弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を仙台高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人八島喜久夫の上告理由第一点について。
 本件買収令書における買収の対象たる土地の表示は大字名を誤記したものである
旨の原審の判断は、証拠関係に照らし、相当である。また、買収令書における買収
目的地の表示が不十分であつた場合でも、買収手続当時の事情のもとで、買収目的
地が特定されていると解されるときは、当該買収処分は違法ではなく、有効である
と解すべきである(昭和三二年一一月一日第二小法廷判決、民集一一巻一二号一八
七〇頁参照)から、本件未墾地買収手続の経緯に関し原審が確定した諸般の事情の
もとでは、本件未墾地買収処分は有効である旨の原審の判断は正当である。したが
つて、原判決に所論の違法はなく、論旨は理由がない。
 同第二点について。
 自作農創設特別措置法(昭和二一年法律第四三号。以下、単に自創法という。)
に基づく農地等の買収処分には民法一七七条は適用されないと解すべきことは、当
裁判所の判例とすることろである(昭和二五年(オ)第四一六号、同二八年二月一
八日大法廷判決民集七巻二号一五七頁、同二五年(オ)第二六七号、同二八年三月
三日第三小法廷判決民集七巻三号二〇五頁など)が、このことと自創法に基づく買
収処分により国が農地等の所有権を取得した場合において、その取得について民法
一七七条が適用されるかどうかは、別個の問題であるといわねばならない。
 ところで、いかなる原因によるものであつても、不動産物権の変動があつた場合
において、これとていしよくする物権の変動が生ずる可能性があるときは、特別の
規定または公益上重大な障害を生ずるおそれがないかぎり、不動産物権公示の原則
に照らし、当該物権の変動について民法一七七条が適用されるものと解するのが相
当である。そして、未墾地買収処分により国がその所有権を取得した場合において、
当該土地についてこれとていしよくする物権の変動が生ずる可能性のあることは明
らかであり、自創法一一条は「第六条乃至第九条の規定によりした手続その他の行
為は、第三条の規定により買収すべき農地の所有者、先取特権者、質権者又は抵当
権者の承継人に対してもその効力を有する」旨規定し、同法三四条は未墾地の買収
について右一一条の規定を準用しているが、同条は農地の買収計画の樹立以降買収
令書の交付、すなわち買収の効果の発生までに一連の手続を必要とするため、買収
手続の過程で権利者が変動して買収手続がその効力を失うことなどによる手続の繁
雑化を避けるべく、一定の限度において、すなわち、買収の効果の発生までに権利
関係の変動があつても、その承継人に対し、買収手続の効力が及ぶ旨を定めたにす
ぎず、国が買収処分により所有権を取得した後においてまでも、民法一七七条の適
用を排除する趣旨のものではないと解するのが相当であり、その他未墾地買収処分
による物権の変動について同条の適用を排除する趣旨の特別の規定は見当らない。
のみならず、右物権の変動について同条が適用されるとしても、未墾地買収の特質
およびその処分による所有権取得の登記手続に関する法制にかんがみ、右処分に関
する法令の運用が適正であるかぎり、公益上重大な障害を生ずるおそれのあること
は認められないものというべきである。したがつて、右物権の変動についても、同
条が適用されるものと解するのが相当である(昭和三九年一一月一九日第一小法廷
判決民集一八巻九号一八九一頁参照)。
 しからば、右と異なつた見解を前提として被上告人らの請求を認容した原判決は、
法律の解釈を誤り、ひいては審理不尽の違法を犯したものというべく、この違法が
原判決の結論に影響を及ぼすおそれのあることは明らかであるから、この点に関す
る論旨は理由があり、原判決は全部破棄を免れない。
 よつて、民訴法四〇七条に則り、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決す
る。
 裁判官山田作之助は退官につき評議に関与しない。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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