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平成16年3月17日 金沢地方裁判所
平成15年(わ)第102号 商法違反被告事件
主文
被告人を懲役3年に処する。
この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
理由
(犯罪事実)
 被告人は,平成6年11月24日から平成13年6月28日まで,石川県金沢市ab丁目c
番d号に本店を置く株式会社A銀行の代表取締役専務として,同銀行の当時の代表取
締役頭取であったBの職務を補佐して,資金の貸付け並びに債権の保全及び回収等の
業務を担当していたもの,上記Bは,平成元年2月1日から平成13年6月28日まで,同
銀行の代表取締役頭取として,同銀行における資金の貸付け並びに債権の保全及び
回収等の業務全般を統括,掌理していたもの,Cは,平成11年7月26日から平成12
年6月28日まで,同銀行D支店長として,同月29日から平成13年7月25日まで,同銀
行取締役D支店長として,同支店における資金の貸付け並びに債権の保全及び回収等
の業務全般を担当していたもの,Eは,広告宣伝代理店業及びゴルフ場経営等を目的と
するF株式会社代表取締役会長を務めるとともに,ゴルフ場経営等を目的とする株式会
社G(代表取締役H)を実質的に経営していたものであるが,被告人は,上記B,上記C
及び上記Eと共謀の上,平成12年9月22日,東京都中央区e町f番g号所在の上記株
式会社A銀行D支店において,同銀行は,多額の不良債権を抱えて経営存続が危ぶま
れていたのであるから,上記各役職にある被告人,上記B及び上記Cとしては,同銀行
の資産内容を悪化させることのないよう法令及び同社の定款等を誠実に遵守し,貸付
けに当たっては,回収の見込みを十分に吟味し,回収が危ぶまれる貸付けを厳に差し
控え,かつ,十分な担保を徴求するなどして債権の保全及び回収を確実にする任務を
有していたのに,多額の債務を抱えて資金繰りに窮し,経営が実質的に破綻していた上
記F株式会社に対し,上記Eが同社から赤字経営のゴルフ場を引き継ぐために新たに設
立した上記株式会社Gを介したいわゆる迂回融資の方法により上記F株式会社の債務
返済資金等を提供し,同社の利益を図るとともに,被告人,上記B及び上記Cに対する
経営責任の追及を回避するなどの保身を図り,同銀行に損害を加える目的をもって,上
記任務に背き,同社及び上記株式会社Gが貸付金の返済能力を十分に有さず,その回
収が著しく困難であることを熟知しながら,担保価値の乏しい不動産を担保に徴求する
などしただけで,貸付金の回収を確実にするための特段の措置も講じないまま,上記株
式会社Gに対し57億円を貸し付け,もって,同銀行に財産上の損害を加えたものであ
る。
(争点に対する判断)
第1弁護人は,前記(犯罪事実)のうち,外形的事実を認めた上で,①ゴルフ場「G」(以
下「本件ゴルフ場」という。)のゴルフ会員権(以下「本件ゴルフ会員権」という。)の
販売代金により,(犯罪事実)記載の57億円の融資(以下「本件融資」という。)の
回収が可能であり,被告人もその旨認識していた(回収可能性の有無及び被告人
の認識),②被告人は,本件融資は株式会社A銀行の利益になり,また,担保とし
た本件ゴルフ場にも約67億円の担保価値があると認識しており,A銀行に損害を
加える目的はなかった(加害目的の存否),③被告人には,経営責任の追及を回
避するなどの保身を図る目的はなかった(図利目的の存否)旨主張し,さらに,④A
銀行の損害額は,融資された57億円からA銀行に還流された28億5182万円を
控除した約28億5000万円にすぎないとして,損害額を争い,被告人も上記①な
いし④に沿う供述をする。
   なお,弁護人の主張中,本件融資がF株式会社の利益を図る目的であったことを争
うかのような主張部分もあるが,その内容は,要するに,上記目的のみで本件融資
をしたわけではない,A銀行の役員である被告人が,意図的主導的に迂回融資を
したわけではないというものであって,上記目的の存在自体を争うものではないと
解される。そして,関係証拠によっても,被告人に,少なくともF社の利益を図る目
的が存在したことは明らかに認められる。
第2 回収可能性の有無及び被告人の認識
 1 本件融資の返済条件
   関係証拠によれば,債権者A銀行から債務者株式会社Gに対して平成12年9月2
2日に実行された57億円の本件融資の返済条件は,年利2.625パーセントで,
元本返済は1年間据え置いて平成13年10月末から開始し,元利金を25年間か
けて毎月分割で支払うというものであること,その返済額は,元本返済開始前でも
利息のみで年額約1億5000万円であること,元利合計の返済額は,平成14年3
月期が年間約1億8000万円,平成15年3月期以降は年間2億円を超えることが
認められる。
 2 本件ゴルフ場の営業損益等
   確かに,平成12年9月18日及び翌19日に実施された本件融資実行の可否を審
査,決定する融資常務会(以下「本件融資常務会」という。)で配布された「ゴルフ場
