弁護士法人ITJ法律事務所

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          主    文
    1 本件控訴を棄却する。
    2 控訴費用は控訴人の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴の趣旨
  (1) 原判決を取り消す。
  (2) 被控訴人は,控訴人に対し2169万4094円及びこれに対する平成
12年6月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  (3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
  (4) 仮執行の宣言
 2 控訴の趣旨に対する答弁
   主文と同旨
第2 事案の概要
   本件は,被控訴人と警備請負契約を締結していた控訴人が,控訴人本社ショ
ールーム1階の工場部分に置いていた新車及び注文車合計17台が,台風が山口県
西部に上陸した際に水没し,全壊したのは,被控訴人が前記警備請負契約に基づく
報告義務・通知義務に違反したため上記車両を避難させることができなかったこと
によるものであるとして,被控訴人に対し,債務不履行による損害賠償として,上
記車両の価格相当額及び弁護士費用の合計2169万4094円及びこれに対する
訴状送達の翌日である平成12年6月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割
合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。
 1 前提事実
   原判決4頁6行目から10頁10行目までに記載のとおりであるから,これ
を引用する。
 2 争点
  (1) 争点1
    本件警備請負契約の業務内容
   ① 控訴人の主張
     本件警備請負契約に際し作成された契約書(甲2)の業務内容欄には
「火災,盗難及び特定(   )の異常感知」と印刷されているところ,上記印刷
文字のうち「火災」の2文字は2重線で抹消されているが,「及び特定」は抹消さ
れずに残され,その後の括弧内のみ2重線で抹消されているのであって,この体裁
からすれば,本件警備請負契約により被控訴人が異常感知,事故確知時の関係先へ
の通報・連絡,警備実施事項の報告を行うべき対象は,火災を除き,盗難とそれ以
外の異常感知のすべてを含むものと解釈すべきである。現に,被控訴人は,盗難以
外の異常感知に対しても,現地に赴いて点検し,警備実施事項を控訴人に報告して
いた(甲8)。
     したがって,被控訴人は,平成11年9月24日午前5時44分の警報
により,直ちに控訴人に異常を報告・通知する義務があるのにこれに違反したもの
というべきである。
   ② 被控訴人の主張
     甲2の警備請負契約書の業務内容欄の「特定」の後の括弧内には被控訴
人が行うべきある特定の警備内容の補充を予定しているものであり,その括弧内を
抹消したのは被控訴人が特定の警備を行わないことを明確にするためである。この
ことは盗難のための感知器のみが控訴人本社ショールームに設置されていたことか
らも明らかである。
     被控訴人の警備員が感知器の発報により控訴人本社ショールームに赴い
たことはあるが,いずれも「非真報」(目的とする事態でないのに感知器が反応し
て出た警報。)であり,発報があった際の電話連絡,110番通報や控訴人の指定
した緊急連絡先への連絡も行っておらず,甲8は非真報であることを報告するため
に現場に置いてきた警備報告書である。
     したがって,本件警備請負契約は盗難についての警備契約であり,被控
訴人は控訴人が主張するような義務を負わない。
  (2) 争点2
    本件警備請負契約所定の免責事由の存否
   ① 被控訴人の主張
     被控訴人は,平成11年9月24日午後7時まで控訴人本社ショールー
ムの現場確認を行っていないが,それは台風18号の猛烈な風雨により契約先の各
所に設置された感知器からおびただしい数の警報が発信されたため現場確認作業が
追いつかなくなったこと,停電や猛烈な風雨,高潮のため確認作業そのものが不可
能ないし困難を極めたことが原因であるから,甲2の警備契約書中の基本請負契約
12条(1)の免責条項に該当し,被控訴人は損害賠償義務を負わない。
