弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主        文
1 原判決主文第1項のうち,同項文書目録(原判決別紙第1文書目録)記載の番号3ないし5記載の各文書
に関する部分及び主文第2項をいずれも取り消す。
2 上記各取消しに係る1審原告の請求をいずれも棄却する。
3 1審被告経産大臣のその余の控訴及び1審原告の本件控訴を棄却する。
4 訴訟費用は,1審原告と1審被告外務大臣との間に生じた費用は,1,2審とも1審原告の負担とし,1審原
告と1審被告経産大臣との間に生じた費用は,1,2審を通じて,これを4分し,その3を1審原告の負担とし,そ
の余を1審被告経産大臣の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
1 1審原告
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 1審被告経産大臣が,1審原告に対し,平成14年2月25日付けでした原判決別紙第1文書目録記載の
各文書(ただし,番号8ないし11については開示部分を除く。)についての不開示決定を取り消す。
(3) 1審被告外務大臣が,1審原告に対し,平成14年2月25日付けでした原判決別紙第2文書目録記載の
各文書についての不開示決定を取り消す。
(4) 1審被告らの本件控訴を棄却する。
(5) 訴訟費用は,第1,2審とも1審被告らの負担とする。
2 1審被告ら
(1) 原判決中,1審被告らの敗訴部分を取り消す。
(2) 1審原告の請求をいずれも棄却する。
(3) 1審原告の本件控訴を棄却する。
(4) 訴訟費用は,第1,2審とも1審原告の負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は,1審原告が,①1審被告経産大臣に対し,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下
「法」という。)3条に基づき,2005年日本国際博覧会(愛知万博)に関する行政文書について開示請求をし
たところ,1審被告経産大臣は,そのうちの一部の文書(原判決別紙第2文書目録記載の各文書,外務省作
成の文書)についての開示請求事案を法12条に基づいて1審被告外務大臣に移送した上,法5条3号の「国
際機関(博覧会国際事務局,BIE)との信頼関係が損なわれるおそれがある」ことなどを理由に,同第1文書目
録記載の各文書(ただし,番号8ないし11については開示部分を除く。以下,同第1及び第2文書目録記載
の各文書について,番号順に従って「本件文書1」「本件文書2」・・・などと表記する。)の一部不開示の決定
をし,②1審被告外務大臣は,上記同様の理由により,上記第2文書目録記載の各文書の不開示の決定(こ
れらの不開示を併せて,本件各処分)をしたことから,1審原告が,本件各処分の取消しを求めた(抗告訴訟)
ところ,1審被告らが,本件各文書は,いずれも法5条3号に該当し,また,1審被告外務大臣は,本件文書22
につき,法6条1項により一部の開示義務がないと主張して争った事案である。
  原審は,1審被告経産大臣に対する各請求のうち,本件文書1,2,6ないし11につき法5条3号の不開示
事由に該当するが,本件文書3ないし5〔BIE説明資料〕については,既に公開済みの説明資料ファイル(甲
7)を基本として,資料を付け加え,若しくは差し替えたものにすぎず,同号の不開示事由に該当せず,さら
に,本件文書12ないし14(2005年日本国際博覧会登録申請書)についても,BIE総会において既に登録承
認を受けており,同号の不開示事由に該当しないとして,本件文書3ないし5,12ないし14の不開示決定を
取り消し(その余は請求を棄却した。),1審被告外務大臣に対する各請求のうち,本件文書15ないし21,2
3,24につき法5条3号の不開示事由に該当するが,本件文書22については,開催予定の会合名,開催予
定日時場所,あて先,送り主に関する部分は同号の不開示事由に該当せず,法6条1項ただし書の「有意」で
ない情報とはいえないとして,この部分の不開示決定を取り消した(その余の請求を棄却した。)ため,1審原
