
ティスを求めて本件命令の取消しを求める訴えの利益は存しない。
第四当裁判所の判断
一原告適格について(争点1)
原告P1外一五名及び原告P21外三名は、本件初審命令の審査手続及び再審査手続
における申立人及び再審査被申立人となっていなかったので、本件命令につき「当
該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」(行政事件訴訟
法九条)に当たるか否かが問題となる。
労働委員会の審査手続において、申立人とならなかった労働者は、その所属する
労働組合の不当労働行為救済申立てが棄却され、棄却命令に対する再審査申立てが
棄却され、又は救済命令に対する使用者の再審査申立てが認容されたとしても、こ
れによって労働者個人の救済を受ける権利を侵害されたとはいえない。実際には救
済申立期間の経過等による制約を受けることがあり得るが、それは別問題である。
確かに、右労働者は、所属する労働組合が救済を申し立て、この申立てに基づき救
済命令が発せられ、これが履行されれば利益を受けることになるが、それは事実上
の利益であるにすぎない。また、右労働者は、労働組合が右棄却命令(再審査申立
て棄却命令、あるいは、使用者の再審査申立て認容命令)に対する取消訴訟を提起
した場合において、この訴訟につき言い渡された請求棄却の判決の既判力を受けな
い。
したがって、労働委員会の審査手続きにおいて、申立人とならなかった労働者
は、労働委員会命令の取消しを求めるについての法律上の利益を有しないと解され
る。
本件において、原告P1外一五名及び原告P21外三名については、本件初審の審査
手続及び再審査手続において、申立人ないし再審査被申立人となっていないから、
原告組合以外の原告らの本件訴えはいずれも却下する。
原告らは、取消訴訟において原告適格を有する者は、命令主文において不利益な
取扱いを受けた者であり、原告P1外一五名及び原告P21外三名は、いずれも本件初
審命令より本件命令における救済水準が低下したのであるから、原告適格を有する
と主張するが、そのような点を根拠にして原告P1外一五名及び原告P21外三名の原
告適格を肯定することはできない。
なお、本件訴訟においては、原告P10、原告P20及び原告P21外三名について原
告本人尋問として尋問を実施したが、証拠方法として当事者本人又は証人のいずれ
に当たるかは、その者のその訴訟における形式的な資格で決まるから、その者が原
告適格を有しないときであっても、訴え却下の判決をする前に尋問を行うときに
は、原告本人として尋問を行うべきであり、その結果は、原告本人尋問の結果とし
て証拠としての価値を有するものと解するのが相当である。
二歓送迎会等について(争点2)
証拠(乙第二五三号証(都労委における昭和六三年三月一八日の第二回審問調書
別紙速記録(証人P3)通し丁数一九丁、第三六二号証(被告における平成二年三月
二二日の第二回審問調書別紙速記録(証人P12)通し丁数一二五丁から一二八丁ま
で、原告P20本人(平成六年一一月一六日の口頭弁論期日の本人調書一四三項から
一八三項まで、平成七年三月二日の口頭弁論期日の本人調書六〇項から七一項ま
で)の中には、補助参加人の出捐した褒賞金が歓送迎会等に使われていること、歓
送迎会等の開催の音頭をとるのが店舗の管理者であって、管理者も出席しているこ
とを理由に、補助参加人が歓送迎会等を主催しているとする原告らの主張に沿う部
分がある。
甲第七号証の一から四まで、乙第三三三号証、第三五八号証(被告における平成
二年一月一九日の第一回審問調書別紙速記録(証人P81)通し丁数一七一丁から一
七五丁まで、証人P27の証言(平成七年一二月一四日の口頭弁論期日の証人調書九
二項から一〇〇項まで)及び弁論の全趣旨によれば、補助参加人は定期的に一定の
目標を掲げた増強運動を行い、成果を上げた店舗に褒賞金を出していること、褒賞
金の使途は店舗の支店長(店舗長)に任されており、組織運営上必要であると判断
すれば歓送迎会等の費用に支出していること、店舗の管理者も歓送迎会等に参加し
ていること、補助参加人の刊行物に店舗の歓送迎会等の記事が載せられているこ
と、本件和解協定において、補助参加人は、本件和解協定後、職場での歓送迎会等
については、原告組合の組合員を他の職員と区別することなく参加させることを約
していることが認められるが、これらの事実の外に、補助参加人が歓送迎会等を主
催していることの裏付けとなる事実を認めるに足りる証拠はなく、乙第二五〇号証
(都労委の昭和六三年三月一〇日の第一回審問調書別紙速記録(P26証人)通し丁
数四八丁裏)、第二五四号証(都労委の昭和六三年三月一八日の第二回審問調書別
紙速記録(P26証人)通し丁数三六丁)、第三五六号証(被告における平成二年一
月一九日の第一回審問調書別紙速記録(証人P82)通し丁数四四丁)、第三五八号
証(被告における平成二年一月一九日の第一回審問調書別紙速記録(証人P81)通
し丁数一七一丁から一七五丁まで及び証人P27の証言(平成七年一二月一四日の口
頭弁論期日の証人調書九二項から一〇〇項まで)に照らすと、前記各事実に基づい
て補助参加人が歓送迎会等を主催していることを推認することは難しいし、前記乙
第二五三号証及び第三六二号証の各記載部分並びに原告P20本人の供述部分を採用
することはできない。
よって、補助参加人が歓送迎会等を主催していることを認めるに足りず、歓送迎
会等に原告組合の組合員を参加させないことが補助参加人の不当労働行為であると
いうことはできない。
三昇進に関する不当労働行為救済申立てと労働組合法二七条二項の定める期間
(除斥期間)の遵守について(争点3)
補助参加人においては、職位への昇進
の昇進の決定は、原則として毎年四月一日付けで行われており、その年度に労働者
を職位に昇進させない旨の決定は、次の昇進時期まで昇進させないという意思を包
含するものと解されるから、労働者を職位に昇進させないという行為は、年度ごと
に異なる一個の行為であり、かつ、次の昇進時期までの一年間は継続するものであ
ると解するのが相当である。
昭和六二年七月一八日に本件救済申立てがされた時点では、昭和六一年四月一日
に昇進させない旨決定した補助参加人の行為が昭和六二年三月三一日まで一個の行
為として継続し、その終了から一年以内であったことが明らかであるから、昭和六
一年四月一日に昇進させない旨決定した補助参加人の行為を対象とする救済申立て
は、労働組合法二七条二項の定める期間内にされたものとして適法である。
本件命令は、原告P1については、昭和五六年一〇月に、原告P2については、昭
和五七年四月に、原告P3については、同年一〇月にそれぞれ、店舗長代理又は店舗
長代理待遇の推進役に昇進していたとみるのが相当であるとし、また、原告P4、原
告P5、原告P6、原告P7、原告P8、原告P9、原告P10、原告P11、亡P12、原告
P17、原告P18、原告P19及び原告P20については、昭和五九年一〇月にいずれも
係長及び係長待遇の推進役に昇進していたとみるのが相当であるとしているので、
原告P1、原告P2及び原告P3が店舗長代理又は店舗長代理待遇の推進役に、原告P
4、原告P5、原告P6、原告P7、原告P8、原告P9、原告P10、原告P11、亡P
12、原告P17、原告P18、原告P19及び原告P20が係長及び係長待遇の推進役に昇
進したものと取り扱うこととすべき時期は、いずれも昭和六一年四月一日となるも
のと解するのが相当である。
原告らは、本件昇進差別は、本件和解協定違反であり、原告らが補助参加人に対
し、機会あるごとにその是正を求めてきたのに、補助参加人は従前の不当な査定制
度を維持しながら一貫した不当労働行為意思をもって昇進差別を続けてきたこと等
を理由に、本件昇進差別が「継続する行為」に当たると主張するが、補助参加人が
労働者を職位に昇進させないという行為が年度ごとに異なる一個の行為であり、か
つ、次の昇進時期までの一年間は継続するものと解するのが相当であることは既に
述べたとおりである。原告らの主張は理由がない。
以上述べたとおり、原告P1外一五名の昇進の時期に関し、本件命令は労組法二七
条二項の解釈を誤ったものといわざるを得ないから、本件命令主文Ⅲ項及びⅧ項の
右に関する部分は取り消すこととする。
四本件命令が判断した、原告P1外一五名に付与されるべき職位の内容について
(争点4)
補助参加人においては、店舗長代理待遇の推進役に、①店舗長代理と同様に部下
