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平成27年2月24日判決言渡
平成26年(行ケ)第10159号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成27年2月10日
判決
原告有限会社大長企画
訴訟代理人弁理士熊田和生
被告特許庁長官
指定代理人紀本孝
森林克郎
佐々木正章
板谷一弘
堀内仁子
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
特許庁が不服2013-3637号事件について平成26年5月26日にした審
決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許出願拒絶査定不服審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。
争点は,進歩性の有無である。
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成21年5月11日,名称を「健康食品」とする発明につき,特許出
願(特願2009-114271号。甲1)をし,平成24年11月28日付け補
正書(甲8)により,特許請求の範囲を変更する補正をしたが,同年12月12日
付けで拒絶査定を受けた。そこで,平成25年2月26日,これに対する不服の審
判を請求する(甲4)とともに,同日付け手続補正書(甲5。以下「本件補正書」
という。)により手続補正をした(以下「本件補正」という。)。
特許庁は,平成26年5月26日,本件補正を却下した上で,「本件審判の請求は,
成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年6月16日,原告に送達された。
2本願発明の要旨
(1)本件補正後の請求項1(補正発明)
補正発明は,本件補正書(甲5)に記載された以下のとおりのものである。
請求項1
A.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体,B.クルクミン,C.緑
イ貝,およびD.コール酸,またはシムノールまたはシムノール硫酸エステルのA,
B,C,Dを含むことを特徴とする健康食品。
(下線部が補正箇所。)
(2)本件補正前の請求項1(補正前発明)
補正前発明は,出願時の明細書(甲1)及び平成24年11月28日付け補正書
(甲8。以下,同補正書,出願時明細書,本件補正書を合わせて「本願明細書」と
もいう。)に記載された以下のとおりのものである。
請求項1
A.イソフラボンまたはイソフラボン配糖体,B.クルクミン,C.緑イ貝,お
よびD.コール酸,またはシムノールまたはシムノールエステルのA,B,C,D
を含むことを特徴とする健康食品。
3審決の理由の要点
(1)補正発明の独立特許要件(進歩性)について
補正発明は,以下の引用例1及び引用例2に記載された発明(引用発明1及び2)
に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
ア引用発明1
引用例1(特開2003-245054号公報,甲2)には,以下の引用発明1
が記載されている。
「B.クルクミン,D.コール酸,および/または,シムノールおよび/または
シムノールエステル硫酸エステルナトリウム塩,並びにA.大豆イソフラボンおよ
び/または大豆イソフラボン配糖体を含む健康食品」
イ補正発明との一致点及び相違点
【一致点】
A.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体,B.クルクミン,D.コ
ール酸,またはシムノールまたはシムノール硫酸エステルのA,B,Dを含むこと
を特徴とする健康食品。
【相違点】
補正発明では,「C.緑イ貝」を含むのに対し,引用発明1では,そのような特定
がない点。
ウ進歩性判断
(ア)相違点についての判断
引用例2(特開昭60-32715号公報)には,緑イ貝の体部を乾燥し,粉末
とした健康食品が,関節痛,リューマチ(リウマチ)の特効食品として販売されて
いることが記載されている。
一方,引用例1の記載から,引用発明1は,リウマチなどに有効な健康食品であ
るといえる。
ところで,種々の成分を配合して健康食品とすることは,当技術分野では常套手
段である。
しかるに,引用発明1に係る健康食品及び引用例2に係る健康食品は,リウマチ
という共通の疾患に有効であることに鑑みれば,引用例2に記載された知見に接し
た当業者であれば,引用発明1に係る健康食品のリウマチなどに対する薬効を更に
高めるために,緑イ貝を配合して含ませることは,容易に想到し得ることである。
そうすると,上記相違点は,格別なものではない。
(イ)補正発明の効果
補正発明に係る効果は,本願明細書の【0006】の「この出願発明は,イソフ
ラボンおよび/またはイソフラボン配糖体と,辛味物質,苦味物質又は酸味物質と,
緑イ貝,およびコール酸,および/またはシムノールおよび/またはシムノールエ
ステルを摂取することによりそれらの相乗作用により,自己免疫疾患,特に,関節
リウマチ,花粉症をより早く治療,予防できる健康食品を提供することができると
いう優れた効果がある。特に,イソフラボンおよび/またはイソフラボン配糖体と,
