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事件番号;平成16年(ワ)第1910号
事件名:損害賠償請求事件
H18.3.31裁判年月日:
裁判所名:京都地方裁判所
部:第1民事部
結果:一部認容
登載年月日:
判示事項の要旨:本件は,原告の長男(当時16歳)に対して,被告A,同B
(当時16歳)ら5名が共謀して,3時間余にわたって暴行を
加え死亡させた事件に関し,相続人である原告が,被告A,同
B及び同Bの親権者である被告Cに対し,不法行為に基づき損
害賠償を請求した事案であるところ,以下のとおり判示して,
被告Cに対する請求を棄却した事例である。
責任能力のある未成年者の加害行為について,民法709条
により当該未成年者の監督義務者に過失を認めるには,一般的
な監護教育義務違反の懈怠があるだけでは足りず,加害行為の
予見可能性を前提とした具体的過失が必要であり,また,因果
関係についても,一般的包括的監護義務違反と損害との因果関
係があるだけでは足りず,個別具体的な監督義務違反と損害の
発生事実との間に相当因果関係が存在することが必要である。
しかし,本件では,被告Bの非行歴等から,本件事件に関与
することを予見することは困難であり,結果との間に相当因果
関係を認めることができない。
主文
1被告A及び同Bは,原告に対し,連帯して,9456万6018円及び
内金9006万6018円に対する平成14年10月8日から,内金45
0万円に対する平成16年7月28日から各支払済みまで年5分の割合に
よる金員を支払え。
2原告の,被告A及び同Bに対するその余の請求及び被告Cに対する請求
を棄却する。
3訴訟費用は,原告と被告A,同Bとの間においては,原告に生じた費用
の3分の2を被告らの負担とし,その余は各自の負担とし,原告と被告C
との間においては,全部原告の負担とする。
4この判決の第1項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告らは,原告に対し,各自金1億5266万4152円及び内金1億42
66万4152円に対する平成14年10月8日から,内金1000万円に対
する平成16年7月28日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
第2事案の概要
1本件は,被告A及び未成年者である被告Bらが,平成14年10月8日,D
(当時16歳の男子)に対し暴行を加え,よって,同月14日,同人を傷害に
より死亡させたとして,Dを相続した原告が,暴行等を行った被告A及び被告
Bに対しては上記行為の共同不法行為(民法709条,719条,被告Bの)
親権者である被告Cに対しては被告Bを指導監督する注意義務違反を根拠とす
る不法行為(同法709条,719条)による損害賠償請求権に基づき,連帯
して,金1億5266万4152円及び内金1億4266万4152円(弁護
),士費用を除いた部分に対する不法行為の日である平成14年10月8日から
内金1000万円(弁護士費用)に対する本件各訴状送達後の日である平成1
6年7月28日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金
の支払を求めている事案である。
2基礎となる事実(争いのない事実及び各項末尾記載の証拠等により容易に認
定可能な事実)
()傷害致死事件の発生1
被告A,E,被告B(昭和61年2月27日生,F及びGの5名(以下)
「被告Aら5名」という)は,共謀して,平成14年10月8日午前零時。
30分から同日午前3時40分ころまでの間,京都市a区b町c番地先dに
おいて,Dに対して,こもごもその顔面,頭部,腹部,背部等を鉄パイプ,
丸太,手拳,自転車のサドル等で多数回殴打又は足蹴にし,自転車に乗って
その腹部に乗り上げ,その身体に自転車を投げ付けて命中させ,その身体を
持ち上げて背部からアスファルトの路面に叩きつけるなどの暴行を加え,D
に頭部,顔面,胸腹部,左手打撲等の傷害を負わせ,よって,同月14日午
後5時33分,上記傷害に基づく外傷性ショックによる多臓器不全により死
