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       主   文
一 被告が、中労委昭和六三年(不再)第六八号事件及び同年(不再)第六九号事
件(初審神奈川地労委昭和六二年(不)第二二号事件)について平成七年一〇月四
日付けで発した命令、中労委平成元年(不再)第九一号事件(初審東京地労委昭和
六二年(不)第一二号事件)について平成八年一月一○日付けで発した命令、中労
委平成二年(不再)第二九号事件(初審宮城地労委昭和六二年(不)第四号事件)
について平成八年三月六日付けで発した命令、中労委平成元年(不再)第一一二号
事件(初審福島地労委昭和六二年(不)第七号事件)について平成八年五月八日付
けで発した命令及び中労委平成二年(不再)第二号事件(初審静岡地労委昭和六二
年(不)第一号事件)について平成八年五月八日付けで発した命令について、いず
れもそのうち主文第Ⅰ項の1号から4号まで及び第Ⅱ項を取り消す。
二 訴訟費用は被告の負担とし、補助参加によって生じた訴訟費用は補助参加人ら
の負担とする。
       事実及び理由
 甲事件、乙事件、丙事件及び丁事件原告東日本旅客鉄道株式会社を以下「原告東
日本」といい、甲事件原告日本貨物鉄道株式会社を以下「原告日本貨物」といい、
戊事件原告東海旅客鉄道株式会社を以下「原告東海」といい、各事件被告(中央労
働委員会)を以下「被告」といい、補助参加人国鉄労働組合を以下「補助参加人国
労」又は単に「国労」という。
 別紙命令目録一から五まで記載の各命令を以下総称して「本件各命令」といい、
これを個別にいうときは「本件命令一」のようにいう。
第一 請求
主文第一項と同旨。
第二 事案の概要
 日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)の改革として、国鉄から旅客鉄道事業、
貨物鉄道事業を承継する株式会社として原告らが設立されるに当たり、設立委員に
よって原告ら承継法人(改革法の用語によった。)への職員の採用が行われたが、
国鉄の職員で承継法人の職員となる意思を表示した者のうち、後記の補助参加人国
労の組合員らが採用されなかったため、補助参加人らが地方労働委員会に対し救済
申立てをし、地方労働委員会は救済命令を発した。そこで、原告らが被告に対し、
再審査申立てをしたが、被告は、地方労働委員会の命令を一部変更したほか再審査
申立てを棄却する命令を発した。
 本件は、原告らが、被告の右命令のうち再審査申立てを棄却した部分の取消しを
求める行政事件訴訟であり、被告が、国鉄による採用候補者の選定及びその名簿の
作成の過程において、労働組合の所属等による差別的取扱いと目される行為があ
り、設立委員がその採用候補者名簿に基づき採用予定者を決定して採用を通知した
結果、それが不当労働行為に該当すると判断される場合、その責任は設立委員、ひ
いては原告らに帰属すると解したことの当否等をめぐる事案である。
一 法令等の内容(原則として法文どおりの表記をした。)
1 日本国有鉄道改革法(昭和六十一年十二月四日法律第八十七号。以下、法令の
条文中に引用される場合を除き、「改革法」という。)
第一章 総則
(趣旨)
第一条
 この法律は、日本国有鉄道よる鉄道事業その他の事業の経営が破綻し、現行の公
共企業体による全国一元的経営体制の下においてはその事業の適切かつ健全な運営
を確保することが困難となつている事態に対処して、これらの事業に関し、輸送需
要の動向に的確に対応し得る新たな経営体制を実現し、その下において我が国の基
幹的輸送機関として果たすべき機能を効率的に発揮させることが、国民生活及び国
民経済の安定及び向上を図る上で緊要な課題であることにかんがみ、これに即応し
た効率的な経営体制を確立するための日本国有鉄道の経営形態の抜本的な改革(以
下「日本国有鉄道の改革」という。)に関する基本的な事項について定めるものと
する。
(改革の実施時期)
第五条
 日本国有鉄道の改革は、昭和六十二年四月一日に実施するものとする。
第二章 日本国有鉄道の改革に関する基本方針
(旅客鉄道事業の分割及び民営化)
第六条第一項
 国は、日本国有鉄道が経営している旅客鉄道事業について、主要都市を連絡する
中距離の幹線輸送並びに大都市圏及び地方主要都市圏における輸送その他の地域輸
送の分野において果たすべき役割にかんがみ、その役割を担うにふさわしい適正な
経営規模の下において旅客輸送需要の動向に的確に対応した効率的な輸送が提供さ
れるようその事業の経営を分割するとともに、その事業が明確な経営責任の下にお
いて自主的に運営されるようその経営組織を株式会社とするものとする。
第六条第二項
 国は、旅客鉄道株式会社(前項の規定により旅客鉄道事業を経営する株式会社を
いう。)として、次の各号に掲げる株式会社(以下「旅客会社」という。)を設立
し、それぞれ、主として当該各号に定める地方において日本国有鉄道が経営してい
る旅客鉄道事業を当該旅客会社に引き継がせるものとする。
一 北海道旅客鉄道株式会社 北海道
二 東日本旅客鉄道株式会社 東北及び関東
三 東海旅客鉄道株式会社 東海
四 西日本旅客鉄道株式会社 北陸、近畿及び中国
五 四国旅客鉄道株式会社 四国
六 九州旅客鉄道株式会社 九州
(貨物鉄道事業の分離及び民営化)
第八条第一項
 国は、日本国有鉄道が経営している貨物鉄道事業について、主として長距離の輸
送及び大量の輸送の分野において果たすべき役割にかんがみ、一体的かつ適正な経
営管理体制の下において貨物輸送需要の動向に的確に対応した効率的な輸送が提供
されるようその経営を旅客鉄道事業の経営と分離するとともに、その事業が明確な
経営責任の下において自主的に運営されるようその経営組織を株式会社とするもの
とする。
第八条第二項
 国は、前項の規定により貨物鉄道事業を経営する株式会社として、日本貨物鉄道
株式会社(以下「貨物会社」という。)を設立し、日本国有鉄道が経営している貨
物鉄道事業を貨物会社に引き継がせるものとする。
(日本国有鉄道清算事業団への移行)
第十五条
 国は、日本国有鉄道が承継法人に事業等を引き継いだときは、日本国有鉄道を日
本国有鉄道清算事業団(以下「事業団」という。)に移行させ、承継法人に承継さ
れない資産、債務等を処理するための業務等を行わせるほか、臨時に、その職員の
再就職の促進を図るための業務を行わせるものとする。
(職員の再就職の促進のための特別の措置)
第十七条
 国は、日本国有鉄道の改革の実施に伴い一時に多数の日本国有鉄道の職員が再就
職を必要とすることとなることにかんがみ、これらの者に関し、再就職の機会の確
保及び再就職の援助等のための特別の措置を講ずるものとする。
第三章 日本国有鉄道の事業等の引継ぎ等
(事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継等に関する計画)
第十九条第一項
 運輸大臣は、日本国有鉄道の事業等の承継法人への適正かつ円滑な引継ぎを図る
ため、閣議の決定を経て、その事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継等に関す
る基本計画(以下「基本計画」という。)を定めなければならない。
第十九条第二項
 基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 承継法人に引き継がせる事業等の種類及び範囲に関する基本的な事項
二 承継法人に承継させる資産、債務並びにその他の権利及び義務に関する基本的
な事項
三 日本国有鉄道の職員のうち承継法人の職員となるものの総数及び承継法人ごと
の数
四 その他承継法人への事業等の適正かつ円滑な引継ぎに関する基本的な事項
第十九条第三項
 運輸大臣は、基本計画を定めたときは、日本国有鉄道に対し、承継法人ごとに、
その事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継に関する実施計画(以下「実施計
画」という。)を作成すべきことを指示しなければならない。
第十九条第四項
 実施計画は、政令で定めるところにより、次に掲げる事項(中略)について記載
するものとする。
一 当該承継法人に引き継がせる事業等の種類及び範囲
二 当該承継法人に承継させる資産
三 当該承継法人に承継させる国鉄長期債務その他の債務
四 前二号に掲げるもののほか、当該承継法人に承継させる権利及び義務
五 前各号に掲げるもののほか、当該承継法人への事業等の引継ぎに関し必要な事

第十九条第五項
 日本国有鉄道は、第三項の規定による指示があつたときは、基本計画に従い実施
計画を作成し、運輸大臣の認可を受けなければならない。
(以下略)
(事業等の引継ぎ)
第二十一条
 第十九条第五項の認可を受けた実施計画(中略。以下「承継計画」という。)に
おいて定められた日本国有鉄道の事業等は、承継法人の成立の時(中略)におい
て、それぞれ、承継法人に引き継がれるものとする。
(権利及び義務の承継)
第二十二条
 承継法人は、それぞれ、承継法人の成立の時において、日本国有鉄道の権利及び
義務(中略)のうち承継計画において定められたものを、承継計画において定める
ところに従い承継する。
(承継法人の職員)
第二十三条第一項
 承継法人の設立委員(当該承継法人が第十一条第一項の規定により運輸大臣が指
定する法人である場合にあっては、当該承継法人。以下「設立委員等」という。)
は、日本国有鉄道を通じ、その職員に対し、それぞれの承継法人の職員の労働条件
及び職員の採用の基準を提示して、職員の募集を行うものとする。
第二十三条第二項
 日本国有鉄道は、前項の規定によりその職員に対し労働条件及び採用の基準が提
示されたときは、承継法人の職員となることに関する日本国有鉄道の職員の意思を
確認し、承継法人別に、その職員となる意思を表示した者の中から当該承継法人に
係る同項の採用の基準に従い、その職員となるべき者を選定し、その名簿を作成し
て設立委員等に提出するものとする。
第二十三条第三項
 前項の名簿に記載された日本国有鉄道の職員のうち、設立委員等から採用する旨
の通知を受けた者であって附則第二項の規定の施行の際現に日本国有鉄道の職員で
あるものは、承継法人の成立の時において、当該承継法人の職員として採用され
る。
第二十三条第四項
 第一項の規定により提示する労働条件の内容となるべき事項、同項の規定による
提示の方法、第二項の規定による職員の意思の確認の方法その他前三項の規定の実
施に関し必要な事項は、運輸省令で定める。
第二十三条第五項
 承継法人(第十一条第一項の規定により運輸大臣が指定する法人を除く。)の職
員の採用について、当該承継法人の設立委員がした行為及び当該承継法人の設立委
員に対してなされた行為は、それぞれ、当該承継法人がした行為及び当該承継法人
に対してなされた行為とする。
(以下略)
2 日本国有鉄道改革法施行規則(昭和六十一年十二月四日運輸省令第四十一号。
以下「改革法施行規則」という。)
(労働条件の内容となるべき事項)
第九条
 法第二十三条第一項の規定により提示する労働条件の内容となるべき事項は、次
に掲げるものとする。ただし、第五号から第十一号までに掲げる事項については、
同項に規定する設立委員等がこれらに関する定めをしない場合においては、この限
りでない。
一 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
二 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに職員を二組以上に分けて就
業させる場合における就業時転換に関する事項
三 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に
関する事項
四 退職に関する事項
(以下略)
(提示の方法)
第十条
 法第二十三条第一項の規定による提示は、それぞれの承継法人の職員の労働条件
及び職員の採用の基準を記載した書面を日本国有鉄道の各作業場の見やすい場所に
常時提示し、若しくは備え付け、又は日本国有鉄道の職員に交付することにより行
うものとする。
(職員の意思の確認の方法)
第十一条
 法第二十三条第二項の規定による職員の意思の確認は、書面により行うものとす
る。
(名簿の記載事項等)
第十二条第一項
 法第二十三条第二項の名簿には、次に掲げる事項を記載するものとする。
一 氏名
二 生年月日
三 所属する本社の部局、附属機関又は地方機関の名称
第十二条第二項
 前項の名簿には、当該名簿に記載した職員の選定に関し判断の基礎とした資料を
添付するものとする。
3 旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律(昭和六十一年十二
月四日法律第八十八号)
附則
(設立委員)
第二条第一項
 運輸大臣は、それぞれの会社ごとに設立委員を命じ、当該会社の設立に関して発
起人の職務を行わせる。
第二条第二項
 設立委員は、前項及び日本国有鉄道改革法(昭和六十一年十二月四日法律第八十
七号。以下「改革法」という。)第二十三条に定めるもののほか、当該会社がその
成立の時において事業を円滑に開始するために必要な業務を行うことができる。
4 日本国有鉄道清算事業団法(昭和六十一年十二月四日法律第九十号)
(目的)
第一条第一項
 日本国有鉄道清算事業団は、日本国有鉄道改革法(昭和六十一年法律第八十七
号。以下「改革法」という。)に定める日本国有鉄道の改革の実施に伴い、旅客鉄
道株式会社等による日本国有鉄道からの事業等の引継ぎ並びにその権利及び義務の
承継等の後において、日本国有鉄道の長期借入金及び鉄道債券に係る債務(以下
「国鉄長期債務」という。)その他の債務の償還、日本国有鉄道の土地その他の資
産の処分等を適切に行い、もって改革法に基づく施策の円滑な遂行に資することを
目的とする。
第一条第二項
 日本国有鉄道清算事業団は、前項に定めるもののほか、臨時に、その職員のうち
再就職を必要とする者についての再就職の促進を図るための業務を行うことを目的
とする。
第四章 業務
(業務の範囲)
第二十六条第一項
 事業団は、第一条第一項の目的を達成するため、次の業務を行う。
(前略)
四 前三号に掲げるもののほか、日本国有鉄道の改革の実施に伴い事業団に帰属し
た権利及び義務の行使及び履行のために必要な業務を行うこと。
(中略)
六 前各号に掲げるもののほか、第一条第一項の目的を達成するため必要な業務を
行うこと。
第二十六条第三項
 事業団は、前二項に規定する業務のほか、第一条第二項の目的を達成するため、
臨時に、その職員のうち再就職を必要とする者についての再就職の促進のために必
要な業務を行う。
附則
(事業団への移行)
第二条
 日本国有鉄道は、改革法附則第二項の規定の施行の時において、事業団となるも
のとする。この場合において、他の法令の適用については、政令で定めるところに
より、事業団を特別の法律により特別の設立行為をもつて設立された法人又はこれ
に類する法人とみなす。
(職員の再就職の促進に関する業務の実施)
第七条
 事業団は、第二十六条第三項に規定する業務については、日本国有鉄道退職希望
職員及び日本国有鉄道清算事業団職員の再就職の促進に関する特別措置法(昭和六
十一年法律第九十一号)の定めるところにより行う。
二 前提となる事実(争いのない事実のほか、証拠によって認定した事実を含
む。)
1 当事者等
(一) 原告東日本及び原告東海は、改革法六条、旅客鉄道株式会社及び日本貨物
鉄道株式会社に関する法律により昭和六二年四月一日に設立され、国鉄が経営して
いた旅客鉄道事業を改革法六条の定めるとおりに引き継いだ株式会社であり、原告
日本貨物は、改革法八条、旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法
律により右同日に設立され、国鉄が経営していた貨物鉄道事業を引き継いだ株式会
社である。
(二)(1) 補助参加人国労は、昭和六二年三月三一日までは国鉄の職員等、同
年四月一日以降は原告らその他の国鉄の承継法人の職員、日本国有鉄道清算事業団
(以下「清算事業団」という。)等の職員等によって組織される労働組合である。
(2) 補助参加人国鉄労働組合東京地方本部は、国労の下部組織であって、原告
東日本及び原告日本貨物の事業地域のうち、東京都を中心とする地域の職場に勤務
する職員等によって組織される労働組合である。
(3) 補助参加人国鉄労働組合東京地方本部横浜支部は、補助参加人国鉄労働組
合東京地方本部の下部組織であって、原告東日本及び原告日本貨物の神奈川県内の
事業地域のうち、横浜市及び川崎市を中心とする地域の職場に勤務する職員等によ
って組織される労働組合である。
(4) 補助参加人国鉄労働組合東京地方本部国府津支部は、補助参加人国鉄労働
組合東京地方本部の下部組織であって、原告東日本及び原告日本貨物の神奈川県内
の事業地域のうち、小田原市を中心とする地域の職場に勤務する職員等によって組
織される労働組合である。
(5) 補助参加人国鉄労働組合東日本本部は、国労の下部組織であって、原告東
日本の事業地域の職場に勤務する職員等によって組織される労働組合である。
(6) 補助参加人国鉄労働組合仙台地方本部は、補助参加人国鉄労働組合東日本
本部の下部組織であって、原告東日本の事業地域のうち、宮城県及び福島県を中心
とする地域の職場に勤務する職員等によって組織される労働組合である。