収支計画(年次)」(以下「本件収支計画書」という。)には,本件ゴルフ場の今後の
収支見通しとして,平成13年3月期以降営業損益はプラスが見込まれ,殊に平成
14年3月期以降は毎期2億円以上の営業利益が見込まれる旨の記載がされてい
る。しかし,関係証拠によれば,本件収支計画書では,本件ゴルフ場の過去の収
支実績が粉飾され,営業損益等の赤字幅が実際よりも少なく記載されていたもの
の,その記載によっても,平成11年3月期の営業損益及び経常損益はマイナス約
6681万円,平成12年3月期の営業損益及び経常損益はマイナス約4190万円
とされており,本件融資常務会に出席した被告人らA銀行役員は,少なくともその
時点で,本件ゴルフ場の収支実績が本件収支計画書に記載されている程度の赤
字であることは認識していたこと,被告人は,G社がF社に対する実質的な追加融
資を迂回させるために設立されたダミー会社であり,本件融資により本件ゴルフ場
がF社からG社に売却された後も,依然としてF社代表取締役会長であるEが,本
件ゴルフ場の人事,経理を含め経営全般を掌握するという経営実態に何ら変化は
ないことを十分に認識していたこと,したがって,被告人は,我が国の景気の先行
きが依然として不透明であったといわざるを得ない当時の経済状況下において,本
件融資後,本件収支計画書に記載されているとおりに営業損益が改善される見込
みがないことも認識しうる状況にあったことが認められる。
   以上によれば,被告人は,本件融資当時,本件ゴルフ場の営業収益が本件融資の
返済財源とはならないことを認識していたものと推認できる。
 3 本件ゴルフ会員権の販売収入等
   確かに,本件収支計画書には,本件ゴルフ会員権の今後の販売収入(会員登録料
収入と会員権販売総額の合計)の見込み額は,平成14年3月期から平成23年3
月期までの毎期,6億円ないし7億2000万円と記載されていた。しかし,関係証拠
によれば,本件融資直前の本件ゴルフ会員権の販売実績は1年当たり約1億円に
過ぎず,上記販売収入見込み額は,その6倍以上に当たり,これらのことは,本件
融資常務会の配布資料から十分に理解できること,被告人は,同配付資料のみな
らず,F社に対する過去の融資案件の稟議書,毎月の取締役会における未収利息
の延滞状況の報告,D支店の行員らから受けるF社等の延滞状況の毎月の報告
等により,本件ゴルフ会員権の本件融資直前を含む過去の販売不振の状況を十
分に認識していたこと,本件融資の約10年前から基本的に価格が下落し続けてい
たゴルフ会員権の相場動向等に鑑みれば,被告人において,本件融資後も,本件
収支計画書に記載されているとおりに会員権販売が飛躍的に増加することはなく,
直前の販売実績を下回るか,せいぜい同程度しか売れないものと予測することは
十分に可能であったことが認められる。
   以上によれば,被告人は,本件融資当時,本件ゴルフ会員権の販売収入が本件融
資の返済財源とはならないことを認識していたものと推認できる。
 4 上記1ないし3を総合すれば,本件融資につき,債務者であるG社には返済財源が
なく,被告人はそのことを十分に認識していたものと優に認められる。
 5 被告人の弁解内容
  (1) 本件ゴルフ会員権の販売伸張の見込み
    これに対し,被告人は,当公判廷において,本件融資当時には,本件融資後の本
件ゴルフ会員権の売上げが本件融資直前の実績の3倍程度に伸びて年間3億
円程度になり,返済計画より遅れつつも,本件融資を回収できると考えていた旨
供述し,その根拠として,①本件ゴルフ場が,首都圏に近く,Iの開通により交通
の利便性も高いなど,立地条件がよいこと,②E側の,「これまでは本件ゴルフ
会員権の売り控えをしていたが,今後は売り控えをしない。」,「これからは営業
員にインセンティブ(誘因)を与えて販売に努力する。」旨の説明を信じたこと,③
本件ゴルフ会員権の価格が低く設定されたことから,売れ行きが伸びると思った
ことなどを挙げている。
    しかしながら,関係証拠によれば,①Iが開通したのは本件融資の2年以上前の
平成9年12月であり,本件融資の前後で立地条件に変化はないこと,②経営難
に直面するF社にとって,多大な債務を返済する方法は,本件ゴルフ会員権の
販売収入以外になかったのであるから,客観的裏付けのない上記E側の各説明
は,金融機関役員にとって到底信用するに足りるものではないこと,③本件融資
常務会の配布資料に照らすと,1口500万円との本件ゴルフ会員権の販売予定
価格は,近隣の他のゴルフ会員権の価格と同程度であって,格別安いわけでは
ないことが認められ,かつ,これらの事実は,当時の被告人の立場からは十分
に認識可能であったと認められる。
    結局,被告人の上記各供述は,いずれも,抽象的で具体性に欠けるいわゆる希
望的観測に過ぎず,およそ,融資の回収可能性を審査することを自らの職責と
し,そのための専門的知識や経験を備えた金融機関の役員が融資の回収可能
性を判断するにあたって重視するに値しない内容であり,被告人がこのようなこ
とを考慮して本件融資の回収可能性を判断したとは考え難い。
