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平成18年12月7日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成18年(ワ)第1304号意匠権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成18年10月17日
判決
原告株式会社ライセンス&プロパティコントロール
訴訟代理人弁護士村林隆一
井上裕史
訴訟復代理人弁護士速見禎祥
被告北勢工業株式会社
訴訟代理人弁護士林功
土井博
川口清高
主文
1被告は,別紙物件目録1−1,物件目録1−2,物件目録2−1,物件
目録2−2記載の各製品の製造,販売,若しくは販売の申出をしてはなら
ない。
2被告は,前項の各製品の半製品(前項の各物件目録記載の構造を具備し
ているがマンホール蓋受枠として完成するに至らないもの)並びに各製品
の製造に用いる型を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,628万8000円及びこれに対する平成18年
2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4原告のその余の請求を棄却する。
5訴訟費用はこれを20分し,その1を原告の,その余を被告の負担とす
る。
6この判決は,第1項及び第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1主文1項及び2項に同じ。
2被告は,原告に対し,668万8000円及びこれに対する平成18年2月1
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3訴訟費用は被告の負担とする。
4仮執行宣言
第2事案の概要
本件は,後記意匠権及び実用新案権を有する原告が,被告の製造販売するマ
ンホール蓋受枠の意匠は上記意匠権に係る意匠に類似し,また同受枠は上記実
用新案権に係る考案の技術的範囲に属するから,その製造販売等は上記各権利
を侵害すると主張して,被告に対し,①上記意匠権及び実用新案権に基づき,
それらマンホール蓋受枠の製造販売等の差止め並びにそれらの半製品及び製造
用金型の廃棄を,②上記意匠権等侵害の不法行為に基づき,平成17年4月2
0日から平成18年1月31日までの間の原告の逸失利益568万8000円
及び弁護士費用相当額100万円(合計668万8000円)の損害賠償及び
これに対する平成18年2月1日(上記損害算定期間の終期の翌日)から支払
済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案であ
る。
1前提事実(証拠の記載がないものは争いがない)。
(1)原告は,平成17年4月20日,下記の意匠権等を,その権利者であっ
た日之出水道機器株式会社(以下「日之出水道機器」という)から信託に。
よる権利移転を受け,その旨の移転登録手続をした。
ア意匠権1(以下「本件意匠権1」といい,この登録意匠を「本件登録,
意匠1」という)。
出願日平成3年6月24日
出願番号意願平3−18931号
登録日平成5年2月26日
登録番号第868946号
意匠に係る物品マンホール蓋受枠
類似意匠1意願平3−18932号
類似意匠3意願平3−18934号(甲10)
類似意匠4意願平3−18935号(甲11)
イ意匠権2(以下「本件意匠権2」といい,この登録意匠を「本件登録,
意匠2」という)。
出願日平成6年2月4日
出願番号意願平6−2499号
登録日平成8年10月2日
登録番号第971233号
意匠に係る物品マンホール蓋受枠
類似意匠1意願平7−38714号
(,「」,「」ウ実用新案権以下本件実用新案権といいこの考案を本件考案
という。また,この実用新案登録出願の願書に添付された明細書を「本件
明細書」という)。
出願日平成3年6月24日
出願番号実願平3−47694号
登録日平成8年11月7日
登録番号第2525650号
考案の名称地下構造物用蓋受枠
実用新案登録請求の範囲
地下構造物内へ昇降するのに使用する種々の器具を取り付けるための
取付座を内周に沿って複数の位置に備える丸型蓋用の地下構造物用蓋
受枠であって,前記取付座は,受枠の嵌合面を切削加工するのにチャ
ッキング可能な最小限度の突き出し長さの弓形状で且つ前記受枠の中
心側に臨む弦を前記受枠の中心線と直交する直線状とした平坦な棚部
と,前記弦の略中央部分で前記棚部の上部に形成され且つ前記器具を
係合することのできる突起状の係止部とからなることを特徴とする地
下構造物用蓋受枠。
(2)被告は,別紙物件目録1−1,物件目録1−2,物件目録2−1,物件
目録2−2記載の各マンホール蓋受枠を製造販売している(以下,これらの
製品を,順に「イ号製品①「イ号製品②「ロ号製品①「ロ号製品②」と」」」
