弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
一 被告は、原告に対し、金四〇〇万円及びこれに対する平成四年一一月一七日か
ら支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを三分し、その二を被告の、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
       事実及び理由
第一 請求
一 被告は、原告に対し、金五四六万円及びこれに対する平成四年一一月一七日か
ら支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、別紙目録三1記載の雑誌に同目録2、3記載の体裁にて、別紙目録二
記載の謝罪広告を各一回掲載せよ。
第二 事案の概要
 本件は、被告が別紙目録一記載の書籍(以下「本件書籍」という。)の付属ディ
スクに収納して頒布した同目録一冒頭記載のゲームのプログラム(以下「Chom
p」という。)の影像が原告が著作権を有するビデオゲーム「パックマン」(以下
「本件ビデオゲーム」という。)の影像の複製であるとして、原告が被告に対し、
損害賠償及び謝罪広告を求めている事案である。
一 争いのない事実及び証拠により認められる基礎となる事実
1 当事者
 原告は、業務用ビデオゲーム機等の各種アミューズメントマシンの開発、製造、
販売、輸出入、賃貸、及び、家庭用ゲーム機用ソフトの開発、製造、販売、並び
に、アミューズメントスペースの企画、経営、キャラクター商品化権の許諾などを
主たる業務の内容とする株式会社であり、被告は、書籍、雑誌の出版、販売などを
主たる業務内容とする株式会社である。
2 法人著作
 原告は、その発意に基づき、従業員をして本件ビデオゲームを職務上作成させ、
昭和五五年五月二二日、原告の著作の名義の下に公表した。(甲二六)
3 本件ビデオゲームにより表示される影像の内容
(一) 本件ビデオゲームの画面に登場するキャラクターは、パックマンと、オイ
カケアカベイ、マチブセピンキー、キマグレアオスケ、オトボケグズタとそれぞれ
命名された色の異なる四匹のモンスターである。
(二) 画面に表示される舞台は、小さなドット(点)で表示される多数のエサと
大きなドットで表示される四個のパワーエサが点在し中央にモンスターの巣が存在
する迷路である。
(三) プレイヤーは、操作レバーを上下左右のいずれかの方向に動かすことによ
りパックマンを指示どおりの方向に移動させることができる。パックマンは、進行
方向に向けて口をパクパクさせ、エサと口が一致したときにエサを食べ、モンスタ
ーに食べられると消滅する。
(四) モンスターは、パックマンの移動に応じて、服の裾をヒラヒラ動かしなが
らパックマンを追跡したり、先回りしたりして、捕まえようとする。しかし、パッ
クマンが、パワーエサを食べるとこの関係が一時逆転し、パックマンが逆にモンス
ターを追跡してこれを食べることができる。この逆転の際、モンスターは、一斉に
紺色のイジケ顔となり(これをイジケモンスターと呼ぶ。)、移動方向を反転して
逃げ出す。そして、イジケモンスターは、パックマンに食べられると目玉だけにな
って巣に戻り、そこから再生されて出てくる。また、逆転した状態から元に戻る直
前にイジケモンスターは点滅し、逆転時間が切れる旨警告する。
(五) パックマンが、エサ、パワーエサ、イジケモンスター、又はモンスターの
巣の下に時々出現するフルーツターゲットを食べると、それぞれ決められた得点が
得られ、そのスコアは画面に表示される。
4 本件ビデオゲームの影像化の仕組
(一) 本件ビデオゲームは、影像をディスプレイ上に映し出し、極めて短い間隔
でフレームを入れ替えることによってその影像が連続的に変化しているように見せ
る方法で表現されている。
(二) 本件ビデオゲームのゲーム機においては、ROM中に電気信号の形で記憶
されているプログラム(命令群)の命令が、CPUにより読み取られ、この命令に
より、同様にROMに記憶されているプログラム(データ群)の中から抽出された
各影像データがディスプレイ上の指定された位置に順次表示されることにより、全
体として連続した影像となって表現される。ディスプレイ上に映し出される絵柄、
文字などの影像は、二進数の電気信号を発生できる形でROM中に記憶されてお
り、ディスプレイ上にはROM中に記憶されているもの以外の絵柄、文字などが現
れることはない。
 なお、本件ビデオゲームは、そのゲーム中に、プレイヤーのレバー操作によって
与えられる電気信号により命令が変化させられて、これによりプログラム中から抽
出されるべき命令及び抽出されるデータの位置、順序に変化が加えられるため、デ
ィスプレイ上に映し出される影像もプレイヤーのレバー操作により変化するが、い
かなるレバー操作によりいかなる影像の変化が生じるかもすべてプログラムにより
設定されている。
5 被告の行為
 被告は、平成四年八月ころから、Chompほか二三のプログラムを収納した
三・五インチ及び五インチの各フロッピーディスク(以下「本件フロッピーディス
ク」という。)を製作し、これを付属させた本件書籍を発行し、書店などで公衆に
販売している。なお、本件書籍のうち、本件フロッピーディスクを除く狭義の書籍
部分の主要な記載内容は、本件フロッピーディスクに収納されている「Chom
