弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告らの本件訴えをいずれも却下する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1請求の趣旨
阿久根市長(A)がBに対して平成20年11月21日阿久根市許可第○号
をもってした一般廃棄物処理業の許可及び同日付阿久根市許可第○号をもっ
てした浄化槽清掃業の許可を取り消す。
2請求の趣旨に対する答弁
(本案前の答弁)
原告らの本件訴えをいずれも却下する。
(本案の答弁)
原告らの請求をいずれも棄却する。
第2事案の概要
本件は,阿久根市から一般廃棄物処理業の許可(ただし,そのうちの一般廃棄
物収集運搬業の許可(廃棄物処理法7条1項)に限る。以下,「一般廃棄物処理
業の許可」という場合には,一般廃棄物収集運搬業の許可を含むものとする。)
及び浄化槽清掃業の許可を得て,し尿及び浄化槽汚泥の収集運搬業を営む原告ら
が,従来,同市の定める一般廃棄物処理実施計画の下,既存業者2社体制で事業
を行ってきたところ,阿久根市長が上記実施計画を変更した上で訴外B(以下「本
件新規参入業者」という。)に新規参入を許可したのは,処分行政庁の裁量の範囲
を超えた違法な処分であると主張して,本件新規参入業者に対する一般廃棄物収
集運搬業及び浄化槽清掃業の許可処分(以下,2つの許可処分を合わせて「本件
許可処分」という。)の取消しを求める事案である。
1関係法令の定め
(1)廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年12月25日法律第13
7号)(以下「廃棄物処理法」という。)
(目的)
第一条この法律は,廃棄物の排出を抑制し,及び廃棄物の適正な分別,保
管,収集,運搬,再生,処分等の処理をし,並びに生活環境を清潔にす
ることにより,生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的と
する。
(一般廃棄物処理計画)(3項以下省略)
第六条市町村は,当該市町村の区域内の一般廃棄物の処理に関する計画(以
下「一般廃棄物処理計画」という。)を定めなければならない。
2一般廃棄物処理計画には,環境省令で定めるところにより,当該市町
村の区域内の一般廃棄物の処理に関し,次に掲げる事項を定めるものと
する。
一一般廃棄物の発生量及び処理量の見込み
二一般廃棄物の排出の抑制のための方策に関する事項
三分別して収集するものとした一般廃棄物の種類及び分別の区分
四一般廃棄物の適正な処理及びこれを実施する者に関する基本的事項
五一般廃棄物の処理施設の整備に関する事項
六その他一般廃棄物の処理に関し必要な事項
(市町村の処理等)(2項以下省略)
第六条の二市町村は,一般廃棄物処理計画に従って,その区域内における
一般廃棄物を生活環境の保全上支障が生じないうちに収集し,これを運
搬し,及び処分(略)しなければならない。
(一般廃棄物処理業)(2項ないし4項,7項ないし9項,11項及び13
項以下省略)
第七条一般廃棄物の収集又は運搬を業として行おうとする者は,当該業を
行おうとする区域(運搬のみを業として行う場合にあっては,一般廃棄
物の積卸しを行う区域に限る。)を管轄する市町村長の許可を受けなけ
ればならない。(略)
5市町村長は,第一項の許可の申請が次の各号に適合していると認める
ときでなければ,同項の許可をしてはならない。
一当該市町村による一般廃棄物の収集又は運搬が困難であること。
二その申請の内容が一般廃棄物処理計画に適合するものであること。
三その事業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に,
かつ,継続して行うに足りるものとして環境省令で定める基準に適合
するものであること。
四申請者が次のいずれにも該当しないこと。(略)
6一般廃棄物の処分を業として行おうとする者は,当該業を行おうとす
る区域を管轄する市町村長の許可を受けなければならない。(略)
10市町村長は,第六項の許可の申請が次の各号に適合していると認め
るときでなければ,同項の許可をしてはならない。
一当該市町村による一般廃棄物の処分が困難であること。
二その申請の内容が一般廃棄物処理計画に適合するものであること。
三その事業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に,
かつ,継続して行うに足りるものとして環境省令で定める基準に適合
するものであること。
四申請者が第五項第四号イからヌまでのいずれにも該当しないこと。
12第一項の許可を受けた者(以下「一般廃棄物収集運搬業者」という。)
及び第六項の許可を受けた者(以下「一般廃棄物処分業者」という。)
は,一般廃棄物の収集及び運搬並びに処分につき,当該市町村が地方自
治法第二百二十八条第一項の規定により条例で定める収集及び運搬並び
に処分に関する手数料の額に相当する額を超える料金を受けてはならな
い。
(事業者及び地方公共団体の処理)(3項省略)
第十一条事業者は,その産業廃棄物を自ら処理しなければならない。
2市町村は,単独に又は共同して,一般廃棄物とあわせて処理すること
ができる産業廃棄物その他市町村が処理することが必要であると認める
産業廃棄物の処理をその事務として行なうことができる。
(産業廃棄物処理業)(2項ないし4項,7項ないし9項及び11項以下省
略)
第十四条産業廃棄物(略)の収集又は運搬を業として行おうとする者は,
当該業を行おうとする区域(運搬のみを業として行う場合にあっては,
産業廃棄物の積卸しを行う区域に限る。)を管轄する都道府県知事の許
可を受けなければならない。(略)
5都道府県知事は,第一項の許可の申請が次の各号に適合していると認
めるときでなければ,同項の許可をしてはならない。
一その事業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に,
かつ,継続して行うに足りるものとして環境省令で定める基準に適合
するものであること。
二申請者が次のいずれにも該当しないこと。(略)
6産業廃棄物の処分を業として行おうとする者は,当該業を行おうとす
