弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成30年6月22日宣告
平成291087号
主文
被告人Aを懲役13年に,被告人Bを懲役12年に処する。
被告人両名に対し,未決勾留日数中各180日を,それぞれその刑に算入
する。
被告人Bから,福岡地方検察庁で保管中の回転弾倉式けん銃1丁(同庁平
成29年領第3405号符号1)を没収する。
訴訟費用のうち,国選弁護人C及び同Dに関する分は被告人Aの負担とす
る。
理由
(犯行に至る経緯)
暴力団E会F組G組組員である被告人Bは,同組組長である被告人Aの指示を受
け,暴力団H組二代目I会との間の利権をめぐる交渉の任に当たっていたが,平成
29年7月24日頃,その交渉の場において,I会若頭であるJからけん銃を突き
付けられるなどしたため,これを,被告人Aに報告し,同日,F組事務所において,
被告人両名の間でI会に対する報復としてけん銃を用いて同会幹部を射殺するとの
意思連絡を遂げた。
(罪となるべき事実)
第1被告人両名は,平成29年7月27日午後11時27分頃,F組幹部のKと
共謀の上,法定の除外事由がないのに,不特定若しくは多数の者の用に供され
る場所である福岡市a区b町c番d号付近路上において,前記Kが,殺意を持
って,Jに対し,同人の身体に向けて回転弾倉式けん銃(福岡地方検察庁平成
29年領第3405号符号1)で弾丸2発を発射したが,いずれも同人の身体
に命中しなかったため,殺害の目的を遂げず,
第2被告人両名は,前記Kと共謀の上,法定の除外事由がないのに,前記日時場
所において,前記けん銃1丁をこれに適合する実包2発と共に携帯して所持し
た。
(事実認定の補足説明)
検察官が,被告人両名及びKの間の共謀は,平成29年7月24日の時点におい
て,明示的に成立したと主張するのに対し,被告人両名の各弁護人はこれを争って
いる。
そこで検討すると,まず,被告人両名及びKの供述によれば,同日,被告人Bが
Jにけん銃を突き付けられた旨聴いた被告人Aが「絶対にIは許さん。」「けじめ
をつけてやる。」などと発言し,被告人Bが「あいつだけは許さん。」「生かしち
ゃおれん。」などと発言したことが認められる。そして,被告人Aが供述するとお
り,同人が念頭においていた主たる殺害対象がI会会長のLであったとしても,暴
力団同士のいさかいを発端として,けん銃を用いた射殺を企図したという本件の経
緯に鑑みれば,I会に対する報復とみるのが自然である。そうすると,I会の若頭
であり,被告人Bにけん銃を突き付けた張本人であるJが殺害対象から除外されて
いたとは考え難い。このことは,被告人Aの発言において,対象がLに限定されて
いないこと,同月27日,被告人らがJを発見するや,直ちに同人に対するけん銃
発射に及んでいることにも裏付けられている。よって,殺害対象はLとJの両方で
あったという被告人Bの供述にも鑑みれば,被告人両名の間では,同月24日,J
を含むI会幹部に対してけん銃を用いた殺害行為に及ぶことについて,共謀が明示
的に成立していたと認められる。
他方,Kについて見ると,その供述等によれば,同人は,同日,被告人Aが「こ
の件はG組の問題やけん,G組でけりをつける。」と言ったので,G組ではない自
分は一歩引くことにしたというのであり,これが特段不自然であるとはいえない。
また,Kは,被告人両名に対し,「何かあれば声かけてください。力になります。」
と述べたにとどまったというのであり,被告人両名の殺意を認識していたとしても,
その殺害行為に関与する時点や態様につき何ら具体的な話がなされておらず,これ
に対する被告人両名の応答の有無も明らかではない。したがって,Kが,同日,被
告人両名との間で,自己の犯罪としてI会幹部をけん銃で殺害することに関与する
点まで意を通じたかについては合理的な疑いが残る。そこで,遅くとも,同月27
日,被告人両名及びKが同乗する車内に,けん銃が持ち込まれるに至った時点で同
人らの間に黙示的共謀が成立したと認定した。
(累犯前科)
被告人Aは,平成23年6月9日福岡地方裁判所で自動車運転過失傷害,道路交
通法違反,覚せい剤取締法違反の罪により懲役4年2月に処せられ,平成27年8
月30日その刑の執行を受け終わったものであって,この事実は検察事務官作成の
前科調書(乙13)によって認める。
また,被告人Bは,平成23年6月10日福岡地方裁判所で覚せい剤取締法違反
の罪により懲役3年に処せられ,平成26年6月11日その刑の執行を受け終わっ
たものであって,この事実は検察事務官作成の前科調書(乙39)によって認める。
(法令の適用)
被告人両名の判示第1の所為のうち,各けん銃発射の点は包括していずれも刑法
60条,銃砲刀剣類所持等取締法31条1項,3条の13に,殺人未遂の点はいず
