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平成28年3月29日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成26年(ワ)第14006号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成27年12月24日
判決
原告ヒロセ電機株式会社
同訴訟代理人弁護士田中伸一郎
同高石秀樹
同松野仁彦
同訴訟代理人弁理士須田洋之
同補佐人弁理士豊島匠二
被告日本圧着端子製造株式会社
同訴訟代理人弁護士加藤真朗
同太井徹
同池田聡
同吉田真也
同佐野千誉
主文
1被告は,別紙物件目録記載の製品を製造し,販売し,若しくは輸出
し,輸入し,又は販売の申出をしてはならない。
2被告は,原告に対し,3185万2238円及びうち883万54
31円に対する平成26年6月27日から,うち2301万6807
円に対する平成27年9月1日から,それぞれ支払済みまで年5分の
割合による金員を支払え。
3原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用は,これを6分し,その1を原告の,その余を被告の,各
負担とする。
5この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1主文第1項同旨
2被告は,別紙物件目録記載の製品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,4875万円及びうち1800万円に対する平成26
年6月27日から,うち3075万円に対する平成27年9月1日から,それ
ぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,発明の名称を「電気コネクタ組立体」とする特許権2件を有する原
告が,被告によるLEHコネクタの製造・販売行為が上記特許権2件を侵害す
る旨主張して,被告に対し,特許法100条による差止請求権に基づき,上記
製品の製造・販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに,特許権侵害(不法行
為)による損害賠償請求権に基づき,損害賠償金4875万円(上記特許権2
件の登録日である平成25年9月13日から平成27年8月31日までの間に
発生した損害額)及びうち1800万円(平成26年5月13日までの損害
額)に対する不法行為後である平成26年6月27日(訴状送達日)から,う
ち3075万円(同年5月14日以降の損害額)に対する不法行為後である平
成27年9月1日から,それぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による
遅延損害金の支払を求める事案である。
1前提事実(証拠を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)
(1)当事者
ア原告は,各種電気機械器具の製造及び販売を行う株式会社である。
イ被告は,電気,電子接続部品の製造,販売及び輸出入を行う株式会社で
ある。
(2)原告の特許権
ア原告は,次の特許(以下「本件特許1」という。)に係る特許権(以下
「本件特許権1」という。)を有する。
(ア)発明の名称「電気コネクタ組立体」
(イ)出願日平成25年4月9日
(ウ)優先権主張日平成21年4月16日
(エ)優先権主張番号特願2009-99978号
(オ)登録日平成25年9月13日
(カ)登録番号特許第5362136号
イ被告が,本件特許1につき,平成26年1月22日付けで無効審判請求
をしたところ,原告は,平成27年2月25日付けで訂正請求をし,同年
6月1日付けでその補正をした。特許庁は,同年7月10日付けで,上記
訂正を認めるものの,同特許の請求項1記載の発明に係る特許を無効とす
る旨の審決(甲17,乙18)をしたため,原告が知的財産高等裁判所に
同審決の取消訴訟を提起した。
ウ本件特許1の請求項1(以下,同請求項に係る発明を「本件特許発明
1」という。)の記載は,以下のとおりである。なお,下線部は上記訂正
部分である。
「ハウジングの周面に形成された嵌合面で互いに嵌合接続されるケーブル
コネクタとレセプタクルコネクタとを有し,嵌合面が側壁面とこれに直
角をなし前方に位置する端壁面とで形成されており,ケーブルコネクタ
が後方に位置する端壁面をケーブルの延出側としている電気コネクタ組
立体において,ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタの一方が,平
坦面部分を有する突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向
に離間しているロック突部を側壁面に有し,他方が前後方向で該ロック
突部に対応する位置で溝部前縁と溝部後縁が形成されたロック溝部を側
壁面に有し,該ロック溝部には溝部前縁または溝部後縁から溝内方へ突
出する突出部が設けられており,ケーブルコネクタは,前方の端壁面に
寄った位置で側壁に係止部が設けられ,レセプタクルコネクタは,前後
方向で上記係止部と対応する位置でコネクタ嵌合状態にて該係止部と係
止可能な被係止部が側壁に設けられており,上記ロック突部が嵌合方向
で上記ロック溝部内に進入してケーブルコネクタが該ケーブルコネクタ
の前端側が持ち上がった上向き傾斜姿勢から嵌合終了の姿勢となったコ
ネクタ嵌合状態では,上記姿勢の変化に応じて上記突出部に対する上記
ロック突部の位置が変化することにより,該ケーブルコネクタが後端側
を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,上記ロック突部
が上記抜出方向で上記突出部と当接して該ケーブルコネクタの抜出を阻
止するようになっており,該ケーブルコネクタの前端部には前方へ突出
する持上げ部が設けられていて,上記コネクタ嵌合状態で該持上げ部を
抜出方向に持ち上げることにより,上記係止部と上記被係止部との係止
可能な状態が解除されるとともに,上記ロック突部と上記突出部との上
記当接可能な状態が解除されて,上記ケーブルコネクタの抜出が可能と
なることを特徴とする電気コネクタ組立体。」
エ原告は,次の特許(以下「本件特許2」といい,本件特許1と併せて
「本件各特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権2」とい
う。)を有する。
(ア)発明の名称「電気コネクタ組立体」
(イ)出願日平成25年7月25日
(ウ)優先権主張日平成21年4月16日
(エ)優先権主張番号特願2009-99978号
(オ)登録日平成25年9月13日
(カ)登録番号特許第5362931号
オ被告が,本件特許2の請求項3ないし5記載の発明に係る特許について,
平成26年1月22日付けで無効審判請求をしたところ,原告は,同年4
月18日付けで訂正請求をした。特許庁は,同年9月26日付けで,上記
訂正を認め,同審判請求は成り立たない旨の審決(甲8)をしたため,被
告が知的財産高等裁判所に同審決の取消訴訟を提起したが,同裁判所は,
平成27年5月12日,その請求を棄却する旨の判決(甲12)をし,同
判決は確定した。
カ本件特許2の請求項3(以下,同請求項に係る発明を「本件特許発明
2」といい,本件特許発明1と併せて「本件各特許発明」という。)の記
載は,以下のとおりである。なお,下線部は上記訂正部分である。
「ハウジングの周面に形成された嵌合面で互いに嵌合接続されるケーブル
コネクタとレセプタクルコネクタとを有し,嵌合面が側壁面とこれに直
角をなし前方に位置する端壁面とで形成されており,ケーブルコネクタ
が後方に位置する端壁面をケーブルの延出側としている電気コネクタ組
立体において,ケーブルコネクタは,突部前縁と突部後縁が形成された
ロック突部を側壁面に有し,レセプタクルコネクタは,前後方向で該ロ
ック突部に対応する位置で溝部前縁と溝部後縁が形成されたロック溝部
を側壁面に有し,該ロック溝部には溝部後縁から溝内方へ突出する突出
部が設けられており,ケーブルコネクタは,前方の端壁面に寄った位置
で側壁に係止部が設けられ,レセプタクルコネクタは,前後方向で上記
係止部と対応する位置でコネクタ嵌合状態にて該係止部と係止可能な被
係止部が側壁に設けられており,コネクタ嵌合過程にて上記ケーブルコ
ネクタの前端がもち上がって該ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあ
るとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が,上記ケーブルコネ
クタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に位置し,上記
ロック突部が上記ロック溝部内に進入して所定位置に達した後に上記上
向き傾斜姿勢が解除されて上記ケーブルコネクタが上記コネクタ嵌合終
了姿勢となったとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が上記突
出部の最前方位置よりも後方に位置し,該ケーブルコネクタが後端側を
持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,上記ロック突部が
上記抜出方向で上記突出部と当接して,上記ケーブルコネクタの抜出が
阻止されるようになっていることを特徴とする電気コネクタ組立体。」
キ原告による本件特許1の出願は,特願2012-43761(特許第5
247904号,以下「子出願」という。)(乙1)の分割出願であり,
子出願は,特願2010-11225(特許第4972174号,以下
「親出願」という。)(乙2)の分割出願である。
また,本件特許2の出願は本件特許1の出願(特願2013-8108
0)の分割出願である。
(3)本件各特許発明の構成要件
ア本件特許発明1の構成要件
本件特許発明1を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分
説した構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件A1」などという。)。
A1ハウジングの周面に形成された嵌合面で互いに嵌合接続されるケー
ブルコネクタとレセプタクルコネクタとを有し,
A2嵌合面が側壁面とこれに直角をなし前方に位置する端壁面とで形成
されており,ケーブルコネクタが後方に位置する端壁面をケーブルの
延出側としている電気コネクタ組立体において,
Bケーブルコネクタとレセプタクルコネクタの一方が,平坦面部分を有
する突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間してい
るロック突部を側壁面に有し,
C1他方が前後方向で該ロック突部に対応する位置で溝部前縁と溝部後
縁が形成されたロック溝部を側壁面に有し,
C2該ロック溝部には溝部前縁または溝部後縁から溝内方へ突出する突
出部が設けられており,
Dケーブルコネクタは,前方の端壁面に寄った位置で側壁に係止部が設
けられ,レセプタクルコネクタは,前後方向で上記係止部と対応する
位置でコネクタ嵌合状態にて該係止部と係止可能な被係止部が側壁に
設けられており,
E上記ロック突部が嵌合方向で上記ロック溝部内に進入してケーブルコ
ネクタが該ケーブルコネクタの前端側が持ち上がった上向き傾斜姿勢
から嵌合終了の姿勢となったコネクタ嵌合状態では,上記姿勢の変化
に応じて上記突出部に対する上記ロック突部の位置が変化することに
より,該ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動
されようとしたとき,上記ロック突部が上記抜出方向で上記突出部と
当接して該ケーブルコネクタの抜出を阻止するようになっており,
F該ケーブルコネクタの前端部には前方へ突出する持上げ部が設けられ
ていて,
G上記コネクタ嵌合状態で該持上げ部を抜出方向に持ち上げることによ
り,上記係止部と上記被係止部との係止可能な状態が解除されるとと
もに,上記ロック突部と上記突出部との上記当接可能な状態が解除さ
れて,上記ケーブルコネクタの抜出が可能となることを特徴とする
H電気コネクタ組立体。
イ本件特許発明2の構成要件
本件特許発明2を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分
説した構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件a1」などという。)。
a1ハウジングの周面に形成された嵌合面で互いに嵌合接続されるケー
ブルコネクタとレセプタクルコネクタとを有し,
a2嵌合面が側壁面とこれに直角をなし前方に位置する端壁面とで形成
されており,ケーブルコネクタが後方に位置する端壁面をケーブルの延
出側としている電気コネクタ組立体において,
bケーブルコネクタは,突部前縁と突部後縁が形成されたロック突部を
側壁面に有し,