亡させた(以下「本件事件」という。。)
()当事者等2
アDの相続人は,Dの母である原告と,Dの父であるHであったが,遺産
分割協議により,本件事件によるDの損害賠償請求権は原告1人が取得し
た(甲3の1・2。)
イ被告Bは,被告Cの子であり,本件事件当時16歳であった。
被告Cは,被告Bの母親であり,親権者である。
(甲5)
()被告Aらの不法行為責任3
被告Aら5名は,いずれも,故意による前記暴行によりDを死亡させたこ
とから,本件事件について,民法709条,719条に基づき,Dの死亡に
よる原告の損害(Dの損害の相続分も含む)を賠償する義務を負う。。
()損害の賠償4
アFは,原告に対し,本件事件についての損害賠償債務の履行として,平
成15年2月19日,250万円を支払った(乙D2。)
イG及びその母親のIは,原告に対し,本件事件についての損害賠償債務
の履行として,平成15年3月4日に300万円,平成17年10月27
日及び同年11月28日に各3万円の合計306万円を支払った。
ウE及びその母親のJは,原告に対し,平成17年11月5日,本件訴訟
上の和解成立の席上で本件事件の和解金として80万円,同和解の条項に
基づき,平成17年11月末日までに4万円の合計84万円を支払った。
3争点
()被告Bの親権者である被告Cの責任の有無1
ア原告の主張
(ア)被告Cの過失
a被告Cは,住居地に,被告Bのほか,K(本件事件当時20歳,無
職,L(同18歳,製菓業,M(同14歳,中学三年生,N(同)))
13歳,中学一年生)の6人で生活していた。
b被告B及びM(以下「被告Bら」ともいう)は,平成13年夏こ。
ろから夜遊びをするようになったが,被告Bらは注意しても聞き入れ
ず,しかも注意しても「お母さんがいないときしか帰らへんのや」と
,。言って笑っており到底監督したと言えないような甘い態度であった
,,,cその後も被告BがO宅に寝泊まりしたり被告AやEとも交遊し
,,平成14年5月ころにはその交遊関係において暴力沙汰もあったが
そのような状況であっても,被告Cは,被告Bらへの監督態度を変え
ることはなかった。
d本件事件前日の平成14年10月7日深夜午前0時30分,被告B
もMも家にいなかった。被告Cは,Mの携帯電話にかけて居場所を聞
いたが「Dのアパートの前でDが帰って来るのを待っているんや。,
Dを探してんのや。BやEも一緒や」と言ったことから,被告Bと一
緒であればいいやと思って風呂に入り,その後,Mに電話したが通じ
なかったので布団に入り横になっていた。
同日午前3時過ぎころ,被告BとEが血だらけのMを連れてきて,
病院に行き,Mから「階段から転んだ」との説明を受けたが,嘘と。
わかりながら特段追及することもなかった。
e被告Cは,本件事件当日深夜3時ころ,被告Bが帰ってきても,被
告Bの行動を黙認していた。しかも,被告Bのジーパンの尻部分に血
,「」,がついていたのにけんかしたんやという被告Bの説明を聞いて
特段追及することはなかった。
f京都地方検察庁から京都家庭裁判所への送致書においても「家庭,
は,両親離婚後,実母が養育しているものであるが,少年が日頃から
不良交友を重ね,深夜徘徊し自宅に寄りつかない等,非行化が顕著で
あったにもかかわらず,無関心であり,監護能力がない」と指摘され
ている。
また「傷害致死被疑少年の接見禁止付き勾留の必要性について」,
と題する京都府警察本部刑事部捜査第一課司法警察員司法巡査作成の
,「,,書類においても日頃から自宅に寄りつくこともなく深夜徘徊し
知人宅に泊まり歩くなどの非行行為が頻繁に繰り返されている状況が
あり,実母も比較的子どもに対する係累も乏しく実母の監督に服さな
いことから逃亡のおそれがある」と指摘されている。
さらに,京都府九条警察署から京都地方検察庁への関係書類追送書
添付の身上調査票の「非行の動機・原因」欄中「母親」の態度は,,
「放任」と記載されている。
g以上のとおり,被告Cは,被告Bの母親(親権者)であり,被告B
の性格や行状を的確に把握して,その問題行動を監視し,その生活態
度全般の適正化を図り,交友関係にも留意し,殊に暴力の使用を固く
戒めるなど,被告Bを常日頃から指導,監督する注意義務があるのに