p」ほかのゲームの紹介や解説であるから、本件書籍は、本件フロッピーディスク
を分離、除外しては意味をなさず、両者は実質的に一体不可分のものである。
6 Chompにより表示される影像の内容
 Chompの作者は、アメリカ合衆国の【A】(以下「【A】」という。)であ
るが、Chompは、本件ビデオゲームのパックマンに相当する主人公と、モンス
ターに相当する四匹の敵がキャラクターとして登場するものであり、プレイヤーが
パソコンのカーソルキーを操作して移動させる主人公が、本件ビデオゲームのエサ
に相当する多数のドットと、パワーエサに相当する大きなドットが点在し、中央に
敵の巣が配された迷路上を、右ドットを食べながら動き回り、敵がこれを追うとい
う追跡ゲームである。
7 Chompの影像化の仕組
 本件フロッピーディスクに収納されているChompのプログラムは、これをパ
ソコンのハードディスクなどに記憶させた上、
MS-Windowsというユーザーインターフェイスを用いるとパソコンでゲー
ムをすることができ、ゲームの進行に伴って、パソコンのディスプレイ上にその影
像を展開し、再現することができる。
二 争点及び争点についての当事者の主張
1 主たる争点
(一) 本件ビデオゲームは、映画の著作物といえるか。
(二) Chompの影像は、本件ビデオゲームの影像の複製か。
(三) 被告の本件フロッピーディスクの製作頒布行為は、原告の同一性保持権及
び氏名表示権を侵害する行為に当たるか。
(四) 被告は、本件の著作権及び著作者人格権侵害行為について故意又は過失が
あるといえるか。
(五) 本件における使用料相当額の損害はいくらか。
(六) 謝罪広告の必要性
2 原告の主張
(一) 映画の著作物性について
 本件ビデオゲームは、それぞれ個性豊かで表情の変化に富んだモンスターとパッ
クマンとのスリリングな追跡をテーマにしたアニメーション映画であって、作者の
知的、精神的創作活動の所産であり、また、前記一4(一)のとおり、アニメーシ
ョン映画と同様の原理により、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生
じさせる方法で表現されており、更に、同4(二)のとおり、ROMの中に電気信
号として取り出せる形で収納されることにより、物に固定されているものであるか
ら、映画の著作物である。
(二) 複製について
 Chompの影像と本件ビデオゲームの内容は、別紙パックマン・Chomp 
for WINDOWS対照表記載のとおりであって、Chompの影像は、その
作者の【A】が本件ビデオゲームをもとにして作成したことを認めているとおり、
主人公と敵のキャラクターの数、形状、動作をはじめ、画面構成、ストーリー(ゲ
ームの進行やルール)などあらゆる面で本件ビデオゲームと同一か若しくはこれに
酷似している。Chompの影像は、本件ビデオゲームと比べ、迷路の構造、ワー
プの有無、モンスターの動きその他に若干の相違があるものの、これらは本件ビデ
オゲームにおける画面の構成要素の一部を省略したものか、若しくは、枝葉部分に
僅かな変更を加えた結果にすぎず、何ら創作的な部分が付加されたわけではないか
ら、本件ビデオゲームの影像と実質的に同一である。
 したがって、Chompは、本件ビデオゲームを有形的に再製した複製物であ
る。
(三) 故意又は過失について
 被告は、その発行するコンピュータ関係の雑誌である「MacJapan」の平
成四年五月号に本件ビデオゲームの影像を無断で使用したゲーム(日本国内のパソ
コン通信のネットワークにアップロードされていたもの)をその影像写真を使用し
て紹介したことがあり、このとき原告から著作権侵害である旨の指摘を受けてこれ
を認め、同雑誌の同年七月号に謝罪広告を掲載している。また、本件書籍の五九頁
に「あのパックマンゲームだ!」などと大きく紹介されていることなどからして、
Chompの内容が本件ビデオゲームの模倣であることを被告が本件書籍の発行前
に知らないはずがなく、更に、原告は、被告に対し本件書籍の発行の中止を求めた
にもかかわらず、被告がこれを拒絶したため、本訴に至ったものである。
 以上の経緯からすれば、被告は、本件の著作権及び著作者人格権侵害行為につい
て、故意又は重大な過失があった。
(四) 使用料相当額の損害賠償請求について
 被告は、故意又は過失により、Chompを収納した本件フロッピーディスクを
複製、頒布し、原告の著作権を侵害したのであるから、これにより原告が被った損
害を賠償すべき義務を負うものである。
 原告は、訴外株式会社ウィズ(以下「ウィズ」という。)に対して本件ビデオゲ
ームをパソコン用ゲームソフトに使用することを許諾しているが、右パソコン用ゲ
ームソフトのコンピュータ・プログラムはウィズ側で作成するものであり、右許諾
は、主として本件ビデオゲームの影像にかかる映画の著作物の複製、頒布に対する
許諾である。右許諾に対する使用料は、複製物一個当たり五四六円(商品価格七八
〇〇円×七%)であるから、本件ビデオゲームの映画の著作物についての使用料相
当額は、少なくとも複製物一個当たり五四六円を下ることはなく、また、被告が頒
布した本件書籍は、少なくとも一万冊は下らないから、原告が被告に対し請求しう
る本件著作権の使用料相当額は、五四六万円を下ることはない。
(五) 著作者人格権侵害に基づく謝罪広告請求について
 被告は、故意又は過失により、原告に無断で本件ビデオゲームの影像の構成要素
