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平成14年(行ケ)第611号 特許取消決定取消請求事件(平成15年8月20
日口頭弁論終結)
          判           決
       原   告      日本ゼオン株式会社
       訴訟代理人弁理士   西 川 繁 明
       被      告   特許庁長官 今井康夫
       指定代理人      一 色 由美子
       同          柿 崎 良 男
       同          井 出 隆 一
       同          伊 藤 三 男
          主           文
   特許庁が異議2000-73697号事件について平成14年10月
21日にした決定を取り消す。
      訴訟費用は被告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は,名称を「ハードコート層を有する成形品およびその製造方法」とす
る特許第3036818号発明(特願平1-301233号〔平成元年11月20
日出願〕に基づく優先権を主張して平成2年10月30日出願,平成12年2月2
5日設定登録,以下,その特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
 本件特許につき特許異議の申立てがされ,異議2000-73697号事件
として特許庁に係属したところ,原告は,平成13年7月23日付け訂正請求書に
より,願書に添付した明細書の特許請求の範囲等の訂正(以下,「本件訂正」とい
い,本件訂正に係る明細書を「訂正明細書」という。)を請求した。。
 特許庁は,上記特許異議の申立てについて審理した上,平成14年10月2
1日,「訂正を認める。特許第3036818号の請求項1及び2に係る特許を取
り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は,同年11月
11日,原告に送達された。
 2 訂正明細書の特許請求の範囲の記載
【請求項1】熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品の表面に,芳香族炭
化水素系溶剤および/または脂環族炭化水素系溶剤を含む紫外線硬化型ハードコー
ト剤を塗布し,該塗膜を60~120℃で3~60分乾燥させ,次いで紫外線硬化
させて得られた,ゴバン目テストによる接着強度が90%以上であって,かつ,表
面硬度(鉛筆硬度)が3H以上のハードコート層(シリコーン系ハードコート層を
除く)を有することを特徴とする熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品。
【請求項2】熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品の表面に,芳香族炭
化水素系溶剤および/または脂環族炭化水素系溶剤を含む紫外線硬化型ハードコー
ト剤を塗布し,該塗膜を60~120℃で3~60分で乾燥させた後,紫外線照射
することを特徴とするハードコート層を有する成形品の製造方法。
(以下【請求項1】,【請求項2】に係る発明を「訂正発明1」,「訂正発明
2」という。)
 3 本件決定の理由
   本件決定は,別添決定謄本写し記載のとおり,訂正発明1,2は,いずれも
本件特許出願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平1-132626
号公報(本訴甲5,審判刊行物1,以下「刊行物1」という。),特開平1-24
0517号公報(本訴甲6,審判刊行物2,以下「刊行物2」という。),特開昭
53-102933号公報(本訴甲7,審判刊行物3,以下「刊行物3」とい
う。),特開昭59-89330号公報(本訴甲8,審判刊行物4,以下「刊行物
4」という。),特開昭59-86001号公報(本訴甲9,審判刊行物5,以下
「刊行物5」という。),特開昭61-281133号公報(本訴甲10,審判刊
行物6,以下「刊行物6」という。),「機能材料」1989年(平成元年)2月
号5頁~12頁(本訴甲11,審判刊行物8,以下「刊行物8」という。),同年
8月28日シーエムシー第1刷発行の遠藤剛・吉田晴雄監修「プラスチックレンズ
の製造と応用」(本訴甲12,審判刊行物9,以下「刊行物9」という。)及び特
開昭61-292601号公報(本訴甲13,審判刊行物11,以下「刊行物1
1」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができ
たものであるから,訂正発明1,2は,特許法29条2項により特許を受けること
ができないものであり,拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされた
ものであるから,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則
14条の規定に基づく,特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定