これを怠り,親として,被告Bの深夜徘徊や暴力行為等の問題行動の
状況を知りながら,これらの行為が有する意味について深く考えるこ
となく,事実関係について慎重に確認することも,これに基づく対策
を講じることもせず,表面的な理解に基づき,被告Bの問題行動を黙
,,認するか或いはその場限りの表面上の注意をしたに過ぎず被告Bの
DやMに対する本件前の暴行を看過していたのであり,これによって
本件によるDの死亡という最悪な事態に至ったものである。
したがって,被告Cには,日頃から被告B及びMが深夜遊びをし,
被告らとの交友関係において暴力事件にしばしば関与しており,その
ことを十分知っていたのに,生活態度の適正化を図るよう努力せず,
暴力沙汰にも黙認,容認する態度をとるなど,被告Bを常日頃から指
導,監督する注意義務があるのにこれを怠り,その結果,被告Bが本
件事件に関与してDを死亡させた過失がある。
(イ)被告Cの主張に対する反論
被告Cは,被告Bの動静には相当の注意を払い,真実を知って適切な
対応を取るべく,限られた時間の中で可能な限り努力していた旨主張す
るが,14歳や16歳の子どもが深夜徘徊しているのを黙認していたこ
と,階段から落ちたけがではないことが明らかであるにもかかわらず,
Mの言葉をそのまま受け入れてそれ以上の追及をしていないことからす
ると,可能な限り努力をしていたとは言えない。
被告Cは,被告B自身が他者に暴力を振るう立場になったことは,本
件事件以前に一度もなかったことを主張するが,本件事件では,自身が
自主的に暴力を振るう立場にあったか否かが問題となるのではなく,た
とえ従属的であっても暴力事件が起きるような交友関係・環境にあった
か否かが問題である。
本件事件では,まさに,被告Bは暴力沙汰がいつ起きても不思議では
ない交友関係を続け,しかも,被告Bは,他者の影響を強く受けやすい
資質があった。そして,オートバイ盗・不良交友・深夜徘徊・外泊など
の非行化は顕著であった。
イ被告Cの主張
原告主張の(ア)について
(ア)同aは認める。
(イ)同bのうち,平成13年夏ころから被告Bらが夜遊びするようにな
った事実は認め,その余は否認ないし争う。
被告Cの平成14年10月15日付け司法警察員面前調書には,原告
主張の記載があるが,供述調書にしばしば見られるように事実の一部が
抽出されたに過ぎず,被告Bが被告Cの注意を聞き入れて行動を改めた
,。ことは数え切れないのであって被告Cが監督を怠っていた訳ではない
(ウ)同cは争う。
(エ)同dについては,事実経過は概ね認めるが,Mの説明を容認してい
たわけではなく,また,これが被告Cの監督義務違反であるとの主張は
争う。
平成14年10月7日未明,被告Cは,M,被告B及びEが帰宅した
際,Mのけがを見て驚いたが,上記3名に何度問いただしても「階段か
ら転んだ」との説明を繰り返すのみで,それ以上の回答は返ってこな。
かった。
まずは,治療を最優先させなければならなかったため,被告Cは,M
を九条病院に連れて行き治療を受けさせたが,帰宅したときには既に夜
が明けており,被告Bは就寝していた。
その後,被告Cは,午前9時から工場勤務に出かけたが,休み時間に
はMの携帯電話に電話をかけ,けがの具合,理由と被告Bの動静を確認
した。被告Cは,被告Bが熟睡している旨Mから聞かされたため,すぐ
には起こさないことにし,午後5時の就業時刻後直ちに帰宅したが,そ
のときには既に被告Bは家を出た後であり,Mに事情を聞くも「けが,
は階段から転んだ「兄ちゃんは出て行った」と答えるのみであった。」
,,,以上のとおり被告CはM及び被告Bの動静には相当の注意を払い
真実を知って適切な対応を取るべく,限られた時間の中で可能な限りの
努力をしていた。
(オ)同eについては,被告Cが被告Bの行動を黙認していたとする部分
は争う。
被告Cは,被告Bの憔悴した様子を見て,その場ではなく後刻落ち着
いた状態で確認した方がよいと思ったに過ぎない。
(カ)同fについては,原告摘示の各記載が存在することは認めるが,当
該各記載は,何らの証拠に基づかないものであって到底信用に値せず,
京都地方検察庁から京都家庭裁判所宛送致書には非行歴無いと非,「」「