を前記(二)のとおり一部省略し、その内容を一部改変しているChompを本件
フロッピーディスクに収納したうえ、Chompの作者を「【A】」とのみ表示
し、本件ビデオゲームの著作者である原告の名称を表示しないで、本件書籍を公衆
へ提供し、これにより原告の著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害
した。
 なお、被告自ら本件ビデオゲームの内容を改変したものではないとしても、自己
の著作物が意に反して内容に変更を加えられた状態で現実に多数複製され公衆に頒
布された場合に著作者の人格的利益が最も害されるわけであるから、被告のように
改変された著作物を新たに複製物に収納して頒布したものは、全体として改変を行
なった行為主体の一人とみるべきである。
 したがって、原告は、被告に対し、著作者であることを確保し、又は訂正その他
著作者の名誉若しくは声望を回復するために適当な措置を請求することができると
ころ、右措置としては、別紙目録二及び三記載の謝罪広告を命じるのが適当であ
る。
3 被告の主張
(一) 映画の著作物性について
 ビデオゲームの本質的要素は、その画面に現れる影像の色彩、形状、配置や動き
方などにあるのではなく、プレイヤーが機器を操作することによって得られるゲー
ム展開にあるのであって、このようなゲーム展開こそが創作的なものとして保護さ
れるべきであり、個々の影像の特徴はこれに付随するものにすぎない。そして、本
件ビデオゲームは、追跡劇ゲームであるが、追跡劇ゲームにおいては、本件ビデオ
ゲームのように、一つの主人公が迷路上を複数の敵を食い滅ぼしながら進み、すべ
ての敵を食い尽くすと次の画面に移行して再び同様の経過を辿って最終場面に至る
という展開は、ごく一般的なものである。したがって、本件ビデオゲームには、追
跡劇ゲームとしての独創性はないから、著作権法にいう思想又は感情を創作的に表
現したものには当たらない。
(二) 複製について
 本件ビデオゲーム及びChompに共通する点は、追跡劇ゲームの特徴として他
の多くの追跡劇ゲームにも多かれ少なかれ共通するところである。そして、本件ビ
デオゲームとChompの相違点を考慮すれば、両者は同一といえない。
(三) 同一性保持権侵害について
 被告は、本件ビデオゲームを複製したのではなく、【A】が作成し、アメリカ最
大のパソコン通信ネットワークのCompuServeにアップロードされていた
シェアウェアのゲームソフトChompを作者である【A】の同意を得てダウンロ
ードし、本件書籍において他のゲームとともに紹介したものである。したがって、
本件ビデオゲームを改変したのは、【A】であって、被告ではない。被告は、単に
出版社としてChompを紹介したにすぎない。
(四) 故意又は過失について
 Chompは、日本国内のパソコン通信ネットワークである「PC-VAN」
(会員数三二万人)、「日経MIX」(同一万五〇〇〇人)、「PULL-PUL
Lネット」(同一〇〇〇人)、「Jupiterネット」(同二五〇〇人)におい
てアップロードされていたし、また、「Nifty-Serve」(会員数約三〇
万人)を通じて前記CompuServeにアクセスすることができたのであるか
ら、多数のパソコン通信の会員に対し公開され、容易に入手することができる状態
におかれていたものである。したがって、被告は、右のとおり誰でも入手できるシ
ェアウェアのプログラムであるChompを出版社として読者に紹介する行為が著
作権侵害行為に当たるとも原告がこれにより損害を被るとも認識していなかったも
ので、また、原告が損害を被ることについて予見できたとみるべき事情も何ら存在
しないから、被告には著作権侵害及び著作者人格権侵害について故意も過失も存し
ない。なお、被告は、本件ビデオゲームをそのまま複製したフリーウェアのゲーム
ソフトをその出版物において紹介したことについて、原告に対し謝罪したことがあ
るが、これは、右ゲームソフトが本件ビデオゲームと全く同一のものであったから
である。
(五) 使用料相当額の損害賠償請求について
 本件ビデオゲームは、本件書籍の発行のはるか以前から既に陳腐化しており、現
在ではファミコン用の中古ソフトが単価五〇〇円前後でたまに販売されている程度
で、その財産的価値はほとんどない。また、本件書籍の定価は、二九〇〇円である
から、本件フロッピーディスク自体の価格は七〇〇円前後にすぎず、しかも、本件
フロッピーディスクには二四個のゲームソフトが収納されており、Chompは、
そのうちの一つにすぎないから、Chompの販売単価は、約二九円(七〇〇円÷
二四)にすぎない。原告主張のウィズの使用料は、本件ビデオゲームそのものをパ
ソコン用のソフトとして独自に作成販売するという場合に関するものであって、こ
れを本件ビデオゲームのまがいものであるChompを他の多数のゲームソフトと
ともに単に誌上紹介したにとどまる本件に当てはめることは相当ではない。Cho
mpの頒布によっては、実際上原告にほとんど損害は生じていない。この点を不問
にしても、ウィズの使用料率の七パーセントを本件に当てはめると、原告の損害の
単価は、前記二九円の七パーセントの約二円にすぎない。
 また、原告がウィズとの間で前記許諾契約をしたのは、原告から被告に対する本
件書籍の販売中止等の要求に応じられない旨被告が解答した直後の平成四年一〇月
一日であり、原告は、その後同年一一月五日、この契約上の許諾料に基づいて算定
