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平成18年12月5日判決言渡同日判決原本領収裁判所書記官
平成18年(ワ)第6108号特許権侵害差止請求事件
(口頭弁論終結の日平成18年10月17日)
判決
東京都中央区<以下略>
原告株式会社ヒューネット・
ディスプレイテクノロジー
同訴訟代理人弁護士黒田健二
同吉村誠
同丹下彩子
同訴訟代理人弁理士平田忠雄
同補佐人弁理士遠藤和光
東京都港区<以下略>
被告株式会社ウィルコム
同訴訟代理人弁護士片山英二
同原田崇史
同則定衛
同前田宏
同補佐人弁理士廣瀬隆行
同加藤志麻子
東京都中央区<以下略>
被告補助参加人株式会社ネットインデックス
同訴訟代理人弁護士山内貴博
同上田一郎
同補佐人弁理士樋口正樹
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1被告は,別紙物件目録記載の多機能通信モジュールを譲渡し,譲渡の申出を
してはならない。
2被告は,被告の占有に係る別紙物件目録記載の多機能通信モジュールを廃棄
せよ。
第2事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,被告補助参加人が製造し,被告が販売する多
機能通信モジュールが,原告の有する「電話送受信ユニット及び移動体通信端
末」についての特許権の技術的範囲に含まれるとして,同製品の譲渡等の差止
及び廃棄を求めた事案である。被告は,被告の販売する製品は原告の特許権の
技術的範囲に含まれず,また,原告の特許権には記載要件違反,新規性・進歩
性欠如の無効理由が存するので権利行使が許されないと主張して,これを争っ
ている。
(,。)1前提となる事実当事者間に争いがないか後掲各証拠によって認められる
()当事者1
原告は,電子制御機器,液晶機器,電子表示器及びその材料,関連部品の
企画,開発,設計,製造,販売,設置工事並びに保守管理事業等を業とする
株式会社である。
被告は,電気通信事業法に定める電気通信事業並びに有線及び無線通信に
関する機器の開発,製造,販売及び賃貸等を業とする株式会社である。
()原告の有する特許権(甲1,2)2
原告は,下記の特許の特許権者である(以下,この特許を「本件特許,」
その特許権を「本件特許権」といい,その請求項1に係る発明を「本件特許
発明」という。なお,本件特許は,Aが,平成9年6月24日に出願し。)
たものであり,特許権設定登録後に,有限会社コイケデザインコラボレーシ
ョンを経て(平成12年8月4日移転登録,株式会社ヒューネット(平成)
12年11月1日移転登録)に移転され,原告がこれを一般承継したもので
ある(平成18年2月17日移転登録。)
特許番号第3048964号
登録日平成12年3月24日
出願番号特願平9−166916号
出願日平成9年6月24日
公開番号特開平11−17790号
公開日平成11年1月22日
発明の名称電話送受信ユニット及び移動体通信端末
()本件特許出願の願書に添付した明細書(平成11年11月29日付け手続3
補正後のもの。以下「本件明細書」という)の特許請求の範囲の記載。
本件明細書(本判決末尾添付の特許公報(甲2)参照)の特許請求の範囲
の請求項1の記載は次のとおりである。
「アンテナにより受信される受信信号をスピーカから出力する音声信号に
変換する機能と,マイクに入力される音声信号を前記アンテナから出力する
送信信号に変換する機能と,操作部からの操作信号に基づいて所定の処理を
行う機能と,表示部に表示する表示信号を生成する機能とを有する電子回路
と,前記電子回路を含み,移動体通信端末に設けられたスロットに全体が収
納されるような形状に形成されたカートリッジと,前記カートリッジに設け
られ,前記移動体通信端末との間で信号を入出力する入出力部とを有するこ
とを特徴とする電話送受信ユニット」
()構成要件の分説4
本件特許発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,それぞ
れを「構成要件A1」のようにいう。。)
A1アンテナにより受信される受信信号をスピーカから出力する音声信
号に変換する機能と,
A2マイクに入力される音声信号を前記アンテナから出力する送信信号
に変換する機能と,
A3操作部からの操作信号に基づいて所定の処理を行う機能と,
A4表示部に表示する表示信号を生成する機能と,
A5を有する電子回路と,
B前記電子回路を含み,移動体通信端末に設けられたスロットに全体
が収納されるような形状に形成されたカートリッジと,
C前記カートリッジに設けられ,前記移動体通信端末との間で信号を
入出力する入出力部とを有することを特徴とする
D電話送受信ユニット
()被告の譲渡する製品の構成5
被告は,別紙物件目録記載の多機能通信モジュールであるW−SIM(以
下「被告製品」という)を被告補助参加人から購入し,これを第三者に譲。
渡し,又は,譲渡の申出をしている(甲3の1ないし3,4。)
被告製品は,42.0㎜×25.6㎜×4.0㎜の形状で,アンテナ部,
コネクタ(端子)及び無線機を有し,W−ZERO3等の移動体通信端末に
搭載されて使用される。W−ZERO3とは,シャープ株式会社製の移動体
通信端末(製品名W−ZERO3,型番WS003SH)のことであり,被
告製品を搭載することにより電話送受信機能を含む通信機能を果たすことが
でき,構成要件Bの「移動体通信端末」に相当する。
被告製品の構成は,以下のとおりである(別紙物件目録添付の図1ないし
図4の4参照。以下,それぞれを「構成a1」のようにいう。なお,構。)
成bについては,後記のとおり,争いがある。
a1多機能通信モジュールである被告製品に搭載されたアンテナ部①によ
り受信される受信信号を,被告製品が収納されたW−ZERO3の表
面の受話口()から出力する音声信号に変換する機能と,i
a2被告製品が収納されたW−ZERO3の送話口()に入力される音声ii
信号を前記アンテナ部①から出力する送信信号に変換する機能と,
a3通話ボタン()並びに通話ボタン()を押すことにより被告製品が収iviv
納されたW−ZERO3の表面の画面()上に表示される画面上通話iii
ボタン()及び画面上ダイヤルボタン()等の操作部からの操作信号vvi
に基づいて音声通話の発着信等の所定の処理を行う機能と,
a4被告製品が収納されたW−ZERO3の表面の電波状態ランプ()vii
に電波の受信状態を表示するための表示信号を生成等する機能と
a5を有する電子回路を含む無線機③と,
b前記無線機③を含み,W−ZERO3に設けられたスロット()にviii
収納されるような形状に形成され,
c前記被告製品に設けられ,W−ZERO3との間で信号を入出力する
コネクタ②を有することを特徴とする
dPHS無線通信部分を含んだ多機能通信モジュールである被告製品。
()被告製品の本件特許発明の充足性6
被告製品の構成a3ないしa5及びcが,構成要件A3ないしA5及びC
をそれぞれ充足することは争いがない。
2本件における争点
()被告製品の具体的構成(争点1)1
()被告製品が構成要件Bを充足するか(争点2−1。2)
()被告製品が構成要件A1,A2,Dを充足するか(争点2−2。3)
()本件特許権が特許法36条6項2号に違反しているか(争点3−1。4)
()本件特許権が特許法29条1項3号に違反しているか(争点3−2。5)
()。()本件特許権が特許法29条2項に違反しているか・その1争点3−36
()。()本件特許権が特許法29条2項に違反しているか・その2争点3−47
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(被告製品の具体的構成)について
()原告の主張1
被告製品の構成a1ないしa5,c及びdは,前記第2・1()のとおり5
であり,構成bは,次のとおりである。
b前記無線機③を含み,W−ZERO3に設けられたスロット()にviii
全体が収納されるような形状に形成され,
()被告及び被告補助参加人(以下「被告ら」という)の主張2。
被告製品が原告主張の構成bを有することは否認する。被告製品は,その
上部(アンテナ部等)がW−ZERO3に形成されたスロットからはみ出し
。,「」ているしたがってスロットに全体が収納されるような形状に形成され
ていない。
2争点2−1(被告製品が構成要件Bを充足するか)について
()原告の主張1
ア本件明細書は,カートリッジ28の形状がスロット26の形状と完全に
一致することを開示したものではない。
W−ZERO3がPHS無線通信モジュールとしての機能を果たすため
には,W−ZERO3の充電池ぶたを正しく装着することが予定されてい
ることから,この充電池ぶたはスロットの一部を構成するものといえる。
そして,充電池ぶたをした状態では,被告製品がW−ZERO3に設けら
れたスロットに全体が収納されていることは明らかである。また,本件特
許発明では,電話送受信ユニットがスロットに挿入された後,スライドボ
タンが元の位置に戻ることから,電話送受信ユニットの全体がスロットに
収納されていることが明らかといえる。すなわち,本件特許発明において
は,ふたであるスライドボタンが元の位置に戻ることで「全体が収納され
」,,ているといえる以上電話送受信ユニットを挿入するためにふたを開け
電話送受信ユニットがスロットに挿入された後にふたを閉める構成が,ス
ロットに全体が収納されているといえることは明らかである。この点,W
−ZERO3の充電池ぶたは,本件特許発明のスライドボタンが取り外し
可能なふたの形状になったものである。
W−ZERO3の充電池ぶたを正しく装着した状態では,W−ZERO
3が有しているデザインへの被告製品の影響を最小限に止めることがで
き,移動体通信端末に設けられたスロットに電話送受信ユニットの全体が
収納されているといえる。
「移動体通信端末に設けられたスロットに電話送受信ユニットの全体が
収納される」とは,移動体通信端末自身が有しているデザインへの影響を
最小限に止めることができる場合をいう。さらに,W−ZERO3は,被
告製品を搭載し,充電池ぶたを正しく装着した状態はもちろん,充電池ぶ
たを外した状態を側面から見たとしても,被告製品が見えないデザインに
なっており,W−ZERO3が有しているデザインへの影響を最小限に止
めることができるといえる。また,裏面から見ても,被告製品はごく一部
しか見えず,被告製品は,W−ZERO3が有しているデザインへの影響
。,,を最小限に止めているしかもこのように被告製品の一部が見えるのは
被告製品は取り外しを予定したものであることから,取り外す際に指をか
けやすいようにするためにやむを得ず,一部が見える状態に形成したもの
にすぎない。
,,,よって仮に充電池ぶたがスロットの一部でないとしても被告製品は
スロットに全体が収納されるような形状に形成されていることは明らかで
ある。
イ本件明細書の図1,2及び4ないし7【0017【0030【0,】,】,
034】及び【0038】の記載によれば,スライドボタン38がスロッ
ト26の一部であることは明らかである。さらに,図2及び【0017】
の記載によれば,電話送受信ユニット24をスロット26に挿入する際,
スロット26の一部であるスライドボタン38を矢印の方向にスライドし
,,てスロット26の挿入口を開き電話送受信ユニット24を挿入すること
その後,矢印の方向にスライドボタン38をスライドしていた力を緩める
と,スライドボタン38は,スロット26の挿入口近傍に設けられたロッ
ク機構のバネが矢印と反対の方向にスライドボタン38を戻すように機能
することにより,スロット26の挿入口を閉める所定の位置に戻され,挿
入された電話送受信ユニット24が,スロット26の一部であるスライド
ボタン38によって固定されることが明らかである。
よって,構成要件B「移動体通信端末に設けられたスロットに全体が収
」,「,納されるような形状に形成されたカートリッジとはカートリッジが
移動体通信端末に設けられたスロットに挿入され,その挿入口がスロット
,」の一部により閉められ固定されるような形状に形成されたカートリッジ
を意味する。
,「」「」。ウ被告らはスロットとは単なるみぞ穴に限定される旨主張する
しかし,本件明細書の【0016【0017【0030【00】,】,】,
34】及び【0038】の記載によれば,電話送受信ユニットを着脱する
ための「スロット」の実施形態の中には,①「入出力端子,②ガイドレ」
ール,③スライドボタン及び④バネが形成されているものが含まれている
ことは明らかであり「スロット」が単なる「みぞ穴」ではないことは明,
らかである。
また,本件明細書の【図1【図2】及び【図4】ないし【図7】の】,
記載によれば「スロット26」は,図面作成上の慣用的手法に従い,全,
体を表す「」で示されている。このことからも「スロット26」は,°,
図2に記載の入出力端子32,ガイドレール34及びスライドボタン38
全体を表すものと解される。
また,本件明細書の「挿入された電話送受信ユニット24はスライドボ
タン38により固定される」との記載から明らかなように,スライドボ。
,。タン38は挿入された電話送受信ユニット24を固定する機能を有する
そして,W−ZERO3における「充電池ぶた」は,充電池を固定するだ
けではなく,W−ZERO3に挿入された被告製品を固定する機能をも有
しており,本件明細書における「スライドボタン」がスロットに挿入され
た電話送受信ユニットを固定するのと全く同一の機能を有するものであ
るよってW−ZERO3の充電池ぶたは本件明細書におけるス。,「」,「
ライドボタン」に相当し,かつ,スロットの一部を構成するのである。
()被告らの主張2
ア構成要件Bは「前記電子回路を含み,移動体通信端末に設けられたス,
ロットに全体が収納されるような形状に形成されたカートリッジ」を有し
。「」,ているというものである全体が収納されるような形状という文言は
平成11年11月29日付け手続補正書によって追加された文言である。
よって,この文言の解釈においては,出願時の明細書における記載と出願
経過を参酌し,当該補正の根拠に照らしてその意味を厳格に解釈すべきで
ある。
平成11年9月17日付け拒絶理由通知においては,先行技術として特
開平9−149109号公報(乙2,以下「刊行物1」という)が挙げ。
られ,拒絶理由通知の備考中には「本願発明と引用文献1(判決注・刊行
物1)記載のものとを比較すると,本願発明はアンテナを移動体通信端末
に備えるのに対して,引用文献1記載のものはアンテナを基本部12(本
。),願における電話送受信ユニットに相当に備える点で両者は相違するが
アンテナをどこに設けるかは当業者が適宜決定し得る程度のことにすぎな
い」との判断が示された。。
これに対し,出願人は,平成11年11月29日付けで手続補正書を提
出し,出願時の請求項1に記載されていた「スロットに着脱可能に形成さ
れたカートリッジ」の文言を「スロットに全体が収納されるような形状,
」。,,,に形成されたカートリッジに補正したさらに出願人は同日付けで
意見書を提出し,請求項1の補正に関し「請求項1及び2の補正は移動,
体通信端末のスロットに電話送受信ユニット全体が収納されるものである
ことを明確にするものです…これら補正は本願の出願当初の明細書及び図
面の記載に基づくものであり,明細書の要旨を変更するものではありませ
ん」と主張した。。
また,本件特許発明と刊行物1に記載される発明(以下「引用発明1」
という)との関係について,出願人は「引用文献1(判決注・刊行物。,
1)には,携帯電話機の無線通信機能部品を内蔵する基本部と,携帯電話
機の電話機能部分を内蔵する周辺部とが分離可能に接続するように構成さ
れた携帯電話機ユニットが開示されています。この引用文献1の基本部に
はアンテナが設けられているため,周辺部への装着時に基本部全体を内部
に収納するのではなく,基本部の一部(アンテナ)を外部に露出する必要
があります。これに対し,本願発明では,移動体通信端末のスロットに電
話送受信ユニット全体が装着されるような形状に形成されています。これ
により,移動体通信端末自身が有しているデザインへの影響を最小限に止
めることができます」との主張を行った。。
一方,出願当初の明細書及び図面をみると,図2によれば,カートリッ
ジの外形と,スロットで形成される空間の形状とは,完全に一致している
ことが読み取れる。また【0017】の記載によると,スロットに電話,
送受信ユニットが挿入されると,スロットの挿入口に設けられた,移動体
通信端末の外形を構成するスライドボタンがバネによって所定の位置に戻
され,少なくとも挿入口の一部を塞ぎ,それによって同ユニットが固定さ
れると解される。
これらの出願当初の明細書の記載と,出願人が「移動体通信端末自身が
有しているデザインへの影響を最小限に止めることができ」るというデザ
イン上の利点を意見書中で強調したことによって特許されたという事実を
総合すると「スロットに全体が収納されるような形状」とは「カート,,
リッジの頂面を除くすべての面がスロットの内壁によって覆われ,スロッ
,」トに挿入された際にスロット開口からカートリッジがはみ出さない形状
と解釈するほかない。
イ被告製品が挿入される移動体通信端末(W−ZERO3)のスロットに
は,挿入口に円弧状の切り欠きが形成されている。そして,被告製品は,
移動体通信端末のスロットに挿入された際に,カートリッジの上部が全体
的にスロットからはみ出すばかりでなく,カートリッジの前面も円弧状の
切り欠き部分から一部露出する。
このように,被告製品のカートリッジは,移動体通信端末に設けられた
スロットに全体が収納されるような形状に形成されていないから,構成要
件Bを充足しない。
ウW−ZERO3の充電池ぶたはスロットの一部を構成するとの原告主張
は誤っている。
)「スロット」とは一般に「①みぞ穴。自動販売機の貨幣やカードをa,
挿入するみぞ穴。②コンピュータの基板を差し込む口。③ねじの頭部の
みぞ。④スロット翼の略(広辞苑第5版)を意味するものである。。」
また,本件明細書中には「スロット26に形成されたガイドレール3,
4(0016)との記載があり,図面によればガイドレール34は」【】
内部空間に突出するように設けられていることからすると,本件特許発
明においてもスロットとは上記の中で最も一般的な意味であるみ,「」「
ぞ穴」を意味していることは明らかである。
そして,ある部材が「スロットの一部を構成する」という場合,ある
部材は当然に「みぞ穴」を構成する部材の一部でなければならない。
上記スロットの一般的定義からすれば,W−ZERO3において客観
的に「スロット」と呼べるものは,被告製品が挿入される「みぞ穴」し
かあり得ない。W−ZERO3における充電池ぶたは,本体全面をカバ
ーするためのものであり「みぞ穴」を形成することに何ら寄与してい,
ない。
したがって,W−ZERO3における充電池ぶたがW−ZERO3に
おいて「スロット」を構成する部材といえないことは明らかである。
)原告は,充電池ぶたがスロットの一部を構成する理由として,W−Zb
ERO3において,充電池ぶたを正しく装着することが予定されている
ことを述べる。
しかし,充電池ぶたを装着しなければ電源が入らないことと,充電池
ぶたがスロットを構成することとは論理的に全く無関係である。
)原告は,ふたであるスライドボタンが元の位置に戻ることで「全体がc
収納されている」といえ,W−ZERO3の充電池ぶたは,本件特許発
明のスライドボタンが取り外し可能なふたの形状になったものであると
主張する。