    被告人の上記各供述は,採用しない。
  (2) 本社ビル,別館ビルの売却計画
    また,被告人は,F社の本館ビル,別館ビルをJ公団に売却する計画があったの
で,その売却代金からA銀行が少しは債権を回収できると思った旨供述する。
    しかしながら,関係証拠によれば,買主であるJ公団が,F社側の当初の希望額6
0億円前後での購入を断固拒否したため,交渉が難航していたこと,そのため,
本件融資当時においては,上記金額での売却の実現可能性はほとんどなく,こ
れを遙かに下回る合計15億円ないし16億円程度での売却しか見込めなかった
上,先順位抵当権も存在したことから,A銀行が本件融資金の一部を回収できる
可能性はほとんどなかったこと,被告人は,F社の過去の稟議書等により,上記
の状況を十分に認識していたことが認められる。なお,被告人は,Eから,上記
両ビルの近隣不動産がJ公団に売却されたことを告げられた上,同両ビルにつ
いてもE側の希望額での売却を交渉中である旨の説明を信じたとも供述する
が,かかるEの説明は,具体性を欠いた裏付けのないものであり,上記5(1)同
様,金融機関の役員が重視するに値しない内容である。
    被告人の上記供述は,採用しない。
第3 加害目的の存否
 1 本件融資がA銀行に与える利益の有無及び被告人の認識
  (1) 関係証拠によれば,本件融資常務会で配布された本件融資の資金使途の予
定等が記載されたスキーム図(以下「本件スキーム図」という。)には,本件融資
金57億円のうち28億円余りが,F社を通じて他のEの関連各会社(以下「Eグル
ープ各社」という。)のA銀行に対する債務の返済に充てられることになっていた
ものの,その余の金員は,株式会社Kに対する支払いなどに充てられ,A銀行に
対する債務の返済には充てられない旨記載されており,本件融資常務会に出席
した被告人らA銀行役員は,上記記載内容を認識していたことが認められる。
  (2) 被告人は,「本件融資は,A銀行のF社を含むEグループ各社に対する回収が
困難な不良債権について,その不良債権に対する引当金の計上を回避するた
めに行った。」旨供述する。
   ア 確かに,本件融資は,上記不良債権の一部をG社に付け替えたものであること
が認められる。本来,回収困難に陥った不良債権の処理方法としては,担保
物件の売却等により可能な限り回収に努め,それでも回収できない部分は償
却するのが,本来のあるべき正常な方法であり,この正常な方法で不良債権
を処理すれば,A銀行から,追加の資金を流出させその回収を困難にさせ不
良債権が増大するという事態を避けることができたはずである。
   イ 本件融資により,上記不良債権に対する引当金の計上が回避できるか否かに
ついて検討するに,本件融資金のうち28億円余りはEグループ各社のA銀行
に対する債務の返済原資に充てられることになっていたのであるから,既に
回収が困難であったと認められる当該債務のために計上すべき引当金の額
は減少することになる。しかし,G社には本件融資の返済原資がないのである
から,本件融資後1年が経過して元本の返済が開始されれば,G社の元利金
の支払いが延滞することになるのは明らかであり,そのことは被告人も認識で
きたはずである。そして,G社が元利金の支払いを延滞すると,その不良債権
処理が必要となり,A銀行のG社に対する本件融資金債権につき,引当金の
計上が必要な事態になることが予想され,その場合,上記の減少分を考慮し
ても,Eグループ全体に対して引当を要する不良債権の額は,28億円余り(5
7億円から上記28億円余りを差し引いた額)増加することになる。
   ウ したがって,本件融資により,たとえ引当金の計上を一時的に回避することが
できたとしても,そのことは,かえって将来計上が必要となる引当金の額を確
実に増加させることになる。そうすると,本件融資は,経営危機に陥っているA
銀行の破綻を回避する効果は全くなく,単なる一時しのぎに過ぎないのであっ
て,むしろ破綻はより確実になるといえる。
     以上によれば,引当金の計上を回避するという見地からみても,本件融資がA
銀行にとって利益にならないことは明らかであり,このことは,本件融資の資
金使途,返済計画の実現可能性など被告人らA銀行役員が認識している事
情からも容易に理解できることである。
  (3) また,被告人は,「従前からA銀行では,Eグループ各社に対し,K社の債権カ
ットにより全体債務の縮小や経営の合理化をさせてA銀行との取引を正常化さ
せることを図っており,その資金提供のために本件融資を行った。」旨供述する。
   ア 確かに,本件融資常務会の配付資料によれば,本件融資の結果,F社は,融
資金の一部でK社に対する債務金約157億円のうち約17億円を一部返済
し,残りの約140億円の債務をカットしてもらえる見込みであったことが認めら
れる。
   イ しかしながら,関係証拠によれば,上記のとおりにK社がF社に対する債権をカ
ットしても,本件スキーム図等に記載されたとおり,F社は,複数の金融機関に
対して,本件ゴルフ場関連以外の債務約95億4800万円等の巨額の債務を