した損害の賠償を求めて本訴を提起しているのであるが、本件ビデオゲームは、こ
の時期においては既に商品価値がなかったのであるから、あえてこの時期に本件ビ
デオゲームのパソコン用ソフトを発売する必然性はなかったのである。
(六) 著作者人格権侵害に基づく謝罪広告請求について
 被告が本件ビデオゲームの著作権侵害、著作者人格権侵害について故意又は過失
がないことは前記(四)のとおりであるが、仮に、過失があるとしても、右(四)
に述べたとおり極めて軽微な過失にすぎない。また、原告は、Chompの作者で
ある【A】に対しては、警告しその回答を得た後、同人が得た利益の額が僅かであ
ることなどを理由として、同人に対して法的手段を取らないことを決定している
が、本件ビデオゲームを改変した【A】に対し法的手段を取らずに、被告に対し謝
罪広告を求めるのは適当な措置とはいえない。
 また、Chompは、【A】が作成し、パソコン通信を通じて多数のユーザーが
入手し得る状態に置いていたゲームソフトであり、被告はこれを他のゲームソフト
とともに読者に紹介したにとどまる。このような行為は、出版社である被告の言
論、出版の自由に属する行為であって、それが仮に著作者人格権侵害に該当すると
しても、これに対して謝罪広告を命じることは適当な措置とはいえない。
第三 判断
一 争点(一)(映画の著作物性)について
1 著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美
術又は音楽の範囲に属するものをいい(著作権法二条一項一号。以下単に「法」と
もいう。)、また、映画の著作物には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的
効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むもので
ある(法二条三項)。
 右のような著作権法の規定によれば、映画の著作物と認められるためには、次の
三つの要件を充足する必要があり、かつ、その要件を充足しているものであれば、
本来的な意味における映画以外のものも映画の著作物として保護されているものと
解すべきである。
(一) 映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現さ
れていること(表現方法の要件)
(二) 物に固定されていること(存在形式の要件)
(三) 思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音
楽の範囲に属するものであること(内容の要件)
2 本件ビデオゲームが右の要件を充足する映画の著作物に該当するかどうかにつ
いて判断する。
(一) 表現方法の要件について
 表現方法の要件としては、前記法二条三項の規定によれば、聴覚的効果は任意的
要件であり、「映画の効果に類似する視覚的効果を生じさせる方法で表現されてい
る」ことが必要的要件であるが、映画の著作物の「上映」とは「映写幕その他の物
に映写することをいう」(法二条一項一九号)と規定されていることも考え合わせ
ると、右の映画の効果に類似する視覚的効果を生じさせる方法で表現されているも
のとは、スクリーン、ブラウン管、液晶画面その他のディスプレイに影像が映写さ
れ、かつその影像が連続的な動きをもって見えるものをいうと解すべきである。
 そして、本来的意味における映画は、映画フィルムに固定された多数の影像をス
クリーン上に非常に短い間隔で引き続いて連続的に投影する方法により、人間の視
覚における残像を利用して、影像が切れ目なく変化しているように見せかけること
によって、影像が連続的な動きをもって見える効果を生じさせるものであるから、
本来的な意味における映画以外のものでも、影像を非常に短い間隔で連続的にディ
スプレイ上に投影する方法により右の効果を生じさせるものであれば、右の映画の
効果に類似する視覚的効果を生じさせるものということができる。
 本件ビデオゲームは、前記第二、一4記載のとおり、影像をディスプレイ上に映
し出し、極めて短い間隔でフレームを入れ替えることによってその影像が連続的に
変化しているように見せる方法で表現されているものであるから、映画の効果に類
似する視覚的効果を生じさせる方法で表現されているものに該当する。
(二) 存在形式の要件について
 前記(一)の映画の効果に類似する視覚的効果を生じさせる方法で表現されてい
るものは、物に固定されている必要があるが、「物」は、映画フィルムに限定され
ているわけではなく、また、固定の方法も映画フィルム上に可視的な写真として固
定されている必要はなく、ROM、フロッピーディスク、ハードディスク等に電気
的信号で取り出せる形で収納されているものも含まれると解すべきである。
 本件ビデオゲームは、前記第二、一4記載のとおり、ROM中に電気信号の形で
記憶されている命令群であるプログラムの命令が、CPUにより読み取られ、この
命令により、同様にROMに記憶されているデータ群であるプログラムの中から抽
出された各影像データがディスプレイ上の指定された位置に順次表示されることに
より、全体として連続した影像となって表現されるものであり、ディスプレイ上に
映し出される絵柄、文字などの影像は、二進数の電気信号を発生できる形でROM
に記憶されており、ディスプレイ上にはROM中に記憶されているもの以外の絵