める政令(平成7年政令205号)4条2項の規定により,取り消すべきものであ
るとした。
第3 原告主張の本件決定取消事由
   本件決定は,訂正発明1,2と刊行物3記載の発明(以下「刊行物3発明」
という。)との一致点の認定を誤り(取消事由1),訂正発明1,2と刊行物3発
明との相違点1,1’~4,3’についての判断を誤った(取消事由2~5)もの
であるから,違法として取り消されるべきである。
 1 取消事由1(訂正発明1,2と刊行物3発明との一致点の認定の誤り)
(1)本件決定は,「刊行物3(注,甲7)に記載されている『塗膜硬化後のも
の』は,本件第1発明(注,訂正発明1)における『ハードコート層』と表現は異
なるが硬い塗膜である点で異なるものではない」(決定謄本17頁第3段落)と認
定し,「刊行物3に記載されている『塗膜硬化後のもの』は,本件第2発明(注,
訂正発明2)における『ハードコート層』と表現は異なるが硬い塗膜がある点では
異なるものではない」(同19頁下から第2段落)と認定したが,誤りである。
  刊行物3(甲7)で使用されているアクリル系樹脂塗料は,ノルボルネン
重合体成形物の装飾,色付け,光沢付与,耐候性や耐薬品性の改良などの目的で塗
装するもの(2頁左上欄~右上欄)で,ハードコート層として表面硬度を高めるも
のではない。すなわち,刊行物3において実際に用いられているアクリル系樹脂塗
料は,「アクリル系樹脂塗料レクラック#72M,白(藤倉化成(株)製,樹脂主
成分アクリル樹脂)」(7頁左下欄)のように,「白色塗料」であるか,「アクリ
ル系樹脂塗料レクラック#72MM,艶消黒(藤倉化成(株)製,樹脂主成分アク
リル樹脂)」(10頁左上欄)のように「黒色塗料」であり,成形物の装飾や色付
けのための通常の塗料であって,ハードコート剤ではない。また,刊行物3の塗装
方法は,具体的には,ノルボルネン重合体成形物の有する機械的性質(高い引張強
度と伸び率)をほとんど損なわないものであり(2頁右上欄,各実施例),成形物
表面に高い伸び率を損なうような硬い塗膜を形成することは,目的とされていな
い。一般にアクリル系樹脂塗料の中には,ハードコート剤として使用されるものも
あるが,すべてのアクリル系樹脂塗料が硬い塗膜を形成するのではない。加えて,
刊行物3には,化学反応により架橋(硬化)して,ハードコート層に適した硬い塗
膜を形成する硬化型のアクリル系樹脂塗料を用いることについて記載はなく,刊行
物3における「塗膜硬化」は,単なる「乾燥固化」を意味しているにすぎない。他
方,ハードコート剤とは,この技術分野で周知のように,合成樹脂成形品の表面硬
度を高め,耐擦傷性などを改良するための塗布剤であって,刊行物3に記載されて
いるような装飾や色付けのための軟質で可とう性の塗膜を形成するアクリル系樹脂
塗料とは明らかに異なるものである。
(2)本件決定は,「刊行物3(注,甲7)に記載されている剥離試験法による
剥離強度が100/100のもの・・・は,本件明細書(注,訂正明細書,甲4-
2)に記載されているゴバン目テストによる接着強度が90%以上のもの・・・と
接着強度が重複する範囲を有する」(決定謄本17頁第4段落,19頁最終段落~
20頁第1段落)と認定したが,誤りである。
  訂正明細書(甲4-2)に記載のゴバン目試験のデータと,刊行物3(甲
7)記載の剥離試験データの間には互換性はなく,刊行物3記載の塗膜がゴバン目
テストにおいて90%以上の接着強度を有していると断定することはできない。訂
正発明1,2と刊行物3発明とでは,成形品を構成する樹脂の種類と塗布剤の種類
が共に異なっており,かつ,塗膜の接着強度(剥離強度)は,成形品を構成する樹
脂の種類と塗布剤の種類によって相違するものであるから,塗膜の接着強度のみを
取り上げて,両者間に重複する範囲があると認定すること自体,何らの合理的な理
由もなく,失当である。
(3)本件決定は,「刊行物3(注,甲7)に記載された発明(注,刊行物3発
明)における混合溶媒の希釈剤はベンゼン,トルエン,キシレン等を必須のものと
して使用するものであるから本件第1発明(注,訂正発明1)における芳香族炭化
水素系溶剤に該当する」(決定謄本17頁第3段落)と認定し,「刊行物3(注,
甲7)に記載された発明(注,刊行物3発明)における混合溶媒の希釈剤はベンゼ
ン,トルエン,キシレン等を必須のものとして使用するものであるから本件第2発
明(注,訂正発明2)における芳香族炭化水素系溶剤に該当する」(同19頁下か
ら第2段落)と認定したが,誤りである。
  刊行物3発明は,シアノ基ノルボルネン誘導体の開環重合体(ノルボルネ
ン重合体)から成る成形物に,アクリル系樹脂塗料の塗装により密着性に優れた塗
膜を形成するために,特定の組成を有する混合溶媒を希釈剤とするアクリル系樹脂
塗料の使用を教示しているだけであり,このような特定の材質から成る成形物と特
定の塗料との組合せを超えて,紫外線硬化型ハードコート剤を用い,熱可塑性飽和
ノルボルネン系ポリマー成形品の表面を塗装する場合にも,上記混合溶媒が密着性
の改善に有効であることを示唆する記載はない。しかも,刊行物3発明では,密着
性改善のためには,その特許請求の範囲の請求項1に記載されている
