弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人俵正市、同重宗次郎、同苅野年彦、同坂口行洋、同寺内則雄、同小川
洋一の上告理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
  1 被上告人は、平成二年四月にD工業高等専門学校(以下「D高専」という。)
に入学した者である。
  2 高等専門学校においては学年制が採られており、学生は各学年の修了の認
定があって初めて上級学年に進級することができる。D高専の学業成績評価及び進
級並びに卒業の認定に関する規程(以下「進級等規程」という。)によれば、進級
の認定を受けるためには、修得しなければならない科目全部について不認定のない
ことが必要であるが、ある科目の学業成績が一〇〇点法で評価して五五点未満であ
れば、その科目は不認定となる。学業成績は、科目担当教員が学習態度と試験成績
を総合して前期、後期の各学期末に評価し、学年成績は、原則として、各学期末の
成績を総合して行うこととされている。また、進級等規程によれば、休学による場
合のほか、学生は連続して二回原級にとどまることはできず、D工業高等専門学校
学則(昭和三八年神戸市教育委員会規則第一〇号。以下「学則」という。)及び退
学に関する内規(以下「退学内規」という。)では、校長は、連続して二回進級す
ることができなかった学生に対し、退学を命ずることができることとされている。
  3 D高専では、保健体育が全学年の必修科目とされていたが、平成二年度か
らは、第一学年の体育科目の授業の種目として剣道が採用された。剣道の授業は、
前期又は後期のいずれかにおいて履修すべきものとされ、その学期の体育科目の配
点一〇〇点のうち七〇点、すなわち、第一学年の体育科目の点数一〇〇点のうち三
五点が配点された。
  4 被上告人は、両親が、聖書に固く従うという信仰を持つキリスト教信者で
ある「E」であったこともあって、自らも「E」となった。被上告人は、その教義
に従い、格技である剣道の実技に参加することは自己の宗教的信条と根本的に相い
れないとの信念の下に、D高専入学直後で剣道の授業が開始される前の平成二年四
月下旬、他の「E」である学生と共に、四名の体育担当教員らに対し、宗教上の理
由で剣道実技に参加することができないことを説明し、レポート提出等の代替措置
を認めて欲しい旨申し入れたが、右教員らは、これを即座に拒否した。被上告人は、
実際に剣道の授業が行われるまでに同趣旨の申入れを繰り返したが、体育担当教員
からは剣道実技をしないのであれば欠席扱いにすると言われた。上告人は、被上告
人らが剣道実技への参加ができないとの申出をしていることを知って、同月下旬、
体育担当教員らと協議をし、これらの学生に対して剣道実技に代わる代替措置を採
らないことを決めた。被上告人は、同月末ころから開始された剣道の授業では、服
装を替え、サーキットトレーニング、講義、準備体操には参加したが、剣道実技に
は参加せず、その間、道場の隅で正座をし、レポートを作成するために授業の内容
を記録していた。被上告人は、授業の後、右記録に基づきレポートを作成して、次
の授業が行われるより前の日に体育担当教員に提出しようとしたが、その受領を拒
否された。
  5 体育担当教員又は上告人は、被上告人ら剣道実技に参加しない学生やその
保護者に対し、剣道実技に参加するよう説得を試み、保護者に対して、剣道実技に
参加しなければ留年することは必至であること、代替措置は採らないこと等のD高
専側の方針を説明した。保護者からは代替措置を採って欲しい旨の陳情があったが、
D高専の回答は、代替措置は採らないというものであった。その間、上告人と体育
担当教員等関係者は、協議して、剣道実技への不参加者に対する特別救済措置とし
て剣道実技の補講を行うこととし、二回にわたって、学生又は保護者に参加を勧め
たが、被上告人はこれに参加しなかった。その結果、体育担当教員は、被上告人の
剣道実技の履修に関しては欠席扱いとし、剣道種目については準備体操を行った点
のみを五点(学年成績でいえば二・五点)と評価し、第一学年に被上告人が履修し
た他の体育種目の評価と総合して被上告人の体育科目を四二点と評価した。第一次
進級認定会議で、剣道実技に参加しない被上告人外五名の学生について、体育の成
績を認定することができないとされ、これらの学生に対し剣道実技の補講を行うこ
とが決められたが、被上告人外四名はこれに参加しなかった。そのため、平成三年
三月二三日開催の第二次進級認定会議において、同人らは進級不認定とされ、上告
人は、同月二五日、被上告人につき第二学年に進級させない旨の原級留置処分をし、
被上告人及び保護者に対してこれを告知した。
  6 平成三年度においても、被上告人の態度は前年度と同様であり、学校の対
応も同様であったため、被上告人の体育科目の評価は総合して四八点とされ、剣道
実技の補講にも参加しなかった被上告人は、平成四年三月二三日開催の平成三年度
第二次進級認定会議において外四名の学生と共に進級不認定とされ、上告人は、被