(7) 補助参加人国鉄労働組合静岡地方本部は、国労の下部組織であって、原告
東海の静岡支社等の関係各業務機関、原告日本貨物静岡支店等の職員によって組織
される労働組合である。
(三)(1) 本件命令一に係る救済申立て対象者
 本件命令一の主文中に現われるP1、P2、P3、P4、P5及びP6は、昭和六二年
四月一日より前は国鉄の東京南鉄道管理局管内の職場に勤務しており、同日以前か
ら補助参加人国鉄労働組合東京地方本部横浜支部所属の組合員であった。本件命令
一は、これらの者について不当労働行為があったと認定したが、そのうちP5及びP
6については別紙初審命令目録一記載の救済命令を変更して救済方法をノーティス文
書の掲記にとどめたので、補助参加人国労、補助参加人国鉄労働組合東京地方本
部、補助参加人国鉄労働組合東京地方本部横浜支部及び補助参加人国鉄労働組合東
京地方本部国府津支部は被告を相手に別件訴訟を提起し(東京地方裁判所平成八年
(行ウ)第一二号労働委員会命令取消請求事件)、係属中である。
 本件命令一に係る救済申立て対象者として、右の者らのほか、P7、P8及びP9が
いる。これらの者も、昭和六二年四月一日より前は国鉄の東京南鉄道管理局管内の
職場に勤務しており(P7及びP8は組合専従の期間があった。)、同日以前から、
P7及びP9は補助参加入国鉄労働組合東京地方本部横浜支部所属の組合員であり、
P8は補助参加人国鉄労働組合東京地方本部国府津支部の組合員であった。P7、P
8及びP9については、別紙初審命令目録一記載の救済命令ではその不採用が不当労
働行為であると判断されたが、本件命令一では不当労働行為の成立が否定されたの
で、前記各補助参加人らはP5及びP6に関する分と併せて前記別件訴訟を提起し、
係属中である。
(2) 本件命令二に係る救済申立て対象者
 本件命令二の主文中に現われるP10、P11、P12、P13及びP14は、昭和六二年
四月一日より前は国鉄の東京西鉄道管理局、東京南鉄道管理局及び東京北鉄道管理
局管内の各職場に勤務しており、同日以前から補助参加人国鉄労働組合東京地方本
部所属の組合員であった。本件命令二は、これらの者について不当労働行為があっ
たと認定したが、そのうちP10、P13及びP14については別紙初審命令目録二記載
の救済命令を変更して救済方法をノーテイス文書への掲記にとどめたので、補助参
加人国労、補助参加人国鉄労働組合東京地方本部は被告を相手に別件訴訟を提起し
(東京地方裁判所平成八年(行ウ)第五二号労働委員会命令取消請求事件)、係属
中である。
 本件命令二に係る救済申立て対象者として、右の者らのほか、P15、P16及びP
17がいる。これらの者も、昭和六二年四月一日より前は国鉄の東京西鉄道管理局、
東京南鉄道管理局及び東京北鉄道管理局管内の各職場に勤務しており、同日以前か
ら、補助参加人国鉄労働組合東京地方本部所属の組合員であった。P15、P16及び
P17については、別紙初審命令目録二記載の救済命令ではその不採用が不当労働行
為であると判断されたが、本件命令二では不当労働行為の成立が否定されたので、
補助参加人国労、補助参加人国鉄労働組合東京地方本部はP10、P13及びP14に関
する分と併せて前記別件訴訟を提起し、係属中である。
(3) 本件命令三に係る救済申立て対象者
 本件命令三の主文中に現われるP18は、昭和六二年四月一日より前は国鉄の仙台
鉄道管理局管内の職場に勤務しており、同日以前から補助参加人国鉄労働組合仙台
地方本部所属の組合員であった。
 本件命令三に係る救済申立て対象者として、右の者のほか、P19がいる。P
19も、昭和六二年四月一日より前は国鉄の仙台鉄道管理局管内の職場に勤務してお
り、同日以前から、補助参加人国鉄労働組合仙台地方本部所属の組合員であった。
P19については、別紙初審命令目録三記載の救済命令ではその不採用が不当労働行
為であると判断されたが、本件命令三では不当労働行為の成立が否定されたので、
補助参加人国労、補助参加人国鉄労働組合東日本本部及び補助参加人国鉄労働組合
仙台地方本部は別件訴訟を提起し(東京地方裁判所平成八年(行ウ)第一一八号労
働委員会命令取消請求事件)、係属中である。
(4) 本件命令四に係る救済申立て対象者
 本件命令四の主文中に現われるP20は、昭和六二年四月一日より前は国鉄の仙台
鉄道管理局管内の職場に勤務しており、同日以前から補助参加人国鉄労働組合仙台
地方本部所属の組合員であった。
 本件命令四に係る救済申立て対象者として、右の者のほか、P21、P22、P23、
P24、P25がいる。これらの者も、昭和六二年四月一日より前は国鉄の仙台鉄道管
理局管内の職場に勤務しており、同日以前から、補助参加人国鉄労働組合仙台地方
本部所属の組合員であった。右五名については、別紙初審命令目録四記載の救済命
令ではその不採用が不当労働行為であると判断されたが、本件命令四では不当労働
行為の成立が否定されたので、補助参加人国労、補助参加人国鉄労働組合東日本本
部及び補助参加人国鉄労働組合仙台地方本部は別件訴訟を提起し(東京地方裁判所
平成八年(行ウ)第一七五号労働委員会命令取消請求事件)、係属中である。
(5) 本件命令五に係る救済申立て対象者
 本件命令五の主文中に現われるP26は、昭和六二年四月一日より前は国鉄の静岡
鉄道管理局管内の職場に勤務しており、同日以前は補助参加人国鉄労働組合静岡地
方本部の下部組織である沼津支部保線区分会所属の組合員であった。
 以下、以上の本件各命令に係る救済申立て対象者らを総称して「本件各救済申立
て対象者」という。
2 命令の存在
(一) 本件命令一
 補助参加人国労、補助参加人国鉄労働組合東京地方本部、補助参加人国鉄労働組
合東京地方本部横浜支部及び補助参加人国鉄労働組合東京地方本部国府津支部は、
神奈川県地方労働委員会に対し、原告東日本及び原告日本貨物が労働組合法七条に
違反したとして右両原告を被申立人として救済を申し立て(神奈川地労委昭和六二
年(不)第二二号不当労働行為救済申立て事件)、神奈川県地方労働委員会は昭和
六三年一二月一六日に別紙初審命令目録一記載の救済命令を発し、原告東日本及び
原告日本貨物は、右救済命令につき被告に再審査の申立てをした(中労委昭和六三
年(不再)第六八号事件及び同第六九号事件)。本件命令一は、被告が右各再審査
申立て事件について別紙命令目録一記載のとおりの主文で発した命令である。
(二) 本件命令二
 補助参加人国労、補助参加人国鉄労働組合東京地方本部は、東京都地方労働委員
会に対し、原告東日本が労働組合法七条に違反したとしてこれを被申立人として救
済を申し立て(東京地労委昭和六二年(不)第一二号事件不当労働行為救済申立て
事件)、東京都地方労働委員会は平成元年八月一日に別紙初審命令目録二記載の救
済命令を発し、原告東日本は、右救済命令につき被告に再審査の申立てをした(中
労委平成元年(不再)第九一号事件)。本件命令二は、被告が右再審査申立て事件
について別紙命令目録二記載のとおりの主文で発した命令である。
(三) 本件命令三
 補助参加人国労、補助参加人国鉄労働組合東日本本部及び補助参加人国鉄労働組
合仙台地方本部は、宮城県地方労働委員会に対し、原告東日本が労働組合法七条に
違反したとしてこれを被申立人として救済を申し立て(宮城地労委昭和六二年
(不)第四号不当労働行為救済申立て事件)、宮城県地方労働委員会は平成二年二
月二八日に別紙初審命令目録三記載の救済命令を発し、原告東日本は、右救済命令
につき被告に再審査の申立てをした(中労委平成二年(不再)第二九号事件)。本
件命令三は、被告が右再審査申立て事件について別紙命令目録三記載のとおりの主
文で発した命令である。
(四) 本件命令四
 補助参加人国労、補助参加人国鉄労働組合東日本本部及び補助参加人国鉄労働組
合仙台地方本部は、福島県地方労働委員会に対し、原告東日本が労働組合法七条に
違反したとしてこれを被申立人として救済を申し立て(福島地労委昭和六二年
(不)第七号不当労働行為救済申立て事件)、福島県地方労働委員会は平成元年一
〇月二四日に別紙初審命令目録四記載の救済命令を発し、原告東日本は、右救済命
令につき被告に再審査の申立てをした(中労委平成元年(不再)第一一二号事
件)。本件命令四は、被告が右再審査申立て事件について別紙命令目録四記載のと
おりの主文で発した命令である。
(五) 本件命令五
 補助参加人国労、補助参加人国鉄労働組合静岡地方本部は、静岡県地方労働委員
会に対し、原告東海が労働組合法七条に違反したとしてこれを被申立人として救済
を申し立て(静岡地労委昭和六二年(不)第一号不当労働行為救済申立て事件)、
静岡県地方労働委員会は平成元年一二月二七日に別紙初審命令目録五記載の救済命
令を発し、原告東海は、右救済命令につき被告に再審査の申立てをした(中労委平
成二年(不再)第二号事件)。本件命令五は、被告が右再審査申立て事件について
別紙命令目録五記載のとおりの主文で発した命令である。
3 改革法の成立から設立委員名の採用通知の交付に至るまでの経緯
(一) 政府は、昭和六一年三月三日、改革法、旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄
道株式会社に関する法律、日本国有鉄道清算事業団法等の各法案を第一〇四回国会
に提出し、これらは、衆議院の解散によりいったん廃案となったものの、同年九月
一一日、第一〇七回国会に再提出され、同年一一月二八日に成立し、同年一二月四
日に公布された。
(二) 右各法の関係する規定の内容は前記のとおりである。
(三) 改革法の定めるところに沿って、昭和六一年一二月一一日、六の旅客鉄道
株式会社及び原告日本貨物の第一回設立委員会が開催され、新たに新会社に採用さ
れる職員の労働条件及び採用の基準が検討され、採用の基準については原案どおり
決定されたが、労働条件については基本的な考え方のみを決定し、同年一二月一九
日に決定されることとなつた。
 (甲事件の乙第一七号証の二から同号証の六まで、第五一〇号証、戊事件の乙第
一四六号証)
(四)(1) 昭和六一年一二月一一日に決定された「東日本旅客鉄道株式会社の
職員の採用の基準」及び「東海旅客鉄道株式会社の職員の採用の基準」の内容は、
いずれも次のとおりであった。
1 昭和六一年度末において年齢満五五歳未満であること。(医師を除く。)
2 職務遂行に支障のない健康状態であること。
 なお、心身の故障により長期にわたって休養中の職員については、回復の見込み
があり、長期的に見て職務遂行に支障がないと判断される健康状態であること。
3 日本国有鉄道在職中の勤務の状況からみて、当社の業務にふさわしい者である
こと。
 なお、勤務の状況については、職務に対する知識技能及び適性、日常の勤務に関
する実績等を、日本国有鉄道における既存の資料に基づき、総合的かつ公正に判断
すること。
4 「退職前提の休職」(日本国有鉄道就業規則(昭和六〇年六月総裁達第一二
号)第六二条(3)ア)を発令されていないこと。
5 「退職を希望する職員である旨の認定」(日本国有鉄道の経営する事業の運営
の改善のために昭和六一年度において緊急に講ずべき特別措置に関する法律(昭和
六一年法律第七六号)第四条第一項)を受けていないこと。
6 日本国有鉄道において再就職の斡旋を受け、再就職先から昭和六五年度当初ま
での間に採用を予定する旨の通知を受けていないこと。
*なお、日本国有鉄道本社及び本社附属機関に所属する職員並びに全国的な運用を
行っている職員からの採用のほか、当社が事業を運営する地域内の業務を担当する
地方機関に所属する職員からの採用を優先的に考慮するものとする。
 また、広域異動の募集に応じて既に転勤した職員及び北海道又は九州内の地方機
関に所属する職員からの採用については、特段の配慮をするものとする。
(2) 昭和六一年一二月一一日に決定された「日本貨物鉄道株式会社の職員の採
用の基準」の内容は、次のとおりであった。
1 昭和六一年度末において年齢満五五歳未満であること。
2 職務遂行に支障のない健康状態であること。
 なお、心身の故障により長期にわたって休養中の職員については、回復の見込み
があり、長期的に見て職務遂行に支障がないと判断される健康状態であること。
3 日本国有鉄道在職中の勤務の状況からみて、当社の業務にふさわしい者である
こと。
 なお、勤務の状況については、職務に対する知識技能及び適性、日常の勤務に関
する実績等を、日本国有鉄道における既存の資料に基づき、総合的かつ公正に判断
すること。
4 「退職前提の休職」(日本国有鉄道就業規則(昭和六〇年六月総裁達第一二
号)第六二条(3)ア)を発令されていないこと。
5 「退職を希望する職員である旨の認定」(日本国有鉄道の経営する事業の運営
の改善のために昭和六一年度において緊急に講ずべき特別措置に関する法律(昭和
六一年法律第七六号)第四条第一項)を受けていないこと。
6 日本国有鉄道において再就職の斡旋を受け、再就職先から昭和六五年度当初ま
での間に採用を予定する旨の通知を受けていないこと。
*なお、広域異動の募集に応じて既に転勤した職員からの採用については、特段の
配慮をするものとする。
(甲事件の乙第一七号証の二から同号証の六まで、第五一〇号証、戊事件の乙第一
四六号証)
(五)(1) 国鉄は、改革法による国鉄の改革に先立ち、昭和六一年三月五日、
各鉄道管理局長等に対し、「職員管理調書の作成について(通達)」(甲事件の乙
第五〇四号証)という総裁通達を発出し、全国一律に職員個人の意識・意欲の実態
把握を行い、職員管理に活用するため、職員管理台帳に加え、職員管理調書を作成
するよう指示した。
ア 「職員管理調書の作成について(通達)」には、次のとおり記載されていた。
 従来、職員の勤務実態等については、鉄道管理局等地方機関独自にその機関に所
属する職員について、個々の管理台帳を作成し、その把握に努めてきたところであ
る。しかし、八次にわたる職場規律の総点検を経ても、なお、職員の意識・意欲に
かかわる問題は未だ残されており、現在まで、管理者の個人把握が不十分であった
ことが明らかとなっている。
 このため、今後の取組みとして、第八次職場規律の総点検の結果報告において
も、「来年度のしかるべき時期に職員の意識変化を調査する項目を主体として、最
後の総点検を実施する…」こととしており、また、同報告に対する運輸大臣談話に
おいても、この点が強く要望されていたところである。
 今回、このような経緯を踏まえ、職員個々の実態把握を統一的に行うべく、これ
までの地方機関ごとの管理台帳の作成に加えて職員管理調書を作成し、職員の意
識・意欲の現状把握を行い、あわせて職員の意識・意欲にかかわる問題について、
職場規律の総点検の集大成とする。
 なお、各長おいては、職員管理調書の結果について、今後の業務運営面、職員管
理面においても有効に活用できるよう、その作成にあたって正確な記述がなされる
よう指導されたい。
「調査用紙記入にあたっての注意事項」
1 昭和六一年四月二日現在の職員(指定職員等、管理甲職員及び医療管理職員を
除く)を調査対象とする。(以下略)
2 調査対象期間は、昭和五八年四月一日から昭和六一年三月三一日までとする。
(以下略)
イ この総裁通達の実施にあたっては、添付されていた「調査用紙記入にあたって
の注意事項」によるほか、調書の作成上の留意点等を記載した記入要領等が作成さ
れ、労働処分については、昭和五八年七月二日処分通知を行った「五八・三闘争」
から記入することとされていた。
(2) 右総裁通達までは各地方機関ごとに職員管理台帳が作成されていたが、そ
の様式は区々であった。各地方機関は、右総裁通達により、統一した様式の職員管
理調書を作成し、国鉄は、各地方機関の作成した職員管理調書を本社に集中させ、
そのデータをコンピュータに入力して国鉄の職員全体を把握できる体制を整えた。
職員管理調書には、労働処分については、昭和五八年七月二日処分通知を行った
「五八・三闘争」から記入することとされていたので、それ以前のデータは国鉄本
社のコンピュータにも入力されていなかった。
 (甲事件の乙第二一号証、第一二二号証、第一三九号証の二から同号証の四ま
で、第三八九号証、第五〇四号証、第五五二号証、第五五三号証)
(六) 国鉄による採用候補者の選定及びその名簿の作成作業
 採用候補者の選定及びその名簿の作成の作業は、国鉄本社が行った。
 国鉄本社(職員局労働課)は、採用の基準3項の「日本国有鉄道在職中の勤務の
状況からみて、当社の業務にふさわしい者であること。」という基準の適用につい
て、一定の重い処分を従来受けたことのある者、より具体的には過去三年間に停職
六箇月以上の処分又は二回以上の停職処分を受けた者は、新会社の業務にふさわし
いものとはいえず、採用候補者から除外するという解釈基準を立てた。その結果、
右の解釈基準に該当するものは、それが一般処分であると労働処分であるとを問わ
ず、採用候補者の選定及びその名簿の作成に当たり、採用候補者から除外された。
 (甲事件の乙第二一号証、第九八号証の一、第一二二号証、第三一九号証の二か
ら同号証の四まで、第一四三号証の三、第四五一号号証の一、第五一一号証の一、
第五五二号証、第五五三号証)
(七) 国鉄による採用候補者名簿の提出及び設立委員会委員長名の採用通知の交

 国鉄は、昭和六二年二月七日、鉄道会社の採用候補者名簿を設立委員会に提出し
た。
 国鉄は、名簿を提出する際、名簿とともに「新会社の職員となるべき者の選定結
