弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1原判決を次のとおり変更する。
第1審判決を次のとおり変更する。
(1)上告人らは,被上告人に対し,それぞれ327
万2076円及びこれに対する平成14年3月9
日から支払済みまで年6分の割合による金員を支
払え。
(2)被上告人のその余の本訴請求を棄却する。
2訴訟の総費用は,これを5分し,その2を上告人ら
の負担とし,その余を被上告人の負担とする。
理由
上告代理人中北龍太郎,同村本純子の上告受理申立て理由について
1原審の適法に確定した事実関係及び本件訴訟の経過の概要は,次のとおりで
ある。
(1)被上告人は,平成2年2月28日,建築業を営むA(以下「A」とい
う。)との間で,請負代金額を3億0900万円として賃貸用マンション新築工事
請負契約を締結した。その後,被上告人は,設計変更による追加工事をAに発注し
た(以下,追加工事を含めた契約を「本件請負契約」といい,追加工事を含めた工
事を「本件工事」という。)。
(2)Aは,平成3年3月31日までに本件工事を完成させ,完成した建物(以
下「本件建物」という。)を被上告人に引き渡した。
(3)被上告人は,平成5年12月3日,Aに対し,本件建物に瑕疵があり,瑕
疵修補に代わる損害賠償又は不当利得の額は5304万0440円であると主張し
て,同額の金員及びこれに対する完成引渡日の翌日である平成3年4月1日から支
払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴を提起
した。
(4)Aは,第1審係属中の平成6年1月21日,被上告人に対し,本件請負契
約に基づく請負残代金の額は2418万円であると主張して,同額の金員及びこれ
に対する平成3年4月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延
損害金の支払を求める反訴を提起し,反訴状は,平成6年1月25日,被上告人に
送達された。
(5)本件請負契約に基づく請負残代金の額は,1820万5645円である。
(6)他方,本件建物には瑕疵が存在し,それにより被上告人が被った損害の額
は,2474万9798円である。
(7)Aは,平成13年4月13日に死亡し,その相続人である上告人らがAの
訴訟上の地位を承継した。上告人らの法定相続分は,それぞれ2分の1である。
(8)上告人らは,平成14年3月8日の第1審口頭弁論期日において,被上告
人に対し,上告人らがそれぞれ相続によって取得した反訴請求に係る請負残代金債
権を自働債権とし,被上告人の上告人らそれぞれに対する本訴請求に係る瑕疵修補
に代わる損害賠償債権を受働債権として,対当額で相殺する旨の意思表示をし(以
下「本件相殺」という。),これを本訴請求についての抗弁として主張した。
2原審は,次のとおり判示して,被上告人の本訴請求につき,上告人らそれぞ
れに対して327万2076円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成
6年1月26日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限
度で認容し,その余を棄却し,上告人らの反訴請求をいずれも棄却した。
(1)本件相殺により,被上告人の瑕疵修補に代わる損害賠償債権と上告人らの
請負残代金債権とが対当額で消滅した結果,被上告人の上告人らに対する損害賠償
債権の額は654万4153円となり,上告人らは,被上告人に対して,それぞれ
法定相続分割合に応じて327万2076円(円未満切捨て)の損害賠償債務を負
う一方,上告人らの被上告人に対する請負残代金債権は消滅した。
(2)注文者の請負人に対する瑕疵修補に代わる損害賠償請求訴訟に対し,請負
人が反訴を提起して請負代金を請求し,後に請負代金債権をもって相殺の意思表示
をした場合には,反訴の提起をもって相殺の意思表示と同視すべきである。したが
って,上告人らの瑕疵修補に代わる損害賠償債務(相殺後の残債務)は,本件反訴
状送達の日の翌日である平成6年1月26日から遅滞に陥る。
3しかしながら,原審の上記(2)の判断は,是認することができない。その理
由は,次のとおりである。
(1)本件相殺は,反訴提起後に,反訴請求債権を自働債権とし,本訴請求債権
を受働債権として対当額で相殺するというものであるから,まず,本件相殺と本件
反訴との関係について判断する。
係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟におい
て相殺の抗弁を主張することは,重複起訴を禁じた民訴法142条の趣旨に反し,
許されない(最高裁昭和62年(オ)第1385号平成3年12月17日第三小法
廷判決・民集45巻9号1435頁)。
しかし,本訴及び反訴が係属中に,反訴請求債権を自働債権とし,本訴請求債権
を受働債権として相殺の抗弁を主張することは禁じられないと解するのが相当であ
る。この場合においては,反訴原告において異なる意思表示をしない限り,反訴
は,反訴請求債権につき本訴において相殺の自働債権として既判力ある判断が示さ
れた場合にはその部分については反訴請求としない趣旨の予備的反訴に変更される
ことになるものと解するのが相当であって,このように解すれば,重複起訴の問題
は生じないことになるからである。そして,上記の訴えの変更は,本訴,反訴を通
じた審判の対象に変更を生ずるものではなく,反訴被告の利益を損なうものでもな
いから,書面によることを要せず,反訴被告の同意も要しないというべきである。
本件については,前記事実関係及び訴訟の経過に照らしても,上告人らが本件相殺
を抗弁として主張したことについて,上記と異なる意思表示をしたことはうかがわ
れないので,本件反訴は,上記のような内容の予備的反訴に変更されたものと解す
るのが相当である。
(2)注文者の瑕疵修補に代わる損害賠償債権と請負人の請負代金債権とは民法
634条2項により同時履行の関係に立つから,契約当事者の一方は,相手方から
債務の履行又はその提供を受けるまで自己の債務の全額について履行遅滞による責
任を負うものではなく,請負人が請負代金債権を自働債権として瑕疵修補に代わる
損害賠償債権と相殺する旨の意思表示をした場合,請負人は,注文者に対する相殺
後の損害賠償残債務について,相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による
責任を負うと解される(最高裁平成5年(オ)第1924号同9年2月14日第三
小法廷判決・民集51巻2号337頁,最高裁平成5年(オ)第2187号,同9
年(オ)第749号同年7月15日第三小法廷判決・民集51巻6号2581頁参
照)。
本件においては,被上告人の瑕疵修補に代わる損害賠償の支払を求める本訴に対
し,Aが請負残代金の支払を求める反訴を提起したのであるが,Aの本件反訴は,
請負残代金全額の支払を求めるものであって,本件反訴の提起が相殺の意思表示を
含むと解することはできない。したがって,本件反訴の提起後にされた本件相殺の
効果が生ずるのは相殺の意思表示がされた時というべきであるから,本件反訴状送
達の日の翌日から上告人らの瑕疵修補に代わる損害賠償債務が遅滞に陥ると解すべ
き理由はない。
4以上によれば,上告人らは,本件相殺の意思表示をした日の翌日である平成
14年3月9日から瑕疵修補に代わる損害賠償残債務について履行遅滞による責任
を負うものというべきであって,これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼ
すことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由がある。
そして,前記事実関係及び訴訟の経過によれば,本訴請求は,上告人らそれぞれ
に対し,本件相殺後の損害賠償債権残額654万4153円の2分の1に当たる3
27万2076円及びこれに対する平成14年3月9日から支払済みまで年6分の
割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余
は理由がないからこれを棄却すべきである。よって,原判決を主文第1項のとおり
変更することとする。なお,反訴請求については,本訴請求において,反訴請求債
権の全額について相殺の自働債権として既判力のある判断が示されているので,判
断を示す必要がない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官津野修裁判官滝井繁男裁判官今井功裁判官
中川了滋裁判官古田佑紀)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