柄、文字などが現れることはないものであるから、物に固定されているとの要件を
充足するものである。
 なお、本件ビデオゲームは、前記第二、一4記載のとおり、そのゲーム中に、プ
レイヤーのレバー操作によって与えられる電気信号により命令が変化させられて、
これによりプログラム中から抽出されるべき命令及び抽出されるデータの位置、順
序に変化が加えられるため、ディスプレイ上に映し出される影像もプレイヤーのレ
バー操作により変化するが、いかなるレバー操作によりいかなる影像の変化が生じ
るかもすべてプログラムにより設定されているものであるから、物に固定されてい
るとの要件を満たすものであることに変りはない。
(三) 内容の要件について
 「思想又は感情を創作的に表現したもの」とは、単なるデータそのものを表現し
たようなものを除いた、人間の精神的活動全般による所産を著作者の個性が何らか
の形で現れるように表現されているものを指すものである。また、「文芸、学術、
美術又は音楽の範囲に属するもの」も、文芸、学術、美術又は音楽が厳格に区分け
して用いられているわけではなく、人間の知的、文化的活動全般を指すものである
と解すべきである。
 本件ビデオゲームは、前記第二、一3記載の内容のとおり、それぞれ個性的な色
彩、行動、状況に応じた強弱関係のあるパックマンと四匹のモンスターとが、画面
に表示された迷路を舞台として繰りひろげるスリリングな追跡劇であり、著作者の
知的精神的創作活動の所産が具体的に表現されているものであるから、内容の要件
をも充足するものである。
(四) 以上によれば、本件ビデオゲームは、映画の著作物であると認められる。
二 争点(二)(複製)について
 前記第二、一6記載のとおり、Chompは、本件ビデオゲームのパックマンに
相当する主人公と四匹のモンスターに相当する四匹の敵がキャラクターとして登場
し、右主人公が中央に敵の巣を配した迷路上を舞台として本件ビデオゲームのエサ
に相当する多数のドットと、同じくパワーエサに相当する大きなドット及びフルー
ツターゲットを食べながら動き回り、これを敵が追うという追跡劇であり、かつ、
証拠(甲一ないし三、乙一、検甲一の1ないし3、二、三)によれば、本件ビデオ
ゲームの影像の内容とChompの影像の内容の詳細及び両者の比較の詳細は、別
紙パックマン・Chomp for WINDOWS対照表(画面構成参照図を含
む。)記載のとおりであると認められる。
 そしてChompの影像は、本件ビデオゲームの影像と比べ、迷路の具体的形
状、ワープ(迷路内における左右への瞬間的移動)の有無、モンスターに当たる敵
の色やその動き方、エサの数、フルーツターゲットの移動や出現の順序の一部等で
若干の差異があるものの、中央に長方形のモンスターの巣を有する、縦の道と横の
道が直角に十字形、T字形、L字形に交差したものの組合わせによって形成される
迷路の基本的形状が共通し、フルーツターゲットもその相当数が果物であることで
共通するのみか、同じ果物もあり、前記差異も、共通性の中の僅かな差異や目立た
ない差異にすぎず、主人公と敵のキャラクターの形状、動作、数をはじめ、画面構
成、ストーリー(影像に現れるゲームの進行やルール)など多くの面で本件ビデオ
ゲームの影像と共通点を有し(甲一、二)、両者は、本件ビデオゲームの影像を知
る通常人であれば、Chompの影像が本件ビデオゲームに僅かな修正を加えただ
けのものと覚知できる程度の同一性があるものと認められる。右の事実に、Cho
mpの作者である【A】も、Chompをパソコン通信のネットワークにアップロ
ードした際のChompの紹介文の中で「本ゲームはパックマンを詳しく模したマ
イクロソフト・ウインドーズ環境用ゲームです。私は本ゲームをオリジナルにでき
得る限り忠実に作るように努力しました。しかし、パックマンのアーケード機は何
年も見ていず、ゲーム要素はすべて記憶から呼び起こしたものです。」と述べてお
り(甲四)、更に、同人は、原告から本件ビデオゲームの映画の著作権の侵害であ
る旨の警告を受けた後もこれを争わず、パソコン通信のネットワークからChom
pを削除するなど事後処理をしている(甲一四ないし一七)こと、また更に、本件
書籍中のChompの紹介文にも、「あのパックマンゲームだ!」とのタイトルの
下に「ゲームの名前はChompとなっているが、中身は、ゲームセンターのゲー
ムで有名になった「パックマンゲーム」である。プレイのしかたはゲームセンター
のパックマンとまったく同じで、小さいドット「・」を食べ尽くしてしまうのが目
的である。」と記載されている(検甲一の3)ことを合わせ考えれば、Chomp
の影像は、本件ビデオゲームの影像に依拠し、これに僅かな修正を加えて再製した
もの、即ち本件ビデオゲームの影像の複製と認められる。
 以上によれば、被告は、本件書籍の付属ディスクにChompのプログラムを収
納してこれを一般に販売したことにより、原告が映画の著作物としての本件ビデオ
ゲームについて有する複製権及び頒布権を侵害したものである。
三 争点(三)(同一性保持権及び氏名表示権侵害)について
1 同一性保持権侵害について
 Chompの影像は、本件ビデオゲームの影像とほぼ同一でありその複製である
が、本件ビデオゲームの影像と全く同一のものではなく、別紙パックマン・Cho
mp for WINDOWS対照表記載のとおりの相違点があることは、前記二
認定のとおりである。よって、被告は、本件ビデオゲームの複製物であるChom