告及び1審被告らがこれらを不服としてそれぞれ控訴した。
2 前提事実,本件における争点及び争点に関する当事者の主張は,原判決「事実及び理由」の「第2 事案
の概要」1ないし3のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決9頁3行目から4行目にかけての「もし
公開されれば,これが実現されなくなるでしょう。」を「公的に議論されることはないでしょう。」に改める。
3 当事者双方の各控訴理由
(1) 1審原告
ア 法5条3号の該当性について
(ア) 当該文書が法5条3号に該当するものなのか,他の各号(1号本文後段,5号,6号)に該当するものであ
るかは,実施機関の判断の合理性に対する結論に大きく作用するものである。すなわち,同号は,他の各号
(1号本文後段,5号,6号)による不開示処分とは異なり,開示によって何らかの害悪が発生する「おそれがあ
る」ことを実施機関において証明する必要がないことはもちろん,現実の「おそれ」が発生することがなくても,
「行政機関の長としては,当該文書の種類,性質,作成主体等,裁判所が当該判断に不合理性が含まれてい
るか否かを判断するに支障のない程度の具体性をもって,当該情報の内容を特定した上で,これを開示する
ことにより,国の安全等を害するおそれがあると判断したことが不合理とはいえないことを基礎付ける事実」を
主張立証しさえすれば,不開示処分それ自体は合理的なものとなる。その結果,同号の文書該当性について
は,他の各号に該当するとして不開示処分とされた文書と比較して,明らかに行政機関の判断が維持される
余地を拡げるものである。
  そうである以上,本件各処分が同号に該当するとして不開示決定をしたものであったとしても,いわば,そ
の先決問題として,実際に当該文書が,本来,同号が予定した文書であるかどうかについて判断し,それに該
当しない場合については,当該処分は取り消されるべきであり,それに該当すると判断された場合に初めて,
当該文書に対する不開示処分が国の安全等を害するおそれがあると判断したことが不合理とはいえないこと
を基礎付ける事実に基づくかどうかの判断をすべきである。
(イ) 加えて,法5条3号の規定は,他国の情報公開法の規定文言と比べて,対象文言を具体的に限定してい
ない。これを形式的にみれば,行政機関が当該文書を開示したくないと思えば,同号に該当することを理由と
して不開示処分をすれば,仮に,当該文書が外交,防衛情報として,さして重要なものでなくても,原則不開
示の結果をもたらすものである。しかし,原則不開示とする対象文書について,国家安全保障に関するものに
法文上限定している外国(韓国やカナダなど)の例に比較して,これを行政機関の自由裁量に委ねる合理的
な理由はない。したがって,以上のことからも,当該文書の同号該当性については,それらの文書が実際に同
号が予定する文書かどうかについて判断し,該当するとした場合に初めて,上記実質的な判断枠組みによっ
て不開示処分の違法性を判定すべきである。
(ウ) そして,外務省及び経済産業省(経産省)は,それぞれのホームページ上で,法5条3号にあたる文書を
例示(以下「例示文書」という。)しており,法5条3号該当文書の指定が行政機関の自由裁量でないことを認
めている。したがって,上記したところの同号が予定する文書であるか否かの判断にあたっては,例示文書で
あるか否かをまず判断すべきである。
(エ) 以上を前提にすると,1審被告らは,本件各文書が法5条3号に該当する文書であることを十分に主張,
立証していないし,外務省のいう例示文書の基準に従って検討しても,本件で不開示処分が維持された各文
書は,いずれも同号に該当しないことが明らかである。
イ BIEの回答に対する評価について
BIEの回答書(甲5の1ないし3)は,本件各文書の開示を禁止する旨を具体的に述べているところはなく,し
かも上記回答書は,本来,名古屋地方裁判所の調査嘱託に直接回答したものでもない。そして,その内容は
「BIE内部での協議及び審議に使用された文書」に関する基準を定めたにすぎず,これを超えてBIEの加盟
