弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1 被告は,原告に対し,金1790万5596円並びに内金1524万8996円に対する
平成11年6月11日から支払済みまで年6分の割合による金員及び内金265万6
600円に対する平成13年3月8日から支払済みまで年6分の割合による金員を支
払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを5分し,その2を原告の負担とし,その余を被告の負担とす
る。
4 この判決は,第1,3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,金2864万円並びに内金2524万円に対する平成11年6
月11日から支払済みまで及び内金340万円に対する平成13年3月8日から支払
済みまで各年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,原告が居住の用に供していた建物についての普
通火災保険契約及び同建物内の家財についての住宅総合保険契約に基づき,火
災により各保険契約の目的物は全焼したとして,保険金を請求している事案であ
り,被告は,①同火災は原告の関与の下に発生したものである,②原告は同建物
を改築中であったのにB3火災保険株式会社(以下「B3」という。)に通知しなかっ
たから普通火災保険契約については支払義務がないし,住宅総合保険契約につ
いては解除したから支払義務がない,③原告はB3に対し火災による損害額につ
いて不実の申告をしたから支払義務がないとして争っている。
1 争いのない事実
(1) 原告とB3は,昭和59年4月26日,以下のとおり普通火災保険契約を締結
し,原告は,B3に対し,同日,下記の保険料を支払った(以下「本件普通火災保
険契約」という。)。
ア 保険金1500万円
イ 保険料27万6450円
ウ 払込期日昭和59年4月26日
エ 保険契約者原告
オ 保険の目的の所在地東京都葛飾区l丁目m番n号
カ 保険の目的及びこれを収容する建物の構造・用途
木造瓦葺2階建作業所住宅1棟(以下「本件建物」という。)
キ 保険種類普通火災
(2) 原告とB3は,平成9年12月29日,以下のとおり住宅総合保険契約を締結
し,原告は,B3に対し,同日,下記の保険料を支払った(以下「本件住宅総合保
険契約」という。)。
ア 保険金1024万円
イ 保険料2万1100円
ウ 払込期日平成9年12月29日
エ 保険契約者原告
オ 保険の目的の所在地東京都葛飾区l丁目m番n号
カ 保険の目的建物内の家財
キ 保険種類住宅総合
(3) 平成10年4月5日午後7時22分ころ,改築工事中の本件建物の2階北西角
に位置する仮資材置場として使用していた4.5畳間において火災が発生した
(以下「本件火災」という。)。
(4) B3は,原告に対し,同年9月30日,本件住宅総合保険契約について,告知義
務違反により,解除するとの意思表示をした。
(5) B3は,原告に対し,平成13年3月23日の本件第13回弁論準備手続期日に
おいて,臨時費用保険金請求権,残存物取り片付け費用保険金請求権及び失
火見舞費用保険金請求権(以下,これらを総称して「臨時費用保険金請求権等」
という。)について,時効を援用するとの意思表示をした。
2 争点
(1) 本件火災は原告の関与の下に発生したか(故意免責の成否)。
(2)ア 被告は,原告が,B3に対し,本件建物について改築工事をしていたことを通
知していなかったことを理由に,本件普通火災保険契約について支払義務を
免れるか。
イ 被告は,原告が,B3に対し,本件建物について改築工事をしていなかったこ
とを告知しなかったことを理由に,本件住宅総合保険契約について解除して
支払義務を免れるか。
(3) 被告は,原告が本件火災による本件建物及び本件建物内の家財についての
損害額について,不実の申告をしたことを理由に,本件普通火災保険契約及び
本件住宅総合保険契約(以下,これらを総称して「本件各保険契約」という。)に
ついて支払義務を免れるか。
(4) 本件火災による本件建物及び本件建物内の家財についての損害額
(5) 原告の被告に対する臨時費用保険金請求権等の時効消滅の成否
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(故意免責の成否)について
(被告の主張)
原告は,本件火災発生時において,本件建物にいなかったが,以下の各事実
にかんがみると,本件火災は,原告の関与の下,補助参加人C1の放火により
発生したと考えられるから,被告は,原告に対し,本件普通火災保険契約につい
ては火災保険普通保険約款第2条第1項第1号により,本件住宅総合保険契約
については住宅総合保険普通保険約款第2条第1項第1号により,保険金を支
払う義務を負わない。
ア 出火原因
本件火災は,改築工事をしていた本件建物2階の北西角の仮資材置場とし
て使用していた4.5畳付近から出火したものであるところ,原告と共に本件建
物の改築工事に当たっていた補助参加人有限会社C2の代表者である補助
参加人C1は,平成10年4月5日,本件建物を訪れ,出火時間である午後7
時22分の直前である午後6時50分過ぎころ及び午後7時6,7分ころの二度
にわたって本件建物の2階に上がっており,他に出火時間以前に本件建物の
2階に上がった者はいない。
そして,補助参加人C1は,2階4.5畳間の仮資材置場で喫煙したとしてい
るが,本件火災が発見された午後7時28分ころには,本件建物の2階から炎
が出るほど燃え上がっていたこと,消防が本件建物に到着した午後7時35分
ころには,既に屋根が燃え抜け,1,2階の開口部及び軒下から激しく炎が噴
出し,火災の最盛期の状況であったことからすると,たばこによってこのような
短時間で火勢が強くなることは考えられないから,本件火災の出火原因がた
ばこであると考えることはできない。
また,電気配線については短絡等が認められておらず,上記のような火災
発生の状況からして,電気コードの発熱による発火やコンセントに付着したゴ
ミからの発火も考えられない。
さらに,補助参加人C1は,本件火災の直前である平成10年2月末にI海上
保険株式会社(以下「I」という。)との間に締結していた工事用保険の保険金
額を金1750万円から金2000万円に増額している。
以上の事情からすると,本件火災は,補助参加人C1の放火行為により発
生したものである。
イ 原告の動機
原告及び補助参加人C1は,金融業者であるEに対し,多額の借金を負っ
ており,原告は,Eの指示又は紹介により,本件火災前である平成9年12月2
9日に本件住宅総合保険契約を申し込み,本件火災後である平成10年6月
19日に本件建物の敷地である東京都葛飾区o丁目p,同所q,同所rの各土
地(以下「本件土地」という。)の売却を行い,売却代金によって,Eからの借入
金の返済を行っており,原告,補助参加人C1及びEは,本件火災発生により
利得を得ることができるという利害が一致した状況にあった。
(ア) 原告の経済状況
原告は,本件火災当時,ローンの残債務として1218万5725円,Eへ
の債務として567万円,本件建物の解体費用100万円,補助参加人らへ
の残債務560万円から2126万0210円の合計2500万円から4000万
円の負債を負っていた。
そして,原告のローン返済金は月額12万7417円であり,他にも負債が
ある一方,原告一家の収入は月額45万円程度であったから,上記負債の
支払は不可能な状況にあった。そのような状況の中,原告は,本件火災前
である平成9年12月29日に本件住宅総合保険契約を申し込み,その申込
みと比較的近接した時期である平成10年4月5日に本件火災が発生し,本
件火災後2箇月余りしか経過していない同年6月19日には,本件土地を売
却してすべての借財を返済することができた。加えて,原告は,本件火災に
より不実申告をして水増しした保険金2524万円を得ることができれば,上
記負債を全額支払をした上で,新たな自宅の購入が可能となる。
以上の事実からすると,原告は,本件火災によって利得を得ることは明
らかであり,原告には,補助参加人C1の放火行為に関与する動機が存在
する。
(イ) 補助参加人C2及び補助参加人C1の経済状況
補助参加人C2は,本件火災後である平成10年5月6日に第1回目の手
形不渡事故を起こして事実上倒産していたから,本件火災時には既に債務
超過であったし,Eに対してもいくらかの債務を負担していた。また,補助参
加人C2は,本件火災による損害を,当初金500万円程度と言っておきな
がら,突然,工事保険の保険金額である金2000万円を超える損害を主張
するに至った。
補助参加人C2及び補助参加人C1は,保険会社に対する不実申告によ
る水増し請求によって,本件火災から利得を得る地位にある。
(ウ) Eの利害
Eは,原告が所有していた本件土地及び建物に担保を設定していたとこ
ろ,原告が本件土地を売却するに際して,仲介手数料を得るとともに,600
万円又は1200万円の債権の回収を行った。
これに加えて,Eが,原告がB3に対し保険金を請求するに当たり,B3の
原告に対する調査,事情聴取に介入して,B3に十分な調査をさせず,原告
に対して保険金を支払わせようとしたことにかんがみると,Eは,本件火災
による保険金によって,利益を受ける立場にあったというべきである。
(エ) 以上によれば,原告,補助参加人C1及びEの三者は,本件火災によっ
てそれぞれ利得を得る立場にあったというべきであり,本件火災はそのうち
の一人である補助参加人C1によって惹起されたのであるが,原告,補助
参加人C1及びEの三者の関係からすると,本件火災は,原告の関与の下
に,補助参加人C1によって引き起こされたものであると考えられる。
(原告の主張)
ア 出火原因
原告は,本件火災当時,本件建物にはいなかったのであり,原告の妻であ
るD1も,本件火災前に,出火場所である本件建物の2階には近づいていな
い。
イ 原告の動機
(ア) 原告の経済状況
本件建物についての本件普通火災保険契約による保険金額は1500万
円であり,本件建物内の家財についての本件住宅総合保険契約による保
険金額は1024万円であり,妥当な金額であるから,原告は,本件火災に
よって利得を得ることはない。
そして,原告が,本件火災後に,本件土地を売却したのは,①本件建物
焼失後,アパートを借りざるを得ず,その上に住宅ローンの返済を続けるこ
とが経済的に困難であったこと,②本件土地を所有していても,建物を新築
する費用のめどが立たないこと,③本件火災により近所に損害が及んだの
で住みづらくなったことが原因であって,何ら不自然な点はない。
また,原告は,本件土地を2000万円で売却したが,ローン返済に121
8万5725円,解体費用に100万円,補助参加人C1に代わってEに対す
る返済として567万円,不動産業者に仲介手数料60万円を支払っている
のであり,手元にお金はほとんど残らなかった。そして,原告は,仮に保険
金2524万円の支払を受けたとしても,新たに同規模の土地付き一戸建て
住宅を購入することは不可能であり,焼失した家財の購入もできないので
あるから,本件火災による保険金取得によって利得を得ることはない。
したがって,原告には,故意に本件火災を惹起させて,保険金を得ようと
する動機は存しない。
(イ) 原告と補助参加人ら及びEとの関係
原告は,補助参加人C2に対し,改築材料費債務を負担していたところ,
補助参加人C1から,Eから借入れをするに当たって名義貸しをするよう頼
まれ,補助参加人らのために,Eから,原告名義で,600万円を借り入れ
た。そして,原告は,Eに対し,本件土地の売却代金から567万円を支払っ