果について」と題する書面(乙第九八号証の一、第五一一号証の一)を提出した。
 同書面には、「3 新会社の職員となるべき者の選定にあたっての考え方」とい
う項目があり、「(3)名簿記載の具体的判断にあたっては以下のような考え方で
対処した。(中略)② 在職中の勤務の状況からみて、明らかに新会社の業務にふ
さわしくないと判断される者については、名簿記載数が基本計画に示された数を下
回る場合においても名簿に記載しなかった。③ 派遣経験者、直営売店経験者、復
職前提休職者など多方面の分野を経験した者については、最大限名簿に記載し
た。」と記載され、また、「4 選定作業結果」という項目には、「北海道、九州
にあっては、希望者数が採用予定者数を大きく上回る状況の中での選定となった
が、一方、東日本旅客鉄道株式会社、東海旅客鉄道株式会社、西日本旅客鉄道株式
会社、四国旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社においては、希望退職及び
公的部門の一括選抜の進展もあり、名簿記載数が基本計画で示された数を下回る結
果となった。なお、いずれの会社においても、会社の業務の円滑な運営を行ってい
くために必要な要員は確保されている。」と記載されていた。
 設立委員は、昭和六二年二月一二日に開催された第三回設立委員会において、国
鉄から報告された採用候補者の選定結果をそのまま了承し、同日付けで設立委員会
委員長名の採用通知を国鉄を通じて交付した。
 本件各救済申立て対象者には採用通知は交付されなかった。
 国鉄の職員で採用を希望した者のうち、本州の営業地域内で採用されなかったの
は七九名であり、そのうち、国労の組合員は五七名であった。
(甲事件の乙第九八号証の一、第一八○号証の一、第四五三号証の一、同号証の
二、第四五四号証、第五一一号証の一、第五五二号証及び弁論の全趣旨)
三 争点
1 設立委員による不採用と不当労働行為の成否
(一) 設立委員の採用に関する行為の法的性質(新規採用か否か)
(二) 設立委員の採用に関する行為と採用の自由
 設立委員が本件各救済申立て対象者を採用しなかったことは、労働組合法七条一
号の不利益取扱い、同条三号の支配介入の不当労働行為に当たるか。設立委員の有
する採用の自由の行使にほかならないとして、不当労働行為の成立を否定すべき
か。
2 被告及び補助参加人らの主位的主張の当否
(一) 国鉄が採用候補者の選定及びその名簿の作成過程において不当労働行為を
行ったとした場合、その責任は、承継法人の職員の採用に関する最終的な権限と責
任を有する設立委員に帰属すると解することができるか。それとも、改革法二三条
は、国鉄に採用候補者の選定及びその名簿の作成を行う専権を付与したものであ
り、国鉄が、その権限に基づき、採用候補者を選定し、名簿を作成した行為につい
ては、設立委員がその責任を負う余地はないといえるか。
(二) 国鉄による採用候補者の選定及びその名簿の作成過程における不当労働行
為の有無
3 被告は、本件訴訟において本件各命令の理由を変更することができるか。
4 被告及び補助参加人らの予備的主張の当否
(一) 設立委員は、国鉄の採用候補者の選定及びその名簿の作成の過程におい
て、労働組合の所属等による差別的取扱いと目される行為があったことを認識し、
又は認識することが可能であった場合、是正に向けた措置を執るべき義務を負う
か。
(二) 国鉄が国労の組合員でないことを募集条件とし、組合差別の意思で、国労
の組合員を採用候補者から除外した場合において、設立委員が、国鉄の右の意思、
行為を知りながら、これを容認する意思で、是正を命ずることなく採用候補者名簿
に基づき採用予定者を決定したとすれば、そのような不作為は設立委員自らそのよ
うな内容の採用の基準を定めたことと同視できるか。
(三) 国鉄による採用候補者の選定及びその名簿の作成過程における不当労働行
為並びに(二)の募集条件とした事実の有無
(四) 設立委員は、国鉄の採用候補者の選定及びその名簿の作成の過程におい
て、労働組合の所属等による差別的取扱いと目される行為があったことを認識し、
又は認識することが可能であったといえるか。(二)の募集条件とした事実につい
てはどうか。
5 本件各命令の救済措置は、被告の裁量権の範囲内といえるか。
第三 当事者の主張
一 原告らの主張
 国鉄が改革法二三条の定める権限に基づき作成した名簿に登載されなかった者の
不採用について、設立委員が責任を負う理由はないから、原告らが不当労働行為責
任を負う余地はない。
1 改革法は、原告ら新企業体が、国鉄の職員を承継することなく、新規に採用す
べきこととしたが、採用に関する手続を募集、採用候補者の選定及びその名簿の作
成並びに採用の決定及び通知に区分し、各段階における手続の主体並びにその権限
及び責任を定め、採用候補者の選定及びその名簿の作成については国鉄の責務ない
し権限としてこれを行わせることとし、設立委員は右名簿に記載された候補者の中
からのみ、新規採用者を決定しうるものとした。すなわち、設立委員が職員として
採用できるのは、名簿に記載されている者の中からだけに限られ、名簿に記載され
ていない者を職員として採用することはできない(改革法二三条三項)。これは、
設立委員が、自ら全国の職場において勤務する国鉄の職員を適正に選別、評定して
採用しうる立場にないことが明らかであり、原告らの職員の募集や意思確認等の手
続については、短期間に大量の事務を遂行することが必要とされたところから、各
職員の勤務の実情を把握していた国鉄に、新企業体別に採用対象となりうる候補者
の名簿の作成を行わせることとしたのである。このような改革法の趣旨、規定内容
に照らすと、改革法二三条二項は、国鉄に右権限を特に付与し、専ら国鉄の責任と
権限において採用候補者の選定と名簿の作成を行わせることとしたものであり、そ
の権限の行使は国鉄の専権に属し、設立委員の指揮、監督下にあったわけではない
というべきである(この点からみても、設立委員の認識ないし是正権限などを問擬
する余地のないことは明らかである。)。設立委員は、採用候補者名簿の作成に関
し、あらかじめ、国鉄を通じ、その職員に対し、新企業体の労働条件及び採用の基
準を提示し得るのみで、当該名簿の作成、すなわち、採用候補者選定の具体的作業
について国鉄に対し指示等を与える余地のないことはもとより、国鉄からその当否
について意見を求められる立場にもないから、国鉄が、その権限に基づき、採用候
補者を選定し、名簿を作成した行為について、設立委員がその責任を負う余地はな
く、名簿に記載されていない者の不採用について原告らが不当労働行為責任を負う
余地はない。
2 本件各命令は、本来設立委員のなすべき手続の一部を国鉄にゆだねたものであ
るとして、国鉄は設立委員の補助機関であるとするが、設立委員及び国鉄は、行政
組織を構成するものではないから、国鉄が設立委員の補助機関に当たるということ
はできないし、改革法は、採用に関する手続段階を区分し、両者をそれぞれ別個、
独立の法主体として定めて手続段階別にその権限、責任を両者に分配しているか
ら、被告のように論ずることはできず、明文の規定がない限り、設立委員、国鉄
は、相互に他の法主体の行為について責任を負わないというべきである。設立委員
と原告らとの間の法律関係についてのみ明文の規定(改革法二三条五項)が設けら
れ、設立委員と国鉄との関係については同様の規定が設けられていないのであるか
ら、設立委員が国鉄の行為の責任を負ういわれはない。
 設立委員が国鉄の行為について責任を負うとするためには、設立委員が国鉄に対
し、指揮、監督権を有することが法理上当然の前提となるが、設立委員と国鉄と
は、それぞれ別個独立の法主体として権限が定められ、設立委員の国鉄に対する指
揮、監督等の権限の存在をうかがわせる何らの法的根拠も存在せず、また、現に、
設立委員が国鉄に対し、その採用候補者の選定及び名簿の作成について、指揮、命
令等をした事実が存しない以上、設立委員に国鉄の行為の責任が帰属する余地はな
い。
3 改革法は、国鉄が実質上破産状態にあったため、新企業体法人を設立し、社員
の採用を含めて新たな法律関係を樹立し、特に基本計画において特定されたものを
除き、新企業体法人が過去の国鉄の関係を引き継がないようにすることとし、国鉄
の債務は清算事業団が引き継いで負担することとしている。本件のような場合に新
企業体法人に国鉄の行為の責任を帰属させることは、資本充実の原則を害するもの
であり、右に述べた改革法の趣旨に反するから、改革法は、このような結果を排除
する趣旨を含めて採用についての権限及び責任に関する規定を設けたものと解する
のが相当である。
 旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律附則二条一項は、運輸
大臣はそれぞれの会社ごとに設立委員を命じ、当該会社の設立に関して発起人の職
務を行わせると定めており、さらに、会社法による通例の発起人と異なり、設立手
続段階において新企業体との間における社員採用の効果を確定し得るよう、設立委
員の権限を明定した。
 改革法二三条五項は、まさにこの「採用について」「設立委員がした行為及び設
立委員に対してなされた行為」の効力が単に設立委員について生ずるにとどまら
ず、新企業体について確定的に生ずることを限定的に明らかにする趣旨であり、同
項により不当労働行為責任が新企業体に帰属するという解釈は牽強付会の論である
(そうする趣旨であれば、単に「採用に関してなされた行為」といえば足りること
は、立法技術上明らかである。)。
 仮に、採用候補者名簿作成に関し、不当労働行為と目すべき行為が行われたとす
れば、その責任は、清算事業団が負うべきである。
4 最高裁昭和四八年一二月一二日大法廷判決(民集二七巻一一号一五三六頁)
は、「憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、他方、二二
条、二九条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的
人権として保障している。それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてす
る契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇用するにあたり、いかな
る者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特
別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであつて、
企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んで
も、それを当然に違法とすることはできないのである。」と判示して、採用自由の
原則を認め、思想、信条を理由とする雇い入れ拒否が違法とならないとしている。
改革法二三条による採用手続は、採用の対象を国鉄職員に限定しているものの、新
規採用に当たるから、国鉄が採用候補者名簿に登載せず、その結果、設立委員によ
って採用されなかったことが不当労働行為に当たるということはできない。
5 労働委員会が救済命令において雇用に係る法律関係の創設を命ずるなどという
ことは権限外のことであるから、本件各命令は、裁量権の限界を超えた救済を命じ
た点においても違法であり、取り消されるべきである。
6 被告の予備的主張なるものは、本件各命令の命令書記載の処分理由を変更する
ことなく、従来の「国鉄補助機関論」を維持し、それに関連する事情を追加したも
のであるにすぎない。
7 被告は、本件各命令の理由と異なる事由を本件訴訟において主張することがで
きない。
 本件各命令は、独立の権限を有する準司法機関が対審構造の手続の下に法定の審
問の手続を経て発出したものであるところ、この審問の手続は、被告が定める手続
規則によるものとされ、審問の手続においては、当事者双方に、証拠を提出し、証
人に反対尋問をする十分な機会が与えられなければならないとされ(労働組合法二
七条一項)、審問を終了したときは、公益委員会議を開き、合議を行い、公益委員
会議は、合議に先立って、審問に参与した使用者委員及び労働者委員の出席を求
め、その意見を聞かなければならず(労働委員会規則四二条)、被告は、合議によ
り、申立人の請求にかかる救済を理由があると判定したときは救済の全部若しくは
一部を認容する命令を、理由がないと判定したときは申立てを棄却する命令を、遅
滞なく、書面によって発しなければならないのであり(労働委員会規則四三条一、
二項)、さらに、発出された命令については判決の更正手続と同様の規定(労働委
員会規則四三条三項)まで設けられている。
 このような労働組合法、労働委員会規則の規定の内容に照らすと、審問の結果に
基づく合議の存在を無視し、単に訴訟手続の次元における指定代理人の主張によっ
て本件各命令の理由を変更することは、制度上許容し得るものではなく、補助参加
人らの立場においてこれをなしえないことはなおさらである。
二 被告の主張
1 本件各命令の理由の要旨
 改革法が承継法人の職員の採用手続に国鉄を関与させたのは、国鉄改革に当たり
承継法人には、その発足と同時に鉄道輸送業務などの国鉄の主要な業務を引き継が
せ、その事業を中断することなく継続させることが要請されるという業務上の特殊
性が存し、また、経営の破綻状態から脱却させるための国鉄改革を緊急に行うべ
く、昭和六二年四月一日に新事業体による業務の開始日が法定されているという事
情があり、かつ、承継法人の職員の募集の対象者は国鉄職員に限定され、採用者を
選定する資料は国鉄のみが有しており、設立委員自らが採用者の選定を行うことが
できない事情にあったことから、本来設立委員のなすべき手続の一部を国鉄にゆだ
ねたものと解するのが相当である。このことは、①承継法人の職員の募集に当た
り、改革法二三条一項が設立委員は承継法人の職員の労働条件及び採用基準を国鉄
に提示すると規定し、また、同項が承継法人の職員の募集は設立委員等が「国鉄を
通じ」て行うと規定していること、②実際にも、昭和六一年一二月一一日及び同月
一九日に開催された鉄道会社合同の設立委員会において、承継法人の職員の労働条
件及び採用基準を決定し、国鉄に提示していること、③承継法人の職員の採用に向
けて短期間に大量の事務を遂行しなければならなかった事情にあったこと、④国鉄
の行う前記採用候補者の選定等の事務は、国鉄自体の職員との労働関係に変動をも
たらすものでなく、使用者としての立場で行われたものとはいえないことからも是
認できる。
 そして、改革法等の参議院特別委員会での審議において、同法案を主管する運輸
大臣及び政府委員が、「国鉄の立場は、設立委員を補助するもの」との趣旨を繰り
返し答弁していること等を併せ考えると、改革法は実行行為に限って採用候補者の
選定事務を国鉄に行わせたとみられ、かつ、設立委員のなすべき手続の一部をゆだ
ねられた国鉄の立場は、設立委員の補助機関の地位にあったものと解される。
 また、国鉄並びに設立委員が承継法人とは別個の法主体として構成されていると
はいえ、前記承継法人の職員の採用手続は、国鉄を通じての職員の募集に始まり、
最終的に承継法人の職員に採用されるという一連の過程を経て完結するものであ
り、参議院特別委員会において、運輸大臣及び政府委員が、設立委員に対する国鉄
の関係をいわば「準委任」ないし「代行」と繰り返し答弁しているのは、単に説明
の便宜によるというよりは、国鉄が設立委員の補助機関の地位にあることを平明に
説明したもので、国鉄の行為の責任は設立委員に帰属されるべきものと解すること
ができる。
 これらのことからすると、国鉄が行った採用候補者の選定及び採用候補者名簿の
作成の過程において、労働組合の所属等による差別的取扱いと目される行為があ
り、設立委員がその採用候補者名簿に基づき採用予定者を決定して採用を通知した
結果、それが不当労働行為に該当すると判断される場合、その責任は設立委員に帰
属させることが法の趣旨に沿うものと解さざるをえない。
 改革法二三条五項は、商法上の発起人に相当する設立委員の行ういわゆる開業準
備行為としての従業員の雇入契約の法的効果を承継法人に帰属させるためであると
限定的に解釈することは相当ではなく、採用に関する最終的な権限を有する設立委
員が負うべき不当労働行為とされる行為の責任は、同項により、採用に関する設立
委員に係る行為の効果とともに承継法人に帰属すると解するのが相当である。
 加えて、①国鉄と承継法人は、改革法施行時を境としてそれぞれ別個の法主体で
あるとはいえ、国鉄総裁が共通設立委員に加わり、国鉄内に承継法人の設立移行準
備室が設置されて設立事務が進められ、承継法人が発足していること、②清算事業
団を唯一の株主として鉄道会社が設立されていること、③承継法人の職員の募集対
象者は国鉄職員に限定され、その退職金や有給休暇の取扱いはすべて通算され、国
鉄当時の非違行為に対する懲戒処分も承継法人に引き継ぐことができる仕組みとな
っていること、④鉄道会社は、鉄道事業に関し国鉄から人的のみならず物的なもの
一切を承継して瞬時たりとも休むことなくその事業を遂行し、その受益は今日に及
んでいること、⑤国鉄による採用候補者の選定及び設立委員による採用決定によっ
て承継法人は現に利益を受けていること等にかんがみると、本件の場合、通常の会