c1レセプタクルコネクタは,前後方向で該ロック突部に対応する位置
で溝部前縁と溝部後縁が形成されたロック溝部を側壁面に有し,
c2該ロック溝部には溝部後縁から溝内方へ突出する突出部が設けられ
ており,
dケーブルコネクタは,前方の端壁面に寄った位置で側壁に係止部が設
けられ,レセプタクルコネクタは,前後方向で上記係止部と対応する位
置でコネクタ嵌合状態にて該係止部と係止可能な被係止部が側壁に設け
られており,
eコネクタ嵌合過程にて上記ケーブルコネクタの前端がもち上がって該
ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき,上記ロック突部の突部
後縁の最後方位置が,上記ケーブルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢に
あるときと比較して前方に位置し,
f上記ロック突部が上記ロック溝部内に進入して所定位置に達した後に
上記上向き傾斜姿勢が解除されて上記ケーブルコネクタが上記コネクタ
嵌合終了姿勢となったとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が
上記突出部の最前方位置よりも後方に位置し,
g該ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されよ
うとしたとき,上記ロック突部が上記抜出方向で上記突出部と当接して,
上記ケーブルコネクタの抜出が阻止されるようになっていることを特徴
とする
h電気コネクタ組立体。
(4)被告の行為
被告は,業として,遅くとも平成25年9月13日以降,別紙物件目録記
載の製品(以下「被告製品」という。)を製造・販売している。
2争点
(1)被告製品は本件各特許発明の技術的範囲に属するか
なお,被告製品が,本件特許発明1の構成要件A1,A2,F,Hを充足
すること,本件特許発明2の構成要件a1,a2,hを充足することについ
ては,争いがない。
また,被告製品には,別紙物件目録記載のとおり,部品の組合せにより2
類型存在するが,構成要件充足性に関する両当事者の主張は,いずれの類型
についても妥当するものである。
(2)本件各特許は特許無効審判により無効にされるべきものか
(3)原告の損害額
(4)差止め及び廃棄の必要性
3争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(被告製品は本件各特許発明の技術的範囲に属するか)について
ア原告の主張
(ア)本件特許発明1について
a被告製品のケーブル側コネクタ10は,側壁面20に,「後方突部
21」を有し,この「後方突部21」においては,別紙1(訴状添付
の被告製品説明書)の図面から明らかに,平坦面部分を有する「後方
突部前縁21A」と平坦面部分を有する「後方突部後縁21B」とが,
後方突部21の上面及び下面を介して前後方向に離間しているので,
被告製品は,訂正後の構成要件Bを充足する。
なお,被告は,構成要件Bなどの「ロック突部」及び構成要件C1
などの「ロック溝部」について,「ロック溝部前縁(突出部を有する
場合はこれを含む)の最後方位置と溝部後縁(突出部を有する場合は
これを含む)の最前方位置との前後方向における距離」(以下「ロッ
ク溝部の前後方向距離」という。)が,「水平姿勢(嵌合終了姿勢)
にあるときのケーブルコネクタのロック突部の突部前縁の最前方位置
と突部後縁の最後方位置との前後方向における距離」(以下「ロック
突部の前後方向距離」という。)よりも大きく設定されている場合を
含まないと主張する(以下,被告が主張する上記規律を「ロック突部
とロック溝部の寸法に関する規律」ともいう。)。
しかし,被告の上記主張は,特許請求の範囲の文言を離れて発明の
構成を限定するものであり,およそ理由がない。
b被告製品の基板側コネクタ50は,被告製品のケーブル側コネクタ
10の「後方突部21」に対応する位置で「前縁57A」と「後縁5
7B」が形成された「後方溝部57」を有している。そして,被告製
品の「後方溝部57」には,溝内方へ突出する「突出部59」が設け
られているから,被告製品は構成要件C1及びC2を充足する。
なお,前記a同様,構成要件C1の「ロック突部」並びに構成要件
C1及びC2の「ロック溝部」について被告が主張するような限定解
釈は理由がない。
c被告製品のケーブル側コネクタ10には,「前方の端壁面15」に
寄った位置に「側壁面20」に「前方突部22」が,基板側コネクタ
50には,前記「前方突部22」と対応する位置で,コネクタを嵌合
したとき同突部と係止する「前方溝部60」が側壁53に設けられて
いる(判決注:原告は,訴状段階では「切れ込み部60」と主張して
いたが,その後「前方溝部60」と表現を改めており,本判決では
「前方溝部60」と統一する。)。
そして,被告製品におけるケーブル側コネクタ10の側壁面20に
設けられた「前方突部22」は本件特許発明1の「係止部」に,基板
側コネクタ50の側壁53に設けられた「前方溝部60」は本件特許
発明1の「被係止部」にそれぞれ相当することから,被告製品は構成
要件Dを充足する。
なお,特許請求の範囲の記載において,「被係止部」については
「コネクタ嵌合状態にて該係止部と係止可能」と規定するのみであり,
「ケーブルコネクタの前方への移動を妨げる」というような限定はな
い。
そして,被告製品においては,ケーブル側コネクタ10と基板側コ
ネクタ50とを嵌合すると,前者の「前方突部22」が後者の「前方
溝部60」に進入する。そうすると,「前方溝部60」の「前方溝部
突出部63」は,「前方突部22」の一辺の上にあり,両者の「係
止」により「前方突部22」が上方に抜出することを防止し,ケーブ
ル側コネクタ10が上方に抜出することが阻止される。
したがって,「前方突部22」と係止可能な「前方溝部60」が
「被係止部」に相当することは明白である。
なお,「対応する位置で」との文言につき,嵌合前に前後方向にず
れが存在することを許さないとの限定解釈をする根拠はない。
d被告製品は,「後方突部21」が嵌合方向で「後方溝部57」内に
進入してケーブル側コネクタ10が該ケーブル側コネクタ10の前端
側が持ち上がった上向き傾斜姿勢から嵌合終了の姿勢となったコネク
タ嵌合状態では,該ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出
方向に移動されようとしたとき,ケーブルコネクタの前端側が持ち上
がった上向き傾斜姿勢から嵌合終了の姿勢となる姿勢の変化により,
「後方突部21」が,ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられる抜
出方向で,後方溝部57の突出部を構成する平らな面と当接して該ケ
ーブルコネクタの抜出を阻止するから,訂正後の構成要件Eを充足す
る。
なお,同構成要件は,ケーブルコネクタの前端側が持ち上がった
「上向き傾斜姿勢」から「嵌合終了の姿勢」への姿勢の変化に応じて
突出部に対するロック突部の位置が変化することを規定するものであ
って,ケーブルコネクタの姿勢が時々刻々変化するにつれて,突出部
に対するロック突部の位置が時々刻々変化することを規定するもので
はない。また,同構成要件は,回転運動のみによって姿勢を変化する
と限定されているものでもない。
このほか,前記a同様,構成要件Eの「ロック突部」について被告
が主張するような限定解釈は理由がない。
e被告製品は,コネクタ嵌合状態でケーブル側コネクタ10の「持上
げ片19」を上方向に持ち上げると,ケーブル側コネクタ10の「前
方突部22」と基板側コネクタ50の「前方溝部60」との係止がは
ずれ,ケーブル側コネクタ10の「後方突部21」と(基板側コネク
タ50の)「突出部59」とが当接しなくなるので,ケーブル側コネ
クタ10の(上方向への)抜出が可能となる。
この点は,別紙1ないし別紙2(被告第1準備書面添付の被告製品
説明図)の[図5]において,嵌合終了姿勢(嵌合状態)である
(C)の状態から(B)の状態に遷移する過程からも明らかである。
したがって,被告製品は構成要件Gを充足する。
(イ)本件特許発明2について
a前記(ア)a同様に,被告製品は構成要件bを充足する。構成要件b
の「ロック突部」に関しても,前記(ア)a同様の議論が妥当する。
b前記(ア)b同様,被告製品は構成要件c1及びc2を充足する。構
成要件c1の「ロック突部」並びに構成要件c1及びc2の「ロック
溝部」についても,前記(ア)b同様の議論が妥当する。
c前記(ア)c同様,被告製品は構成要件dを充足する。
d(a)被告製品においては,コネクタを嵌合させる途中のケーブル側
コネクタ10の前端が持ち上がって同コネクタ10が上向き傾斜姿
勢にあるときの「後方突部後縁21B」の最後方位置は,コネクタ
が完全に嵌合したときと比較して前方に位置しているから,被告製
品は構成要件eを充足する。
構成要件eについても,被告製品が「ロック突部」を備えていな
いことを前提とする被告の主張は理由がない。
⒝なお,構成要件eとfは互いに関連したものであって,構成要件
eは「ロック突部の突部後縁の最後方位置」が「ケーブルコネクタ
が上向き傾斜姿勢にあるとき」にはロック溝部の溝部後縁から溝内
方に突出する突出部の最前方位置よりも前方に位置することを意味
するものである。
そして,本件特許発明2の「コネクタ嵌合過程」とは,ケーブル
コネクタのロック突部をレセプタクルコネクタのロック溝部に挿入
し,まだ回動動作をしていない状態を意味するところ,被告製品は,
別紙2の図5(B)において,後方突部後縁21Bは突出部59の
最前方位置よりも後方にまだ進入しておらず,図5(C)では,後
方突部の後縁21Bは突出部59の最前方位置よりも後方に進入し
ている。
⒞被告製品においては,相手コネクタ(のロック突部)が後方に平
行移動するものではなく,ロック突部が回転しながら,ロック突部
の最後方位置が突出部に対して位置変化を生ずるものである。
e被告製品においては,ケーブル側コネクタ10の「後方突部21」
が基板側コネクタ50の「後方溝部57」の中に入り,その下方位置
に達した後にケーブル側コネクタ10は上向き傾斜姿勢ではなくなり,
コネクタは完全に嵌合すると,ケーブル側コネクタ10の「後方突部
21」の「後縁21B」の最後方位置は,基板側コネクタ50の「突
出部59」の最前方位置よりも後方に位置している。したがって,被
告製品は構成要件fを充足する。
構成要件fについても,被告製品が「ロック突部」を備えていない
ことを前提とする被告の主張は理由がない。
f被告製品は,ケーブル側コネクタ10が後端側を持ち上げられて上
方向に移動されようとしたとき,ケーブル側コネクタ10の「後方突
部21」が上方向で(基板側コネクタ50の)「突出部59」と当接
して,ケーブル側コネクタ10の抜出ができない。したがって,被告
製品は構成要件gを充足する。
構成要件gについても,被告製品が「ロック突部」を備えていない
ことを前提とする被告の主張は理由がない。
イ被告の主張
(ア)本件特許発明1について
a本件特許発明1における「ロック突部」及び「ロック溝部」は,ロ
ック突部の前後方向距離が,ロック溝部の前後方向距離よりも大きい
ものを意味すると解すべきであり,このように解さなければ,本件特
許1は,実施可能要件違反,サポート要件違反,分割要件違反による
新規性欠如等により,無効とされるべきである。
そして,被告製品における後方突部21は,水平姿勢(嵌合終了姿
勢)にあるときのケーブル側コネクタ10の後方突部前縁21Aの最
前方位置と後方突部後縁21Bの最後方位置との前後方向距離(a)
が,後方溝部57の後方溝部前縁57Aの最後方位置と後方溝部後縁
57Bの最前方位置との前後方向距離(b)よりも小さくなっている
(a<b)。
したがって,被告製品は,本件特許発明1における「ロック突部」
及び「ロック溝部」を備えておらず,構成要件B,C1及びC2を充
足しない。
b本件特許発明1の「係止」とは,少なくともケーブルコネクタとレ
セプタクルコネクタを止める作用を意味するから,被告製品における
「被係止部」は,「ケーブルコネクタの前方への移動を妨げる」もの
である必要があるところ,被告製品における「被係止部」としての作
用を行う構成は,前方溝部突出部63及び前端壁54の内面となるか
ら,被告製品は本件特許発明1における「被係止部」の構成を備えて
おらず,構成要件Dを充足しない。
このほか,被告製品における前方溝部60は,前後方向で前方突部
22と対応する位置に存在せず,前方溝部60と前方突部22の位置
には前後方向にずれが存在し,また,水平姿勢において「前方突部2
2」と「前方溝部突出部63」及び「基板側コネクタ50の前端壁5
4の内面」は,いずれも前後方向で位置がずれており,「対応する位
置」でないから,被告製品は,この点においても構成要件Dを充足し
ない。
c前記aのとおり,被告製品は,本件特許発明1における「ロック突
部」及び「ロック溝部」の構成を備えておらず,構成要件Eを充足し
ない。
また,本件特許発明1は,本件特許発明2と同様,「ケーブルコネ
クタの回転のみによって,すなわち,ケーブルコネクタとレセプタク