上告人に対する再度の原級留置処分を決定した。また、同日、表彰懲戒委員会が開
催され、被上告人外一名について退学の措置を採ることが相当と決定され、上告人
は、自主退学をしなかった被上告人に対し、二回連続して原級に留め置かれたこと
から学則三一条に定める退学事由である「学力劣等で成業の見込みがないと認めら
れる者」に該当するとの判断の下に、同月二七日、右原級留置処分を前提とする退
学処分を告知した。
  7 被上告人が、剣道以外の体育種目の受講に特に不熱心であったとは認めら
れない。また、被上告人の体育以外の成績は優秀であり、授業態度も真しなもので
あった。
    なお、被上告人のような学生に対し、レポートの提出又は他の運動をさせ
る代替措置を採用している高等専門学校もある。
 二 高等専門学校の校長が学生に対し原級留置処分又は退学処分を行うかどうか
の判断は、校長の合理的な教育的裁量にゆだねられるべきものであり、裁判所がそ
の処分の適否を審査するに当たっては、校長と同一の立場に立って当該処分をすべ
きであったかどうか等について判断し、その結果と当該処分とを比較してその適否、
軽重等を論ずべきものではなく、校長の裁量権の行使としての処分が、全く事実の
基礎を欠くか又は社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を
濫用してされたと認められる場合に限り、違法であると判断すべきものである(最
高裁昭和二八年(オ)第五二五号同二九年七月三〇日第三小法廷判決・民集八巻七
号一四六三頁、最高裁昭和二八年(オ)第七四五号同二九年七月三〇日第三小法廷
判決・民集八巻七号一五〇一頁、最高裁昭和四二年(行ツ)第五九号同四九年七月
一九日第三小法廷判決・民集二八巻五号七九〇頁、最高裁昭和四七年(行ツ)第五
二号同五二年一二月二〇日第三小法廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁参照)。し
かし、退学処分は学生の身分をはく奪する重大な措置であり、学校教育法施行規則
一三条三項も四個の退学事由を限定的に定めていることからすると、当該学生を学
外に排除することが教育上やむを得ないと認められる場合に限って退学処分を選択
すべきであり、その要件の認定につき他の処分の選択に比較して特に慎重な配慮を
要するものである(前掲昭和四九年七月一九日第三小法廷判決参照)。また、原級
留置処分も、学生にその意に反して一年間にわたり既に履修した科目、種目を再履
修することを余儀なくさせ、上級学年における授業を受ける時期を延期させ、卒業
を遅らせる上、D高専においては、原級留置処分が二回連続してされることにより
退学処分にもつながるものであるから、その学生に与える不利益の大きさに照らし
て、原級留置処分の決定に当たっても、同様に慎重な配慮が要求されるものという
べきである。そして、前記事実関係の下においては、以下に説示するとおり、本件
各処分は、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超えた違法なものといわ
ざるを得ない。
 1 公教育の教育課程において、学年に応じた一定の重要な知識、能力等を学生
に共通に修得させることが必要であることは、教育水準の確保等の要請から、否定
することができず、保健体育科目の履修もその例外ではない。しかし、高等専門学
校においては、剣道実技の履修が必須のものとまではいい難く、体育科目による教
育目的の達成は、他の体育種目の履修などの代替的方法によってこれを行うことも
性質上可能というべきである。
 2 他方、前記事実関係によれば、被上告人が剣道実技への参加を拒否する理由
は、被上告人の信仰の核心部分と密接に関連する真しなものであった。被上告人は、
他の体育種目の履修は拒否しておらず、特に不熱心でもなかったが、剣道種目の点
数として三五点中のわずか二・五点しか与えられなかったため、他の種目の履修の
みで体育科目の合格点を取ることは著しく困難であったと認められる。したがって、
被上告人は、信仰上の理由による剣道実技の履修拒否の結果として、他の科目では
成績優秀であったにもかかわらず、原級留置、退学という事態に追い込まれたもの
というべきであり、その不利益が極めて大きいことも明らかである。また、本件各
処分は、その内容それ自体において被上告人に信仰上の教義に反する行動を命じた
ものではなく、その意味では、被上告人の信教の自由を直接的に制約するものとは
いえないが、しかし、被上告人がそれらによる重大な不利益を避けるためには剣道
実技の履修という自己の信仰上の教義に反する行動を採ることを余儀なくさせられ
るという性質を有するものであったことは明白である。
   上告人の採った措置が、信仰の自由や宗教的行為に対する制約を特に目的と
するものではなく、教育内容の設定及びその履修に関する評価方法についての一般
的な定めに従ったものであるとしても、本件各処分が右のとおりの性質を有するも
のであった以上、上告人は、前記裁量権の行使に当たり、当然そのことに相応の考
慮を払う必要があったというべきである。また、被上告人が、自らの自由意思によ