ているが,これは,原告が補助参加人C2に対し負担していた改築材料費
の債務を消滅させるために,補助参加人C2に代わってEの債務を支払っ
たものである。そうすると,原告は,Eに対し,実質的には何らの債務も負担
していなかったのであるから,被告の,原告はEに対して債務を負担してい
たから,Eと共通の利害関係があるとする主張は理由がない。
(補助参加人らの主張)
ア 出火原因
補助参加人C1は,平成10年4月5日,原告の長女の部屋に使用するクロ
スを決定するため,本件建物を訪れ,午後6時40分ころクロスの使用量など
を決めるため,本件建物の2階に上がり,寸法を測ったりした。その後,補助
参加人C1は,たばこを吸いながら,クロスの数量計算をしたが,たばこの火
は灰皿で消している。その後,補助参加人C1は,1階に降りたところ,2階か
ら明かりが漏れていたため,再び2階に戻って確認したところ,作業灯はすべ
て消灯されており,階段上の60ワットの電球だけがついていたので,火災の
心配もなく防犯になると考え,その電球をつけたまま降りてきた。以上のよう
に,補助参加人C1は,故意に放火していないことはもとより,たばこの不始末
による失火も惹起させていない。
本件火災の出火原因は,本件建物1階の天井裏に巻いて置いてあった電
気コードが加熱して火災に至ったものか,コンセントにモータードライバーの充
電器のコードが差し込まれたままであったので,そのコンセントに付着してい
るゴミに通電して火災に至ったものと考えられる。
補助参加人C2は,本件建物改築工事に際し,Iとの間に,平成9年12月1
8日に保険金額1750万円の建設工事保険契約を締結し,平成10年3月23
日保険金額を2000万円に増額したが,それは,平成9年12月18日に加入
した保険の保険期間が切れ,また,補助参加人C2は,上記保険により,補助
参加人C2の工事機器と工事材料の双方が補償されると思い,保険金額を増
額してもそれほど保険料は増えなかったためであり,補助参加人C2が,上記
保険に加入した経緯には不自然な点はない。
(2) 争点(2)(通知及び告知義務違反)について
(被告の主張)
ア 原告は,本件建物の1階部分の玄関,ダイニング・リビングの改装工事,2階
の子供用二部屋の改築工事を行い,そのために630万円を下らない代金を
支払ったことを自認しているし,改築業者である補助参加人C2からの請求額
は2126万円余りに上っている。このように,原告は,本件建物に,大規模な
改築工事を行っていたものである。
イ 上記改装工事は,本件普通火災保険契約の普通保険約款第8条第1項(3)
の「改築」又は「引き続き15日以上にわたって修繕すること」に該当するとこ
ろ,原告は,B3に対し,上記改築工事を行っていたことについて,書面による
通知はもとより口頭の通知もしていなかった。
ウ また,上記のように改築工事が行われれば,工事人や関係者等の出入り,
工事用具や火器の使用等が頻繁となり,火災や盗難事故の発生する頻度が
大きく増加するので,原告は,B3に対し,商法第644条第1項に基づき,本
件建物の改築工事について,告知しなければならないのに,これをしなかっ
た。そこで,B3は,原告に対し,上記1(4)のとおり,本件住宅総合保険契約に
ついて,告知義務違反を理由に解除するとの意思表示をした。
エ 以上によれば,被告は,原告に対し,本件普通火災保険契約については通
知義務違反により,本件住宅総合保険契約については告知義務違反による
解除により,それぞれ保険金を支払う義務を負担していない。
(原告の主張)
ア 原告は,本件土地建物を購入する際,株式会社G1銀行(以下「G1銀行」と
いう。)向島支店から融資を受け,同時に,同支店の融資担当者を通じ,保険
代理店株式会社H(以下「H」という。)を介して,B3との間で,本件普通火災
保険契約を締結した。
そして,原告は,G1銀行から,平成9年1月30日,住宅ローンの金利を下
げ,本件建物の改築工事費を賄うため,同支店において,貸付担当行員G2
に対し,上記の目的であることを告げ,改築工事の見積りを提示した上で,上
記住宅ローンの借換えをした。
イ 原告は,G2に対し,上記借換えの際,本件普通火災保険契約について変更
の必要がないかを尋ねたところ,G2は,変更の必要はないと回答した。
さらに,後記ウのとおり,B3の保険代理店であるF2は,本件建物におい
て,改築工事がされている事実を知っていたにもかかわらず,原告に対し,告
知する必要があることを告げていない。
以上のように,原告は,本件普通火災保険契約の締結の担当であった者
に対し,改築の事実を告知しているのであって,これに対し,本件普通火災保
険契約の締結の担当者は,書面による通知が必要であることを何ら告げなか
ったのであるから,原告が書面による通知をしていないことを理由に,被告に
おいて,本件普通火災保険契約の告知義務が果たされていないと主張するこ
とは信義則に反し権利の濫用として許されない。
ウ また,B3の保険代理店であるF2は,本件住宅総合保険契約を締結するに
当たり,本件建物を訪れ,建物内に入って家財等の調査を行っているのであ
り,原告は,F2に対し,本件建物において改築工事をしていることを告げてい
るし,仮に明示的に告げていなかったとしても,原告には告げなかったことに
ついて故意又は重過失は存在しない。
さらに,少なくとも,B3は,本件住宅総合保険契約を締結する際,原告が,
本件建物において,改築工事を行っていたことを知っていたのであるし,仮に
知らなかったとしても,上記のようにF2が調査していることからすると,知らな
かったことについて,重過失がある。
加えて,商法第644条第2項により,解除権は,保険者が解除の原因を知
ったときから1箇月以内に行使しなければ消滅するものであるところ,本件に
おいては,B3は遅くとも平成10年8月8日には,解除の原因を知ったにもか
かわらず,B3が解除の意思表示をしたのは同年9月30日であるから,B3の
解除権は既に消滅している。
エ 以上によれば,被告は,原告に対し,本件各保険契約について,通知義務
違反ないし告知義務違反による解除により,保険金の支払を拒むことはでき
ない。
(3) 争点(3)(不実申告)について
(被告の主張)
ア 本件建物について
原告は,B3に対し,本件建物の改築費用について,平成10年8月1日に
は,補助参加人C2からの請求書に記載された請求額である2126万0210
円のとおりであると回答したが,同月8日には,上記請求書の各項目について
○△×を付して,その内容の一部を否認するに至った。そのため,B3は,原
告に対し,本件建物の改築費用について確認すべく,同年9月18日に,書面
において本件建物についての改築費用を回答するよう促したが,原告は返答
しなかった。
その後,原告は,訴訟係属中に,改築費用の額を,順次1184万9985
円,1376万6109円,1448万5531円へと修正してきているし,改築工事
の時期についても,当初は,平成8年7月から8月ころ開始したと主張してい
たのに,その後になって,昭和59年から平成8年までは,1階の風呂場,トイ
レ,脱衣場の部分の床のコンクリート張りを行ったのみで,平成9年2月ころか
ら,1階リビング,台所,玄関,廊下,2階への内階段,2階6畳間,ベランダを
改築したと主張するに至ったが,これは,減価償却額を零にしようとするねら
いの下にされたものである。
本件建物の保険金額が1500万円であったことからすると,上記のように
原告が本訴において主張している1400万円余りの改築費用は過大であって
信用できないものであるし,改築時期についても信用できない。
また,本件建物の価値については,減価償却した上で算出すべきところ,そ
の額は608万1343円にすぎないものであり,それと,原告が本件建物の現
在価値であると主張する本件建物の購入価格である1950万円に改築費用
を加えた額の比率を考えても,原告が,本件建物の価値について,不実の過
大な申告をしていることは明らかである。
イ 本件建物内の家財について
原告は,B3に対し,り災家財道具として,金額を明示したものだけでも16
71万5000円の損害があると申告した。しかしながら,原告が,損害として申
告した家財の中には自動車,権利証,判子など保険目的外の物や建物付属
設備,大工道具及び建築用資材など家財に含まれないことが明白な物も入っ
ており,さらに,ドラムセットや和服などの高価品については,その痕跡も見当
たらない物も数多く含まれており,これらを除外すると,原告の家財の損害額
は,165万4200円にすぎない。
ウ 以上によれば,原告は,被告に対し,本件建物の改築費用ひいては本件建
物の価値及び本件建物内の家財について,不実の申告をしていたというべき
であり,当然に原告はそのことを知悉していたと考えられるから,被告は,原
告に対し,実際に存在した損害品も含めて,本件普通火災保険契約及び本件
住宅総合保険契約に基づく保険金を支払う義務はない。
(原告の主張)
ア 本件建物について
原告は,昭和59年に本件建物を購入してから,1階は作業場でほぼ全面
土間の状態であり,2階は2所帯用であった本件建物に,本件火災発生まで
継続して改築を行い,1階はリビング,台所,風呂場,トイレを作り,2階は1所
帯用の建物にした。原告は,改築に使用した資材等の納品書や領収書を基
に,より正確な改築費用を算出しようとしてきたものであり,不実の申告をしよ
うとしたものではないし,本件建物の価値に比して改築費用がかなりの割合に
上るとしても,それは本件建物所有者である原告の選択によるものであるか
ら,不実申告であることを示すものということはできない。
イ 本件建物内の家財について
B3は,調査会社である株式会社J1鑑定事務所(以下「J1鑑定事務所」と
いう。)に依頼して,本件火災による損害額の調査をしたところ,本件火災現
場に赴いたJ1鑑定事務所のJ2の調査は,写真によりその存在が確認できる
ものについても,存在していなかったとするなど極めてずさんなものであった。
その後,J1鑑定事務所のJ3が,J2のメモや写真などを手掛かりに,再度本
件建物内の家財について損害の調査をしているが,J2の報告よりも相当数
多くの家財の存在を認めざるを得なくなっている。このように,B3は,ずさんな
調査しかしていないから,原告の申告が虚偽であり,不実申告であるとするこ
とはできない。
ウ 以上のとおり,被告の原告が不実申告をしたとする主張は理由がない。
(4) 争点(4)(損害額)について
(原告の主張)
ア 本件建物について
原告は,昭和59年に本件建物を購入してから,平成8年までに,本件建物
について,1階部分の浄化槽や水槽タンクの撤去,中2階の撤去,2階排水管
の工事,屋根の物干しの撤去,さらに1階の土間にコンクリートを張り,風呂,
トイレ,脱衣場を作るといった改築を行った。これらの改築に要した費用は,2
83万3672円である。
そして,原告は,平成9年2月ころから,1階については,リビング,台所,玄
関,廊下,2階への内階段を作り始め,このうちリビングと台所については平
成9年末に完成し,玄関,廊下,内階段については平成10年の本件火災時
にほぼ完成していた。また,原告は,2階部分についても,平成9年2月ころか
ら改築を着工し,6畳,ベランダ,物干し部分を改築した。これらの改築に要し
た費用は,1165万1859円である。
本件建物の再建築価格は1912万8002円であるところ,平成9年2月以
降の改築についてはまだ新しいので全額である1165万1859円を控除し,
残額747万6143円について,本件建物購入時である昭和59年から平成8
年まで13年間年2パーセントの割合による減価償却を行った額553万2345
