弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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          主    文
    1 本件控訴を棄却する。
    2 控訴費用は,控訴人の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴の趣旨
  (1) 原判決を取り消す。
  (2) 被控訴人が控訴人に対し平成10年7月21日付けでした原判決添付文
書目録記載の文書の部分開示に係る決定中,同添付文書非開示部分一覧表記載3の
事項を非開示とした部分を取り消す。
  (3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
 2 控訴の趣旨に対する答弁
   主文同旨
第2 請求及び事案の概要
   次の1のとおり訂正し,当審における補充的主張として2のとおり付加する
ほか,原判決2頁9行目から19頁7行目までに記載のとおりであるから,これを
引用する。
 1 原判決の訂正
  (1) 原判決4頁につき,5行目から6行目にかけての「学校教育の指導、」
を削除し,6行目の「教育関係職員」の次に「の研修」を加える。
  (2) 同添付「文書非開示部分一覧表」記載1(三)③及び2(三)③の各「、授
業名」を削除する。
 2 当審における補充的主張
  (1) 控訴人の主張
   ア 本条例9条2号の「特定の個人を識別することができると認められるも
の」の解釈について
     住所,氏名等の当該非開示情報のみによって特定の個人を識別すること
ができる場合のみならず,当該非開示情報のみでは識別不可能であっても,他の情
報と組み合せることによって特定の個人を識別することが可能となる場合には,当
該非開示情報が本条例9条2号の「特定の個人を識別することができると認められ
るもの」に該当するということ自体は,控訴人も反対するものではない。しかし,
組み合わせの対象とされる他の情報は,当該非開示情報の記載されている当該公文
書上の他の情報に限られるべきであり,原判決のように,一般的に入手可能な情報
源から得られる情報にまでその範囲を拡大することは,「識別可能な個人情報」の
範囲を不当に拡げるものである。すなわち,本条例9条2号の個人識別性の判断
は,実施機関が決定をした時点を基準とし,かつ,ふつうの県民を基準とすべきで
あり,開示請求者が既にどのような情報を保有しているか,開示後特定の個人を識
別するために詮索的に調査活動をする可能性があるかどうかなどの開示請求者の個
別の事情を考慮して判断することは許されない。したがって,例えば,当該公文書
以外の公文書の開示請求によって得られる情報はもちろん,テレビ・ラジオ,雑誌
といったマスメディアによって報道された情報であっても,個人によってこれを保
有しているか否かのばらつきがあり,一般県民が情報として保有しているとは必ず
しもいえないから,これを考慮して識別可能か否かを判断するのは相当でない。
     また,仮に,当該非開示情報と組み合わせられる他の情報として,一般
的に入手可能な情報源から得られる情報にまでその範囲を拡大したとしても,その
「一般的に入手可能な情報源」の範囲は,一般人(一般の県民)が通常入手し得る
関連情報の範囲に限るべきである。したがって,実施機関としては,公刊物に掲載
された情報,マスメディアによる報道のほか,県民として開示を受けることのでき
る公文書等の情報の範囲で一般県民の立場から見て識別可能かどうかを判断すべき
であり,当該生徒と同一の学級に所属する生徒やその周辺者の保有する情報を詮索
的に収集することによって得られる情報まで含むと解するのは,条例の解釈に恣意
的・主観的な判断要素を加えるものであり,許されない。
   イ 原判決の事実認定の誤り
     仮に他の一般的に入手可能な情報と組み合せるとしても,本件におい
て,学校名,校長名,加害者教員名が開示されたからといって体罰を受けた生徒の
氏名を特定することは容易でない。この点は,ふつうの県民を基準として特定の個
人を識別できる具体的な蓋然性について被控訴人の側で主張立証する責任があると
いうべきであるが,その立証はなされていない。
     なお,控訴人が,H市情報公開条例に基づき,H市教育委員会に対し
て,生徒名,学級編成,教科編成が表示される文書として乙第2号証に掲げられた
ものについて開示請求をした結果に基づき検討すると,学校名が分かれば,その学
校についての資料をH市教育委員会に開示請求することにより,加害教諭の氏名,
体罰を受けた生徒の所属するクラス名,当該生徒の男女の別及び出席番号を識別す
ることが可能であるが,当該生徒の氏名を特定することはできないことが判明し
た。
  (2) 被控訴人の反論
   ア 本条例9条2号の「特定の個人を識別することができると認められるも
の」の解釈について
     個人識別性についての控訴人の第1次的見解によれば,個人識別情報が
当該公文書そのものに記載されており,かつ誰が見てもこの情報から個人が特定さ
れる場合を除いては,当該公文書は開示されることになるが,これは個人情報を非
開示とした条例の趣旨を没却するものである。本件公文書のほかに別途情報公開条
例に基づき入手可能な資料により得た情報と,当該生徒の同級生やその保護者等の
ような一般的に接近可能と見られる情報源から得られる情報と組み合わせて個人が
識別できるならば,開示の許されない個人情報に該当するというべきである。
   イ 原判決の事実認定について
     原判決の事実認定に誤りはない。
第3 争点に対する判断
 1 争点1(個人情報該当性)について
  (1) 本条例は,岡山県が,行政情報の公開の総合的な推進を図ることによ
り,県民の県政に対する理解と信頼を深め,県民参加による公正で開かれた県政を
一層推進することを目的として制定されたものであり(1条),そのため,実施機
関は,この条例の運用に当たっては,県民の公文書の開示を請求する権利を十分に
尊重しなければならないとされる(3条前段)。しかし,その一方で,個人に関す
る情報が十分に保護されるよう最大限の配慮をすることも要請され(3条後段),
本条例9条2号において,個人情報が情報開示の適用除外事項として定められてい
る。
