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平成15年(行ケ)第291号 審決取消請求事件
平成16年11月25日口頭弁論終結
    判決
原告      インターディジタル テクノロジー 
コーポレーション
訴訟代理人弁護士    中島和雄
訴訟代理人弁理士    内原 晋
同     船山 武
同     渡邉 隆
被告      特許庁長官 小 川   洋
指定代理人       川名幹夫
同     小曳満昭
同     涌井幸一
同     宮下正之
     主文
1 特許庁が訂正2002-39123号事件について平成
 15年3月24日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
    事実及び理由
第1 当事者の求める裁判
1 原告
 主文と同旨
2 被告
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 原告は,発明の名称を「多重音声及び/又はデータ信号通信を単一又は複数
チャンネルにより同時に行うための加入者RF電話システム」とする特許第281
6349号の特許(昭和61年2月26日出願(以下「本件出願」という。),優先権
主張日1985年3月20日,米国,平成10年8月21日設定登録。以下「本件
特許」という。)の特許権者である。
 本件特許に対し,特許異議の申立てがあり,特許庁は,平成13年10月2
3日,「特許第2816349号の特許請求の範囲第1項,第4項に記載された発
明についての特許を取り消す。」との決定(附加期間90日,同年11月12日謄
本送達)をした。原告は,平成14年3月8日,この取消決定の取消を求める訴訟
(平成14年(行ケ)第112号)を提起するとともに,同年5月17日,本件出
願の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の訂
正(以下「本件訂正」という。)を求める審判を請求した。特許庁は,これを訂正
2002-39123号事件として審理した結果,平成15年3月24日,「本件
審判の請求は,成り立たない。」との審決をし(附加期間90日),同年4月7
日,その謄本を原告に送達した。
2 本件訂正の概要
 本件訂正は,登録時の特許請求の範囲の第1項及び第4項を訂正するととも
に第2項及び第5項を削除し,第3項,第4項及び第6項を第2項,第3項及び第
4項にそれぞれ項番変更するというものである(本件明細書のうち,特許請求の範
囲以外の部分に訂正はない。)。
[本件訂正後の特許請求の範囲](下線部が訂正部分である。)
「1 公衆通信用電話網の局用交換機から局線(14)経由で並行して受けた
複数の情報信号を複数の無線周波数(RF)チャンネル経由で基地局から複数の移
動加入者局,すなわち各々が前記複数の無線周波数(RF)チャンネルの任意の一
つで受信できる複数の移動加入者局に並行して送信するために基地局で信号処理す
るディジタル電話システムであって,前記基地局が,
 前記局線(14)からの受信情報信号をディジタル信号サンプルとして扱
う交換手段(15)と,
 各々が前記複数の無線周波数(RF)チャンネルのうちの選択された一つ
に関連づけられて動作し,前記交換手段(15)から受けた前記ディジタル信号サ
ンプルを圧縮して多数の個別の圧縮信号を供給する各々が複数の圧縮手段(16)
を内蔵する複数の信号圧縮手段(17)と,
 前記複数の信号圧縮手段(17)の各々に接続され,その信号圧縮手段
(17)からの前記圧縮信号をそれら圧縮信号の各々が前記複数の無線周波数(R
F)チャンネルのうちの前記選択された一つにそれぞれ対応の送信チャンネル・ビ
ット・ストリームの中の逐次的時間スロット位置を占めるように送信チャンネル・
ビット・ストリームの形に逐次組み上げるチャンネル制御手段(18)と,
 前記送信チャンネル・ビット・ストリームに応答して前記複数の無線周波
数(RF)チャンネルのうちの選択された一つ経由の前記加入者局への送信用送信
チャンネル信号を各々が発生する複数の周波数切換可能な送信手段(21)であっ
て,前記基地局により選択された前記複数の無線周波数(RF)の任意の一つでそ
れぞれ送信できる複数の周波数切換可能な送信手段(21)と,
 前記交換手段(15)に含まれ前記受信情報信号を前記信号圧縮手段(1
7)内の信号圧縮手段(16)にそれぞれ接続する切換手段(25)と,
 前記局線(14)に結合可能であり前記局線のある一つ経由の呼接続要求
信号に応答して前記圧縮手段(16)のどの一つをその呼接続要求信号対応の前記
受信情報信号に関連づけるかと前記送信チャンネル・ビット・ストリーム中のどの
時間スロットをその受信情報信号に用いるかとを表すスロット割当て信号を発生す
る遠隔接続中央処理ユニット(20)であって,どの時間スロットとどの無線周波
数とが割当てずみであるかを示すメモリを維持し呼接続要求に応答してそのメモリ
を調べ他の局線に未割当ての圧縮手段(16)およびそれと対応の時間スロットへ
の接続をもたらす前記チャンネル制御手段(18),すなわち前記スロット割当て
信号対応の周波数で動作する前記チャンネル制御手段(18)への接続を形成する
スロット割当て信号を発生する遠隔接続中央処理ユニット(20)であって,前記
スロット割当て信号を前記交換手段(15)に供給するとともに,そのスロット割