円に,平成9年2月以降の改築費用である1165万1859円を加えた1718
万4204円が,本件建物の損害額となる。
したがって,保険金額が1500万円であるから,原告は,被告に対し,本件
普通火災保険契約に基づき,1500万円の保険金請求権を有する。
イ 本件建物内の家財について
原告は,本件火災により,本件建物内の家財について別紙原告の主張す
る動産の損害額の原告主張額欄のとおり合計1180万3156円の損害を被
った。
まず,当初J1鑑定事務所のJ2が行った家財の損害についての鑑定書は,
写真に明確に写っている家財でさえその存在を否認するといったずさんなも
のであり,後に鑑定を行ったJ3は,家財についての損害額を大幅に修正せざ
るを得なくなっているなど,J1鑑定事務所の鑑定はそのまま直ちに信用でき
るものではない。
そして,別紙原告の主張する動産の損害額の原告の主張欄のとおり,個別
の動産についても,J1鑑定事務所の鑑定は,認定すべき損害品について認
定していなかったり,その金額についても,安く認定するなどしている。
これらの点を考慮すれば,原告の損害額は,上記のとおり1180万3156
円と認定することができ,保険金額が1024万円であるから,原告は,被告に
対し,本件住宅総合保険契約に基づき,1024万円の保険金請求権を有す
る。
ウ 臨時費用保険金請求権等について
(ア) 臨時費用保険金
原告は,本件火災発生により,6箇月間の仮住まいの費用として仲介手
数料2万1000円及び賃料23万5600円を支払った。また,原告は,B3
から保険金の支払がされなかったため,長期的に生活する住居を賃貸する
ための費用として,礼金6万円,敷金6万円,仲介手数料6万3000円を支
払ったほか,賃料162万円,更新料6万円,強制家財保険1万5000円,
駐車場代27万1000円を支払った。
よって,原告は,被告に対し,本件普通火災保険契約に基づき,100万
円の臨時費用保険金請求権を有する。
(イ) 残存物取り片付け費用保険金
原告は,本件火災後,残存物の取り片付け費用として,170万7457円
を支出した。
したがって,原告は,被告に対し,本件普通火災保険契約及び本件住宅
総合保険契約に基づき,100万円の残存物取り片付け費用保険金請求権
を有する。
(ウ) 失火見舞費用保険金
原告は,本件火災によって,本件建物に隣接するO1,O2,O3,O4,O
5,O6,O7方の外壁などを損傷させた。
したがって,原告は,被告に対し,本件住宅総合保険契約に基づき,被
災世帯1世帯当たり20万円ずつ計140万円の失火見舞費用保険金請求
権を有する。
(被告の主張)
ア 本件建物について
原告は,上記(3)(被告の主張)アのとおり,本件建物についての改築時期
についての主張も,改築工事費用についての主張も変遷させており,到底信
用することはできない。
本件建物の価格は,再建築価格1912万8002円から,原告が本件建物
について行った改築工事の費用100万7642円を控除し,本件建物の建築
時である昭和37年から年2パーセントの割合による減価償却(72パーセン
ト)をした価額に,改築費用100万7642円を加えた,608万1343円であ
る。
イ 本件建物内の家財について
J2が本件火災現場で実際に確認した家財と,通常の家族であれば所有し
ていると認められる家財が損害にあったものと考えられるところ,その額は,6
81万3156円である。
ウ 臨時費用保険金請求権等について
(ア) 臨時費用保険金
原告が,原告主張のような金員を支出したことは知らない。
また,長期間の生活の場として賃借したマンション関係の出費は臨時費
用には当たらないし,本件住宅総合保険契約に基づき,住居関係の費用を
臨時費用保険金として請求することはできない。
(イ) 残存物取り片付け費用保険金
原告が,原告主張のような金員を支出したことは知らないし,家財の取り
片付けに170万7457円も要しないことは明らかである。
(ウ) 失火見舞費用保険金
原告が,本件火災により,隣家の外壁等を損傷させたことは知らない。
(5) 争点(5)(臨時費用保険金請求権等の時効消滅の成否)について
(被告の主張)
原告は,臨時費用保険金請求権等について,平成13年3月2日になって
初めて請求したものであるところ,B3は,原告に対し,平成10年9月30日付
けの郵便により,本件住宅総合保険契約に基づく保険金は支払えない旨の
通知をしている。
保険金の支払については,商法第663条により,2年の短期消滅時効が
定められているところ,原告は,B3に対し,本件住宅総合保険契約に基づく
保険金について,本件火災の日である平成10年4月5日から請求することが
できたし,遅くとも,上記のとおりB3が保険金支払を拒絶した時点である平成
10年10月ころには,請求することができた。
よって,原告が,B3に対し,本件住宅総合保険契約に基づく保険金を請求
できるようになってから2年が経過しており,上記1(5)のとおり,B3は時効の
援用をしたから,原告の臨時費用保険金請求権等は,時効消滅した。
(原告の主張)
臨時費用保険金請求権等は,火災保険金請求権に付属するもので,通常
被保険者は,約款上,臨時費用保険金請求権等が存在することを知らないこ
とが多いから,臨時費用保険金請求権等の消滅時効の起算点は,被保険者
において,臨時費用保険金請求権等が存在することを知ったとき,すなわち,
保険者において,書面又は口頭でその旨を明確に説明したときと解すべきで
ある。本件においては,保険者であるB3は,原告に対し,臨時費用保険金等
について,何ら説明をしていないから,臨時費用保険金請求権等の消滅時効
の起算点は到来していない。
また,上記のように臨時費用保険金請求権等が火災保険金請求権に付属
するものであることにかんがみると,被保険者が,本体である火災保険金請
求権を行使したときに,臨時費用保険金請求権等についても行使したものと
解すべきである。本件では,原告は,本件火災後2年以内に本件普通火災保
険契約及び本件住宅総合保険契約に基づく保険金請求の訴えを提起してい
るから,臨時費用保険金請求権等についても行使したといえ,消滅時効は完
成していない。
さらに,B3は,本体たる火災保険金請求権の存否について,立証に足りる
証拠もなく,そのような証拠が収集される見込みもないまま,いたずらに保険
金の支払を遅滞させようとして,交渉段階で保険金を一旦支払うかのように見
せながら,最終的には支払を拒み,本件訴訟提起後も不誠実な応訴態度を
貫いてきている。このようなB3の態度にかんがみれば,被告が臨時費用保
険金請求権等について,消滅時効を援用するのは信義則に反し,又は権利
の濫用として許されない。
加えて,臨時費用保険金請求権及び残存物取り片付け費用保険金請求権
については,本件普通火災保険契約約款第1条第2項,第3項及び第2条並
びに本件住宅総合保険契約約款第1条第8項及び第9項において,本体たる
火災保険金請求権の確定時に支払うと定められているところ,本件において
は,火災保険金請求権の有無は確定していないから,臨時費用保険金請求
権及び残存物取り片付け費用保険金請求権の消滅時効の起算点は到来して
いない。
第3 当裁判所の判断
1 証拠により認められる事実
(1) 原告が本件土地及び建物を取得した経過,原告が本件各保険契約を締結し
た経過並びに本件火災発生前までの原告,補助参加人ら及びEの関係等につ
いて,証拠によれば,以下の事実が認められる。
ア 原告は,当時大工として勤めていたK株式会社(以下「K」という。)の社長か
ら,昭和59年4月26日,本件土地及び建物を1950万円で買った。原告は,
G1銀行から,同日,約1500万円を借り入れて,Kに支払い,残額の450万
円については,Kの社長からの借入金として処理した。そして,原告は,同日,
G1銀行を通じて,G1銀行の関連会社で保険代理店であるHを介し,B3との
間で,本件普通火災保険契約を締結したが,保険契約締結の手続は,G1銀
行の担当者が行った(甲1,28,30,乙24,25,26,原告本人)。
イ 原告は,平成5年ころ,補助参加人C1と原告の妻の姉を通じて知り合って交
際を始めた。原告は,補助参加人C1からローンの金利を低くすることと改築
工事費用を調達するために,ローンの借換えを行うことを勧められ,平成8年
12月10日に補助参加人C2から発行を受けた総額552万0200円の改築
工事の見積書を利用して,平成9年1月30日,G1銀行から,当時のローンの
残額約800万円に改築工事費用約550万円を上乗せして合計1350万円を
借り入れ,毎月12万7417円を返済することとした。原告は,G1銀行の担当
者G2に対し,上記借換えに際し,本件建物の保険金額を変える必要がない
か確認したが,必要がないとのことだったので,本件普通火災保険契約につ
いては変更しなかったし,また,B3に対し,改築工事をすることについて,書
面で通知することをしていない。
原告は,上記上乗せして借りた550万円について,補助参加人C2に対し,
本件建物の改築工事費用の内金として70万円を支払い,K社長に200万円
を返済し,電気製品を100万円程度購入して使用した。なお,補助参加人C2
が,上記見積書を発行したのは,上記借換えのためであり,見積書は,実際
に本件建物について行われる改築工事の内容を示したものではなかった(甲
6,28,30,34,証人C1,原告本人)。
ウ 原告は,補助参加人C2の借入債務を連帯保証したり,物上保証人となった
りしていたが,原告は,同年11月26日,補助参加人C1から頼まれ,同人の
紹介で知り合ったEから原告名義で600万円を借り受け,これを補助参加人
C1に貸し付けた。Eは,本件土地及び建物に同日付け売買を原因とする所有
権移転仮登記及び同日付け金銭消費貸借を原因とする債権額1200万円の
抵当権を設定した(甲7の1及び3,乙24,25,原告本人)。
エ 補助参加人C2は,Iとの間で,同年12月18日,工事現場を本件建物,保険
期間を同日から3箇月間とし,保険金額を1750万円とする工事保険契約を
締結し,平成10年3月23日,保険期間を同日から3箇月間延長し,保険金額
を2000万円に増額する工事保険契約を締結した(丙1,2,証人C1,弁論の
全趣旨)。
オ B3の保険代理店有限会社F1(以下「F1」という。)のF2は,Eの紹介を受け
て,平成9年12月29日,原告に対する火災保険の勧誘のために本件建物に
赴いたところ,本件建物には既にHを代理店とする1500万円の本件普通火
災保険がかけられていたので,家財の保険を引き受けることとして,保険金額
1024万円の本件住宅総合保険に加入してもらうこととした。F2は,本件建物
に赴いた際,原告が自身で本件建物を改築している様子を感じていたが,F2
自身で2階に上がり,家財の数量や改築の状況について確かめることをしな
かった。原告は,本件住宅総合保険に加入した理由について,補助参加人C
1から加入の勧めがあったことと家財が増えてきたためであると陳述ないし供
述している(甲2,28,30,乙9,原告本人)。
(2) 本件火災発生後の原告とB3との交渉の経緯,原告,補助参加人ら及びEとの
関係等について,証拠によれば,以下の事実が認められる。
ア B3から本件火災による損害の調査の依頼を受けたJ1鑑定事務所の鑑定
人J2は,平成10年4月8日,本件建物に赴き,本件火災による損害額の鑑
定をしたが,2階に上がって家財の残骸を確認することはしなかった。そして,
J2は,家財の損害額は165万4200円とする鑑定書の中間報告を作成した
(甲30,乙8,証人J3,原告本人)。
イ 原告は,消防に対し,同月11日,本件建物は昭和59年5月に1950万円で
購入し,修繕,改築費用として1200万円かかっていると申告し,また,補助
