弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
 1 本件控訴を棄却する。
 2 控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人が,平成14年12月17日付けで,控訴人の子であるAの転出届
を受理した行為を取り消す。
 3 訴訟費用は,第1,第2審とも被控訴人の負担とする。
(以下,控訴人を「原告」,被控訴人を「被告」という。)
第2 事案の概要
 1 事案の要旨
 本件は,原告とその妻であるBとの間で離婚訴訟が係属中に,Bが原告の意
思に反して原告・B間の子であるA(平成○年○月○日生)の転出届を被告に提出
し,被告がこれを受理したことから,原告がその取消しを求めた事案である。
 原審は,原告は上記転出届の受理行為の取消しを求めた訴訟につき原告適格
を有するが,被告が上記転出届を受理した行為が違法であるとは認められず,原告
の請求は理由がないとして,これを棄却し,原告が本件控訴を提起した。
 2 争いのない事実等(証拠等を掲記した事実以外は,争いがない。)
 次のとおり訂正等するほかは,原判決2頁15行目から3頁24行目までに
記載のとおりであるから,これを引用する。
【原判決の訂正等】
 (1) 2頁22行目冒頭から3頁4行目末尾までを次のとおり,改める。
「 Bは,平成14年1月14日以降,Aを連れて,鹿児島市α48番5号の
実家に帰り,遅くとも同年2月中旬以降,原告と別居状態となった。
 原告は,平成14年2月28日,Bを相手方として,鹿児島家庭裁判所に
離婚調停の申立てをした(同裁判所平成14年(家イ)第◎号。甲5の1)。
 原告は,平成14年6月5日,被告(保険医療課長)に対し,B及びAに
ついて,「交付を必要とする期間」欄に同日から同年11月30日までと,「療養
地 仕事先 旅行先」欄にBの実家の所在地を,申請理由欄に「家事審判法に基づ
く調停離婚を申立中のため。申立人:C,相手方:B,鹿児島家庭裁判所平成14
年(家イ)第◎号」と記載した,国民健康保険被保険者証特例交付申請をし,両名の
国民健康保険被保険者証(遠隔地国民健康保険被保険者証2通)の交付を受けた
(甲5の1~7,甲6の1)。
 平成14年7月9日,上記調停は不成立となり(甲6の1),原告は,同
年9月30日,Bを被告として,神戸地方裁判所伊丹支部に離婚の訴えを提起した
(同支部平成14年(タ)第△号。甲3の1)。
 その後,原告とBは,平成15年2月25日,神戸家庭裁判所伊丹支部で
調停離婚し,Aの親権者は,鹿児島家庭裁判所における審判によって,その指定を
受けることとなった(神戸家庭裁判所伊丹支部平成15年(家イ)第◇号。甲4)。
 平成16年4月現在でも,鹿児島家庭裁判所で,この親権者指定の審判が
係属している(弁論の全趣旨)。」
 (2) 3頁9行目の「甲3の1」の次に「・2」を,同10行目冒頭の「B」の
前に「イ 」をそれぞれ加え,同18行目の「翌19日」から同末尾までを「同月
19日,原告代理人に同決定書が送達された。(以上につき甲1の1・2)」と,
同21行目の「原告」から同22行目末尾までを「原告代理人に同裁決書が送達さ
れた。(以上につき甲2の1・2)」と,同24行目の「本件転出届受理行為の取
消訴訟を提起した。」を「原審裁判所に,本件転出届受理行為の取消訴訟を提起し
た(記録上明らかな事実)。」とそれぞれ改める。
 3 争点
 原判決3頁末行から4頁11行目までに記載のとおりであるから,これを引
用する。
 4 争点に関する当事者の主張
 原判決4頁13行目から7頁22行目までに記載のとおりであるから,これ
を引用する。
第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所も,原告は本件転出届受理行為の取消しを求めた訴訟につき原告適
格を有するが,被告の本件転出届受理行為は違法であるとは認められず,原告の請
求は理由がないものと判断する。
 上記判断の理由は,次のとおり,当審における原告の補充主張に対する判断
を付加するほかは,原判決7頁24行目から11頁18行目までに記載のとおりで
あるから,これを引用する。ただし,8頁16行目,9頁2行目,同22行目及び
11頁2行目の各「上記」を「前記」とそれぞれ改める。
【当審における原告の補充主張に対する判断】
 (1) 争点(3)(共同親権に服する子の転出届が父母の一方の意思に反してなされ
た場合の効力)について
 原告は,「転出届は単なる事実の報告という形式的行為ではなく,種々の