いい,総称して「被告製品」という。。)
(3)イ号製品①及びロ号製品①は,本件考案の「最小限度の突き出し長さの弓
形状」以外の構成要件を充足する。
イ号製品②及びロ号製品②は,本件考案の技術的範囲に属する。
(4)被告は,平成17年4月20日から平成18年1月31日までの間に,
被告製品を,原告の実施許諾を受けずに合計711個製造販売し,合計5
68万8000円の利益を得た。
2争点
(1)権利侵害の有無
アイ号製品①②の意匠は,本件登録意匠1に類似するか。
イロ号製品①②の意匠は,本件登録意匠2に類似するか。
ウイ号製品①及びロ号製品①は,本件考案の「最小限度の突き出し長さの
弓形状」の要件を充足するか。
(2)被告の抗弁
原告の本件請求は権利の濫用か。
(3)損害額
第3争点に関する当事者の主張
1争点(1)ア(イ号製品①②の意匠と本件登録意匠1との類否)について
【原告の主張】
イ号製品①②の意匠は本件登録意匠1と同一である。
被告は,受座の細部の形状が相違すると主張するが,受座が存在しない意匠
も本件登録意匠1の類似意匠3及び4として登録されているから,受座の存否
やその形状の相違は類否判断に影響を及ぼさない。また受枠本体の開口内周部
で受座に対面する部分の相違も主張するが,極めて軽微な相違点であって看者
に異なる美感を与えるものではない。
したがって,イ号製品①②の意匠は本件登録意匠1に類似する。
【被告の主張】
イ号製品①②の意匠と本件登録意匠1は,正面図,背面図及び右(左)側面
図においては同一であるが,次の点で異なり,両意匠は類似しない。
(1)平面図
()(「」)ア受座の接合部根本の部分について別紙意匠比較1の1の部分
(ア)イ号製品①②の意匠では,接合部の左右にそれぞれ小さな正方形が
2か所ずつに見られるが,本件登録意匠1では,左右に1か所ずつしか
ない。
(イ)イ号製品①②の意匠では,上記正方形のすぐ先端側に三日月型の図
形が左右それぞれ1か所ずつ見られるが,本件登録意匠1ではこのよう
な三日月型の部分はない。
イ受座の先端部について(別紙「意匠比較1」の2の部分)
本件登録意匠1では左右にそれぞれ正方形状の図形が2か所ずつに見ら
,。れるがイ号製品①②の意匠ではこのような正方形状の図形は存在しない
ウ受枠本体の開口内周部で受座に対面する部分について(別紙「意匠比較
1」の3の部分)
イ号製品①②の意匠では,受枠本体の開口円の最も内側に,小さな正方
形状の図形が左右それぞれ1か所ずつ見られるが,本件登録意匠1ではそ
のような正方形状の図形はない。
(2)底面図(別紙「意匠比較1」の4の部分)
受座の部分について,本件登録意匠1では,内側に1本しか線が見られな
いが,イ号製品①②の意匠では,内側に複雑な図形が見られる。
2争点(1)イ(ロ号製品①②の意匠と本件登録意匠2との類否)について
【原告の主張】
(1)ロ号製品①の意匠は,受座が存在する点を除き,本件登録意匠2の類似意匠
1と同一であるところ,本件登録意匠2には,ロ号製品①の受座と同一の受座
が存在する。よって,当該受座が存在しない意匠は,それが存在する意匠の類
似の範囲内であり,ロ号製品①の意匠は本件登録意匠2に類似する。
,「」,被告はこれに加えて別紙意匠比較2の1の部分の相違も主張するが
,。それは極めて軽微な相違にすぎず看者に異なる美感を与えるものではない
(2)ロ号製品②の意匠は,(a)本件登録意匠2の類似意匠1には存在しない受
座が存在する点,(b)本件登録意匠2の類似意匠1に存在する前記受座の両隣
,に位置する略コ字状で受枠内周側に突設している手握部が存在しない点を除き
本件登録意匠2の類似意匠1と同一である。
相違点(a)については,前記(1)で述べたとおり,当該受座が存在しない意
匠は,それが存在する意匠の類似の範囲内である。
相違点(b)については,本件登録意匠1には類似意匠1が登録されていると
ころ,本件登録意匠1には本件登録意匠2の手握部と同一の手握部が存在する
が,本件登録意匠1の類似意匠1には,当該手握部が存在しない。よって,当
該手握部が存在しない意匠は,それが存在する意匠の類似の範囲内である。
,「」,被告はこれに加えて別紙意匠比較2の1の部分の相違も主張するが
,。それは極めて軽微な相違にすぎず看者に異なる美感を与えるものではない
したがって,ロ号製品②の意匠は本件登録意匠2と類似する。
【被告の主張】
(1)ロ号製品①の意匠については,受座の有無は大きな相違であり,本件登
録意匠2の類似意匠1の存在をもって,受座の有無が意匠の類否に影響しな
いとはいえない。
また,ロ号製品①の意匠では,別紙「意匠比較2」の1の部分において,
2個の長方形状の図形の上側のものの上辺が曲線であるのに対し,本件登録
意匠2の類似意匠1の同じ部分では直線であるという相違もある。
したがって,ロ号製品①の意匠は本件登録意匠2と類似しない。
(2)ロ号製品②の意匠については,原告主張の相違点(a)については上記(1)
