弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○主文
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○事実
第一当事者の求める裁判
一原告
「1被告らが別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という)を岡部土地改良区。

返還しない不作為は違法であることを確認する。
2訴訟費用は被告らの負担とする」との判決。
二被告町長
「1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする」との判決。
三被告助役
(本案前)
主文同旨の判決
(本案)
「1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする」との判決。
第二当事者の主張
原告・請求原因
一原告は、地方公共団体である岡部町(以下「町」という)の住民である。。
二被告町長は、町の長として町の事務を管理執行し、財産を取得、管理、処分する事務
を担当する職務権限を有する役職であつて、昭和五〇年以来、Aがその地位にある。
三1被告助役は、町の助役として町長を補佐し、職員の担当する事務を監督し、町長の
職務を代理する職務権限を有する役職であつて、昭和五五年以来、Bがその地位にある。
2助役の長に対する補佐の内容は、積極的に助言、指示等を与えて長の意思決定に影響
力を行使し、もつて長の行政執行の円滑と公正を図らしめるものであつて、固有の権限を
有しており、地方公共団体の長の補助機関として地方自治法二四二条の二第一項三号の執
行機関を担当するものであり、被告助役B社後記四のとおり、本件違法行為に加担した。
したがつて、被告助役は被告適格を有する。
四本件土地に関する換地処分の経緯と被告らの行為
1埼玉県営荒川中部ほ場整備事業の一環として、町内においては、昭和四〇年から岡部
土地改良区(以下「改良区」という)が、数年度にわたる土地改良事業を実施し、本件。

地は、その昭和四四年度工区内の操作地として生じたものである。
2昭和四三年末、地権者会議において、石工区内の操作地を地権者の共有とする合意が
成立し、同工区内の土地改良工事は約一年間で完了し、昭和四五年には各地権者に一時利
用地が割当てられたが、本件土地は誰に対しても割当てられなかつた。
3被告助役Bは、改良区の工区長を兼ねていたが、本件土地につき、昭和五四年六月二
六日、右工区内にあるC名義の岡部町<地名略>、畑、
一五八平方メートルの登記簿上の土地(以下「C名義の土地」という)にこれを事実上。

入れ、Cの印鑑証明書、実印等を冒用して、右事情を熟知する被告町長Aと意を通じ、寄
付を原因として町に対し所有権移転登記を得、同年九月一八日、地目を宅地、地積を一六
〇・五九平方メートルとする変更登記を経た。
4同年一二月二八日、被告らは、入札執行者名義を工区長B(被告助役)として本件土
地をDに落札させ七〇六万円を受領したが、右Dに対して移転登記をしないでいた。
5被告らは、昭和五六年八月二九日、本件土地の換地処分の登記に際し、C名義の土地
に組入れる登記手続をした。
6しかし、C名義の土地の現況は道路であつて宅地変更はできず、町に対して、町道と
して換地処分されるべきものであり、一方、本件土地は、換地処分の過程で生じた操作地
であるから、C名義の土地との組み合わせは誤つているところ、昭和五七年八月このこと
が判明した。
7改良区事務局は、本件土地につき、昭和五八年八月、右換地処分の訂正手続に着手し
たところ、被告らは、訂正の必要はない旨指示をしてこれを中止させ、昭和五九年一月、
右Dから改良区に所有権移転登記を求められるや、同年三月一三日、被告らは、A(被告
町長)の知人Eとの間で、町所有名義の本件土地と右E所有の二筆の土地との交換契約を
、、、結びその旨所有権移転登記をしさらに町の交換取得した三筆の土地を同年五月二八日
埼玉県に対し売却した。
8以上のように、被告らは町が取得した本件土地を改良区に返還すべきであるのに、こ
とさらこれを怠る違法がある。
、、、五原告は昭和五九年一〇月六日被告らの財産の管理を怠る事実について監査請求し
同年一一月二七日、監査委員は、町及び改良区に対し、換地処分の誤謬を確認し、町は土
地改良区に対し本件土地を返還するよう昭和六〇年三月三一日を実施期限とする勧告をし
た。
六被告らは、勧告を尊重する旨の措置結果通知をしたが、現実には本件土地の返還に関
するいかなる措置も講じていない。
よつて、原告は、被告らに対し、地方自治法二四二条の二第一項三号に基づき、財産の管
(一本件土地を改良区に返還すること)を怠る事実の違法確認を求める。
被告ら・認否
一請求原因一及び二の事実は認める。
二同三の1の事実は認める。
三同三の2の主張は争う。
1原告は、監査委員の勧告に対し、必要な措置を講じないとして本訴を提起したもので
あるところ、町の監査委員は、被告町長に対し、本件土地を改良区に返還するのに必要な
措置を講ずるよう勧告したのであるから、被告助役は、被告適格を欠く。
2被告助役は、財産を管理する権限を有せず、地方自治法二四二条の二第一項三号に定
める執行機関又は職員に該当しないから、被告適格を欠く。
四同四の1、2及び6の事実は知らず、同四の3、4及び5は否認する。
同四の7の事実のうち、原告主張の日、町とEが原告主張のような交換契約をし、その旨
の登記を経たこと、原告主張の日、町が右交換により取得した二筆の土地を埼玉県に対し
て売却したことは認め、その余の事実は否認する。
同8の主張は争う。
五同五の事実のうち、返還に必要な措置を講ずるよう勧告があつたことは認める(その
余の事実については認否がない。)
六同六の事実は否認する。
第三証拠(省略)
○理由
一被告助役の被告適格について
1本件訴えは、地方自治法二四二条の二第一項三号の定める地方公共団体の財産管理を
怠る事実の違法確認を求める訴えであるところ、地方公共団体の財産管理の権限を有する
者は、地方公共団体の長であり(同法一四九条一項六号、助役は長を補佐し、職員の担)