る区域を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。(略)
10都道府県知事は,第六項の許可の申請が次の各号に適合していると
認めるときでなければ,同項の許可をしてはならない。
一その事業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に,
かつ,継続して行うに足りるものとして環境省令で定める基準に適合
するものであること。
二申請者が第五項第二号イからヘまでのいずれにも該当しないこと。
(2)廃棄物処理法施行規則(昭和46年9月23日厚生省令第35号)
(一般廃棄物処理計画)
第一条の三法第六条第一項に規定する一般廃棄物処理計画には,一般廃棄
物の処理に関する基本的な事項について定める基本計画及び基本計画の
実施のために必要な各年度の事業について定める実施計画により,同条
第二項各号に掲げる事項を定めるものとする。
(一般廃棄物収集運搬業の許可の基準)
第二条の二法第七条第五項第三号(法第七条の二第二項において準用する
場合を含む。)の規定による環境省令で定める基準は,次のとおりとす
る。
一施設に係る基準
イ一般廃棄物が飛散し,及び流出し,並びに悪臭が漏れるおそれの
ない運搬車,運搬船,運搬容器その他の運搬施設を有すること。
ロ積替施設を有する場合には,一般廃棄物が飛散し,流出し,及び
地下に浸透し,並びに悪臭が発散しないように必要な措置を講じた
施設であること。
二申請者の能力に係る基準
イ一般廃棄物の収集又は運搬を的確に行うに足りる知識及び技能を
有すること。
ロ一般廃棄物の収集又は運搬を的確に,かつ,継続して行うに足り
る経理的基礎を有すること。
(産業廃棄物収集運搬業の許可の基準)
第十条法第十四第五項第一号(法第十四条の二第二項において準用する場
合を含む。)の規定による環境省令で定める基準は,次のとおりとする。
一施設に係る基準(略)
二申請者の能力に係る基準
イ産業廃棄物の収集又は運搬を的確に行うに足りる知識及び技能
を有すること。
ロ産業廃棄物の収集又は運搬を的確に,かつ,継続して行うに足り
る経理的基礎を有すること。
(3)浄化槽法(昭和58年5月18日法律第43号)
(目的)
第一条この法律は,浄化槽の設置,保守点検,清掃及び製造について規制
するとともに,浄化槽工事業者の登録制度及び浄化槽清掃業の許可制度
を整備し,浄化槽設備士及び浄化槽管理士の資格を定めること等により,
公共用水域等の水質の保全等の観点から浄化槽によるし尿及び雑排水の
適正な処理を図り,もって生活環境の保全及び公衆衛生の向上に寄与す
ることを目的とする。
(許可)(2項以下省略)
第三十五条浄化槽清掃業を営もうとする者は,当該業を行おうとする区域
を管轄する市町村長の許可を受けなければならない。
(許可の基準)
第三十六条市町村長は,前条第一項の許可の申請が次の各号のいずれにも
適合していると認めるときでなければ,同項の許可をしてはならない。
一その事業の用に供する施設及び清掃業許可申請者の能力が環境省令
で定める技術上の基準に適合するものであること。
二清掃業許可申請者が次のいずれにも該当しないこと。(略)
(4)下水道の整備等に伴う一般廃棄物処理業等の合理化に関する特別措置法
(昭和50年5月23日法律第31号)(以下「合特法」という。)
(目的)
第一条この法律は,下水道の整備等によりその経営の基礎となる諸条件に
著しい変化を生ずることとなる一般廃棄物処理業等について,その受け
る著しい影響を緩和し,併せて経営の近代化及び規模の適正化を図るた
めの計画を策定し,その実施を推進する等の措置を講ずることにより,
その業務の安定を保持するとともに,廃棄物の適正な処理に資すること
を目的とする。
2前提となる事実(争いのない事実及び証拠(甲1ないし10,甲26,甲2
8)により容易に認められる事実)
(1)阿久根市におけるし尿の処理は,くみ取りの方法と,浄化槽(各家庭又
は個々の発生源に設置されるもので,し尿だけを処理する単独処理浄化槽と,
し尿と生活雑排水を合併して処理する合併処理浄化槽の2種類がある。)に
よる処理のいずれかの方法によっている。
(2)くみ取りに係るし尿と,浄化槽内に沈殿する浄化槽汚泥とは,いずれも
一般廃棄物に該当する。
(3)くみ取りの方法によるし尿の処理を行う場合は,一般廃棄物収集運搬業
の許可を得た業者が,市民の要請を受けてくみ取り業務を行い,し尿をし尿
処理施設まで運搬する。
(4)浄化槽によるし尿の処理を行う場合は,浄化槽管理士が定期的な浄化槽
の保守点検を行うほか,浄化槽清掃業の許可を得た業者が,必要に応じて浄
化槽の清掃を行い,その際浄化槽から引き出された浄化槽汚泥をし尿処理施
設まで運搬することが必要となる。
(5)被告は,阿久根市内のし尿及び浄化槽汚泥の収集運搬は,許可業者にこ
れを行わせることとしている。
(6)原告株式会社C及び原告有限会社Dは,いずれも,阿久根市から一般廃
棄物収集運搬業の許可及び浄化槽清掃業の許可を得て,阿久根市内でし尿及
び浄化槽汚泥の収集運搬業を営む者である(なお,原告ら提出証拠は平成2
1年の更新後の許可に係るものであるが,平成20年当時も原告らが上記各
許可を得ていたことは,当事者間に争いがない。)。
(7)被告が定める阿久根市一般廃棄物処理実施計画においては,平成20年度
に至るまで,長く「一般廃棄物収集運搬の許可業者数は現状の収集運搬の状
況等を勘案し,廃棄物の種類や量が大幅に増加するなど,適正な体制確保の
ため特に必要な場合を除き,既存の範囲内とする。」との条項(以下「本件
新規参入抑制条項」という。)が設けられていた。
(8)平成20年度以前の本件新規参入抑制条項の下では,阿久根市内のし尿及
び浄化槽汚泥の収集運搬業は,原告ら2業者のみが行っていた。
(9)阿久根市長は,平成20年9月,平成20年度阿久根市一般廃棄物処理実
施計画を年度途中で変更し,本件新規参入抑制条項を削除した。
(10)阿久根市長は,同年11月21日,本件新規参入業者に対し,一般廃棄
物収集運搬業の許可及び浄化槽清掃業の許可をした(本件許可処分)。
(11)原告らは,平成21年1月27日,本件許可処分に対する異議申立てを
行った(以下「本件異議申立て」という。)。
(12)阿久根市長は,同年2月13日,原告らが行政不服審査法による異議申
