弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
     抗告費用は抗告人の負担とする。
         理    由
 抗告代理人加藤豊三、同鈴木秀男の抗告理由三及び四について
 所論は要するに、抗告人を解散する旨の第一審決定(以下「本件解散命令」とい
う。)及びこれに対する即時抗告を棄却した原決定は、抗告人の信者の信仰生活の
基盤を喪失させるものであり、実質的に信者の信教の自由を侵害するから、憲法二
〇条に違反するというのである。以下、所論にかんがみ検討を加える。
 本件解散命令は、宗教法人法(以下「法」という。)の定めるところにより法人
格を付与された宗教団体である抗告人について、法八一条一項一号及び二号前段に
規定する事由があるとしてされたものである。
 法は、宗教団体が礼拝の施設その他の財産を所有してこれを維持運用するなどの
ために、宗教団体に法律上の能力を与えることを目的とし(法一条一項)、宗教団
体に法人格を付与し得ることとしている(法四条)。すなわち、法による宗教団体
の規制は、専ら宗教団体の世俗的側面だけを対象とし、その精神的・宗教的側面を
対象外としているのであって、信者が宗教上の行為を行うことなどの信教の自由に
介入しようとするものではない(法一条二項参照)。法八一条に規定する宗教法人
の解散命令の制度も、法令に違反して著しく公共の福祉を害すると明らかに認めら
れる行為(同条一項一号)や宗教団体の目的を著しく逸脱した行為(同項二号前段)
があった場合、あるいは、宗教法人ないし宗教団体としての実体を欠くに至ったよ
うな場合(同項二号後段、三号から五号まで)には、宗教団体に法律上の能力を与
えたままにしておくことが不適切あるいは不必要となるところから、司法手続によ
って宗教法人を強制的に解散し、その法人格を失わしめることが可能となるように
したものであり、会社の解散命令(商法五八条)と同趣旨のものであると解される。
 したがって、解散命令によって宗教法人が解散しても、信者は、法人格を有しな
い宗教団体を存続させ、あるいは、これを新たに結成することが妨げられるわけで
はなく、また、宗教上の行為を行い、その用に供する施設や物品を新たに調えるこ
とが妨げられるわけでもない。すなわち、解散命令は、信者の宗教上の行為を禁止
したり制限したりする法的効果を一切伴わないのである。もっとも、宗教法人の解
散命令が確定したときはその清算手続が行われ(法四九条二項、五一条)、その結
果、宗教法人に帰属する財産で礼拝施設その他の宗教上の行為の用に供していたも
のも処分されることになるから(法五〇条参照)、これらの財産を用いて信者らが
行っていた宗教上の行為を継続するのに何らかの支障を生ずることがあり得る。こ
のように、宗教法人に関する法的規制が、信者の宗教上の行為を法的に制約する効
果を伴わないとしても、これに何らかの支障を生じさせることがあるとするならば、
憲法の保障する精神的自由の一つとしての信教の自由の重要性に思いを致し、憲法
がそのような規制を許容するものであるかどうかを慎重に吟味しなければならない。
 このような観点から本件解散命令について見ると、法八一条に規定する宗教法人
の解散命令の制度は、前記のように、専ら宗教法人の世俗的側面を対象とし、かつ、
専ら世俗的目的によるものであって、宗教団体や信者の精神的・宗教的側面に容か
いする意図によるものではなく、その制度の目的も合理的であるということができ
る。そして、原審が確定したところによれば、抗告人の代表役員であったD及びそ
の指示を受けた抗告人の多数の幹部は、大量殺人を目的として毒ガスであるサリン
を大量に生成することを計画した上、多数の信者を動員し、抗告人の物的施設を利
用し、抗告人の資金を投入して、計画的、組織的にサリンを生成したというのであ
るから、抗告人が、法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認めら
れ、宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたことが明らかである。抗告人の右
のような行為に対処するには、抗告人を解散し、その法人格を失わせることが必要
かつ適切であり、他方、解散命令によって宗教団体であるオウム真理教やその信者
らが行う宗教上の行為に何らかの支障を生ずることが避けられないとしても、その
支障は、解散命令に伴う間接的で事実上のものであるにとどまる。したがって、本
件解散命令は、宗教団体であるオウム真理教やその信者らの精神的・宗教的側面に
及ぼす影響を考慮しても、抗告人の行為に対処するのに必要でやむを得ない法的規
制であるということができる。また、本件解散命令は、法八一条の規定に基づき、
裁判所の司法審査によって発せられたものであるから、その手続の適正も担保され
ている。
 宗教上の行為の自由は、もとより最大限に尊重すべきものであるが、絶対無制限
のものではなく、以上の諸点にかんがみれば、本件解散命令及びこれに対する即時
抗告を棄却した原決定は、憲法二〇条一項に違背するものではないというべきであ
り、このように解すべきことは、当裁判所の判例(最高裁昭和三六年(あ)第四八
五号同三八年五月一五日大法廷判決・刑集一七巻四号三〇二頁)の趣旨に徴して明
らかである。論旨は採用することができない。
 その余の抗告理由について
 論旨は、違憲をいう点を含め、原決定の単なる法令違背を主張するか、又は原審
の裁量に属する審理上の措置の不当をいうものにすぎず、民訴法四一九条ノ二所定
の抗告理由に当たらない。
 よって、本件抗告を棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとし、裁判官全
員一致の意見で、主文のとおり決定する。
  平成八年一月三〇日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    高   橋   久   子
            裁判官    遠   藤   光   男
            裁判官    藤   井   正   雄

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