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平成23年12月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(ワ)第13219号損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日平成23年9月16日
判決
アメリカ合衆国マサチューセッツ州<以下略>
原告ユーロプロオペレーティングエルエルシー
愛知県名古屋市<以下略>
原告株式会社オークローンマーケティング
原告ら訴訟代理人弁護士松尾眞
同兼松由理子
同岩波修
同山田洋平
同訴訟代理人弁理士山本文夫
同訴訟復代理人弁護士石川由佳子
大阪市<以下略>
被告フュージョンマーケティング株式会社
同訴訟代理人弁護士石井義人
同石田大輔
同林健太郎
同岡田健一
同訴訟復代理人弁護士杉村元章
主文
1被告は,別紙被告製品目録記載1及び2の製品を譲渡し,譲渡のため
に展示し若しくはインターネット上に掲載し,又は輸入してはならない。
2被告は,別紙被告製品目録記載1及び2の製品を廃棄せよ。
3被告は,原告ユーロプロオペレーティングエルエルシーに対し,
314万6655円及びこれに対する平成21年6月23日から支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
4被告は,原告株式会社オークローンマーケティングに対し,358万
2698円及びこれに対する平成21年6月23日から支払済みまで年
5分の割合による金員を支払え。
5原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
6訴訟費用は,これを10分し,その3を原告らの負担とし,その余を
被告の負担とする。
7この判決は,第3項及び第4項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙被告製品目録記載1及び2の製品(以下「被告製品1」などと
いい,両製品を総称して「被告製品」という。)を製造し,譲渡し,譲渡のた
めに展示し若しくはインターネット上に掲載し,又は輸入してはならない。
2被告は,被告製品を廃棄せよ。
3被告は,原告ユーロプロオペレーティングエルエルシー(以下「原告ユ
ーロプロ社」という。)に対し,438万2652円及びこれに対する平成2
1年6月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4被告は,原告株式会社オークローンマーケティング(以下「原告オークロー
ン社」という。)に対し,2138万6319円及びこれに対する平成21年
6月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,蒸気モップについての意匠権を有する原告ユーロプロ社及び同意匠
権についての独占的通常実施権を有する原告オークローン社が,被告による被
告製品の販売等の行為は上記意匠権等を侵害するものであると主張して,被告
に対し,①意匠法37条1項に基づく被告製品の販売等の差止め,②同条2項
に基づく被告製品の廃棄,③上記意匠権侵害の不法行為に基づく損害賠償とし
て,原告ユーロプロ社に対する438万2652円(意匠法39条3項に基づ
く損害として338万2652円,及び弁護士費用として100万円の合計額)
及びこれに対する不法行為の後である平成21年6月23日から支払済みまで
民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,④上記独占的通常実施権侵
害の不法行為に基づく損害賠償として,原告オークローン社に対する2138
万6319円(意匠法39条2項に基づく損害として1944万2109円,
及び弁護士費用として194万4210円の合計額)及びこれに対する不法行
為の後である平成21年6月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金の支払を求める事案である。
1争いのない事実等(末尾に証拠を掲げていない事実は,当事者間に争いのな
い事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)
(1)当事者
ア原告ユーロプロ社は,「シャークスチームモップ」,「SHARK」
の商標を用いて,別紙原告製品目録記載の蒸気(スチーム)モップ(以下「原
告製品」という。)を製造し,同商品を販売している(甲1の1)。
イ原告ユーロプロ社は,平成19年11月16日付けで,グローバルイ
ンフォマーシャルサービス(以下「GIS社」という。)との間で独占製
品販売権契約(甲1の1)を締結し,GIS社に対し,原告製品を日本に輸
入して日本国内においてこれを販売する,サブライセンス可能な独占的権
利,及び,後記(2)の本件意匠権を含む,原告製品を販売するための知的財
産権の独占的通常実施権(サブライセンス可能なもの)を与えた。
原告オークローン社は,平成19年11月22日付けで,GIS社との間
でサブライセンス契約(甲1の2)を締結し,GIS社から,原告製品を日
本に輸入して日本国内においてこれを販売する独占的権利及び原告製品を
販売するための知的財産権の独占的通常実施権を与えられた。
ウ被告は,インターネット上のショッピングサイトの運営,通信販売業務
等を業とする株式会社である。
(2)原告ユーロプロ社の有する意匠権
原告ユーロプロ社は,次の意匠権(以下「本件意匠権」といい,その登録
意匠を「本件意匠」という。)を有している。
意匠登録番号第1334735号
出願日平成20年1月4日
登録日平成20年5月30日
意匠に係る物品蒸気モップ
登録意匠別紙意匠図面のとおり
(3)被告製品の販売
被告は,インターネット上のショッピングサイトに被告製品を掲載し,被
告製品を輸入して,通信販売の方法で被告製品を販売した。
2争点
(1)本件意匠と被告製品の意匠の類否(争点1)
(2)原告らの損害(争点2)
3争点に関する当事者の主張
(1)争点1(本件意匠と被告製品の意匠の類否)について
[原告らの主張]
被告製品は,蒸気モップであり,本件意匠に係る物品と同一である。また,
本件意匠と被告製品の意匠とは,次のとおり類似する。
ア本件意匠及び被告製品の意匠の構成態様
本件意匠及び被告製品の意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様は,
別紙「本件意匠及び被告製品の意匠の構成」(以下「別紙意匠構成表」と
いう。)の「原告らの主張」欄に記載のとおりである。
イ本件意匠の要部
(ア)意匠の類似範囲
意匠の類否の判断は,当該意匠の看者となる取引者,需要者において
視覚を通じて最も注意を惹かれる部分である要部を当該意匠から抽出し
た上で,登録意匠と被告意匠とを対比し,要部における共通点及び差異
点をそれぞれ検討して,全体として美感を共通にするか否かを基本とし
て行うべきものである。この判断に当たっては,登録意匠の出願時点に
おける公知又は周知の意匠等を参酌するなどして,これを検討するのが
相当である。
(イ)公知意匠等
本件意匠の基本的構成態様のうち,ポールが棒状であり,ポールの下
端部が本体部に連結され,その本体部は,下端部と上端部が小径で,中
央部が膨らんだ略楕円形状であり,本体部の下端部がモップヘッドに連
結されているとの点は,公知である(甲9~11)。
(ウ)本件意匠の要部
a本件意匠は,その意匠に係る物品が「蒸気モップ」であり,使用者
は,片手でハンドルを握ってモップの操作を行い,下端部のモップヘ
ッドに拭きとり部材を装着して使用する。
b本件意匠は,上記(イ)のモップの公知意匠のハンドルの形状とは異
なり,ハンドルの握り部の形状を略半円状部にすることにより,ハン
ドルがより自然に手の中に収まるように工夫されており,このような
ハンドル握り部のフィット感を高めることにより,片手でのモップの
操作性を一段と向上させている点に特徴がある。
このように,本件意匠中のハンドル部の具体的構成態様は,モップ
の操作性に関わる重要な箇所として,看者である利用者の注意を強く
惹く箇所である。
cまた,上記(イ)のモップの公知意匠のように,従来,拭き取り部材
を装着して使用するタイプの床拭き掃除用具の意匠において,モップ
ヘッド部の形状は,単純な横長の長方形状であった。これに対し,本
件意匠は,モップヘッド部の外周形状が,前部及び両側部が緩やかな
円弧状で,後部が前部よりも小さい曲率半径の円弧状となっており,
上面中央部の隆起部から放射状の隆起が端部にまで延びた,特徴的な
意匠を採用している。
モップヘッド部は,床面に接着させて,これを前後左右に移動させ
ることにより床面を清掃するモップの主要部として,モップ操作の際
に利用者が絶えず注視する箇所であることから,本件意匠中のモップ
ヘッド部の上記の特徴的な具体的構成態様は,看者である利用者の注
意を最も強く惹き付けるものである。
dしたがって,本件意匠の構成態様中,少なくとも以下の構成態様は,
本件意匠の要部であると認められる。
(a)ハンドルの具体的構成態様
ハンドル本体は,基部に対して約45度の角度で斜め上方に延び
る直線状部と,この直線状部の上方に形成された略半円状の握り部
とから成る(別紙意匠構成表の【本件意匠】[原告らの主張]・「具
体的構成態様」[ハンドル]2項)。
(b)モップヘッドの具体的構成態様
モップヘッドの外周形状は,前部及び両側部が,緩やかな円弧状
であり,後部が,前部よりも小さい曲率半径の円弧状である。また,
上面中央部の隆起部から,放射状の隆起が端部にまで延びている(別
紙意匠構成表の【本件意匠】[原告らの主張]・「具体的構成態様」
[モップヘッド]1項,3項)。
ウ本件意匠と被告製品の意匠の対比
(ア)本件意匠と被告製品の意匠の共通点及び差異点は,別紙「本件意匠と
被告製品の意匠の対比表」(以下「別紙意匠対比表」という。)の「原告
らの主張」欄に記載のとおりである。
(イ)本件意匠と被告製品1の意匠との類否
a本件意匠と被告製品1の意匠は,上記(ア)のとおり,基本的構成態様
を共通にする。
また,被告製品1の意匠は,本件意匠の要部であるハンドル及びモッ
プヘッドの具体的構成態様(上記イ(ウ)d)についても,本件意匠と共
通する。
したがって,本件意匠と被告製品1の意匠は,全体として,看者に対
して共通の美感を与える。
b(a)他方,本件意匠と被告製品1の意匠の主要な差異点は,上記(ア)
のとおり,本件意匠では本体の最大径部は本体の下から3分の2付近
にあるのに対し,被告製品1の意匠では本体の上から3分の2付近に
ある点(別紙意匠対比表の[原告らの主張]・「本件意匠と被告製品
1の意匠の差異点」[本体部])である。
しかしながら,そもそも,本体部の具体的構成態様は,上記イのと
おり,本件意匠の要部を構成するものではない。また,本件意匠と被
告製品1の意匠における本体部の具体的構成態様は,下端部と上端部
が小径で,中央部が膨らんだラッキョウ形であり,その横断面は略楕
円形であるという点で共通しており(別紙意匠対比表の[原告らの主
張]・「本件意匠と被告製品1の意匠の共通点」[本体部]2項),
この共通点が,本体部の具体的構成態様の中の基本的な特徴として看
者である利用者の注意を惹き付けることは,想像に難くない。
これらの事実等にかんがみれば,本件意匠と被告製品1の意匠にお
ける本体の最大径部の位置のわずかな違いは,看者である利用者の注
意を惹き付けるものとは考えにくい。
(b)モップヘッドの差異点(別紙意匠対比表の[原告らの主張]・「本
件意匠と被告製品1の意匠の差異点」[モップヘッド])は,隆起の
本数のわずかな相違に止まっている。したがって,モップヘッドの具
体的構成態様が本件意匠の要部であることを考慮に入れたとしても,
上記差異点は,看者である利用者の注意を惹き付けるものではない。
(c)ポールと本体部のその他の具体的構成態様の差異点(別紙意匠対
比表の[原告らの主張]・「本件意匠と被告製品1の意匠の差異点」
[ポール]等を参照。)は,本件意匠の要部に関わらない具体的構成
態様の中の,極めて細部の相違に止まっている。したがって,看者で
ある利用者の注意を惹き付けるものとは言い難い。
c以上のとおり,本件意匠と被告製品1の意匠の差異点は,いずれも,
前記aの共通点に係る構成態様が生じさせる共通感を凌駕するものとは
認められない。よって,被告製品1の意匠は,本件意匠に類似する。
(ウ)本件意匠と被告製品2の意匠との類否
a本件意匠と被告製品2の意匠は,上記(ア)のとおり,基本的構成態様
を共通にする。また,被告製品2の意匠は,本件意匠の要部であるハン
ドル及びモップヘッドの具体的構成態様(上記イ(ウ)d)についても,
本件意匠と共通する。
したがって,本件意匠と被告製品2の意匠は,全体として,看者に対
して共通の美感を与える。
b(a)他方,本件意匠と被告製品2の意匠は,①被告製品2の意匠は,
本件意匠と異なり,本体の上部は段差を付けて円錐台状に絞られてい
る点(別紙意匠対比表の[原告らの主張]・「本件意匠と被告製品2
の意匠の差異点」[本体部]1項),②本体の最大径部は,本件意匠
では本体の下から3分の2付近にあるのに対し,被告製品2の意匠で
は本体の下から2分の1付近にある点(同2項),において相違する。
しかしながら,そもそも,本体部の具体的構成態様は,本件意匠の
要部を構成するものではない。また,本件意匠と被告製品2の意匠の
本体部の具体的構成態様は,下端部と上端部が小径で,中央部が膨ら
んだラッキョウ形であり,その横断面は略楕円形であるという点で共
通しており(別紙意匠対比表の[原告らの主張]・「本件意匠と被告
製品2の意匠の共通点」[本体部]2項),この共通点が,本体部の
具体的構成態様の中の基本的な特徴として,看者である利用者の注意
を惹き付けることは想像に難くない。
これらの事実等に鑑みれば,上記差異点が看者である利用者の注意
を惹き付けるものとは考えにくい。
(b)本件意匠と被告製品2の意匠は,別紙意匠対比表の[原告らの主
張]・「本件意匠と被告製品2の意匠の差異点」[モップヘッド]1
項及び2項に記載のとおり,モップヘッドに関する差異点がある。
しかしながら,上記差異点は,隆起の本数についてのわずかな相違
や,利用者の目に付かない,床面に接着するモップヘッド部の背面部
の意匠の相違にすぎない。したがって,上記差異点は,モップヘッド
の具体的構成態様が本件意匠の要部であることを考慮に入れたとし
ても,看者である利用者の注意を惹き付けるものではない。
(c)本件意匠と被告製品2の意匠のその他の具体的構成態様の差異
点は,本件意匠の要部に関わらない具体的構成態様の中の,極めて細
部の相違に止まっている。したがって,看者である利用者の注意を惹
き付けるものとは言い難い。
c以上のとおり,本件意匠と被告製品2の意匠の差異点は,いずれも,
前記aの共通点に係る構成態様が生じさせる共通感を凌駕するものと
は認められない。したがって,被告製品2の意匠は,本件意匠に類似す
る。
[被告の主張]
ア本件意匠及び被告製品の意匠の構成態様
本件意匠及び被告製品の意匠の構成態様について,原告らの主張に対す
る被告の認否及び被告の主張は,別紙意匠構成表の「被告の認否及び主張」
欄に記載のとおりである。
イ本件意匠の要部
(ア)公知意匠等
本件意匠の出願時において,上端に円状(半円状,楕円状のものを含
む。)の持ち手を,下端に蒸気を床に噴出するモップヘッドを,モップ
ヘッドの上部に蒸気を生成する本体部分を,それぞれ備えるスチームク
リーナーは,公知意匠として存在していたものであり(乙1),それら
の配置自体は,独自の美感を起こさせるものではない。
原告らは,蒸気モップの本体部の下端部と上端部が小径で,中央部が
膨らんだ略楕円状の形状が公知である旨主張するが,原告らが引用する
甲第9号証ないし甲第11号証の製品の本体部分は,楕円形ではなく,
ほぼ円柱形であり,本件意匠及び被告製品の意匠とは大きく異なる。ま
た,甲第9号証及び甲第10号証の製品の本体部分と,本件意匠及び被
告製品の意匠の本体部分とでは,①全長に対する本体部分の割合,②最
大膨らみ部分の本体部分上部からの位置,③最大膨らみ部分とポール部
分の幅の差が,全く異なっている。
したがって,本件意匠及び被告製品の意匠の本体部分の形状が公知で
あるとの原告らの主張は,理由がない。
(イ)本件意匠の要部
a本件意匠に係る蒸気モップ及び被告製品(本件意匠に係る蒸気モッ
プと併せて,以下「被告製品等」という。)の使用態様は,立ち上が
った状態で持ち手部分を所持し,蒸気が噴射されるモップヘッド部分
を床面等の汚れに当て,前後にこすることなどで汚れを拭い取る,と
いうものである。このように,被告製品等は,持ち手を所持した状態
