弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2処分行政庁が平成20年2月21日付でした原判決別紙文書目録記載の各文
書(同目録記載の不開示部分を除く)を開示する旨の各決定(ただし,同目。
録4記載の文書に係る決定については,同年12月25日付異議決定により一
部取り消された後のもの)を取り消す。
3訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。
第2事案の概要(略語は原判決の例による)。
1本件は,愛知県情報公開条例(本件条例)に基づき,処分行政庁が平成20
年2月21日付で控訴人(1審原告)に関する情報が記録されている原判決別
紙文書目録記載の各文書(本件各文書)の全部又は一部を第三者である開示請
,,(,求者に対して開示する旨の各決定をしたため控訴人が上記各決定ただし
同目録4記載の文書(本件文書4)に係る決定については,同年12月25日
付異議決定により一部取り消された後のもの)の取消しを求めている事案であ
る。
原審は,控訴人の本件請求をいずれも棄却した。
控訴人は,これを不服として,本件控訴を提起した。
2前提事実及び争点
次のとおり当事者が当審において追加又は敷衍した主張を付け加えるほか,
原判決「事実及び理由」中の「第2事案の概要」の「1」及び「2」記載の
とおりであるから,これを引用する。
(当事者が当審において追加又は敷衍した主張)
()控訴人の主張1
原審で主張したほか,以下の事情からも,控訴人の本件請求は認められる
べきである。
ア本件文書1ないし5には,本件違反事実に関する被控訴人の調査結果及
,,び指導内容並びに控訴人の対応等が記載されているが当該記載によれば
控訴人は,被控訴人の調査及び指導に対し,誠実に対応しており,本件違
反事実によって,人の生命,健康又は財産に被害が発生したとはされてい
ないことが理解できる。
とりわけ,本件文書2に記載された被控訴人の指摘に係る事実中には真
実に反するものがあり(本件文書2及び3には,その旨の控訴人の見解も
記載されている,本件文書2全体を開示すれば,控訴人が不当に疑わ。)
れたり,批判を受けたりすることになる。また,被控訴人の上記指摘に係
る事実(真実でない事実)によって,人の生命,健康又は財産に被害が発
生したとはされていない。
イ平成20年の世界経済破綻の影響により,日本の産業界も疲弊し,産業
廃棄物も半減した状態にあることから,産業廃棄物処理業者は排出事業者
を奪い合うという状況にある。
そして,本件各文書が作成されてから既に2年以上が経過しており,そ
の間,控訴人は,本件違反事実を是正し,業界でも認められて,誠実に業
務を営んできたものであって,被控訴人の調査を受けた工場は既に売却処
分し,産業廃棄物処理業廃止届出書も提出済みであるから(甲25,上)
記工場の操業により被害等が発生する余地はない。
このような状況の下で,本件各文書が開示されれば,控訴人の競争業者
によって,これが流布され,控訴人の営業上の権益や競争上の地位その他
正当な利益が害されることになる。
()被控訴人の主張2
ア控訴人は,本件違反事実によって,人の生命,健康又は財産に被害が発
生したとはされていない旨主張するが,本件条例7条3号ただし書は,人
の生命,健康,生活又は財産に対する危害又は支障が現実に発生している
場合に限らず,その蓋然性が高い場合にも適用があると解される。
控訴人は,本件文書2に記載された被控訴人の指摘に係る事実中には真
実に反するものがある旨の主張もするが,控訴人が被控訴人の立入検査の
際にした説明に照らし,上記事実が真実に反するものとはいえない。
イ控訴人は,産業廃棄物処理業者が排出事業者を奪い合うという現状にあ
る,本件各文書が作成されてから既に2年以上が経過しているなどと主張
するが,控訴人の主張する事情は,処分行政庁が本件各文書についてこれ
を開示する旨の各決定をした平成20年2月21日以降の事情に過ぎず,
上記各決定を取り消すべき理由とはならない。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の本件請求はいずれも理由がないと判断する。その理由
は,次のとおり付け加えるほか,原判決「事実及び理由」中の「第3当裁判
