弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1処分行政庁が平成21年5月25日付けで原告に対してした別紙物件目録記
載の土地に係る農地所有権移転不許可処分を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
本件は,原告が農地である別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)
の所有権を取得することについての農地法(平成21年法律第57号による改正
前のもの。以下,特に断らない限り,同じ。)3条の規定による許可申請(以下
「本件許可申請」という。)に対して,処分行政庁から,①原告がその取得後
において農地の全てについて耕作の事業を行うとは認められず(農地法3条2項
2号),②原告は,主たる事業が農業ではなく農業生産法人ではないから,農
業生産法人以外の法人がこれを取得しようとする場合である(農地法3条2項2
号の2)との各不許可事由があるとして,不許可処分(平成21年法律第57号
附則2条1項により,同法による改正後の農地法3条1項の規定によってしたも
のとみなされる。以下「本件不許可処分」という。)を受けた原告が,処分行政
庁の上記判断には誤りがあり,本件不許可処分は違法であると主張して,本件不
許可処分の取消しを求めている事案である。
1前提事実(当事者間に争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁
論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)原告
原告は,平成17年6月24日にインターネットでのホームページ編集と
伝達配信等を目的として設立された株式会社(会社法2条5号の公開会社で
はない。)であるが,平成19年9月18日に葬送及び葬祭の企画運営,野
菜農園,造園,園芸及び植木の製造,運営及び販売,植木や物品のレンタル
業務,絵画,書籍の著作販売,画廊運営などを目的として追加する定款変更
をした。(甲1)
また,a,b及びcが,本件申請時の原告の取締役であり,このうち,a
が原告の代表取締役であり,aとbが農業に常時従事する者(年間200日
従事)とされている。(甲1)
(2)本件許可申請及び本件不許可処分
ア原告は,平成21年4月8日,処分行政庁に対し,農地である本件土地
について,その所有者であるdから原告に対して贈与により所有権移転す
ることについての農地法3条の規定による許可の申請(本件許可申請)を
した。(甲1)
本件許可申請の際に原告が提出した申請書(以下「本件申請書」という。)
及びその添付書類である「農業生産法人の要件に係る事項」には,本件土
地のうち約1300㎡を椿肥培育樹リース園・花壇として使用し,ここで
育成する椿と桜の苗木を記念樹として植栽管理する事業(以下「本件事業」
という。)を行う旨が記載され,a及びbにつき「年間農業従事日数」,
「年間農作業従事日数」のいずれの「前年実績」欄,「見込み」欄にも共
に200日と記載されており,また,上記「農業生産法人の要件に係る事
項」のうち,1(2)の「事業の実施状況及び事業計画」(以下「本件事
業計画」という。)及び農業経営計画書(以下「本件計画書」という。)
には,農地等を耕作の事業の用に供することとなる日を含む事業年度以降
の3か年の「椿の記念樹」,「桜の記念樹」及び「育成管理表(入金売上)」
に係る売上げ合計額(以下「記念樹収入等」という。)並びに原告の事業
全体の売上高が次の(ア)ないし(ウ)のとおり計上されていた。(甲1,5,
6)
このうち,「椿の記念樹」及び「桜の記念樹」に係る売上げは,椿や桜
の顧客からの賃料収入であり,本件計画書に記載されている「育成管理表
(入金売上)」とは育成管理料の誤記であって,苗木の生育や樹木の維持
管理に必要な肥料等の購入費用や人件費の実費収入である。
(ア)初年度
事業全体の売上高(①)1237万5000円
内記念樹収入等(②)1012万5000円
②の①に占める割合約81.8%
(イ)2年目
事業全体の売上高(①)4095万円
内記念樹収入等(②)3375万円
②の①に占める割合約82.4%
(ウ)3年目
事業全体の売上高(①)6769万5000円
内記念樹収入等(②)6049万5000円
②の①に占める割合約89.4%