がおり、その責任加給も店舗長代理と同じ一万六〇〇〇円である店舗長代理と同職
位の推進役(本部の推進役)と、②店舗長代理と異なり部下はおらず、その責任加
給も店舗長代理より低い推進役(店舗の推進役)という待遇の異なる二つの推進役
があったが、本件命令は、店舗長代理の職位について、その待遇、昇進の実態を踏
まえて、これが年功で昇進できる職位であると認定し、この職位への昇進に必要な
能力については、日常の業務の処理が十分にできる程度のもので足りると判断して
おり、この店舗長代理の職位を基準として、店舗長代理又は店舗長代理待遇の推進
役が年功で昇進できる職位であり、この職位への昇進に必要な能力については、日
常の業務の処理が十分にできる程度のもので足りるとしているのであるから、本件
命令が店舗長代理と店舗長代理待遇の推進役とがほぼ同等のものであることを前提
にしているものであることは明らかである。本件命令が原告P1外一五名に付与され
るべき職位を店舗長代理に限定せず、店舗長代理待遇の推進役をも掲げたのは、補
助参加人の人事権を考慮しての措置であると解されるが、右に述べた本件命令の認
定、判断に照らせば、右職位に、店舗長代理と異なり部下はおらず、その責任加給
も店舗長代理より低い推進役(店舗の推進役)まで含む趣旨でないことは明らかで
ある。
よって、原告P1外一五名に付与されるべき職位について本件命令に不明確な点は
なく、原告らの主張は理由がない。
五補助参加人が原告P21外三名を副参事に昇格させないこと及び店舗長代理に昇
進させないことと不当労働行為の成否について(争点5)
1昇格試験の合否により昇格させるか否かを決定することとされている制度の下
において副参事に昇格させないことと不当労働行為の成否について
(一)使用者が労働者を昇格させないことが不当労働行為に当たるか否かの判断
をするには、使用者が昇格についてどのような制度を採っているかを見る必要があ
る。
(1)就業規則によって労働者が一定の給与年齢に達すれば自動的に昇格させる
旨が定められ、あるいは労使慣行によって同様の扱いが行われている場合におい
て、労働組合の組合員である労働者が昇格すべき給与年齢に達したにもかかわら
ず、使用者が不当労働行為意思をもってこの者を昇格させないときは、不当労働行
為が成立する。
(2)就業規則等により、人事考課によって昇格させるか否かを決定することと
されている場合において、使用者が不当労働行為意思をもって労働組合の組合員で
ある労働者を低く査定して昇格させなかったときは、不当労働行為が成立する。
(3)就業規則等により、昇格試験の合否の結果によって昇格を決定することと
されている場合には、使用者の人事権の行使方法を右の限度で制約することになる
ので、使用者が昇格試験不合格を理由に労働者を昇格させなかったときは、その昇
格試験が形式的、名目的なものであり、実質的には使用者の意思によって昇格させ
るか否かが決定されているときは別として、使用者が日頃組合嫌悪の言動を繰り返
していたからといって、使用者が不当労働行為意思に基づき、その労働者を昇格さ
せなかったと推断することが許されないことはいうまでもない。昇格試験におい
て、人事考課及びそれ以外の評価項目並びにそれぞれの配点がどのように定めら
れ、運用されているかを見なければならない。その実態いかんによっては昇格試験
が単なる名目的なものに過ぎず、実際には人事考課で決定されている場合と余り変
わらない場合もあり得るから、その場合には、(2)に準じて考えることになる。
これに対し、人事考課以外の評価項目の比重が大きく、人事考課の結果が補充的な
ものにとどまる場合であれば、それらの評価方法が客観的なものである限り、仮に
人事考課で差別的取扱いがされたとしても、昇格しないのは昇格試験に合格しない
からであるとして、不当労働行為の成立を否定することとなる。さらに、人事考課
とそれ以外の評価項目とがそれぞれ無視し得ない比重を持ち、それぞれがあたかも
必修単位の意味を有するような場合には、人事考課における差別的取扱い及び人事
考課以外の評価項目の成績が副参事昇格試験不合格の結果についてどのような意味
を有するかを更に検討する必要がある。
(二)昇格試験において人事考課とそれ以外の評価項目とがそれぞれ無視し得な
い比重を持ち、それぞれがあたかも必修単位の意味を有するような場合において、
使用者の不当労働行為意思に基づく人事考課における差別的な低い査定のため労働
者が昇格試験に合格する可能性を奪われたが、労働者が人事考課以外の評価項目で
成績が不振であったため、そのような差別的な低い査定を受けなかったとしても、
昇格試験に合格できなかったとしたときには、使用者の不当労働行為意思に基づく
人事考課における差別的な低い査定が労働組合法七条一号の不利益な取扱いに当た
り得るとしても、それが昇格差別という不利益な取扱いにも当たることを直ちに肯
定できるわけではない。このような場合には、不当労働行為意思に基づく人事考課
における差別的な低い査定により昇格試験不合格の結果を来したといえるか否かが
問題となっているのであるから、両者の間に相当因果関係を肯定できるか否かを検
討すべきであり、これを肯定できる場合には昇格差別という不利益な取扱いがされ
たものと解するのが相当である。
右のような場合には、まず、他に昇格試験不合格の原因として考えられる事実を
捨象した上で、不当労働行為意思に基づく人事考課における差別的な低い査定と昇
格試験不合格の結果との間に条件関係があるか否かを判断すべきである。そうしな
いと、不当労働行為意思に基づく人事考課における差別的な低い査定についても、
他に昇格試験不合格の原因として考えられる事実についても、昇格試験不合格の結
果との間に条件関係を肯定することができなくなり、昇格試験不合格の結果との間
に条件関係がある原因事実が存在しないことになってしまうからである。このこと
は、他に昇格試験不合格の原因として考えられる事実を中心に見てみれば明らかで
あろう。この事実と昇格試験不合格の結果との間に条件関係があるか否かを判断す
るに当たり、不当労働行為意思に基づく人事考課における差別的な低い査定という
事実を捨象して考えるのでなければ、条件関係を肯定することはできなくなる。こ
のように、どちらを採っても、その事実だけで昇格試験不合格の結果を来すことに
なる事実が複数存在するときは、他の事実を捨象して条件関係の有無を判断する必
要がある。
仮に不当労働行為意思に基づく人事考課における差別的な低い査定と昇格試験不
合格の結果との間に条件関係を肯定できるとすれば、次に、不当労働行為意思に基
づく人事考課における差別的な低い査定という事実を捨象して、他に原因として考
えられる事実と昇格試験不合格の結果との間に条件関係があるか否かを判断すべき
である。他に原因として考えられる事実と昇格試験不合格の結果との間に条件関係
が認められなければ、不当労働行為意思に基づく人事考課における差別的な低い査
定と昇格試験不合格の結果との間に相当因果関係を肯定することができることはい
うまでもない。他方、他に原因として考えられる事実と昇格試験不合格の結果との
間にも条件関係が認められる場合には、次のようにして相当因果関係の有無を判断
するのが相当である。
他に原因として考えられる事実が労働者の責めに帰すべき事由に基づくものであ
るか否かを検討し、仮にその事実が労働者の責めに帰すことのできない事由に基づ
くものであるときは、不当労働行為意思に基づく人事考課における差別的な低い査
定と昇格試験不合格の結果との間に相当因果関係を肯定すべきである。また、仮に
その事実が労働者の責めに帰すべき事由に基づくものであることを肯定できるとす
れば、その事実の持つ意味と不当労働行為意思に基づく人事考課における差別的な
低い査定という事実の持つ意味とを比較、検討し、不当労働行為の制度の趣旨、労
使間の公平の観点に照らし、いずれを重視すべきかを判断して、不当労働行為意思
に基づく人事考課における差別的な低い査定と昇格試験不合格の結果との間の相当
因果関係の有無につき判断すべきである。
右のように解すれば、不当労働行為の制度の趣旨を損なわずに、労使間の公平を
期することが可能になるから、右のように解することが相当である。なお、右に述
べたことは原因ないし理由の競合として論じられることと局面は異なるが、これと
関係し、基礎を同一にする問題であるので一言する。
証拠上、使用者の執った措置について、使用者の組合嫌悪の言動のように使用者
