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平成30年(あ)第318号住居侵入,強盗殺人未遂,強盗殺人,窃盗被告事件
令和2年9月8日第三小法廷判決
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人堀内国宏及び同大山京の上告趣意のうち,憲法13条,36条違反をいう
点は,死刑制度が憲法のこれらの規定に違反しないことは当裁判所の判例(最高裁
昭和22年(れ)第119号同23年3月12日大法廷判決・刑集2巻3号191
頁,最高裁昭和26年(れ)第2518号同30年4月6日大法廷判決・刑集9巻
4号663頁,最高裁昭和32年(あ)第2247号同36年7月19日大法廷判
決・刑集15巻7号1106頁)とするところであるから,理由がなく,その余
は,判例違反をいう点を含め,実質は事実誤認,量刑不当の主張であり,被告人本
人の上告趣意は,事実誤認,量刑不当の主張であって,いずれも刑訴法405条の
上告理由に当たらない。
なお,所論に鑑み記録を調査しても,以下のとおり,本件について,刑訴法41
1条を適用すべきものとは認められない。
本件は,被告人が,(1)金品強取の目的で,平成26年11月10日,A方に侵
入し,A(当時93歳)を殺害した上,金品を強取し(住居侵入,強盗殺人),
(2)金品強取の目的で,同年12月16日,B方に侵入し,財物を窃取した上,B
の妻C(当時80歳)を殺害しようとしたが,死亡させるに至らず,さらに,逮捕
を免れるため,B(当時81歳)を殺害し(住居侵入,強盗殺人未遂,強盗殺
人),(3)同月21日,飲食店から食品を窃取した(窃盗)という事案である。
量刑判断の中心となるのは,(1)及び(2)の各犯行(以下「本件各犯行」とい
う。)である。(1)の犯行は,職場に適応できず仕事を辞め,課金ゲーム等で借金
を作り,食べる物にも困る生活苦に陥った被告人が,まとまった金を手に入れるた
め,民家に侵入し,家人に見付かるなどした場合には殺害することも想定した強盗
を決意し,高齢者が一人暮らしをするA方を狙い,包丁2本やバール等を持参し
て,深夜にA方に侵入し,物色したが金目のものが見付からず,金品強取の目的を
保持したまま,なお数時間A方にとどまっていたところ,寝ていたAが起き上がる
のを見るや,いきなり,殺意をもって,Aの頭部をバールで多数回殴打し,顔面,
頸部等を包丁で数回突き刺すなどして殺害した上,A方を物色して現金等を強取し
たというものである。また,(2)の犯行は,(1)の犯行により得た金品を費消した被
告人が,再び同様の生活苦に陥って同様の犯行を決意し,高齢者が一人暮らしをし
ていると考えたB方を狙い,包丁2本等を持参して,深夜にB方に侵入し,物色し
たが金目のものが見付からず,りんごを窃取して食べた上,起床したB及びCの行
動をうかがうなどして,金品強取の目的を放棄することなく,なお数時間B方に潜
んでいた中で,それと知らずに近づいてきたCに対し,いきなり,殺意をもって,
Cの胸部,頸部等を包丁で数回突き刺すなどしたが傷害を負わせるにとどまり,さ
らに,逮捕を免れるため,殺意をもって,Bの胸部,頸部等を包丁で数回突き刺す
などして殺害したというものである。
いずれの犯行も,綿密な計画性は認められないとはいえ,高齢者方を狙い,家人
を殺害する場合も想定して包丁等の複数の凶器を準備して実行したものである上,
A及びBの各殺害行為は強固な殺意に基づく執拗かつ残虐なものであり,Cに対す
る行為も生命侵害の危険性が高いものである。被告人が生活苦に陥った点には,被
告人の持つ軽度の広汎性発達障害に不遇な生育歴の影響が加わって形成されたパー
ソナリティ障害の特性が影響しており,また,金目のものが見付からないにもかか
わらず,強盗目的を諦めるでもなく家人の殺傷行為に至るまでそのまま現場に長時
間とどまっていたことや,Aに対する執拗な殺害行為の態様にも上記障害の特性が
現れている。しかし,生活苦を打開するため強盗を決意して深夜家人が在宅する民
家に侵入したこと,侵入後の物色で金目のものを見付けられなかったが,強盗目的
を保持したまま現場にとどまり続ける中で,家人の殺害を決意して実行したこと
は,被告人自身の意思によるものであって,上記障害の特性によるものとはいえな
い。特に,(1)の犯行により人の命を奪ったことを認識しながら(2)の犯行に及んだ
のであるから,被告人の人命軽視の態度は,強い非難を免れないといわざるを得な
い。何ら落ち度のない2名の命が奪われ,1名の命が危険にさらされたという結果
は重大であり,Cを含む遺族らが厳しい処罰感情を示しているのも当然である。こ
れらの事情に照らすと,Aに対する殺害行為の態様に上記障害の特性が現れている
ことを考慮しても,被告人の刑事責任は極めて重大であるといわざるを得ない。
そうすると,被告人が遺族らに対し謝罪や被害弁償の意を表すなど反省の念がう
かがえること,本件各犯行時は20代半ばと若く,罰金前科しかないことなど,被
告人のために酌むべき事情を十分に考慮しても,原判決が維持した第1審判決の死
刑の科刑は,やむを得ないものとして,当裁判所もこれを是認せざるを得ない。
よって,刑訴法414条,396条,181条1項ただし書により,裁判官全員
一致の意見で,主文のとおり判決する。
検察官小長光健史,同石山宏樹公判出席
(裁判長裁判官林道晴裁判官戸倉三郎裁判官林景一裁判官
宮崎裕子裁判官宇賀克也)

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