国が独自に作成した文書の開示についてまでBIEが意見を述べたものではないと考えるのが自然である。加
えて,加盟国が作成した文書の開示,不開示は,加盟国の法律に従って決定されることは当該国家の主権を
前提とする以上当然であって,BIEがこれについて不開示を求める立場にはない。また,ドイツで開催された
ハノーバー博覧会では,開催を巡って国民投票が行われた例もあり,博覧会開催に関して作成された文書を
加盟国が独自の国内法に従って開示することは国際慣行に反することでもない。
以上のことからすると,BIEの回答が広く本件文書を非開示とすることを求める内容であると評価することは誤
りである。
(2) 1審被告経産大臣
ア 本件文書3ないし5(いずれもBIE説明資料)について
本件文書3ないし5と既に公開されているBIE説明資料(甲7,以下「公開済み説明資料」という。)とは,その
作成目的や作成時期等が異なっており,そこに記載された情報は明らかに別個の情報である。すなわち,公
開済み説明資料は,主に,愛知万博の準備計画の進ちょく状況,会場の跡地計画及び環境問題への配慮等
に関するものであり,本件文書3ないし5は,平成12年9月の愛知万博登録申請に向けて,その申請内容を
具体化していく過程の文書である。上記各文書は,フランス語,英語,日本語によって表記されている(同一
情報)が,上記公開済み説明資料は,日本語,英語によって表記され,フランス語による表記はないなど両文
書の言語表記の仕方,文書の構成自体も全く異なること,文書全体のページ数についても,本件文書5(日本
語によって表記されたもの)の方が75頁も少なく,上記公開済み説明資料の日本語表記部分のページ数の
約3分の2であること,本件文書5にのみ存在するキーワードが相当数存在し,他方で,上記公開済み説明資
料にのみ存在するキーワードも相当数存在すること,さらに,本件文書3ないし5は,上記公開済み説明資料
が作成された後,平成12年5月のBIE総会に向けた愛知万博の登録申請が見送られた上,万博会場の跡地
利用としての新住宅市街地再開発事業の中止決定がなされ,博覧会協会に新たに設置された愛知万博検討
会議における議論等を経て会場計画が大きく変更された後,改めて,同年9月にBIEに登録申請することを
目標に,愛知万博計画の具体化に係る作業が進められていた時期に作成された文書であることを考慮すれ
ば,上記各文書の記載内容と上記公開済み説明資料の記載内容とは,情報の同一性がないことが明らかで
ある。
イ 本件文書12ないし14(いずれも2005年日本国際博覧会登録申請書)について
本件文書12ないし14については,BIEの基本方針として,総会における登録承認前後を問わず,非公開とさ
れていることが明らかであり,登録申請書を公開することは,BIEの意向に明らかに反するものであり(BIEの
前記回答書も,そのように理解すべきである。),法5条3号の不開示事由に該当するとした1審被告経産大臣
の認定判断には相当の理由がある。そもそも登録申請書の内容は,必ずしも登録承認された計画の内容と一
致しているとは限らないし,当該申請に係る国際博覧会の内容も,登録承認後に変更されることが全く予定さ
れていないものではなく,変更されることもあり得るのであり,登録承認されたからといって,登録申請書を公開
することによる弊害が生ずるおそれが消滅したことにならない。
(3) 1審被告外務大臣
本件文書22(次回執行委員会の開催通知)について
法は,「情報」の意義について,特に定義規定を置いていないが,一般に,「情報」という言葉は,「ある事柄に
ついての知らせ」であり,「個々の構成要素(語,文字,記号等)が,ある事象,事柄の伝達のために,人為に
よって統合され,構成され,一体的で,他と独立した知らせとなっているもの」をいうと解される。そして,当該情
報が独立した一体の情報であるか否かは,上記のような情報の伝達機能を基本とし,情報内容の観点や文書
の体裁等の外形的な事情をも併せ考慮して,社会通念によって判断すべきである。ところで,本件文書22
は,平成12年9月にBIE事務局長から関係各国に配布された次回執行委員会の開催通知であり,BIE事務