行化が顕著」とが同一文章中にあるなど,文章自体も意味不明かつ破綻
している部分がある。
(キ)同gは争う。
被告Cは,被告BらがOなどから殴られることを非常に心配し,暴力
を強く憎んでいた。また,実際に暴力事件に巻き込まれた際(平成14
年10月7日未明など)には,子どもたちの心を自身の心ない言葉によ
って傷つけないように細心の注意を払ってもいた。
被告Bは,本件事件直前まで,その生活態度において暴力傾向は全く
,,,見受けられず前歴はおろか検挙歴もなかったのであって被告C自身
被告Bが傷害致死事件の加害者になることは夢にも思っていなかった。
被告Cには,本件事件の予見可能性がなかったというべきである。
()損害額2
ア原告の主張
(ア)死亡による逸失利益6111万9152円
Dは,本件事件がなければ,死亡時の年齢である16歳から67歳に
至るまで,平成14年賃金センサス第1巻第1表の産業計・企業規模計
・学歴計による男性労働者の全年齢平均年収555万4600円を得ら
れたのであるから,生活費控除率を40%として,Dの逸失利益を算定
すると,以下のとおりとなる。
555万4600円×(1-0.4)×18.3389(16歳から
67歳までの51年間のライプニッツ係数)=6111万9152円
(イ)Dの死亡慰謝料4000万円
本件は,被告Aら5名が共謀の上,Dに集団で暴行を加えて死亡させ
たという悲惨かつ痛ましい事案である。
Dは,被告Aら5名から暴行されなければならない理由がないにもか
かわらず,被告Aがねつ造した身勝手かつ幼稚な理由のため,D自身に
は到底理解できない不可解な言いがかりを付けられ,3時間余りもの長
時間にわたって執拗な暴行を受けたものである。
また,その暴行態様は,基礎となる事実()に記載のとおり,残忍か1
つ悲惨なものであって,被告A,E及び被告Bは,Dとは旧知の間柄で
あり,特にE及び被告Bは,Dとは友人といってもよい関係であったに
もかかわらず,上記のような残忍かつ執拗は暴行をDに加えたものであ
る。
被告Aら5名から長時間にわたり不条理かつ残忍な暴行を加えられ続
けたDの精神的苦痛の程度は想像を絶するものであり,また,16歳と
いう若さで生命を絶たれたDの無念さは察するに余りあり,Dの死亡に
よる精神的慰謝料は4000万円を下らない。
(ウ)原告固有の慰謝料4000万円
原告とDは母1人,子1人の二人家族であり,原告にとってかけがえ
のない存在である1人息子のDを上記のような悲惨な形で失ったこと,
被告らから相当の慰謝の措置を受けていないこと等に照らせば,原告の
慰謝料は4000万円を下らない。
(エ)付添看護費・入院雑費(京都第一赤十字病院分)4万5000円
{6000円(付添看護費)+1500円(入院雑費}×6日(入)
院期間)=4万5000円
(オ)葬儀費150万円
(カ)弁護士費用1000万円
(キ)(ア)ないし(カ)の合計1億5266万4152円
イ被告Aの主張
被告Aの損害賠償義務の存在は認め,損害額は争う。
ウ被告B及び被告Cの主張
原告に損害が生じていることは認め,個々の額については不知ないし金
額の相当性を争う。
第3当裁判所の判断
1争点()(被告Bの親権者である被告Cの責任の有無)について1
()事実認定1
前記基礎となる事実,争いのない事実,証拠等及び弁論の全趣旨(各項末
尾等に掲げる)によれば以下の事実を認めることができる。。
ア(ア)被告Bは,幼稚園から,小学校,中学校時代を含めて,本件事件発
,,,生まで家及び学校等で問題行動を起こしたことやけんかをしたこと
人を殴ったりしたことはなく,補導歴,非行歴,検挙歴は全くなかった
(ただし,本件事件についての京都地方検察庁から京都家庭裁判所への
送致書には,平成14年9月にオートバイ盗を敢行して捜査中との記載
がある(甲9。)。)
(イ)被告Bは中学校を卒業後,その年の4月から12月まで仕事をして
いたが,その後仕事を辞め,本件事件当時は無職であった。
(甲11,乙C2ないし4,被告C本人。)
イ(ア)被告BとMは,平成13年夏ころから,Dらと夜遊びをするように
なった。被告Cは,被告Bらに対して,夜遊びをしないように,また,
夜遊びした際も被告Cに電話をかけて,居場所を伝えて,すぐに戻って