の不当労働行為意思を推認させる間接事実と、就業規則所定の解雇事由に該当する
事実のように正当な理由に基づく動機を推認させる間接事実とがある場合には、ま
ず、どちらが真の動機かを探究すべきであり、この点の認定ができれば、その認定
に基づいて判断することとなる。しかし、この点の認定は容易ではなく、証拠上、
いずれが真の動機であるかを決することができず、両方ともが使用者の執った措置
の動機であると認定したときは、動機が競合することになる(いずれが真の動機で
あるか判断が付き難いからといって両方とも動機ではないという結論にはならない
からである。)。これが動機の競合、原因ないし理由の競合として論じられる場合
である。この場合に不当労働行為の成否をどのように判断すべきかについて、不当
労働行為意思と正当な理由に基づく動機とのいずれが決定的動機であるかによって
不当労働行為の成否を判断すべきであるとされる(最高裁昭和六〇年四月二三日第
三小法廷判決民集三九巻三号七三〇頁(日産自動車救済命令取消請求事件)参照)
が、その趣旨は次のように理解するのが相当である。すなわち、前記のようにどち
らが真の動機かを探究し、いずれとも決し難いときに右の判断を行うのであるか
ら、右の判断は、不当労働行為意思と使用者の執った措置(不当労働行為が成立す
るとすれば、不利益取扱い、支配介入等に該当すべき事実)との間に相当因果関係
があるか否かの判断にほかならず(ここでいう「相当因果関係」とは、決定的原因
説に対する意味での相当因果関係説を意味するものではなく、判断の枠組みを意味
する。)、使用者の動機を基礎付ける正当な理由の内容、性質、その持つ意味と、
労使間の交渉等の歴史的経緯の中での使用者の不当労働行為意思に基づく行為の持
つ意味とを比較検討し、労使の労働協約締結の自由の原則その他の労使の自治、労
使間の信義・公平、不当労働行為救済制度の趣旨に照らし、使用者の執った措置
が、労働組合又はその組合員である労働者において自らの行為、判断の結果にほか
ならないものとしてその責任を負うべきものであるか(例えば、労働者に重大な非
行がある等、解雇事由が十分存するときはこれに当たる。)、それとも使用者の行
為が労働者の団結権、団体交渉権を侵害する不当労働行為として労働組合法による
救済の対象となることを免れないものであるかを判断して、右相当因果関係の有無
を判断すべきである。
(三)原告らは、副参事昇格試験が不公正であると主張し、その具体的内容とし
て、係長昇進が副参事昇格試験合格の決定的条件であること、原告P21外三名が係
長昇進差別と人事考課差別とを受けていること等を主張し、さらに、副参事への昇
格は年功を加味して行われており、原告P21外三名は副参事に必要な能力を備えて
いることを主張している。原告らのこれらの主張の趣旨は、副参事への昇格は、実
は副参事昇格試験によって決定されているのではなく、補助参加人が誰を昇格させ
るかを判断して決定しているのであり、補助参加人は、原告組合の組合員について
はこれを係長に昇進させるべき対象から排除した上、人事考課差別を行って副参事
昇格試験合格の可能性を事実上奪っているものであって、副参事昇格試験は公正な
試験としては事実上崩壊していること、このように、副参事昇格試験はカムフラー
ジュに過ぎず、係長に昇進している者については年功を加味して副参事昇格を決定
していることからすれば、不当労働行為に対する救済命令の内容としては、原告組
合の組合員については年功を加味して副参事に昇格させることが可能であり、か
つ、それが必要であること、以上の各点を主張する趣旨であると解することができ
る。
原告らの右主張は、(二)で述べた判断を行うに当たって重要な意義を有し、ま
た、補助参加人が原告P21外三名を副参事に昇格させないことが不当労働行為に当
たるとした場合にいかなる救済措置を採るべきかにかかわるものである。そこで、
以下、補助参加人の運用している副参事昇格試験が、制度として整備されているだ
けでなく、実際に公正な選抜制度として機能しているか、それともそれが原告組合
との関係では組合差別の手段として運用されているものであるかを検討する。
2不当労働行為意思に基づく人事考課における差別的な低い査定と昇格試験不合
格の結果との間の相当因果関係の有無について
(一)前記争いのない事実等に丙第三三号証、第三八号証、第七五号証を併せて
考えれば、次の事実を認めることができる。
(1)副参事昇格試験について
補助参加人は、昭和五三年一〇月から昇格試験制度を導入した。昇格試験制度
は、昇格試験制度運用規程(昭和五三年一〇月二四日付け人事部長「昇格試験制度
運用規程」、乙第一七三号証)に基づいて実施されている。昇格試験制度運用規程
によれば、昇格試験の評価項目は、人事考課、推薦、学科試験、論文及び面接であ
り、主事から参事までの昇格試験の評価項目は全項目とするとされているが、昭和
五八年度実施の昇格試験以降は、推薦と面接が中止されており、副参事昇格試験に
ついては、人事考課、学科試験及び論文が評価項目とされ、各評価項目の全体の評
価に占める割合は、人事考課が五〇パーセント、学科試験が三〇パーセント、論文
試験が二〇パーセントとされている。
学科試験は、業務知識を問う問題と専門知識を問う問題とから成り、全体の評価
に占める割合はそれぞれ二〇パーセント及び一〇パーセントである。
(争いのない事実、丙第三八号証一一頁以下)
(2)原告P21外三名の人事考課査定並びに学科試験及び論文試験の成績につい

ア昭和五八年度(原告P22及び原告P23が受験)について見ると、合格者の最低
点は七一・三点であり、学科試験及び論文試験の配点は合計五〇点であり、その平
均点は二六・一五点であった。人事考課がB評価の場合には三三・三三点(少数第
三位以下を四捨五入)を得たことになるから、学科試験及び論文試験で右平均点を
一一・八二点上回る三七・九七点を取る必要があり、人事考課がC評価の場合には
二五点を得たにとどまるから、学科試験及び論文試験で右平均点を二〇・一五点上
回る四六・三点を取る必要があり、人事考課がD評価の場合には一六・六七点(少
数第三位以下を四捨五入)を得たにとどまるから、学科試験及び論文試験で満点で
も合格できないことになる。逆に人事考課がA評価の場合には四一・六七点(少数
第三位以下を四捨五入)を獲得したことになるから、学科試験及び論文試験では前
記平均点を三・四八点上回る二九・六三点を取れば足りるし、この者がB評価、C
評価及びD評価の者について述べた右の各点を獲得したとすれば、その合計点は、
七九・六四点、八七・九七点及び九一・六七点となり、合格者の最低点七一・三点
を大きく上回る数字となる。
昭和五八年度における原告P22及び原告P23の人事考課の合計評点は、それぞれ
二一・九点、二〇・七点であり、いずれもC評価とD評価の中間的な数値であっ
た。
他方、昭和五八年度における学科試験及び論文試験の得点は、原告P22がそれぞ
れ一五・二点及び九点、原告P23がそれぞれ一〇・六点及び一一点であった。両名
の人事考課の得点を受験者中の最高点四一・六点に置き換えても、得点合計は原告
P22が六五・八点、原告P23が六三・二点となるにとどまり、合格者の最低点七
一・三点に達しない。
イ昭和五九年度(原告P21及び原告P24が受験)について見ると、合格者の最低
点は七三・五点であり、学科試験及び論文試験の配点は合計五〇点であり、その平
均点は二六・二九点である。人事考課がB評価の場合には三三・三三点(少数第三
位以下を四捨五入)を得たことになるから、学科試験及び論文試験で右平均点を一
三・八点上回る四〇・一七点をとる必要があり、人考事課がC評価の場合には二五
点を得たにとどまるから、学科試験及び論文試験で右平均点を二二・二一点上回る
四八・五点をとる必要があり、人事考課がD評価の場合には一六・六七点(少数第
三位以下を四捨五入)を得たにとどまるから、学科試験及び論文試験で満点でも合
格できないことになる。逆に人事考課がA評価の場合には四一・六七点(少数第三
位以下を四捨五入)を獲得したことになるから、学科試験及び論文試験では前記平
均点を五・五四点上回る三一・八三点を取れば足りるし、この者がB評価、C評価
及びD評価の者について述べた右の各点を獲得したとすれば、その合計点は、八
一・八四点、九〇・一七点及び九一・六七点となり、合格者の最低点七三・五点を
大きく上回る数字となる。
昭和五九年度における原告P21及び原告P24の人事考課の合計評点は、それぞれ