イこれに対し,処分行政庁は,平成21年5月25日,本件許可申請につ
き,以下の不許可事由が認められることを理由として本件不許可処分をし,
その旨を原告に通知した。(甲2)
(ア)農地法3条2項2号の不許可事由
原告は,本件事業を行うとしているが,本件事業はその目的及び内容
からみて,耕作の事業に該当せず,農地法3条2項2号の不許可事由に
当たる。
(イ)農地法3条2項2号の2の不許可事由
原告は,本件申請書添付の本件計画書で,椿の記念樹,桜の記念樹,
椿絵及び工芸品の販売額等を売上げとして計上しているが,これらはい
ずれも農業による売上げとは認められない上,苗木の販売額も売上げと
して同計画書に計上されておらず,原告の主たる事業は農業といえない
ため,農業生産法人の要件を満たさず,農地法3条2項2号の2の不許
可事由に当たる。
(3)本訴提起に至る経緯等
ア原告は,平成21年6月30日,上記各不許可事由はいずれも認められ
ないなどとして,本件不許可処分を不服として,東京都知事に対し審査請
求をしたが,東京都知事は,同年10月21日,審査請求を棄却する旨の
裁決をし,その裁決書謄本が同月22日に原告に送達された。
なお,東京都知事は,平成21年10月26日,上記裁決書に対する更
正決定をし,その更正決定謄本が同月27日に原告に送達された。
イ原告は,平成22年4月16日,本件訴訟を提起した。(顕著な事実)
(4)農業生産法人該当性の判断基準に関する通知の定め
平成12年6月1日12構改B404農林水産事務次官通知「農地法関係
事務に係る処理基準について」(平成18年5月1日改正のもの)は,農地
法2条7項に規定する農業生産法人の判断基準等につき,要旨次のとおりの
基準(以下「本件判断基準」という。)を定めている。(乙2)
①農地法2条7項1号の法人の主たる事業が農業であるか否かの判断は,
その判断の日を含む事業年度前の直近する3か年におけるその農業に係る
売上高が,当該3か年における法人の事業全体の売上高の過半を占めてい
るか否かによる(第1の(3)②)。
②農地法3条2項2号の2に該当するか否かの判断に当たっては,法令の
定め及び第1の(3)によるほか,次によるところ,農地等の権利の取得後に
おいて,同法2条7項各号の要件を満たし得ると認められる場合には,同
法3条2項2号の2に該当するものとはされないが,この場合,同法2条
7項1号の「法人の主たる事業が農業」であるか否かについては,従前の
事業の状況と併せ,その農地等を耕作の事業の用に供することとなる日を
含む事業年度以降の3か年の農業の売上高が,当該3か年における当該法
人の事業全体の売上高の過半を占めるか否かも勘案して総合的に判断する
(第2の1(4)①なお書き)。
2争点
(1)農地法3条2項2号の不許可事由の存否(原告がその取得後において耕作
の事業に供すべき農地の全てについて耕作の事業を行うと認められるか否
か)
(2)農地法3条2項2号の2の不許可事由の存否(原告が農業生産法人である
か否か)
3当事者の主張
(1)争点(1)(農地法3条2項2号の不許可事由の存否)について
(被告の主張の要旨)
ア農地法の目的は,耕作者の地位の安定と農業生産力の増進を図ることに
あり,農業生産力の増進とは,作物等を収穫することにある。
したがって,当該事業が,耕作ひいては農業に該当するためには,当該
事業の目的が農業生産力を増進すること,すなわち,作物等の収穫を目的
としていることが決定的な要件となる。
そうすると,当該事業が耕作といえるか否かについては,単なる「賃貸
借」か,それとも「作物等の収穫」か,いかなる目的で栽培しているかが
極めて重要であり,そのいずれに当たるかは,原告が主張するような単な
る営業手法の違いにとどまるものではない。
イ本件事業は,苗木の栽培やその販売を行うものではなく,散骨・樹木葬
・自然葬のため樹木を記念樹として賃貸するものとしており,前記アから
すると耕作には当たらない。
特に本件土地の後記ウの花壇部分については,鑑賞及び種子収穫を目的
として,樹木を植栽し,顧客に賃貸するとしているが,幼木を生育させて
いるのではなく,成育した樹木を賃貸するものであり,これが農業生産力
の増進に寄与することはなく,肥培管理をするものとはいえないので,花
壇における樹木の植栽は耕作に当たらない。
ウ本件土地4652㎡のうち,苗園は約1000㎡でその占める割合は約
21.5%であり,花壇は約1300㎡でその占める割合は約27.9%