負った状態であったことが認められる。そして,本件スキーム図には,F社の
本件ゴルフ場関連以外の上記の巨額の債務につき,本社ビル,別館ビルの
売却代金(約41億円)等により圧縮する旨の記載があるものの,前記第2の
5(2)記載のとおり,売却額の見込みは合計15億円ないし16億円程度にと
どまり,A銀行がF社から債権を回収できる見込みはなかったことが明らかで
ある。
     また,関係証拠によれば,F社は,ゴルフ場経営を除いた主要業務である地図
製作部門の営業収支としても,平成12年3月期で,売上高は約7億8000万
円,営業利益は600万円以下しかなかったことが認められる。
     以上によれば,たとえK社のF社に対する前記債権カットが実現しても,F社に
は,上記の巨額債務の元利金の返済原資はなく,実質的に破綻している経営
状況が好転する見込みもないのであるから,本件融資がA銀行のEグループ
各社に対する不良債権の回収を高める効果があるとはいえないのは明らか
である。
   ウ また,関係証拠によれば,本件融資常務会の配付資料等に記載されたとおり,
G社は,本件融資後,本件融資金57億円,預託金返還債務41億円余り,F
社から引き受ける債務約9億9700万円を含む合計約111億円もの巨額の
債務を負うなど大幅な債務超過の状態となり,本件ゴルフ場に対しても巨額
の担保権の設定を受けることになっていたことが認められる。したがって,たと
えK社がF社に対する債権をカットしても,G社の財務状態や本件ゴルフ場に
対する担保設定状況が抜本的に改善されるわけではなく,ゴルフ会員権の買
い手が自己の預託金返還に強い不安を抱く状況に変化がないことからすれ
ば,本件ゴルフ会員権販売が好転する見込みも本件融資の返済財源が増加
する見込みもなく,上記債権カットが本件融資金の回収可能性を高める効果
があるとは到底いえない。
   エ そうすると,K社のF社に対する債権カットは,A銀行のEグループ各社に対する
不良債権の回収可能性を高める効果,本件融資金の回収可能性を高める効
果のいずれも認められない。そして,これらの効果のないことは,本件融資常
務会で配布された資料や,過去の取締役会やF社に対する融資案件に関す
る決裁等における担当者の報告内容等からも明らかであるから,被告人らA
銀行役員は上記効果のないことを十分に認識していたものというべきである。
  (4)以上のとおり,被告人らA銀行役員は,本件融資が,A銀行にとって利益になる
といえるものではないことを認識していたことが優に認められる。
 2 本件融資の担保物件の担保価値及び被告人の認識
  (1) 担保物件の状況
    関係証拠によれば,本件ゴルフ場を構成する各不動産に本件融資実行前から設
定されていたK社及びA銀行の第1順位の抵当権(K社の債権額15億9400万
円,A銀行の債権額15億円)は本件融資実行時に,K社の第2順位の根抵当権
(極度額70億円)は平成12年12月末までに,それぞれ抹消される予定であっ
たこと,A銀行は,本件融資実行時に,第1順位根抵当権(極度額32億円)及び
第3順位根抵当権(極度額36億4000万円)を設定する予定であったこと,平成
12年12月末にK社の第2順位の根抵当権が抹消されれば上記第3順位の根
抵当権が第2順位に繰り上がることになっていたことが認められる。
  (2)担保価値
   ア 関係証拠によれば,バブル経済が崩壊した平成3年ころ以降,ゴルフ場を対象
とする不動産取引は,新規会員の募集により入会金や預託金を集めることを
目的とせず,ゴルフ場自体から上がる収益の獲得を目的とするものが主流と
なり,本件融資当時ころには,収益性を重視して取引価格が決定されるように
なったことが認められる。
   イ 関係証拠によれば,本件融資当時,多くのゴルフ場は,長期間にわたる深刻な
不況のため売上が減少して経営難に陥り,投資採算性が著しく低いこともあっ
て,収益価格は低下しており,18ホールのゴルフ場の取引価格は10億円な
いし20億円程度が一般的であったことが認められる。
   ウ 関係証拠によれば,本件融資直前の時期における本件ゴルフ場の粉飾されて
いない実際の営業損益は,5000万円ないし1億円程度の赤字であったこと
が認められるから,同様の赤字が続く限り,本件ゴルフ場の不動産としての収
益価格は,ほとんど零になるというべきである。
   エ そして,L株式会社の不動産鑑定士M作成にかかる不動産鑑定評価書,財団
法人Nの不動産鑑定士O他2名作成にかかる不動産鑑定評価書では,本件
ゴルフ場の買い手がゴルフ場の大幅な経費節減等に成功して年間5000万
円ないし1億8000万円程度の営業利益を上げるという本件融資当時の収支
状況よりも相当の好条件のもとでの収益価格等を算定し,本件融資実行時に
おける本件ゴルフ場の正常価格(合理的な市場で形成されるであろう市場価
値を表示する適正な価格。)を,14億円又は16億円(但し,預託金返済債務
の存在を考慮しない価格。)と評価していることが認められる。
     もっとも,不動産鑑定士Pは,平成12年1月から2月にかけて,F社の依頼によ