局長の加盟国代表あての内部連絡用文書であって,そこに記載された内容は,会合名,あて先,送り主,当
該委員会の開催予定日時場所のほか,当該委員会での審議予定事項及びその内容も記載されている。そう
すると,上記文書は,単に次回執行委員会の開催日時や場所などの形式的な事項を知らせるだけにとどまら
ず,これに加えて,加盟国が意見を表明する前提となる審議予定事項やその内容を知らせることをも目的とし
ており,記載内容全体が,一体として独立した1個の情報であると解すべきである。
したがって,本件文書22について,法6条1項適用の余地はなく(同条項は,1個の行政文書に複数の情報
が記載されている場合に適用がある。),1審被告外務大臣が,上記文書について,これを細分化して部分開
示をする義務を負うことはない。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,本件文書1ないし11,15ないし24については,法5条3号の不開示事由に該当するものとい
えるが,同12ないし14については,既に正式にBIE総会において承認を受けた登録申請書であり,これを開
示することによってBIE及びその加盟国等との信頼関係が損なわれるおそれがあるとは認められず,法5条3
号の不開示事由に該当しないものと判断する。
2 まず,本件の争点である本件各処分の適否を判断するにあたっての不開示事由の判断手法(争点ア),公
開に関するBIEの見解と我が国に対する信頼を損なうおそれの有無(争点イ)については,原判決「事実及び
理由」の「第3 当裁判所の判断」1,2のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決46頁9行目から1
0行目にかけての「もし公開されれば,これが実現されなくなるでしょう。」を「公的に議論されることはないでし
ょう。」に改める。
なお,1審原告は,BIEの回答書(甲5の1ないし3)は,原審の名古屋地方裁判所の調査嘱託に直接回答し
たものではなく,その内容も「BIE内部での協議及び審議に使用された文書」に関する基準を定めたにすぎ
ず,これを超えてBIEの加盟国が独自に作成した文書の開示についてまでBIEが意見を述べたものではない
と考えるべきであるなどとるる主張する。確かに,上記回答書は,原審の名古屋地方裁判所の調査嘱託に対
する直接の回答ではないものの,同回答書には「名古屋地方裁判所民事9部主宰判事より日本国大使館を
通じて送付された調査嘱託および質問書について,以下の情報を提供いたします。博覧会国際事務局の法
律上の代表者として,および事務局長が特に法律問題について事務局を代表することを定める条約第13条
に従い,私(A事務局長)が,上記文書にて言及された点に回答する資格を有します。」と記載されており,こ
の記載に照らすと,上記回答は,名古屋地方裁判所の調査嘱託を意識し,これを念頭においた上で,これに
対するBIEの代表者としての見解を情報提供したものと解することができる。そして,原判示のとおり,本件各
文書を公表しても支障がない旨の記載はなく,かえって,「BIE内部での協議及び審議に使用された文書は,
加盟国の作業過程にのっとった一時的な状況を示すものであり,もっぱら内部使用のためのものです。作業
用文書は本来公的なものではありません。」,「作業用の内部文書が公的に議論されることはないでしょう。」な
どと記載されており,BIEとしては,加盟国の作業過程にある作業用文書については,公表されることに消極
的な見解を有していることがうかがえる。そして,原判示のとおり,BIEの会議等が非公開で行われており,執
行委員会の議事録は,加盟国代表団関係者に閲覧に供されているにとどまり,また,経産省の博覧会推進室
長は,BIE事務局長から,非公開で行われた会議等での意見交換や協議,上記の機会等に内密にもたらさ
れた情報については,不開示とするよう要請を受けていると理解していることなどに照らすと,仮に,本件各文
書について,それぞれ個別的に非公開の要請がなされていないとしても,当該文書がいまだ作業の過程にあ
って作成されたものである以上,これを公開することによりBIEとの信頼関係を損なうおそれがあるということが