しかし「スロット」とは「みぞ穴」を意味するものであるから「ス,,
ロットに全体が収納された」か否かとは「みぞ穴」に全体が収納され,
るか否かという問題なのであって「ふた(スライドボタン)は,ス,」
ロットの構成要素としてそもそも無関係なものである。
)原告は,本件特許発明の目的との関係からして,充電池ぶたはスロッd
トの一部を構成し,被告製品は,W−ZERO3に設けられたスロット
に全体が収納されるものであると主張する。
しかし,本件特許発明の「複数の回線を契約することなしに,時,場
所,場合に応じた快適な移動体通信を実現する電話送受信ユニット,移
動体通信端末を提供する」という修飾文言は,単なる目的を示すものに
すぎず,電話送受信ユニットのカートリッジ形状を規定するものにはな
り得ない。また,目的の共通性をもって「移動体通信端末に設けられ,
たスロットに電話送受信ユニットの全体が収納されている」ということ
ができないことも明らかである。
さらに,原告は「移動体通信端末自身が有しているデザインへの影,
響を最小限に止めることができるもの」が「移動体通信端末に設けられ
たスロットに電話送受信ユニットの全体が収納されるもの」であるとも
主張する。しかし「移動体通信端末自身が有しているデザインへの影,
響を最小限に止めることができるもの」という記載は,拒絶理由通知に
対する意見書でなされたものであって,特許請求の範囲はもとより,本
件明細書にも記載のないものである上,そもそも「形状」を規定するも
のとしてはあまりに漠としており,本件特許発明の技術的範囲を定義す
るものとはなり得ない。
)①本件明細書において「」が,すべて機器全体を外側から指示するe°
ように,機器と交差することなく用いられているのに対し,スロット
26を指示する「26」は,明らかに機器と交差し,スロット26°
。,,の挿入口より内側を指示しているこのように本件明細書において
スロット26を指示する「」は,他の使用例とは明らかに異なる用°
法で,スロット26を指示しているのであるから「26」が,ス,°
ロット26より内側を指示していることは明らかであり,原告のよう
に「図2に記載の入出力端子32,ガイドレール34及びスライドボ
タン38全体を表すもの」と解することはできない。
②本件明細書の【0017】の記載は「スロット26」と「スロッ,
ト26」とは独立した別個の部材である「スライドボタン38」との
。,【】,【】位置関係を示しているにすぎないさらに00300034
及び【0038】の記載も【0017】の記載を受けたものである,
以上,同様に「スライドボタン38がスロット26の一部であるこ,
と」を示す根拠とはなり得ない。
③本件明細書の【図2】及び【0017】の記載は,カートリッジを
スロットに挿入する際の手順や,挿入後にスライドボタンがバネの作
用によって所定の位置に戻り,それにより,カートリッジが固定され
るという一連の動作を説明したものにすぎず「スロットに全体が収,
納される」の意義を,挿入されるという要素に挿入口が閉められ,固
定されるという要素を加えたものと解する根拠とはなり得ない。
また「収納」と「閉める」こと及び「固定する」こととは,そ,,
もそも別の概念であり,収納を,挿入口が閉められることと,固定さ
,。れることという要素を加えて解釈することは論理的にも誤っている
④仮に,原告主張の解釈が採用できるとしても,被告製品は,一般に
「型ロック機構」として知られている機構により固定されpush-push
るのであって「充電池ぶた」や「カバー」で固定されるではない。,
⑤被告製品は「型ロック機構」における製品の取り外しを,push-push
可能にするため,そのみぞ穴の一部を円弧状に切り欠くことなどによ
り,被告製品の一部をみぞ穴から露出する構成を採用している。
一方,電話送受信ユニット24をスライドボタン38で固定する機
構を採用している本件特許発明では,電話送受信ユニット24をみぞ
穴から露出する構成は構造上採り得ないのであり,そのため,カート
リッジが「スロットに全体が収納されるような形状」に形成されるこ
とが必須の構成要件なのである。
このように,被告製品は,本件特許発明とは基本的構成を全く異に
する。
3争点2−2(構成要件A1,A2及びDを充足するか)について
()原告の主張1
ア被告製品に搭載されたアンテナ部は,基地局との間で信号を送受信する
ことから「アンテナ」に該当する。また,被告製品が収納されたW−ZE
RO3の表面の受話口は,音声信号を出力する部分であることから「ス,
ピーカ」に該当する。以上のとおり,被告製品は「アンテナにより受信,
される受信信号をスピーカから出力する音声信号に変換する機能」を有し
ていることから,構成要件A1を充足する。
被告製品が収納されたW−ZERO3の送話口は,音声信号を入力する
,「」。,,部分であることからマイクに該当する以上のとおり被告製品は
「マイクに入力される音声信号を前記アンテナから出力する送信信号に変
換する機能」を有していることから,構成要件A2を充足する。
被告製品は,PHS無線通信部分を含んでいることから「電話送受信,
ユニット」ということができる。よって,被告製品は,構成要件Dを充足
する。
イ)本件特許発明において,アンテナの位置についての限定はないことa
構成要件A1,A2及びDの各記載によれば「アンテナにより受信,
される受信信号をスピーカから出力する音声信号に変換する機能(構」
成要件A1前記アンテナから出力する送信信号に変換する機能構),「」(
成要件A2などを有することを特徴とする電話送受信ユニット構)「」(
成要件D)と定めるのみであり,アンテナの位置を移動体通信端末部分
に限定する記載は一切ない。
)本件特許出願当時の技術常識からすれば,本件特許発明においてアンb
テナの位置は単なる設計事項にすぎないこと
電話送受信ユニット側にアンテナを設けることは,特開平9−149
109号公報(刊行物1)にも開示されているとおり,当業者にとって
技術上の常識であり,特別なことではない。
本件特許出願に対する拒絶理由通知書の2頁2行ないし5行において
も「本願発明と引用文献1(判決注・刊行物1)記載のものとを比較,
すると,本願発明はアンテナを移動体通信端末に備えるのに対して,引
用文献1記載のものはアンテナを基本部12(本願における電話送受信
ユニットに相当)に備える点で両者は相違するが,アンテナをどこに。
設けるかは当業者が適宜決定し得る程度のことにすぎない」と記載さ。
れている。
)本件特許の出願人の拒絶理由通知に対する意見書の記載においても,c
本件特許発明は,アンテナを電話送受信ユニットに備えている場合を含
んでいること
本件特許の出願人は,平成11年11月29日付け意見書において,
本件特許発明と引用発明1との差異として,移動体通信端末部分のスロ
ットに電話送受信ユニット全体が装着されるか否かということを説明し
たにすぎない。すなわち,同意見書には「この引用文献1(判決注・,
刊行物1)の基本部にはアンテナが設けられているため,周辺部への装
着時に基本部全体を内部に収納するのではなく,基本部の一部(アンテ
ナ)を外部に露出する必要があります」との記載に続いて「これに。,
対し,本願発明では,移動体通信端末のスロットに電話送受信ユニット
全体が装着されるような形状に形成されています。これにより,移動体
通信端末自身が有しているデザインへの影響を最小限に止めることがで
きます。このような本願発明の技術思想は引用文献1には開示も示唆も
。」。,されていませんと記載されているこのことからも明らかなように
本件特許の出願人は,本件特許発明と引用発明1との差異として,アン
テナが基本部と周辺部のいずれに備えられているかということを説明し
たものではなく,移動体通信端末部分のスロットに電話送受信ユニット
全体が装着されるか否かということを説明したのである。
,,「」,「」,「」,ウ被告らは本件特許発明においてアンテナスピーカマイク
「操作部」及び「表示部(以下「アンテナ等」という)は「移動体通」。,
信端末」に設けられるものであると主張する。しかし,かかる主張は失当
である。
)被告らは,本件明細書の【発明の詳細な説明】の記載によれば,アンa
テナ等は「移動体通信端末」に設けるものと限定されると主張する。,
しかし,本件明細書の【0019】は,アンテナを電話送受信ユニッ
ト側に設けることは最適実施形態ではないことを記載しているにすぎな
い。本件特許発明の目的,作用効果からは【0019】の記載を,電,
話送受信ユニットにアンテナが設けられていることを積極的に排除する
ものと理解すべきではない。
また,本件明細書の【0009】は,本件特許発明の最適実施形態で
ある請求項2の実施例について説明しているにすぎず,それ以外の実施
形態を排除したものではない。
)従属クレームである請求項2にアンテナが移動体通信端末にあるといb
,「」う限定があるということは独立クレームである請求項1のアンテナ
にはかかる限定がないこと,すなわち「アンテナ」が移動体通信端末,
にあるという限定がないことを推認させるものである。
)出願人は,平成11年11月29日付け意見書において,本件特許発c
明がアンテナを移動体通信端末に備える場合に限るものであることを認
めたものではなく,アンテナをどこに設けるかということは設計事項で
あるという点について,反論せず,これを認めたものにすぎない。
()被告らの主張2
,,「」ア本件特許発明においてアンテナ等はいずれも電話送受信ユニット
ではなく「移動体通信端末」に設けられるものである。,
,「」a)本件明細書の発明の詳細な説明にはアンテナ等は移動体通信端末
に設けるものとして記載されていることについて
本件明細書において,本件特許発明は,第1ないし第6の実施形態と
変形実施形態とからなる実施例のみによって説明されている。よって,
これら実施例の記載は,単なる一実施形態を意味するにとどまらず,ク
レームを解釈する際の重要な指針となる。そして,本件明細書の【00
19】においては,請求項1に係る発明に対応した第1実施形態の説明
として,アンテナ等については,電話送受信ユニット側に設けると良好
な特性が得られないことなどの技術的理由に基づき,電話送受信ユニッ
ト側に設けることが明確に否定されている。
,【】【】,また本件明細書の0006ないし0009の記載によれば
本件特許発明の「複数の回線を契約することなしに,時,場所,場合に
応じた快適な移動体通信を実現する」という目的は「電話送受信ユニ,
ット」単体の構成によってのみ達成されるものではなく「電話送受信,
ユニット」と,電話送受信ユニットが挿入される相手方である「移動体
通信端末」のそれぞれの機器に与えられるべき機能が好適に配分される
結果,初めて達成されるものというべきである。したがって,発明の目
的(課題)とこれを解決する手段との関係からみた場合でも,例えば,
【0009】に記載されるように,アンテナ等を「移動体通信端末」に
設けることが,本件特許発明の目的を達成するための構成として記載さ
れている以上,本件特許発明においては,アンテナ等が「電話送受信ユ
ニット」に設けられるものと解することはできない。
以上のとおり,発明の詳細な説明の記載から,本件特許発明における
アンテナ等は「電話送受信ユニット」ではなく「移動体通信端末」,,
に設けられるものであると解するほかはない。
)請求項2の記載との関係についてb
本件特許の請求項2に係る発明は「移動体通信端末」の発明を記載,
しているところ,請求項2では,アンテナ等が「移動体通信端末」に設
けられることが明記されており,しかも「請求項1記載の電話送受信,
ユニット全体を収納するスロット」が設けられると記載されている。
このように,アンテナ等を「移動体通信端末」に設けつつ,請求項1
記載の電話送受信ユニットを移動体通信端末のスロットに挿入するとい
う請求項2の記載を,請求項1の記載との関係で矛盾なく理解するため
には「請求項1記載の電話送受信ユニット」にアンテナ等が設けられ,
ていないと解さざるを得ない。
)出願経過についてc
平成11年9月17日付け拒絶理由通知の備考中には「本願発明と引
用文献1記載のものとを比較すると,本願発明はアンテナを移動体通信
端末に備えるのに対して,引用文献1記載のものはアンテナを基本部1
2(本願における電話送受信ユニットに相当)に備える点で両者は相。
違するが,アンテナをどこに設けるかは当業者が適宜決定し得る程度の
ことにすぎない」との判断が示された。。
これに対し,出願人は,意見書において「本願発明はアンテナを移,
動体通信端末に備えるのに対して」との指摘に何ら反論をしなかった,
ばかりか,逆に「この引用文献1の基本部にはアンテナが設けられてい
るため,周辺部への装着時に基本部全体を内部に収納するのではなく,
基本部の一部(アンテナ)を外部に露出する必要があります」と主張。
した。このような審査過程における出願人の態度からは,出願人も本件
特許発明が「アンテナを移動体通信端末に備える」ものであることを認
,,,,めていたことそのため審査官と出願人との間では本件特許発明が
アンテナを移動体通信端末に備えるものであることを前提として審査が
進められ,その結果,本件特許発明が特許査定されるに至ったことが理
解される。
イ上記のとおり,本件特許発明において,アンテナ等は「移動体通信端,
末」に設けられるものであり「電話送受信ユニット」に設けられるもの,
ではない。
一方,被告製品にはアンテナが設けられている。したがって,被告製品
は,構成要件A1,A2,Dを充足しない。
ウなお,本件明細書において【0019】のように,アンテナ等をユニ,
ット側に設けることを明確に排除する記載はあっても,アンテナ等をユニ
ット側に設けることを許容する記載は一切存しない。また,請求項1に示
された「電話送受信ユニット」と請求項2に示された「移動体通信端末」
とはそれぞれ補完関係にあり,一方が他方に従属する関係にはないから,
「従属クレームにおいてある特定の限定が存在するということは,独立ク
レームにおいては,当該限定は存在しないということを推認させるもので
ある」との見解は,請求項1に示された電話送受信ユニットに,アンテ。
ナの位置に関する限定が付されていないことを推認する根拠にはなり得な
い。
4争点3−1(本件特許権が特許法36条6項2号に違反しているか)につい

()被告らの主張1
ア本件特許発明は「電話送受信ユニット」という物の発明に関するもの,
である。一般に,物は通常それ単独で市場を流通することを前提にしてい
るから,物の発明に特許が与えられた場合に自己の権利範囲を明確にし,
かつ,権利侵害を巡る混乱を避けるためには,ある対象製品が当該発明の
範囲に含まれるか否かをその物が有している構成のみで判断できるように
特許請求の範囲を記載する必要がある。
しかし,本件特許発明では「移動体通信端末に設けられたスロットに,
」()全体が収納されるような形状に形成されたカートリッジと構成要件B
などの記載があることから明らかなとおり「電話送受信ユニット」を構,
成しない「移動体通信端末」のスロットとの関係によって,発明の対象,
である「電話送受信ユニット」が特定されている。そして,本件特許発明
における「移動体通信端末」のスロットは,その形状を含め,何ら規格化
されているわけでもない。そのため,対象製品が本件特許発明の技術的範
囲に含まれるか否かが「電話送受信ユニット」の構成のみでは判別でき,
ない結果となっているのである。
このように,組合せの相手方となる移動体通信端末のスロット形状によ
って,ある対象製品が本件特許発明の技術的範囲に含まれたり,含まれな
かったりするということは,特許請求の範囲の記載が,自己の発明の保護
範囲を明示するための権利書としての役割を果たし得ないという根本的な
問題を抱えていることになるから,特許法36条6項2号にいう「特許,
を受けようとする発明が明確である」という要件を満たさないことは明ら
かである。
イ原告は,本件特許発明の対象となる物が,他の物と組み合わせて市場を
流通することを前提とする物であると主張する。
しかし,本件特許発明の解決すべき課題及び作用,効果(0027,【】
【0054)に照らせば,電話送受信ユニットは,様々な移動体通信端】
末に装着することを可能とすべく,単独で市場を流通することが前提とな
ると解すべきである。
原告は,他の物と組み合わせて市場を流通することを前提とする物であ
る場合,物の構成を特定する際に,組合せの相手となる物の形状の影響を
受けるのは当然であると主張する。
しかし,組合せの相手となる物の形状の影響を受ける場合があるとして
も,そのこと自体,本件特許請求の範囲の記載が,記載不備に該当しない
ことの理由にはならない。むしろ,物の構成を特定する際に,組合せの相
手となる物の形状の影響を受けるということは,結局,他の物との組合せ
方そのものに発明の特徴があるということなのであるから,そのような場
合には,これらを組み合わせた物の発明として記載すべきということにな
るのであって,構成の特定を曖昧にしたまま,組合せの相手方を欠いた単
独の物の発明として記載することが許されることにはならない。
()原告の主張2
発明の対象となる物が本件特許発明における「電話送受信ユニット」のよ
うに,通常それ単独で市場を流通する物ではなく,他の物と組み合わせて市
場を流通することを前提とする物である場合には「一般に,物は通常それ,
単独で市場を流通することを前提にしている」との被告ら主張はその前提。
を欠くものである。
また,発明の対象となる物が,通常それ単独で使用されるために単独で市
場を流通することを前提とする物ではなく,他の物と組み合わせて使用され
るために他の物と組み合わせて市場を流通することを前提とする物である場
合,物の構成を特定する際に,組合せの相手となる物の形状の影響を受ける
のは当然である。
よって,発明の対象となる物が,組合せの相手となる物の形状の影響を受
ける以上,その物が有している構成のみで特定せずに,組合せの相手となる
物の形状により物の構成を特定したとしても,特許を受けようとする発明が
明確に記載されているといえる。
したがって,被告らの主張は独自の見解に基づくものであり,論理的根拠
を有しない。
また,発明の対象となる物が,通常それ単独で使用されるために単独で市
場を流通することを前提とする物ではなく,他の物と組み合わせて使用され
るために他の物と組み合わせて市場を流通することを前提とする以上,組合
せの相手方となる移動通信端末のスロットの形状によって,ある対象製品が
本件特許発明の技術的範囲に含まれたり,含まれなかったりするということ
は,当然のことであり,本件特許発明の技術的範囲が不明確であるとはいえ
ないことは明らかである。
5争点3−2(本件特許権が特許法29条1項3号に違反しているか)につい

()被告らの主張1
本件特許発明は,本件特許の出願日の前に公開された文献である特開平8
−101900号公報(乙3。以下「刊行物2」という)に記載された発。
明(以下「引用発明2」という)であるから,特許法29条1項3号に該。
当し,特許を受けることができないものである。
ア刊行物2の記載
)「無線通信用ICカード」に関する記載a
,「」「」刊行物2にはカード基体とカード基体内の無線通信ユニット
とを有し,かつ「データ処理装置」のカードスロットに装着されて用,
いられる「無線通信用ICカード」が記載されており(請求項1,具)
体的な「無線通信用ICカード」の種類を記載するものとしては「無,
線LANカード,無線モデムカード,PHS(簡易型携帯電話)カード
など,様々な種類の無線通信カードがあ(る(0013)との記)」【】