り本件ゴルフ場の鑑定評価を行い,その正常価格を約67億円と評価した不
動産鑑定評価書(以下「P作成鑑定評価書」という。)を作成したことが認めら
れる。しかし,関係証拠によれば,この評価は,F社から正常価格を60億円な
いし70億円程度とするように依頼され,その意向に沿うように,本来行うべき
収益価格の試算等を行わず,収益性及び市場性を全く考慮せず,積算価格
をそのまま正常価格とするという著しく不合理な方法により,正常価格を本来
の金額よりも高く算定したためであることが認められるから,上記P作成鑑定
評価書は,到底信用できない。
   オ 以上によれば,本件融資当時の本件ゴルフ場の担保価値は,本件融資当時の
収支状況よりも相当の好条件で評価してもせいぜい14億円ないし16億円と
評価すべきであり,このような評価は,当時の金融業界の一般的な動向とも
整合する。
  (3)被告人の,本件ゴルフ場の担保価値に関する認識
   ア 関係証拠によれば,A銀行以外の地方銀行の中には,バブル経済崩壊から相
当期間が経過した本件融資当時,ゴルフ場の不動産としての担保価値につき
極めて低い評価をし,担保物件としては不適当としたり,不動産鑑定評価書
の価格をそのまま信用しないとする銀行もあったことが認められる。
   イ 関係証拠によれば,A銀行役員や融資担当職員の多くは,他のゴルフ場の売
却価格などを聞知していたため,本件融資当時,本件ゴルフ場の担保価値
を,零ないし20億円程度までの範囲内で評価していたことが認められ,A銀
行の専務取締役として銀行業務に精通していた被告人だけがこれと異なる認
識を有していたとは考え難い。
   ウ 関係証拠によれば,K社は,平成12年ころ,本件ゴルフ場を20億円以下と評
価し,同ゴルフ場を売却しても同社はせいぜい10億円程度しか回収できない
と判断して,F社に対し,約17億円の一部弁済と引き替えに約140億円の大
幅な債権カットに応じる意向であったことが認められる。被告人は,Cと共に何
度もEに会い,同人からK社との債権カットを巡る交渉状況を聴取しつつ,本
件融資金額等を協議したのであるから,K社が本件ゴルフ場を20億円以下と
評価していること及びその事情を認識していたものと推認される。
   エ 以上のとおり,被告人は,A銀行の他の役員や融資担当職員と同様,本件融資
当時,本件ゴルフ場の担保価値をどんなに多く見積もっても20億円以下であ
ると認識していたことが推認できる。
  (4) 被告人の弁解内容
    これに対し,被告人は,当公判廷において,本件融資常務会で閲覧に供されたP
作成鑑定評価書が,本件ゴルフ場の正常価格を約67億円と評価しているのを
見て,同ゴルフ場の担保価値はその程度ないし三十数億円程度であると思った
旨供述している。
    しかしながら,関係証拠によれば,被告人らは,平成11年12月にA銀行の考査
に当たった日本銀行の考査官から,平成12年1月ころ,A銀行の担保評価一般
について,より慎重にすべきことを指摘されていたことが認められる。しかも,P
作成鑑定評価書は,前記のとおり,融資を要請しているF社の依頼により作成さ
れたものであるから,融資担当者としては,同社の意向に沿って高めに評価され
ていないかを慎重に検討する必要がある上,同鑑定書の鑑定手法も,被告人が
その重要性を認める収益価格の試算等を行わず,収益性及び市場性を全く考
慮せず,積算価格である約67億円をそのまま正常価格とする著しく不合理なも
のであったのであるから,最終的には自らの合理的な判断において担保評価を
行うべき職責を有する銀行役員である被告人が,P作成鑑定評価書に依拠して
本件ゴルフ場の担保価値を考えた旨の上記供述は,信用し難い。
  (5) 以上によれば,被告人は,本件融資の際,本件ゴルフ場には,本件融資の回
収を確実にするに足りる担保価値は有していなかったことを認識していたものと
推認できる。
 3 以上のとおり,被告人は,本件融資の際,これがA銀行の利益にはならず,十分な
担保も徴求していないことからA銀行にとって損害をもたらすものであることを認識
していたことが認められ,したがって,A銀行に損害を与える目的を有していたとい
うことができる。
第4 図利目的の存否
 1 経営責任等追及の回避
  (1) F社に対する過去の融資に関する責任追及の回避
    関係証拠によれば,被告人らA銀行役員は,平成9年1月10日開催の融資常務
会において,F社に対する15億円の融資を承認,可決したこと,当時既に,F社
は,販売不振が続き,K社等の各債権者に対する元利金の支払いを延滞してい
たこと,そこで,A銀行以外の債権者は,債権償却の時期を検討したり,上記融
資直後の時期に元本の1割の返済と引き換えに残余の債権を事実上放棄する
ことを申し入れたりしたことが認められ,これらのことからすれば,同融資は,当
初から回収困難に陥るおそれが極めて大きいものであったというべきである。さ
らに,関係証拠によれば,F社が深刻な経営難に陥っており返済の目途が全く立
たず,同社が過去の融資の元利金の支払いを延滞していたにもかかわらず,被