であり,これら大半の土地が,花壇,ポット,樹木葬見本等として,リー
ス用ないし鑑賞用の樹木の植栽がされているにすぎないし,別紙図面1の
「e(画廊)」部分は耕作と関係のない画廊となっている。
仮に,苗園につき,賃貸目的の苗木栽培が耕作の事業に当たるとしても,
本件土地に占める割合からすると,耕作の事業に供すべき農地の全てにつ
いて耕作の事業を行うとは認められない。
エよって,原告がその取得後において本件土地の全てについて耕作の事業
を行うものとは認められず,農地法3条2項2号の不許可事由が認められ
る。
(原告の主張の要旨)
ア農地法3条2項2号の耕作に当たるか否かは,肥培管理が当該土地に施
されているか否かが判断基準であるところ,「肥培管理」とは,作物の生
育を助けるための農作業一般をいうものである。被告は,原告の事業は作
物の栽培を目的としていない旨主張するが,「栽培」という用語の定義を
みても,植物の繁殖と生育とを保護・管理することであるから,成育した
作物を販売するか賃貸するかといった使用・処分形態は営業手法上の違い
にすぎない。
したがって,作物等の収穫を目的としていることは肥培管理の要件では
なく,また,成育した作物の賃貸を目的とすることをもって,耕作に当た
らないということはできない。
イ本件事業は,椿,あじさい,α桜の苗木の植栽及び肥培管理を行い,そ
れによって成育した椿と桜の樹木を,誕生・結婚・葬送等の記念樹として
顧客を募集し,顧客に対し一定期間リースするというものであり,また,
それにとどまらず,樹木から収穫される椿や桜の種子を顧客に頒布したり,
挿し木・接ぎ木等による分樹することをも目的とし,後記ウの態様により,
苗木の状態から生育させた椿や桜を,成熟前の幼木段階から同一土地内で
引き続き肥培管理により生育させているから,前記アに照らすと,耕作に
当たる。
ウ本件土地は,別紙図面2のとおり,AないしEまで5つの区画に分けら
れる。このうち,A及びB区画は,「椿肥培育樹リース園」であり,C及
びD区画は椿の苗園,E区画は桜の苗園となっており,原告は,椿ないし
桜を苗木の状態から栽培し,生育させた幼木を「椿肥培育樹リース園」に
植え替えて肥培管理して生育させている。
AないしEの区画の総面積は2440.35㎡(花壇は別紙図面3のと
おりA区画の斜線部分に所在し,34.25㎡に限られ,これを除外する。)
であり,本件土地の総面積4652㎡に占める割合は約52.5%となっ
ており,耕作その他の農作業に必要な農道や農機具置き場,堆肥保管場所
を含めると総面積は4617.75㎡となり,本件土地の総面積に占める
割合は約99.26%となり,「耕作の事業に供すべき農地の全て」につ
いて耕作の事業を行うものと認められる。
エよって,原告がその取得後に本件土地の全てについて耕作の事業である
本件事業を行うことは客観的に明らかであり,農地法3条2項2号の不許
可事由は存しない。
(2)争点(2)(農地法3条2項2号の2の不許可事由の存否)について
(被告の主張の要旨)
ア本件判断基準②は,農地等の権利取得後に農地法2条7項各号の要件を
満たし得る場合として,判断の日を含む事業年度前の直近する3か年では
なく,本件判断基準①の例外として農地等を耕作の事業の用に供すること
となる日を含む事業年度以降の3か年の農業の売上高の実績を勘案する趣
旨のものである。
イ前提事実(2)アで原告が売上げとして計上した「椿の記念樹」及び「桜の
記念樹」の各項目は,各樹木の顧客からの賃料であり,「育成管理料」と
いう項目は,花壇の管理費用である。
本件事業は,前記の内容のとおりであるところ,実際の本件土地の使用
状況も,椿や桜がリース園や花壇に植えられ,樹木葬ないし観賞用に供さ
れており,別紙図面1の「e(画廊)」が画廊とされ,本件土地のメイン
部分となっていることからすると,本件事業は耕作に当たらず,上記各項
目は農業による売上高とは認められない。
また,原告が,本件許可申請時に,本件事業計画の初年度ないし3年目
の農業外収入として一旦記載した前提事実(2)ア(ア)ないし(ウ)の各①の
金額をいずれも農業収入に訂正したこと(以下「本件訂正」という。)か
らすると,原告主張の農業収入は実態がないと強く推測される。
ウよって,原告は,本件土地を耕作の事業の用に供することとなる日を含
む事業年度以降の3か年の農業の売上げが,各年度とも,原告の事業全体