載や「この通信用ICカードはPCMCIA/JEIDAによって標準
化された仕様を満たすPCカードであり,このPCカード11は,例え
ばPHS対応の無線通信機能を備えている(0014)との記載が」【】
ある。
)「データ処理装置」に関する記載b
「データ処理装置」に関する記載としては「パーソナルコンピュー,
タ(0014】等)との記載,さらに具体的には「バッテリ駆動可」【
能なノートルブック型のポータブルコンピュータ(0017)との」【】
記載がある。
)無線通信用ICカードの「無線通信ユニット」の機能に関する記載c
無線通信用ICカードの無線通信ユニットの機能に関してはこ「」,「
のPCカード11には,パーソナルコンピュータ12のPCカードスロ
ットのコネクタと接続される68ピンのコネクタ111,パーソナルコ
ンピュータとPCカード11内の通信制御部113をインタフェースす
るPCカードインタフェース部112,音声通話およびデジタルまたは
アナログのデータ通信を制御する通信制御部113,および無線通信部
114,アンテナ接点115,ヘッドセット116が接続可能なマイク
・イヤホンジャック117が設けられている(0015「PC。」【】),
カード11を図2のようにパーソナルコンピュータ12のPCカードス
ロットに装着すると,PCカード11のコネクタ111とパーソナルコ
ンピュータ12のコネクタ121とが接続され,PCカード11とパー
。,,ソナルコンピュータ12間のデータの授受が可能となるまたこの時
PCカード11の接点115とPCカードスロットの接点122が電気
的に接触され,これによってカード11の無線通信部114が,パーソ
。」(【】),ナルコンピュータ12のアンテナ125に接続される0018
「このため,PCカード11は,そのアンテナ125を使用してデータ
や音声の通信を行うことが可能とな(る(0019)との記載が)」【】
なされている。
)「無線通信用ICカード」とデータ処理装置のカードスロットとの関d
係に関する記載
データ処理装置のカードスロットと「無線通信用ICカード」との,
関係については「カード全体がカードスロット内に収まる(000,」【
8「カード11全体がカードスロット内に収まる(0019,】),」【】)
「カード全体をカードスロット内に収めることが可能となる(00。」【
28)と記載されている。そして,図1には,PCカード内では,ア】
ンテナ接点115,無線通信部114,通信制御部113及びマイク・
イヤホンジャック117が設けられ,コネクタ111がパーソナルコン
ピュータ12のPCカードスロットのコネクタと接続され,PCカード
内の通信制御部113がPCカードインターフェース部112にインタ
ーフェースされていることが記載されている。
イ本件特許発明と引用発明2との対比
)基本構成(構成要件A5及びカートリッジ)についてa
刊行物2には「カード基体」とその内部に設けられた「無線通信ユ,
ニット」とを有しており,かつ,ノートブック型のポータブルコンピュ
ータ等のデータ処理装置のカードスロットに装着されて用いられる「無
線通信用ICカード」の発明が記載されている。
上記刊行物2の記載からするとカード基体は本件特許発明のカ,「」「
ートリッジ」に「無線通信ユニット」は本件特許発明の「電子回路」,
(構成要件A5)に「ノートブック型のポータブルコンピュータ等の,
データ処理装置」は,本件特許発明の「移動体通信端末」に「無線モ,
デムカード,PHS(簡易型携帯電話)カード等の無線通信用ICカー
ド」は本件特許発明の「電話送受信ユニット(構成要件D)に相当す」
るものである。
したがって,刊行物2には,本件特許発明の基本構成である「電子回
路(構成要件A5)と「カートリッジ」がいずれも記載されている。」
)電子回路の機能(構成要件A1ないしA4)についてb
①構成要件A1及びA2について
刊行物2には「PCカード11の接点115とPCカードスロッ,
トの接点122が電気的に接触され,これによってカード11の無線
通信部114が,パーソナルコンピュータ12のアンテナ125に接
続される(乙3【0018)こと「このため,PCカード11。」】,
は,そのアンテナ125を使用してデータや音声の通信を行うことが
可能(乙3【0019)であることが記載されている。また,刊」】
行物2の【0015】及び図1には,無線通信ユニットにおいて,ア
ンテナ接点115,無線通信部114,通信制御部113及びマイク
・イヤホンジャック117が接続されていることが記載されている。
さらに,部材117が「マイク・イヤホンジャック」と記載されてい
る(乙3【0015)ことからすると「ヘッドセット(116)】,」
には,マイク及びスピーカが内蔵されていることが読み取れる。
以上のことからすると,本件特許発明の電子回路(構成要件A5)
に相当する刊行物2の「無線通信ユニット」中では,アンテナにより
受信される音声信号を処理して,スピーカーに出力する処理,及び,
マイクに入力される音声信号を処理して,パーソナルコンピュータ側
に送出し,アンテナから出力する処理が行われるものと解され,その
際には,同「無線通信ユニット」内において,アンテナにより受信さ
,,,れる受信信号はスピーカーから出力する音声信号に変換されまた
マイクに入力される音声信号は,アンテナから出力する送信信号に変
換されるものと解される。
したがって,本件特許発明の電子回路(構成要件A5)に相当する
引用発明2の「無線通信ユニット」は,本件特許発明と同様に「ア,
ンテナにより受信される受信信号をスピーカから出力する音声信号に
変換する機能(構成要件A1)及び「マイクに入力される音声信号」
を前記アンテナから出力する送信信号に変換する機能(構成要件A」
2)を備えるものである。
②構成要件A3及びA4について
刊行物2には,PCカード11には「音声通話およびデジタルま,
たはアナログのデータ通信を制御する通信制御部113(乙3【0」
015)が設けられること,PCカード11をパーソナルコンピュ】
ータ12と接続すると「PCカード11とパーソナルコンピュータ,
12間のデータの授受が可能となる(乙3【0018)こと,こ」】
,,「」のためPCカード11はデータや音声の通信を行うことが可能
(乙3【0019)であることが記載されている。また,刊行物2】
には明示的な記載はないものの,パーソナルコンピュータ12に,デ
ータ入力のためのキーボードや,データ表示のための表示部が設けら
れていることは,コンピュータである以上,自明であり,また,デー
タ通信は,キーボードから入力される操作信号によって行われること
も自明である。
以上のような刊行物2における記載及び技術常識からすると,刊行
物2におけるPCカードがパーソナルコンピュータに接続されてデー
タの授受を行う際には「データ通信を制御する通信制御部113」,
は,キーボードからの操作信号に基づいて所定の処理を行い,また,
表示部に表示する表示信号を生成する処理を行うものと解される。
したがって,本件特許発明の電子回路(構成要件A5)に相当する
引用発明2の「無線通信ユニット」は,本件特許発明と同様に「操,
作部からの操作信号に基づいて所定の処理を行う機能(構成要件A」
3)及び「表示部に表示する表示信号を生成する機能(構成要件A」
4)を備えるものである。
以上のとおり,刊行物2には,本件特許発明の電子回路の機能(構成
要件A1ないしA4)がすべて記載されている。
)「カートリッジ」の構成(構成要件B及びC)についてc
①構成要件Bについて
刊行物2には,データ処理装置のカードスロットと「無線通信用I
Cカード」との関係について「カード11全体がカードスロット内,
に収まる」と記載されている。ここでいう「カード11全体」が「カ
ード基体」を指していることは明らかであるから,刊行物2の「カー
ド基体,すなわち「カートリッジ」は「移動体通信端末に設けら」,
れたスロットに全体が収納されるような形状(構成要件B)に形成」
されている。
②構成要件Cについて
刊行物2の【0018】には「PCカード11のコネクタ111,
とパーソナルコンピュータ12のコネクタ121とが接続され,PC
カード11とパーソナルコンピュータ12間のデータの授受が可能と
なる。また,この時,PCカード11の接点115とPCカードスロ
ットの接点122が電気的に接触され,これによってカード11の無
線通信部114が,パーソナルコンピュータ12のアンテナ125に
接続される」と記載されている。これら「PCカード11のコネク。
タ111」及び「PCカード11の接点115」が,本件特許発明に
おける「信号を入出力する入出力部」に相当する。さらに「PCカ,
」「」,ード11のコネクタ111及びPCカード11の接点115が
いずれもパーソナルコンピュータ12と接触する部材であることから
すると,上記コネクタ,あるいは接点は「カード基体」そのものに設
けられるものであるから引用発明2のカード基体すなわちカ,「」,「
ートリッジ」は「移動体通信端末との間で信号を入出力する入出力,
部(構成要件C)を有するものである。」
よって,刊行物2には,本件特許発明のカートリッジに関する構成要
件B及びCがすべて記載されている。
ウ以上のとおり,本件特許の出願日前に公開された刊行物2には,本件特
許発明の構成要件のすべてを具備する発明が記載されているから,本件特
許は,特許法29条1項3号に該当し,無効とされるべきものである。
()原告の主張2
ア刊行物2には,構成要件Bが開示されていないことについて
)既に述べたとおり,本件特許発明では「カートリッジ」が「移動体a,
通信端末に設けられたスロットに全体が収納されるような形状に形成さ
れ」ていることは,カートリッジが移動体通信端末に設けられたスロッ
トに挿入され,その挿入口がスロットの一部により閉められ,固定され
るような形状に形成されていることを意味している。
)これに対し,引用発明2では,刊行物2の【図1【図3】及び【図b】,
4】から明らかなように,PCカード11は,パーソナルコンピュータ
12に設けられたPCカードスロットに挿入されるものの,その挿入口
はPCカードスロットの一部により閉められておらず,PCカード11
の外側の側面,つまり,マイク・イヤホンジャック117を備える側の
面が,パーソナルコンピュータ12に設けられたPCカードスロットに
より閉められ,PCカード11が固定されるような形状には形成されて
いないこのため引用発明2のPCカード11は本件特許発明の移。,,「
動体通信端末に設けられたスロットに全体が収納されるような形状」に
形成されているとはいえない。
また,刊行物2の【図1】ないし【図4【0015】及び【00】,
20】の記載によれば,引用発明2では,音声通話を行うためにはPC
カード11に設けられたマイク・イヤホンジャック117にヘッドセッ
ト116を接続する必要があるため,音声通話を行う際には,マイク・
イヤホンジャック117がPCカードスロットから露出せざるを得ず,
PCカード11の挿入口がPCカードスロットにより閉められ,PCカ
ード11が固定されるような形状に形成されることは不可能である。
)よって,刊行物2には,構成要件Bの「移動体通信端末に設けられたc
スロットに全体が収納されるような形状に形成されたカートリッジ」は
開示も示唆もされていない。
イ刊行物2には,構成要件Dが開示されていないことについて
)本件明細書の【特許請求の範囲】の記載によれば「電話送受信ユニa,
ット」とは,マイクに入力される音声信号をアンテナから出力する送信
信号に変換する機能のみならず,アンテナにより受信される受信信号を
スピーカから出力する音声信号に変換する機能をも有することを特徴と
する。
そして,複数の回線を契約することなしに,時,場所,場合に応じた
快適な移動体通信を実現する電話送受信ユニットを提供することにある
という本件特許発明の目的(0006)は,カートリッジを移動体【】
通信端末に設けられたスロットに全体が収納されるような形状に形成す
ることにより,マイク・スピーカ等(イヤホンを含む)の音声入出力。
機能を有する部分が外部へ食み出さないようにすることによって実現さ
れる。
)これに対し,刊行物2には,電話による送信のみならず受信が可能なb
機能を有するユニットは,開示も示唆もされていない。
また,刊行物2では,移動体通信端末はデータ処理装置(パーソナル
コンピュータ)を想定しており,マイク及びスピーカ等の音声入出力機
能を備えることが明記されていない。このため,引用発明2では,電話
による送信及び受信を行うためにはICカード側にマイク及びスピーカ
等(イヤホンを含む)の音声入出力機能を設ける必要があり,本件特。
許発明を実現する手段である「外部への食み出し部分をなくす」とい。
うことと矛盾する。
さらに,刊行物2には「複数の回線を契約することなしに,時,場,
,」,所場合に応じた快適な移動体通信を実現する電話送受信ユニットは
一切開示も示唆もされていない。
したがって,引用発明2は,無線通信を行うことが可能な無線通信用
ICカードを提供することを目的とするものであって,複数の回線を契
約することなしに,時,場所,場合に応じた快適な移動体通信を実現す
ることを目的とするものではない。
)よって,刊行物2には,構成要件Dの「電話送受信ユニット」は開示c
も示唆もされていない。
ウ刊行物2には,構成要件A1ないしA4が開示されていないことについ

)刊行物2には,構成要件A1が開示されていないことについてa
刊行物2には,無線通信用ICカードが有する電子回路において,ア
ンテナにより受信される受信信号をスピーカから出力する音声信号に変
換する機能について記載があるとはいえない。
まず,刊行物2の【図1【図3】及び【図4】によれば,PCカ】,
ード11には,通信制御部113,無線通信部(RF)114を含むこ
とが記載され,また【0015】には「音声通話およびデジタルま,,
たはアナログのデータ通信を制御する通信制御部113」との記載があ
るものの,通信制御部がどのような働きをするかについて説明がなく,
また,無線通信部についても音声通話及びデータ通信はどのように行わ
れるのかについて説明がない。刊行物2の【図1】においても、パーソ
ナルコンピュータ側に設けられたアンテナにより受信される受信信号が
PCカード内で音声信号に変換されてヘッドセットのスピーカに送られ
ること,及び,ヘッドセットのマイクにより入力される音声信号がPC
カード内で送信信号に変換されてパーソナルコンピュータ側に設けられ
たアンテナから出力されることについては,一切記載されていない。ま
た,刊行物2の【図1】の記載及び「このため,PCカード11は,そ
のアンテナ125を使用してデータや音声の通信を行うことが可能とな
り」との記載(乙3【0019)を総合するとしても,引用発明2に】
おいては,パーソナルコンピュータ側に設けられたアンテナにより受信
される受信信号は,PCカード内で音声信号に変換されて,ヘッドセッ
,,,トに送られまたヘッドセットのマイクにより入力される音声信号は
PCカード内で送信信号に変換されて,アンテナから出力されることは
明らかであると判断する根拠については,一切示されていない。したが
って,かかる記載により,刊行物2が,アンテナにより受信される受信
信号をスピーカから出力する音声信号に変換する機能を有することを開
示しているとはいえない。
さらに,刊行物2の【0014】においても「このPCカード11,
は例えばPHS対応の無線通信機能を備えている」と記載するのみで,
アンテナにより受信される受信信号をスピーカから出力する音声信号に
変換する機能を有することを開示していない。
,【】「,その上刊行物2の0014におけるこの通信用ICカードは
PCMCIA/JEIDAによって標準化された仕様を満たすPCカー
ドであ」るとの記載から,かかるPCカード11は「PCMCIA/,
JEIDAによって標準化された仕様を満たすPCカード」であること
は明らかである。本件特許の出願当時「PCMCIA/JEIDAに,
よって標準化された仕様」には,アンテナにより受信される受信信号を
スピーカから出力する音声信号に変換する機能は開示されていない以
上,出願当時におけるPCカードの技術水準に照らして考えると,PC
カード11は,アンテナにより受信される受信信号をスピーカから出力
する音声信号に変換する機能を有すると考えることはできない。
よって,刊行物2には,構成要件A1が開示されていない。
)刊行物2には,構成要件A2が開示されていないことについてb
刊行物2には,マイクに入力される音声信号をアンテナから出力する
,。,送信信号に変換する機能があることについては何ら記載がないまた
前記のとおり,通信制御部がどのような働きをするかについて説明がな
いし,無線通信部についても音声通話及びデータ通信はどのように行わ
れるのかについて説明がない。したがって,刊行物2が,マイクに入力
される音声信号をアンテナから出力する送信信号に変換する機能を有す
ることを開示しているとはいえない。
その上,本件特許の出願当時「PCMCIA/JEIDAによって,
標準化された仕様」には,マイクに入力される音声信号をアンテナから
出力する送信信号に変換する機能は開示されていない以上,出願当時に
おけるPCカードの技術水準に照らして考えると,PCカード11は,
マイクに入力される音声信号をアンテナから出力する送信信号に変換す
る機能を有すると考えることはできない。
よって,刊行物2には,構成要件A2が開示されていない。
)刊行物2には,構成要件A3が開示されていないことについてc
パーソナルコンピュータ12にキーボードが設けられていることが当
業者の認識であり,キーボードが操作部に当たると考えたとしても,刊
行物2には,PCカード11の電子回路が,操作部からの操作信号に基
づいて所定の処理を行う機能があることについては,何ら記載がない。
また,前記のとおり,通信制御部がどのような働きをするかについて
説明がないし,無線通信部についても音声通話及びデータ通信はどのよ
うに行われるのかについて説明がない。したがって,刊行物2が,操作
部からの操作信号に基づいて所定の処理を行う機能を有することを開示
しているとはいえない。
その上,本件特許の出願当時「PCMCIA/JEIDAによって,
標準化された仕様」には,操作部からの操作信号に基づいて所定の処理
を行う機能は開示されていない以上,出願当時におけるPCカードの技
術水準に照らして考えると,PCカード11は,操作部からの操作信号
に基づいて所定の処理を行う機能を有すると考えることはできない。
よって,刊行物2には,構成要件A3が開示されていない。
)刊行物2には,構成要件A4が開示されていないことについてd
刊行物2には,表示部について何ら明示的な記載はない。
しかも,本件特許発明の出願当時,当業者が,パーソナルコンピュー
タ12にディスプレイが設けられていると認識できるとして,かつ,か
かるディスプレイが表示部にあたると考えたとしても,刊行物2には,
表示部に表示する表示信号を生成する機能を有することについて何ら記
載がない。すなわち,刊行物2には,無線通信用ICカードが,操作部
から入力された電話番号等やアンテナより受信した動作状態等を表示部
に表示するための表示信号を生成する機能を有するとの記載は一切な
い。被告らは,刊行物2のパーソナルコンピュータ側に設けられたアン
テナは,ケーブル123によって直接PCカードスロットの接点112
及びPCカードの接点115に接続されていることから,PCカード1
1の通信制御部113において,表示のための表示信号の生成が行われ
るものと解されると主張する。しかし,このように解する根拠は全く不