一七・五点及び二八・七点であり、D評価に低い数値、B評価とC評価の中間的な
数値であった。
他方、昭和五九年度における学科試験及び論文試験の得点は、原告P21がそれぞ
れ八・一点及び九点、原告P24がそれぞれ一七・九点及び一〇・六点であった。両
名の人事考課の得点を受験者中の最高点四一・四点に置き換えても、得点合計は原
告P21が五八・五点、原告P24が六九・九点となるにとどまり、合格者の最低点七
三・五点に達しない。
ウ昭和六二年度(原告P21外三名が受験)について見ると、合格者の最低点は八
〇・一点である。人事考課がB評価の場合には三三・三三点(少数第三位以下を四
捨五入)を得たことになるから、学科試験及び論文試験で四六・七七点をとる必要
があり、人事考課がC評価の場合には二五点を得たにとどまるから、学科試験及び
論文試験で満点でも合格できないことになる。逆に人事考課がA評価の場合には四
一・六七点(少数第三位以下を四捨五入)を獲得したことになるから、学科試験及
び論文試験では三八・四三点を取れば足りるし、この者がB評価の者について述べ
た右の点を獲得したとすれば、その合計点は、八八・四四点となり、合格者の最低
点八〇・一点を大きく上回る数字となる。
昭和六二年度における人事考課の合計評点は、原告P21が二六・二点でほぼC評
価であり、原告P22が三三・二点でほぼB評価であり、原告P23が二五点でC評価
であり、原告P24が三三・四点でB評価であった。
他方、昭和六二年度における学科試験及び論文試験の得点は、原告P21がそれぞ
れ一〇・五点及び一〇・五点、原告P22がそれぞれ一四点及び九・七点、原告P
23が七・八点及び七・五点、原告P24がそれぞれ二一・五点及び一一・八点であっ
た。原告P21外三名の人事考課の得点を受験者中の最高点四一・八点に置き換えて
も、得点合計は原告P21が六二・八点、原告P22が六五・五点、原告P23が五七・
一点、原告P24が七五・一点となるにとどまり、合格者の最低点八〇・一点に達し
ない。
エ平成元年度(原告P21外三名が受験)について見ると、合格者の最低点は七
八・三点である。人事考課がB評価の場合には三三・三三点(少数第三位以下を四
捨五入)を得たことになるから、学科試験及び論文試験で四四・九七点をとる必要
があり、人事考課がC評価の場合には二五点を得たにとどまるから、学科試験及び
論文試験で満点でも合格できないことになる。逆に人事考課がA評価の場合には四
一・六七点(少数第三位以下を四捨五入)を獲得したことになるから、学科試験及
び論文試験では三六・六三点を取れば足りる。
平成元年度における人事考課の合計評点は、原告P21が二五・二点でほぼC評価
であり、原告P22が二八・四点でほぼC評価であり、原告P23が二五点でC評価で
あり、原告P24が三三・四点でB評価であった。
他方、平成元年度における学科試験及び論文試験の得点は、原告P21がそれぞれ
一四・五点及び一〇・九点、原告P22がそれぞれ一七・七点及び一一・一点、原告
P23が一二・四点及び一一・一点、原告P24がそれぞれ二三・九点及び一一・三点
であった。原告P21外三名の人事考課の得点を受験者中の最高点四一・六点に置き
換えても、得点合計は原告P21が六七点、原告P22が七〇・四点、原告P23が六
五・一点、原告P24が七六・八点となるにとどまり、合格者の最低点七八・三点に
達しない。
オ以上によれば、昭和五八年度については、原告P22及び原告P23は、人事考課
においてC評価とD評価の中間的な評点の査定を受け、学科試験及び論文試験で満
点に近い得点を取らないと合格できず、合格することは極めて困難であり、実際上
合格可能性がほとんどない状況であった。また、昭和五九年度については、原告P
21は、人事考課においてD評価に近い評点の査定を受け、原告P24はB評価とC評
価の中間的な評点の査定を受け、原告P21については学科試験及び論文試験で満点
でも合格できず、原告P24も学科試験及び論文試験で九割近い高得点を得なければ
合格できず、実際上合格の可能性は乏しかった。
さらに、昭和六二年度については、原告P21及び原告P22は、人事考課において
(ほぼ)C評価の査定を受け、学科試験及び論文試験で満点でも合格できず、原告
P22及び原告P24は、人事考課において(ほぼ)B評価の査定を受けたが、学科試
験及び論文試験で九割以上の高得点を得なければ合格できず、実際上合格の可能性
は乏しかった。平成元年度については、原告P21、原告P22及び原告P23は、人事
考課において(ほぼ)C評価の査定を受け、学科試験及び論文試験で満点でも合格
できず、原告P24は、人事考課においてB評価の査定を受け、学科試験及び論文試
験で九割近い高得点を得なければ合格できず、実際上合格の可能性は乏しかった。
したがって、仮に原告P21外三名が差別的取扱いにより右のような評価を受けた
のであれば、原告P21外三名は、人事考課におけるそのような低い評価のために、
実際上合格できない立場に置かれてしまったものというべきであるから、人事考課
における差別的取扱いと副参事昇格試験不合格の結果との間に条件関係を肯定する
ことができる。
他方、原告P21外三名が人事考課の最高得点を得たものとして合計得点を算出し
ても、原告P21外三名は合格最低点に達しないから、原告P21外三名の学科試験及
び論文試験の成績不振と副参事昇格試験不合格の結果との間にも条件関係を肯定す
ることができる。
(3)補助参加人の不当労働行為意思について
ア前記争いのない事実等で述べたとおり、本件和解協定後、昭和五九年一一月一
日付け「芝労組ニュース」に補助参加人のP25常務の芝労組に対する説明として、
「1旧労は政治闘争の場として、芝信の労使関係をとらえており、片寄った政治
思想の導入の場としている。この旧労の姿勢と方針は今後とも金庫としては絶対に
受け入れない。しかし、一般社会は旧労の闘争を労使関係としてとらえており、金
庫に対し話し合いを進めるよう指導してきており、金融諸環境の激化、対境関係を
考慮し経営の責任において和解に踏み切った。2今後の労使関係のあり方につい
ては芝労組とこれまで以上の信頼関係を築き十分対話を深めていく。3今後の旧
労問題については、経営の責任において経営階層との意思統一をより強化し、管理
体制を充実強化して対応していく。これまでのラインとしての管理の不十分さを反
省し、まず体制を完備し、方針を徹底していく。」とP25常務が発言したという記
事が載ったが、補助参加人のP26人事部長は、原告組合から真意をただされても、
P25常務の発言については否定も肯定もせず沈黙しており、補助参加人は、結局、
前記記事について、芝労組に対し、抗議、あるいは、訂正を求める等の措置を執ら
なかった。
もっとも、補助参加人は、再審査申立て事件の手続において、昭和五九年一一月
一日付け「芝労組ニュース」には、P25常務が「和解にあたり金庫経営の和解推進
担当者であった」との記載があるが、この記載が事実に反すること、当時P25常務
と常に接していたP82推進役(本部総合企画室)は右文書に記載されているような
P25常務の発言に接したことがないこと、本件和解協定成立当時、P25常務が所属
部署(本部総合企画室)の職員に対し本件和解協定の説明をした際も右文書に記載
されているような考えを持っていなかったこと、右文書にはP25常務の発言の時期
及びどのような場所での発言かの記載がなく、信用性に欠けること、原告組合が団
体交渉で補助参加人に右文書のことを質問したのは一回だけであり、補助参加人に
抗議したこともないこと、団体交渉の場で突然何年も前のことを質問されても、事
実関係を確認しないのにその場で言及できないことは当然であること、以上のよう
に主張し、補助参加人の申請した証人もその旨証言していた(乙第二六六号証(再
審査申立書六頁から九頁まで)、第二六七号証(平成二年五月三一日付け最終準備
書面一六頁から二三頁まで、四一頁から四二頁まで)、第三五六号証(再審査申立
て事件第一回審問調書別紙速記録(証人P82)通し頁数五頁から九頁まで)。
しかしながら、前記争いのない事実等に、乙第二三号証、第二七号証、第三二号
証、第六二号証から第六四号証、原告P10本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を併せ
て考えれば、本件和解協定に至るまで、芝労組が原告組合を相容れない存在として
とらえ、その組合員を排斥する政策を採り、原告組合との間に厳しい対立抗争があ