pを本件書籍の付属ディスクに収納したことにより、原告が映画の著作物である本
件ビデオゲームについて有する同一性保持権を侵害したものというべきである。
 被告は、Chompを作成したのは被告ではなく、【A】であり、被告は単にC
hompを紹介したにすぎないから、同一性保持権を侵害していない旨主張する。
しかし、【A】がChompを作成したのは、前記認定のとおりであるから、
【A】が原告の本件ビデオゲームの同一性保持権を侵害したものであることは明ら
かであるが、被告も、前記のとおり、本件ビデオゲームの複製でありかつその影像
の内容が本件ビデオゲームと一部異なるChompを本件書籍の付属ディスクに収
納してこれを複製(有形的に再製)し一般に頒布したのであるから、被告の右複製
行為は、原告が本件ビデオゲームについて有する同一性保持権を侵害する行為とい
うべきであり、被告の右主張は採用できない。
2 氏名表示権侵害について
 被告が本件書籍の付属ディスクに本件ビデオゲームの複製であるChompを収
納しこれを一般に販売する際に本件ビデオゲームの著作者である原告の氏名を表示
しなかったことは、証拠(検甲一の1ないし3)から明らかであり、被告の右行為
は、本件ビデオゲームの複製物を公衆に提供するに際し、著作者名を表示すること
ができる原告の氏名表示権を侵害するものである。
四 争点(四)(故意又は過失)について
 被告は、その発行する雑誌「MacJapan」の平成四年五月号において、
【B】という人物が、パソコン通信のネットワークでフリーウェアとして提供して
いた本件ビデオゲームを模したPacmanというパソコン用ゲームソフトを紹介
したことについて原告から抗議を受け、同年七月号の同誌において、「原告のビデ
オゲーム「パックマン」の影像著作権を侵害したフリーウェアをその雑誌に紹介
し、当該フリーウェアを転載することが自由にできるとの誤解を生じさせるような
記載について、原告らに迷惑をかけたことを謝罪する」旨の広告を出した(甲六な
いし一一)。また、被告は、パソコン通信で入手できるMS-Windows上で
作動するシェアウェア又はフリーウェアの二四個のゲームソフトを付属ディスクに
収納し、各ゲームソフトの解説をした本件書籍を出版したものであるが、本件書籍
中にはChompについての解釈として「あのパックマンゲームだ!」とのタイト
ルの下に「ゲームの名前はCHOMPとなっているが、中身は、ゲームセンターの
ゲームで有名になった「パックマンゲーム」である。
プレイのしかたはゲームセンターのパックマンとまったく同じで、小さいドット
「・」を食べ尽くしてしまうのが目的である。ゲームの進め方はいたって簡単で、
上下左右の矢印キーによりパックマンを動かすことができる。あとは、モンスター
に食われないように、通路にある小さい「・」印をすべて食いつぶして行くこと
で、1面はクリアされる。モンスターは4匹おり、通常状態ではコイツラに触れら
れると死んでしまうが、パワー餌と呼ばれる大柄なドットを食べると一定時間モン
スターが情けない状態になり、こちらが相手を食べてしまうことさえできるように
なる。また、ときおり出てくるフルーツを食べると、ボーナス・スコアがもらえ
る。」とChompのゲームの内容が本件ビデオゲームの内容とほぼ同一であるこ
とを十分に理解していることを前提とした説明があり(検甲一の3、争いのない事
実)、編集の過程で被告の担当者はそのことを充分に認識していたものと認められ
る。
 右事実によれば、被告は、本件書籍を出版する前には、本件ビデオゲームの影像
についても映画の著作物として著作権が生じること、原告がその著作権者であるこ
と、Chompは、本件ビデオゲームと同じ内容をほぼ再現したシェアウェアのゲ
ームソフトであること、及び、パソコン通信のネットワークにアップロードされて
いるフリーウェア又はシェアウェアであっても、第三者に対する著作権侵害の問題
が生じることを認識していたものと認められ、故意に、あるいは、少なくとも漫然
とChompが本件ビデオゲームについての映画の著作権を侵害するものではない
と判断した過失により、本件フロッピーディスクを付属させた本件書籍を発行販売
し、原告の本件ビデオゲームについての複製権及び頒布権を侵害したものであるこ
とが認められる。
 また、右認定の事実に、本件書籍中に、Chompによって複製された本件ビデ
オゲームの著作者として原告名が表示されていないことは明らかであり(検甲一の
1ないし3)、Chompがパソコン通信によりフリーウェア又はシェアウェアと
して提供されていたものであることからすれば、その影像は本件ビデオゲームの影
像と全く同一ではなく変更された箇所があることは容易に予想されることを合わせ
考えると、氏名表示権及び同一性保持権の侵害についても、被告は、故意又は少な
くとも過失があったものと認められる。
五 争点(五)(損害の額)について
1 原告は、平成四年一〇月一日、ウィズに対し、本件ビデオゲームの著作権を、
パソコン(NEC PC-9801)用ゲームソフトに使用するについて、商品一
個当たりにつきその標準小売価格七八〇〇円の七パーセントの五四六円のロイヤル
ティで許諾しているが、本件ビデオゲーム用のゲーム機とパソコンではハードウェ
アが異なるため、本件ビデオゲームのプログラムをパソコンのプログラムに使用す
ることは考えられず、右のロイヤルティは、実質的には本件ビデオゲームの映画の