でき,また,BIEの加盟国として,そこでの協議や審議に関連する事柄についてはBIEの基本的な方針に対
して無関心であることは許されず,上記回答をBIE内部等での協議及び審議に使用された文書に限定して理
解するのは相当ではなく,1審原告の上記主張は採用できない。
3 そこで,次に,本件各文書の法5条3号該当性(争点ウ)について判断する。
(1) 1審原告は,法5条3号にあっては,他の同条各号に該当するとして不開示処分とされた文書と比較して,
行政機関(実施機関)の判断が維持される余地が広いことなどを理由に,同条3号の該当性を判断するに先
立ち,同号の予定する文書かどうかについて,まず先決問題として判断すべきであると主張する。しかしなが
ら,法は,「政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに,国民の的確な理
解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的」として,「行政機関の保有する情報の一
層の公開を図」っている(法1条)ものであって,これを前提に,行政文書の開示請求がされた場合には,行政
機関の長は,当該文書に法5条各号に掲げる情報(不開示情報)が記録されている場合を除き,これを開示し
なければならない(法5条)ものであって,開示請求の対象は,当該情報というべきである。したがって,同条3
号の該当性を判断するに先立ち,同号の予定する文書か否かをまず判断すべきであるとはいえない。
また,1審原告は,外務省及び経産省はそれぞれのホームページ上で法5条3号にあたる文書を例示してい
るから,本件各文書が上記例示文書に該当する必要があり,まず,例示文書であるか否かを判断すべきであ
ると主張する。しかしながら,上記例示(なお,例示して公表しているのは,ある「文書」ではなく,一定の「情
報」である。)は,外務省及び経産省が公式ホームページにより,あくまで法5条3号の不開示情報についての
例示として公表しているにすぎず,上記例示をもって同号の上記情報を限定したり,また,不開示事由に該当
するか否かについての一定の基準を定めて公表したりしたものとは解されない。したがって,本件各文書が,
上記例示文書に該当するか否かをまず判断すべきであるとはいえない。そうすると,結局,1審原告が情報公
開法に基づいて開示を請求している本件各文書は,いずれも行政文書であることは明らかであり,本件各文
書が法5条3号の不開示事由に該当する情報を含むものか否かを判断すれば足りるのであって,1審原告の
上記主張は採用できない。
(2) 本件各文書(本件文書3ないし5,22を除く。)の法5条3号該当性については,原判決「事実及び理由」
の「第3 当裁判所の判断」3(1),(3)ないし(6)のとおりであるから,これを引用する。
(3) 本件文書3ないし5の法5条3号該当性について
 証拠(甲6,7,乙4,11,15,16,原審証人B)及び弁論の全趣旨によれば,次のとおりの事実が認められ
る。
ア 本件文書3ないし5は,いずれも「BIE説明資料」(フランス語,英語及び日本語,本件文書5は日本語によ
るものである。)であり,その内容はいずれも同一であって,博覧会協会が博覧会国際事務局との実務協議を
行うために作成した資料である。
イ 本件文書5とファイル名や作成主体を共通にする公開済み説明資料(甲7)を公開するに至った事情は,
以下のとおりである。すなわち,博覧会協会は,愛知県瀬戸市の博覧会会場予定地として「海上の森」(海上
地区のうち,同西地区,南地区及び北地区)を予定していたが,主会場候補地を同所から愛知県青少年公園
等を取り込む形の地区にすることとし,愛知万博終了後,上記海上地区については,いわゆるニュータウン建
設のための新住宅市街地開発事業による土地造成を行うことなどを内容とする博覧会会場計画を進めてい
た。ところが,平成11年11月18日に非公式に行われたBIE事務局長と通産省審議官との実務協議のやり取
りに関する内容(BIE事務局側の発言として,跡地利用計画は,博覧会計画の重要な部分であり,国際博覧
