弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 弁護人米村嘉一郎の上告趣意第一点について。
 論旨に従えば、原判決は被告人両名が拳銃三挺を不法所持したという事実を、何
等の証拠にも基かずして認定しているという。しかし第一審判決書理由第二には、
被告人Aが拳銃三挺を所持したという記載があり、原審公判に於て裁判長がこの記
載を読聞かせたのに対して、同被告人はその通り相違ない旨を自供してゐる。そし
て原判決は同人の原審公判廷における供述を証拠として採用しているのであるから、
同人が拳銃三挺を所持したという事実は、証拠に基いて認定せられたものである。
次ぎに被告人Bは、原判決挙示の証拠によつて明かにされている通り、C所有の日
本刀及び拳銃の処分を引受けた上、Cの子分D宅にあつた日本刀と拳銃を風呂敷包
のまゝ受取り(Bは、同人に対する司法警察官の第三回聴取書の中に於て、「その
品物というのは、木綿風呂敷長さ約三尺位一包、内容は手触りで日本刀数本と拳銃
二、三挺と思いました」と供述している)、これを運搬してE宅に預け、後に更ら
にこれを前記A宅に預け替えたのである。
 Aが預かつて隠匿した品物の中に拳銃三挺が含まれていたことが上記の通り明か
である以上、これを預けたBが運搬し所持した品物の中に拳銃が含まれていたこと
も亦推断され得ることである。さすれば被告人Bが拳銃三挺を不法所持していたと
いう事実も亦、原判決挙示の証拠に基いて認定せられたものであるから、原判決に
は所論のような違法はなく、論旨は理由がない。
 同第二点について。
 しかし原判決は、各被告人本人の自白の外に、相被告人の供述をも証拠として採
用し、これ等を綜合して各被告人が判示拳銃三挺を不法所持したという事実を認定
しているのである。そうして相被告人の供述を本人の自白の補強証拠として犯罪事
実を認定することが、憲法第三八条第三項の規定に違反するものでないことは、既
に当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第一八八号同二三年七月七日大法廷判決)に
示されている通りであるから、論旨は採用することができない。
 同上第三点について。
 しかし被告人等が判示数量の刀剣並に拳銃を不法所持したという事実は、挙示の
諸々の証拠によつて十分に立証せられている。その他にも、記録を調べてみて審理
不十分と認められるような形跡は存しない。それ故に原審に審理不尽の違法がある、
という論旨は理由がない。
 同第四点について。
 なるほど、本件の公判請求書をみると、被告人Bに対する公訴事実は、同人がそ
の自宅において日本刀十数振を不法に隠匿所持していたというのであり、原判決は、
同人が判示D方から同人の自宅まで日本刀十一振及び拳銃三挺を自動車で運搬して
不法に所持したという事実を認定したのであつて、拳銃三挺不法所持のことは、公
判請求書の公訴事実には記載されていない。しかし検事が本件を銃砲等所持禁止令
違反の一罪として起訴したものであることは、右の公判請求書の記載自体に徴して
明かであるから、原審に於て審判した結果が前記のような事実であつたとしても、
それは単に一罪中の一部に増加があつたというに過ぎないので、審判の請求のない
事実について審判したということにはならない。
 又公判請求書の公訴事実に、被告人の自宅において隠匿所持したとあるのを、原
判決摘示事実のように、自動車で運搬して所持したと認定しても、それは本件銃砲
等不法所持の態様が異なつただけで、基本たる事実に相違を来たしたのでないこと
は、右の公判請求書の公訴事実と原判決摘示事実第一とを比照すればおのずから明
かである。
 よつて原判決には、所論のように、公訴の提起なき事実に対して有罪の認定をし
たという違法はない。論旨は理由がない。
 同第五点について。
 しかし被告人Aは、原審裁判長の問に対して、銃砲等所持の届出をしなければな
らないことを承知していた旨答えた上、その処分について「警視庁に呼出されて品
物がある筈だと調べを受けました、ないと嘘を言い、BやCの妻にも相談しました。
引取つて呉れることになつて、Cの義兄のF方へ運ぶことになり……乗せて出かけ
ました。途中ピストルと弾丸は化粧品入れのボール箱に入れてあつたのをa駅から
品川区役所へ行く途中の省線ガード附近の川へ私が捨てゝしまいました、刀は預け
ました」と自供している。即ち被告人Aは、本件銃砲等の所持を届出でなければな
らないことを承知して居りながら、届出でもせずに判示期間中これを所持していた
のみならず、更らに本件拳銃は川の中へ捨て、日本刀は他へ持参して預けたことを
自ら供述しているのである。一方原審裁判長から第一審判決理由第二の事実を読聞
かされたのに対し、その通り相違ないとの供述をもしている。これ等の供述は相俟
つて被告人に本件犯罪の犯意があつたことを証明するものである。
 従つて原判決が被告人Aの原審公判廷における供述を証拠として、その犯意を認
定したのは、所論のように、証拠の趣旨を曲解したのでもなく、虚無の証拠を援用
したことにもならない。論旨は理由がない。
 弁護人矢部善夫の上告趣意について。
 論旨は要するに、武装解除の目的が達せられた以上、その以前に銃砲等を所持し
たことは、銃砲等所持禁止令第一条の所持の範囲に属しないとの見解を前提として、
原判決の違法を主張するものである。しかしかような見解は明かに同令の文意に反
し、法意に背く。同令の附則には、昭和二一年六月一五日当時銃砲等を所持する者
は向う四箇月以内に正規の手続を経て届出でなければならない旨を規定しているの
であるから、同年一〇月一五日以降無届で銃砲等を所持する者が、不法所持として
同令所定の処罰を受けるのは当然である。しかるに被告人Bは昭和二二年八月下旬
頃、同Aは同二三年五月六日頃から同月一五日頃迄の間、判示銃砲等を所持したの
であるから、所論のようにFが本件日本刀を破毀して地中に埋込んだという事実の
有無に拘らず、原判決が被告人等を銃砲等所持禁止令に違反するものとして処断し
たのは相当であつて、所論のような違法は存しない。論旨は理由がない。
 以上の理由により最高裁判所裁判事務処理規則第九条第四項及び旧刑訴法第四四
六条に従い主文の通り判決する。この判決は裁判官全員一致の意見によるものであ
る。
 検察官 長谷川瀏関与
  昭和二四年一一月一日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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