辛味物質,苦味物質又は酸味物質と,少量の緑イ貝,およびコール酸,および/ま
たはシムノールおよび/またはシムノールエステルを摂取することによりそれらの
相乗作用により,自己免疫疾患,特に,関節リウマチ,花粉症をより早く治療,予
防できる健康食品を提供することができるという優れた効果。」である。
しかし,引用例1及び2には,その成分がリウマチに有効であることが記載され,
リウマチが自己免疫疾患であることは明らかである。
そして,本願明細書には,「相乗作用」という語句の記載があるものの,それを裏
付ける薬理試験結果や治験例の記載あるいは合理的な説明については全くない。
したがって,引用発明1と比較した有利な効果が本願明細書の記載から明確に把
握されないから,補正発明の効果は,引用例1及び2に記載された事項から予測さ
れるところを越えて優れているとはいえない。
(2)補正前発明の進歩性について
補正前発明は,補正発明において「大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配
糖体」が「イソフラボンまたはイソフラボン配糖体」,「シムノール硫酸エステル」
が「シムノールエステル」に係るものであり,補正前発明との相違点は,補正発明
との上記相違点と同じである。
したがって,補正前発明の構成要件をすべて含み,更に他の構成要件を付加した
ものに相当する補正発明が,前記のように引用例1及び2に記載された発明に基づ
いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,補正前発明も同様の
理由により,引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をす
ることができたものである。
第3原告主張の審決取消事由
1取消事由1(補正発明の進歩性判断の誤り)
(1)動機付けに関する判断の誤り
ア補正発明は,リウマチの用途を持つ成分すべてを含む健康食品ではなく,
特許請求の範囲に記載されているように,「A.大豆イソフラボンまたは大豆イソフ
ラボン配糖体,B.クルクミン,C.緑イ貝,およびD.コール酸,またはシムノ
ールまたはシムノール硫酸エステルのA,B,C,Dを含むことを特徴とする健康
食品。」の特定のA,B,C,D成分に限定された健康食品である。
しかし,引用例1には,緑イ貝はもちろん,貝を併用することについての記載や
示唆はなく,また,引用例2には,大豆イソフラボン又は大豆イソフラボン配糖体,
クルクミン,コール酸,又はシムノール又はシムノール硫酸エステルを併用するこ
とについての記載や示唆はない。
そして,リウマチに関する公知文献は,引用例1及び2に限られるものではなく,
特許庁の電子図書館のテキスト検索によれば10417件と,数多くあるので,そ
の中から引用例1及び2の成分を選択するには動機付けが必要である。
特許法29条2項の進歩性に関する審査基準においても,「論理づけは,種々の観
点,広範な観点から行うことが可能である。例えば,請求項に係る発明が,引用発
明からの最適材料の選択あるいは設計変更や単なる寄せ集めに該当するかどうか検
討したり,あるいは,引用発明の内容に動機づけとなり得るものがあるかどうかを
検討する。また,引用発明と比較した有利な効果が明細書等の記載から明確に把握
される場合には,進歩性の存在を肯定的に推認するのに役立つ事実として,これを
参酌する。その結果,論理づけができた場合は請求項に係る発明の進歩性は否定さ
れ,論理づけができない場合は進歩性は否定されない」とされており,近時の裁判
例においても,世上数限りなく存在する公知技術の中から特定の技術思想を発明と
して選択し,他の発明と組み合わせて進歩性を否定するには,その組合せについて
の示唆ないし動機付けが必要である旨が判示されている。
ところが,審決では,引用例1及び2を組み合わせる動機付けは示されておらず,
審査基準の「論理づけができない場合は進歩性は否定されない」に該当するので,
他について論ずるまでもなく補正発明に進歩性があることは明らかである。
イまた,有効成分を組み合わせるときには,2種以上の薬物の配合が薬理
学的にみて不合理であったり,あるいは物理的性状に変化を起こしたり,または化
学変化を起こして,その薬効に変化を生ずることがあり(配合禁忌の問題),食品に
おいても,すべての食品を組み合わせることができるものではなく,死に至るよう
な組み合わせもある(合食禁の問題)から,引用例1の「A.大豆イソフラボンま
たは大豆イソフラボン配糖体,B.クルクミンおよびD.コール酸,またはシムノ
ールまたはシムノール硫酸エステル」に同様の効能を有するすべての他の成分を配
合できるものではない。
したがって,衰えた筋肉の強化,リウマチなどの関節炎に対して有効な健康食品
である引用発明1に,その効能をより増大するため,同様の効能を有する他の成分
を更に添加することが強く動機付けられるということはできない。
(2)補正発明の効果についての判断の誤り
本願明細書の「発明の効果」(【0006】)に記載されているように,自己免疫疾
患,特に,関節リウマチ,花粉症に有効であり,また,緑イ貝のリウマチの痛みを
和らげる効果に加えて「A.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体,B.