当て信号対応の割当て時間スロットおよび無線周波数を表す信号を前記チャンネル
制御手段(18)および前記送信手段(21)経由で前記呼接続要求の宛先加入者
局に伝達しその宛先加入者局による所要の時間スロットおよび無線周波数の設定に
備える遠隔接続中央処理ユニット(20)と,
 前記遠隔接続中央処理ユニット(20)に接続され前記スロット割当て信
号に応答してそのスロット割当て信号の指示する前記圧縮手段(16)への接続を
前記切換手段(25)に形成させる呼切換処理手段(24)と
を含むことを特徴とするディジタル電話システム。」(以下「本件訂正第1
発明」という。)
「3.公衆通信用電話網の局用交換機から局線(14)経由で並行して受けた
複数の情報信号を複数の無線周波数(RF)チャンネル経由で基地局から複数の移
動加入者局,すなわち各々が前記複数の無線周波数(RF)チャンネルの任意の一
つで受信できる複数の移動加入者局に並行して送信するために基地局で信号処理す
るディジタル電話システムであって,前記基地局が,
 前記局線(14)からの受信情報信号をディジタル信号サンプルとして扱
う交換手段(15)と,
 複数の送信チャンネル回路であって,前記複数の無線周波数(RF)チャ
ンネルの互いに異なる一つに各々が割り当てられ,前記交換手段(15)からそれ
ぞれ受けた前記ディジタル信号サンプルを圧縮して多数の個別の圧縮信号を生ずる
複数の圧縮手段(16)内蔵の信号圧縮手段(17)と,前記圧縮手段(16)に
接続され前記圧縮信号をそれら圧縮信号の各々が送信チャンネル・ビット・ストリ
ーム内逐次的時間スロット位置を占めるように送信チャンネル・ビット・ストリー
ムの形に逐次組み上げるチャンネル制御手段(18)と,前記送信チャンネル・ビ
ット・ストリームに応答して被変調副搬送波を生ずる変調手段(19)とを各々が
有する複数の送信チャンネル回路と,
 前記被変調副搬送波に応答して前記複数の無線周波数(RF)チャンネル
のうちの選択された一つ経由の前記加入者局への送信用被変調信号を各々が発生す
る複数の周波数切換可能な送信手段(21)であって,前記基地局により選択され
た前記複数の無線周波数(RF)の任意の一つでそれぞれ送信できる複数の周波数
切換可能な送信手段(21)と,
 前記交換手段(15)に含まれ前記受信情報信号を前記圧縮手段(16)
にそれぞれ接続する切換手段(25)と,
 前記局線(14)に結合可能であり前記局線のある一つ経由の呼接続要求
信号に応答して前記送信チャンネル回路のどの一つおよびどの時間スロット位置お
よびその送信チャンネル回路中の前記圧縮手段(16)のどの一つに前記呼接続要
求信号対応の前記受信情報信号を関連づけるべきかを表すスロット割当て信号,す
なわちその情報信号に周波数と時間スロット位置とを割り当てるスロット割当て信
号を発生する遠隔接続中央処理ユニット(20)であって,前記周波数の各々につ
いてどの時間スロットが割当てずみであるかを示すメモリを維持し呼接続要求に応
答してそのメモリを調べ他の局線に未割当ての時間スロットを含む前記送信チャン
ネル回路のある一つとそれら未割当ての時間スロットの一つと前記送信チャンネル
回路中の信号圧縮手段であって他の局線に未割当ての信号圧縮手段とへの接続を形
成するスロット割当て信号を発生する遠隔接続中央処理ユニット(20)であっ
て,前記スロット割当て信号を前記交換手段(15)に供給し,そのスロット割当
て信号対応の割当て時間スロットおよび無線周波数を表す信号を前記チャンネル制
御手段(18)および前記送信手段(21)経由で前記呼接続要求の宛先加入者局
に伝達しその宛先加入者局による所要の時間スロットおよび無線周波数の設定に備
える遠隔接続中央処理ユニット(20)と,
 前記遠隔接続中央処理ユニット(20)に接続され前記スロット割当て信
号に応答してそのスロット割当て信号の指示する前記圧縮手段(16)への接続を
前記切換手段(25)に形成させる呼切換処理手段(24)と
を含むことを特徴とするディジタル電話システム。」(以下「本件訂正第2
発明」という。)
3 審決の理由
 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件訂正第1発明及び本件訂
正第2発明は,いずれも「電子通信学会論文誌(J64-B)第9号」(昭和56
年9月25日,社団法人電子通信学会発行)1016~1023頁「TD-FDM
A移動通信方式の検討」(以下「刊行物1」という。)記載の発明(以下「引用発
明」という。)及び特開昭54-60806号公報(以下「刊行物2」という。)
記載の発明に基づき,周知技術を参酌して,当業者が容易に発明をすることができ
たものであり,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるか
ら,本件訂正は認められないとするものである。
 審決は,上記結論を導くに当たって,本件訂正第1発明及び本件訂正第2発
明と引用発明とを対比して,一致点・相違点を次のとおり認定している。
(1) 本件訂正第1発明と引用発明とは,次のアないしキの点で実質的な差異あ
るいは格別な差異がなく,クの点で相違する(審決書15頁6行~17頁37
行)。
ア 「公衆通信用電話網の局用交換機から局線(14)経由で並行して受け
た複数の情報信号を複数の無線周波数(RF)チャンネル経由で基地局から複数の
移動加入者局,すなわち各々が前記複数の無線周波数(RF)チャンネルの任意の一