立てをすることができる者に該当しないとして,本件異議申立てを却下した。
3本案前の争点及びこれに対する当事者の主張
(原告の主張)
(1)原告適格の有無は,処分の根拠法規が原告の法律上の利益を保護する趣旨
か否かによって決せられるところ,既存の許可業者を保護する趣旨か否かの
判定に当たっては,法律の目的だけではなく,その手段等を含めた全体構造
を見なければならない。
(2)廃棄物処理法の仕組み
本件処分の根拠法規は,廃棄物処理法及び浄化槽法であるところ,まず廃
棄物処理法の目的規定(同法1条)を形式的に見れば,同法は生活環境の保
全という公益を目的としており,既存の許可業者の利益を保護する趣旨は窺
われないが,法体系全体の構造を見れば,一般廃棄物処理については,既存
の許可業者の地位・利益を確保することによって事業の継続性を確保し,そ
の目的を達成しようとするものといえる。
すなわち,法は,産業廃棄物処理業及び浄化槽清掃業の許可については,
自由競争によってよりよいサービスが達成されるとの考え方に立ち,新規参
入の規制なり需給調整をしない,いわゆる警察許可としている。これに対し
て,一般廃棄物の処理は,住民生活にとって必ず確保しなければならない重
要な生活必需サービスであり,市町村が自治事務として責任を持って継続的
かつ安定的に行わなければならないから,廃棄物処理法は,市町村がこれを
許可又は委託の形式で民間業者に行わせる場合であっても,産廃処理業の許
可や浄化槽清掃業の許可とは異なる許可基準を設けているのである。
まず,市町村は,財政的にみて事業を継続的に遂行するに足りる基礎を有
しないと判断される業者には,一般廃棄物処理業の許可をしてはならない(同
法7条5項3号,同法施行規則2条の2)。
次に,一般廃棄物処理業の許可は,市町村がその業務を行うことが困難な
場合に,一般廃棄物処理計画に適合することを基準に認められるものである
が(同法7条5項1号,同項2号),一般廃棄物処理計画の策定及び一般廃
棄物処理計画適合性の判断における市町村の裁量は,市町村が責任を持って
完結的に行う生活必需サービスを完遂するとの観点から行使されなければな
らない。一般廃棄物の適正な収集及び運搬を継続的かつ安定的に実施させる
ために,既存の許可業者等のみに引き続きこれを行わせることが相当である
ならば,新規許可を拒否することも適法であることは,判例(最高裁判所平
成14年(行ヒ)第312号同16年1月15日第一小法廷判決・裁判所時
報1355号57頁,最高裁判所平成19年(行ヒ)第388号同21年6
月5日第二小法廷判決・裁判所時報1485号165頁)でも認められてい
る。
このように,廃棄物処理法は,既存の許可業者の利益を守ることによって,
その営業の継続性を確保して生活環境を保全している。したがって,一般廃
棄物の適正な収集及び運搬を継続的かつ安定的に実施している既存の許可業
者には,新規参入を認めるかどうかについて法律上保護された利益が与えら
れていると解すべきであり,それは反射的利益にとどまるものではない。
(3)浄化槽清掃業の許可について
浄化槽清掃業それ自体は,計画裁量に服さない警察許可である。しかし,
浄化槽清掃業の許可を得ただけでは一般廃棄物である浄化槽汚泥の収集運搬
はできないから,浄化槽清掃業の許可申請者が,浄化槽汚泥等の収集運搬に
必要な一般廃棄物処理業の許可を有しておらず,また,他の業者に業務委託
すること等により浄化槽汚泥等を適切に処理する方法も有していない場合に
は,上記許可業者は,浄化槽法36条2号ホにいう「その業務に関し不正又
は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」
に当たると解するのが相当であるとされている(最高裁平成4年(行ツ)第
122号同5年9月21日第三小法廷判決・裁判集民事169号807頁参
照)。したがって,一般廃棄物処理業の許可と浄化槽清掃業の許可は,浄化
槽法36条2号ホによってリンクしているといえる。
(4)行政運営上も業者の安定が重視され既存の許可業者への配慮が求められ
ていること
平成20年6月19日付け環廃対発第080619001号環境省大臣官
房廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策課長通知「廃棄物の処理及び清掃に
関する法律第6条第1項の規定に基づくごみ処理基本計画の策定に当たって
の指針について」(以下「平成20年環廃対発第080619001号」と
いう。)(甲11)は,環境保全の重要性を説き,市町村の一般廃棄物処理
責任の性格について経済性確保などの要請よりも業務の確実な履行を重視し
ているとするものである。ここでは,直接に既存の許可業者に特段の法的保
護を与える言葉は用いられていないが,業務の確実な履行のためには許可業
者の地位の安定が不可欠であり,むやみに新規許可を出すことにより既存の
許可業者の地位が脅かされるようではこの要請に反する。
平成4年8月13日付け衛環233号厚生省生活衛生局水道環境部環境整
備課長通知「廃棄物の処理及び清掃に関する法律の一部改正について」(以
下「平成4年衛環233号」という。)(甲12)では,業者の指導育成だ
けではなく,事業の安定にも配慮するように求められている。一般の法制度
ではこのように民間企業の安定と指導育成を求めるような仕組みはおかれて
いないから,一般廃棄物処理業を営む業者(以下「一般廃棄物処理業者」と
いう。)には,一般の営業許可を受けた業者とは異なり,事業の安定と育成
について配慮されるべき利益が認められているというべきである。
平成5年3月11日付け衛環第70号厚生省生活衛生局水道環境部環境整
備課長回答「一般廃棄物処理業の許可の更新について」(以下「平成5年衛
環第70号」という。)(甲13)も,一般廃棄物処理業者の行う処理事業
は,市町村を補完し,その信頼性・安定性が確保されているものであるとし
ている。そこからは,既存の許可業者の経営を危機に陥れるような新規参入
許可は廃棄物処理法の仕組みに適合しないという趣旨が導かれる。
これらの通知は,一般廃棄物処理業に関する行政の運営の方針を示したも
のであり,それらが既存の許可業者の事業の安定への配慮を求めるのは,生