で,製品を見下ろして使用するものであり,このような使用態様にお
いて取引者・需要者の注意を最も惹きやすい部分は,本体部分の態様
である。原告らが販売する原告製品の箱には,取引者・需要者の注意
を惹き,購入に結びつけるために,原告製品の写真が多数掲載されて
いるが,その写真の大半は,原告製品の本体部分をアップにしたもの
である(乙3)。
また,被告製品等は,本体部分のタンクに水を入れて使用するもの
であり,横にした状態で保管すると漏水の危険があるため,短時間の
使用時間を除き,立てられた状態で保管される。そして,保管の便宜
のために,保管時に持ち手部分及びポール部分を取り外すと,取引者
・需要者の注意を惹く部分は,本体部分となる。
したがって,本件意匠の要部は,本体部分の態様である。
bこれに対し,原告らは,本件意匠の要部は持ち手部分(ハンドル)
及びモップヘッド部分であると主張する。
しかしながら,持ち手部分が半円形,楕円形をしている掃除用具は,
上記(ア)のとおり公知ないし周知である上,掃除中に掃除用具の持ち
手部分に注目する取引者・需要者はまれであるから,持ち手部分は,
強く注意を惹く箇所ではない。
また,被告製品等の使用時を想定する平面図では,モップヘッド部
分の大半は本体部分に隠れているから,取引者・需要者がモップヘッ
ド部分に強く注意を惹かれることはない。
さらに,被告製品等のようなモップ状の掃除器具の場合,その機能
上,モップをつかんで操作する持ち手部分,床と接するモップヘッド
部分及び両者をつなぐポール部分は,必要不可欠な部分である。これ
らの機能上必要不可欠な部分の形状は,製品の機能を向上させるため
に工夫,改良されるものであり,そこに創作的工夫や視覚を通じて美
感を起こさせるものが入る余地はない。すなわち,取引者・需要者が
モップ状の掃除器具の持ち手部分及びモップヘッド部分を観察すると
きは,持ち手部分については操作性,持ちやすさ等の機能面を重視し,
モップヘッド部分については床との接地面積,小回りがきく形状か,
隅や角部分の掃除はしやすい形状か等の機能面を重視するのであり,
そこに,形状の美感は入らないものである。本件意匠の持ち手部分の
形状については,原告らも,その機能を向上させるためのものである
ことを認めている。また,本件意匠のモップヘッド部分の形状につい
ても,この形状は,機能的側面を重視して,長方形に近く丸みを帯び
たものとしているものであって,美感を起こさせるものではない。
ウ本件意匠と被告製品の意匠の対比
(ア)本件意匠と被告製品の意匠の共通点及び差異点は,別紙意匠対比表
の「被告の主張」欄に記載のとおりである。
(イ)本件意匠権の範囲
スチームモップや縦型の電気掃除機のような掃除器具は,その機能上,
持ち手部分,ポール部分,本体部分及びモップヘッド部分が必要不可欠
であり,そのような構成の意匠ないし製品が一般的である(甲9,10,
14,15)。このように,機能的観点等から一般的な形態に近似する
意匠ないし製品が多数存在する場合は,登録意匠の類似の範囲を広く解
するべきではなく,意匠権の範囲は,異なる美感を起こさせるものとし
て意匠公報に登録された形態に局限されると解すべきである。
(ウ)本件意匠と被告製品1の意匠は類似しないこと
a本体部分の差異点
(a)本体部分の形状は,上記(ア)のとおり,本件意匠は逆水滴型であ
るのに対し,被告製品1の意匠は水滴型である(別紙意匠対比表の
[被告の主張]・「本件意匠と被告製品1の意匠の差異点」(以下
「上記差異点」という。)6項)。そして,本件意匠は,その形状
から,取引者・需要者に,細く,洗練された都会的な美感を与える
のに対し,被告製品1の意匠は,取引者・需要者に対し,太く,ど
っしりとした安定感のある美感を与えるものであって,両意匠が取
引者・需要者に与える美感は全く異なる。
また,両意匠の最大膨らみ部分の径は,被告製品1の意匠の方が
ポール1本分大きく(上記差異点7項),本件意匠より安定感のあ
る美感を与える。
(b)本体部分の背面について,本件意匠は,円弧状のタンクを外部
に露出させることによって,デザインに変化を持たせており,これ
により,取引者・需要者に対し,変化に富む洗練された美感を与え
る(上記差異点8項)。
他方,被告製品1の意匠は,タンクの露出はなく,デザインに変
化はないものであって,取引者・需要者に対し,均質的で洗練され
ていない美感を与える。
(c)本件意匠は,本体部分に円形及び楕円形の造形が施されており,
この楕円形の造形は,正面部分のアクセントとして,特徴的な美感
を与える。これに対し,被告製品1の意匠は,本体部分に小さな逆
三角形のランプが設置されているだけであり(上記差異点9項),
均質的で特徴のない美感を与える。
b本体部分以外の差異点
(a)持ち手部分について,本件意匠は,上部外周部分の貼付状の造
形が持ち手部分にアクセントを与え,特徴的な美感を与えるのに対
し,被告製品1の意匠には,このような造形はなく(上記差異点2
項),持ち手部分は,均質的で特徴のない美感を与える。
(b)本件意匠は,ポール部分と本体部分との間に連結部分が存在し,
それぞれが独立した存在であるとの美感を与える。これに対し,被
告製品1の意匠は,連結部分がなく,本体部分の上部で直接ポール
部分と連結されており(上記差異点5項),ポール部分と本体部分
が一体化している美感を与える。
(c)本件意匠は,モップヘッド部分の上面の隆条が13本であるの
に対し,被告製品1の意匠は,20本である(上記差異点11項)。
モップヘッド部分の中で比較的注目されるものである上面の隆条の
7本もの差は,両意匠に異なる美感を与える。
(d)本件意匠は,モップヘッド部分の底面中央部分にある長方形の
突起の前面側及び背面側に突起は存在せず,四隅の長方形の造形の
間に板状の造形も存在しない。これに対し,被告製品1の意匠は,
モップヘッド部分の底面中央部分にある長方形の突起の前面側及び
背面側に突起が存在し,四隅の長方形の造形の間に板状の造形が存
在するものであり(上記差異点12項,13項),本件意匠と異な
る美感を与える。
c本件意匠と被告製品1の意匠は,以上のとおり,要部である本体部
分の形状が決定的に異なり,本体部分の正面部分及び背面部分が与え
る美感も大きく異なる。また,要部以外の全体の構成,持ち手部分及
びモップヘッド部分についても,取引者・需要者に異なる美感を与え
る相違が存在し,両意匠は,全体的にも美感が異なる。なお,本件意
匠と被告製品1の意匠には,前記(ア)のような共通点もあるが,これ
らは,意匠の要部ではない持ち手部分及びモップヘッド部分のわずか
な共通点であり,両意匠の要部及びその他の部分の差異点を上回る程
の美感の共通性をもたらすものではない。
したがって,本件意匠と被告製品1の意匠は,類似しない。
(エ)本件意匠と被告製品2の意匠は類似しないこと
a本体部分の差異点
(a)本体部分の形状は,上記(ア)のとおり,本件意匠は逆水滴型であ
るのに対し,被告製品2の意匠は瓜型である。また,被告製品2の
意匠は,上部から長手方向に5分の1程度までは円柱形であり,5
分の1程度から瓜型となる形状であって(別紙意匠対比表の[被告
の主張]・「本件意匠と被告製品2の意匠の差異点」(以下「前記
差異点」という。)3項),特に,円柱形部分が存在することで,
取引者・需要者に与える美感は本件意匠と全く異なる。
(b)本件意匠は,蒸気を発生させる電源のスイッチが本体部分に存
在しないのに対し,被告製品2の意匠は,円柱部分の正面に電源の
スイッチが存在する(前記差異点4項)。本体正面という取引者・
需要者が最も注目する部分に,起動時に必要なスイッチが存在する
ことは,取引者・需要者に美感の相違を与える。
(c)本体部分の背面のタンクの形状は,本件意匠がU字型であるの
に対し,被告製品2の意匠は,O字型の楕円形である。また,本件
意匠は,本体部の背面の上部が開けたデザインであり,開放的な美
感を与えるのに対し,被告製品2の意匠は,本体部の背面の上部が
閉じたデザインであって(前記差異点5項),閉鎖的な美感を与え
る。
b本体部分以外の差異点
(a)本件意匠及び被告製品2の意匠の構成は,上記(ア)のとおりであ
り,両意匠は,連結部分及び本体部分の構成比が大きく異なる(前
記差異点1項)。本件意匠は,本体部分が短く連結部分が長いため,
小型で軽量な美感を与えるのに対し,被告製品2の意匠は,本体部
分が長く連結部分が短いため,大型で安定している美感を与える。
(b)本件意匠は,モップヘッド部分の上面の隆条が13本であるの
に対し,被告製品2の意匠は,20本である(前記差異点6項)。
上面の隆条の7本もの差は,両意匠に異なる美感を与える。
(c)本件意匠は,モップヘッド部分の底面中央部分にある長方形の
突起の前面側及び背面側に突起は存在せず,四隅の長方形の造形の
間に板状の造形も存在しない。これに対し,被告製品2の意匠は,
底面中央部分にある長方形の突起の前面側及び背面側に突起が存在
し,四隅の長方形の造形の間に板状の造形が存在するものであり,
本件意匠と異なる美感を与える(前記差異点7項)。
c本件意匠と被告製品2の意匠は,上記のとおり,要部である本体部
分の形状が決定的に異なり,本体部分の正面部分及び背面部分が与え
る美感も大きく異なる。また,要部以外の全体の構成,特に,要部で
ある本体部分と連結部分の構成比,モップヘッド部分についても,取
引者・需要者に異なる美感を与える相違が存在し,両意匠は,全体的
にも美感が異なる。なお,本件意匠と被告製品2の意匠には,前記(ア)
のような共通点もあるが,これらは,意匠の要部ではない持ち手部分
及びモップヘッド部分のわずかな共通点であり,両意匠の要部及びそ
の他の部分の差異点を上回る程の美感の共通性をもたらすものではな
い。
したがって,本件意匠と被告製品2の意匠は,類似しない。
[被告の主張に対する原告らの反論]
ア本件意匠の要部について
(ア)ハンドルの具体的構成態様について
被告は,乙第1号証に係る意匠(以下「乙1意匠」という。)の存在
により,持ち手部分が半円形ないし楕円形をしている掃除用具は本件意
匠の出願時において公知又は周知であった旨を主張する。
しかしながら,乙1意匠におけるハンドルの握り部は,半円形又は楕
円形というよりも,むしろ台形状であり,略半円状である本件意匠のハ
ンドルの握り部の形状とは,全く異なる。また,乙1意匠のハンドルは,
看者である利用者が台形状の長辺部(直線部分)を握るのに対し,本件
意匠の利用者は,略半円状の曲線部分を握ることになる。本件意匠は,
ハンドルがより自然に手の中に収まり,フィット感を高めるように工夫
されているものであり,乙1意匠とは決定的に異なる。
このように,乙1意匠は,本件意匠におけるハンドルの具体的構成態
様が本件意匠の要部であることを否定するものではない。
(イ)モップヘッドの具体的構成態様について
被告は,本件意匠に係る蒸気モップの使用時を想定する平面図では,
モップヘッド部分の大半は本体部分に隠れているから,取引者・需要者
がモップヘッド部分に強く注意を惹かれることはない旨主張する。
しかしながら,本件意匠に係る蒸気モップは,垂直に立てた状態で使
用するものではなく,利用者は,ハンドルを手にしてポールを手前下に
傾け,床面に接着したモップヘッドを前方に押し出して使用するもので
あって,上記平面図は,使用時における利用者の視界を示すものではな
い。このような使用態様においては,モップヘッドは,本体部に隠され
ることはない。むしろ,床面に接着し,床面の汚れや塵を除去する部分
であるモップヘッドは,看者である利用者の注意を強く惹き付けるもの
といえる。
イ本件意匠と被告製品1の意匠の差異点について
(ア)本体部分の差異点について
a被告は,本件意匠の本体部の構成態様は細く,洗練された都会的な
美感を与えるのに対し,被告製品1の意匠は太く,どっしりとした安
定感のある美感を与える旨主張する。
しかしながら,本件意匠の本体部と被告製品1の意匠の本体部は,
下端部と上端部が小径で,中央部が膨らんだラッキョウ形であるとい
う点で共通しており,どちらかが細く,もう一方は太いというもので
はない。利用者である看者にとって,本体における最大径部の位置の
わずかな違いは重要でなく,両意匠の本体部からは,共通して,丸み
を帯びたラッキョウ様のものという美感が生じる。被告が主張するよ
うな,太さについて異なる美感を生じさせるものではない。
b被告は,本件意匠は円弧状のタンクを外部に露出させることにより
デザインに変化を持たせているのに対し,被告製品1の意匠はタンク
の露出はなく,デザインに変化はないことから,両意匠の本体部から
生じる美感は異なると主張する。
しかしながら,円弧状のタンクが本体部に占める割合は,極めて小
さく,この点の違いが本件意匠と被告製品1の意匠の本体部から生じ
させる美感に与える影響は,極めて軽微である。また,そもそも,背
面部は,看者である利用者が原告製品を使用する際に全く見えない部
分であって,この部分の差異が両意匠の本体部から生じる美感に影響
を与えることはない。
c被告は,本件意匠の本体部には円形及び楕円形の造形が施されてい
るのに対し,被告製品1の意匠の本体部には小さな逆三角形のランプ
が設置されているだけであり,両意匠の本体部から生じる美感が異な
る旨主張する。
しかしながら,上記「造形」及び「ランプ」は,本体部全体に比し
て極めて小さく,かつ,利用者の目を惹くような特徴的な構成態様を
備えていないことから,看者である利用者にとって,両者の形状のさ
さいな違いは,重要な意味を持つものではない。
(イ)本体部分以外の差異点について
a被告は,本件意匠のハンドルの上部外周部分には,被告製品1の意
匠と異なり「貼付状の造形」があり,両意匠のハンドルから生じる美
感は異なる旨主張する。
しかしながら,本件意匠のハンドルにおいて看者である利用者の注
意を惹くのは,基部に対して約45度の角度で斜め上方に延びる直線
状部とこの直線状部の上方に形成された略半円状握り部という具体的
構成態様であって,何の特徴もなく付けられた「貼付状の造形」の有
無は,看者である利用者にとってささいな差異点にすぎない。また,
「貼付状の造形」は,ハンドルを握った場合,すなわち製品の使用中
には,看者である利用者から隠れることになるから,この点からして
も,看者である利用者の注意を惹き付けるものではない。
b被告は,本件意匠にはポール部分と本体部分の間に連結部分が存在
し,この点をもって本件意匠と被告製品1の意匠から生じる美感は異
なる旨主張する。
しかしながら,上記「連結部分」とは,本体部におけるポール接続
用の円筒部を意味するところ,この点の差異は,本体部の具体的構成
態様の差異にすぎない。そして,本体部の具体的構成態様が本件意匠
の要部とならないことは前記[原告らの主張]イのとおりである上,
ポール接続用の円筒部が本体部に占める割合は,著しく小さく,ポー
ルと本体を接続する役割を担うのみである。したがって,このような
具体的構成態様は,本体部における具体的構成態様の中でも看者であ
る利用者の注意を惹かない部分である。
c被告は,モップヘッドの上面中央部の隆起部から端部にまで延びる
放射状の隆起の本数の違いを主張する。
しかしながら,利用者である看者にとっては,このような隆起の本
数の違いよりも,隆起がモップヘッドの上面に存在していることの方
が重要であるし,そもそも,両者の本数の差異は,わずかな相違(約
16本と20本)にすぎない。
したがって,このような相違が本件意匠及び被告製品1の意匠から
生じる美感に与える影響は,極めて小さい。なお,被告は,本件意匠
の隆起の本数が13本であると主張するが,本件意匠のモップヘッド
には,目に見える13本の隆起の他に,少なくとも2本ないし3本の
隆起が手前に位置するモップヘッドの部品の陰に隠れていることは,
本件意匠の図面を見れば明らかである。
d被告は,モップヘッド部について,「底面中央部分の長方形の突起
の前面側及び背面側」の「突起」,並びに「四隅の長方形の造形の間」
の「板状の造形」の有無を差異点として指摘する。
しかしながら,上記差異点は,極めて小さい部位に関するものであ
り,ささいなものである上,看者である利用者がモップヘッドの底面
部を観察することは極めてまれであることからすると,上記差異点が,
本件意匠及び被告製品1の意匠から生じる美感の共通性に影響を与え
ることはない。
ウ本件意匠と被告製品2の意匠の差異点について
(ア)本体部分の差異点について
a被告は,被告製品2の意匠の本体部は瓜型であり,また,上部から
長手方向に5分の1程度まで円柱形部分が存在することにより,看者
である利用者へ与える美感は本件意匠と全く異なる旨主張する。
しかしながら,本件意匠の本体部と被告製品2の意匠の本体部は,
下端部と上端部が小径で,中央部が膨らんだラッキョウ形であるとい
