弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴はいずれもこれを棄却する。
     当審において、国選弁護人甲に支給した費用は、被告人乙の負担とす
る。
         理    由
 被告人丙の弁護人河合与、同十川寛之助の控訴趣意第一点について。
 本件起訴状を調べてみると、その(三)罪名及び罰条の条において「贓物牙保」
を「贓物故買」と訂正し、その上部欄外に「削一字加一字」と記載してあつて、加
削字数とその加削の記載とが一致していないことは所論のとおりであるが、その記
載自体からも右「削一字加一字」とあるのは「削二字加二字」の誤記であるを一見
容易に知り得るばかりでなく、これを起訴状における公訴事実第二の内容と対比す
れば、そのことが益々明らかであるから、右欄外の記載だけに拘つて罪名の記載が
不明であると非難する論旨は採用し難い。
 第二点について。
 原判決によると、原判決が認定したのは、被告人乙及び原審相被告人丁に係る原
判示第一と、被告人丙に係る同第二との二事実であり、その理由中に証拠として
一、戊作成に係る証明書並目録謄本一、証人己、庚の当公廷に於ける供述一、庚に
対する検察官の第一、二回供述調書一、被告人等の当公廷に於ける供述一、被告人
等に対する検察官の第一、二回供述調書と各証拠の標目を一括して示していること
は所論のとおりであつて、その標目だけからは、どの証拠によつてどの事実を認定
したのかが判明しないけれども、記録について各証拠の内容を判示事実と対照検討
すれば容易にこれを知ることができるのであつて、これは刑事訴訟法第三百三十五
号に違反するものではないから(最高裁判所昭和二十五年九月十九日第三小法廷判
決参照、この論旨は理由がない。
 第三点は撤回。
 第四点について。
 原審第一回公判調書を調べてみると、検察官の起訴状の朗読に続いて裁判官は被
告人等に刑事訴訟法第二百九十一条第二項刑事訴訟規則第百九十七条第一項所定の
事項を告げ、次いで被告人及び弁護人及び弁護人は順次被告事件について陳述し、
証拠調に入る直前において、検察官及び裁判官からそれぞれ被告人丁の供述を求め
たこと、同被告人から本件犯行前における払下品の有無、本件毛布の外観等に関す
る供述をしたことが明らかであるが、審理のこの段階において、裁判官又は検祭官
が裁判官に告げて被告人に対しこの程度の供述を求めることは直ちに違法であると
は断定し得ないところであると解するのが相当であるから(最高裁判所昭和二十五
年十二月二十日大法廷判決参照)、この論旨も理由がない。
 第五点について。
 しかし、裁判所法第七十四条は、訴訟関係人の訴訟に関して用いる用語、たとえ
ば法廷における口頭陳述、訴訟関係において作成する書面等における用語について
の規定であるが、日本語でない文字による文書を証拠<要旨>とすること自体を制限
する趣旨ではない。そして日本語でない文字による文書を証拠とするばあいには、
その文書自体が証拠であつて、本件における所論謄本に添付された翻訳も、
翻訳それ自体が証拠となるわけではない(原審において日本語の翻訳を朗読したの
は証拠調実施の方法にすぎないのである)から、原審が所論戊作成に係る証明書謄
本を証拠として挙示し、その翻訳を証拠としなかつたのは当然であつて、この場合
翻訳部分を挙示しない原判決は理由不備であるとする論旨も採用し難い。
 第六点について。
 論旨は、まず原審は証拠として戊作成に係る証明書並目録謄本を挙示している
が、同証明書謄本と目録謄本とは各独立した二個の書面であるところ原審公判調書
中には後者について証拠調の請求と取調に関して何等記載が存しないと主張する。
しかし、右証明書謄本をみると、原判決が目録謄本と表示した証Aを含むと記載し
てあり、証Aの謄本の記載内容がすべて右証明書謄本に引用されていて証Aの謄本
を除外しては右証明書謄本の内容を明らかにすることができない関係にあるし、右
証明書謄本には、原本作成者戊の署名があるのに、右証Aの謄本には原本作成者の
署名のないことからも、右証Aの謄本は右証明書謄本と本来一体の関係にあるもの
と解すべきである。原審公判調書に「証明書謄本(飜訳付)」とあるのは、もとよ
り所論目録謄本をも含む趣旨であること疑ないところである。
 次に論旨は、右証明書謄本は証拠物であるのに原審はこれを示さないで朗読の方
法だけで証拠調をした違法があると主張する。
 しかし右は一九五〇年四月中関目倉庫を調査した結果目録の一乃至十八の物品が
紛失していることが判明した旨を証明したものの謄本であつて、本件贓物故買被告
事件については刑事訴訟法第三百五条にいわゆる証拠書類にあたるものと解するを
相当とする。
 そうすると、原審が右謄本の証拠調をするについて単に朗読の方法によつただけ
でこれを示さなかつたのは当然であつて、法令違反の本論旨は理由がないというべ
きである。
 第七点について。
 しかし、原審第三回公判調書を調べてみると、弁護人の弁論終了後被告人等は最
終陳述の機会を与えられ、それぞれ陳述したことが明らかであるから、その後に裁
判官が被告人等に対して、各その家庭、収入、教育等情状についての供述を求めた
からといつて、その後に更に最終陳述の機会を与えなければならないものではない
から、この論旨も理由がない。
 第八点、第九点及び被告人乙の控訴趣意について。
 原判示事実中被告人等の知情の点は、原審挙示の証拠、就中被告人乙の検察官に
対する第一、二回供述調書、被告人丙の検察官に対する第一回供述調書の各記載に
よつて、これを認めるに十分であつて、原審公判調書中被告人等のこの点に関する
各供述記載は、右証拠に照して信用し難く、その他訴訟記録を精査してもこの点に
ついて原判決に事実の誤認を疑うに足るものはないから、この論旨はいずれも理由
がない。
 よつて、刑事訴訟法第三百九十六条第百八十一条に従い主文のとおり判決をす
る。
 (裁判長判事 荻野益三郎 判事 佐藤重臣 判事 梶田幸治)

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