明である。
その上,本件特許の出願当時「PCMCIA/JEIDAによって,
標準化された仕様」には,表示部に表示する表示信号を生成する機能は
開示されていない以上,出願当時におけるPCカードの技術水準に照ら
して考えると,PCカード11は,表示部に表示する表示信号を生成す
る機能を有すると考えることはできない。
よって,刊行物2には,構成要件A4が開示されていない。
エ小括
以上のとおり,本件特許発明の技術思想及び構成と,刊行物2に開示さ
れた技術思想及び構成は,根本的に異なっており,刊行物2には,本件特
許発明が開示も示唆もされていないから,本件特許は,特許法29条1項
3号に違反してなされたものということはできない。
()原告の主張に対する被告らの反論3
ア刊行物2には,構成要件Bが開示されていないとの主張について
)原告の主張は,構成要件Bについての誤った解釈を前提とするものでa
ある。したがって,刊行物2のPCカードの外側の側面が,PCカード
スロットの一部により閉められていないことをもって,刊行物2に構成
要件Bが開示されていないということはできない。
)構成要件Bは「カートリッジ,すなわち,いわゆる筐体の部分が,b,」
「移動体通信端末に設けられたスロット26なる空間に全体が収納され
るような形状」とされることを規定するものである。したがって,刊行
物2の図3に図示されるとおり,そもそも筐体を構成しないことが明ら
かなマイク・イヤホンジャック117がPCカードスロットから露出す
ることをもって刊行物2に構成要件Bが開示されていないということは
できない。
イ刊行物2には,構成要件Dが開示されていないとの主張について
特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当たって
は,最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決の判示するところに従い,発
明の要旨認定は,特段の事情のない限り,願書に添付した明細書の特許請
求の範囲の記載に基づいてされるべきであるから,本件特許発明の「電話
送受信ユニット」を「複数の回線を契約することなしに,時,場所,場,
合に応じた快適な移動体通信を実現することを目的とするもの」に限定し
て解釈する必要はないし,ましてや本件明細書の発明の詳細な説明にすら
記載されていない「マイク・スピーカ等の音声入出力機能を有する部分が
外部に食み出さないもの」に限定して解釈するべき理由もない。
そして,刊行物2の【0014【0019】の記載によれば,刊行】,
物2のPCカードは,音声の通話を行う機能,すなわち電話送受信機能を
備えていることは明らかである。
ウ刊行物2には,構成要件A1ないしA4が開示されていないとの主張に
ついて
)刊行物2には,構成要件A1及びA2が開示されていないとの主張にa
ついて
刊行物2の図1には,パーソナルコンピュータ側に設けられたアンテ
ナ125は,ケーブル123,カードのアンテナ接点115等を介して
直接PCカード内の無線通信部114に接続されること,当該PCカー
ド内で無線通信部114と無線制御部113との間で信号が双方向に伝
達されること,該通信制御部113は,マイク・イヤホンジャック11
7を介して外部の音声変換装置であるヘッドセット116に接続されて
いることが示されている。また,刊行物2の【0019】には「この,
ため,PCカード11は,そのアンテナ125を使用してデータや音声
の通信を行うことが可能となり」と記載されている。したがって,これ
らの記載を総合すれば,刊行物2においては,パーソナルコンピュータ
側に設けられたアンテナにより受信される受信信号は,PCカード内で
音声信号に変換され,ヘッドセットに送られ,また,ヘッドセットのマ
イクにより入力される音声信号は,PCカード内で送信信号に変換され
て,アンテナから出力されることは明らかである。
また,PCMCIA/JEIDAによって標準化された仕様を有する
カードであって,構成要件A1及びA2を備えたものは,本件特許出願
前に公知であった(乙14ないし16。)
)刊行物2には,構成要件A3及びA4が開示されていないとの主張にb
ついて
引用発明2のパーソナルコンピュータにPCカード11を装着して他
の機器との無線通信を行う場合には,パーソナルコンピュータのキーボ
ードから入力された操作信号に基づいて,PCカードの電子回路で所定
の処理が行われる必要があり,この処理により「データや音声の通信を
行うことが可能となる(乙3【0019)のは明らかであり,また,」】
刊行物2の図1及び【0015】には,PCカード内に設けられた「音
声通話及びデジタルまたはアナログのデータ通信を制御する通信制御部
113」がPCカードインタフェース部112とデータを双方向に授受
することが可能であることが示されているのであるから,引用発明2の
,。,PCカードの電子回路は構成要件A3を備えていると解されるまた
本件特許の出願時においては,パーソナルコンピュータが他の情報機器
と通信中である場合に,パーソナルコンピュータの表示部に通信中であ
ることや回線接続状態等の動作状態を表示する機能は,基本的機能とし
てごく普通に採用されていたと認められること,及び,引用発明2のパ
ーソナルコンピュータ側に設けられたアンテナは,ケーブル123によ
って直接PCカードスロットの接点112及びPCカードの接点115
に接続されていることからすると,引用発明2においてもPCカード1
1の通信制御部113において,これら表示のための表示信号の生成が
行われるものと解される。よって,引用発明2のPCカードの電子回路
は,構成要件A4を備えている。
6争点3−3(本件特許権が特許法29条2項に違反しているか・その1)に
ついて
()被告らの主張1
本件特許発明は,本件特許の出願日の前に公開された特開平9−1491
09号公報(乙2・刊行物1)に記載された引用発明1,特開平9−139
972号公報(乙4。以下「刊行物3」という)に記載された発明(以下。
「引用発明3」という,及び国際特許公開94/21058号パンフレ。)
ット(乙5。以下「刊行物4」という)に記載された発明(以下「引用発。
明4」という)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので。
あるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができないも
のである。
ア本件特許発明と引用発明1との対比
)基本構成(構成要件A5及びカートリッジ)についてa
,「,刊行物1には携帯電話器の無線通信機能部品を内蔵する基本部と
携帯電話器の電話機能部品を内蔵する周辺部とを有し,前記基本部と周
辺部を分離可能に接続したことを特徴とする携帯電話器ユニット」が記
載されている(請求項1。また,当該基本部は,メモリカード形状【】)
の下部と,基本部保持部に載置するのに適した形状の上部により構成さ
れる筐体を有しており,この内部には図4記載の電子回路が内蔵され,
筐体の下部は,周辺部本体部と基本部保持部で形成された筒に挿入され
て接続されるものである(0008【0011,図1,2。【】,】)
これらの記載からすると,刊行物1には,上記「筐体」とその内部に
設けられた「電子回路」とを有し,かつ「電話機能部品を内蔵する周,
辺部」の筒に装着されて用いられる「携帯電話器の無線通信機能部品,
を内蔵する基本部」の発明が記載されていると解され,上記「筐体」が
本件特許発明のカートリッジに電子回路が本件特許発明の電「」,「」「
子回路(構成要件A5)に「電話機能部品を内蔵する周辺部」が本」,
件特許発明の「移動体通信端末」に,さらに「携帯電話器の無線通信,
機能部品を内蔵する基本部」が本件特許発明の「電話送受信ユニット」
(構成要件D)に相当する。
したがって,刊行物1には,本件特許発明の基本構成として「電子回
路(構成要件A5)と「カートリッジ」がいずれも記載されている。」
)電子回路の機能(構成要件A1ないしA4)についてb
①「アンテナにより受信される受信信号をスピーカから出力する音声
信号に変換する機能(構成要件A1)について」
刊行物1には「通話の受信では,アンテナ24で受信した音声信,
号は,RFモジュール50で処理され,その後変復調モデム52によ
って復調され,チャンネルコーデック54によって受信データとして
分解され,ADPCM56によって伸張され,音声/データセレクタ
66に転送され,次に,基本部12のPCMCIAI/F58を介し
て周辺部14のスピーカ38に転送され,音声として出力される」。
との記載がある(0019。【】)
よって,引用発明1の基本部に内蔵される電子回路は「アンテナ,
により受信される受信信号をスピーカから出力する音声信号に変換す
る機能(構成要件A1)を有するものである。」
②「マイクに入力される音声信号を前記アンテナから出力する送信信
号に変換する機能(構成要件A2)について」
刊行物1には「通話の送信では,マイク44から入力された音声,
は基本部12のPCMCIAI/F58を介して音声/データセレク
タ66に転送され,音声/データセレクタ66からADPCM56に
転送され,そこで,音声は圧縮され,チャンネルコーデック54に転
送され,チャンネルコーデック54によって送信データに組み立てら
れ変復調モデム52によって変調され,RFモジュール50を介して
アンテナ24によって無線によって送信されるとの記載がある0。」(【
018。】)
よって,引用発明1の基本部に内蔵される電子回路は「マイクに,
入力される音声信号を前記アンテナから出力する送信信号に変換する
機能(構成要件A2)を有するものである。」
③「操作部からの操作信号に基づいて所定の処理を行う機能(構成」
要件A3)について
刊行物1には「キースイッチ42で入力された電話番号データは,
基本部12のPCMCIAI/F58を介して音声/データセレクタ
66に転送され,音声/データセレクタ66からADPCM56に転
送され,チャンネルコーデック54によって送信データに組み立てら
れ変復調モデム52によって変調され,RFモジュール50を介して
アンテナ24によって無線によって送信されるとの記載がある0。」(【
017。そして,引用発明1の「キースイッチ42」が,本件特】)
許発明の「操作部」に相当することは明らかである。
よって,引用発明1の基本部に内蔵される電子回路は「操作部か,
らの操作信号に基づいて所定の処理を行う機能(構成要件A3)を」
有するものである。
④「表示部に表示する表示信号を生成する機能(構成要件A4)に」
ついて
,(),刊行物1に記載される周辺部14はLCD液晶表示装置40
キースイッチプッシュボタン42を有しておりキースイッチプ(),(
ッシュボタン)42を用いて無線通話を行う相手の電話番号を押した
,(【】,時LCD40は電話番号を表示するものである乙20009
【0017。】)
また,本件特許の出願時においては,携帯電話が他の電話からの信
号を受信した場合に当該他の電話の電話番号を表示する機能や,通話
中に通信状態(電波の状態)等を表示する機能は,基本的機能として
ごく普通に採用されていたと認められること,及び基本部12側の回
路図を示す図4及び刊行物1の【0012】ないし【0014】の記
載からすると,携帯電話が他の電話からの信号を受信した場合には,
,,当該基本部の電子回路においてこのような基本的機能を果たすべく
アンテナにより受信した信号に基づいてLCDの表示データが生成さ
れていると解される。
よって,刊行物1の基本部に内蔵される電子回路は「表示部に表,
示する表示信号を生成する機能(構成要件A4)を有するものであ」
る。
)「カートリッジ」の構成(構成要件B,C)についてc
①「前記移動体通信端末との間で信号を入出力する入出力部(構成」
要件C)について
刊行物1の図1及び図5に示されるとおり,携帯電話ユニットの基
本部12は,携帯電話ユニットの周辺部14と一体とされ,また,図
2及び【0011】に記載されているとおり,携帯電話ユニットの周
辺部14にはコネクタ46が設けられ,そのコネクタ46と基本部1
2のコネクタ20aとが電気的に接続される。すなわち,基本部12
の「コネクタ20a」が,本件特許発明における「前記移動体通信端
末との間で信号を入出力する入出力部」に相当する。
よって,本件特許発明の「カートリッジ」に相当する,引用発明1
の基本部を構成する筐体は「前記移動体通信端末との間で信号を入,
出力する入出力部(構成要件C)を備えるものである。」
②「移動体通信端末に設けられたスロットに全体が収納されるような
形状(構成要件B)について」
刊行物1の図1に示されるとおり,筐体の下部は,周辺部本体部と
基本部保持部で形成された筒に収納され,一体とされる。そして「周
辺部本体部と基本部保持部で形成された筒」は本件特許発明の「スロ
ット」に相当する。
そうすると,引用発明1の基本部を構成する筐体(本件特許発明の
「カートリッジ)の形状は,周辺部(本件特許発明の「移動体通信」
端末)に設けられたスロットに収納されるような形状を備えるもの」
である。
イ本件特許発明と引用発明1との一致点と相違点について
本件特許発明と引用発明1とは,本件特許発明のカートリッジが「移動
体通信端末に設けられたスロットに全体が収納されるような形状に(構」
成要件B)形成されているのに対し,引用発明1の筐体(本件特許発明の
カートリッジに相当する)は「移動体通信端末に設けられたスロットに。
収納されるような形状に」形成されているものの,全体が収納されていな
い点で相違し(以下「相違点」という,その余の点(構成要件A1な。)
いしA5,C,D)では一致している。
ウ相違点の容易想到性について
)刊行物3には,電子情報処理機器に対して装着される携帯無線電話装a
置において,その筐体の外形寸法を,該電子情報処理機器に設けられた
カード挿入部に全体的に収容される外形寸法とした引用発明3が記載さ
れている。そして,携帯無線電話装置の形状と電子情報処理機器の形状
とをこのような関係に設計することにより,電子情報処理機器を含んで
構成される装置全体を,外観的に優れたものにできるとともに,移動あ
るいは向きの変更等に際して取り扱いやすく,かつ,使い勝手が良いも
のとすることができるという利点についても記載されている(乙4【請
求項1【0002【0003【0005【0006【00】,】,】,】,】,
08【0011【0012【0021【0022【003】,】,】,】,】,
9【0040。】,】)
刊行物4には,パソコンあるいは携帯電話と組み合わせて用いること
のできるモジュール電話通信ユニットが記載されており,その図11に
は,スロット開口部にフラップを有するパソコンの当該スロットに電話
通信ユニットを装着して,フラップによりユニットを封鎖する態様,す
なわち,ユニットをスロットに全体的に収納される態様についても記載
されている(乙5・4頁1行目から20行目,16頁27行目から17
頁17行目,図11。)
)以上のような刊行物3及び刊行物4の記載によれば,携帯無線電話装b
置と電子情報処理機器,あるいは,モジュール電話通信ユニットとパソ
コン(または携帯電話)のような,使用時において一方を他方に挿入・
,,連結して用いる情報処理通信機器において挿入する側の機器の形状を
挿入される側の機器に設けたスロット(あるいは挿入部)に全体的に収
納されるような形状に設計すること自体は公知であり,また,刊行物3
によれば,このような設計により,外観上,使用上の利点が得られるこ
とも公知であった。
そうすると,引用発明1においても,前記の外観上,あるいは使用上
,「」,の利点を得るべくカートリッジに相当する基本部の筐体の形状を
移動体通信端末に設けられたスロットに全体が収納されるような形状に
設計することは,刊行物3及び刊行物4に記載される技術的事項に基づ
いて,当業者が容易になし得たものというべきである。
そして,引用発明1と,引用発明3あるいは引用発明4とを組み合わ
せることにより「電話送受信ユニットを様々な移動体通信端末に装着,
することによって,複数の回線を契約することなく,1つの回線を契約
するだけで,時,場所,場合に応じた快適な移動体通信を提供すること
,,」ができかつ移動体通信端末のコストダウンに寄与することができる
という本件明細書記載の効果のみならず,本件特許の出願人が意見書で
主張した「移動体通信端末自身が有しているデザインへの影響を最小,
限に止めることができる」という効果をも奏することは明らかである。
エ以上のとおりであるから,本件特許発明は,引用発明1に,引用発明3
あるいは引用発明4を組み合わせることにより,当業者が容易に発明をす
ることができたものであるから,特許法29条2項に違反してされたもの
であり,無効とされるべきものである。
()原告の主張2
ア刊行物1には,構成要件A4が開示されていないことについて
)刊行物1の【図1】と,刊行物1には「本来の携帯電話器として使a,
用できると共に,携帯電話器が有する無線通信機能に着目して,無線通
信機能を有する部分を他の電子機器と組み合わせて使用可能な携帯電話
器ユニットを提供する(乙2【0004)ことを目的とし,この目」】
的を達成するために「携帯電話器の無線通信機能部品を内蔵する基本,
部と,携帯電話器の電話機能部品を内蔵する周辺部とを有し,前記基本
部と周辺部を分離可能に接続したことを特徴とする携帯電話器ユニッ
ト(乙2【請求項1)を採用する発明であると記載されていること」】
からすれば,引用発明1においては,本来の携帯電話器としての電話機
能部品は,携帯電話器の無線通信機能部分を内蔵する「基本部」には内
蔵されておらず「周辺部」に内蔵されていると考えられる。,
よって,本件特許の出願時において,携帯電話に他の電話番号を表示
する機能や通話状態等を表示する機能が基本的機能としてごく普通に採
用されていたとしても,引用発明1の「基本部」には,実際の携帯電話
にごく普通に採用されていた基本的機能は存在しないものと考えられ
る。
)刊行物1の「基本部12側の回路図を示す図4」及び【0012】なb
いし【0014】の記載には,引用発明1の「基本部」に「表示部に表
示する表示信号を生成する機能を有する電子回路」が含まれることは,
何らの開示も示唆もされていない。むしろ,以下に述べるとおり,刊行
【】,【】,【】,【】,物1の00090017補正後の図40015には
「表示部に表示する表示信号を生成する機能を有する電子回路」が「周
辺部」に含まれることが開示又は示唆されている。
【】,「」刊行物1の図1が示すとおり刊行物1の携帯電話器ユニット
は「3つの分離可能な部分,即ち,基本部12,周辺部14,バッテ,
リパック16から成る(乙2【0007)ものである。そして,刊。」】
行物1の【0009【0017】には「基本部12」が「表示部に】,,
表示する表示信号を生成する機能を有する電子回路」を含むことについ
て何ら記載していないばかりか,刊行物1の補正後の【図4,補正後】
の【0015】の「周辺部14は,前述のように,LCD40,キース
イッチ42,マイク44,スピーカ38を有している。また,周辺部1
4はその内部の各種制御を行うマイクロコントローラ46を有してい
る」との記載と【0017】の「キースイッチ(プッシュボタン)。,
42を用いて無線通話を行う相手の電話番号を押す。このとき,LCD
40は電話番号を表示する」との記載は「周辺部14」において,。,
キースイッチ42より入力された信号がマイクロコントローラ46によ
り制御され,マイクロコントローラ46によりLCD40に表示する表