う点で共通しており,この共通点が,本体部の具体的構成態様の中の
基本的な特徴として,看者である利用者の注意を惹き付けるものであ
る。
被告は,被告製品2の意匠の「円柱形部分」の存在を強調するが,
この「円柱形部分」が本体部に占める割合は極めて小さく,このよう
な部分が看者である利用者の注意を惹き付けるとは考えにくい。
また,本件意匠及び被告製品2の意匠のポールが円柱形である以上,
ラッキョウ型の本体と接続する上で,必ず円柱形ないし円錐台の形状
をした部分が必要となるものであり,それが,本件意匠のように本体
部上部のポール接続用の円筒部(被告のいう「連結部分」)の形状を
とるのか,被告製品2の意匠のように本体部に含まれるのか,という
違いがあるにすぎない。したがって,このような部分に看者である利
用者が注意を惹かれることは考えにくい。
b被告は,本件意匠と被告製品2の意匠の本体部におけるスイッチの
有無という相違により,両意匠の本体部から生じる美感は異なる旨主
張する。
しかしながら,被告の主張するスイッチ部分が本体部に占める割合
は,極めて小さい上,このスイッチは,特徴的な形状を有しない,シ
ンプルな円状のものである。したがって,このようなスイッチの有無
が,本件意匠と被告製品2の意匠の本体部から生じさせる美感に与え
る影響は,極めて軽微である。
c被告は,本件意匠と被告製品2の意匠の本体部の背面にあるタンク
のデザインの相違により,本件意匠及び被告製品2の意匠の本体部か
ら生じる美感が異なるとも主張する。しかしながら,タンク部分の存
在が本件意匠と被告製品2の意匠の本体部から生じさせる美感を左右
するものでないことについては,前記イ(ア)bと同じである。
(イ)本体部分以外の差異点について
a被告は,本件意匠と被告製品2の意匠は,連結部分及び本体部分の
構成比が大きく異なり,両意匠から生じる美感が異なる旨主張する。
しかしながら,上記差異点は,本件意匠の要部以外の部分における
構成態様の相違であるにすぎない上,両意匠の構成比には,わずかな
相違しか認められない。また,被告製品2の意匠の本体部から,前記
(ア)のとおり看者である利用者の注意を惹かない部分である「円柱形
部分」を除けば,両意匠の本体部の意匠全体に対する構成比は,極め
て近似する。
b被告は,モップヘッドについて,上面中央部の隆起の本数の相違や,
「底面中央部分の長方形の突起の前面側及び背面側」の「突起」の有
無等の相違を主張する。
しかしながら,このようなささいな構成態様の相違が本件意匠及び
被告製品2の意匠から生じる美感の共通性に影響を与えるものではな
いことについては,上記イ(イ)c,dのとおりである。
(2)争点2(原告らの損害)について
ア原告ユーロプロ社の損害
[原告らの主張]
原告ユーロプロ社は,被告に対し,以下のとおり,意匠法39条3項の
損害推定規定に基づく損害賠償請求を行う。
(ア)実施料率
被告製品は,日本標準産業分類によると,玩具・運動競技用具製造技
術にかかる製品に該当すると考えられる。社団法人発明協会発行の「実
施料率[第5版]」によれば,平成4年度から平成10年度までの玩具
・運動競技用具製造技術の頭金(イニシャル)なしの場合の実施料率の
平均は,売上高の5.9%である(甲19)。したがって,本件では,
実施料の算定に売上高の5.9%という基準を用いるのが相当である。
(イ)被告製品の売上高
被告による被告製品の売上高は,5733万3100円である。した
がって,上記売上額の5.9%である338万2652円(1円未満切
捨て。以下同じ。)が,意匠法39条3項により推定される実施料相当
額となる。
(ウ)弁護士費用・弁理士費用
原告ユーロプロ社は,被告による本件意匠権侵害行為への対応として,
被告への通告及び本訴訟の提起を行ったことに伴う弁護士費用及び弁理
士費用の支払いを余儀なくされた。その損害額は,100万円を下らな
い。
(エ)よって,原告ユーロプロ社は,被告に対し,本件意匠権侵害の不法
行為に基づく損害賠償として,438万2652円及びこれに対する不
法行為の後である平成21年6月23日から支払済みまで民法所定の年
5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
[被告の主張]
(ア)実施料率について
a被告製品は,スチームモップであり,掃除用具に分類されるもので
ある。したがって,被告製品は,玩具・運動競技用具製造技術に係る
製品に該当するものではなく,前記「実施料率[第5版]」によれば,
電気掃除機が該当するとされている「民生用電気機械器具製造技術に
かかる製品」が,最も近似する分類である。同書によれば,これらの
製品のイニシャルなしの場合の実施料率の平均は,売上高の4.6%
である(乙33)。
bまた,上記「実施料率」に記載されている料率は,技術を導入する
場合の対価の割合であるため,特許権や実用新案権の評価になじむも
のである。非技術的部分である意匠が類似する場合に上記「実施料率」
記載の料率をそのまま当てはめることは,不当であり,意匠の特徴・
内容,侵害の程度等の事情を総合的に考慮して,実施料を算出すべき
である。
本件意匠は,スチームモップの美感であり,特別に独創的で個性的
な意匠ではなく,同意匠による誘引力も,世界的に著名なキャラクタ
ーなどと比べると,著しく劣る。これらの事情を総合考慮すると,本
件意匠の実施料率は,1%程度とするのが相当である。
(イ)被告製品の売上高について
被告による被告製品の売上高が5733万3100円であることは,
認める。
(ウ)弁護士費用・弁理士費用について
原告らの主張を争う。
イ原告オークローン社の損害
[原告らの主張]
原告オークローン社は,被告に対し,以下のとおり,意匠法39条2項
の損害推定規定に基づく損害賠償請求を行う。
(ア)逸失利益
被告による被告製品の売上高は,5733万3100円である。
被告は,後記[被告の主張]のとおり,意匠法39条2項所定の「利
益」の算定に当たって,上記売上高から別紙計算書の「第2.原価」記
載の費用を控除すべきであると主張する。
しかしながら,後記[被告の主張に対する原告らの反論]のとおり,
これらの費用は,上記売上高から控除すべき費用に当たるものではなく,
少なくとも,別紙計算書記載の「業務委託料」,「新聞広告料」及び「不
良返金」については,控除すべき費用として認められない。
したがって,原告オークローン社は,意匠法39条2項により推定さ
れる原告オークローン社の損害の一部請求として,被告製品の売上高か
ら,別紙計算書記載の「仕入金額」,「輸入費用」,「クリック課金」,
「倉庫料」及び「ロイヤリティ等」を控除した金額(57,333,100-33,749,600
-1,243,100-2,020,480-958,000-306,318-584,000-571,493=
19,442,109円)の支払を求める。
(イ)弁護士費用・弁理士費用
原告オークローン社は,被告による本件意匠権侵害行為への対応とし
て,被告への通告及び本訴訟の提起を行ったことに伴う弁護士費用及び
弁理士費用の支払いを余儀なくされた。その損害額は,上記(ア)の損害
額の1割(194万4210円)を下らない。
(ウ)よって,原告オークローン社は,被告に対し,本件意匠権の独占的
通常実施権侵害の不法行為に基づく損害賠償として,2138万631
9円及びこれに対する不法行為の後である平成21年6月23日から支
払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
[被告の主張]
(ア)逸失利益について
a被告は,別紙計算書記載のとおり,平成20年から平成21年まで
の間に,被告製品1を195台販売し,被告製品2を6100台販売
した。被告製品の売上高は,合計5733万3100円である。
b被告製品の販売原価は,次のとおり,別紙計算書の「第2.原価」
記載の「仕入金額」,「輸入費用」,「業務委託料」,「クリック課
金」,「新聞広告料」,「倉庫料」,「不良返金」及び「ロイヤリテ
ィ等」の合計額(5663万2921円)である。
(a)仕入金額
被告は,天和国際貿易有限公司(以下「天和社」という)から,
別紙計算書の「第2.原価」記載のとおり,被告製品を購入した。
天和社は,被告製品1については,中国法人である「YIWUFO
REIGNECONOMICRELATIONS&TRADE
CO.LTD.」(以下「YIWU社」という。)から購入し,被
告製品2については,「SHENZHENUNIVERSALI
NDUSTRIESCO.LTD.」(以下「シンセン社」という。)
から購入した。両製品は,YIWU社ないしシンセン社から被告へ
直送された(乙5の1~7)。
被告による被告製品の仕入金額は,合計3374万9600円で
ある(乙11の1~4)。なお,被告製品は,スチームが発生しな
い,スチームは出るが量が少ない,何回か使用するとスチームが発
生しなくなる,というスチームに関する初期不良が多く,被告が販
売した被告製品のうち,初期不良として顧客から交換を求められた
総数は,1034台に上る。被告は,これらの初期不良分について,
天和社を通じて,シンセン社に対して正常な商品との交換を求めた
が,シンセン社が交換に応じたのは625台のみであり(別紙計算
書の「第2.原価」の「商品」欄に「被告製品2(不良交換用)」
と記載されているもの。以下「不良交換用の被告製品2(シンセン
社負担分625台)」という。),残る409台については,被告
が販売用として天和社から仕入れた被告製品(以下「不良交換用の
被告製品2(被告負担分409台)」という。)を交換品として利
用するしかなかった(なお,被告は,上記交換時に顧客から返還を
受けた不良品については,その都度廃棄しており,現在,被告の手
元に不良品(被告製品)を所持していない。)。したがって,これ
ら409台の仕入価格(合計212万6800円)についても,被
告製品の販売による被告の「利益」(意匠法39条2項)を算定す
るに当たって,上記売上高から控除するのが相当である(別紙計算
表記載の「仕入金額」は,上記409台の仕入金額を含む金額であ
る。)
(b)輸入費用
被告は,YIWU社及びシンセン社から被告製品の直送を受ける
際,通関費用等として,別紙計算書の「第2.原価」記載の「輸入
費用」(合計124万3100円)を支払った(乙6の1~7)。
なお,不良交換用の被告製品2(シンセン社負担分625台)につ
いても,その輸入費用は被告が負担したため,輸入費用が発生して
いる。
(c)業務委託料
被告は,天和社に対し,平成20年4月23日,①インターネッ
トショップホームページのSEO対策等の運営全般及び宣伝等に係
る業務,②顧客管理,入金確認,発送手配業務,③カスタマーサー
ビス業務,及び④貿易コンサルタント業務を委託し,天和社は,こ
れを受託した(乙7。以下「本件業務委託契約」といい,同契約に
係る契約書を「本件業務委託契約書」という。)。
上記①は,ホームページ上の店舗における被告製品の情報の更新,
レイアウト変更,リニューアル等の管理をすること,ホームページ
に電子メールで寄せられた被告製品に対する質問等に対応すること
等の業務を指す。また,SEO対策とは,検索エンジン最適化対策
のことであり,被告サイトのハイパーリンクがグーグルやヤフー等
の検索サイトにおいてキーワード検索結果ページの上位に掲載され
るよう,工夫することをいう。
上記②は,被告製品の注文を受けた顧客の情報をデータベース化
すること(顧客管理),被告から受領する銀行口座の入金一覧表を
元に入金状況を確認すること(入金確認),入金確認できた顧客の
住所等の情報を専用ソフトを利用して入力し,商品発送を担当する
被告宛にデータを送信すること(発送手配),などの業務である。
被告は,これらの作業を天和社に委託することにより,被告での作
業は天和社から送信された送付先データをプリントアウトして商品
を発送するだけでよいこととなり,大幅なコスト削減が図られてい
る。
上記③は,顧客からの電話質問の対応,故障及び性能等のクレー
ムに対する対応,一般的な問合せへの対応等の業務である。
上記④は,被告が希望する商品の製造先を探して製造を依頼し,
日本に輸出する業務をいう。
本件業務委託契約の委託料は,売上額の30%であり,被告は,
天和社に対し,被告製品の販売に対する業務委託料として,合計1
719万9930円(57,333,100円×0.3)を支払った(乙14の1
~9,乙22の1~15)。
(d)クリック課金
被告は,平成20年11月12日から平成21年5月末日までの
間,ヤフージャパンで「スチームモップ」と検索した場合に,検索
結果が表示されるページの上部に被告店舗へのリンクが現れる,リ
スティング広告を設置した。被告の主たる販売経路はネット販売で
あるため,リスティング広告を展開することは,被告製品の売上げ
増加に必要不可欠なものである。また,上記広告の料金は,上記リ
ンクのクリック数に応じて発生し(以下「クリック課金」という,),
被告は,上記クリック課金の代金として,合計202万0480円
を支払った(乙8,15)。
(e)新聞広告料
被告は,インターネットを通じた販売以外に,新聞等の情報誌に
広告を掲載し,電話で受注するという通信販売を行った。
被告は,神戸新聞,ウーマンライフ,日経インテレッセ,チャオ
産経,読売ファミリー及び朝日新聞に,被告製品の広告を掲載した。
これらの広告は,すべて被告製品単独の広告であり,他の製品とと
もに掲載はしていない。これらの広告費の合計は,95万8000
円である(乙9の1~5,乙16の1~5)。
(f)倉庫料
被告は,輸入した被告製品を顧客に発送するまでの間,被告が賃
借する倉庫に一時保管した。この賃料の合計額は,30万6318
円である(乙10の1~7)。
(g)不良返金
被告が販売した被告製品には,上記(a)のとおり,初期不良が多
かった。これに対し,大多数の顧客は,不良のない被告製品との交
換を求めたが,被告製品を被告に返品した上で代金の返還を求める
顧客も存在し,被告は,別紙返金一覧表記載のとおり,合計64台
の返金に応じた。被告が上記返金に要した費用は,少なくとも被告
製品の販売額と同額であり,合計58万4000円である。
(h)ロイヤリティ等
被告製品の売上高のうち,テレビショップ・フュージョンヤフー
店(以下「ヤフー店」という。)における売上げは,別紙計算書の
「第1.売上」記載のとおり,合計1348万3800円(137,200
円+13,346,600円)である。
販売者は,ヤフー店で商品を販売した場合,ヤフー店に対し,少
なくとも売上高の2.1%相当額のロイヤリティを支払う必要があ
るため(乙12の1~9),上記売上高に対するロイヤリティの額
は,少なくとも28万3160円(13,483,800円×0.021)である。
また,販売者は,ヤフー店における商品の販売の際にカード決済
をした場合,ヤフー店に対し,カード決済金額(送料を含む総額)
に対して3.6%の手数料を支払う必要がある(乙13)ところ,
上記売上高のうちカード決済した金額は800万9260円である
から,カード手数料は28万8333円(8,009,260円×0.036)であ
る。
したがって,ヤフー店における被告製品の販売により発生するロ
イヤリティ及びカード手数料(以下「ロイヤリティ等」という。)
は,合計57万1493円(283,160円+288,333円)である。
(イ)弁護士費用・弁理士費用について
原告らの主張を争う。
[被告の主張に対する原告らの反論]
(ア)仕入金額について
a被告製品の仕入先は天和社ではないこと
被告が天和社から被告製品を購入したことについては,否認する。
被告製品は,被告がYIWU社又はシンセン社から直接購入したも
のであって,天和社から購入したものではない。その理由は,次のと
おりである。
(a)インボイスの記載
被告は,被告が被告製品を輸入した際のインボイスは乙第5号証
の1ないし7(以下「本件インボイス」という。)であると主張す
る。しかしながら,本件インボイスの作成名義人は,YIWU社又
はシンセン社であり,天和社の記載は見当たらない。また,本件イ
ンボイスには,製品の名称及び数量のほか,請求単価及び請求金額
が記載されており,その仕様,記載からみて,YIWU社又はシン
セン社からの被告に対する請求書であることが明らかである。
(b)天和社から被告に対する請求金額と被告の天和社に対する支払
額の不一致
被告は,被告製品を含む,同社が天和社から購入した商品の代金
として,天和社から,乙第11号証の1ないし4(以下「本件商品
代金請求書」という。)のとおり請求を受け,天和社に対し,乙第
21号証の1ないし16(以下「本件商品代金送金記録」という。)
のとおり代金を支払ったと主張する。