住民の権利・利益に関わる行為である。転出届がもたらす住民の権利・利益は,転
出届の提出に伴う反射的効果ではなく,住民基本台帳法の直接の保護対象となって
いる権利・利益である。これらの法律上の効果から,転出届の提出行為は,まさに
子に関する居所指定権行使にほかならず,婚姻中の父母の共同親権行使の対象とな
ることは明らかである。したがって,少なくとも,本件のように,転出届の提出が
父母の一方の意思に明らかに反する場合には,共同親権の原則に反する無効行為と
いわざるを得ない。」と主張する。
 しかしながら,父母の婚姻中は親権は共同行使されるべきものであるか
ら,子の居所指定権もその対象となるが,本件のように,父母間に夫婦関係を巡る
紛争が生じ,父母が別居状態である場合に,未成年子(しかも2歳児)の居所指定
に関する父母の意見が一致しないため,父母の一方が未成年子を監護養育する必要
上,単独で居所指定権を行使することが,それだけで直ちに違法無効な行為である
と断定することはできない。また,前記(原判決9頁末行から10頁6行目までに
記載)のとおり,住民基本台帳法上の住所は,各人の生活の本拠をいい,各人の住
所の認定は,基本的には,客観的居住の事実に基づいて決定されるものである以
上,未成年子をどの市町村の住民基本台帳に記録するのか(住民票上の住所をどの
市町村の区域内に置くのか)は,あくまでも当該未成年子の生活の本拠がどこであ
るのかという既定の事実を前提とするものである。そうすると,住民基本台帳に記
録された(住民票上の住所を置いた)結果,一定の法律効果が発生することをもっ
て,既に発生した事実の報告にすぎない転出届の提出が,共同親権の対象となると
はいえない。
 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
 (2) 争点(4)(Aの住所)について
 原告は,「被告は,Bが本件転出届を被告に提出する際に,BとAの二人
は,既に1年位前から鹿児島の転出先(Bの実家)に移っており,今までは宝塚市
の遠隔地国民健康保険被保険者証の交付を受けて医療機関で受診してきたが,色々
と生活上の不都合もあり,この際,転出届の手続に来た旨の説明をしたことを,A
の客観的居住事実の認定根拠としたものと考えられるが,上記説明のみでは,認定
根拠としては極めて薄弱である。」と主張する。
 しかしながら,前記争いのない事実等(2),(3)(原判決「事実及び理由」
第2の2(2),(3))によると,被告は,Bの上記説明のみならず,それに先行す
る,①原告が,BとAの国民健康保険被保険者証の特例交付を申請した際,被告に
提出した同申請書(甲5の4,6)の記載内容と,②原告が,被告(市民課長)に
対し,BからのAの転出届を受理しないように申し入れた際の書面(甲3の1)の
記載内容から,A(当時2歳)が母親であるBとともに,Bの実家で生活している
ことを十分に把握することができたというべきであるから,原告の上記主張は採用
することができない。
 また,原告は,「未成年者,特に意思能力のない未成年者の住所認定にあ
たって,客観的居住の事実を補充するために考慮されるべき主観的居住の意思は,
親権者双方のものでなければならない。本件においては,原告は,被告に対して,
BからのAの転出届を受理しないように申し入れていたのであるから,そのことか
ら,原告がAの住所をBの実家に移転する意思を有していなかったことは明白であ
る。共同親権者である原告の意思を無視して,Bのみの意思でAの住所を認定する
ことは許されない。」と主張する。
 しかしながら,本件においては,未成年者の共同親権者である父母の意思
が相反する場合に,当該未成年者の住所をどのように認定するのかが問題となって
いるものであり,この点については,前記(1)で判示したとおりであるから,原告の
上記主張は採用することができない。
 2 その他,原審及び当審における当事者提出の各準備書面等に記載の主張に照
らし,原審で提出,当審で援用された全証拠を改めて精査しても,当審及び当審の
引用する原審の認定判断を覆すに足りるものはない。
 3 よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却する
こととし,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官  竹原俊一
裁判官  長井浩一
裁判官  中村 心

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