弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人宗政美三の上告理由第一、二点について。
 原審が適法に確定した事実関係によれば、上告人は、昭和三〇年頃、訴外Dから、
当時、三原市a町土地区画整理組合による土地区画整理事業施行地区内に存在した
同人所有の同市a町b番地のc宅地六〇坪を従前の土地とする仮換地の一部であつ
た本件宅地を買い受け、Dの同意を得て買受部分にあたる二一坪六合四勺の範囲を
定め、その地上に本件建物を建築したというのである。右事実関係によれば、右土
地売買契約は、仮換地についてその一部分を特定してなされたものであり、従前の
土地そのものについて買受部分を特定してなされたものではないが、かかる場合に
おいては、特段の事情の認められないかぎり、仮換地全体の地積に対する当該特定
部分の地積の比率に応じた従前の土地の共有持分について売買契約が締結され、買
主は売主とともに従前の土地の共有者となり、売買の効力が生ずるに伴い、仮換地
上にいわゆる準共有関係として従前の土地に対する持分の割合に応じた使用収益権
を取得するものと解するのが相当である(当裁判所昭和四三年(オ)第三八一号同
四三年九月二四日第三小法廷判決、民集二二巻九号一九五九頁、同昭和四二年(オ)
第七四四号同四三年一二月二四日第三小法廷判決、民集二二巻一三号三三九三頁参
照)。
 ところで、論旨は、被上告人が上告人に対する抵当権を実行し、本件建物を競落
してその所有権を取得した当時、本件宅地は上告人とDとの共有関係にあつたから、
被上告人のために右競落による法定地上権の成立を認める余地はなく、その成立を
肯認した原判決は違法であるという。
 地上権は他人の土地の使用を内容とし土地所有権を制限する物権であるから、他
人のため地上権を設定する者はその目的たる土地について所有権を有する者でなけ
ればならないが、仮換地の指定がなされた場合においては、従前の土地の所有者は、
仮換地については使用収益権を有するにすぎず、その所有権はなお従前の土地にあ
るのであるから、仮換地上に直接地上権を設定する権限を有するものではなく(当
裁判所昭和三九年(オ)第七五一号同四二年六月二九日第一小法廷判決、裁判集民
事八七号一三七七頁参照)、この理は民法三八八条によつて抵当権設定者が抵当物
件の競落人のため地上権を設定したものと看做される場合においても異ならないも
のと解すべきである。したがつて、仮換地上の建物が競落された場合においては、
法律上は従前の土地について法定地上権が設定されたものと看做され、右法定地上
権に基づいて仮換地上の使用収益が許されることになるものというべきであつて、
原判示のように仮換地の上に直接法定地上権が成立することを認めることは許され
ないものといわなければならない。してみれば、本件において仮換地が上告人とD
との間の協議によつて分割され、本件建物の敷地たる本件宅地部分を上告人の所有
とする合意が成立していた事実のみによつて仮換地上に法定地上権を認めた趣旨の
原判決は、仮換地の利用関係の性質についての解釈を誤つたものというほかはない。
 しかし、本件において、従前の土地につき被上告人のために法定地上権が成立し
たか否かは別個に検討する必要がある。
 おもうに、上告人とDとの間に締結された前示売買契約によつて上告人とDとは
従前の土地につき仮換地の地積の割合による持分に応じた共有関係を生じ、また、
仮換地上の使用収益権についても準共有の関係を生じたこと前記のとおりであつて、
土地が共有である場合に、共有者の一人の所有にかかる地上建物が競落されるに至
つても、共有土地の上に法定地上権の発生を認めることが原則として許されないこ
とは所論のとおりであるが(当裁判所昭和二六年(オ)第二八五号同二九年一二月
二三日第一小法廷判決、民集八巻一二号二二三五頁参照)、右は他の共有者の意思
に基づかないで該共有者の土地に対する持分に基づく使用収益権を害することを得
ないことによるものであるから、他の共有者がかかる事態の生ずることを予め容認
していたような場合においては、右の原則は妥当しないものと解すべきである。し
かるところ、本件において原審の確定したところによると、上告人がDから買い受
けた二一坪六合四勺の土地については、前記のようにその地上に上告人によつて本
件建物が建築されたころ、上告人とDとの間の協議により右の部分を上告人の所有
とする旨の合意が成立していたというのであり、右合意は、とりもなおさず、Dが
上告人に対する関係で従前の土地の共有持分に基づく仮換地上の共同使用収益権を、
右買受部分に関するかぎり事実上放棄し、上告人の処分に委ねた趣旨に解すること
ができるから、Dは法定地上権によつて第三者が右土地を使用収益することをも容
認していたものというべきである。したがつて、本件においては、被上告人が本件
建物を競落したことにより従前の土地について被上告人のため法定地上権が成立し、
被上告人は右法定地上権に基づいて仮換地としての本件建物の敷地を占有しうべき
権原を取得したものと解するのが相当である。
 もつとも、従前の土地に所有権以外の権利で登記のないものを有することになつ
た者は、土地区画整理事業施行者から使用収益部分の指定を受けることによつては
じめて当該部分について現実に使用収益をなしうるにいたるのであつて、いまだ指
定を受けない段階においては仮換地につき現実の使用収益をなしえないというべき
であるが、右の場合においても、当事者間においては、仮換地上の特定部分の使用
収益について合意が成立するかぎり、右権利者は適法にその特定部分の使用収益を
なしうるものと解するのが相当であるところ、建物所有者の地位の保護を目的とす
る法定地上権制度の法意に照らすと、仮換地上の建物が競落された場合においては、
右指定がなされるまでの間においても、その建物の敷地(本件においては上告人の
買受部分)については抵当権設定者と競落人との間に右の合意がなされたと看做さ
れるものと解するのが相当であるから、被上告人の本件土地の占有は適法に開始さ
れたものといわなければならない。そして、さらに原審の確定するところによれば、
上告人は、昭和三五年一二月三日、前示土地区画整理事業の終了に伴い、本件宅地
(買受部分)について所有権保存登記を経由したというのであつて、上告人がかよ
うに換地として確定した前記買受部分を単独で所有するに至つた経緯が、右換地処
分前にDとの間で持分の割合に従つて従前の土地を分割し施行者に対し所定の手続
をとつて自己の買受部分の土地につき仮換地変更指定処分を経た結果によるもので
あるか、または、従前の土地につき共有のまま換地処分がなされた後、Dとの間で
前記合意に基づき換地を分割して単独の所有者となつたものであるかは原審の確定
するところではないが、いずれにせよ、右登記の日以前にその買受部分は従前の土
地に対応する換地として確定していたことが明らかであるから、被上告人は、上告
人が被上告人の土地不法占有による損害賠償債権の存在を主張する右保存登記経由
の日の翌日以降においては、特段の事情のないかぎり、右法定地上権に基づいて本
件建物の敷地である本件宅地を占有する正当な権原を有したものというべきであり、
したがつて、上告人主張の損害賠償債権は発生する余地がなかつたものといわなけ
ればならない。
 してみれば、原判決が本件宅地の占有は、被上告人が法定地上権による正当な権
原に基づくものとして上告人の相殺の抗弁を排斥した結論は、結局において正当で
あることに帰するから、これと異なる見地に立つ所論はすべて理由がなく、排斥を
免れない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    飯   村   義   美
            裁判官    関   根   小   郷

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