,(「」)と同様でありまた上記(1)後段と同様の相違点別紙意匠比較2の1
がある。
また原告主張の相違点(b)については,本件登録意匠1の類似意匠1が存
するからといって,手握部の有無が本件登録意匠2の類否判断に影響しない
ということはできない。
したがって,ロ号製品②の意匠は本件登録意匠2と類似しない。
3争点(1)ウ(イ号製品①及びロ号製品①の本件考案の構成要件充足性)につ
いて
【原告の主張】
イ号製品①及びロ号製品①は,いずれも各物件目録のとおり「最小限度の,
突き出し長さの弓形状」の構成要件を充足する。
被告はイ号製品①及びロ号製品①は手握部が存在することを理由に弓,「」「
形状」の要件を具備しないと主張するが,本件考案の技術的範囲に属すること
に争いがないイ号製品②及びロ号製品②に「手握部」が付加された構成である
から,本件考案の構成要件を充足する。また「手握部」が存する箇所以外の,
「取付座」が本件考案の作用効果を奏していることは明らかであるから,仮に
一部の「取付座」において本件考案の作用効果を奏していないとしても,本件
考案の技術的範囲に属する。
【被告の主張】
本件考案の「弓形状」については,本件明細書では「このため,取付座の,
弦の中央からずれていくに従って受枠の中心から取付座の弦までの距離は長く
なり,これによって複数の取付座を受枠の内周に設けていても,取付座の中央
部分だけが受枠の開口面積を最小に絞る形状となるだけであり,作業者が地下
。」(【】),構造物内で昇降する際に邪魔になることがなくなる0011とされ
また「取付座7の大きさ及び個数としては本実施例に限定されるものではな,
,。」(【】)いが出入りの際の開口部面積を余り減じない程度が好ましい0015
とされている。ところが,イ号製品①及びロ号製品①には,いずれも手握部が
2か所ずつ存し,この手握部は,取付座から更に円の開口内側に向かって取り
付けられており,開口部面積を大幅に狭くしている。
したがって,このような手握部を具備するイ号製品①及びロ号製品①は,上
記明細書記載の作用効果を奏さず「弓形状」の構成要件を具備しない。,
4争点(2)(権利濫用)について
【被告の主張】
本件請求は,日之出水道機器の有する知的財産権の信託運用管理のために設
立された原告が,日之出水道機器による独占禁止法違反行為の一環として行う
ものであり,権利の濫用に当たる。
(1)日之出水道機器は,従来から各地方公共団体に対し,本件各意匠権等を
実施した同社指定の仕様(以下「日之出仕様」という)によるマンホール。
鉄蓋及び受枠(以下単に「マンホール」という)を標準仕様として指定す。
るよう働きかけ,多くの地方公共団体では日之出仕様のマンホールをその仕
様として指定してきた。このため,同業他社は,地方公共団体からマンホー
ルの製造販売を受注するに当たり,日之出水道機器(権利移転後は原告)か
ら本件各意匠権等の実施許諾を受けることが必要となった。
そして日之出水道機器は,この実施許諾契約においては,上記地方公共団
体から受注するマンホールについて受注数量を予測しておき,その25%を
自己のシェア分として確保した上で,残る75%を同業他社に割り当て,そ
れら業者が上記割当てに係る各取決め数量を超えてマンホールを製造販売す
る場合には,原告に対して当該業者のブランドでのマンホールの製造を委託
することとしてきた。
このような地方公共団体による仕様指定と実施許諾契約を通じて,日之出
水道機器は,マンホールの価格と数量の両面において同業他社をコントロー
ルしてきたのであり,現に,日之出仕様を指定した地方公共団体におけるマ
ンホールの単価は5万円ないし7万円であって,そうでない地方公共団体に
おける単価が1万円ないし3万円であるのに比べて異常に高くなっている
し,日之出仕様を標準仕様とすることを取りやめた地方公共団体では,マン
ホール単価が60%も低下した。また,被告も,平成16年までは日之出水
道機器との間で実施許諾契約を締結してきたが,平成17年度については,
原告が被告の製造販売数量について厳格な制限を課したため,実施許諾契約
を締結することができなかった。
(2)独占禁止法21条は,特許法等による権利の行使と認められる行為につ
いての独占禁止法の適用除外を定めている。しかし,外形上又は形式的には
特許権等の行使とみられるような行為であっても,①当該行為が不当な取引
制限や私的独占の一環をなす行為として又はこれらの手段として利用される
等,権利の行使に藉口していると認められるときなど,当該行為が発明を奨
励すること等を目的とする技術保護制度の趣旨を逸脱し,又は同制度の目的
に反すると認められる場合や,②行為の目的,態様や当該行為の市場におけ
る競争秩序に与える影響の大きさも勘案した上で,個別具体的に判断した結
果,上記のように認められる場合には,当該行為について独占禁止法の上記
適用除外規定は適用されないと解するべきである。