活環境の保全という廃棄物処理法の究極目的を達成する仕組み・手段として,
既存の許可業者の事業の安定を図ることが必要だからである。
(5)合特法の趣旨及び目的
合特法は,廃棄物処理法と目的を共通とし,しかも一般廃棄物であるし尿・
浄化槽汚泥の収集運搬業務が減少する場合の対策を定めて,廃棄物処理法に
基づく施策の後始末をするものであるから,廃棄物処理法の関連法令という
べきである。
一般廃棄物処理業は市町村が担っている公的な業務であり,許可業者は自
由な経営判断で撤退できるわけではなく下水道が整備されるまではサービス
を残さなければならない反面,下水道が整備されると業務を縮小・廃止せざ
るを得ないという大きな制約を受けることから,合特法は業者に対して救済
策を講じている。
また,昭和50年10月21日付け厚生省環第676号厚生事務次官通知
「下水道の整備等に伴う一般廃棄物処理業等の合理化に関する特別措置法の
施行について」(以下「昭和50年厚生省環第676号」という。)(甲1
6)も,合特法の目的が一般廃棄物処理業者の経営の安定にあることを示し
ている。
このように,関連法令である合特法が,単なる公益だけでなく既存の許可
業者の利益をも保護する趣旨であることからも,既存の許可業者には新規参
入許可の違法を争う法律上の利益があるということができる。
(6)新規業者の参入による業務の継続困難
新規参入によって競争が激化すると,既存の許可業者は客を奪われて業務
を縮小せざるを得ず,新規参入業者もまた思うように利益を上げられない可
能性がある。しかし,その後新規参入業者が撤退したとしても,既存の許可
業者が既に設備・人員を縮小していれば速やかに業務の再拡大をできるわけ
ではないし,別の業者の新規参入の可能性があるから業務の再拡大をすべき
でないという経営判断をすることも考えられる。そうすると,市内のし尿・
浄化槽汚泥収集・運搬業務が適切に行われず,市民サービスが著しく停滞す
ることになるのである。このことは,業務を的確にかつ継続的に行うことを
最優先とする廃棄物処理法の趣旨に反し,一般廃棄物処理計画が既存の許可
業者に与えた地位と信頼を侵害する。
(7)既存の許可業者の信頼保護
一般廃棄物行政においては,停廃が許されない市町村の生活必需サービス
を民間業者に代行させているのであるから,市町村は既存の許可業者の経営
の安定にも配慮すべきであるし,市町村と許可業者との間では,その業務を
的確かつ継続的に遂行すべく相互依存信頼関係が成立しているというべきで
ある。
本件では,本件新規参入抑制条項の下で業務の的確かつ継続的な遂行が可
能とされ,既存の許可業者である原告らはこれを信頼してきたのであるから,
被告はこの信頼を尊重すべきである。なお,本件のように,市と特定の業者
との間に個別的具体的な勧誘があり,業者が市の施策の長期継続を前提とし
て投資を行ったような場合,あるいは市と業者との間に目的共同関係があり,
市の業者に対する協力援助を期待できるような場合には,そうした信頼関係
に基づき業者の有する利益は,法律上十分に保護されているということがで
きる。
(8)以上のとおり,廃棄物処理法及び合特法の目的だけでなく,事業の継続
的・安定的な処理を確保しようとするその趣旨と手法・仕組みを考慮すれば,
既存の許可業者の経営の安定は,法律上保護されていると解すべきである。
(被告の主張)
(1)廃棄物処理法1条,2条,6条,6条の2及び7条はいずれも市町村の責
務に関する規定であり,原告らの主張するような「法律上の利益」に関する
規定は見当たらない。原告らは,一般廃棄物処理に関して市町村が一般廃棄
物処理業者の円滑な運営を目指すための努力目標を拡大解釈している。
廃棄物処理法が,一般廃棄物処理業について市町村長の許可制としている
のは,廃棄物を適正に処理し,生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ると
いう行政目的実現のためである。これより進んで,既存の許可業者の営業上
の利益を保護していることをうかがうに足りる規定は,廃棄物処理法その他
関係法令には認められない。したがって,既存の許可業者が享受する営業上
の利益は,廃棄物処理法その他関係法令により保護された利益ということは
できず,それは行政法規が公益の実現を目的として行政権の行使に制約を課
している結果,たまたま一定の者が受けることとなるいわゆる反射的利益に
すぎないというべきである。
(2)平成20年環廃対発第080619001号(甲11)は,市町村の責務
が重いことを再認識し,経費削減のために廃棄物処理法の目的が達成されな
い状況を生み出すべきではないとするもので,既存の許可業者の経営安定を
いうものではない。
また,平成4年衛環233号(甲12)及び平成5年衛環第70号(甲1
3)は,廃棄物処理法の目的達成ができるよう業者を指導育成する重要性を
促す一方で,更新を繰り返す業者には一定の信頼性があることを示唆するも
のであり,いずれも既存の許可業者に特段の法的保護を与えているものでは
ない。
(3)よって,行訴法9条2項を考慮したとしても,原告らが同条1項の「法律
上の利益を有する者」に当たらないことは明らかである。
4本案の争点及びこれに対する当事者の主張
(原告の主張)
(1)本件一般廃棄物処理計画の変更は裁量権の濫用であること
ア既存の許可業者によって当該市町村の一般廃棄物処理業務を達成できる
場合に,新規参入を求める業者に対して許可をしないことは裁量権の範囲
内であり,適法である(前掲最高裁判所平成16年1月15日第一小法廷
判決,同平成21年6月5日第二小法廷判決)。本件は,これとは逆に,
既存の許可業者によって市内の業務を適切に処理できるのに新規参入を認
めたという事案であるが,このような需要なき新規参入の許可は裁量権の
濫用であり,適法とはいえない。
イ一般廃棄物処理は生活必需サービスであり,その業務を的確かつ継続的
に遂行することが要請されている。しかし,被告が新規業者の参入を認め
ると,競争が激化し,既存の許可業者は客を奪われて業務を縮小せざるを
得ず,新規参入業者もまた思うように利益を上げられない可能性がある上,
その後に新規参入業者が撤退したとしても,既存の許可業者が既に設備・
人員を縮小していれば速やかに業務の再拡大をできるわけではないし,別