クルクミンおよびD.コール酸,またはシムノールまたはシムノール硫酸エステル」
の強筋肉作用により,リウマチに対する作用が相乗効果により更に優れた効果を発
揮するなど文献からは予測できない優れた効果を得ることができたものである。
したがって,引用発明1と比較した有利な効果が本願明細書の記載から明確に把
握されないから,補正発明の効果は,引用例1及び2に記載された事項から予測さ
れるところを越えて優れているとはいえないとした審決の判断は誤りである。
2取消事由2(補正前発明の進歩性判断の誤り)
前記1と同じ理由から,補正前発明について進歩性を否定した審決の判断は誤り
である。
第4被告の反論
1取消事由1に対し
(1)ア原告の主張1(1)アに対し
引用例1には,「イソフラボン,コール酸,シムノール,クルクミンなどの併用は
脳活動の改善作用があるので併せて筋肉障害の除去が可能であり,高齢者にとって
は気力,体力共に若返りがはかれる朗報となるであろう。又,この処方はリウマチ
などの関節炎に対して著効があり,特にその予防には大きい力を発揮する。」(【00
47】),「【発明の効果】この出願発明は,辛味物質,苦味物質又は酸味物質を摂取
することにより気分を爽快にするものであり,物忘れを防ぎ,衰えた筋肉を強化し,
リウマチなどに有効な健康食品を提供することができるという優れた効果がある。」
(【0049】)と記載されており,これらによれば,引用発明1は,衰えた筋肉の
強化,リウマチなどの関節炎に対して有効な健康食品であることが明らかである。
そして,健康食品の分野において,効能をより増大するために同様の効能を有す
る食材を混合して健康食品とすることは,本願出願前の周知技術である。
また,引用例1に,「その他の成分として,健康食品一般が使用され,ビタミン類,
ヘム鉄,プルーンエキス,生薬その他が使用される。」(【0010】)と記載されて
おり,引用発明1自体において,生薬等の健康食品を,その他の成分として添加す
ることが予定されているものといえる。
よって,衰えた筋肉の強化,リウマチなどの関節炎に対して有効な健康食品であ
る引用発明1に,その効能をより増大するため,同様の効能を有する他の成分を更
に添加することは強く動機付けられる。
一方,引用例2にあるとおり,緑イ貝が,関節痛やリウマチに対して有効な健康
食品として販売されていた。
ところで,本願出願前の技術常識として,乙3~6に示すように,健康食品の原
材料として緑イ貝が使用され,特に,乙5,6に示すように,健康食品中において,
他の成分と組み合わせて緑イ貝が用いられていた。
このような技術常識を踏まえると,引用例2に記載された,関節痛やリウマチに
対して有効な健康食品である緑イ貝を,他の成分と組み合わせて健康食品となし得
ることが,当業者には明らかである。
そうすると,衰えた筋肉の強化,リウマチなどの関節炎に対して有効な健康食品
である引用発明1において,リウマチなどの関節炎に対する効能をより増大させた
健康食品とすることを意図して,同様の効能を有することが記載されている,引用
例2に示された緑イ貝を更に添加することは,当業者が容易に想到し得たことであ
る。
イ原告の主張1(1)イに対し
引用発明1に緑イ貝を組み合わせることが配合禁忌に当たるとの事実はない。
また,食品を組み合わせても,配合禁忌と称されるほどの強い弊害が生じること
は,通常あり得ないのであり,また,多種多様な食材を一緒に食べることが栄養の
吸収や体調改善等において効果が期待できることは,日常の生活習慣からも容易に
理解できる顕著な事実である。
(2)原告の主張1(2)に対し
本願明細書には,それを裏付ける薬理試験結果や治験例の記載あるいは合理的な
説明は全くない。本願明細書には,実施例1~20として,具体的な処方例が記載
されているものの,いずれの実施例も,緑イ貝粉末80mgを配合したものであっ
て,その含有量を変えた例がなく,また,各処方例について具体的に効果を確認し
たことの記載もない。したがって,衰えた筋肉の強化,リウマチなどの関節炎に対
して有効な健康食品である引用発明1において,リウマチなどの関節炎に対する効
能をより増大させた健康食品とすることを意図して,同様の効能を有することが記
載されている,引用例2に示された緑イ貝を更に添加することを想到し得る当業者