くるように再三注意したが,被告Bらはこれを聞かず,夜遊びを続けて
いた。
(イ)被告Bらは,平成13年ころから,Oの家に行き,夜遅くまでそこ
。,,にいたり宿泊したりしていたこれに対して被告Cは被告Bらに対し
夜きちんと自宅に帰ってくるように注意していたが,被告Bらはこれを
聞かず,Oの家に出入りしていた。
平成14年5月ころ,被告BがO方で同人らに顔を殴られるという事
件が発生し,Oからの連絡によりこれを知った被告CがO方に駆けつけ
たところ,被告Bは,顔が腫れて,熱を出して寝ていた。その場には被
告A外2名もおり,被告Cは,救急車を呼ぶように頼んだが,周囲に大
丈夫と説得され,1人帰宅した。被告Cは,被告Bが殴られた原因につ
いて,Oには聞かず,被告Bに聞いたところ,被告Bは,本当のことを
言ったらまた殴られるなどとして詳細には言わなかった。
(ウ)その後,被告Cが,被告Bに対して,O宅には行かないように言っ
たところ,被告BはO宅には行かなくなったが,被告A方に行くように
なった。
(甲8ないし甲10,乙C4,被告C本人)
ウ(ア)平成14年10月7日午前零時ころ,被告Cは,帰宅した際に被告
Bらがいなかったので心配になり,Mの携帯電話に電話をかけ所在を尋
ねたところ,Mは,Dのアパートの前でDが帰ってくるのを待っている
こと,Dを捜していること,被告BとEと一緒にいること等を述べた。
被告Cは兄弟が一緒であれば安心と考え,風呂に入って横になっていた
ところ,同日午前3時ころ,被告BとEが,被告Aらの暴行を受けて頭
を切って大きな傷を作り血だらけの状態になったMを連れて帰宅した。
,。,被告CはMを京都九条病院に連れて行き診察を受けさせた被告Cは
Mからけがの原因として「階段から転んだ」と聞いたが,それが嘘とわ
かりつつそれ以上追及しなかった。
(イ)平成14年10月8日午前零時30分ころから午前3時40分ころ
本件事件が発生したが,本件事件は,被告Aが交際相手のEに嘘を言い
これを隠すために架空の人物を考え出すなどしたことに端を発し,被告
Aが主導して行われたもので,被告Bは,被告Aらに誘われて従属的な
立場で本件事件に関与した。
(ウ)その後,被告Bが1人で帰宅したが,被告Cはそのまま寝ていた。
被告Cは,同日午前7時ころ,被告Bのジーパンの尻部分に血がついて
いるのを発見したが「けんかしたんや」との被告Bの説明を聞いて特,
段追及しなかった。
(甲1,甲8,乙C4,被告C本人)
,(),,エ(ア)被告Cは被告B本件事件当時16歳の母親であり住居地に
被告Bのほか,K(本件事件当時20歳,無職,L(同18歳,製菓)
業,M(同14歳,中学三年生,N(同13歳,中学一年生)の6))
人で生活していた(原告と被告Cとの間で争いがない。。)
(イ)被告Cは,ほとんど毎日日中パート勤務しており,これと生活保護
とで生計を立てていた(甲11,被告C本人。)
(ウ)本件事件の捜査を担当した捜査官は,被告Cの被告Bに対する監護
態度・能力について,深夜徘徊して家に寄りつかない被告Bに無関心で
監護能力がない,被告Bは被告Cの監督に服さない,本件事件(非行)
の原因に被告Cの放任がある旨述べた(甲9ないし甲11。)
()検討2
ア(ア)責任能力のない未成年者が不法行為によって他人に損害を与えても
未成年者自身は賠償の責任を負わず(民法712条,その未成年者を)
監督すべき法定の義務がある者が,その損害を賠償する責任を負う(民
法714条。したがって,未成年者が責任能力を有する場合には監督)
義務者は責任を負わないのが原則であるところ,未成年者が責任能力を
有する場合であっても,監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行
為によって生じた結果との間に相当因果関係を認めるときは,監督義務
者につき民法709条に基づく不法行為が成立するものと解するのが相
当である(最高裁昭和49年3月22日第二小法廷判決・民集28巻2
号347頁。)
(イ)そして,責任能力のある未成年者の加害行為について,民法709
条により当該未成年者の監督義務者に過失を認めるには,一般的な監護