しかしながら,本件商品代金請求書の金額と本件商品代金送金記
録の金額は,別紙商品代金請求額・送金額対比表記載のとおり,全
く符号していない。
例えば,「受取人への通信文」欄に,「12GATU1KAIME
SYOUHINDAIKIN」(「12月1回目商品代金」と読むことができ
る。)との記載がある乙第21号証の3及び「12GATU2KAIME
SYOUHINDAIKIN」(「12月2回目商品代金」と読むことができ
る。)との記載がある乙第21号証の4に記載された天和社への送
金額の合計額(16,061,600円)は,乙第11号証の2記載の天和社
からの12月分の請求金額である「19,737,600円」と符号しない。
また,乙第21号証の1の「受取人への通信文」欄には,
「SUTIMUMOP2000DAISHOUHINDAIKIN」(「スチームモップ
2000台商品代金」と読むことができる。)と記載され,平成20年
10月24日に800万円を送金したことが記載されているが,こ
れは,被告製品の初回の仕入れは平成20年10月25日の200
台であるとする被告の主張と符号しない。さらに,乙第21号証の
1によると,「SUTIMUMOP」1台当たり4000円が天和社に送
金されていた計算となるが,これは,被告製品を1台当たり490
0円で購入したとする被告の主張と整合しない。
b不良交換用の被告製品2の仕入金額を売上高から控除することは許
されないこと
被告製品の販売による「利益の額」(意匠法39条2項)を算定す
るに当たって「不良交換」分の仕入金額を差し引くことは,許されな
い。被告製品6295台の販売による「利益の額」を算定するに当た
って,被告製品の売上高から控除すべき仕入金額は,この売上高に対
応する仕入金額,すなわち被告製品6295台の仕入金額に限られる
べきである。
「不良交換」に要する費用は,不良品が発生しなければ必要のなか
ったものであり,不良品が発生した場合でも,本来,不良品を販売し
た仕入先が負担する費用であって,被告製品の売上げに直接連動する
ものとはいえない。
(イ)輸入費用について
被告は,乙第6号証の輸入費用の請求書(以下「本件輸入費用請求書」
という。)が,被告において被告製品を輸入した際に生じた費用である
と主張する。
しかしながら,本件輸入費用請求書が本件インボイスに記載された被
告製品のいずれに関するものなのかについては,本件インボイスの記載
内容からは明らかでない。
また,被告は,被告製品と併せて他の製品(モップパッド,化粧箱等)
も輸入しているので,本件輸入費用請求書記載の金額は,被告製品以外
の製品の輸入費用も含むものである。
さらに,被告は,前記[被告の主張](ア)(a)記載の「不良交換」分の
輸入費用についても売上額から控除しており,相当でない。
(ウ)業務委託料について
本件業務委託契約については,次のとおり,その形式及び内容に不自
然な点があり,天和社と被告の間で本件業務委託契約が締結されたこと,
並びに本件業務委託契約と被告製品の輸入及び販売との間に関連性があ
ることについては,重大な疑義がある。
a本件業務委託契約書記載の契約締結日が天和社の会社設立日より前
になっていること
天和社の法人設立認可証(乙20の1)には,天和社の設立時期は
平成20年6月2日であると記載されている。これに対し,本件業務
委託契約書には,本件業務委託契約の締結日は同年4月23日である
と記載されており,この日付は,天和社の設立日よりも前である。設
立前の法人が業務委託契約を締結することができないことは論理的に
明らかであり,本件業務委託契約書の文書の真正には,重大な疑義が
ある。また,受託先の会社の設立許可がされるかどうかが決まってい
ない段階で,委託先の会社が,同社の業務の大部分を上記設立前の会
社に委託する旨の契約を締結することは,通常考えられない。
b本件業務委託契約書の天和社の署名が,外国会社の通常の署名方式
に則っていないこと
本件業務委託契約書の被告の署名欄には被告の代表者名が記載され
ているのに対し,天和社の署名欄には,天和社の代表者名の記載はな
く,天和社の印が押印されているにすぎない。しかしながら,天和社
は,香港の会社であり,香港を含む外国の会社が契約書に署名を行う
場合,署名欄には,会社の名称のみならず代表者名も明記した上で,
代表者自身がサイン(自署)する方法が通常である。会社印の押印の
みで署名を行っている上記天和社の署名は,極めて不自然である。
c本件業務委託契約の内容の不自然性
本業務委託契約は,業務委託料を「売上金額」の30%と定めてい
るが,この「売上金額」が被告のどのような売上げの金額に係るもの
かは明らかでない。仮に,被告製品の売上げ又はこれを含むものであ
るとすると,被告の主張に従えば,被告が天和社に対して支払ったと
する被告製品6704台分の「仕入金額」及び「業務委託料」の合計
額から不良交換用の被告製品2(被告負担分)409台の仕入額(2
12万6800円)を控除した,被告製品6295台分の仕入金額は,
同台数分の被告製品の売上高の約85%にも及ぶ。被告は,被告製品
の販売に当たり,さらに輸入費用,宣伝広告費等を支出することを考
えると,このような採算性のない取引を承知で被告が被告製品を輸入
したとは考えられない。
d天和社は本件業務委託契約に基づく委託業務を行っていないこと
被告は,天和社は本件業務委託契約に基づく業務を行っていると
主張するが,これを裏付ける客観的な証拠は被告から提出されてい
ない。
e天和社の請求書(乙14)記載の業務委託料の金額が,本件業務
委託契約書記載の業務委託料の金額と合致しないこと
本件業務委託契約は,被告が天和社に支払う業務委託料(以下「本
件業務委託料」という。)について,被告が,毎月末締めの上,翌
月10日に天和社の銀行口座へ支払う旨を規定する(本件業務委託
契約書3条1項)。
そして,被告は,天和社から本件業務委託料の請求を受けたこと
の証拠として,天和社からの請求書(乙14の1~9。以下「本件
業務委託料請求書」という。)を提出する。
しかしながら,本件業務委託料請求書記載の金額は,別紙業務委
託料請求額・委託料算定額対比表記載のとおり,被告が主張する被
告の売上金額(乙30)を基に算定した本件業務委託料の金額(被
告の売上金額の30%)と一致しない。
なお,被告は,後記[原告らの反論に対する被告の反論]のとお
り,本件業務委託料の算定の基礎となる被告の売上高は卸販売分(乙
32)を含まないものであるから,原告らの主張は理由がないと主
張する。しかしながら,別紙被告売上高・卸販売分対比表記載のと
おり,被告の主張する被告の毎月の売上高(乙30)から天和社の
把握する被告の売上高(同)を控除した金額は,被告の主張する卸
販売分の金額と全く一致しない。
f被告から天和社に対する業務委託料の支払額及び支払日が,本件業
務委託契約で定められた業務委託料の金額及び支払日と一致しない
こと
本件業務委託契約は,被告は天和社に対して毎月末日締めの上,
翌月10日に本件委託料を送金する旨規定している。
しかしながら,被告から天和社に対する送金の記録は,別紙送金
記録のとおりである。被告は,被告製品の売上げがあるにもかかわ
らず,平成21年5月から7月にかけては全く送金をせず,送金の
ある月についても,同年4月は5回,同年9月ないし11月は各々
2回に分けて送金している。月1回の送金が行われている同年1月
ないし3月及び8月も,10日又はそれに近接する日に送金は行わ
れていない。
(エ)クリック課金について
被告は,クリック課金の支払を示す証拠として,被告及び被告代表者
の預金通帳並びに被告及び被告代表者のクレジットカード利用明細書を
提出する(乙23~26)。
しかしながら,これらの明細書に記載された金額が上記クリック課金
に係るものであるか否かは,明らかでない。
また,被告は,被告製品の他に,被告製品の商品名と「スチームモッ
プ」の点で共通する原告製品(商品名「シャークスチームモップ」)に
ついても,被告店舗のウェブサイトを通じて販売していた(甲3,4)。
したがって,仮に,被告が上記クリック課金の料金を支払っていたとし
ても,支払った金額のすべてが被告製品の売上げに直接必要になった費
用とはいえない。
(オ)新聞広告料について
被告の提出する広告費に係る請求書(乙9,16)の記載内容から
は,当該広告が実際に被告製品の広告に係るものであるのか否か定か
ではない。仮に,上記広告が被告製品の広告を含むものであったとし
ても,その広告に被告が販売する他の製品の広告も含まれる場合は,
その広告分の請求金額まで被告製品の売上げに直接連動する費用とし
て控除することは認められない。
(カ)倉庫料について
被告は,被告製品の倉庫料として30万6318円(乙10の1~
7)を要したと主張するが,この金額は,乙第10号証に「出番料」
と記載されている金額を含むものである。この「出番料」は,乙第1
0号証の記載上,被告製品の入庫により生じたものか否かが明らかで
ない。
また,被告の主張する「倉庫料」には,「不良交換」分の被告製品
に係る料金も含まれている。「不良交換」分の費用を売上高から控除
すべきでないことについては,前記(イ)のとおりである。
(キ)不良返金について
被告製品の販売による「利益の額」(意匠法39条2項)を算定する
に当たって,「不良返金」分の仕入金額を差し引くことは許されない。
その理由については,前記(ア)bと同様である。
(ク)ロイヤリティ等について
被告は,被告製品の販売の際に被告がロイヤリティ等を支払ったこと
を示す証拠として,被告の預金通帳(乙23)を提出するが,この通帳
に記載された金額が上記ロイヤリティ等の支払に当てられたものである
のか否かは,明らかでない。
[原告らの反論に対する被告の反論]
(ア)仕入金額について
a被告製品の仕入先は天和社であること
(a)本件インボイスについて
本件インボイスは,被告製品の送り状である。本件のように,天
和社がYIWU社及びシンセン社から商品を購入し,その商品を被
告が天和社から購入して,YIWU社及びシンセン社から被告に対
して商品が直送されるという売買契約の場合,インボイス(送り状)
には,荷送人であるYIWU社ないしシンセン社及び荷受人である
被告の名義のみが表示され,商品の授受に直接関与しない天和社の
名義は表示されないものである。したがって,本件インボイスに天
和社の記載がないことは,不自然ではない。
(b)天和社から被告に対する請求金額と被告の天和社に対する支払
額との関係について
被告は,天和社に対して,毎月の請求に応じて仕入代金を支払う
ことを基本としているが,資金調達の都合等で天和社に送金できな
い月や,支払が一部払いとなる月も存在した。被告は,送金が滞る
場合は,天和社に対して支払の猶予を申し入れ,天和社の了解を得
て後日の送金額を増額することによって,対応していた。
また,被告が平成20年10月24日に天和社に送金した800
万円(乙21の1)は,被告製品2の前払代金であり,同金額は,
同年12月分の天和社の請求額(乙11の2)から控除されている。
b不良交換用の被告製品の仕入金額について
商品を販売するに当たり,仕入商品の中には,不可避的に不良品が
存在する。不良品の割合は,仕入代金や製造者によって様々であるが,
安価で大量に仕入れるときは,不良の割合が高くなることが一般であ
る。この場合,不良品の仕入代金は,商品を販売して利益を得るため
に必要な費用と考えることが通常であり,販売者は,不良品の割合や
損失額等を考慮して,販売価格や利益を設定している。したがって,
不良品の仕入価格も,売上げに直接連動する変動費用に該当する。
(イ)輸入費用について
被告は,被告製品と併せて他の製品も輸入しているが,輸入費用は商
品ごとに積算されるものではないため,輸入した商品ごとに輸入費用を
算定することはできない。
もっとも,輸入費用は,申請単位又はコンテナ等単位当たりで設定さ
れているため,原則として,被告製品にモップパッド又は化粧箱が加わ
ったことで増加する費用はない。ただし,同じく200個の被告製品を
輸入した際の輸入通関料(乙6の1,6の7)について見ると,乙第6
号証の7は輸入通関料が「少」であるのに対し,乙第6号証の1は「大」
になっている。これは,後者がモップパッドもともに輸入したからであ
ると考えられるので,その差額(3200円)は,モップパッドの輸入
によって増加した費用であるといえる。
(ウ)業務委託料について
a本件業務委託契約の締結日について
本件業務委託契約書の日付は,天和社の設立が認可される以前の日
付であるが,天和社は,その頃から設立手続を行っていた。設立中の
会社と設立後の会社は実質的には同一であるから,設立前の天和社の
行為は設立認可後の天和社にそのまま承継される。
b本件業務委託契約の内容について
原告らは,本件業務委託料が高額で不自然であると主張するが,前
記[被告の主張](ア)b(c)のとおり,被告が天和社に委託した業務内
容は,膨大であり,本件業務委託料の金額に見合うものである。被告
は,天和社に業務を委託することによって,被告自身で行う業務が著
しく効率化されており,通常であれば十分利益が見込めることから,
本件業務委託料の金額は,何ら不自然なものではない。
c本件業務委託料請求書記載の金額について
天和社は,被告から商品発送先住所の入力業務や顧客からの入金確
認業務を委託されているため,それらの情報から,被告の毎月の売上
高を認識することができる。天和社は,この売上高をもとに,毎月3
0%の業務委託料を請求している(本件業務委託料請求書)。なお,
天和社と被告は,業務委託料算出のために天和社が被告の月額売上高
を算定する場合,被告が顧客に商品を発送した時点で売上計上するこ
とで合意している。被告は,商品を発送すると,発送伝票の番号を記
載したデータを天和社に送信するため,天和社は同データ受領後,発
送済分を売上げとして計上する。
他方,被告は,販売した商品の売上計上時期を原則として商品代金
入金時としているため,両者が把握する毎月の売上高は,異なるもの
となっている。
また,被告の売上げには,被告が直接小売店ないし小売店へ転売す
る業者に販売する売上げ(以下「卸販売分」という。)もあるところ,
卸販売分については,天和社は売上げを把握しておらず,被告から天
和社に対して業務委託料を支払うこともない(なお,卸販売分の中に,
被告製品は含まれていない。)。平成20年10月から平成21年6
月までの被告の売上高が天和社の把握する売上高より多くなっている
のは,上記理由によるものである。
(エ)クリック課金について
被告が被告ウェブサイトで原告製品を販売したことは認める。ただし,
原告製品は,被告製品と異なり仕入価格が高額なため,販売価格も高額
とせざるを得ず,売れ行きも悪かった。そのため,原告製品の販売台数
は50台程度である。このように,両者の販売台数の差は膨大である上,
クリック課金は被告製品の販売のために導入した広告であって,原告製
品のための広告ではないことからすると,クリック課金の費用に原告製
品の販売用の広告費を考慮する必要はない。仮に,クリック課金の費用
に原告製品の販売用の広告費が含まれるとしても,その額は,両製品の
販売台数の割合で算出すべきである。
(オ)倉庫料について
「出番料」とは,コンテナを利用した入庫時に必要な荷下ろし作業の
特別料金であり,この費用を売上高から控除するべきであることは,明
らかである。
ウ原告ユーロプロ社の損害賠償請求権と原告オークローン社の損害賠償請
求権との関係
[原告らの主張]
独占的通常実施権者である原告オークローン社については,被告による
被告製品の販売がなければ,その分原告製品の売上げによる利益が生じた
はずであるという点で,意匠法39条2項で推定される被告の利益相当分
の損害が観念し得る。他方,意匠権者である原告ユーロプロ社については,
原告オークローン社から,GIS社を介して,原告オークローン社の実施
に応じた金額が支払われていることから,独占的通常実施権者である原告
オークローン社の実施が害された分に相当する収入が減少するという損害
を,原告オークローン社の損害とは別に観念することができる。
したがって,原告ユーロプロ社の意匠法39条3項に基づく実施料相当
額の損害賠償請求と,原告オークローン社の同条2項に基づく被告の利益
相当額の損害賠償請求とは,両立する。
[被告の主張]
原告らの主張を争う。
意匠法39条2項は,「その者(侵害者)がその侵害の行為により利益
を受けているとき」と規定しており,侵害者が実施行為,すなわち,許諾
を得た意匠権の実施を行わなかった場合を前提とする損害額算定方法であ
る。これに対し,同条3項は,「意匠の実施に対し受けるべき金銭の額」
と規定しており,仮に侵害者が実施行為を行った場合を前提とする損害額
算定方法である。このように,両規定は,互いに両立しない状況を前提と
