弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人牛島定において、同人名義の控訴趣意書と題する書面
中第一点二行目乃至三行目の「証拠法則に背反した違法あり又は」を削り、第二点
乃至第四点及び第六点を撤回すると述べた外、同弁護人、弁護人新垣進、同石橋信
各別名義の控訴趣意書と題する書面記載のとおりであつて、これに対し、左のとお
り判断する。
 弁護人新垣進の控訴の趣意第一点(法令適用の誤)について。
 自転車競技法(昭和二三年法律第二百九号、但し昭和二七年法律第二二〇号によ
る改正以前のもの。以下同じ。)第八条は、「自転車振興会の役員、選手その他自
転車競争の事務に従う者に対して、勝者投票券を売出すことはできない。」と規定
し、第十五条は、その第二号において、第八条に掲げる者にして、勝者投票券を買
入れ又は譲受けた者を挙げ、これに対し、二万円以下の罰金に処する旨を定めてい
るのであるから、右犯罪は、自転車競争に関し、売出さるべきあらゆる勝者投票券
を広く包含するものと解すべきである。又、同法第七条及び自転車競技法施行規則
によれば、自転車競争施行者は、一口二十円以下の勝者投票券を、額面金額で売出
すことができると共に、勝者投票券の売出には、単勝式、複勝式、連勝式の別、額
面金額を記載しなければな<要旨第一>らないことは所論のとおりであるが、右第十
五条第二号の犯罪事実を摘示するにあたつては、日時、場所、レースの
番号、枚数等勝者投票券を特定し得るに足る具体的な買入の事実を判示することを
要することは、いうまでもないところであるが、勝者投票券の額面金額及びこれに
対し支払つた代金の如きは特別な事情ある場合、たとえば、同一レースについて異
なる額面のものが売出されたとき或いは支払代金が買入れた勝者投票券の同一性を
確定するに必要であるとき等、勝者投票券の同一性を特定するに必要ある場合の外
特にこれを判示しなくとも、犯罪事実の摘示として欠くるところはないものという
べきである。本件についてみると原判決摘示の一の別表によれば、日時、レース番
号、単勝式、複勝式、連勝式の種別、投票券番号別、枚数等を詳細に判示し、被告
人の買入れた勝者投票券を特定するに十分であると認められるから、何ら判示事実
に欠くるところなく、又所論の法令適用の誤はないものと認められる。論旨は理由
がない。
 弁護人石橋信の控訴の趣意第二点(法令適用の誤)について。
 自転車競技法第十七条第一項に「前条第一項に掲げる者に対して賄賂を支払い提
供し又は約束した者は三年以下の懲役に処する。」とあり、同第十六条第一項に、
「自転車振興会の役員又はこの法律により、自転車競争の職務を執行する役員若し
くは選手が、その職務又は競走に関して賄賂をとり、又はこれを要求し若しくは約
束したときは三年以下の懲役に処する。」と定めており、刑法第百九十八条、公職
選挙法第二百二十一条等に賄賂等の「供与、申込、約束」行為を処罰する旨の規定
があることは所論のとおりである。よつて、自転車競技法第十七条第一項における
「提供」の意義について案ずるに、刑法第百九十八条、公職選挙法第二百二十一
条、<要旨第二>自転車競技法第十七条第一項の各規定を彼此対照して検討すると、
自転車競技法第十七条第一項の右「提供」は、同法条の賄賂の「支払」
(現実の交付を意味するものと解せられる)と「約束」(相手方との合意によつて
賄賂の支払を約束すること)に該当しない行為を広く包含し右刑法及び公職選挙法
の各規定の申込(賄賂を現実に提供したが相手方が拒絶したとき、及び現実の提供
を伴わない口頭の提供で相手方の承諾がなく約束とならない行為を含む)を意味す
るものと解すべきであつて、所論のように、現実の提供がなければ、右法条の提供
に該らないとの所論は採用できない、原判決には何ら法令適用の誤はなく、論旨は
理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 下村三郎 判事 高野重秋 判事 真野英一)

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