ったこと、補助参加人は、芝労組と協調路線を採る反面、原告組合の運動路線を嫌
悪し、これと深刻な労使紛争の状態にあったことを認めることができる。P25常務
の芝労組に対する前記説明は、このような補助参加人の立場と何ら抵触するもので
なく、むしろ補助参加人の考え方をほぼ正確に表現しているものとみることができ
る。
イ補助参加人は、昭和六〇年一〇月二二日、関係団体、取引先等の来賓を招いて
創立六〇周年記念式典を開催した際、芝労組にはあらかじめこの行事についての協
力要請と出席要請をしてその出席を得たが、原告組合には協力要請も出席要請もせ
ず、原告組合の組合員は誰も出席しなかった。
もっとも、補助参加人は、再審査申立事件の手続において、六〇周年記念事業は
多岐にわたるものであり、そのうち、記念預金増強運動、業務推進活動、金庫内記
念事業には原告組合の組合員も他の職員とともに参加していること、創立六〇周年
記念式典は、顧客・関係先への感謝事業の一つであるが、元々記念事業計画が芝労
組の発案に係るものであり、芝労組が積極的な協力態勢を執ったので、芝労組の役
員若干名に来賓を接遇するため運営接待担当者として出席を要請したこと、原告組
合からはそのような申入れ及び協力申出は一切なかったこと、以上を理由に、補助
参加人が原告組合に対してその役員代表の出席要請をしなかったことをもって、不
当労働行為意思の認定の一助とするのは証拠評価を誤ったものと主張し、補助参加
人の申請した証人もその旨証言していた(乙第二六六号証(再審査申立書一二頁か
ら一三頁まで)、第二六七号証(平成二年五月三一日付け最終準備書面三三頁から
三六頁まで、四四頁)、第三五六号証(再審査申立て事件第一回審問調書別紙速記
録(証人P82)通し頁数四四頁から四九頁まで)、第三五八号証(再審査申立て事
件第一回審問調書別紙速記録(証人P82)通し頁数一〇九頁から一一〇頁ま
で))。
しかしながら、創立六〇周年記念式典は、総勢約四〇〇名の来賓を招いて東京プ
リンスホテルで開催され、大蔵省関東財務局長(代理として理財部長)、港区長
(職務代理者)等から来賓祝辞があった盛大なものであり、補助参加人にとって重
要な行事であったところ、補助参加人がかかる重要な行事の運営等について、芝労
組の協力を得ながら、原告組合からは申出がなかったという理由で協力等を求めな
かったことは、補助参加人の原告組合に対する嫌悪の意思を推認させる間接事実と
なることは否定し難いといわなければならない。
ウ補助参加人の社内報「しば」の昭和六二年新年号(乙第九三号証)において、
各支店単位で新年の挨拶を掲載した際、原告組合の組合員のみが除外されていた。
エ以上の事実が存するのであり、補助参加人は、本件和解協定後も、職場環境、
職場内の規律、秩序にかかわる問題がありながら、芝労組の原告組合排斥政策を有
効に是正しようとせず、補助参加人自らも芝労組との関係において原告組合を排斥
する挙に出ているのであって、これらに弁論の全趣旨を併せて考えれば、補助参加
人は、原告組合を嫌悪しているものと認めることができる。
(4)人事考課における組合差別について
ア前記争いのない事実等によれば、次のとおりである。
原告組合の組合員(男性、以下この項において同じ。)については、昭和五九年
度以降も人事考課においてS評価又はA評価を受けた者はなく、B評価が最高であ
り、しかもB評価を受けた者は原告組合の組合員全体の四分の一程度にとどまる。
原告組合の組合員でD評価を受けた者の数及び原告組合の組合員全体に占める割合
は、昭和五九年度から昭和六二年度の間に顕著に減少しており、D評価からC評価
に移行した者が相当数あるが、それでもC評価及びD評価を併せると原告組合の組
合員全体の約七〇パーセントを占めており、原告組合の組合員に対する人事考課
は、C評価が標準となっていることを否定できない。
他方、芝労組の組合員については、S評価を受けた者はごくわずかにとどまる
が、A評価を受けた者は全体の三割から三分の一以上に達しており、B評価を受け
た者は全体の半数以上に達している。C評価を受けた者及びD評価を受けた者を併
せても、全体の八パーセントから一三パーセント程度である。芝労組の組合員に対
する人事考課は、B評価以上の評価を受けた者が全体の九割程度に達しており、B
評価が標準となっている。
イ前記争いのない事実等に弁論の全趣旨を併せて考えれば、次のとおり認めるこ
とができる。
原告組合と芝労組との対立は根深く、芝労組は、本件和解協定後も原告組合の組
合員を敵視し、孤立させ、排斥する政策を採っていた。原告P21外三名に対する人
事考課評定者は、芝労組の組合員又はかつてそうであった者が大半であり、殊に第
一次評定者は係長であったから、原告P21外三名に対する人事考課を行うに当たっ
て、芝労組の原告組合敵視政策の影響を完全に払拭できたものと考えることは困難
である。
ウ乙第二三八号証、第二六〇号証(都労委第四回審問調書・第四回審問記録(P
26証人)通し丁数四四丁から四六丁裏まで)によれば、本件和解協定成立前に原告
組合と補助参加人との対立関係があったため、原告組合の組合員の能力開発の意欲
が薄れ、本件和解協定時において、原告組合の組合員と芝労組の組合員の能力には
相当格差があったこと、原告組合所属の男性職員のうちにD評価を受けた者が占め
る割合は、昭和五六年度の夏期臨給及び年末臨給については八〇パーセント以上で
あったのが、昭和五八年度の夏期臨給及び年末臨給については四一パーセント、昭
和五九年度の夏期臨給及び年末臨給については二〇パーセント台にまで減少し、昭
和六〇年度の夏期臨給及び年末臨給についてはそれぞれ一八パーセント及び一四パ
ーセント、昭和六一年度の夏期臨給及び年末臨給についてはいずれも九パーセン
ト、昭和六二年度の夏期臨給及び年末臨給についてはそれぞれ一四パーセント及び
一五パーセントとなっており、顕著に減少していることが認められる。
これらの事実によれば、原告組合の組合員に対する人事考課査定が本件和解協定
から年数がたつに連れて上向いており、原告組合の組合員が本件和解協定後職場に
復帰し、経験を積むに従って成績がよくなったという事情を投影している面がある
ことは事実である。
しかしながら、アで述べたように、本件和解協定成立から五年以上たってもなお
原告組合の組合員全体の約七〇パーセントがC評価及びD評価を受けており、原告
組合の組合員に対する人事考課はC評価が標準となっていることを否定できないの
に対し、芝労組の組合員については、A評価を受けた者が全体の三割から三分の一
以上、B評価を受けた者が全体の半数以上に達し、C評価を受けた者及びD評価を
受けた者については全体の八パーセントから一三パーセント程度にとどまり、芝労
組の組合員に対する人事考課は、B評価以上の評価を受けた者が全体の九〇パーセ
ント程度に達し、B評価が標準となっているのであって、これらの事実に基づいて
考えると、元々の評価が組合差別で低いものとなっていたことが解消されたという
にはほど遠く、芝労組の組合員と比べると、依然として能力等の向上よりも低い査
定を受けていることを否定できない。
エ①原告P21外三名の復職後の臨給考課の結果は争いのない事実に記載のとおり
であって、原告P21が副参事昇格を求めた昭和六〇年の夏・冬・期末の臨給考課
は、それぞれ〇・二、〇・二、〇・三であり、原告P22が副参事昇格を求めた昭和
五九年の夏・冬・期末の臨給考課は、いずれも〇・三であり、原告P23が副参事昇
格を求めた昭和五九年の夏・冬・期末の臨給考課は、それぞれ〇・二、〇・二、
〇・二であり、原告P24が副参事昇格を求めた昭和五九年の夏・冬・期末の臨給考
課は、いずれも〇・三であった。
②補助参加人は、得意先係の担当地域は適宜変更しているし、原告P21、原告P
23の目標値が得意先係の他の係員の平均目標値より低く設定されていたことを根拠
に、日常業務実績を考慮する上で担当地域による不利益はないと主張する。
乙第二三五号証、第二三六号証、第二五九号証(昭和六三年五月一一日都労委第
四回審問調書・第四回審問速記録(P27証人)通し丁数二六丁から三六丁まで)及
び原告P23本人尋問の結果(平成九年二月六日付け調書七項から一五項まで)によ
れば、得意先係の目標設定は、その担当地域が取引先層が厚いか薄いかに応じて目
標値の大小が決定されること、目標達成度の評価は目標値に対してどれだけ実績を
上げたかによって判断されること、原告P21がが高輪支店に勤務していた当時、原