れも刑法60条,203条,199条に,判示第2の所為は,いずれも刑法60条,
銃砲刀剣類所持等取締法31条の3第2項,1項,3条1項にそれぞれ該当すると
ころ,判示第1のけん銃発射と殺人未遂は1個の行為が2個の罪名に触れる場合で
あるから,被告人両名につきいずれも刑法54条1項前段,10条により1罪とし
て重い殺人未遂罪の刑で処断することとし,被告人両名につき判示第1の罪につい
ていずれも所定刑中有期懲役刑を選択し,被告人両名については前記の各前科があ
るので同法56条1項,57条によりいずれも判示各罪の刑についてそれぞれ同法
14条2項の制限内で再犯の加重をし,以上は被告人両名につき同法45条前段の
併合罪であるから,同法47条本文,10条によりいずれも重い判示第1の罪の刑
に同法14条2項の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で,被告人Aを懲役1
3年に,被告人Bを懲役12年にそれぞれ処し,同法21条を適用して未決勾留日
数中各180日をそれぞれの刑に算入することとし,福岡地方検察庁で保管中の回
転弾倉式けん銃1丁(同庁平成29年領第3405号符号1)は,判示第2の犯罪
行為を組成した物で被告人B以外の者に属しないから,同法19条1項1号,2項
本文を適用して被告人Bからこれを没収することとし,訴訟費用は,刑事訴訟法1
81条1項本文により,国選弁護人C及び同Dに関する分を被告人Aに負担させ,
同法181条1項ただし書を適用して被告人Bには負担させないこととする。
(量刑の理由)
1被告人Bの弁護人は,被告人Bにつき自首の成立を主張し,検察官はこれを争
っている。被告人Aの供述等によれば,同人は,平成29年8月7日,警察官に対
し,本件犯罪行為及びその犯人が被告人両名らであることを電話で申告したことが
認められる。そして,同月1日ないし3日頃に,被告人Bに対し,自首の意思を確
認したとの被告人Aの供述やこれに沿う被告人Bの供述の信用性を排斥するに足る
証拠もない。しかしながら,被告人両名の供述によっても,被告人Bは被告人Aが
自首するのであれば自分も自首する旨述べたにすぎず,同人らの上下関係も併せ考
慮すれば,被告人Bの自発的な意思によるものとは言い難い。加えて,被告人Aの
供述によれば,同人が,同月7日,警察官に前記申告をする以前に,被告人Bに対
し,申告すること自体についての意思確認をしたことはないというのである。以上
を踏まえれば,被告人Bが自発的に被告人Aを介して自首を行ったとは認められず,
被告人Bに自首は成立しない。
2以上を踏まえ,被告人両名に対する刑を検討する。まず本件の犯情を見ていく
と,Jの至近距離から弾丸2発を発射しており,危険性は高い。夜間とはいえ繁華
街付近で敢行されており,一般人を巻き込むこともあり得たのであり,地域社会に
与えた不安感も大きい。けん銃等を調達して,その保管場所も準備した上,I会組
員の居場所についての情報を収集し,犯行に及ぶ機会をうかがっていたことからす
れば,当初の被告人Aの計画と異なる面はあるものの,十分に準備がされたものと
いえ,強い犯意がみてとれる。また,Jが被告人Bにけん銃を突き付けたことが発
端であるとはいえ,面子を保つため,けん銃にはけん銃で応じるという暴力団特有
の論理で報復に至ったのであり,犯行動機,経緯に酌量の余地はない。他方で,幸
いにも弾丸は,身体に命中せず,致傷結果が生じていないことは十分に考慮する必
要がある。
以上からすれば,本件は,銃器類を用いた殺人未遂罪を処断罪とする量刑傾向の
中で,中程度ないしやや重い部類に属する。そして,被告人両名に個別の犯情とし
て,被告人Aは,被告人B及びKの上位者である上,けん銃の準備やけん銃発射を
指示しており,首謀者であるといえる。被告人Bは,けん銃等の準備や犯行車両の
運転をし,組織外の者からI会の情報収集もするなど必要不可欠な役割を主体的に
行っているが,被告人Aとの上下関係に照らせば,その責任は被告人Aに比しやや
軽い。
そして,被告人両名は,ともに暴力団組織から離脱する意向を明確にしておらず,
累犯前科を含む複数の服役前科を有しているなど今後の更生に期待できるとは言い
難いが,被告人Aについては,自首が成立するほか,事実を認めて反省の態度を示
しており,正業に就いて欲しいと願う家族がいること,被告人Bについては,任意
出頭に応じて捜査に協力はしており,一応反省の弁も述べるとともに,その妹が,
社会復帰後は家族が支援する旨供述したこと等をそれぞれ考慮して,主文の刑を量
定する。
(求刑)被告人Aにつき懲役16年,被告人Bにつき懲役15年,主文同旨の没収
平成30年7月5日
福岡地方裁判所第4刑事部
裁判長裁判官中田幹人
裁判官川瀨孝史
裁判官浦恩城泰史

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