ルコネクタ間のスライドなどによる相対位置の変位なしに,ロック突
部の最後方位置が突出部に対して位置変化を起こす構成」に限定され
ていると解すべきところ,被告製品は,回転のみによってロック突部
の最後方位置が突出部に対して位置変化を起こす構成ではなく,ケー
ブルコネクタとレセプタクルコネクタ間のスライドによる相対位置の
変位によって後方突部の最後方位置が突出部に対して位置変化を起こ
す構成であるから,構成要件Eを充足しない。
d前記a,bのとおり,被告製品は,本件特許発明1の「係止部」,
「被係止部」及び「ロック突部」の構成を備えていない。
また,被告製品において,持上げ片19を上方向に持ち上げた場合,
後方突部21は,突出部59と当接した状態となり,この点は動画
(乙15)からも明らかである。
このように,被告製品は,「…上記ロック突部21と上記突出部1
9との当接可能な状態が解除され」との構成を備えておらず,構成要
件Gを充足しない。
(イ)本件特許発明2について
a本件特許発明2における「ロック突部」及び「ロック溝部」は,ロ
ック突部の前後方向距離が,ロック溝部の前後方向距離よりも大きく
なっているものを意味すると解すべきである。
そして,被告製品における後方突部21は,水平姿勢(嵌合終了姿
勢)にあるときのケーブル側コネクタ10の後方突部前縁21Aの最
前方位置と後方突部後縁21Bの最後方位置との前後方向距離が,後
方溝部57の後方溝部前縁57Aの最後方位置と後方溝部後縁57B
に設けられた突出部59の最前方位置との前後方向距離よりも小さく
なっている。
したがって,被告製品は,本件特許発明2における「ロック突部」
及び「ロック溝部」を備えておらず,構成要件b,c1及びc2を充
足しない。
b本件特許発明2の構成要件dは,本件特許発明1の構成要件Dと同
様の構成であるから,前記(ア)bと同様に,被告製品における前方溝
部60は本件特許発明2における「係止部」には当たらず,被告製品
の前方溝部突出部63及び前端壁54は本件特許発明2における「被
係止部」に当たらない。
また,被告製品においては,係止部と「対応する位置」に被係止部
が設けられていない。
よって,被告製品は本件特許発明2における「被係止部」の構成を
備えておらず,構成要件dを充足しない。
c上記a同様,被告製品は,本件特許発明2における「ロック突部」
を備えていないから,構成要件eないしgを充足しない。
また,本件特許発明2の構成要件e及びfは,「ケーブルコネクタ
の回転のみによって,すなわち,ケーブルコネクタとレセプタクルコ
ネクタ間のスライドなどによる相対位置の変位なしに,ロック突部の
最後方位置が突出部に対して位置変化を起こす構成」に限定されてい
る。これに対し,被告製品は,回転のみによってロック突部の最後方
位置が突出部に対して位置変化を起こす構成ではなく,ケーブルコネ
クタとレセプタクルコネクタ間のスライドによる相対位置の変位によ
って後方突部の最後方位置が突出部に対して位置変化を起こす構成で
あるから,被告製品は構成要件e及びfを充足しない。
このほか,原告は,本件特許発明2の構成要件eにつき,「ロック
突部の突部後縁の最後方位置」が「ケーブルコネクタが上向き傾斜姿
勢にあるとき」はロック溝部の溝部後縁から溝内方に突出する突出部
の最前方位置よりも前方に位置する旨の限定解釈を主張しているとこ
ろ,そもそもこのような解釈には何ら根拠がない上,仮に同解釈を前
提とすると,被告製品では,嵌合途中のまだ上向き傾斜姿勢にある時
点において,既に後方突部の後縁21Bは突出部59の最前方位置よ
りも後方に進入しているから,被告製品が構成要件eを充足しないこ
とは明らかである。
(2)争点(2)(本件各特許は特許無効審判により無効にされるべきものか)に
ついて
ア被告の主張
(ア)分割要件違反による新規性欠如
a本件特許1について
(a)親出願及び子出願の明細書及び図面に,少なくとも,ロック溝
部の前後方向距離が,ロック突部の前後方向距離よりも大きく設定
されている場合は含まれていない。
これに対し,本件特許発明1は,ロック溝部の前後方向距離がロ
ック突部の前後方向距離よりも大きく設定されている場合にまで拡
大されている。
したがって,本件特許1の出願は,原出願(親出願及び子出願)
の範囲を超え,新規事項を追加するものであって,分割要件に違反
する。
⒝親出願(乙2)及び子出願(乙1)の明細書において,ロック突
部とロック溝部の寸法に関する規律は必須の構成とされており,同
構成を除外した構成(ロック突部がロック溝部の突出部に当接する
構成)のみでは,ケーブルコネクタの抜出防止という課題は解決で
きない。この点は,ロック溝部の幅についての制約を除外し,ロッ
ク溝部の水平方向の幅を3倍にした場合について検討すると明らか
である。そもそも,ロック突部がロック溝部の突出部に当接する構
成のみでは,自然法則を説明したのみであり,発明といえるもので
はなく,かつ,親出願及び子出願は電気コネクタ組立体であり,抜
出防止の点のみを議論することはできない。
また,発明の本質的特徴となる必須の構成を除外した分割出願は,
分割要件を欠き,不適法であるところ,本件における親出願・子出
願は,いずれもロック突部とロック溝部の寸法に関する規律を必須
の構成としているため,同規律を除外した本件特許1は分割要件違
反となる。
b本件特許2について
前記a同様,本件特許発明2は,ロック溝部の前後方向距離がロッ
ク突部の前後方向距離よりも大きく設定されている場合にまで拡大さ
れている。
したがって,本件特許2の出願は,原出願(親出願及び子出願)の
範囲を超え,新規事項を追加するものであって,分割要件に違反する。
また,本件特許発明2についても,前記a同様,ロック突部とロッ
ク溝部の寸法に関する規律を設けて初めて,突出部がロック突部に当
接してケーブルコネクタの抜出を阻止することになるのに,これを欠
くから,分割要件違反となる。
c以上のとおり,本件特許1及び2の出願は,いずれも分割要件に違
反し,その出願日は原出願日に遡及しない。そして,親出願である特
願2010-11225(特許第4972174号)が平成22年1
1月25日に公開されている(乙2)から,本件特許発明1及び2は,
いずれも新規性を欠く。
(イ)実施可能要件及びサポート要件違反
a本件特許発明1は,文言上は,「ロック溝部の前後方向距離がロッ
ク突部の前後方向距離よりも大きい場合」の発明を含んでいる。
しかし,課題を解決するための「ロック溝部」及び「ロック突部」
の具体的構成としては,明細書(甲2)の段落【0011】及び【0
012】に記載がある程度であり,上記のような場合に,どのように
ロック突部が上記抜出方向で上記突出部と当接してケーブルコネクタ
の抜出を阻止するのかについての記載は,明細書及び図面にはない。
この場合,ロック突部がロック溝部から抜け出すのが通常であり,同
発明は,当業者が技術常識に基づき実施できるものではなく,技術常
識に照らして課題を解決できると認識できるものでもない。
したがって,本件特許発明1において,ロック突部とロック溝部の
寸法に関する規律がないのであれば,同発明は実施可能要件及びサポ
ート要件に違反し,本件特許1は無効である。
なお,訂正後の構成要件Eについても,後記bの構成要件e及びf
と同じ議論が妥当する。
b本件特許発明2も,本件特許発明1と同様,ロック溝部の前後方向
距離がロック突部の前後方向距離よりも大きい場合を含むのであれば,
明細書(甲4)には,ロック突部とロック溝部の寸法に関する規律な
しに課題を解決する手段は何ら記載されていないから,実施可能要件
及びサポート要件に違反し,本件特許2は無効とされるべきである。
また,突出部がロック溝部の前縁に設けられた構成とロック溝部の
後縁に設けられた構成では,ロック突部が突出部の垂直下方に進入す
る過程が全く異なることから,本件特許発明2が,ロック溝部の溝部
前縁に突出部を設けた構成に関する記載によってサポートされること
はあり得ず,唯一,ロック溝部の溝部後縁に突出部が設けられた構成
である図7についても,ロック溝部の前縁と後縁の双方に突出部が設
けられた構成であり,本件特許発明2とは異なる構成であるから,構
成要件e及びfが明細書によってサポートされていないことは明らか
である。
(ウ)明確性要件違反
本件特許発明2の構成要件e及びfの「ロック突部の突部後縁の最後
方位置」の意義が,ロック突部の同じ部位(例えば嵌合終了姿勢時に突
部後縁における最後方位置となる部位)に着目し,その部位についての
位置関係を比較するものか,又は,それぞれ上向き傾斜姿勢時と嵌合終
了姿勢時の,それぞれの時点における突部後縁の最後方位置を比較する
ものか,不明確である。
このように,本件特許2に係る明細書(甲4)の記載からは,上記
「ロック突部の突部後縁の最後方位置」の意義が多義的であり,明確で
ないから,明確性要件(特許法36条6項2号)を欠く。審決(乙8)
が,明確性要件及び進歩性の各判断において,「ロック突部の突部後縁
の最後方位置」に関し,矛盾する判断をしたことは,構成要件eが明確
性を欠くことの証左である。
(エ)新規性及び進歩性欠如
a(a)本件特許発明1は,特開昭63-218174号公報(乙3,
昭和63年9月12日に頒布された刊行物)に記載された発明(以
下「乙3発明」という。)と同一であって,新規性を欠く。
⒝仮に乙3には構成要件Fの持上げ部の構成を欠くとされる場合で
あっても,当業者であれば,乙3及び乙4ないし7に記載された構
成に基づき,本件特許発明1を容易に発明できたものである。
すなわち,乙3の第1図に記載された相手コネクタ33の係止突
起60の下部(嵌合させた場合の上方に当たる部分)の突出部位が
持上げ部に相当しないとしても,コネクタを持ち上げやすくするの
が望ましいのは当然であるところ,乙4ないし7には持上げ部の技
術が記載されており,これは当業者に周知の技術であったから,乙
3発明に持上げ部の構成を組み合わせ,又は乙3発明に乙4ないし
乙7記載の構成を組み合わせることにより構成要件Fの構成とする
ことは,当業者に容易想到である。
⒞仮に,乙3発明において構成要件Bのロック突部の形状について
の構成が異なるとされた場合であっても,当業者であれば,乙3及
び乙7ないし10に記載された構成に基づいて本件特許発明1を容
易に発明することができたものであり,進歩性を欠き,無効である。
そもそも,多角形状と円形状でその動作に大きな差異が存在する
わけではなく,本件特許発明1の構成要件Bにおけるロック突部の
構成に関し,これを略多角形状にするか略円形状にするかは設計事
項にすぎない。仮にこの点に技術的意義が存在し,乙3にはこの点
が開示されていないとしても,乙7ないし乙10から明らかなよう
に,乙3の形式のコネクタにおいて,ロック突部の形状を略多角形
とするとともに,このロック突部に対応した形状の突出部をロック
溝部に設ける形態は種々の形態が知られている。
そして,ロック突部ないし回転中心突起の形状を略多角形にする
と,挿入するコネクタの傾斜角度をロック突部の形状によって調整
しやすくなるのに対し,これを略円形状とすると,傾斜角度の自由
度が高まることになる。したがって,いずれの形状を採用するかは,
コネクタの設置場所や作業性などの観点から適宜定める事項にすぎ
ない。
⒟以上からすると,乙3発明において,乙7ないし乙10に示され
る形態を採用し,ロック突部に対応する回転中心突起の形状を略多
角形として構成要件Bの構成とするとともに,ロック溝部に対応す
る溝部後縁から溝内方への突出部を略多角形に対応した形状とする
ことは,当業者が適宜選択しうる事項にすぎず,当業者にとって容
易想到である。
(e)このほか,訂正により構成要件Eに追加された事項は,後記b
同様,乙3に開示されており,そうでないとしても乙7ないし10
に開示されているから,これを乙3発明と組み合わせることで容易
想到である。
b(a)本件特許発明2は,乙3発明と同一であって,新規性を欠くも
のであり,仮にロック突部の形状についての構成が異なるとしても,
進歩性を欠くものであって,無効である。
すなわち,乙3発明において,ロック突部に相当する回転中心突
起53につき乙7ないし乙10に示される形態を採用し,回転中心
突起の形状を略多角形として構成要件b,e,fの構成とすること
は,当業者が適宜選択しうる事項にすぎず,当業者にとって容易想
到であることは明らかである。
⒝乙3において,コネクタ31が相手コネクタ33を後方に押し込
む構成によって,相手コネクタの抜出を防止する技術思想が開示さ
れていることは明らかである。
また,乙7ないし10には,ケーブルコネクタの姿勢に応じてロ
ック突部の突部後縁の最後方位置とロック溝部の突出部の最前方位
置との位置関係を変化させることによりケーブルコネクタの抜出を
阻止する構成が示されているところ,乙7ないし10に示された構
成を乙3発明に適用して本件特許発明2の構成とすることは,当業
者が容易に想到できることである。
⒞本件特許発明2が,ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタ間
のスライドなどによる相対位置の変位によって構成要件eないしg