教育義務違反の懈怠があるだけでは足りず,加害行為の予見可能性を前
提とした具体的過失が必要であり,また,因果関係についても,一般的
包括的監護義務違反と損害との因果関係があるだけでは足りず,個別具
体的な監督義務違反と損害の発生事実との間に相当因果関係が存在する
ことが必要であると解するのが相当である。
イ(ア)そこで,まず,被告Bの責任能力についてみると,被告Bの年齢,
学歴等からして,被告Bが責任能力を有することは明らかである。
(イ)次いで,被告Cについて被告Bに対する監督義務違反の有無をみる
と,まず,被告Cは,本件事件当時,未成年者(当時16歳)である被
告Bの親権者として,被告Bを監督し,教育すべき義務を負っていたも
のである。
(ウ)そして,前記認定のとおり,被告Cは,被告Bらに対して夜遊びを
やめて早く家に帰ってくるように再三注意をし,深夜帰ってこない被告
Bらに対して携帯電話で居場所等を確認したり,被告Bらが暴行を受け
た原因について一応被告Bらに尋ねるなどのことは行っているものの,
被告Bらは被告Cの上記注意をほとんど聞き入れず,平成13年以降本
件事件当時まで,Oや被告A方に深夜の徘徊を続けていたことが認めら
れ,また,被告Bらが暴行を受けた原因の追及やその対策等についても
被告Cが十分に行っていたとは必ずしも言い難い。
(エ)取り分け,被告Cは,平成14年5月ころには,被告Bが被告Aも
その場にいたO方で暴行を受けていたことを確認しており,前記認定事
情からして本件事件前日にはMが階段からの転落以外の事情で大けがを
したことを認識していたのであるから,被告Cとしては,被告Bらが暴
行事件等に関与するおそれのある深夜徘徊をすることをやめさせるべき
監督義務があったと考えられるところ,生計を立てるために日中勤務す
る必要があったにせよ,なお,前記(ウ)や前記認定からすると,上記義
務を十分に果たしていたとは言い難い面がある。
,,ウ(ア)しかしながら平成14年5月ころ及び本件事件前日の暴力事件は
いずれも被告BやMが被害者となっているものであること,被告Bは,
本件事件まで,問題行動を起こしたり,けんかや暴力を振るったことは
なく,補導歴,非行歴,検挙歴はオートバイ盗を除き全くなかったこと
をみると,被告Cにおいて,本件事件当時,このように粗暴的性向のな
い被告Bが,他の少年らと一緒になって傷害致死事件の加害者になるこ
とを予見すべき状況にあったとは言い難い。
(イ)また,本件事件は被告Aが発想し,被告Aの主導の下に敢行された
もので,従属的な立場であった被告Bにとってはいわば突発的な犯行で
あったと考えられること,その具体的態様も,前記基礎となる事実()1
記載のとおり,反復執拗になされたという異常かつ特異なものであるこ
,,,と及び被害者であるDは被告Bとの遊び友達であったことをみると
被告Cにおいて,被告Bが,Dを被害者とする本件事件ような傷害致死
事件に加害者として関与することを予見することは困難であった言わざ
るを得ない。
,,(ウ)してみると被告Cが本件事件の発生を予見していなかったことが
保護者として当然なすべき監督義務を怠っていたことによるとまでは認
めることができず,他に被告Cの監督義務違反を裏付ける具体的過失を
認めるに足りる証拠はない。
そして,被告Bにとって本件事件が突発的であったことや本件事件態
様の異常性・特異性を考えると,仮に被告Cに被告Bらに深夜徘徊を中
止させたり,自らの子らが受けた暴行の原因を追及したりする点におい
て親権者としての監督義務違反が認められたとしても,本件事件の具体
的な結果との相当因果関係までは認めることができない。
()以上によれば,争点()について,被告Cの不法行為責任は認めることが31
できない。
2争点()(損害額)について2
()Dの死亡による逸失利益5492万2218円1
Dは,本件事件当時16歳で無職の男子であったことから,Dの逸失利益
算定の基礎収入は,平成14年賃金センサス第1巻第1表の産業計・企業規
模計・学歴計による男性労働者の全年齢平均年収555万4600円とする
のが相当であり,生活費控除率を40%として,本件当時16歳であったD
の満18歳から満67歳までの逸失利益を計算し,ライプニッツ方式により
