弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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            主     文
       本件訴えを却下する。
       訴訟費用は原告らの負担とする。
            事実及び理由
第1 請求
 金田町が,平成16年12月1日,α,β,γの三町合併案を福岡県知事に対してなした申請処分は,無
効であることを確認する。
第2 事案の概要
 本件は,福岡県田川郡のα,β,γの三町合併申請をめぐり,αの前町長が,合併の賛否を問う住民投
票の実施の是非が主たる争点となった町長選挙で住民投票の実施に反対の立場で落選したにもかかわら
ず,町長としての残任期期間中に,臨時町議会を招集し,三町合併案の可決裁決を経て,福岡県知事に対し
てγ,α及びβの廃置分合についての申請を行ったとして,住民投票の実施を求めてきた原告らが,金田町
を被告として,同申請の無効確認を求めた事件である。これに対し,三町合併の賛否を問う住民投票の実施
を選挙公約としてきた現町長を代表者町長とする被告金田町は原告らの請求を争わなかった。
 1 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実)
  (1)当事者等
 原告らは,いずれも福岡県田川郡αに居住し,選挙権を有する住民である。
 被告は,福岡県田川郡αに居住する住民をもって組織された地方公共団体であり,前町長はA,現町
長はBである。
  (2)福岡県知事に対する三町合併に関する申請(以下「本件申請」という。)
 福岡県田川郡γ,同郡α,同郡βの三町の町長は,地方自治法第7条第1項に基づき,平成16年12
月1日付けで,福岡県知事に対し,「田川郡γ,同郡α及び同郡βの廃置分合について(申請)」と題する文
書を提出し,「平成18年3月6日から田川郡γ,同郡α及び同郡βを廃し,その区域をもって田川郡「δ」を
設置することとしたい」旨の申請(乙1)を行った。
(3)本件申請に至る経過(甲1,2,4(いずれも枝番を含む。),乙1,2,5)
ア 福岡県田川郡αでは,平成16年3月,「γ,α,β合併協議会」の設置に関する議案を賛成8,反対
7で可決し,同郡γ及び同郡αとの間で合併協議会を設置し,同年4月から,同協議会において合併の協議
を進めていた。
イ αの住民である原告らは,三町合併の賛否を問う住民投票を実施するための条例の制定を求めてい
たが,平成16年6月のα定例議会において,議員発議による三町合併の賛否を問う住民投票条例制定案は
賛成7,反対8で否決された。
  同議会において,前町長Aは,三町合併に対する住民の意思は,同年11月のα町長選挙の結果に
よって明確になるなどの答弁をした。
ウ 同年11月14日,α町長選挙が行われた。
  開票の結果,三町合併を推進していた前町長Aは落選し,三町合併の賛否を問う住民投票の実施を
公約としていた現町長Bが当選した。
  これにより,現町長Bが,同年12月4日にα町長に就任することとなった。
エ ところが,12月3日まで任期を残していた前町長Aは,任期中の同年11月22日,α臨時議会を招集
し,同月26日,同議会が開かれ,同議会において地方自治法7条5項に基づく本件申請に関する議案を提
案し,同日,賛成6,反対5で可決された。
オ 同年12月1日,前町長Aは,γ町長及びβ町長とともに,福岡県知事に対し,本件申請を行い,福
岡県知事は,これを受理した。
 2 当事者の主張
  (1)原告らの主張
ア 憲法92条は地方自治の本旨を定め,同条を受けて地方自治法1条及び1条の2においては,地方自
治の本旨を貫いた地方公共団体の組織及び運営がなされることの重要性と目的が定められている。また,地
方自治の本旨を構成する住民自治の下に,地方自治法は,住民の団体の長及び議員の選挙権及び被選挙
権を17条,18条及び19条で定め,条例の制定及び監査請求を同法74条ないし75条で定め,議会の解散
並びに議員及び長の解職請求等を76条ないし88条で定めている。
  そして,地方自治は,住民の意思による住民の自治を根本原理として,住民の福祉増進を基本として
いるのであるから,住民に選挙された長は,その方向に沿って行政を執行し,民意に著しく反するような行動
をとることは許されない。
  α町長選挙においては,三町合併を推進する前町長Aが落選し,三町合併の賛否を問う住民投票の
実施を公約とした現町長Bが町長に当選した。これにより,αにおいては前町長Aの政策に対する住民の不