示信号が生成されることを開示するものである。
したがって,引用発明1においては,表示部に表示する表示信号を生
成する機能を有する電子回路は,携帯電話器ユニットの「周辺部14」
に含まれており,携帯電話器ユニットの「基本部12」にはかかる電子
回路が含まれていない。
以上のとおり,刊行物1には,構成要件A4が何ら開示されていない。
)①被告らは,刊行物1の基本部の電子回路が,表示部に表示する表示c
信号を生成する機能を有すると解される旨主張する。
しかし刊行物1においては携帯電話ユニット10を携帯電話P,,(
HS)として使用して,他の電話から受信した信号に基づいて他の電
話の電話番号(発信者番号,あるいは通信状態(電波の状態)等を)
表示することは,記載も開示もされていない上,仮に,アンテナが基
本部12に設けられていることから,携帯電話ユニット10を携帯電
話(PHS)として使用して,他の電話から受信した信号に基づいて
(),()他の電話の電話番号発信者番号あるいは通信状態電波の状態
等を表示することができるとしても,その表示信号は,基本部の電子
回路に設けられた,RFモジュール50,変復調モデム52及びチャ
ンネルコーデック54,マイクロコントローラ64,さらに,PCM
CIAのI/F58を経由して,基本部12から周辺部14に伝達さ
れることが開示されているにすぎず,表示機能を備えた周辺部14に
他の電話の電話番号や通信状態が表示されるために基本部12におい
てその表示信号が生成されるということは開示も示唆もされておら
ず「基本部12においてその表示信号が生成されると解するのが技,
」,術常識に即した解釈であるという被告の主張の根拠は不明であるし
かかる技術常識も存在しない。
むしろ,刊行物1の【0005】には「携帯電話器の無線通信機,
能部品を内蔵する基本部「携帯電話器の電話機能部品を内蔵する」,
周辺部」との記載がある上【0017】には「キースイッチ(プ,,
ッシュボタン)42を用いて無線通話を行う相手の電話番号を押す。
このとき,LCD40は電話番号を表示する」との記載があり,か。
かる記載が携帯電話器の電話機能に関するものであることから,携帯
電話器の電話機能部品を内蔵する周辺部のみにおいて,表示信号が生
成されることは明らかであり,基本部に表示信号を生成する機能を設
ける理由がない。
②被告らは,刊行物1における補正前の【図4】も参酌すべきである
と主張する。
しかし,刊行物1の出願人が,補正前の【図4】に記載の誤りを発
見したからこそ補正をしたのであるから誤りを含んだ補正前の図,,【
4】を参酌する理由はない。また,当該【図4】に係る補正は,自発
的に行われた補正であること,刊行物1に係る特許出願はその後何ら
審査に付されていないことは,補正後の【図4】が誤りであるとの根
拠となるものではなく,補正後の【図4】が正しいことを否定する理
由にはならない。
イ刊行物1には,構成要件Bが開示されていないことについて
刊行物1の【図1】及び【図2】から明らかなとおり「基本部」は,,
周辺部本体部と基本部保持部で形成された筒から「基本部」の半分近く,
,【】【】,「」が大きくはみ出しており刊行物1の図1及び図2は基本部
が「周辺部」に設けられたスロットに収納(中に入れて,しまっておく「
こと」の意)されることを開示していない。また,刊行物1の【特許請求
の範囲】及び【0005】には「基本部と周辺部を分離可能に接続した,
ことを特徴とする携帯電話器ユニット」との記載,補正後の【0016】
には「基本部12は…周辺部14に取り付けられて用いられる」との,。
記載があるものの,かかる記載は「周辺部」と「基本部」とが接続する,
ことを示すのみであって「周辺部」に設けられたスロットに「基本部」,
が収納されることを開示していない。
さらに,刊行物1の【0011】には「筒の内部形状は,基本部12,
の下部を受け入れてガタなく保持する形状に形成されている」との記載。
があるものの,かかる記載は「周辺部」に設けられた筒が「基本部」を,
ガタなく保持する機能を有することを開示するのみであって「基本部」,
をガタなく保持する機能を達成するための手段として「周辺部」に設けら
れたスロットに「基本部」が収納されることを開示していない。
よって,刊行物1には,構成要件Bが何ら開示されていない。
ウ刊行物3及び刊行物4には,構成要件A4及びBが開示されていないこ
とについて
)序言a
前記のとおり,刊行物1には本件特許発明の構成要件A4及びBが開
示されていないので,引用発明1に,引用発明3及び引用発明4を組み
合わせることにより当業者が本件特許発明を容易に発明することができ
たというためには,刊行物3または刊行物4に,本件特許発明の構成要
。,,件A4及びBが開示されている必要があるしかし以下述べるとおり
刊行物3及び刊行物4のいずれにおいても,本件特許発明の構成要件A
4及びBは何ら開示されていない。
)刊行物3には,構成要件Bが開示されていないことについてb
被告らは,刊行物3の【特許請求の範囲】の「ICカードを全体的に
収容できるカード挿入部」との記載【0005】の「ICカードを全,
体的に収容できるものとされるカード挿入部」との記載【0012】,
及び【0040】の「その匣体が電子情報処理機器に設けられたカード
挿入部に全体的に収容される状態」との記載【0022】の「カード,
挿入部65に全体的に収容される状態」との記載を根拠にするものと解
される。
,【】【】「」しかし刊行物3の0012及び0040の全体的に収容
される状態とは,ICカードに設けられたアンテナ導体17はカード挿
入部65からパーソナルコンピュータの外部に突出し,一方,アンテナ
導体17以外のその他のICカードの部分がカード挿入部に収容された
状態を意味している。このことは,刊行物3の【0014【002】,
3】の記載及び【図4】から明らかである。
このように,刊行物3においては,アンテナ導体17が,カード挿入
部65の外部に突出していることから,匣体が電子情報処理機器に設け
られたカード挿入部に挿入され,その挿入口がスロットの一部により閉
められ固定されるような形状に形成されることは不可能である。
よって,刊行物3においては,匣体がカード挿入部に全体が収納され
ることは開示されておらず,スロットにカートリッジの全体が収納され
ることについて開示も示唆もされていない。
c)刊行物3には,構成要件A4が開示されていないことについて
被告らが引用する,刊行物3の【請求項1【0002【000】,】,
】,【】,【】,【】,【】,【】,300050006000800110012
【0021【0022【0039】及び【0040】の各記載並】,】,
びにその他のいかなる刊行物3の記載にも「表示部に表示する表示信,
号を生成する機能」を有する電子回路が携帯無線電話装置に含まれるこ
とは開示も示唆もされていない。
むしろ,刊行物3の【図5】の記載によれば「表示パネル62」に,
表示する表示信号は,パーソナルコンピュータ63に設けられた中央演
算処理部68において生成されることが明らかである。
よって,刊行物3には,本件特許発明の構成要件A4が開示されてい
ない。そして,このことは,刊行物3には,本件特許発明の構成要件B
が開示されていないことを意味する。なぜなら,本件特許発明の構成要
件Bのカートリッジは,構成要件A4の機能を有する電子回路を含むカ
ートリッジであるからである。
)刊行物4には,構成要件A4が開示されていないことについてd
被告らが引用する,刊行物4の4頁1行目から20行目,16頁27
行目から17頁17行目の各記載並びにその他のいかなる刊行物4の記
載にも「表示部に表示する表示信号を生成する機能」を有する電子回,
路がモジュール電話通信ユニットに含まれることは開示も示唆もされて
いない。
むしろ,刊行物4の19頁32行ないし20頁8行までの記載によれ
ば「ディスプレイ」に表示する表示信号は,携帯電話309において,
生成されることが明らかである。
よって,刊行物4には,本件特許発明の構成要件A4が開示されてい
ない。そして,このことは,刊行物4には,本件特許発明の構成要件B
が開示されていないことを意味する。なぜなら,本件特許発明の構成要
件Bのカートリッジは,構成要件A4の機能を有する電子回路を含むカ
ートリッジであるからである。
エ引用発明1と本件特許発明とは,発明の課題が全く異なることについて
刊行物1の【0003【0004】及び【0024】の各記載によ】,
,,,れば引用発明1の課題は携帯電話器が有する無線通信機能に着目して
無線通信機能を有する部分を他の電子機器と組み合わせて使用することに
より,他の電子機器とのデータを無線で送受できる携帯電話器ユニットを
提供することにある。
,,,これに対し本件特許発明の課題は複数の回線を契約することなしに
時,場所,場合に応じた快適な移動体通信を実現する電話送受信ユニット
を提供することにある。
したがって,引用発明1の課題は,本件特許発明の課題と全く異なる。
オ引用発明3と本件特許発明とは,発明の課題が全く異なることについて
刊行物3の【0009】の記載によれば,引用発明3の課題は,パーソ
ナルコンピュータ等の電子情報処理機器によるデータ通信の際に,当該装
置全体を外観的に優れたものにできるとともに,移動あるいは向きの変更
等に際して取扱い易く,かつ,使い勝手が良いものにすることにある。
したがって,パーソナルコンピュータ等の電子情報処理機器によるデー
タ通信を前提とする刊行物3により開示された発明の課題は,電話送受信
ユニットを提供することを目的とする本件特許発明の課題とは全く異な
る。
カ引用発明4と本件特許発明とは,発明の課題が全く異なることについて
刊行物4の3頁25行ないし30行の記載によれば,引用発明4の課題
は,一つの電子装置に対して様々な無線規格に従ったPCMCIAカード
を交換して使うことであり,この課題を解決するために当該発明は,様々
な無線規格に基づく回線との契約を前提とするものであることが明らかで
ある。
したがって,様々な無線規格に基づく回線との契約を前提とする引用発
明4の課題は,複数の回線を契約することなく,一つの回線を契約するだ
けで,時,場所,場合に応じた快適な移動体通信を提供するという本件特
許発明の課題とは全く異なる。
キ引用発明1と引用発明3あるいは引用発明4とを組み合わせることによ
り,本件特許発明を当業者が容易に発明することができないことについて
)刊行物1には,本件特許発明の構成要件A4及びBが何ら開示されてa
いない上,刊行物3及び刊行物4においても,構成要件A4及びBは何
ら開示されていない。そして,本件特許発明の構成要件A4及びBは,
本件特許の出願時において,周知であったとも,設計事項であったとも
認めることができず,また,構成要件A4及びBによって電話による着
信を的確に検出及び表示できるという格別の効果を奏する。
)さらに,引用発明1と引用発明3あるいは引用発明4は,いずれも本b
件特許発明と発明の課題が異なり,組み合わせの動機付けがない。
「特許・実用新案審査基準」においても「なお,別の課題を有する,
引用発明に基づいた場合であっても,別の思考過程により,当業者が
請求項に係る発明の発明特定事項に至ることが容易であったことが論
理づけられたときは,課題の相違にかかわらず,請求項に係る発明の
進歩性を否定することができる」との記載から明らかなとおり,請求。
項に係る発明と引用発明の課題が相違する場合,別の思考過程により
当業者が請求項に係る発明の発明特定事項に至ることが容易であった
ことが論理付けられてはじめて,課題の相違にかかわらず,請求項に
係る発明の進歩性を否定することができるのである。
被告らは,引用発明1と引用発明3あるいは引用発明4の構成を組み
合わせる動機付けがあるかのように主張する。
しかし,第1に,ある技術的事項が公知であったとしても,公知であ
ることが組合せの動機付けの根拠となるものではないことは明らかで
ある。第2に,携帯無線電話装置と電子情報処理機器,あるいは,モ
ジュール電話通信ユニットとパソコン(又は携帯電話)のような,使
用時において一方を他方に挿入・連結して用いる情報処理通信機器に
おいて,挿入する側の機器を挿入される側の機器に設けたスロット(あ
るいは挿入部)に全体的に収納されるような形状という機器の形状に
関する技術的事項は,機器に搭載される具体的電子回路の機能の違い
を問わず採用し得ることが自明であるとは到底いえない。なぜなら、
挿入する側の機器の形状を,挿入される側の機器に設けられたスロッ
トに全体が収納されるような形状にすると,挿入する側の機器は,外
部に露出できないため,例えば,操作部や表示部を設けたとしても,
操作部の操作をし,表示部の表示を見ることはできないのであるから,
操作部や表示部の電子回路を挿入する側の機器に搭載させることは行
わないからである。
なお,引用発明1の基本部12は,基本部保持部32に受け入れられ
る下部20と,外部に露出して基本部保持部32に受け入れられない
上部22とを有する。また,刊行物3は,パーソナルコンピュータ6
3のカード挿入部65に挿入される携帯無線電話装置1を示している。
引用発明1の基本部12は,マイク・スピーカ等を有していないので
電話装置を構成していないから,引用発明1の基本部12を引用発明
3の携帯無線電話装置1に置換して引用発明3のカード挿入部65に
挿入する動機付けは存在しない。仮に,引用発明1の基本部12を引
用発明3のカード挿入部65に挿入したとしても,基本部12は外部
に露出される上部22を有しているので,基本部12の全体が収納さ
れる構成になり得ない。仮に,引用発明4のスロット203に引用発
明1の基本部12の下部20を挿入したとしても,基本部12は外部
に露出される上部22を有するため,引用発明1の基本部12が引用
発明4のスロット203に全体が収納される構成になり得ない。
したがって,刊行物1と刊行物3及び刊行物4の構成を組み合わせる
十分な動機が存在することは何ら主張立証されていない。
)さらに,特許・実用新案審査基準において「請求項に係る発明が,c,
引用発明と比較した有利な効果であって引用発明が有するものとは異
質な効果を有する場合,あるいは同質の効果であるが際だって優れた
効果を有し,これらが技術水準から当業者が予測することができたも
のではない場合には,この事実により進歩性の存在が推認される」と。
明記されている。
本件特許発明には,二つの主要な作用効果,すなわち,第1に,複数
の回線を契約することなく,一つの回線を契約するだけで,時,場所,
場合に応じた快適な移動体通信を提供することができるという作用効
果があり,第2に,電話送受信ユニット内に形成される電子回路を移
動体通信端末側に形成する必要がないので,移動体通信端末のコスト
ダウンに寄与することができるという作用効果がある。一方,刊行物
1,刊行物3及び刊行物4のいずれにも,上記二つの作用効果は,記
載も示唆もされていないのであるから,本件特許発明が二つの主要な
作用効果を奏することは,本件特許出願当時において当業者が予測す
ることのできないものである。
さらに,上記二つの主要な作用効果のうちの後者は,本件特許発明の
構成からも予測することが不可能な顕著な作用効果である。なぜなら,
電話送受信ユニットと移動体通信端末を一体化させた方が,部品点数
が大幅に減少するのであるから,大量生産による低コスト化が可能で
あると考えられるので,本件特許発明の構成から,電話送受信ユニッ
ト内に形成される電子回路を移動体通信端末側に形成する必要がなく
なることによる移動体通信端末のコストダウン効果が,部品点数の増
加によるコストアップ効果を上回ることを予測することが不可能とい
えるからである。
)したがって,引用発明1と引用発明3あるいは引用発明4とを組み合d
わせることにより,当業者が本件特許発明を容易に想到することはでき
ない。
()原告の主張に対する被告らの反論3
ア刊行物1には,構成要件A4が開示されていないとの主張について
)引用発明1においては,図4に示されるようにLCDは周辺部14にa
設けられる一方,アンテナは基本部12に設けられており,携帯電話ユ
ニット10を携帯電話(PHS)として使用して,他の電話から受信し
た信号に基づいて他の電話の電話番号(発信者番号,あるいは通信状)
態(電波の状態)等を表示する場合には,その表示信号は,基本部の電
子回路に設けられた,RFモジュール50,変復調モデム52及びチャ
ンネルコーデック54,マイクロコントローラ64,さらに,PCMC
IAのI/F58を経由して,基本部12から周辺部14に伝達される
と解される。よって,表示機能を備えた周辺部14に他の電話の電話番
号や通信状態が表示されるためには,基本部12においてその表示信号
が生成されると解するのが技術常識に即した解釈であり,結局,基本部
の電子回路が,表示部に表示信号を生成する機能があると解されるべき
である。
)原告は,刊行物1の【0009】及び【0017】の記載,補正後のb
【図4【0015】の記載に基づいて,表示部に表示する表示信号】,
を生成する機能を有する電子回路は,携帯電話機ユニットの基本部12
には含まれていない旨主張する。
しかし,引用刊行物の記載は,特に技術的な矛盾等がない限り,あら
,,ゆる記載を参酌して引用発明を認定することが許されるのであるから
【】,【】そもそも補正後の図4のみを参酌すべきであって補正前の図4
は参酌すべきではないとする理由はない。また,当該【図4】に係る補
正は,自発的に行われた補正であり,また,刊行物1に係る特許出願は
その後何ら審査に付されていないから,補正前の【図4】の記載が誤り
であり,補正後の【図4】が正しいと解すべき客観的理由もない。
さらに,補正後の【図4】を参酌した場合であっても,携帯電話機ユ
ニットの基本部12の電子回路は,表示部に表示する表示信号を生成す
る機能を有していると解するべきである。なぜなら,原告は,表示部に
表示する表示信号を生成する機能とは,周辺部14に設けられたキース
イッチを用いて無線通話を行う相手の番号を押した場合に,LCDに電
話番号が表示されるという機能であって,これが,補正後の【図4】の
周辺部14のマイクロコントローラ46によって生成されると主張する
ところ,本件特許の出願時の技術常識によれば,刊行物1の携帯電話ユ
ニット10を携帯電話(PHS)として使用する場合に「表示部に表示
する表示信号」には,キースイッチによって直接入力される相手の電話
,,番号ばかりではなく携帯電話が他の電話から着信した場合の着信表示
当該他の電話の電話番号,あるいは通話中の通信状態(電波の状態)等
も含まれるのである。そして,このようなアンテナから受信した信号に
基づく表示信号は,基本部で生成されるのであるから,このような表示
信号については,当該基本部の電子回路において表示信号が生成される
と解釈するのが,本件特許出願時の技術常識に即した解釈である。
イ刊行物1には,構成要件Bが開示されていないとの主張について
)原告は,刊行物1は,基本部が周辺部に設けられたスロットに収納さa
れることを開示していないと主張する。
上記主張は「収納」が全部あるいは全体が収納されることを意味す,
るという理解を前提とすると解されるところ収納とは文字どおり納,,「
め入れる」ことでしかないのであり,必ずしも全部あるいは全体が収納
される必要はない。また,刊行物1に「基本部と周辺部を分離可能に,
接続した」あるいは「基本部12は…周辺部14に取り付けられて」,
との記載があることも,刊行物1における基本部が周辺部に設けられた
