弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
一 原判決を次のとおり変更する。
1 控訴人は、被控訴人らに対し、別紙物件目録記載の土地のうち、別紙図面の
あ、い、う、え、お、か、y、き、く、け、あの各点を順次直線で結んだ範囲内の
土地、イ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地及びA、B、
C、D、Aの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地を除くその余の土地につき、広
島法務局昭和五二年一一月一四日受付第四三六五六号所有権移転登記を、昭和四九
年二月一八日相続を原因として、控訴人の持分を三分の二、被控訴人A1の持分を
六分の一、同A2の持分を六分の一とする所有権移転登記に更正登記手続をせよ。
2 被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は第一、二審を通じこれを三分し、その二を控訴人の、その余を被控
訴人らの負担とする。
         事実及び理由
第一 控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
 二 被控訴人らの請求を棄却する。
第二 事案の概要
 次のとおり訂正、付加、削除するほかは、原判決の「第二 事案の概要」欄に記
載するとおりであるから、これを引用する。
一 原判決一枚目裏八行目の「別紙物件目録記載の土地」を「本判決別紙物件目録
記載の土地」と改め、同九行目の「所有権移転登記について、」の次に「共同相続
したことを理由として」を、同一〇行目の「法定相続分」の前に「各」をそれぞれ
加える。
二 同二枚目表一行目の「墓地である(甲一の1、2)」を「墓地であり、平成一
〇年四月一五日、土地区画整理法による換地処分により増歩されたものである(争
いがない)」と改め、同六行目の次に改行して「3 本件相続人らは、昭和五〇年
一〇月九日、被相続人A3の遺産分割に関する協議を行い(以下「本件分割協議」
という。)、遺産分割協議書を作成したが、その際、本件土地は、本件分割協議の
対象とはならなかった(争いがない)。」を加え、同七行目の項目「3」を「4」
と改め、同一〇行目の「という。)」の次に「(争いがない)」を、同行の次に改
行して、次のとおりそれぞれ加える。
「二 争点
1 本件土地は、祭祀財産か。
2 祭祀承継者は定まっていたか。
三 争点に関する当事者の主張」
三 同二枚目表一一行目の全部を「1被控訴人らの主張」と改め、同一二行目の
冒頭から同裏一行目の「その際、」までを削り、同行の「本件土地は」から同行の
「その後、」までを「(一) 本件土地は、本件分割協議の対象とはならなかった
ので、本件土地は本件相続人らの共有状態にある。同土地については、B1家の墓
地として本件相続人ら全員で世話をしていくという合意が成立したにもかかわら
ず、その後、祭祀承継者でもない」と、同四行目の「保存行為に基づき」を「民法
二五二条ただし書に基づく保存行為として」とそれぞれ改め、同五行目の次に改行
して「(二) 本件土地のうち、別紙図面のあ、い、う、え、お、か、y、き、
く、け、あの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地(以下「墓所乙」という。)、
イ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地(以下「墓所甲」とい
う。)及びA、B、C、D、Aの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地(以下、
「墓所丙」という。)は、祭祀財産であるが、その余の土地は祭祀財産ではなく、
被相続人A3の相続財産である。」を加え、同六行目の全部を「2 控訴人の主
張」と、同七行目の項目「1」を「(一) 」とそれぞれ改める。
四 同二枚目裏一二行目の冒頭から同三枚目裏三行目の末尾までを次のとおり改め
る。
「(二) 本件土地は祭祀財産であり、控訴人は祭祀承継者であることについて
本件土地が本件分割協議の対象とはならなかったのは、本件土地にはB1家の墳
墓があり祭祀財産で、被相続人A3の相続財産とされなかったためである(本件土
地は、本件分割協議後の事情変更として、増換地されて面積が広くなったが、これ