社の解散や新会社の設立とは性格を異にするものであり、原告らに被申立人適格が
ないとすることは妥当ではない。
 本件においては、新規採用の法形式がとられたとはいえ、原告らの職員の採用に
当たって募集の対象が国鉄職員に限られる等、典型的な新規採用の場合とはその性
質を異にしている。しかも、本件採用対象者の不採用は不当労働行為に該当するの
であるから、かかる場合の救済措置として労働委員会が原告らにこれらの者の採用
を命じることに何ら問題はない。
2 主位的主張
 改革法二三条によれば、承継法人の職員の採用に関する手続のうち、採用候補者
の選定及びその名簿の作成の権限は国鉄に付与されているが、採用に関する手続の
基本となる採用の基準の決定及びその提示の権限と採用の最終的な権限と責任は、
設立委員にある。改革法が承継法人の職員の採用に関する手続に国鉄を関与させた
のは、承継法人の発足に当たり鉄道輸送業務など国鉄の主要な業務を瞬時も中断す
ることなく継続させることが要請されていたこと、国鉄改革を緊急に行うべく、新
会社による業務の開始日が法定されていたこと、承継法人の職員の募集の対象は国
鉄の職員のみで、採用すべき者を選定する資料は国鉄のみが有しており、設立委員
自らが採用すべき者を選定することができないという特殊事情があったこと等によ
るものであるから、承継法人の職員の採用に関する設立委員と国鉄との関係は、本
来設立委員のなすべき手続の一部を国鉄にゆだねたものであり、国鉄の立場は採用
の最終的な権限と責任を有する設立委員の補助機関の地位にあったものと解するの
が相当である。 設立委員は、採用の最終的な権限と責任を有するから、国鉄の行
う採用候補者の選定過程において、所属労働組合等による差別等が行われることの
ないよう指導監督する権限と義務を有し、国鉄による不当労働行為の行われたこと
が認められる場合は、少なくとも採用基準に合致するよう、その是正を促し、又は
指示する権限と義務を有する。
 改革法二三条は、以上のように定めているものと解されるから、国鉄の採用候補
者の選定及び採用候補者名簿の作成過程における不当労働行為の責任は、国鉄の不
当労働行為についての設立委員の認識の有無を問わず、承継法人の職員の採用に関
する最終的な権限と責任を有する設立委員に帰属すると解するのが相当である。改
革法二三条は、国鉄に採用候補者名簿の作成の権限を付与しているが、国鉄による
採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成行為は、職員の募集から採用に至る一
連の過程の中のひとつの事実行為であって、当該名簿への登載が直ちに採用の効果
をもたらすものではなく、承継法人の職員の採用は、設立委員による採用決定行為
をまって初めて完成するものであるから、当該選定及び名簿作成行為が国鉄の独自
の権限であることをもって設立委員への不当労働行為責任の帰属を否定する根拠と
することはできない。
 前掲最高裁昭和四八年一二月一二日大法廷判決が述べるとおり、採用の自由も
「法律その他による制限」に服するのであって、労働組合法七条は採用における差
別を不当労働行為として禁止しているものと解されること、本件採用は、新規採用
の法形式がとられたとはいえ、典型的な新規採用の場合とはその性質を異にするも
のであることから、採用の自由に関する法理を本件に適用することは相当ではな
い。
3 予備的主張
 設立委員は、国鉄の行った採用候補者の選定及びその名簿の作成の過程におい
て、労働組合の所属等による差別的取扱いと目される行為があったことを認識し、
又は認識し得たものと推認される。
 また、設立委員は、国鉄の行う採用候補者の選定過程において、所属労働組合等
による差別等が行われることのないよう指導、監督する権限と義務を有し、国鉄に
よる不当労働行為の行われたことが認められる場合は、少なくとも採用の基準に合
致するよう、その是正を促し、又は指示する権限と義務を有すると解するのが相当
である。
 設立委員は、昭和六二年二月一二日に開催された第三回設立委員会において、国
鉄から報告された採用候補者の選定結果をそのまま了承し、同日付けで設立委員会
委員長名の採用通知を国鉄を通じて交付した。
 設立委員は、国鉄の採用候補者の選定及びその名簿の作成の過程において、労働
組合の所属等による差別的取扱いと目される行為があったことを認識していたか、
少なくとも認識し得たものと推認されるにもかかわらず、是正に向けた措置を何ら
執らず、国鉄の作成した名簿をそのまま受け入れて採用決定を行ったのであるか
ら、このような観点からも不当労働行為の責任を負うべきものである。
三 補助参加人らの主張
1 不当労働行為に対する救済命令制度は、労働者の団結権及び団体行動権の保護
を目的とし、使用者による団結権侵害行為に対し労働委員会がその是正、回復を図
るため行政処分を行うものであるから、労働組合法七条にいう「使用者」の意義
は、私法上の権利義務の範疇でとらえられるべきではなく、この制度の趣旨に適う
ように解すべきである。右「使用者」の意義については、これを広く解し、労働者
と直接労働契約関係にある者でなくても、現実的かつ実質的に労働関係上の諸利益
に影響力ないし支配力を行使している者と解する立場と、労働組合法が助成しよう
とする団体的労使関係上の一方当事者たる使用者を意味するとした上で、労働契約
関係ないしそれに近似ないし隣接する関係を基盤として成立する団体的労使関係上
の一方当事者を意味すると解する立場等があるが、労働契約上の使用者に限られな
いことについては、判例、労働委員会の命令、学説の一致して認めるところであ
る。
 そこで、問題は、企業が労働者を採用する場合に、その企業が労働組合法七条に
いう、「使用者」当たるかであるが、この問題は、実際には、営業譲渡、会社の解
散、新会社の設立、合併等の企業の変動があった場合において、新企業主体の使用
者性を認めることができるか否かという問題として提起される。このような場合に
従来の事業、業務を引き継いでいる新企業主体の使用者としての責任を問えないな
らば、不当労働行為による侵害の回復はできなくなる。営業譲受会社、合併予定の
相手方会社、倒産後の新設会社だけが、現に復帰すべき職場を有し、原状回復能力
を有しているのであり、旧会社との実質的な関係からしてその責任を負うべき十分
な理由がある。
 このような場合に労働委員会が採った手法はいわゆる実質的同一性論である。た
だし、企業の変動に伴う問題のすべてが実質的同一性の理論によらなければ解決で
きないわけではなく、新会社による採用拒否の不当労働行為性を認めることによっ
て救済することも可能である。
 形式上の法人格が国鉄から原告ら各社へ変動し、また、原告ら各社への不採用と
いう不作為の形がとられた本件においても、設立委員は、労働組合法七条にいう
「使用者」に当たるというべきである。改革法は、国鉄の事業の再建を目的として
おり、その手段として国鉄の事業を新しく設立する会社に承継させることとしてお
り、同法二三条に基づく職員の採用手続においても所属労働組合による差別の禁止
が貫かれるべきことは、国会決議を待つまでもなく当然のことである。仮に純然た
る新規採用について不当労働行為の成立を否定する立場に立ったとしても、設立委
員とその募集に応じた国鉄職員との間には労働契約関係が成立する現実的かつ具体
的な可能性があったから、設立委員は右「使用者」に当たる。また、設立委員は、
新会社の職員となる者の労働条件及び採用の基準を決定する等の権限を有していた
のであるから、「使用者」に当たるのは当然のことである。
2 国鉄と原告らとの企業の実態としての同一性、連続性は、次のような実態から
明らかであり、本件不当労働行為については、自己責任の点からも原状回復能力の
点からも原告ら以外に責任主体は存存しない。
(一) 国鉄の事業、業務がそのまま承継法人に引き継がれたものであることは、
改革法自体がこれを「引き継がせる」と規定していることからも自明のことであ
る。
(二) 承継法人の事業に要する資産、すなわち、土地、建物、車両、レール等
は、すべて国鉄から帳簿価格で承継されたものであり、国鉄の債務もまた、清算事
業団が処理するとされたものを除いて承継された。
(三) 株式会社とされた承継法人の株式は、国鉄が全額出資し、清算事業団が一
〇〇パーセント有することとされた。また、会社運営上重要な事項は、ほとんどす
べて運輸大臣の認可にかかっている。
(四) 承継法人の役員も旧国鉄幹部が大部分を占め(例えば、原告東日本発足時
の常勤取締役一四名のうち一二名は国鉄出身者で占められ、原告日本貨物でも常勤
取締役八名中五名が国鉄出身者であった。)、それ以外はほとんど運輸省出身者で
あり、民間からの役員は極めて少ない。
(五) 承継法人の管理職も現場管理者も、すべて国鉄の管理職・管理者がそのま
ま移行し、労務政策・労務管理の担い手も従来と変わったところはない。
(六) 承継法人の従業員も、外部からの公募は全くなく、すべて旧国鉄職員で構
成された(改革法二三条一項から三項まで)。
(七) 労働条件も、基本的に国鉄のそれが踏襲され、発足時の基本給も国鉄と同
水準のものであり、退職手当は国鉄からは支給されずに、国鉄の在職期間を承継法
人のそれと通算することとされ(改革法二三条六項から七項まで)、有給休暇の付
与日数の算定でも同様の方法がとられ、国鉄時代の懲戒処分の結果や国鉄時代の行
為に対する懲戒権限までもが承継法人に引き継がれた(改革法施行法二九条一
項)。国鉄時代の履歴カードや職員管理調書等も受け継がれた。
(八) 国労敵視を中心とする労務政策も、国鉄時代と承継法人とで変わることな
く一貫している。
(九) 国鉄から承継法人への移行過程においても、各承継法人の就業規則や労働
協約案の作成を含め、国鉄内に設けられた設立移行準備室が承継法人の設立及び業
務遂行の準備を行った。
(一〇) 承継法人の共通設立委員にはP27国鉄総裁その人が加わっており、 し
かも設立委員会事務局は実質的には国鉄職員によって担われた。
 国鉄改革の目的の一つが「過剰な要員体制を改める」、すなわち、人員整理にあ
ったことは、国鉄再建監理委員会答申でも明らかであるが、改革法は、そのための
手段として、形式的には「解雇」という形をとらずに「採用」という形をとった。
しかし、国鉄と原告らとをその実質に即して同一の企業体として把握すれば、原告
らへの不採用とは解雇にほかならないから、その当労働行為責任を原告らに帰せし
めるのは当然のことである。
3 原告らは、採用候補者名簿を作成したのは国鉄で、設立委員はそれに関与して
いないとして責任を否定するが、国鉄は新会社の唯一の株主であり、共通設立委員
の一人であるP27設立委員が名簿を作成した国鉄の総裁であり、設立委員会事務局
職員の多くは国鉄職員であり、設立委員は、国鉄による名簿作成がどのような基準
で行われているかを現実に把握していたのであるから、国鉄の行為を設立委員の行
為と評価して設立委員の責任を肯定するのは当然のことである。
 旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律附則二条一項は、設立
委員に会社の設立に関して発起人の職務を行わせることとし、同条二項は、「設立
委員は、前項及び日本国有鉄道改革法(中略)第二十三条に定めるもののほか、当
該会社がその成立の時において事業を円滑に開始するために必要な業務を行うこと
ができる。」と規定しているから、設立委員に不当労働行為責任がある場合、その
責任は原告らに及ぶ。
4 設立委員に不当労働行為責任があることは、次の理由からも肯定できる。
 改革法二三条は、継承法人の職員採用手続を定めたものである。企業の採用行為
は、採用に向けて、それ目的とした募集、応募者の選考、採用決定という一連の行
為を積み重ねることにより行われる。改革法二三条の国鉄による採用候補者の選定
及びその名簿の作成は、右一連の行為の中の応募者の選考にほかならず、もともと
採用主体である設立委員が行う行為であるが、便宜上の理由から国鉄が事実上補助
するにすぎない。同条は、採用行為の主体が設立委員であることを明示しており、
設立委員が「国鉄を通じ」職員の募集を行い(同条一項)、国鉄が意思確認、採用
候補者の選定及びその名簿の作成を行い、名簿を設立委員に提出する(同条二項)
のは、いずれも設立委員が最終的に行う採用決定行為に向けての準備行為であり、
もともと採用の権限に属し、あるいはその主体に対する結果報告の性質を有するも
のである。
5 改革法二三条二項については、法案の国会の審議において、国鉄自身が採用候
補者の選定の判断、決定権限を持つことにならないかが最大の焦点となった。国鉄
は、その職員との関係では使用者の立場にあり、職員の組合活動状況等を知悉し、
分割民営化をめぐってこれに反対する国労と激しく対立していたから、承継法人の
採用候補者の選定の判断、決定権限を与えられれば、組合差別を行う危険があっ
た。従来の使用者が組合活動を理由に採用妨害をしてはならないことは、労働基準
法二二条、労働組合法七条、憲法二二条、二七条、二八条によって定立された公序
である。改革法二三条は、この公序に反しないように解釈されなければならないの
であり、国鉄が採用候補者の選定の判断、決定権限を有しその専権によりこれを遂
行すると解することはできない。
 改革法二三条二項は、国鉄が、採用の基準に従い、その職員となるべき者を選定
し、その名簿を作成すると規定している。国鉄が採用候補者の選定を行うのは、あ
くまでも設立委員の採用の基準の適用、当てはめとして行うのである。国鉄の職員
に対して提示されたのは、設立委員の採用の基準のみであり、採用、不採用の結果
はその採用の基準への当てはめの結果としてのみ、国鉄の職員に示される。国鉄の
職員に対して国鉄の作成した名簿に登載されたか否かが示されることはなく、名簿
への登載の有無は採用者側の内部事情にすぎないから、法的には設立委員の採用に
関する行為に包含されるべきものである。実際には、設立委員の策定した採用の基
準は、かなり一般的、抽象的なものであり、国鉄は、この採用の基準の適用とし
て、一定の停職処分歴を有する者を名簿から除外する等のことを行っているが、法
律上は、この具体的内容も設立委員の採用の基準の内容として理解されるものであ
り、設立委員がその採用の基準の範囲内であると判断、理解することによっての
み、国鉄は、その「採用の基準に従い」、採用候補者の選定及びその名簿の作成を
行ったことになる。
 改革法二三条は、右のように国鉄が設立委員の採用の基準に従うべきことを規定
しており、設立委員は、その採用の基準どおりに適用されるべきことを確保する責
任を負い、権限を有する。もし、国鉄が女性を排除した男女差別の名簿を作成した
とすれば、設立委員はこれを是正すべき義務を負うことに異論はないであろう。改
革法の国会審議においても、採用は、設立委員が自主的に決めるものであることが
強調された。政府が作成した「国鉄改革のスケジュール」という文書においても、
設立委員が「職員選考」、「採用者決定」を行い、国鉄の名簿作成の内容は、「集
計、分析、調整」であるとされ、その旨の国会答弁も繰り返された。その上で、国
鉄の地位は、設立委員の行うべき事務を補助する立場であること等が明確にされ
た。さらに、改革法施行規則一二条二項は、名簿には、当該名簿に記載した職員の
選定に関し判断の基礎とした資料を添付するものとする旨規定しており、実際そう
されたが、これは、設立委員が、国鉄による採用候補者の選定及びその名簿の作成
が採用の基準に従って適正に行われたか否かを審査し、判断するものであることを
前提にしている。
 以上によれば、改革法は、設立委員に対し、客観的、かつ、公正な採用選考を確
保すべき権限と義務を付与したものと解すべきであり、その中には当然、国鉄によ
る採用候補者の選定及びその名簿の作成に対する監督、是正権限が含まれると解す
べきものである。その行使は、設立委員自身の法的責任であった。
6 本件各命令は、右に述べた、設立委員が採用についての最終的な決定権限を有
すること、国鉄の採用候補者の選定及びその名簿の作成の権限と設立委員の採用決
定の権限との関係(国鉄の行為の法的性格)、国鉄と原告らとの関係などを考察
し、改革法は実行行為に限って採用候補者の選定事務を国鉄に行わせたとみられ、
かつ、設立委員のなすべき手続の一部をゆだねられた国鉄の立場は、設立委員の補
助機関の地位にあったのであり、国鉄が行った採用候補者の選定及び採用候補者名
簿の作成の過程において、労働組合の所属等による差別的取扱いと目される行為が
あり、設立委員がその採用候補者名簿に基づきそのまま名簿登載者全員を採用予定
者として決定して採用を通知した結果、それが不当労働行為に該当すると判断され
る場合、その責任は設立委員に帰属すると判断したのであって、右は正当な判断で
ある。
7 一般の新規採用についても、労働組合の組合員であること又は組合活動をした
ことを理由として採用を拒絶し、又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働
組合から脱退することを雇用条件とすることは、不当労働行為に該当する。
 のみならず、改革法に基づく採用手続は、一般の新規採用とは基本的に性格が異
なる。改革法は、累積した国鉄の赤字対策等の経営改善の要請と、国鉄に雇用され
る職員らの雇用確保の要請との間での政策的解決として立法された。法の名にも表
われる「国鉄の改革」は、国鉄の鉄道事業を承継する原告ら新事業体の設立、新事
