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平成12年(わ)第1023号 殺人,死体遺棄被告事件
主文
被告人を懲役15年に処する。
未決勾留日数中450日をその刑に算入する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は,A(昭和39年12月26日生,本件犯行当時30歳)に資金を提供
するなどして,千葉県松戸市内においていわゆる土地の地上げ工作を行っていた
が,同人の仲介の失敗により,予定していた報酬を得られなくなったほか,同人に
仲介を任せていた広報媒体放映権の取引に関しても,同人が秘密裏に多額の裏手数
料を得ていたことが発覚したため,同人に対する不審の念を募らせた末,
第1 上記Aを殺害しようと企て,事実上後見人役を果たしていた暴力団組長のB
及びその配下のCと共謀の上,平成7年4月3
0日午前5時20分ころ,東京都港区内のaマンションb号室において,睡眠薬の
服用により昏睡状態にあった上記Aの顔面鼻口部に布製粘着テープを貼り付けた
上,その頸部に紐を巻き付けてその両端を引っ張るなどし,よって,そのころ,同
所において,同人を鼻口部閉塞及び前頸部圧迫により窒息死させて殺害し,
第2 上記B及びCと共謀の上,同日午前5時25分ころ,同所において,上記A
の死体をロッカータンス内に押し込めて,扉を閉め,上記ロッカータンスに布製粘
着テープを貼り,ロープ等で縛るなどした上,同年5月1日午後8時ころ,これを
同所から搬出して上記aマンション裏側出入口付近に駐車中の普通貨物自動車の荷
台に積載し,翌2日未明,上記Aの死体を入れたロッカータンスを東京都西多摩郡
c村d番e先の山林内まで搬送して,これを同所付近に投棄し,もって,死体を遺
棄したものである。
(量刑の事情)
 本件は,被告人が,暴力団組長らとともに,被害者を殺害した上,その死体を山
林内に遺棄したという,殺人,死体遺棄の事案である。
 そこで,本件犯行の経緯等を検討すると,被告人は,かつては暴力団組織に加入
していたことがあるが,その後は暴力団関係者から資金提供を受けて,不動産ブロ
ーカーとして活動し,同じく不動産ブローカーの被害者に命じて行わせた,千葉県
松戸市内の土地の地上げに関して,約束通りの利益金の分配がなく,また,被害者
に担当させていた広報媒体放映権の売買仲介についても,被害者が秘密裏に多額の
裏手数料を得ていたことが発覚し,自身は折から資金提供者から,厳しい取立に遭
っていたこともあり,被害者に対して強い憤りを抱き,平成7年4月26日,被害
者を東京都中央区内の息子が使用していた事務所に連行して,裏手数料等に関して
執拗に追及する一方で,事実上その後見人役を務めていたこともあり,自己の影響
力を行使できる上記暴力団組長のB及びその配下のCを呼び寄せ,被害者に制裁を
加えて多額の現金を用意させようとしたが,その見込みに乏しかったため,被害者
を殺害して,その死体を産業廃棄物処理場で焼却処分するなどと仄めかして,Bら
に協力を取り付けた後,翌27日,被害者を被告人運転の自動車に乗車させ,東京
都八王子市方面や千葉県方面を走行しながら,Bから受け取ったけん銃を発砲して
射殺しようとした。ところが,けん銃の不具合のため発砲できずに失敗したことか
ら,同日午後,被害者を東京都中央区f所在のマンションの一室に連行してB及び
Cに見張りを命じ,同月28日には,被害者を上記aマンションb号室に移動さ
せ,その手足に手錠をかけるなどして被害者の監禁を継続する一方,被害者に金策
を命じたものの,一向にらちがあかず,同月29日夜に至り,被害者の殺害を決意
し,Bに対して被害者に睡眠薬を服用させるように電話で指示し,これを受けたB
が,同月30日午前1時過ぎころ,被害者に睡眠導入剤「ハルシオン」を飲ませて
昏睡状態に陥らせ,同日午前5時20分ころ,上記aマンションb号室に赴いた被
告人は,布製粘着テープを貼り合わせてお面様にしたものを被害者の顔面に貼り付
けて鼻口部を押さえつけ,事前に被害者の両手足を布製粘着テープや紐で縛るなど
していたB及びCが被害者の手足を押さえてその抵抗力を奪い,更に,被告人及び
Bが被害者の頸部に紐を巻き付けてその両端を強く引っ張るなどして,被害者を窒
息死させて殺害し,直ちに,被告人ら3名は,被害者の死体を同室内にあったロッ