所の判断」記載のとおりであるから,これを引用する。
2控訴人が当審において追加又は敷衍した主張に対する判断
()ア控訴人は,本件文書1ないし5の記載によれば,控訴人は,被控訴人1
の調査及び指導に対し,誠実に対応しており,本件違反事実によって,人
の生命,健康又は財産に被害が発生したとはされていないことが理解でき
る旨主張する。
しかし,前示(原判決書記載)のとおり,産業廃棄物の処理業者がその
業務に関し不適正な処理を行った場合,当該産業廃棄物の処理業者や排出
事業者等の関係者は,不適正処理の実態やこれに対する指導及び是正措置
の内容が公にされることにつき,社会通念上,これを受忍すべき立場にあ
るところ,本件文書1ないし5(原判決別紙文書目録記載の不開示部分を
除く)に記録された情報は,いずれも,本件違反事実の実態やこれに対。
する指導及び是正措置の内容に関するものであって,控訴人及びその関係
者において当該情報が公になることを社会通念上受忍すべき範囲内のもの
であるというべきであり,控訴人が,被控訴人の調査及び指導に対し,誠
実に対応したか否か,また,本件違反事実によって,人の生命,健康,生
活又は財産に対する危害又は支障が現実に発生したか否かによって,上記
判断が左右されるものとは認められない。
イ控訴人は,本件文書2に記載された被控訴人の指摘に係る事実中には真
実に反するものがあるとも主張するが,控訴人の主張によれば,本件文書
2及び3には,その旨の控訴人の見解も記載されているというのであるか
ら,本件文書2及び3(原判決別紙文書目録記載の不開示部分を除く)。
がともに開示される以上,仮に,控訴人の主張を前提としたとしても,控
訴人が不当に疑われ,あるいは批判を受けるおそれがあるとは認められな
い。
ウしたがって,控訴人の上記主張は,いずれも採用することができない。
()控訴人は,①産業廃棄物処理業者が排出事業者を奪い合うという現状に2
あるところ,②本件各文書が作成された後,控訴人は,本件違反事実を是正
し,業界でも認められて,誠実に業務を営んできたものであって,被控訴人
の調査を受けた工場は既に売却処分し,産業廃棄物処理業廃止届出書も提出
済みであって,③このような状況の下で,本件各文書が開示されれば,控訴
人の競争業者によって,これが流布され,控訴人の営業上の権益や競争上の
地位その他正当な利益が害されることになると主張する。
しかし,一般に,行政処分の取消しを求める訴において,係争に係る行政
処分が違法であるか否かは,当該処分がされた時点を基準として判断すべき
ところ(最高裁判所昭和25年(オ)第220号昭和27年1月25日第2小
法廷判決・民集6巻1号22頁,同裁判所昭和26年(オ)第412号昭和2
8年10月30日第2小法廷判決・裁判集民事10号331頁,同裁判所昭
和29年(オ)第132号昭和34年7月15日第2小法廷判決・民集13巻
),,,7号1062頁参照控訴人の主張する上記①及び②の事情は基本的に
処分行政庁が本件各文書についてこれを開示する旨の各決定をした平成20
年2月21日以降の事情に過ぎず,上記各決定を取り消すべき理由とはなら
ない。
また,控訴人の上記③の主張に理由がないことは,前示(原判決書記載)
のとおりであり,仮に,控訴人が,同日までに本件違反事実を是正したなど
の事情があったとしても,上記判断が左右されるものではない。
したがって,控訴人の上記主張は,いずれも採用することができない。
()控訴人は,その他縷々主張するが,いずれも本件各文書に本件条例7条3
各号所定の不開示情報が記載されていることを指摘するものとは認められ
ず,理由がない。
3結論
以上のとおり,原判決は正当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄
却することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法6
7条1項本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第4部
裁判長裁判官渡辺修明
裁判官嶋末和秀
裁判官加島滋人は,転補につき署名押印することができない。
裁判長裁判官渡辺修明

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