するものであるから,両請求権が単純に並立することはない。
また,仮に,独占的通常実施権ではなく,専用実施権が設定されている
場合,設定者は,自ら意匠権を実施する権利も,他者に更に実施許諾をす
る権利も有しておらず,意匠法39条3項に基づく損害賠償を請求するこ
とはできない。それにもかかわらず,独占的通常実施権者に同条2項の類
推適用による損害賠償請求を認め,同時に,意匠権者にも同条3項による
損害賠償請求を認め,両者が並立するとすれば,専用実施権が設定された
場合以上の逸失利益を権利者側に認めることになってしまい,専用実施権
設定時と比較して均衡を失する。なお,本件では,原告ユーロプロ社が設
定した権利は専用実施権ではなく独占的通常実施権であるため,法律上,
同社は損害賠償請求権を有さないものではないが,意匠権者の損害は,侵
害者の侵害行為によって独占的通常実施権者が蒙った損害分について,独
占的通常実施権者から実施料を取得できなかったことであり,独占的通常
実施権者が意匠権者に対し,得た利益から実施料相当額を支払わなければ
ならないことは,侵害が存在する場合と存在しない場合とで異なることは
ない。したがって,仮に,本件において,原告ユーロプロ社及び原告オー
クローン社の損害賠償請求が認められるとすれば,原告ユーロプロ社の意
匠法39条3項に基づく請求権と原告オークローン社の同条2項に基づく
請求権は,重複する限度で連帯債権の関係に立つ。
第3当裁判所の判断
1争点1(本件意匠と被告製品の意匠の類否)について
(1)意匠の類否の判断
登録意匠とそれ以外の意匠との類否の判断は,需要者の視覚を通じて起こ
させる美感に基づいて行うものとされており(意匠法24条2項),この類
否の判断は,両意匠を全体的観察により対比し,意匠に係る物品の性質,用
途,使用態様,公知意匠にない新規な創作部分の存否等を考慮して,当該意
匠に係る物品の看者となる需要者の注意を惹きやすい部分を把握し,この部
分を中心に対比した上で,両意匠が全体的な美感を共通にするか否かによっ
て類否を決するのが相当である。
(2)意匠に係る物品の同一性
被告製品は,蒸気モップであり,本件意匠に係る物品と同一である。
(3)本件意匠及び被告製品の意匠の構成態様
ア本件意匠の構成態様
証拠(甲2の2)によれば,本件意匠の基本的構成態様及び具体的構
成態様は,次のとおりであると認められる。
(ア)基本的構成態様
a本件意匠は,持ち手部,ポール部,連結部,本体部,モップヘッド
部とから成る。
b持ち手部は,ポール部の上端と結合された,半円形のものである。
cポール部は,上端で持ち手部と結合し,下端で連結部と結合する。
d連結部は,ポール部と本体部とを接続する部材である。
e本体部は,略楕円状であり,その下端部はモップヘッド部に結合さ
れている。
fモップヘッド部は,上面中央部に本体部との接続部である隆起部を
備えた,横長の板状体である。
(イ)具体的構成態様
a持ち手部
(a)持ち手部は,下方の直線状の基部と,その上方の持ち手部本体
とから成る。
(b)持ち手部本体は,基部に対して約45度の角度で斜め上方に延
びる直線状部と,この直線状部の上方に形成された,略半円状の握
り部とから成る。
(c)直線状基部の背面に,先端を上方に屈曲させたL型のコードフ
ックが突設されている。
(d)握り部の上部外周部分に,貼付状の造形が施されている。
(e)持ち手部の長さ(高さ)は,全高の約20%である。
bポール部
(a)ポール部は,1本の円筒状の棒状体である。
(b)ポール部の長さは,全高の約40%である。
c連結部
(a)連結部は,上端の背面に,先端を下方に屈曲させたL型のコー
ドフックが突設されている。
(b)連結部の下端は,本体部上部の前面部分と結合する。
(c)連結部の長さ(高さ)は,全高の約15%である。
d本体部
(a)本体部は,逆水滴型の形状であり,最大径部は,本体部の長手
方向の下から4分の3付近にある。最大径部の横幅は,ポール部の
横幅の約7倍である。
(b)本体部の横断面は,略楕円形である。
(c)正面中央付近の上部に,円形の造形が施され,そのすぐ下部に,
横長の楕円形の造形が施されている。
(d)背面の上部から本体部の長手方向の4分の1付近の部分には,
下方が円弧状の模様があり,上端に栓状の突起物が存在する。
(e)本体部の長さ(高さ)は,全高の約20%である。
eモップヘッド部
(a)モップヘッド部の外周形状は,前部及び両側部が,緩やかな円
弧状であり,後部が,前部よりも小さい曲率半径の円弧状である。
(b)その縦:横の比率は,約1:2である。
(c)上面中央部の隆起部から,放射状の隆起が端部にまで延びてい
る。
(d)隆起の総数は,約16本である。
(e)裏面の中央部には,3×3の井桁状突起が形成され,その両側
の前後に,モップ接着用の長方形部が形成されている。
(f)モップヘッド部の長さ(高さ)は,全高の約5%である。
イ被告製品1の意匠の構成態様
被告製品1の構成は,別紙被告製品目録記載1の「構成」のとおり
であり,その基本的構成態様及び具体的構成態様は,次のとおりであると
認められる。
(ア)基本的構成態様
a被告製品1の意匠は,持ち手部,ポール部,本体部,モップヘッド
部とから成る。
b持ち手部は,ポール部の上端と結合された,半円形のものである。
cポール部は,上端で持ち手部と結合し,下端で本体部と結合する。
d本体部は,略楕円状であり,その下端部はモップヘッド部に結合さ
れている。
eモップヘッド部は,上面中央部に本体部との接続部である隆起部を
備えた,横長の板状体である。
(イ)具体的構成態様
a持ち手部
(a)本件意匠における持ち手部の具体的構成態様(前記ア(イ)a)の
(a)ないし(c)と同じ。
(b)持ち手部の長さ(高さ)は,全高の約18%である。
bポール部
(a)ポール部は,2本の棒が中央部で接続されている,横断面が略
楕円状の棒状体である。
(b)ポール部の長さは,全高の約45%である。
(c)ポール部の下端は,本体部上部の中央部分と結合する。
c本体部
(a)本体部は,上部のポール部接続用の円筒部と,本体とから成る。
(b)本体は,水滴型の形状であり,最大径部は,本体の長手方向の
下から3分の1付近にある。最大径部の横幅は,ポール部の横幅の
約8倍である。
(c)本体の横断面は,略楕円形である。
(d)正面中央の上部から長手方向に2分の1付近に,逆三角形のラ
ンプが設けられている。
(e)背面中央の上部から長手方向に7分の3付近に,栓が存在する。
(f)本体の上端部に,先端を下方に屈曲させたL型のコードフック
が突設されている。
(g)本体部の長さ(高さ)は,全高の約33%である。
dモップヘッド部
(a)本件意匠におけるモップヘッド部の具体的構成態様(前記ア(イ)
e)の(a)ないし(c),(e)及び(f)と同じ。
(b)隆起の総数は,20本である。
(c)裏面中央部の井桁状突起の前面側に4つ及び背面側に1つの板
状の突起があり,井桁状突起の両側に,外側が広がったハの字状の
突起がある。
ウ被告製品2の意匠の構成態様
被告製品2の構成は,別紙被告製品目録記載2の「構成」のとおり
であり,その基本的構成態様及び具体的構成態様は,次のとおりであると
認められる。
(ア)基本的構成態様
本件意匠の具体的構成態様(前記ア(ア))と同じ。
(イ)具体的構成態様
a持ち手部
(a)本件意匠における持ち手部の具体的構成態様(前記ア(イ)a)の
(a)ないし(d)と同じ。
(b)持ち手部の長さ(高さ)は,全高の約18%である。
bポール部
(a)ポール部は,2本の棒が中央部で接続されている,横断面が略
楕円状の棒状体である。
(b)ポール部の長さは,全高の約40%である。
c連結部
(a)連結部は,上端の背面に,先端を下方に屈曲させたL型のコー
ドフックが突設されている。
(b)連結部の下端は,本体部上部の中央部分と結合する。
(c)連結部の長さ(高さ)は,全高の約13%である。
d本体部
(a)本体部は,瓜型の形状であり,最大径部は,本体部の長手方向
の下から2分の1付近にある。最大径部の横幅は,ポール部の横幅
の約7倍である。
(b)本体部の横断面は,略楕円形である。
(c)正面中央付近の上部に,逆三角形のランプが設置され,その直
ぐ下部に,横長の楕円形の造形が施されている。
(d)本体部の上部は,段差を付けて円錐台状に絞られ,円錐台状部
の表面に円形の電源スイッチ部が設けられている。
(e)本体部の背面上部は,楕円形の線があり,その上端に栓状の突
起物が突設されている。
(f)本体部の長さ(高さ)は,全高の約24%である。
eモップヘッド部
被告製品1の意匠におけるモップヘッド部の具体的構成態様(前記
イ(イ)d)と同じ。
(4)本件意匠と被告製品の意匠の共通点及び差異点
ア本件意匠と被告製品1の意匠の共通点及び差異点は,次のとおりである。
(ア)共通点
a基本的構成態様
(a)持ち手部,ポール部,本体部,モップヘッド部を備える。
(b)持ち手部は,ポール部の上端に結合された,半円形のものであ
る。
(c)ポール部は,上端で持ち手部と結合する。
(d)本体部は,略楕円状であり,その下端部はモップヘッド部に結
合されている。
(e)モップヘッド部は,上面中央部に本体部との接続部である隆起
部を備えた,横長の板状体である。
b具体的構成態様
(持ち手部)
(a)持ち手部は,下方の直線状の基部とその上方の持ち手部本体と
から成る。
(b)持ち手部本体は,基部に対して約45度の角度で斜め上方に延
びる直線状部と,この直線状部の上方に形成された,略半円状の握
り部とから成る。
(c)直線状基部の背面に,先端を上方に屈曲させたL型のコードフ
ックが突設されている。
(ポール部)
ポール部は,円筒状ないし横断面が略楕円状の棒状体である。
(本体部)
本体部の横断面は,略楕円形である。
(モップヘッド部)
(a)モップヘッド部の外周形状は,前部及び両側部が,緩やかな円弧
状であり,後部が,前部よりも小さい曲率半径の円弧状である。
(b)その縦:横の比率は,約1:2である。
(c)上面中央部の隆起部から,放射状の隆起が端部にまで延びてい
る。
(d)裏面の中央部には,3×3の井桁状突起が形成され,その両側の
前後に,モップ接着用の長方形部が形成されている。
(e)モップヘッド部の長さ(高さ)は,全高の約5%である。
(イ)差異点
a基本的構成態様
(a)本件意匠は,持ち手部,ポール部,連結部,本体部及びモップヘ
ッド部とから成るのに対し,被告製品1の意匠は,持ち手部,ポー
ル部,本体部及びモップヘッド部とから成る。
(b)本件意匠は,ポール部が下端で連結部と結合し,連結部によって
ポール部と本体部を接続するのに対し,被告製品1の意匠は,ポー
ル部が下端で本体部と結合する。
b具体的構成態様
(持ち手部)
(a)本件意匠は,握り部の上部外周部分に貼付状の造形が施されて
いるのに対し,被告製品1の意匠は,このような造形は施されてい
ない。
(b)持ち手部の長さ(高さ)は,本件意匠が全高の約20%である
のに対し,被告製品1の意匠は全高の約18%である。
(ポール部)
(a)本件意匠は,1本の棒状であるのに対し,被告製品1の意匠は,
2本の棒が中央部で接続されている。
(b)ポール部の長さは,本件意匠が全高の約40%であるのに対し,
被告製品1の意匠は全高の約45%である。
(連結部)
本件意匠は,連結部を備え,連結部の上端の背面に,先端を下方に
屈曲させたL型のコードフックが突設されているのに対し,被告製品
1の意匠は,連結部を備えておらず,先端を下方に屈曲させたL型の
コードフックは本体部の本体の上端部に設けられている。
(本体部)
(a)被告製品1の意匠は,上部のポール部接続用の円筒部と本体と
から成るのに対し,本件意匠は,このような円筒部を備えていない。
(b)本件意匠は,本体部の形状が逆水滴型であり,最大径部は本体
部の長手方向の下から4分の3付近であるのに対し,被告製品1の
意匠は,本体の形状が水滴型であり,最大径部は本体の長手方向の
下から3分の1付近にある。また,最大径部の横幅のポール部の横
幅に対する比は,本件意匠が約7倍であるのに対し,被告製品1の
意匠は約8倍である。
(c)本件意匠は,正面中央付近の上部に円形及び横長の楕円形の造
形が施されているのに対し,被告製品1の意匠は,このような造形
は施されておらず,正面中央の上部から長手方向に2分の1付近に
逆三角形のランプが設けられている。
(d)本件意匠は,本体部の背面上部から長手方向の4分の1付近の
部分に,下方が円弧状の線があり,上端に栓状の突起物が存在する
のに対し,被告製品1の意匠は,本体部の背面上部に円弧状の線は
なく,背面中央の上部から長手方向に7分の3付近に栓が存在する。
(e)本体部の長さ(高さ)は,本件意匠が全高の約20%であるの
に対し,被告製品1の意匠は全高の約33%である。
(モップヘッド部)
(a)本件意匠は,隆起の総数が約16本であるのに対し,被告製品
1の意匠は,隆起の総数が20本である。
(b)被告製品1の意匠は,モップヘッド部の裏面中央部の井桁状突
起の前面側に4つ及び背面側に1つの板状の突起が存在し,井桁状
突起の両側にハの字状の突起が存在するのに対し,本件意匠には,
このような突起は存在しない。
イ本件意匠と被告製品2の意匠の共通点及び差異点は,次のとおりである。
(ア)共通点
a基本的構成態様
(a)持ち手部,ポール部,連結部,本体部,モップヘッド部とから
成る。
(b)持ち手部は,ポール部の上端と結合された,半円形のものであ
る。
(c)ポール部は,上端で持ち手部と結合し,下端で連結部と結合す
る。
(d)連結部は,ポール部と本体部を接続する部材である。
(e)本体部は,略楕円状であり,その下端部はモップヘッド部に結
合されている。
(f)モップヘッド部は,上面中央部に本体部との接続部である隆起
部を備えた,横長の板状体である。
b具体的構成態様
(持ち手部)
(a)本件意匠と被告製品1の意匠における持ち手部の共通点(前記
ア(ア)b(持ち手部))と同じ。
(b)握り部の上部外周部分に,貼付状の造形が施されている。
(ポール部)
(a)ポール部は,円筒状ないし横断面が略楕円状の棒状体である。
(b)ポール部の長さは,全高の約40%である。
(連結部)
連結部は,上端の背面に,先端を下方に屈曲させたL型のコードフ
ックが突設されている。
(本体部)
(a)本体部の横断面は,略楕円形である。
(b)本体部の最大径部の横幅は,ポール部の横幅の約7倍である。
(c)正面中央付近の上部の造形ないしランプの直ぐ下部に,横長の
楕円形の造形が施されている。
(モップヘッド部)
本件意匠と被告製品1の意匠におけるモップヘッド部の共通点(前
記ア(ア)b(モップヘッド部))と同じ。
(イ)差異点
本件意匠の具体的構成態様と被告製品2の意匠の具体的構成態様の差
異点は,次のとおりである(なお,本件意匠と被告製品2の意匠の基本的
構成態様については,両者の間に差異点は存在しない。)。
(持ち手部)
持ち手部の長さ(高さ)は,本件意匠が全高の約20%であるのに対
し,被告製品2の意匠は約18%である。
(ポール部)
本件意匠は,1本の棒状であるのに対し,被告製品2の意匠は,2本の
棒が中央部分で接続されている。
(連結部)
a連結部の下端は,本件意匠では本体部上部の前面部分と結合するのに
対し,被告製品2の意匠は本体部上部の中央部分と結合する。
b連結部の長さ(高さ)は,本件意匠が全高の約15%であるのに対し,
被告製品2の意匠は全高の約13%である。
(本体部)
a本件意匠は,本体部の上部に段差を付けていないのに対し,被告製品
2の意匠は,本体部の上部が段差を付けて円錐台状に絞られ,円錐台状
部の表面に円形の電源スイッチ部が設けられている。
b本件意匠は,本体部の形状が逆水滴型であり,最大径部は本体部の長
手方向の下から4分の3付近であるのに対し,被告製品2の意匠は,本
体部の形状が瓜型であり,最大径部は本体部の長手方向の下から2分の
1付近にある。
c本件意匠は,正面中央付近の上部に円形の造形が施されているのに対
し,被告製品2の意匠は,正面中央付近の上部に逆三角形のランプが設
置されている。
d本件意匠は,背面の上部から本体部の長手方向の4分の1付近の部分
の下方に円弧状の線があり,上端に栓状の突起物が存在するのに対し,
被告製品2の意匠は,本体部の背面上部に楕円形の線があり,その上端
に栓状の突起が突設されている。
e本体部の長さ(高さ)は,本件意匠が全体の約20%であるのに対し,
被告製品2の意匠は全高の約24%である。
(モップヘッド部)
本件意匠と被告製品1の意匠におけるモップヘッド部の差異点(前記ア
(イ)b(モップヘッド部))と同じ。
(5)本件意匠と被告製品の意匠の類否
上記(4)の共通点及び差異点が存在することを前提に,以下,本件意匠と被