著作物の使用許諾に対するものである(甲二四、四六)。原告は、昭和六一年五月
一日、日本テレネット株式会社に対し、本件ビデオゲームの著作権(映画の著作物
及びプログラムの著作物の両者についてのもの)を、MSX用ゲームソフトの電送
販売用に使用するについて、商品一個当たりにつきその価格二九〇〇円の三〇パー
セントの八七〇円のロイヤルティで許諾している(甲三八、三九)。また、原告が
ゲームソフト会社各社にゲームソフトとして許諾している本件ビデオゲーム以外の
ビデオゲームの著作権をパソコン用ゲームソフトに使用するについての使用料(前
記の理由により実質上映画の著作物にかかる部分に対するもの)は、ビデオゲーム
「ギャラガ88」が標準小売価格八五〇〇円の七パーセントの五七四円、ビデオゲ
ーム「リブルラブル」が商品一個当たり五〇〇円である(甲四一、四二)。更に、
本件ビデオゲームは、原告が昭和五五年に発売して以来、日本及び米国等において
大ヒットしたものであり、現在においてもその購入希望が多いため、原告からその
ファミコンゲーム用ソフトの復刻版が発売され、また、平成二年一一月にはゲーム
ボーイ用ゲームソフトが、平成三年一月にはゲームギア用ゲームソフトが発売され
その売行きが好調である(甲二六、二七、二九の1、三一ないし三七)。
 右認定事実によれば、映画の著作物としての本件ビデオゲームをパソコン用ゲー
ムソフトに使用することに対し通常受けるべき金銭の額(プログラムの著作物の使
用料は含まない金額)は、商品(パソコン用ゲームソフト)一個当たり少なくとも
五〇〇円を下ることはないものと認めるのが相当である。
 被告がChompを収納した本件フロッピーディスクを付属させた本件書籍を少
なくとも八〇〇〇冊販売したことは被告の自認するところであるが、被告が本件書
籍を八〇〇〇冊を超えて販売したことを認めるに足りる証拠はない。
 以上によれば、原告は、被告に対し、本件ビデオゲーム(映画の著作物)の使用
に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額である四〇〇万円(五〇〇円×八〇〇
〇冊)を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。
2 被告は、本件書籍の定価は、二九〇〇円であるが、本件フロッピーディスク自
体の価格は七〇〇円前後にすぎず、かつ、本件フロッピーディスクには二四個のゲ
ームソフトが収納されており、Chompは、そのうちの一つにすぎないから、C
hompの販売単価は、約二九円(七〇〇円÷二四)でしかなく、本件ビデオゲー
ムそのものをパソコン用ソフトとして独自に作成販売する場合であるウィズの支払
う使用料を本件に当てはめるのは相当でない旨主張する。
 しかし、著作権法一一四条二項が「著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額
に相当する額」と規定していること、及び、著作権を侵害する者が、著作権者ない
しそのライセンシーの製品よりかなり低い金額で複製物を販売したときに、それに
よって著作権者側が被る損害がむしろ深刻になることの方が多いことが予想される
ことからすれば、本件のように、被告が原告の著作権(複製権及び頒布権)を侵害
して本件ビデオゲームの複製物を他のゲームソフトとともに通常の販売価格より極
めて低額で販売したときに、被告が原告に支払うべき使用料相当額を被告の設定し
た販売価格をもとにしてこれに通常の使用料率をかけて計算することは相当ではな
く、むしろ商品一個当たりにつき原告が通常受領すべき金額を重視して前記のとお
り算定すべきである。また、被告は、原告がウィズとの間で本件ビデオゲームをパ
ソコン用のゲームソフトとして製造販売することを許諾するライセンス契約を締結
したのは、原告からの本件書籍の販売中止要求に応じられない旨被告が回答した直
後の平成四年一〇月一日であり、原告は、その後同年一一月五日、この契約上の許
諾料に基づいて算定した損害の賠償を求めて本訴を提起しているのであるが、本件
ビデオゲームは、この時期においては既に商品価値がなかったのであるから、あえ
てこの時期にパソコン用ソフトを発売する必然性はなかった旨主張するが、前記認
定事実によれば、本件ビデオゲームは、現在においても商品価値を有しており、そ
の復刻版も販売されている状況にあるのであり、また、原告は平成四年八月ころに
はウィズに本件ビデオゲームをパソコン用ソフトに使用許諾することを会社内部で
検討していたものであり(甲三〇)、かつ、ウィズも現実に本件ビデオゲームのパ
ソコン用ソフトを宣伝し、販売している(甲二五)もので、右事実によれば、原告
とウィズとの間の契約は、本件ビデオゲームの映画の著作物としての実際の価値に
対応したものということができ、被告の右主張もまた前記の使用料相当額について
の判断を左右するものではない。
六 争点(六)(謝罪広告)について
 被告は、本件書籍において、MS-Windowsを使用したパソコン上におい
て作動するフリーウェアないしシェアウェアのゲームソフトを紹介したものであ
り、本件書籍におけるChompの紹介文その他において「あのパックマンゲーム
だ!」とのタイトルの下に「ゲームの名前はChompとなっているが、中身は、
ゲームセンターのゲームで有名になった「パックマンゲーム」である。プレイのし
かたはゲームセンターのパックマンとまったく同じで、小さいドット「・」を食べ