参加人C1に対する改築工事費の支払は100万円から200万円くらいになっ
ていると思うと申告した。
また,原告は,消防に対し,平成10年4月11日,本件建物内の家財の損
害額について1671万5000円として申告した。同申告には,家財の損害品
として,自動車,権利書,実印,建物付属設備である洗面化粧台等,大工道
具,建築資材及び和服が含まれている(甲3,5,乙3の1)。
ウ Eは,原告名義で,B3お客様相談室に対し,同年6月1日及び4日,保険金
の支払が遅れていることについて抗議し,保険金の支払時期を明確にするよ
う求める内容証明郵便を送付した(乙10,11,原告本人)。
エ 原告は,株式会社東洋開発に対し,Eの仲介により,同月11日,本件土地
を2000万円で売った。
そして,原告は,上記の売買代金をもって,同月19日,G1銀行に対し,ロ
ーンの残額1218万5725円を返済し,また,Eに対し,原告名義で借り入れ
た金員の残金567万円を支払い,本件土地及び建物についてのEの所有権
移転仮登記及び抵当権設定登記を抹消した(甲7の1及び3,9,16,17,乙
24,25,原告本人)。
オ Eは,B3お客様相談室長に対し,同年7月30日,本件火災について保険金
が下りないこと及びB3の依頼した調査会社が,原告に対して調査する際に,
Eを悪く言ったことについて抗議する内容の手紙を送った。これに対し,B3
は,Eに対し,同年8月6日,本件火災は極めて火の回りが早く調査事項が多
岐にわたっているため,保険金の支払が遅れている旨の手紙を返送した(乙
13,14)。
カ 補助参加人C2は,B3に対し,本件火災後,原告に対する改築工事費用が
合計2126万0210円になっているとの平成9年4月30日付け,同年10月2
0日付け及び平成10年4月20日付け請求書を提出し,B3は,原告から,同
年8月1日,改築工事費用が同請求書のとおり間違いがないという旨の返答
を得た。しかし,原告は,B3に対し,同月8日,同請求書について,一部存在
するものもあるが,ほとんどは実際に工事をしたものではないと訂正した。原
告が,同請求書について,実際に存在するとして○を付したものの合計金額
は133万1420円である(甲10,11,乙4ないし6,原告本人)。
キ Eは,B3お客様相談室に対し,同月14日,原告にB3を紹介して原告が本
件住宅総合保険契約を締結したため,原告からEに問い合わせがくるとして,
いまだ原告に保険金の支払がされない理由について問い合わせたが,B3お
客様相談室は,契約者ではないEには答えられないと返答した(乙15)。
ク 原告は,Eに対し,同年9月1日,本件火災による保険金受取についての代
理権を付与する旨の委任状を交付した。また,B3は,原告に対し,同日,損
害額(建物の価値)についてと題する,本件建物についての改築前の購入時
の代金額,事故時の時価額,改築費用全額及び代金決済状況について等を
照会する書面を交付し,回答を求めたが,回答されなかったので,同月18
日,再度催告する書面を交付した(甲14,乙7,18,弁論の全趣旨)。
ケ B3は,原告に対し,同月30日,本件普通火災保険契約については通知義
務違反により保険金の支払義務がないこと,本件住宅総合保険契約につい
ては告知義務違反により保険金の支払義務がないことを通知した(乙23の1
及び2)。
コ J3は,平成12年10月10日,J2の作成した鑑定書において存在すると認
定されていない家財のうち,本件建物の火災後の写真に写っている家財や,
原告一家の家族構成からして通常存在すると考えられる家財について修正
し,家財についての損害額を681万3156円とする鑑定書を作成した(乙2
2,証人J3)。
2 争点(1)(故意免責の成否)について
(1) 本件火災の発生原因について
ア 本件火災の発生原因について,証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告は,本件火災が発生した日である平成10年4月5日午前6時30分
か7時ころ起床し,朝食をとってから,勤務先であるタクシー会社へ自転車
で向かって,タクシー運転手としての勤務を始め,秋葉原でタクシーの客待
ちをしているときに無線で本件火災が発生したことを知らされた(甲30,乙
3の1及び2,原告本人)。
(イ) D1は,同日午後6時ころ,外出先から帰宅して本件建物内にいたとこ
ろ,午後6時40分ころ,D1の姉である小林ちづ子と補助参加人C1が突然
訪ねてきて,一緒に外食に行くこととなり,午後7時5分ころ,本件建物を出
た。D1は,本件火災発生前の同月2日に本件建物2階の北西側仮資材置
場に行ってから,本件火災発生まで,同所に行っていない(甲28,乙3の
2,丙3)。
(ウ) 補助参加人C1は,上記(イ)のとおり,同月5日午後6時40分ころ,小林
ちづ子と共に本件建物を訪れ,20分間ほど本件建物の2階に上がり,さら
に,D1らと外食に出かける際の午後7時5分ころにも,本件建物の2階か
ら明かりが漏れているとして再び本件建物の2階に上がったが,用心のた
めに明かりをそのままにして1階に戻り外食に出かけた(甲30,乙2の2,3
の2,丙3)。
そして,補助参加人C1は,本件建物の2階に上がった行動について,1
回目は,本件建物の内装工事中だったので,材料の使用量や工事代金の
見積りをするために2階に上がったものであり,使用量を計算するときにた
ばこを吸ったが,たばこは灰皿できちんと消していること,2回目は,60ワッ
トの電球が一つついているだけだったので,そのままにしてすぐに降りてき
たと陳述ないし証言している(乙2の2,丙3,証人C1)。
(エ) 本件火災は,午後7時22分ころ,本件建物2階の,北西側仮資材置場
(4.5畳間)から出火して,午後7時28分ころには2階北西側から火を噴い
て燃え上がり,本件建物を全焼させ,午後9時54分ころ鎮火した。本件建
物において,電気配線の短絡痕は認められなかった(乙2の2ないし5)。
イ 上記に認定した事実によれば,原告は,本件火災発生当時,本件建物には
いなかったし,原告の妻であるD1も本件火災発生の3日前から,本件火災発
生場所である,本件建物2階北西側の仮資材置場には行っていないことが認
められるから,本件火災は,原告又はD1が自ら放火して発生させたと認める
ことはできない。
そして,証拠(乙2の3)によれば,補助参加人C1が喫煙してから短時間で
本件火災が発生していることから,補助参加人C1のたばこの火の不始末を
原因とする火災である可能性は極めて低いことが認められ,上記に認定した
とおり,補助参加人C1が,本件火災発生直前に2度にわたって本件建物の2
階に上がっており,他に本件建物の2階に上がった人物がいるとは認められ
ないことに照らすと,補助参加人C1が,何らかの形で,本件火災を発生させ
たことが疑われるといわなければならない。
(2) 補助参加人C1と原告の共謀について
そこで,原告と補助参加人C1との間に,補助参加人C1をして,本件火災を発
生させるような共謀が存したかどうかについて検討する。
ア 上記1(1)オに認定したとおり,原告は,本件火災発生の約4箇月前という比
較的近接した時期に,保険金額1024万円の本件住宅総合保険に加入して
いることが認められる。
また,上記1(1)イウ,1(2)エに認定したとおり,原告は,本件火災当時にお
いて,G1銀行に対し,1200万円を超える債務を有して,毎月12万7417円
の返済義務を負っており,また,Eに対して責任を負うべき567万円の負債を
有して,原告所有の本件土地及び建物についてEの所有権移転仮登記及び
抵当権が設定されていた。一方,証拠(原告本人)によれば,原告一家は,原
告夫婦と子供2人の4人家族であったこと,本件火災当時における収入は,タ
クシー運転手としての原告の収入が多いときで月額30万円,内職をしていた
D1の収入が多いときで月額10万円の合計月額40万円であったことが認め
られ,原告一家の収入からすると,原告は比較的多額の債務を負っており,
毎月の返済額からすると,その生活は楽ではなかったと認められる。
イ 後記に認定するとおり,原告が,補助参加人C2に対し,改築工事代金債務
としてどの程度の債務を負担していたかは不明であるが,上記1(1)イウ,1(2)
カに認定したとおり,補助参加人C2が,原告に対し,原告のローンの借換え
の便宜を図り本件建物の改築工事に関する架空の見積書を発行したり,本件
火災後に至っては,本件建物の改築工事費用として合計2126万0210円の
真実とは異なる請求書を発行するなどし,一方,原告は,補助参加人C2及び
補助参加人C1のために,連帯保証人になったり金員を借り受けてこれを貸し
付けるなどしており,原告と補助参加人C2及び補助参加人C1との関係は,
経済的に相協力しあう密接な関係にあったと認められる。
ウ また,上記1(1)ウ,1(2)エオキクに認定したとおり,原告の金員を貸し付けて
いたEは,本件火災後本件土地の売却を仲介して,その売却代金から自らの
原告に対する債権を回収し,さらには,原告に代わって,B3に対し,保険金
が支払われないことについて問い合わせや抗議をするなどしており,原告は,
Eに対し,本件火災による保険金受取についての代理権を付与することまでし
ているのであり,原告とEの関係も単なる金銭の貸借を超えて密接な関係が
あったことが伺われる。
エ しかしながら,まず,原告が加入した本件普通火災保険の1500万円の保
険金額及び本件住宅総合保険の1024万円の保険金額のいずれも,本件建
物の再建築価額が1912万8002円であること(当事者間に争いがない。)や
原告の家族構成からすると,過大な金額とは認められず,原告は,本件建物
の価値やその所有する家財道具からして相当な金額の保険に加入していた
と認められる(乙2の3,証人J3)。
原告の負債の金額についても,上記1(2)エに認定したとおり,本件土地の
売却代金から返済できた金額であって,本件土地の担保価値内であったとい
えるから,原告の収入額に比較して多額の債務を負担していたとはいえ,そ
の支払能力を超える過大な債務を負担していたとは認められない。そして,原
告が,本件火災による保険金を得たとしても,保険金額は臨時費用保険金等
を除けば,最大で2524万円であり,同金額をもってしても,新たに土地を購
入した上で,居宅を購入し,家財道具を整えることはできないと考えられるか
ら,原告は,本件火災によって保険金を取得できれば,負債を一掃して,新た
な土地付き一戸建てを手に入れることができたという状況ではなかった。
以上の事情によれば,原告には本件建物を放火する強い動機があったと
認められるほどに経済的に逼迫した状況にあったと認めることは困難であり,
アに掲げた事情をもって,原告の放火の動機を裏付けるには不十分であると
いわなければならない。
オ 次に,上記(1)に認定したとおり,本件火災は,補助参加人C1の行為によっ
て発生した疑いがあるところ,上記1(1)エのとおり,補助参加人C2は,本件火
災の約4箇月半ほど前に初めて保険金額1750万円の工事保険に加入し
て,本件火災の半月ほど前に保険金額を2000万円に増額しており,しかも,
後記認定のとおり,補助参加人C2が原告に対し本件建物の改築のために上
記の保険金額に匹敵する材料を納入したり,改築工事を行ったとは認められ
ないから,補助参加人C2は過大な保険金額の保険に加入していたと認めら
れる(補助参加人C1は,本件建物に500万円ほどの価値がある補助参加人
C2の工事機材を持ち込んでいたと証言ないし陳述(丙3)しているが,かなり
の長期間にわたって少しずつ改築工事を行っていた本件建物に補助参加人
C2がそのような高額の工事機材を持ち込んでいたとは認められない。)。