スロットに収納されると解すべきことの妨げにはならない。基本部と周
辺部との関係について別の表現が用いられていても,刊行物1の図1を
みれば,基本部が周辺部に設けられたスロットに収納されることは客観
的に明らかだからである。
b)刊行物1の【0011】の記載をもって,基本部が周辺部に設けられ
たスロットに収納されていないと解することはできない。
ウ引用発明1と,引用発明3あるいは引用発明4との組合せについて
)発明の進歩性を否定するに際しての引用発明を組み合わせるべき論理a
付けは,課題の共通性のみに限られない。このことは「特許・実用新,
案審査基準(乙18)においても「なお,別の課題を有する引用」,
発明に基づいた場合であっても,別の思考過程により,当業者が請求項
に係る発明の発明特定事項に至ることが容易であったことが論理づけら
れたときは,課題の相違にかかわらず,請求項に係る発明の進歩性を否
定することができる」と明記されている。この考え方は,東京高裁平。
成14年9月24日判決(平成12年(行ケ)426号)においても支
持されている。
刊行物3及び刊行物4の記載によれば,携帯無線電話装置と電子情報
処理機器,あるいは,モジュール電話通信ユニットとパソコン(または
携帯電話)のような,使用時において一方を他方に挿入・連結して用い
る情報処理通信機器において,挿入する側の機器の形状を,挿入される
側の機器に設けたスロット(あるいは挿入部)に全体的に収納されるよ
うな形状に設計することや,このような設計により,外観上,使用上の
利点が得られることは公知であったのであり,しかも,このような機器
の形状に関する技術的事項は,機器に搭載される具体的電子回路の機能
の違いを問わず採用し得ることは自明なのであるから,引用発明1に対
して,引用発明3あるいは引用発明4の構成を適用する動機付けは存在
するというべきである。
)原告は,刊行物1の解決すべき課題を極めて表面的に捉え,これらのb
課題が「本件特許発明の課題」と全く異なると主張する。しかし,引用
発明1の解決すべき課題は,本件特許発明と実質的に同じである。
なぜなら,引用発明1は,従来の携帯電話器は,機械構成上種々の形
式のものがあったが,携帯電話専用であり,携帯電話以外に利用できる
ものではなかったという問題を解決するためになされた発明であり乙,(
2【0004,引用発明1によって,無線通信部を備える同一の基】)
本部を,携帯電話のみならずパソコン等種々の電子機器へ使用すること
が可能になったのであるから,結局のところ,引用発明1も「複数の,
回線を契約することなしに,時,場所,場合に応じた快適な移動体通信
を実現する電話送受信ユニットを提供する」という課題を解決している
と解されるからである。
7争点3−4(本件特許権が特許法29条2項に違反しているか・その2)に
ついて
()被告らの主張1
本件特許発明は,本件特許の出願日の前に公開された特開平8−2658
56号公報乙6以下刊行物5というに記載された発明以下引(。「」。)(「
用発明5」という,引用発明3あるいは引用発明4に基づいて当業者が。)
容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定に
より,特許を受けることができないものである。
ア本件特許発明と引用発明5との対比
)基本構成(構成要件A5及びカートリッジ)についてa
刊行物5には,データ信号と音声信号の両方の入出力を行う携帯電話
アダプタに接続され,他の端末との間でデータ信号と音声信号の送受信
「」(【】,を行う無線インターフェースカードが記載されている請求項1
【0036。また,刊行物5の図2及び図5の記載からすると,当】)
該無線インターフェースカードは端末装置に挿入し得る形状の筐体を有
しており,その先端には,端末装置との間でデータ信号,音声信号,制
御信号を授受するコネクタ部(インターフェース手段)が設けられてい
る。そして,この内部には図1あるいは図4記載の電子回路が内蔵され
るものである。
これらの記載からすると,刊行物5には,上記「筐体」とその内部に
設けられた「電子回路」とを有し,かつ「携帯電話アダプタ」に装着,
されて用いられる「無線インターフェースカード(PCカード)の発」
明(引用発明5)が記載されていると解され,上記「筐体」が本件特許
「」,「」「」発明のカートリッジに電子回路が本件特許発明の電子回路
(構成要件A5)に「携帯電話アダプタ」が本件特許発明の「移動体,
通信端末」に「無線インターフェースカード(PCカード)が本件,」
特許発明の「電話送受信ユニット(構成要件D)に相当する。」
したがって,刊行物5には,本件特許発明の基本構成として「電子回
路(構成要件A5)と「カートリッジ」がいずれも記載されている。」
)電子回路の機能(構成要件A1ないしA4)についてb
①「アンテナにより受信される受信信号をスピーカから出力する音声
信号に変換する機能(構成要件A1)について」
引用発明5の「無線インターフェースカード」の音声処理手段13
は,チャネルコーデック手段14からの音声信号の処理を行ってイン
ターフェース手段11へ送出するものである(乙6【0016【0】,
024。そして,刊行物5記載の第3実施例(乙6【0032)】)】
のように「無線インターフェースカード」が携帯電話アダプタと組,
み合わされた場合,他の端末装置から携帯電話アダプタに音声信号の
送信があると,PCカード10が送受信手段16でその音声信号を受
信し,変復調手段15,チャネルコーデック手段14を介して,音声
処理手段13で処理を行い,処理後の音声信号をインターフェース手
段11を介して携帯電話アダプタ20へ送出する。そして携帯電話ア
ダプタ20側では,インターフェース手段11からの音声信号を受け
取って,これをコーデック部22eで変換した後にスピーカ22cで
出力するものである。なお,刊行物5には,アンテナの記載はないも
のの,送受信手段16がアンテナに接続され,アンテナを介して送受
信することは,図1及び図4に図示されたアンテナの記号からも明ら
かである。
よって,引用発明5の「無線インターフェースカード」に内蔵され
る電子回路は「アンテナにより受信される受信信号をスピーカから,
出力する音声信号に変換する機能(構成要件A1)を有するもので」
ある。
②「マイクに入力される音声信号を前記アンテナから出力する送信信
号に変換する機能(構成要件A2)について」
引用発明5の「無線インターフェースカード」の音声処理手段13
は,インターフェース手段11で受け取った音声信号の処理を行って
(【】,チャネルコーデック手段14へ送出するものである乙60016
【0024。そして,刊行物5に記載された第3実施例(乙6【0】)
032)のように「無線インターフェースカード」が携帯電話ア】,
ダプタと組み合わされた場合,携帯電話アダプタのマイク22aで音
声信号が入力されると,PCカード10のインターフェース手段11
では,カード接続手段21を介して前記音声信号と前記制御信号とを
受け取り(乙6【0038【0039,当該制御信号に従って,】,】)
,,音声信号を音声処理手段13で処理しチャネルコーデック手段14
変復調手段15,送受信手段16を介して,他の端末装置へ無線で送
信する。なお,刊行物5には,アンテナの記載はないものの,送受信
手段16がアンテナを備えることは,図1及び図4からも明らかであ
る。
よって,引用発明5の「無線インターフェースカード」に内蔵され
る電子回路は「マイクに入力される音声信号を前記アンテナから出,
力する送信信号に変換する機能(構成要件A2)を有するものであ」
る。
③「操作部からの操作信号に基づいて所定の処理を行う機能(構成」
要件A3)について
引用発明5の「無線インターフェースカード」のデータ処理手段1
2は,インターフェース手段11で受け取ったデータ信号に必要な処
理を行い,チャネルコーデック手段14へ送出するものである(乙6
【0016【0024。そして,刊行物5に記載された第3実】,】)
施例(乙6【0032)のように「無線インターフェースカード」】,
が携帯電話アダプタと組み合わされた場合,携帯電話アダプタ20に
おいてキー入力部23aで他の端末装置と通信を行うために必要な制
御信号が入力され,また,マイク22aで他の端末装置に送信する音
声信号が入力されると,PCカード10のインターフェース手段11
では,カード接続手段21を介して前記音声信号と前記制御信号とを
受け取り,PCカード10では,携帯電話アダプタ20からの制御信
号に従って,インターフェース手段11で受け取った音声信号を音声
処理手段13で処理するから,PCカード内においては,キー入力部
23からの制御信号に基づいて所定の処理が行われているといえる。
よって,引用発明5の「無線インターフェースカード」に内蔵され
る電子回路は「操作部からの操作信号に基づいて所定の処理を行う,
機能(構成要件A3)を有するものである。」
④「表示部に表示する表示信号を生成する機能(構成要件A4)に」
ついて
引用発明5の「無線インターフェースカード」のデータ処理手段1
2は,チャネルコーデック手段14からのデータ信号に必要な処理を
行い,インターフェース手段11へ送出するものである(乙6【00
16【0024。】,】)
一方,携帯電話アダプタ20側には,制御信号入出力手段23とし
て,LCD表示部23dが設けられており,このLCD表示部23d
は,回線の接続状態等を使用者に知らせるためにそれらに関する情報
を表示するものである。当該LCD表示部は,制御部24,インター
フェース手段11を介して,PCカードに接続されている。そして,
刊行物5の図1及び図4に記載される回路構成と,データ処理手段1
2の機能,及び「回線の接続状態」の情報は送受信手段16によって
PCカードに受信されると解されること等からすると,引用発明5の
データ処理手段12は,送受信手段によって受信した回線の接続状態
に関する信号を,表示部に表示させるために必要な処理を行うものと
解される。
よって,引用発明5の「無線インターフェースカード」に内蔵され
る電子回路は「表示部に表示する表示信号を生成する機能(構成,」
要件A4)を有するものである。
)「カートリッジ」の構成(構成要件B,C)についてc
①「前記移動体通信端末との間で信号を入出力する入出力部(構成」
要件C)について
引用発明5の無線インターフェースカードは端末装置に挿入し得る
形状の筐体を有しており,その先端には,端末装置との間でデータ信
号,音声信号,制御信号を授受するコネクタ部(インターフェース手
段)が設けられている。
よって,本件特許発明の「カートリッジ」に相当する,引用発明5
の基本部を構成する筐体は「前記移動体通信端末との間で信号を入,
出力する入出力部(構成要件C)を備えるものである。」
②「移動体通信端末に設けられたスロットに全体が収納されるような
形状(構成要件B)について」
引用発明5の無線インターフェースカードは,携帯電話アダプタの
カードスロットに挿入される(乙6【0036。】)
そうすると,引用発明5の無線インターフェースカードを構成する
筐体(本件特許発明の「カートリッジ)の形状は,携帯電話アダプ」
タ(本件特許発明の「移動体通信端末)に設けられたカードスロッ」
トに収納されるような形状を備えるものである。
イ本件特許発明と引用発明5との一致点と相違点について
本件特許発明と引用発明5とは,構成要件A1ないしA5,C,Dでは
一致している。また,本件特許発明のカートリッジが「移動体通信端末に
設けられたスロットに全体が収納されるような形状に(構成要件B)形」
成されているのに対し,引用発明5の筐体(本件特許発明のカートリッジ
に相当する)は「移動体通信端末に設けられたスロットに収納されるよ。
うな形状に」形成されている点で一致するものの,その全体がスロットに
収納されていない点で相違する。
ウ相違点の容易想到性について
引用発明5においても,前記の引用発明3あるいは引用発明4における
外観上,あるいは使用上の利点を得るべく「カートリッジ」に相当する,
基本部の筐体の形状を,移動体通信端末に設けられたスロットに全体が収
納されるような形状に設計することは,刊行物3及び刊行物4に記載され
,。る技術的事項に基づいて当業者が容易になし得たものというべきである
エ以上のとおりであるから,本件特許発明は,引用発明5に,引用発明3
あるいは引用発明4を組み合わせることにより,当業者が容易に発明をす
ることができたものであるから,特許法29条2項に違反してされたもの
であり,無効とされるべきものである。
()原告の主張2
ア刊行物5には,構成要件Bが開示されていないことについて
刊行物5の【図2【図5【0012】の「この無線インターフェ】,】,
ースカード(以下,PCカードと称す)10は,その一端に設けられたコ
ネクタ部10aを,図示しない端末装置に設けられたカードスロットに挿
入して使用するものであり」との記載及び【0032】の「本実施例のP
Cカード10は,図5に示すように端末装置として携帯電話アダプタ20
が構成されて,この携帯電話アダプタ20の図示しないカードスロットに
挿入して用いるものである」との記載から,カードスロットに挿入され。
るのは,PCカードの一端に設けられたコネクタ部10aのみであること
が明らかである。
よって,引用発明5のPCカード,すなわち,無線インターフェースカ
ードを構成する筐体(カートリッジ)の形状は,携帯電話に設けられたス
ロットに収納されるような形状を備えるものではなく,本件特許発明の構
成要件Bを何ら開示しない。
イ刊行物5には,構成要件A4が開示されていないことについて
,【】【】,a)被告らは刊行物5の0016及び0024の記載に基づき
引用発明5の無線インターフェースカードに内蔵される電子回路は,本
件特許発明の構成要件A4を有すると主張し,その根拠として,データ
処理手段12が,送受信手段によって受信した回線の接続状態に関する
信号を,表示部に表示させるために必要な処理を行うものと解されると
述べる。
,【】【】【】しかし刊行物5の0016及び0021ないし0024
の記載によれば,データ処理手段12は,データ信号に対して,例えば
速度変換やパラレル/シリアル変換等のように,チャネルコーデック手
段14へ送出するために必要な処理を行うのみであって「表示部に表,
示する表示信号を生成する機能」を有しないことは明らかである。
むしろ,刊行物5の【0032【0036】及び【0037】の】,
各記載からすれば,表示部に表示する表示信号を生成する機能は,デー
タ処理手段12ではなく,制御部24に存在することは明らかである。
よって,引用発明5の「無線インターフェースカード」に内蔵される
電子回路は「表示部に表示する表示信号を生成する機能」を有しない,
のであって,本件特許発明の構成要件A4を何ら開示しない。
,【】【】,b)被告らは刊行物5の0037及び0039の記載によれば
PCカードの電子回路には表示部に表示する表示信号を生成する機能が
含まれることは明らかである旨主張する。
しかし,サウンダー23b又はバイブレータ23cによる着信の表示
は,音又は振動による表示であるのに対し,LCD表示部による回線の
接続状態等の表示は,液晶ディスプレイによる表示であるから,その両
者の表示手段はまったく異なるものである。よって【0039】にお,
ける「PCカード10の制御手段17による指示に従い,サウンダー2
3bまたはバイブレータ23cによる着信の表示が…行われている」と
の記載に基づき,表示手段の異なるLCD表示部による回線の接続状態
等の表示がPCカード10の制御手段17による指示に従っているもの
と解することはできない。
また,被告らは,PCカードで受信された情報が表示部に表示される
際,そのための表示信号が,ただ一つの(特定の)制御部で生成され
るとは限らない旨主張する。しかし,被告らは,PCカード側に表示
部に表示する表示信号を生成する機能があることを積極的に主張立証
する必要があるところ,被告らの上記主張は,PCカード側の表示部
に表示する表示信号を生成する機能がないと断定できないというのみ
で,当該機能があるという積極的な主張とはなっておらず,しかも当
該機能があることを積極的に立証する根拠も示していない。
ウ引用発明5と本件特許発明とは,発明の課題が全く異なることについて
刊行物5の【0005】の記載によれば,引用発明5の課題は,データ
通信と音声通信との両方に対応することができるとともに,利便性の高い
無線インターフェースカードを提供することにある。
したがって,引用発明5により開示された発明の課題は,複数の回線を
契約することなしに,時,場所,場合に応じた快適な移動体通信を実現す
る電話送受信ユニットを提供することを目的とする本件特許発明の課題と
は全く異なる。
エ引用発明5と引用発明3あるいは引用発明4とを組み合わせることによ
り,本件特許発明を当業者が容易に発明することができないことについて
)刊行物5には,本件特許発明の構成要件A4及びBが何ら開示されてa
いない上,刊行物3及び刊行物4においても,構成要件A4及びBは何
ら開示されていない。そして,本件特許発明の構成要件A4及びBは,
本件特許の出願時において,周知であったとも,設計事項であったとも
認めることができず,また,構成要件A4及びBによって電話による着
信を的確に検出及び表示できるという格別の効果を奏する。
さらに,引用発明5と引用発明3あるいは引用発明4は,いずれも本
件特許発明と発明の課題が異なり,組合せの動機付けがない。
したがって,引用発明5と引用発明3あるいは引用発明4とを組み合
わせることにより,当業者が本件特許発明を容易に想到することはでき
ない。
)引用発明5の無線インターフェースカード10のうち,端末装置20b
(携帯電話アダプタ)に受け入れられるのは,その一端に設けられた小
さなコネクタ部10aのみであり,コネクタ部10a以外のすべての部
分は,外部に露出して端末装置20(携帯電話アダプタ)に受け入れら
れない。また,引用発明3は,パーソナルコンピュータ63のカード挿
入部65に挿入される携帯無線電話装置1を示している。引用発明5の
無線インターフェースカード10は,マイク・スピーカ等を有していな
いので電話装置を構成していないから,引用発明5の無線インターフェ
ースカード10を引用発明3の携帯無線電話装置1に置換して引用発明
3のカード挿入部65に挿入する動機付けは存在しない。仮に,引用発
明5の無線インターフェースカード10を引用発明3のカード挿入部6
5に挿入したとしても,無線インターフェースカード10は,コネクタ
部10a以外のすべての部分において外部に露出されるので,無線イン
ターフェースカード10の全体が収納される構成になり得ない。仮に,
引用発明4のスロット203に引用発明5の無線インターフェースカー
ド10を挿入したとしても,無線インターフェースカード10のほとん
どの部分は外部に露出されるため,引用発明5の無線インターフェース
カード10が引用発明4のスロット203に全体が収納される構成にな
り得ない。
()原告の主張に対する被告らの反論3
ア刊行物5には,構成要件Bが開示されていないとの主張について
原告は,引用発明5のPCカード,すなわち,無線インターフェースカ
ードを構成する筐体(カートリッジ)の形状は,携帯電話に設けられたス
ロットに収納されるような形状を備えるものではなく,本件特許発明の構
成要件Bを何ら開示しないと主張する。
しかし,かかる主張は,収納が,全部あるいは全体が収納を意味すると
の理解を前提とするものであって,かかる前提自体が失当である。
イ刊行物5には,構成要件A4が開示されていないとの主張について