告人らA銀行役員は,資産売却による一部返済,追担保の徴求等の回収促進
策や債権保全策を講じず,法的手段も検討しないまま,徒に,元本の返済期限
の延長や,他のEグループ各社を迂回させての利払い資金の追い貸しを繰り返
していたこと,その結果,F社やEグループ各社に対する,回収が困難な不良債
権の融資金額は,地価が下落する中で増加の一途をたどった末,F社に対する
本件融資直前には合計約57億円に達したことが認められる。
    上記のような,被告人らA銀行役員のF社に対する積極的な支援姿勢,同社に対
する融資金の返済が延滞した後の回収促進や債権保全の懈怠は,当然にマス
コミ,株主等からの厳しい経営責任追及の対象となるものである。また,回収可
能性に重大な疑問のある融資を多く実行していることから,特別背任罪等の嫌
疑により司法機関から刑事責任を追及されるおそれも多分にあった。そして,F
社に対する巨額の不良債権について,本件融資を実行せずにできる限り回収に
努め,回収が困難な部分を償却するという正常な不良債権処理を行った場合,
巨額の不良債権の存在が表面化することから,上記の様々な責任追及が現実
化する可能性も高まることになる。以上のような状況に照らすと,被告人らA銀
行役員は,本件融資が単に一時しのぎであって何らA銀行の利益にもならない
ことを十分に認識しながら,上記様々な責任追及を回避する方法として,本件融
資を敢えて実行したものと推認できる。
  (2)その他の会社に対する過去の融資に関する責任追及の回避
    関係証拠によれば,被告人らA銀行役員は,本件融資以前,長年にわたり,回収
が困難な不良債権が発生すると,「Qグループ」,「Rグループ」,F社を含む「Eグ
ループ」と呼ばれる企業集団(以下「3グループ」という。)等に依頼して,それら
の企業にその不良債権を付け替え,引当金の計上等を回避することを繰り返し
ていたことが認めれる。
    バブル経済崩壊後,一般的に地価が下落を続けていた状況下で,上記のような
不良債権の付け替えをすることは,融資金の回収可能額を減少させることにほ
かならず,結局,A銀行自体の資産を減少させることにつながり,A銀行に経済
的不利益を及ぼすことが明らかである。しかも,不良債権の付け替えに対する
見返り融資を実行することもあったのであり,その結果,不良債権額が増大し
て,A銀行に,より一層の経済的不利益を及ぼすことにもなった。そして,本件融
資直後の平成12年9月末を基準日とする金融庁検査によれば,A銀行全体の
要追加償却・引当額は約566億円に達しており,その追加償却・引当を実施す
ると約321億円の債務超過となり,自己資本比率がマイナス約8.67パーセン
トに低下することになるのであって,A銀行は,当時,既に実質破綻状態に陥っ
ていたというべきである。上記要追加償却・引当額の半分以上は,3グループに
対する不良債権についてのものであるから,3グループに対してこのような巨額
の不良債権を発生させたことが,A銀行を実質破綻状態に陥らせた主要な原因
といえる。被告人らA銀行役員にとっては,この3グループに対する巨額の不良
債権の実態が明るみに出れば,前記同様,マスコミ,株主等から厳しく経営責任
を問われ,司法機関により刑事責任を追及されるおそれが高かったものであり,
これら責任追及を回避するため,追加償却・引当額の増加を一時的に回避すべ
く,本件融資を敢えて実行したものと推認できる。
  (3) 早期是正措置発動に関する責任追及の回避
    関係証拠によれば,被告人らA銀行役員は,平成11年12月実施の日銀考査
で,F社に関するもの(11億3500万円)を含む必要な償却・引当を実施すれば
自己資本比率が約2.78パーセントに低下することを指摘されたこと,それ以
降,北陸財務局から,自己資本比率が4パーセントを下回れば早期是正措置を
発動するかも知れない旨を告げられていたこと,そこで,その発動を回避するた
め,平成11年12月末の仮決算や平成12年3月期本決算において,上記F社
に対する追加償却・引当を回避し,北陸財務局や日本銀行に対しては,本件ゴ
ルフ場の売却による債権の一部回収やK社の債権カットによる債務圧縮が実現
する旨報告していたこと,そのため,次の金融庁(当時は金融監督庁)検査の基
準日と予想される平成12年9月末までには,上記報告内容を実現させる必要性
に迫られていたこと,同年3月に第三者割当増資を実施したものの,A銀行の財
務状態は改善されず,上記のとおり,本件融資直後の同年9月末時点で約566
億円の追加償却・引当が必要であり,その追加償却・引当を実施すれば,自己
資本比率はマイナス約8.67パーセントに低下して早期是正措置を発動されか
ねないような状況であったことが認められる。
    この早期是正措置の発動も,被告人らA銀行役員の過去の様々な不正融資に対
するマスコミ,株主,司法機関等からの厳しい責任追及の契機となるため,被告
人らA銀行役員は,本件融資を含めて,不良債権の付け替え等により引当金の
計上を免れ,早期是正措置の発動を回避する必要があったということができる。
  (4) 第三者割当増資に関する責任追及回避