さらに,証拠(証人C1)によれば,本件火災後である平成10年5月ころに
は,補助参加人C2は,1000万円ほどの負債を抱えて,手形の支払が不能
になる事態も生じていたことが認められる。
以上の事情によれば,補助参加人C1には,自らの保険契約により保険金
を得るために,本件火災を惹起する動機が存していたと認められる。そうする
と,補助参加人C1が,単独で本件火災を引き起こしたと考えることに不自然
さはなく,原告と補助参加人C1との間に,本件建物の放火について共謀した
ことを推認させる具体的事実が何ら認められないのに,イに認定した原告と補
助参加人らが経済的に協力し合う密接な関係を有していた事実だけをもっ
て,本件建物の放火の共謀があったということを推認することはできない。
カ 上記ウに認定した原告とEとの間の密接な関係の事実も,原告と補助参加
人C1の共謀を何ら推認させる事実にはならないし,原告と補助参加人C1及
びEとの間に,本件建物の放火を共謀した事実があったことを推認させる事実
も認められない。
(3) 以上によれば,補助参加人C1が,本件火災を惹起させたとしても,それが原
告の関与の下に行われたものであると認めることができないから,それを理由に
保険金の支払義務はないとする被告の主張は理由がない。
3 争点(2)について(通知義務違反及び告知義務違反の成否)
被告は,原告がB3に対し,本件建物に改築工事を行っていることを通知ないし
告知していないから,通知義務違反ないし告知義務違反による解除により,保険金
を支払う義務はないと主張する。
そこで検討するに,証拠(甲28,30,原告本人)によれば,原告は,昭和59年
に本件建物を購入してから,平成8年までの間,本件建物1階に風呂場,トイレ,脱
衣場を設置する改築工事を行い,平成9年から本格的に改築工事を開始して,1
階の土間の改築などを始めたことが認められるところ,原告が行った改築工事は,
本件普通火災保険契約約款第8条第1項(3)の「改築」又は「引き続き15日以上に
わたって修繕すること」に該当するし,本件住宅総合保険契約の関係については,
商法第644条第1項に定められた保険契約における「重要ナル事実」に該当する
と認められるから,原告は,B3に対し,本件建物の改築工事を行っている事実を
通知ないし告知するべきであった。
しかし,上記1(1)アイに認定したとおり,原告は,ローンの借換えをするに当た
り,G1銀行の担当者に改築工事をすることを告げており,もともと本件普通火災保
険契約の代理店は,G1銀行の関連会社のHであり,本件普通火災保険契約の締
結手続をG1銀行の担当者が行ったものであるし,また,上記1(1)オのとおり,本件
住宅総合保険契約の締結手続をしたB3の代理店であるF1の担当者F2は,本件
建物に赴いたとき,本件建物において改築工事が行われているのを見て知ってい
た。
そうであれば,本件普通火災保険契約については,原告は,B3の保険代理店
の関連会社であるG1銀行に対して,改築工事を行うことを告げており,また,本件
普通火災保険契約についての保険代理店ではないものの,同じくB3の保険代理
店であるF1において,本件建物で改築工事が行われていることを知っていたので
あるから,B3において,本訴において原告の通知義務違反を主張するのは,信義
則に反し,許されないというべきである。
また,本件住宅総合保険契約についても,B3の保険代理店であるF1は,本件
建物で改築工事を行っていることを知っていたのであるから,B3は,本件住宅総
合保険契約について告知義務違反を理由に解除することはできないというべきで
ある。
よって,被告の通知義務違反又は告知義務違反により保険金の支払義務はな
いとする主張は理由がない。
4 争点(3)(不実申告)について
(1) 本件建物の損害額について
ア 被告は,まず,原告が本件建物の改築費用について補助参加人C2からの
請求書に記載された2126万0210円という不実の金額を申告したと主張す
る。
上記1(2)イカに認定したとおり,原告は,本件火災の直後において,消防に
対し,本件建物の改築工事に関して補助参加人C2に対する支払は100万円
から200万円くらいであると申告していたのに,平成10年8月1日,B3に対
し,補助参加人C2が提出した本件建物の改築費用2126万0210円の請求
書について,そのとおり間違いない旨を申告しており,原告は,B3に対し,本
件建物の改築費用について不実の申告をしたと認められなくもない。しかし,
原告は,その1週間後である同月8日,B3に対し,補助参加人C2が提出した
請求書について,実際に補助参加人C2が原告に請求できる金額は,合計1
33万1420円にすぎないと修正して申告した。
原告本人は,この間の経緯について,本件火災後調査が続いてなかなか
保険金が下りない段階で,もういいやという感じで,補助参加人C2の請求書
のとおり間違いありませんと記載してしまったが,後で補助参加人C2から請
求されたらどうするのかといわれて訂正したと供述しているところ,原告の上
記供述をそのまま信用することは困難ではあるが,原告が,補助参加人C2
からの請求書を認めた後の1週間後にB3に修正を申し出ていることが認めら
れ,上記1(2)クのとおり,B3が,本件建物の本件火災時の価値について,改
築費用の額も考慮の上で算定する姿勢を明確にしたのは,同年9月1日であ
り,それまでの間において,原告が,改築費用の額によって本件建物の価格
ひいては保険金額が定まるという認識を有していたとまでは認められない。
ところで,不実申告によって保険会社が保険金支払を免責されるというた
めには,保険契約者又は被保険者が,故意又は重大な過失により,当該保
険契約上重要な事実に関して不実申告等をしたとみられる場合であると解さ
れるが,上記の事実にかんがみれば,原告が,平成10年8月1日に,補助参
加人C2からの請求書について認めたことをもって,原告が,故意又は重大な
過失により,本件建物の改築費用を偽り,過大な保険金額を得ることを企図し
て,B3に対し,不実申告をしたとまではいまだ認定することはできないといわ
なければならない。
イ 被告は,次に,原告が本件訴訟において,改築工事費について,順次1184
万9985円,1376万6109円,1448万5531円と主張を増額してきてお
り,これは,減価償却額を零にして,本件建物の現在価値をできるだけ高くす
るという意図の下に行われたもので,不実申告に当たると主張する。
原告が本件訴訟係属中に改築費用の額を順次増額して主張を変更してき
ていることは,当裁判所に顕著であり,原告は,その主張に沿う証拠(甲4,3
3)も提出しているが,原告が本訴において主張する改築工事費については
いずれも認められないことは,後記5(1)に認定するとおりである。
しかしながら,証拠(甲28,30,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,
原告は,昭和59年に本件建物を購入してから,平成8年までの間,自ら材料
を購入して本件建物1階に風呂場,トイレ,脱衣場を設置するなどの改築工事
を行い,平成9年からは補助参加人C2から工事材料を購入したり,同社に改
築工事の一部を請け負わせるなどして本件建物の改築工事を行っていたこ
と,上記のとおり,改築工事期間は相当の長期間に及び,また,大工としての
経験がある原告が自ら行っていたため,改築工事に要した費用について明確
にしていなかったこと,本件火災により工事材料を購入した領収証等も焼失し
たことが認められ,原告は,このような事情を基に限られた証拠の中から自ら
の主張を組み立て,訴訟上の主張をしているのであり,原告が本訴において
主張する改築工事費用に関して,後記5(1)に認定するとおり証拠上認められ
ないとはいえ,原告の訴訟上の主張をもって,原告が実際には存在しない工
事についても費用を計上して,殊更に虚偽の申告をしているとまでは認めるこ
とはできないし,これを認めるに足りる証拠はない。
したがって,この点についても,原告が,B3に対し,不実申告をしたと認め
ることはできない。
ウ 被告は,本件建物の価値について減価償却した上で算出した608万1343
円という金額並びに原告の本件土地及び建物の購入金額1950万円と比較
しても,原告の主張する改築費用は過大で不実申告であるとも主張している
が,イに判示したとおり,原告の主張する改築費用は証拠上認めることができ
ないが,原告が主張する改築費用が,本件建物の価値について減価償却し
た上で算出した金額や本件土地及び建物の購入金額と乖離していることをも
って,原告の申告が不実申告であると認めることはできないから,被告の主張
は認められない。
被告が不実申告であるとするその他の主張も認められない。
(2) 本件建物内の家財の損害額について
被告は,原告が本件建物の家財の損害額として申告した物の中には,自動
車,権利証,判子など保険目的外の物や建物付属設備,大工道具及び建築用
資材など家財に含まれないことが明白な物も入っており,また,和服やドラムセ
ットなどの高価品について損害として申告しているが,その痕跡さえ認めること
はできなかったから,原告は不実の申告をしていると主張する。
ア 自動車の申告について
証拠(乙21)によれば,本件住宅総合保険契約約款第3条第2項(1)によ
り,自動車は,本件住宅総合保険の目的の範囲外であることが認められ,ま
た,上記1(2)イに認定した事実及び証拠(甲5,乙22)並びに弁論の全趣旨
によれば,原告は,消防に対し,自動車も含めて動産り災申告書を提出したこ
と,B3に対しても,消防に対し提出した動産り災申告書を提出して本件火災
による家財の損害についての資料としたことが認められる。
そうすると,原告において,B3に対し,保険の目的の対象外の物件である
自動車が記載された動産り災申告書を提出したのであるが,そもそも,原告
は,もともと消防に対して提出した動産り災申告書を,そのままB3に対して提
出しているのであって,自動車についても当然に保険の目的に含まれるとして
保険金を請求したと解することはできないし,仮に保険金を請求したと解する
ことができるとしても,自動車が保険の目的の範囲に含まれるか否かは,一
般の保険契約者にとって自明であるとはいえないから,このような申告をした
ことをもって,保険の目的に含まれない物であることを知りながら,保険金を
請求するために,損害品として申告したと評価することはできない。
したがって,原告は自動車について不実申告をしたとする被告の主張は理
由がない。
イ 権利証や判子について
証拠(乙8,22)によれば,実印については,J2もJ3も保険の対象になると
して損害額を認定していることが認められる。
権利証については,本件住宅総合保険契約約款第3条第3項(2)記載の物
件に含まれるか否かはともかく,原告が,B3に対し,これを家財の損害額に
含めて提出したとしても不実申告であると評価することはできない。
したがって,この点に関する被告の主張は理由がない。
ウ 建物付属設備や建築用資材について
上記第2,1(1)(2)のとおり,本件住宅総合保険契約の保険の目的物は,本
件普通火災保険契約の保険の目的物が建物とされているのに対し,家財で
あることが認められ,ここでの家財には建物付属設備は入らないと解される
し,建築用資材も一般に家財ということはできないと考えられるから,家財に
は含まれないと解され,結局この両者は保険の目的の対象外であると認める
られる。
他方,上記ア及び1(2)イに認定したとおり,原告は,建物付属設備や建築
用資材について,消防に対する動産り災申告書に記載し,これをB3にも提出
したことが認められる。
以上によれば,建物付属設備や建築用資材は,家財に含まれないことが