業体への国鉄労働者の振り分けとから成る。
 新事業体への国鉄労働者の振り分けのための「採用」手続は、改革法所定の手続
によって行われるべきものであり、次の点で公衆に対する募集、公衆からの採用と
異なる。
(一) 新事業体が「採用」するべき国鉄職員の数は、経営改善、雇用確保の両面
から検討した数として運輸大臣が改革法一九条に基づき定める基本計画により決定
される。
(二) 新事業体に「採用」される労働者は、国鉄職員の新事業体への振り分けと
いう法の趣旨により、国鉄職員のみが対象である(改革法二三条一項)。国鉄職員
は、国鉄から退職金規程による退職金等の支給を受けず、在職期間は国鉄所属の期
間と通算され(同条六、七項)、原則として国鉄当時のものに対応する新事業体の
職名、職階において就労する。
(三) 単一事業体である国鉄の事業を複数事業体に分割し、特に旅客鉄道事業に
ついては、地域別に六個の新事業体が設立されるという法の基本構造から、個々の
国鉄職員を複数の新事業体のどれに振り分けるかという問題が生じる。そのため、
国鉄職員に対しては、「採用」に先立って、どの事業体に振り分けられる意思を持
つかについての確認をすることが法定され(改革法二三条二項)、また、その申告
にあたっては、第一希望のみならず、第二希望以下も記載し得ることとなってい
た。
(四) 設立委員は、「採用」に先立ち、採用の基準及び労働条件を明示すること
とされた(改革法二三条一項)。この労働条件は、原則として国鉄時代の労働条件
を踏襲して定められている。
 以上のように、改革法による国鉄職員の「採用」手続は、①新事業体への雇用労
働者の振り分けの目的によるものであり、事業主体の法形式が新規であること以外
に、雇用関係の新規性は実質として伴わない、②「国鉄改革」の趣旨と異なる目的
の取扱いを許すものではない、③「採用」数の公定、設立委員による採用の基準及
び労働条件の公表など、手続の公正担保の目的により、手続の透明性を確保すべき
ことが法で定められ、これによって「採用」する側の裁量は基本的に制約されてい
た、等の特徴点を有し、これらの点は、一般企業の新規採用とは異なるものであ
る。
 国鉄と原告らとは、その事業、業務の同一性、資産、債務の承継、株式保有関
係、役員・管理職の共通性・同一性、従業員の同一性、労働条件の引き継ぎ等、企
業実態としても、労使関係においても、同一性・連続性が明らかである。法形式が
「採用」「不採用」とされても、その実質は、現実には余剰人員の整理解雇にほか
ならない。
 よって、改革法二三条に基づく採用は、一般企業の新規採用と区別されるべきで
あり、設立委員は一般の新規採用の場合の採用の自由を有しないと解すべきであ
る。
8 予備的主張
(一) 改革法二三条によれば、採用の基準の決定及び採用の権限は設立委員にあ
り、国鉄は設立委員の提示した採用の基準に従って名簿を作成すべき義務がある。
設立委員は、国鉄による採用候補者の選定及びその名簿の作成が採用の基準に合致
しているか否かを実質的に審査し、合致していない場合は国鉄に採用候補者の選定
及びその名簿の作成の是正を求める権限を有する。改革法施行規則一二条二項が、
「名簿には、当該名簿に記載した職員の選定に関し判断の基礎とした資料を添付す
るものとする。」と定めているのも、このような設立委員の権限行使を実効的に担
保する趣旨であると解される。
(二) 設立委員の定める採用の基準は、客観的かつ公正なものでなければなら
ず、労働組合法七条の定める不当労働行為の禁止の公序も採用の基準に含まれる。
参議院国鉄改革特別委員会附帯決議はこのことを確認している。したがって、国鉄
は、採用候補者の選定及びその名簿の作成にあたって、職員を所属組合によって差
別してはならず、設立委員は、国鉄の作成した名簿に不当労働行為と目される行為
があった場合には、採用の基準に反するものとして、国鉄に対し、その是正を命ず
る権限を有し、義務を負う。設立委員が右作為義務を履行しなかった場合には、採
用候補者の選定、不採用者の排除は設立委員のした行為と評価されることになる。
(三) 国鉄は、分割・民営化の過程おいて、国労敵視の言動を繰り返し、本件各
救済申立て対象者について、国労の組合員であるが故に名簿に登載しないという不
当労働行為を行い、採用の基準に反する行為を行った。設立委員は、国鉄による採
用候補者の選定及びその名簿の作成に関してこのような不当労働行為と目される行
為があったことを認識していたにもかかわらず、何らの是正措置を執ることなく、
提出された名簿をそのまま承認して採用通知を発し、その結果、本件各救済申立て
対象者は不採用とされた。設立委員のこのような行為は、不当労働行為を是正すべ
き義務に反したものであるから、設立委員は、国鉄による採用候補者の選定及びそ
の名簿の作成について、これ自ら行ったものと評価され、その不当労働行為責任は
原告らに帰属する。
(四) 改革法二三案に基づく採用が一般企業の新規採用と区別されるべきであ
り、採用の自由の適用の基礎を欠くことは前述したが、仮定主義として、労働組合
法七条一号の黄犬契約と同視できるよう採用拒否については、不当労働行為の成立
が肯定されるべきであり、本件不採用は、その場合にも該当することを主張する。
 国鉄当局は、国労の弱体化・壊滅を企図し、改革法案上、採用候補者の選定及び
その名簿の作成を行うという立場にあって、分割・民営化時点で大量の人員が新会
社から排除されるということを最大のてことして、国労にいては新会社に採用され
ないという強制的威嚇を行い続けた。それは、あるいは国労を孤立化させる労使共
同宣言であり、あるいは国鉄幹部の他労組との蜜月の誇示であり、あるいは国労へ
の敵視をあからさまにする言動・宣伝であり、あるいはそれを受けた現場での脱退
工作であり、あるいは人材活用センターに象徴的に示される不採用候補者の名指し
と隔離等であって、手段の限りを尽くして展開された。国労の組合員は、不採用を
覚悟で国労に残るか、国労を脱退して採用される途を選ぶかの極限的な選択を迫ら
れていった。
 このような国鉄の行為は、実質的にみて国労の組合員でないことを募集・採用の
条件としたものということができ、黄犬契約禁止条項に該当し、又はこれと同視し
得るものとして、不当労働行為に当たる。
第四 当裁判所の判断
一 処分理由の変更(予備的主張の追加)について
1 原告らは、被告が処分理由を変更していないと主張するが、被告が予備的、追
加的に処分理由を変更したことは本件訴訟の審理の経過に照らして明らかである。
原告らの右主張は理由がない。
2 処分理由の変更の可否
 原告らは、被告がその命令の取消訴訟において救済命令の理由と異なる事由を主
張することができないと主張するので、まず、この点について判断する。
 一般に、行政処分の取消訴訟における訴訟物は当該処分の違法性一般であると解
されており、右取消訴訟において被告行政庁が原処分の理由と異なる理由を主張す
ることは、それによって処分自体の同一性を害することになる場合を除き、原則と
して許されるものと解されている。救済命令についても、これを別異に解すべき理
由はないから、その取消訴訟において救済命令の理由を変更することは許されるも
のと解するのが相当である。
(一) まず、救済命令については、いわゆる実質的証拠法則の適用はないと解さ
れるから、その観点から、労働委員会のした認定と異なる主張が妨げられることは
ない。
(二) 次に、救済命令において示された理由は、労働委員会が当事者双方の攻撃
防御を尽くした結果に基づいてした判断であり、法により理由の明示が求められて
いるものであるから、その理由と異なる主張をすることは許されないのではないか
が問題になる。
 一般に、一定の争訟手続に従い、当事者をその手続に関与させて当事者間の紛争
を解決する目的でされた行政処分は、当該処分行政庁も、法に特別の規定がない限
り、これを取り消し又は変更することができない拘束を受けるものと解されてお
り、労働委員会の発する命令についても右に述べた不可変更力が生ずるものと解す
るのが相当であるが、それ以上に、処分理由についてまで、取消訴訟において労働
委員会が拘束されると解すべき根拠は乏しいといわざるを得ない。救済命令の取消
訴訟において原告は新たな主張立証をすることができると解されており、それとの
権衡上労働委員会に理由の変更を認めるのが相当である。取消訴訟において理由を
変更すれば救済命令を維持できる場合に、その根拠となる事実自体は客観的には存
在していたにもかかわらず、救済命令の理由を変更できず、その結果裁判所によっ
て救済命令が取り消され、その取消しの理由に沿って再度救済命令を発する必要が
あると解することは、不当労働行為による侵害に対して迅速に回復、是正を行うべ
き救済命令制度の趣旨を損なうように思われる。労働委員会の審問の際に十分攻撃
防御が行われなかった点については、取消訴訟の審理において不意打ちとならない
よう十分防御の機会が与えられれば足りるものというべきである。
 また、法により理由付記が求められている場合に理由の変更が許されなくなるこ
とがあるかは、一つの問題ではあるが、少なくとも理由付記の要請から一律に理由
の変更が許されなくなるものではなく、その趣旨に照らして理由の変更が許されな
くなると解すべきか否かを判断すべきである。救済命令については、労働組合法二
七条四項、同法二六条、労働委員会規則四三条二項四号により理由付記が必要とさ
れているが、理由の変更が許されなくなると解する根拠は見出し難く、またそのよ
うに解するのが相当でないことは、右に述べたところと同様である。
 よって、原告らの前記主張は理由がない。
二 被告及び補助参加人らの主位主張の当否について
 本件各命令は、設立委員が採用に関する最終的な権限と責任を有すること等を理
由に、国鉄が採用候補者の選定及びその名簿の作成に当たり、組合差別の意思で本
件各救済申立て対象者を除外し、設立委員が当該名簿に基づいて採用を決定したこ
とが不当労働行為を構成するとするものであるから、国鉄が採用候補者名簿に登載
しなかったことは設立委員による採用に関する行為の一部であり、これに包含され
る関係にあるものととらえ、その責任が設立委員に帰属するとするもので、要は、
設立委員が採用しなかったことが不当労働行為に当たるとするものである。また、
補充的に、事業の承継等を理由に、国鉄が採用候補者の選定及びその名簿の作成を
行うに当たってした差別的取扱いの不当労働行為責任が原告らに帰属するとしてい
るから、国鉄が不利益取扱いをしたことの不当労働行為責任が原告らに承継される
との判断も包含されているものと解される。労働委員会の命令に対する取消訴訟
は、不当労働行為を構成する具体的事実についての労働委員会の判断の違法性一般
を訴訟物とするから、右に述べた「設立委員が採用しなかったこと」及び「国鉄が
採用候補者の選定及びその名簿の作成を行うに当たって不利益取扱いをしたこと」
という事実は、問題とされる具体的な不当労働行為が何かを決定し、本件訴訟の訴
訟物を特定する上で重要な要素である。
 被告及び補助参加人らは、その主位的主張として、第三において摘示したとおり
主張し、国鉄の採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成過程における不当労働
行為の責任は、国鉄の不当労働行為についての設立委員の認識の有無を問わず、承
継法人の職員の採用に関する最終的な権限と責任を有する設立委員に帰属すると主
張する。
1 設立委員の採用に関する行為の法的性質について
 そこで、まず、設立委員の採用に関する行為の法的性質について検討する。
 改革法は、国鉄による鉄道事業その他の事業の経営が破綻し、公共企業体による
全国一元的経営体制の下においてはその事業の適切かつ健全な運営を確保すること
が困難となっている事態に対処すべく、輸送需要の動向に的確に対応し得る新たな
効率的な経営体制を確立するための国鉄の抜本的な改革に関する基本的な事項につ
いて定めることとしており(一条)、これを受けて、同法一九条は、運輸大臣は、
国鉄の事業等の承継法人への適正かつ円滑な引継ぎを図るため、閣議の決定を経
て、その事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継等に関する基本計画を定め(一
項)、その基本計画においては、国鉄の職員のうち承継法人の職員となるものの総
数及び承継法人ごとの数について定めることとしている(二項三号)。右のとお
り、承継法人の職員については、承継法人に引き継がせる事業等は、承継法人に承
継させる資産、債務、権利、義務と区別されているのであって(同条二項一号、二
号、四号、三項から四項までと対比)、事業等の引継ぎについては、同法一九条五
項の認可を受けた実施計画(承継計画)において定められた国鉄の事業等は、承継
法人の成立の時において、それぞれ、承継法人に引き継がれるものとされ(同法二
一条)、権利及び義務の承継についても、承継法人は、それぞれ、承継法人の成立
の時において、国鉄の権利及び義務のうち承継計画において定められたものを、承
継計画において定めるところに従い承継することとされているのに(同法二二
条)、承継法人の職員については、設立委員が承継法人の職員の募集、採用を行う
等の採用に関する規定が手当てされている(同法二三条)そして、同法一七条は、
国鉄の改革の実施に伴い一時に多数の国鉄の職員が再就職を必要とする事態を想定
し、同法一五条は、国鉄が承継法人に事業等を引き継いだ後に清算事業団に移行
し、承継法人に承継されない資産、債務等を処理するための業務等を行わせるほ
か、臨時に、その職員の再就職の促進を図るための業務を行うこととしている。
 改革法の右各規定と同法二三条とを併せて考えれば、改革法は、設立委員が承継
法人の職員の募集、採用を行うこととしており、かつ、設立委員から採用する旨の
通知を受けた者であって附則第二項の規定の施行の際現に国鉄の職員であるもの
は、承継法人の成立の時において、当該承継法人の職員として採用されることとし
ているのであって、これは、同条による採用を新規採用として行うものとする趣旨
であると解するのが相当である。
2 設立委員の採用に関する行為と採用の自由について
(一) 最高裁昭和四八年一二月一二日大法廷判決(民集二七巻一一号一五三六
頁)は、「憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、他方、
二二条、二九条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基
本的人権として保障している。それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環とし
てする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、い
かなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他によ
る特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであっ
て、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒
んでも、それを当然に違法とすることはできないのである。憲法一四条の規定が私
人のこのような行為を直接禁止するものでないことは前記のとおりであり、また、
労働基準法三条は労働者の信条によって賃金その他の労働条件につき差別すること
を禁じているが、これは、雇入れ後における労働条件についての制限であって、雇
入れそのものを制約する規定ではない。また、思想、信条を理由とする雇入れの拒
否を直ちに民法上の不法行為とすることができないことは明らかであり、その他こ
れを公序良俗違反と解すべき根拠も見出すことはできない。(中略)右に述べたよ
うに、企業者は、労働者の雇入れそのものについては、広い範囲の自由を有するけ
れども、いったん労働者を雇い入れ、その者に雇用関係上の一定の地位を与えた後
においては、その地位を一方的に奪うことにつき、雇入れの場合のような広い範囲
の自由を有するものではない。労働基準法三条は、前記のように、労働者の労働条
件について信条による差別取扱を禁じているが、特定の信条を有することを解雇の
理由として定めることも、右にいう労働条件に関する差別取扱として、右規定に違
反するものと解される。このことは、法が、企業者の雇傭の自由について雇入れの
段階と雇入れ後の段階との間に区別を設け、前者については企業者の自由を広く認
める反面、後者については、当該労働者の既得の地位と利益を重視して、その保護
のために、一定の限度で企業者の解雇の自由に制約を課すべきであるとする態度を
とっていることを示すものといえる。」と判示して、企業者の採用自由の原則を認
め、思想、信条を理由とする雇入れ拒否が違法とならないとしている。
(二) 右大法廷判決は、直接労働組合法七条ついて判示しているものではない
が、企業者が契約締結の自由を有し、いかなる者を雇い入れるかについて、法律そ
の他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれ決定することができ、特
定の思想、信条を有することを理由にその者の雇入れを拒んでも、それを当然に違
法とすることはできないとし、思想、信条を理由とする雇入れの拒否をもって直ち