会の良好なイメージに隠れて,自然を破壊する跡地利用計画があることは,BIEの理念に反するので,改善し
てもらいたいなどがなされたこと。)が平成12年1月20日付けの新聞に報道され,これをきっかけとして,マス
コミや世間の誤解を解くために,経産省及び愛知県の各担当者とBIEとが協議を行い,愛知県では,同年2
月,BIEの了解を得て,博覧会協会が作成した上記公開済み説明資料を公開するに至った。同説明資料
は,505丁(日本語及び英語)に及ぶ大部のもので,上記平成11年11月18日の非公式な実務協議でBIE
事務局側から指摘された博覧会計画の問題点について,その後の取組を説明する内容となっており,主に,
愛知万博の準備計画の進ちょく状況,会場の跡地計画及び環境問題への配慮等に関して記載されたもので
ある。
ウ これに対し,本件文書3ないし5は,当初予定していた平成12年5月開催のBIE総会に向けた愛知万博の
登録申請が見送られ,かつ,万博会場跡地の新住宅市街地再開発事業の中止決定がなされ,その後,博覧
会協会が,愛知万博検討会議(地元関係者,自然保護団体,有識者等を構成メンバーとする。)を設置して,
同年5月28日から同年7月24日までの間に合計8回の会議を開催し,そこでの議論等を経て,最終的に,海
上地区の利用面積を大幅に縮小させるなど会場計画を大幅に変更し,同年9月にBIEへの日本国際博覧会
の登録申請をすることを目標として,改めて,愛知万博計画の練り直し作業を進めていた時期に,博覧会協
会によって作成された文書である。したがって,主に,上記変更に伴って,その時点における資金計画,観客
輸送計画,会場計画などに関して記載されたものである。
エ また,両文書の言語表記の仕方や文書の構成自体が異なる上,そのページ数も,本件文書5が160頁で
あるのに対し,公開済み説明資料の日本語表記部分のページ数は235頁である(したがって,上記文書5の
方が75頁少なく,その約3分の2でしかない。)。また,両文書を分類・対比するために設定したキーワード〔万
博の概要(開催期間,テーマ,コンセプト,会場等も含む),準備状況,協会の地位・国際機関との連携等,会
場計画関係,施設関係(宿舎も含む),運営関係,動線関係,輸送関係,環境関係,エネルギー,合意形成,
資金計画,商業化計画,広報計画,跡地利用等〕に従って,両文書を比較すると,別表のとおりである。
以上の事実によれば,本件文書3ないし5と公開済み説明資料とは,作成の趣旨や目的を異にし,その作成
時期についても明らかに異なっていることが認められる。そして,本件のような大規模な国際博覧会計画にお
いては,その計画の進ちょく状況ないしはその計画の見直し状況等により,そのときにおける状況説明も内容
的に異なることは通常考えられることである。以上のほか,前認定の両文書の言語表記の仕方や構成の差,
外形的な差(ページ数等)及びキーワードをもってする差などを総合すると,本件文書3ないし5に記載された
情報と公開済み説明資料に記載された情報との間には少なからぬ差異があるものと推認でき,上記両文書に
同一性があると認めることはできない。
そして,本件文書3ないし5が,本件文書2の協議に使用するための説明資料であり,これらの文書を公開す
ることにより,上記協議の内容を推知することができ,前記認定・判断(原判決)に係る公開についてのBIEの
原則に照らせば,BIEは非公開とすることを要請していると考えられ,この要請が及ばないと解すべき特段の
事情の存在は認められない。よって,1審被告経産大臣が,これらの文書を開示すれば,BIEやその加盟国
等の我が国に対する信頼を損なうおそれがあると判断したことについては,相当の理由があるというべきであ
る。
(4) 本件文書12ないし14についての1審被告経産大臣の控訴理由に対する判断
1審被告経産大臣は,本件文書12ないし14(登録申請書)については,BIEの基本方針として,総会におけ
る登録承認前後を問わず,非公開とされていることが明らかであり,法5条3号の不開示事由に該当するとるる
主張する。
しかしながら,BIEの上記回答書の記載内容からすれば,BIE総会で承認された登録申請書は,作業過程に
