弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役10か月に処する。
この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。
理由
(犯罪事実)
被告人は,法務事務官副看守長として堺市g区h町i番j号の大阪刑務所処遇部
処遇部門に勤務し,同刑務所の被収容者の処遇等に関する職務に従事していた。
被告人は,自己の不正な利益を図る目的で,平成20年5月26日ころ,大阪刑
務所第5居室棟1階調室で,同刑務所で受刑中であったBに対し,緊急連絡用など
として同刑務所処遇部門事務室内に備付けの職員名簿により知った同刑務所の保有
個人情報である同刑務所処遇部門副看守長C及び同看守部長Dの住所等を記載した
メモ紙を閲覧させて教示し,もって,業務に関して知り得た保有個人情報を自己の
不正な利益を図る目的で提供するとともに,職務上知ることのできた秘密を漏らし
た。
(証拠の標目(かっこ内の甲乙の別,番号は証拠等関係カードにおける検察官請)
求証拠番号を示す)。
(省略)
(法令の適用)
罰条
国家公務員として職務上知り得た秘密を漏らした点について
平成19年法律第108号による改正前の国家公務員法109条12号,国
家公務員法100条1項
保有個人情報の提供の点について
行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律54条
科刑上一罪の処理刑法54条1項前段,10条(犯情の重い行政機関の保有
する個人情報の保護に関する法律違反の罪の刑により処
断)
刑種の選択懲役刑
刑の執行猶予刑法25条1項
(量刑の理由)
本件は,刑務官であった被告人が,受刑者であったBから刑務所職員の住所等を
教えるようにそそのかされ,これにより,Bに対し職員名簿により知った刑務所職
員の住所等が書かれたメモ紙を見せてこれを教えた事案である。
1悪い情状
・被告人は,刑務所内での自己の評価を気にするあまり,処遇困難と評価されて
いたBに対し,過去に不正な便宜供与をしたことがあった。そして,Bからその
不正な便宜供与につけこまれ,その発覚を免れようとして自己保身のために本件
犯行に及んでいる。刑務官としての職責を果たすためには高度の廉潔性を保たな
ければならないにもかかわらず,被告人はBに対し毅然とした態度を取ることな
く,安易に本件犯行に及んだものである。その動機に酌むべき点はない。自己に
対する評価ばかりを優先し,行刑に対する社会的な信頼を著しく失わせており,
強い非難に値する。
・本件犯行により住所等の個人情報を漏えいされただけでも,他の刑務官らの被
害は看過できない。それだけにとどまらず,現にBが住所などを知っていること
を利用して他の刑務官を脅すという二次被害も生じている。本件犯行による被害
は大きい。また,本件犯行の結果,刑務官らはBやその関係者からの報復の危険
を感じており,刑務官らが刑務所内の秩序を維持するために適正に職務遂行を行
うことができなくなる危険も生じている。
・刑務官が特定の受刑者に対して便宜供与を行う事態が多く起こるようになれ
ば,受刑者が刑務官に対し不信感を抱くこととなり,刑務所内の秩序を維持する
ことが難しくなるほか,行刑が適正に行われているという国民の信頼をも失うこ
とになる。一般予防の見地からも厳しい態度で臨む必要がある。
2良い情状
・本件犯行を素直に認め,反省の弁を述べ,住所等の個人情報を漏えいされた他
の刑務官らに対し謝罪の意を示している。
・既に懲戒免職処分を受けており,一定の社会的制裁も受けている上,本件犯行
と同様の犯行を再び繰り返す危険はない。
・前科がない。
・被告人の妻が,今後被告人を援助する旨誓っている。
,,これらの事情を総合的に考慮し被告人に対しては主文のとおりの刑に処した上
その刑の執行を猶予するのが相当と判断した。
(検察官真野修史,私選弁護人羽座岡広宣各出席)
(求刑−懲役10月)
平成21年5月21日
大阪地方裁判所第14刑事部
裁判官小松本卓

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