つで受信できる複数の移動加入者局に並行して送信するために基地局で信号処理す
るディジタル電話システムであるとする点」
イ 「前記基地局が,局線(14)からの受信情報信号をディジタル信号サ
ンプルとして扱う交換手段(15)を含むとする点」
ウ 「基地局が,各々が複数の無線周波数(RF)チャンネルのうちの選択
された一つに関連づけられて動作し,交換手段(15)から受けた前記ディジタル
信号サンプルを圧縮して多数の個別の圧縮信号を供給する各々が複数の圧縮手段
(16)を内蔵する複数の信号圧縮手段(17)(信号圧縮手段は,優先権証明書
の記載によると,Combined Coder and Decoder,略し
てCODEC,の訳である。)を含むとする点」
エ 「基地局が,複数の信号圧縮手段(17)の各々に接続され,その信号
圧縮手段(17)からの圧縮信号をそれら圧縮信号の各々が複数の無線周波数(R
F)チャンネルのうちの選択された一つにそれぞれ対応の送信チャンネル・ビッ
ト・ストリームの中の逐次的時間スロット位置を占めるように送信チャンネル・ビ
ット・ストリームの形に逐次組み上げるチャンネル制御手段(18)を含むとする
点」
オ 「基地局が,送信チャンネル・ビット・ストリームに応答して複数の無
線周波数(RF)チャンネルのうちの選択された一つ経由の加入者局への送信用送
信チャンネル信号を各々が発生する複数の周波数切換可能な送信手段(21)であ
って,基地局により選択された複数の無線周波数(RF)の任意の一つでそれぞれ送
信できる複数の周波数切換可能な送信手段(21)を含むとする点」
カ 「基地局が,交換手段(15)に含まれ前記受信情報信号を前記信号圧
縮手段(17)内の信号圧縮手段(16)にそれぞれ接続する切換手段(25)を
含むとする点」
キ 「基地局に含まれる遠隔接続中央処理ユニット(20)が,局線(1
4)に結合可能であり前記局線のある一つ経由の呼接続要求信号に応答して前記圧
縮手段(16)のどの一つをその呼出接続要求信号対応の前記受信情報信号に関連
づけるかと前記送信チャンネル・ビット・ストリーム中のどの時間スロットをその
受信情報信号に用いるかとを表すスロット割当て信号を発生するとする点,及び,
スロット割当て信号を交換手段(15)に供給するとともに,そのスロット割当て信
号対応の割当て時間スロットおよび無線周波数を表す信号をチャンネル制御手段(1
8)および送信手段(21)経由で呼接続要求の宛先加入者局に伝達しその宛先加入者
局による所要の時間スロットおよび無線周波数の設定に備えるとする点」
(以下,「一致点ア」,「一致点イ」などという。)
ク 「基地局に含まれる遠隔接続中央処理ユニット(20)によるスロット割
当て信号の発生に関し,本件訂正第1発明においては,周波数の各々についてどの
時間スロットが割当てずみであるかを示すメモリを維持し呼接続要求に応答してそ
のメモリを調べ他の局線に未割当ての時間スロットを含む送信チャンネル回路のあ
る一つとそれら未割当ての時間スロットの一つと送信チャンネル回路中の信号圧縮
手段であって他の局線に未割当ての信号圧縮手段とへの接続を形成するとしている
のに対し,引用発明1にはその点についての記載がない点」
(以下「相違点ク」という。)
(2) 本件訂正第2発明のうち,次のケないしサの点は,引用発明と実質的な差
異がなく,その他の構成については,本件訂正第1発明と引用発明との対比におい
て検討したとおりである(審決書18頁19行~19頁33行)。
ケ 「基地局が,信号圧縮手段(17),チャンネル制御手段(18),変
調手段(19)を有する複数の送信チャンネル回路を含むとする点」
コ 「送信手段(21)が変調手段(19)からの被変調副搬送波を入力す
るとする点」
サ 「基地局が,「前記遠隔接続中央処理ユニット(20)に接続され前記
スロット割当て信号に応答してそのスロット割当て信号の指示する前記圧縮手段
(16)への接続を前記切換手段(25)に形成させる呼切換処理手段(24)」
を含むとする点」
(以下,「一致点ケ」などという。)
第3 原告の主張の要点
 審決は,本件訂正第1発明及び本件訂正第2発明と引用発明との一致点(実
質的に相違がないとした点)の認定を誤って相違点を看過するとともに,相違点の
判断を誤ったものであり,違法として取り消されるべきである。
1 本件訂正第1発明と引用発明との一致点の認定の誤り・相違点の看過
(1) 一致点イ(交換手段)について
 審決の一致点イの認定(審決書15頁16~26行)は,次のとおり誤り
である。
ア 刊行物1の図7に示された基地局構成例においては,交換機が基地局の
構成部分ではなく,その基地局が接続される公衆通信用電話網の電話局の交換機で
あることを示している。すなわち,刊行物1のExchangerが基地局に備え
られているのであれば,電話局の交換機との間の局線が図示されるはずであるが,
これが図示されていないことは,Exchangerが基地局に備えられたもので
はなく,電話局に備えられたものであることを示している。
イ 刊行物1の図7によると,刊行物1記載の交換機は,アナログ信号入力
を受けてアナログ信号出力を生じるアナログ交換機である。Exchangerの
出力がディジタル信号であるならばCoder/Decoderは不要であるか
ら,アナログ信号であることは明らかである。
(2) 一致点ウ(複数の信号圧縮手段)について