ある作業用の内部文書ではなく,総会で加盟国による承認を得て公になった文書と解することができること(上
記回答書にも「文書は,総会で加盟国による承認を得て初めて公のものとなります。」との記載がある。),過去
の登録申請書が公表できないことの理由は不明確であること(1審被告らは,登録申請国が,安易にこれを利
用することにより独自性が失われるおそれがあるというが,独自性を優先するのであれば,むしろ過去の登録
申請書と類似した内容を避けようとするのが通常である。),BIE総会において承認された登録申請書につい
ては,基本的にその内容を変えることは予定されておらず,現に,愛知万博においても登録承認後に内容の
変更をした形跡はうかがえないことなどを総合考慮すると,1審被告経産大臣の上記主張は採用できず,上記
判断(原判決51頁26行目から53頁12行目まで)を左右するものではない。
(5) 本件文書22の法5条3号該当性について
証拠(甲8,乙4,5,原審証人B)及び弁論の全趣旨によれば,本件文書22は,「BIE(次回)執行委員会の
開催通知」であって,平成12年9月にBIEから関係各国(加盟国代表)にあてて配布されたものであり,あて
先,送り主,当該委員会の開催予定日時場所,審議が予定されている事項及び内容が記載された文書であ
ること,上記委員会に関する規則7条は,「会議開催の通知は,議事日程と必要な討議資料を添えて少なくと
も開催1か月前までに,委員に送付されなければならない。各国の代表は,遅くとも執行委員会の会議開催の
日の5日前までに,自国政府の意見を表明しなければならない。」と定めていることが認められ,これによると,
執行委員会の開催通知には,単に,日時場所,審議のテーマが記載されるだけでなく,その具体的な審議の
内容や資料等が記載され,情報として盛り込まれているものと推認し得る。
したがって,前記認定(原判示)に係るBIEの公開に関する原則に照らして,これらが公表された場合には,B
IEやその加盟国等の我が国に対する信頼を損なうおそれがあるものと認められ,そのように判断することにつ
き相当の理由があるというべきである。
4 本件文書22の全部不開示決定の適否について(争点エ)
1審被告外務大臣は,本件文書22の記載は,その全体が一体として独立した1個の情報であり,かかる情報
が法5条3号に該当するのであるから,会合の日時場所等の一部のみを部分開示する義務を負わないと主張
し,他方,1審原告は,法6条1項は,不開示情報の記録されている部分が容易に区分されて除かれた後の当
該行政文書の一部分であること及び有意の情報が記載されていないと認められるものではないことの要件を
満たせば,当該部分(一部分)は,開示しなければならず,開催の日時・場所についての情報は,有意性が認
められる以上,開示しなければならないと主張するので検討する。
法6条1項は,「行政機関の長は,開示請求に係る行政文書の一部に不開示情報が記録されている場合にお
いて,不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは,開示請求者に対し,当該
部分を除いた部分につき開示しなければならない。ただし,当該部分を除いた部分に有意の情報が記録され
ていないと認められるときは,この限りでない。」とし,同条2項において,不開示情報が記録されている文書の
うち特に法5条1号のいわゆる個人識別情報のみを取り出し,「開示請求に係る行政文書に前条第1号の情報
(特定の個人を識別することができるものに限る。)が記録されている場合において,当該情報のうち,氏名,
生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより,公にしても,
個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは,当該部分を除いた部分は,同号の情報に含ま
れないものとみなして,前項の規定を適用する。」と規定しているところ,法6条1項にいう「部分」は1個の行政
文書の部分を意味し,同条2項にいう「部分」は,1個の行政文書に含まれる情報(法5条1号の情報のうち特
定の個人を識別することができるもの)の部分を意味することは,その文理からして明らかである。そして,法6