り、必修である体育科目の種目として剣道の授業を採用している学校を選択したこ
とを理由に、先にみたような著しい不利益を被上告人に与えることが当然に許容さ
れることになるものでもない。
 3 被上告人は、レポート提出等の代替措置を認めて欲しい旨繰り返し申し入れ
ていたのであって、剣道実技を履修しないまま直ちに履修したと同様の評価を受け
ることを求めていたものではない。これに対し、D高専においては、被上告人ら「
E」である学生が、信仰上の理由から格技の授業を拒否する旨の申出をするや否や、
剣道実技の履修拒否は認めず、代替措置は採らないことを明言し、被上告人及び保
護者からの代替措置を採って欲しいとの要求も一切拒否し、剣道実技の補講を受け
ることのみを説得したというのである。本件各処分の前示の性質にかんがみれば、
本件各処分に至るまでに何らかの代替措置を採ることの是非、その方法、態様等に
ついて十分に考慮するべきであったということができるが、本件においてそれがさ
れていたとは到底いうことができない。
   所論は、D高専においては代替措置を採るにつき実際的な障害があったとい
う。しかし、信仰上の理由に基づく格技の履修拒否に対して代替措置を採っている
学校も現にあるというのであり、他の学生に不公平感を生じさせないような適切な
方法、態様による代替措置を採ることは可能であると考えられる。また、履修拒否
が信仰上の理由に基づくものかどうかは外形的事情の調査によって容易に明らかに
なるであろうし、信仰上の理由に仮託して履修拒否をしようという者が多数に上る
とも考え難いところである。さらに、代替措置を採ることによって、D高専におけ
る教育秩序を維持することができないとか、学校全体の運営に看過することができ
ない重大な支障を生ずるおそれがあったとは認められないとした原審の認定判断も
是認することができる。そうすると、代替措置を採ることが実際上不可能であった
ということはできない。
   所論は、代替措置を採ることは憲法二〇条三項に違反するとも主張するが、
信仰上の真しな理由から剣道実技に参加することができない学生に対し、代替措置
として、例えば、他の体育実技の履修、レポートの提出等を求めた上で、その成果
に応じた評価をすることが、その目的において宗教的意義を有し、特定の宗教を援
助、助長、促進する効果を有するものということはできず、他の宗教者又は無宗教
者に圧迫、干渉を加える効果があるともいえないのであって、およそ代替措置を採
ることが、その方法、態様のいかんを問わず、憲法二〇条三項に違反するというこ
とができないことは明らかである。また、公立学校において、学生の信仰を調査せ
ん索し、宗教を序列化して別段の取扱いをすることは許されないものであるが、学
生が信仰を理由に剣道実技の履修を拒否する場合に、学校が、その理由の当否を判
断するため、単なる怠学のための口実であるか、当事者の説明する宗教上の信条と
履修拒否との合理的関連性が認められるかどうかを確認する程度の調査をすること
が公教育の宗教的中立性に反するとはいえないものと解される。これらのことは、
最高裁昭和四六年(行ツ)第六九号同五二年七月一三日大法廷判決・民集三一巻四
号五三三頁の趣旨に徴して明らかである。
 4 以上によれば、信仰上の理由による剣道実技の履修拒否を、正当な理由のな
い履修拒否と区別することなく、代替措置が不可能というわけでもないのに、代替
措置について何ら検討することもなく、体育科目を不認定とした担当教員らの評価
を受けて、原級留置処分をし、さらに、不認定の主たる理由及び全体成績について
勘案することなく、二年続けて原級留置となったため進級等規程及び退学内規に従
って学則にいう「学力劣等で成業の見込みがないと認められる者」に当たるとし、
退学処分をしたという上告人の措置は、考慮すべき事項を考慮しておらず、又は考
慮された事実に対する評価が明白に合理性を欠き、その結果、社会観念上著しく妥
当を欠く処分をしたものと評するほかはなく、本件各処分は、裁量権の範囲を超え
る違法なものといわざるを得ない。
 右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法
はない。その余の違憲の主張は、その実質において、原判決の右判断における法令
の解釈適用の誤りをいうものにすぎない。また、右の判断は、所論引用の各判例に
抵触するものではない。論旨は採用することができない。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全
員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    河   合   伸   一
            裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    根   岸   重   治
            裁判官    福   田       博

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