そして,上記(1)の日之出水道機器の行為は,上記のような場合に該当す
るから,これについては独占禁止法が適用されることになる。
(3)しかるところ,日之出水道機器の上記(1)の行為は,マンホールの販売価
格及び製造販売数量について業界をコントロールするものであり,製品市場
における競争を実質的に制限するものであるから,不当な取引制限として独
占禁止法3条に違反する行為である。
また,日之出水道機器の上記(1)の行為は,被許諾者に対して実施許諾上
の不当な制限を課すことにより,他の事業者の事業活動を支配し又は排除す
ることによって,製品市場の競争を実質的に制限するものであるから,私的
独占として独占禁止法3条に違反する。
さらに,日之出水道機器の上記(1)の行為は,業界主要5社中の売上高シ
ェアが70%と優越的な取引上の地位を有する日之出水道機器が,同シェア
6%程度の被告に対してその優越的地位を濫用して行ったものであって,不
公正な取引方法として違法である。
また,日之出水道機器の上記(1)の販売価格及び製造販売数量の制限行為
は,拘束条件付取引(いわゆる一般指定13項)に該当し,不公正な取引方
法として違法である。
(4)加えて,日之出水道機器と被告とは,平成16年までは,被告がマンホ
,。ール鉄蓋を生産する都市ごとに毎年8月にライセンス契約を締結していた
前年8月の契約でカバーされず,当該年8月のライセンス契約締結までに被
告が生産した数量については,すべてその8月のライセンス契約でカバーで
きるとの前提であった。平成17年も同様の前提で被告が生産を継続したと
ころ,同年度に限り,日之出水道機器から権利を譲り受けた原告と被告との
間で折衝するも,原告が数量につき厳格な制限を課したため,同年8月には
ライセンス契約の締結ができず,同年11月になって突然原告から交渉決裂
の通知が被告に到達した。この事情も考慮されるべきである。
【原告の主張】
権利濫用の主張は争う。
特許権者等が,自己の特許発明等に係る製品を地方公共団体の標準仕様とし
て採用されるように営業活動することは何ら不当な行為ではないし,地方公共
団体がその公共事業において,私企業の持つ特許発明等の有益性を考えて,仕
様書にその構成を採用することも何ら不当なことではない。
また,日之出水道機器は,各業者との間で,一定数量までの製造販売につい
ては無償とし,一定数量の超過分を日之出水道機器に製造委託する条件の通常
実施契約を締結していたが,これは特許権者等としての通常の権利行使の範囲
を逸脱したものではない。また,日之出水道機器と業者との間で,予め各業者
の受注数量や価格についての合意をした事実やコントロールした事実はない。
したがって,被告が指摘する日之出水道機器の行為は,いずれも特許権等の
適正な権利行使の範囲内のものであって,濫用性はなく,独占禁止法に違反し
ない。
5争点(3)(損害額)について
【原告の主張】
原告は,本件各意匠権等を実施しているところ,被告は,平成17年4月2
0日から平成18年1月31日までの間に,被告製品を合計711個製造販売
し,合計568万8000円の利益を得た(前記前提事実(4))から,これが
原告の受けた損害額と推定される。
また,本件での弁護士費用相当額は100万円を下らない。
したがって,原告が被告に請求し得る損害額は,合計668万8000円で
ある。
【被告の主張】
争う。
本件で原告が問題としている平成17年の被告によるマンホールの製造販売
は,従前と同様に同年8月に実施許諾契約が成立するとの前提で,いったん適
法に市場に流通したものである。したがって,それについては原告主張に係る
,。,権利関係は消尽したものというべきであり損害賠償金は発生しないまたは
本件では,9割の過失相殺がなされるべきである。
第4当裁判所の判断
1争点(1)ア(イ号製品①②の意匠と本件登録意匠1との類否)について
(1)イ号製品①②の意匠と本件登録意匠1とが,被告が指摘する受座の接合
部,先端部及び底面並びに受枠本体の開口内周部で受座に対面する部分の相
違点を除き,同一であることは当事者間に争いがない。
(2)証拠(甲2)及び別紙物件目録1−1及び同1−2によれば,イ号製品
①②の意匠と本件登録意匠1との間には,上記被告の指摘する相違があるこ
とが認められる。
しかし,それらの相違は,いずれも微小な部分についてのわずかな相違に
すぎず,それによって意匠全体の美感を異にするに至るものとは認められな
い。
したがって,イ号製品①②の意匠と本件登録意匠1とは類似するというべ
きである。
2争点(1)イ(ロ号製品①②の意匠と本件登録意匠2との類否)について
(1)ロ号製品①の意匠と本件登録意匠2との類否について
ア証拠(甲5)及び別紙物件目録2−1によれば,両意匠は次の点で相違
し,その余は一致していることが認められる。
(ア)平面視
aドーナッツ状の受枠本体の表面左右両側に各5区分された模様形状
において,本件登録意匠2では,その区分された各1区画内が一体と