条は,個人識別情報に限って,例外的に,独立した一体的な情報を更に細分化し,個人識別部分のみを不
開示とする態様の部分開示を行政機関の長に義務付けるというもので,法5条1号以外の不開示事由に該当
する情報については,その部分のみを除くという態様の部分開示を義務付けることはできないものと解すべき
である。
ところで,前記したとおり,本件文書22は,次回に予定された執行委員会の開催通知であり,あて先,送り主,
当該委員会の開催予定日時場所,審議が予定されている事項及び内容が記載された文書であり,この通知
自体(一緒に送付される議事日程,討議資料を除く。)が1個の行政文書であり,その記載内容については,
確かに,審議が予定されている事項及び内容が記載された部分を位置的に区分し,特定することは技術的に
は可能であるとしても,これに記載された情報は,ある特定の執行委員会の開催に関するものであって,会合
名,あて先,送り主,開催予定日時場所のみならず,審議予定事項及びその内容も含めて,総体として,出席
予定の執行委員に対して,その開催予定の概要を知らせ,かつ,審議予定事項に対して,加盟国に意見表
明を求めるための連絡として社会通念上意味あるものとなるものと考えられ,本件文書22の記載内容全体
が,一体として独立した1個の情報であると解すべきである。
したがって,1審被告外務大臣は,本件文書22のうち,法5条3号の不開示事由に該当する部分を除いた部
分について開示すべき義務を負うものではなく(もちろん裁量により部分開示をすること自体は可能であ
る。),本件文書22の全部を不開示決定とした判断に違法はないというべきである。
第4 結論
以上のとおり,1審原告の本件各請求は,1審被告経産大臣のした不開示決定のうち,本件文書12ないし14
に関する部分の取消しを求める限度で理由があるからこれらを認容し,その余はいずれも理由がないから棄
却すべきところ,これと結論を異になる原判決は不当であり,1審被告経産大臣の本件文書3ないし5に関する
部分及び1審被告外務大臣の控訴は理由があるので,原判決をその限度で変更し(1審被告経産大臣の本
件文書12ないし14に関する部分の控訴は棄却),他方,1審原告の控訴は理由がないので,これを棄却する
こととし,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第1部
裁判長裁判官     田   中   由   子
裁判官     佐   藤   真   弘
裁判官     山   崎   秀   尚
 
※ 別表添付省略
(原判決に添付の第1文書目録)
文書1「A事務局長との会談議事録(平成11年8月2日)」
文書2「BIE(博覧会国際事務局)との実務協議結果(平成12年9月7日)」文書3ないし5「BIE説明資料」(仏
語,英語及び日本語)
文書6「BIE(博覧会国際事務局)執行委員会結果概要(平成12年10月24日)」
文書7「BIE執行委員会結果概要(平成12年10月24日)」
文書8「愛知万博に関する閣議決定等のイメージ」
文書9「『2005年日本国際博覧会の登録申請書類』について(事前協議)」
文書10「『2005年日本国際博覧会の登録申請書類』について(再協議)」
文書11「2005年日本国際博覧会の博覧会国際事務局に対する登録申請について(平成12年9月19日閣
議決定案)」
文書12ないし14「2005年日本国際博覧会登録申請書」(仏語,英語及び日本語)
(原判決に添付の第2文書目録)
文書15「BIE(C博覧会協会部長とA事務局長の意見交換)」
文書16「BIE(D通産省博覧会推進室長他とA事務局長の意見交換)」
文書17ないし19「BIE(「政府保証」文書に係る調整)」
文書20「BIE(「政府保証」文書に係る調整:回答)」
文書21「BIE(9月6,7日BIE事務局との実務協議の概要)」
文書22「BIE(次回執行委員会の開催通知)」
文書23「BIE(執行委員会の結果概要)」
文書24「BIE(執行委員会の結果の送付)」

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