 刊行物1の移動通信システムのCoder/Decoderは,本件訂正
第1発明の信号圧縮手段に相当するものではなく,しかも,単一のブロックで示さ
れているから,審決の認定(審決書15頁32行~16頁2行)は誤りである。本
件訂正第1発明では,一致点ウに係る構成により,複数の圧縮手段が複数の信号圧
縮手段にグループ分けされており,それら信号圧縮手段の各々が複数のRFチャン
ネルのうちの選択された一つに関連づけられて動作するものであるのに,審決はこ
の点を看過している。
(3) 一致点エ(チャンネル制御手段)について
 刊行物1の基地局のMultiplexerは,本件訂正第1発明のチャ
ンネル制御手段(18)に相当するものではない。すなわち,本件訂正第1発明で
は,圧縮手段と送信チャンネル・ビット・ストリームとの関係は,「圧縮手段(1
6)およびそれと対応の時間スロット」と記載されるとおり,圧縮手段とその圧縮
信号が占めるべき逐次的時間スロット位置とが対応するものであるのに対し,刊行
物1の基地局の構成は,Coder/Decoderが単一であり,Coder/
Decoderからのディジタル信号とMultiplexerとの関係が不明確
であって,本件訂正第1発明の上記構成を示唆していない。
(4) 一致点オ(送信手段)について
 審決は,「刊行物1記載の移動通信システムにおいて,基地局は,・・・
送信機の周波数が変更可能である複数の送信機を備えている。・・・してみれば,
本件訂正第1発明において,基地局が,・・・加入者局への送信用送信チャンネル
信号を各々が発生する複数の周波数切換可能な送信手段(21)であって,基地局に
より選択された複数の無線周波数(RF)の任意の一つでそれぞれ送信できる複数の
周波数切換可能な送信手段(21)を含むとする点は,上記刊行物1記載の移動通信
システムとの実質的差異には当たらない。」(審決書16頁30行~17頁3行)と
認定している。
 しかし,この認定は,次のとおり誤りである。
ア 本件訂正第1発明の複数の送信手段21の各々は,個々の呼接続要求に
応答して選択された一つのRFチャンネルで加入者局への送信チャンネル信号を発
生できるだけでなく,システムの初期化,呼量変動や気象条件に伴うRFチャンネ
ル信号伝搬特性の変動などに応答して,基地局が選択した任意の伝送RFチャンネ
ルで送信できる「周波数切換可能な送信手段」である。
 これに対して,刊行物1記載の送信機「Tx.」は,図7にその一つが
示されているだけであるから,基地局は単一の送信機を備えるにすぎない。仮に,
同図中の「Similar」という表示を参酌して同図中の各点線ブロックに一つ
ずつの「Tx.」が備えられていると解釈しても,それら「Tx.」の各々は周波数固
定の送信機であり,本件訂正第1発明における「周波数切換可能な送信手段」,す
なわち基地局の複数の無線周波数(RF)のいずれにも任意に切換できる送信手段
に相当しない。
イ 被告は,本件訂正第1発明の「複数の周波数切換可能な送信手段」と
は,「複数の送信手段全体により,基地局により選択された複数の無線周波数の任
意の1つでそれぞれ送信できる」ことを表していると主張する。
 しかしながら,本件明細書には,「各々の音声チャンネルに対するチャ
ンネル周波数の選択は一度に1チャンネルずつ基地局によって自動的に行われる
が,基地局に備えてある操作員制御卓のインタフェースによってオーバーライドす
ることができる。」(甲2の2第5頁右欄9~13行),「更新コマンドは,加入
者を特定チャンネルに強制接続させる能力およびチャンネルを使用可能又は使用禁
止にする能力を有する。」(同第25頁左欄43~45行)と記載され,音声チャ
ンネルの各々に対するチャンネル周波数は基地局の制御の下に随時任意に変更でき
るものであることが明記されているのであって,被告の主張は失当である。
(5) 一致点カ(切換手段)について
 刊行物1の基地局は交換機を備えていないから,引用発明には,本件訂正
第1発明の「切換手段(25)」と一致する構成部分は存在しない。仮に存在する
としても,スロット割当て信号の指示する圧縮手段(16),すなわち複数の信号
圧縮手段(17)の一つに内蔵される複数の圧縮手段(16)の一つに接続する切
換手段は刊行物1には何ら示唆されていない。したがって,審決が,基地局が切換
手段(25)を含むとする点を実質的な差異がないとした認定は誤りである。
(6) 一致点キ(「遠隔接続中央処理ユニット」,「スロット割当て信号の発
生,交換手段への供給」,「チャンネル制御手段及び送信手段を経由した加入者局
への伝達」)について
 審決の一致点キの認定(審決書17頁14~29行)は,次のとおり誤り
である。
ア 刊行物1は,「回線制御および多重化の指示はすべてCPUが行う。」
と記載しているだけで,局線経由で受けた情報信号を交換手段内の切換手段により
圧縮手段に選択的に接続し,その時点でその情報信号の用いる時間スロット位置及
び無線周波数(RF)チャンネルを一挙に決めるという本件訂正第1発明の構成要
件について,記載も示唆もしていない。
イ 刊行物1は,固定搬送波による群分割方式を示しているものであり,各
群の使用搬送波周波数が固定されていることが明らかである。したがって,刊行物
1の基地局は,移動機に対し,搬送波とタイムスロットの指定信号を送信すること
はない。
ウ 刊行物1の図5には,「制御チャンネル設定法」が記載されているが,