「(i)・・・脂肪族アルコール」及び「(ⅱ)(ィ)ベンゼン,トルエン,キシ
レン・・・脂肪族ケトン」などと「(ロ)・・・ギ酸および酢酸エステルの少なく
とも一種で置換した混合溶媒」の使用が必須であり,トルエンなどの芳香族炭化水
素系溶剤を含有するものであっても,必ずしも塗膜の密着性が改善されていない。
溶液塗布型の塗料などの塗布剤は,「塗膜形成性成分」と「溶剤成分」(溶媒,希
釈剤又はシンナーともいう)とから構成されるものであって,塗膜成形性成分の著
しい差異や代替可能性を考慮することなく,溶剤成分のみを取り上げて対比し,一
致点を認定するのは,構成要件の恣意的な分断による認定であって,合理的な理由
がなく,失当である。
2 取消事由2(訂正発明1,2と刊行物3発明との相違点1,1’についての
判断の誤り) 
 本件決定は,訂正発明1と刊行物3発明との相違点1として,「熱可塑性ノ
ルボルネン系ポリマーが,本件第1発明(注,訂正発明1)では飽和したものであ
るのに対して,刊行物3(注,甲7)に該構成が記載されていない点」(決定謄本
17頁(1)相違点1,以下「相違点1」という。)を認定し,訂正発明2と刊行
物3発明との相違点1として,「熱可塑性ノルボルネン系ポリマーが,本件請求項
2(注,訂正発明2)の発明では飽和したものであるのに対して,刊行物3(注,
甲7)に該構成が記載されていない点」(同20頁(1)相違点1,以下「相違点
1’」という。)を認定し,相違点1,1’について,熱可塑性ノルボルネン系ポ
リマーとして飽和したもの(熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー)が,刊行物1
(甲5),刊行物2(甲6),刊行物11(甲13)に記載されており,刊行物9
(甲12)にも光学材料としてノルボルネン系水素添加ポリマーが記載されている
ことを根拠に,「刊行物3(注,甲7)に記載された発明(注,刊行物3発明)に
おいて熱可塑性ノルボルネン系ポリマーとして飽和のものを使用することは当業者
であれば容易に想到し得る」(同18頁(イ)相違点(1)について,20頁
(イ)相違点(1)について)と判断したが,誤りである。
 刊行物3(甲7)は,特定のノルボルネン重合体成形物に代えて,熱可塑性
飽和ノルボルネン系ポリマー成形品を使用すること及びそれによってアクリル系樹
脂塗料の塗膜の密着性が改善されることを示唆するものではない。刊行物1,2,
9,11(甲5,6,12,13)には,熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーが
光学材料として適した特性を有するものであることが記載され,光学レンズや光デ
ィスクなどの光学材料には,表面硬度を高めるためにハードコート層を形成するこ
とがあるものの,刊行物3に記載されているような白色塗料や黒色塗料などのアク
リル系樹脂塗料を装飾や色付けなどのために塗装することはない。
3 取消事由3(訂正発明1,2と刊行物3発明との相違点2,2’についての
判断の誤り)
 本件決定は,訂正発明1と刊行物3発明との相違点2として,「塗料乃至コ
ート層が,本件第1発明(注,訂正発明1)では紫外線硬化型であり,紫外線照射
させて得られたものであるのに対して,刊行物3(注,甲7)に該構成が記載され
ていない点」(決定謄本17頁~18頁(2)相違点2,以下「相違点2」とい
う。)を認定し,訂正発明2と刊行物3発明との相違点2として,「塗料乃至コー
ト層が,本件請求項2の発明(注,訂正発明2)では紫外線硬化型であり,紫外線
照射を行うのに対して,刊行物3(注,甲7)に該構成が記載されていない点」
(同20頁(2)相違点2,以下「相違点2’」という。)を認定し,相違点2,
2’について,プラスチック成形品の表面コートを紫外線硬化型とし,それを硬化
させることは,刊行物1(甲5),刊行物4(甲8),刊行物5(甲9),刊行物
8(甲11)及び刊行物9(甲12)に記載されていることを根拠に,「刊行物3
(注,甲7)に記載された発明(注,刊行物3発明)において塗料として紫外線硬
化型のものを使用し,紫外線照射してハードコート層を得ることは当業者であれば
容易に想到し得る」(決定謄本19頁第1段落,21頁第3段落)と判断したが,
誤りである。
 刊行物3(甲7)には,アクリル系樹脂塗料に代えて紫外線硬化型ハードコ
ート剤を使用すること及びその場合にどのような組成の希釈剤を使用すべきかにつ
いて示唆する記載はない。刊行物1(甲5)には,熱可塑性飽和ノルボルネン系ポ
リマーからなる光学材料の表面に,アクリル系モノマーを含むハードコート層を形
成することが記載されているものの,アクリル系モノマーを含有する紫外線硬化型
ハードコート剤を用いた場合のハードコート層の剥離問題を解決する手段について
の教示又は示唆はない。紫外線硬化型ハードコート剤が開示されている刊行物4,
5(甲8,9)には,溶剤としてメタノール,エタノール,イソプロパノール,ア
セトン,酢酸エチルが記載されているものの,「芳香族炭化水素系溶剤および/ま
たは脂環族炭化水素系溶剤」の使用について示唆する記載はない。
4 取消事由4(訂正発明1と刊行物3発明との相違点3についての判断の誤