告製品の意匠の類否について検討する。
ア本件意匠と被告製品1の意匠の類否について
(ア)本件意匠と被告製品1の意匠の共通点
a持ち手部について
(a)本件意匠に係る物品及び被告製品1は,いずれも蒸気モップで
ある。証拠(甲3の1,2,甲4の1~3,甲13)及び弁論の全
趣旨によれば,本件意匠に係る蒸気モップ及び被告製品の使用者は,
片手で持ち手部を握り,下端のモップヘッド部に拭き取り部材を装
着してモップの操作を行うものであり,持ち手部を手にしてポール
部を手前下に傾け,床面に接着したモップヘッドを前後左右に移動
させることにより,床面を清掃するものであることが認められる。
したがって,蒸気モップの需要者である使用者は,蒸気モップを使
用する際,蒸気モップの持ち手部を必ず目にするものである。
また,持ち手部の長さは,本件意匠及び被告製品1の意匠の全高
のおおむね2割程度を占めている。
さらに,本件意匠のように,蒸気モップの持ち手部の本体が,基
部に対して約45度の角度で斜め上方に延びる直線状部と,この直
線状部の上方に形成された略半円状の握り部とから成るものは,本
件意匠の出願時には知られていなかったものと認められる。
これらの事実を考慮すると,本件意匠及び被告製品1の意匠にお
ける持ち手部の本体に係る上記の具体的構成態様は,看者の視覚を
通じた注意を惹きやすい部分であり,美感に与える影響が大きいも
のであると認められる。
(b)これに対し,被告は,乙1意匠の存在により,持ち手部が半円形
ないし楕円形をしている掃除用具は本件意匠の出願時において公知
又は周知であったから,本件意匠及び被告製品1の意匠における持
ち手部の具体的構成態様は需要者の注意を強く惹く箇所ではない,
と主張する。
しかしながら,証拠(乙1)によれば,乙1意匠における持ち手
部の握り部は,半円形というよりも略台形であり,使用者が握る部
分も,半円状の曲線部分ではなく台形状の長辺部(直線部分)であ
る点において,本件意匠と相違する。
したがって,乙1意匠の存在によって,本件意匠における持ち手
部の本体の具体的構成態様が公知又は周知であったと認めることは
できない。
(c)また,被告は,モップ状の掃除器具の場合,その機能上,持ち手
部,モップヘッド部及びポール部は必要不可欠な部分であり,これ
らの部分の形状は,製品の機能を向上させるために工夫,改良され
るものであって,そこに創作的工夫や視覚を通じて美感を起こさせ
るものが入る余地はなく,需要者がモップ状の掃除器具の持ち手部
を観察するときも,操作性,持ちやすさ等の機能面を重視し,そこ
に形状の美感は入らない,とも主張する。
しかしながら,仮に,被告の主張するとおり,モップ状の掃除器
具において,持ち手部やモップヘッド部等の存在が必要不可欠であ
り,これらの部材では機能性が重視されるものであるとしても,そ
のことから直ちに,持ち手部やモップヘッド部等について美感を起
こさせるものが入る余地はなく,意匠創作の余地がないということ
はできず,他に被告の上記主張を裏付けるに足りる証拠はない。し
たがって,被告の上記主張を採用することはできない。
bモップヘッド部について
(a)蒸気モップの使用方法は,上記a(a)のとおりであり,使用者は,
モップヘッド部に装着した拭き取り部材を床面に接着させて前後左
右に移動させることにより,床面を清掃するものである。
したがって,蒸気モップの需要者は,蒸気モップを使用する際,
モップヘッド部の形状及びその上面を注視するものといえる。
また,本件意匠のように,蒸気モップのモップヘッド部の外周形
状が,前部及び両側部が緩やかな円弧状で,後部が前部よりも小さ
い曲率半径の円弧状となっており,上面中央部の隆起部から放射状
の隆起が端部にまで延びたものは,本件意匠の出願時には知られて
いなかったものと認められる。
これらの事実を考慮すると,本件意匠及び被告製品1の意匠にお
けるモップヘッド部の形状及びその上面に係る上記の具体的構成態
様は,看者の視覚を通じた注意を惹きやすい部分であり,美感に与
える影響が大きいものであると認められる。
(b)これに対し,被告は,本件意匠に係る蒸気モップの使用時を想
定する平面図(別紙意匠図面の【平面図】)では,モップヘッド部
の大半は本体部分に隠れているから,需要者がモップヘッド部に強
く注意を惹かれることはないと主張する。
しかしながら,上記平面図において,本体部に隠されていない部
分だけでも,モップヘッド部全体の外周形状や上面の放射状の隆起
の形状を知ることができるのであって,その大半が本体部に隠れて
いるとの被告の主張はその前提を欠くものであり,上記平面図を含
む別紙意匠図面の全体から把握することのできるモップヘッド部の
形状及びその上面に係る上記の具体的構成態様は,需要者の注意を
惹く部分であるというべきである。また,上記平面図は,本件意匠
に係る意匠公報に記載された図面であるところ(甲2の2),同公
報には,上記平面図が本件意匠に係る蒸気モップの使用時を想定す
るものである旨の説明は,何ら記載されていない。かえって,前掲
a(a)の各証拠によれば,本件意匠に係る蒸気モップ及び被告製品
は,垂直に立てた状態で使用するものではなく,利用者は,持ち手
部を手にしてポール部を手前下に傾け,床面に接着したモップヘッ
ドを前方に押し出して使用するものであることが認められる。
したがって,上記平面図は,蒸気モップの使用時を想定するもの
であるとは認められず,被告の主張は理由がない。
(c)また,被告は,モップ状の掃除器具の場合,その機能上,モップ
ヘッド部は必要不可欠な部分であり,この部分の形状は,製品の機
能を向上させるために工夫,改良されるものであって,そこに創作
的工夫や視覚を通じて美感を起こさせるものが入る余地はないとも
主張する。
しかしながら,被告の上記主張に理由がないことについては,上
記a(c)で説示したところと同じである。
c本体部について
(a)蒸気モップの使用方法については,上記a(a)のとおりである。
したがって,蒸気モップの需要者は,蒸気モップを使用する際,モ
ップヘッド部が結合された本体部の正面についても,必ず目にする
ものである。
これに加えて,①本体部の長さ(高さ)は,本件意匠及び被告製
品1の意匠の全体の2割ないし3割程度を占めていること,②本件
意匠のように蒸気モップの本体部の形状が逆水滴型のものは,本件
意匠の出願時には知られていなかったものと認められること,など
を考慮すると,本件意匠及び被告製品1の意匠における本体部の具
体的構成態様は,看者の視覚を通じた注意を惹きやすい部分であり,
美感に与える影響が大きいものであると認められる。
(b)これに対し,原告は,蒸気モップにおいて,本体部の形状が,
下端部と上端部が小径で,中央部が膨らんだ略楕円形状であるもの
は,本件意匠の出願時において公知であったものであるから(甲9
~11),本件意匠における本体部の形状は,看者である利用者の
注意を強く惹く箇所ではないと主張する。
しかしながら,証拠(甲9~11)によれば,甲第9号証ないし
甲第11号証に係る意匠(以下「甲9ないし11意匠」という。)
の本体部の形状は,いずれも,本件意匠のような逆水滴型ではなく,
全高に対する本体部の割合(甲9ないし11意匠では,おおむね3
0%程度である。)や,本体部の最大径部の横幅とポール部の横幅
の比(甲9ないし11意匠は,おおむね4倍程度である。)も,本
件意匠とは大きく相違していることが認められる。
したがって,甲9ないし11意匠の存在によって,本件意匠にお
ける本体部の具体的構成態様が公知であったと認めることはできな
い。
d以上のとおり,本件意匠において看者となる需要者の注意を惹きや
すい部分は,持ち手部の本体,モップヘッド部の上面及び本体部の具
体的な形状であると認められる。
そして,本件意匠と被告製品1の意匠は,前記のとおり,持ち手部
の本体の形状(持ち手部の本体が,基部に対して約45度の角度で斜
め上方に延びる直線状部と,この直線状部の上方に形成された略半円
状の握り部とから成る。),及びモップヘッド部の上面の形状(モッ
プヘッド部の外周形状が,前部及び両側部が緩やかな円弧状で,後部
が前部よりも小さい曲率半径の円弧状となっており,上面中央部の隆
起部から放射状の隆起が端部にまで延びている。)において,共通点
を有する。
また,本件意匠と被告製品1の意匠における本体部の形状は,前者
が逆水滴型であるのに対し,後者が水滴型であるという差異点はある
ものの,いずれも略楕円形であり,その横断面が略楕円であるという
点において共通しており,最大径部の横幅とポール部の横幅の比につ
いても,ほぼ同様である。
このように,本件意匠と被告製品1の意匠は,需要者の視覚を通じ
て注意を惹きやすい部分において多くの共通点を有するものであるか
ら,両意匠を全体的に観察した場合,その他の共通点(前記(4)ア(ア)
参照)によってもたらされる共通感とあいまって,看者に共通の美感
を与えるものであるといえ,被告製品1の意匠は本件意匠に類似する
ものと認められる。
なお,本件意匠の構成態様と被告製品1の意匠の構成態様との間に
は,前記(4)ア(イ)のとおり差異点も存在するものの,後記のとおり,
その差異点から受ける印象は上記共通点から受ける印象を凌駕するも
のではない。したがって,このような差異点の存在をもって両意匠を
非類似とすることはできない。
(イ)本件意匠と被告製品1の意匠の差異点
a基本的構成態様(連結部の有無)について
本件意匠は,持ち手部,ポール部,連結部,本体部及びモップヘッ
ド部とから成るのに対し,被告製品1の意匠は,持ち手部,ポール部,
本体部及びモップヘッド部とから成るものであり,ポール部と本体部
とを接続する部材である連結部は存在しない。
しかしながら,蒸気モップの使用方法は前記a(a)のとおりである
ことからすると,蒸気モップの需要者は,蒸気モップを使用する際,
ポール部と本体部とを接続する部材である連結部については,さほど
注視することはないものといえる。また,本件意匠における連結部の
形状は,格別特徴のあるものとは認められない。
これに加えて,被告製品1の意匠においても,本件意匠における連
結部に相当するものとして,ポール部と本体部とを接続する部分(本
体部における円筒部)が存在することを考えると,連結部の有無とい
う差異が看者の美感に与える影響は,比較的軽微なものにとどまると
いうべきである。
b持ち手部について
(a)本件意匠における持ち手部の握り部の上部外周部分には,貼付
状の造形が施されているのに対し,被告製品1の意匠は,このよう
な造形は施されていない。
しかしながら,上記造形は,本件意匠全体からみれば,ごくわず
かといえる小さな部分にすぎない上,造形自体の形状も,特徴があ
るものとはいえないことからすると,上記差異が看者の美感に与え
る影響はごく軽微なものといえる。
(b)また,持ち手部の長さ(高さ)は,本件意匠が全高の約20%
であるのに対し,被告製品1の意匠は全高の約18%である。
しかしながら,上記持ち手部の長さの差は,本件意匠に係る蒸気
モップ全体からみると,約2%程度のごく小さいものにすぎない上,
持ち手部自体の長さを比較した場合でも,せいぜい1割程度の違い
にとどまるものであるから,やはり,看者の美感に与える影響は軽
微なものにとどまる。
cモップヘッド部について
(a)本件意匠は,隆起の総数が約16本であるのに対し,被告製品
1の意匠は,隆起の総数が20本である。
しかしながら,上記本数の差異はわずかであるから,このような
差異が看者の美感に与える影響は,ごく軽微であるというべきであ
る。
(b)また,被告製品1の意匠は,モップヘッド部の裏面中央部の井
桁状突起の前面側に4つ及び背面側に1つの板状の突起が存在し,
井桁状突起の両側にハの字状の突起が存在するのに対し,本件意匠
には,このような突起は存在しない。
しかしながら,上記差異点も,本件意匠の全体からみると,ごく
小さい部位に関するものである上,蒸気モップの使用方法が前記
(ア)a(a)のとおりであることからすると,蒸気モップの通常の使用
態様において,看者である需要者がモップヘッド部の裏面を観察す
ることは,極めてまれであるといえる。
したがって,上記差異点が看者に与える影響も,ごく軽微なもの
にとどまるというべきである。
d本体部分について
(a)本件意匠は,本体部の形状が逆水滴型であり,最大径部は本体
部の長手方向の下から4分の3付近であるのに対し,被告製品1の
意匠は,本体の形状が水滴型であり,最大径部は本体の長手方向の
下から3分の1付近にある。また,最大径部の横幅のポール部の横
幅に対する比は,本件意匠が約7倍であるのに対し,被告製品1の
意匠は約8倍である。
そして,被告は,このような差異が存在することにより,本件意
匠は,需要者に細く,洗練された都会的な美感を与えるのに対し,
被告製品1の意匠は,需要者に太く,どっしりとした安定感のある
美感を与えるものであり,両意匠が需要者に与える美感は全く異な
ると主張する。
そこで検討するに,本体部の具体的構成態様が看者の視覚を通じ
た注意を惹きやすい部分のひとつであることについては,前記(ア)
cのとおりであり,このような本体部の形状について上記のような
差異点が存在することは,看者の美感に与える影響が少なくないも
のといえる。
他方,本件意匠では,持ち手部の本体及びモップヘッド部の上面
の具体的構成態様もまた,看者の注意を惹きやすい部分であり,こ
の点について,被告製品1の意匠は,前記のとおり本件意匠と共通
点を有するものである。
また,本体部の具体的構成態様についても,本件意匠と被告製品
1の意匠は,上記のような差異点が存在する一方で,本体部が略楕
円状である点や横断面が略楕円である点は共通しており,最大径部
の横幅とポール部の横幅の比についても,ほぼ同様であることが認
められる。
その結果,本件意匠と被告製品1の意匠は,これを全体的に観察
した場合,看者に共通の美感を与えるものといえる。本体部の構成
に関する上記差異点から受ける印象は,上記共通点から受ける印象
を凌駕するものではない。
(b)本件意匠は,正面中央付近の上部に円形及び横長の楕円形の造
形が施されているのに対し,被告製品1の意匠は,このような造形
は施されておらず,正面中央の上部から長手方向に2分の1付近に
逆三角形のランプが設けられている。
しかしながら,上記「造形」及び「ランプ」は,本体部全体に比
して極めて小さいものであり,利用者の目を惹くような特徴的な構
成態様を備えているものでもない。したがって,上記差異が看者の
美感に与える影響は,ごく軽微なものにとどまる。
(c)本件意匠は,本体部の背面上部から長手方向の4分の1付近の部
分に下方が円弧状の線があり,上端に栓状の突起物が存在するのに
対し,被告製品1の意匠は,本体部の背面上部に円弧状の線はなく,
背面中央の上部から長手方向に7分の3付近に栓が存在する。
しかしながら,蒸気モップの使用方法は前記(ア)a(a)のとおりで
あるから,蒸気モップの通常の使用態様において,看者である需要
者は,本体部背面部を注視することはほとんどないといえる。また,
上記のタンクや栓が本体部に占める割合も,ごく小さいものである。
したがって,上記差異が美感に与える影響は,ごくわずかなもの
であるというべきである。
eポール部について
本件意匠は,1本の棒状であるのに対し,被告製品1の意匠は,2
本の棒が中央部で接続されている。また,ポール部の長さは,本件意
匠が全高の約40%であるのに対し,被告製品1の意匠は全高の約4
5%である。
しかしながら,これらの差異は,本件意匠の全体からみれば,ごく
わずかな部位に関する差異にとどまるものであり,差異の程度も,ご
くわずかなものにすぎない。また,蒸気モップの通常の使用態様にお
いて,看者の注意を惹く部分に関するものともいえない。
したがって,上記差異が看者の美感に与える影響は,ごく軽微なも
のにとどまる。
f以上のとおり,上記aないしeの差異点は,いずれも,本件意匠と
被告製品1の意匠の類否判断に及ぼす影響は強いものではなく,これ
らがまとまって相乗的な効果を発揮する可能性を考慮したとしても,
上記(ア)の共通点によって形成された全体的な共通感を凌ぐものでは
ない。よって,両意匠は,看者に異なった美感を与えるものというこ
とはできない。
イ本件意匠と被告製品2の意匠の類否について
(ア)本件意匠と被告製品2の意匠の共通点について
a持ち手部について
本件意匠における持ち手部の本体に係る具体的構成態様(蒸気モッ
プの持ち手部の本体が,基部に対して約45度の角度で斜め上方に延
びる直線状部と,この直線状部の上方に形成された略半円状の握り部
とから成る。)が,看者の視覚を通じた注意を惹きやすい部分であり,
美感に与える影響が大きいものであることは,前記ア(ア)aのとおり
であり,被告製品2も,本件意匠と同じ構成を有するものである。