本件で問題となるのは,他の端末装置からの着信があった際に,LCD
表示部に回線の接続状態等を表示する際の「表示部に表示する表示信号を
生成する機能」のことである。そして,刊行物5には「サウンダー23,
b及びバイブレータ23cは,共に他の端末装置からの音声信号の着信を
使用者に知らせるためのものである。LCD表示部23は,回線の接続状
,。」態等を使用者に知らせるためにそれらに関する表示をするものである
(乙6【0037「また,他の端末装置から携帯電話アダプタ20に】),
音声信号の送信があれば,PCカード10では,送受信手段16でその音
,,,声信号を受信し変復調手段15チャネルコーデック手段14を介して
音声処理手段13で処理を行う。そして,処理後の音声信号を,インター
フェース手段11から携帯電話アダプタ20へ送出する。このとき,携帯
,,電話アダプタ20ではPCカード10の制御手段17による指示に従い
サウンダー23bまたはバイブレータ23cによる着信の表示…が行われ
ている(乙6【0039)旨の記載があり,このようなサウンダー2。」】
3b又はバイブレータ23cによる着信の表示がPCカード10の制御手
段17による指示に従うものであることからすると,LCD表示部による
回線の接続状態等を表示する際には,その表示もPCカード10の制御手
段17による指示に従っているものと解されるから,PCカードの電子回
路には,表示部に表示する表示信号を生成する機能が含まれることは明ら
かである。
なお,原告は,刊行物5の「制御部24は,音声入力手段22及び制御
信号入出力手段23の制御を行うものである(0037)の記載に。」【】
基づいて,表示部に表示する表示信号を生成する機能は,制御部24に存
在すると主張する。
しかし,端末装置側に設けられた制御部24が,LCD表示部23等の
制御信号入出力手段の制御を行っているとしても,そのことをもって,P
Cカード側に表示部に表示する表示信号を生成する機能がないということ
にはならない。なぜなら,そもそも制御部24と表示機能との関係は明ら
かにされていないのであるし,また,制御部24が表示機能に関与すると
しても,PCカードで受信された情報が表示部に表示される際,そのため
の表示信号が,ただ一つの(特定の)制御部で生成されるとは限らないか
らである。なお,構成要件A1の「アンテナにより受信される受信信号を
スピーカから出力する音声信号に変換する機能」に関しては,原告も,端
末装置側に音声コーデック部があることをもって,PCカードに当該機能
がないとは主張しておらず,暗に,端末装置とPCカードの双方の電子回
路に同機能があることを認めているから「表示部に表示する表示信号を,
生成する機能」についても,端末装置とPCカードの双方の電子回路に同
機能があると解することに何ら矛盾はない。
ウ引用発明5と,引用発明3あるいは引用発明4との組合せについて
引用発明1と,引用発明3あるいは引用発明4とを組み合わせるべき理
由がないとの原告の主張が失当であるのと同様に,引用発明5と,引用発
明3あるいは引用発明4とを組み合わせるべき理由がないとの原告の主張
は,失当である。
第4当裁判所の判断
1争点3−3(本件特許権が特許法29条2項に違反しているか・その1)に
ついて
(),。()刊行物1乙2・特開平9−149109号公報には次の記載がある1
ア特許請求の範囲
「請求項1】携帯電話器の無線通信機能部品を内蔵する基本部と,携【
帯電話器の電話機能部品を内蔵する周辺部とを有し,前記基本部と周辺部
を分離可能に接続したことを特徴とする携帯電話器ユニット」
イ発明が解決しようとする課題
「0003】前述したように,従来の携帯電話器は,機械構成上種々【
の形式のものがあるが,携帯電話器専用であり,携帯電話器以外に利用で
きるものではなかった。
【0004】したがって,本発明の目的は,本来の携帯電話器として使
用できると共に,携帯電話器が有する無線通信機能に着目して,無線通信
機能を有する部分を他の電子機器と組み合わせて使用可能な携帯電話器ユ
ニットを提供することにある」。
ウ実施例
)「0007】図1に示すように,本発明の携帯電話器ユニットは,a【
3つの分離可能な部分,即ち,基本部12,周辺部14,バッテリパッ
ク16から成る」。
)「0008】基本部12は,パソコン等のメモリカードの一般的なb【
PersonalComputerMemoryCardInternational規格,例えばPCMCIA(
)規格の形状と一致するメモリカード(ICカード)形状のAssociation
下部20と,後述する周辺部の基本部保持部に載置するのに適した形状
,,の上部22と上部22の上部に取り付けられたアンテナ24から成り
基本部12の内部には,画像,文章等のデータと音声を処理する処理部
と,無線通信を行うための無線通信部と,制御部が設けられている」。
「0009】周辺部14は,本体部分30を有し,本体部分30の【
前面には,図2の断面図で示すように,スピーカ38,LCD(液晶表
示装置)40,キー(プッシュボタン)42,マイク44が設けられて
いる。また,周辺部14の後部には,本体部分30と一体となって筒状
の基本部保持部32を形成している」。
「0011】図2,図3に示すように,周辺部14の本体部30と【
基本部保持部32で形成された筒の内部にはPCMCIA規格のコネク
タ46が設けられている。このコネクタ46は前述の基本部12のコネ
クタ20aと接続されるものであり,複数のピン46aを有するレセプ
タクルとして構成されている。勿論,筒の内部形状は,基本部12の下
部を受け入れてガタなく保持する形状に形成されている」。
)「0012】次に,携帯電話器ユニットの電子回路を図4を参照しc【
て説明する。図4に示すように,基本部12は,RFモジュール50,
変復調モデム52チャンネルコーデック中略54ADPCM中,(),(
略)コーデック56,PCMCIAI/F(インターフェース)58,
,,,ROM/RAM60EEP−ROM62マイクロコントローラ64
音声/データセレクタ66を有している。
【】,,0013前述の各部の機能を概略するとRFモジュール50は
無線周波数の処理用モジュールであり,変復調モデム52は,送信のた
めにチャンネルコーデック54からの信号を変調し,また受信のために
RFモジュール50からの信号を復調するための変調復調器であり,チ
ャンネルコーデック54は,送信,受信データの組立て,分解を行い,
ADPCMコーデック56は適応型差分パルス符号変調(データ圧縮,
伸張)を行い,PCMCIAI/F58は,周辺部14または後述する
パソコン等のPCMCIAI/Fと接続するためのインターフェースで
ある。
【0014】ROM/RAM60,EEP−ROM62は,基本部1
2を制御するプログラムを格納し,作業中のワーキング領域となるメモ
リであり,マイクロコントローラ64は,ROMに格納されたプログラ
ムに従って基本部12および周辺部14内の各機能部品を制御するもの
であり,音声/データセレクタ66は,PCMCIAI/F58からの
音声またはデータを選択的にチャンネルコーデック54またはADPC
Mコーデック56に転送し,またはそれらからの音声またはデータをP
CMCIAI/F58に転送するものである」。
「0015(補正前のもの】周辺部14は,前述のように,LC【)
D40,キースイッチ42,マイク44,スピーカ38を有している。
またバッテリパック16から(接点36,64を介して)周辺部14に
給電され,周辺部14からPCMCIAI/F58を介して(コネクタ
46,20aを介して)基本部12に給電される。…」
「0015(平成7年12月26日付け手続補正後のもの】周辺【)
,,,,,部14は前述のようにLCD40キースイッチ42マイク44
スピーカ38を有している。また周辺部14はその内部の各種制御を行
うマイクロコントローラ46を有している。またバッテリパック16か
ら(接点36,64を介して)周辺部14に給電され,周辺部14から
PCMCIAI/F58を介して(コネクタ46,20aを介して)基
本部12に給電される。…」
d)「0017】携帯電話器として用いる場合を概略すると,キースイ【
ッチ(プッシュボタン)42を用いて無線通話を行う相手の電話番号を
押す。このとき,LCD40は電話番号を表示する。キースイッチ42
で入力された電話番号データは基本部12のPCMCIAI/F58を
介して音声/データセレクタ66に転送され,音声/データセレクタ6
6からADPCM56に転送され,チャンネルコーデック54によって
送信データに組み立てられ変復調モデム52によって変調され,RFモ
ジュール50を介してアンテナ24によって無線によって送信される。
【0018】電話回線が接続されると,以後,通常の携帯電話器と同
様な動作が行われる。即ち,通話の送信では,マイク44から入力され
た音声は基本部12のPCMCIAI/F58を介して音声/データセ
レクタ66に転送され,音声/データセレクタ66からADPCM56
に転送され,そこで,音声は圧縮され,チャンネルコーデック54に転
送され,チャンネルコーデック54によって送信データに組み立てられ
変復調モデム52によって変調され,RFモジュール50を介してアン
テナ24によって無線によって送信される。
【0019】一方,通話の受信では,アンテナ24で受信した音声信
号は,RFモジュール50で処理され,その後変復調モデム52によっ
て復調され,チャンネルコーデック54によって受信データとして分解
され,ADPCM56によって伸張され,音声/データセレクタ66に
転送され,次に,基本部12のPCMCIAI/F58を介して周辺部
14のスピーカ38に転送され,音声として出力される」。
)「0020】図5(b)は,携帯電話器ユニット10をパソコン7e【
0と共に使用する例を示す。例えば,パソコン70で作成したデータを
他の電子機器(パソコンを含む)に無線送信することや,他の電子機器
(パソコンを含む)からのデータを無線受信することに使用できる」。
エ発明の効果
「0024】以上説明したように,本発明は,携帯電話器を無線通信【
機能(…)を内蔵する基本部と,電話機能(…)を内蔵する周辺部に分離
できるように構成し,基本部の仕様をパソコン等の他の電子機器のインタ
ーフェース(…,コネクタ規格(…)と一致させたので,基本部を分離)
し,他の電子機器と共に用いることにより,他の電子機器とのデータを無
線で送受できる」。
()本件特許発明と引用発明1との一致点及び相違点について2
ア本件特許発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び構成要件の分説
は,前記第2・1(),()のとおりである。34
イ「電子回路(構成要件A5)と「カートリッジ」及び「電話送受信ユ」
ニット(構成要件D)について」
刊行物1の上記【請求項1【0008【0009【0011,】,】,】,】
及び図1,2によれば,刊行物1には,携帯電話器の無線通信機能部品を
内蔵する基本部12と,携帯電話器の電話機能部品を内蔵する周辺部14
とを設けること,基本部12はメモリカード(ICカード)形状の下部2
0を有し,周辺部14は本体部分30と一体となって筒状の基本部保持部
32を有していること,この筒の内部に設けられたコネクタによって基本
部12と接続されること,基本部12の内部には,データと音声を処理す
る処理部と,無線通信を行うための無線通信部と,制御部が設けられてい
ること,周辺部14にはスピーカ,LCD,キー(プッシュボタン,マ)
イクが設けられていることが開示されている。
刊行物1に記載された上記発明(引用発明1)を本件特許発明と対比す
ると「基本部12」が本件特許発明の「カートリッジ」に「基本部の,,
,」「」,内部の処理部無線通信部及び制御部が本件特許発明の電子回路に
「スピーカ等を有する周辺部14」が本件特許発明の「移動体通信端末」
に「携帯電話器の無線通信機能部品を内蔵する基本部12」が本件特許,
発明の「電話送受信ユニット」に,それぞれ相当する。
,,「」したがって刊行物1には本件特許発明の基本構成として電子回路
(構成要件A5)と「カートリッジ」及び「電話送受信ユニット(構成」
要件D)がいずれも記載されている。
ウ電子回路の機能(構成要件A1ないしA4)について
)「アンテナにより受信される受信信号をスピーカから出力する音声信a
号に変換する機能(構成要件A1)について」
刊行物1の上記【0019】によれば,刊行物1には,アンテナで受
信した音声信号をスピーカから出力する音声信号に変換する機能が開示
されている。
したがって,引用発明1の上記構成・機能は,本件特許発明の構成要
件A1に相当する。
)「マイクに入力される音声信号を前記アンテナから出力する送信信号b
に変換する機能(構成要件A2)について」
刊行物1の上記【0018】によれば,刊行物1には,マイクから入
力された音声を変換してアンテナによって無線送信する機能が開示され
ている。
したがって,引用発明1の上記構成・機能は,本件特許発明の構成要
件A2に相当する。
)「操作部からの操作信号に基づいて所定の処理を行う機能(構成要c」
件A3)について
①本件特許発明の「操作部からの操作信号に基づいて所定の処理を行
う機能(構成要件A3)については,その意義が特許請求の範囲の」
,。記載において一義的に明白とはいえないので本件明細書を参酌する
本件明細書の【0026】には「また,電源の入/切,電話番号の,
入力等の操作は,操作部70として設けられた操作ボタン18により
行われ,操作信号が制御部72に入力される。制御部72は,入力さ
れた操作信号に基づいて電子回路の制御を行う。また,動作状態や操
作部70から入力された電話番号等を示す表示信号が,制御部72か
ら液晶表示部20に出力される」との記載がある。この記載によれ。
ば,本件特許発明の構成要件A3は,例えば電源の入/切,電話番号
の入力等を操作ボタンによって入力すると,入力された操作信号に基
づいて制御が行われることを指すものと解される。
②刊行物1の上記【0017】によれば,刊行物1には,周辺部に備
えられたキースイッチで入力された電話番号データを,基本部におい
て送信データ化して無線送信する機能が開示されている。引用発明1
のかかるキースイッチは,本件特許発明における「操作部」に相当す
るものである。
したがって,引用発明1の上記構成・機能は,本件特許発明の構成
要件A3に相当する。
)「表示部に表示する表示信号を生成する機能(構成要件A4)につd」
いて
①本件特許発明の「表示部に表示する表示信号を生成する機能(構」
成要件A4)については「表示信号を生成」の意義が特許請求の範,
囲の記載において一義的に明白とはいえないので,本件明細書を参酌
する。本件明細書の【0026【0028【0054】におい】,】,
ては,動作状態や移動体通信端末に設けられた操作部70から入力さ
れた電話番号等を示す表示信号が,送受信ユニットに設けられた制御
部72から移動体通信端末に設けられた液晶表示部20に出力される
こと,本件特許発明の効果として,電話送受信ユニット内に形成され
る電子回路を移動体通信端末側に形成する必要がないことが挙げられ
ていること(甲2,及び,本件明細書の図3(甲2)に照らせば,)
本件特許発明の構成要件A4は,表示部になされるべき表示をするた
めの信号が送受信ユニット内に設けられた制御部において生成される
ことを指すものと解するのが相当である。
②刊行物1の上記【0009【0017】によれば,刊行物1の】,
周辺部14は,LCD(液晶表示装置)40,キースイッチ(プッシ
ュボタン)42を有しており,キースイッチ(プッシュボタン)42
を用いて無線通話を行う相手の電話番号を押したとき,LCD40は
電話番号を表示するものである。また,乙7によれば,本件特許の出
願時において,携帯電話が他の電話からの信号を受信した場合に当該
他の電話の電話番号を表示する機能や,通話中に通信状態(電波の状
態)等を表示する機能は,基本的機能としてごく普通に採用されてい
たことが認められる。
したがって,無線通話を行う相手の電話番号や受信先の電話の電話
番号や動作状態(電波状態)を表示部に表示することは周知であった
ところ,刊行物1の【0012】ないし【0014,補正前の【0】
015,同【図4】は,周辺部に制御機能を設けることなく,アン】
テナの設けられた基本部に設置されたマイクロコントローラによって
基本部及び周辺部の各機能部品を制御する構成を開示するものであ
る。すなわち,周辺部に設けられたLCDへの表示を制御するのは基
本部に設けられたマイクロコントローラであり,周辺部にはかかる制
御機能が備わっていないのであって,周辺部に所定の表示を行うため
の信号が基本部で生成されることが開示されていることは明らかであ
る。
したがって,引用発明1の上記構成・機能は,本件特許発明の構成
要件A4に相当する。
③原告は,刊行物1の出願人が,補正前の【図4】に記載の誤りを発
見したからこそ補正をしたのであるから誤りを含んだ補正前の図,,【
4】を参酌する理由はないと主張する。
確かに,前記補正前の【0015,同【図4】は,出願の約1か】
月後に,出願人により補正されているものである(乙2。しかし,)
刊行物1は,願書に添付された明細書について,補正前のものと,補
正後のものの双方を公開したものであるから,補正前のものが明らか
な誤記を含み,補正によりその誤記を訂正したものと解される場合は
別として,原則として,刊行物1により,補正前の明細書に開示され
た発明と補正後の明細書に開示された発明の双方が開示されたものと
解するのが相当である。そして,明らかな誤記かどうかは,補正の内
容から客観的に判断されるべきであるところ,本件においては,次に
述べるとおり,刊行物1に記載された補正前の発明も,補正後の発明
も,いずれも技術的にみて発明として成立するものであるから,その
補正を,明らかな誤記を訂正したものと解することはできない。
すなわち,補正前の刊行物1に記載された発明(当裁判所は,この
発明を引用発明1と認定したものである)は,上記認定のとおり,。
基本部に設置されたマイクロコントローラによって基本部及び周辺部
の各機能部品を制御する構成のものであるのに対し,補正後の刊行物
1においては,周辺部にもその内部の制御を行うためマイクロコント
ローラを設けたものである。そして,マイクロコントローラを周辺部
のみに設置するか,周辺部と基本部の双方に設置するかは,当業者に
とっては,製品の機能性,経済性その他の観点から決定すべき設計的
事項であって,技術的にみて,そのいずれでも発明として成立するこ
とに変わりはない。したがって,当業者から見れば,刊行物1は,補
正前の発明と補正後のいずれの発明も開示しているものとみ得るので
あり,補正前の刊行物1に記載された発明も,補正後のものも,いず
れも本件特許の出願前公知の発明とみることができる。補正前の刊行
物1の記載が誤記であるとの原告の主張は採用し得ない。
また,原告は,刊行物1の補正前のものにおいても,その周辺部が
,,【】電話機能を有するとの記載があること及び刊行物1の0017
には「キースイッチ(プッシュボタン)42を用いて無線通話を行,
う相手の電話番号を押す。このとき,LCD40は電話番号を表示す
る」との記載があることから,携帯電話器の電話機能部品を内蔵す。
る周辺部のみにおいて,表示信号が生成されることは明らかであり,
基本部に表示信号を生成する機能を設ける理由がないと主張する。し
かし,引用発明1において,その周辺部には何ら制御部に該当するも