告P21の目標値が得意先係の他の係員の平均目標値より低く設定され、また、原告
P23が新城支店に勤務していた当時、原告P23の目標値が得意先係の他の係員の平
均目標値より低く設定されていたことが認められるから、補助参加人の前記主張に
沿う事実が存することは事実である。
ところで、補助参加人は、都労委及び被告の各審問手続において同旨を主張して
おり(乙第一二号証の三頁から一二頁まで、第一三号証の三頁から四頁まで、第二
六七号証の八三頁から八七頁まで)、都労委の審問手続において、補助参加人申請
のP27証人は、得意先係の目標設定は、その担当地域が取引先層が厚いか薄いかに
応じて目標値の大小が決定されること、従来からの取引先の少ない地域では、満期
継続額が少なくなるが、そのような地域では、増口又は新規に振り向ける時間が当
然他の職員よりも多くなること、以上を理由に、そのような地域を担当する得意先
係員がこれらで獲得しなければならない比率が高くなっても、不利益はない旨供述
した(乙第二五九号証(昭和六三年五月一一日都労委第四回審問調書・第四回審問
速記録(P27証人)通し丁数二九丁))。
しかしながら、原告P21、原告P23の目標値が得意先係の他の係員の平均目標値
より低く設定されていたことが裏付けるように、原告P21、原告P23の担当地域
が、得意先係の他の係員のそれよりも実績を上げることが困難な地域であったこと
は否定し難いのに、従来からの取引先が少なければ増口又は新規に振り向ける時間
が当然他の職員よりも多くなると論じるだけでは説得力に乏しく、むしろこのよう
な形式的論理を根拠に不利益がないと論ずる態度は、担当地域、顧客層、預金、積
金等の実態を十分考慮せずに、増口又は新規の目標値の達成度が低い場合には原告
P21、原告P23の実績が悪い、努力が足りない、あるいは能力が低いと評価してい
たことをうかがわせるものである。
したがって、補助参加人は、原告P21、原告P23の人事考課を行うに当たり、そ
の担当地域が、得意先係の他の係員のそれよりも実績を上げることが困難な地域で
あったことをどのように考慮した上で、査定したのかを明らかにし、その査定が公
正なものであることを立証する必要が生じているものというべきであるが、これら
の点は本件訴訟において明らかにされていない。
③甲第二三号証、第二四号証、乙第一二〇号証ないし第一二五号証、第一三〇号
証、第一三六号証、第一三八号証、第二五六号証、原告P24本人尋問の結果によれ
ば、原告P21が昭和四四年度上半期に得意先係優績表彰を受けたこと、原告P22が
昭和四四年度下半期、得意先係優績表彰を受けたこと、復職後、顧客へのセールス
用のデモブックの講習において、外部講師の審査がすべてA評価であったこと、原
告P23については、昭和四二年、ミス防止提案が採用されたこと、昭和四四年度下
半期及び昭和四五年度上半期得意先係優績表彰を受けたこと、原告P24が昭和四三
年、実績や能力のある者が選抜される支店開設準備委員に選ばれたこと、昭和四三
年度下半期及び昭和四四年度上半期に得意先係優績表彰を受けたこと、原告P24が
全国信用金庫協会の主催する昭和六一年度全信協上級実務試験に合格したこと、右
試験の合格率は一〇・四パーセントであったことがそれぞれ認められる。
右認定事実のうち、得意先係優績表彰等はいずれも本件和解協定前のことであ
り、また、デモブック作成能力は業務能力を直接証するものではないし、乙第二五
八号証によると、支店開設準備委員とは、支店が開設されて、その後、営業を開始
すればそのままその支店に配属されるのであって、支店開設準備委員の発令は通常
の店舗構成を考えての通常の人事発令に過ぎないことが認められるが、そうであっ
ても、やはり潜在的な能力を示すことを否定できないし、一般に、新設された支店
に対しては期待が強く、また、既存支店と比較して、取引先等が少なく開拓する必
要性が高いことから、通常以上の能力を有する者を配置することが多いと思われる
のであって、右の各事実は、原告P21外三名の能力が低いことを否定する意味を有
し、相当の能力を有していたことをうかがわせるものである。
乙第二五一号証(都労委第一回審問調書・第一回審問速記録(P26証人)通し丁
数三八丁裏)によると、本件和解協定後の昭和五五年一二月、原告P22は梅屋敷支
店に配属され、指定された顧客への集金という比較的単純な業務に従事したことが
認められるが、同時に同原告が右の業務に従事したのは、同原告がしばらく仕事を
離れていて不慣れだったためにすぎず、右の事実から同原告の有する能力そのもの
が著しく劣るとはいえない。
乙第二六〇号証(都労委第四回審問調書・第四回審問速記録(P26証人)通し丁
数四八丁から四九丁までによると、昭和五八年当時、原告P21は資金方の担当であ
ったが、本部指導部門に報告があった五件程度の違算を発生させたことが認められ
るが、その他に、P21外三名の業務能率が低いとか、非違行為があったことを認め
るに足りる証拠はない。
オ乙第二四四号証、第二六〇号証(都労委第四回審問調書・第四回審問速記録
(P26証人)通し丁数六〇丁)、第二六二号証(都労第五回審問調書・第五回審問
速記録(P26証人)通し丁数四三丁から四六丁まで、六三丁から六六丁まで)、証
人P27及び同P80の各証言(平成七年一二月一四日付け証人調書一六五項、一七二
項から一九二項まで(証人P27)、平成九年一一月六日付け証人調書一一項から二
七項まで、二四七項、二四八項(証人P80)に弁論の全趣旨を併せて考えれば、補
助参加人は、ラインとしての店舗長代理(新人事制度では課長)に昇進させる人材
と専門職的な職位に昇進させる人材の給源として副参事を位置付けており、ライン
としての店舗長代理(新人事制度では課長)に昇進させる人材かどうかは人事考課
と所属長の意見に基づいて判断していることが認められる。
カ甲第一号証の一、第二八号証(別件女性差別訴訟における証人P27の平成四年
一〇月一四日付け証人調書一四四項、一四五項、一六四項から一七一項まで)、証
人P27の証言(平成七年一二月一四日付け証人調書一五〇項から一五三項まで、一
九三項から一九八項まで)及び原告P20本人尋問の結果(平成六年一一月一六日付
け本人調書九項から四八項まで、平成七年三月二日付け本人調書二四項から三二項
まで、一八一項、一八二項)によれば、昭和五六年から平成元年までの九年間にお
ける副参事昇格試験受験者は一〇七六名、合格者は一〇一名であるが、合格者のう
ち一〇〇名は「本部推進役、係長及びその経験者」であり、副参事昇格試験は係長
に昇進していないと合格することが実際上困難であること、補助参加人の職員の間
では、係長に昇進していない限り合格できないという空気が広がっていたことを認
めることができる。
キ乙第七三号証、証人P27の証言(平成七年一二月一四日付け証人調書一六六項
から一七一項まで)、弁論の全趣旨(乙第一号証(二三頁)、第四号証(三九頁、
四一頁から四四頁まで)、第九号証(都労委での昭和六二・七・三付け準備書面二
九頁)、第一二号証(都労委での昭和六二・一一・一二付け準備書面四七頁、四九
頁から五〇頁まで)参照)によれば、次の事実を認めることができる。
原告P2は、昭和三九年に係長待遇、昭和四一年に係長に昇進し、原告P3及び原
告P1は昭和四〇年にそれぞれ係長に昇進したが、いずれも芝労組結成後の昭和四五
年に調査役に異動となり、昭和五一年に係員に降職になっている。
補助参加人は、初審命令の手続において、「特に部下の統率力に問題があったか
らである。」、「従組がこのような主張をする根拠として提出した甲第二三号証
(本件訴訟の乙第七三号証)『芝従組ニュース』をみても、『職制としては、人
格、リーダーシップが必要だ』、『今の従組は経営者は敵といっている。こういう
ことではこまる』と述べており、従組の組合としての方針はどうであれ、職制とし
ては金庫の意見に則って行動してもらわないと困るし、またそうでないと部下に対
するリーダーシップもとれないとの金庫の考え方が読みとれるのである。」と主張
していた。
ク乙第二七六号証、第三五八号証(再審査申立て事件第一回審問調書(証人P
82)通し頁数九七頁から九九頁まで)及び丙第三八号証に弁論の全趣旨を併せて考
えれば、次の事実を認めることができる。
補助参加人は、新人事制度の下で廃止される前の係長の職位には年功序列で昇進
させていた。補助参加人は、昭和四〇年当時、年齢、学歴給という年功序列式人事
制度を採用しており、係長への昇進は大卒者で雇用後六年ないし七年位、高卒者で