の業者の新規参入の可能性があるから業務の再拡大をすべきでないという
経営判断をすることも考えられ,市内のし尿・浄化槽汚泥収集・運搬業務
が適切に行われず,市民サービスが著しく停滞するおそれがある。
阿久根市の一般廃棄物の処理体制において,2業者体制で将来支障を生
ずるという可能性も全くないのに,新規業者を参入させると,混乱を生じ,
かえって継続的かつ安定的な体制が阻害されるのである。実際に,本件許
可によって過当競争が生じており,顧客を奪われた原告ら既存の許可業者
の業務には支障が生じている。
このことは,業務を的確にかつ継続的に行うことを最優先とする廃棄物
処理法の趣旨に反する。
ウ合特法は,下水道事業によりし尿収集運搬事業の業務が縮小する場合に
救済措置を講ずる。国策である下水道整備に伴う業務の縮小に対しても,
業者を保護する施策が講じられているのであるから,下水道が整備されて
もおらず,既存の許可業者で十分に市内のサービスを行っているときに,
わざわざその業務を縮小するような施策を導入することは,廃棄物処理法
の関連法令である合特法の考え方とも整合性がない。
エ本件新規参入抑制条項の下では,し尿・浄化槽汚泥の収集運搬,浄化槽
清掃業務は,原告ら2社で行うことが前提とされており,原告らには阿久
根市内のこれら業務を遂行する独占的な地位が与えられ,原告らもそれを
信頼して業務を遂行してきた。被告はこの信頼を尊重すべきであり,新規
の需要がなく住民の不満もないのに新規参入を認めて許可業者の経営を脅
かすことは,一般廃棄物処理計画の基本に反するとともに,既存の許可業
者の信頼を侵害して計画裁量権を濫用するものである。
オ以上のとおり,本件新規参入条項を除外する計画変更は,その必要がな
いというだけでなく,生活必需サービスの安定性,継続性を害して市民サ
ービスに空白を作るおそれがある上,市内全域の業務を独占的に処理でき
るという原告らの法的地位とそれへの信頼を侵害するものであるから,廃
棄物処理法の仕組みに反して違法というべきである。
カそして,違法な変更計画を前提とする本件許可処分も,その違法を承継
して違法となる,あるいは,実質的には本件許可処分をするために一般廃
棄物処理計画を変更したのであるから,両者は一体として違法というべき
である。
(2)本件許可処分は許可要件を欠いていること
本件一般廃棄物処理計画の変更は違法であるから,新規参入の許可は誰に
対しても違法であるが,本件新規参入業者が許可要件を満たしているかも疑
問である。すなわち,本件新規参入業者は,これまで一般廃棄物処理業及び
浄化槽清掃業の実績がなく,一般廃棄物の収集又は運搬を的確に行うに足り
る知能及び技能を有する(廃棄物処理法施行規則2条の2)のかも,浄化槽
法の定める技術上の基準(浄化槽法36条1号,同法施行規則11条4号)
に該当するのかも不明である。また,本件新規参入業者は大会社でもないか
ら,経理的基礎(廃棄物処理法施行規則2条の2)があるかどうかも不明で
あり,いったん参入しても成果が得られなければ撤退する可能性も高く,事
業を継続的に行うと判断できるのかも疑問である。
以上によれば,本件許可処分は許可要件を欠くものである。
(3)以上(1)及び(2)によれば,本件許可処分は違法である。
(被告の主張)
(1)原告らの引用する判例は,市長の許可判断の範囲を限定するものではな
く,許可判断の範囲の一つを意味すると解すべきである。
(2)阿久根市における一般廃棄物の処理体制を将来にわたって継続的かつ安
定的に維持していくためには,既存の2業者のうち1業者が撤退を余儀なく
されるなどの不測の事態も想定した上で,万全の体制を確保することが,被
告の責務である。そこで,被告は,現状の体制に支障が生じてから急きょ新
規業者を参入させることによる混乱を防止し,継続的かつ安定的な一般廃棄
物処理体制を提供するために,新規参入抑制条項を撤廃して新規業者が参入
できる環境を整えた。
本件新規参入抑制条項を削除した後,13業者からの許可申請がなされた
が,阿久根市長は,審査を行った結果,そのうちの1業者について,市内の
地理や状況などに精通していることや地元雇用が期待できることなど最も阿
久根市一般廃棄物処理実施計画の基本方針に適合していると判断し,本件新
規参入業者に対する本件許可処分を行ったものである。したがって,本件許
可処分は,原告らが主張する「むやみに新規許可を出すことにより既存の許
可業者の地位が脅かされる」ような無差別的な許可ではなく,過当競争を生
み既存の許可業者の業務に多大な支障が生じるなど市民の福祉サービスの低
下を招くことがないよう,十分配慮したものである。
実際に,同許可によって,原告ら既存の許可業者が倒産の危機にまで業務
が悪化しているなどの状況は客観的に確認できず,阿久根市の一般廃棄物処
理業務は3業者体制で継続的かつ安定的な維持がなされている。
また,本件新規参入業者の業務運営にも何ら問題はない。
(3)よって,本件許可処分は一般廃棄物処理計画に適合した業者に許可を与え
たものであって,阿久根市一般廃棄物処理実施計画の変更及び本件許可処分
に裁量権の濫用はない。
第3当裁判所の判断
1争点(1)(原告適格の有無)について
(1)行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条
1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」と
は,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,
又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた
行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消さ
せるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護す
べきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにい
う法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然