されているのに対し,ロ号製品①の意匠では各1区画内がさらに区分
されている(例として別紙「意匠比較2」の2。)
b受枠本体の開口部に設けられた受座の模様形状が,前述のイ号製品
①②の意匠と本件登録意匠1との相違点と同様に異なる(別紙「意匠
比較2」の3。)
c受枠本体の開口内周部で受座に対面する部分の模様形状が,前述の
イ号製品①②の意匠と本件登録意匠1との相違点と同様に異なる(別
紙「意匠比較2」の4。)
(イ)底面視
,,aロ号製品①の意匠ではドーナッツ状の受枠本体の表面左右両側に
2段の台形状の模様形状が10個ずつ並べられているのに対し,本件
登録意匠2ではそのような模様形状が存しない(例として別紙「意匠
比較2」の5。)
b受枠本体の開口部に設けられた受座の模様形状が,前述のイ号製品
①②の意匠と本件登録意匠1との相違点と同様に異なる(別紙「意匠
比較2」の6。)
(ウ)正背面視
a受枠本体の立設部と周縁部との間に設けられたリブが,本件登録意
匠2では屈曲しているのに対し,ロ号製品①の意匠では屈曲していな
い(例として別紙「意匠比較2」の7。)
b受枠本体の立設部中央の四角様の模様形状の上端線が,本件登録意
匠2では直線であるのに対し,ロ号製品①の意匠では下方に湾曲して
いる(別紙「意匠比較2」の1。)
(エ)左右側面視
(ウ)aと同様の相違がある(例として別紙「意匠比較2」の8)
,(),,イ他方証拠甲6によれば次の点で本件登録意匠2と異なる意匠が
本件登録意匠2の類似意匠1として登録されていることが認められる。
(ア)平面視
aドーナッツ状の受枠本体の表面左右両側に各5区分された模様形状
が,ロ号製品①の意匠におけるもの(前記ア(ア)a)と同一のものと
なっている(例として別紙「意匠比較2」の2。)
b受枠本体の開口部に設けられた受座が存しない。
(イ)底面視
aドーナッツ状の受枠本体の表面左右両側に,ロ号製品①の意匠の前
記ア(イ)aと同様に,2段の台形状の模様形状が10個ずつ並べられ
ている(例として別紙「意匠比較2」の5。)
b受枠本体の開口部に設けられた受座が存しない。
(ウ)正背面視
受枠本体の立設部と周縁部との間に設けられたリブが,ロ号製品①の
の意匠の前記ア(ウ)aと同様に,屈曲していない(例として別紙「意匠
比較2」の7。)
(エ)左右側面視
(ウ)と同様の相違がある(例として別紙「意匠比較2」の8。)
ウ以上に基づき検討する。
(ア)まず,本件登録意匠2とロ号製品①の意匠の相違点のうち,前記ア
(ア)b及びc並びにア(イ)cについては,先に本件登録意匠1とイ号製
品①②の意匠との類否の検討の項で述べたとおり,いずれも微小な部分
についてのわずかな相違にすぎず,それによって意匠全体の美感を異に
するに至るものとは認められない。
また,前記ア(ウ)bの相違点についても同様のことがいえる。
(イ)また,上記以外の相違点については,受座の有無を除き,いずれも
類似意匠1に見られるものである。
(ウ)そうすると,ロ号製品①の意匠は,実質的には類似意匠1に受座を
,,付したものということができ本件登録意匠2に対する類似度としては
受座がある分だけ類似意匠1よりも高いものであるといえる。
したがって,類似意匠1を踏まえると,ロ号製品①の意匠は本件登録
意匠2に類似するというべきである。
これに対し被告は,受座の有無は意匠の類否に影響しないとはいえな
いと主張し,この趣旨は,類似意匠1の本件登録意匠2との類似性を疑
問視する趣旨とも解される。しかし,前記のような相違点を有する類似
意匠1が登録されたことは,後に言及する本件登録意匠1について類似
意匠1,3及び4が登録されたことと整合性を有するものであって,そ
れにもかかわらず類似意匠1の登録が誤りであると認めることはできな
い。
(2)ロ号製品②の意匠と本件登録意匠2との類否について
アロ号製品②の意匠は,ロ号製品①の意匠から,さらに手握部を除いたも
のである。
イところで,証拠(甲2,3,10及び11)によれば,本件登録意匠1
では受枠の内周に受座とその左右の手握部が設けられているところ,その
類似意匠1ではそのうち手握部がないものが,類似意匠3では受座がない
ものが,類似意匠4では受座と手握部の双方がないものが,それぞれ類似
意匠として登録されていることが認められる。
この本件意匠権1に関する各類似意匠を踏まえると,マンホール蓋受枠
の意匠においては,一般的には,受枠本体の付属品というべき受座及び手
握部の存否は,少なくともそれらが通常の形状を有する限り,意匠全体の
類否判断には影響しないものと認められるところ,本件登録意匠2に関す
る類否判断についても,これと異なる判断をすべき事情の存在を窺うこと
はできない。
したがって,ロ号製品②の意匠は,本件登録意匠2と類似するというべ
きである。
3争点(1)ウ(イ号製品①及びロ号製品①の本件考案の構成要件充足性)につ
いて
(1)証拠(甲8)によれば,本件明細書には次の記載があることが認められ