の売上高の50%以上を占めることはなく,主たる事業が農業であるとの
要件は満たさないため,農業生産法人に該当しないから,農地法3条2項
2号の2の不許可事由が認められる。
(原告の主張の要旨)
ア本件判断基準にいう農業とは,耕作,養畜,養蚕等の業務の他,その業
務に必要な肥料・飼料等の購入,通常商品として取り扱われる形態までの
生産物の処理販売までが含まれるとされている。
そして,耕作については,前記(1)(原告の主張の要旨)のとおり生育さ
せた作物等の賃貸を目的としていても耕作に該当するので,本件土地に植
栽された樹木につき顧客が原告に支払う賃料は,農業による売上収入に入
る。
また,原告が本件計画書で計上している育成管理料も,苗木の生育や樹
木の維持管理に必要な肥料等の購入費用や,農作業に要する人件費等の実
費であり,農業の売上高である。
これに対し,①被告が本件土地の使用状況から本件事業が耕作に当た
らないと主張する点は,極めて概括的・抽象的である上,リース園部分と
花壇部分は明確に区別され,かつ,花壇部分の割合は些少であり,建物の
内部に椿絵が展示されていることと原告の農業生産法人該当性とは何ら関
連性がないし,②被告が指摘する本件訂正の点も,α町産業課の担当者
からの指導に基づき必要な文字の加除訂正を行ったものであり,形式的な
記載ミスにすぎない。
なお,被告は本件判断基準①が原則であり本件判断基準②は例外である
と主張するが,本件判断基準①のようにその判断の日を含む事業年度前の
直近する3か年に農業の売上高がない場合も当然あり得,そのような場合
に本件判断基準②を定めたものと解されるので,原則と例外という関係は
なく,失当である。
イ上記アからすると,本件事業計画上,初年度ないし3年目における原告
の事業全体の売上高に占める農業の売上高は前提事実(2)アのとおりとな
る(椿絵その他の工芸品販売による売上高は,農業の売上高とみなされな
い場合も考慮して,除く。)。
なお,原告は本件不許可処分を受けたため,本件土地において現在に至
るまで,本件事業に基づく実際の販売活動は行っておらず,平成21年度
及び平成22年度の売上実績はないが,このことにより,本件事業計画に
おける上記計画ないし見通しが失当となるものではない。
ウよって,原告は,本件土地を耕作の用に供することとなる日を含む事業
年度以降の3か年の農業の売上げが,各年度とも,原告の事業全体の売上
高の50%以上を占め,主たる事業が農業であるとの要件を満たすから,
農業生産法人であり,農地法3条2項2号の2の不許可事由は存しない。
第3当裁判所の判断
1争点(1)(農地法3条2項2号の不許可事由の存否)について
(1)農地法にいう耕作(同法2条1項,3条2項2号等参照)とは,土地に労
資を加え,肥培管理を行って作物を栽培することをいい,その作物は,林業
の対象となるようなものでない限り,永年生の植物でも妨げないと解される
(最高裁昭和38年(オ)第1065号同40年8月2日第二小法廷判決・
民集19巻6号1337頁)から,永年生の植物の苗木や成育した樹木を植
栽管理する行為(事業)が「耕作」に該当するか否かは,上記永年生の植物
の苗木や成育した樹木が林業の対象となるようなものでない限り,このよう
な作物を栽培するために土地に肥培管理を施すものであるか否かによって決
定すべきであり(最高裁昭和55年(オ)第1069号同56年9月18日
第二小法廷判決・裁判集民事133号463頁),作物を栽培するために土
地に作物の生育を助けるための農作業一般(その土地に施される耕耘,整地,
播種,灌漑,排水,施肥,農薬散布,除草等の一連の人為的作業)を行うも
のである以上,作物を栽培するために土地に肥培管理を施すものに該当する
というべきである。
以上に対し,被告は,農地法の目的から,①上記行為(事業)が耕作に
該当するためには,作物等の収穫を目的とすることが必要であり,②成育
した樹木の賃貸を目的とする場合には,これに該当しない旨主張する。
しかしながら,農地法3条の趣旨は,同法の目的(1条)からみて望まし
くない不耕作目的の農地の取得等の権利の移転又は設定を規制し,耕作者の
地位の安定と農業生産力の増進を図ろうとするものである(最高裁平成14
年(受)第1459号同16年7月13日第三小法廷判決・裁判集民事21
4号953頁)。このような不耕作目的の農地取得を規制して農地の荒廃を
防ぐという観点からすれば,権利の取得者により適切に農地に肥培管理が施