を実現する構成を含むのであれば,同構成は技術常識であるから,
乙3発明と実質的に同一の発明を含むものであり,本件特許発明2
は無効となる。また,仮に上記構成が技術常識とまではいえないと
しても,同構成は乙3及び乙4,7により容易想到であるから,本
件特許発明2は進歩性を欠き無効である。
イ原告の主張
(ア)分割要件違反について
a親出願(乙2)においては,ケーブルコネクタの「ロック突部2
1′の下部傾斜部21′B-2の先端部位」とレセプタクルコネクタ
の「ロック溝部57′の後縁突出部59′Bの最前方位置」を設定す
ることにより,「ケーブルコネクタは,この嵌合終了時の姿勢のまま
抜出方向にもち上げられても,あるいは,ケーブル延出側である後端
がもち上げられるようにしてケーブルが後方に引かれても,ロック突
部がロック溝部の突出部に当接してこのケーブルコネクタの抜出が阻
止される」ものであり(以下「本件技術1」という。),図7はこの
機構を開示している。
他方で,親出願(乙2)の図7のロック突部21′の寸法は,一実
施形態として「ロック溝部の前後方向距離が,ロック突部の前後方向
距離よりも小さく」描かれているが,この大小関係は,上述した発明
に更なる技術意義を付加し,別の発明(以下「本件技術2」とい
う。)とするものである。
そして,一つの図面に複数の発明が表示されることがあるのは当然
であり,本件特許発明1及び2の構成にとって本件技術2の構成は必
須ではない。すなわち,寸法に関する本件技術2は,ケーブルコネク
タについてレセプタクルコネクタに嵌合するための前端側が持ち上が
った上向き傾斜姿勢をガイドするためのものであり,「ロック突部が
ロック溝部の突出部に当接してケーブルコネクタの抜出が阻止され
る」との課題を解決するメカニズム(本件技術1)とは無関係である。
このように,本件特許発明1及び2は,少なくとも寸法に関する規
律を含まない「親出願の明細書に記載された発明」(本件技術1)を
分割出願したものであるから,分割要件を充たす。
b子出願(乙1)の明細書・図面の記載についても,上記aと全く同
様である。
(イ)実施可能要件及びサポート要件違反について
a本件特許発明1の実施形態の一つである図7及び段落【0051】
には,ケーブルコネクタ10に上方向の力が加えられたとき,ロック
突部と突出部とが当接して,抜出が防止されることが開示されている。
そして,ロック突部の前後方向距離とロック溝部の前後方向距離と
の大小関係は,ケーブルコネクタの抜出の阻止とは関係がない。
したがって,本件特許発明1に実施可能要件及びサポート要件違反
がある旨の被告の主張は理由がない。
b本件特許発明2に関し,ロック溝部の前後方向距離とロック突部の
前後方向距離との大小関係については,上記aと同じ議論が妥当する。
また,同特許発明の構成要件e及びfに関しては,図7や明細書
(甲4)の段落【0053】,【0030】,【0039】に記載さ
れており,これらの記載からすれば,図7に係る実施例におけるロッ
ク突部の突部後縁の最後方位置が嵌合過程及び嵌合終了姿勢でどのよ
うに移動するのかは理解できる。したがって,サポート要件違反に係
る被告の主張は理由がない。
また,本件特許発明2の図7の実施形態は,明細書(甲4)の段落
【0053】において,図1ないし5に示された実施形態を基本とし
た「他の実施形態」として説明されており,図1ないし5に示された
実施形態やその他の明細書の記載をも参酌すれば,その内容は容易に
理解できるものであるから,構成要件e及びfについてもサポート要
件を充たす。
(ウ)明確性要件違反について
本件特許発明2の「ロック突部」は,「ロック溝部」に対する前後方
向の位置関係を,ケーブルコネクタの姿勢に応じて変化させることによ
り,「該ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動さ
れようとしたとき,上記ロック突部が上記抜出方向で上記突出部と当接
して,上記ケーブルコネクタの抜出が阻止される」ものであり,「嵌合
終了時に突部後縁における最後方位置となる部位に着目し,上向き傾斜
姿勢と嵌合終了姿勢においてその部位についての前後の位置関係を比較
するもの,つまりロック突部の同じ部位について比較したものであるこ
とは明らかである。
したがって,被告の明確性要件違反についての主張は理由がない。
(エ)新規性・進歩性欠如について
a本件特許発明1について
(a)訂正後の本件特許発明1においては,「ケーブルコネクタの抜
出の阻止」は「上向き傾斜姿勢から嵌合終了姿勢へのケーブルコネ
クタの姿勢の変化」に応じて生じた,「突出部」に対する「ロック
突部」の絶対的な位置の変化により行われるものである。
これに対し,乙3発明では,「回転中心突起53」と「溝部4
9」との関係からみて,「ケーブルコネクタの抜出の阻止」は,
「回転中心突起53」が「突出部」の下方の位置まで移動すること
により行われるものであり,本件特許発明1とは異なる。
⒝乙3発明における円柱状の「回転中心突起53」は半円弧状の
「突出部」と係合して回転運動するのみであるから,回転によって
「回転中心突起53」の最後方位置が回転前に比較して後方に位置
するという技術思想は記載されておらず,「ロック突部」の位置の
変化により「ケーブルコネクタの抜出の阻止」が実現されるもので
はなく,この点において乙3発明と本件特許発明1とは全く異なる。
そして,乙7ないし10には,コネクタにおいて嵌合操作の支点
となる突部を多角形状としたものが示されているが,いずれも本件
特許発明1における上記抜出阻止の手段を記載又は示唆するもので
はない。仮に,乙3発明の「回転中心突起53」として乙7ないし
10記載の多角形状を採用することができたとしても,ケーブルコ
ネクタの姿勢に応じた「ロック突部」と「突出部」との位置関係が
特定された本件特許発明1における抜出阻止手段を直ちに構成し得
るものではない。
⒞また,「ロック突部」は,「平坦面部分を有する突部前縁と平坦
面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間しているロック突部」
であるから,当然に,この「ロック突部」に「曲面部分のみからな
る円柱状」が含まれることはない。
これに対し,乙3発明の「回転中心突起」は,「曲面部分のみか
らなる円柱状」のものであり,ケーブル先端側を回動させるために
は,回転中心突起53は回転に適した円柱形であることが必要であ
り,矩形形状を採用する理由はない。
このように,回転動作がスムーズでなくなることは乙3発明にと
って不都合であるから,乙7ないし10を適用することにつき阻害
事由が存在する。
⒟以上のとおり,訂正後の本件特許発明1は新規性を有し,また,
相違点は容易想到ではなく,進歩性を有する。
b本件特許発明2について
(a)本件特許発明2は,ケーブルコネクタの姿勢に応じて「ロック
突部」の突部後縁の最後方位置と「ロック溝部」の突出部の最前方
位置との位置関係を変化させることにより,ケーブルコネクタの抜
出が阻止されることが要件である。
これに対し,乙3発明では,「回転中心突起53」が突出部の下
方の位置まで移動したときに,ケーブルコネクタの抜出方向への動
きを抵触するにすぎず,本件特許発明2とは明らかに相違する。そ
して,上記相違点を克服して,乙3発明に基づいて本件特許発明2
が容易想到であると判断すべき理由も証拠もない。
したがって,本件特許発明2は新規性を有する。
⒝本件特許発明2の構成要件e及びfは互いに関連したものであり,
同発明は,「ロック突部の突部後縁の最後方位置」が,「ケーブル
コネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき」はロック溝部の溝部後縁か
ら溝内方へ突出する突出部の最前方位置よりも前方に位置し,また
「ケーブルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるとき」は上記突
出部の最前方位置よりも後方に位置することを規定している。そし
て,乙3発明は,このような構成を何ら開示していない。
また,乙7ないし10記載の各発明においても,上記構成は開示
されていないため,仮に乙7ないし10を考慮しても,本件特許発
明2の構成要件e及びfによって特定される技術的事項,すなわち
「ケーブルコネクタの姿勢に応じた『ロック突部』の突部後縁の最
後方位置と『ロック溝部』の突出部の最前方位置との位置関係が特
定された」「上記抜出しの阻止の手段」を直ちに構成し得るもので
はない。
このように,本件特許発明2と乙3発明との相違点は容易に想到
できるものでもないから,同発明は進歩性を有する。
⒞乙3発明においては,相手コネクタ33がスムーズに回転できる
よう円弧状の突出部の下側で円運動するために「回転中心突起5
3」は円柱状とされているのであり,それをあえて乙7ないし10
の多角形状のものと交換することはない。
また,乙7ないし10に記載された,嵌合操作の支点となる突部
を四角形や多角形状としたものを,乙3発明の「回転中心突起」に
適用することにつき,何ら示唆はない上,これを適用した場合,回
転動作がスムーズでなくなるという阻害事由が存在する。
(3)争点(3)(原告の損害額)について
ア原告の主張
(ア)主位的主張
被告は,遅くとも本件特許1及び2の登録日である平成25年9月1
3日以降,原告が有する本件特許権1及び2を侵害する被告製品を製造
販売しており,平成27年8月31日までの間に販売した被告製品の売
上高は合計1億6250万円を下らない。
また,被告製品1台当たりの限界利益率は少なくとも30パーセント
を下らない。
したがって,被告による本件特許権1及び2の侵害によって原告が受
けた損害額は,4875万円を下らない(特許法102条2項)。
なお,平成25年9月13日から本訴提起日直前である平成26年5
月13日までの被告製品の売上高は6000万円であるため,訴状送達
日から利息が付される元本は1800万円である。
(イ)予備的主張
被告は,遅くとも本件特許1及び2の登録日である平成25年9月1
3日以降,原告が有する本件特許権1及び2を侵害する被告製品を製造
販売しており,平成27年8月31日までの間に販売した被告製品の売
上高は合計1億6250万円を下らない。
また,仮に本件特許権1及び2が第三者に実施許諾された場合の実施
料率は,少なくとも30パーセントを下らない。
したがって,被告による本件特許権1及び2の侵害によって原告が受
けた損害額は,4875万円を下らない(特許法102条3項)。
(ウ)原告は,被告が開示した被告製品の売上高について争わない。
原告は,平成25年9月13日以前から,本件特許発明1及び2の技
術的範囲に属するDF57シリーズ(甲18)を製造・販売し,また被
告製品と競合し,代替可能な電気コネクタ組立品であるDF61シリー
ズ(甲19)を製造・販売している。したがって,被告による本件特許
権1及び2の侵害行為により,原告に損害が発生している。
イ被告の主張
(ア)平成25年9月13日以降の被告製品(被告製品を構成する各製
品)の売上高合計は1億0617万4127円である。
また,被告が被告製品の販売により得た利益の限界利益率は30%に
は満たない。もっとも,被告は,この点に関し,主張立証を予定してい
ない。
(イ)DF57(甲18)及びDF61(甲19)は,いずれも,本件特
許発明1及び2のいずれの技術的範囲にも属しない。また,上記両製品
は,いずれも,被告製品とも競合しない。
このように,原告は,本件特許発明1及び2を実施しておらず,被告
製品と競合する製品の製造や販売も行っていないから,被告が被告製品
の販売を行わなかったとしても,原告がこれに対応する利益を得られる
関係にはない。したがって,本件では,特許法102条2項は適用され
ない。
仮に,本件に同条項が適用されるとしても,当該推定は,上記事情に
より覆滅される。
(ウ)被告は,平成26年4月16日にLEHR-02V-E-B(H
F)の販売を,平成27年4月6日にはLEHR-02V-S-A(H
F)の販売を終了しており,同月7日以降は,被告製品の販売等を行っ
ていない。しかし,従前の被告製品の販売先は,被告製品に代わるもの
として,被告から,被告製品の後方突部を円柱形に変更した製品である
LEHR-02V-S-A(HF)(N)を購入しているから,被告に
よる被告製品の販売がなかったとしても,原告は何らの利益を得られて
いない。
また,被告製品の販売終了に伴い,DF57やDF61の販売量が増
加したとの事実がないことからしても,DF57やDF61が被告製品
と競合していたとか,本件特許1及び2によって被告製品が市場におい
て顧客からの支持を得ていたなどの事実がないことは明らかである。
(4)争点(4)(差止め及び廃棄の必要性)について
ア原告の主張
被告が実際に被告製品の製造・販売を終了し,在庫を廃棄したかどうか
については,原告は知らない。また,仮に被告が製造・販売を中止したと
しても,いつでもロック突部を従来の形状に戻して,被告製品の製造を再
開する能力を有しており,今後被告製品の製造を行わない旨誓約している
