弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役2年6か月に処する。
未決勾留日数中20日をその刑に算入する。
被告人から金761万4991円を追徴する。
理由
【罪となるべき事実】
被告人は,平成16年10月1日から平成18年7月9日までの間,A局国営B
公園事務所の長として,同事務所が発注する工事の仕様を決定して請負契約を締結
し,その工事の監督等を行うとともに,同局C部長の補助者として同局が発注する
工事の設計書,仕様書等の審査をし,その工事の監督等を行う職務を担当していた
ものであり,次いで,平成18年7月11日から平成20年2月25日までの間,
独立行政法人D本社E部の担当部長であったものであるが,下記第1から第5まで
の各行為を行った。
第1(平成20年4月4日付起訴状の公訴事実第1)
平成16年12月上旬ころ,沖縄県国頭郡a町bc番地にある国営B公園事
務所において,F(G局国営H公園事務所が発注する「I工事」の指名入札業
者である株式会社Jの代表取締役であったもの)から,電話で,K(上記国営
H公園事務所の長として,上記「I工事」の予定価格の決定等の職務に従事し
ていたもの)に対し,その職務上知り得た秘密である同工事の入札書比較価格
(予定価格から消費税額を差し引いた金額)をFに内密に知らせるよう働きか
けてもらいたいとのあっせんの依頼を受けてこれを承諾し,そのころ,上記国
営B公園事務所において,Kに対し,電話で,そのように働きかけて,Kが職
務上不正な行為をするようあっせんした。そして,同月18日,奈良県橿原市
d町e番地にあるL駅構内において,Fから,上記のあっせんをしたことに対
する謝礼の趣旨であることを知りながら,現金50万円の賄賂を受け取った。
第2(平成20年4月23日付起訴状の公訴事実第1)
上記国営B公園事務所及び上記A局が発注する防水関係工事に株式会社Mら
が特許権を有する「N施工方法(通称O工法)」が採用されるよう仕様を変更
するなどしたことに対する謝礼の趣旨であることを知りながら,Mの代表取締
役であるPの指示を受けた事情を知らないMの経理担当職員から,別表1の年
月日欄記載のとおり,平成17年2月10日から平成18年11月9日までの
間,前後6回にわたり,別表1の仕向金融機関欄記載のQ信用金庫R支店ほか
2か所から,東京都北区fg丁目h番i号にある株式会社S銀行T支店に開設
された自己が管理するU名義の普通預金口座に,M名義で,別表1の金額欄記
載のとおり,合計361万4991円の賄賂の振込送金を受け,もって賄賂を
収受した。
第3(平成20年6月5日付起訴状の公訴事実第1)
第2記載のとおり,上記国営B公園事務所及び上記A局が発注する防水関係
工事にO工法が採用されるよう仕様を変更するなどした上,Mの施工代理店で
ある株式会社Vが同工事に参入できるよう有利便宜な取り計らいをしたことに
対する謝礼の趣旨及び今後も同事務所等が発注する工事に関して同様の取り計
らいを受けたいという趣旨であることを知りながら,Vの代表取締役であるW
から,別表2の年月日欄記載のとおり,平成17年6月6日から平成18年6
月1日までの間,前後10回にわたり,広島市j区k町l番m号にある当時の
X(現在のY)又はその周辺において,別表2の金額欄記載のとおり,現金合
計300万円の賄賂を受け取った。
第4(平成20年3月14日付起訴状の公訴事実)
K(上記国営H公園事務所の長として,同事務所が発注する「Z工事」の予
定価格の決定等の職務に従事していたもの)及びF(上記「Z工事」の指名入
札業者であるJの代表取締役であったもの)と共謀の上,同工事の指名競争入
札に関し,その入札書比較価格をKがFに知らせることにより同工事をJに高
値で落札させようと企て,平成17年6月下旬ころ,奈良県高市郡n村opに
ある国営H公園事務所において,Kが,同郡q町rs番地にあるJ事務所にい
たFに対し,電話で,同工事の入札書比較価格が5200万円をわずかに上回
る金額となることを内密に知らせた。これにより,同年7月7日から8日にか
けて執行された同工事の入札の際,Fの指示によりJ従業員が上記入札書比較
価格に近接する5200万円で入札して同工事を落札した。
第5(平成20年4月4日付起訴状の公訴事実第2の1)
平成17年6月24日ころ,第1記載の国営B公園事務所において,Fから,
電話で,Kに対し,その職務上知り得た秘密である上記「Z工事」の入札書比
較価格をFに内密に知らせるよう働きかけてもらいたいとのあっせんの依頼を
受けてこれを承諾し,そのころ,上記国営B公園事務所において,Kに対し,
電話で,そのように働きかけて,Kが職務上不正な行為をするようあっせんし
た。そして,同年10月30日ころ,奈良県橿原市d町e番地にあるL駅東口
付近において,Fから,上記のあっせんをしたことに対する謝礼の趣旨である
ことを知りながら,現金50万円の賄賂を受け取った。
【証拠の標目】
省略
【法令の適用】
1第1及び第5の各行為はいずれも刑法197条の4に該当する(1か月以上5