り)
 本件決定は,訂正発明1と刊行物3発明との相違点3として,「表面硬度
(鉛筆硬度)が,本件第1発明(注,訂正発明1)では3H以上であるのに対し
て,刊行物3(注,甲7)に該構成が記載されていない点」(決定謄本18頁
(3)相違点3,以下「相違点3」という。)を認定し,相違点3について,刊行
物4(甲8)及び刊行物5(甲9)に紫外線硬化法によるコーティングにより,鉛
筆硬度が3H以上のものが得られることが記載されていることを根拠に,「刊行物
3(注,甲7)に記載された発明(注,刊行物3発明)のものとして鉛筆硬度が3
H以上のものが得られることは当業者が容易に予想する」(同19頁(ハ)相違点
(3)について)と判断したが,誤りである。
 刊行物3(甲7)に記載のアクリル系樹脂塗料とは異なる,刊行物4,5
(甲8,9)に記載された紫外線硬化型ハードコート剤に関する技術水準を根拠
に,刊行物3発明において,鉛筆硬度が3H以上のものが得られることが容易に予
想できるとすることはできない。しかも,刊行物3記載の塗膜は,高い伸び率を有
するノルボルネン重合体成形物の機械的特性を損なわないように,硬い塗膜として
いるものではない。また,刊行物4,5は,熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー
成形品との関連で,特定の溶剤との組合せがハードコート層の接着強度の改善に重
要であることを示唆していない。
5 取消事由5(訂正発明1,2と刊行物3発明との相違点4,3’についての
判断の誤り)
 本件決定は,訂正発明1と刊行物3発明との相違点4として,「塗膜の乾燥
条件が,本件第1発明(注,訂正発明1)では60~120℃で3~60分乾燥さ
せるのに対して,刊行物3(注,甲7)では『加熱下にて迅速乾燥させてもよ
い。』と記載されている点」(決定謄本18頁(4)相違点4,以下「相違点4」
という。)を認定し,訂正発明2と刊行物3発明との相違点3として,「塗膜の乾
燥条件が,本件請求項2の発明(注,訂正発明2)では60~120℃で3~60
分乾燥させるのに対して,刊行物3(注,甲7)では『加熱下にて迅速乾燥させて
もよい。』と記載されている点」(同20頁(3)相違点3,以下「相違点3’」
という。)を認定し,相違点4,3’について,刊行物3に,「加熱下に迅速乾燥
させてもよい」との記載があることを根拠に,60~120℃の温度と3~60分
の時間について,「当業者が直ちに思い浮かぶところであり・・・好適な乾燥条件
である温度や時間は・・・当業者が容易に導き出せる」(同19頁(ニ)相違点
(4)について,21頁(ハ)相違点(3)について)と判断したが,誤りであ
る。
 訂正発明1,2において,塗膜を60~120℃で3~60分乾燥させてい
るのは,熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品の熱変形を抑制しつつ,十分
に乾燥させ,塗膜にクラックが発生したり,表面硬度が不足したりするのを防ぐた
めである。使用するノルボルネン重合体が相違し,塗布剤も相違する刊行物3(甲
7)の一般的な記載から,刊行物3に具体的な数値範囲の記載がない60~120
℃で3~60分乾燥させるとの乾燥条件について,当業者であれば直ちに思い浮か
び,容易に導き出せるということはできない。
第4 被告の反論
   本件決定の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がな
い。
 1 取消事由1(訂正発明1,2と刊行物3発明との一致点の認定の誤り)につ
いて
(1)刊行物3(甲7)の「塗膜硬化後の膜厚はいずれも約30μであった」
(7頁右下欄)との記載から,刊行物3発明におけるアクリル系樹脂塗料は,塗布
された後に「硬化」されて使用されるものであり,「塗膜硬化後のもの」は,訂正
発明1の「ハードコート層」と表現は異なるが硬い塗膜がある点では異なるもので
はない。
(2)訂正明細書(甲4-2)に記載のゴバン目テストと刊行物3(甲7)記載
の剥離試験法とは,ハードコートの接着強度をハードコート表面に貼ったセロハン
テープの剥離度合いによって測定するものである点で共通している。また,刊行物
3の第2表(8頁)に記載された,剥離強度の値が「100/100」のもの,す
なわち,剥離試験において全く剥離しないものには,ハードコートと基体との接着
が強いものの剥離寸前の状態で剥離しないものから,ハードコートと基体との接着
が大変強くて剥離強度に十分に余裕があって全く剥離しないものまで含まれてお
り,ハードコートの剥離強度において幅を有している。そして,プラスチック成形
品の表面に設けるハードコートとしてゴバン目テストによる接着強度が90%以上
のものを使用することが本件特許出願の優先権主張日前から広く行われていること
を勘案すると,刊行物3に記載の剥離強度の値が「100/100」のものの中に
ゴバン目テストによる接着強度が90%以上のものが含まれていると認めるのが相
当である。
(3)刊行物3発明は「ベンゼン,トルエン,キシレン,・・・の群から選定し
た少なくとも一種の溶媒」を使用する場合をも含むもの(甲7の1頁右下欄)であ