これは移動通信方式へのTDMAの導入の可能性を検討した部分であり,「検討結
果に基づく想定した方式構成例」の装置構成における制御チャンネル設定を示すも
のではない。したがって,図5の記載から,移動機の送信機,受信機の周波数が可
変であると認定することはできない。
2 本件訂正第1発明と引用発明との相違点クについての判断の誤り
(1) 刊行物2には,審決が認定するような制御の具体的記載が全くなく,特に
周波数選択制御を全く記載していない。したがって,刊行物2の記載内容を刊行物
1に適用しても本件訂正第1発明の構成は得られない。また,「他の局線に未割当
ての圧縮手段およびそれと対応のスロットへの接続をもたらすMultiplex
er,すなわちスロット割当て信号の周波数で動作するMultiplexerへ
の接続を形成する」ことは刊行物1に全く記載のない事項である。したがって,相
違点に関する審決の判断(審決書17頁30行~18頁10行)は,誤りである。
(2) また,審決は,原告が審判において本件訂正第1発明の進歩性の判断に直
接関連するとして提出した刊行物1の著者らの文献(甲5号証の1ないし6)につ
いて,何ら理由を挙げることなく考慮外としており,審理を尽くしたものといえな
い。
3 本件訂正第2発明についての認定判断の誤り
審決には,一致点ケないしサの認定に誤りがあるほか,上記1及び2で主張
したと同様の誤りがある。
第4 被告の反論の要点
 審決の認定判断に誤りはなく,原告の主張はいずれも理由がない。
1 本件訂正第1発明と引用発明との一致点の認定の誤り・相違点の看過につい

(1) 一致点イ(交換手段)について
ア TD-FDMA方式においても回線設定が基地局で行われることは,当
業者であれば普通にわかることであり,刊行物1において,交換機が基地局にある
と理解するのが合理的である。刊行物1の図7は,点線より左に,入来する信号を
所定の搬送波に振り分けるというFDMAの構成を示し,点線より右に,圧縮・伸
張,所定スロットへの配置というTDMAの構成を示したものであり,交換機は基
地局に含まれる。
イ 刊行物1の記載は,アナログ信号ともディジタル信号とも限定されてい
ない。
(2) 一致点ウ(複数の信号圧縮手段)について
 「圧縮・伸張」操作がTDMA方式の特徴であることは,通信分野におい
てごく普通に知られたことである。刊行物1の基地局は複数のCoder/Dec
oderを備えており,Coder/Decoderの一つ一つが複数のCode
r/Decoderを備えているとすることは,設計的事項にすぎない。
 また,本件訂正第1発明において,複数の圧縮手段がタイムスロットのそ
れぞれに対応して設けられたものであるとしても,引用発明において,タイムスロ
ット毎にCoder/Decoderを設けることは,当業者が適宜なし得る事項
にすぎない。
(3) 一致点エ(チャンネル制御手段)について
 審決は,引用発明がMultiplexerを備えていること,そのMu
ltiplexerの接続関係がどうなっているかについて明らかにした上認定し
ているのであるから,誤りはない。
(4) 一致点オ(送信手段)について
ア 本件訂正第1発明でいう「基地局により選択された複数の無線周波数
(RF)の任意の一つでそれぞれ送信できる複数の周波数切換可能な送信手段(2
1)」とは,本件明細書の「システムの初期化に際して周波数の割当てに基づく設
定がなされ変更されないものである」と理解できる記載(53頁右欄6~22行)
などによれば,「複数の送信手段の内のある1つの送信手段は基地局が選択したあ
る1つの周波数で,別の1つの送信手段は,基地局が選択した別の1つの周波数
で,それぞれ送信でき,複数の送信手段全体により,基地局により選択された複数
の無線周波数の任意の一つでそれぞれ送信できる」ことを意味しているものと解す
るのが妥当である。
イ そうすると,刊行物1記載の送信機も本件訂正第1発明の送信手段と何
ら相違するものでないといえる。 
 すなわち,本件訂正第1発明においても,引用発明においても,基地局
の送信手段(送信機)が「基地局の無線周波数の任意の一つで送信できる」のは,各
送信手段(送信機)の周波数が切換可能だからではなく,互いに周波数が異なるよ
うに設定された複数の送信手段(送信機)を具備しており,それらが切換使用され
るように構成されているからである。
 引用発明の基地局が互いに周波数が異なるように設定された複数の送信
機「Tx.」を具備しており,それらが切換使用されるように構成されていること
は,刊行物1が複数の周波数を同時に利用するTD-FDMA方式について述べた
ものであることや,図7中の「Similar」なる記載等から明らかである。
 つまり,引用発明の送信機と本件第1訂正発明の送信手段が共に「基地
局の無線周波数の任意の一つで送信できる」ものであるということは,両者が共に
TD-FDMA方式を実現するものであるという事実から当然にいえることであ
り,その前提に立てば,単に「送信機の周波数を変更できる構成とすることが普通
のこと」であることをもって,本件訂正第1発明の「複数の周波数切換可能な送信
手段」と引用発明の「送信機」とが実質的に相違しないということがいえる。
ウ 送信機の周波数を切換可能とすること自体はごく普通のことであるこ
と,引用発明の送信機の周波数を切換可能とすることができない理由は何もないこ
となどに鑑みれば,本件訂正第1発明の「複数の周波数切換可能な送信手段」と引