事務を監督し同法一五二条に定める場合等に長の代理をする権限を有するのみである同、(
法一六七条。そして、同法二四二条の二は、同法二四二条の定めるいわゆる財務会計行)

を対象とする特別の訴えを創設したちのであり、助役が長を補佐したこと、または、補佐
を怠つていたこと自体は財務会計行為にあたらないから、同条による訴訟において問題と
することはできないものである。従つて、助役の長を補佐する権限を捉えて財産の管理権
限及び義務を導くことはできない。
よつて、助役は自ら地方公共団体の財産管理を行う権限を有せず、財産管理の懈怠を防止
する権限を有しない者である。
2また、仮に原告主張のとおり、これまで被告助役が被告町長と共謀して本件土地の取
得・管理・処分を行つていたとしても、そのことから、被告助役に財産の管理を行う権限
及び義務があるということはできない。
3なお、本件訴えは、財産の管理を怠る事実の違法確認であつて、監査委員の勧告に従
わないことの確認ではなく、また、地方自治法二四二条の二は、
法的強制力のない勧告に従わないことについての確認を求める訴えを創設したものではな
いから、監査委員の勧告の名宛人が被告町長であることをもつて、助役の被告適格の存否
を判断することはできない。
右1、2の理由により、被告助役は財産の管理を怠る事実の違法確認の訴えの被告たりえ
ず、すでにこの点において、被告助役に対する本件訴えは許されないものといわなければ
ならない。
二訴訟要件たる「財産」について
1本件訴えは、同法二四二条の二が定める、同法二四二条一項の「財産の管理を怠る事
実」の違法確認を求めるものであるところ、同項の財産とは、公有財産、物品等をいい、
現に地方公共団体の所有に属する財産に限られる(同法二三七条、二三八条。)
2原告は、本件土地が事実上組入れられた(この主張の意味はしばらくおく)C名義。

土地につき寄付を原因とにてCから町に所有権移転登記がなされ、さらに昭和五九年三月
一三日町とEとの間に交換契約が締結され、本件土地につきその旨の右Eに対する所有権
移転登記がなされた旨主張し、右事実のうち右交換契約とその旨の登記の点は当事者間に
争いがなく、成立に争いのない甲第一号証によれば、原告主張のとおりC名義の土地は原
告主張のとおり寄付を原因として町に対し所有権移転登記がなされ、また昭和五六年八月
二九日換地処分により本件土地となつてその旨登記されたことが明らかである。
そして、原告の主張するところが、町が本件土地の所有権を取得したというのか、取得の
事実がないのに寄付を原因とする右登記がなされたというのか明らかでなく、町とEとの
間の右交換契約については原告がその無効を主張していると解してもその旨の証拠がな
い。
従つて、仮に町が本件土地の所有権を取得していたとしても、また、逆に町が本件土地の
所有権を取得していなかつたとしても、本件土地は、現在町の所有に属している財産とは
いえない。
よつて、町は、現在本件土地を自己の財産として管理処分する権能を有せず(登記名義人
でないから、登記義務者ともなりえない、この点において、原告の被告らに対する訴。)

は、訴訟要件を欠く、不適法なものといわなければならない。
三訴訟要件たる「損害の発生」について
右一、二において判断したこととは別に「損害の発生」の点について検討する。、
1地方自治法二四二条の二の定める訴訟は、
住民が地方公共団体の執行機関等による違法な財務会計行為を正すことにより、地方公共
団体、ひいては住民全体の利益を確保することを目的とするものであるから、本件訴えの
訴訟要件として、問題とされる財務会計行為が地方公共団体に対して損害を与えるもので
あることが必要である。
しかし、町が本件土地を改良区に返還しないこと自体により、町は財産的損害を被るもの
ではない。
よつて、この点においても、原告の被告らに対する訴えは、訴訟要件を欠く、不適法なも
のといわなければならない。
四監査請求前置について
右一ないし三において判断したこととは別に監査請求前置について検討する。
地方自治法二四二条の二は、監査を請求した者に訴えの提起を認めるものであるところ、
成立に争いのない甲第四号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、監査委員に対し、昭和
五九年一〇月三日付の書面により「一、岡部町公有財産を交換処分し、差額を徴収しな、

理由二、町長助役は公有財産先払代金を岡部土地改良区昭和四四年度工区に対し、補助
金として地権者に支払う約束をしている理由」について監査請求をしているのみであり、
右監査請求の監査理由においても、本件土地が町に寄付され、町からEに売り渡されたこ
とがふれられているのみであるから、原告の右監査請求に、改良区へ本件土地を返還しな
いことについての監査請求が含まれていたとは解せられない。
よつて、本件訴えにおいて原告の主張する財産の管理を怠る事実について、原告は監査請
求をしていないといわなければならない。
五以上により、原告の訴えは、被告助役については、被告適格がないこと、被告らにつ
いては、本件土地が地方自治法二四二条一項の「財産」に該当しないこと、改良区へ本件
土地を返還しないことにより町は損害を受けないこと及び改良区へ本件土地を返還しない
ことについては監査請求を経ていないことから、その余の争点について判断するまでもな
く、訴訟要件を欠く、不適法なものといわざるを得ない。
よつて、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主
文のとおり判決する。
(裁判官高山晨松井賢徳原道子)
物件目録(省略)

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