わけでもなく,被告による本件特許1及び2の侵害のおそれは依然として
残存する。
イ被告の主張
いずれも争う。
被告は,本件特許1及び2を回避する製品として,被告製品のソケット
コネクタ(ケーブル側コネクタのハウジング)の後方突部を円形状に変更
した製品を開発し,同製品の販売を開始するとともに,被告製品を構成す
るソケットコネクタ(ケーブル側コネクタのハウジング)の在庫につき,
廃棄処分を行った。
一度製品を廃棄した被告において,あえて再度被告製品の製造・販売を
行う必要性は全く存在せず,被告が今後,被告製品の製造・販売等を行う
可能性はない。
第3当裁判所の判断
1争点(1)(被告製品は本件各特許発明の技術的範囲に属するか)について
事案に鑑み,まず,被告製品が本件特許発明2の技術的範囲に属するかにつ
いて検討する。
(1)本件特許2に係る明細書(甲4)には,以下の記載がある。
ア【発明が解決しようとする課題】
「このような特許文献1のコネクタにあっては,ケーブルコネクタのケ
ーブルを後方に引く力が,意図的に加えられる場合は勿論のこと,不用意
に加えられたときでも,上記カム面での抜出方向の力の発生により,ロッ
ク手段が解除されてコネクタが抜出されてしまう,すなわち意図せぬ外れ
を生じてしまう,ということを意味する。」(段落【0005】)
「ケーブルコネクタにあってはケーブルに不用意な力,しかも,抜出方
向成分をもつ力が加えられてしまうことがしばしばある。かかる不用意な
力がケーブルに作用すると,特許文献1のコネクタでは,単純なケーブル
延出方向の力であっても,上記カム面の働きによって上方向の成分の力が
発生しコネクタを抜出してしまう。また,ケーブルに作用する不用意な力
に,もともと上向き成分を伴っていると,上記抜出の傾向はさらに強くな
る。」(段落【0006】)
「本発明は,このような事情に鑑み,ケーブルコネクタのケーブルに不
用意な力が作用しても,そして,その力が上向き方向の成分を伴っても,
ケーブルコネクタを意図的に抜出させない限り,外れない電気コネクタ組
立体を提供することを課題とする。」(段落【0007】)
イ【発明の効果】
「本発明は,以上のように,ケーブルコネクタがその側壁面にロック
突部,そしてレセプタクルコネクタがその側壁面の対応位置にロック溝
部を有し,上記ロック突部が嵌合方向で上記ロック溝部内に進入してケ
ーブルコネクタが嵌合終了の姿勢となった後は,該ケーブルコネクタが
後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,上記ロッ
ク突部が上記ロック溝部の突出部に当接して該ケーブルコネクタの抜出
を阻止するようにしたので,ケーブルコネクタの後端から延出している
ケーブルを不用意に引いても,そしてその引く力がたとえ上向き成分を
伴っていても,ロック突部がロック溝部の突出部に当接して,ケーブル
コネクタはレセプタクルコネクタから外れることはない。ケーブルを引
く不用意な力は,多くの場合,上記の上向き成分を伴っており,このよ
うな力に対して,本発明は確実に対処可能となる。」(段落【001
5】)
ウ【発明を実施するための形態】
「ロック突部21は,ケーブルコネクタ10が,図3(A)に示されるよ
うな嵌合終了時の姿勢,すなわちケーブルコネクタ10の上面,下面そし
てケーブルがいずれも水平方向に延びていて前端がもち上がっていない姿
勢のときに,突部前縁21Aの最前方位置と突部後縁21Bの最後方位置
との距離Aが該ロック突部21の前後方向幅として最大値をとる。これに
対して,レセプタクルコネクタ50のロック溝部57は,前後方向におけ
る溝幅としては,突出部59の後端位置と垂直部57B-2の位置との間
の前後方向での距離Bが最小値である。本発明では,上記距離B<距離A
となっている。
…図3(A)にも見られるように,…このことは,この水平状態の姿勢
において,ロック突部21は,ケーブルコネクタが嵌合方向とは逆方向に
抜出されようとしても,距離B<距離Aの関係で,上記突出部59と干渉
して,抜出できないことを意味する。」(段落【0030】)
「(4)しかる後,ケーブルコネクタ10を嵌合終了の姿勢,すなわち図
3(A)における姿勢と同じとなるように,ケーブルコネクタ10の前端側
を降下させる。該ケーブルコネクタ10は,ロック突部21側を中心とし
て突部後縁21Bの最後方位置がロック溝部57の溝部後縁57Bの垂直
部57B-2に当接しながら時計方向に回転し,上記上向き姿勢が解除さ
れて,水平となって嵌合終了の姿勢をとる(図3(C)参照)。上記回転の
際,斜部21Cは,突出部59の下縁に近接した状態で,溝部前縁57A
に近づき,上下方向では突出部59と干渉する位置,すなわち,ロック位
置にきている。」(段落【0039】)
「…図5の形態では…ロック突部21の前後方向(ケーブル延出方向)
での突部前縁21Aと突部後縁21Bとの距離Aと,上記案内傾斜部57
B-1に直角な方向で測った該案内傾斜部57B-1から突出部59まで
の最小の距離B′と,前後方向で測った上記案内傾斜部57B-1から突
出部59までの最小の距離Bとの関係が,距離B<距離A<距離B′とな
っていて,…水平姿勢となったケーブルコネクタ10はその姿勢でもち上
げられてもロック突部21が上記突出部59と干渉して,その姿勢ではケ
ーブルコネクタ10は抜出できない。」(段落【0043】)
「図7において,ロック突部21′の水平姿勢時の前後方向距離Aそし
て上向傾斜時の前後方向距離A′,そしてロック溝部57′の前後方向の
最小溝幅の距離Bの関係は,図3(A)における距離A,距離A′そして
距離Bとそれぞれ同様に,距離A′<距離B<距離Aとなっている。」
(段落【0051】)
「…嵌合終了時には,上記下部傾斜部21′B-2が後縁突出部59′
Bと上方向で干渉して,上記嵌合終了の姿勢あるいはケーブルCがもち上
げられる前端の下向き姿勢での抜けが防止されると共に,前端側での係止
部22′が被係止部60′と係止しており,この係止を解除する意図的な
力が作用しない限り,多少の不用意な力が前端をもち上げようとするよう
に作用してもこの係止は解除できず,コネクタの抜出は防止される。」
(段落【0053】)
「図8(A)において,…下方に向けコネクタの後端側へ傾斜しており,
そのときの突部前縁21Aと突部後縁21Bとの距離A′と,ロック突部
21の前後方向(ケーブル延出方向)での突部前縁21Aと突部後縁21
Bとの距離Aと,上記案内傾斜部57B-1に直角な方向で測った該案内
傾斜部57B-1から突出部59までの最小の距離B′と,前後方向で測
った上記案内傾斜部57B-1から突出部59までの最小の距離Bとの関
係が距離B<距離A′<距離B′<距離Aとなっていて…」(段落【00
55】)
「このとき,ロック突部21は下方に向けコネクタの後端側へ傾斜して
いるため,突部前縁21Aの最前方位置がロック溝部57の溝部前縁57
Aの垂直前縁に近接する。」(段落【0060】)
「したがって,ロック突部21と突出部59との干渉がより深まること
になり,ケーブルコネクタ10の抜出を確実に阻止できる…」(段落【0
061】)
(2)構成要件b,c1及びc2について
ア別紙1及び2記載の各図面によれば(なお,原告作成の別紙1記載の図
面と被告作成の別紙2記載の図面には若干の相違があるが,結論に影響を
及ぼすような違いはない。),被告製品においては,ケーブル側コネクタ
10は,後方突部前縁21Aと後方突部後縁21Bが形成された後方突部
21(ロック突部に相当する。)を側壁面20に有し,基板側コネクタ5
0(レセプタクルコネクタに相当する。)は,前後方向で後方突部21に
対応する位置で溝部前縁57Aと溝部後縁57Bが形成された後方溝部5
7(ロック溝部に相当する。)を側壁面53に有し,該後方溝部には,溝
部後縁57Bから溝内方へ突出する突出部59が設けられていると認めら
れる。
以上からすれば,被告製品は,本件特許発明2の構成要件b,c1及び
c2を充足する。
イこの点に関し,被告は,ロック溝部の前後方向距離がロック突部の前後
方向距離よりも小さく設定されている場合に限定しなければ,本件特許2
は分割要件,サポート要件及び実施可能要件に違反することになり,この
ように限定して解すると,被告製品は,本件特許発明2の構成要件b,c
1,c2及びeを充足しないと主張する。
しかし,そもそも本件特許発明2の特許請求の範囲において,被告
が主張するようなロック突部とロック溝部の寸法に関する規律は何ら
付されておらず,被告が主張する寸法に関する規律に従ったものは,
単に実施例として記載されているにすぎないことからすれば,本件特
許2に被告が主張する上記無効理由があるか否かは別に検討するとし
て,被告製品の本件特許発明2に係る構成要件充足性を検討する上で
は,被告の上記主張は理由がない。
そして,実質的にみても,本件特許発明2では,「ケーブルコネクタの
ケーブルに不用意な力が作用しても…ケーブルコネクタを意図的に抜出さ
せない限り,外れない電気コネクタ組立体を提供すること」が課題とされ
ており(甲4の段落【0007】),同課題を解決するために,同発明の
構成要件g「該ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移
動されようとしたとき,上記ロック突部が上記抜出方向で上記突出部と当
接して,上記ケーブルコネクタの抜出が阻止されるようになっているこ
と」等の構成が記載され,実施例においても「嵌合終了時には,上記下部
傾斜部21′B-2が後縁突出部59′Bと上方向で干渉して,上記嵌合
終了の姿勢あるいはケーブルCがもち上げられる前端の下向き姿勢での抜
けが防止される」との手段が記載されている(段落【0053】,図7参
照)のであるから,本件特許発明2の本質的部分は以上であって,被告が
主張するロック突部とロック溝部の寸法に関する規律が本件特許発明2の
必須要素であるとはいえない。
(3)構成要件dについて
ア別紙1及び2記載の各図面によれば,被告製品において,ケーブル側コ
ネクタ10は,前方の端壁面15に寄った位置で側壁に前方突部22(係
止部に相当する。)が設けられ,基板側コネクタ50(レセプタクルコネ
クタに相当する。)は,前後方向で上記前方突部22と対応する位置で,
コネクタ嵌合状態にて前方突部22と係止可能な前方溝部60(被係止部
に相当する。)が側壁に設けられていると認められる。
以上からすれば,被告製品は本件特許発明2の構成要件dを充足する。
イ被告は,被告製品における「被係止部」としての作用を行うのは,
前方溝部突出部63及び前端壁54となるから,被告製品は本件特許
発明2における「被係止部」の構成を備えていないと主張する。
確かに,厳密にいえば,被告製品において「被係止部」としての作用を
行うのは,前方溝部突出部63であるといえる(他方で,前端壁54が同
作用を行うものとは認められない。)が,前方溝部突出部63は前方溝部
60内に設けられているから,いずれにしろ,被告製品は,前後方向で係
止部と対応する位置でコネクタ嵌合状態にて該係止部と係止可能な被係止
部が側壁に設けられているといえる。
ウ被告は,係止部と「対応する位置」に被係止部が設けられていないとも
主張するが,「対応」との文言が,前後方向の若干のずれを許容しないよ
うなものであるとは解されないため,上記のとおり,被告製品は,係止部
と被係止部とが対応する位置に存在するといえる。
(4)構成要件eについて
ア別紙1及び2記載の各図面によれば,被告製品では,コネクタ嵌合過程
にて,ケーブル側コネクタ10の前端が持ち上がって同ケーブル側コネク
タが上向き傾斜姿勢にあるとき,後方突部21(ロック突部に相当す
る。)の突部後縁21Bの最後方位置が,同ケーブル側コネクタがコネク
タ嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に位置するといえる。
したがって,被告製品は,本件特許発明2の構成要件eを充足する。
イ被告は,構成要件eに関しても,ロック突部とロック溝部の寸法に関す
る規律について主張するが,前記(2)のとおりであって,採用できない。
ウこのほか,被告は,本件特許発明2は「ケーブルコネクタの回転のみに
よって,すなわちケーブルコネクタとレセプタクルコネクタ間のスライド
などによる相対位置の変位なしに,ロック突部の最後方位置が突出部に対
して位置変化を起こす構成」に限定されており,被告製品はこのような構
成ではないとも主張する。しかし,この点に関しても,本件特許発明2の
特許請求の範囲において,被告が主張するような限定は何ら付されて
おらず,少なくとも被告製品の本件特許発明2充足性を検討する上で,
上記のような限定を付すべき理由は全くなく,被告の上記主張は採用でき
ない。
エ他方で,原告は,構成要件eは「ロック突部の突部後縁の最後方位置」
が「ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき」にはロック溝部の溝
部後縁から溝内方に突出する突出部の最前方位置よりも前方に位置するこ
とを意味する旨主張する。
しかし,原告の上記解釈についても,本件特許発明2の特許請求の範囲