に民法上の不法行為とすることができず、これを公序良俗違反と解すべき根拠も見
出すことはできないとし、企業者が、労働者の雇入れそのものについては、広い範
囲の自由を有するけれども、いったん労働者を雇い入れ、その者に雇用関係上の一
定の地位を与えた後においては、その地位を一方的に奪うことにつき、雇入れの場
合のような広い範囲の自由を有するものではないとし、法が、企業者の雇用の自由
について雇入れの段階と雇入れ後の段階との間に区別を設け、前者については企業
者の自由を広く認める反面、後者については、当該労働者の既得の地位と利益を重
視して、その保護のために、一定の限度で企業者の解雇の自由に制約を課すべきで
あるとする態度をとっていると判示しているのであるから、その趣旨にかんがみれ
ば、労働組合法七条についても、同条が労働契約締結前の段階と締結後の段階とを
区別し、前者ついては、「労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱
退することを雇用条件とすること」(一号)だけが不当労働行為を構成するものと
し、同条一号本文のその余の規定並びに同条二号から四号まではいずれも労働契約
締結後の段階を対象とするものと解するのが相当である。したがって、新規採用
は、「労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条
件とすること」(一号)に当たる場合を除き、不当労働行為に該当せず、労働者の
再採用の拒否、営業譲渡等の場合は、既に存する労働契約関係における不利益取扱
いとして不当労働行為該当性を肯定することができるか否かの問題として検討すべ
きである。
3 被告及び補助参加人らの主位的主張の当否について(その一)
 本件各命令が、「設立委員が採用しなかったこと」及び「国鉄が採用候補者の選
定及びその名簿の作成を行うに当たって不利益取扱いをしたこと」という事実をも
って不当労働行為と判断していると解すべきことは既に述べたとおりである(一一
五頁)。
(一) まず、本件各命令が「設立委員が採用しなかったこと」という事実をもっ
て不当労働行為と判断している点については、改革法二三条による採用が新規採用
の性質を有することは既に述べたとおりであるから、新規採用が労働組合法七条の
禁止する行為に該当しなければ、不当労働行為の成立を肯定することができない
が、同条が「労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを
雇用条件とすること」(一号)を除き、新規採用を不当労働行為として禁止してい
ないことは右に述べたとおりであるから、本件各命令が、「設立委員が採用しなか
ったこと」という事実をもって不当労働行為と判断していることは相当ではなく、
違法といわざるを得ない。
(二) 次に、本件各命令が「国鉄が採用候補者の選定及びその名簿の作成を行う
に当たって不利益取扱いをしたこと」という事実をもって不当労働行為と判断して
いる点については、前記のとおり、改革法が、承継法人の職員については、承継法
人に引き継がせる事業等、承継法人に承継させる資産、債務、権利、義務と区別
し、承継法人において国鉄の事業等を引き継ぎ、権利及び義務を承継することとし
たのと異なり、設立委員において承継法人の職員の募集、採用を行うこととし、同
法二三条に基づく承継法人の職員の採用を新規採用として規定しているから、この
こととの関係を検討する必要がある。法律が事業の承継、権利義務の承継、職員の
採用等を規定し、その手続を定めている場合に、法定の手続に従って行われた承継
法人の設立及びその職員の採用について、法律の規定内容を離れて、国鉄と原告ら
との間に実質的同一性があることを根拠に、原告ら不当労働行為責任を肯定するこ
とはできないからである。
 そこで、まず、同法二三条に基づく設立委員の採用の権限と国鉄よる採用候補者
の選定及びその名簿の作成について検討する。
4 改革法二三条に基づく設立委員の採用の権限と国鉄による採用候補者の選定及
びその名簿の作成について
 改革法二三条によれば、設立委員は、国鉄の職員に対し、承継法人の職員の労働
条件及び採用の基準を提示して、職員の募集を行い(同条一項)、設立委員の定め
た採用の基準は国鉄の行う採用候補者の選定の基準となり(同条二項)、国鉄から
提出された名簿に記載された採用候補者について採用するか否かを決定し(同条三
項)、承継法人の職員の採用について設立委員がした行為及び設立委員に対してな
された行為は、それぞれ当該承継法人がした行為及び当該承継法人に対してなされ
た行為とされる(同条五項)から、設立委員が承継法人の職員の募集、採用の主体
であり、採用の権限を有することは、同条の文言上も明らかである。他方、同条二
項は、「日本国有鉄道は、前項の規定によりその職員に対し労働条件及び採用の基
準が提示されたときは、承継法人の職員となることに関する日本国有鉄道の職員の
意思を確認し、承継法人別に、その職員となる意思を表示した者の中から当該承継
法人に係る同項の採用の基準に従い、その職員となるべき者を選定し、その名簿を
作成して設立委員等に提出するものとする。」と規定し、採用候補者の選定及びそ
の名簿の作成について、これを行う主体が国鉄であることを明示しているから、採
用候補者の選定及びその名簿の作成を行う主体が国鉄であることは同条の文言上否
定できない。そこで、設立委員の採用の権限と国鉄の採用候補者の選定及びその名
簿の作成の権限との関係が問題になるが、同条二項は、この点につき、採用の基準
に従い、その職員となるべき者を選定し、その名簿を作成すると規定しているの
で、採用の基準の意義を解明する必要がある。
 改革法二三条にいう採用の基準とは、設立委員が国鉄の職員に対して提示するも
のであり(同条一項)、労働条件と併せて募集条件を構成するとともに、採用候補
者選定の判断基準としての意義を有する(同条二項)。同条二項は、国鉄が、採用
の基準に従い、その職員となるべき者を選定し、その名簿を作成する旨を規定して
おり、その趣旨は、具体的な採用候補者の選定及びその名簿の作成を行う作業は膨
大な事務量となるため、短期間にこれをこなすことができるのは国鉄をおいて他に
はなかったことのほか、承継法人の職員の募集の対象は国鉄の職員のみで、これに
関する資料は国鉄が有しているため、国鉄にこれを行わせることが実際上便利であ
ると考えられたことによるものと解されるから、国鉄による採用候補者の選定は、
設立委員の定めた採用候補者選定の判断基準(採用の基準)を適用して具体的な採
用候補者の選定及びその名簿の作成を行うにとどまるものと解するのが相当であ
る。同条二項が、国鉄に、採用候補者選定の包括的、総合的な判断を行う権限をゆ
だねたと解すべき根拠はない。この採用候補者選定の判断基準には、採用される者
の資格要件だけでなく、承継法人の職員としてどのような人材を採用するのか、逆
に、資格要件を満たす者であっても採用対象から除外されるのはどのような者かの
選定(選別)の基準も含まれるものであって、このような採用候補者選定の判断基
準の決定は、採用行為の判断の核心にかかわるものであり、根幹をなすものである
から、同条は、採用の権限を有する設立委員がこれを採用の基準として定める権限
を有することとしたのであり、このように規定することは立法上当然の措置である
ように思われる。改革法は、国鉄による鉄道事業その他の事業の経営が破綻し、新
たな経営体制の確立が必要であるとの認識の下に、国鉄改革を実施することとした
のであるから、同法が、経営の行く末を左右することとなる職員の採用に関し判断
の核心にかかわる部分となる採用候補者選定の判断基準の決定を、経営を破綻させ
た国鉄の専権にゆだねたと解することは、当を得ないものといわざるを得ないので
あり、設立委員が大局的見地から採用候補者選定の判断基準を決定する権限を有す
るものと解するのが相当である。
 なお、日本国憲法八〇条一項は、「下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名し
た者の名簿によって、内閣でこれを任命する。」と規定し、裁判所法四〇条一項も
これを受けて「高等裁判所長官、判事、判事補及び簡易裁判所判事は、最高裁判所
の指名した者の名簿によって、内閣でこれを任命する。」と規定しているが、これ
は、憲法が司法権の独立を保障するために、最高裁判所に右指名の権限を特に付託
し、本来任命行為に包含され、その核心をなす任命候補者の選定という実質的な判
断権を、右の見地から、最高裁判所に確保する趣旨であって、裁判所法四二条から
四四条まで及び同法四六条は、任命資格、任命の欠格事由を定めているにすぎず、
任命の判断基準を定めているものではない。改革法二三条二項は、条文の体裁の上
で右と類似する面があるが、制度の趣旨が本質的に異なるから、同列に論ずること
はできない。
 したがって、国鉄は、設立委員の定めた採用の基準に従い、これを具体的に適用
して採用候補者の選定及びその名簿の作成を行うにとどまり、採用候補者の選定及
びその名簿の作成に当たり、設立委員の定めた採用の基準に反してはならないし、
設立委員の定めた採用の基準を離れて、これとは別に独自に採用の基準を定めるこ
とはできないが、設立委員の承認が得られる限り、設立委員の定めた採用の基準を
より具体化、明確化した適用基準を作成することはできるものと解するのが相当で
ある。他方、設立委員については、前記のとおり改革法が設立委員に採用の基準、
すなわち採用候補者選定の判断基準の決定権限を付与しながら、国鉄が採用の基準
に従って採用候補者の選定及びその名簿の作成を行ったか否かにつき、設立委員が
およそ審査することができないと解することは背理というほかないから、設立委員
は、国鉄から採用候補者名簿の提出を受けたときは、国鉄が採用の基準に反して採
用候補者の選定及びその名簿の作成を行った事実がないか大局的、概括的に審査
し、採用の基準に反して採用候補者の選定が行われたものと認めた場合は、国鉄に
対し、その是正を命ずることができ、国鉄が採用の基準を適用するにあたってより
具体化、明確化した適用基準を作成した場合は、それが採用の基準に適合するか否
かを審査することができるものと解するのが相当である。また、設立委員は、国鉄
から採用候補者名簿の提出を受けた際に、これに添付された資料(改革法施行規則
一二条二項)、国鉄の説明等から、国鉄が労働組合法七条に違反する違法な選定行
為及び名簿の作成を行ったものと認めた場合には、その是正を命ずる義務を負うも
のと解するのが相当である。
5 被告及び補助参加人らの主位的主張の当否について(その二)
 右の検討結果を踏まえ、本件各命令が「国鉄が採用候補者の選定及びその名簿の
作成を行うに当たって不利益取扱いをしたこと」という事実をもつて不当労働行為
と判断している点の当否について判断する。
 前記のとおり、改革法は、承継法人の職員については、承継法人に引き継がせる
事業等、承継法人に承継させる資産、債務、権利、義務と区別し、承継法人におい
て国鉄の事業等を引き継ぎ、権利及び義務を承継することとしたのと異なり、設立
委員において承継法人の職員の募集、採用を行うこととし、同法二三条に基づく承
継法人の職員の採用を新規採用として規定しているから、仮に、同法が、その規定
上、承継法人の職員の採用に国鉄を一切関与させず、設立委員において募集から採
用までのすべてを行うことと規定していたのであれば、現実には国鉄が採用に関す
る行為の一部に関与したとしても、単なる事実行為にすぎず、新規採用が労働組合
法七条の対象とされていない以上、不当労働行為に該当する余地はなかったものと
考えられる。
 しかし、同法は、承継法人において国鉄の事業等を引き継ぎ、権利及び義務を承
継することとした上で、国鉄に対し、採用候補者の選定及びその名簿の作成の権限
を付与し、その限度で国鉄を手続に関与させているのであるから、仮に、同法が国
鉄に採用候補者の選定に関する判断権限をその専権とし付与しているのであれば、
同法上の「採用」という用語にかかわらず、新規採用とはいえず、同法の全体的、
総合的解釈からすると、国鉄とその職員の雇用関係が減縮された形で承継されると
解する余地があるから、「国鉄が採用候補者の選定及びその名簿の作成を行うに当
たって不利益取扱いをしたこと」の不当労働行為責任が原告らに帰属すると解すべ
き場合があることを否定できないように思われる(その場合には、「設立委員の採
用に関する行為の法的性質について」一一六頁から一一九頁までに述べたことも改
める必要が生ずる。)。
 そこで、この見地から検討すると、既に述べたとおり、改革法は、国鉄に、採用
候補者選定の包括的、総合的な判断を行う権限(専権)をゆだねたものではなく、
国鉄は設立委員の定めた採用候補者選定の判断基準(採用の基準)を適用して具体
的な採用候補者の選定及びその名簿の作成を行うにとどまるものと規定しているの
であり、承継法人の職員としてどのような人材を採用するのか、逆に、資格要件を
満たす者であっても採用対象から除外されるのはどのような者かの選定(選別)の
判断基準の決定は、設立委員において、これを採用の基準として定めることとした
と解すべきであるから、同法は、設立委員が新規採用として承継法人の職員を採用
するという実質を自ら損なうようなことまでは規定していないものと解することが
できる。
 そうすると、本件各命令のように、「国鉄が採用候補者の選定及びその名簿の作
成を行うに当たって不利益取扱いをしたこと」という事実を根拠に、原告らに不当
労働行為責任が帰属すると解することはできず、この点に関する被告及び補助参加
人らの主張は採用することができない。
 結局、被告及び補助参加人らの主位的主張はすべて理由がない。
三 被告及び補助参加人らの予備的主張について
1 労働組合法七条一号は、「労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合か
ら脱退することを雇用条件とすること」を禁止している。
 右規定は、労働者が労働組合に加入せず、又は労働組合から脱退することを内容
とする特約は公序良俗に反して無効であるが、それが不当労働行為であることをも
明らかにして労働委員会による救済を受けられるようにする趣旨である。ここで
は、労働者に契約をもって前記の内容を強制することが憲法の保障する団結権を侵
害するものとして無効となることとしているのであり、ここに法の趣旨が表われて
いることに注意すべきである。使用者が自らの採用の自由の行使にとどまらず、相
手方に労働組合に加入しないように働きかけ、その結果労働組合に加入しないこと
を約束させることは、相手方に不当な制約を課し、もって団結権を侵害するもので
あるから、労働組合法はこれを禁止することとしたものであると解するのが相当で
ある。すなわち、採用の自由は保障されるが、使用者が採用の自由を手段にして団
結権の保障を積極的に侵害することは許されない。労働者が労働組合に加入しない
こと等を雇用条件とすることは、使用者が労働契約を締結しようとする者に対して
採用するための代償条件として、労働組合に加入しないよう働きかけることにほか
ならないのであり、使用者の組合嫌悪の意思が明確に外部に表示され、かつ、労働
契約を締結しようとする者に対し、採用する、しないを突きつけて労働組合に加入
しないこと等を約束させようという積極的な行為態様である点で、団結権の保障を
著しく侵害するものであるから、単なる採用の自由の発現にとどまらないものとい
うべきである。このように、労働組合法七条一号の前記規定は、憲法における団結
権の保障と企業者の雇用の自由の保障との調整を示すものにほかならない。
 労働組合法七条一号の前記規定の趣旨は以上のとおりであり、このような趣旨に
かんがみると、労働者が労働組合に加入しないこと等を募集条件とすることも、使
用者が採用の自由を手段にして団結権の保証を積極的に侵害するものである点で同
一であるから、前記規定にいう雇用条件に含まれるものというべきである。文理上
も「雇用条件とすること」と規定されていて、「雇用条件としたこと」とはされて
いないし、使用者となるべき者が募集条件として外部に表白する場合も、応募しよ
うとする者に対して労働組合に加入しないことを求めることによって不当な制約を
課し、もって団結権を侵害するものであるということができ、文字どおり雇用条件
とした場合と同様であるといえるからである。
 そして、この規定が憲法における団結権の保障と企業者の雇用の自由との調整を
示すものにほかならないと解すべきことからすると、改革法をもってしても労働組
合法七条一号の右規定の適用を排除することは許されないものと解するのが相当で
ある。
2 使用者において、「労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退
することを雇用条件とすること」(労働組合法七条一号)は、不当労働行為を構成
する。ここでいう雇用条件には募集条件も含まれることは既に述べた。
 改革法二三条に基づく採用については、設立委員が、募集条件であり、かつ、採
用候補者選定の判断基準としての意義を有する採用の基準を定め、これに従って募
集、具体的な採用候補者の選定が行われるのであるから、設立委員が組合差別を内
容とする採用の基準を定めた場合は、これが労働組合法七条一号の右規定の禁止す
る雇用条件を定めることに相当するものと解することができる。