的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を
有するものというべきである。
そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有
無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみに
よることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮される
べき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び
目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令がある
ときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに
当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害され
ることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘
案すべきものである(同条2項,最高裁平成16年(行ヒ)第114号同1
7年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁参照)。
(2)以上によれば,一般廃棄物処理業の許可を有する者が他の者に対する許
可処分の取消を求める原告適格を有するといえるためには,廃棄物処理法が
一般的公益のみならず一般廃棄物処理業の許可を受けた既存の許可業者の個
別的利益をも保護する趣旨であると解することができなければならない。そ
して,ここにいう既存の許可業者の個別的利益として原告らが主張するもの
は,経営の安定,すなわち一般廃棄物処理業を営む上での経済的利益である
と解される。
このことを前提に,以下,廃棄物処理法及び浄化槽法が既存の許可業者の
経済的利益を個別的利益として保護する趣旨を含むものと解されるか否かを
検討する。
(3)廃棄物処理法(以下,この項においては単に「法」という。)について
ア法は,廃棄物の排出を抑制し,及び廃棄物の適正な分別,保管,収集,
運搬,再生,処分等の処理をし,並びに生活環境を清潔にすることにより,
生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とした上で(法1
条),国民,事業者並びに国及び地方公共団体のそれぞれにつき,廃棄物
の排出抑制及び廃棄物の処理に関する責務を定める(法2条の2ないし4
条)。これらの規定からは,法が専ら国民の生活環境の保全及び公衆衛生
の向上という一般的公益の保護を目的としていることは明らかである。
イそして,法は,一般廃棄物の収集,運搬及び処分(以下,これらを合わ
せて「一般廃棄物の処理」という。)について,まず市町村がこれを行う
べきものとし(法6条の2),市町村がこれを行うことが困難であると認
められる場合に限って,業者への許可を認める(法7条5項1号,同条1
0項1号)。
他方,産業廃棄物の収集,運搬及び処分については,そもそも市町村が
行わなければならないものとはされておらず(法11条,14条),法は,
廃棄物のうち特に一般廃棄物に限って,これを民間業者の自由な経済活動
に委ねるのでは公益の実現に不十分であると判断し,市町村が第一義的に
これを担うべきものとしたとみることができる。すなわち,法が,上記の
とおり市町村がこれを行うことが困難である場合に限って一般廃棄物の
処理を民間業者に処理させることができることとしているのは,法に基づ
く一般廃棄物処理業の許可が一般廃棄物の適正な処理という公益目的に
従ってなされなければならないことを規定したものというべきであり,こ
れら規定が,既存の許可業者の経済的利益を個別的利益として保護する趣
旨を含むものということはできない。
ウところで,市町村は,一般廃棄物処理計画として,一般廃棄物の発生量
及び処理量の見込み,一般廃棄物の適正な処理及びこれを実施する者に関
する基本的事項等を定めなければならず(法6条1項,同条2項1号,同
項4号),市町村長は,その申請内容が一般廃棄物処理計画に適合しない
者については一般廃棄物収集運搬業の許可をしてはならないとされる(法
7条5項2号)。そして,例えば,既存の許可業者等によって一般廃棄物
の適正な収集及び運搬が行われてきており,これを踏まえて一般廃棄物処
理計画が作成されているような場合には,一般廃棄物の適正な収集及び運
搬を継続的かつ安定的に実施させるためには,既存の許可業者等のみに引
き続きこれを行わせることが相当であるとして,新たな許可申請について,
その申請内容が一般廃棄物処理計画に適合するものであるとは認められな
いという判断をすることも許される(前掲最高裁判所平成16年1月15
日第一小法廷判決参照)。
もっとも,市町村が,一般廃棄物の適正な処理に必要な措置を講じるよ
う努めるとともに,一般廃棄物の処理に関する事業の能率的な運営に努め
なければならないとされ(法4条1項),一般廃棄物処理計画に従って一
般廃棄物処理を行うべき責務を負っていること(法6条の2)や,一般廃
棄物処理計画において規定すべき上記事項等に照らせば,一般廃棄物処理
計画の目的もまた,一般廃棄物の適正な処理という点にあることは明らか
である。そうすると,市町村長が許可申請の一般廃棄物処理計画適合性を
判断する上で,一般廃棄物の適正な収集及び運搬を継続的かつ安定的に実
施させるために既存の許可業者等のみに引き続きこれを行わせることと
することがその裁量の範囲内に含まれるとしても,そのような裁量判断
は,一方において一般廃棄物処理業に新規に参入しようとする者の営業の
自由を制限することになるのであるから,あくまで一般廃棄物の適正な処
理を実現するという一般廃棄物処理計画の目的の達成に資する限りにお
いて許容されるものというべきである。
したがって,上記のような裁量判断を許容しているからといって,法が
既存の許可業者等の経済的利益を保護すること自体を個別的利益として
保護しているということはできない。上記のような裁量判断が行われた結
果,たとえ既存の許可業者が従前の収集運搬量を維持できるとか,経営の