により本件土地の性格が変わるものではない。)
 そして、本件登記がなされたのは、本件分割協議の際、本件相続人らの間におい
て、事実上の長男である控訴人がA3の祭祀承継者となるとされていたからであ
り、右協議において、控訴人がA3の祭祀承継者となる旨の合意がなされた。仮に
右合意が認められないとしても、慣習により、事実上の長男である控訴人がA3の
祭祀承継者となり、祭祀を行ってきた。仮に右慣習が認められないとしても、控訴
人は、広島家庭裁判所における平成一二年三月一五日審判で、B1家の祭祀承継人
に指定され、同審判は同年四月一日確定したから、控訴人は祭祀承継者である。
 したがって、本件土地について、控訴人名義でなされた本件登記は有効である。
(三) 仮に、本件土地全部が祭祀財産に属しないとしても、別紙図面の墓所甲、
墓所乙及び墓所丙のほか、か、y、き、イ、ロ、ハ、x、かの各点を順次直線で結
んだ範囲内の土地も祭祀財産である。」
五 同三枚目裏四行目の冒頭から同六行目の末尾までを削る。
第三 当裁判所の判断
一 本件土地は祭祀財産かについて(争点1)
 本件土地は墓地であり、土地区画整理法による換地処分により増歩したことは当
事者間に争いがない。民法八九七条一項は、「系譜、祭具及び墳墓の所有権
は、・・・祖先の祭祀を主宰すべき者がこれを承継する。」と規定しているとこ
ろ、墓地が墳墓として祭祀財産となるか否かが問題となる。墳墓は、遺骸や遺骨を
葬っている設備である、いわゆる墓石等をいい、墓地は、その墳墓を所有するため
の敷地であるので、墳墓と墓地とは、一応、別の客体ということができる。【要
旨】しかしながら、墳墓が墳墓として遺骨などを葬る本来の機能を発揮することが
できるのは、墳墓の敷地である墓地が存在することによるのであって、墳墓がその
敷地である墓地から独立して墳墓のみで、その本来の機能を果たすことができない
ことを考慮すると、社会通念上一体の物ととらえてよい程度に密接不可分の関係に
ある範囲の墳墓の敷地である墓地は、墳墓に含まれると解するのが相当である。し
たがって、墳墓と社会通念上一体の物ととらえてよい程度に密接不可分の関係にあ
る範囲の墳墓の敷地である墓地は、民法八九七条に規定する墳墓として祭祀財産と
解される。
 そこで、本件土地につき祭祀財産と認められる範囲を検討すると、前説示のとお
り、墳墓に含まれる墓地の範囲は、墳墓と社会通念上一体の物とみてよい程度に密
接不可分の関係にある範囲に限られるから、墓地のうち墓石等の墳墓が存在せず、
祖先の祭祀と直接の関係が認められない墓地部分は、祭祀財産には属しないものと
いうべきである。本件の基礎となるべき事実及び証拠(甲一の1、2、九、一一、
一九ないし二三、乙二ないし四、鑑定の結果、検証の結果)及び弁論の全趣旨によ
れば、本件土地は、もと地積六九平方メートルの墓地で、平成一〇年四月一五日、
土地区画整理法による換地処分により地積一六一平方メートルに増歩された墓地で
あり、右一六一平方メートルの土地は、約九六平方メートルの土地部分とその余の
土地部分とにより構成され、その九六平方メートルの土地部分にB1家の歴代の墓
石及びB2家の墓石等が複数点在しており、その墓石は、別紙図面の墓所甲、墓所
乙及び墓所丙内にそれぞれ設置されていることが認められる。右認定事実によれ
ば、B1家の墓石等の墳墓は、本件土地のうち別紙図面の墓所甲、墓所乙及び墓所
丙内の土地部分に存し、その余の土地部分には墳墓が存しないことが認められるか
ら、墳墓と社会通念上一体の物とみてよい程度に密接不可分の関係にあると認めら
れる墓地の範囲は、右墓所甲、墓所乙及び墓所丙の範囲内の土地と認めるのが相当
である。
 したがって、本件土地のうち、右墓所甲、墓所乙及び墓所丙の範囲内の土地は祭
祀財産と認めることができ、その余の土地は祭祀財産ではなく、被相続人A3の相
続財産として、本件相続人らの共同相続の対象となる財産と認められる。
 ところで、控訴人は、別紙図面のか、y、き、イ、ロ、ハ、x、かの各点を順次
直線で結んだ範囲内の土地は、墳墓に至るための通路として祭祀財産である旨主張
する。同部分の土地には墳墓に至るための通路と認められる部分(別紙図面のか、
y、ロ、ハ、x、かの各点を順次直線で結んだ範囲)もあるが、通路部分は、祭祀
と直接の関係を有せず、また、墳墓の維持管理自体に直接必要な土地とも認められ
ないから、墳墓と社会通念上一体の物とみてよい程度に密接不可分の関係にある範
囲の墓地とは認められず、控訴人の主張は採用できない。