年5%の割合による中間利息を控除し,逸失利益の本件当時の原価を計算す
ると下記計算のとおりの金額になる。
(計算式)
555万4600円×(1-0.4)×16.4795(16歳の者に適
用する18歳から67歳までの49年間のライプニッツ係数)
=5492万2218円
()Dの死亡慰謝料3000万円2
ア争いのない事実及び証拠(甲1)によれば以下の事実が認められる。
本件は,被告Aら5名が,共謀により,Dに対し,集団で3時間余りの
長時間にわたり暴行を加え,死亡させたという悲惨かつ痛ましい事案であ
り,その暴行の態様は,基礎となる事実()記載のとおり,執拗で残忍か1
つ凄惨なものである。
本件事件は,被告Aが発想した自己中心的かつ身勝手で幼稚な発想に端
を発しており,D自身にとっては,到底理解できない不可解な言いがかり
を付けられた上,Dは,被告Aら5名から暴行されなければならない理由
がないにもかかわらず,上記のような暴行を受けたものである。
イこのように,本件事件の結果は重大であること,被告Aらから長時間に
わたり不条理で執拗かつ残忍な暴行を加えられ続けたDの精神的肉体的苦
痛の程度は想像を絶するものであること,及び,16歳という若さで生命
を絶たれたDの無念さは察するに余りあること等諸般の事情を考慮する
と,Dの死亡による精神的慰謝料は3000万円とするのが相当である。
()原告固有の慰謝料1000万円3
証拠(甲14)によれば,原告とDは,本件事件当時,母1人,子1人の
2人家族であったと認められるところ,原告にとってかけがえのない存在で
ある1人息子のDを上記のような悲惨な形で失った原告の精神的苦痛は筆舌
に尽くしがたいものがあり(原告本人,原告固有の慰謝料としては100)
0万円とするのが相当である。
()付添看護費・入院雑費4万3800円4
証拠(甲2,甲14,原告本人)によれば,Dは,本件事件発生日である
平成14年10月8日から,死亡した同月14日まで6日間,京都第一赤十
字病院に入院し,原告がこれに付き添い看護したことが認められるところ,
下記計算式による付添監護費及び入院雑費が,本件事件と相当因果関係にあ
る損害と認めることができる。
(計算式)
{6000円(付添看護費/1日)+1300円(入院雑費/1日}))
×6日(入院期間)
=4万3800円
()葬儀費150万円5
葬儀費として被告らに負担させるべき相当額は150万円と認めることが
できる。
()弁護士費用450万円6
弁論の全趣旨によれば,原告は,本件訴訟を弁護士である原告訴訟代理人
らに委任し報酬の支払を約束していることが認められるところ,本件事案の
性質,困難性等に照らすと,本件訴訟と相当因果関係にある弁護士費用相当
の損害額は,450万円と認めるのが相当である。
()なお,基礎となる事実()記載のとおり,本件事件の加害者らの一部は,74
原告に対し,本件事件に関し合計640万円(=250万円+306万円+
84万円)の損害賠償を行ったと認めることができるから,弁護士費用を除
く原告の損害額は,上記()ないし()の金額の合計金額9646万601815
円から上記賠償済みの金額640万円を控除した9006万6018円と認
めることができる。
3結論
以上によれば,原告の請求は,被告A及び被告Bに対し,連帯して,945
6万6018円(上記2()()の合計金額)及び内金9006万6018円に67
対する本件事件発生日(不法行為日)である平成14年10月8日から,内金
450万円に対する平成16年7月28日から各支払済みまで民法所定の年5
分の割合による遅延損害金を求める範囲で理由があるからこの範囲で認容する
こととし,被告A及び被告Bに対するその余の請求並びに被告Cに対する請求
は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61
条,64条,65条,仮執行宣言について同法259条1項に従い,主文のと
おり判決する。
京都地方裁判所第1民事部
裁判長裁判官中村隆次
裁判官福井美枝
裁判官国分進

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