に記載されていない限定を付すものであって,その根拠も不明確であり,
採用できない。もっとも,この点は,被告製品の本件特許発明2充足性の
判断に影響を及ぼすものではない。
(5)構成要件f及びgについて
ア別紙1及び2記載の各図面によれば,被告製品においては,後方突部
21(ロック突部に相当する。)が後方溝部57(ロック溝部に相当
する。)内に進入して所定位置に達した後に上向き嵌合姿勢が解除さ
れてケーブル側コネクタ10がコネクタ嵌合終了姿勢となったとき,
後方突部21の突部後縁21Bの最後方位置が,突出部59の最前方
位置よりも後方に位置するといえる。
また,被告製品において,ケーブル側コネクタ10が後端側を持ち
上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,後方突部21が上記
抜出方向で突出部59と当接して,ケーブル側コネクタ10の抜出が
阻止されるようになっているといえる。
したがって,被告製品は,本件特許発明2の構成要件f及びgを充
足する。
イ被告は,構成要件f及びgに関しても,ロック突部とロック溝部の
寸法に関する規律について主張するが,採用できない。
ウまた,被告は,構成要件fに関し,構成要件eと同様に,「ケーブ
ルコネクタの回転のみによって,すなわちケーブルコネクタとレセプタ
クルコネクタ間のスライドなどによる相対位置の変位なしに,ロック突
部の最後方位置が突出部に対して位置変化を起こす構成」に限定されて
おり,被告製品はこのような構成ではないとも主張する。しかし,前記
(4)同様,被告の同主張は採用できない。
(6)以上からすれば,被告製品は本件特許発明2の技術的範囲に属するもの
と認められる。
2争点(2)(本件各特許は特許無効審判により無効にされるべきものか)につ
いて
(1)本件特許2について
ア分割要件違反について
(ア)親出願の明細書(乙2),子出願の明細書(乙1),本件特許1の
明細書(甲2)及び本件特許2の明細書(甲4)には,以下の記載があ
る。
a「本発明は…ケーブルコネクタのケーブルに不用意な力が作用して
も,そして,その力が上向き方向の成分を伴っても,ケーブルコネク
タを意図的に抜出させない限り,外れない電気コネクタ組立体を提供
することを課題とする。」(段落【0007】)
b「…ケーブルコネクタ10が,図3(A)に示されるような嵌合終了
時の姿勢…のときに,突部前縁21Aの最前方位置と突部後縁21B
の最後方位置との距離Aが該ロック突部21の前後方向幅として最大
値をとる。これに対して,レセプタクルコネクタ50のロック溝部5
7は,前後方向における溝幅としては,突出部59の後端位置と垂直
部57B-2の位置との間の前後方向での距離Bが最小値である。…
図3(A)にも見られるように…水平状態の姿勢において,ロック突
部21は,ケーブルコネクタが嵌合方向とは逆方向に抜出されようと
しても,距離B<距離Aの関係で,上記突出部59と干渉して,抜出
できないことを意味する。」(乙1の段落【0030】,乙2の段落
【0031】,甲2の段落【0028】,甲4の段落【0030】)
【図3】
c「…図5の形態では,…ロック突部21の前後方向(ケーブル延出
方向)での突部前縁21Aと突部後縁21Bとの距離Aと,上記案内
傾斜部57B-1に直角な方向で測った該案内傾斜部57B-1から
突出部59までの最小の距離B′と,前後方向で測った上記案内傾斜
部57B-1から突出部59までの最小の距離Bとの関係が,距離B
<距離A<距離B′となっていて,…水平姿勢となったケーブルコネ
クタ10はその姿勢でもち上げられてもロック突部21が上記突出部
59と干渉して,その姿勢ではケーブルコネクタ10は抜出できな
い。」(乙1の段落【0043】,乙2の段落【0044】,甲2の
段落【0041】,甲4の段落【0043】)【図5】
d「図7において,ロック突部21′の水平姿勢時の前後方向距離A
そして上向傾斜時の前後方向距離A′,そしてロック溝部57′の前
後方向の最小溝幅の距離Bの関係は,…距離A′<距離B<距離Aと
なっている。」
「…嵌合終了時には,上記下部傾斜部21′B-2が後縁突出部5
9′Bと上方向で干渉して,上記嵌合終了の姿勢あるいはケーブルC
がもち上げられる前端の下向き姿勢での抜けが防止される…」(乙1
の段落【0051】及び【0053】,乙2の段落【0052】及び
【0054】,甲2の段落【0049】及び【0051】,甲4の段
落【0051】及び【0053】)【図7】
e「図8(A)において,…下方に向けコネクタの後端側へ傾斜して
おり,そのときの突部前縁21Aと突部後縁21Bとの距離A′と,
ロック突部21の前後方向(ケーブル延出方向)での突部前縁21A
と突部後縁21Bとの距離Aと,上記案内傾斜部57B-1に直角な
方向で測った該案内傾斜部57B-1から突出部59までの最小の距
離B′と,前後方向で測った上記案内傾斜部57B-1から突出部5
9までの最小の距離Bとの関係が距離B<距離A′<距離B′<距離
Aとなっていて…」
「…ロック突部21は下方に向けコネクタの後端側へ傾斜している
ため,突部前縁21Aの最前方位置がロック溝部57の溝部前縁57
Aの垂直前縁に近接する。」
「したがって,ロック突部21と突出部59との干渉がより深まる
ことになり,ケーブルコネクタ10の抜出を確実に阻止できる…」
(乙1の段落【0055】【0060】【0061】,乙2の段落
【0056】【0061】【0062】,甲2の段落【0053】
【0058】【0059】,甲4の段落【0055】【0060】
【0061】)【図8】
(イ)a被告は,本件特許1及び2の出願が,原出願(親出願及び子出
願)の範囲を超えており,分割要件に違反する旨主張するので,検討
する。
親出願及び子出願の各明細書(乙2,乙1)においては,上記(ア)
d及びeのとおり,「ロック突部ないしその一部と(ロック溝部の)
突出部との干渉により,ケーブルコネクタの抜出を防止できる」との
技術(本件技術1)が開示されていると同時に,上記(ア)bないしe
のとおり,ロック突部の前後方向距離とロック溝部の前後方向距離と
の大小関係に関する技術(本件技術2)が開示されている。
そして,本件技術1及び2は,それぞれが独立した発明というべき
であり,これらを組み合わせたものも発明といえるものである。
一方,本件特許発明1及び2は,いずれも,少なくとも上記(ア)d
及び【図7】の記載に基づくものであるから,二以上の発明を包含す
る特許出願の一部(本件技術1に係る部分)を新たな特許出願とした
ものであることは明らかである。
以上からすれば,本件特許1及び2の出願は,いずれも親出願及び
子出願に包含される二以上の発明の一部(本件技術1に係る部分)を
新たな出願としたものであるから,被告の分割要件違反の主張は採用
できない。
b被告は,親出願(乙2)及び子出願(乙1)の各明細書において,
ロック突部とロック溝部の寸法に関する規律は必須の構成とされてお
り,「ロック溝部の水平方向の幅を3倍にする」との極端な例を挙げ
て,上記規律の構成を除外した構成のみではケーブルコネクタの抜出
防止という課題は解決できず,またそのような構成は発明といえるも
のでもないと主張する。
しかし,前述のとおり,親出願及び子出願に係る明細書の記載によ
れば,上記のロック突部とロック溝部の寸法に関する本件技術2と独
立に,「ロック突部ないしその一部と(ロック溝部の)突出部との干
渉により,ケーブルコネクタの抜出を防止できる」との本件技術1が
記載されているといえるから,同技術は,ケーブルコネクタの抜出防
止を可能ならしめる技術であり,同技術が発明に当たることも明らか
である。
実質的に見ても,当業者であれば,たとえ本件特許発明1及び2に
係る特許請求の範囲の記載においてロック突部とロック溝部の寸法等
の定めがなくても,「ケーブルコネクタの抜出防止」という課題が解
決できるようにこれらの点を設計しようとするものであるし,適宜設
計することによって本件技術2を用いなくても本件技術1のみにより
上記課題を解決することができるというべきであって,本件技術1の
みでも課題の解決に資する発明といえるから,被告の上記主張は採用
できない。
イサポート要件及び実施可能要件違反について
(ア)まず,前提として,本件特許発明2における「ロック突部の突部後
縁の最後方位置」の意義を検討する。
本件特許発明2において,ケーブルコネクタの側壁にあるロック突部
は,ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタの嵌合に至るまでの過程
を経て,その突部後縁の最後方位置が,コネクタ嵌合終了姿勢において,
レセプタクルコネクタにあるロック溝部の突出部の最前方位置よりも後
方の位置となり,ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向
に移動されようとすると,ロック突部がロック溝部の突出部と当接する
ことで,抜出しを防止するものである。そして,コネクタ嵌合過程にお
いて,ロック突部がロック溝部の突出部と当接すると,ケーブルコネク
タとレセプタクルコネクタを嵌合させることができないから,コネクタ
嵌合過程において,ロック突部はロック溝部の突出部に当接しないこと
が必要であり,構成要件eの「ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあ
るとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が,上記ケーブルコネ
クタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に位置し,」も,
これに沿うように解釈する必要がある。また,構成要件fにおける「ロ
ック突部の突部後縁の最後方位置」が「突出部の最前方位置よりも後方
に位置」することで,ケーブルコネクタの抜出が阻止されることも必要
であるから,これに沿うように解釈する必要がある。
したがって,少なくとも,コネクタ嵌合過程において,ロック突部が
嵌入の支障にならないためには,上向き傾斜姿勢時におけるロック突部
の最後方位置が問題となり,構成要件eにおける「上記ロック突部の突
部後縁の最後方位置」は,上向き傾斜姿勢時におけるそれを指すことに
なる。
他方で,本件特許発明2は,嵌合終了姿勢時において,ロック突部の
少なくとも1か所が突出部の最前方位置よりも後方に配置されていれば,
上方向への抜出しを阻止することができるとの技術思想を示すものであ
り,構成要件fの「上記ロック突部の突部後縁の最後方位置」もこれに
基づいて解釈すべきであって,嵌合終了姿勢時における「上記ロック突
部の突部後縁の最後方位置」という要件は,嵌合終了姿勢時におけるロ
ック突部の突部後縁の最も後方となる位置を指すものである。
以上のとおり,本件特許発明2における「ロック突部の突部後縁の最
後方位置」とは,嵌合過程の各時点におけるロック突部の突部後縁の最
も後方となる位置を意味すると解するのが相当である。
(イ)以上を前提として検討するに,まず本件特許2の明細書(甲4)上,
課題については段落【0007】に記載されている。そして,本件特許
発明2(請求項3)は,構成要件c2として「該ロック溝部には溝部後
縁から溝内方へ突出する突出部が設けられて」いることから,溝部後縁
に突出部59′Bを設ける図7に示されたコネクタが本件特許発明2に
対応する実施例であることが明らかであり,同図に対応する説明が明細
書(甲4)の段落【0048】ないし【0053】に記載されている。
そして,上記(ア)のとおり,本件特許発明2においては,「ロック突
部の突部後縁の最後方位置」が,ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢に
あるときに,コネクタ嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に位置す
ることで,コネクタ嵌合過程ではロック溝部に設けられた突出部に阻止
されることなく「ロック突部の突部後縁」が挿入できるようにしたもの
であるから,明細書の記載を併せ読めば,同文言が嵌合過程各時点にお
いてロック突部の最も後ろになる位置を指すことが明らかであり,当業
者が上記発明を実施することは可能であるといえる。
なお,図7において,ロック突部の前後方向距離とロック溝部の前後
方向距離の大小関係について,被告が主張する内容で記載されていると
しても,単一の図面が2つ以上の発明ないし技術を開示することはあり
得ることであって,図7においても,構成要件eないしgに関する構成
と同時に上記の寸法に関する構成が記載されているにすぎない。
以上からすれば,本件特許2に関してサポート要件違反及び実施可能
要件違反はなく,これらの点に関する被告の主張は採用できない。
(ウ)被告は,明細書(甲4)の図7は,ロック溝部の前縁と後縁の双方
に突出部が設けられた構成であり,本件特許発明2とは異なる構成であ
るから,同発明の構成要件e及びfが明細書によってサポートされてい
ないとも主張する。しかし,ロック溝部の後縁に突出部が設けられてい
れば,ロック溝部の前縁における突出部の有無にかかわらず,本件特許