用発明の「送信機」とが実質的には相違しないということができる。
(5) 一致点カ(切換手段)について
引用発明において,交換機が基地局の構成要件であることは前記のとおり
であり,交換機内のスイッチ(切換手段)を制御回路により制御するといったこと
は,ごく普通に知られたことであって,審決に誤りはない。
(6) 一致点キ(「遠隔接続中央処理ユニット」,「スロット割当て信号の発
生,交換手段への供給」,「チャンネル制御手段及び送信手段を経由した加入者局
への伝達」)について
ア 引用発明においては,CPUが回線制御および多重化の指示を行い,こ
の指示により,交換機及びMultiplexerは,入来してきた信号を,搬送
波当たり複数設けられた一つのCoderに接続し,Multiplexerは,
Coder出力を所定のタイムスロットに組み上げるようにしている。一方,本件
訂正第1発明は,遠隔接続中央処理ユニットからの制御により,呼切換処理手段
は,入来してきた信号を,(切換手段により)搬送波当たり複数設けられた一つの
CODEC(圧縮手段)に接続し,チャンネル制御装置は,CODEC出力を所定
のタイムスロットに組み上げるものであるから,引用発明と格別に異なる点はな
い。
イ 刊行物1の制御チャンネル設定法は,通話チャンネルを指定するために
搬送波周波数とタイムスロットの両方を指定するから,基地局は,通話に先立ち,
制御チャンネルにより,どの通話チャンネルを使用するかを移動機に知らせるので
あり,審決の認定に誤りはない。
2 本件訂正第1発明と引用発明との相違点についての判断の誤りについて
(1) 刊行物2には,親局装置内の周波数,タイムスロット制御回路15の中央
処理装置15-7は,メモリ15-8内に各周波数帯及びタイムスロット使用状況
をファイルしていること,換言すれば,周波数帯の各々についてどの時間スロット
が割当てずみであるかを示すメモリを維持することが示されている。さらに,刊行
物2においては,メモリを調べて,接続要求に応じて未割当の周波数,タイムスロ
ットを与えるようにしている。
 そうすると,上記刊行物1の移動通信システムに,刊行物2を適用して,
相違点クに係る構成とすることは,当業者が適宜なし得ることにすぎない。
(2) 審決は,刊行物1に基づいて判断したものであり,出願時における技術常
識を認定することを離れて,他の資料を適宜参酌すべきである旨の原告の主張は不
適切である。
3 本件訂正第2発明についての認定判断の誤りについて
審決において認定判断したほか,上記1及び2のとおりであり,審決に誤り
はない。
第5 当裁判所の判断
1 原告が主張する「本件訂正第1発明と引用発明との一致点の認定の誤り・相
違点の看過」のうち,一致点オ(送信手段)について
(1) 審決は,「刊行物1記載の移動通信システムにおいて,基地局は,・・・
送信機の周波数が変更可能である複数の送信機を備えている。一方,本件訂正第1
発明の周波数切換可能な送信手段(21)とは,本件特許明細書の第53頁右欄第
6~22行の記載を参酌すると,システムの初期化に際して周波数の割当てに基づ
く設定がなされ変更されないものである。してみれば,本件訂正第1発明におい
て,基地局が,送信チャンネル・ビット・ストリームに応答して複数の無線周波数
(RF)チャンネルのうちの選択された一つ経由の加入者局への送信用送信チャン
ネル信号を各々が発生する複数の周波数切換可能な送信手段(21)であって,基
地局により選択された複数の無線周波数(RF)の任意の一つでそれぞれ送信でき
る複数の周波数切換可能な送信手段(21)を含むとする点は,上記刊行物1記載
の移動通信システムとの実質的差異には当たらない。」(審決書16頁30行~1
7頁3行)と認定している。
 そこで,審決の上記認定の当否について検討する。
(2) 刊行物1は,「TD-FDMA移動通信方式の検討」と題する論文であ
り,これには次のような記載等がある(甲3号証)。
ア 「従来の移動通信においては,アナログFMのSingleChann
elPerCarrier(SCPC)を用いた周波数分割マルチプルアクセス
(frequencydivisionmultipleaccess:FDM
A)が広く用いられてきたが,大容量の移動通信方式を実現する場合の技術として
これを用いると,使用する搬送波が多数であること,及び伝送帯域幅が搬送波周波
数に比し狭いことに起因する幾つかの問題点が派生する。本論文は,これらの問題
点を解決する一つの方法として時分割マルチプルアクセス(timedivisi
onmultipleaccess:TDMA)技術の導入の可能性を検討した
ものである。まず,TDMA技術提案の背景を示している。次に,TDMA技術を
用いる場合考慮すべき移動伝搬路の特徴を整理したうえで,TDMA移動通信方式
の基本構成を示している。更に,フレーム構成,回線制御技術など方式設計上の主
要項目について検討し,大容量方式実現のためには,TDMAとFDMAを組み合
せたTD-FDMA方式とする必要があること,及び,その実現の可能性を示して
いる。最後に,TD-FDMA移動通信方式の方式構成例を示している。」(10
16頁左欄下から3行~右欄下から5行)
イ 「大容量システムを構成するには多数の搬送波を用い搬送波周波数とタ
イムスロットの両者の指定を行うTimeandFrequencyDivis
ionMultipleAccess(TD-FDMA)とする必要がある。」
(1020頁右欄37~40行)