る。
ア従来の技術の項(0002】から【0005)【】
地下構造物には…蓋本体が設けられ…この蓋本体を開口部と蓋本体の受
面とを有する蓋受枠によって支持する構造となっている。
この受枠には,設置後も,切削加工時にチャック等で掴むために設けた
突出部が受枠の内周面に3,4か所等間隔にかつ局部的に突出されたまま
となっている。
近来,この受枠においては,蓋本体を支持するという受枠本来の機能に
加え,維持管理のために地下構造物内に出入りする際に,種々の機能を有
する器具を取付けることが行われるようになった。
例えば,蓋受枠に転落防止或いは昇降用としての梯子を取付けるのがそ
の一例であり,蓋本体を受け支える受枠の開口部内周面に左右一対の取付
部及び載置片を突出し,この取付部に取付け脚を有する転落防止用梯子を
立設したり,載置片上に倒伏させるようにしている。
イ考案が解決しようとする課題の項(0006】から【0008)【】
…上述した受枠は,受枠の開口部内周面に切削加工時にチャック等で掴
む突出部の他に,左右一対の取付部及び載置片を突出した状態で設けてい
る。このため,地下構造物内で昇降すると,この局部的に突出した突出部
や載置片に作業者の着衣を引っ掛けたり,あるいは頭部や背中等を打ち当
てるなど,昇降の際の邪魔になり安全な作業の阻害要因となっている。
また,左右一対の取付部及び載置片であるために,取付方向を変更する
ことができなかった。
本考案は,地下構造物用蓋受枠におけるこのような問題点を解消するも
のであり,地下構造物内での作業者の安全な昇降を確保しながら,しかも
受枠の切削加工時にチャック等で掴む取付座に転落防止や昇降用の梯子を
取付けることが可能な地下構造物用蓋受枠を得ることを目的とする。
ウ作用の項(0010】及び【0011)【】
本考案の地下構造物用蓋受枠にあっては,受枠の内周面に設けた切削加
工時の取付座をそのまま利用して受枠設置後に種々の器具を取付けること
ができる。
また,取付座の棚部は,受枠の嵌合面を切削加工する際にチャッキング
することができる最小限度の突き出し長さの弓形状で且つ受枠の中心側に
臨む弦を受枠の中心線と直交する直線状としている。このため,取付座の
弦の中央からずれていくに従って受枠の中心から取付座の弦までの距離は
長くなり,これによって複数の取付座を受枠の内周に設けていても,取付
座の中央部分だけが受枠の開口面積を最小に絞る形状となるだけであり,
。,作業者が地下構造物内で昇降する際に邪魔になることがなくなるそして
取付座の係止部は,弦の略中央部分で棚部の上部に突起状に形成している
ので,器具を容易に係合させることができ,また浸入水や土砂等が棚部に
堆積した場合も容易に取り除くことができるので,地下構造物内で昇降す
る際に使用する種々の器具を迅速且つ確実に取り付けることができる。
エ実施例を示す図1では,弓形状の取付座7のほかに,受枠本体の開口円
の内側に向かって蝶番機構3が突出しているものが記載されている。
(2)このような記載からすると,本件考案は,従来の受枠では,切削加工時
にチャック等で掴む突出部と,梯子等の器具を取り付ける取付部及び載置片
が,それぞれ受枠本体の開口部内周面に突出した状態で設けられていたこと
から,作業者の昇降の際の邪魔になっていたという問題点を解決することを
課題の一つとし,その解決のために,切削加工時にチャック等で掴む部位と
器具を取り付ける部位を兼用させ,かつその形状を開口部内周面に沿った弓
形状とすることとしたものであると認められる。そして,本件考案は,この
ように切削加工時にチャック等で掴む部位と器具を取り付ける部位とに着目
し,従来技術においてそれらが抱える問題点を解決したものであるから,切
削加工時にチャック等で掴む部位と器具を取り付ける部位とが本件考案の
「取付部」としての構成を具備する限り,本件考案がその対象とした課題は
解決され,それによる作用効果を奏しているのであり,他に別の用途での突
出部が開口部内周面に存するとしても(例えば前記図1における蝶番機構3
のように,本件考案の構成要件を充足することに消長を来さないものと解)
するのが相当である。
しかるところ,別紙物件目録1−1及び同2−1によると,イ号製品①及
びロ号製品①においては,平坦な棚部(108)は「受枠の嵌合面を切削加工す,
るのにチャッキング可能な最小限度の突き出し長さの弓形状」を具備している
ものと認められるから,手握部を具備しているとしても,本件考案の技術的範
囲に属するものというべきである。
4争点(2)(権利濫用)について
(1)被告は,原告による本件請求は,原告の関連会社である日之出水道機器
による独占禁止法違反行為の一環としてなされたものであると主張するとこ
ろ,日之出水道機器の行為が独占禁止法違反に当たるとする要点は,日之出
水道機器は,その営業活動によって地方公共団体から日之出仕様を標準仕様