   ② 控訴人の主張
     平成11年9月22日には,超大型台風18号が上陸するとの予報及び
台風による被害に対し十分な注意が必要であることがマスコミで報道され,受信装
置への受信件数が膨大な数に上ることは予測できたのであるから,被控訴人はその
受信の処理・対応ができるよう対策を立てておくべきであって,受信件数が多かっ
たために機能が麻痺したことは免責の理由とはならない。
  (3) 争点3
    控訴人の損害及び被控訴人の債務不履行との因果関係
   ① 控訴人の主張
     平成11年9月24日,台風18号が山口県西部に上陸し,同日午前7
時30分が満潮であったため,控訴人本社ショールーム1階の窓側からガラス戸や
サッシ,擁壁を破壊して海水が侵入し,同所に保管していた車両17台が全壊し
た。
     被控訴人は同日午前5時44分に控訴人本社ショールームに設置された
警報装置からの信号を受信しており,前記受信を早い時期に控訴人に連絡していれ
ば,満潮までに前記車両を移動させることで損害を回避できたから,控訴人の損害
は被控訴人の債務不履行によるものである。
     控訴人の損害は前記車両17台の価格,登録費用,消費税の計2069
万4094円及び弁護士費用100万円の合計2169万4094円である。
   ② 被控訴人の主張
     控訴人は台風18号による高潮の危険が報道されていたのに,これを無
視して,屋外展示場から,控訴人本社ショールーム前面を海岸沿いに走る道路より
低い位置にある同建物1階に,車両を移動させたのであり,控訴人の損害は控訴人
の判断の誤りと台風18号の高潮によるものである。
第3 証拠
   原審及び当審の証拠関係目録に記載のとおりであるから,これを引用する。
第4 争点に対する判断
 1 争点1について(本件警備請負契約の業務内容)
  (1) 甲2の警備請負契約書の業務内容欄の印刷文字の「特定(   )」の
部分は,火災,盗難以外の警備内容が契約上定められた場合にこれを補充するため
の空欄であることは明らかであり,火災以外の異常のすべてについて警備をすると
いう契約を締結したのであればその旨を端的に括弧内に記載する筈であり,単に括
弧内を2重線で抹消した前記契約書の趣旨は,抹消されていない盗難のみを警備内
容とし,他に付加,補充すべき警備内容がないことを示すものというべきである。
  (2) 甲8及び弁論の全趣旨によれば,平成11年12月18日から平成12
年7月5日にかけて,被控訴人の警備員が7度にわたり感知器の発報を受けて控訴
人本社ショールームに赴いたことが認められるが,他方前記証拠によれば,警備員
は盗難の有無を確認するため控訴人本社ショールームに赴いたものであること,建
物に立ち入った者がいると思われたときに1度控訴人に連絡したのみで(他に雨漏
りを発見して控訴人に連絡したことが1度あるが,点検の結果異常なしと判断した
うえでの連絡であり,好意による連絡と認められる。),他に控訴人や関係先に通
報や連絡をしたことはなく,臨場確認したが非真報であった旨を報告する甲8の各
文書を現場に置いてきただけであることが認められ,被控訴人が盗難以外の異常感
知の際にも控訴人その他関係先への通報・連絡や警備実施事項の報告の業務を遂行
していたとはいえないから,上記のような被控訴人の対応を根拠として盗難以外の
すべての異常感知等も本件警備請負契約の業務内容に含まれるということはできな
い。
  (3) したがって,本件警備請負契約は,盗難について異常の感知,事故確知
時における関係先への通報・連絡,警備実施事項の報告を業務内容とするものと認
められ,被控訴人に通知義務・報告義務違反は認められない。
 3 そうであれば,車両の水没により損害が発生したことを理由とする控訴人の
本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がなく,これを棄却した
原判決は相当であるから,本件控訴を棄却し,控訴費用の負担につき民訴法67条
1項,61条を適用して,主文のとおり判決する。
     広島高等裁判所第3部
        裁判長裁判官 下 司 正 明
           裁判官 野々上 友 之
           裁判官 檜 皮 高 弘

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