ウ 図6の「TD-FDMAにおけるフレームフォーマット」には,Out
boundtoMobile,すなわち,基地局から移動機への下り回線として
複数の周波数チャンネルf1,f2が記載されている(1022頁右欄)。
エ 図7の「基地局構成例」には,Multiplexer,Modula
tor,「Tx.」(送信機),「Rx.1」,「Rx.2」,Demodula
tor,Demultiplexer等からなるブロックが一つ記載され,そのブ
ロックの下に,Similarと記載された点線で囲んだブロックが示されてい
る。
 以上の刊行物1の記載等を総合すれば,刊行物1におけるTD-FDMA
方式が複数の周波数チャンネルを備えるものであり,これを実現する移動通信シス
テムの基地局が,複数の周波数チャンネルに対応して複数の送信機を有しているこ
とを認めることができる。このことは,上記図7の基地局構成例において,Sim
ilarとして複数のブロックがあることが示唆されていることからも裏付けられ
る。
 ところで,審決は,前記のとおり,「基地局は,・・・送信機の周波数が
変更可能である複数の送信機を備えている。」として,上記複数の送信機が周波数
変更可能な送信機であると認定している。しかし,上記のとおり,刊行物1には,
基地局の送信機「Tx.」が周波数変更可能な構成をもった送信機であるとの記載
はないし,基地局の送信機「Tx.」の周波数を切り換えて使用することの記載
も,その周波数を切り換えることが可能であるとの示唆も見当たらない。審決の上
記認定は,「送信機,受信機の周波数を変更できる構成とすることはごく普通のこ
と(例えば,PLL回路であれば,その分周比を変えることにより変更する)であ
って,上記刊行物1に記載された送信機Txの周波数が変更可能であるとすること
に,格別な阻害要因はない」(審決書12頁5~8行)ことを理由とするもののよ
うであるが,一般に,送信機や受信機の周波数を変更することができ,そのような
構成をもった送信機,受信機が周知のものであるとしても,そのことから当然に,
刊行物1の基地局の送信機がその周波数を変更できるものであるといえないことは
いうまでもなく,他に,刊行物1の基地局の送信機「Tx.」が周波数変更可能な
送信機であることを認めるに足りる証拠はない。
 したがって,引用発明において,基地局は,送信機の周波数が変更可能で
ある複数の送信機を備えているとした審決の認定は誤りである。
(3) 他方,本件訂正第1発明の「周波数切換可能な送信手段(21)」につい
ての特許請求の範囲の記載は,「前記送信チャンネル・ビット・ストリームに応答
して前記複数の無線周波数(RF)チャンネルのうちの選択された一つ経由の前記
加入者局への送信用送信チャンネル信号を各々が発生する複数の周波数切換可能な
送信手段(21)であって,前記基地局により選択された前記複数の無線周波数
(RF)の任意の一つでそれぞれ送信できる複数の周波数切換可能な送信手段(2
1)」というものである。
 上記記載によれば,本件訂正第1発明においては,基地局に複数の送信手
段(21)があること,それらの送信手段が各々周波数切換可能なものであること
が明らかである。
 この点について,被告は,本件訂正第1発明の「基地局により選択された
複数の無線周波数(RF)の任意の一つでそれぞれ送信できる複数の周波数切換可
能な送信手段(21)」とは,「複数の送信手段の内のある1つの送信手段は基地
局が選択したある1つの周波数で,別の1つの送信手段は,基地局が選択した別の
1つの周波数で,それぞれ送信でき,複数の送信手段全体により,基地局により選
択された複数の無線周波数の任意の一つでそれぞれ送信できる」ことを意味してお
り,基地局の送信手段が「基地局の無線周波数の任意の一つで送信できる」のは,
各送信手段の周波数が切換可能だからではなく,互いに周波数が異なるように設定
された複数の送信手段が具備され,それらが切換使用されるように構成されている
からであると主張する。
 しかし,本件訂正第1発明の「複数の周波数切換可能な送信手段」が,複
数の送信手段の各々が周波数切換可能なものであることを意味していることは,上
記特許請求の範囲の記載自体から明らかであり,これを「複数の送信手段全体によ
り,基地局により選択された複数の無線周波数の任意の一つでそれぞれ送信でき
る」ことを意味すると解することはできない。このことは,本件訂正の審判請求書
に添付された訂正明細書(甲6号証)に,「基地局は,チャンネルが選択自由であ
る周波数帯域454~460MHzバンド内のFCC25KHz間隔の周波数チャ
ンネルのいずれかのチャンネル又はすべてのチャンネルによる送信及び受信が可能
である。各々の音声チャンネルに対するチャンネル周波数の選択は一度に1チャン
ネルずつ基地局によって自動的に行われるが,基地局に備えてある操作員制御卓の
インタフェースによってオーバライドすることができる。」(11頁19~24
行),「RF装置は全システムで使用されている互いに異なる周波数で動作するよ
うにCCU制御機能によってプログラムされている」(108頁9~11行),
「基地局は普通の場合,正常運用時には動作周波数や送信電力レベルを変更しな
い。送信及び受信部は,26チャンネルの各々に完全同調可能である。」(109頁
5~6行)と記載され,基地局の複数の送信手段が複数の周波数チャンネルの各々
で送信できるように周波数切換可能であることが示されていることからも裏付けら