とする指定を得る一方で,同業他社に対して本件各意匠権等を実施許諾する
にあたり,その製造販売数量を取り決め,それを超過する数量については日
之出水道機器に製造委託させることによって,マンホールの価格と数量をコ
ントロールしてきたという点にある。
(2)そこでまず,日之出水道機器ないし原告による同業他社への実施許諾の
状況について見ると,本件においては,日之出水道機器ないし原告と同業他
社との間の実施許諾契約の内容を直接確認し得る証拠は提出されていない
が,平成17年に原告が被告に対して提示した実施許諾契約の案(乙9)か
らすると,同業他社との実施許諾契約において,許諾の条件とされた主たる
ものは,次のようなものであると推認される。
a被許諾者が地方公共団体との直接契約によらないで受注する場合
日之出水道機器ないし原告は,本件意匠権等を実施許諾するにあた
り,被許諾者が指定業者となった対象事業ごとに,被許諾者が契約期
間内に製造し,販売することのできる製品の数量(許諾数量)を決定
する。
被許諾者が許諾数量の範囲内で製品を製造販売する場合には,日之
出水道機器ないし原告は一切の対価を請求しない。
,,被許諾者が許諾数量を超えて製品を販売する場合には被許諾者は
その超過数量相当の製品の製造を原告に委託するものとし,日之出水
道機器ないし原告は,被許諾者のブランドを付した製品を被許諾者に
供給するものとする。
b被許諾者が地方公共団体との直接契約によって受注する場合
被許諾者は,通常実施権の対価として,その受注したうちの25%
相当数量の製品の製造を日之出水道機器ないし原告に委託するものと
する。
このような契約内容からすると,日之出水道機器ないし原告が行う実施許
諾契約においては,①上記aの場合には,許諾数量上限に達するまで本件意
匠権等の実施を無償とする反面,許諾数量を超過する分については,日之出
水道機器ないし原告が被許諾者から超過数量相当分の製造委託を受け,それ
による日之出水道機器ないし原告の利益相当額を本件意匠権等の実施に対す
る実施料とし,②上記bの場合には,日之出水道機器ないし原告が被許諾者
からその受注数の25%相当数量の製造委託を受け,それによる日之出水道
機器ないし原告の利益相当額を本件意匠権等の実施に対する実施料としたも
のであるということができる。
(3)以上に基づき検討する。
ア独占禁止法21条は「この法律の規定は,著作権法,特許法,実用新,
案法,意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適
用しない」と規定している。この趣旨は,特許権は,業としての特許発。
明の実施の独占権であり(特許法68条,実用新案権,意匠権等もこれ)
と同様の実施の独占権であること(実用新案法16条,意匠法23条等)
から,特許権等の権利行使と認められる場合には,独占禁止法を適用しな
いことを確認的に規定したものであるが,外形上は特許権等の行使とみら
れる行為であっても,発明等の創作を奨励し,産業の発達に寄与すること
を目的(特許法1条,実用新案法1条,意匠法1条)とする特許制度等の
趣旨を逸脱し,又は上記目的に反するような不当な権利行使については,
独占禁止法の適用が除外されるものではないと解される。
イこの観点から検討するに,上記のとおり,意匠権等は,業としての登録
意匠等の実施の独占権であり,実施許諾というものは,そのような独占権
を被許諾者に対して一部解除し,同時にその対価を徴収するというもので
あるから,実施許諾の範囲をどのようなものとするか,また対価の定め方
をどのようなものとするかは,本来,意匠権者等が自由に決定し得る性質
の事柄である。したがって,実施許諾契約において,上記認定のように許
諾数量や実施料を定めることは,そのような定め方それ自体としては,意
匠権等の行使として格別不合理なものとはいえない。
もっとも,弁論の全趣旨によれば,多数の地方公共団体においては,本
件の意匠権等に係る日之出仕様のマンホールをその標準仕様として指定し
ていることが認められるところ,このような地方公共団体においては,日
之出水道機器ないし原告は,本件意匠権等の実施許諾を通じてマンホール
市場を支配し得る地位にある。したがって,このような地方公共団体にお
いて,日之出水道機器ないし原告が,本件意匠権等に基づく市場支配力を
背景に,上記のような許諾数量の制限等を通じて市場における実質的な需
給調整を行う場合には,具体的事情によっては,独占禁止法上の問題が生
じ得る可能性がある。
しかし,本件では,そのような状況を認めるに足りる証拠はない。
被告は,日之出水道機器ないし原告が同業他社との実施許諾契約におい
て許諾数量を決定するにあたっては,地方公共団体からのマンホールの受
注数量を予測した上で,その25%を自己のシェア分として確保し,残る
75%を他のマンホール業者に割り当てる形でなされていると主張する
が,本件においてその事実を認めるに足りる証拠はない。また,仮に日之