されることが重要であって,農地法が,作物等の収穫があることに着目し,
それを目的として上記のような規制をしたものとは解されないし,農地法は,
農地で栽培すべき作物やその処分の方法等を一定のものに制限する規定を設
けていないことからすると,農地で栽培した作物等を利用して金銭的収入を
上げることなども農業生産力の増進と評価できるといえるから,農地法にい
う耕作(肥培管理)については,作物等の収穫を不可欠の要件とまではして
いないものと解すべきである。
したがって,被告の上記主張は理由はなく,たとえ本件事業が作物等を顧
客に賃貸借するものであっても,直ちに耕作の事業に該当しないとはいえな
いので,本件事業が本件土地に肥培管理を施すものであるか否かを検討する。
(2)前提事実に加え,証拠(甲1,3,5,10ないし13,乙1,3)及び
弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア本件事業の事業計画・事業形態等
(ア)本件事業の概要
本件事業計画によれば,本件事業は,本件土地を「e」と称して,顧
客の分身として花の木を植樹して育て,花を咲かせることを目的とした
記念植樹園とするため,その農畜産物を椿苗木,あじさい,桜とし,土
地の利用計画の用途を椿,桜,あじさい,香花等の肥培植栽を基本にし
た農業事業とするものである。
(イ)椿苗木植栽及び椿記念樹植栽
椿については,まず,①本件土地の苗園部分でプランターに苗木を
肥培植栽し(以下,この植栽を「椿苗木植栽」という。),②植え替
えに適してきたら本件土地の「椿肥培育樹リース園」部分に植え替えて,
「お誕生記念」,「α来島記念」,「結婚記念」,「金銀婚式記念」,
「葬送の標樹」(樹木葬)の記念樹として,鑑賞並びに挿し木,接ぎ木
及び種子収穫による増殖を目的として顧客に1年単位最長25年,椿1
本当たり25年分の賃料30万円,年間の管理費5000円で賃貸借を
するというもの(以下,この植え替え後の植栽を「椿記念樹植栽」とい
う。)であって,本件土地全体を利用して総合的に植栽する計画であり,
鉢植え商品の通常販売も並行して行うものとされている。
②椿記念樹植栽については,顧客において花の色・柄,花の大きさ,
花びらが一重か二重か,花の芯の太さ,花が咲く月等の花の種別に着目
して約300種もの多様な椿の花の中からふさわしいものを選択でき
(殊に顧客にまず選択してもらうのは花が咲く月としている。),原告
において,次の作業を行うことを予定している。
a花木の名称と植樹者(顧客)の名前を記したネームプレートを木の
根元に付けるとともに,顧客情報を植樹台帳とデータで管理し,顧客
の記念日や椿の花が咲く季節が到来する際には,事前に顧客に連絡し,
αへの来島を勧誘すること。
b顧客が椿の記念樹に散骨を希望する場合は,遺灰にチッソ,リン酸,
カリを混ぜて肥料として撒布を行うこと。
c椿の記念樹の賃貸借契約締結後においても,引き続き椿の記念樹の
肥育をし,椿の丈の長さ2m以下となるように剪定するなどの手入れ
をしたり,椿の記念樹が枯れ又は自然現象で破損した場合は無償で新
木と交換したりすること。
(ウ)桜苗木植栽及び桜記念樹植栽
α桜についても,苗木から植栽し(以下,この植栽を「桜苗木植栽」
という。),植え替えに適したら街路樹として植え替え,椿と同様の方
法でプレミア桜については1本当たり25年分の賃料100万円,α桜
については12人で1本とし,一人当たり25年分の賃料30万円,い
ずれの場合も年間の管理費5000円で顧客に賃貸借をするというもの
(以下,この植え替え後の植栽を「桜記念樹植栽」という。)である。
(エ)その他
あじさいについては苗園で,香花については苗園横で肥育するとされ
ている。
(以上につき,甲1,3,5,13,乙1)
イ本件土地の利用計画等
(ア)本件土地の利用計画
本件土地は,南側を東西に走る一般道路に通じる通路部分とこれに旗
状に接する長方形の部分からなる4652㎡の土地であり,別紙図面2
記載のとおり,長方形部分の土地には,その北側,西側及び南側に三つ
の「農機具置き場(既存)」(北側農機具置き場は別紙図面1の「e(画
廊)」に,西側農機具置き場は同図面の小屋に,南側農機具置き場は同
図面の倉庫にそれぞれ相当する。)が存在し,「椿肥培育樹リース園」
であるA及びB区画,「苗園(椿)」であるC及びD区画,「苗園(椿,
