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平成24年(受)第1475号残業代等請求事件
平成26年1月24日第二小法廷判決
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人太田恒久ほかの上告受理申立て理由第2ないし第5について
1本件は,上告人に雇用されて添乗員として旅行業を営む会社に派遣され,同
会社が主催する募集型の企画旅行の添乗業務に従事していた被上告人が,上告人に
対し,時間外割増賃金等の支払を求める事案である。上告人は,上記添乗業務につ
いては労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たる
として所定労働時間労働したものとみなされるなどと主張し,これを争っている。
2原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)上告人は,一般労働者派遣事業等を目的とする株式会社である。
被上告人は,株式会社A(以下「本件会社」という。)がその企画に係る海外旅
行として主催する募集型の企画旅行(本件会社の定める旅行業約款においては,旅
行業者が,あらかじめ,旅行の目的地及び日程,旅行者が提供を受けることができ
る運送又は宿泊のサービスの内容並びに旅行者が旅行業者に支払うべき旅行代金の
額を定めた旅行に関する計画を作成し,これにより旅行者を募集して実施する旅行
をいうものとされている。以下,個別の当該旅行を「ツアー」という。)ごとに,
ツアーの実施期間を雇用期間と定めて上告人に雇用され,添乗員として本件会社に
派遣されて,添乗業務に従事している。上告人が,被上告人を雇用するに当たり作
成している派遣社員就業条件明示書には,就業時間につき,原則として午前8時か
ら午後8時までとするが,実際の始業時刻,終業時刻及び休憩時間については派遣
先の定めによる旨の記載がある。
なお,上告人から本件会社に派遣されてその業務に従事している被上告人につい
て,派遣先である本件会社は,就業日ごとの始業時刻,終業時刻等を記載した派遣
先管理台帳を作成し,これらの事項を派遣元である上告人に通知する義務を負い
(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(平成
24年法律第27号による改正前の法律の題名は労働者派遣事業の適正な運営の確
保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律)42条1項,3項),上告人
は,本件会社から上記の通知を受けて時間外労働の有無やその時間等を把握し,そ
の対価である割増賃金を支払うこととなる。
(2)本件会社が主催するツアーにおいては,ツアーに参加する旅行者(以下
「ツアー参加者」という。)の募集に当たり作成されるパンフレット等が,本件会
社とツアー参加者との間の契約内容等を定める書面であり,出発日の7日前頃にツ
アー参加者に送付される最終日程表が,その契約内容等を確定させるものである。
最終日程表には,発着地,交通機関,スケジュール等の欄があり,ツアー中の各日
について,最初の出発地,最終の到着地,観光地等(観光施設を含む。以下同
じ。)の目的地,その間の運送機関及びそれらに係る出発時刻,到着時刻,所要時
間等が記載されている。
また,本件会社の依頼を受けて現地手配を行う会社が英文で作成する添乗員用の
行程表であるアイテナリーには,ホテル,レストラン,バス,ガイド等の手配の状
況(手配の有無,現地ガイドとの待ち合わせ場所等)や手配の内容に係る予定時刻
が記載されている。
(3)本件会社が主催するツアーにおける添乗員の業務(以下「本件添乗業務」
という。)の内容は,おおむね次のとおりである。
ツアーの担当の割当てを受けた添乗員は,出発日の2日前に,上告人の事業所に
出社して,パンフレット,最終日程表,アイテナリー等を受け取り,現地手配を行
う会社の担当者との間で打合せを行うなどする。出発日当日には,ツアー参加者の
空港集合時刻の1時間前までに空港に到着し,航空券等を受け取るなどした後,空
港内の集合場所に行き,ツアー参加者の受付や出国手続及び搭乗手続の案内等を行
い,現地に向かう航空機内においては搭乗後や到着前の時間帯を中心に案内等の業
務を行った上,現地到着後はホテルへのチェックイン等を完了するまで手続の代行
や案内等の業務を行う。現地においては,アイテナリーに沿って,原則として朝食
時から観光等を経て夕食の終了まで,旅程の管理等の業務を行う。そして,帰国日
においても,ホテルの出発前から航空機への搭乗までの間に手続の代行や案内等の
業務を行うほか,航空機内でも搭乗後や到着前の時間帯を中心に案内等の業務を行
った上,到着した空港においてツアー参加者が税関を通過するのを見届けるなどし
て添乗業務を終了し,帰国後3日以内に上告人の事業所に出社して報告を行うとと
もに,本件会社に赴いて添乗日報やツアー参加者から回収したアンケート等を提出
する。
(4)本件会社が作成した添乗員用のマニュアルには,おおむね,上記(3)のよう
な内容の業務を行うべきことが記載されている。
また,本件会社は,添乗員に対し,国際電話用の携帯電話を貸与し,常にその電