出水道機器ないし原告がこのような方式で同業他社への許諾数量を決定し
ているとしても,前記のような許諾数量によって同業他社が制限されるの
は自社製品の製造販売数量にとどまり,それを超える分についても日之出
水道機器ないし原告から供給を受けて販売することができる点で,同業他
社が受注し得る数量には特段の限定がないといえるのであるから,上記の
ような方式で許諾数量を決定することが,それを取り巻く具体的事情が全
く明らかでないにもかかわらず,直ちに価格調整や需給調整を行っている
に等しいということはできない。
この点について被告は,日之出仕様を標準仕様として指定している地方
公共団体におけるマンホールの単価が,そうでない地方公共団体における
マンホールの単価よりも異常に高くなっており,日之出仕様を標準仕様と
することを取りやめた地方公共団体ではマンホールの単価が低下したと主
張する。しかし,日之出仕様を標準仕様としている地方公共団体において
は,同業他社は本件意匠権等の実施料を負担しなければならないのである
から,その単価が,その負担が不要である他の地方公共団体における単価
と比べて高額になることは当然のことである。また,仮に被告の主張する
価格差が,このような実施料の負担の有無によっては説明できない程度の
ものであるとしても,地方公共団体からの受注は多くの場合入札によって
行われるのであるから,それにもかかわらず単価が高額になる事情につい
ては,種々の可能性が考えられるのであって,その間の事情が何ら明らか
でないにもかかわらず,前記のような方式での許諾数量の決定が,直ちに
価格調整や需給調整を行っているに等しいということはできない。
(4)さらに被告は,日之出水道機器と被告が,平成16年までは,毎年8月
にライセンス契約を締結していたのに,平成17年に原告と実施許諾契約を
締結しようとしたところ,許諾数量を厳しく制限されたために契約を締結す
ることができなかったと主張する。しかし,許諾数量の制限と価格調整,需
給調整との関係が明らかでない以上,このような事情をもって,日之出水道
機器ないし原告が本件意匠権等の濫用的な行使をしているということはでき
ない。
また,被告は,平成17年も,同年8月のライセンス契約締結までに被告
が生産した数量については,すべてその8月のライセンス契約でカバーでき
るとの前提で生産を継続したとも主張する。しかし,ライセンス契約を締結
していない時に生産した物は,権利侵害品であって,これについて,前年ま
では,後のライセンス契約の合意内容によって遡ってライセンスの対象とさ
れていたという事情があるとしても,そのことを,結局ライセンス契約が成
立しなかった場合にまで,その侵害品に対する権利行使が妨げられる事情と
することはできない。
(5)以上によれば,日之出水道機器ないし原告が本件意匠権等を濫用した独
占禁止法違反の行為を行っているとは認められず,また本件がそのような行
,。為の一環であるとも認められないから被告の権利濫用の主張は理由がない
5争点(3)(損害額)について
(1)証拠(甲12,13)及び弁論の全趣旨によれば,原告は本件各意匠権
に係る登録意匠に類似する意匠及び本件実用新案権に係る考案を実施してい
ると認められる。したがって意匠法39条2項,実用新案法29条2項の適
用により,被告製品の製造販売によって被告が受けた利益の額が原告の受け
た損害の額と推定されるところ,その額は合計568万8000円(前記前
提事実(4))である。
(2)また,本件に現れた一切の事情を考慮すると,本件での弁護士費用相当
額は60万円とするのが相当である。
(3)被告は,平成17年のマンホールの製造販売は,従前と同様に同年8月
に実施許諾契約が成立するとの前提で,いったん適法に市場に流通したもの
であると主張する。しかし,ライセンス契約を締結していない時に生産した
物は権利侵害品であって,これについて適法に市場に流通したということは
できないのであって,この理は,前年までは個別のライセンス契約の合意内
容によって遡ってライセンスの対象とされていたとしても変わるものではな
い。その他,本件全証拠によっても,過失相殺をすべき事情を認めることは
できない。
(4)したがって,本件で原告が被告に対して請求し得る損害賠償の額は,合
計628万8000円となる。
6まとめ
以上によれば,原告の被告に対する被告製品の製造販売等の差止請求(主文
1項)及び半製品等の廃棄請求(主文2項)は理由があり,また原告の被告に
対する損害賠償請求(主文3項)は主文掲記の限度で理由がある。なお,仮執
行宣言は,主文1項及び3項についてのみ付するのが相当である。
よって,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官山田知司
裁判官高松宏之
裁判官村上誠子

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