尽くしてしまうのが目的である。」と述べていることは前記のとおりであり、ま
た、被告の右Chompの紹介の仕方は、Chompがパソコン通信にアップロー
ドされているシェアウェアのプログラム(低額の登録料さえ支払えば、一般人が自
由に利用できるプログラム)であって、ビデオゲームの専門メーカーが作成した
「パックマンゲーム」をMSーWindowsを使用したパソコン上においても楽
しめるように、アマチュアがそのためのプログラムを作成し、シェアウェアとして
パソコン通信のネットワークにアップロードしたという趣旨のものであり(検甲一
の1ないし3)、したがって、被告の右の紹介の仕方は、本件ビデオゲームの著作
者が別にいることを前提としているもので、その著作者名を省略することにより、
本件ビデオゲームの著作者たる地位を意図的に侵奪しようとしたものとは認めるこ
とはできず、原告が本件ビデオゲームの著作者であることを主張する利益を害する
程度は重大なものとはいえない。
 本件ビデオゲームの影像の内容とChompの影像との比較の詳細は、別紙パッ
クマン・Chomp for WINDOWS対照表記載のとおりであり、Cho
mpの影像と本件ビデオゲームの影像との差異は、原告が主張するとおり、本件ビ
デオゲームにおける画面の構成要素の一部を省略したものか、若しくは、枝葉部分
に僅かな変更を加えた結果にすぎず、基本的には本件ビデオゲームを忠実に複製し
ようとしたものであり、本件ビデオゲームの同一性が害されている点は些細な点に
すぎず、内容的に原告の名誉、声望をとくに害している点も見られない。そもそも
本件ビデオゲームの影像はもともと一定のストーリーがあるものではなく、プレイ
ヤーのレバー操作の如何によってプログラムにより設定された範囲内で自在に変化
するもので、プレイヤーの最大の関心は影像を鑑賞するとかストーリーを楽しむと
いうよりも、追跡ゲームに成功し、より高度の場面に進むことにあり、著作者もそ
のことは充分理解していることに照らすと、本件ビデオゲームの影像によって表現
された思想、感情は、例えば論説、小説、劇映画等に表現されたものと比べれば、
著作者の人格との結びつきは比較的弱いものといわざるを得ない。更に、Chom
pを作成したのは被告ではなく【A】であり、Chompによる著作権侵害、著作
者人格権侵害の第一の原因者は同人であるのに、原告は、【A】に対しては、同人
がChompのパソコン通信へのアップロードを停止し、その得た収入が僅かなも
のであるとして、特段の法的手段を講じないことにしたものであり(甲一四ないし
一六)、Chompによる著作権侵害、著作者人格権侵害の第二の原因者である、
本件書籍の編著者である【C】に対しても、電子メールによる警告文を送付した
(甲一八)以上の法的措置がとられたことを認めるに足りる証拠がない。以上のよ
うな事実を総合考慮すれば、被告による原告の氏名表示権及び同一性保持権の侵害
行為により原告が被った損害は、謝罪広告等をもって回復することを要する程に重
大なものとはいえないから、本件については、被告に対し、原告が請求するような
謝罪広告を命じるのは相当でない。
七 よって、原告の請求は、前記損害金四〇〇万円及びこれに対する不法行為の後
であって本件訴状送達の日の翌日である平成四年一一月一七日から支払済みまで民
法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、その余
の請求は理由がない。
(裁判官 西田美昭 設樂隆一 櫻林正己)
別紙パックマン・Chomp for WINDOWS対照表(省略。ただし、同
表のうち画面構成参照図は掲載)
目録一
「Chomp for Windows Ver・1・1」なる題名のパーソナル
コンピュータ用ゲームのプログラムを収納した三・五インチ及び五インチのフロッ
ピーディスク各一枚を付属させた左記書籍

書名 「技評ディスクブックス[2]Windows シェアウェア・ゲーム集」
発行日 平成四年九月一日 初版第一刷発行
編著者 【C】
発行者 【D】
発行所 被告
印刷・製本 株式会社加藤文明社
目録二
謝罪文
株式会社ナムコ
代表取締役 【E】 殿
 当社が平成4年9月1日付で発行した「技評ディスクブックス2 Window
sシェアウェア・ゲーム集」で紹介し、
かつ同書籍付属の3・5インチ及び5インチのフロッピーディスク各一枚に収納し
た、パーソナルコンピュータ用ゲーム「Chomp for Windows V
er・1・1」の影像は、貴社創作にかかるビデオゲーム「パックマン」の影像を
貴社に無断で一部改変のうえ使用したものであり、これにより貴社の著作権及び著
作者人格権を侵害しましたことを、ここに謹んで謝罪いたします。
株式会社技術評論社
代表取締役 【D】
目録三
1 掲載雑誌
(1) 月刊マイコンBASICマガジン(株式会社電波新聞社発行)
(2) LOGIN(株式会社アスキー発行)
(3) ASAHIパソコン(株式会社朝日新聞社発行)
(4) ざべ(被告発行)
(5) 月刊 MacJapan Active(被告発行)
2 掲載場所の広さ 一頁
3 活字の大きさ
 表題については二四Qゴシック、記名及び宛名については三二Qゴシック、本文
については一五Q明朝活字体
 画面構成参照図
〈27212-001〉

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