bモップヘッド部について
本件意匠におけるモップヘッド部の形状及びその上面に係る具体的
構成態様(モップヘッド部の外周形状が,前部及び両側部が緩やかな
円弧状で,後部が前部よりも小さい曲率半径の円弧状となっており,
上面中央部の隆起部から放射状の隆起が端部にまで延びている。)が,
看者の視覚を通じた注意を惹きやすい部分であり,美感に与える影響
が大きいものであることは,前記ア(ア)aのとおりであり,被告製品
2も,本件意匠と同じ構成を有するものである。
c本体部について
本件意匠における本体部の具体的構成態様(略楕円状の逆水滴型の
形状であり,その横断面は略楕円形である。また,本体部の最大径部
の横幅は,ポール部の横幅の約7倍であり,本体部の長さ(高さ)は,
全高の約20%である。)が,看者の視覚を通じた注意を惹きやすい
部分であることは,前記ア(ア)cのとおりである。
本件意匠と被告製品2の意匠における本体部の形状は,前者が逆水
滴型であるのに対し,後者は瓜型であるという差異点を有するものの,
両者は,いずれも,略楕円状であり,その横断面は略楕円形であって,
本体部の最大径部の横幅はポール部の横幅の約7倍である点において
共通し,本体部の長さの全高に対する比についても,ほぼ同様である。
dこのように,本件意匠と被告製品2の意匠は,需要者の視覚を通じ
て注意を惹きやすい部分において多くの共通点を有するものであるか
ら,両意匠を全体的に観察した場合,両意匠が基本的構成態様を共通
にするなどのその他の共通点(前記(4)イ(ア)参照)によってもたらさ
れる共通感とあいまって,看者に共通の美感を与えるものであるとい
え,被告製品2の意匠は本件意匠に類似するものと認められる。なお,
本件意匠の構成態様と被告製品1の意匠の構成態様との間には,前記
(4)イ(イ)のとおり差異点も存在するが,これらの差異点が美感に与え
る影響については,後記のとおり,その差異から受ける印象が上記共
通点から受ける印象を凌駕するものではない。
(イ)本件意匠と被告製品2の意匠の差異点
a持ち手部について
持ち手部の長さ(高さ)は,本件意匠が全高の約20%であるのに
対し,被告製品2の意匠は全高の約18%である。
しかしながら,上記持ち手部の長さの差が看者の美感に与える影響
は軽微なものにとどまることについては,前記ア(イ)b(b)に説示した
とおりである。
bモップヘッド部について
本件意匠は,隆起の総数が約16本であるのに対し,被告製品2の
意匠は,隆起の総数が20本である。また,被告製品2の意匠は,モ
ップヘッド部の裏面中央部の井桁状突起の前面側に4つ及び背面側に
1つの板状の突起が存在し,井桁状突起の両側にハの字状の突起が存
在するのに対し,本件意匠には,このような突起は存在しない。
しかしながら,このような差異が看者の美感に与える影響はごく軽
微なものというべきであることについては,前記ア(イ)cのとおりで
ある。
c本体部について
(a)本件意匠は,本体部の形状が逆水滴型であり,最大径部は本体
部の長手方向の下から4分の3付近であるのに対し,被告製品2の
意匠は,本体の形状が瓜型であり,最大径部は本体の長手方向の下
から2分の1付近にある。また,本件意匠は,本体部の上部に段差
を付けていないのに対し,被告製品2の意匠は,本体部の上部が段
差を付けて円錐台状に絞られ,円錐台状部の表面に円形の電源スイ
ッチ部が設けられている。
そして,被告は,このような差異が存在することにより,被告製
品2の意匠が与える美感は本件意匠と全く異なると主張する。
確かに,本体部の具体的構成態様が看者の視覚を通じた注意を惹
きやすい部分のひとつであることについては,前記(ア)cのとおり
であり,このような本体部の形状について上記のような差異点が存
在することは,看者の美感に与える影響が少なくないものといえる。
他方,本件意匠では,持ち手部の本体及びモップヘッド部の上面
の具体的構成態様もまた,看者の注意を惹きやすい部分であり,こ
の点について,被告製品2の意匠は,本件意匠と共通点を有する。
また,本体部の具体的構成態様についても,本件意匠と被告製品
2の意匠は,上記のような差異点が存在する一方で,本体部が略楕
円状である点,横断面が略楕円である点,最大径部の横幅とポール
部の横幅の比について共通し,本体部の長さ(高さ)の全高に対す
る比も,ほぼ同様であることが認められる。
これに加えて,①被告製品2の意匠において,本体部の円錐台状
部が本体部に占める割合は限定的なものであること,②円錐台上部
の表面に設けられた円形の電源スイッチ部が本体部に占める割合
は,極めて小さいものである上,同スイッチの形状は,ありきたり
なものであり,特徴的な形状を有するものではないこと,などを考
慮すると,本件意匠と被告製品2の意匠は,これを全体的に観察し
た場合,看者に共通の美感を与えるものといえる。本体部の構成に
関する上記差異点から受ける印象は,上記共通点から受ける印象を
凌駕するものではないというべきである。
(b)本件意匠は,正面中央付近の上部に円形の造形が施されている
のに対し,被告製品2の意匠は,正面中央付近の上部に逆三角形の
ランプが設置されている。
しかしながら,上記造形ないしランプは,本件意匠全体又は本体
部全体からみれば,ごくわずかといえる小さな部分にすぎない上,
造形ないしランプ自体の形状も,特段の特徴はないものであること
からすると,上記差異が看者の美感に与える影響はごく軽微なもの
といえる。
(c)本件意匠は,背面の上部から本体部の長手方向の4分の1付近
の部分に下方が円弧状の線があり,上端に栓状の突起物が存在する
のに対し,被告製品2の意匠は,本体部の背面上部に楕円形の線が
あり,その上端に栓状の突起物が突設されている。
しかしながら,蒸気モップの通常の使用態様において,看者であ
る需要者は,本体部背面部を注視することはほとんどないものであ
り,上記の線や突起物等が本体部に占める割合も,ごく小さいもの
であることからすると,上記差異が美感に与える影響は,ごく軽微
なものにとどまるといえる。
(d)本体部の長さ(高さ)は,本件意匠が全体の約20%であるの
に対し,被告製品2の意匠は全高の約24%である。
しかしながら,上記本体部の長さの差は,本件意匠に係る蒸気モ
ップ全体からみると,約4%程度のごく小さいものにすぎない上,
本体部自体の長さを比較した場合でも,せいぜい2割程度の違いに
とどまるものであるから,やはり,看者の美感に与える影響は軽微
なものにとどまるというべきである。
dポール部について
本件意匠は,1本の棒状であるのに対し,被告製品2の意匠は,2
本の棒が中央部分で接続されている。
しかしながら,これらの差異が看者の美感に与える影響がごく軽微
なものにとどまることについては,前記ア(イ)eに説示したとおりで
ある。
e連結部について
連結部の下端は,本件意匠では本体部上部の前面部分と結合するの
に対し,被告製品2の意匠は本体部上部の中央部分と結合する。また,
連結部の長さ(高さ)は,本件意匠が全高の約15%であるのに対し,
被告製品2の意匠は全高の約13%である。
しかしながら,上記結合部位の差異については,蒸気モップの通常
の使用態様に照らすと,看者の注意を特段惹くことのない部位に関す
るものであるといえる。また,連結部の長さ(高さ)の差異も,本件
意匠に係る蒸気モップ全体からみると,約2%程度のごく小さいもの
にすぎない上,連結部部自体の長さを比較した場合でも,せいぜい1
割程度の違いにとどまるものであるから,やはり,看者の美感に与え
る影響は軽微なものにとどまる。
f以上のとおり,上記aないしeの差異点が本件意匠と被告製品2の
意匠の類否判断に及ぼす影響は,上記(ア)の共通点によって形成され
た全体的な共通感を凌ぐものではなく,両意匠は,看者に異なった美
感を与えるものということはできない。
(6)差止請求等の可否
以上を前提に,被告に対する差止請求及び廃棄請求の可否について検討す
る。
ア差止請求について
前記第2の1(争いのない事実等)(3)のとおり,被告は,インターネッ
ト上のショッピングサイトに被告製品を掲載し,被告製品を輸入して,通
信販売の方法で販売していたものであり,これらの行為は,本件意匠権を
侵害するものであると認められる。
また,被告は,原告から平成21年4月に本件訴えが提起された後も,
少なくとも,同年7月ころまでは,インターネット上のショッピングサイ
トに被告製品2を掲載して,同製品の販売の申出をし(甲13),同年8
月にも被告製品2を輸入していたことが認められる(乙5の7,乙6の7)。
さらに,被告は,本件訴訟においても,本件意匠と被告製品の意匠は類似
しないなどと主張して,意匠権侵害の有無を争っている。
そうすると,本件訴訟において,被告は,平成21年6月22日以後は
被告製品の販売をしていないと主張していることなどの事情を考慮したと
しても,被告において,今後も,被告製品を輸入し,譲渡し,譲渡のため
の展示をし,又はインターネット上に掲載をするおそれがあると認められ
る。
したがって,原告ユーロプロ社は,被告に対し,意匠法37条1項に基
づき,被告製品の輸入,譲渡,譲渡のための展示又はインターネット上へ
の掲載の差止めを求めることができる。
一方,被告は,被告製品を製造したものではなく,被告において今後被
告製品を製造するおそれについても,これを認めるに足りる証拠はない。
よって,原告らの請求のうち,被告に対して被告製品の製造の差止めを
求める部分は,理由がない。
イ廃棄請求について
被告は,被告が輸入した被告製品はすべて販売済みであり,販売後に顧
客から不良品であるとして返品を受けた被告製品についても,すべて廃棄
済みであるから,被告において現在被告製品を所持していないと主張する。
しかしながら,被告の上記主張については,これを裏付けるに足りる客
観的な証拠はなく,同主張を採用することはできない。
したがって,原告ユーロプロ社は,被告に対し,意匠法37条2項に基
づき,被告製品の廃棄を求めることができる。
2争点2(原告らの損害)について
(1)原告ユーロプロ社の損害について
ア意匠法39条3項の損害
(ア)被告による被告製品の売上高が5733万3100円であることに
ついては,当事者間に争いがない。
(イ)証拠(乙33)によれば,社団法人発明協会の発行する「実施料率
[第5版]」には,「民生用電気機械器具製造技術に係る製品」(電気
掃除機などが該当するものとされている。)の平均実施料率について,
平成4年度ないし平成10年度はイニシャルありが2.8%,イニシャ
ルなしが4.6%であると記載されていることが認められる。
(ウ)被告製品は,蒸気モップであり,上記「民生用電気機械器具」に属
するものであるといえる。これに加えて,①一般に,蒸気モップ等の民
生用電気機械器具の需要者は,その意匠に対してもある程度の関心を有
していることがうかがえるものであり,意匠による誘引力も一定程度存
在すること,②本件意匠は,同意匠に係る物品(蒸気モップ)の構成全
体に関するものであること,②本件意匠は,前記1のとおり,看者の視
覚を通じた注意を惹きやすい部分について,公知意匠にはない特徴的な
構成態様を有するものであること,などの事情を総合的に考慮すると,
本件意匠の実施料率は,被告製品の売上高の5%とするのが相当である。
(エ)したがって,上記(ア)の売上高の5%である286万6655円が,
意匠法39条3項の損害推定規定により推定される実施料相当額とな
る。
イ弁護士費用
原告ユーロプロ社は,弁護士を選任して本件訴訟を追行しているもので
あり,本件事案の内容,認容額及び本件訴訟の経過等を総合すると,上記
意匠権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は,28万円と認め
られる。
ウ以上のとおり,原告ユーロプロ社は,被告に対し,合計314万665
5円の損害賠償請求権を有するものと認められる。
(2)原告オークローン社の損害について
ア独占的通常実施権者に対する意匠法39条2項の適用の可否
(ア)原告オークローン社が,本件意匠権の独占的通常実施権の設定を受
けていることは,前記第2の1(争いのない事実等)(1)のとおりである。
また,証拠(甲1の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,原告オークロ
ーン社は,遅くとも平成20年以後,被告製品と市場において競合する
商品(蒸気モップ)である原告製品を販売していることが認められる。
(イ)意匠法39条2項は,意匠権者又は専用実施権者が故意又は過失に
より意匠権等を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠
償を請求する場合において,その者がその侵害行為により利益を受けて
いるときは,その利益の額は意匠権者等が受けた損害の額と推定する旨
定めるものであり,これによって意匠権者又は専用実施権者による損害
額の立証を容易にし,これらの者を保護する趣旨に出たものである。
独占的通常実施権者は,当該意匠権を独占的に実施して市場から利益
を上げることができる点において専用実施権者と実質的に異なるところ
はなく,意匠法39条2項の上記趣旨は,独占的通常実施権者にも妥当
するというべきであるから,独占的通常実施権者が侵害者の実施行為に
よって受けた損害についても,同条項を類推適用するのが相当である。
イ意匠法39条2項の損害について
(ア)被告製品の売上高
被告が被告製品6295台を販売したこと,及びその売上高が573
3万3100円であることについては,当事者間に争いがない。
また,証拠(乙17,31)及び弁論の全趣旨によれば,上記629
5台の内訳は,被告製品1につき195台及び被告製品2につき610
0台であり,被告製品1については平成20年10月25日から,被告
製品2については同年12月3日から,それぞれ,被告から顧客に対す
る発送を開始し,上記6295台に関する最終の被告の受注(顧客から
の受注)は平成21年6月22日であることが認められる。
(イ)仕入金額
a証拠(乙5の1~7,乙11の1~4,乙21の1~16,乙27,
35)及び弁論の全趣旨によれば,①被告は,天和社から,別紙計
算書の「第2.原価」記載のとおり,被告製品1を単価4900円で
200個購入し,平成20年10月25日に同製品の送付を受けたこ
と,②被告は,天和社から,別紙計算書の「第2.原価」記載のと
おり,被告製品2を単価4900円で3504個及び単価5200円
で3000個購入し,これらの製品について,平成20年12月3日
に2004個,同月26日に1500個,平成21年3月6日に15
00個及び同年5月12日に1500個の送付を受けたこと,③天
和社は,被告製品1についてはYIWU社から購入し,被告製品2に
ついてはシンセン社から購入したものであり,両製品は,YIWU社
ないしシンセン社から被告へ直送されたこと,④被告による上記①
及び②の被告製品の仕入金額は,別紙計算書の「第2.原価」記載の
とおり,合計3374万9600円であること,⑤天和社は,被告
に対し,上記①及び②の被告製品の代金を請求し(乙11の1~4),
被告は,天和社に対し,天和社の銀行預金口座に送金する方法によっ
て上記代金を支払ったこと(乙21の1~16),が認められる。
bこれに対し,原告らは,被告はYIWU社又はシンセン社から被告
製品を直接購入したものであり,天和社から購入したものではないと
主張し,その根拠として,①被告が被告製品を輸入した際のインボ
イス(本件インボイス)に,天和社の記載は見当たらないこと,②天
和社が被告に送付した被告製品の代金に係る請求書(本件商品代金請
求書)記載の金額と,被告が天和社に送金した金額(本件商品代金送
金記録記載の金額)とが符号していないこと,などを挙げる。
しかしながら,被告製品は,上記認定のとおり,天和社がYIWU
社ないしシンセン社から購入し,YIWU社ないしシンセン社から被
告に対して直送されたものであるから,商品の送り状であるインボイ
スに天和社の名義が記載されていないことは,特段不自然であるとは
いえない。また,上記②の点について,被告は,同社は天和社に対し
て毎月の請求に応じて仕入代金を支払うことを基本としているが,資
金調達の都合等で天和社に送金できない月や,支払が一部払いとなる
月も存在したものであると主張しているところ,前掲aの各証拠に照
らし,被告の上記主張に格別不自然,不合理な点があるとは認められ
ない。
したがって,原告らの上記主張を採用することはできない。
c上記aの仕入金額は,被告製品合計6704台の仕入金額であり,
この中には,被告の主張する前記「不良交換用の被告製品2(被告負
担分409台)」の仕入金額(212万6800円)も含まれている。