にとって,その予測するところを出る格別の効果は,何ら具体的に記載されていな
い。
よって,上記原告の主張は,明細書の記載に基づくものではなく,失当であり,
補正発明が,引用例1及び2の記載から予測できない優れた効果を奏するとはいえ
ない。
(3)したがって,審決のした補正発明に係る進歩性判断に誤りはない。
2取消事由2に対し
前記1に述べたとおり,審決のした補正発明に係る進歩性判断に誤りはないから,
同様に,補正前発明の進歩性判断にも誤りはない。
第5当裁判所の判断
1補正発明について
本願明細書(甲1,5,8)によれば,補正発明は,以下のとおりのものである。
補正発明は,新しい健康食品に関するものである(【0001】)。
中医学で補気,理気で表現されている気は,自律神経支配の機能のみを指すと古
くから指摘されているところ,これらのどの機能をどれだけ発揮させるかの指令は
脳の最下部にある延髄から発せられる。補気薬は,各臓器,器官ではなくその指令
発生源である延髄を作用点とし,延髄からの指令発信とその伝達の強化との促進に
作用する。発明者らは,補気薬が体内血液を臓器などに偏在させることを見出して
いるが,これも延髄の重要な作用の一つである血管の収縮,拡張の作用が働いて自
律神経支配系に向う血管を拡張し,脳や脳支配系器官に向う血管を収縮することに
よって達成し,補気薬の副次的な作用として必要な部分により多くの養分を送るこ
とを目指したものである。
発明者らは,これまで,コール酸,イソフラボン及び/又はイソフラボン配糖体
を含む栄養剤,消化器剤,健康食品(特開2002-205998,特開2002
-204672,中国特許第ZL01123150.5号,米国特許第6,793,
943号,欧州特許第1198994号),シムノール及び/又はシムノールエステ
ル,イソフラボン及び/又はイソフラボン配糖体を含む栄養剤,消化器剤,健康食
品(特開2002-255823,特開2002-253169,中国特許第ZL
01123149.1号),イソフラボン及び/又はイソフラボン配糖体と,辛味物
質,苦味物質又は酸味物質,特に,クルクミン及びコール酸,及び/又はシムノー
ル及び/又はシムノールエステルを含む栄養剤,消化器剤,健康食品(特開200
4-123671,特開2003-245054(裁判所注:甲2),中国特許第Z
L02128298.6号,中国特許第ZL02157491.X号,欧州特許第
1281324号,中国特許第ZL02157443.X)などを開発してきたが,
緑イ貝を加えることにより,更に自己免疫疾患に対して極めて優れた効果があるこ
とを見出した(以上【0002】)。
そこで,補正発明は,自己免疫疾患,特に,関節リウマチ,花粉症に極めて優れ
た効果をもつ健康食品を提供することを目的とし,大豆イソフラボン及び/又はイ
ソフラボン配糖体と,辛味物質であるクルクミン,苦味物質又は酸味物質と,緑イ
貝,及びコール酸,及び/又はシムノール及び/又はシムノール硫酸エステルを含
むことを特徴とする健康食品との構成を採ったことにより,これらの相乗作用によ
り,自己免疫疾患,特に,関節リウマチ,花粉症をより早く治療,予防できる健康
食品を提供できるとの効果を奏するものである(【0004】~【0006】,請求
項1)。
2引用発明1について
引用例1(甲2)によれば,引用発明1につき,以下のとおり認められる。
引用例1の特許請求の範囲に記載された特許発明(以下「引用特許発明」という。)
は,新しい健康食品に関するものである(【0001】)。
中医学で補気,理気で表現されている気は,自律神経支配の機能のみを指すと古
くから指摘されているところ,これらのどの機能をどれだけ発揮させるかの指令は
脳の最下部にある延髄から発せられる。補気薬は,各臓器,器官ではなくその指令
発生源である延髄を作用点とし,延髄からの指令発信とその伝達の強化との促進に
作用する。発明者らは,補気薬が体内血液を臓器などに偏在させることを見出して
いるが,これも延髄の重要な作用の一つである血管の収縮,拡張の作用が働いて自
律神経支配系に向う血管を拡張し,脳や脳支配系器官に向う血管を収縮することに
よって達成し,補気薬の副次的な作用として必要な部分により多くの養分を送るこ
とを目指したものである(【0002】)。
近年,うつ病発症が増加しているが,この原因は,人体が危険に対して身構え体