カータンス内に押し込め,布製粘着テープや紐等で梱包した上,同年5月1日,上
記aマンションb号室から搬出し,その後,被告人及びBは,同月2日未明,被害
者の死体をロッカータンスごと焼却すべく,東京都八王子市内の産業廃棄物処理場
に赴いたが,出入口に施錠されていたため,同日早朝,東京都西多摩郡c村内の山
林にこれを投棄したなどの諸事実を認定することができる。
 上記認定諸事実のうち,被告人が被害者の殺害を決意したのは,犯行直前にBか
ら催促されたときであり,その以前に被害者をけん銃で射殺しようとしたことも,
Bに対して被害者への睡眠導入剤の服用を指示したこともない旨弁護人は主張する
とともに,被告人も公判廷では同旨の弁解をするが,B,Cら関係者の供述等と対
比すると,真実味に欠けること甚だしく,到底信用することができない。
 そうすると,本件犯行は,自己の信頼を裏切った被害者に対する報復として敢行
されたものであり,暴力団組織に所属する者特有の思考に基づく犯行というべきで
あって,人命を軽視すること甚だしく,余りにも短絡的で身勝手極まりない犯行で
あり,犯行の動機に酌むべき余地に乏しい。
 また,その犯行態様は,暴力団組長のB及びその配下のCを呼び寄せ,しかも,
Bに対しては,けん銃を持参するように指示している上,呼び寄せた際,被害者を
殺害して,死体を産業廃棄物処理場で焼却処分する旨被害者の殺害計画を打ち明け
ており,自動車に乗車した被害者を連れ回して,けん銃で射殺しようとしただけで
はなく,被害者から金員の回収ができないと覚知すると,睡眠導入剤を準備させて
おり,周到な計画的犯行ということができ,さらに,睡眠導入剤を服用,昏睡さ
せ,手足を布製粘着テープで緊縛して,無防備,無抵抗の状態に陥った被害者に対
し,布製粘着テープで作成したお面様のものを顔面鼻口部に貼り付けた上,頸部に
巻き付けた紐を左右に引っ張って頸部を絞めつけるなどして,ついに窒息死させた
というのであって,まことに執拗かつ残忍な犯行であり,人間の尊厳を無視した非
道で冷酷極まりない犯行というべきである。
 その結果,被害者は,その将来を一方的に奪われて,僅か30歳で非業の死を遂
げざるを得なかったのであり,さらに,その遺体は人里離れた山林内に投棄され
て,放置された挙げ句,ロッカータンス内からは無惨に変わり果てた姿で発見され
ており,その無念さは筆舌に尽くし難く,その結果も甚だ重大極まりないというほ
かはない。
 そして,突然被害者を失った被害者の両親ら遺族は,理不尽な凶行に及んだ被告
人らに対する怒りを強めているのに,被告人らからは遺族に対する慰謝の措置はさ
して講じられてはおらず,遺族が被告人の厳重処罰を求めるのは十分に理解するこ
とができる。
 しかも,被告人は,本件各犯行の首謀者の地位にあったのであり,犯行計画の立
案,指示等のすべての面で積極的かつ主導的役割を果たしており,共犯者のBやC
を本件犯行に引き入れてもおり,本件で最も重い責任があることは,動かし難い事
実と思われる。すなわち,被告人は,昭和46年から昭和57年までの間,賭博開
帳等図利,恐喝,窃盗,覚せい剤取締法違反等により4回懲役刑に処せられた前科
等を有しており,長年にわたって暴力団組員として活動していた経歴を有するほ
か,破門された後も,暴力団関係者と親密な交際を重ねていたもので,その遵法精
神の欠如は顕著というべきであり,さらに,本件犯行後,他人名義の旅券を入手し
て,フィリピン共和国へ逃亡しており,共犯者らが身柄拘束を受けた後も,5年間
にわたって,逮捕を免れ続けていたのであり,逮捕後も虚偽の供述や曖昧な供述を
繰り返しているのである。
 そうすると,被害者にも被告人に対する背信行為があったことは事実と思われ,
被害者にも責められるべき点があることは否定できないこと,被告人も本件犯行自
体は認めており,それなりの反省の態度がうかがわれること,弁護人を通じて,被
害者の遺族に謝罪していたことなど,被告人に有利な諸事情を考慮してみても,被
告人を懲役15年に処するのが相当である。
平成14年1月25日
 東京地方裁判所八王子支部刑事第2部
裁判長裁判官 大  渕  敏  和
   裁判官 片  山  隆  夫
   裁判官  山  田  裕  文

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