発明2の構成要件を充足するから,被告の上記主張は理由がない。
ウ明確性要件違反について
被告は,本件特許発明2の構成要件e及びfの「ロック突部の突部後縁
の最後方位置」との文言につき,多義的な解釈が可能であり,不明確である
旨主張する。
しかし,前記イのとおり,本件特許2の明細書(甲4)の段落【004
8】ないし【0053】及び図7からすれば,構成要件e及びfの「ロッ
ク突部の突部後縁の最後方位置」が,嵌合過程各時点においてロック突部
の最も後ろになる位置を指すものと認められ,この点は,当業者にも理解
可能であるといえる。
確かに,審決(乙8)は,明確性要件の判断において,「ロック突部の
突部後縁の最後方位置」に関し,上記と異なる判断を示し,原告も本訴に
おいて同判断に沿った主張をしたものであるが,本件特許発明2の課題及
びその解決手段を踏まえて明細書(甲4)の記載及び図面を参酌すれば,
当業者は本判決と同様の理解に達するものと解され,審決が上記判断をし
たことをもって,直ちに本件特許2が明確性要件に違反するとまではいえ
ない。
エ新規性及び進歩性欠如について
(ア)乙3発明と本件特許発明2との対比
a乙3には,以下の記載がある。
(a)「2.特許請求の範囲」
「1.第1の絶縁体に第1のコンタクトを組込んでなる第1のコネ
クタ要素と,第2の絶縁体に第2のコンタクトを組込んでなる第
2のコネクタ要素とを含むコネクタにおいて,上記第1の絶縁体
は上記第2のコネクタ要素の側面に対向するよう延出した側壁を
有し,該側壁は,その延出方向に対し実質的に直角にのびて一端
が縁部にまで至る溝部を有し,上記第2の絶縁体は上記溝部に挿
入された回転中心突起を側面に有し,さらに上記第1及び第2の
コンタクトは,上記回転中心突起を支点とした上記第1及び第2
の絶縁体の相対的回動により互いに接触・離間されるものである
ことを特徴とする回転挿抜コネクタ。」
「2.特許請求の範囲第1)項記載の回転挿抜コネクタにおいて,
上記第1及び第2の絶縁体間を上記第1及び第2のコンタクト
の接触状態でロックするロック装置を備えたことを特徴とする
もの。」(1頁左下欄4行~右下欄3行)
⒝〔産業上の利用分野〕
「本発明は,一方のハウジングを他方のハウジングに対し回動さ
せることで接続又は切離しの作用を得ることのできるコネクタに関
する。」(1頁右下欄5行~8行)
⒞〔従来例〕
「通常のコネクタは,軸方向の挿抜によって電気的な接続又は切
離しを得るようになっている。そのコネクタは,第7図に示すよう
に,一方のコネクタ1と,このコネクタ1に着脱可能に嵌合する他
方のコネクタ(以下相手コネクタと呼ぶ)3とを有している。一方
のコネクタ1は,電気絶縁材料によって作られたハウジング5と,
このハウジング5に組込まれたピンコンタクトのような複数の導電
性のコンタクト7とを有している。ハウジング5の一側には溝部9
が形成されている。…
ハウジング5の溝部9には,相手コネクタ3が着脱可能に嵌合さ
れる。相手コネクタ3は電気絶縁材料によって作られた相手ハウジ
ング15と,この相手ハウジング15の内部に組込まれたソケット
コンタクトのような複数の導電性の相手コンタクト(図示せず)と
を有している。…
相手ハウジング15の上面には,第8図に示すように,ロックレ
バー19が形成されている。このロックレバー19は一端が相手ハ
ウジング15の上面に接続されたものである。ロックレバー19の
上面には,突起部21が形成されている。突起部21はハウジング
5の溝部9の内面から上面にまで貫通して形成された係止穴23に
係止される。これによりハウジング5と相手ハウジング15とは嵌
合状態にロックされる。また,コンタクト7と相手コンタクトとは
ロックレバー19を下向きに押すと突起部21が係止穴23から離
脱して引き抜きが可能である。…」(1頁右下欄9行~2頁右上欄
14行)
⒟〔発明が解決しようとする問題点〕
「しかしながら,このようなコネクタによれば,挿入が不完全で
あるとロックレバー19の突起部21が相手の係止穴23に止まら
ないため,後にケーブル17を引張るような時,コネクタ1から相
手コネクタ3が外れてしまうという問題がある。また,係止穴23
とこれに対応する突起部21とを設けるためにハウジング5や相手
ハウジング15の所要スペースが大きくなり,したがって,特に高
密度化を必要とするコネクタとしては不向きである。
それ故に本発明の目的は,確実な嵌合を得ることができ,かつ小
型化が可能なコネクタを提供することにある。」(2頁右上欄15
行~左下欄8行)
(e)〔実施例〕
「第1図は本発明の回転挿抜コネクタの一実施例を示している。
図示の回転挿抜コネクタは,一方のコネクタ31(第1のコネク
タ要素)とこのコネクタ31に挿抜可能にして嵌合する相手コネク
タ(第2のコネクタ要素)33とを有している。
(中略)一方のコネクタ31のハウジング35は互いに間隔をお
いて対向するよう延出した対の側壁(その一方のみを47で示し
た)を有している。これらの側壁47の内面には,溝部49及び係
止穴51がそれぞれ形成されている。これらの溝部49は,側壁4
7の延出方向,即ち,コネクタ突合方向の軸線とほぼ直角方向(実
質的に直角方向)にのびるように形成されている。また溝部49に
は中間部分に肩部56が形成されている。このようなハウジング3
5の対の側壁47の間には,相手コネクタ33のハウジング39が
嵌込まれる。
一方,相手コネクタ33のハウジング39の対の側面には,それ
ぞれ,ハウジング35の溝部49に嵌込まれる回転中心突起53が
形成されている。これらの突起53はまた肩部56に当接するもの
である。さらに相手コネクタ33のハウジング39の対の側面には,
一方のコネクタ31のハウジング35の係止穴51に嵌込まれる係
止突起60が形成されている。
次に,第3図及び第6図をも参照して回転挿抜コネクタの嵌合に
ついて説明する。
先ず,相手コネクタ33は一方のコネクタ31におけるコネクタ
突合方向の軸線に対して或る角度を持った状態でその回転中心突起
53をハウジング35の溝部49に挿入される。溝部49に挿入さ
れた回転中心突起53は,第3図に示すように,溝部49の中間部
分の肩部56で停止する深さまで挿入される。この状態では,コン
タクト37の接触部39と相手コンタクト46とは,第4図に示す
ように,互いに軸方向を異にしている。
その後に,相手コネクタ33を反時計方向に回転させる。この結
果,相手コネクタ33の係止突起60は,第5図に示すようにコネ
クタの係止穴51にしっかりと入り込み回転が停止すると共にロッ
クされる。即ち,係止突起60と係止穴51とが協働してロック装
置を構成する。その際,コンタクト37の接触部39と相手コンタ
クト41のソケット部46とは,第6図にも示すように,回転しな
がら摺動し嵌合接触する。さらに,相手コネクタ33をコネクタ3
1から引抜く際には,相手コネクタ33を時計方向に回転した後に,
溝部49にて案内しつつ上方に引き抜く。」(2頁右下欄4行~3
頁左下欄12行)
⒡〔発明の効果〕
「以上実施例により説明したように,本発明の回転挿抜コネクタ
によれば,コネクタの両側に,相手コネクタの回転中心突起に対応
する溝部が係合しているため,コネクタあるいは相手コネクタが破
壊しない限り,ケーブルを引張っても嵌合が外れることがない。ま
た,回転挿抜コネクタは,大きな形状のロックレバーや係止穴を必
要としないため小型化が可能である。」(3頁左下欄13行~右下
欄1行)
b上記aからすれば,乙3には,以下の事項が記載されているといえ
る。
(a)乙3発明は,従来のコネクタが有していた課題(挿入が不完全
であると,突起部が係止穴に止まらないため,ケーブルを引っ張る
ときコネクタから相手コネクタが外れてしまうほか,係止穴と突起
部を設けるためにスペースが大きくなること)を解決するためのも
のであり,実施例として,一方のコネクタ31のハウジングの対の
側壁47に溝部49及び係止穴51を形成し,相手コネクタ33の
ハウジング39の対の側面にこの溝部49に嵌め込まれる回転中心
突起53と係止穴51に嵌め込まれる係止突起60が形成されてい
る。そして,前記溝部49はコネクタ突合方向の軸線とほぼ直角方
向に伸びるようにされ,また中間部分に肩部56が形成されて,回
転中心突起53は溝部49の中間部分に形成された肩部56に当接
するように構成されている。
⒝そして,このようなコネクタ31と相手コネクタ33を嵌合させ
るときは,まず,コネクタ31に対して角度を持った状態で相手コ
ネクタ33の回転中心突起53を溝部49の肩部で停止する深さま
で挿入し,相手コネクタ33を回転させ,相手コネクタ33の係止
突起60をコネクタ31の係止穴51に入り込ませてコネクタ31
と相手コネクタ33を嵌合させる。
c以上からすれば,乙3発明の内容は以下のとおりであると認められ
る。
「一方のコネクタ31と,相手コネクタ33とを有する回転挿抜コ
ネクタにおいて,
一方のコネクタ31のハウジング35は対の側壁47を有し,これ
らの側壁47の内面には,溝部49及び係止穴51がそれぞれ形成さ
れ,これらの溝部49は,側壁47の延出方向,すなわち,コネクタ
突合方向の軸線とほぼ直角方向に延びるように形成され,また,溝部
49には,中間部分に肩部56及び,該肩部56が形成された面と対
向する面から溝内方へ突出する突出部が形成されており,
相手コネクタ33の相手ハウジング39は,対の側面及びこれと直
角をなす端面を備え,上記対の側面には,それぞれハウジング35の
溝部49に嵌め込まれる円柱形ないしそれに類する形状の回転中心突
起53が形成され,さらに上記対の側面には,一方のコネクタ31の
ハウジング35の係止穴51に嵌め込まれる係止突起60が上記端面
に寄った位置に形成され,
相手コネクタ33は,一方のコネクタ31におけるコネクタ突合方
向の軸線に対してある角度を持った状態でその回転中心突起53を溝
部49に肩部56で停止する深さまで挿入され,その後に,相手コネ
クタ33を反時計方向に回転させ,その結果,相手コネクタ33の係
止突起60は,一方のコネクタ31の係止穴51に入り込み回転が停
止すると共にロックされ,そして,このロックされた状態において,
回転中心突起53は溝部49の上記突出部の下方に位置し,
さらに,相手コネクタ33を一方のコネクタ31から引き抜く際に
は,相手コネクタ33を時計方向に回転した後に,回転中心突起53
を溝部49にて案内しつつ上方に引き抜く
回転挿抜コネクタ。」
d乙3発明におけるコネクタ相互の嵌合過程について
(a)乙3発明において,コネクタ31と相手コネクタ33とを嵌合
させるには,まず,相手コネクタ33の前端がもち上がって相手コ
ネクタ33が上向き傾斜姿勢にある状態で,相手コネクタ33の回
転中心突起53をコネクタ31の溝部49に肩部56で停止する深
さまで挿入する。そうすると,溝部49は,コネクタの突合方向に
対し直交する方向に延びるように形成されているから,相手コネク
タ33の回転中心突起53もコネクタの突合方向に対して直交する
方向に挿入されるが,肩部56において溝部49が折れ曲がるよう
に形成されているため,肩部56で形成される溝部49の底面に回
転中心突起53が当たり,ここで停止する状態となる。そして,こ
の状態のままで,相手コネクタ33を,回転中心突起53を中心に
反時計回りに回転させると,相手コネクタ33をコネクタ31から
コネクタ突合方向に直交する溝部方向に動かすことになり,両者の
嵌合状態が解除されてしまう。そこで,乙3発明では,この状態で
相手コネクタ33を回転させるのではなく,回転中心突起53を肩
部56に沿って動かすことで,相手コネクタ33をコネクタ31に
対してコネクタ突合方向のケーブル44側にずらした状態にして,
相手コネクタ33をコネクタ突合方向に直交する溝部方向に動かす
ことができないようにし,その後,回転中心突起53を中心に相手
コネクタ33を回転させているといえる(第3図参照)。乙3発明
は,この状態で相手コネクタ33を回転させてコネクタ31を嵌合
状態とする(第5図)ものである。
⒝以上からすると,相手コネクタ33は,回転中心突起53が溝部
49に形成された肩部56のケーブル44側に当接している状態
(乙3の第3図の状態)では,相手コネクタ33の前端がもち上が
って,上向き傾斜姿勢にある状態であり,この状態から相手コネク
タ33を回転させ,嵌合終了状態にするものである。このときの回
転の中心は回転中心突起53であるから,回転中心突起53の断面
が円形であるとすると,相手コネクタ33の回転の前後で,回転中
心突起53の最後方位置(ケーブル44側の位置)は変わらない。
そして,乙3の第3図の記載に加え,回転中心突起53が肩部56
の中で回転するときの中心となるものであり,相手コネクタ33が
円滑に回転するように形成されていると解されることや,回転させ
る前後及びその途中において,相手コネクタ33がコネクタ31に
対して上下左右方向に移動できるような隙間が回転中心突起53と
肩部56との間に生じるのはコネクタ同士の確実な嵌合という観点
からして望ましくないことを考慮すると,回転中心突起53の断面