    ところで,本条例9条2号は,これに該当する要件として,①個人に関す
る情報であること,②特定の個人を識別することができると認められること,③た
だし書の事由に該当しないことを規定している。本件においては,上記③のただし
書の事由がある旨の主張,立証がないので,以下,①,②について検討する。
  (2) まず,本件で開示を求める情報が「個人に関する情報」であるか否かに
ついて検討する。
    本条例9条2号は,基本的人権を尊重し,個人の尊厳を守る立場から,個
人のプライバシーを最大限に保護するために定められたものであるが,プライバシ
ーに関する情報の範囲が必ずしも明確になっていないことから,プライバシーとい
う概念を用いることを避け,より客観的な要件である「個人に関する情報であっ
て,特定の個人を識別することができると認められるもの」を情報開示の適用除外
としたものである(岡山県作成の「公文書開示事務の手引」《乙1》を参照)。し
たがって,本条例のいう「個人に関する情報」は,広く個人との関連性を有するす
べての情報を意味するものと解される。
    しかし,公務に関連する情報,特に公務員の職務の遂行に関する情報につ
いては,別個の考慮を要するというべきである。すなわち,上記(1)に記載したと
おり,本条例は,県民参加による公正で開かれた県政を一層推進することを目的と
して制定されたものであることに照らすと,公務員としての立場でその職務として
遂行したことに関する情報は,県政に対する県民参加という面において無意味なも
の(例えば公務員の住所,電話番号)でない限り,もはや「個人に関する情報」と
はいいがたいというべきである。
    これを本件についてみるに,控訴人は,生徒に体罰を加えた教諭の氏名並
びにその所属する中学校名及び校長名の開示を求めているところ,この非開示情報
は,教諭乙が職務の遂行中に犯した非違行為に関するものであり,かつ,校長甲の
その職務である市教育委員会に対する報告行為に関するものでもあるから,教諭乙
や校長甲の「個人に関する情報」であると直ちにはいいがたい。
    しかしながら,その情報は,生徒丙の行った問題行動が発端になって同生
徒に対してなされた体罰に関するものであるから,生徒丙個人との関連性を有して
おり,したがって,同生徒の「個人に関する情報」であるというべきである。
  (3) そこで,次に,控訴人が開示を求める情報が,生徒丙を識別することが
できるものと認められるか否かを検討する。
   ア 本件公文書には体罰を受けた生徒丙の氏名が記載されているが,本件部
分開示決定においてその部分は非開示とされ,その点は本件一部変更決定によって
も変更されていないから,本件で控訴人が開示を求める生徒に体罰を加えた教諭の
氏名並びにその所属する中学校名及び校長名が開示されたとしても,本件公文書自
体からは生徒丙が誰であるかを識別することはできない。
   イ そして,控訴人は,当該非開示情報のみでは識別不可能であっても,他
の情報と組み合せることによって特定の個人を識別することが可能となる場合に
は,「特定の個人を識別することができると認められるもの」に該当することは認
めるものの,その組み合わせの対象とされる他の情報は,当該非開示情報の記載さ
れている当該公文書上の他の情報に限られるべきであると主張する。
     しかしながら,当該公文書上の情報だけでは特定の個人を識別できない
場合であっても,他の情報と照合することによって容易にその者を識別し得るので
あれば,これを開示すると,個人に関する情報が十分に保護されるよう最大限の配
慮を要請している本条例の趣旨に反するというべきである。他方で,他の特殊な情
報と組み合わせることによって初めて個人を識別できる場合にまで「特定の個人を
識別することができると認められるもの」に該当すると解すると,個人に関するい
かなる情報でも特定個人を識別できる情報として非開示になりかねず,県民の公文
書の開示を請求する権利を十分に尊重すべきとの本条例の制定趣旨が没却されるお
それがある。
     以上によれば,当該非開示情報と組み合わせることが可能な情報として
は,当該公文書上の情報及び一般人が通常入手し得る関連情報に限るのが相当であ
る。そして,一般人が通常入手し得る関連情報としては,新聞報道による情報がこ
れに当たることはもちろんであるが,別途情報公開条例に基づき入手できる情報
も,一般的に認められている手段によるものであってもはや特殊な入手方法による
情報とはいえないから,これに含まれると解される。
   ウ これを本件についてみると,本件公文書の部分開示及び新聞報道の結果
既に生徒丙の所属学年に加え,体罰事件のあった年月日,受傷入院による欠席の事
実が明らかになっているため,所属中学校名が明らかにされるならば,別途,控訴
人において,例えば,学級名簿,健康観察簿,出席簿等の開示を求めることによ
り,体罰を受けた生徒の所属する学級名,当該生徒の男女の別,出席番号を特定す
ることができ(甲12,14,15の(1)ないし(11),16,17の(1)ない
し(7),乙2),そうすると,生徒丙の氏名までは直ちに明確にならないとして
も,ここに至っては生徒丙について特定の個人を識別することができたのと同様の
状態になったというべきである。また,所属中学校名を非開示にしても,校長又は
教諭の氏名が明らかにされるならば,容易に所属中学校名も明らかになるから,以
上と同様である。
  (4) 以上のとおりであるから,控訴人が開示を求める事項(非開示事項3)
は,そのいずれも本条例9条2号に定める個人情報に該当するため,開示すべきも
のでないというべきであり,これを非開示とした本件一部変更決定による変更後の
本件部分開示決定は適法である。
 2 したがって,控訴人の本訴請求は,その余の点について検討するまでもな
く,理由がないからこれを棄却すべきである。よって,これと同旨の原判決は相当
であって本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決す
る。
     広島高等裁判所岡山支部第2部
        裁判長裁判官 前 川 鉄 郎
           裁判官 辻 川   昭
           裁判官 森   一 岳

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