安定を脅かされないといった経済的利益を得ることがあったとしても,そ
れは一般廃棄物の適正な処理という公益の実現に伴って付随的に生じる
事実上の利益にすぎない。
エまた,市町村長は,許可申請に係る事業の用に供する施設及び申請者の
能力がその事業を的確に,かつ,継続して行うに足りるものとして環境省
令で定める基準に適合するものでないときにも,一般廃棄物収集運搬業の
許可をしてはならないとされる(法7条5項3号)。そして,環境省令は,
申請者の能力に係る基準として,収集運搬を的確に行うに足りる知識及び
技能を有すること,及び収集運搬を的確に,かつ,継続して行うに足りる
経理的基礎を有することの2つの基準を定める(法施行規則2条の2第2
号イ,同号ロ)。
このうち,「申請者の能力がその事業を的確に,かつ,継続して行うに
足りる」との基準は,平成3年の法改正により新たに設けられたものであ
るところ(平成3年法律第95号。同改正以前は,申請者の能力としては,
技術上の基準に適合することのみが要求されていた。),上記改正に関す
る平成4年衛環233号(甲12)が「許可基準に新たに設けられた一般
廃棄物処理業者の経理的基礎の審査は(略)事業計画の概要を記載した書
類並びに事業の開始に要する資金の総額及びその調達方法を記載した書
類を提出させ,その内容について行うべきものである」と述べていること
からもわかるとおり,法7条5項3号において考慮すべきなのは,あくま
でも申請者の属性に関する事項であって,それを超えてさらに既存の許可
業者に与える影響を考慮することは求められていない。また,この基準は,
一般廃棄物処理業の許可のみならず,産業廃棄物処理業の許可においても
同様に設けられている基準であって(法14条5項1号,法施行規則10
条2号ロ),一般廃棄物処理業の許可に特有の要件というわけでもない。
したがって,法7条5項3号は,新規の一般廃棄物処理業者の許可の判
断に当たって既存の許可業者の事業の安定を考慮することを要求するも
のではなく,新規業者の参入によって当該区域内の一般廃棄物処理の体制
がどのような影響を受けるかということは,上記ウで述べたように,同項
2号該当性において考慮されるべきものというべきである。
原告らは,上記改正に関する平成4年衛環233号(甲12)が「市町
村長は,許可制度の運用においては,一般廃棄物処理業者のより一層の資
質の向上と信頼性の確保を図るという見地から,一般廃棄物処理業者の事
業の安定及び育成にも配慮すること」としているのは,一般廃棄物処理業
者の事業の安定そのものを個別的利益として保護すべきことを求める趣
旨であると主張する。
しかしながら,ここでいう「事業の安定及び育成」とは,その文脈から
して「一般廃棄物処理業者のより一層の資質の向上と信頼性の確保」の手
段としてのそれであることは明らかである。のみならず,平成4年衛環2
33号における原告らの指摘部分が「一般廃棄物処理業の許可は,市町村
が策定する一般廃棄物処理計画に基づいて,当該市町村による処理が困難
であるもの等についてなされるものであり,この点において産業廃棄物処
理業の許可とは異なるものであるが,」との部分に引き続いて記載されて
いるものであることからすると,平成4年衛環233号の上記記載は,一
般廃棄物処理業の許可はあくまでも一般廃棄物の適正な処理という公益
目的にしたがってなされるべきものであることを前提としつつ,法7条5
項2号該当性の判断において「許可制度の運用においては,一般廃棄物処
理業者のより一層の資質の向上と信頼性の確保を図るという見地から,一
般廃棄物処理業者の事業の安定及び育成にも配慮すること」を求めている
にとどまるものというべきである。
したがって,平成4年衛環233号の上記記載をもって,一般廃棄物処
理業者の事業の安定そのものを個別的利益として保護すべきことを求め
るものということはできない。また,平成20年環廃対発第080619
001号や平成5年衛環第70号がそのような趣旨のものでないことは
明らかである。
オもっとも,ある区域において排出される廃棄物の量には通常限りがある
から,当該区域内の許可業者が増加すれば一業者当たりの平均処理量は減
少することになるし,需要に対して供給が過剰になれば業者間での過当競
争が生じる可能性も否定できない。そして,一般廃棄物の適正な処理が公
衆衛生上必要不可欠であることに照らせば,法もまた,既存の許可業者の
経営が破綻するような事態を許容するものでないことは明らかであり,特
に公益目的から対価制限が行われている(法7条12項)ような場合には,
行政において業者の経営破綻を回避する措置を講じる必要性も一定程度
存する。
しかし,この点で,法は,一般廃棄物処理計画に適合しない場合には許
可を与えないという方法を採ることによって,新規参入を抑制し許可業者
の濫立を防ぐことを可能としつつ(法7条5項2号),適正配置規制や需
給調整の規定を設けることはしていない。このような規定ぶりのほか,適
正配置規制や需給調整の規定が新規参入業者に対する営業の自由を一般
的かつ広範に制限することになることからすれば,もし需給調整を行う必
要が生じた場合には,一般廃棄物処理計画適合性の判断における裁量の範
囲内で十分にこれを達成することが可能であるという考慮の下,法は,あ
えて,需給調整規定等を採用しなかったものというべきである。
カそして,以上のような一般廃棄物処理行政の仕組みからすると,市町村
は,まず需給調整を行うか否かについての裁量を有しており,さらに,需
給調整を行う場合にも,その具体的方法として,一般廃棄物処理計画にお
いて需給調整規定を設けるという方法や,個々の許可申請について一般廃
棄物処理計画適合性を否定するという方法などを,自由に選択することが
できるということになる。
そうだとすると,仮に当該市町村が一般廃棄物処理計画において新規参
入抑制条項を設けたとしても,それは法が市町村に与えた裁量の下で採用
された一方法にすぎないというべきであって,その新規参入抑制条項に対
する業者の信頼は,法がそれ自体を個別的利益として保護しようとするも
のではないというべきである。
キ以上によれば,法が一般廃棄物の適正な処理という公益以外に既存の許
可業者の経済的利益を個別的利益として保護する趣旨を含むものと解する