認められるものの,原告がこれらを損害品として申告したのは,上記アと同
様,原告において,消防に対する申告書をそのままB3に対しても提出した結
果であるし,また,証拠(甲28,30,原告本人)によれば,原告は,自分自身
で本件建物の改築を行っており,建築用資材についても,営業のためではな
く,本件建物を自分で改築するために仕入れた物であることが認められるか
ら,原告が,建物付属設備について家財と同じように考え,建築用資材につい
て家財に含まれないとは考えていなかったことも無理からぬことであると認め
られる。
そうすると,原告が,建物付属設備や建築用資材を家財の損害額に含めて
提出したとしても不実申告であると評価することはできない。
したがって,この点に関する被告の主張も理由がない。
エ 大工道具について
証拠(乙8,21,22)によれば,本件住宅総合保険契約約款中で,大工道
具が保険の目的外であると明確に規定されているということはできないし,J2
は,営業用什器備品につき保険の対象外としているものの,J3は,大工道具
の一部については,家財の範囲であるとして保険の対象となる損害として認
定していることが認められるから,すべての大工道具が保険の目的の対象外
であるとは認められない。
他方,上記ア及び1(2)イに認定したとおり,原告は大工道具について消防
に対する動産り災申告書に記載し,これをB3に対して提出したことが認めら
れる。
そうすると,原告において,大工道具を家財の損害額に含めて提出したとし
ても不実申告であると評価することはできない。
したがって,この点に関する被告の主張も理由がない。
オ 和服やドラムセットなどの高価品について
被告は,原告が家財の損害品として申告した物の中には,その痕跡も見当
たらない和服やドラムセットなどの高価品が数多く含まれていると主張し,後
記5(2)に認定するとおり,原告が消防に対して申告した1671万円の損害の
うち,すべての損害品の存在が認められるわけではないし,また,損害額につ
いても,原告の申告どおりの額が認められるわけではなく,さらに,原告が,
本件訴訟において,家財についての損害額として申告している1180万315
6円についても同様である。
しかし,上記1(2)アコに認定した事実及び証拠(乙8,22,証人J3)によれ
ば,本件家財の損害額について鑑定書の中間報告書を作成したJ2は,本件
建物に赴いた際,家具の残骸を確認することを行わず,J2が作成した鑑定書
の中間報告書には,写真に写っていて明確に存在が確認できるものについて
も存在しないとして中間報告書を作成していること,その後,J2の鑑定書の中
間報告書を検討して鑑定書を作成したJ3は,本件火災現場を見ていないこと
が認められる。また,上記2(1)ア(エ)に認定したとおり,本件火災によって本件
建物は全焼したことからすると,和服等がすべて焼毀され,あるいは,焼毀物
の残骸に紛れて見当たらなくなることも起こり得ることは否定できない。
かかる事情からすると,上記のとおり原告が申告した物の存在が認められ
なかったとしても,原告が申告した物が存在しなかったことまで認められること
を意味しないし,本件全証拠によるも,原告が存在しない物を故意又は重大
な過失により申告したとまで認められるない。
したがって,この点に関する被告の主張も理由がない。
カ よって,被告の原告が本件建物内の家財についての不実申告をしたという
主張は理由がない。
5 争点(4)(損害額)について
(1) 本件建物について
ア 当事者間に争いのない事実及び証拠(乙8,20,22,24,証人J3)によれ
ば,本件建物は,昭和37年新築の建物で,現時点における再建築価格は,1
912万8002円であること,保険金額は,本件建物の現在価値をもって決せ
られるから,減価償却して算出すべきこと,木造鉄骨造りである本件建物の耐
用年数は45年で,残存価値は10パーセントであるから,年2パーセントの減
価償却を行うこととなり,本件建物は本件火災時までで新築後36年が経過し
ていたから,72パーセントの減価償却を行って算出すべきこととなることが認
められる。もっとも,原告は,本件火災前の比較的近接した時期に改築工事を
行っていたと主張するので,この時期の改築工事費は,減価償却の対象から
除外されることになり,本件建物の現在価値は,「(再建築価格-最近の改築
工事費)×(100-72)パーセント+最近の改築工事費」という式によって求
められることとなる。
イ 上記の改築工事の時期及び費用について,原告は,昭和59年に本件建物
を購入してから,平成8年までに,1階部分の浄化槽や水槽タンクの撤去,中
2階の撤去,2階排水管の工事,屋根の物干しの撤去,さらに1階の土間コン
クリート張り,風呂,トイレ,脱衣場の造成といった改築を283万3672円で行
い,平成9年2月から,1階については,リビング,台所,玄関,廊下,2階への
内階段を作り始め,本件火災時にはほぼ完成しており,また,2階部分につい
ても,6畳間,ベランダ,物干し部分を改築し,1165万1859円の費用がか
かったと主張し,これに沿う陳述(甲28,30)ないし供述をしている。
  そこで,原告の主張が認められるか否かについて検討する。
(ア) まず,証拠によれば,原告は,本件建物の改築時期や改築費用の申告
等に関して,以下のとおり,その主張を次々と変遷させている事実が認めら
れ,原告の供述及び陳述に信頼を置くことができないといわなければなら
ない。
a 原告は,消防に対し,平成10年4月11日,本件建物は昭和59年5月
に1950万円で購入し,修繕,改築費用として1200万円かかっていると
申告し,また,補助参加人C2に対する改築工事費の支払は100万円か
ら200万円くらいになっていると申告した(甲3,乙3の1)。
b 原告は,B3に対し,同年8月1日,補助参加人C2の原告に対する改築
工事費用合計2126万0210円の平成9年4月30日付け,同年10月2
0日付け及び平成10年4月20日付け請求書について,そのとおり間違
いはないという回答をした。しかし,原告は,B3に対し,同月8日,同請
求書について,一部存在するものもあるが,ほとんどは実際に工事をし
たものではないと訂正した。原告が,同請求書について,実際に存在す
ることを認めた合計金額は133万1420円であった(甲10,11,乙4な
いし6,原告本人)。
c 原告は,平成11年8月27日,本件第1回弁論準備手続期日において,
平成8年ころから本件建物の改築工事に着工し,その費用は,1184万
9985円であると主張した(顕著な事実,甲4)。
d 原告は,平成12年5月10日,本件第7回弁論準備手続期日において,
本件建物の改築費用について,被告が本件建物の損害額を明確に争う
ことを示したために改築費用について精査したことを理由に,1376万6
109円であると主張を変更した(顕著な事実,甲19(枝番含む。))。
e 原告は,同年12月7日,本件第11回弁論準備手続期日において,本
件建物の改築時期について,昭和59年から平成8年までに,1階部分
について風呂場,トイレ,脱衣場を改装し,平成9年2月ころから,1階に
ついては,リビング,台所,玄関,廊下,2階への内階段を作り始め,2階
については,6畳,ベランダを主に改築をしたと主張した(顕著な事実)。
f 原告は,平成13年9月12日,本件第4回弁論期日において,平成8年
までの改築費用は,283万3672円であり,平成9年以降の改築費用は
1165万1859円であると主張を変更した(顕著な事実,甲33)。
(イ) 原告は,原告の主張を裏付ける証拠として,原告が作成した証拠(甲4,
19(枝番含む。),33)を提出し,そしてこれを裏付ける証拠として,Nの原
告に対する納品書,株式会社L(以下「L」という。)の補助参加人C2に対す
る納品書,有限会社M(以下「M」という。)の補助参加人C2に対する納品
書(甲32の2)がそれぞれ存在する。
しかしまず,Nの納品書は,再発行されたものであり,その証拠価値に疑
問が残るし,L及びMの納品書は,補助参加人C2に対して発行されたもの
であるが,証拠(証人C1)によれば,補助参加人C2は,原告に対する改築
材料費用について,どの程度になるかを客観的証拠に基づいて正確に把
握していたとはいえず,むしろ全く分かっていなかったことが認められるとこ
ろ,そのような補助参加人C2に対する納品書をもって,真に本件建物の改
築工事についての材料として使われたものが記載されているとは認められ
ないから,結局,これらの納品書はその証拠価値を高く評価できないもので
ある。
    (ウ) また,上記1(1)イに認定したとおり,原告は,平成9年1月30日,G1銀行か
ら,当時のローンの残額約800万円に改築工事費用約550万円を上乗せ
して合計1350万円を借り入れたが,550万円のうち,300万円を他の目
的に使用してしまっているのであり,さらに,上記2(2)アに認定したとおり,
本件火災当時の原告一家の収入は,多いときで月額約40万円であり,G1
銀行に対し毎月12万7417円の返済義務を負っており,生活は楽ではな
かったと認められるから,原告が主張するような多額の金員を改築費用に
充てることができたとは到底考えられない。
    (エ) なお,上記1(1)ウ,1(2)エに認定したとおり,原告がEから借り入れた600万
円を補助参加人C1に対し貸し付け,原告がEに567万円を返済して,その
後,原告と補助参加人C1との間に金員のやりとりがないことからすると,
原告が,補助参加人C1に対し,567万円程度の本件建物についての工事
代金債務を負っていたと考えることもできなくもないが,原告本人及び証人
C1は,改築工事費用についてきちんとした取決めもせず,また,その額に
ついても共通した認識を持っていないと証言ないし供述しているし,上記
(ア)aに認定したとおり,原告は消防に対し補助参加人C2に対する改築工
事費用は100万円から200万円くらいになっていると申告したにすぎない
事実からすると,原告が補助参加人C1に対し,567万円程度の工事代金
債務を負っていたと認めることはできない。
ウ 以上の検討によれば,本件建物の改築工事費用に関する原告の供述及び
陳述,さらには,原告が提出する証拠は,基本的に信用に値せず,それらの
証拠から本件建物の改築工事費用の額を正しく認定することは極めて困難で
あるといわなければならない。そこで,本件において,せいぜい本件建物の改
築工事費用として認定できるのは,補助参加人C2が行った改築工事費用分
として,J2が,原告において補助参加人C2からの請求書のうち存在について
認めたものを基本に,各材料についての価格を算出した100万7642円(乙
8,被告の認める金額)であり,これに原告自ら改築工事のために支出した材
料等の費用を加えると,上記改築工事費用としてG1銀行から借り入れた55
0万円から原告が他の目的に使用した300万円を控除した250万円であると
考えられる。
そうすると,本件建物の再建築価格である1912万8002円から,直近の
改築工事費用250万円を引いて,減価償却72パーセントをした額に直近の
改築工事費用250万円を加えた,715万5840円が本件建物の現在価値と
認められ,原告は,被告に対し,同金員を保険金として請求できる。
  (2) 本件建物内の家財について
原告は,本件建物内の家財の損害額について,別紙原告の主張する動産の
損害額の原告主張額欄記載のとおり合計1180万3156円の損害を被ったと主
張し,もともとJ2の鑑定は,明確に存在するものについてもその存在を否認し,
J3はそうしたものの存在については認めざるを得なくなったのであるから,原告
の主張額を信用するべきであるとする。