源を入れておくものとした上,添乗日報を作成し提出することも指示している。添
乗日報には,ツアー中の各日について,行程に沿って最初の出発地,運送機関の発
着地,観光地等の目的地,最終の到着地及びそれらに係る出発時刻,到着時刻等を
正確かつ詳細に記載し,各施設の状況や食事の内容等も記載するものとされてお
り,添乗日報の記載内容は,添乗員の旅程の管理等の状況を具体的に把握すること
ができるものとなっている。
(5)ツアーの催行時において,ツアー参加者の了承なく,パンフレットや最終
日程表等に記載された旅行開始日や旅行終了日,観光地等の目的地,運送機関,宿
泊施設等を変更することは,原則として,本件会社とツアー参加者との間の契約に
係る旅行業約款に定められた旅程保証に反することとなり,本件会社からツアー参
加者への変更補償金の支払が必要になるものとされている。そのため,添乗員は,
そのような変更が生じないように旅程の管理をすることが義務付けられている。
他方,旅行の安全かつ円滑な実施を図るためやむを得ないときは,必要最小限の
範囲において旅行日程を変更することがあり,添乗員の判断でその変更の業務を行
うこともあるが,添乗員は,目的地や宿泊施設の変更等のようにツアー参加者との
間で変更補償金の支払など契約上の問題が生じ得る変更や,ツアー参加者からのク
レームの対象となるおそれのある変更が必要となったときは,本件会社の営業担当
者宛てに報告して指示を受けることが求められている。
3上記事実関係の下において,本件添乗業務につき,労働基準法38条の2第
1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるかどうかについて検討する。
本件添乗業務は,ツアーの旅行日程に従い,ツアー参加者に対する案内や必要な
手続の代行などといったサービスを提供するものであるところ,ツアーの旅行日程
は,本件会社とツアー参加者との間の契約内容としてその日時や目的地等を明らか
にして定められており,その旅行日程につき,添乗員は,変更補償金の支払など契
約上の問題が生じ得る変更が起こらないように,また,それには至らない場合でも
変更が必要最小限のものとなるように旅程の管理等を行うことが求められている。
そうすると,本件添乗業務は,旅行日程が上記のとおりその日時や目的地等を明ら
かにして定められることによって,業務の内容があらかじめ具体的に確定されてお
り,添乗員が自ら決定できる事項の範囲及びその決定に係る選択の幅は限られてい
るものということができる。
また,ツアーの開始前には,本件会社は,添乗員に対し,本件会社とツアー参加
者との間の契約内容等を記載したパンフレットや最終日程表及びこれに沿った手配
状況を示したアイテナリーにより具体的な目的地及びその場所において行うべき観
光等の内容や手順等を示すとともに,添乗員用のマニュアルにより具体的な業務の
内容を示し,これらに従った業務を行うことを命じている。そして,ツアーの実施
中においても,本件会社は,添乗員に対し,携帯電話を所持して常時電源を入れて
おき,ツアー参加者との間で契約上の問題やクレームが生じ得る旅行日程の変更が
必要となる場合には,本件会社に報告して指示を受けることを求めている。さら
に,ツアーの終了後においては,本件会社は,添乗員に対し,前記のとおり旅程の
管理等の状況を具体的に把握することができる添乗日報によって,業務の遂行の状
況等の詳細かつ正確な報告を求めているところ,その報告の内容については,ツア
ー参加者のアンケートを参照することや関係者に問合せをすることによってその正
確性を確認することができるものになっている。これらによれば,本件添乗業務に
ついて,本件会社は,添乗員との間で,あらかじめ定められた旅行日程に沿った旅
程の管理等の業務を行うべきことを具体的に指示した上で,予定された旅行日程に
途中で相応の変更を要する事態が生じた場合にはその時点で個別の指示をするもの
とされ,旅行日程の終了後は内容の正確性を確認し得る添乗日報によって業務の遂
行の状況等につき詳細な報告を受けるものとされているということができる。
以上のような業務の性質,内容やその遂行の態様,状況等,本件会社と添乗員と
の間の業務に関する指示及び報告の方法,内容やその実施の態様,状況等に鑑みる
と,本件添乗業務については,これに従事する添乗員の勤務の状況を具体的に把握
することが困難であったとは認め難く,労働基準法38条の2第1項にいう「労働
時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないと解するのが相当である。
4原審の判断は,以上と同旨をいうものとして是認することができる。論旨は
採用することができない。
なお,その余の上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において
排除されたので,棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官小貫芳信裁判官千葉勝美裁判官鬼丸かおる裁判官
山本庸幸)

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