 それでは、設立委員自身が国労の組合員でないことを採用の基準として定めたわ
けではなかったが、国鉄がその職員に対し、国労の組合員でないことを募集条件と
し、組合差別の意思で、国労の組合員を採用候補者から除外した場合はどうか。設
立委員が、採用候補者名簿に基づき、採用すべき者を決定するにあたり、国鉄の右
の意思、行為を知りながら、これを容認する意思で是正を命ずることなく放置した
ならば、そのような不作為は、設立委員自ら前記のような内容の採用の基準を定め
てこれを募集条件とし、不当労働行為を行ったことと同視でき、設立委員は、同様
に不当労働行為責任を負うものというべきではないか。これがここで検討すべき問
題点である。
 既に述べたとおり(一三三頁から一三四頁まで参照)、設立委員は、国鉄が採用
の基準に反して採用候補者の選定及びその名簿の作成を行った事実がないか大局
的、概括的に審査し、採用の基準に反して採用候補者の選定が行われたものと認め
た場合は、国鉄に対し、その是正を命ずることができ、国鉄が採用の基準を適用す
るにあたってより具体化、明確化した適用基準を作成した場合は、それが採用の基
準に適合するか否かを審査することができるものと解するのが相当である。また、
設立委員は、国鉄から採用候補者名簿の提出を受けた際に、これに添付された資料
(改革法施行規則一二条二項)、国鉄の説明等から、国鉄が労働組合法七条に違反
する違法な選定行為及び名簿の作成を行ったものと認めた場合には、その是正を命
ずる義務を負うものと解するのが相当である。設立委員には前記のとおり審査、是
正の権限、義務があるから、是正の義務を負っているにもかかわらずこれを履行し
なければ、自ら前記のような内容の採用の基準を定めてこれを募集条件としたこと
と同視できるものと解するのが相当である。設立委員が国鉄の差別的な意思、行為
を知りながら、これを容認する意思で是正を命ずることなく放置すれば、そのこと
によって不当労働行為の存在を肯定することができるであろう。
 このように、被告及び補助参加人らの予備的主張は、要するに、「設立委員が組
合差別を内容とする採用の基準を定めたこと」という事実(実際には、それと同視
できる具体的事実)をとらえ、これが、労働組合法七条一号が禁止する「労働者が
労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること」
に当たるとするものである。被告及び補助参加人らの主位的主張が、突き詰めれ
ば、「設立委員が採用しなかったこと」という事実及び補充的に「国鉄が採用候補
者の選定及びその名簿の作成を行うに当たって不利益取扱いをしたこと」という事
実をとらえていることになることは既に述べたとおりであり(一一五頁)、被告及
び補助参加人らの主位的主張と予備的主張とは、不当労働行為を構成する具体的事
実が異なるものである。
3 被告及び補助参加人らの予備的主張は、労働組合法七条一号が禁止する「労働
者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とするこ
と」に当たることを主張しているから、採用の自由を根拠にして、右主張に理由が
ないということはできない。労働組合法七条一号の右規定は、使用者が原則どおり
採用の自由を有する場合であっても、右規定に該当するような行為態様での採用の
自由の行使はこれを禁止しているのであり、右規定が「雇用条件とすること」を禁
止している限度では元々採用の自由は制約を受けているからである(採用の自由を
認めている前記の最高裁判所大法廷判決は、当然のことながらこのことを否定する
ものではない。)。
4 原告らは、第三、一、3のとおり主張しており、改革法二三条二項に基づく国
鉄による採用候補者の選定及びその名簿の作成は、国鉄がした行為であって設立委
員がした行為ではないこと、同法二三条五項は国鉄がした行為による不当労働行為
責任が承継法人に帰属しないことを明らかにしていることを根拠に、原告らがその
責任を負う余地はないと主張する趣旨と解される。
 しかしながら、被告及び補助参加人らの予備的主張は、設立委員が採用の基準を
定めたことと同視できる事実が不当労働行為に当たることを主張するものであり、
設立委員の権限として定められている行為をとらえているのであるから、原告らの
前記主張の前提とするところと異なっているのであり、原告らの前記主張を採用す
ることはできない。また、これを実質的に考えても、既に述べたとおり、労働組合
法七条一号にいう「労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退する
ことを雇用条件とすること」という規定は、憲法における団結権の保障と企業者の
雇用の自由との調整を示すものにほかならないと解すべきであるから、改革法をも
ってしても労働組合法七条一号の右規定の適用を排除することは許されず、原告ら
のように、本件のような場合に新企業体法人に国鉄の行為の責任を帰属させること
が資本充実の原則を害し、改革法の趣旨に反するとして、改革法が、このような結
果を排除する趣旨を含めて採用についての権限及び責任に関する規定を設けたもの
と解すべきであるということはできないし、旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株
式会社に関する法律附則二条一項、改革法二三条五項を根拠に、同様の結論を導く
こともできない。
5 そこで、設立委員が2に掲記した国鉄の募集に関する行為、選定行為等に違法
な点があったことの事実を認識していたか否かが問題になるが、設立委員が右事実
を認識することが可能であった事実が存すれば、他の間接事実と相まって、反証の
ない限り、設立委員が右事実を認識していたものと推認することができるから、結
局、国鉄が労働組合法七条に違反する違法な選定行為及び名簿の作成を行ったこ
と、設立委員が右事実を認識し又は認識可能であったことが立証命題となるという
ことができる。
 昭和六一年一二月一一日に決定された「東日本旅客鉄道株式会社の職員の採用の
基準」及び「日本貨物鉄道株式会社の職員の採用の基準」は、いずれも「日本国有
鉄道在職中の勤務の状況からみて、当社の業務にふさわしい者であること。」とい
う条項を含んでおり、この条項は、意味の補充、解釈の余地を多分に残していたも
のである。
 この点に関し、第二、二、3で認定したとおり、次の事実が認められる。
 すなわち、国鉄は、右条項の基準について、一定の重い処分を受けた者、具体的
には、昭和五八年四月以降の非違行為により停職六箇月以上の処分又は二回以上の
停職処分を受けた者は明らかに承継法人の業務にふさわしくない者という、採用の
基準をより具体化、明確化した適用基準を作成し、これに該当する者は採用候補者
から除外し、採用候補者名簿を設立委員会に提出した。そして、その際、名簿とと
もに「新会社の職員となるべき者の選定結果について」と題する書面(甲事件の乙
第九八号証の一、第五一一号証の一)を提出しており、同書面には、「3 新会社
の職員となるべき者の選定にあたっての考え方」という項目があり、「(3) 名
簿記載の具体的判断にあたっては以下のような考え方で対処した。(中略)② 在
職中の勤務の状況からみて、明らかに新会社の業務にふさわしくないと判断される
者については、名簿記載数が基本計画に示された数を下回る場合においても名簿に
記載しなかった。③ 派遣経験者、直営売店経験者、復職前提休職者など多方面の
分野を経験した者については、最大限名簿に記載した。」と記載されていた。設立
委員は、昭和六二年二月一二日に開催された第三回設立委員会において、国鉄から
報告された採用候補者の選定結果をそのまま了承し、同日付けで設立委員会委員長
名の採用通知を国鉄を通じて交付した。
 以上のとおり認められるのであるから、右の各事実からすると、国鉄は、採用候
補者名簿を設立委員会に提出した際、設立委員に対し、前記の採用の基準をより具
体化、明確化した適用基準の内容を右のとおり説明し、設立委員はこれを了承した
ことが推認できる。
 したがって、国鉄が実質上国労の組合員でないことを募集の条件としたといえる
かのほかに、より具体的に、国鉄が右適用基準を作成して採用候補者の選定及びそ
の名簿の作成を行ったことが、組合差別の意思で国労の役員その他の活動家と目さ
れる者を相当数除外したことにほかならないといえるか、設立委員は、そのことを
認識し又は認識可能であったかを更に検討すべきこととなる。
四 本件各命令を取り消す理由について
1 しかしながら、本件各命令は、その主文が前記のとおりであり、労働委員会が
救済措置として命ずることができる限度を超えている違法があるといわざるを得な
いから、右の各点を審理するまでもなく、これを取り消すほかはない。
 すなわち、不当労働行為によって発生した侵害状態を除去、是正し、正常な集団
的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るという救済命令制度の趣旨、目的に照ら
すと、設立委員が国鉄による募集にかかわる行為、採用候補者の選定及びその名簿
の作成にっき不当労働行為と目すべき行為があったことを認識していたにもかかわ
らず、これを容認する意思でその是正を命じず、もって前記作為義務に違反したこ
とが、設立委員が自らそのような差別的な内容の採用の基準を定めていた場合と同
視でき、設立委員の不当労働行為に当たるとした場合に、労働委員会が、救済措置
として命ずることができるのは、原告らに対し、国労の組合員でないことを採用候
補者の選定の基準としてはならない趣旨のことを命じた上で、救済対象者が採用候
補者として選定され、名簿に登載されたものとして、採用するか否かを改めて判断
し直すよう命ずることが限度であり、労働委員会が、その基準により採用候補者と
して選定されなかった者を採用された者として取り扱うことを命ずることはできな
いものと解するのが相当である。設立委員は、採用の基準を定める権限を有するだ
けではなく、承継法人で必要とする人員等を考慮し、国鉄によって採用候補者とし
て選定された者の中で、改革法の趣旨に照らし、誰を採用し、逆に誰を採用しない
こととするかの選択をすることができるのであり、承継法人である原告らも同様の
権限を有する地位にあるものと解するのが相当だからである。本件各命令は、「本
件においては、新規採用の法形式がとられたとはいえ、両会社の職員の採用に当た
って募集の対象が国鉄職員に限られる等、典型的な新規採用の場合とはその性質を
異にしている。しかも、(中略)本件採用対象者の不採用は不当労働行為に該当す
るのであるから、かかる場合の救済措置として、労働委員会が両会社にこれらの者
の採用を命じることには何ら問題はない。」とするが、本件各命令のように、不採
用をもって不当労働行為ととらえる主位的主張に理由がないことは既に述べたとお
りであり、予備的主張のように「設立委員が組合差別を内容とする採用の基準を定
めたこと」という事実(又はそれと同一視できる具体的事実)をもって不当労働行
為ととらえ、設立委員が前記作為義務に違反したか否かをする行為を不当労働行為
としてとらえるならば、前記の措置が限界となるというべきである。
 そうすると、本件各命令は、命じている救済措置が前記のとおりである以上、取
消しを免れず、本件訴訟で前記の各点について審理を行っても本件各命令を維持で
きる余地はないというほかはない。
2 より根本的には、主位的主張のように設立委員の不採用をもって不当労働行為
ととらえることと予備的主張のように「設立委員が組合差別を内容とする採用の基
準を定めたこと」という事実(又はそれと同一視できる事実)をもって不当労働行
為ととらえることとは、不当労働行為を構成する具体的事実が異なるのであり、そ
れ故に労働委員会が命ずることのできる救済措置の内容も1に述べたような問題が
生じることとならざるを得ないとすれば、右のどちらの不当労働行為をとらえるか
によって労働委員会の救済命令は異なる処分とならざるを得ないこととなる。そう
だとすれば、本件各命令の枠組みの中で被告及び補助参加人らの予備的主張の当否
についてこれ以上審理を行うことはできないといわざるを得ない。
五 文書の交付を命じている部分の取消しについて
1 本件命令一は、本件各救済申立て対象者のうちP5及びP6については、その主
文第Ⅰ項4号において、「昭和六二年四月一日の採用においては、当社の職員とし
て不採用とされた貴組合の組合員」であるP5及びP6について、不当労働行為に当
たる行為があったと中央労働委員会により認定された等の記載された文書の交付を
命じているにどどまり、補助参加人らのP5及びP6に関するその余の救済申立てを
棄却している。前記のとおり、被告は、設立委員が本件各救済申立て対象者を採用
しないことをもってこれが不当労働行為に当たるものとしており、その認定、判断
の下に、救済方法として右の文書の交付を命じているのであって、このことは、右
文書の記載内容からも明らかである。
 しかしながら、設立委員が本件各救済申立て対象者を採用しないことが不当労働
行為に当たる旨の被告及び補助参加人らの主位的主張を直ちに採用できないことは
既に述べたとおりであるし、また、仮に、被告及び補助参加人らの予備的主張に理
由があるとしても、前提となる不当労働行為の内容が異なる以上、被告が右のよう
な内容の文書の交付を命ずることはできないといわざるを得ない。
 よって、本件命令一の主文第Ⅰ項4号においてP5及びP6について右の文書の交
付を命じている部分についても、被告及び補助参加人らの予備的主張の当否につい
て判断する事もなく、取り消すべきである。
2 本件命令二は、本件各救済申立て対象者のうちP10、P13及びP14について
は、その主文第Ⅰ項4号において、「昭和六二年四月一日の採用においては、当社
の職員として不採用とされた貴組合の組合員」であるP10、P13及びP14につい
て、不当労働行為に当たる行為があったと中央労働委員会により認定された等の記
載された文章の交付を命じているにとどまり、補助参加人らのP10、P13及びP
14に関するその余の救済申立てを棄却しているが、右の文書の交付を命じている部
分についても、被告及び補助参加人らの予備的主張の当否について判断するまでも
なく、取り消すべきであることは、1で述べたことと同様である。
3 本件各命令は、1及び2に述べた部分以外にも、各主文第Ⅰ項4号において原
告らに文書の交付を命じているが、いずれも設立委員が本件各救済申立て対象者を
採用しないことが不当労働行為に当たることを前提とするものであり、その旨の被
告及び補助参加人らの主位的主張に理由がないこと、仮に、被告及び補助参加人ら
の予備的主張に理由があるとしても、前提となる不当労働行為の内容が異なる以
上、被告が右のような内容の文書の交付を命ずることはできないといわざるを得な
いことは、右1及び2に述べたことと同様である。
 また、本件各命令は、本件各救済申立て対象者に対する不当労働行為ごとにそれ
ぞれ一個の行政処分であり、本件訴訟の訴訟物はそれぞれ一個の行政処分としての
救済命令全体であって、本件各命令の各Ⅰ項4号の部分だけを切り離してその取消
しを求めることはできないものと解するのが相当であるから、この見地からいって
も、文書の交付を命じている部分についても他の救済措置の部分と併せて取り消す
こととすべきである。
七 結論
 よって、本件各命令について、いずれもそのうち主文第Ⅰ項の1号から4号まで
及び第Ⅱ項を取り消すこととし、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第一九部
裁判長裁判官 高世三郎
裁判官 三浦隆志
裁判官 中園浩一郎
 命令目録
一 被告が、昭和六三年(不再)第六八号事件及び同年(不再)第六九号事件(初
審神奈川地労委昭和六二年(不)第二二号事件)について、平成七年一〇月四日付
けで発した命令
(主文)
Ⅰ 本件初審命令主文を次のように改める。
1 再審査申立人東日本旅客鉄道株式会社及び同日本貨物鉄道株式会社(以下「両
会社」という。)は、本件初審命令別表2記載の再審査被申立人国鉄労働組合所属
組合員のうち、東日本旅客鉄道株式会社にあってはP1及びP2を、日本貨物鉄道株
式会社にあってはP3及びP4を、昭和六二年四月一日をもって当該会社の職員に採
用したものとして取り扱わなければならない(以下、両会社の職員に採用したもの
として取り扱われる上記四名を「本件採用対象者」という。)。
2 両会社は、上記第Ⅰ項を履行するに当たり、本件採用対象者の就労すべき職場
及び職種について、それぞれ、再審査被申立人らと協議しなければならない。
3 両会社は、本件採用対象者に対して、平成二年四月二日からこれらの者が就労
するまでの間、これらの者がその期間について、それぞれ、昭和六二年四月一日に
当該会社に職員として採用されていたならば得られたであろう賃金相当額の六〇パ
ーセントに相当する額を支払わなければならない。
4 両会社は、本命令交付後、速やかに再審査被申立人らに対して、それぞれ、次
の文書を交付しなければならない。

文書1
 昭和六二年四月一日の採用においては、当社の職員として不採用とされた貴組合
の組合員であるP1、P5及びP2については、不当労働行為に当たる行為があったと
中央労働委員会により認定されました。
 今後は、法令を遵守し、正常な労使関係の形成に努めます。