確かに,上記1(2)アコのとおり,J2の鑑定は,本件建物内に存在したものに
ついてもその存在を否定するもので,J3は,写真等により,J2の鑑定を修正し
ていることが認められ,その事実からすると,損害品の存否についてのJ2の鑑
定は信用できないといわなければならないが,J2が認定した個々の家財の損害
額についてまで信用できないということはできないし,また,原告の主張額を直ち
に信用できるとすることもできず,原告主張と被告が認めるJ3の鑑定書(乙22)
において認定された家財の存在及び金額の違いについて検討する必要がある。
ア 符号40(キッチンカウンター)について
原告は,被告がキッチンカウンターの存在を認定しながら,5万円という認
定額については何の根拠もないから,原告の主張する15万円で認定するべ
きであると主張する。
原告及びD1が作成した証拠(甲29)には,同キッチンカウンターについ
て,平成9年12月ころナガオ家具足立店より15万円で購入したとの記載があ
る。
しかし,本件においては,上記証拠の記載を客観的に裏付ける証拠は何ら
存在しないから,上記証拠の記載を直ちに採用することはできず,キッチンカ
ウンターについての損害額は,被告が認める5万円の限度で認められるにす
ぎない。
イ 符号47(ステンレス鍋セット)について
原告は,被告がステンレス鍋セットを符号50の調理器具と一括して15万
円と認定しているが,ステンレス鍋セットのみで15万円するから,他の調理器
具についての価格は零になってしまい不合理であると主張する。
証拠(甲21の6)によれば,クックウェアセットとシチューなべセットを合計す
ると,14万9060円になることが認められ,その他の小物も併せると15万円
を超えることが認められる。しかし,鍋の存在について,証拠(甲20)によって
認められるのは,鍋1つであって,これがステンレス鍋セットのうちの一つであ
ることまでは認めることはできない。
そうすると,ステンレス鍋セットの存在が立証されたということができないか
ら,一般家庭に存在する調理器具と一括して15万円と認定した鑑定書(乙2
2)を特に不合理ということはできず,原告の主張は採用できない。
ウ 符号51(食器瀬戸物)について
原告は,被告が平均単価500円の食器が200個あると認定し,うち半数
は使用可能として5万円しか認定していないが,J2の鑑定は信用できないと
して,原告主張どおり75万円を認定するべきであると主張する。
原告及びD1が作成した証拠(甲29)には,多くの食器についてそのメーカ
ー,個数及び価格を特定した詳細な記載があることが認められる。
しかし,本件においては,上記記載を裏付ける客観的な証拠は存在しない
から,原告主張の損害額を認めることはできない。また,J2の鑑定について
も,本件建物が全焼したことを考えると,食器瀬戸物のうち,半数が使用可能
であるとは認められないから,食器瀬戸物の損害額については10万円であ
ると認めるのが相当である。
エ 符号65(じゅうたん)について
原告は,被告においてJ2がじゅうたんを未確認であることを理由に損害品
に挙げていないが,上記のとおり,J2の現場確認はずさんであるし,また,じ
ゅうたんは,一般家庭に存在するものであるから,原告主張のとおり認定する
べきであると主張する。
原告及びD1が作成した証拠(甲27)には,じゅうたんは,平成9年12月こ
ろ,1階リビングに使用する予定で15万円で購入したものと,平成9年ころ,
娘の部屋に使用する予定で3万円で購入したものの2つが未使用の状態で1
階北東側鉄骨階段に丸めて立て掛けておいたとの記載がある。
しかし,上記証拠の記載を裏付ける客観的な証拠は何ら存在しないし,部
屋が完成する前にあらかじめ購入しておき,本件火災当時は未使用であった
という上記の記載内容は,不自然であるから,いまだ上記のような証拠のみ
では,じゅうたんの存在を認めることはできない。
したがって,原告の主張は採用できない。
オ 符号67(和洋タンス)について
原告は,被告が単価平均7万円のものが4竿と認定しているが,根拠は示
されておらず,他方で原告は婚礼家具など具体的に記載していて価格も合理
的であるから,原告の申告どおり51万円を認定するべきであると主張する。
原告及びD1が作成した証拠(甲27)には,昭和57年の婚姻時に購入した
計65万円の婚礼家具のタンスが3竿,その他昭和55年から63年にかけて
購入した計9万5000円のタンスが4竿存在したという記載がある。
しかし,本件においては,上記証拠の記載を裏付ける客観的証拠は何ら存
在しない。また,証拠(乙8,22,証人J3)によれば,J2は,原告及びD1から
タンスについては聴取をしており,その上で,13万円のタンス1竿しか確認し
ていないことが認められる。確かに,J2の現場調査はずさんであったというこ
とはできるが,タンスについて聴取した上で1台は確認しているのであるから,
タンスについて,全く確認せずに鑑定をしているほどずさんであるということは
できない。
そうすると,原告の主張のタンスの存在を認めるに足りる証拠はないから,
これを採用することはできず,被告が認める28万円の限度で認められるにす
ぎない。
カ 符号71(玩具)について
原告は,被告は10万円と鑑定するもののその根拠は示されておらず,他
方で原告の申告は具体的であるから,原告の申告どおり30万円と認定する
べきであると主張する。
原告及びD1が作成した証拠(甲29)には,スーパーファミコンとそのソフト
が20万円分,その他の玩具が合計24万円分存在したとの記載がある。
しかし,本件においては,上記記載を裏付ける客観的証拠は何ら存在しな
い。そうすると,原告の主張の玩具の存在を認めるに足りる証拠はないから,
これを採用することはできず,被告が認める10万円の限度で認められるにす
ぎない。
キ 符号72(貴金属)について
原告は,被告が原告の主張は一貫せず,残骸も確認できず,金庫内にあっ
たなら損害になっていない可能性があるとして認定していないが,原告の申告
は一貫しているし,残骸が確認できなかったのはJ2のずさんな調査が原因で
あるのであるから,原告の申告どおり50万円を認めるべきであると主張す
る。
まず,証拠(甲5,乙8,19)によれば,原告は,消防に対しては,貴金属の
損害は50万円として申告しているものの,その後のB3の調査に対しては,3
5万円と12万円の2つしか申告していないことが認められる。
そして,原告は,貴金属について,12万円の指輪についてのカルティエの
カタログ(甲23の2),24万円の腕時計についてのカルティエのカタログ(甲2
3の3)を提出し,原告及びD1が作成した証拠(甲27)によれば,10万円の
真珠のネックレスとイヤリング,8万円のプラチナパールダイヤリング,12万
円のカルティエリング(甲23の2),24万円のカルティエの腕時計(甲23の3)
が損害品であると記載されている。
上記によれば,原告は,消防に対しては50万円と申告した後,B3に対し
ては,12万円と35万円の2つで47万円と申告し,また,本件訴訟において
は,10万円,8万円,12万円,24万円の4品を申告していることが認めら
れ,その申告内容には変遷があると認めることができる。
以上からすれば,原告の申告は変遷しているといわざるを得ず,また,原
告の主張を裏付けるに足りる客観的証拠もないから,原告の主張は採用する
ことができない。
ク 符号80(和服)について
原告は,被告が残骸を確認できず,和装小物も申告されていないから認定
できないとするが,J2の調査はずさんで信用できず,和装小物は和服に含ん
でいたとしても不自然ではない一方で,原告の申告は具体的で,一般家庭の
所持品の範囲内であるから,原告の主張どおり120万円を認めるべきである
と主張する。
原告及びD1が作成した証拠(甲27)のうち,写真によって存在が認められ
るD1のピンク系色紋付き一式30万円,D1の白地オレンジ柄訪問着1着30
万円,D1の大島紬アンサンブル一式20万円,原告の大島紬アンサンブル一
式30万円,原告の長女D2のウールアンサンブル1万円の存在を認めること
ができ,本件全証拠によるも,その他の和服については,その存在が認めら
れない。なお,D2の七五三祝い着物一式についても写真が存在するが,これ
は記念写真であり,貸衣装の可能性もあり,原告及びD1の所有物であるとま
で認めることはできない。
そうすると,原告の符号80の和服については,111万円の限度で認めら
れる。
ケ 符号82(男女コート)について
原告は,被告がコートの数量は推認するとしても平均単価は高いとして24
万円しか認定していないが,一着数十万円するコートを有していれば,平均単
価は押し上げられるので,原告申告どおり48万円を認定するべきであると主
張する。
原告及びD1が作成した証拠(甲27)によれば,昭和55年ころから平成4
年ころにかけて購入したコートが8着あり,その中で一番高いのは昭和55年
ころ購入した22万円のムートンのコートであり,そのコートを着用するD1の写
真も存在する。
しかし,同写真から,ムートンのコートの存在が認定できるとしても,その購
入時期及び価格については,これを裏付ける客観的証拠が存在しない。そう
すると,原告の主張は採用することができず,コートの損害額については,被
告が認める24万円の限度で認められるにすぎない。
コ 符号95(ひな人形)について
原告は,被告が1組のひな人形について20万円の損害額を認めているに
すぎないが,雛壇とガラスケースの2組のひな人形を申告したのであるから,
40万円と認定するべきであると主張する。
原告及びD1が作成した証拠(甲27)には,上記主張に沿う記載が存在す
るが,本件においては,上記記載を裏付ける何らの客観的証拠は存在しな
い。
したがって,原告の主張を裏付けるに足りる証拠はないから,ひな人形に
ついては,被告が認める20万円の損害額が認められるにすぎない。
サ 符号97(フルート)について
原告は,被告が原告から現場調査時に説明がなかったことや残骸も確認
できず,収容場所も2階に集中していることが不自然であることを理由に,そ
の存在を認定していないが,J2の現場調査はずさんだったし,一般家庭では
普段使わないものを集中して収納するのは不自然ではないから,原告の申告
どおり12万円を認めるべきであると主張する。
原告及びD1が作成した証拠(甲27)には,フルートを娘の部活動のために
購入したという記載があり,娘がフルートを吹いている写真も存在するから,フ
ルートの存在は認められる。そして,証拠(甲23の3)によれば,フルートの価
額についての12万円の申告は相当であると認められる。
したがって,原告の主張は認められる。
シ 符号99(ドラムセット)について
原告は,被告が原告から現場調査時に説明がなかったことや残骸も確認
できず,収容場所も2階に集中していることが不自然であることを理由に,そ
の存在を認定していないが,現場調査はずさんであったし,原告は消防に対
して当初から申告しており,また,収納場所が集中するのは不自然ではないと
して,その存在を認めるべきであると主張する。
原告及びD1が作成した証拠(甲27)によれば,原告は,昭和53年ころドラ
ムセットを購入し,本件建物に移転するときに置き場所がないから実家に運ん
でおいたが,1階の改築工事が完成すればそこに設置できると考えて,平成9
年夏ころに,実家から本件建物に運んだとの記載があり,また,カタログ(甲2
3の3)を提出している。
しかし,上記の記載を裏付ける客観的な証拠は何ら存在しない。
そうすると,原告の主張を裏付けるに足りる証拠はないから,原告の主張
は採用できず,ドラムセットが存在したと認めることはできない。
ス 符号106(CD及びカセットテープ)について