力を充実する必要もほとんどなくなったために,生体アミン分泌の必要も極度に減
り,その分泌能が退化したためであるとの説があり,これによると,生体アミン分
泌能の低下したうつ病患者も生体モノアミン分泌能を回復し,うつ病を回復する可
能性が生じる。また,年齢を重ねるに従って,脱肛や脚,腰,腕の痛みが発生する
が,これらは,局所における血行障害又はその結果発生する炎症によるのみではな
く,その原因は,脳指令の局所への伝達の不十分によるものであり,血行障害や炎
症発生は脳指令の不完全伝達によって筋肉が正常な動きができないために発生した
トラブルである。発明者らは,特に加齢と共に発生する腰痛,手足の痛みなどの筋
肉障害が,クルクミンなどの辛味物質による脳指令伝達の改善によって容易に除去
されることを見出した。
引用特許発明は,この新しい医学理論を基に医薬品の開発を行い,強筋肉作用,
抗炎症作用をもつ極めて有効な医薬品を提供することを目的とし,辛味物質,苦味
物質又は酸味物質,特に,食品の辛味物質,苦味物質又は酸味物質を含む健康食品
としたもので,辛味物質,苦味物質又は酸味物質を摂取することにより,気分を爽
快にし,物忘れを防ぎ,衰えた筋肉を強化し,リウマチなどに有効な健康食品を提
供することができるという優れた効果がある。(以上【0003】~【0005】,
【0049】)
引用発明1は,上記引用特許発明の実施例であるところ,その成分として「B.
クルクミン,D.コール酸,及び/又は,シムノール及び/又はシムノールエステ
ル硫酸エステルナトリウム塩,並びにA.大豆イソフラボン及び/又は大豆イソフ
ラボン配糖体」(符号は審決に倣って当裁判所において付した。)を含む健康食品で
あり(【0018】),イソフラボン,コール酸,シムノール,クルクミンなどの併用
は脳活動の改善作用があるので,併せて筋肉障害の除去が可能であり,高齢者にと
っては気力,体力ともに若返りが図れ,リウマチなどの関節炎に対して著効があり,
特にその予防には大きい力を発揮するというものである(【0047】)。
3引用例2の記載事項
引用例2(甲3)には,以下の記載がある。
「緑イ貝(ペルナーカナルキヨラス)はニュージーランド沿岸に生息する二枚貝
で,貝殻の周縁部が美しい緑色を帯びるところからこの名称がある。この貝は関節
痛に有効であるとの伝承があり,ニュージーランド原住民や漁民に,活力食として
古くから食用されていた。上記した薬理効果についてはアメリカの医学者によって
も確認され,現在この貝の体部を乾燥し,粉末とした健康食品が関節痛,リューマ
チの特効食品としてニュージーランド,オーストラリヤ,ヨーロッパ等で販売され
ており,イギリスの病院における臨床試験の結果,その有効性が専門学術誌上に発
表されている。」(1頁左下欄17行~右下欄9行)
4取消事由1(補正発明の進歩性判断の誤り)について
(1)ア前記2のとおり,引用発明1は,強筋肉作用,抗炎症作用を持つ極めて
有効な医薬品を提供することを目的とし,健康食品に,辛味物質,苦味物質又は酸
味物質を含むこととしたもので,引用発明1の各成分の併用により,脳活動の改善
作用があるので併せて筋肉障害の除去が可能であり,高齢者にとっては気力,体力
ともに若返りが図れ,リウマチなどの関節炎の治療及び予防に対して有効であると
いうものである。
そして,引用例1には,【0006】にあるように,他の漢方製剤又は漢方薬と併
用することが想定され,「・・・その他の成分として,健康食品一般が使用され,ビ
タミン類,ヘム鉄,プルーンエキス,生薬その他が使用される。生薬としては扶正
の効果を有するもの,例えば,自律神経に支配される器官,腺,血管の機能を賦活
するもの,消化を助けるものが好ましい。」(【0010】),「自律神経に支配される
器官,腺,血管の機能を賦活する生薬は十種以上が知られており,例えば,ニンジ
ンその他があるが,ニンジンをはじめこれらの生薬の幾つかの有効成分は既に明ら
かにされている。したがって,これらの有効成分を加えることが好ましい。これら
の有効成分をさらに加えることにより,人体機能賦活作用を発揮することができ
る。・・・」(【0011】)とされ,他の有効成分を加えることが好ましい旨の記載
もある。
ところで,他の有効成分の添加に関し,乙1(特公平2-276546)には,
ガンの予防,肝臓の解毒機能の促進,腎機能の調節等に機能的効果のある納豆と,