一二年位が標準であったことを認めていた(乙第一二号証(都労委での昭和六二・
一一・一二付け準備書面四七頁)。もっとも、補助参加人は、昭和四二年に職務・
職能給制度を採り入れて右の制度を変更したと主張していたが、原告組合の組合員
に対し、係長昇進差別を行い、原告組合の組合員をラインとしての係長に昇進させ
なかったし、推進役に昇進させることはあっても、ラインとしての店舗長代理(新
人事制度では課長)には昇進させていない。原告組合の組合員で係長に昇進した者
はいなかったし、店舗長代理に昇進した者も一人もいない。
補助参加人は、新人事制度導入後、平成四年四月一日係長の職位を廃止した。そ
の理由は、係長の職務が課長の職務と重複する部分が比較的多いこと、組織のスリ
ム化を図ること、資格による処遇をより重視すること(同一資格同一賃金の実現)
であった。
(5)(4)の各事実を総合して考えれば、補助参加人は、原告組合の組合員を
ラインとしての係長、店舗長代理及びこれに相当する推進役(以上いずれも新人事
制度導入前の職位で表示した。)には昇進させない人事政策を採り、そのため原告
組合の組合員を能力よりも低く査定して係長に昇進させなかったこと、人事考課に
おいて、職責等の差異にかんがみて係長に昇進した者と係長に昇進させない者との
間に査定の上で顕著な格差を設け、それぞれその枠組みの中で査定を行っていたも
のであること、新人事制度導入前はラインとしての店舗長代理及びこれに相当する
推進役のポストの空きに応じて副参事昇格試験合格者を決定していたこと、その結
果原告組合の組合員は学科試験及び論文試験で顕著な高得点を得ない限り副参事昇
格試験に合格できないこととなったこと、以上のとおり推進することができる。
右事実に基づいて考えると、右に見た査定の上での顕著な格差は、係長の職責等
の差異に基づくものであり、より責任の重い重要な職務を遂行すべき立場にある者
に対する査定と、そうでない者に対する査定とで格差が生じたことが直ちに不合理
な差別に当たるものではないが、右に述べたように、補助参加人は、もともと原告
組合の組合員をラインとしての係長、店舗長代理(本件命令によっていずれも年功
で昇進できる職位であると認定されている。店舗長代理及びこれに相当する推進役
の職位については一九七頁参照)には昇進させない人事政策を採り、そのため原告
組合の組合員を能力よりも低く査定して係長に昇進させなかったのであるから、右
に述べた格差を生じさせる原因となる組合差別を行ってきたことは否定し難く、こ
のような場合には、補助参加人は人事考課において組合差別を行ったものと解する
のが相当である。
補助参加人は、人事考課が公正である旨主張するが、その論拠は、補助参加人の
人事考課制度が公正に査定が実施されるように整備されていること、実際にも公正
に実施されてきていること、人事考課の査定項目は、実績のみに尽きるものではな
く、能力項目、勤務態度項目等多岐にわたり、かつ、評価期間ごとに査定が行われ
るから、原告らの過去のごく一部の実績を根拠に、補助参加人の人事考課が公正で
ないということはできないこと、以上の各点にある。
しかしながら、補助参加人の人事考課制度が仕組みとしては公正に査定が実施さ
れるように整備されていることはこれを肯定することができるが、制度と運用とは
別個の問題であり、公正な査定が行われる仕組みが用意されていても、実際に査定
をするに当たり組合差別が行われうることも否定できない。前記各事実に基づいて
考えれば、補助参加人は人事考課制度を運用するに当たって原告組合の組合員を差
別していたものと認めることができる。また、この認定が、原告らの過去のごく一
部の実績を根拠に、補助参加人の人事考課が公正でないというものでないことは既
に説示したところから明らかである。
補助参加人の主張は理由がない。
(6)原告P21外三名の学科試験及び論文試験の成績不振が原告P21外三名の責
めに帰すべき事由に基づくものであるか否かを検討する。
乙第二一二号証から第二二三号証まで、丙第三号証の一から同号証の三まで、第
二四号証から第三二号証まで、第三八号証、証人P27の証言によれば、昭和五三年
度、昭和五五年度、昭和五七年度、昭和五八年度、昭和五九年度、昭和六一年度、
昭和六三年度、平成二年度、平成四年度、平成六年度の学科試験の試験問題及び解
答並びに昭和五八年度の学科試験の原告P22及び原告P23の答案及び昭和五九年度
の学科試験の原告P21及び原告P24の答案、昭和五八年度論文試験の原告P22及び
原告P23の答案、昭和五九年度論文試験の原告P21及び原告P24の答案が証拠上明
らかであるほか、次の事実を認めることができる。
ア学科試験について
①学科試験のうち専門知識を問う問題は、昭和五五年度以降は財務分析編、金融
法務編及び税務編の三分野から出題されており、出題は、金融機関に勤務する職員
がこれらの分野について備えるべき一般的知識を問うものであり、客観的に正解が
定まる内容のものである。
②学科試験のうち業務知識を問う問題は、事務編、融資編及び得意先編の三分野
から出題されている(平成二年度以降は、事務編、融資編、営業編、一般常識に分
野別されている。)。事務編については、手形・小切手、手形交換(不渡手形の取
扱いを含む。)、歳入代理店事務の取扱い、預金契約、総合口座取引、当座勘定取
引、残高証明書の取扱い、国債の保護預り、出資金、株式払込受託事務、代金取立
事務、当座小切手、決算(当座預金、普通預金)、時効の援用処理等、融資編につ
いては、貸出先の変動、企業の財務調査、信用金庫取引約定、当座貸越、預金相
殺、担保、保証(信用保証)、ネガティブクローズ、不動産登記、外国為替、債務
者預金の緊急拘束、会社の計算、時効の管理、債権の延滞解消等、得意先編につい
ては、融資商品に関する基礎知識(代理貸付(国民金融公庫、中小企業金融公庫
等)、保証付き融資等)、税務に関する基礎知識、金融商品全般に関する基礎知識
(期日指定定期、中期国債ファンド、ビッグ、ワイド、定額郵便貯金、国債定期口
座、国債、インパクトローン等)、基礎項目に関する知識(年金、財形、公共料
金、各種カード等)、得意先活動の訪問効率、地域管理、得意先活動管理基準等に
関する問題が出題されており、客観的に正解が定まる内容のものである。
③補助参加人の人事課は試験後に学科試験問題と解答を公表している。本件訴訟
において証拠として提出された昭和五三年度、昭和五五年度、昭和五七年度、昭和
五九年度、昭和六一年度、昭和六三年度、平成二年度、平成四年度、平成六年度の
ものだけでなく、昇格試験を実施した全年度について学科試験の試験問題及び解答
が公表されている(証人P27の証言(平成七年一二月一四日付け証人調書六八項か
ら七五項まで))。
④補助参加人は、毎年度、昇格試験受験者の便益に供するために、試験実施の一
箇月ないし二箇月前に論文試験のみならず、学科試験についても出題範囲につき受
験等級(書記一級、主事、副参事)別に昇格試験学科試験ガイダンスを配布してい
る。例えば、昭和五九年度昇格試験学科試験ガイダンス(丙第三号証の一から同号
証の三まで)は、財務分析編について次のようなガイダンスをしていた。すなわ
ち、財務分析編については、企業の収益性を判断するのに損益分岐点、分析という
技法があり、損益分岐点を求める公式、目標利益を求める公式を忘れずに受験する
こと、棚卸資産の評価方法の中の「最終仕入原価法」が中小企業の場合使用されて
いるが、物価が上昇傾向にある場合と下降傾向にある場合とで、評価額が総利益に
どのように影響してくるかについて移動平均法との比較において検討を重ねておく
ことが指摘されていた。昭和五九年度昇格試験学科試験の財務分析編の問題は、事
例として取引先の損益計算書を示して前記と当期の損益分岐点を算出し、いずれの
決算期の方がよいかを答えさせる問題と、取引先が前期までは移動平均法を採用し
ていたが、当期から最終仕入原価法に変更した場合に粗利益にどのように影響した
かを論じさせる問題であったから、前記のガイダンスに沿って受験勉強をしておけ
ば効率よく得点できるような問題であった。
イ論文試験について
副参事昇格試験の論文テーマは次のとおりである。
昭和五八年度「自己啓発、自己研鑚を現在あるいはこの一年間どのような方法で
行ってきたか。それを仕事の上で、どのように活かしていますか述べて下さい。」
昭和五九年度「金庫の収益向上をはかる上で業務推進上の課題は何か、自分の担