原告は,被告が1階にあったと思われる100枚しか認定していないが,そ
れ以上に認定しない理由は明らかでなく,他方で,100枚セットは2階にあっ
たのであるから,もっと数量を認定すべきであり,また,原告の申告する300
枚のCD等は,音楽好きの一家として不自然な枚数ではないから,原告の主
張どおり60万円と認定するべきであると主張する。
原告及びD1が作成した証拠(甲27)には,クラシックの100枚セットのC
D,その他CD100枚及びカセットテープ100本が存在したとの記載があり,
また,原告は,残存したクラシックCDセットのジャケットを証拠(甲22)として
提出している。
証拠(甲21,乙8,22)によれば,1階にCDが数枚発見され,また,クラシ
ックCDセットも存在したと認めることができる。しかし,現場の写真(甲20)に
より,2階にCDが存在したとまで認めることはできない。また,原告及びD1が
作成した証拠(甲27)の記載については,上記に認定したクラシックCDセット
以外,これを裏付ける何らの客観的証拠も存在しない。
そうすると,本件全証拠によるも,原告主張のCDの存在を認めることがで
きず,被告がCDについて100枚を認定したのは不合理であるということはで
きない。よって,CDについては,被告が認める20万円の限度で認められるに
すぎない。
セ 符号107(ビデオテープ)について
原告は,被告がJ2の確認数量30本に従い9000円しか認定していない
が,J2の現場調査はずさんであったし,原告の申告は具体的かつ詳細である
から,原告の申告どおり認められるべきであると主張する。
原告及びD1が作成した証拠(甲27)には,ビデオソフトが30本で,録画テ
ープが170本存在したとの記載がある。
しかし,上記記載を裏付ける客観的証拠は何ら存在しないし,証拠(乙8,2
2)によれば,J2がビデオテープを30本確認していることが認められるとこ
ろ,ビデオテープは通常1箇所にまとめて置かれると考えられるし,J2の鑑定
がずさんであるとはいっても,1箇所にまとめて置かれたビデオテープについ
て,その一部しか確認しないということは考えにくい。
そうすると,J2の鑑定に不合理な点はなく,原告の主張は採用できず,ビ
デオテープについての損害額は9000円であると認めることができる。
ソ 符号113(バッグ,カバン)について
原告は,被告がバッグ,カバンについての原告の申告を一般的な数量とし
て推認しながら,価格については原告申告の23万円でなく15万円として8万
円を差し引いているのは不合理であるから,原告の申告どおり認められるべ
きであると主張する。
原告及びD1が作成した証拠(甲29)には,バッグ及びカバンについて,フ
ェンディ,ロエベ,ルイ・ヴィトンなど10点35万2000円が存在したとの記載
がある。
しかし,上記証拠記載のように,高級ブランドの品物を数多く所有していた
ことを裏付ける客観的な証拠は何ら存在しない。
そうすると,原告の主張は採用できず,バッグ及びカバンについては,被告
が認める15万円の限度で認められるにすぎない。
タ 符号131(申告漏れ分)について
原告は,B3に申告していないキャンプセットや鉢植えなどが存在し,一般
家庭においてこれらの物を所有していることは不自然ではなく,価格も妥当で
あるから,原告の申告のとおり14万9000円が認められるべきであると主張
する。
原告及びD1が作成した証拠(甲29)には,申告漏れ分として,カバン,キ
ャンプセット,植木などが記載されている。
しかし,本件火災現場の写真などを手がかりに,動産の存在について立証
をしてきた原告が,消防に対する申告もしておらず,また,これまでに何ら存
在を主張していなかった物を,本件訴訟提起からかなり時間が経過した後に
主張してきており,このような物について,何ら客観的証拠がない本件におい
ては,たやすくその存在を認めることはできない。
したがって,原告の主張は採用できず,申告漏れ分として申告した物につ
いては本件火災時に存在したと認めることはできない。
チ 以上によれば,証拠(乙22)によって本件火災による損害として認定できる6
81万3156円の外に,原告が損害であるとして主張する動産のうち,本件火
災により損害にあったと認められる家財と乙22の認定よりその価額を高く認
定できる家財の合計額は,128万円であるから,原告が,本件火災により本
件建物内の家財について被った損害は,809万3156円であると認めること
ができ,原告は,被告に対し,同金員を保険金として請求できる。
(3) 臨時費用保険金等請求権について
ア 臨時費用保険金
証拠(甲30,原告本人)によれば,原告は,本件火災発生により,葛飾区
新宿1-12-2所在の第2すず荘102号室を仮の住居として定め,その費用
として仲介手数料2万1000円及び賃料6箇月分23万5600円を支払ったこ
と,その後,原告は,保険金の支払がないため,葛飾区高砂7-9-7所在の
好美マンション105号室に引っ越し,その費用として,平成12年12月末まで
に,礼金6万円,敷金6万円,仲介手数料6万3000円,賃料162万円,更新
料6万円,強制家財保険料1万5000円,駐車場代27万1000円を支払った
ことが認められる。
証拠(乙20)によれば,本件普通火災保険契約約款第1条第8項は,「事
故によって保険の目的が損害を受けたため臨時に生ずる費用(以下「臨時費
用」といいます。)に対して,臨時費用保険金を支払います。」と定められてい
ることが認められ,原告が仮の住居を定めるために要した費用は,臨時費用
に当たると認められるが,被告の保険金の支払がないために,原告において
住居を賃借したために支出した費用は,臨時費用に当たるとは認められな
い。
したがって,原告の請求のうち,25万6600円の限度で臨時費用保険金
請求権が認められる。
   イ 残存物取り片付け費用保険金
証拠(甲30,37)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成10年5月10
日,本件火災後の本件建物の解体撤去工事をNに依頼し,解体工事費用10
4万5000円,一般廃棄物処理25万5000円,仮設工事20万1150円,ガ
ードマン費用4万5000円,諸費用8万円及び消費税の合計170万7457円
を支出したことが認められる。
そして,証拠(乙20,21)によれば,本件普通火災保険契約約款第4条第
5項では,本件普通火災保険契約における損害保険金の6パーセントに相当
する額を限度として,残存物取り片付け費用を支払い,本件住宅総合保険契
約約款第9条第1項では,本件住宅総合保険契約における損害保険金の10
パーセントに相当する額を限度として,残存物取り片付け費用を支払うと定め
られていることが認められる。
そうすると,上記第2,1(1)によれば,本件普通火災保険契約の損害保険
金は1500万円であるから,その6パーセントに相当する額は,90万円であ
り,上記のとおり,本件建物の解体費用は90万円を超えているから,原告の
本件普通火災保険契約に基づく90万円の請求は認められる。そして,上記
第2,1(2)によれば,本件住宅総合保険契約の損害保険金は1024万円であ
るから,その10パーセントに相当する額は,102万4000円であり,上記事
実と弁論の全趣旨によれば,原告は,本件建物内の家財の残存物取り片付
け費用として,一般廃棄物処理25万5000円,ガードマン費用4万5000円,
諸費用8万円及び消費税のうち,少なくとも10万円の費用を要したことが認
められるから,原告の本件住宅総合保険契約に基づく10万円の請求は認め
られる。
したがって,原告は,被告に対し,合計100万円の残存物取り片付け費用
保険金請求権を有する。
ウ 失火見舞費用保険金
証拠(甲30,乙2の2ないし5)によれば,原告は,本件火災により,本件建
物に隣接するO1,O2,O3,O4,O5,O6,O7方の外壁などを損傷したこと
が認められる。
したがって,原告は,被告に対し,本件住宅総合保険契約約款第10条第1
項に基づき,被災世帯1世帯当たり20万円ずつ計140万円の失火見舞費用
保険金請求権を有する。
6 争点(5)(臨時費用保険金請求権等の時効消滅の成否)について
(1) 時効の起算点について
原告は,通常被保険者は,約款上,臨時費用保険金請求権等が存在するこ
とを知らないことが多いから,臨時費用保険金請求権等の消滅時効の起算点
は,被保険者において,同請求権等を行使しうる時であると解すべきであると主
張する。
しかし,消滅時効の起算点は,法律上当該権利を行使しうべき状態になった
時であると解すべきであるから,臨時費用保険金については,本件火災後上記
5(1)記載の金員を支払った日,残存物取り片付け費用保険金については,平成
10年5月10日,失火見舞費用保険金については,本件火災発生の日である同
年4月5日が起算点となる。
(2) 本件訴え提起と臨時費用保険金請求権等の行使について
原告は,臨時費用保険金請求権等が火災保険金請求権に付属するものであ
るから,本件訴えを提起したことをもって,臨時費用保険金請求権等についても
行使したと解され,時効は中断されると主張する。
そこで,検討するに,証拠(乙20,21)によれば,臨時費用保険金,残存物取
り片付け費用保険金,失火見舞費用保険金については,本件各保険契約に基
づく保険金が支払われるとき,本件各保険契約の保険金額に一定率を乗じた金
額ないし一定額を限度として,その支出があったときに当然に支払われるもので
あること,これら臨時費用保険金等について,各別に契約を締結してその加入
の有無及び金額を定めるものではなく,保険金額に連動するかあるいはあらか
じめ定められていることが認められる。加えて,臨時費用保険金等の保険金額
が定められているのは,本件各保険契約は,火災等による建物及び家財につい
ての損害を主として担保するためのものであるが,火災に遭えば,建物及び家
財の損害以外について様々な出費が必要となることに着目して,被保険者の損
害の填補を図る目的の下,主たる保険金に付随して定められたと考えられる。
このような事情からすると,臨時費用保険金等請求権は,損害保険金に付随
するものと考えられ,損害保険金請求権の行使をもって,臨時費用保険金請求
権等も行使したとして,時効は中断されると解すべきである。
本件においては,原告が,平成11年6月4日に,火災保険金請求についての
本件訴えを提起したこと,平成13年3月6日に,臨時費用保険金等について,
請求を拡張したことは当裁判所に顕著であり,原告は,損害保険金請求権につ
いては,時効完成前に訴えを提起してその権利を行使しているから,臨時費用
保険金等請求権についての時効も中断され,これら権利の時効は完成していな
い。
(3) したがって,被告の,臨時費用保険金等に関する時効消滅の主張は理由がな
い。
7 以上によれば,原告の請求は,本件建物について715万5840円,本件建物内
の家財について809万3156円及びこれらに対する本訴状送達の日の翌日であ
る平成11年6月11日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による金員の
支払並びに臨時費用保険金等265万6600円及びこれに対する請求拡張の書面
送達の日の翌日である平成13年3月8日から支払済みまで商事法定利率年6分
の割合による金員の支払を求める限度において理由があるから,主文のとおり判
決する。
東京地方裁判所民事第34部
裁判長裁判官   前 田 順 司
裁判官    池 町 知佐子
裁判官    荒 谷 謙 介

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