    関係証拠によれば,平成12年3月に実施されたA銀行の第三者割当増資におい
て,被告人らA銀行役員は,新株主に対し,前記のとおり日本銀行から自己資
本比率低下の指摘を受けたことなどを告げないで増資を引き受けてもらったこと
が認められる。そうすると,新株主に対し,巨額の不良債権を抱えて実質破綻状
態にあるA銀行の真実の財務状態が明らかになれば,被告人らA銀行役員は新
株主から損害賠償請求などの責任追及を受けるおそれがあったことが推認され
る。
  したがって,被告人らA銀行役員は,新株主からの責任追及を回避するために
も,本件融資を含め,不良債権の付け替え等により引当金の計上を回避して,
実質破綻状態にあるA銀行の財務状態を隠す必要があったことが認められる。
  (5)以上の諸事情を総合すると,被告人らA銀行役員が,A銀行に全く利益をもたら
さず,巨額の損害を及ぼすことが明らかな本件融資を敢えて実行したのは,マス
コミ,株主,司法機関等から,回収が困難な過去の融資や不良債権の付け替え
等について厳しい責任追及を受けることを回避しようと考えたためであると推認
することができる。
 2 地位及び収入の確保
   関係証拠によれば,被告人は,四十数年間にわたってA銀行(前身の株式会社S
銀行を含む。)に勤め,平成6年11月から代表取締役専務の地位にあり,平成9年
度から平成11年度まで,年額約1600万円以上の役員報酬を得ていたことが認
められるところ,本件融資を含め,Eグループ各社に対する支援は,A銀行を実質
的に保有するBが強く押し進めている既定方針であり,被告人が,もし本件融資に
反対すれば,左遷され,その地位を失い,または,退職を余儀なくされて収入の途
を絶たれるおそれもあったため,自己の地位及び収入を確保するためにも,Bの指
示に従い,本件融資を推進したものと推認することができる。
 3 被告人の弁解内容
   これに対し,被告人は,当公判廷において,本件融資当時,Bが同人に対する経営
責任の追及を回避するなどの自己保身目的で本件融資の実行を指示していること
を認識していたことは認めつつも,自分にはそのような自己保身目的はなかった旨
供述している。
   しかしながら,被告人は,A銀行においてBに次ぐナンバー2の地位にあっただけで
なく,A銀行の回収が困難な過去の様々な融資や不良債権の付け替え等の中に
は,被告人が,Bの指示を受けつつ,Bのいわば片腕として,深く関与したものも含
まれており,Bともども責任追及を受けるべき立場にあったことは明らかである。し
たがって,自己に対する責任追及よりもBに対する責任追及の方がより重いもので
あろうとの予測をすることはともかく,被告人がBに対する責任追及のおそれのみ
を認識して,自己に対する責任追及のおそれを感じなかったというのは不自然,不
合理であり,被告人の上記供述は採用しない。
   また,被告人は,当公判廷において,本件融資より以前の時期に,Bや他の者に対
し,自分は60歳で退職したいと話していた旨供述する。しかし,被告人が,Bに引
き留められたにせよ,その後も専務取締役の地位にとどまり職務を遂行していたこ
とからすれば,上記供述をもってしても,本件融資時において被告人に自己の地位
及び収入を確保する目的があった旨の上記2記載の認定を左右するものではな
い。
第5 被告人の捜査段階の自白調書について
 1 被告人は,捜査段階において,「本件融資当時,本件ゴルフ会員権の売れ行きが
伸びるとは到底考えられず,本件融資は返済財源がないと考え,本件ゴルフ場の
担保価値もせいぜい10億円台程度に過ぎないと考えていた。」,「本件融資の主
要な目的が,Bを中心に行った過去の回収が困難な融資や不良債権の付け替え
等に対する,マスコミ,株主,司法機関等からの厳しい責任追及を免れるなどの自
己保身であった。」旨供述し,本件公訴事実を認める内容の自白をしている。その
自白調書の内容は,具体的かつ詳細で,不自然,不合理な点も見当たらない上,
上記認定や関係各証拠ともよく整合しており,真実を語るものとして,その内容は
十分に信用できる。
 2 他方,被告人は,当公判廷において,自白調書の内容は取調べ時に自ら供述した
ものであること,それらの自白調書の内容を自ら確認し,内容に間違いはないとの
趣旨で署名,指印したことは認めるものの,取調べを担当した検察官からいわゆる
理詰めの質問をされて反論できず,また,自己の立場上,A銀行の破綻の責任を
問われるのは仕方がないと思っていたので反論せず,不本意ながら事実に反する
供述をし,納得のいかない供述調書に署名,指印した旨供述している。
   しかしながら,被告人は,捜査段階から私選弁護人を選任しており,本件犯行に関
する供述調書は弁護人の弁護活動を受けている中で作成されたものであること,
被告人の当公判廷における,自己の刑事責任を強く否定し縷々弁解する供述態度
等に鑑みると,被告人が内容虚偽の供述調書に署名,指印してまで,破綻の責任
を問われることを甘受しようと思っていたとは考え難い。
 3 以上により,被告人の公判供述のうち,当裁判所の認定に反する部分は採用しな
い。
第6 損害額について