桜)」であるE区画が配置されている。AないしEの各区画等の面積は
次のとおりであるから,その総面積は,2440.35㎡となり,本件
土地の総面積4652㎡に対し約52.4%を占める。
①A区画別紙図面3のとおり,483.6㎡(椿以外の草木が植え
られている斜線部分34.25㎡を除外した場合は,449.35㎡
となる。)
②B区画992㎡
③C区画332㎡
④D区画345㎡
⑤E区画322㎡
⑥農機具置き場(既存)北側農機具置き場109㎡,西側農機具置
き場119.48㎡,南側農機具置き場125.6㎡
(イ)本件土地の使用状況
本件土地の現在の使用状況は,次のとおりである。
①A区画
丸太様のもので区画された各花壇に椿の記念樹が植栽されている。
②B区画
除草・整地が施されて,椿の記念樹が区画されて植栽されている。
③C区画
椿の苗木がプランター様の容器に植栽されている。
④D区画
椿が石材で四角く枠取られた各区画部分に1本ずつ植栽されてお
り,樹木葬等記念樹の見本となっている。
⑤E区画
桜の苗木が植栽されている。
⑥農機具置き場(既存)
北側農機具置き場は主に「e(画廊)」として椿画家の描いた椿絵
(顧客が「e」の会員である「f」に入会して椿の植樹をした際に提
供される。)を展示している画廊であり,西側農機具置き場は小屋,
南側農機具置き場は農機具等の倉庫として使用されている。
⑥その他
別紙図面2の南西側の角部分は堆肥置き場として,その他は本件事
業のための通路として使用されている。
(以上につき,甲3,10ないし12,乙3,弁論の全趣旨)
(3)以上によれば,本件事業のうち,①椿苗木植栽及び桜苗木植栽は,椿の
苗園とされるC区画及びD区画や桜の苗園とされるE区画において,椿や桜
を苗木として植え替えに適する程度まで人為的に生育させるものであるか
ら,林業の対象となるようなものではなく,作物を栽培するために土地に肥
培管理を施すものに該当すると容易に認められる。また,②椿記念樹植栽
等も,A区画及びB区画において,椿等の花をもって顧客の人生の節目を記
念する目的で上記①のとおり成育した椿等の苗木を顧客に賃貸し,これらを
記念樹として植え替えた上,その状態から更に生育させるものであって,上
記のような顧客の目的に応じて椿等の花を適時かつ適切に咲かせるため,自
然の力による生育に任せるのではなく,顧客への賃貸後も椿等の花の生育を
助けるための人為的作業を施すというのであるから(実際にも,本件土地の
上記各区画は,山野とは異なり,一定程度の除草や整地がされ,A区画につ
いては丸太様のもので区画された部分に均等に記念樹が配置され,B区画に
ついても棒様のもので区画された部分に均等に記念樹が配置されているので
あるし,散骨希望者による遺灰と栄養素を混ぜた肥料だけでなく堆肥置き場
からの施肥が普段から行われていることもうかがわれる。),上記各区画に
植栽された椿等の樹が永年生の植物であって上記賃貸期間のうち一定の時期
以降は成育した状態になり,専ら上記のような花の生育を助けるための人為
的作業を施すにとどまるとしても,このことをもって直ちに自然の生育に任
せるものとか林業の対象となるようなものということはできず,作物を栽培
するために土地に肥培管理を施すものに該当すると認められる。さらに,③
D区画は,上記①で説示したとおり作物を栽培するために土地に肥培管理を
施すものに該当する椿の苗園とされることが予定されていたから,現況とし
ては,椿の記念樹の見本が石枠様のもので区画された部分に均等に配置され
ているとしても,上記①の判断を左右するに足りるものではない。そして,
④別紙図面1の「e(画廊)」部分も,現況としては耕作と直接関係のな
い画廊となっているが,椿絵はいわば椿の記念樹の賃貸借契約の成約を促進
するための特典ということができるし,椿の花に着目した本件事業からする
と本件事業の名称を冠した画廊を設けて椿絵を展示しておくことは,本件事
業の発展のために適当な広報手段であって,農機具等の倉庫やAないしE区
画と一般道路を結ぶ通路部分を含め,一体として本件土地が利用されている
ということができ,⑤原告主張の花壇部分も,A区画の椿の記念樹の植栽
部分と一体利用がされていると認められるから,いずれも農地法3条2項2
号の規制の趣旨に反した土地利用形態ということはできない(なお,本件事
業が本件土地全体に占める割合は,別紙図面1及び同3の椿絵の画廊部分や
A区画の草木の花壇部分を除外したとしても,本件事業に供されている土地