り,訂正明細書(甲4-2)には「溶剤として,ベンゼン,トルエン,キシレン等
の芳香族炭化水素系溶剤・・・から選択される少なくとも一種の溶剤を使用する」
(6頁第5段落)と記載されているから,両者は「ベンゼン,トルエン,キシレン
の群から選定した混合溶媒を使用する場合を含む点」で一致している。
2 取消事由2(訂正発明1,2と刊行物3発明との相違点1,1’についての
判断の誤り)について 
 刊行物3(甲7)には,特に「飽和ノルボルネン系のポリマー」を排除する
ものであることは記載されていない。そして,熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマ
ー成形品の表面にハードコート層を設けることは,刊行物1,2,11(甲5,
6,13)に記載されているように本件特許出願の優先権主張日前に周知であり,
また,ノルボルネン水素添加ポリマーは刊行物9(甲12)に記載されているよう
に光学材料として周知のものである。そして,刊行物3には,ノルボルネン系樹脂
にアクリル系樹脂を塗布する際に,アクリル系樹脂の希釈剤を選択することによ
り,その密着性等が向上することが記載されているのである。したがって,刊行物
3発明において熱可塑性ノルボルネン系ポリマーとして飽和のものを使用すること
は,当業者が容易に想到し得ることである。
3 取消事由3(訂正発明1,2と刊行物3発明との相違点2,2’についての
判断の誤り)について
 刊行物3発明に係る成形品は,訂正発明1,2に係るプラスチック成形品と
用途が一部共通しており,また,刊行物1,4,5,8,9(甲5,8,9,1
1,12)記載の発明は,プラスチック成形品の表面にハードコート層を設けるも
のである点で刊行物3発明と技術分野を共通にする。プラスチック成形品の表面コ
ートを紫外線硬化型とし,それを硬化させることが,刊行物1,4,5,8,9に
記載されるように,プラスチック成形品の表面にハードコート層を設ける技術分野
において本件特許出願の優先権主張日前に周知のことであり,しかも,刊行物1で
は,ノルボルネン系水素添加ポリマーの表面コートを紫外線により硬化することす
ら記載されているのであるから,刊行物3発明において,塗料として紫外線硬化型
のものを使用し,紫外線照射してハードコート層を得ることは,当業者が容易に想
到し得ることである。
4 取消事由4(訂正発明1と刊行物3発明との相違点3についての判断の誤
り)について
 刊行物4,5(甲8,9)記載の発明は,プラスチック成形品の表面にハー
ドコート層を設けるものである点で,刊行物3発明と技術分野を共通にするもので
あるから,刊行物4,5に,紫外線硬化法によるコーティングによって鉛筆強度が
3H以上のものが得られることが記載されていることから,刊行物3発明に係るプ
ラスチック成形品の表面コートを,紫外線硬化法によるコーティングによるものと
することにより鉛筆硬度が3H以上のものが得られることは当業者が容易に予測し
得ることである。
5 取消事由5(訂正発明1,2と刊行物3発明との相違点4,3’についての
判断の誤り)について
 刊行物3(甲7)には,「加熱下にて迅速乾燥させてもよい」(5頁左下
欄)と記載され,具体的な温度や時間は記載されていないが,「加熱下」として6
0~120℃の数値範囲内の温度,「迅速」として3~60分の時間内の時間は,
当業者が直ちに思い浮かぶところであり,また,好適な乾燥条件である温度や時間
は,実験などによって,当業者が容易に導き出せるものである。また,刊行物6
(甲10)記載の発明は,プラスチック成形品の表面にハードコート層を設ける点
で,刊行物3発明及び訂正発明1,2と技術分野を共通にするものであるから,刊
行物6の実施例1~3にトルエンを溶剤として使用したものを60℃で60分乾燥
させることが記載されていることから,訂正発明1,2における乾燥条件を選択す
ることに格別の技術的困難性はない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(訂正発明1,2と刊行物3発明との一致点の認定の誤り)につ
いて
(1)原告は,刊行物3(甲7)で使用されているアクリル系樹脂塗料は,ノル
ボルネン重合体成形物の装飾,色付け,光沢付与,耐候性や耐薬品性の改良などの
目的で塗装するもの(2頁左上欄~右上欄)で,ハードコート層として表面硬度を
高めるものではなく,刊行物3における「塗膜硬化」は,単なる「乾燥固化」を意
味しているにすぎないから,刊行物3に記載されている「塗膜硬化後のもの」は,
訂正発明1,2における「ハードコート層」と表現は異なるが硬い塗膜である点で
異なるものではない(決定謄本17頁第3段落,19頁最終段落)とした本件決定
の認定は誤りであると主張する。
(2)刊行物9(甲12)には,「プラスチックはガラスに比較し価格,軽量
性,耐衝撃性,易加工性の面で優れた特長を有している反面,特に表面の耐擦傷
性,硬度面で劣り,レンズ素材として幅広く使用していくためには,その表面の改
良が必要である。・・・レンズとして第一に重要なことは,いうまでもなく使用中
に失透せず,常に高い透過率を保つことであり,この観点から現在プラスチックレ