ガンの予防,胃液・胆汁の分泌促進,肝臓の解毒作用に機能的効果のあるウコンを
混合して用いたこと(「発明の効果」)が記載され,また,乙2(特開平11-18
9539)には,それぞれ肝機能改善効果があるとされる田七人参,マリアアザミ,
ウコン等の3剤を混合することにより,顕著な肝血流増加作用と胆汁分泌促進作用
を有し,2剤混合の場合よりも,効果が相乗的に増大すること(【0002】,【00
04】)が記載されるなど,健康食品の分野において,効能をより増大させるために,
同じ効能を有する食材を混合することは,本願出願前の周知の技術であると認めら
れる。
イそして,引用例2には,前記3のとおり,緑イ貝が関節痛に有効である
として,古くから食用されていたものであり,緑イ貝を粉末とした健康食品が関節
痛,リウマチの特効食品として販売され,有効性が専門学術誌上で発表されている
旨が記載されている。また,乙3~6にあるとおり,この緑イ貝を粉末又はエキス
の形で健康食品として,他の健康食品と混合摂取することは,技術常識である。
ウそうすると,当業者が,引用発明1の成分に加えて「その他成分」とし
て,効能をより増大するために引用発明1が有する効能と同様の効能を有する成分
を選択して添加することとし,リウマチ等の関節炎に対して効能のある引用発明1
の成分に加えて,引用例2に記載のリウマチ等の関節痛に効能のある成分である緑
イ貝を選択することは,当業者が容易になし得る程度のことであり,格別の創意工
夫を要しない。
したがって,補正発明が,引用発明1及び引用例2に記載の事項により,容易に
想到し得たものであるとした審決の判断に誤りはない。
(2)原告の主張について
ア原告は,引用例1と引用例2がともにリウマチを効能とするものである
としても,リウマチを効能とする食品は複数あるから,その中から引用例2の「緑
イ貝」を選択することは動機付けられないと主張する。
しかし,上記のとおり,健康食品の分野において,効能をより増大させるために,
同じ効能を有する食材を混合することは,本願出願前の周知の技術であり,引用例
1においても,引用特許発明の請求項記載の成分に,他の有効成分と組み合わせる
ことが記載され,緑イ貝を粉末又はエキスの形で健康食品として,他の健康食品と
混合摂取することは,技術常識であったことに照らすと,緑イ貝を複数の選択肢の
中から選択することは,当業者が任意になし得ることである。
なお,原告は,補正発明は,リウマチの用途を持つ成分すべてを含む健康食品で
はなく,特許請求の範囲に記載されているように,補正後の請求項1に記載の特定
のA,B,C,D成分に限定されている健康食品であることを前提として主張する。
しかし,補正発明は,特定のA,B,C,D成分のみによって構成されることに
限定されるものではなく,本願明細書に「その他の成分として,ビタミン類,抗生
物質,抗ガン剤,ヘム鉄,プルーンエキス,生薬が使用される。生薬としては,扶
正の効果を有するもの,例えば,自律神経に支配される器官,腺,血管の機能を賦
活するもの,消化を助けるものが好ましい。」(【0014】),「自律神経に支配され
る器官,腺,血管の機能を賦活する生薬は十種以上が知られており,例えば,アキ
ョウ,ニンジンその他があるが,ニンジンをはじめこれらの生薬の幾つかの有効成
分は既に明らかにされている。したがって,これらの有効成分を加えることが好ま
しい。これらの有効成分をさらに加えることにより,人体機能賦活作用を発揮する
ことができる。・・・」(【0015】)とあるように,補正発明においても,その他
の成分を添加することが記載されているのであって,原告の上記主張は,その前提
において誤りがある。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
イまた,原告は,有効成分を組み合わせるときには,配合禁忌ないし合食
禁の問題があるから,引用例1の成分に,同様の効能を有するすべての他の成分を
配合できるものではないことを理由に,緑イ貝を選択することは動機付けられるこ
とはないと主張する。
しかし,健康食品に複数の材料,成分を混合して摂取することは技術常識であり
(甲1,2,乙2,5,6等),緑イ貝が健康食品として他の食品とともに摂取され
ることも技術常識であったことからすれば,引用例1に接した当業者が,緑イ貝を