当業務を通してどういう努力をしてきたか述べて下さい。」
昭和六〇年度「金融自由化が進む中であなたは管理者としてどう対応しようと考
えているか述べて下さい。」
昭和六一年度「あなたが副参事支店長代理としてどう支店(あるいは部・課)を
運営していこうとするのか考え等を述べて下さい。」
昭和六三年度「管理者は部下を啓発し、育成する任務を負っています。部下を立
派に育成するには、あなたは指導者としてどんな能力をもつべきかを述べ、あわせ
て、今後あなたがやろうとしている部下育成計画について論じて下さい。」
平成二年度(一題選択のこと)「あなたの所属する課の翌年度の方向につき、
(1)重点課題(テーマ)、(2)なぜ、それが重点課題(テーマ)であるかの理
由、(3)重点課題を実行するための具体策の3つの観点で所見をまとめて下さ
い。」、「コミュニケーションの強化は、組織にとって大切なものです。コミュニ
ケーションを良くするには、どうすればよいか。上下左右のコミュニケーションの
要である課長職の立場で所見を述べて下さい。」
平成四年度「金融の自由化が最終段階に入り、あなたが所属している課で、何が
一番大切か、重点課題を3つ挙げ、具体的推進策を述べて下さい。」
平成六年度「金利の完全自由化時代の中で、あなたが実行しようと考えている業
務上の重点目標をあげ、それをどのように推進していこうと考えているのか、具体
的に論述して下さい。」
これらの問題は、性質上客観的に正解が定まるものではないが、不公正な内容で
あるとはいえず、受験者が日頃から問題意識を持ち、関係するテーマの書物を読
み、考察の幅を広げ、思考を深めておくことによって対応することが可能なもので
あって、要は受験者自身の努力によって十分対応できる問題であった。
ウ以上の事実が認められ、これによれば、学科試験は、試験問題の内容が金融機
関に勤務する職員が備えるべき一般的知識を問うものであり、客観的に正解が決ま
る内容のものであって、事後的に試験問題及び解答を公表していることと相まっ
て、客観性を備えている試験であるということができるし、受験者は、配置されて
いる部署、仕事の内容にかかわらず、各年度の昇格試験学科試験ガイダンスを有益
な手掛りとしてあらかじめ受験勉強をして備えることが十分に可能であるというこ
とができる。係長に昇進して研修を受けることができた者に有利な面があるとして
も、学科試験が公正さに欠けるとまでいうことはできない。
また、論文試験の採点は、補助参加人から任命された二名の役職員が全答案を採
点し、二名の評点に著しい差が生じた場合には、協議をするなどして公平を期して
いること、また、昭和六〇年度からは採点者には論文の作成者の名前が分からない
ようにする方法を採り入れ、より公正を確保することができるようにする措置を執
っていることが認められ、論文試験について原告組合所属の組合員の答案を殊更に
低く採点したことを認めるに足りる証拠はない。
原告P20本人及び原告P24本人の各供述中右認定に反する部分は、前掲各証拠に
照らしてたやすく採用することができない。
他に右認定に反する証拠はない。
エ原告P21外三名は、係長昇進差別、人事考課差別によって学科試験及び論文試
験の勉強の意欲をそがれ、オンザジョッブ・トレーニングによって知識を習得する
機会を奪われたと主張するが、学科試験及び論文試験の問題の内容、その性質等は
前記のとおりであり、原告P21外三名が金融機関において働く以上は当然習得すべ
き知識、あるいは習得しておいてよい知識等を問うものであって、オンジョッブト
レーニングによらないでも本人の努力によって十分対応できるものであるから、原
告P21外三名が長年にわたる労使間の紛争のために数々のハンディキャップを負う
こととなったことは理解できるものの、原告P21外三名の前記主張は、説得力を欠
き、採用することができないといわざるを得ない。
(7)以上に基づき、不当労働行為意思に基づく人事考課における差別的な低い
査定と昇格試験不合格の結果との間の相当因果関係を肯定すべきか否かを検討する
と、補助参加人は、原告組合の組合員をラインとしての係長、店舗長代理には昇進
させない人事政策を採り、人事考課において原告組合の組合員を差別的に低く査定
して係長に昇進させなかった(本件命令によって係長は年功で昇進できる職位と認
定され、対象者を係長に昇進したものとして取り扱わなければならないと命じられ
たが、補助参加人は本件命令に対する取消訴訟を提起して争うことをしなかっ
た。)上で、係長に昇進した者と係長に昇進させなかった者との間に査定の上で顕
著な格差を設けていたものであり、原告組合の組合員は係長に昇進させず、学科試
験及び論文試験で顕著な高得点を得ない限り合格できないようにしていたのである
から、その限度では副参事昇格試験の公正を自ら損なう運用を行っていたのであ
り、その持つ意味を考えると、原告P21外三名の学科試験及び論文試験の成績不振
の原因が本人の努力不足にあることを考慮しても、補助参加人の行為の重大性を看
過することはできないから、不当労働行為意思に基づく人事考課における差別的な
低い査定と昇格試験不合格の結果との間に相当因果関係を認めるのが相当である。
3補助参加人が原告P21外三名を副参事に昇格させないことの不当労働行為性に
関する本件命令の判断について
以上によれば、補助参加人が原告P21外三名を副参事に昇格させないことは不当
労働行為に該当するものと解するのが相当であり、本件命令が不当労働行為の成立
を否定したことは相当ではないから、本件命令中右判断に関する主文第Ⅳ項は取り
消すべきである。
なお、前記のとおり、原告らは、原告P21外三名が副参事に必要な能力を備えて
いること、補助参加人が係長に昇進している者については年功を加味して副参事昇
格を決定していることからすれば、原告組合の組合員については年功を加味して副
参事に昇格させれば足りることを主張しており、原告らの右主張は、補助参加人が
原告P21外三名を副参事に昇格させないという不当労働行為を行った場合にいかな
る救済措置を採るべきかの検討に関係するものであるが、いかなる救済措置を執る
べきかは被告がその裁量により決定すべきことであるから、ここで判断の限りでは
ない。
六本件取消訴訟の訴えの利益について
1原告P18は昭和六二年七月二〇日補助参加人を辞職申出により退職し、原告P
6は昭和六二年七月四日、原告P2は平成四年一〇月二一日、原告P3は平成六年四月
五日、原告P1は平成五年五月九日、原告P4は平成六年四月二〇日、原告P5は平成
七年三月二三日、原告P7は平成八年七月六日及び原告P8は平成九年七月三日いず
れも定年で補助参加人を退職し、亡P12は平成五年一一月一一日死亡したが、差額
賃金の支払い〔本件命令主文第八項〕との関係では同原告らについてもなお訴えの
利益が認められる。
2丙第八五号証、第八八号証及び弁論の全趣旨によれば、補助参加人が、平成二
年四月一日導入の新人事制度に基づき、原告P1外一五名及び原告P21外三名に対
し、補助参加人主張のとおり一定の職位を付与したことが認められる(丙第八八号
証によれば、原告P8が上級営業担当となったのは平成七年四月三日付けであること
が認められるから、右の時期の点は補助参加人の主張どおりではない。)が、原告
P1、原告P2及び原告P3が店舗長代理又は店舗長代理待遇の推進役に、原告P4、
原告P5、原告P6、原告P7、原告P8、原告P9、原告P10、原告P11、亡P12、原
告P17、原告P18、原告P19及び原告P20が係長及び係長待遇の推進役に昇進した
とみるべき時期はいずれも昭和六一年四月一日であると解すべきことは既に述べた
とおりであり、右同日から新人事制度に基づく職位の付与までの間の是正の必要が
あることは明らかである。
よって、本件取消訴訟の訴えの利益が右各原告との関係で消滅したものとは認め
られない。
第四結論
以上述べたとおりであるから、原告組合以外の原告らの本件訴えはいずれも却下
し、原告組合の訴えに基づき、本件命令主文のうち、Ⅲ項、Ⅳ項、Ⅴ項、Ⅵ項及び
Ⅷ項は取り消すこととし、原告組合のその余の請求は棄却することとして、主文の
とおり判決する。
東京地方裁判所民事第一九部
裁判長裁判官高世三郎
裁判官三浦隆志及び裁判官中園浩一郎は職務代行を解かれたため、いずれも署名
押印することができない。
裁判長裁判官高世三郎
<83206-001>

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