年以下の懲役)。
第2の行為は包括して刑法197条1項前段に該当する(1か月以上5年以下
の懲役)。
第3の各行為はいずれも刑法197条1項前段に該当する(1か年以上5年以
下の懲役)。
第4の行為は刑法60条,96条の3第1項に該当する(1か月以上2年以下
の懲役又は1万円以上250万円以下の罰金)。
2第4の罪については,定められた刑の中から懲役刑を選択する。
3以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により刑
及び犯情の重い第2の罪の刑に法定の加重を行う。
4これにより導き出された刑期(1か月以上7年6か月以下の懲役)の範囲内で,
被告人を懲役2年6か月に処する。その理由は後記【量刑の理由】のとおりであ
る。
5被告人にはこの裁判の間身柄拘束を受けた未決勾留の期間があるので,刑法2
1条を適用して,そのうち20日間をその刑に算入する。
6被告人が第1から第3まで及び第5の各犯行により受け取った賄賂はいずれも
没収することができないので,刑法197条の5後段によりその合計価額金76
1万4991円を被告人から追徴する。
【量刑の理由】
1事案の概要
本件は,国営B公園事務所長をしていた被告人が,その所長権限を悪用して,
公園事務所等が発注する防水関係工事に特定業者の特許工法を採用するとともに,
それらの工事の下請業者として別の特定業者が参入できるように有利便宜な取り
計らいをするなどし,その謝礼として各業者から賄賂を受け取った収賄(第2,
第3)の事案,及び,国営H公園事務所の発注する工事の指名入札業者から依頼
を受け,同じいわゆる造園職キャリアの後輩に当たる同公園事務所長に対し,上
記業者に入札書比較価格を内密に知らせるように働きかけ,その対価として賄賂
を受け取るなどしたあっせん収賄(第1,第5),競売入札妨害(第4)の事案
である。
2量刑上特に考慮した事情
(1)被告人に不利な事情
アあっせん収賄,収賄について
(ア)まずもって,国土交通省の造園職キャリアで,当時B公園事務所長と
いう大きな権限を与えられた地位にあった被告人が,その権限や省内での
上下関係を悪用して,複数の業者に露骨な便宜を図り,あるいは業者の依
頼により他の公務員に対して不正行為をあっせんし,その謝礼として,わ
ずか2年足らずの間に,それぞれの業者から,多数回にわたり,合計76
0万円余りにも上る多額の賄賂を受け取っていたことを指摘する必要があ
る。これらを全体的にみれば,賄賂にまみれて権力を私物化し,公平公正
であるべき国の行政機関における公務の遂行を賄賂によってゆがめたもの
というほかない。受け取った賄賂も多額である。国の行政機関が行う公務
に対する国民の信頼を著しく損った被告人の犯行は厳しい非難に値する。
(イ)第2の収賄事案では,被告人の方から業者に賄賂を要求しており,悪
質である。また,犯行が発覚しないよう長女に対する契約上の支払いを装
っており,手口も巧妙である。
(ウ)被告人は,前記罪となるべき事実のとおり多数回賄賂を受け取ってい
るほか,第3の収賄事案の業者からは本件以前にも賄賂を受け取っていた
ことを自認しており,法律を守ろうという意識がきわめて乏しい。
イ競売入札妨害について
(ア)被告人は,親しくしていた業者から依頼を受けるや,安易にこれに応
じて犯行に加わった。動機に同情すべき点はない。
(イ)被告人の働きかけにより,入札を実施する公園事務所の所長の地位に
あった共犯者が,指名入札業者である共犯者に入札書比較価格を内密に知
らせた結果,同業者が5207万円の入札書比較価格に対し5200万円
という極めて近接した価格での落札に成功し,これにより約550万円の
利益を得た。このように,公正な競争を目的とする入札が現実に妨害され
た。
(ウ)被告人は,省内における先輩の立場を悪用して,犯行に不可欠な所長
の地位にあった共犯者を巻き込んでおり,大きな役割を果たした。
(2)被告人に有利な事情
ア第1,第3,第5のあっせん収賄,収賄事案で被告人が受け取った賄賂は,
被告人が積極的に要求したものではない。
イ被告人は,各犯行の責任を認めて反省するとともに,今後は世の中のため
になる仕事を見つけて働いて行きたいと述べている。
ウ被告人は,既に免職の懲戒処分を受けており,一定の社会的制裁を受けた
といえる。
エ被告人には前科がない。
オ現在,病気療養中である。
3結論
上記2(1)の事情によれば,被告人の刑事責任は重いというべきである。弁護
人は,刑の執行を猶予するよう求めるけれども,とりわけ公務に対する国民の信
頼が著しく損なわれたあっせん収賄,収賄の各事案の重大性に照らせば,上記2
(2)の被告人に有利な事情を考慮しても,本件が刑の執行を猶予すべき事案であ
るとは到底いえない。主文の実刑はやむを得ない。
(求刑懲役4年,主文と同様の追徴)
平成20年9月11日
大阪地方裁判所第14刑事部
長井秀典裁判長裁判官
今井輝幸裁判官
渡邉一昭裁判官
別表略

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