加えた場合に,各有効成分の作用が阻害されたり,重篤な副作用が出たりといった
配合禁忌の問題が生じると考えるとはいえず,引用発明1に緑イ貝を添加する動機
付けを阻害するものとはいえない。原告の主張は,化学物資の配合における抽象的
危険性を,市販されるような通常の健康食品の併用にあてはめようとするものであ
り,失当といえる。
したがって,原告の主張は採用できない。
ウ原告は,自己免疫疾患,特に,関節リウマチ,花粉症に有効であり,ま
た,緑イ貝のリウマチの痛みを和らげる効果に加えて「A.大豆イソフラボンまた
は大豆イソフラボン配糖体,B.クルクミンおよびD.コール酸,またはシムノー
ルまたはシムノール硫酸エステル」の強筋肉作用により,リウマチに対する作用が
相乗効果により更に優れた効果を発揮するなど文献からは予測できない優れた効果
を得ることができたのであるから,補正発明は進歩性を有すると主張する。
本願明細書には,効果として,「この出願発明は,イソフラボンおよび/またはイ
ソフラボン配糖体と,辛味物質,苦味物質又は酸味物質と,緑イ貝,およびコール
酸,および/またはシムノールおよび/またはシムノールエステルを摂取すること
によりそれらの相乗作用により,自己免疫疾患,とくに,関節リウマチ,花粉症を
より早く治療,予防できる健康食品を提供することができるという優れた効果があ
る。とくに,イソフラボンおよび/またはイソフラボン配糖体と,辛味物質,苦味
物質又は酸味物質と,少量の緑イ貝,およびコール酸,および/またはシムノール
および/またはシムノールエステルを摂取することによりそれらの相乗作用により,
自己免疫疾患,とくに,関節リウマチ,花粉症をより早く治療,予防できる健康食
品を提供することができるという優れた効果がある。」(【0006】),「この出願発
明は,イソフラボンおよび/またはイソフラボン配糖体と,辛味物質,苦味物質又
は酸味物質と,緑イ貝,およびコール酸,および/またはシムノールおよび/また
はシムノールエステルを含む自己免疫疾患,とくに,関節リウマチ,花粉症に優れ
た効果を発揮する健康食品を提供する。」(【0044】)と記載されているが,実施
例1~20においても,「A.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体,B.
クルクミンおよびD.コール酸,またはシムノールまたはシムノール硫酸エステル」
に緑イ貝を添加しない対照実験は行われておらず,緑イ貝の分量によって効果に差
異が生じたとの実験結果も示されていない。
しかも,「A.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体,B.クルクミン
およびD.コール酸,またはシムノールまたはシムノール硫酸エステル」を含む引
用発明1に関する引用例1に「強筋肉作用,抗炎症作用」,「衰えた筋肉を強化し,
リウマチなどに有効」,「リウマチなどの関節炎に対して著効」である旨記載されて
いること,緑イ貝の乾燥粉末に関する引用例2には,緑イ貝が関節痛に有効であり,
関節痛,リウマチの特効食品とされている旨記載されていること,上記のとおり,
健康食品の分野において,効能をより増大させるために,同じ効能を有する食材を
混合することは,本願出願前の周知の技術であったことからすれば,上記【000
6】,【0044】に記載された効果は,当業者が予測し得る範囲のものといえる。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
5取消事由2(補正前発明の進歩性判断の誤り)について
補正前発明を減縮することにより更に限定を加えた補正発明について,前記のと
おり,補正発明と引用発明1の相違点に係る構成は,当業者が容易に想到し得たも
のであるから,同様に,補正前発明は,当業者が容易に想到し得たものである。
したがって,その旨判断した審決に誤りはない。
第6結論
以上によれば,原告主張の取消事由にはいずれも理由がないから,原告の請求を
棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
清水節
裁判官
中村恭
裁判官
中武由紀

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