弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 弁護人森川金寿、同海野普吉、同鈴木秀雄、同フランク・エツチ・スコリノスの
上告趣意第一点について。
 論旨は、本件犯行当時の被告人両名の酩酊状態をもつて、心神耗弱の状況にあつ
たものと認めることができないとした原判決は、事実認定に関する経験則並びに判
例に反し違法であると主張する。しかし、裁判所が事件を審理した結果、被告人の
供述、行動、態度その他一切の資料によつて被告人本人について精神異常の疑がな
いと判断し、その判断が経験則に反しない以上、その判断をもつて違法であるとい
うことはできないこと(昭和二三年(れ)第一一四号、同年一一月一七日大法廷判
決、集第二巻一二号一五八八頁)、及び酩酊の上であつても、その酩酊の程度が心
神喪失の程度に達していたかどうかについては、必ずしも精神鑑定による必要はな
く、犯行当時における被告人の動静及び被害顛末に関する被害者等の供述によつて、
これを認定しても差支えないこと(昭和二三年(れ)第一二三〇号、同年一二月一
一日第二小法廷判決、集第二巻一三号一七三五頁)は、右引用のとおり、当裁判所
の判例とするところである。そして原判決挙示の証拠によれば、被告人両名は本件
犯行当時、ある程度の酩酊状態にあつたことが窺われるが、刑法三九条にいわゆる
心神耗弱の程度に達したものであつたことを認めることができず、記録を精査して
も、右認定をくつがえすに足る資料はない。所論の点に関する原判決の判断は、前
記当裁判所の判例の趣旨に徴し正当であり、経験則に反する違法の点も認められな
い。されば、所論(四)に引用の各判例は、いずれも本件に適切なものではなく、
論旨は理由がない。
 同第二点について。
 論旨は、心神耗弱をもつて、是非善悪を弁別する能力を著るしく欠如する程度の
精神状態であると判断した原判決は、大審院並びに最高裁判所の判例に反するもの
であると主張する。しかし、原判決の判示するところによれば、「本件犯行の行わ
れた時刻には、被告人両名とも、なお幾分の酩酊状態にあつたのであるが、所謂泥
酔状態という前後不覚の酩酊状態にあつたものとは認められないことはもとより、
是非善悪を弁明する能力を著しく欠除する程度の酩酊状態にあつたものとも認めら
れない。鑑定の結果によつても、被告人等の酩酊状態は、本件犯行時には、酩酊状
態の最高潮から幾分低下した程度にあつたものであることが認められるのである。
蓋し、自動車に乗つてから本件犯行の行われた時刻までには約一時間三十分経過し
ているのであり、酔は或程度さめていたものと認められ、本件犯行時に被告人両名
が心神喪失乃至耗弱の状況にある酩酊状態にあつたものとは到底認めることはでき
ない」というのであつて、用語に適切を欠く点もないではないが、右判示の全趣旨
に徴すれば、被告人両名の本件犯行当時の酩酊状態は、是非善悪を弁別する能力が
著しく減退した状況にも達していなかつたと認定したものであることが、おのづか
ら明らかであり、原判決の右判断は、所論引用の判例の趣旨と何等相反するもので
はない。されば、論旨は原判決の判示にそわない見解を前提とする判例違反の主張
に帰し、採用することができない。
 その他記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三〇年七月二二日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    池   田       克

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