支持の意思が明らかになった以上,落選した前町長Aは,残任期期間中は,新町長への引継ぎのための業
務が主体となるべきであるのに,本件申請を行った。
  この本件申請は,町長選挙の結果,αにおいては三町合併に対して反対である住民が多数であるこ
とが明らかになったにもかかわらず町長残任期期間を利用し行われたもので,民意に著しく反する行動であ
り,地方自治の本旨に反する。また,住民の参政権というべき選挙権行使の結果を否定し,α住民の三町合
併に対する住民投票の機会を奪ったものである。
 したがって,本件申請は,憲法15条1項及び92条,地方自治法1条,1条の2,11条,17条,18条及
び74条に違反する。そして,この違法性は,地方自治の本旨である住民自治制度に反する重大な違法であ
るとともに,議会や選挙という公然の場での公約を破っており,明白な違法である。
イ 本件申請は,α住民の選挙権の内実を否定するものであり,住民のこの不利益は重大である。しか
も,本件申請によって,県知事により,原告ら住民の全く手の届かない県段階において,県議会に提案され,
議決がなされれば,直ちに県知事より総務大臣に届け出されることによって,三町合併による現在のαにおけ
る行政上の福利と異なる様々な制約を受けることになる。したがって,原告らは,本件申請行為の無効確認を
求めるにつき法律上の利益を有する。
  また,本件申請を前提としての県議会の議決や,総務大臣の告示のなされた後には,原告らによる争
う法的手段は皆無となる。
  (2)被告の主張
ア 本件申請行為は,町長選挙で明らかになった住民の意思に反しており,住民自治の精神に照らして
重大な違法性を有する。
  また,町長選挙において落選後,残存任期中の町長においては,その権限にはおのずと内在的制約
は存するというべきであって,基本的には新町長に対する引継業務や日常的な保存的行為を処理する権限
にとどまると解すべきである。したがって,落選した町長が,新町長の行政運営を大きく阻害するような新たな
行政行為を行うことは,落選後の町長が有する権限を踰越あるいは濫用するものである。よって,本件におい
ては,本件申請行為が議会の議決を経ていた申請であるとしても,法律上無効なものというほかない。
イ 三町合併は,住民の権利に対し包括的に権利変動をもたらす。三町合併は,町名や行政区画範囲を
変えるということだけではなく,現実に住民と行政との間の権利変動をもたらすものである。
第3 判断
1 地方自治法7条は,市町村の廃置分合について,関係市町村の議会の議決による当該市町村の申請に
基づいて(1項,5項),都道府県知事が当該都道府県議会の議決を経た上で,これを決定し,その旨を総務
大臣に届け出(1項),総務大臣がこれを告示することによって当該処分が発効するものとされている(6項,7
項)。
  このように,市町村の廃置分合については,いくつかの段階的手続を経なければならないが,市町村の
廃置分合の効力が生ずるのは,総務大臣の告示により効力を生ずる都道府県知事の決定によってである。関
係市町村の申請があっても,知事としては,その処分を行うことが適正を欠き又は不合理であるために住民の
福祉に反し,かつ,地方自治の本旨にもとると認める場合には,その処分を行わないこともできるのであって,
そうすると,都道府県知事の決定は最終決定としてその処分性を認めることができるとしても,関係市町村の
申請は,行政機関相互間の内部的な行為にすぎないから,住民の権利義務に直接影響を及ぼす行政処分
であるということはできない。
  したがって,三町合併(廃置分合)のための地方自治法7条1項及び5項に基づく申請である本件申請
は,抗告訴訟の対象となる行政庁の処分にはあたらないというほかない。
  この点,原告らは,県議会の議決や総務大臣の告示がなされた後には,原告らが争う法的手段が皆無と
なると主張するが,前記のとおり,申請は内部的な行為であって,住民の権利義務に直接影響を及ぼすもの
ではないから,この申請に処分性を認めることはできず,理由がない。
2 よって,原告らの本件訴えは,その余の点について判断するまでもなくいずれも不適法であるからこれを
却下することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条に従い,主文のとおり判決する。
      福岡地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官   横  山  秀  憲
裁判官   鈴  木  陽一郎
裁判官   菱  川  直  子

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