弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決および第一審判決を破棄する。
     被告人は無罪。
         理    由
 被告人本人の上告趣意について。
 所論は、単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由
に当たらない。
 しかし、職権をもつて調査すると、原判決および第一審判決は、後記のように刑
訴法四一一条一号により破棄を免れないものと認められる。
 原判決および同判決の維持した第一審判決の確定した事実によると、本件右折進
行禁止の道路標識は、京都府公安委員会告示第五一号によつて全方向からの右折を
禁止された京都市a区b通りc交差点の北側、すなわち東西に通ずるc通りと直角
に交差するb通りの同交差点に入る手前右側路端に設置されたものであつて、その
支柱に「貨物(貨客兼用を除く)14―22 2輪(125CC.以下)9―22
の左折を除く」と記載された方形の標示板が取り付けられていたもの(別紙図面参
照)であるところ、被告人は、第一審判決判示の日時に、貨客兼用車を運転してb
通りを南進し、同交差点において右折通行したというのである。そして、第一審判
決および原判決は、以上の事実関係を前提として、被告人の所為が、道路交通法七
条一項の規定に基づく京都府公安委員会の定めた車両等の通行禁止、制限に違反す
るものとして、同法一一九条一項一号の罪が成立することを肯定しているのである。
 ところで、道路交通法施行令七条三項は、公安委員会が道路標識を設置するとき
は、歩行者、車両または路面電車がその前方から見やすいように設置しなければな
らない旨を規定しており、このことにかんがみても、道路標識は、ただ見えさえす
ればよいというものではなく、歩行者、車両等の運転者が、いかなる車両のいかな
る通行を規制するのかが容易に判別できる方法で設置すべきものであることはいう
までもない。しかるに、本件道路標識は、全車両に対し終日右折進行を禁止するも
のてあるところ、その支柱に取り付けられた前記方形の標示板は、本件道路標識の
禁止していない左折進行に関する注意事項を掲げたにすぎないものであるから、道
路標識、区画線及び道路標示に関する命令(昭和三五年一二月一七日総理府、建設
省令第三号)の規定する本標識に附置される補助標識のうち、本標識が表示する禁
止、制限または指定の日または時間を示すもの(同命令別表第一番号(502)に
は該当せず、また、本標識が表示する禁止または制限の対象となる車両を特定する
ために必要な事項を示すもの(同番号(503))にも該当しないものであるにも
かかわらず、本件記録によれば、その形式外観において補助標識と同様であり、そ
の記載方法もまた、右各補助標識のそれとまぎらわしいものであることが認められ
る。しかも、同命令によれば、本標識が表示する意味を補足するため必要な事項を
示す補助標識(同命令別表第一番号(510))が附置されるのは、本標識のうち
警戒標識のみであることをも合わせ考えると、本件標識により、車両等の運転者が、
いかなる車両のいかなる方向への進行を禁止、制限されているのかを一見して容易
に判別できるものとは認められず、したがつて、このような標識の設置方法は、道
路交通法施行令の前記法条に違反するものであり、これによつては、b通りを南進
して本件交差点を右折進行しようとする車両等の運転者に対し、右折進行を禁止、
制限する旨の通行規制が、適法かつ有効になされているものということはできない
といわなければならない。してみれば、被告人の本件所為は、公安委員会による右
の有効処分の存在を前提とする道路交通法一一九条一項一号の罪を構成しないとい
うべきてあり、それにもかかわらず、被告人に対し右の罪の成立を認めた原判決お
よび同判決の維持した第一審判決は、法令の解釈を誤つて被告事件が罪とならない
のにこれを有罪とした違法があり、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、
刑訴法四一一条一号により、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認め
る。
 よつて、刑訴法四一三条但書、四一四条、四〇四条、三三六条により、裁判官全
員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 検察官 川口光太郎関与
  昭和四三年一二月一七日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    飯   村   義   美
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄

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