れるということができる。したがって,被告の上記主張は,本件訂正第1発明の送
信手段自体が周波数切換可能であることを看過している点において失当であり,採
用することができない。
(4) そうすると,引用発明の基地局は,複数の送信機「Tx.」を備えている
ものの,周波数が変更可能である送信機を備えているかどうかは明らかでないか
ら,本件訂正第1発明と引用発明とは,その基地局に備えられている複数の送信手
段(送信機)が周波数切換可能な送信手段(送信機)であるかどうかという点で相
違しているというべきであり,本件訂正第1発明の「基地局が,・・・周波数切換
可能な送信手段(21)を含むとする点は,上記刊行物1記載の移動通信システム
との実質的差異には当たらない」とした審決の認定は誤りであるといわなければな
らない。
(5) ところで,審決は,一致点オについての判断において,「仮に,本件訂正
第1発明の送信手段(21)が,文字通りに,システムの使用中に任意のタイミン
グで周波数切換可能であるとしたとしても,上記刊行物2には,周波数を切り換え
て用いる送信機は,上記刊行物2に示されているように,本件出願前に知られてい
るのであるから,これを上記刊行物1記載の移動通信システムの送信機Txに適用
するとすることは当業者が容易になし得ることにすぎない。」(審決書17頁4~
9行)と判断している。
 しかし,審決の上記判断は,本件訂正第1発明の送信手段(21)が,シ
ステムの使用中に任意のタイミングで周波数切換可能であることを前提に,これを
引用発明との相違点ととらえて判断した趣旨と考えられるが,本件訂正第1発明の
送信手段(21)がシステムの使用中に任意のタイミングでその周波数を切り換え
て使用されるものであることは本件明細書に記載がなく,審決のとらえた点は必ず
しも適切な相違点ということはできず,本件訂正第1発明の送信手段(21)が周
波数切換可能な構成を有しているという引用発明との相違点について判断したもの
ということはできない(なお,刊行物2(甲4号証)には,基地局に相当する親局の
送信機の周波数を切り換えることは記載も示唆もないから,刊行物2の技術を引用
発明に適用しても,基地局の送信機を周波数切換可能とすることが容易想到である
ともいえない。)。
 なお,審決は,引用発明の内容を認定するに際し,「送信機,受信機の周
波数を変更できる構成とすることはごく普通のこと・・・であって,上記刊行物1
に記載された送信機Txの周波数が変更可能であるとすることに,格別な阻害要因
はない」(審決書12頁5~8行)と説示しているが,仮に,この説示をもって,
引用発明における基地局の送信機が周波数変更可能でないことを前提に,これを本
件訂正第1発明との相違点ととらえて判断したものとみる余地があるとしても,本
件全証拠を検討しても,審決が「ごく普通のこと」というような技術常識が存在し
ていること,あるいは阻害要因の存在していないことを的確に認めるに足りる証拠
はないのであって,上記説示はその裏付けを欠くものといわなければならない。
(6) 以上のとおり,本件訂正第1発明と引用発明とは,少なくとも「周波数切
換可能な送信手段(21)」の点で相違するから,この点を相違点とすべきである
ところ,審決は,これを看過し,この相違点について適切な判断をしていない誤り
があるというべきである。
2 本件訂正第2発明についての認定判断について
(1) 本件訂正第2発明は,「前記被変調副搬送波に応答して前記複数の無線周
波数(RF)チャンネルのうちの選択された一つ経由の前記加入者局への送信用被
変調信号を各々が発生する複数の周波数切換可能な送信手段(21)であって,前
記基地局により選択された前記複数の無線周波数(RF)の任意の一つでそれぞれ送
信できる複数の周波数切換可能な送信手段(21)」を,その構成に欠くことができ
ない事項とするものであるが,審決は,本件訂正第2発明と引用発明との対比・検
討の(エ)において,「本件第2訂正発明における送信手段(21)の構成内容に
ついては,上記4-1(判決注・本件訂正第1発明と引用発明との対比・検討)に
おいて検討したと同様である。」(審決書19頁21~22行)と判断している。
(2) しかし,引用発明が「周波数切換可能な送信手段(21)」を有する点に
ついて審決の認定に誤りがあり,審決がこの相違点を看過し,適切な判断をしてい
ないことは,上記1で検討したとおりであるから,本件訂正第2発明についても,
同様に,その点に関する審決の認定判断は誤りである。
3 以上のとおりであって,審決の認定判断には,本件訂正第1発明及び本件訂
正第2発明のいずれについても,上記の誤りがあり,これが審決の結論に影響する
ことは明らかであるから,その余の点について検討するまでもなく,審決は取消を
免れない。
 よって,原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし,訴訟費
用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のと
おり判決する。
東京高等裁判所知的財産第3部
           裁判長裁判官  佐 藤 久 夫
              裁判官  設 樂 隆 一
              裁判官  若 林 辰 繁

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