   関係証拠によれば,本件スキーム図においては,本件融資金57億円のうち28億
円余りがF社を通じてEグループ各社のA銀行に対する債務の返済に充てられるこ
とが予定されていること,実際も,本件融資実行後,その当日から2週間以内の間
にかけて,合計約28億5000万円がA銀行に還流していることが認められる。そし
て,本件融資当時,Eグループ各社が実質的に破綻状態にあったことに照らせば,
上記還流した金員は,回収が困難な不良債権を回収できたものとして,損害額か
ら控除すべきであるとも考えられる。
   しかしながら,特別背任罪における「財産上の損害」の発生とは,任務違背行為時
において,実害が発生し又はその危険性を生ぜしめた場合をいうと解されるとこ
ろ,任務違背行為である本件融資の実行時において,たとえA銀行とEグループ各
社との間に緊密な関係があったとしても,本件スキーム図はあくまで予定に過ぎ
ず,同図のとおりに還流することを客観的に確実にする方策は何らとられていなか
ったのであるから,融資を実行した時点で,57億円全額が回収困難に陥って実害
が発生する危険は生じたものと認められる。
   よって,本件の損害額は,融資全額の57億円であり,その後に約28億5000万円
が還流した点は,犯行後の情状として斟酌されるに過ぎない。
第7 以上のとおりであるから,前記(犯罪事実)を,合理的疑いを差し挟む余地なく,優
に認めることができる。
   なお,その他,弁護人が縷々主張する諸点を検討しても,前記(犯罪事実)の認定
及び本件犯罪の成立を何ら妨げるものではない。
(量刑の事情)
1 本件は,A銀行の代表取締役専務であった被告人が,同銀行の代表取締役頭取B,
取締役D支店長C,同銀行の取引先であるF社の代表取締役会長兼G社の実質的経
営者であるEと共謀の上,図利加害目的をもって,回収が著しく困難であることを熟知
しながら,G社に対して57億円を貸し付け,同銀行に財産上の損害を加えたという特
別背任の事案である。
2 本件当時,代表取締役頭取に次ぐナンバー2の地位にあり,A銀行の貸付けに際
し,債権の保全及び回収を確実にする任務を有していた被告人は,本件融資が回収
可能性に乏しく,融資審査は慎重に行う必要があることを十分に理解していたにもか
かわらず,F社や他の融資先に対する過去の回収困難な融資や不良債権の付け替
え等が明らかになって,マスコミ,株主,司法機関等から厳しい経営責任等を追及さ
れることを回避し,同時に,迂回融資の方法でF社に資金提供という利益を図り,さら
に,本件融資が同銀行の実質破綻状態の表面化を先送りするだけで,かえって同銀
行に損害を加えることになることを十分に認識しながら,本件融資を実行したもので
ある。こうした無分別かつ自己中心的な動機に酌量の余地はない。公共的使命を有
する銀行に対する信用を著しく失墜させた点からも厳しい非難を免れない。
  被告人は,本件融資の実行に積極的なBの意向を受け,A銀行D支店において本件
融資に向けた事務作業を進めるCらと共に,資金提供先となるF社の本社に赴いてE
やF社役員と協議をし,その結果を逐一Bに報告するなど,本件融資を滞りなく進める
べく陣頭指揮を執っていた。そして,本件融資常務会においても,審議が一時打切り
となった後,予定どおり本件融資を実行すべく,Bに相談を持ち掛けて翌日再審議す
ることとし,その際に滞りなく審議出来るように担当者に指示するなど,本件融資をす
るについて重要な役割を果たしている。
  損害額は,57億円と巨額であり,結果は重大である。また,A銀行は巨額の不良債
権を抱えて破綻したが,本件融資もその一端を担っているのであって,本件犯行が社
会に与えた影響も大きい。同銀行の株主らの処罰感情は極めて厳しい。
  被告人は,公判廷において,A銀行を破綻させたことについては謝罪の言葉を述べ
るものの,本件犯行を否認するなど真摯な反省悔悟の情は認められない。
  以上によれば,被告人の刑事責任は重い。
3 他方,A銀行は,当時,Bが実質的に保有する銀行であって,Bを中心とする経営体
制が確立しており,本件犯行に際しても,被告人はBの決めた既定方針に沿って行動
したものであること,本件融資金57億円のうち約28億5000万円は,同銀行のEグ
ループ各社に対する不良債権の回収として同銀行に還流されており,本件融資によ
る実害は,計算上,28億5000万円を下回ること,本件融資後に同銀行代表取締役
頭取に就任した被告人は,その後6か月余り後に,預金保険法に基づき同銀行のい
わゆる破綻申請をした結果,頭取を退任し,退職金も支給されないなど,一定の社会
的制裁を受けたこと,本件により7か月余り身柄拘束されたこと,前科がないことなど
の事情も認められる。
4 以上を総合考慮し,被告人を主文の刑に処した上,その刑の執行を猶予することとし
た。
(検察官 伊藤俊行,弁護人 塩谷脩)
(求 刑 懲役4年)
金沢地方裁判所第三部
裁判長裁判官   伊東一広
裁判官   髙橋 裕
裁判官   上原卓也

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