ことはできない。
(4)浄化槽法について
ア浄化槽法は,浄化槽の設置,保守点検,清掃及び製造について規制する
とともに,浄化槽工事業者の登録制度及び浄化槽清掃業の許可制度を整備
し,浄化槽設備士及び浄化槽管理士の資格を定めること等により,公共用
水域等の水質の保全等の観点から浄化槽によるし尿及び雑排水の適正な処
理を図り,もって生活環境の保全及び公衆衛生の向上に寄与することを目
的とする(同法1条)。ここでも,法の第一義的な目的は,生活環境の保
全及び公衆衛生の向上という一般的公益の保護にあることは明らかであ
る。
イそして,浄化槽法は,浄化槽清掃業を営もうとする者について,当該区
域を管轄する市町村長の許可を受けなければならないとし(同法35条1
項),許可条件として,その事業の用に供する施設及び清掃業許可申請者
の能力が環境省令で定める技術上の基準に適合するものであるという能力
要件と,清掃業許可申請者の欠格要件を定める(同法36条)。
これを一般廃棄物処理業の許可条件と比較すると,浄化槽清掃業の許可
の場合には,そもそも申請者の経理的基礎に関する基準が設けられていな
い。浄化槽清掃業は,もともと廃棄物処理法(昭和58年法律第43号に
よる改正前のもの。以下「昭和58年改正前廃棄物処理法」という。)に
規定されていたし尿浄化槽清掃業が,新たに浄化槽法という別個の法律の
規制下におかれたという沿革を有するものであるが,昭和58年改正前廃
棄物処理法においては,一般廃棄物処理業及びし尿浄化槽清掃業のいずれ
についても「経理的基礎を有すること」は許可条件とされていなかったと
ころ,浄化槽法制定後に廃棄物処理法が改正され(前記平成3年改正),
経理的基礎を有することが一般廃棄物処理業の許可条件に追加されたの
に対し,浄化槽清掃業の許可条件について浄化槽法の改正はなされなかっ
たものである。このような法改正の経緯からしても,浄化槽法は,浄化槽
清掃業の許可に当たって,許可申請者の経理的基礎を特に参酌することま
では要求していないということができるし,ある程度下水道整備の進んだ
現代における浄化槽清掃業の位置づけからすると,法が一般廃棄物処理業
と浄化槽清掃業との許可条件にこのような区別を設けたとしても不合理
とはいえない。
そうすると,浄化槽法は,浄化槽清掃業の許可に当たって,既存の許可
業者,新規業者の別を問わず,業者の経理的基礎を考慮することを求める
ものではなく,当然のことながら既存の許可業者の経営の安定を保護する
ものでもないというべきである。
ウなお,浄化槽清掃業の許可申請者が,浄化槽の清掃により引き出される
汚泥等の収集運搬につき,これに必要な一般廃棄物処理業の許可を有して
おらず,また,他の一般廃棄物処理業者に業務委託すること等により適切
に処理する方法も有していない場合には,上記許可申請者は,浄化槽法3
6条2号ホにいう「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれが
あると認めるに足りる相当の理由がある者」に当たると解するのが相当で
ある(最高裁平成4年(行ツ)第122号同5年9月21日第三小法廷判
決・裁判集民事169号807頁,同平成19年(行ヒ)第388号同2
1年6月5日第二小法廷判決・裁判所時報1485号165頁参照)。も
っとも,これは一般廃棄物の処理手段を持たない者につき浄化槽清掃業の
許可をすべきでない旨を述べたものであって,一般廃棄物処理業の許可を
有しないことが直ちに浄化槽清掃業の不許可事由に当たることを意味しな
いのはいうまでもなく,一般廃棄物処理業の許可と浄化槽清掃業の許可と
が浄化槽法36条2号ホによりリンクしている(両許可の考慮要素が共通
であるとの趣旨と解される。)との原告らの主張は採用することができな
い。
(5)合特法について
合特法は,下水道の整備等によりその経営の基礎となる諸条件に著しい変
化を生ずることとなる一般廃棄物処理業等(浄化槽清掃業を含む(同法2条,
同法施行令1条)。)。について,その受ける著しい影響を緩和し,併せて
経営の近代化及び規模の適正化を図るための計画を策定し,その実施を推進
する等の措置を講ずることにより,その業務の安定を保持するとともに,廃
棄物の適正な処理に資することを目的とする(同法1条)。
その目的に廃棄物の適正処理が含まれていることからすると,同法は,廃
棄物の適正処理等により生活環境の保全及び公衆衛生の向上を目的とする廃
棄物処理法及び浄化槽法と目的を共通する部分があることは否定できない。
しかしながら,そもそも合特法は,下水道の整備等に伴って一般廃棄物処
理業の合理化を行うという限定的な場面においてのみ適用されるもの,すな
わち,し尿の処理方法がし尿浄化槽から下水道の終末処理場へと転換する途
中過程における,いわば経過措置を定めるという意義を有する法律であり(こ
のことは,昭和50年厚生省環第676号(甲16)に「転換が完了する直
前まで」とあることからも看取することができる。),このような合特法の
立法趣旨に照らせば,同法は確かに既存の許可業者の個別の経済的利益をも
保護するものではあるが,それは国及び地方公共団体が環境の保全上緊急か
つ重要な施策として下水道の緊急かつ計画的な整備等を推進することによ
り,一般廃棄物処理業等が受ける著しい影響を緩和するという限度での利益
保護に限られるというべきである。
そうすると,関連法令たる合特法の趣旨及び目的を参酌したとしてもなお,
廃棄物処理法及び浄化槽法が,上記の限定的な場面を離れて既存の許可業者
の経済的利益を広く保護する趣旨に出たものと解することはできない。
(6)結論
以上のとおり,原告らは,本件許可処分の取消しを求める法律上の利益を
有しない。
2結論
よって,原告らの本件訴えはいずれも不適法であるからこれらを却下す
ることとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法6
1条を適用して,主文のとおり判決する。
鹿児島地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官山之内紀行
裁判官藤田光代
裁判官田中いゑ奈

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