ンズに用いられている表面処理は次の3つが主流である。①耐擦傷性向上のための
ハードコート
②表面の反射率を低下させ,かつ耐擦傷性も改良した反射防止コート
③水の結露による曇りを防止する防曇コート
プラスチックレンズの一般的な表面処理について図13・1に示した。表面
硬化法としては,物理的或は化学的な方法により,素材表面に耐擦傷性を有する硬
化膜をコートする方法と,あらかじめ内面に架橋硬化膜を形成させた鋳型を用いて
キャスト重合する転写法があるが,コーティング法が主流である」(130頁)と
記載され,また,「プラスチックレンズの表面処理」として「表面硬化」「反射防
止」「防曇」「撥水」「反射増加」が,「表面硬化」として「コーティング法」
「転写法」が,「コーティング法」として「熱硬化法」「紫外線硬化法」「電子線
硬化法」「真空蒸着法」「スパッタリング法」「イオンブレーティング法」が記載
され(131頁の図13・1プラスチックレンズの表面処理),さらに,「1.2
ハードコート(耐擦傷性コート)」(同頁)との項目がある。
 また,訂正明細書(甲4-2)には,「一般に,プラスチック成形品は,
使用する用途によって高い表面硬度を必要とする場合がある。例えば,コンパクト
ディスク,レーザーディスク等の光ディスクでは,直接人間の手に触れて使用され
るため,他の物質等と接触して表面にキズが生じると,記録されたメモリーの内容
を読み取り間違えるというエラーが発生する。その他,光学用途や包装容器等の分
野では,成形品表面にキズが発生すると透明度が低下して好ましくない。一般に,
このようなキズができないためには,鉛筆硬度試験(JIS K-5400;1
kg荷重)で3H以上が必要である。熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーからなる
成形品の表面硬度は,通常1~2H程度であり,表面硬度を向上させることが望ま
しい。このため,成形品の表面にハードコート層を設けて,表面の改質を行なうこ
とがある」(2頁第2段落)と記載されている。
 そうすると,刊行物9(甲12)に示された上記技術常識及び訂正明細書
の上記記載によれば,訂正発明1,2において,「紫外線硬化型ハードコート剤」
を塗布,乾燥,紫外線照射させて得られる「ハードコート層」とは,耐擦傷性コー
ト,すなわち,耐擦傷性を向上させるためにプラスチックの表面に設けられる硬化
層のことを意味するものと解するのが相当である。
(3)他方,刊行物3(甲7)には,「本発明者等の一部はノルボルネン誘導体
の開環重合体,開環共重合体及びグラフト共重合体の製造方法に関し既に数多くの
提案を行なった・・・これらの重合体の多くは透明で,耐熱性やガス遮断性にすぐ
れ,かつ,広い温度範囲領域において良好な耐衝撃性をもつ剛性高分子材料として
有用である。例えば,シクロペンタジエンとアクリロニトリルから合成した5-シ
アノ-ビシクロ[2,2,1]-ヘプテン-2の開環重合体はビカット軟化温度が
130~135℃,抗張力が約500kg/cm
,アイゾット衝撃値が常温で2ft・
lb/inノッチ,-30℃で約1.2ft・lb/inノッチと機械的特性,熱
的特性ともにすぐれている。このため本重合体の成形品は各種機械部品,自動車な
どの車輌部品,電気機器或いはハウジング関係,建材関係などの分野への適用に好
適である。然るに具体的な適用に際しては装飾,色付けもしくは光沢を出して商品
品位を高めたり,耐候性や耐薬品性を改良したりするため成形品に塗装することが
一般に行なわれる。本発明者等はノルボルネン誘導体の開環重合体,開環共重合体
又はグラフト共重合体の成形物に対する一般のプラスチック材料用塗料として最も
多用されているアクリル系樹脂塗料の塗装性を調べたところ,従来方法では塗装時
の作業性,塗膜の光沢性及び塗膜と成形物との密着性などに問題があり実用的でな
いことを確認した。そこでこれらの重合体成形物をアクリル系樹脂塗料で塗装する
方法について鋭意研究を重ねた結果,ある特定の組成の希釈剤でアクリル系樹脂を
希釈して塗布することにより塗装時の作業性,塗膜の光沢性及び塗膜の密着性など
が良好でしかも素地成形物の機械的性質を殆ど損うことのない塗装方法を見出し本
発明に到達した」(2頁左上欄~右上欄)と記載され,実施例として,シアノ系ノ
ルボルネン重合体から成形品を製造し,その引張強度と伸びを測定した結果が記載
され(5頁右下欄~6頁右上欄),同じシアノ系ノルボルネン重合体の成形品にア
クリル系樹脂塗料レクラック♯72M,白(藤倉化成(株)製,樹脂主成分アクリ
ル樹脂)で塗装を施したものについて,剥離試験,引張強度,伸び率を測定した結
果が記載されている(7頁左下欄~9頁第2表)。上記記載によれば,刊行物3に
おけるアクリル系樹脂塗料は,5-シアノ-ビシクロ[2,2,1]-ヘプテン-
2の開環重合体の成形品に対して,装飾,色付け又は光
沢を出して商品品位を高めたり,耐候性や耐薬品性を改良したりする目的で行われ
る塗装に多用される材料であって,塗装時の作業性,塗膜の光沢性及び塗膜の密着
性などが良好であり,しかも5-シアノ-ビシクロ[2,2,1]-ヘプテン-2
の開環重合体の成形品の伸び率等の機械的強度を損なわない塗膜を形成するものと