のが設けられておらず,基本部にのみマイクロコントローラが設けら
れ,基本部及び周辺部の各機能部品を制御する構成が示されているこ
とは前記のとおりであるから,その表示部に表示する表示信号を生成
,。するものは基本部にあるマイクロコントローラ等であると解される
原告の主張は採用し得ない。
エ「カートリッジ」の構成(構成要件B,C)について
)「前記移動体通信端末との間で信号を入出力する入出力部(構成要a」
件C)について
,,刊行物1の図1及び図5によれば携帯電話ユニットの基本部12は
携帯電話ユニットの周辺部14と一体とされ,その図2及び上記【00
11】によれば,携帯電話ユニットの周辺部14にはコネクタ46が設
けられ,そのコネクタ46と基本部12のコネクタ20aとが電気的に
接続されている。かかる構成を本件特許発明と対比すると,引用発明1
の基本部12の「コネクタ20a」が,本件特許発明における「前記移
動体通信端末との間で信号を入出力する入出力部」に相当する。
よって,本件特許発明の「カートリッジ」に相当する,引用発明1の
「基本部12」は,本件特許発明の構成要件C「前記移動体通信端末と
の間で信号を入出力する入出力部」に相当するものである。
)「移動体通信端末に設けられたスロットに全体が収納されるような形b
状(構成要件B)について」
刊行物1の図1によれば,引用発明1の基本部の下部20は,周辺部
本体部と基本部保持部で形成された筒に収納された一体とされる。かか
る構成を本件特許発明と対比すると「周辺部本体部と基本部保持部で,
形成された筒」は本件特許発明における「スロット」に相当する。
,(「」)したがって引用発明1の基本部本件特許発明のカートリッジ
の形状は,周辺部(本件特許発明の「移動体通信端末)に設けられた」
スロットに収納されるような形状を備えるものである。
オ以上によれば,本件特許発明と引用発明1とは,本件特許発明の構成要
件A1ないしA5,C,Dにおいて一致し,構成要件Bについては,本件
特許発明のカートリッジが「移動体通信端末に設けられたスロットに全体
が収納されるような形状に(構成要件B)形成されているのに対し,引」
用発明1の基本部は「移動体通信端末に設けられたスロットに収納される
ような形状に」形成されている点で一致するものの,その全体が収納され
る形状ではない点で相違(以下,単に「相違点」という)しているもの。
と認められる。
()引用発明1と引用発明3あるいは引用発明4との組合せの容易想到性につ3
いて
ア刊行物3(乙4・特開平9−139972号公報)には,次の記載があ
る。
)発明が解決しようとする課題a
「0008】上述の如くに,ディジタルコードレス方式をとる携帯【
電話機が,パーソナル・コンピュータによるデータ通信に供されるにあ
たり,パーソナル・コンピュータにディジタルコードレス方式をとる携
帯電話機が通信アダプタを介して連結される場合には,パーソナル・コ
ンピュータのカード挿入部に装着された通信アダプタにおける電話機用
コネクタ部が設けられた部分が,パーソナル・コンピュータの外部に突
出するものとされ,パーソナル・コンピュータの外部に突出した電話機
用コネクタ部にディジタルコードレス方式をとる携帯電話機が接続され
ることになる。それゆえ,パーソナル・コンピュータ,通信アダプタ及
びディジタルコードレス方式をとる携帯電話機の三者の組合せが,装置
としての纏まりがなく,外観的に劣るものとなってしまう。また,パー
ソナル・コンピュータ,通信アダプタ及びディジタルコードレス方式を
とる携帯電話機の三者の組合せによる装置全体が,移動あるいは向きの
変更等に際して取扱い難く,使い勝手がよくないものとなってしまうと
いう不都合がある」。
)課題を解決するための手段b
「0011】上述の如くに構成される本発明に係る携帯無線電話装【
置は,送受信アンテナ部の部分,送信処理部,音声データ形成部,受信
処理部及び音声再生部を収容する匣体が,電子情報処理機器に対してそ
れに設けられたカード挿入部に全体的に収容される状態をもって装着す
ることが可能とされる外形寸法をとるものとされ,また,その匣体に,
電子情報処理機器に設けられたカード挿入部に装着されたとき,カード
挿入部における内蔵コネクタ部に接続されて,電子情報処理機器からの
データが送信処理部に供給される状態,及び,受信処理部からの再生デ
ータが電子情報処理機器に供給される状態をもたらすコネクタ部が設け
られたものとされるので,その匣体が電子情報処理機器に対してそれに
設けられたカード挿入部に全体的に収容される状態をもって装着される
ことにより,電子情報処理機器によって処理されたデータに基づくデー
タ信号が送受信アンテナ部を通じて送信され,また,送受信アンテナ部
を通じて受信された外部からのデータ信号に基づくデータが電子情報処
理機器に取り込まれるようにする,電子情報処理機器によるデータ通信
に供される状態をとることができることになる。
【0012】そして,本発明に係る携帯無線電話装置は,電子情報処
理機器によるデータ通信に供される状態をとるときには,その匣体が電
子情報処理機器に設けられたカード挿入部に全体的に収容される状態に
おかれるので,電子情報処理機器を含んで構成される装置全体を,外観
的に優れたものにできるとともに,移動あるいは向きの変更等に際して
取扱い易く,かつ,使い勝手が良いものなすことができる」。
c)発明の実施の形態
「0021】パーソナル・コンピュータ63に設けられたカード挿【
入部65は“PCカード・タイプIII”を全体的に収容できるものと,
されていて“PCカード・タイプIII”が有する規格化された外形寸,
法85.6㎜×54.0㎜×10.5㎜に応じた三次元寸法を有したも
のとされている。そして,カード挿入部65内には“PCカード・タ,
イプIII”に備えられたコネクタ部が接続されて“PCカード・タイ,
プIII”との電気的接続がなされる内蔵コネクタ部が設けられている。
【0022】斯かるパーソナル・コンピュータ63に設けられたカー
ド挿入部65に,図3に示される如くにして,可動部12が折畳位置を
とる状態とされたもとでの匣体13の三次元寸法L,W及びTが“PC
カード・タイプIII(L=85.6㎜,W=54.0㎜,T=10.”
5㎜)となるように選定された携帯無線電話装置1が,可動部12が折
畳位置をとる状態とされて挿入される。そして,カード挿入部65に挿
入された携帯無線電話装置1は,図4に示される如くに,カード挿入部
65に全体的に収容される状態をもって,パーソナル・コンピュータ6
3への装着がなされる」。
d)発明の効果
「0039】以上の説明から明らかな如く,本発明に係る携帯無線【
電話装置にあっては,送受信アンテナ部の部分,送信処理部,音声デー
タ形成部,受信処理部及び音声再生部を収容する匣体が,パーソナル・
コンピュータ等の電子情報処理機器に対して,それに設けられたカード
挿入部に全体的に収容される状態をもって装着することが可能とされる
外形寸法をとるものとされ,また,その匣体に,電子情報処理機器に設
けられたカード挿入部に装着されたとき,カード挿入部における内蔵コ
ネクタ部に接続されて,電子情報処理機器からのデータが送信処理部に
供給される状態,及び,受信処理部からの再生データが電子情報処理機
器に供給される状態をもたらすコネクタ部が設けられたものとされる。
【0040】それにより,本発明に係る携帯無線電話装置は,その
匣体が電子情報処理機器に対してそれに設けられたカード挿入部に全体
的に収容される状態をもって装着されることにより,電子情報処理機器
によって処理されたデータに基づくデータ信号が送受信アンテナ部を通
じて送信され,また,送受信アンテナ部を通じて受信された外部からの
データ信号に基づくデータが電子情報処理機器に取り込まれるようにす
る,電子情報処理機器によるデータ通信に供される状態をとることがで
きることになり,しかも,電子情報処理機器によるデータ通信に供され
る状態をとるときには,その匣体が電子情報処理機器に設けられたカー
ド挿入部に全体的に収容される状態におかれるので,電子情報処理機器
,,を含んで構成される装置全体を外観的に優れたものにできるとともに
移動あるいは向きの変更等に際して取扱い易く,かつ,使い勝手が良い
ものなすことができる」。
e)【図4】には,匣体がパーソナル・コンピュータに設けられたカード
挿入部に全体的に収容された状態が記載されている。かかる状態におい
ては,匣体から突出するアンテナ導体がパーソナル・コンピュータから
突出しているほか,匣体本体はカード挿入部に収容されている。
イ刊行物4(乙5・WO94/21058)には,次の記載がある。
)「本発明は,請求項1によるモジュラー無線通信装置に関わる。さらa
に詳細には,本発明の1つの側面は予め選択された規格及び・又はフォ
ーマットに従う無線通信(音声及び・又はデータを含む)のために構成
されたカード型無線電話及び・又は変復調装置の提供を含む。かかるモ
ジュラーユニットは,それによる無線ネットワークとの通信リンクを確
立するため,他種の電子装置の中に交換可能に保護収容される。本発明
の一部ではないかかる装置の一例として,携帯無線電話加入者端末を含
む。
本発明は,所定の規格に従う通信に対応する送受信機を搭載するため
のモジュラー筐体の使用を可能にする。接触子の配列が当該筐体の第一
の端部に沿って配置され,コンピュータや携帯通信装置などのひとつの
電子装置中の対抗接触子と適合するように取り付けられる。独立したア
ンテナコネクタが当該筐体の第一の端部か第二の端部のどちらかに沿っ
て配置される。このコネクタは,当該筐体内部の無線送受信機に結合さ
れ,当該無線送受信機からの通信を可能にする分離式アンテナ機構に結
合するように構成される。本明細書では,無線送受信機という用語は,
アンテナにより送信され受信される音声及びデータ双方の変復調器を含
むものとする。当該アンテナは,コンピュータのシャーシなど,電子装
置の中に含まれていてもよく,あるいは当該筐体に対する外部アタッチ
メントとして提供されてもよい(4頁1行目から31行目)。」
)「図11を参照すると,図10におけるモジュラーユニット131のb
別の装着法とPC200の別の改良態様とが示されている。この図を見
ると,モジュラーユニット131は,フラップ280が設けられたPC
200の中に装着されているのがよくわかる。このフラップ280は,
ユニット131を閉包し,かつ同軸コネクタ51と直接連結されるよう
に配置されるが,外部電源コネクタ54は露出したままである。この実
施例において,内部アンテナ270はPC200内に取り付けられ,導
線271(透視図により示される)によってフラップ280のフラッ。
プ接触子272へ接続される。開口273は,モジュール131の電源
コネクタ54と一致するようにフラップ280に配置され,プラグ25
,。2がコネクタ54へ入りやすくかつ接続しやすいような寸法とされる
以上説明したように,モジュール131のコネクタ133は,スロット
201の端部205に配置されたスロットコネクタ204と勘合接続す
ることが示される。特に図示していない別の実施例では,フラップ28
0の開口273の位置に配置された電源接続接触子に結合することによ
り,PC200からの内部電源をモジュール131のコネクタ54に接
続しうる。もしこの図を描くとすれば,図12の電源290と同様の図
になるが,導線291についてはフラップ280まで延長される(1。」
6頁27行目から17頁17行目)
)図11には,モジュラーユニット131が,スロット201とその挿c
入口にフラップ280が設けられたPC200内に完全に収納できる構
成が開示されている。また,図13,図14には,モジュラーユニット
31が携帯電話とパーソナル・コンピュータのそれぞれのスロットに,
交換可能に,その全体が収容される構成が開示されている。
ウ本件特許発明の進歩性について
)引用発明1と引用発明4との組合せの容易想到性についてa
刊行物4の前記記載及びその図13,図14からすれば,引用発明4
は,パーソナルコンピュータや携帯通信装置などの複数の機器と組み合
わせて使用できるモジュラーユニットを提供する点で,引用発明1とそ
。,,,の構成を共通にするものであるそして刊行物4には前記のとおり
スロット開口部にフラップを有するパーソナルコンピュータの当該スロ
ットにモジュラーユニットを装着して,フラップによりモジュラーユニ
ットを封鎖する態様,すなわち,モジュラーユニットをスロットに完全
に収納させる態様が開示されている。一方,引用発明1も,携帯電話機
を基本部と周辺部に分離し,基本部をパーソナル・コンピュータなどの
他の電子機器と共に用いることにより,本来の携帯電話器として使用で
きると共に,他の電子機器と組み合わせて使用可能な携帯電話器ユニッ
トを提供するものである。したがって,このような引用発明1において
も,使用時の利便性,軽快な操作性が,一般的な課題となるものである
から,当業者が,基本部の全体が収納されない構成の引用発明1をみた
ときに,その使用時の利便性,軽快な操作性を改善するために,引用発
明4の上記構成を採用し,基本部(モジュラーユニット)をパーソナル
コンピュータ等のスロットに,その全体が収納されるものに想到するこ
とは,容易であるというべきである。
)引用発明1と引用発明3との組合せの容易想到性についてb
刊行物3には,上記のとおり,電子情報処理機器に対して装着される
携帯無線電話装置において,その匣体の外形寸法を,該電子情報処理機
器に設けられたカード挿入部に全体的に収容される外形寸法とすること
が記載されており,匣体が,匣体から突出するアンテナのほかは,カー
ド挿入部に完全に収容される態様の引用発明3が開示されている。
そして,引用発明3は,上記のとおり「その匣体が電子情報処理機,
器に設けられたカード挿入部に全体的に収容される状態におかれるの
で,電子情報処理機器を含んで構成される装置全体を,外観的に優れた
,,ものにできるとともに移動あるいは向きの変更等に際して取扱い易く
かつ,使い勝手が良いものなすことができる(乙4【0040)も」】
のである。
一方,引用発明1においても,使用時の利便性,軽快な操作性が,一
般的な課題となるものであることは上記のとおりであることからすれ
ば,当業者が,基本部の全体が収納されない構成の引用発明1をみたと
きに,その使用時の利便性,軽快な操作性を得るために,引用発明3の
上記構成(匣体とカード挿入部の外形寸法を一致させるとの構成)を採
用し,基本部をパーソナルコンピュータ等のスロットに,その全体が収
納されるものに想到することは容易であるというべきである。
なお,刊行物3においては,その「匣体13の本体部10における端
部10Bから突出するアンテナ導体17が,カード挿入部65からパー
ソナル・コンピュータ63の外部に突出する(乙4【0023)と」】
記載されていること,及び,その図4からも,引用発明3においては,
匣体をカード挿入部に挿入した後も,そのアンテナが外部に突出するも
のである。しかし,アンテナをパーソナルコンピュータや携帯電話機側
に設置し,匣体をカード挿入時に完全に収納される形状にすることは,
上記引用発明4にみられるものであり,当業者が適宜設計し得る事項と
いうべきである。
)原告は,構成要件Bは「カートリッジが,移動体通信端末に設けられc
たスロットに挿入され,その挿入口がスロットの一部により閉められ,
固定されるような形状に形成されたカートリッジ」という意味に解すべ
きであると主張する。しかし,構成要件Bは「移動体通信端末に設け,
られたスロットに全体が収納されるような形状に形成されたカートリッ
ジ」と規定しているだけであるから,全体が収納されていれば足り,そ
の挿入口がスロットの一部により閉められるとの構成であると解するこ
とはできない。原告の主張は採用し得ない。
)原告は,引用発明1と引用発明3あるいは引用発明4は,いずれも本d
件特許発明と発明の課題が異なり,各引用発明を組み合わせる動機付け
がないなどと主張する。
しかし,本件特許発明の課題(目的)は「複数の回線を契約するこ,
となしに,時,場所,場合に応じた快適な移動体通信を実現する電話送
受信ユニット及び移動体通信端末を提供することである(甲2【00」
06。これに対し,引用発明1と引用発明3及び引用発明4のいず】)
れも,前記のとおり,無線通信機能を有する基本部,匣体ないしモジュ
ラーユニットを,携帯電話やパーソナル・コンピュータなどの複数の電
子機器と共に用いることを可能とする構成により,携帯電話器として使
用できると共に,パーソナル・コンピュータなど他の電子機器と組み合
わせても使用可能にするものであり,その構成から,本件特許発明の上
記課題のいずれも達成することは可能なものである。したがって,本件
特許発明と各引用発明とが異質のものであるとの原告の主張は採用し得
ない。そして,引用発明1の基本部を他の電子機器のスロットに収納す
,,,る態様についてその使用時の利便性軽快な操作性を改善するために
引用発明1の相違点に係る上記構成に代えて,引用発明3ないし引用発
明4の上記構成を採用し,本件特許発明と同じ構成に想到することは当
業者にとって容易であることは前記のとおりである。このように,引用
発明1,引用発明3及び引用発明4は,いずれも近接した構成の技術で
あり,また,引用発明1に引用発明3あるいは引用発明4の構成を組み
合わせる動機付けも十分にあることは前記のとおりである。
)原告は,本件特許発明には,二つの主要な作用効果,すなわち,第1e
,,,,に複数の回線を契約することなく一つの回線を契約するだけで時
場所,場合に応じた快適な移動体通信を提供することができるという作
用効果があり,第2に,電話送受信ユニット内に形成される電子回路を
移動体通信端末側に形成する必要がないので,移動体通信端末のコスト
ダウンに寄与することができるという顕著な効果があり,この効果は引
用発明1,引用発明3ないしは引用発明4からは予測し得ない旨主張す
る。
しかし,原告が主張する作用効果は,本件特許発明の構成から通常予
測し得る範囲内の作用効果であり,いずれもその構成から予測し得ない
異質なあるいは顕著に優れた作用効果であるということはできない。そ
して,本件特許発明の構成が,引用発明1及び引用発明3ないしは引用
発明4から容易に想到し得るものであることは前記のとおりである以
上,原告の主張は本件特許発明の進歩性を基礎付けるものということは
できない。
エ以上によれば,本件特許発明は,①引用発明1と引用発明4とを組み合
わせることによって,あるいは,②引用発明1と引用発明3とを組み合わ
せることによって,容易に想到することができるものであるから,特許法
29条2項違反の無効理由があるものと認められる。
()小括4
,,以上のとおり本件特許権には特許法29条2項違反の無効理由が存在し
無効審判により無効にされるべきものと認められるのであるから,特許権者
である原告は,その権利を行使することができないというべきである(特許
法104条の3第1項。)
2結論
よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がな
いのでこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
設樂隆一裁判長裁判官
古河謙一裁判官
吉川泉裁判官
別紙
物件目録
多機能通信モジュール
製品名:W−SIM」「
型番:RX410IN」「

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