弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人三原道也の上告理由について。
 温泉法が温泉の掘さくを知事の許可にかからせた趣旨は、温泉源を保護しその利
用の適正化を図るという公益的見地から出たたのであつて、既存の温泉井所有者の
既得の利益を直接保護する趣旨から出たものでないことは明らかである。同法第四
条は、「都道府県知事は、温泉のゆう出量、温度若しくは成分に影響を及ぼし、そ
の他公益を害する虞があると認めるときの外は、前条第一項の許可を与えなければ
ならない。」といつているが、ゆう出量の減少、温度の低下若しくは成分の変化は、
いずれも、「公益を害する虞がある」場合の例示と解すべきものであり、「公益を
害する虞がある」場合とは、ひつきよう、温泉源を保護しその利用の適正化を図る
という見地からとくに必要があると認められる場合を指すものと解すべきである。
すなわち、同条は、この見地からとくに必要と認められる場合以外は掘さくの許可
を拒み得ないとの趣旨を定めたものと解すべきである。従つて、同条は、新規の掘
さくが、物理的意味において、いやしくも、少しでも既存の温泉井に影響を及ぼす
限り、絶対に掘さくを許可してはならない、との趣旨を定めたものと解すべきでは
ない。しかも、温泉源を保護しその利用の適正化を図る見地から許可を拒む必要が
あるかどうかの判断は、主として、専門技術的な判断を基礎とする行政庁の裁量に
より決定さるべきことがらであつて、裁判所が行政庁の判断を違法視し得るのは、
その判断が行政庁に任された裁量権の限界を超える場合に限るものと解すべきであ
る。これを本件についてみるに、原判決の認定するところによれば、補助参加人の
新規温泉の掘さくがなされる前と後とにおいて、上告人等の既存の温泉井の温泉成
分に変化があつた事実は認められず、その温度・ゆう出量については軽微な変化は
認められるとしても、参加人の新規掘さくがその主たる原因とは断定できず、しか
も、この変化は、ポンプ座の位置を低下させることにより容易に既存の温泉井の利
用、経営に支障を来たさない程度に補い得る程度のものであるというのである。か
ような事実関係の下においては、補助参加人の新規掘さくを拒むべきでないとした
被上告人の判断が、その技術的判断を基礎とする裁量権の限界を超えるものとして
違法し得るものでないことは明らかであり、所論は、ひつきよう、原審の認めない
事実を前提とするものであるか、若しくは、裁量権の限界に関し上記と異なる独自
の見解を主張するに帰し、採用の限りでない。
 上告代理人三原道也、同菅野虎雄の上告理由について。
 第一点について。
 温泉法第三条第二項が、温泉掘さくの許可申請者が「掘さくに必要な土地を掘さ
くのために使用する権利」を有することを許可の要件とした趣旨は、私法上の土地
利用関係に関する紛争が延いて許可処分の内容の円滑な実現を妨げ、温泉利用の適
正化の見地から有害な事態を惹起することがあり得ることにかんがみ、土地利用関
係が当事者間で調整ずみであることを条件として許可を与うべきものとしたに過ぎ
ず、行政庁としては、私法上の権利関係の内容を問題としなければならない必然的
な理由は存在しないわけであるから、同項にいう「掘さくに必要な土地を掘さくの
ために使用する権利」は、民法上の使用貸借であつても差支ないものと解すべきで
ある。所論は採用の限りでない。
 第二点、第三点について。
 仮に所論のような事実があつたとしても、原審の認定する事実関係の下では、技
術的判断を基礎とする行政庁の裁量権の行使がその限界を越えるものとは解されず、
所論は、採用の限りでない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    河   村   又   介
            裁判官    島           保
            裁判官    垂   水   克   己

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