この点について,被告は,被告製品はスチームに関する初期不良が
多く,被告はこれらの初期不良分について天和社を通じてシンセン社
に対して正常な商品との交換を求めたが,シンセン社が交換に応じた
のは625台のみであり(前記「不良交換用の被告製品2(シンセン
社負担分625台)」),残る409台については,被告が販売用と
して仕入れた被告製品(前記「不良交換用の被告製品2(被告負担分
409台)」)を交換品として利用するしかなかったものであるとし
て,これら409台の仕入価格(合計212万6800円)について
も,その売上高はゼロであるものの,被告製品の販売による被告の「利
益」(意匠法39条2項)を算定するに当たっては,売上げに貢献し
たものであるとして上記売上高から控除するのが相当である旨主張す
る。また,証拠(乙5の3~7,乙11の2~4,乙27)によれば,
被告製品2について,被告がシンセン社から平成20年12月3日に
送付を受けた80台,同月26日に送付を受けた1620台のうち1
20台,平成21年3月6日に送付を受けた1600台のうち100
台,同年5月12日に送付を受けた1625台のうち125台,及び
同年8月26日に送付を受けた200台(合計625台)については,
本件商品代金請求書に「スチームモップDX003交換用」ないし「ス
チームモップDX003交換品」と記載され,同請求書の「単価」の
欄に「0円」と記載されていることが認められる。
しかしながら,被告製品に初期不良があったことや,初期不良を理
由に被告が顧客から交換を求められたことについては,これを裏付け
るに足りる客観的な証拠はない。また,仮に,上記625台(被告の
主張する「不良交換用の被告製品2(シンセン社負担分625台)」)
について,被告が天和社から交換用として無償で送付を受けた事実が
認められるとしても,そのことをもって,被告が主張する「不良交換
用の被告製品2(被告負担分409台)」について,被告が初期不良
の被告製品との交換に充てた事実まで認めることはできないというべ
きである。
したがって,被告製品の販売による被告の利益(意匠法39条2項)
を算定するに当たって,上記409台の仕入金額を控除することは認
められず,被告製品の売上高から控除すべき仕入金額は,3162万
2800円(33,749,600-2,126,800=31,622,800円)とするのが相当で
ある。
(ウ)輸入費用
証拠(乙6の1~7)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,YIWU
社及びシンセン社から被告製品の直送を受ける際,通関費用等として,
別紙計算書の「第2.原価」記載の「輸入費用」(合計124万310
0円)を支払ったことが認められる。ただし,上記輸入費用には,被告
が主張する「不良交換用の被告製品2(シンセン社負担分625台)」
及び「不良交換用の被告製品2(被告負担分409台)」の輸入費用も
含まれるところ,これらの費用を売上高から控除するべきでないことに
ついては,上記(イ)で述べたところと同じである。
また,被告が被告製品と併せて他の製品(モップパッド,化粧箱)を
輸入したことにより,少なくとも輸入費用が3200円増加したことに
ついては,当事者間に争いがない。
したがって,上記輸入費用のうち,別紙計算書の「第2.原価」の「仕
入日」が「H20.12.20」及び「H21.8.26」の輸入費用(52,770+102,734=
155,504円)については,被告製品の売上高から控除すべき輸入費用に当
たらないことが明らかである。
また,その他の仕入日の輸入費用から上記3200円を控除したもの
(1,243,100-155,504-3,200=1,084,396円)については,被告の主張す
る不良交換用の被告製品とその他の被告製品が同時に輸入されているた
め,上記輸入費用を,不良交換分の被告製品の台数(409+120+100+125
=754台)と原告製品の販売台数(6295台)とで按分した金額(1,084,396
×6,295÷(6,295+754)=968,403円)とするのが相当である。
(エ)業務委託料
a証拠(乙7,乙14の1~9,乙20の1~3,乙22の1~15,
乙30~32,35)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認めら
れる。
(a)被告は,天和社に対し,平成20年4月23日,①インターネ
ットショップホームページのSEO対策等の運営全般及び宣伝等に
係る業務,②顧客管理,入金確認,発送手配業務,③カスタマーサ
ービス業務,④貿易コンサルタント業務を委託し,天和社は,これ
を受託した(本件業務委託契約)。
上記①は,ホームページ上の店舗における被告製品の情報の更新,
レイアウト変更,リニューアル等の管理をすること,ホームページ
に電子メールで寄せられた被告製品に対する質問等に対応すること
等の業務を指す。また,SEO対策とは,検索エンジン最適化対策
のことであり,被告サイトのハイパーリンクがグーグルやヤフー等
の検索サイトにおいてキーワード検索結果ページの上位に掲載され
るよう工夫することをいう。
上記②は,被告製品の注文を受けた顧客の情報をデータベース化
すること(顧客管理),被告から受領する銀行口座の入金一覧表を
元に入金状況を確認すること(入金確認),入金確認できた顧客の
住所等の情報を専用ソフトを利用して入力し,商品発送を担当する
被告宛にデータを送信すること(発送手配)などの業務である。
上記③は,顧客からの電話質問の対応,故障及び性能等のクレー
ムに対する対応,一般的な問合せへの対応等の業務である。
上記④は,被告が希望する商品の製造先を探して製造を依頼し,
日本に輸出する業務をいう。
(b)本件業務委託契約の期間は,平成20年5月1日から同年11月
30日までと定められていたが(本件業務委託契約書・第2条),
同契約は,上記期間の満了後も,更新を繰り返した。
(c)本件業務委託契約の委託料は,売上額の30%と定められている
(本件業務委託契約書・第3条)。
天和社は,被告に対し,上記被告製品の販売に係る業務委託料を
請求し(乙14の1~9),被告は,天和社に対し,天和社の銀行
預金口座に送金する方法によって,被告製品の販売に対する業務委
託料として合計1719万9930円(57,333,100円×0.3)を支払
った(乙22の1~15)。
bこれに対し,原告らは,天和社と被告との間で本件業務委託契約が締
結された事実を否認し,その根拠として,①本件業務委託契約書記載の
契約締結日が天和社の会社設立日より前になっていること,②本件業務
委託契約書の天和社の署名が,外国会社の通常の署名方式に則っていな
いこと,③本件業務委託契約の内容の不自然性,④天和社は本件業務委
託契約に基づく業務を行っていないこと,⑤天和社の請求書(本件業務
委託料請求書)記載の業務委託料の金額が本件業務委託契約書記載の業
務委託料の金額と合致しないことこと,⑥被告から天和社に対する業務
委託料の支払額及び支払日が,本件業務委託契約で定められた業務委託
料の金額及び支払日と一致しないこと,などの事実を挙げる。
しかしながら,本件では,前掲aの各証拠に照らし,被告と天和社と
の間に本件業務委託契約が締結されたことが認められるものであり,こ
の事実は,被告から天和社に対する送金記録(乙22の1~15)や,
被告の決算報告書(乙35)の記載(「外注費」の「未払金」として,
天和社に対する買掛金が記載されている。)からも裏付けられている。
原告らの主張する上記事実は,上記各証拠の存在のほか,①設立中の
会社であっても,契約を締結することは可能であり,その効果は設立後
の会社に承継されること,②外国会社の署名方式について,代表者自
身のサインが義務づけられているものではないこと,③被告は,被告
の売上げには被告が直接小売店等に販売するもの(卸販売分)も含まれ
ているところ,卸販売分については,天和社に対して業務委託料を支払
うことはないと主張しており,同主張に格別不合理な点は認められない
こと,などの事情を考慮すると,いずれも上記認定を左右するものでは
ない。
cしたがって,被告製品の販売による被告の利益を算定するに当たっ
て,被告製品の上記売上高から上記業務委託料を控除するのが相当で
ある。
(オ)クリック課金
証拠(乙8,15,乙23の3,5,6,8,9,11,13,乙2
4の1~7,乙25の1~4,乙26,)及び弁論の全趣旨によれば,
①被告は,平成20年11月12日から平成21年5月末日までの間,
ヤフージャパンで「スチームモップ」と検索した場合に,検索結果が表
示されるページの上部に被告店舗へのリンクが現れる,リスティング広
告を設置したこと,②この広告の料金は,上記リンクのクリック数に
応じて発生し(クリック課金),被告は,上記クリック課金の代金とし
て,合計202万0480円を支払ったこと,が認められる。
他方,被告は,上記期間中に,インターネット上のショッピングサイ
トにおいて原告製品(「シャーク・スチームモップ」)も販売していた
ものであり(争いのない事実),被告による上記期間中の原告製品の販
売台数は,少なくとも50台程度であったことが認められる(弁論の全
趣旨)。
したがって,上記クリック課金の費用には,原告製品の販売用の費用
も含まれているというべきであるから,被告製品の売上高から控除すべ
きクリック課金は,上記金員を被告製品の販売台数(6295台)と原
告製品の販売台数(50台)とで按分した金額(2,020,480×6,295÷(6,295
+50)=2,004,558円)とするのが相当である。
(カ)新聞広告料
証拠(乙9の1~5,乙16の1~5,乙17)及び弁論の全趣旨に
よれば,①被告は,平成20年11月から平成21年3月までの間に,
神戸新聞,ウーマンライフ,日経インテレッセ,チャオ産経,読売ファ
ミリー及び朝日新聞等の新聞ないし雑誌に,被告製品の広告を掲載した
こと,②被告は,インターネットを通じた販売以外に,新聞等の情報
誌に広告を掲載し,電話で受注するという方法での通信販売も行ってい
たものであり,平成20年11月から平成21年3月までの間に,上記
①の広告が掲載された新聞等が配布された地域に在住する複数の者か
ら,上記広告等に基づく被告製品の注文を受けていること,③上記①
の広告費の合計額は,少なくとも,被告の主張する金額(95万800
0円)を下らないことが認められ,同認定を左右するに足りる証拠はな
い。
したがって,上記広告費は,被告製品の売上げのために必要な費用と
して,上記売上高から控除するのが相当である。
(キ)倉庫料
証拠(乙10の1~7,乙17)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,
輸入した被告製品の一部について,これを顧客に発送するまでの間,被
告が賃借する倉庫に一時保管していたものであり,そのための費用(入
庫料,保管料,出庫料,コンテナ搬出料,出番料)として合計30万6
318円(消費税込み)を支払ったことが認められ,同認定を左右する
に足りる証拠はない。
これに対し,原告は,上記倉庫料には,被告の主張する不良交換分の
被告製品に係る料金も含まれており,これら不良交換分の被告製品に係
る費用を売上高から控除すべきではないと主張する。
しかしながら,被告が輸入した被告製品は,そのすべてが一時的に倉
庫に保管されていたものではなく,倉庫に保管される被告製品は輸入さ
れた被告製品の一部であったことについては,上記認定のとおりである。
したがって,倉庫に保管されていた被告製品の中に被告の主張する不良
交換分の被告製品が含まれていたか否かについては,本件証拠上明らか
でないといわざるを得ない。
よって,上記倉庫料は,被告製品の売上げのために必要な費用として,
上記売上高から控除するのが相当である。
(ク)不良返金
被告は,被告製品には初期不良が多かったため,被告製品を被告に返
品した上で代金の返還を求める顧客に対しては返金に応じていたもので
あり,別紙返金一覧表記載のとおり,その台数は合計64台であって,
被告が上記返金に要した費用は少なくとも58万4000円であると主
張する。
そこで検討するに,証拠(乙36,乙37の1~9,乙38,乙39
の1~7)及び弁論の全趣旨によれば,別紙返金一覧表記載の番号1な
いし3,同6ないし21,同23ないし26,同28ないし42,同4
5,同50,同53及び同57ないし63の返金(合計48口)につい
ては,これを裏付けるに足りる客観的な証拠(金融機関の取引履歴等)
が存在するので,被告の主張する返金の事実を認めることができる。一
方,同表記載のその余の番号の返金(合計16口。合計14万5100
円)については,これを裏付けるに足りる客観的な証拠はなく,被告の
主張を採用することはできない。
したがって,被告が上記返金に要した費用として,売上高から43万
8900円を差し引くのが相当である。
(ケ)ロイヤリティ等
証拠(乙12の1~9,乙13,乙23の1,2,4,6,7,9,
10,12,14,乙28の1~9)及び弁論の全趣旨によれば,①被
告製品の売上高のうち,ヤフー店における売上げは,合計1348万3
800円であること,②販売者は,ヤフー店で商品を販売した場合,
ヤフー店に対し,少なくとも売上高の2.1%相当額のロイヤリティを
支払う必要があるため,上記売上高に対するロイヤリティの額は,少な
くとも28万3160円であること,③販売者は,ヤフー店における
商品の販売の際にカード決済をした場合,ヤフー店に対し,カード決済
金額(送料を含む総額)に対して3.6%の手数料を支払う必要がある
ところ,上記売上高のうちカード決済した金額は800万9260円で
あるから,カード手数料は28万8333円であること,が認められる。
したがって,ヤフー店における被告製品の販売により発生するロイヤ
リティ及びカード手数料(ロイヤリティ等)は,合計57万1493円
であると認められる。
(コ)小括
意匠権を侵害した者が「その侵害の行為により」受けた「利益」(意
匠法39条2項)とは,いわゆる限界利益であると解される。
被告は,被告製品の販売により,別紙損害額算定表のとおり,上記(ア)
の売上高から上記(イ)ないし(ケ)の「仕入金額」等を差し引いた,合計
326万2698円の利益を受けたと認められる。
ウ弁護士費用
原告オークローン社は,弁護士を選任して本件訴訟を追行しているもの
であり,本件事案の内容,認容額及び本件訴訟の経過等を総合すると,上
記独占的通常実施権の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は,
32万円と認められる。
エしたがって,被告は,原告オークローン社に対し,上記イ及びウの合計
額である358万2698円及びこれに対する不法行為の後である平成2
1年6月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害
金を支払う義務がある。
(3)原告らの損害賠償請求権相互の関係
ア原告らは,それぞれの権利に基づいて被告に対して損害賠償を請求して
いるが,その内容は,いずれも,被告による意匠権侵害行為によって受け
た損害についてのものである。
そして,被告が,上記損害に相当する額について二重に支払を行う理由
はないから,原告らの損害賠償請求権は,重複する限度において,不真正
連帯債権となる。
イ原告ユーロプロ社の請求は,上記3(1)のとおり,314万6655円及
びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。そして,原
告ユーロプロ社の損害賠償請求権は,上記のとおり,原告オークローン社
の損害賠償請求権のうち314万6655円及びこれに対する遅延損害金
と不真正連帯債権の関係に立つ。
ウ原告オークローン社の請求は,上記3(2)のとおり,358万2698円
及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。もっとも,
原告オークローン社の損害賠償請求権のうち,314万6655円及びこ
れに対する遅延損害金については,原告ユーロプロ社の損害賠償請求権と
不真正連帯債権の関係に立つ。
3よって,原告らの請求は主文第1項ないし第4項の限度で理由があるからこ
れを認容し,その余の請求はいずれもないからこれを棄却し,仮執行宣言につ
いては,主文第1項及び第2項については相当でないからこれを付さないこと
として,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官阿部正幸
裁判官山門優
裁判官志賀勝

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