平成 年 月 日
国鉄労働組合
中央執行委員長 P28殿
国鉄労働組合東京地方本部
執行委員長 P29殿
国鉄労働組合東京地方本部横浜支部
執行委員長 P30殿
東日本旅客鉄道株式会社
代表取締役 P31 印
文書2
 昭和六二年四月一日の採用においては、当社の職員として不採用とされた貴組合
の組合員であるP3、P6及びP4については、不当労働行為に当たる行為があったと
中央労働委員会により認定されました。
 今後は、法令を遵守し、正常な労使関係の形成に努めます。
平成 年 月 日
国鉄労働組合
中央執行委員長 P28殿
国鉄労働組合東京地方本部
執行委員長 P29殿
国鉄労働組合東京地方本部横浜支部
執行委員長 P30殿
日本貨物鉄道株式会社
代表取締役 P32 印
5 再審査被申立人らのその余の本件各救済申立てを棄却する。
Ⅱ 両会社のその余の本件各再審査申立てを棄却する。
<81745-001>
二 被告が、平成元年(不再)第九一号事件(初審東京地労委昭和六二年(不)第
一二号事件)について、平成八年一月一〇日付けで発した命令
(主文)
Ⅰ 本件初審命令主文を次のように改める。
1 再審査申立人東日本旅客鉄道株式会社(以下「会社」という。)は、再審査被
申立人国鉄労働組合所属組合員のP11及びP12を、昭和六二年四月一日をもって会
社の職員に採用したものとして取り扱わなければならない(以下、会社の職員に採
用したものとして取り扱われる上記二名を「本件採用対象者」という。)。
2 会社は、上記第1項を履行するに当たり、本件採用対象者の就労すべき職場及
び職種について、再審査被申立人らと協議しなければならない。
3 会社は、本件採用対象者に対して、平成二年四月二日からこれらの者が就労す
るまでの間、これらの者がその期間について、それぞれ、昭和六二年四月一日に会
社に職員として採用されていたならば得られたであろう賃金相当額の六〇パーセン
トに相当する額を支払わなければならない。
4 会社は、本命令交付後、速やかに再審査被申立人らに対して、次の文書を交付
しなければならない。

 昭和六二年四月一日の採用においては、当社の職員として不採用とされた貴組合
の組合員であるP10、P11、P12、P13及びP14については、不当労働行為に当た
る行為があったと中央労働委員会により認定されました。
 今後は、法令を遵守し、正常な労使関係の形成に努めます。
平成 年 月 日
国鉄労働組合
中央執行委員長 P28殿
国鉄労働組合東京地方本部
執行委員長 P29殿
東日本旅客鉄道株式会社
代表取締役 P31 印
5 再審査被申立人らのその余の本件各救済申立てを棄却する。
Ⅱ 会社のその余の本件再審査申立てを棄却する。
三 被告が、平成二年(不再)第二九号事件(初審宮城地労委昭和六二年(不)第
四号事件)について、平成八年三月六日付けで発した命令
(主文)
Ⅰ 本件初審命令主文を次のように改める。
1 再審査申立人東日本旅客鉄道株式会社(以下「会社」という。)は、再審査被
申立人国鉄労働組合所属組合員P18を、昭和六二年四月一日をもって会社の職員に
採用したものとして取り扱わなければならない。
2 会社は、上記第1項を履行するに当たり、P18の就労すべき職場及び職種につ
いて、再審査被申立人らと協議しなければならない。
3 会社は、P18に対して、平成二年四月二日から同人が就労するまでの間、同人
がその期間について昭和六二年四月一日に会社に職員として採用されていたならば
得られたであろう賃金相当額の六〇パーセントに相当する額を支払わなければなら
ない。
4 会社は、本命令交付後、速やかに再審査被申立人らに対して、次の文書を交付
しなければならない。

 昭和六二年四月一日の採用においては、当社の職員として不採用とされた貴組合
の組合員であるP18について、不当労働行為に当たる行為があったと中央労働委員
会により認定されました。
 今後は、法令を遵守し、正常な労使関係の形成に努めます。
平成 年 月 日
国鉄労働組合
中央執行委員長 P28殿
国鉄労働組合東日本本部
執行委員長 P33殿
国鉄労働組合仙台地方本部
執行委員長 P34殿
東日本旅客鉄道株式会社
代表取締役 P31 印
5 再審査被申立人らのその余の本件各救済申立てを棄却する。
Ⅱ 会社のその余の本件再審査申立てを棄却する。
四 被告が、平成元年(不再)第一一二号事件(初審福島地労委昭和六二年(不)
第七号事件)について、平成八年五月八日付けで発した命令
(主文)
Ⅰ 本件初審命令主文を次のように改める。
1 再審査申立人東日本旅客鉄道株式会社(以下「会社」という。)は、再審査被
申立人国鉄労働組合所属組合員P20を、昭和六二年四月一日をもって会社の職員に
採用したものとして取り扱わなければならない。
2 会社は、上記第1項を履行するに当たり、P20の就労すべき職場及び職種につ
いて、再審査被申立人らと協議しなければならない。
3 会社は、P20に対して、平成二年四月二日から同人が就労するまでの間、同人
がその期間について昭和六二年四月一日に会社に職員として採用されていたならば
得られたであろう賃金相当額の六〇パーセントに相当する額を支払わなければなら
ない。
4 会社は、本命令交付後、速やかに再審査被申立人らに対して、次の文書を交付
しなければならない。

 昭和六二年四月一日の採用においては、当社の職員として不採用とされた貴組合
の組合員であるP20については、不当労働行為に当たる行為があったと中央労働委
員会により認定されました。
 今後は、法令を遵守し、正常な労使関係の形成に努めます。
平成 年 月 日
国鉄労働組合
中央執行委員長 P28殿
国鉄労働組合東日本本部
執行委員長 P33殿
国鉄労働組合仙台地方本部
執行委員長 P34殿
東日本旅客鉄道株式会社
代表取締役 P31 印
5 再審査被申立人らのその余の本件各救済申立てを棄却する。
Ⅱ 会社のその余の本件再審査申立てを棄却する。
五 被告が、平成二年(不再)第二号事件(初審静岡地労委昭和六二年(不)第一
号事件)について、平成八年五月八日付けで発した命令
(主文)
Ⅰ 本件初審命令主文を次のように改める。
1 再審査申立人は、P26を昭和六二年四月一日付けをもって再審査申立人の職員
に採用したものとして取り扱わなければならない。
2 再審査申立人は、上記第1項を履行するに当たり、P26の就労すべき職場及び
職種について、再審査被申立人らと協議しなければならない。
3 再審査申立人は、P26に対し、平成二年四月二日から同人が就労するまでの
間、同人がその期間について、昭和六二年四月一日に再審査申立人に職員として採
用されていたならば得られたであろう賃金相当額の六〇パーセントに相当する額を
支払わなければならない。
4 再審査申立人は、本命令交付後速やかに再審査被申立人らに対して、次の文書
を交付しなければならない。

 昭和六二年四月一日の採用においては、当社の職員として不採用とされた貴労働
組合の組合員であるP26については、不当労働行為に当たる行為があったと中央労
働委員会により認定されました。
 今後は、法令を遵守し、正常な労使関係の形成に努めます。
平成 年 月 日
国鉄労働組合
執行委員長 P28殿
国鉄労働組合静岡地方本部
執行委員長 P35殿
東海旅客鉄道株式会社
代表取締役 P36 印
5 再審査被申立人らのその余の本件各救済申立てを棄却する。
Ⅱ 再審査申立人のその余の本件再審査申立てを棄却する。
初審命令目録
一 神奈川県地方労働委員会が、神労委昭和六二年(不)第二二号不当労働行為救
済申立て事件について、昭和六三年一二月一六日に発した救済命令
(主文)
1 被申立人東日本旅客鉄道株式会社及び同日本貨物鉄道株式会社は別表2記載の
組合員の第一希望に応じ、次の措置を含め、同人ら九名を昭和六二年四月一日付け
で各被申立人の社員として採用したものとして取り扱わなければならない。
(1) 同人らの旧日本国有鉄道において就労していた本務である職務に相当する
職務に就かせること。
(2) 昭和六二年四月一日以降就労させるまでの間、同人らが受けるはずであっ
た賃金相当額(既に日本国有鉄道清算事業団から支払われた金額を除く)に年五パ
ーセントの割合による金員を加算して同人らに支払うこと。
2 被申立人らは、本件組合員の上記職務就労に伴う諸問題についての協議に、誠
意をもって応じなければならない。
3 被申立人東日本旅客鉄道株式会社は、本命令後速やかに、次の誓約書を申立人
に対して手交するとともに、縦二メートル、横三メートルの白色木板に鮮明に墨書
し、被申立人本社入口及び別表2記載の組合員のうちP1、P5、P2、P8及びP9が
勤務すべき各職場の見やすい場所に、き損することなく、一〇日間掲示しなければ
ならない。
誓約書
 昭和六二年四月一日に実施された日本国有鉄道の分割民営化に伴う承継法人の職
員の採用に関し、当社が貴組合員であるP1、P5、P2、P8及びP9を採用しなかっ
たことは、組合活動を理由とするものであり、神奈川県地方労働委員会が今般認定
しましたとおり、労働組合法第七条第一号及び同第三号に該当する不当労働行為で
ありました。よって、当社は、その責任を認め、原職相当職への就労など命令主文
の措置をとることを誓約します。
昭和 年 月 日
国鉄労働組合
 執行委員長 P37殿
国鉄労働組合東京地方本部
 執行委員長 P38殿
国鉄労働組合東京地方本部横浜支部
 執行委員長 P39殿
国鉄労働組合東京地方本部国府津支部
 執行委員長 P40殿 
 東日本旅客鉄道株式会社
 代表取締役 P41
4 被申立人日本貨物鉄道株式会社は、本命令後速やかに、次の誓約書を申立人に
対して手交するとともに、縦二メートル、横三メートルの白色木板に鮮明に墨書
し、被申立人本社入口及び別表2記載の組合員のうちP7、P3、P6及びP4が勤務
すべき各職場の見やすい場所に、き損することなく、一〇日間掲示しなければなら
ない。
誓約書
 昭和六二年四月一日に実施された日本国有鉄道の分割民営化に伴う承継法人の職
員の採用に関し、当社が貴組合員であるP7、P3、P6及びP4を採用しなかったこ
とは、組合活動を理由とするものであり、神奈川県地方労働委員会が今般認定しま
したとおり、労働組合法第七条第一号及び同第三号に該当する不当労働行為であり
ました。よって、当社は、その責任を認め、原職相当職への就労など命令主文の措
置をとることを誓約します。
昭和 年 月 日
国鉄労働組合
 執行委員長 P37殿
国鉄労働組合東京地方本部
 執行委員長 P38殿
国鉄労働組合東京地方本部横浜支部
 執行委員長 P39殿
 日本貨物鉄道株式会社
 代表取締役 P42 
二 東京都地方労働委員会が、東京地労委昭和六二年(不)第一二号不当労働行為
救済申立て事件について、平成元年八月一日に発した救済命令
(主文)
1 被申立人東日本旅客鉄道株式会社は、申立人国鉄労働組合および同国鉄労働組
合東京地方本部所属の組合員P10、同P11、同P12、同P15、同P13、同P43、同
P14、同P16および同P17に対し、次の措置を講じなければならない。
(1) 昭和六二年四月一日付で、同人らを被申立人会社の社員として採用したも
のとして取扱うこと。
(2)同人らが日本国有鉄道で就労していた原職もしくは原職相当職に就労させる
こと。
(3)昭和六二年四月一日から上記原職もしくは原職相当職に就労するまでの間に
被申立人会社が同人らに支払うべき賃金相当額と既に申立外日本国有鉄道清算事業
団が同人らに支払った金額との差額を支払うこと。
2 被申立人会社は、本命令書受領の日から一週間以内に、五五センチメートル×
八〇センチメートル(新聞紙二頁大)の白紙に、下記内容を楷書で明瞭に墨書し
て、被申立人会社の本社正面玄関の従業員の見易い場所に一〇日間掲示しなければ
ならない。

平成 年 月 日
国鉄労働組合
中央執行委員長 P37殿
国鉄労働組合東京地方本部
地方執行委員長 P38殿
東日本旅客鉄道株式会社
代表取締役 P41
 当社が、昭和六二年四月一日付けで貴組合所属の組合員P10、同P11、同P12、
同P15、同P13、同P43、同P14、同P16および同P17の各氏を採用しなかったこ
とは、いずれも不当労働行為であると東京都地方労働委員会において認定されまし
た。
 今後このような行為を繰り返さないよう留意します。
(年月日は掲示した日を記載すること。)
3 被申立人会社は、前各項を履行したときは、すみやかに当委員会に文書で報告
しなければならない。
三 宮城県地方労働委員会が、宮城地労委昭和六二年(不)第四号事件について、
平成二年二月二八日付けで発した救済命令
(主文)
1 被申立人東日本旅客鉄道株式会社は、申立人国鉄労働組合、同国鉄労働組合東
日本本部及び同国鉄労働組合仙台地方本部所属の組合員P18を昭和六二年四月一日
をもって被申立人会社の社員として採用したものとして取り扱わなければならな
い。
2 被申立人東日本旅客鉄道株式会社は、P18に対し、昭和六二年四月一日から同
人を同社に就労させるまでの問、同社に採用されていたならば得たであろう賃金相
当額(一時金を含む。)と申立外日本国有鉄道清算事業団において実際に支払われ
た賃金額(一時金を含む。)との差額を支払わなければならない。
3 被申立人東日本旅客鉄道株式会社は、申立人国鉄労働組合、同国鉄労働組合東
日本本部及び同国鉄労働組合仙台地方本部所属の組合員P19に対し、昭和六二年四
月一日から平成元年二月二八日に申立外日本国有鉄道清算事業団を退職するまでの
間、同社に採用されていたならば得たであろう賃金相当額(一時金を含む。)と申
立外日本国有鉄道清算事業団において実際に支払われた賃金額(一時金を含む。)
との差額を支払わなければならない。
4 被申立人東日本旅客鉄道株式会社は、申立人国鉄労働組合、同国鉄労働組合東
日本本部及び同国鉄労働組合仙台地方本部に対し、速やかに下記の文書を交付しな
ければならない。
 記
 昭和六二年四月一日に実施された日本国有鉄道の分割民営化に伴う承継法人の職
員の採用に関し、貴組合の組合員であるP19及びP18を採用しなかったことは、宮
城県地方労働委員会において、労働組合法第七条第一号及び同第三号に該当する不
当労働行為であると認められました。よって、再びこのような行為を繰り返さない
ようにいたします。
平成 年 月 日
国鉄労働組合
執行委員長 P37殿
国鉄労働組合東日本本部
執行委員長 P44殿
国鉄労働組合仙台地方本部
執行委員長 P45殿
東日本旅客鉄道株式会社
代表取締役 P41
5 申立人らのその余の申立ては、これを棄却する。
四 福島県地方労働委員会が、福島地労委昭和六二年(不)第七号事件について、
平成元年一〇月二四日付けで発した救済命令
(主文)
1 被申立人東日本旅客鉄道株式会社は、別表記載の六名(注 P21、P22、P
23、P24、P25及びP20を指す。別表は省略する。)の組合員を昭和六二年四月一
日付けで被申立人の社員に採用したものとして取り扱わなければならない。
2 被申立人東日本旅客鉄道株式会社は、別表記載の六名の組合員の就労すべき職
場及び職種について、申立人らと協議しなければならない。
3 被申立人東日本旅客鉄道株式会社は、昭和六二年四月一日以降別表記載の六名
の組合員を就労させるまでの間に、同人らが被申立人より受けるはずであった賃金
相当額(既に日本国有鉄道清算事業団から支払われた金額を除く。)を同人らに支
払わなければならない。
4 被申立人東日本旅客鉄道株式会社は、本命令書受領後速やかに、下記の文書を
申立人らに手交しなければならない。

平成 年 月 日
国鉄労働組合
執行委員長 P37殿
国鉄労働組合東日本本部
執行委員長 P44殿
国鉄労働組合仙台地方本部
執行委員長 P19殿
東日本旅客鉄道株式会社
代表取締役 P41
 当社が、昭和六二年四月一日付けで職員を採用するに当たり、貴組合の組合員P
21、P22、P23、P24、P25、P20を採用しなかったことは、福島県地方労働委員
会において、労働組合法第七条第一号及び同第三号に該当する不当労働行為である
と認められました。
 よって、ここにその責任を認め、今後このような行為を繰り返さないようにいた
します。
5 申立人らのその余の申立ては、これを棄却する。
五 静岡県地方労働委員会が、静岡地労委昭和六二年(不)第一号事件について、
平成元年一二月二七日付けで発した救済命令
(主文)
1 被申立人は、P26を昭和六二年四月一日付けで被申立人の職員として採用した
ものとして取り扱わなければならない。
2 被申立人は、P26に対し、昭和六二年四月一日以降就労させるまでの間、同人
が受けるはずであった賃金相当額と申立外日本国有鉄道清算事業団から実際に支払
われた賃金額との差額を支払わなければならない。
3 被申立人は、申立人らに対し、下記の文書を速やかに手交しなければならな
い。

国鉄労働組合
執行委員長 P37殿
国鉄労働組合静岡地方本部
執行委員長 P46殿
東海旅客鉄道株式会社
代表取締役 P47
 当社が、貴組合所属の組合員P26を昭和六二年四月一日付けで採用しなかったこ
とは、今般、静岡県地方労働委員会において、労働組合法第七条第一号及び同第三
号に該当する不当労働行為であると認定されました。
 よって、当社は、直ちに命令主文の措置をとることを誓約いたします。
平成 年 月 日
4 申立人らのその余の申立てを棄却する。

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