二 祭祀承継者は定まっていたかについて(争点2)
1 合意に基づく祭祀承継者 
 控訴人は、本件分割協議の際、控訴人がA3の祭祀承継者となる旨の合意がなさ
れた旨主張する。
 しかしながら、民法八九七条によれば、祭祀財産の承継者は、慣習に従って祖先
の祭祀を主宰すべき者が承継するか、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰す
べき者があるときは、その者がこれを承継するのであるから、A3が、祭祀承継者
は本件相続人らの協議によって定めることとするとの指定方法を採り、これに基づ
いて本件相続人らが協議して祭祀承継者を定めたというのであれば格別、仮に、本
件相続人らが協議して祭祀承継者を定めたとしても、それは、家庭裁判所が同条二
項に基づいて祭祀承継者を指定する際の重要な一資料になるとしても、右の指定が
ない限り、右協議して定めた者を祭祀承継者であると認めることはできない。しか
るところ、本件全証拠を精査しても、A3がその祭祀承継者を本件相続人らで協議
して定めるものとするとの指定方法を採ったことを認めるに足る証拠はないから、
控訴人の右主張は採用できない。」
2 慣習に基づく祭祀承継者
 控訴人は、慣習により控訴人がA3の祭祀承継者となった旨主張する。
 A3の子にはA4を除く本件相続人らのほか長男及び長女がいたものの、右長男
は戦死し、右長女は病死したため、本件分割協議時において、控訴人は戸籍上二男
であるが、男性のうちの長子であることが認められる(被控訴人A1)。しかしな
がら、長子承継の慣習が存すると認めるに足る証拠はなく、また、本件土地の墓の
世話は、控訴人を除く本件相続人らが主として行っている旨の被控訴人A1の本人
尋問の結果に照らし、控訴人の右主張を採用することはできない。
3 そうすると、本訴提起時においては、前記認定した祭祀財産である別紙図面の
墓所甲、墓所乙及び墓所丙の各墓地部分についての祭祀承継者はいまだ定まってい
なかった状態にあったものというべきところ、控訴人は、民法八九七条二項に基づ
き控訴人がB1家の祭祀承継人と家庭裁判所より指定された旨主張する。証拠(乙
七、八)によれば、広島家庭裁判所は、申立人を被控訴人A1、相手方を本件相続
人らとする同裁判所平成一一年(家)第一三一六号祭祀財産の承継者の指定申立事
件で、平成一二年三月一五日、A3所有の墳墓の承継者を控訴人と定める旨の審判
をし、同審判は同年四月一日確定したことが認められる。したがって、本件土地の
うち、祭祀財産と前記認定した範囲の土地部分については、本件登記は、現在の法
律関係を反映しているものということができるから、同登記は有効であるというべ
きであり、これの更正を求める被控訴人らの請求には理由がないものというべきで
ある。
 一方、本件土地のうち、前示のとおり祭祀財産と認められない範囲の土地部分に
ついては、これは、被相続人A3の相続財産として本件相続人らが共同相続したも
のであるところ、本件全証拠を精査しても、本件分割協議に際して、同土地部分に
つき遺産分割協議がなされたことを認めるに足る証拠はないから、同土地部分は、
本件相続人らが共同相続したままの状態にあるものというべきである。そうする
と、同土地部分について、控訴人の単独名義で所有権移転登記がなされていること
については当事者間に争いがないから、同土地部分の右登記について被控訴人らの
各法定相続分に従った更正登記手続を求める被控訴人らの請求は、理由があるもの
と認められる(以上によれば、本訴において、固有必要的共同訴訟かどうかについ
て判断する必要がないことに帰着する。)。
三 以上によれば、被控訴人らの本訴請求は、主文一1の限りで理由があるからこ
れを認容すべきであり、その余の請求については理由がないから棄却すべきであ
る。
 よって、これと異なる原判決を本判決主文のとおり変更することとし、訴訟費用
の負担について民事訴訟法六七条二項本文、六五条一項、六一条、六四条を適用し
て、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 川波利明 裁判官 布村重成 裁判官 岩井伸晃)
(別紙)
 物  件  目  録
所  在広島市a区bc丁目
地  番  d番e
地  目墓地
地  積一六一平方メートル
(別紙図面省略)

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