して位置付けられていることが認められる。
  そうすると,刊行物3におけるアクリル系樹脂塗料は,成形品の耐擦傷性
を向上する目的で設けられるものでないことは明らかであり,また,成形品の伸び
率を含む機械的強度を損なわない塗膜を形成するとされている以上,伸び率を悪化
させることが予測される硬化膜を形成するようなものではないと認められる。
(4)本件決定は,刊行物3(甲7)に記載されている「塗膜硬化後のもの」
は,訂正発明1,2における「ハードコート層」と表現は異なるが硬い塗膜である
点で異なるものではない(決定謄本17頁第3段落,19頁最終段落)と認定した
が,アクリル系樹脂塗料が単に硬い塗膜を形成するというだけでは,この塗膜が施
されるプラスチック成形品の耐擦傷性を向上できる程度の硬さを有することにはな
らないから,アクリル系樹脂塗料の塗膜硬化後のものが訂正発明1,2における
「ハードコート層」と異なるものではないと認めることはできず,他に,刊行物3
のアクリル系樹脂塗料が被塗装物であるプラスチックの耐擦傷性を向上する硬化層
を形成するものであると認めるに足りる証拠はない。したがって,本件決定の上記
認定は誤りであり,これを前提に,「本件第1発明(注,訂正発明1)と刊行物3
(注,甲7)に記載された発明(刊行物3発明)を対比すると,両者は,『熱可塑
性ノルボルネン系ポリマー成形品の表面に,芳香族炭化水素系溶剤を含むハードコ
ート剤を塗布し,該塗膜を乾燥させて得られた,ゴバン目テストによる接着強度が
90%以上であって,かつ,ハードコート層(シリコーン系ハードコート層を除
く)を有することを特徴とする熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品。』の
点で一致」(決定謄本17頁第5段落)し,「本件第2発明(注,訂正発明2)と
刊行物3(注,甲7)に記載された発明(注,刊行物3発明)を対比すると,両者
は,『熱可塑性ノルボルネン系ポリマー成形品の表面に,芳香族炭化水素系溶剤を
含むハードコート剤を塗布し,該塗膜を乾燥させたことを特徴とする成形品の製造
方法。』の点で一致」(同20頁第2段落)するとした本件決定の一致点の認定は
誤りである。
2 取消事由3(訂正発明1,2と刊行物3発明との相違点2,2’についての
判断の誤り)について
(1)本件決定は,相違点2,2’について,「刊行物3(注,甲7)に記載さ
れた発明(刊行物3発明)において塗料として紫外線硬化型のものを使用し,紫外
線照射してハードコート層を得ることは当業者であれば容易に想到し得る」(決定
謄本19頁第1段落,21頁第3段落)と判断しているところ,仮に,この判断に
誤りがないとした場合には,上記1の一致点認定の誤りは本件決定の結論に影響し
ないこととなるので,進んで,相違点2,2’の判断に係る取消事由3について検
討する。
(2)本件決定は,「プラスチック成形品の表面コートを紫外線硬化型とし,そ
れを硬化させることは,刊行物1,4,5,8及び9(注,甲5,8,9,11,
12)に記載されるように本件出願前周知のことであり,しかも,刊行物1では,
ノルボルネン系水素添加ポリマーの表面コートを紫外線により硬化することすら記
載されている」(決定謄本18頁最終段落~19頁第1段落,21頁第3段落)と
した。
  しかしながら,刊行物3(甲7)におけるアクリル系樹脂塗料は,5-シ
アノ-ビシクロ[2,2,1]-ヘプテン-2の開環重合体の成形品に対して,装
飾,色付け又は光沢を出して商品品位を高めたり,耐候性や耐薬品性を改良したり
する目的で行われる塗装に多用される材料であって,塗装時の作業性,塗膜の光沢
性及び塗膜の密着性などが良好であり,しかも5-シアノ-ビシクロ[2,2,
1]-ヘプテン-2の開環重合体の成形品の伸び率等の機械的強度を損なわない塗
膜を形成するものとして位置付けられていることは上記のとおりであるところ,刊
行物3には,アクリル系樹脂塗料に換えて紫外線硬化型ハードコート剤を使用する
ことについて何ら開示ないし示唆するところがない。一方,刊行物4(甲8)に
は,「本発明はプラスチック成形品の表面に,特定の組成物を塗布したのち,活性
エネルギー線を照射して硬化塗膜をその表面上に形成させることを特徴とするプラ
スチック成形品のコーティング法に係わるものであって,この方法によってプラス
チック成形品表面を表面硬度にすぐれ耐久性のあるものとするプラスチック表面強
度を改良する表面処理方法を提供するものである」(1頁左下欄~右下欄)と記載
され,刊行物5(甲9)には,「本発明は,ポリメタクリル酸メチルまたはビスフ
ェノール系ポリカーボネート樹脂から製造したプラスチックレンズの表面に微粉状
酸化ケイ素を含有する硬化性樹脂組成物を塗布したのち,活性エネルギー線を照射
してこれを硬化させることを特徴とするプラスチックレンズのコーティング法に係
わりこの方法によって表面硬度,密着性にすぐれ耐久性のある塗膜をレンズ表面に
形成させるプラスチックレンズ表面処理方法を提供するものである」(1頁右下
欄)と記載され,刊行物8(甲11)は,「プラスチックスの表面改質」と題する
論文であり,「塗膜の強度向上や塗布剤の無溶剤化などのため,電子線(EB)や