は4508.75㎡であり,約96.9%である。)。
以上からすると,本件事業は農地の全てについて耕作の事業を行うものに
該当するということができ,本件申請につき農地法3条2項2号の不許可事
由は認められない。
以上の説示に反する被告の主張は,いずれも理由がなく採用することがで
きない。
2争点(2)(農地法3条2項2号の2の不許可事由の存否)について
(1)農地法3条2項2号の2(同法2条7項)にいう農業生産法人への該当性
のうち,同法2条7項1号の「法人の主たる事業が農業」であるか否かにつ
いては,同号が単に「その法人の主たる事業が農業であること」と規定し,
その他の規定を併せて見ても,当該法人が現に耕作の事業等を行っているこ
とを要件とする規定はないことに照らすと,当該法人に農業の売上げの実績
がないことのみをもって農業生産法人への該当性を否定するものではないと
解され,殊に農地法3条2項2号の2との関係では,農地等の権利の取得後
に行う予定の当該法人の主たる事業が農業である場合にも,農業生産法人に
該当するものとして農地の権利移転を認める趣旨であると解される(このよ
うに解さなければ,新規に事業を始めようとする農業生産法人が農地を取得
することを認めることができないこととなり,妥当でない。)。
そうであるとすれば,その判断日を含む事業年度前の直近する3か年にお
けるその農業に係る売上高が,当該3か年における法人の事業全体の売上高
の過半を占めている場合(本件判断基準①参照)はもちろん,当該法人の従
前の事業の状況と併せ,その農地等を耕作の事業の用に供することとなる日
を含む事業年度以降の3か年の農業の売上高が,当該3か年における当該法
人の事業全体の売上高の過半を占めている場合(本件判断基準②参照)にも,
等しく農業生産法人の該当性を認めるのが相当であり,上記の場合のいずれ
かを原則とするものではないから,これと同旨の解釈を示す本件判断基準②
は相当であると解される(以上と異なる趣旨を述べる被告の主張は採用する
ことができない。)。
(2)前提事実に加え,前記1の争点(1)の判断も踏まえれば,本件事業は,耕
作の事業に該当するから,これが農業に該当することも明らかである。
そうすると,前提事実(2)アで売上げとして計上された「椿の記念樹」及び
「桜の記念樹」の賃料収入は耕作の事業の収入であり,「育成管理料」の実
費収入も農作業の受託の対価であって,いずれも農業の売上高と認められる
から,前提事実(2)アのとおり,本件事業計画上,農地等を耕作の事業の用に
供することとなる日を含む事業年度以降の3か年の本件事業の売上高が,当
該3か年における原告の事業全体の売上高の過半(いずれも8割以上)を占
めていることが明らかであるといえ,原告の従前の事業状況をみても,農地
法1条の目的や同法3条の規制の趣旨に照らして,原告の主たる事業が農業
であることを否定すべき事情が特に存しないことをも併せ考慮すると,本件
判断基準に照らして原告の主たる事業が農業であると認められる。
これに対し,被告は本件訂正があったことを指摘するが,単なる誤記の訂
正以上のものとは認められず,上記認定の妨げとなるものではない。
なお,被告は,原告が農業生産法人に該当するためのその他の要件である
農地法2条7項2号,3号各所定の要件を満たさないとの主張及び立証は特
にしておらず,原告の農業生産法人該当性を否定すべき事情は特に存しない。
よって,本件申請につき,農地法3条2項2号の2の不許可事由は認めら
れない。
3小括
したがって,本件許可申請については,農地法3条2項2号及び同項2号の
2の不許可事由はいずれも認められないのであるから,これらの不許可事由が
認められるとして本件許可申請を不許可とした本件不許可処分は違法であると
いわざるを得ない。
第4結論
以上の次第で,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,訴訟
費用の負担について行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のと
おり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官川神裕
裁判官林史高
裁判官菅野昌彦

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