の形状は,基本的には円形が想定されているといえる。
⒞もっとも,乙3の特許請求の範囲において,回転中心突起の形状
についての言及がないことからすれば,円滑な回転動作やコネクタ
の確実な嵌合に支障が出ない限度で,回転中心突起53の断面が円
形以外の形状となることも許容されているものと解される。そして,
回転中心突起の断面が円形でない場合には,その形状に応じて回転
中心突起53の最後方位置が相手コネクタ33の回転の前後で変わ
ることになるが,乙3にはこの点に関する記載はなく,回転によっ
て,回転中心突起53の最後方位置が回転前に比較して後方に位置
するという技術思想は記載されていない。
⒟したがって,乙3発明は,コネクタ31から相手コネクタ33が
外れることを防止するために,回転中心突起53が肩部56の上面
に当接して,相手コネクタ33がコネクタ31に対して上方に動く
のを防いでいるものであるが,回転中心突起53の上方に肩部56
の上面が位置するように,相手コネクタ33が傾斜している状態で
肩部56の前側から後側(ケーブル側)へ回転中心突起53を移動
させているものであり,相手コネクタ33の回転により回転中心突
起53の最後方位置が後方(ケーブル側)へ移動するものではない。
e以上を前提として,本件特許発明2と乙3発明と対比する。
乙3発明の「相手コネクタ33」は本件特許発明2の「ケーブルコ
ネクタ」に相当し,以下同様に,「一方のコネクタ31」は「レセプ
タクルコネクタ」に,「回転中心突起53」は「ロック突部」に,
「溝部49」は「ロック溝部」に,「係止突起60」は「係止部」に,
「係止穴51」は「被係止部」に,「回転挿抜コネクタ」は「電気コ
ネクタ組立体」に,それぞれ相当する。
以上からすれば,本件特許発明2と乙3発明とは,本件特許発明2
では「コネクタ嵌合過程にて,上記ケーブルコネクタの前端がもち上
がって該ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき,上記ロック
突部の突部後縁の最後方位置が,上記ケーブルコネクタがコネクタ嵌
合終了姿勢にあるときと比較して前方に位置し,上記ロック突部が上
記ロック溝部内に進入して所定位置に達した後に上記上向き傾斜姿勢
が解除されて上記ケーブルコネクタが上記コネクタ嵌合終了姿勢とな
ったとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が上記突出部の最
前方位置よりも後方に位置し,該ケーブルコネクタが後端側をもち上
げられて抜出方向に移動されようとしたとき,上記ロック突部が上記
抜出方向で上記突出部と当接して,上記ケーブルコネクタの抜出が阻
止されるようになっていることを特徴とする」ものであるのに対し,
乙3発明は,そのような構成を備えていない点において本件特許発明
2と相違するものと認められる。
なお,ロック突部の形状については,本件特許発明2では,ロック
突部に突部前縁と突部後縁が形成されているのに対し,乙3発明にお
ける「回転中心突起53」は,円滑な回転動作のために,その断面の
形状は円形ないしそれに近い形状が想定されているといえるが,前記
dのとおり,これが両発明の相違点であるとまではいえない。
f以上のとおり,本件特許発明2は乙3発明と相違するので,両者が
同一(特許法29条1項3号)とはいえず,本件特許発明2は新規性
を有するものである。
(イ)乙3発明に基づく本件特許発明2の容易想到性
a前記(ア)dのとおり,乙3発明は,相手コネクタ33の回転中心突
起53を溝部49の肩部56において,前側から後側(ケーブル44
側)へ移動させることにより,回転中心突起53が肩部56の上面に
当接することで,相手コネクタ33がコネクタ31から上方へ外れる
ことを防止するものである。
そして,被告が「ロック突部の形状を略多角形とすることが容易想
到である」ことの証拠として提出した乙7ないし10には,確かに,
コネクタにおいて嵌合操作の支点となる突部を多角形状としたものが
示されている(当事者間に争いがない。)ものの,いずれもロック突
部の突部後縁の最後方位置につき,コネクタ嵌合過程と嵌合終了時点
における前後方向の位置の変化や,嵌合終了時点におけるロック溝部
の突出部の最前方位置との前後関係について記載ないし示唆するもの
ではない。
また,そもそも前記(ア)eのとおり,乙3発明においては,円滑な
回転動作のために「回転中心突起53」の断面として円形ないしそれ
に近い形状が想定されているところ,これを,乙7ないし10に記載
された,コネクタにおいて嵌合操作の支点となる突部を多角形状とし
たものに変更すべき動機付けはなく,むしろ回転中心突起の断面を多
角形状のものにすると円滑な回転動作が妨げられることからすれば,
このような変更については阻害要因があるというべきである。
以上のとおり,乙3発明における「回転中心突起」の断面形状につ
き,乙7ないし10を適用して多角形状にすることには阻害要因があ
る上,仮にこれを適用したとしても,ロック突部の突部後縁の最後方
位置につき,コネクタ嵌合過程と嵌合終了時点における前後方向の位
置の変化や,嵌合終了時点におけるロック溝部の突出部の最前方位置
との前後関係について記載ないし示唆のない乙7ないし10を適用す
ることによって本件特許発明2に想到することは容易ではないという
べきであり,本件特許発明2は進歩性を有するものである。
b被告は,本件特許発明2は「ケーブルコネクタの回転のみによって,
すなわちケーブルコネクタとレセプタクルコネクタ間のスライドなど
による相対位置の変位なしに,ロック突部の最後方位置が突出部に対
して位置変化を起こす構成」に限定されていると解さなければ,進歩
性を欠き,本件特許2は無効であるとも主張する。
しかし,そもそも本件特許発明2の特許請求の範囲の記載において,
上記のような限定はいずれもされていないから,このような限定解釈
をすべき理由はない。そして,既に検討したとおり,乙3発明と本件
特許発明2には,前記(ア)e記載の相違点が存在し,同相違点は乙7
ないし10などを考慮しても容易想到ではないため,本件特許発明2
が進歩性を欠くともいえない。したがって,被告の上記主張は採用で
きない。
オ以上のとおり,本件特許2に被告の主張する無効理由があるとは認め
られない。
(2)小括
前記1のとおり,被告製品においては本件特許発明2が実施されており,
かつ,前記(1)のとおり,本件特許2に無効理由があるとは認められないか
ら,被告製品の本件特許発明1に係る構成要件充足性及び本件特許1の有
効性については検討するまでもなく,本件特許権2の侵害に基づく原告の
損害額の検討に進むこととする。
3争点(3)(原告の損害額)について
(1)証拠(乙22)によれば,被告による被告製品(より正確には被告製品
を構成する各部品)の売上高(平成25年9月13日から平成27年8月末
日まで)は合計1億0617万4127円であることが認められる。そして,
原告は,被告製品の販売に伴う被告の限界利益率は少なくとも30%である
と主張しており,被告はこれを争いつつ,具体的な限界利益率を主張立証し
ないため,原告が主張する被告の限界利益率を採用することとすると,被告
製品の販売に伴う被告の利益額は合計3185万2238円となるから,特
許法102条2項により,これを原告の損害額と推定する。
そして,遅延損害金について検討すると,原告は,平成26年5月13日
までの損害と翌14日以降の損害について遅延損害金の起算点を2つに分け
ているため,上記損害額についても2つに分けることとする。証拠(乙2
2)によれば,被告製品の売上高は月単位で把握できるところ,被告製品の
販売開始から平成26年4月までの売上高は合計2945万1436円(被
告の利益は,その3割相当額である883万5431円)であり,それ以降
の被告製品の売上高は合計7672万2691円(被告の利益は,その3割
相当額である2301万6807円)であると認められるため,前者につき
平成26年6月27日から,後者につき平成27年9月1日から,それぞれ
支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を命じることとする。
なお,原告の予備的主張(特許法102条3項に基づく主張)については,
予備的主張に係る原告の損害額が主位的主張に係る原告の損害額を超えるも
のとは認められないため,判断する必要がない。
(2)なお,被告は,原告が本件特許発明1及び2を実施しておらず,被告製
品と競合する製品の製造・販売等をも行っていないから,被告が被告製品を
販売しなかったとしても原告がこれに対応する利益を得られる関係にはない
とか,特許法102条2項の推定を覆滅する事由があると主張する。
しかし,証拠(甲6,7,19,20,22ないし27)によれば,原告
がDF61シリーズの製品を製造・販売しており,同製品はLED照明等に
用いられる「基板対ケーブル小型電源用スウィングロックコネクタ」であ
ること,一方,被告製品も,LED照明用に用いられる基板対電線接続圧着
コネクタであること,原告及び被告の取引先が,DF61シリーズの製品と
被告製品とを比較した上で,価格等の理由により,DF61シリーズの製品
を採用せず被告製品を採用したことが少なくとも複数回あったことが認めら
れる。以上からすれば,少なくとも原告のDF61シリーズの製品は被告製
品と同様にLED照明用のコネクタであって,原告のDF61シリーズの製
品と被告製品とは競合品であることが認められるから,被告が被告製品を販
売しなかった場合に原告がこれに対応する利益を得られる可能性が十分にあ
ったといえ,被告の上記主張は前提を欠くものである。
このほか,被告は,従来の被告製品の取引先が,被告による設計変更後も,
同設計変更後の被告の製品を購入しており,同設計変更後にDF57及び6
1シリーズの製品の販売量が増加していないことからすれば,被告が被告製
品を販売したことによる原告の損害はないとも主張する。しかし,上記のと
おり,原告が現に製造販売しているDF61シリーズの製品は被告製品と同
じくLED照明用コネクタであること,また,原告及び被告の取引先が,D
F61シリーズの製品と被告製品とを比較した上で,価格等の理由により,
DF61シリーズの製品を採用せず被告製品を採用したことが少なくとも複
数回あったことが認められるのであるから,原告に損害が発生していること
は優に認められ,被告の上記主張は採用できない。
4争点(4)(差止め及び廃棄の必要性)について
被告は,被告製品のうちソケットコネクタの後方突部を円形状に変更し,平
成27年4月7日以降は(設計変更前の)被告製品を販売しておらず,今後,
再び被告製品を販売する予定もないから,差止めの必要性がないと主張する。
しかし,被告がソケットコネクタの後方突部の形状を円形状に戻すことは難
しくないと窺われることに加え,被告は,本件訴訟において,一貫して,被告
製品が本件特許発明1及び2を実施しておらず,本件特許1及び2がいずれも
無効である旨を主張していること等からすれば,被告が今後,被告製品を製
造・販売するおそれがあると認められるから,被告製品の製造・販売等の差止
めを命じる必要性がある。
他方で,証拠(乙29)によれば,被告は,被告製品を構成する部品のうち
ソケットコネクタを廃棄したことが認められるところ,証拠(乙23,26)
及び弁論の全趣旨からすれば,ソケットコネクタ以外の部品については被告製
品以外の製品にも使用可能であるものと認められることからすれば,被告製品
の廃棄を求める原告の請求は,理由がないというべきである。
5結論
以上によれば,原告の請求は,被告製品の製造・販売等の差止め,損害賠償
として3185万2238円及びうち883万5431円に対する不法行為後
の日である平成26年6月27日から,うち2301万6807円に対する不
法行為後の日である平成27年9月1日から,それぞれ支払済みまで民法所定
の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲で理由があるからこれら
を認容し,その余は理由がないからこれらをいずれも棄却することとし,主文
のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官沖中康人
裁判官矢口俊哉
裁判官宇野遥子
(別紙)
物件目録
「LEHコネクタ」
ただし,以下の2通りの組合せで販売される。
<キーパターンA>
①型番「SLEH-001T-P0.15」の(ケーブル側コネクタの)コンタクト(端子)
②型番「LEHR-02V-S-A(HF)」の(ケーブル側コネクタの)ハウジング
③型番「BM02B-LEHSS-A-TB(HF)」のベース付きコンタクト(基板側コネクタ)
からなる。
<キーパターンB>
①型番「SLEH-001T-P0.15」の(ケーブル側コネクタの)コンタクト(端子)
②型番「LEHR-02V-E-B(HF)」の(ケーブル側コネクタの)ハウジング
③型番「BM02B-LEHES-B-TB(HF)」のベース付きコンタクト(基板側コネクタ)
からなる。

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