紫外線(UV)による硬化が近年多く用いられてきている。塗布剤としては,アク
リル系のモノマーやオリゴマーが主として使用されている」(6頁右欄)と記載さ
れ,刊行物9(甲12)には,「1.2ハードコート(耐擦傷性コート)」とし
て,「活性エネルギー線を用いる硬化法の中で,プラスチックレンズの表面硬化に
は紫外線硬化法が一般的であり,アクリル樹脂製レンズなどの表面硬化に多官能性
アクリレート系ハードコート剤の紫外線硬化法が用いられている
」(132頁)と記載されている。
  これらの記載によれば,紫外線硬化型の塗料は,プラスチック成形品の表
面硬度,耐久性,強度,耐擦傷性等の物性の向上を目的として用いられるものであ
ることが認められるが,上記各刊行物は,いずれも,刊行物3の実施例において確
認された,密着性が良好で,かつ,成形品の引張強度と伸び率を悪化させないとい
う性能を有する塗料について記載するものではなく,むしろ,硬度は高いが伸び率
が悪いことは硬化(架橋)された樹脂の一般的な傾向であるから,特段の反証のな
い本件においては,上記各刊行物に記載された硬度が高い塗膜は,成形品の伸び率
を悪化させることが予測されるものと認められる。また,刊行物1(甲5)には,
ノルボルネン系重合体を水素添加して得られる重合体から成る光学材料について,
「本発明による光学材料には,その表面に,熱硬化法,紫外線硬化法,真空蒸着
法,スパッタリング法,イオンプレーティング法などの方法により,無機化合物,
シランカップリング剤などの有機シリコン化合物,アクリル系モノマー,ビニルモ
ノマー,メラミン樹脂,エポキシ樹脂,フッ素系樹脂,シリコーン樹脂などをハー
ドコートすることにより,耐熱性,光学特性,耐薬品性,耐摩耗性,透湿性などを
向上させることができる」(10頁左上欄)と記載されているものの,上記記載
は,種々の方法で種々の材料から成るハードコート層を形成した場合に,耐熱性,
光学特性,耐薬品性,耐摩耗性,透湿性などが向上することを示しているにすぎ
ず,紫外線硬化法によるハードコート層の有する性能について開示したものとは認
められない。
(3)以上検討したところによれば,本件決定がプラスチック成形品の表面コー
トを紫外線硬化型とし,それを硬化させることが周知であるとして引用した上記各
刊行物は,いずれも,刊行物3(甲7)に記載されたアクリル系樹脂塗料の目的,
性能を達成するものとして紫外線硬化型塗料が周知であることを示すものいうこと
はできない。そして,刊行物3におけるアクリル系樹脂塗料は,成形品の耐擦傷性
を向上する目的で設けられるものでなく,成形品の伸び率を含む機械的強度を損な
わない塗膜を形成するとされている以上,伸び率を悪化させることが予測される硬
化膜を形成するようなものではないことは上記のとおりであり,また,刊行物3発
明において,アクリル系樹脂塗料が特定の目的で用いられ,特定の性能を達成する
ものとして位置付けられている以上,プラスチック成形品の表面コートを紫外線硬
化型としそれを硬化させることが,上記の目的や性能とは無関係に単に周知である
というだけでは,当業者にとって,刊行物3発明におけるアクリル系樹脂塗料を,
紫外線硬化型のものに置換することの動機付けはないというべきである。
  被告は,刊行物3発明に係る成形品は,訂正発明1,2に係るプラスチッ
ク成形品と用途が一部共通していると主張するが,この点は,刊行物3発明におけ
るアクリル系樹脂塗料を紫外線硬化型塗料に置換する動機付けとは無関係であり,
また,刊行物1,4,5,8及び9(甲5,8,9,11,12)記載の発明はプ
ラスチック成形品の表面にハードコート層を設けるものである点で刊行物3発明と
技術分野を共通にするとも主張するが,刊行物3(甲7)にハードコート層につい
て記載がないことは上記のとおりであるから,被告の上記主張も失当である。
  したがって,相違点2,2’について,プラスチック成形品の表面コート
を紫外線硬化型とし,それを硬化させることは,刊行物1(甲5),刊行物4(甲
8),刊行物5(甲9),刊行物8(甲11)及び刊行物9(甲12)に記載され
ていることを根拠に,「刊行物3(注,甲7)に記載された発明(注,刊行物3発
明)において塗料として紫外線硬化型のものを使用し,紫外線照射してハードコー
ト層を得ることは当業者であれば容易に想到し得る」(決定謄本19頁第1段落,
21頁第3段落)とした本件決定の判断は誤りというほかない。
3 以上のとおり,訂正発明1,2と刊行物3発明との一致点の認定の誤り及び
訂正発明1,2と刊行物3発明との相違点2,2’についての判断の誤りは,本件
決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであり,原告の取消事由1,3の主張は理
由がある。
4 よって,その余の点について判断するまでもなく,本件決定は取消しを免れ
ず,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官 篠  原  勝  美
    裁判官 岡  本     岳
    裁判官 早  田  尚  貴

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